説明

光触媒性無機系建築材料

【課題】全体がまんべんなく着色されているため装飾性に富み、また、空気中の汚染物質の吸着性能と分解性能を兼ね備えた光触媒性無機系建築材料を低コストで提供すること。
【解決手段】本発明の光触媒性無機系建築材は、多孔質体からなる無機系建築材料基材中に光触媒性能を有する粉末状の無機顔料を分散してなるものであり、空気中の汚染物質について、基材による吸着性能と、光触媒性能を兼ね備えた無機系建築材料となるほか、この粉末状の無機顔料を無機系建築材料基材の表面ないし内部に均一に分散させることができるため、基材が均一に着色されることとなり、全体が均一に着色された無機系建築材料を低コストで得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機系建築材料基材中に光触媒性能を有する無機顔料を均一に分散する光触媒性無機系建築材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築構造物における高気密化が進み、シックハウス症候群の原因とされるアセトアルデヒドやホルムアルデヒド等の揮発性有機物質、異臭の強いアンモニア等が発生するという社会的問題が発生している。従って、細菌やウィルスなども含む空気中の汚染物質の吸着が必要とされてきており、建築構造物を構成する建築材料としても、これらの物質の吸着性能を備えたものが求められている。
ここで、空気中の汚染物質を吸着する方法としては、一般に、吸着剤の使用がある。吸着剤としては細かい孔を多数有する多孔質体が用いられている。この多孔質体としては、例えば、アパタイト、ゼオライト、活性炭、シリカゲル、珪藻土、無水シリカ、ケイ酸カルシウム等が知られている。
【0003】
このうち、例えば、多孔質体であるケイ酸カルシウムは不燃材料として知られ、また、軽量で熱的にも安定な物質であることから、種々の形状の成形体に成形され、吸着性能を備えた建築材料や保温材料として広く使用されている。一般に、このケイ酸カルシウムの合成は、常温養生や蒸気養生でも可能であるが、水熱条件下で行うことが、強度面や寸法の安定性に有利である。また、ケイ酸質原料と石灰質原料を反応させ、ケイ酸カルシウムを結晶化させるにも、同様に水熱反応が必要とされる。また、ケイ酸カルシウムを硬化させる方法としては、炭酸ガスと反応させ硬化させる炭酸化反応が知られており、この炭酸化反応は、排熱等の二酸化炭素(CO)ガスを固定化できることから二酸化炭素(CO)排出による温暖化抑制ともなる。
【0004】
一方、近年話題となっている光触媒は、紫外線や可視光線によって励起され、接触する有機物質を分解する性能を有しているため、前記した社会的問題の解決手段として光触媒の適用は有効であり、光触媒の技術開発が盛んに行われている。また、多孔質体を基材とした建築材料に対して光触媒を適用すれば、吸着性能と分解性能を併せ持った建築材料となるため好都合である。
ここで、光触媒は光が照射される部分にのみ触媒性能が発揮されることから、多孔質体に光触媒を適用するに際しては、多孔質体の表面部のみに光触媒を存在させればよく、光が届かない内部にまで配合する必要がない。そのため、基材の表面質体と光触媒とを配合した皮膜が基材の表面に形成されている建材や(例えば、特許文献1)、また、表層部を光触媒含有層としたコンクリート構造体が広く提供されている(例えば、特許文献2)。
一方、装飾として塗料で着色した基材に光触媒層を形成する場合にあっては、塗料に有機物が配合されることから、塗料からなる塗料層に直接光触媒を接触させてしまうと塗料層が破壊されてしまうという問題があった。そのため、塗料層の上に無機材からなる層の形成を行なった後光触媒層を形成するような構成を採用していた(例えば、特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開平7−113272号公報
【特許文献2】特開2001−317199号公報
【特許文献3】特開平11−319709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示されるように、基材の表面層のみに光触媒からなる層を形成した場合にあっては、表面が磨耗により光触媒が脱落したり、基材を加工した場合にあっては光触媒が存在しない部分が現れてしまうといった問題が発生していた。また、特許文献3に開示されるように、塗料層の上に無機層の形成を行なった後、光触媒層を形成するような構成を採用する場合にあっては、前記したような問題に加えて、複層構造形成のため製造工程が複雑となるほか、表面に塗料層を形成することにより、基材がもつ吸着性能、調湿性能が発揮されなくなるという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、前記の事情に鑑みてなされたものであり、着色されているため装飾性に富み、また、空気中の汚染物質の吸着性能と分解性能を兼ね備えた光触媒性無機系建築材料を低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達するために、本発明の光触媒性無機系建築材料は、多孔質体からなる無機系建築材料基材中に光触媒性能を有する粉末状の無機顔料を分散してなることを特徴とする。
【0009】
本発明の光触媒性無機系建築材料は、多孔質体からなる無機系建築材料基材中に、光触媒性能を有する無機顔料を分散してなるので、通常の建築材料の機械的特性を維持しつつ、空気中の汚染物質(例えば、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等の揮発性有機物質、アンモニア、細菌やウィルス等)について、基材による吸着性能と、光触媒による分解性能(以下、「光触媒性能」と呼ぶこともある)を兼ね備えた無機系建築材料(光触媒性無機系建築顔料)となる。
また、無機顔料が粉末状であるため、当該無機顔料を無機系建築材料基材の表面ないし内部に均一に分散させることができることで基材が均一に着色されることとなり、塗料層の上に無機材からなる無機層の形成を行なった後、光触媒層を形成する構成を採用する必要もなく、全体が均一に着色された無機系建築材料を低コストで得ることができる。
更には、基材中に対して光触媒性能を有する無機顔料が分散されている構成を採用することにより、表面が磨耗により光触媒が脱落したり、基材を加工した場合にも光触媒が存在しない部分が現れてしまうといった問題もなく、全ての面から光触媒性能を効率よく発現させることができる。
【0010】
なお、このような光触媒性能を有する無機顔料としては、例えば、酸化鉄、酸化スズ、酸化タングステン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
また、多孔質体からなる無機系建築材料基材としては、例えば、セメント、ケイ酸質材、石灰質材、スラグ(溶滓)及び石膏から選ばれる1または2以上の材料を主原料とし、必要により繊維補強材を混合して硬化させた材料(例えば、窯業系材料等)が挙げられる。
【0011】
本発明の光触媒性無機系建築材料は、前記無機顔料の含有量が無機系建築材料全体に対して0.1〜10.0質量%であることが好ましい。
この本発明によれば、無機系建築材料基材中に分散される粉末状の無機顔料の含有量が無機系建築材料全体に対して0.1〜10.0質量%であるため、光触媒性能が効率よく発現されるとともに、コスト面も良好となる。
【0012】
本発明の光触媒性無機系建築材料は、前記無機顔料が粉末状であり、当該無機顔料の平均粒径が0.1〜10.0μmであることが好ましい。
この本発明によれば、無機系建築材料基材中に分散される無機顔料の平均粒径が0.1〜10.0μmであるため、無機顔料を無機系建築材料基材中により均一に分散させることができ、その結果、着色が基材全体に施されるとともに、光触媒性無機系建築材料の光触媒性能が効率よく確実に発揮されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の光触媒性無機系建築材料は、多孔質体からなる無機系建築材料基材中に光触媒性能を有する無機顔料を分散してなるものであるが、かかる光触媒性能を有する無機顔料としては、例えば、酸化鉄(Fe:赤色顔料)、酸化スズ(SnO:白色顔料)、酸化タングステン(WO:黄色顔料)、酸化ジルコニウム(ZrO:白色顔料)等が挙げられる。これらの無機顔料は、一般に市販されているので、容易に入手することが可能である。これらの無機顔料は、一種を単独で使用してもよく、また、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、これらの無機顔料の色調についてはあくまでも例示であり、これらの無機顔料であれば、色調が多少異なっても、同じものとして取り扱うものとする。
【0014】
これらの光触媒性を有する無機顔料の形態は、粉末状として用いられる。本発明におい
ては、このような無機顔料を粉末状で用いることにより、無機系建築材料の表面ないし内
部に均一に分散させることができ、光触媒性能を効率よく発揮することができる。
なお、ここでいう「粉末状」とは、一般的な粉末形状のほか、粒子形状も含むものであ
る。
【0015】
光触媒性能を有する粉末状の無機顔料の平均粒径は、0.1〜10.0μmとすることが好ましく、0.15〜1.0μmの範囲内とすることが特に好ましい。無機顔料の平均粒径が0.1〜10.0μmの範囲内にあることにより、無機系建築材料基材中における無機顔料の分散がより均一に行なわれ、また、比表面積も適度となるため、光触媒性無機系建築材料の光触媒性能が確実に発揮されることになる。また、着色も基材全体に施されることになり、装飾性も良好となる。
これに対して、無機顔料の平均粒径が0.1μmより小さいと、取り扱いが困難となり、一方、平均粒径が10.0μmを超えると、基材中における分散性が悪くなり、着色状態が偏るほか、光触媒性能に悪影響を与える場合がある。
【0016】
本発明の光触媒性無機系建築材料における光触媒性能を有する無機顔料の含有量は、光触媒性無機系建築材料全体に対して0.1〜10.0質量%とすることが好ましく、0.5〜5.0質量%とすることが特に好ましい。無機顔料の含有量が0.1質量%より少ない場合には、光触媒性能が発現されない場合があるほか、基材への着色効果も現れない場合がある。一方、含有量が10.0質量%より大きい場合には、光触媒性能や着色効果は発現されるものの、元来、無機顔料が高価であるため本発明の光触媒性無機系建築材料が高価となるため、コスト面で好ましくない。
【0017】
本発明の光触媒性無機系建築材料は、かかる無機顔料を、多孔質体からなる無機系建築材料基材に分散させることによりなるものであるが、本発明に適用される無機系建築材料基材としては、例えば、窯業系材料が挙げられる。かかる窯業系材料は、一般に、腐食や虫害を抑制することができ耐久性に優れていることから、建築内装材、天井材、間仕切壁、建築外装材等として広く用いられているものである。
【0018】
窯業系材料は、一般には、セメント、ケイ酸質材、石灰質材、スラグ(溶滓)及び石膏から選ばれる1または2以上の材料を主原料とし、必要により繊維補強材を混合して強化し、所定の形状に成形された後、水熱養生、蒸気養生、常温常圧養生等の養生工程を経て
多孔質体として得られるものである。かかる窯業系材料の特徴は、多孔質であり比重が軽い割には優れた強度を発現することができ、また、加工性、運搬性にも優れる材料である。
【0019】
ケイ酸質材とは、例えば、ケイ酸(SiO)を含有する原料をいい、例えば、ケイ石、ケイ砂、ケイ藻土、白土、パーライト等の鉱物微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム等のダストを使用することができる。
また、石灰質材としては、例えば、生石灰、消石灰、生石灰を水または温水で消化した消石灰乳、炭酸カルシウム等を使用することができる。
【0020】
繊維補強材としては、有機系および無機系の繊維補強材を使用することができる。有機系繊維補強材としては、セルロース繊維(針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等のクラフトパルプも含む)、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維等を採用することができる。無機系繊維補強材としては、ガラス繊維、ステンレス繊維等を採用することができる。
【0021】
本発明の光触媒性無機系建築材料を製造する方法の一例を説明する。
例えば、ケイ酸カルシウムを基材とする場合は、まず、所定の無機顔料を、無機系建築材料基材となるセメント、ケイ酸質材、石灰質材、繊維補強材等の混合体に添加して、無機顔料と無機系建築材料基材との混合材料を得る。この混合材料に対して水を加えて、ゲル状の流動性を帯びた混練物を調製する。
【0022】
次に、この混練物を所定の成形方法により成形体とする。成形方法としては、例えば、押出成形、脱水プレス成形等が挙げられる。
ここで、押出成形を用いる場合には、混練物中の各原料の比重差による不均一である影響を受けることが少なく、無機顔料も容易に均一混合した状態で成形することができる。また、成形体の形状としても、平板はもとより、回り縁、見切り縁、窓枠等の各種建築部材に適用することができ、意匠性に富む所定の形状の建築部材の成形が可能である。
【0023】
脱水プレス成形の場合、ゲル状の混練物では各原料の比重差が小さいので、押出成形と同様に、均一に各原料が混合されて成形を行うことができる。また、この脱水プレス成形にあっては、プレス面に絵柄を施すことにより、表面に絵柄面を備えた、装飾性に更に富んだ建築材料を得ることができる。
【0024】
また、前記したゲル状の混練物に対して更に水を加えてスラリーとして、抄造成形により成形体としてもよい。
ここで、抄造成形等を行う場合は、その成形時において、凝集剤を添加して行うことが好ましい。本発明で使用される光触媒性能を有する無機顔料は濾水と一緒に濾過されて、成形体に全量が残らないという問題があるが、成形時に凝集剤を添加して凝集作用を起こさせることにより、基材に対する無機顔料の均一分散を行うことができるほか、抄造成形における無機顔料の流出を防止することができ、成形性の向上を図ることができるので好ましい。
【0025】
凝集剤としては、ポリアクリルアミド系のカチオン高分子凝集剤等の高分子凝集剤を使用することが好ましく、また、必要に応じて硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等の無機系凝集剤を併用してもよい。
凝集剤の添加量は、無機系建築材料基材の固形分100重量部に対して、固形分0.1〜5重量部とすることが好ましく、0.5〜3重量部とすることが特に好ましい。凝集剤の添加量が0.1〜5重量部の範囲内であれば凝集が好適に行われる一方、凝集剤の添加量が固形分0.1重量部より少ないと凝集がうまく行われない場合があり、また、5重量部を超えると必要以上の凝集が起こってしまう場合があるほか、コスト高にもつながるため好ましくない。
【0026】
このようにして得られた成形体は、養生により硬化させる。養生方法としては、例えば、水熱養生、蒸気養生、常温常圧養生等の手段が挙げられる。この養生を行うことにより、水の存在下で、セメントの水和反応、ケイ酸質材と石灰質材との結合反応が進み、成形体が硬化され、強度、寸法安定性に優れる多孔質体からなる成形体となる。
また、合成されるケイ酸カルシウムは空隙の大きいことから、吸着性、調湿性、軽量、断熱性を発現することができるため、吸着性能をより向上させる場合でも、吸着剤の多量配合を必要としないという点においても好ましい。
なお、養生方法は、エネルギーコストや装置設備の維持等のコストの観点から、成形体の使用される環境に合わせて適宜選択すればよい。
【0027】
また、多孔質体からなる無機系建築材料基材として、例えば特開平9−183617号公報等に開示されるような炭酸カルシウムを基材とする場合は、炭酸カルシウム粉末、繊維補強材、光触媒性能を有する無機顔料、助剤としてバインダーを混合して混合材料とした後、前記したケイ酸カルシウムを基材とした場合と同様な方法を用いて本発明の光触媒性無機系建築材料を成形すればよい。ここで、成形体の硬化を促進させるためには、助剤としてバインダーを添加してもよいが、助剤としてのバインダーを添加しない、例えば、特開2003−89569号公報等に開示される製造方法を適宜使用してもよい。
【0028】
かくして得られる本発明の光触媒性無機系建築材料は、多孔質体からなる無機系建築材料基材中に、光触媒性能を有する粉末状の無機顔料を分散してなるので、空気中の汚染物質について、基材による吸着性能と、光触媒性能を兼ね備えた無機系建築材料となるほか、基材中に顔料が分散されることで、基材が均一に着色されることとなり、全体が均一に着色された無機系建築材料を低コストで得ることができる。
また、基材中に対して光触媒性を有する無機顔料が分散されている構成を採用することにより、表面が磨耗により光触媒が脱落したり、基材を加工した場合にも光触媒が存在しない部分が現れるといった問題もなく、全ての面から光触媒性能を効率よく発現させることができる。
【0029】
また、本発明の光触媒性無機系建築材料によれば、無機系建築材料として従来の(光触媒性能を有しない)無機系建築材料と遜色ない機械的特性を有する材料を得ることができる。例えば、かさ比重が1.1以下、曲げ強度が10.0N/mm以上、吸水長さ変化率が0.15%以下の無機系建築材料を得ることができる。
【0030】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。
【0031】
例えば、前記した態様では、光触媒性無機系建築材料の製造方法として所定の方法を例示して説明したが、これには限定されず、任意の手段により本発明の光触媒性無機系建築材料を得るようにしても問題はない。
また、本発明の光触媒性無機系建築材料には、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、光触媒性能を有しない従来公知の無機顔料、例えば、酸化クロム(緑色顔料)、含水酸化鉄(黄色顔料)、カーボン(黒色顔料)等を添加してもよい。
また、メチルセルロース等の増粘剤を添加してもよい。
その他、本発明の実施における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0032】
次に、実施例及び参考例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等の記載内容に何ら制約されるものではない。
【0033】
[実施例1、2、及び参考例1]
下記に示した原料を表1に示した配合比で用いて、下記の製造方法により、建築材料基材中に光触媒性能を有する粉末状の無機顔料(着色無機顔料)を含有した、本発明の光触媒性無機系建築材料である板材(実施例1、2)、及び対照として無機顔料を含有しない板材(参考例1)を製造した。
【0034】
(使用原料)
セメント :普通ポルトランドセメント
珪砂(ケイ石粉末):SiO含有量 97.8質量%
(ブレーン比表面積 5000cm/g)
繊維補強材 :針葉樹晒しクラフトパルプ(NKBP)とポリプロピレン繊維と
からなる繊維(配合比1:1)
メチルセルロース :水溶性メチルセルロース(増粘剤として)
パーライト :真珠岩JIS S0.15−0.6
無機顔料1 :酸化チタン(TiO アナターゼ型)
(粉末状。平均粒径 0.18μm)
無機顔料2 :酸化鉄(Fe)(粉末状。平均粒径 0.5μm)
【0035】
( 使用材料の配合比 )
【表1】

【0036】
(板材の製造方法)
表1に示す配合に従って、各使用原料及び水とを混合して混合材料とした後、市販のモルタルミキサーを用いて、攪拌回転数を50rpmとして10分間混練して、混練物を得た。
そして、得られた混練物を、市販の押出成形機により押出成形して、サイズとして長さ450mm×幅300mm×厚さ12mmの板材を得た。
【0037】
次に、得られた板材を、圧力 0.49MPa(5kgf)、温度 151℃の条件下、10時間水熱処理(水熱養生)を行った後、120℃で12時間乾燥させて、光触媒性無機系建築材料である板材を得た。
【0038】
[試験例1]
前記した実施例1、2及び参考例1で得られた板材について、建築材料としての性能を確認するため、下記の評価条件に従い、「かさ比重」「曲げ強度」「吸水率」及び「吸水長さ変化率」を測定して比較・評価した。また、「外観」及び「切断加工性」も確認して、比較・評価した。結果を表2に示す。
【0039】
(かさ比重)
JIS A5430に準拠して測定した(n=3)。
【0040】
(曲げ強度)
JIS A1408に準拠して測定した(n=3)。
【0041】
(吸水率)
JIS A5430に準拠して測定した(n=3)。
【0042】
(吸水長さ変化率)
JIS A5430に準拠して測定した(n=3)。
【0043】
(外観)
得られた板材の外観状態を目視にて観察・確認した。そして、外観に異常がない場合を「○」、普通の場合「△」、外観に反りが発生している場合を「×」として判定した。
【0044】
(切断加工性)
得られた板材をチップソー(外径 355mm)で切断し、切断面の直線性を目視にて観察・確認した。そして、切断面が良好な場合を「○」、普通の場合「△」、切断面に引き曲がりがあった場合には「×」と判定した。
【0045】
(評価結果)
【表2】

【0046】
表2の結果からわかるように、実施例1、2で得られた板材は、光触媒性能を有する着色顔料を含有しない参考例1と同様に、製造時に良好に硬化されており、優れた曲げ強度を発現していることがわかる。また、吸水長さ変化率も低く、吸水に対する十分な寸法安定性を有していた。そして、外観や切断加工性も良好であった。以上より、建築材料として使用しても問題のないことが確認できた。
【0047】
[試験例2]
光触媒性能の測定:
実施例1で得られた板材の光触媒性能を評価した。具体的には、光触媒製品フォーラム
(http://www.photocatalyst.gr.jp/)に開示される「光触媒製品における湿式分解性能試験方法」に準拠して下記の方法により確認した。
【0048】
(1)前処理:
本法は、実施例1の板材をサイズ50mm×50mmに切断して試験サンプルとし、この試験サンプルの試験面上にセルを固定し、前処理を以下のように行った。
吸着液として、メチレンブルー溶液20ppmを30ml試験サンプルに対して注入し、吸着させた。このメチレンブルー溶液液の吸光度が、別途準備したメチレンブルー試験液5ppmの吸光度より高い場合は、前処理を完了とした。一方、吸光度がメチレンブルー試験液より低い場合は、新たなメチレンブルー吸着液20ppmを使用し、再度12時間吸着させて吸光スペクトルを測定し、これをメチレンブルー試験液5ppmの吸光度より高くなるまで続けた。なお、吸光度は分光光度計にて測定を行い、測定波長は664nmに固定した。
このようにしてメチレンブルー試験液の吸光スペクトルを測定し、これを初期吸光スペクトルとした。
【0049】
(2)試験(紫外線(UV)未照射):
(1)の前処理が完了したら、試験サンプルにメチレンブルー試験液5ppmを30ml注入し、1時間後の吸光度を測定する。そして、測定に使用した液をすみやかに試験セルに戻し、再び吸着させる。このような手順で、1時間毎、合計3時間の吸光度を測定するようにした。吸光度は濃度に比例することから、あらかじめ作成した検量線から、メチレンブルー試験液の濃度を算出した。
【0050】
(3)試験(紫外線(UV)照射):
また、(2)の測定終了後、メチレンブルー試験液を取り出し、新しいメチレンブルー試験液5ppmを30ml注入し、1.0±0.05mW/cmの紫外線を1時間照射し、吸光度を測定した。そして、測定に使用した液をすみやかに試験セルに戻し、再び照射させる。このような手順で1時間毎、合計3時間の吸光度を測定するようにし、(2)の紫外線(UV)未照射と同様に、濃度を算出した。前記した(2)及び(3)における、経過時間とメチレンブルー試験液濃度との関係を図1に示す。
【0051】
図1の結果からわかるように、試験サンプル(実施例1)はメチレンブルー試験液の濃度が紫外線(UV)を照射することにより、紫外線未照射のものよりも濃度低下が速くなることがわかり、光触媒性能を有していることが確認できた。
また、図1からは、紫外線未照射の試験サンプルにおける濃度低下も大きいことがわかる。このことから、実施例1により得られた板材(光触媒性無機系建築材料)は、空気中の臭気等を一旦吸着し、その後、臭気等を吸着した状態で光触媒による分解が可能であることが確認できた。
【0052】
[試験例3]
光触媒性能の評価(アセトアルデヒドの分解性能の確認):
下記の手順で、実施例1で得られた板材のアセトアルデヒド除去性能を確認した。
実施例1で得られた板材をサイズ10cm×10cmに切断して試験サンプルとした。濃度既知のアセトアルデヒドガスを0.6L充填した容量1.0Lのプラスチック製の循環容器に試験サンプルを入れた後、紫外線強度を1.5mW/mとして照射し、15分毎に60分間検知管にてアセトアルデヒド濃度を測定し、吸着分解性能を確認した。結果を図2に示す。
また、本試験においてはアセトアルデヒド(CHCHO)が二酸化炭素(CO)に分解させると考えられるので、試験開始60分経過後のCO濃度についても検知管にて測定した。結果を表3に示す。
【0053】
(結果)
【表3】

【0054】
図2の結果から分かるように、試験サンプルによりアセトアルデヒドは試験開始直後の段階(試験開始〜15分経過)で吸着除去され、時間の経過とともに容器内のアセトアルデヒド濃度の低下が認められた。
また、表3の結果から分かるように、試験開始時の容器内のCO濃度(400ppm)に対して、試験開始60分経過後の二酸化炭素の濃度は680ppmであり、二酸化炭素を発生していることから、同時に紫外線照射によりアセトアルデヒドを二酸化炭素に分解していることがわかる。
このように、実施例1の板材(光触媒性無機系建築材料)がアセトアルデヒドの分解性能を備えていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の光触媒性無機系建築材料は、建築内装材、天井材、間仕切壁、建築外装材等の各種建築材料として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】試験例2における経過時間とメチレンブルー試験液濃度との関係を示したグラフである。
【図2】試験例3における時間経過と容器内のアセトアルデヒドの濃度変化の関係を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体からなる無機系建築材料基材中に光触媒性能を有する粉末状の無機顔料を分散してなることを特徴とする光触媒性無機系建築材料。
【請求項2】
請求項1に記載の光触媒性無機系建築材料において、
前記無機顔料の含有量が無機系建築材料全体に対して0.1〜10.0質量%であることを特徴とする光触媒性無機系建築材料。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光触媒性無機系建築材料において、
当該無機顔料の平均粒径が0.1〜10.0μmであることを特徴とする光触媒性無機系建築材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−273660(P2006−273660A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95714(P2005−95714)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(390036722)神島化学工業株式会社 (54)
【Fターム(参考)】