説明

光触媒体、その製造方法およびその用途

【課題】 蛍光灯などの実用光源によって高い光触媒活性を示す光触媒体と、該光触媒体を簡便に得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の光触媒体は、酸化タングステンと多孔質シリカとから形成された複合体であり、BET比表面積が150〜800m2/g、細孔容積が0.15〜1.0cm3/gである。かかる光触媒体を得るための本発明の製造方法は、溶媒に、酸化タングステン粒子を分散させるとともに、ミセルを形成する物質を溶解させた後、シリコン化合物を添加し、該シリコン化合物を加水分解または中和することにより得られた固形物を焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光灯等の実用光源によって高い光触媒活性を示す光触媒体とその製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーをもつ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起し、価電子帯に正孔、伝導帯に電子が生成する。これらはそれぞれ強い酸化力と還元力を有し、半導体に接触した分子種に酸化還元作用を及ぼす。このような作用を光触媒作用と呼び、この光触媒作用を利用することによって、大気中の有機物などを分解除去することができる。
【0003】
光触媒作用を示す物質としては、従来、酸化チタンが一般的であり、各種媒体や担体などに酸化チタン粒子を分散もしくは担持させた光触媒体が実用化されている。さらに、近年では、酸化チタン光触媒体の光触媒機能を向上させる方法が検討されており、例えば、合成媒体中に酸化チタン粒子を分散させ、その中で多孔質シリカ等の多孔体の骨格を生成させることにより形成された、酸化チタンを含んだ複合多孔体(特許文献1参照)が提案されている。
【0004】
しかしながら、従来の酸化チタン光触媒体や、特許文献1で提案されたような酸化チタン含有複合多孔体からなる光触媒体では、太陽光など比較的波長の短い紫外領域の光の照射下では良好な光触媒活性を示すものの、蛍光灯のように可視光が大部分を占める実用光源で照らされた屋内空間では、充分な光触媒活性が得られない場合があった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−314208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、蛍光灯などの実用光源によって高い光触媒活性を示す光触媒体と、該光触媒体を簡便に得ることができる製造方法と、該光触媒体を用いた有機物の分解処理方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた。その結果、従来の酸化チタンや酸化チタン含有複合多孔体からなる光触媒体が蛍光灯等の実用光源の照射下で充分な光触媒活性を発揮しなかった要因として、第一に、これまで一般に汎用されていた酸化チタンが、波長の短い紫外領域の光でないと触媒活性を発現しにくいものであり、室内光の大部分を占める可視光線を有効に利用できなかったこと、第二に、光触媒体と光触媒作用を生じさせようとする反応基質との接触率、換言すれば、光触媒体への反応基質の吸着量が不充分であったこと、が複合的に影響していると考えた。そして、酸化チタンに代えて酸化タングステンを用いて多孔質シリカとの複合体を形成することにより上記第一の要因を解消するとともに、該酸化タングステンと多孔質シリカとの複合体におけるBET比表面積および細孔容積を特定範囲に設計することにより上記第二の要因を解消すれば、可視光線が大部分を占める蛍光灯等の実用光源であっても高い光触媒活性を発現しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)酸化タングステンと多孔質シリカとから形成された複合体であり、BET比表面積が150〜800m2/g、細孔容積が0.15〜1.0cm3/gである、ことを特徴とする光触媒体。
(2)前記(1)記載の光触媒体の製造方法であって、溶媒に、酸化タングステン粒子を分散させるとともに、ミセルを形成する物質を溶解させた後、シリコン化合物を添加し、該シリコン化合物を加水分解または中和することにより得られた固形物を焼成する、ことを特徴とする光触媒体の製造方法。
(3)光触媒体と接触させた状態で光を照射することにより反応基質中の有機物を分解する方法であって、前記光触媒体として前記(1)記載の光触媒体を用いる、ことを特徴とする有機物の分解処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蛍光灯等の実用光源によって高い光触媒活性を発揮させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の光触媒体は、酸化タングステンと多孔質シリカとから形成された複合体である。ここで言う複合体は、後述する本発明の光触媒体の製造方法によって容易に形成される多孔質構造を有するものである。当該複合体における複合の形態は、特に制限されるものではなく、例えば、多孔質シリカが酸化タングステン粒子の一部または全体を被覆している形態であってもよいし、多孔質シリカと酸化タングステン粒子が物理的に接触しているだけである形態であってもよい。勿論、本発明の光触媒体は、複数の複合形態が混在した複合体であってもよい。
【0011】
本発明の光触媒体を構成する酸化タングステンは、光触媒作用を示す粒子状の酸化タングステンであって、例えば、三酸化タングステン〔WO3〕粒子が好ましく挙げられる。三酸化タングステン粒子は、例えば、タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、得られたタングステン酸を焼成する方法や、タングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法などにより得ることができる。
【0012】
本発明の光触媒体中に含まれる前記酸化タングステンの含有量は、複合体に対して、10〜90重量%であることが好ましく、より好ましくは40〜90重量%である。酸化タングステンの含有量が10重量%未満であると、充分に高い光触媒活性が得られないおそれがあり、一方、90重量%を超えると、多孔質シリカの占める割合が減少するため、反応基質の吸着量が少なくなり、高い光触媒活性が得られないおそれがある。
【0013】
本発明の光触媒体を構成する多孔質シリカは、後述するシリコン化合物を加水分解または中和することにより形成される多孔体である。通常、この多孔体の形成と同時に酸化タングステンとの複合化が進み、本発明の光触媒体が形成される。なお、加水分解または中和による形成方法については後述する本発明の光触媒体の製造方法に記載の通りである。
【0014】
本発明の光触媒体のBET比表面積は、150〜800m2/gである。BET比表面積が150m2/g未満であると、反応基質の吸着量が少なくなり、高い光触媒活性が得られないことになり、一方、800m2/gを超える場合、製造時に複合体中の酸化タングステン粒子の含有量が極めて少なくなるように設計する必要があり、反応基質の吸着量が増加しても高い光触媒活性が得られない。好ましくは、BET比表面積の下限は200m2/g以上であり、上限は500m2/g以下であるのがよい。
【0015】
本発明の光触媒体の細孔容積は、0.10〜1.0cm3/gである。細孔容積が0.10cm3/g未満であると、反応基質の吸着量が少なくなり、高い光触媒活性を得られないことになり、一方、1.0cm3/gを超える場合、製造時に用いるミセルを形成する物質(以下「ミセル形成物質」と称することもある)として一般に高価である高分子量のミセル形成物質を用いる必要があり、コストに見合うだけの効果が得られない。好ましくは、細孔容積の下限は0.15cm3/g以上であり、上限は0.30cm3/g以下であるのがよい。
なお、本発明における光触媒体のBET比表面積および細孔容積は、例えば、実施例で後述する窒素吸着法により測定することができる。
【0016】
本発明の光触媒体は、酸化タングステンと多孔質シリカを主成分とするものであるが、さらに光触媒活性や吸着性を向上させるために、例えば、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、Rh、Co、Al、Ti、Zr等の金属成分を含有させることもできる。これら金属成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定すればよい。
以上のような本発明の光触媒体は、後述する本発明の光触媒体の製造方法により容易に得られる。
【0017】
本発明の光触媒体の製造方法は、溶媒に、酸化タングステン粒子を分散させるとともに、ミセル形成物質を溶解させた後、シリコン化合物を添加し、該シリコン化合物を加水分解もしくは中和することにより得られた固形物を焼成するものである。この方法によれば、シリコン化合物が加水分解または中和されて多孔質シリカの骨格が形成される際にミセル形成物質が鋳型として存在するので、上述した特定寸法を満足する細孔を形成することができ、しかも、このようにして多孔質シリカの骨格が形成される際に、酸化タングステン粒子が溶媒に分散した状態で存在するので、形成された多孔質シリカに酸化タングステンを複合化させることができるのである。
【0018】
本発明の光触媒体の製造方法に用いられる溶媒は、ミセル形成物質を溶解し、かつミセル形成物質を光触媒体の細孔の鋳型として機能させうるものであれば、特に制限はないが、水を用いるのが好ましい。なお、溶媒は、ミセル形成物質の溶解性を高めるために予め加温しておくこともできる。
【0019】
本発明の光触媒体の製造方法に用いられる酸化タングステン粒子は、上述した酸化タングステンからなる粒子であればよい。酸化タングステン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、好ましくは、20〜80m2/gである。また、前記溶媒に分散させた際の酸化タングステン粒子の粒子径は、特に制限されないが、分散粒子径で、通常50〜200nm、好ましくは80〜130nmである。
前記酸化タングステン粒子の使用量は、最終的に得られる光触媒体における酸化タングステンの含有量が前記範囲になるように適宜設定すればよい。
【0020】
本発明の光触媒体の製造方法に用いられるミセル形成物質は、溶媒中でミセルを形成し、多孔質シリカを形成する際に鋳型として機能するものであり、例えば、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等のアルキルアンモニウム塩、ポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレングリコール)−ポリ(エチレングリコール)共重合体等のブロック共重体、ポリオキシエチレン−アルキル基を骨格に持つ非イオン性界面活性剤などが挙げられる。これらの中でも、コスト面や抑泡性など製造工程上の観点から、ポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレングリコール)−ポリ(エチレングリコール)共重合体等のブロック共重体が好ましく用いられる。
前記ミセル形成物質の使用量は、最終的に得られる光触媒体の細孔が所望の寸法となるように適宜設定すればよいが、例えば、シリコン化合物の酸化物換算(SiO2)重量に対して、重量比で0.2〜3倍とするのがよい。
【0021】
前記溶媒に前記酸化タングステン粒子を分散させるとともに、前記ミセル形成物質を溶解させてなる分散液(以下、「ミセル形成物質含有酸化タングステン粒子分散液」と称することもある)を調製するに際し、酸化タングステンとミセル形成物質の添加順序や方法は特に制限されるものではない。例えば、溶媒に酸化タングステン粒子を分散させた分散液を調製しておき、該分散液に、ミセル形成物質をそのまま添加して溶解させるか、もしくはミセル形成物質をあらかじめ溶媒に溶解させた溶液を添加するようにしてもよいし、あるいは、先にミセル形成物質を溶媒に溶解させた溶液を調製しておき、該溶液に酸化タングステン粒子を粒子の状態(粉末状)で添加して分散させるようにしてもよい。
【0022】
また、前記ミセル形成物質含有酸化タングステン粒子分散液には、後述するシリコン化合物を添加する前に、加水分解反応や中和反応を促進または制御する目的で、適宜、酸や塩基を添加することができる。ここで用いる酸としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、蓚酸、酢酸、蟻酸等が挙げられ、塩基としては、例えば、アンモニア、尿素、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が挙げられる。
【0023】
本発明の光触媒体の製造方法に用いられるシリコン化合物としては、例えば、珪酸エチル、珪酸メチル、珪酸ナトリウム、水ガラスなどが挙げられる。これらの中でも、コストの面から、珪酸ナトリウムや水ガラスが好ましく用いられる。
前記シリコン化合物の使用量は、最終的に得られる光触媒体における酸化タングステンの含有量が前記範囲になるように適宜設定すればよい。
【0024】
前記シリコン化合物の加水分解反応または中和反応は、該シリコン化合物を前記ミセル形成物質含有酸化タングステン粒子分散液に添加して室温で攪拌することによっても進行させることができるが、必要に応じて、加熱することが好ましい。加熱することにより、シリカ骨格の形成を促進することができ、多孔質シリカを得やすくなる。加熱する場合には、通常、40℃〜超臨界状態となる温度の範囲で行えばよいが、コストの点からは、溶媒の沸点以下で行うのが好ましい。
【0025】
前記加水分解反応または中和反応により得られた反応生成物中には固形物が存在するので、該固形物を反応生成物から固液分離した後に、焼成に付すことによって、本発明の光触媒体が得られる。
前記加水分解反応または中和反応により得られた反応生成物から固形物を固液分離する方法については、特に制限はなく、公知の手法を適宜採用すればよい。
前記加水分解反応または中和反応で生じた固形物を焼成する際の条件等については、特に制限はなく、例えば、焼成温度は、通常350℃以上、好ましくは450℃以上で、かつ通常700℃以下、好ましくは600℃以下の範囲内で適宜設定すればよい。また、焼成時間は、通常、1〜24時間の範囲内で適宜設定すればよい。
【0026】
前記加水分解反応または中和反応で生じた固形物は、固液分離された後に、必要に応じて、粉砕を施してもよい。この粉砕は焼成の前に行ってもよいし、焼成後に行ってもよい。ここで行う粉砕は、水などの液体を加えることなく乾燥状態で粉砕する乾式粉砕であってもよいし、水などの液体を加えて湿潤状態で粉砕する湿式粉砕であってもよい。乾式粉砕により粉砕するには、例えば、転動ミル、振動ボールミル、遊星ミルなどのボールミル、ピンミルなどの高速回転粉砕機、媒体攪拌ミル、ジェットミル等の粉砕装置を用いることができる。湿式粉砕により粉砕するには、例えば上記と同様のボールミル、高速回転粉砕機、媒体攪拌ミル等の粉砕装置を用いることができる。
【0027】
本発明の光触媒体の製造方法においては、必要に応じて、ミセル形成物質を除去する処理を行うことができる。具体的には、ミセル形成物質の除去は、前記加水分解反応または中和反応の後、適当な溶媒を用いてミセル形成物質を抽出して取り除くようにしてもよいし、固形物を分離した後、洗浄し、室温〜150℃の範囲で乾燥を行うことにより溶媒を除去して、その後、前記焼成を行うようにしてもよい。このとき、乾燥と焼成を連続して行っても勿論よい。
【0028】
本発明の光触媒体には、上述したように、主成分とする酸化タングステンおよび多孔質シリカ以外に金属成分を含有させることもできるが、その場合、金属成分は本発明の光触媒体の製造方法の中のどの段階で添加してもよい。例えば、酸化タングステン粒子に予め所望の金属成分を担持させておいてもよいし、焼成して光触媒体を得た後に、引き続き、所望の金属成分を含む化合物を溶解させた水溶液中に含浸して担持させ、室温〜300℃、好ましくは60〜150℃で乾燥するようにしてもよい。また、金属成分を光触媒体に担持させる際には、必要に応じて、紫外光や可視光を照射することによって金属成分を担持させることもできる。
【0029】
本発明の有機物の分解処理方法は、前記本発明の光触媒体と接触させた状態で光を照射することにより反応基質中の有機物を分解する方法である。これによれば、照射する光が、可視光が大部分を占める蛍光灯等の実用光源の光であっても、可視光を光触媒作用に有効に利用して、反応基質に含まれる有害な有機物を分解除去すること(例えば、排水処理、除菌・消臭処理等)が可能になる。本発明の光触媒体は、例えば、分散液として基材(例えば、硝子、プラスチック、金属、陶磁器、コンクリート等)の表面に塗布することにより光触媒体膜を形成するなどの方法によって、前記反応基質中の有機物と接触させればよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例および比較例で得られた光触媒体の各物性の測定およびその光触媒活性の評価については、以下の方法で行った。
【0031】
<BET比表面積、細孔容積>
自動比表面積/細孔分布測定装置(日本BEL製「BELSORP−mini」)を用いて窒素吸着法により窒素による吸着等温線を測定し、BET多点法にてBET比表面積を算出し、BJH法にて吸着等温線の吸着側の細孔容積を算出した。
吸着等温線の測定は、試料(光触媒体)に150℃で3時間真空脱気する前処理を施した後に、吸着質として窒素を用い、吸着温度77K、吸着質断面積0.162nm2の条件下で定容法を用いて行った。
【0032】
<結晶構造>
X線回折装置(リガク社製「RINT2000/PC」)を用いて試料のX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから主成分の結晶構造を求めた。
【0033】
<分散粒子径>
サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製「N4Plus」)を用いて試料の粒度分布を測定し、この装置に付属のソフトで自動的に単分散モード解析して得られた結果を分散粒子径とした。
【0034】
<光触媒活性の評価>
光触媒活性は、蛍光灯照射下でのアセトアルデヒドの分解反応における一次反応速度定数を測定することにより評価した。
まず、光触媒活性評価用の試料を作製した。すなわち、内径60mmのガラス製シャーレ内に光触媒体0.2gを入れ、水を少量加えてペースト状にした後、得られたペーストをシャーレ全体に均一となるように展開した。次いで、このシャーレを110℃の乾燥機で1時間乾燥させ、光触媒活性評価用試料を作製した。得られた試料は、ブラックライト(紫外線強度2mW/cm2:トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)を16時間照射することにより初期化しておいた。
【0035】
次に、この初期化した光触媒活性評価用試料をシャーレごと密閉式ガラス製容器(直径8cm、高さ10cm、容量約0.5L)内に設置した後、この容器内を酸素20容量%と窒素80容量%とからなる混合ガスで満たし、さらにその中にアセトアルデヒド13.4μmolを封入した。この容器の外から蛍光灯の光を照射して、アセトアルデヒドの分解反応を行った。このとき、反応開始(蛍光灯による光照射の開始)から、容器内のアセトアルデヒド濃度を光音響マルチガスモニタ(INNOVA製「1312型」)で経時的に測定した。そして、照射時間に対するアセトアルデヒドの濃度から一次反応速度定数を算出し、これをアセトアルデヒド分解能として評価した。一次反応速度定数が大きいほど、アセトアルデヒドの分解能(換言すれば、光触媒活性)が高いと言える。
なお、アセトアルデヒドの分解反応時、試料表面付近の光の強度は、波長400nm付近の光が470μW/cm2(トプコン製紫外線強度計「UVR−2」に同社製受光部「UD−40」を取り付けて測定)であり、波長360nm付近の光が40μW/cm2(トプコン製紫外線強度計「UVR−2」に同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)であった。また、試料表面付近の照度は、6000ルクス(ミノルタ製照度計「T−10」で測定)であった。
【0036】
(実施例1)
まず、パラタングステン酸アンモニウム(日本無機化学製)を空気中700℃で6時間焼成して、酸化タングステン粉末を得た。この酸化タングステン粉末1kgをイオン交換水4kgに加えて混合し、得られた混合物を媒体攪拌式分散機(コトブキ技研社製「ウルトラアペックスミル UAM−1 1009」)を用いて下記の条件で分散処理して、酸化タングステン粒子分散液を得た。
分散媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg
攪拌速度:周速12.6m/秒
流速:0.25L/分
合計処理時間:約60分
【0037】
得られた酸化タングステン粒子分散液における酸化タングステン粒子の分散粒子径は94nmであり、該分散液のpHは2.6であった。また、この分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、得られた固形分のBET比表面積は39m2/gであり、この分散液の固形分濃度は20重量%であった。なお、分散処理前の混合物中の固形分と、分散処理後の分散液中の固形分とについて、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、どちらも結晶型はWO3であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。
【0038】
次に、水125gに、非イオン性界面活性剤(Aldrich製「Brij56」)4gを溶解させ、上記で得た酸化タングステン粒子分散液18.39gを添加して攪拌した。次いで、高純度正珪酸エチル(多摩化学工業製)8.5gを添加し、室温で18時間攪拌した後、80℃で18時間加熱した。その後、生じた固形物を濾過、水洗した後、80℃にて12時間乾燥し、空気中で500℃にて6時間焼成して有機物を除去し、酸化タングステンと多孔質シリカとから形成された複合体である光触媒体を得た。この光触媒体(複合体)中の酸化タングステン含有量は60重量%であった。
【0039】
得られた光触媒体は、細孔容積が0.17cm3/g、BET比表面積が210m2/gであった。また、この光触媒体を用いて蛍光灯照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.0408min-1であった。
【0040】
(実施例2)
水90gに、ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(プロピレングリコール)−ブロック−ポリ(エチレングリコール)(Aldrich製;数平均分子量:約2900)4gを溶解させ、実施例1と同様にして得た酸化タングステン粒子分散液18.39gを添加して攪拌した。次いで、メタけい酸ナトリウム九水和物(和光純薬製)11.6gを水36.5gに溶解した水溶液を添加し、室温で18時間攪拌した後、80℃で18時間加熱した。その後、生じた固形物を濾過、水洗した後、80℃にて12時間乾燥し、空気中で500℃にて6時間焼成して有機物を除去し、酸化タングステンと多孔質シリカとから形成された複合体である光触媒体を得た。この光触媒体(複合体)中の酸化タングステン含有量は60重量%であった。
【0041】
得られた光触媒体は、細孔容積が0.19cm3/g、BET比表面積が313m2/gであった。また、この光触媒体を用いて蛍光灯照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.0394min-1であった。
【0042】
(比較例1)
実施例1において非イオン界面活性剤を用いないこと以外は、実施例1と同様にして、酸化タングステンと多孔質シリカとから形成された複合体である光触媒体を得た。この光触媒体(複合体)中の酸化タングステン含有量は60重量%であった。
【0043】
得られた光触媒体は、細孔容積が0.13cm3/g、BET比表面積が40m2/gであった。また、この光触媒体を用いて蛍光灯照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.0309min-1であった。
【0044】
(比較例2)
実施例1と同様にして得た酸化タングステン粒子分散液を70℃で12時間真空乾燥して水分を除去し、次いで、得られた固形物を空気中で500℃にて6時間焼成して、酸化タングステンからなる光触媒体を得た。
【0045】
得られた光触媒体は、細孔容積が0.11cm3/g、BET比表面積が20m2/gであった。また、この光触媒体を用いて蛍光灯照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.0386min-1であった。
【0046】
実施例1、2と比較例1とを比較すると、鋳型となるミセル形成物質を用いずに酸化タングステン−多孔質シリカ複合体を製造した場合、BET比表面積の小さい複合体しか得られず、その光触媒活性は、ミセル形成物質を用いて製造された複合体に比べ、格段に劣ることが明らかである。また、実施例1、2と比較例2とを比較すると、実施例1、2の光触媒体は、比較例2の光触媒体の6割しか酸化タングステンを含んでいないにも関わらず、比較例2の光触媒体よりも優れた光触媒活性を示しており、このことから、多孔質シリカと複合化することにより光触媒活性は向上することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステンと多孔質シリカとから形成された複合体であり、BET比表面積が150〜800m2/g、細孔容積が0.15〜1.0cm3/gである、ことを特徴とする光触媒体。
【請求項2】
請求項1記載の光触媒体の製造方法であって、溶媒に、酸化タングステン粒子を分散させるとともに、ミセルを形成する物質を溶解させた後、シリコン化合物を添加し、該シリコン化合物を加水分解または中和することにより得られた固形物を焼成する、ことを特徴とする光触媒体の製造方法。
【請求項3】
光触媒体と接触させた状態で光を照射することにより反応基質中の有機物を分解する方法であって、前記光触媒体として請求項1記載の光触媒体を用いる、ことを特徴とする有機物の分解処理方法。

【公開番号】特開2009−297662(P2009−297662A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155693(P2008−155693)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】