説明

光触媒塗膜及び光触媒組成物

【課題】基体表面に固定化した光触媒による有機物の分解活性(光触媒活性)及び/又は親水性を高いレベルで保持しつつ、基体及び/又はコーティングの耐久性に十分優れる光触媒塗膜を提供する。
【解決手段】ルチル型酸化チタン及び高い光触媒能を示す化合物を含む光触媒塗膜であって、前記ルチル型酸化チタンの含有割合が下記式(1)で表される条件を満足する光触媒塗膜。4/X≦a≦100/X(1)ここで、Xは前記光触媒塗膜の膜厚(単位:μm)を示し、aは前記ルチル型酸化チタンの前記光触媒塗膜の総量に対する含有割合(単位:質量%)を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒塗膜及び光触媒組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒とは、光照射によって他の物質の反応(例えば酸化、還元反応)を進行させる物質のことをいう。言い換えれば、伝導帯と価電子帯との間のエネルギーギャップよりも大きなエネルギー(すなわち短い波長)を有する光(励起光)を照射した際に、価電子帯中の電子の励起(光励起)が生じて、伝導電子と正孔とを生成しうる物質である。このとき、伝導帯に生成した電子の還元力及び/又は価電子帯に生成した正孔の酸化力を利用して、種々の化学反応を行うことができる。
【0003】
また、光触媒活性とは、光照射によって酸化、還元反応を進行させる活性をいう。光触媒は、この光触媒活性を有することにより、有機物質の分解作用や表面の親水化作用を示すことが知られている。かかる作用に基づいて、光触媒は環境浄化や防汚、防曇等の分野に応用されている。例えば、特許文献1では、光触媒粒子を含有する表層部を備え、降雨により自己清浄化(セルフクリーニング)される表面を有する屋外表示板、及びその清浄化方法が提案されている。特許文献1によると、光触媒を含有する表面層を備えることにより、光触媒の光励起に応じて、表層部の表面は親水性を呈する。そのため、屋外表示板の表面が降雨にさらされた時に付着堆積物及び/又は汚染物が雨滴により洗い流されることが可能となる、とされている。
【0004】
ところで、光触媒を環境浄化や防汚、防曇等の分野へ応用させる場合、基体への光触媒の固定化技術が非常に重要な役割を担う。この固定化技術では、(ア)光触媒活性を損なわずに基体へ強固に固定化するとともに、(イ)光触媒作用で基体及びそのコーティングが劣化しない安定性を付与する必要がある。
【0005】
このような必要性を満足する光触媒の固定化を意図して、基体とその上に設けられた光触媒を含有する表層部との間に保護層を介在させる方法が提案されている。例えば、特許文献2では、基材フィルムの一方の面に所定の厚みを有するケイ素酸化物又はアルミニウム酸化物からなる蒸着層を設け、その上に酸化チタンを主成分とする光触媒層を設けた多層光触媒フィルムが提案されている。あるいは、特許文献3では、光触媒を樹脂塗料中に混合し、この樹脂塗料を基材へコーティングする方法も提案されている。さらには、例えば特許文献4に開示されているように、光触媒粒子表面に光触媒では分解困難な無機物を担持する方法も提案されている。
【特許文献1】特開平9−230810号公報
【特許文献2】特開平11−348172号公報
【特許文献3】特開2002−154915号公報
【特許文献4】特開2005−170687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2で提案された方法は、塗装工程が増えるため作業性に劣るという欠点がある。また、光触媒を樹脂塗料中に混合し、この樹脂塗料を基体へコーティングする方法では、十分な光触媒活性及び/又は親水性を示すために樹脂塗料の使用量を少なくする必要がある。これでは、基体の耐久性やコーティングの硬度、密着性が十分ではないという欠点がある。一方で、樹脂塗料の使用量を多くすると光触媒活性及び/又は親水性が不十分となる。さらに、特許文献3、4に記載の方法では、無機物の担持量や樹脂塗料の混合量が少なければ基体及びコーティングの劣化を抑制できず、それらが多ければ光触媒活性及び親水性の低下をも招くことになる。したがって、光触媒による有機物の分解活性(光触媒活性)及び/又は親水性を高いレベルで保持しつつ、基体及びコーティングの劣化も抑制できる光触媒の層を基体上に形成するのは非常に困難であった。
【0007】
しかも、これらの従来の技術で用いられる塗料は、そのほとんどで有機溶剤が採用されており、有機溶剤の揮発による毒性、環境汚染、引火性の点で改善の余地がある。さらに、耐溶剤性の観点から、樹脂からなる基体や有機皮膜が形成された基体を用いることについても検討の余地がある。
【0008】
本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、基体表面に固定化した光触媒による有機物の分解活性(光触媒活性)及び/又は親水性を高いレベルで保持しつつ、基体及び/又はコーティングの耐久性に十分優れる光触媒塗膜及びその光触媒塗膜を形成可能な光触媒組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明を完成させた。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0010】
(1)ルチル型酸化チタン及び高い光触媒能を示す化合物を含む光触媒塗膜であって、前記ルチル型酸化チタンの含有割合が下記式(1)で表される条件を満足する、光触媒塗膜。
4/X≦a≦100/X (1)
ここで、式(1)中、Xは前記光触媒塗膜の膜厚(単位:μm)を示し、aは前記ルチル型酸化チタンの前記光触媒塗膜の総量に対する含有割合(単位:質量%)を示す。
(2)前記ルチル型酸化チタンの含有割合が下記式(1a)で表される条件を満足する、(1)の光触媒塗膜。
4/X≦a≦60/X (1a)
ここで、式(1)中、Xは前記光触媒塗膜の膜厚(単位:μm)を示し、aは前記ルチル型酸化チタンの前記光触媒塗膜の総量に対する含有割合(単位:質量%)を示す。
(3)前記ルチル型酸化チタンに対する前記高い光触媒能を示す化合物の質量比が0.10〜2.0である、(1)又は(2)の光触媒塗膜。
(4)前記ルチル型酸化チタン及び前記高い光触媒能を示す化合物の粒子径が、一次粒子径で共に100nm以下である、(1)〜(3)のいずれか一つの光触媒塗膜。
(5)前記高い光触媒能を示す化合物がアナターゼ型酸化チタンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光触媒塗膜。
(6)水系バインダーを含む、(1)〜(5)のいずれか一つの光触媒塗膜。
(1)〜(6)のいずれか一つの光触媒塗膜を形成するために用いられる光触媒組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、基体表面に固定化した光触媒による有機物の分解活性(光触媒活性)及び/又は親水性を高いレベルで保持しつつ、基体及び/又はコーティングの耐久性に十分優れる光触媒塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態の光触媒塗膜は、ルチル型酸化チタン及び高い光触媒能を示す化合物を含む光触媒塗膜であって、ルチル型酸化チタンの含有割合が上記式(1)で表される条件を満足するものである。ここで、「光触媒」とは、その伝導帯と価電子帯との間のエネルギーギャップよりも大きなエネルギー(すなわち短い波長)の光(励起光)を照射したときに、価電子帯中の電子の励起(光励起)が生じて、伝導電子と正孔とを生成し得る物質をいう。また、「高い光触媒能」とは、ルチル型酸化チタンよりも単位質量当たりの光触媒に基づく有機物の分解活性のことをいう。
【0014】
高い光触媒能を示す化合物は、高い防汚性を発現でき、特に光触媒塗膜表面ではその防汚性がより優れたものとなる。一方、ルチル型酸化チタンは光触媒としての活性は低いものの、高い紫外線吸収能を示す。したがって、本実施形態の光触媒塗膜は、これらを共に含有することにより基体へ到達する紫外線量を減らすことができ、基体近傍に存在する高い光触媒能を有する化合物の光触媒活性を抑制することが可能となる。その結果、本実施形態の光触媒は、優れた耐候性と防汚性とを共に発現することが可能となる。
【0015】
高い光触媒能を示す化合物としては、例えば、アナターゼ型酸化チタン(TiO)、ブルッカイト型酸化チタン(TiO)、ZnO、SrTiO、CdS、GaP、InP、GaAs、BaTiO、BaTiO、BaTi、KNbO、Nb、Fe、Ta、KTaSi、WO、SnO、Bi、BiVO、NiO、CuO、SiC、MoS、InPb、RuO、CeOが挙げられる。また、高い光触媒能を示す化合物として、例えば、Ti、Nb、Ta、Vからなる群より選ばれる1種以上の元素を有する層状酸化物が挙げられる。かかる層状酸化物は、特開昭62−74452号公報、特開平2−172535号公報、特開平7−24329号公報、特開平8−89799号公報、特開平8−89800号公報、特開平8−89804号公報、特開平8−198061号公報、特開平9−248465号公報、特開平10−99694号公報、特開平10−244165号公報に記載されている。また、これらの光触媒にPt、Rh、Ru、Nb、Cu、Sn、Ni、Feに代表される金属及び/又は金属の酸化物を添加又は固定化したものや、多孔質リン酸カルシウム等で被覆された光触媒(例えば、特開平11−267519号公報に記載のもの)も、本実施形態に係る高い光触媒能を示す化合物として用いられてもよい。
【0016】
また、高い光触媒能を示す化合物として、(例えば約400〜800nmの波長を有する)可視光の照射により、光触媒活性及び/又は親水性を発現することができる可視光応答型光触媒を用いてもよい。本実施形態の光触媒塗膜がこの可視光応答型光触媒を含む場合、室内等の紫外線が十分に照射されない場所等においても環境浄化効果や防汚効果が大きなものとなる点で有用である。
【0017】
上記可視光応答型光触媒は、可視光で光触媒活性及び/又は親水性を発現するものであればよい。そのような可視光応答型光触媒としては、例えば、TaON、LaTiON、CaNbON、LaTaON、CaTaONに代表されるオキシナイトライド化合物(例えば、特開2002−66333号公報を参照)、SmTi等に代表されるオキシサルファイド化合物(例えば、特開2002−233770号公報を参照)、CaIn、SrIn、ZnGa、NaSbに代表されるd10電子状態の金属イオンを含む酸化物(例えば、特開2002−59008号公報を参照)が挙げられる。また、各種の修飾を施されることで可視光応答型の機能を付与された酸化チタンも可視光応答型光触媒として挙げられる。そのような酸化チタンとしては、アンモニアや尿素に代表される窒素含有化合物存在下で、例えばオキシ硫酸チタン、塩化チタン、アルコキシチタンに代表されるチタン酸化物前駆体や高表面酸化チタンを焼成して得られる窒素ドープ酸化チタン(例えば、特開2002−29750号公報、特開2002−87818号公報、特開2002−154823号公報、特開2001−207082号公報を参照)、チオ尿素等の硫黄化合物存在下で、オキシ硫酸チタン、塩化チタン、アルコキシチタンに代表されるチタン酸化物前駆体を焼成して得られる硫黄ドープ酸化チタン、酸化チタンを水素プラズマ処理したり真空下で加熱処理したりすることによって得られる酸素欠陥型の酸化チタン(例えば、特開2001−98219号公報を参照)が挙げられる。さらには、光触媒粒子をハロゲン化白金化合物で処理したもの(例えば、特開2002−239353号公報を参照)、光触媒粒子をタングステンアルコキシドで処理(特開2001−286755号公報を参照)に代表される表面処理光触媒も、可視光応答型光触媒として好適に用いられる。
【0018】
上記高い光触媒能を示す化合物は、その光触媒活性を更に高める等のために、上述の光触媒粒子の表面に白金、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの金属や該金属の酸化物を被着したものであってもよい。
上述の高い光触媒能を示す化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0019】
上記高い光触媒能を示す化合物の中では、アナターゼ型酸化チタン及びブルッカイト型酸化チタンが好ましく、アナターゼ型酸化チタンがより好ましい。いずれの酸化チタンも安価かつ無害であり、また化学的安定性にも優れることから光触媒として好適である。特にアナターゼ型酸化チタンは更に光触媒活性が高いので、上記化合物として有用である。
【0020】
本実施形態に係る高い光触媒能を示す化合物は、各種の性能を発揮するためにその一次粒子及び/又は二次粒子に表面処理が施されてもよい。例えば、この化合物の粒子にシリコーンやシリカ、アルミナ、リン酸カルシウムやアパタイト、粘土化合物等の無機物を被覆してもよい。これらのうち、シリカやアルミナは粒子の二次凝集を抑制するという観点で頻用される。
【0021】
本実施形態に係る高い光触媒能を示す化合物は、その粒子にPt、Rh、Ru、Nb、Cu、Sn、Ni、Feに代表される金属及び/又は金属の酸化物を添加又は固定化したものや、その粒子が多孔質リン酸カルシウム等で被覆されたもの(例えば、特開平11−267519号公報に記載のもの)であってもよい。
【0022】
本実施形態の光触媒塗膜は、上記式(1)で表される条件を満足するようにルチル型酸化チタンを含む。この光触媒塗膜は、上記式(1a)で表される条件を満足するようにルチル型酸化チタンを含むと好ましく、下記式(1b)で表される条件を満足するようにルチル型酸化チタンを含むとより好ましい。
6/X≦a≦40/X (1b)
ここで、式(1b)におけるX、aはそれぞれ上記式(1)におけるものと同義である。
【0023】
このような条件を満足することにより、本実施形態の光触媒塗膜は、その膜厚に応じて、主に紫外線吸収の観点から適当量のルチル型酸化チタンを含むことができる。つまり、光触媒塗膜の膜厚が厚くなると、そのこと自体で基板に到達する紫外線量を抑制するため、ルチル型酸化チタンの含有量が相対的に少なくてもよい。一方、光触媒塗膜の膜厚が薄くなると紫外線が塗膜を透過しやすくなるところ、ルチル型酸化チタンの含有量が相対的に多くなり紫外線の吸収量が多くなるため、基板に到達する紫外線量を抑制することができる。その結果、本実施形態の光触媒塗膜は、より効率的かつ確実に紫外線を吸収することができる。また、上記条件を満足することにより、本実施形態の光触媒塗膜はルチル型酸化チタンを過剰に含まないため、透明性など塗膜が本来有する性能をも高く維持することができる。
【0024】
また、本実施形態の光触媒塗膜において、ルチル型酸化チタンに対する高い光触媒能を示す化合物の質量比が0.10〜2.0であることが好ましい。当該数値範囲内でルチル型酸化チタンと高い光触媒能を示す化合物とを含むことにより、この光触媒塗膜は、耐候性を保持しつつ光触媒の性能をより効果的に発現させることができる。同様の観点から、その質量比が0.10〜1.3であるとより好ましい。
【0025】
なお、ルチル型酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンとを含む光触媒として、デグッサ社製、商品名「P−25」が市販されている。この光触媒では、ルチル型酸化チタンに対するアナターゼ型酸化チタンの質量比が73.5/26.5(≒2.8)である。しかしながら、当該光触媒は光触媒性能が高いことを特徴としており、本実施形態の光触媒塗膜のように高い耐候性を示すことはできない。また、この光触媒の活性が高い理由は諸説ある上、一般的には、ルチル型酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンとが担持構造をなすことが特徴であると考えられている。このように、デグッサ社製の上記光触媒は本実施形態に係るものとは思想が全く異なるものである(大谷文章著、「光触媒標準研究法」、東京書籍、2005年1月、P373〜374参照)。
【0026】
本実施形態の光触媒塗膜においてルチル型酸化チタン及び高い光触媒能を示す化合物は粒子状で存在するが、両粒子の粒子径は、一次粒子径で共に100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることが更に好ましい。両粒子の粒子径を当該数値範囲内に調整することで、光触媒活性が更に優れると共に、より良好な外観を保持できる。なお、両粒子の一次粒子径は、透過型電子顕微鏡にて観察した粒子100個をランダムに抽出し、その相加平均を算出して得られる値である。
【0027】
また、本実施形態の光触媒塗膜において、ルチル型酸化チタンの一次粒子径に対する高い光触媒能を示す化合物の一次粒子径の比が3/1〜1/5であることが好ましい。これにより、分散均一性と良好な外観が更に保持される。
【0028】
本実施形態の光触媒塗膜において、ルチル型酸化チタン及び高い光触媒能を示す化合物はその一次粒子が均一に分散していてもよくその二次粒子が均一に分散していてもよく、一次粒子及び二次粒子が混在して均一に分散していてもよい。ここで、両者の二次粒子は、ルチル型酸化チタンの一次粒子が凝集した二次粒子、高い光触媒能を示す化合物の一次粒子が凝集した二次粒子、上記両者の一次粒子が混在して凝集した二次粒子からなる群より選ばれる1種以上の二次粒子である。
【0029】
本実施形態の光触媒塗膜は、水系バインダーを含むことが好ましい。ここで、「水系バインダー」とは、実質的に水を分散媒とするバインダー樹脂溶液又はバインダー樹脂の分散体に含まれる固形成分のことをいう。水系バインダーに含まれるバインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールに代表されるポリビニルアルコール誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド類、デンプン及びデンプン誘導体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースに代表されるセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、水性媒体中でのラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などによって得られる従来公知のポリ(メタ)アクリレート系、ポリビニルアセテート系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、シリコーン系、ポリブタジエン系、スチレンブタジエン系、NBR系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、塩化ビニリデン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系、スチレン−無水マレイン酸系等の共重合体、シリコーン変性アクリル系、フッソ−アクリル系、アクリルシリコン、エポキシ−アクリル系等の変性共重合体が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレート及びそれに対応するアクリレートを意味する。
【0030】
光触媒塗膜が水系バインダーを含むことにより、この光触媒塗膜及びこれを形成するために用いられる光触媒組成物は、有機溶剤の揮発による毒性、環境汚染、引火性が改善され、環境負荷が少ないものとなる。また、耐溶剤性の観点から、樹脂からなる基体や有機皮膜が形成された基体の採用が容易になる。
水系バインダーは、光触媒塗膜の全質量に対して、30質量%〜99.9質量%含まれることが好ましく、50質量%〜99質量%含まれることがより好ましい。当該範囲で水系バインダーを含むことで、光触媒塗膜は、成膜性に一層優れると共に、その成膜性と光触媒の活性とを更にバランスよく両立することができる。
【0031】
水系バインダーは、バインダー樹脂が有する官能基と反応する官能基を有する化合物を更に含んでもよい。そのような化合物としては、例えば、(ポリ)イソシアネート化合物、(ポリ)エポキシ化合物、アミノ化合物、(ポリ)カルボキシ化合物、(ポリ)ヒドロキシ化合物、グリコール化合物、シラノール化合物、シリル化合物、アルコキシ化合物、(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0032】
本実施形態の光触媒塗膜は、上述の酸化チタンに加えて、その他の光触媒を含んでもよい。その他の光触媒は、光照射により他の物質の酸化、還元反応を進行させる能力と、正孔と電子とを生成させるのに必要な光のエネルギーとのバランスから、バンドギャップエネルギーが1.2〜5.0eVの半導体化合物が好ましく、1.5〜4.1eVの半導体化合物がより好ましい。
【0033】
本実施形態の光触媒塗膜における水系バインダーは、更に光触媒能を有しない金属酸化物粒子及び/又は重合体エマルジョン粒子を含むことが特に好ましい。さらに、本実施形態の光触媒塗膜は、後述の光触媒組成物に含まれ得るその他の成分のうち、固形成分を含んでもよい。後述の光触媒組成物の説明において、これらの粒子及びその他の成分について詳細に説明する。
【0034】
本実施形態の光触媒塗膜中の各成分の含有割合は、上記式(1)で表される条件を満足し、好ましくはルチル型酸化チタンに対する高い光触媒能を示す化合物の質量比が上記数値範囲内にあり、本発明の目的を達成できる範囲であれば特に限定されない。ただし、重合体エマルジョン粒子100質量部に対し、高い光触媒能を示す化合物の粒子及び光触媒能を有しない金属酸化物粒子が、各々5〜900質量部であると好ましく、0.1〜50質量部であるとより好ましく、10〜800質量部であると更に好ましく、0.5〜30質量部であると特に好ましい。これにより、塗膜の成膜性に優れ、欠陥が少なく透明性が高い膜を更に高いレベルで形成できる。さらには、耐水性と親水性とのバランス、光触媒の光触媒活性の観点からも当該範囲が好ましい。
【0035】
本実施形態の光触媒塗膜の膜厚は特に限定されないが、0.05〜100μmであると好ましく、0.1〜10μmであるとより好ましく、1.0〜2.5μmであると更に好ましい。これにより、本発明による上述の効果を一層有効かつ確実に奏することができる。また、この厚みが100μm以下であることにより、良好な透明性を確保することができ、0.05μm以上であることにより、防汚性、光触媒活性等の機能をより有効に発現することができる。この膜厚は、後述の光触媒組成物に含まれる光触媒の含有割合、水系バインダーに含まれるバインダー樹脂の種類や含有割合、塗布方法などを調整することによって制御される。
【0036】
また、本実施形態の光触媒塗膜は、その透明性を確保する観点から、ヘイズ値が0.0〜2.0であることが好ましく、0.0であることが特に好ましい。このヘイズ値は、膜厚や固形成分の含有割合、特に光触媒能を有しない金属酸化物粒子や重合体エマルジョン粒子の含有割合を調整することで制御される。
【0037】
本実施形態の光触媒塗膜は、基体の表面全体を被覆するように形成されてもよく、光触媒による有機物の分解活性(光触媒活性)及び/又は親水性を高いレベルで保持しつつ、耐久性を十分優れたものとする必要のある基体の表面の一部のみを被覆するように形成されてもよい。
【0038】
以上説明した本実施形態の光触媒塗膜は、上述のような構成を備えることにより、光触媒活性及び/又は親水性に優れると共に、耐候性、耐水性、光学特性に優れるものとなる。基体の劣化や光触媒塗膜の剥離を抑制するためには、光触媒能を有しない金属酸化物粒子などを増やして基体に到達する紫外線を低減することも考えられる。しかしながら、これでは光触媒塗膜の透明性が低下してしまうところ、上記式(1)で表される条件を満足するようにルチル型酸化チタンを含むことで、基体の劣化等を抑制すると共に、十分な透明性も確保できる。また、この光触媒塗膜は、高い光触媒能を示す化合物を含むことにより良好な防汚及び防曇効果を示す。そして、この光触媒塗膜は、基体の表面に直接接触するように形成されても、基体の分解や劣化を十分に抑制することができるため、少ない工程で簡便に形成することが可能となる。さらには、本実施形態の光触媒塗膜は、長期に亘って剥離を抑制でき、一方で、光触媒活性及び親水性が長期に亘って高く維持される。
【0039】
ここで、光触媒活性は、例えば、光触媒塗膜に光照射した際の、その塗膜と接触した材料における色素等の有機物の分解性を測定することにより判定することができる。光触媒活性を有する表面は、優れた汚染有機物質の分解活性や耐汚染性を発現する。ここで、光照射は光触媒のバンドギャップエネルギーよりも高いエネルギーの光の光源を用いて行う。光源としては、太陽光や室内照明灯等の一般住宅環境下で得られる光の他、ブラックライト、キセノンランプ、水銀灯、LED等の光が利用できる。光の照度は、0.001mW/cm以上であることが好ましく、0.01mW/cm以上であるとより好ましく、0.1mW/cm以上であると更に好ましい。
【0040】
また、親水性は、光触媒塗膜表面の光照射時における接触角を測定することで判定される。親水性に優れた表面は低い接触角を示す。防汚性の観点から、光照射時におけるこの接触角は60°以下であることが好ましく、40°以下であることがより好ましい。
【0041】
次に、本実施形態の光触媒組成物について詳細に説明する。本実施形態の光触媒組成物は、上記光触媒塗膜を形成するために用いられる光触媒組成物である。この光触媒組成物を基体又は基体を被覆するコーティングの表面に塗布して乾燥することにより、上記光触媒塗膜が得られる。したがって、本実施形態の光触媒組成物は、ルチル型酸化チタン及び高い光触媒能を示す化合物の両方を含むものである。さらに、この光触媒組成物は水系バインダーを含むことが好ましく、その場合、水系バインダーの溶媒又は分散媒となる水を含む。これらの各成分についての詳細は上述と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0042】
本実施形態の光触媒組成物は、光触媒能を有しない金属酸化物粒子と、水及び第1の乳化剤の存在下で、少なくとも第1の加水分解性ケイ素化合物と第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体とを共重合して得られる重合体エマルジョン粒子とを更に含むとより好ましい。ここで、「光触媒能を有しない」とは、光照射によっても光触媒活性を示さない物質をいう。
【0043】
本実施形態に係る光触媒能を有しない金属酸化物粒子としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)粒子、酸化アルミニウム(アルミナ)粒子、珪酸カルシウム粒子、酸化マグネシウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化ジルコニウム粒子及びそれらの複合酸化物粒子が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。それらの中でも、表面水酸基が多く、金属酸化物粒子の表面積が大きくなり、金属酸化物粒子同士、又は金属酸化物と重合体エマルジョン粒子との結合を強固にするという観点から、二酸化ケイ素粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化アンチモン粒子及びそれらの複合酸化物粒子が好ましく、二酸化ケイ素を基本単位とするシリカの水若しくは水溶性溶媒中の分散体であるコロイダルシリカ粒子がより好ましい。
【0044】
この金属酸化物粒子の数平均粒子径は、1〜400nmであると好ましく、1〜100nmであるとより好ましく、1〜50nmであると更に好ましい。この粒子径が400nm以下であると、金属酸化物粒子の表面積が大きくなり、金属酸化物粒子同士、又は金属酸化物と重合体エマルジョン粒子との結合が強固になるという効果が奏される。ここで、金属酸化物粒子の数平均粒子径は動的光散乱方式の湿式粒子径測定装置によって測定される。この数平均粒子径は、動的光散乱方式の湿式粒子径測定装置によるものとレーザー回折/散乱式の湿式粒子径測定装置によるものとの間で検量線を作成し、レーザー回折/散乱式の測定装置で測定した数平均粒子径を動的光散乱方式の測定装置で測定したものに換算することで決定されてもよい。
【0045】
本実施形態に係る重合体エマルジョン粒子は、水及び第1の乳化剤の存在下で、少なくとも第1の加水分解性ケイ素化合物と第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体とを共重合して得られるものである。第1の加水分解性ケイ素化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物、その縮合生成物、シランカップリング剤を例示することができる。
SiW (2)
ここで、式中、Wは炭素数1〜20のアルコキシ基、水酸基、炭素数1〜20のアセトキシ基、ハロゲン原子、水素原子、炭素数1〜20のオキシム基、フェノキシ基、アミノキシ基、アミド基からなる群より選ばれる基を示す。Rは、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基からなる群より選ばれる炭化水素基を示す。なお、炭素数6〜20のアリール基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。また、xは1〜4の整数であり、yは0〜3の整数であり、x+y=4である。さらに、xが2以上のとき、複数のWは互いに同一でも異なっていてもよく、yが2以上のとき、複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0046】
上記式(2)で表される化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランに代表されるテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランに代表されるトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代表されるジアルコキシシラン類、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシランに代表されるモノアルコキシシラン類が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0047】
シランカップリング剤は、有機物との反応性を有する官能基を分子内に有する加水分解性ケイ素化合物であると好ましい。上記官能基としては、例えば、ビニル重合性基、チオール基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、イソシアネート基が挙げられる。これらの官能基の中では、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体との共重合又は連鎖移動反応による化学結合生成の観点からビニル重合性基が好ましい。ビニル重合性基を有する加水分解性珪素化合物としては、例えば3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテルが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。この場合、上述と同様の観点から、第1の加水分解性ケイ素化合物が、後述の第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体100質量部に対して、ビニル重合性基を有する加水分解性ケイ素化合物の1種以上を0.1〜100質量部含むと好ましい。
【0048】
第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体としては、N−アルキル又はN−アルキレン置換(メタ)アクリルアミドを例示することができる。より具体的には、例えば、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチルメタアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルメタアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタアクリルアミド、N−n−プロピルメタアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N−アクリロイルモルホリン、N−メタクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタアクリルアミドが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、3級アミド基を有するビニル単量体を用いると水素結合性が強まるので好ましい。
【0049】
また、第1の乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸に代表される酸性乳化剤、酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K等)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、脂肪酸石鹸に代表されるアニオン性界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレートに代表される四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型などのカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルに代表されるノニオン型界面活性剤、ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、重合体エマルジョン粒子の水分散安定性及び形成された塗膜の機械強度、耐薬品性、耐水性の観点から、ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤が好ましい。
【0050】
上記ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤としては、例えばスルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体、硫酸エステル基を有するビニル単量体それらビニル単量体のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、ポリオキシエチレンに代表されるノニオン基を有するビニル単量体、4級アンモニウム塩を有するビニル単量体が挙げられる。
【0051】
上記反応性乳化剤のうち、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体の塩としては、例えば、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、炭素数6又は10のアリール基及びコハク酸基からなる群から選ばれる置換基を有する化合物、並びに、スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物が挙げられる。硫酸エステル基を有するビニル単量体としては、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつ硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基及び炭素数6又は10のアリール基からなる群から選ばれる置換基を有する化合物が挙げられる。
【0052】
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換されたコハク酸基を有する化合物の具体例としては、アリルスルホコハク酸塩が挙げられる。市販されているものとしては、例えば、エレミノールJS−2(商品名、三洋化成(株)製)、ラテムルS−120、S−180A又はS−180(商品名、花王(株)製)が挙げられる。
【0053】
また、上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物の市販されているものとしては、例えば、アクアロンHS−10又はKH−1025(商品名、第一工業製薬(株)製)、アデカリアソープSE−1025N又はSR−1025(商品名、旭電化工業(株)製)が挙げられる。
【0054】
その他、スルホネート基により一部が置換されたアリール基を有する化合物の具体例として、p−スチレンスルホン酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
【0055】
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物としては、例えば、2−スルホエチルアクリレートに代表されるアルキルスルホン酸(メタ)アクリレート、メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、アリルスルホン酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
【0056】
上記の硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩により一部が置換された炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキエーテル基を有する化合物としては、例えばスルホネート基により一部が置換されたアルキルエーテル基を有する化合物が挙げられる。
【0057】
また、ノニオン基を有するビニル単量体の具体例としては、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(商品名:アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40等、旭電化工業(株)製)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(商品名:アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50等、第一製薬工業(株)製)が挙げられる。
【0058】
本実施形態に係る重合体エマルジョン粒子は、上記第1の加水分解性ケイ素化合物及び第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体と共に、それ以外の単量体を共重合して得られるものでもよく、例えば、2級及び3級アミドを有しないビニル単量体を重合して得られるものであってもよい。2級及び3級アミドを有しないビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル類の他、カルボキシル基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル系単量体、エポキシ基含有ビニル単量体、カルボニル基含有ビニル単量体、アニオン型ビニル単量体のような官能基を含有する単量体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0059】
上記(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アルキル部の炭素数が1〜50の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシルが挙げられる。(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコールが挙げられる。
【0060】
なお、本明細書中で、「(メタ)アクリル」とは「メタクリル」及びそれに対応する「アクリル」を意味する。
【0061】
2級及び3級アミドを有しないビニル単量体が(メタ)アクリル酸エステルを含む場合、その含有量は、1種又は2種以上の混合物として、全2級及び3級アミドを有しないビニル単量体量を基準として、好ましくは0質量%超99.9質量%、より好ましくは5〜80質量%である。
【0062】
上記カルボキシル基含有ビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、無水マレイン酸、又はイタコン酸、マレイン酸、フマール酸に代表される2塩基酸のハーフエステルが挙げられる。カルボン酸基含有ビニル単量体を用いることによって、重合体エマルジョン粒子にカルボキシル基を導入することができ、エマルジョンとしての安定性を向上させ、外部からの分散破壊作用に対する抵抗力を持たせることが可能となる。この際、重合体エマルジョン粒子に導入したカルボキシル基は、一部又は全部を、アンモニアやトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン類やNaOH、KOH等の塩基で中和することもできる。
【0063】
2級及び3級アミドを有しないビニル単量体がカルボキシル基含有ビニル単量体を含む場合、その含有量は、1種又は2種以上の混合物として、全2級及び3級アミドを有しないビニル単量体量を基準として、0質量%超50質量%であることが耐水性の観点から好ましい。この含有量は、より好ましくは0.1〜10質量%、更に好ましくは0.1〜5質量%である。
【0064】
また、上記水酸基含有ビニル単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに代表される(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、モノ−2−ヒドロキシエチルモノブチルフマレート、アリルアルコール、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。さらには、「プラクセルFM、FAモノマー」(商品名、ダイセル化学(株)製、カプロラクトン付加モノマー)、その他のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類が挙げられる。上記(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコールが挙げられる。また、(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコールが挙げられる。水酸基含有ビニル単量体を用いることによって、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体との重合生成物の水素結合力を制御することが可能になると共に、重合体エマルジョン粒子の水分散安定性を向上させることができる。
【0065】
2級及び3級アミドを有しないビニル単量体が水酸基含有ビニル単量体を含む場合、その含有量は、1種又は2種以上の混合物として、全2級及び3級アミドを有しないビニル単量体量を基準として、0質量%超80質量%であることが好ましく、0.1〜50質量%であるとより好ましく、0.1〜10質量%であると更に好ましい。
【0066】
上記グリシジル基含有ビニル単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、アリルジメチルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0067】
グリシジル基含有ビニル単量体やカルボニル基含有ビニル単量体を使用すると、重合体エマルジョン粒子が良好な反応性を有するようになる。その結果、ヒドラジン誘導体やカルボン酸誘導体、イソシアネート誘導体等と架橋させて、耐溶剤性等に優れた光触媒組成物の形成が可能となる。2級及び3級アミドを有しないビニル単量体がグリシジル基含有ビニル単量体及び/又はカルボニル基含有ビニル単量体を含む場合、それらの含有量は、1種又は2種以上の混合物として、全2級及び3級アミドを有しないビニル単量体量を基準として、0質量%超50質量%であることが好ましい。
【0068】
また、上記以外のビニル単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリルアミド、エチレン、プロピレン、イソブチレンに代表されるオレフィン類、ブタジエンに代表されるジエン類、塩化ビニル、塩化ビニリデンフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンに代表されるハロオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニルに代表されるカルボン酸ビニルエステル類、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニルに代表されるカルボン酸イソプロペニルエステル類、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルに代表されるビニルエーテル類、スチレン、ビニルトルエンに代表される芳香族ビニル化合物、酢酸アリル、安息香酸アリルに代表されるアリルエステル類、アリルエチルエーテル、アリルフェニルエーテルに代表されるアリルエーテル類、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6,−ペンタメチルピペリジン、パーフルオロメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピロメチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリルが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0069】
本実施形態に係る重合体エマルジョン粒子は、上述のものを用いる他は公知の乳化重合により調製され、その際、過硫酸アンモニウム等の重合開始剤やドデシルベンゼンスルホン酸等の界面活性剤など公知のものが用いられてもよい。このとき、重合体エマルジョン粒子に対する第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体の質量比が0.1〜0.5であると好ましく0.1〜0.3であるとより好ましい。該質量比をこの範囲内にすることで、水素結合性と配合安定性のバランスを良好なものにすることができる。
【0070】
上述の金属酸化物粒子に対する第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体の質量比は、0.1〜1.0であると好ましく、0.1〜0.7であるとより好ましい。水素結合性と配合安定性のバランスを良好なものとする観点から、該質量比をこの範囲内にすることが好ましい。
【0071】
本実施形態に係る重合体エマルジョン粒子は、コア部とそのコア部を被覆する1層又は2層以上のシェル部とを含むコア/シェル構造を有していてもよい。例えば、重合体エマルジョン粒子がコア部と1層のシェル部とを含む場合、水、第1の乳化剤及びシード粒子の存在下で、少なくとも第1の加水分解性ケイ素化合物と第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体とを共重合して得られるものであって、シード粒子は、水及び第2の乳化剤の存在下で、少なくとも、第2の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体と、そのビニル単量体と共重合可能であり2級及び3級アミド基を有しないビニル単量体と、第2の加水分解性ケイ素化合物とからなる群より選ばれる1種以上の化合物を重合して得られるものであってもよい。
【0072】
シード粒子を得るための第2の加水分解性ケイ素化合物は、第1の加水分解性ケイ素化合物と同様のものが用いられる。ただし、同じ重合体エマルジョン粒子を得るために用いられる第1及び第2の加水分解性ケイ素化合物は、互いに同一でも異なっていてもよい。また、シード粒子を得るための第2の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル重合体は、第1の2級及び/又は3級アミド基と同様のものが用いられる。ただし、同じ重合体エマルジョン粒子を得るために用いられる第1及び第2の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル重合体は、互いに同一でも異なっていてもよい。さらに、シード粒子を得るための第2の乳化剤は、第1の乳化剤と同様のものが用いられる。ただし、同じ重合体エマルジョン粒子を得るために用いられる第1及び第2の乳化剤は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0073】
第2のビニル単量体と共重合可能であり2級及び3級アミド基を有しないビニル単量体としては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル類の他、カルボキシル基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル系単量体、エポキシ基含有ビニル単量体、カルボニル基含有ビニル単量体、アニオン型ビニル単量体のような官能基を含有する単量体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの化合物は上述のものが例示でき、水分散性や水素結合力の制御、耐水性や耐薬品性などの求める性能に応じて選択することができる。
【0074】
上記シード粒子は、第2の加水分解性ケイ素化合物を重合して得られるものであると好ましい。これにより、塗膜に高い柔軟性を付与することができる上、更に高い耐候性が認められる。
【0075】
本実施形態に係る重合体エマルジョン粒子が、コア部とそのコア部を被覆する1層又は2層以上のシェル部とを含むコア/シェル構造を有する場合、シェル部のうち最外のシェル部及びコア部は、少なくとも第1の加水分解性ケイ素化合物と第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体とを共重合して得られるものであり、コア部における第1の加水分解性ケイ素化合物に対する第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体の質量比が1.0以下であり、かつ最外のシェル部における第1の加水分解性ケイ素化合物に対する第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体の質量比が0.1〜5.0であってもよい。コア部における第1の加水分解性ケイ素化合物に対する第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体の質量比を1.0以下にすること、最外のシェル部における第1の加水分解性ケイ素化合物に対する第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体の質量比を0.1以上にすることにより、さらには、最外のシェル部における第1の加水分解性ケイ素化合物に対する第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体の質量比を5.0以下とすることにより、更に高い耐水性及び耐候性が認められる。
【0076】
本実施形態に係るコア/シェル構造を有する重合体エマルジョン粒子は、上述の材料を用いる他は、公知の2段階以上の乳化重合により調製される。得られた重合体エマルジョン粒子において、上記シード粒子がコア部となる。
【0077】
本実施形態に係るコア/シェル構造を有する又は有しない重合体エマルジョン粒子は、その数平均粒子径が1〜400nmであると好ましく、1〜200nmであるとより好ましい。この数平均粒子径が400nm以下であると、金属酸化物粒子との水素結合力が高まり、強度や硬度、耐久性に一層優れる塗膜が形成できる。ここで、重合体エマルジョン粒子の数平均粒子径は、動的光散乱方式の湿式粒子径測定装置によって測定される。この数平均粒子径は、動的光散乱方式の湿式粒子径測定装置によるものとレーザー回折/散乱式の湿式粒子径測定装置によるものとの間で検量線を作成し、レーザー回折/散乱式の測定装置で測定した数平均粒子径を動的光散乱方式の測定装置で測定したものに換算することで決定されてもよい。
【0078】
本実施形態の光触媒組成物中の各成分の含有割合は、これを用いて得られる光触媒塗膜が上記式(1)で表される条件を満足し、好ましくはルチル型酸化チタンに対する高い光触媒能を示す化合物の質量比が上記数値範囲内にあり、本発明の目的を達成できる範囲であれば特に限定されない。ただし、重合体エマルジョン粒子100質量部に対し、ルチル型酸化チタンを含む光触媒の粒子及び光触媒能を有しない金属酸化物粒子が、各々5〜900質量部であると好ましく、0.1〜50質量部であるとより好ましく、10〜800質量部であると更に好ましく、0.5〜30質量部であると特に好ましい。これにより、塗膜の成膜性に優れ、欠陥が少なく透明性が高い膜を更に高いレベルで形成できる。さらには、耐水性と親水性とのバランス、酸化チタンを始めとする光触媒の光触媒活性の観点からも当該範囲が好ましい。
【0079】
また、本実施形態の光触媒組成物は、特にルチル型酸化チタン及び高い光触媒能を示す化合物の分散安定性の観点から、上記第1、第2の乳化剤とは別に、更に乳化剤を含んでもよい。この乳化剤としては、第1、第2の乳化剤と同様のものが例示される。この乳化剤は、第1、第2の乳化剤と互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0080】
更に本実施形態の光触媒組成物は、各粒子の分散安定性の観点から、分散安定剤を含んでもよい。分散安定剤としては、例えば、ポリカルボン酸及びスルホン酸塩からなる群より選ばれる各種の水溶性オリゴマー類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性若しくは水分散性アクリル樹脂に代表される合成若しくは天然の水溶性又は水分散性の各種の水溶性高分子物質が挙げられる。これらの乳化剤や分散安定剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0081】
また、本実施形態の光触媒組成物は、本発明の目的の達成を阻害しない範囲において、その他の成分を含んでもよい。例えば、光触媒と水系バインダーとの相互作用を制御する目的で、アルコール類などの有機溶剤を少量含んでもよい。また、本実施形態の光触媒組成物は、その用途及び使用方法などに応じて、通常の塗料や成型用樹脂に添加配合される成分、例えば、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、顔料、硬化触媒、架橋剤、充填剤、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、成膜助剤、防錆剤、染料、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は帯電調製剤等をそれぞれの目的に応じて選択、組み合わせて配合してもよい。
【0082】
本実施形態の光触媒組成物は、上記各成分を常法により添加、混合することにより得られる。よって、ルチル型酸化チタン及び高い光触媒能を示す化合物を混合する方法も特に限定されない。ただし、予めルチル型酸化チタン及び高い光触媒能を示す化合物を別個に合成した後、それらを混合することが最も簡便である。この混合は、合成により得られるルチル型酸化チタンや高い光触媒能を示す化合物のゾル同士を混合してもよく、ゾルを乾燥して得られたそれらの粒子同士を混合してもよい。これらのうち、より均一に分散させるためには、ゾル同士を混合することが好ましい。ゾルはオルガノゾル、ヒドロゾルのどちらであってもよいが、環境負荷を低減する観点から、ヒドロゾルが好ましい。
【0083】
ルチル型酸化チタン及び高い光触媒能を示す化合物の混合時には、撹拌装置を用いるとより均一に混合することができる。混合装置は公知のものであってもよく、例えば、マグネチックスターラー、ボールミル、サンドグライダー、高速強せん断分散機、コロイドミル、超音波分散機、ホモジナイザー等を用いればよい。また、予め高い光触媒能を示す化合物又はルチル型酸化チタンを合成しておき、その粒子表面にルチル型酸化チタン又は高い光触媒能を示す化合物を被着させる方法も有効である。あるいは、高い光触媒能を示す化合物としてアナターゼ型酸化チタンを用いる場合、ルチル−アナターゼ混晶型の酸化チタンを常法により合成してもよい。
【0084】
本実施形態の光触媒組成物を基体又は基体を被覆するコーティングの表面に塗布して乾燥することにより、基体上に形成された上記光触媒塗膜が得られる。光触媒組成物を塗布する基体材料としては、例えば合成樹脂、天然樹脂、繊維に代表される有機基材、金属、セラミックス、ガラス、石、セメント、コンクリートに代表される無機基材や、それらの組み合わせが挙げられる。
【0085】
上記合成樹脂としては、熱可塑性樹脂及び硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂等)が挙げられる。その具体例としては、例えばシリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂ポリエーテル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン−アクリル樹脂が挙げられる。また、上記天然樹脂としては、例えば、セルロース系樹脂、天然ゴムに代表されるイソプレン系樹脂、カゼインに代表されるタンパク質系樹脂が挙げられる。
【0086】
基体が樹脂板や繊維である場合、その表面は、コロナ放電処理やフレーム処理、プラズマ処理等の表面処理がされていてもよいが、これらの表面処理は必須ではない。
上記基体材料の種類や膜厚は用途に応じて使い分けることができる。
【0087】
本実施形態の光触媒組成物は、その用途等に応じて、任意の方法で塗布され得る。塗布方法としては、例えばスプレー吹き付け法、フローコーティング法、ロールコート法、刷毛塗り法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法が挙げられる。
【0088】
本実施形態の光触媒組成物を塗布した後、乾燥して揮発分を除去することにより光触媒塗膜が得られる。この際、例えば、20℃〜80℃の低温で乾燥した後、所望により好ましくは20℃〜500℃、より好ましくは40℃〜250℃の熱処理を行ってもよく、紫外線照射等を行ってもよい。
【0089】
本実施形態において、光触媒塗装製品は、基体と、その基体上に形成された上記光触媒塗膜とを備えるものである。この光触媒塗装製品は、本実施形態の光触媒塗膜を備える他は公知の態様と同様であればよい。本実施形態の光触媒塗装製品の具体例としては、例えば、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、住宅等建築設備、車両用照明灯のカバー、窓ガラス、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、表示機器、そのカバー、交通標識、各種表示装置、広告塔等の表示物、道路用、鉄道用等の遮音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー等外部で用いられる電子、電気機器の外装部、特に透明部材、ビニールハウス、温室等の外装が挙げられる。この光触媒塗装製品は、基体の表面に本実施形態の光触媒組成物を塗布し乾燥し、基体上に光触媒塗膜を形成することによって得られてもよいが、その製造方法はこれに限定されない。例えば、基体と光触媒塗膜とを同時に成形してもよく、より具体的には一体成形してもよい。また、本実施形態の光触媒塗膜をある基体上に成形した後、その光触媒塗膜をその基体から剥離させた又はその基体と密着させた状態で、別の基体に接着、融着等により密着させてもよい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例において、各種物性を下記の方法で測定した。
【0091】
1.塗膜表面に対する水の接触角
接触角は、光触媒塗膜の表面に脱イオン水の滴を載せ、23℃で1分間放置した後、協和界面科学社製、CA−X150型接触角計を用いて測定した。塗膜に対する水の接触角が小さいほど、塗膜表面は親水性が高い。
2.透明性
光触媒塗膜の透明性は、後述のようにしてPETフィルム上に光触媒塗膜を形成し、その状態で日本電色工業社製濁度計(商品名「NDH2000」)を用いて、JIS−K7105に準じてヘイズ値を測定して評価した。
【0092】
3.耐光性
オーク製作所製の紫外線照射装置(商品名「HandyUV300」)を用いて高圧水銀灯の光を光触媒塗膜に照射した。照射を開始してから15時間経過後の塗膜及びPETフィルムの積層体のヘイズ値を上記2と同様に測定して、PETフィルム及び光触媒塗膜の耐久性を評価した。耐久性に劣るとヘイズ値が上昇し、さらに劣化が進行することによって、光触媒塗膜が剥離する。
4.光触媒活性(分解指数)
JIS R 1703−2に準拠して光触媒塗膜の湿式分解性能試験を実施し、波長664nmの吸光度から分解指数を求めた。このとき、メチレンブルーとして、和光純薬工業社製のメチレンブルー三水和物を用いた。吸光度の測定には、日本分光社製紫外・可視分光光度計(商品名「V−550」)を用いた。
【0093】
[製造例1]
(水系バインダーの作成)
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水400g、10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液2.57gを投入した後、撹拌下で温度を80℃に加温した。この反応器中に、ジメチルジメトキシシラン54.5g、フェニルトリメトキシシラン34.4g及びメチルトリメトキシシラン1.0gの混合液と、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15.0gとを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。その後、反応器中の温度を80℃に維持した状態で約1時間撹拌を続行した。次に、アクリル酸ブチル12.3g、フェニルトリメトキシシラン13。5g、テトラエトキシシラン31.4g及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.2gの混合液と、ジエチルアクリルアミド24.6g、アクリル酸1g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25%水溶液)1.2g、反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH−1025」、第一工業製薬(株)製、固形分25%水溶液)0.7g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液8.5g及びイオン交換水255gの混合液とを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。さらに、反応器中の温度を80℃に維持した状態で約2時間撹拌を続行した。その後、反応器中の液を室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過して、固形分12.8質量%の重合体エマルジョン水分散体を得た。そして、イオン交換水で固形分が10.0質量%となるように調整して重合体エマルジョン水分散体(a)を得た。重合体エマルジョン粒子の数平均粒子径は183nmであった。
【0094】
得られた重合体エマルジョン分散体(a)100gと水分散コロイダルシリカ(日産化学工業社製、商品名「スノーテックスO」、固形分20質量%)50gとを混合し、水系バインダー水分散体(A)を調製した。
【0095】
[実施例1]
水系バインダー水分散体(A)に対して、ルチル型酸化チタン(石原産業社製、商品名「TTO−W−05」、固形分30質量%)1.67gとアナターゼ型酸化チタン(石原産業社製、商品名「MPT−422」、固形分20質量%)2.5gとを混合し、光触媒組成物を調製した。この光触媒組成物を20cm四方のPETフィルム(膜厚:90μm)の表面にバーコート法により塗布し、70℃で10分間乾燥して、膜厚2.1μmの光触媒塗膜を得た。各種評価結果を表1に示す。なお、表1中、「ルチル型酸化チタン量(%)」は、光触媒塗膜の総量に対するルチル型酸化チタンの含有割合(単位:質量%)を示し、「アナターゼ型酸化チタン量(%)」は、光触媒塗膜の総量に対するアナターゼ型酸化チタンの含有割合(単位:質量%)を示す。また、「透明性」、「耐光性試験後の透明性」はいずれもヘイズ値を示す。
【0096】
[実施例2〜6、比較例1〜5]
光触媒塗膜の総量に対するルチル型酸化チタン及びアナターゼ型酸化チタンの含有割合を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、光触媒塗膜を得た。各種評価結果を表1に示す。なお、表1中「−」は、光触媒塗膜中にルチル型酸化チタン及び/又はアナターゼ型酸化チタンを含まないことを意味する。また、「剥離」は光触媒塗膜がPETフィルムから剥離したことを示す。
【0097】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0098】
本実施形態の光触媒塗膜は、光触媒活性と基体等の耐久性とを両立する光触媒塗膜であって、少ない環境負荷で硬化可能であるため、建築外装、外装表示用途、自動車、ディスプレイ、レンズ等に塗布して用いるのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルチル型酸化チタン及び高い光触媒能を示す化合物を含む光触媒塗膜であって、前記ルチル型酸化チタンの含有割合が下記式(1)で表される条件を満足する、光触媒塗膜。
4/X≦a≦100/X (1)
(式中、Xは前記光触媒塗膜の膜厚(単位:μm)を示し、aは前記ルチル型酸化チタンの前記光触媒塗膜の総量に対する含有割合(単位:質量%)を示す。)
【請求項2】
前記ルチル型酸化チタンの含有割合が下記式(1a)で表される条件を満足する、請求項1記載の光触媒塗膜。
4/X≦a≦60/X (1a)
(式中、Xは前記光触媒塗膜の膜厚(単位:μm)を示し、aは前記ルチル型酸化チタンの前記光触媒塗膜の総量に対する含有割合(単位:質量%)を示す。)
【請求項3】
前記ルチル型酸化チタンに対する前記高い光触媒能を示す化合物の質量比が0.10〜2.0である、請求項1又は2に記載の光触媒塗膜。
【請求項4】
前記ルチル型酸化チタン及び前記高い光触媒能を示す化合物の粒子径が、一次粒子径で共に100nm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光触媒塗膜。
【請求項5】
前記高い光触媒能を示す化合物がアナターゼ型酸化チタンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光触媒塗膜。
【請求項6】
水系バインダーを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光触媒塗膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の光触媒塗膜を形成するために用いられる光触媒組成物。

【公開番号】特開2009−221362(P2009−221362A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67792(P2008−67792)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】