説明

光硬化性塗料及び該塗料を用いた装飾性塗膜の形成方法

【課題】塗膜の硬化不良等の問題を生じず、短時間で塗膜を形成することができるとともに、塗膜を硬化させる際に塗膜自体に凹凸を発生させて装飾効果を発揮させることのできる光硬化性塗料、及び該塗料を使用した装飾性塗膜の形成方法を提供する。
【解決手段】(1)エポキシ化合物、オキセタン化合物及びビニルエーテル化合物からなる群から選択されたカチオン重合性化合物、(2)ヨードニウム塩及びスルホニウム塩からなる群から選択された光重合開始剤、及び(3)漆、カシューオイル及び乾性油からなる群から選択された自動酸化塗膜成分を含有させることにより光硬化性塗料を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漆、カシューオイル及び乾性油からなる群から選択された自動酸化塗膜成分を含有する装飾性に優れた光硬化性塗料、及び該塗料を用いた装飾性塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的な漆塗装の硬化過程は、漆中に含まれる酵素(ラッカーゼ)によるウルシオールの脱水素反応及び空気中の酸素による自動酸化によるもので、反応が遅いために塗装工程は多大な手間と時間がかかる作業となっていた。このような低い作業性を改善するため、既に高分子化学の技術を導入しようとする試みが行われてきた。
【0003】
例えば、アクリル酸エステル骨核を有するモノマーまたはオリゴマーを含む光重合型漆塗料や漆印刷インキが知られている(特許文献1,2参照)。また、カシューオイルのエポキシ誘導体より化学反応によりアクリル酸エステル誘導体に変換し、このモノマーからなる光重合型の塗料も提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平10−140011号公報
【特許文献2】特開2005−82609号公報
【特許文献3】特開平8−41166号公報
【0004】
しかしながら、漆成分はアクリレートなどのモノマーの光重合を抑制するために、しばしば硬化不良を引き起こすことがあった。また、これらの塗料により形成された塗膜は、塗膜表面は基本的に平滑で、光沢等の変化による装飾効果を持たせることは困難である。
また、漆塗膜表面は基本的に平滑であり、積極的に光沢を変化させて塗膜の質感を変えたり、あるいは光沢の違いにより表面に装飾を施すには、サンドブラストなどによって表面に物理的な凹凸を付けたり、伝統的な蒔絵のように粉体や顔料を付着させる等、手間と時間のかかる方法を採用する必要があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明はこれら従来技術の問題点を解消して、塗膜の硬化不良等の問題を生じず、短時間で塗膜を形成することができるとともに、塗膜を硬化させる際に塗膜自体に凹凸を発生させて装飾効果を発揮させることのできる光硬化性塗料、及び該塗料を使用した装飾性塗膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は鋭意検討した結果、漆成分による重合抑制が起こりやすいラジカル重合性のアクリレートモノマー類に代えて、重合抑制の起こりにくいカチオン重合性モノマー類を利用することにより、上記課題が解決されることを発見し本発明を完成させたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、次の1〜7の構成を採用するものである。
1.(1)エポキシ化合物、オキセタン化合物及びビニルエーテル化合物からなる群から選択されたカチオン重合性化合物、(2)ヨードニウム塩及びスルホニウム塩からなる群から選択された光重合開始剤、及び(3)漆、カシューオイル及び乾性油からなる群から選択された自動酸化塗膜成分を含有することを特徴とする光硬化性塗料。
2.塗料全体を基準として、(1)カチオン重合性化合物10〜90重量%、(2)光重合開始剤0.2〜15重量%、及び(3)自動酸化塗膜成分10〜90重量%を含有することを特徴とする1に記載の光硬化性塗料。
3.1又は2に記載された光硬化性塗料を被塗物表面に塗布した後に光照射し、塗膜を硬化させることを特徴とする装飾性塗膜の形成方法。
4.塗膜の完全硬化前に、塗膜表面に粉体を付着させることを特徴とする3に記載の装飾性塗膜の形成方法。
5.塗膜表面への光照射量を部分的に変化させることによって塗膜中の(3)自動酸化塗膜成分を相分離させ、塗膜表面に凹凸を形成することを特徴とする3に記載の装飾性塗膜の形成方法。
6.塗膜表面に模様を描いたマスク材を配置することによって、塗膜表面への光照射量を部分的に変化させることを特徴とする請求項5に記載の装飾性塗膜の形成方法。
7.塗膜表面に形成する凹凸の高さが0.1〜500μmであることを特徴とする請求項5又は6に記載の装飾性塗膜の形成方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、次のような顕著な効果を奏するものである。
(1)本発明のカチオン重合型光硬化性塗料では、重合反応への漆等の自動酸化塗膜成分の影響はほとんど見られないため、比較的少量の合成モノマーを漆等の自動酸化塗膜成分に添加することにより光硬化性塗料を調製することができる。
(2)塗膜の硬化は迅速で、しかも高度な質感を有し、美観の良好な硬化塗膜が得られる。
(3)適度に塗膜の硬化が進んだ段階で、金属粉体などを塗膜に付着させることにより、伝統的な蒔絵技術を完全に再現することができる。
(4)光照射条件を選択することにより、塗膜硬化の過程で高分子成分と漆等の自動酸化塗膜成分の相分離を発生させて塗膜に凹凸を形成し、塗膜の反射率等の外観を制御することが可能となる。また、この原理を利用することにより、塗膜に顔料や粉体を用いずに新たな装飾効果を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、光硬化性塗料を構成する成分として、(1)エポキシ化合物、オキセタン化合物及びビニルエーテル化合物からなる群から選択されたカチオン重合性化合物、(2)ヨードニウム塩及びスルホニウム塩からなる群から選択された光重合開始剤、及び(3)漆、カシューオイル及び乾性油からなる群から選択された自動酸化塗膜成分を使用する。
【0010】
本発明では、(1)カチオン重合性化合物としてエポキシ化合物、オキセタン化合物及びビニルエーテル化合物からなる群から選択された化合物を使用する。これらの化合物としてはエポキシ構造、オキセタン構造、ビニルエーテル構造は、モノマー1分子当たり、1個、2個、3個、またはそれ以上の数の重合性基を含むものが利用でき、適宜に選択し架橋密度の調整をおこなう。
カチオン重合の反応基以外の分子構造は、重合前のインキの粘度や、硬化塗膜の硬度、しなやかさに影響することがある。特に、光硬化過程で塗膜中の漆等の(3)自動酸化塗膜成分との相分離を誘発させる際には、分子構造を選択することが重要である。塗膜の重合性と相分離の形態にあわせて、複数の(1)カチオン重合性モノマーを組み合わせて使用することもある。
【0011】
(1)カチオン重合性化合物として使用されるエポキシ化合物は、例えば分子末端にエポキシをもつグリシジル構造のもの、またはシクロヘキサン環のような脂環式骨核上にエポキシ基をもつものが利用できる。
このようなエポキシ化合物の例としては、ビスフェノール-A-ジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリフェニロールメタントリグリシジルエーテル、ポリ[(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒド]、ポリ(エチレン-co-メチルアクリレート-co-グリシジルメタクリレート)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジピン酸が挙げられる。
【0012】
(1)カチオン重合性化合物として使用されるオキセタン化合物の例としては、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼンが挙げられる。また、ビニルエーテル化合物としては、1,4,-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテルなどが挙げられる。
【0013】
また、(2)光重合開始剤としては、ヨードニウム塩、スルホニウム塩型のものが用いられる。開始剤の対アニオンはカチオン重合の反応速度に大きな影響を与えるが、AsF6-、BF4-、PF6-、SbF6-、CF3SO3-などを用いることができる。
好ましい開始剤の例としては、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(4-ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフルオロスルホネート、トリ-p-トリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、(9−オキサ−9H-キサンテン−2−イル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート〔(9-Oxa-9H-xanthen-2-yl)phenyl idonium hexafluorophosphate〕、(9−オキサ−9H-キサンテン−2−イル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート〔(9-Oxa-9H-xanthen-2-yl)diphenyl sulfonium hexafluorophospahte〕が挙げられる。
【0014】
本発明の光硬化性塗料を構成する成分の配合割合は、塗料全体を基準として、(1)カチオン重合性化合物10〜90重量%、通常は25〜70重量%、(2)光重合開始剤0.2〜15重量%、通常は2〜8重量%、及び(3)自動酸化塗膜成分10〜90重量%、通常は25〜75重量%とすることが好ましい。(3)自動酸化塗膜成分として、天然漆をシリカゲルカラムで処理し(例えば、溶離液としてクロロホルム-アセトン(アセトン2-5容量%)を使用)精製したものを使用する場合には、(2)光重合開始剤は0.5〜1重量%程度に減量することが可能である。
【0015】
本発明の光硬化性塗料により形成する塗膜の厚さは0.5μm〜1mm程度、通常は10〜100μm程度である。照射光源としては、水銀灯、メタルハライドランプ、紫外光発光ダイオードなどを用いることができる。塗膜への積算照射光量(365nm)は、20mJ/cm2〜20J/cm2程度であり、通常は600mJ/cm2〜3J/cm2程度である。積算光量は、塗料の硬化速度に影響を及ぼし、特に光硬化過程で(3)自動酸化塗膜成分を相分離させる際には重要である。
【0016】
本発明の光硬化性塗料は、(1)カチオン重合性化合物、(2)光重合開始剤及び(3)自動酸化塗膜成分を直接混合し、機械的な攪拌により均一に混練することにより調製できる。
(2)光重合開始剤の混和を容易にするため、少量のトルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、プロピレンカーボネートなどの有機溶媒に開始剤を溶解した後、塗料混合物に添加してもよい。また開始剤の塗料混合物への溶解を促進するために浴型の超音波装置を利用することも可能である。
【0017】
本発明の光硬化性塗料を使用して塗膜を形成するには、通常の塗料と同様に、刷毛やゴムロールなどを使い、木材、金属、ガラス、セラミックス、プラスチックス等の被塗布物表面上に塗布することができる。また、本発明の光硬化性塗料のみで彩色を行うには、筆などによる塗布の他、シルクスクリーンなどの印刷法が適用可能である。
【0018】
本発明によれば、光硬化性塗料を非塗物表面に塗布した後に光照射し、塗膜の完全硬化前に塗膜表面に金属、無機物、有機物等からなる粉体を付着させることにより、蒔絵風の装飾塗膜を形成することができる。
塗膜への粉体の固定による彩色は、未硬化塗膜へ光照射を行い、モノマーが重合反応により時間ととともに高分子化し、塗膜の粘度が相当に増大した時点で行う。このような彩色に適した時点は、塗膜の組成と照射条件に依存するが、光照射後10秒〜3時間程度経過した時点であり、通常は照射後1分から5分程度である。
【0019】
本発明によれば、塗膜表面への光照射量を部分的に変化させることによって塗膜中の(3)自動酸化塗膜成分を相分離させ、塗膜表面に凹凸を形成することができる。
光硬化反応中における相分離状態の形成は、(1)カチオン重合性モノマーと漆等の(3)自動酸化塗膜成分とは相溶性が高く、均質に混和するが、モノマーが高分子化するにつれて、漆等との相溶性が低下し、漆等が高分子成分の相から遊離してくることに由来する。塗膜中の漆等の(3)自動酸化塗膜成分は分子の拡散性、界面エネルギー等に依存して、ある一定の大きさの相を作り、塗膜に0.1μm〜1mm程度の規則構造(線状、棒状、点状など)を誘起する。この規則構造は、塗膜の透明度に影響を与えるだけでなく、塗膜表面に0.1〜500μmの高さの凹凸を生じさせ、塗膜の反射率を変化させることになる。
【0020】
このような規則構造の発生は、(1)カチオン重合性モノマーの重合速度とともに、(2)光重合開始剤の種類と含量、光の照射強度と積算光量に依存する。一般に、塗膜を急速に硬化させると、相分離の発生が抑制され均質な硬化膜を与えるので、同一の組成の塗料であっても照射条件を変えることによって、均質で平滑な硬化塗膜の調製と、相分離し凹凸のある硬化塗膜の調製を選択することができる。
従って、未硬化塗膜上の近接した位置に、文様を描いたマスクを置くなどにより、未硬化塗膜に到達する光に強度変化をつけると、硬化塗膜にはマスクの文様に従って反射率の違いが生じ、塗膜に文様の描写が実現される。
【0021】
この時点では塗膜内部の漆等の(3)自動酸化塗膜成分は未硬化であるが、塗膜表面は十分な硬度を有し、内部の漆等の成分を遮閉しているので表面に移動することはなく、被塗布製品の取扱には特段の注意を必要としない。
(3)自動酸化塗膜成分としては、漆(主成分:ウルシオール)、カシューオイル(同:カルダノール)及び乾性油からなる群から選択された成分を使用することができる。これらの成分は、自動酸化によりゆっくりと硬化が進行する。自動酸化の促進には、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキサン酸コバルト(II)のような脂溶性のコバルト塩等を微量添加することができる。
【実施例】
【0022】
つぎに、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
(1)カチオン重合性モノマーとしてビスフェノール-A-ジグリシジルエーテル(DG−1)65重量部、(2)光重合開始剤としてビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(I−1)5重量部、(3)自動酸化塗膜成分として生漆(Ur−1)30重量部からなる光硬化性塗料を、ガラス基板上にアプリケータにより50μmの厚さに塗布した。高圧水銀灯(365nmにおける強度30mW/cm2,)で積算光量が1200mJ/cmとなるように紫外線を照射し、塗膜を硬化させた。
得られた硬化塗膜の重合状況を赤外分光光度計で評価し、エポキシのCH伸縮振動(3000cm-1付近)の吸収が20%以下に減少したことによりエポキシ成分の重合を確認した。
【0023】
(実施例2〜10)
実施例1と同様にして、(1)カチオン重合性モノマー、(2)光重合開始剤、(3)自動酸化塗膜成分として表1に記載の各化合物を使用し、実施例1と同様にして鉛筆硬度HBから2Hの硬化塗膜を得た。
硬化塗膜の重合状況は赤外分光光度計で評価し、エポキシのCH伸縮振動(3000cm-1付近)の吸収の消失(または減少)よりエポキシ成分の重合を、また、ビニル基の伸縮振動1610cm-1付近)の消失よりビニル化合物の重合を確認した。これらの硬化塗膜において、(1)カチオン重合性モノマーに由来する赤外吸収の低下の程度は、漆等の(3)自動酸化塗膜成分を含まない塗料とほぼ同等であった。
【0024】
下記の表1、表2において、各記号はそれぞれ以下の化合物を表す。また、()内の数値は各化合物の配合量(重量部)を表す。
(1)カチオン重合性モノマー
DG−1:ビスフェノール-A-ジグリシジルエーテル
DG−2:エチレングリコールジグリシジルエーテル
EC−1:3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート
DV:1,4,-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル
OX:1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン
(2)光重合開始剤
I−1:ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート
I−2:トリ-p-トリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート
I−3:(9−オキサ−9H-キサンテン−2−イル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート
(3)自動酸化塗膜成分
Ur−1:生漆, Ur−2:シリカゲルカラム精製漆
CO:カシューオイル
DO:乾性油
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例11〜13、比較例1〜3)
(1)カチオン重合性モノマー、(2)光重合開始剤、(3)自動酸化塗膜成分として表2に記載の各化合物を使用した光硬化性塗料を、アルミニウム皿上に薄く塗布した。ついで、高圧水銀灯(365nmにおける強度30mW/cm2)で塗膜に紫外線を連続照射した。
また、比較のために、(3)自動酸化塗膜成分である漆を使用せずに調製した光硬化性塗料を同様に塗布して、同様に紫外線を照射した。
これらの例において、発生する熱量と最大発熱時間は、それぞれ漆を添加しない例に匹敵するものであり、塗膜が迅速に重合することを確認した。発生する熱量の程度と最大発熱時間は、漆等の自動酸化塗膜成分を含まない塗料とほぼ同等であった。
【0027】
【表2】

【0028】
(実施例14)
(1)カチオン重合性モノマーとしてビスフェノールAジグリシジルエーテル45重量部、(2)光重合開始剤として(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート5重量部(トルエン溶液として添加)、及び(3)自動酸化塗膜成分として漆50重量部を使用し、浴型超音波装置を用いて均質に混合し、光硬化型漆塗料を調製した。
ガラス上にアプリケータを用いてこの塗料を厚さ50μmで塗布し、高圧水銀灯(30mW/cm2, 365nm)で40秒紫外線を照射した。照射後直ちに塗膜の完全硬化前に、1〜5μmの金粉を塗膜表面に散布、または塗りつけた。塗膜は数分から数十分以内にほぼ完全硬化とともに、粉体は塗膜表面に固着され、蒔絵風の装飾塗膜が得られた。
【0029】
(実施例15)
(1)カチオン重合性モノマーとして、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサン酸カルボキシレート22.5重量部、及び1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン22.5重量部、(2)光重合開始剤として、(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート5重量部(必要に応じてトルエン溶液として添加)、及び(3)自動酸化塗膜成分として漆50重量部を使用し、浴型超音波装置を用いて均質に混合し、光硬化型漆塗料を調製した。ガラス、アルミニウム、または木材上に、アプリケータを用いてこの塗料を厚さ50μmで塗布した。高圧水銀灯(30mW/cm2, 365nm)で40秒紫外線を照射後、80%湿度下、室温で基板を放置すると、幅約50μmの微細な棒状の相を含む硬化塗膜が得られた。
【0030】
(実施例16)
(1)カチオン重合性モノマーとして、ビスフェノール-A-ジグリシジルエーテル45重量部、(2)光重合開始剤として、(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート5重量部、及び(3)自動酸化塗膜成分として漆50重量部を使用し、浴型超音波装置を用いて均質に混合し、光硬化型漆塗料を調製した。
ガラス基板上に、アプリケータを用いてこの塗料を厚さ50μmで塗布し、高圧水銀灯(30mW/cm2, 365nm)で40秒紫外線を照射後、80%湿度下、室温で基板を放置すると、幅約50μmの微細な棒状の漆成分が分離した相を含む硬化塗膜が得られた。得られた塗膜の実体顕微鏡写真を図1に示す。
【0031】
(実施例17)
(1)カチオン重合性モノマーとして、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート45重量部、(2)光重合開始剤として、(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート5重量部、及び(3)自動酸化塗膜成分として漆50重量部を使用し、浴型超音波装置を用いて均質に混合し、光硬化型漆塗料を調製した。
ガラス基板上に、アプリケータを用いてこの塗料を厚さ50μmで塗布し、高圧水銀灯(30mW/cm2, 365nm)で40秒紫外線を照射後、80%湿度下、室温で基板を放置すると、幅約50μmの微細な棒状の漆成分が分離した相を含む硬化塗膜が得られた。得られた塗膜の実体顕微鏡写真を図2に示す。
【0032】
(実施例18)
(1)カチオン重合性モノマーとして、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート45重量部、(2)光重合開始剤として、(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート5重量部、及び(3)自動酸化塗膜成分として漆50重量部を使用し、浴型超音波装置を用いて均質に混合し、光硬化型漆塗料を調製した。
アルミニウム基板上に、アプリケータを用いてこの塗料を厚さ50μmで塗布しし、高圧水銀灯(30mW/cm2, 365nm)で40秒紫外線を照射後、80%湿度下、室温で基板を放置すると、幅約50μmの微細な棒状の漆成分が分離した相を含む硬化塗膜が得られた。得られた塗膜表面の走査電子顕微鏡写真を図3に、また断面の走査電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0033】
(実施例19)
(1)カチオン重合性モノマーとして、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサン酸カルボキシレート22.5重量部、及び1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン22.5重量部、(2)光重合開始剤として、(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート5重量部、及び(3)自動酸化塗膜成分として漆50重量部を使用して光硬化型漆塗料を調製し、ガラスにアプリケータを用いて塗料を厚さ50μmで塗布した。未乾燥塗膜と高圧水銀灯との間に、ガラス板上に金属蒸着で作成した光学格子(光遮閉部分の幅50μm、光透過部分の幅50μm)を未乾燥塗膜に近接させて設置した。この状態で紫外光(30mW/cm2, 365nm)を120秒照射した。80%湿度下、25℃で基板を10分間放置すると、スリットの配向に沿って、スリットの間隔と同一の幅50μmの微細な棒状の相を含む硬化塗膜が得られた。得られた塗膜の実体顕微鏡写真を図5に示す。
【0034】
(実施例20)
(1)カチオン重合性モノマーとして、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサン酸カルボキシレート45重量部、(2)光重合開始剤として、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート5重量部、及び(3)自動酸化塗膜成分として漆50重量部を使用して光硬化型漆塗料を調製し、ガラスにアプリケータを用いて塗料を厚さ50μmで塗布した。
レーザープリンタで任意の図を印刷したポリスチレンフィルムを光マスクとして、未硬化塗膜の直上に配置した。光マスクの上方より高圧水銀灯(光マスク上で30mW/cm2, 365nm)で180秒紫外線を照射した。塗膜を80%湿度下、室温で基板を放置すると、塗膜は数十分で硬化し、その際、光マスクの図に対応した図柄が硬化塗膜上に現れた。光マスクの透明部分は、塗膜の平滑な部分として、また半透明部分は、凹凸のある部分として転写された。得られた塗膜の実体顕微鏡写真を図6に示す。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例16で得られた塗膜の顕微鏡写真である。
【図2】実施例17で得られた塗膜の顕微鏡写真である。
【図3】実施例18で得られた塗膜表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例18で得られた塗膜の断面の走査電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例19で得られた塗膜の顕微鏡写真である。
【図6】実施例20で得られた塗膜の顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)エポキシ化合物、オキセタン化合物及びビニルエーテル化合物からなる群から選択されたカチオン重合性化合物、(2)ヨードニウム塩及びスルホニウム塩からなる群から選択された光重合開始剤、及び(3)漆、カシューオイル及び乾性油からなる群から選択された自動酸化塗膜成分を含有することを特徴とする光硬化性塗料。
【請求項2】
塗料全体を基準として、(1)カチオン重合性化合物10〜90重量%、(2)光重合開始剤0.2〜15重量%、及び(3)自動酸化塗膜成分10〜90重量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の光硬化性塗料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された光硬化性塗料を被塗物表面に塗布した後に光照射し、塗膜を硬化させることを特徴とする装飾性塗膜の形成方法。
【請求項4】
塗膜の完全硬化前に、塗膜表面に粉体を付着させることを特徴とする請求項3に記載の装飾性塗膜の形成方法。
【請求項5】
塗膜表面への光照射量を部分的に変化させることによって塗膜中の(3)自動酸化塗膜成分を相分離させ、塗膜表面に凹凸を形成することを特徴とする請求項3に記載の装飾性塗膜の形成方法。
【請求項6】
塗膜表面に模様を描いたマスク材を配置することによって、塗膜表面への光照射量を部分的に変化させることを特徴とする請求項5に記載の装飾性塗膜の形成方法。
【請求項7】
塗膜表面に形成する凹凸の高さが0.1〜500μmであることを特徴とする請求項5又は6に記載の装飾性塗膜の形成方法。

























【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−204709(P2007−204709A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28394(P2006−28394)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度経済産業省「中小企業産業技術研究開発委託費:地域中小企業支援型研究開発(光重合性漆印刷インキによる迅速彩色技術の開発)」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】