説明

光触媒体の評価装置

【課題】 光触媒作用を評価するにあたり、機器分析による評価と人間の嗅覚による評価の双方で相違のない結果が得られる、光触媒体の評価装置を提供する。
【解決手段】 本発明の評価装置は、密閉された容器の内部に光触媒体および臭気性ガスを入れ、蛍光灯からの光を照射することにより、前記臭気性ガスを前記光触媒体により分解させる光触媒体の評価装置であって、前記蛍光灯は、前記容器の内部に備えられ、安定器および点灯管を用いた点灯管方式により点灯させるものであり、前記安定器が前記密閉容器の外部に備えられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒体の評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯に正孔が生成するとともに、伝導帯に電子が励起される。かかる正孔および電子は、それぞれ強い酸化力および還元力を有することから、半導体に接触した分子種に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用は光触媒作用と呼ばれており、かかる光触媒作用を示し得る半導体は、光触媒体と呼ばれている。
【0003】
このような光触媒体の触媒作用を評価するための装置として、密閉された容器内に光触媒体および臭気性ガスを入れ、蛍光灯からの光を照射するものが知られている。かかる評価装置によれば、容器内部に入れられた臭気性ガスは光触媒体の光触媒作用により分解されるので、容器内のガス成分を、例えばガスクロマトグラフ法などの機器分析法により分析することのほか、人間の嗅覚により臭気を評価することによって、光触媒体の光触媒作用を評価することができる。
【0004】
かかる評価装置としては、容器内に蛍光灯を備えていて、光触媒体に直接、光を照射し得るものが、容器の外部に蛍光灯を備えるものと比較して、容器を構成する材料による光の吸収の影響がない点で、好ましい。蛍光灯としては通常の100Vないし220Vの交流電源により点灯するものが一般的であり、これを点灯させる方式としては、安定器および点灯管を用いた点灯管方式が一般的である。蛍光灯と、これを点灯させるための安定器および点灯管とは、通常、一体となった蛍光灯照明器具として容器内に備えられている(非特許文献1)。
【0005】
【非特許文献1】日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)2004年8月、第1081頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、容器内に蛍光灯を備えた従来の評価装置では、機器分析による分析では臭気性ガス成分が検出されないにも拘わらず、人間の嗅覚による評価では臭気を感ずることがあるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、光触媒作用を評価するにあたり、機器分析による評価と人間の嗅覚による評価の双方で相違のない結果が得られる、光触媒体の評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、蛍光灯を点灯させスための安定器が、蛍光灯の点灯中に継続して臭気を発し、該臭気が密閉された容器内に蓄積されて人間の嗅覚による評価に影響を及ぼしていることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の光触媒体の評価装置は、密閉された容器内に光触媒体および臭気性ガスを入れ、蛍光灯からの光を照射することにより、前記臭気性ガスを前記光触媒体により分解させる光触媒体の評価装置であって、前記蛍光灯は、前記容器内に備えられ、点灯管、コンデンサーおよび安定器を用いた点灯管方式により点灯させるものであり、前記安定器は、前記密閉容器の外部に備えられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の評価装置によれば、蛍光灯を点灯させるための安定器が密閉された容器の外部に備えられているので、安定器から発生する臭気に影響されることなく、人間の嗅覚により光触媒体の光触媒作用を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の装置を構成する容器は、例えば、外部からの光を遮蔽する遮光性のものであってもよいし、外部からの光を透過する透明なものであってもよい。かかる容器は、内部に光触媒体および臭気性ガスを入れるものであるので、臭気性ガスが外部に逃げず、また外部からのガス成分の侵入のないよう、密閉可能なものが用いられる。容器を構成する材料としては、臭気を発しないものであれば、合成樹脂材料であってもよいし、金属材料であってもよい。合成樹脂材料を用いる場合、僅かな臭気の発生をも予防するために予め加熱処理を施してから用いることが好ましい。
【0012】
容器の内部に入れる光触媒体は、例えば、酸化チタン粉末、酸化タングステン粉末などのような粉末状の光触媒体であってもよいし、基材の表面に粉末状光触媒体を塗布することにより光触媒体層を形成したものであってもよい。
【0013】
容器の内部に入れる臭気性ガスは、人間の嗅覚により評価できるものであればよく、例えば、アンモニアガス、トリメチルアミン、硫化水素、メチルメルカプタンなどの悪臭成分、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、トルエンなどの揮発性有機化合物(VOC)などが挙げられる。かかる臭気性ガスは、通常、合成空気などにより希釈された状態で容器の内部に入れられる。
【0014】
本発明の評価装置は、かかる容器の内部に蛍光灯が備えられている。かかる蛍光灯は、安定器および点灯管を用いた点灯管方式により点灯させるものである。蛍光灯としては、評価する光触媒体のバンドギャップに応じた波長の光を照射しうるものが用いられ、例えば、紫外線を照射する、いわゆるブラックライトであってもよいし、可視光を照射する電球色、白色タイプ、昼白色タイプ、昼光色タイプなどのものであってもよい。蛍光灯は発光部および電極の全てが容器の内部に備えられていてもよいし、発光部だけが容器の内部に備えられ、電極が容器の外部に備えられていてもよい。
【0015】
点灯管としては、通常、ガラス管に口金が無機系接着剤により接着され、このガラス管内にバイメタルを封入した、いわゆるグロー点灯管が用いられ、蛍光灯の消費電力や種類に合わせて通常の市販品から適宜選択して用いられる。
【0016】
安定器としては、通常、鉄芯と、その周囲に巻回されたコイルから構成された、いわゆる鉄芯型安定器が用いられる。
【0017】
通常、蛍光灯の点灯中は、安定器に継続して電流が流れ、この電流により安定器は発熱する。これまでは、この発熱により、安定器を構成するコイルの絶縁材が加熱されて、臭気を発生していたものと考えられる。本発明の評価装置は、かかる安定器は容器の外部に備えられているので、容器の内部の臭気の嗅覚による評価に影響を与えることはない。
【実施例】
【0018】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されるものではない。
【0019】
(比較例1)
厚み2mmで縦32cm×横32cmのソーダガラス板の片面に、光触媒コーティング液(住友化学社製「TC−S4115」、酸化チタン)をスプレーコート法により塗布し、乾燥させて、光触媒体サンプルを得た。
アクリル樹脂板で構成された内寸法1m×1m×1mの容器を準備し、その内部に蛍光灯(東芝ライテック社製「20Wスターター型FL20SW」)を4つ取り付けて評価装置を組み立てた。蛍光灯は、それぞれ独立して、容器内部のグロー点灯管(NECライティング社製「FG−1E」)および安定器(鉄芯型安定器、NECライティング社製「FBB−21L−U12」)に接続し、外部から商用電源(交流100V、60Hz)を通電した。蛍光灯とグロー点灯管および安定器とは、通常の点灯管式蛍光灯と同様に接続した。
【0020】
次いで、上記容器の床面に、上記で得た光触媒体サンプルを9個載置し、アンモニア濃度40ppmになるようにアンモニアガスを注入して密閉した。このときの容器内部の臭気を三点比較式臭袋法により測定したところ、23であった。なお、アンモニア濃度は、アンモニア検知管(光明理化学工業社製「北川式ガス検知管 アンモニア105SC」および「北川式ガス検知管 アンモニア105SD」)で測定した。その後、全ての蛍光灯を点灯させた。蛍光灯を点灯してから24時間経過後の容器内のアンモニア濃度は25ppmであったが、三点比較式臭袋法による臭気濃度は310に増加していた。
【0021】
(実施例1)
グロー点灯管および安定器を容器の外部に移動させた以外は、比較例1と同様にして評価装置を組み立てた。
比較例1で組み立てた評価装置に代えて上記で組み立てた評価装置を用い、アンモニア濃度30ppmとなるようにアンモニアガスの注入量を変更した以外は、比較例1と同様に操作したところ、アンモニアガス注入直後の容器内部の三点比較式臭袋法による臭気濃度は98であり、蛍光灯を点灯してから24時間経過後の容器内のアンモニア濃度は15ppm、三点比較式臭袋法による臭気濃度は55であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉された容器の内部に光触媒体および臭気性ガスを入れ、蛍光灯からの光を照射することにより、前記臭気性ガスを前記光触媒体により分解させる光触媒体の評価装置であって、
前記蛍光灯は、前記容器の内部に備えられ、安定器および点灯管を用いた点灯管方式により点灯させるものであり、
前記安定器が前記密閉容器の外部に備えられていることを特徴とする光触媒体の評価装置。

【公開番号】特開2009−198277(P2009−198277A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39531(P2008−39531)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】