説明

光線力学的治療装置、光線力学的治療装置の制御方法、および光線力学的治療方法

健常部である浅部の被膜を保存しつつ深部の病変部のみ治療し得るPDT装置を提供する。 所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、該所定範囲外のピーク強度の光には略活性化しない光感受性物質を用いて、病変部を治療する光線力学的治療装置1であって、光感受性物質を活性化可能な波長の光を、生体にパルス照射する照射手段13と、照射手段により照射する光のピーク強度を制御する制御手段22と、を有し、制御手段22は、生体深部にある病変部41に到達する光が前記所定範囲のピーク強度となるように高ピーク強度の光を照射手段13に照射させる光線力学的治療装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光線力学的治療装置、その制御方法および光線力学的治療方法に関し、特に、生体深部の病変部の治療に際し、病変部を覆う正常な浅部を傷害させずに保存したまま、深部の病変部のみを傷害し得る光線力学的治療(浅部保存治療)装置、その制御方法および光線力学的治療方法に関する。
【背景技術】
光化学治療(Photodynamic Therapy:PDT、光線力学的治療ともいう)は、早期癌の内視鏡下治療の他、種々の治療への適用が検討されている。PDTとは、ある種のポルフィリン誘導体等の光感受性物質(光増感剤)を静脈注射等の方法により投与し、治療対象である癌組織等の組織病変部に選択的に吸収・集積させた後に、レーザ光等の光線を照射することにより該組織病変部を傷害する治療法である。
PDTは、光増感剤が病変部へ選択的に集積するという性質と光により増感されるという性質を利用したものである。光線照射により病変部に取り込まれた光増感剤が励起され、増感剤のエネルギーが病変部内に存在する酸素に移乗して活性な一重項酸素を生成し、該活性酸素が病変部の細胞を壊死させるというメカニズムが提唱されている。
光化学治療に用い得るポルフィリン誘導体として、種々のものが報告されており(特開平9−124652号公報、WO98/14453号公報、特開平4−330013号公報、特許第2961074号公報)、光化学治療の適用対象疾患として各種の癌(特公平7−53733号公報、特開平9−124652号公報)、自己免疫性疾患(WO99/07364号公報、WO98/19677号公報、WO98/14453号公報)、動脈硬化症(特許第3154742号公報、WO00/59505号公報)等が報告されている。
光化学治療において、当初開発されたポルフィリン誘導体は、その吸収波長が600nm前後と短く、この波長帯のレーザを照射しても、表面から数mm程度までしか到達せず、深部の病変部は治療できないという問題があった。実際、現在実用化されているPDTにおいて使用されるレーザは正常組織に傷害を与えないよう短波長で低出力のものが用いられており、到達深度は数mm程度であり、表在性の早期癌のみが治療対象となっている。
また、当初開発された薬剤は、体内からの排泄性もよくなく、治療後の「日焼け症」の問題があった。
これに対して、第二世代薬剤としてより長波長側に吸収波長を有し、さらに排泄性にも優れたものが開発され(特開平5−97857号公報、特開平6−80671号公報等)、「日焼け症」の問題を低減しつつ、より深部に存在する病変部の治療ができる可能性もあった。しかし、このような第二世代のPDT用薬剤は開発されているもののレーザ照射パラメータの制御技術は確立されておらず、深部病変に最適なレーザの照射強度や照射時間等については何ら解明されていない。
上述のように第二世代のPDT薬剤は深部病変部への適用が期待されており、表在性の癌が進行して深部まで到達した癌病変部等の治療には、表在から深部まで治療可能な第二世代のPDT薬剤と長波長レーザを組み合わせたPDT治療は有効であると考えられる。しかし、癌に限らず深部にのみ病変部が存在し、表層部分は正常である病変の場合、表層部の健常部の傷害が予想されていた。
このため表層部分が正常で深部のみに病変部が存在する病変の場合、組織内にレーザ照射部を刺入して病変部にレーザを直接照射するという高侵襲性の方法が研究されているにすぎず、低侵襲性で深部のみを傷害し得るPDTの開発は困難であると考えられていた。
本発明は、レーザを用いたPDTにおいて、レーザ照射条件を変えることにより、病変部の浅部から深部までの治療深度を制御でき、病変部を覆う健常な浅部を傷害させずに保存したまま、深部の病変部のみを傷害し得る光線力学的治療(浅部保存治療)装置、その制御方法および光線力学的治療方法の提供を目的とする。
【発明の開示】
本発明者等は、PDT治療効率を上げる目的でPDT薬剤ならびにレーザ種およびレーザのピーク強度、レーザの繰り返し周波数等のパルスレーザ照射条件について鋭意検討を行った。その結果、照射するレーザのピーク強度を低強度から高強度に上げていくと一定強度までは、ピーク強度が高くなるほどPDT治療効率(病変部組織の傷害度)も高くなるが、ピーク強度が高くなり過ぎると治療効率が逆に低下する現象を見出した。
すなわち、レーザの照射ピーク強度を横軸に、PDT治療効率を縦軸にとるとPDT効率を表すグラフは、ピーク強度上昇とともにPDT効率が上昇し、ある深度において最も効率の高いPDT効率に達した後ピーク強度上昇とともにPDT効率が減少していくことを見出した。この現象は、照射するレーザのピーク強度がある範囲にある場合にPDT治療が有効で、ピーク強度がそれ以下でもそれ以上でも治療の有効性は低いことを意味する。
本発明者等は、この新たな知見に基づいて、レーザの照射条件とPDT治療効率についてさらに検討を行った。その結果、生体深部にまで到達するような高ピーク強度レーザを生体の病変部に照射した場合、生体内に入射した時点のピーク強度は高いが、入射後、病変部に集積したPDT薬剤や、生体が含むヘモグロビン等によりレーザエネルギーが吸収され、徐々にレーザのピーク強度が低下していき、照射したレーザが深部まで到達すればするほどピーク強度が低下していくことを見出した。
さらにある範囲の深度においてレーザのピーク強度がPDT治療効率の高い範囲にありその深度部分でのみPDT治療が達成されることを見出した。これらの知見は逆に、ある深度においてPDT治療を有効に行おうとした場合に、照射するレーザのピーク強度を調節して、レーザがその深度に達したときにPDT効率が上昇するようにすればよいことを示唆する。
また、本発明者らは、レーザ照射により励起されたPDT薬剤のエネルギーが生体組織に存在する酸素に移乗し、活性酸素が発生し、周囲の細胞に傷害を起こすというPDT治療の原理と深度を制御し得るPDT治療との関連について検討した。
その結果、レーザ照射により照射部分で局所的に消費された酸素が周囲組織から拡散供給されるのに一定の時間を要し、このためレーザの照射タイミングも酸素の供給と合わせる必要があることを見出した。レーザ照射タイミングを変えるため、照射レーザの繰り返し周波数を変化させたところ、PDT治療効率がレーザのピーク強度だけではなく、レーザの繰り返し周波数にも依存していることを見出した。
さらに、本発明者らは、例えば動脈硬化病変部のように病変部が正常部に覆われている疾患において、治療深度を制御することにより浅部に存在する正常部を傷害せずに、深部に存在する病変部のみを傷害できると考え検討し、高ピーク強度のパルスレーザを照射することにより浅部が傷害を受けず、深部のみ傷害できることを見出した。
本発明者等はさらに検討を行い、適切なレーザ照射の制御システムを完成させ、さらにPDTに適用でき、病変部を局所的に治療しうるカテーテル装置を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、該所定範囲外のピーク強度の光には略活性化しない光感受性物質を用いて、病変部を治療する光線力学的治療装置であって、
前記光感受性物質を活性化可能な波長の光を、生体にパルス照射する照射手段と、
前記照射手段により照射する光のピーク強度を制御する制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、生体深部にある病変部に到達する前記光が前記所定範囲のピーク強度となるように、高ピーク強度の光を前記照射手段に照射させることにより、前記光感受性物質が活性化する生体内の深度を前記病変部近傍に制御し、前記病変部より前記光照射手段に近い生体浅部では前記光感受性物質が活性化しないように制御する光線力学的治療装置。
光線力学的治療装置によれば、前記病変部と前記光照射手段との間の正常な生体では、高ピーク強度の光が通過するので、前記光感受性物質が活性化せず、浅部にある健常な生体を保存できる。一方で、病変部では、光感受性物質が活性化する所定範囲まで光のピーク強度が減衰しているので、光感受性物質の作用により病変部を傷害できる。
[2] 所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、該所定範囲外のピーク強度の光には略活性化しない光感受性物質を活性化可能な波長の光を、生体にパルス照射する照射手段と、前記照射手段による光のピーク強度を制御する制御手段と、を有する光線力学的治療装置の制御方法であって、
生体深部にある病変部に到達する前記光が前記所定範囲のピーク強度となるように、高ピーク強度の光を前記照射手段に照射させることにより、前記光感受性物質が活性化する生体内の深度を前記病変部近傍に制御し、前記病変部より前記光照射手段に近い生体浅部では前記光感受性物質が活性化しないように制御する光線力学的治療装置の制御方法。
[3] 所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、該所定範囲外のピーク強度の光には略活性化しない前記光感受性物質を活性化可能な波長の光を、生体にパルス照射する照射手段と、
前記照射手段により照射する光の照射条件を制御する制御手段と、
を有し、
前記制御手段により光の照射条件を変化させることにより、前記光感受性物質の活性化を制御し、該活性化した光感受性物質の作用により傷害される死細胞率を生体の深さ方向で制御する光線力学的治療装置。
[4] 所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、該所定範囲外のピーク強度の光には略活性化しない光感受性物質を生体に投与するステップと、
投与により生体深部の病変部に集積された前記光感受性物質を活性化可能な波長の光を、該病変部に向かってパルス照射するステップと、
光をパルス照射する際に、高ピーク強度の光を照射し、前記病変部において前記所定範囲のピーク強度となった前記光により、前記光感受性物質を活性化させ、活性化した前記光感受性物質の作用により病変部を傷害するとともに、前記病変部より浅い浅部では前記光感受性物質を活性化させず、該浅部を保存するステップと、
を含む光線力学的治療方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、パルス光線のピーク強度とPDT効率の関係を概念的に示した図である。
図2は、生体組織に光線を照射した場合の光線のピーク強度の低下およびPDT治療効率が良好な深度部分の関係を概念的に示す図である。
図3は、死細胞率と、深度の関係を概念的に示す図である。
図4は、本発明の動脈硬化治療用装置の概略構成を示す図である。
図5は、生体挿入側先端にバルーンを備える光線力学的治療装置を示す該略図である。
図6は、本発明の装置を使用する流れを示すフローチャートである。
図7は、PDT効果のピーク強度および繰り返し周波数依存性を示す図である。
図8は、薬剤ブリーチングとピーク強度の関係を示す図である。
図9は、照射エネルギー密度を変化させたときの死細胞率の変化を示す図である。
図10は、パルス数を一定としたときの、パルスエネルギー密度毎の深度に対する死細胞率の測定結果を示す図である。
図11は、総照射エネルギー量を一定としたときの、パルスエネルギー密度毎の深度に対する死細胞率の測定結果を示す図である。
図12は、照射途中でパルスエネルギー密度を変えたときの、深度に対する死細胞率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明はPDTに用い得るレーザ照射装置であり、レーザ照射条件を変化させることにより治療深度、すなわち傷害させる部分の深度を制御し得る装置である。
さらに、本発明は、病変部が組織の深部に存在する場合または病変部が正常な被膜に覆われている場合に、浅部の正常部分を傷害せず保存して、深部の病変部のみを傷害し病変部の治療(浅部保存治療)を可能にする装置である。
ここで、PDT(光線力学的治療)とは、特定の病変部に親和性を有する光感受性物質(PDT薬剤)を病変部に特異的に集積させ、特定波長を有する光線を照射することにより、選択的に病変部組織を傷害壊滅させる治療法をいう。
本発明のレーザ照射装置による治療の対象となる病変部は、組織において細胞の異常増殖や粥腫を伴う疾患の病変部であり、該組織病変部を傷害することにより疾患の進行を停止させ治療および拡大の防止をすることが可能な病変部である。このような病変部を有する疾患として、癌腫、肉腫、良性腫瘍、粥腫を伴う動脈硬化等が挙げられる。
これらの疾患の発生部位は限定されず、また進行度も限定されない。例えば癌腫の場合、表在性の早期癌から浸潤性の進行癌まで対象となる。これらの中でも病変部が組織深部まで存在している疾患が好ましくさらに、病変部を正常な部分が覆っている状態の疾患が好ましい。
病変部を覆う正常な部分はその病変部と同じ組織とは限らず、本発明の装置を用いて病変部に光線を照射しようとした場合に、病変部と光線照射部分に他の組織が存在する場合も含む。
このような疾患としては、上皮内の癌腫であって上皮表面は正常な癌腫、組織の内部に存在する非上皮性細胞(間質細胞:支持組織を構成する細胞)性肉腫であって上皮性細胞に覆われている肉腫、前立腺癌や前立腺肥大症のように、尿道内に装置の光線照射部を挿入した場合に、病変部(前立腺)と光線照射部の間に正常部分(尿道壁)がある疾患、アテローム性動脈硬化症のように、動脈内に装置の光線照射部を挿入した場合に、病変部(粥腫)と光線照射部の間に病変部(粥腫)を覆う正常部分(被膜)がある疾患等が挙げられる。
特に、本発明の装置の一つの態様として、カテーテルに光線照射部を配設したカテーテル状装置がある。この態様の装置によれば、尿道管や血管等の管状組織の管内に挿入して使用することができ、上述の前立腺癌、前立腺肥大症、動脈硬化症の他、膀胱癌、食道癌、直腸癌、大腸癌、子宮頸癌、子宮体癌、胆道癌、膵癌等の治療に適している。
本発明において浅部および深部の深さは限定されないが、浅部が光線を照射する表面から0.05mm〜10mm、0.05mm〜7mm、0.05mm〜5mm、0.05mm〜3mmまたは0.05mm〜1mm程度の深さ、深部はそれよりも深い部分をいう。
また、尿道壁と前立腺のように、傷害させて治療しようとする病変部と傷害させずに保存しようとする正常部分が異なる組織の場合であっても、病変部と光線照射部の間にある正常部分を浅部といい、その厚さは0.05mm〜10mm、0.05mm〜7mm、0.05mm〜5mm、0.05mm〜3mmまたは0.05mm〜1mm程度である。例えば、前立腺癌や前立腺肥大症を治療しようとする場合の保存すべき尿道壁の厚さは0.5mm〜2mm程度であり、アテローム性動脈硬化を治療しようとする場合の破壊すべき粥腫を覆う保存すべき被膜の厚さは、0.05mm〜0.2mm程度である。
PDTにおいては、病変部に集積され得る光感受性物質(PDT薬剤)を投与する必要がある。本発明の装置と組合わせるPDT薬剤は特別なものに限定されず公知のPDT薬剤をその吸収波長の光線と組合わせて用いることができる。病変部の深度によりPDT薬剤と光線種(光源種、光線波長等)を適宜選択すればよい。
現在、実用化されているPDT治療に用いられているPDT薬剤は、吸収波長が630nmのポルフィマーナトリウム(PHE)であり、630nmのエキシマーダイレーザと組合わせて用いられている。しかし、エキシマーダイレーザの光は生体組織での深達性が2〜3mm程度なので、表在性の癌の治療用に限定される。
本発明の装置は、現在のPDTでは不可能な深部の病変部の治療も可能とするため、より深達性の大きい波長の長いレーザも用いる。従って、用いるPDT薬剤も630nm付近に吸収波長を有する薬剤から、より長波長側に吸収波長を有する薬剤のいずれも用いることができる。この中でも650nm〜800nmに吸収波長を有する第二世代薬剤が望ましい。また、第二世代薬剤は、体内からの排泄性も良好であり、この点でも推奨される。
例えば、クロリン系薬剤であるATX−S10(670nm)(Iminochlorin aspartic acid誘導体、東洋薄荷工業株式会社、平成12年株式会社光ケミカル研究所に権利譲渡、特開平6−80671号公報)、NPe6(664nm)(mono−L−aspartyl chlorin e6、特許第2961074号公報)、mTHPC(652nm)、SnET2(660nm)(tin etiopurpurin、ミラバント・メディカル・テクノロジーズ)、AlPcS(675nm)(chloro aluminium sulphonated phthalocyanine)、BPD−MA(690nm)(benzoporphyrin derivative monoacid ring A、QLT社)、Lu−tex(732nm)(Lutetium Texaphyrin)等が挙げられる(慣用名、吸収「ピーク」波長を示し、さらに一般名、入手先、文献を示してある)。また、これらの薬剤を混合して用いてもよい。吸収波長の異なる複数の薬剤が病変部に集積することにより、光線の波長、繰り返し周波数のみならず照射ピーク強度をも制御し、浅部から深部まで広く病変部を治療することが可能になる。
これらの薬剤の投与は、薬剤をリン酸緩衝塩溶液等の適当な緩衝液に溶解させ、必要に応じて医薬的に許容できる添加物を添加する。添加物としては、有機溶媒等の溶解補助剤、酸、塩基等のpH調整剤、アスコルビン酸等の安定剤、グルコース等の賦形剤、塩化ナトリウム等の等張化剤などが挙げられる。
投与方法は、特別なものに限定されない。静脈注射、筋肉注射、皮下注射、経口投与等により投与できる。また、投与後の日焼け症を低減するために病変部に直接投与してもよい。例えば、治療しようとする疾患が動脈硬化や前立腺肥大症の場合、血管カテーテルや尿道カテーテルにニードル、薬剤注入部等の薬剤投与手段を配設しドラッグデリバリーカテーテルとして、薬剤を局所的に投与してもよい。従来のPDT治療においては、PDT薬剤は主に静脈注射により投与されており、この場合PDT薬剤を主に病変部に集積させて、正常部と病変部における集積PDT薬剤のコントラストを強くするために(通常、病変部では単位体積あたり、正常部の6倍程度のPDT薬剤が集積する)、静脈注射後光線照射するまでに48〜72時間程度おかなくてはならず、患者の負担も極めて大きかった。
これは、従来の方法がPDT治療範囲の選択性をPDTの集積にのみ頼っており、正常部の傷害を避けるためには、正常部からPDTを排除しておく必要があったからである。特に、病変部を正常部が覆っている場合、正常部の傷害を避けるためには、正常部から完全にPDT薬剤を排除する必要があったが、実際的には不可能であり、従来の方法では、深部のみ傷害し、浅部を保存するという治療は望むべくもなかった。
本発明の治療深度を制御し得るPDT治療装置においては、PDT治療範囲は主にレーザ照射条件によるので、必ずしも正常部分からPDT薬剤を排除する必要はなく効率的に治療できる。従って、PDT薬剤投与後、正常部と病変部におけるPDT薬剤の集積にコントラストがつくのを待つ必要はなく、PDT薬剤投与後直ぐにまたは短時間で光線照射を開始することが可能である。
PDT薬剤の投与量は限定されず、静脈注射等により全身投与する場合は、0.01〜100mg/kg体重、好ましくは1〜5mg/kg体重である。局所投与の場合は、例えば数μg/ml〜数mg/mlに調製した薬剤を数μl〜数ml直接病変部に注入等により投与すればよい。後述のように、本発明の装置により病変部における薬剤の集積度をモニタできるので、モニタの結果に応じて追加投与してもよい。
本発明の装置において治療のために照射する光線の種類は限定されないが、連続もしくはパルスレーザ光線または波長可変のオプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO;Optical Parametric Oscillator)により発生する光線が望ましい。
照射する波長は600nmから800nmであり、用いるPDT薬剤の吸収波長に近い波長の光線を用いればよい。特にOPOにより発生する光線は波長を変えることができ、波長および光線の照射ピーク強度を変えることにより浅部から深部まで広く病変部を治療することができる。
レーザとしては、半導体レーザ、色素レーザ、可変波長近赤外レーザの二逓倍波等を好適に用いることができる。光線はパルスレーザ等のパルス光線でも連続レーザ等の連続光線でもよい。ここで、パルス光線とは、パルス幅が1ms以下のものをいう。また、連続光は、ライトチョッパーを用いて断続させ、パルス光線として照射することもできる。なお、連続レーザ等の連続光を照射する場合、ピーク強度を一定以上にすると照射部が加熱により変性するので、高ピーク強度照射による浅部保存治療には適さない。従って、浅部保存治療を行う場合は、パルス光を用いるのが望ましい。
浅部を保存して深部の病変部のみを治療する場合、高ピーク強度のパルス光線を照射する。高ピーク強度のパルス光線を照射することにより、浅部の正常部分が傷害されずに保存される。高ピーク強度のパルス光線を生体組織に照射した場合、たとえPDT薬剤が集積していても浅部の組織を傷害することなく、深部を傷害する。
一方、低ピーク強度の光線をDPT薬剤の集積した生体組織に照射すると生体組織の浅部が傷害を受ける。高ピーク強度のパルス光線を照射した場合、光線が深部に進めば進むほど、光線のエネルギーが組織に集積したPDT薬剤や組織中のヘモグロビン等に吸収、散乱され、パルス光線のピーク強度が減衰していき一定の深度に達した時にPDT治療効率が上がり、その部分の組織を傷害しやすくなる。
すなわち、高ピーク強度パルス光線照射により浅部は傷害を受けないのに対して深部のみ傷害を受ける。病変部が浅部から深部まで広く存在している場合、浅部の病変部の治療には、低ピーク強度の連続光線またはパルス光線を照射し、深部の病変部の治療には高ピーク強度のパルス光線を照射する等、光線照射条件を変えればよい。
光線照射条件は、病変部の大きさ、用いる光線種、PDT薬剤等に応じて適宜決定することができる。光線のピーク強度と治療深度の関係は、生体組織を模したモデル(例えば、動物組織を用いて作製したモデル)で容易に予測することが可能である。
ここで、照射する光線のピーク強度の単位はW/cmである。さらに、光線を照射してPDT治療を行う場合、パルスエネルギー密度(照射量、J/cm)もPDT治療の成否を決めるが、ピーク強度またはパルスエネルギー密度は、病変部の状態等により適宜決定することができる。なお、パルスエネルギー密度は、光線のピーク強度とパルス幅とを乗じて得られる。すなわち、パルスエネルギー密度=ピーク強度×パルス幅である。
照射する光線のピーク強度において、高ピーク強度の範囲および低ピーク強度の範囲は限定されず、光線の種類、治療しようとする病変の深度等により適宜決定することができる。
また、後述のようにカテーテルを有する装置を用いて、病変部の近くに光線照射部をセットして照射する場合と、体外から光線を照射する場合とでも、高ピーク強度および低ピーク強度の範囲は異なる。例えば、PDT薬剤が浅部から深部まで集積した病変部に照射した場合に、表面から0.05mm〜10mm、0.05mm〜7mm、0.05mm〜5mm、0.05mm〜3mmまたは0.05mm〜1mm程度の浅部を傷害させることができるピーク強度の光線を低ピーク強度光線といい、それよりも深部を傷害させることができるピーク強度の光線を高ピーク強度の光線という。
図1は光線のピーク強度とPDT効率の関係を概念的に示す図、図2は生体組織に光線を照射した場合の光線ピーク強度の低下およびPDT治療効率が良好な深度部分の関係を概念的に示す図である。また、図3は、死細胞率と、深度の関係を概念的に示す図である。
この概念図を参考に、治療しようとする組織において浅部を治療する低ピーク強度の光線および深部を治療する高ピーク強度の光線のピーク強度範囲を決定することができる。照射光線のピーク強度として、100mW/cm〜5MW/cmの範囲が挙げられる。総エネルギー密度として20〜500J/cm以上が例示できる。
高ピーク強度の光線のピーク強度としては、10kW/cm以上〜パルス照射によって生体表面にプラズマが発生し始める閾値以下の範囲が挙げられる。好ましくは、高ピーク強度の光線のピーク強度は、100kW/cm〜10Mw/cmの範囲である。さらに好ましくは、高ピーク強度の光線のピーク強度は、200kW/cm〜5Mw/cmの範囲である。
図1に示すように、パルス光ピーク強度が最適ピーク強度範囲内である場合に、光感受性物質が活性化し、光線力学的治療の効率が高い。一方で、パルス光のピーク強度が最適ピーク強度範囲より高い場合、または、低い場合には、治療効率は低く、光感受性物質が活性化しない。本発明の光線力学的治療装置および方法では、この性質を利用している。
図2に示すように、パルス光線ピーク強度は、生体内を通過する間に減衰する。したがって、生体に照射されたばかりの浅部では、最適ピーク強度範囲より高ピーク強度であっても、次第に最適ピーク強度範囲まで減衰し、さらに、最適ピーク強度範囲よりも低ピーク強度に減衰する。これを利用して、生体の所定の深度に光が到達したときに、ピーク強度が最適ピーク強度範囲となるように、最初に照射する光線ピーク強度を調整できる。
上記の最適ピーク強度範囲内のピーク強度の光が照射された生体は、光感受性物質の活性化により、死細胞率が致死細胞率以上になる。ここで、死細胞率とは、光感受性物質が活性化して作用することにより、傷害される細胞の割合である。また、致死細胞率とは、光感受性物質の作用により、臓器の機能が回復不能となる死細胞率の基準である。該致死細胞率は、臓器の種類等により異なる。
上述のように、光は減衰しながら生体内を進行するので、深度によって、死細胞率も変化する。この変化の様子は、図3に示す通りである。
図3に示すように、上記最適ピーク強度範囲内のピーク強度の光が通過した部位では、致死細胞範囲が形成され、その前後の部位では、浅部温存範囲と深部温存範囲が形成される。
ここで、致死細胞範囲とは、死細胞率が致死細胞率を上回る範囲である。浅部温存範囲は、致死細胞範囲より浅く、通過する光のピーク強度が最適ピーク強度範囲より高いため、光感受性物質が活性化せず、死細胞率が致死細胞率を下回る範囲である。深部温存範囲は、致死細胞範囲より深く、通過する光のピーク強度が最適ピーク強度範囲より低いため、光感受性物質が活性化せず、死細胞率が致死細胞率を下回る範囲である。
光線力学的治療では、病変部の範囲と、致死細胞範囲とを一致させて、病変部を治療する。そして、病変部よりも浅い健常部位を浅部温存範囲として温存し、病変部よりも深い健常部位を深部温存範囲として温存する。
また、生体に照射する光としてパルス光線を用いる場合、PDT治療効率を高めるためには、照射するパルス光線の繰り返し周波数も調節する必要がある。これは、光線照射により励起されたPDT薬剤のエネルギーが周囲の酸素に移乗して酸素が活性酸素に変化して細胞に作用する結果、光線を照射した部分の酸素濃度が一時的に低下するので、周囲から酸素が拡散供給されるまで次のパルス光線照射を待たないとならないからである。
すなわち、繰り返し周波数が高過ぎる場合は酸素の供給が間に合わなくなりPDT治療効率が低下し、繰り返し周波数が低過ぎる場合は光線照射時間が長くなり過ぎてPDT治療として成立しない。従って、良好な治療効率が得られる繰り返し周波数には一定の範囲がある。
繰り返し周波数は治療しようとする部位の酸素濃度やPDT薬剤集積量により適宜変化させればよく、上述のように生体組織を模したモデルを用いることにより、適切な繰り返し周波数を決定することができる。繰り返し周波数の範囲は限定されないが、例えば1Hz〜1kHzである。
以上のように、繰り返し周波数もPDT治療効率に作用するので、繰り返し周波数を一定の範囲に維持することにより、PDT治療効率を向上することができる。
また、後述のように、本発明の装置は、治療しようとする部分のPDT薬剤量および酸素濃度をモニタすることも可能であるので、PDT薬剤量および/または酸素濃度に応じて、照射する光線のピーク強度および繰り返し周波数を調節すればよい。
なお、光線照射により励起されたPDT薬剤は活性酸素の作用により破壊される(ブリーチング)。従って、深部まで達した病変部であって、薬剤が満遍なく集積した病変部を治療する場合、最初に低ピーク強度の光線を照射すると浅部のPDT薬剤はその治療効果を発揮しながら破壊されていく。次いで、高ピーク強度の光線を照射すると、すでに浅部のPDT薬剤が破壊されて失活しているので、浅部ではPDT薬剤に吸収されることなく、深部まで達し、効率的に深部の治療を行うことができる。
すなわち、浅部から深部までを治療しようとする場合、最初に低ピーク強度の光線で治療を行い、徐々に光線のピーク強度を上昇させていくことが好ましい。この場合、例えば、照射時間の経過と共にステップワイズにピーク強度を変化させてもよいし、連続的にピーク強度を変化させてもよい。
(本発明の装置)
図4は、本発明の光線力学的治療装置の概略構成を示すブロック図である。図5は、生体挿入側先端にバルーンを備える光線力学的治療装置を示す該略図である。
本発明の光線力学的治療装置は、図4に示すように、先端を生体内に挿入するカテーテル10と、該カテーテル10に接続される治療装置本体20と、カテーテル10内に挿通され、一端でカテーテル10内の照射部13に接続され、他端で治療装置本体20と接続される光ファイバー(石英ファイバー)30とを有する。
カテーテル10は、通常用いられているものを使用することができ、その径等は限定されない。治療する病変部に応じて適したカテーテルを用いることができる。例えば、動脈硬化を治療する場合には、血管用カテーテルを用いればよく、前立腺癌や前立腺肥大を治療する場合には、尿道用カテーテルを用いればよい。
カテーテル10は、生体内への挿入が容易なように長尺状に形成された先端部11と、該先端部11と連通しており、治療により不足した光感受性物質または酸素を含有した生理食塩水を供給するための供給口12とを有する。ここで、先端部11とは、カテーテル10の挿入側先端から数十cm程度の部分を指す。
先端部11には、照射部(照射手段)13が設けられている。照射部13は、光ファイバー30(石英ファイバー)を介して、後述する光源21に接続されている。光ファイバー30を伝送されてきた光は、先端部側方に設けられた窓部から病変部41に向けて、照射される。
光ファイバー30の光を側方照射するためには、プリズム、散乱物質等を用いて、光を屈折または散乱させる。光ファイバー30の先端を粗面加工してもよい。また、光ファイバー30の先端に光線を散乱させるアルミナやシリカ等の散乱物質を塗付しておいてもよいし、また本発明の装置が図5に示すようにバルーン15を有する場合は、バルーン15中にこれらの散乱物質を含有させておいてもよい。
ここで、側方に照射される光が病変部41を照射する面積範囲は、周囲組織に熱の影響を及ぼさないようにする必要があるので、0.5cm〜3cmが好ましい。また、照射範囲が局所的で狭くても、病変部の大きさに応じてカテーテル10を回転させるなどして、照射の向きを変えて病変部に複数回照射を行うことにより、病変部を完全に治療することができる。
なお、治療される生体40が血管である場合、たとえば、病変部41は粥腫であり、温存される浅部42は繊維性被膜である。また、治療される生体40が前立腺組織である場合、病変部41は良性または悪性の腫瘍または炎症部位であり、温存される浅部42は前立腺尿道である。
先端部11には、照射部13近傍に、吐出口14が設けられている。吐出口14は、上記供給口12から供給された光感受性物質または酸素を生体40内に吐出する。
治療装置本体20は、光源21と、該光源21に接続される制御部22と、該制御部22に接続される濃度判定装置23と、光源21および濃度判定装置23に接続される光分岐部24とを含む。
光源21は、上述の半導体レーザ、色素レーザ、可変波長近赤外レーザの二逓倍波等の高ピーク強度パルス光を発生させる。
制御部22は、病変部41の深度に従って、レーザ光の出力ピーク強度が病変部41で治療に適した所定範囲のピーク強度となるように、光源21から出力するレーザ光の出力ピーク強度を調整する。
濃度判定装置23は、生体40内の光感受性物質または酸素の濃度を検出する装置である。ここで、濃度判定手段23は、病変部41に含有される光感受性物質または酸素の濃度を、治療時に光感受性物質から生じる蛍光またはりん光の変化を測定することにより、検出する。
光ファイバー30は、光源21で発生した光をカテーテル10に伝送すると同時に、発生した蛍光またはりん光を逆方向に治療装置本体20に伝送する。カテーテル10から伝送された蛍光またはりん光は、光分岐部24により、レーザ光と分離され、適当なフィルターにより所定の波長のみ選択され、濃度判定装置23に送られる。
濃度判定装置23は、蛍光またはりん光を分析することにより、PDT薬剤量および酸素濃度をモニタすることができる。例えば、PDT薬剤のポルフィリン環は励起されると蛍光を発生するので、該蛍光を計測することによりPDT薬剤の量が測定できる。また、酸素濃度に応じてりん光が消光するので、りん光を計測することにより酸素濃度も測定できる。
また、活性酸素により蛍光強度が増加する酸化蛍光指示薬を用いたり、ルテニウム錯体を光ファイバーに固定し、酸素濃度によりルテニウム錯体の蛍光反応が消光する現象を利用してもよい。局所的な酸素分圧の計測は、J.M.Vanderkooi et al.,The Journal of Biological Chemistry,Vol.262,No.12,Issue of April 25,pp.5476−5482,1987、日本化学会編、実験化学講座(分光II),pp.275−194,1998およびLichini M et al.,Chem.Commun.,19,pp.1943−1944,1999等の記載に従って行うことができる。
濃度判定装置23は、検出結果を、制御部22に送る。制御部22は、検出された光感受性物質または酸素濃度に基づいて、光源21に発生させる光のピーク強度や、繰り返し周波数等の光照射条件をリアルタイムに変更できる。
また、制御部22は、図示しないタンクの電磁バルブと接続されていてもよい。この場合、濃度判定装置23により光感受性物質または酸素濃度の不足を検出すると、電磁バルブを開制御して、供給口12から光感受性物質または酸素濃度を含む生理食塩水を自動供給することもできる。
光ファイバー30は、たとえば、直径0.05〜0.6mm程度のものを使用する。ただし、光ファイバー30は、カテーテル10の中に収まり、光源21からの光のエネルギーを伝送できる限り、広く種々の径のものを用いることができる。
なお、上記では、同一の光ファイバー30で、光源21からカテーテル1の照射部13に光を導き、生体40から光分岐部24に蛍光またはりん光を導いている。しかし、蛍光またはりん光を導く光ファイバーを別途独立に設けることもできる。この場合、蛍光またはりん光をモニタするためのファイバーは、直接濃度判定装置23に接続される。
本発明の光線力学的治療装置1を前立腺治療に用いる場合、さらに、図5に示すように、照射部13を組織と接触させる等の目的のためにバルーン15を有していてもよい。バルーン15は、カテーテル10の先端部11付近に取り付けられている。
また、本装置1を動脈硬化の治療に用いる場合、光線照射の際に病変部において血流を閉止する必要がある。このため、カテーテル10にバルーンを設けてもよい。
動脈硬化用の装置が備えるバルーンは、通常のバルーン付きカテーテルに用いられている血管内バルーンを用いることができる。バルーン15を拡張させ、血流を閉止し、その状態で光線を照射して病変部を傷害させる。
この際、バルーンは血液還流(パーフュージョン)機能を備えていてもよく、該血液還流機能により血液流が確保される。バルーンを拡張させる手段は特に限定されないが、適当な液体や気体をバルーン内に供給することにより達成できる。この場合、カテーテル1の中に液体、気体の給排出管も備えられる。
拡張時のバルーンが血管壁を押さえる際の圧力は、0.2〜1kg/cmの間が望ましい。前述のようにバルーンに照射部13を備えていてもよい。
(本発明の装置の使用)
次に、上記のような、本発明の光線力学的治療装置1の使用方法について説明する。図6は、本発明の装置を使用する流れを示すフローチャートである。
まず、予め、生体に光感受性物質(PDT薬剤)を投与し、病変部には光感受性物質を蓄積させておく(ステップS1)。
そして、事前に行った超音波画像診断、CTスキャン、単純X線撮影、MRI等により得られた病変部41の深度や大きさなどの情報に基づいて、使用者により、浅部41の温存距離が決定され、制御部22に入力される(ステップS2)。ここでは、病変部41の深度よりも浅い範囲が温存距離として決定される。
次に、使用者により、カテーテル10が生体内に挿入され、病変部41近傍まで誘導される(ステップS3)。たとえば、動脈硬化を治療する場合、光線を照射し得る動脈カテーテルを粥腫が存在する部位近傍まで運ぶ。そこで、バルーンを拡張させ血流を一時的に閉止させる。
制御部22は、ステップS2で入力された温存距離に基づいて、光照射ピーク強度および照射パターンを設定する(ステップS4)。制御部22は、温存距離と、該温存を達成するために必要な光照射ピーク強度と相関関係を示すデータを予め有しており、該データに基づき照射ピーク強度および照射パターンを設定する。
続けて、制御部22は、設定した照射ピーク強度および照射パターンに従って、光源21により光を出力させ(ステップS5)、カテーテル10先端から生体に向かって光を照射させる。
光の照射中、病変部41に含有される光感受性物質の濃度が検出される(ステップS6)。測定結果は、制御部22にフィードバックされ、光感受性物質の濃度が所定値以下に低下しているか否かが判断される(ステップS7)。
光感受性物質の濃度が所定値以下に低下している場合(ステップS7:YES)、このまま光照射を続けても、治療効率が悪いので、安定した治療効果が得られるように、制御部22は、光の照射ピーク強度を低下させたり、光感受性物質を含んだ生理食塩水の供給を促したりする(ステップS8)。そして、ステップS6の処理に戻る。
光感受性物質の濃度が所定値以下に低下していない場合(ステップS7:NO)、所定の治療時間が経過したか否かを判断する(ステップS9)。
治療時間が経過していない場合(ステップS9:NO)は、ステップS7の処理に戻る。
治療時間が経過している場合(ステップS9:YES)は、治療処理を終了する。
以上のように、光線力学的治療装置1を使用すれば、病変部41の深度や大きさを考慮して、光源3による照射ピーク強度を変更することによって、該病変部41のみを治療できる。すなわち、病変部41より浅い健常な浅部42では感受性物質が活性化できないほどに高いピーク強度で光が通過し、病変部41では丁度光感受性物質が活性化するピーク強度となるように、減衰分だけ強い光を照射しておけば、浅部を温存しつつ、病変部41のみを治療できる。たとえば、粥腫を治療する場合、粥腫を覆う正常な被膜は傷害することなく、粥腫のみ傷害できる。
また、光感受性物質の濃度を検出し、濃度の低下に従って、光のピーク強度を低下させたり、光感受性物質を含む生理食塩水を供給したりするので、光感受性物質の不足による治療効率の低下および治療時間効率の低下を防止できる。
上記使用方法では、光感受性物質の濃度を検出する場合について説明したが、これに限定されない。生体40の病変部位41の酸素濃度を検出してもよい。酸素濃度の検出結果に基づいて、酸素を含む生理食塩水を供給したり、光のピーク強度を低下したりすることもできる。
上記方法では、カテーテル10を生体に挿入する場合について説明したが、これに限定されない。カテーテル10を生体に挿入しなくても、皮膚上からカテーテル10を当てて、皮膚下にある病変部位を治療することもできる。
また、本発明は、前立腺癌または前立腺肥大症の治療にも適用できる。この場合、光線を照射しうる尿道用カテーテルを尿道に挿入し、光線照射部分を病変部まで運び、尿道内から病変部に向けて光線を照射する。そして、本発明の装置で高ピーク強度パルス光を照射することにより、正常な尿道は傷害せず、前立腺癌または前立腺肥大部分のみ傷害できる。
(光線照射条件による治療深度の制御方法)
本発明は、さらにPDTにおいて、ピーク強度および繰り返し周波数等の光線照射条件を変化させて治療深度を制御する方法を包含する。光線照射条件の変化は、光線発生装置により行なうことができる。この場合のPDT治療に用いる装置は、前述のカテーテル状の装置でもよいし、生体外部から光線を照射し得る光線発生装置を備えた装置でもよい。本発明の深度制御方法により、治療深度を調節することにより生体内のどの部分にできた疾患も治療が可能になる。
治療深度が深い場合に、より高いピーク強度の光線を照射し、治療深度が浅い場合には照射する光線のピーク強度を低くすればよい。また、治療深度が深い場合はパルス光線が好ましく、治療深度が浅い場合は、パルス光線も連続光線も用いることが出来る。特に治療しようとする病変部と光線照射部の間に傷害を与えるべきでない正常部分がある場合に、治療深度を制御することが有効になる。
また、病変部と光線照射部の間に存在する正常部分の厚みが大きい場合は、高ピーク強度の光線を照射すればよく、正常部分の厚みが小さい場合はややピーク強度を低くして光線を照射すればよい。また、治療しようとする病変部が浅部から深部まで広範囲にわたる場合は、高ピーク強度の光線と低ピーク強度の光線を組合わせて照射する。高ピーク強度の光線により深部の治療ができ、低ピーク強度の光線により浅部の治療ができる。また、光線のピーク強度だけではなく光線の繰り返し周波数によっても、治療効率は異なるので、繰り返し周波数を変化させることにより治療効率を高めることが可能である。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
〔実施例1〕 動脈硬化粥腫モデルを用いた光照射条件による治療深度の制御
図7は、PDT効果のピーク強度および繰り返し周波数依存性を示す図である。図8は、薬剤ブリーチングとピーク強度の関係を示す図である。図9は、照射エネルギー密度を変化させたときの死細胞率の変化を示す図である。
動脈硬化性狭窄の体積減少を図り、還流血流量を確保する治療において、粥腫内部のみを治療し周囲組織損傷を防ぐために、光照射条件(ピーク強度、周波数)変化による治療深度の制御方法を検討した。
動脈硬化粥腫のモデルとしてマウス由来マクロファージ様細胞J774.1を用いた。排泄性の高い第二世代光感受性物質ATX−S10(ATX−S10Na(II)(株式会社光ケミカル研究所))を濃度6μg/mlで24時間接触後、PDTを施行した。
光源はエキシマーダイレーザ(EDL−1、浜松ホトニクス社製、波長670nm、パルス幅10ns)で、パルスエネルギー密度1.2〜9.5mJ/cm(ピーク強度1.2〜9.5×10W/cmに相当)、繰り返し周波数5〜80Hzと変化させて照射した。PDT効果は施行24時間後のMTT法を用いた死細胞率によって評価した。
図7に結果を示す。
高パルスエネルギー密度(高ピーク強度)条件では、PDT効果がほぼ消滅し、低パルスエネルギー密度(低ピーク強度)条件では、最大で70%の死細胞率が得られた。
この原因として、過渡的な溶存酸素不足によるものと推察される。
また、これにより最適な繰り返し周波数の存在も示唆された。
図8に照射エネルギー密度を変化させたときの濃度6μg/mlのATX−S10Na(II)の吸光度の変化を示す。吸光度はピーク強度によらず照射エネルギーの総量(J/cm)に依存する。薬剤のブリーチング現象が高ピーク強度での死細胞率減少ではなかった。
図9に照射エネルギー密度を変化させたときの死細胞率の変化を調べた。このとき、光感受性物質の投与濃度を、25μg/mlとした場合と50μg/mlとした場合とを測定した。図9に示す通り、同じ照射エネルギー密度でも、光感受性物質の濃度が異なることで、死細胞率が異なることがわかる。この結果から、薬剤濃度を調整することによって、死細胞率を調整できることがわかる。
臓器によっては、死細胞率が大きすぎると臓器不全に陥ってしまうので、臓器の種類に合わせて、薬剤濃度を調整することにより、死細胞率を調整することができる。
本実施例により、高ピーク強度照射により繊維性被膜を保存できることが示された。同時に深部(粥腫部分)では吸収によるピーク強度低下により治療が行なえることも示された。さらに、薬剤濃度の調整により、死細胞率を調整できることも示された。
〔実施例2〕 浅部温存範囲の制御1
図10は、パルス数を一定としたときの、パルスエネルギー密度毎の深度に対する死細胞率の測定結果を示す図である。
実施例2では、照射する光のパルス数を一定とし、異なるパルスエネルギー密度毎の深度に対する死細胞率を測定した。
パルスエネルギー密度を0.3mJ/cm〜9.5mJ/cmの範囲とし、照射パルス光のパルス幅と繰り返し周波数を一定のまま10000パルスの照射をした。そして、深度に対する死細胞率を測定した。測定結果は、図10に示す通りである。
パルスエネルギー密度が低い0.3mJ/cm〜1.5mJ/cmの範囲では、照射される表面から略一様に死細胞率が減衰する。これに対し、パルスエネルギー密度を2.5mJ/cm以上で照射した場合には、浅部に死細胞率が著しく低い範囲が残される。
低い死細胞率の部分は、致死細胞率を下回ることから温存される。すなわち、死細胞率が致死細胞率より低い浅部温存範囲と、浅部温存範囲より深く死細胞率が致死細胞率より高い致死細胞範囲が形成される。致死細胞範囲より、さらに深い部分では、死細胞率が再度致死細胞率より下回り、深部温存範囲が形成される。
また、図10を参照すると、照射光のピーク強度が段階的に高くなるにつれて、死細胞率が最も高くなる深度が深くなり、致死細胞範囲がより深部で形成されることがわかる。これは、照射光のパルスエネルギー密度が高いほど、浅部温存範囲が形成される範囲が広くなることも示す。
このように、照射光のパルスエネルギー密度を制御することによって、換言すると、照射光のピーク強度を制御することによって、致死細胞範囲を形成する深度が制御できることが示される。
〔実施例3〕 浅部温存範囲の制御2
図11は、総照射エネルギー量を一定としたときの深度に対する死細胞率の測定結果を示す図である。
実施例3では、照射する光の総照射エネルギー量を一定とし、異なるパルスエネルギー密度毎の深度に対する死細胞率を測定した。
次に上記実施例2を参考にして、今度は、総照射エネルギー量を一定としたときの浅部温存治療の実施例を示す。
パルスエネルギー密度を2mJ/cm〜9.5mJ/cmの範囲、すなわち浅部温存範囲が形成されうる範囲とし、照射パルス光のパルス幅と繰り返し周波数を一定としたまま、総照射エネルギー量が40Jになるまで照射した。そして、深度に対する死細胞率を測定した。測定結果は、図11に示す通りである。
低いパルスエネルギー密度で照射した方が、高いパルスエネルギー密度で照射した場合よりも高い死細胞率が達成される。一方、高いパルスエネルギー密度で照射した方が、低いパルスエネルギー密度で照射した場合よりも、死細胞率は低くなるが、より深部で致死細胞範囲が形成され、すなわち、浅部温存範囲がより広く形成されている。
以上から、照射エネルギー量を一定のまま、照射パルスエネルギー密度を制御することによって、換言すると、照射光のピーク強度を制御することによって、浅部温存範囲を広くしたり、狭くしたり制御できることが示される。
〔実施例4〕 致死細胞範囲の制御
図12は、照射途中で連続または断続的にパルスエネルギー密度を変更したときの、深度に対する死細胞率の測定結果を示す図である。
実施例4では、合計照射パルス数は一定とし、照射途中でパルスエネルギー密度を変えたときの、深度に対する死細胞率を測定した。
致死細胞範囲を制御する実施例として、光のピーク強度を初め1.5〜5.5mJ/cmの低ピーク強度にして5000パルス照射して、途中で9.5mJ/cmの高ピーク強度に変えて5000パルス照射した。他の条件については、上記他の実施例と同様にした。そして、深度に対する死細胞率を測定した。測定結果は、図12に示す通りである。なお、図12では、参考のために、途中でピーク強度を変更しなかった場合についても、測定結果を図示している。
図12を参照して、途中で1.5mJ/cmから9.5mJ/cmにパルスエネルギー密度を変えた結果によると、まず1.5mJ/cmの低パルスエネルギー密度の照射により浅部が治療され、その後の9.5mJ/cmの高パルスエネルギー密度の照射により、深部が治療された。すなわち、浅部から深部にわたる広範囲に致死細胞範囲が形成された。
2.5mJ/cmから9.5mJ/cmにパルスエネルギー密度を変えた結果、および、5.5mJ/cmから9.5mJ/cmにパルスエネルギー密度を変えた結果は、いずれも、死細胞率のピークが浅部および深部の2箇所に現れた。このように、パルス照射する回数を一定にしておき、途中でピーク強度を変更することにより、死細胞率の分布を制御でき、すなわち、致死細胞範囲を浅部から深部にわたって、広い範囲に形成できる。
また、最初から最後まで9.5mJ/cmのパルスエネルギー密度で照射した場合(図中の21)と、最初2.5mJ/cmで照射し、その後、9.5mJ/cmで照射した場合(図中の23)とを比較する。すると、9.5mJ/cmに変更した後の死細胞率のピークと、最初から最後まで9.5Jm/cmのパルスエネルギー密度で照射した場合のピークとの深さは略同じである。すなわち、形成される致死細胞範囲の最深部は略同じ深さであることが示される。このことから、異なるピーク強度に途中で変更しても、それぞれのパルスエネルギー密度だけで照射したときと略同じ深さで死細胞率のピークが得られることがわかる。
また、途中から9.5mJ/cmのパルスエネルギー密度で照射した方では、2.5mJ/cmで照射している際に、より浅部にもう一つ致死細胞領域が形成される。したがって、9.5mJ/cmのパルスエネルギー密度だけで照射する場合よりも、より広い範囲に致死細胞領域が形成されていることがわかる。
以上のように、異なるピーク強度の照射を組み合わせることにより、一つのピーク強度の光を照射するだけよりも、広範囲に致死細胞範囲を形成できることが示される。
【産業上の利用可能性】
上記実施例に示したように、PDTにおいて光線照射条件を変化させた場合、高ピーク強度においてPDT治療効率の低下が認められ、さらに、照射する光線の周波数も一定範囲にある場合に、PDT治療効率が良好であった。本発明の装置により光線照射条件を変化させて、生体組織に対してPDT治療を行う際、高ピーク強度の光線を照射した場合は、光線のピーク強度が高い浅部の組織では細胞が傷害されず、PDT薬剤や、ヘモグロビン、水等によるエネルギーの吸収による光線のピーク強度が低下する深部において細胞が傷害される。このように、照射する光線の照射条件を変化させることにより治療深度を制御することが可能である。さらに、浅部が正常で深部が病変部である場合、本発明の装置により、正常な浅部を残したまま、病変部である深部を傷害する浅部温存治療が可能になる。
明細書、請求の範囲および要約書を含む2003年6月20日出願の日本特許出願番号2003−176687号に開示する内容の全部は、その全部を引用することによって、本願に組み込まれている。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、該所定範囲外のピーク強度の光には略活性化しない光感受性物質を用いて、病変部を治療する光線力学的治療装置であって、
前記光感受性物質を活性化可能な波長の光を、生体にパルス照射する照射手段と、
前記照射手段により照射する光のピーク強度を制御する制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、生体深部にある病変部に到達する前記光が前記所定範囲のピーク強度となるように、高ピーク強度の光を前記照射手段に照射させることにより、前記光感受性物質が活性化する生体内の深度を前記病変部近傍に制御し、前記病変部より前記光照射手段に近い生体浅部では前記光感受性物質が活性化しないように制御する光線力学的治療装置。
【請求項2】
前記制御手段は、さらに、前記照射手段により照射される光の繰り返し周波数を制御することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項3】
前記高ピーク強度の光は、
ピーク強度が、10kW/cm以上で、前記光のパルス照射によって生体表面にプラズマが発生し始める閾値以下であり、
繰り返し周波数が1Hz〜1kHzであることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記浅部にある病変部を治療する場合には、前記光が前記浅部で前記所定範囲のピーク強度となるように、前記高ピーク強度より低い低ピーク強度の光を前記照射手段に照射させることを特徴とする請求の範囲第1項から第3項のいずれか1項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項5】
前記病変部に集積された前記光感受性物質の量および前記病変部の酸素濃度の少なくとも一方を検出する検出手段をさらに有することを特徴とする請求の範囲第1項から第4項のいずれか1項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項6】
前記光は、オプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO)により発生する光、半導体レーザ光、色素レーザ光、可変波長近赤外レーザ光の二逓倍波からなる群から選択される、請求の範囲第1項から第5項のいずれか1項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項7】
前記病変部近傍まで生体内に挿入されるカテーテルをさらに有し、該カテーテルによって前記光照射手段を前記病変部近傍まで導くことを特徴とする請求の範囲第1項から第6項のいずれか1項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項8】
前記カテーテルは、血管用バルーンカテーテルであることを特徴とする請求の範囲第7項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項9】
前記カテーテルは、尿道用カテーテルであることを特徴とする請求の範囲第7項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記光照射手段により照射する前記光の総照射パルス数を一定に維持し、前記光のピーク強度を制御することにより、前記光感受性物質が活性化する生体内の深度を制御することを特徴とする請求の範囲第1項から第9項のいずれか1項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記光照射手段により照射する前記光の総照射エネルギーを一定に維持し、前記光のピーク強度を制御することにより、前記光感受性物質が活性化する生体内の深度を制御することを特徴とする請求の範囲第1項から第9項のいずれか1項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記光照射手段により照射する前記光のピーク強度を連続または断続的に変更することにより、前記光感受性物質が活性化する生体内の範囲を制御することを特徴とする請求の範囲第1項から第9項のいずれか1項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項13】
所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、該所定範囲外のピーク強度の光には活性化しない光感受性物質を活性化可能な波長の光を、生体にパルス照射する照射手段と、前記照射手段による光のピーク強度を制御する制御手段と、を有する光線力学的治療装置の制御方法であって、
生体深部にある病変部に到達する前記光が前記所定範囲のピーク強度となるように、高ピーク強度の光を前記照射手段に照射させることにより、前記光感受性物質が活性化する生体内の深度を前記病変部近傍に制御し、前記病変部より前記光照射手段に近い生体浅部では前記光感受性物質が活性化しないように制御する光線力学的治療装置の制御方法。
【請求項14】
前記制御手段により、さらに、前記照射手段が照射する光の繰り返し周波数を制御することを特徴とする請求の範囲第13項に記載の光線力学的治療装置の制御方法。
【請求項15】
前記病変部近傍の前記光感受性物質の量および前記病変部の酸素濃度の少なくとも一方を検出し、検出結果に基づいて、前記制御手段により前記照射手段が照射する光のピーク強度を制御することを特徴とする請求の範囲第13項または第14項に記載の光線力学的治療装置の制御方法。
【請求項16】
前記浅部にある病変部を治療する場合には、前記光が前記浅部で前記所定範囲のピーク強度となるように、前記高ピーク強度より低い低ピーク強度の光を前記照射手段に照射させることを特徴とする請求の範囲第13項から第15項のいずれか1項に記載の光線力学的治療装置の制御方法。
【請求項17】
所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、該所定範囲外のピーク強度の光には略活性化しない光感受性物質を活性化可能な波長の光を、生体にパルス照射する照射手段と、
前記照射手段により照射する光の照射条件を制御する制御手段と、
を有し、
前記制御手段により光の照射条件を変化させることにより、前記光感受性物質の活性化を制御し、該活性化した光感受性物質の作用により傷害される死細胞率を生体の深さ方向で制御する光線力学的治療装置。
【請求項18】
前記照射条件は、前記光のピーク強度、波長、総照射時間、総照射エネルギー、パルス幅、繰り返し周波数のうち少なくとも一つであることを特徴とする請求の範囲第17項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項19】
生体の深さ方向の前記死細胞率は、一部で高くなり、該一部より浅部で低くなることを特徴とする請求の範囲第17項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項20】
生体の深さ方向の前記死細胞率は、一部で高くなり、該一部より浅部及び深部の部分で低く分布されることを特徴とする請求の範囲第17項から第19項のいずれか1項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項21】
前記死細胞率が高くなる生体の前記一部では、死細胞率が細胞が蘇生不可能な致死細胞率以上であり、前記一部より浅部及び深部の部分では、死細胞率が致死細胞率以下であることを特徴とする請求の範囲第20項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項22】
前記制御手段は、前記光の出力を制御することにより、前記死細胞率が前記致死細胞率以上となる致死細胞範囲を制御することを特徴とする請求の範囲第21項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項23】
前記制御手段は、前記光照射手段により照射する前記光の総照射パルス数を一定に維持し、前記光のピーク強度を制御することにより、前記致死細胞範囲を制御することを特徴とする請求の範囲第21項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項24】
前記制御手段は、前記光照射手段により照射する前記光の総照射エネルギーを一定に維持し、前記光のピーク強度を制御することにより、前記致死細胞範囲を制御することを特徴とする請求の範囲第21項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項25】
前記制御手段は、前記光照射手段により照射する前記光のピーク強度を連続または断続的に変更することにより、前記致死細胞範囲を制御することを特徴とする請求の範囲第21項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項26】
前記病変部近傍まで生体内に挿入されるカテーテルをさらに有し、該カテーテルによって前記光照射手段を前記病変部近傍まで導くことを特徴とする請求の範囲第17項から第25項のいずれか1項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項27】
前記カテーテルは、血管用バルーンカテーテルであることを特徴とする請求の範囲第26項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項28】
前記カテーテルは、尿道用カテーテルであることを特徴とする請求の範囲第26項に記載の光線力学的治療装置。
【請求項29】
所定範囲のピーク強度を有する光によって活性化し、該所定範囲外のピーク強度の光には略活性化しない光感受性物質を生体に投与するステップと、
投与により生体深部の病変部に集積された前記光感受性物質を活性化可能な波長の光を、該病変部に向かってパルス照射するステップと、
光をパルス照射する際に、高ピーク強度の光を照射し、前記病変部において前記所定範囲のピーク強度となった前記光により、前記光感受性物質を活性化させ、活性化した前記光感受性物質の作用により病変部を傷害するとともに、前記病変部より浅い浅部では前記光感受性物質を活性化させず、該浅部を保存するステップと、
を含む光線力学的治療方法。
【請求項30】
前記光感受性物質を生体に投与するステップでは、全身投与、または、前記病変部を含む生体に局所投与により、前記光感受性物質を供給することを特徴とする請求の範囲第29項に記載の光線力学的治療方法。

【国際公開番号】WO2004/112902
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500929(P2005−500929)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016344
【国際出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成14年12月21日学校法人慶應義塾主催の「平成14年度応用物理情報専修課題研究発表」において文章をもって発表
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】