説明

光触媒材料

本発明は、幾何学的厚さが2〜30nmである光触媒層と、該光触媒層の下に配置されたそれぞれが高屈折率及び低屈折率を有する少なくとも1対の層とを含む積重体が基材の表面の少なくとも一方の少なくとも一部に、該1対又は各対において高屈折率を有する層が該基材に最も近くなるように被覆された基材を含む材料であって、光触媒層を除いて高屈折率を有する層の波長350nmに対する光学的厚さが170〜300nmであり、低屈折率を有する層の波長350nmに対する光学的厚さが30〜90nmである材料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒層で被覆された基材を含む材料の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒層、特に酸化チタンベースの光触媒層は、それで被覆した基材に自己浄化及び防汚性を付与するものとして知られている。これらの有利な特性の原因には2つの性質がある。第一に、酸化チタンは光触媒性であり、すなわち、適当な放射線下、一般には紫外線下で、有機化合物の分解反応を触媒することができる。この光触媒活性は、電子正孔対の生成によって層内で開始される。更に、酸化チタンは、この同種の放射線に照射されたときに、極めて顕著な親水性を有する。この高い親水性は、無機物汚れを、流水下、例えば降雨流水下で除去することを可能にする。このような材料、特にグレージングユニットは、例えばヨーロッパ特許出願公開第0850204号明細書に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ヨーロッパ特許出願公開第0850204号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、光触媒層で被覆された材料の光触媒活性を増大させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的に対して、本発明の一つの対象は、幾何学的厚さが2〜30nmである光触媒層ならびに該光触媒層の下に配置された少なくとも1対の各高屈折率及び低屈折率の層を含む積重体が、基材表面の少なくとも一方の少なくとも一部に被覆された基材を含む材料であって、該1対又は各対において、該高屈折率の層が基材に最も近く、該光触媒層が基材から最も遠い対の低屈折率の層と直接接触している材料である。本発明による材料は、光触媒層を除く高屈折率の層の波長350nmに対する光学的厚さが170〜300nmであり、低屈折率の層の波長350nmに対する光学的厚さが30〜90nmであるような材料である。
【0006】
本発明者らは、光学的厚さが狭い範囲内に完全に規定された非常に特定の副層を追加することが、光触媒層のまさに中心部における紫外線の吸収を増大させるのを可能にすることを実証することができた。この放射線吸収の有意の増大は、酸化チタンの照射によって開始される電子正孔対の数の増大を可能にする。これは、該層の光触媒活性が驚くほど且つ大変有利に増大する結果を招き、ある特定の場合には、2倍以上増大することもある。
【発明を実施するための形態】
【0007】
材料の光学的厚さは、波長350nmに対して、その幾何学的厚さと波長350nmにおけるその屈折率との積であると規定される。本出願の明細書全体にわたって、光学的厚さ及び屈折率は常に波長350nmに対して規定される。
【0008】
「1対の各高屈折率及び低屈折率の層」なる文言は、高屈折率の層及び低屈折率の層から構成される2つの層の集合(組)を意味すると解される。以下で説明するように、高屈折率の層及び/又は低屈折率の層は、いくつかの重ね合わせた個別の層から構成される複合層であってもよい。
【0009】
基材は、任意の種類の材料、例えばポリマー、セラミック、ガラス、ガラス−セラミック又は金属から作製することができる。好ましくは、基材はガラス板である。この板は、平坦でも又は湾曲していてもよく、任意の種類の寸法、特に1mを超える寸法を有することができる。ガラスは、好ましくはソーダ−石灰−シリカタイプのものであるが、他のタイプのガラス、例えばホウケイ酸ガラス又はアルミノケイ酸塩ガラスを使用することもできる。ガラスは、透明又は超透明であっても、あるいは着色していてもよく、例えば青色、緑色、琥珀色、青銅色又は灰色であってもよい。ガラス板の厚さは、通常は0.5〜19mm、特に2〜12mm、更には4〜8mmである。
【0010】
光触媒層は、好ましくは酸化チタンを基礎材料とし、特に、少なくとも部分的にアナターゼ型に結晶化している酸化チタンから作製される。様々な形態の酸化チタンには、非晶質、ルチル、ブルッカイト又はアナターゼがあり、特に後者が最も高い光触媒活性を示す。酸化チタンは、純粋でもドープされていてもよく、例えば、遷移金属(例えば、W、Mo、V又はNb)、ランタノイドイオン又は貴金属(例えば、白金又はパラジウムなど)、あるいはそれ以外に窒素又は炭素原子でドープされていてもよい。これらの様々なドープ形態は、材料の光触媒活性を増大させること、あるいは酸化チタンのバンドギャップを可視範囲に近い波長又はこの範囲内の波長にシフトさせることを可能にする。また、光触媒層は、別の光触媒材料、例えばSnO2又はWO3などを基礎材料としてもよい。
【0011】
光触媒層、特に酸化チタンベースの光触媒層は、基材上に被着される積重体の通常は最後の層、すなわち積重体のうちの基材から最も遠い層である。これは、光触媒層が大気及びその汚染物質と接触していることが重要であるためである。しかし、光触媒層の上に、一般には不連続性又は多孔性の非常に薄い層を被着させることが可能である。それは、例えば、材料の光触媒活性の増大を意図する貴金属ベースの層でよい。国際公開第2005/040058号パンフレット又は国際公開第2007/045805号パンフレットに教示されているような、例えばシリカから作製された、薄い親水性の層であってもよい。
【0012】
特に酸化チタンベースの光触媒層の幾何学的厚さは、好ましくは25nm以下、特に20nm、更には15nm以下、及び/又は5nm以上、特に7nm、更には10nm以上である。これは、酸化チタン層の厚さが小さいときに本発明の有利な効果が更に大きくなることを、本発明者らが立証することができたためである。実際のところ、大きい厚さに対しては、酸化チタンによる紫外線の反射が多いため、本発明による非常に特定の副層の存在の効果はそれほど大きくはない。他方、非常に薄い層の光触媒活性は、より厚い層の活性よりも低いので、厚さの点で折衷するところが存在する。
【0013】
本発明による材料は、好ましくは、1対又は2対の各高屈折率及び低屈折率の層を含む。それは、より多くの層、例えば3つ、4つ、5つ又は6つの層、更には10又は更に多くの層を含んでもよいが、本発明者らは、2対を超えると、更なる対の追加は光触媒活性の大きな増大を生じないことを観察することができた。他方、対の数を増加させるのは、材料費ならびに層の被着の迅速性及び容易性にとって不利となる。更に、多数の対(2対を超える)は一般に、美的外観(特に色)の角度変化を招くことになり、これはグレージングユニットとしての用途にとって全く有害である。
【0014】
基材を覆う積重体は、好ましくは、光触媒層、特に酸化チタンベースの光触媒層と、少なくとも1対の各高屈折率及び低屈折率の層とから構成される。ここでは、マルチ積重体は他の層を全く含まない。この場合、基材は、基材に最も近い対の高屈折率の層と直接接触している。
【0015】
少なくとも1つの対の1層は、単一の材料のみから形成してもよく、又はいくつかの異なる材料から形成してもよい。
【0016】
後者の場合、少なくとも1つの高屈折率及び/又は低屈折率の層それ自体は、いくつかの重ね合わせた個別の層から、例えば2つ、3つ又は4つの個別の層から構成されてもよい。以下において、いくつかの重ね合わせた個別の層から構成されるこれらの層を、「複合」層と記載する。この際、各複合層の光学的厚さは、複合層を構成している個別の層のそれぞれの光学的厚さの合計に一致する。有利な効果を得るためには、複合層の全体の光学的厚さは本発明により規定されるとおりであることが重要である。この際、複合層の屈折率は、複合層の光学的厚さのその幾何学的厚さに対する比であると定義される平均屈折率である。
【0017】
複合層は、例えば2つ又は3つの重ね合わせた個別の層から構成されてもよい。後者の場合、3つの個別の層は、異なる化学的性質のものであってよい。あるいは、最も外側の2つの個別の層が同一であってもよく、異なる化学的性質の中間の個別の層を囲んでいてもよい。
【0018】
単一の対の存在に相当する最も単純な意味において、本発明による材料は、基材から出発して、高屈折率の層、その上に接触して配置された低屈折率の層と、その上に接触して配置された光触媒層とを連続して含む。これらの層の1つ又はそれ以上は、先に示したとおりの複合層であってもよい。
【0019】
2つの対が存在する1つのより複雑な場合では、該材料は、基材から出発して、第1の高屈折率の層と、その上に接触して配置された第1の低屈折率の層と、その上に接触して配置された第2の高屈折率の層と、その上に接触して配置された第2の低屈折率の層と、その上に接触して配置された光触媒層とを連続して含む。これらの層の1つ以上は、先に示したとおりの複合層であってもよい。
【0020】
波長350nmに対する光学的厚さの選択は、それが光触媒層における紫外線吸収の増加に、従って光触媒活性の増加に、直接影響するので最も重要である。
【0021】
高屈折率の層の波長350nmに対する光学的厚さは、好ましくは180〜260nmである。
【0022】
低屈折率の層の波長350nmに対する光学的厚さは、好ましくは35〜80nmである。
【0023】
1対の高屈折率及び低屈折率の層において、高屈折率の層の光学的厚さは170〜300nm、特に180〜260nmであり、低屈折率の層の光学的厚さは、30〜90nm、特に35〜80nmである。単一の対の層のみを、特に光触媒層と1対の高屈折率及び低屈折率の層とから構成される材料のもののみを使用するのが好ましい。この実施形態は、反射の色が最も好都合であって負の色度値a*及びb*に対応する青又は無彩色の色調である(黄色又は赤色を回避する)、低光反射の材料をもたらす。高屈折率の層は複合層であってもなくてもよいが、最良の結果は、複合層である高屈折率の層の場合に得られる。低屈折率の層は、好ましくは複合層ではない。複合高屈折率層が2つの個別の層から構成され、基材に最も近い層がその上に位置する個別の層よりも低い屈折率を有し、これら2つの個別の層のそれぞれが、対の低屈折率の層よりも高い屈折率を有するときに、良好な結果を得ることができた。更に良好な結果は、複合高屈折率層が3つの個別の層から構成されるときに得られる。これら3つの個別の層は、全てが異なっていてもいなくてもよく、全てが低屈折率層の屈折率よりも高い屈折率を有していてもよい。あるいは、複合高屈折率層は、対の低屈折率の層と同じ性質のものであってよい低屈折率の層を囲む、同一又は異なる2つの高屈折率の層を含んでもよい。後者の場合は、2対の複合していない高屈折率及び低屈折率の層が連続しているものと解することもできる。
【0024】
所定の対において、高屈折率層は、波長350nmに対し、低屈折率層の屈折率よりも厳密に高い屈折率を有する。これらが先に規定した意味の範囲内において複合層である場合、屈折率は、複合層の平均屈折率に一致する。よって、複合高屈折率層は、低屈折率を有する1つ以上の個別の層を含んでいてもよい。同様に、複合低屈折率層は、高屈折率を有する1つ以上の個別の層を含んでいてもよい。重要なことは、対の他の層の屈折率に対する複合層の全体的な屈折率である。
【0025】
好ましくは、低屈折率の層の波長350nmに対する屈折率は、1.7以下、特に1.65以下である。低屈折率層が複合層である場合には、複合層の全体的な屈折率が好ましい範囲内である限り、それは屈折率がより高い少なくとも1つの層を含んでいてもよい。
【0026】
同様に好ましくは、高屈折率層の波長350nmに対する平均屈折率は、1.7より高く、特に1.8、又は1.9、更には2.0又は2.1より高い。特定の場合、それは2.2以上、特に2.3、又は2.4、更には2.5以上であってもよい。高屈折率層が複合層である場合には、複合層の全体的な屈折率が好ましい範囲内である限り、それは屈折率がより低い少なくとも1つの層を含んでいてもよい。
【0027】
光触媒層での紫外線の吸収は、各対の高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差が増すと、より多くなることが観察された。従って、好ましくは、低屈折率層及び高屈折率層の波長350nmに対する屈折率の差は0.2以上、更には0.3又は0.4、特に0.5以上である。この差は、0.8又は0.9以上であってもよい。
【0028】
高屈折率の材料は、好ましくは酸化物又は窒化物であり、特にSi34、TiO2、ZrO2、SnO2、ZnO、Nb25、Ta25あるいはこれらの混合物又は固溶体のいずれか一つから選択される。それはまた、例えばSnZnOx、SnZnSbOx、SiZrNxなどのような混合物であってもよい。これらの様々な材料は、上に示した化学量論組成又は異なる化学量論組成を有していてもよい。一例として、用語「Si34」は、その実際の化学量論組成にとらわれることなく、より一般的にあらゆる窒化ケイ素を意味するものと解される。同様に、酸化物又は窒化物は、特に電気伝導の特性を与えるように、又は赤外線反射の特性を与え、従って低放射率を与えるように、ドープされていてもよい。それは特に以下の材料、すなわち、フッ素、アンチモン又はインジウムをドープされたSnO2、アルミニウム又はガリウムをドープされたZnO、でよい。これらの酸化物又は窒化物のうち、窒化ケイ素が特に好ましいが、これはマグネトロンスパッタリングによって高い被着速度で被着させることができるためである。同じことが、SnZnOx及びSiZrNxについても言える。また、酸化チタンは、その非常に高い屈折率ゆえに良好な結果をもたらす。
【0029】
低屈折率の材料は、好ましくは、SiO2、Al23、SiOCあるいはこれらの混合物又は固溶体のいずれか一つから選択される材料をベースとする。また、CaF2、MgF2及びLiFなどのフッ化物を使用することもできるが、これらはスパッタリングによる被着に向いていないので好ましくない。ここでも、これらの様々な材料は、上に示した化学量論組成又は異なる化学量論組成を有することができる。これらの材料はドープされていてもよく、例えば、所望により数%の別の化学元素、例えばアルミニウム又はジルコニウムなどをドープされた、シリカの層が存在していてもよい。これらの材料のうち、酸化ケイ素、特にアルミニウムをドープされたもの、及びオキシ炭化ケイ素が、低い屈折率及びスパッタリングによって被着できることから、特に好ましい。オキシ炭化ケイ素はまた、化学蒸着(CVD)によって良好な条件下で被着させることもできる。
【0030】
好ましい対は、特に挙げると、Si34/SiO2又はTiO2/SiO2、SnZnOx/SiO2、SiZrNx/SiO2であり、これはそれらの層が良好な化学的耐久性と耐候性を有しているためであり、そしてそれは積重体がグレージングユニットの外側(通常は「表面1」の用語で示される面)に位置する場合に特に有益である。高屈折率層が2つの重ね合わせた個別の層から構成される複合層である場合には、TiO2又はSiZrNxの層を上に設けたSi34から作製された個別の層を使用するのが好ましい。
【0031】
専ら非限定的な例示の目的で、いくつかの実施形態の概要を以下に示す。これらの積重体において、「S」は基材を表し、「H」は高屈折率層を表し、「B」は低屈折率層を表し、「TiO2」は一般的に酸化チタンをベースとする光触媒層を表す。通常、層「H」はSi34又はTiO2から作製され、層「B」はSiO2から作製されるが、もちろん他の材料を使用してもよい。
1: S/H/B/TiO2
2: S/H/B/H/B/TiO2
3: S/H/B/H/B/H/B/TiO2
4: S/H1/H2/B/TiO2
5: S/H1/H2/H3/B/TiO2
6: S/H/B1/B2/TiO2
【0032】
実施形態1、2及び3は、それぞれ1、2又は3対の低屈折率層及び高屈折率層が存在するものに相当する。例えば、層HはSi34又はTiO2から作製することができ、層BはSiO2から作製することができる。高屈折率層及び低屈折率層は複合していない。負の色度値a*及びb*を特徴とする、できるだけ好都合な反射の色を得るために、層Hの光学的厚さ(特に実施形態1において)は170〜300nm、特に180〜260nmである。層Bの光学的厚さは30〜90nm、好ましくは35〜80nmである。
【0033】
実施形態4においては、単一の対が存在するが、高屈折率層はH1及びH2で示される2つの重ね合わせた個別の高屈折率の層から構成される複合層である。一例として、層H1及びH2は、それぞれSi34及びTiO2から、又はSi34及びSiZrNxから作製することができ、層BはSiO2から作製することができる。実施形態4の変形例がどんなものであれ、また、負の色度値a*及びb*を特徴とし、できるだけ好都合な反射の色を得るためには、複合層Hの光学的厚さ(従って個別の層H1及びH2の光学的厚さの合計)は170〜300nm、特に180〜260nmである。層Bの光学的厚さは30〜90nm、更には35〜80nmである。好ましくは、個別の層H1の屈折率は個別の層H2の屈折率よりも小さい。
【0034】
実施形態5においては、単一の対が存在するが、高屈折率層はH1、H2及びH3で示される3つの重ね合わせた個別の層から構成される複合層である。層の1つ、例えばH2は、複合層Hの全体的な屈折率が層Bの屈折率よりも高い限り、他の層H1に対して、更には層Bに対しても、低いと考えられる屈折率を有していてもよい。一例として、層H1及びH3はTiO2から製作することができ、層H2はSi34から作製することができ、層BはSiO2から作製することができる。この場合、層H2は、層H1及びH3に対して低い屈折率の層であると考えることができる。層H2はまた、例えばSiO2から作製される、層Bの屈折率に等しいか又はそれより低い屈折率を有することもできる。この場合、事例番号2のものと同一の構成、すなわち、2対の複合していない層が連続したものであることが分かる。実際のところ、層H2は、複合高屈折率層の中間層と、基材上に被着された第1の対の低屈折率層の両方として含まれることができる。実施形態5の変形例がどんなものであれ、また、負の色度値a*及びb*を特徴とする、できるだけ好都合な反射の色を得るために、複合層Hの光学的厚さ(従って個別の層H1、H2及びH3の光学的厚さの合計)は170〜300nm、特に180〜260nmである。層Bの光学的厚さは30〜90nm、更には35〜80nmである。
【0035】
実施形態6においては、唯一の対の低屈折率層がB1及びB2で示される2つの重ね合わせた個別の層から構成されている。
【0036】
言うまでもないが、上記した様々な有利な特徴、例えば、材料の厚さ、屈折率又は化学的性質は、あらゆるタイプの可能な組合せでもって一緒に組合せることができる。これらの様々な組合せは、本明細書をむだに長くしないために記載していない。
【0037】
光触媒層、特に酸化チタンベースの光触媒層は、様々な方法によって得ることができる。好ましくは、それは、特に磁場によって支援されるスパッタリング法(マグネトロンスパッタリング法)であり、それではプラズマの励起された種が、被覆されるべき基材に向かい合って位置するターゲットから原子を引き出す。ターゲットは、特に金属チタン又はTiO2から作製することができ、プラズマは酸素を含んでいなければならない(この方法は反応性スパッタリングと呼ばれる)。被着に続いて、酸化チタンをアナターゼ型に結晶化させることを意図する熱処理を行うのが好ましい。それは、例えば、アニーリング、強化又は曲げ処理、又は国際公開第2008/096089号パンフレットに記載されている処理でよい。それほど好ましくはないが、酸化チタンベースのコーティングを、チタンの有機金属前駆体を含むゾルを基材上に被着させてから乾燥処理及び緻密化を行うゾル−ゲルタイプの方法によって得てもよい。ゾルは、酸化チタンの粒子と、別の材料、例えばシリカの前駆体、を含んでいてもよい。また、酸化チタンベースの被覆は、基材の熱の作用のもとで分解するチタン前駆体ベースの熱分解法によって得ることもできる。これらの前駆体は、固体、液体でよく、好ましくはガス状でよく、そのときにはこの方法は化学蒸着(CVD)と称される。一例として、前駆体は、四塩化チタン、チタンテトライソプロポキシド、又はチタンテトラオルトブトキシドでよい。
【0038】
積重体の他の層は、特に磁場によって支援されるスパッタリング(マグネトロンスパッタリング法)によって被着させるのが好ましい。あるいはまた、それらは、ゾル−ゲルタイプの方法又は熱分解法(特にCVDタイプの方法)によって被着させてもよい。しかし、スパッタリングは複数層を被着させるのに向いている。
【0039】
マグネトロンスパッタリング法による被着の場合、例えば、Si34又はSiO2の層を、アルミニウムをドープしたケイ素ターゲットを用いて、アルゴン及びそれぞれ窒素又は酸素を含むプラズマ中で、被着させることができる。
【0040】
本発明のもう一つの対象は、本発明による少なくとも1つの材料を含むグレージングユニットである。この場合、基材はガラスから作製することができる。グレージングユニットは、それがガス充填された空間を提供する何枚かのガラス板を含むことができるという意味において、単一グレージング又は複式グレージング(特に二重又は三重グレージング)でよい。グレージングユニットはまた、積層され及び/又は強化され及び/又は硬化及び/又は湾曲されていてもよい。
【0041】
本発明による被覆された基材の他の面、又は該当する場合において、複数のグレージングユニットの別の基材の面は、別の機能性層、又は機能性層の積重体で被覆してもよい。特に、それは別の光触媒層、例えば本発明による別の積重体であることができる。それはまた、熱的機能を有する層又は積重体、特に太陽光線から保護する又は低放射率の層又は積重体、例えば誘電層によって保護された銀の層を含む積重体、であってもよい。それはまた、特に銀ベースのミラー層であってもよい。また、それは透明な導電性酸化物の層であってもよく、この材料は太陽電池の前面として使用することが可能である。
【実施例】
【0042】
本発明は、以下の非限定的な例を参照してよりよく理解される。
【0043】
様々な例(本発明による例及び比較例)のために、様々な特性を測定又は算出する。これらは以下のものである。
・光触媒層による紫外線の吸収:この特性は垂直入射及び波長350nmに対して算出する。
・積重体の光触媒活性:これは下記に記載する方法に従って測定する。
・垂直入射時の光反射率RL:これはNF EN 410:1999標準規格に従って算出する。
・色度座標a*及びb*:これらはD65光源及びCIE−1931標準規格の観測者を考慮して、垂直入射時の反射スペクトル(層側)から算出する。
【0044】
光触媒活性の測定は、ステアリン酸の分解をモニターすることによって、以下のようにして行う。
・5×5cm2の試料を切り出し、
・試料を紫外線照射下及び酸素パージ下で45分間クリーニングし、
・参照スペクトルを得るために、波数4000〜400cm-1について、FTIRによって赤外スペクトルを測定し、
・ステアリン酸を被着させ、すなわち、メタノール中に5g/Lの量で溶解したステアリン酸の溶液60μLをスピンコーティングによって試料上に被着させ、
・FTIRによって赤外スペクトルを測定し、3000〜2700cm-1のCH2-CH3結合の伸縮振動バンドの面積を測定し、
・UVAタイプの放射線に暴露し、すなわち、屋外暴露をシミュレートするために約35W/m2の、試料が受け取るエネルギーを、波長範囲315〜400nm内で光電池によって制御し、
・3000〜2700cm-1のCH2-CH3結合の伸縮振動バンドの面積を測定することによって、10分間の連続暴露時間後のステアリン酸の層の光分解をモニターし、そして
・光触媒活性を、0〜30分間にわたり、紫外線への暴露時間の関数として、3000〜2700cm-1のCH2-CH3結合の伸縮振動バンドの面積に相当する直線の、cm-1・min-1で表した勾配によって規定する。
【0045】
〔比較例1〕
比較例1は、サン−ゴバン・グラス・フランスによりSGG Planiluxの商標で市販されている厚さ2mmの透明なソーダ−石灰−シリカガラスの板であって、その上に、SiO2(幾何学的厚さ50nm)、次いでTiO2(幾何学的厚さ11.5nm)の2つの薄い層が連続して被着されている。被着は、マグネトロンスパッタリング法によって行う。
【0046】
酸化チタンの層を結晶化させるために、被覆した基材を630℃で8分間の熱処理にかける。全ての実施例、あるいは比較例で、同一の熱処理を行う。
【0047】
垂直入射時の波長350nmの紫外線の吸収を任意値で算出する。他の例のための参照として使用するその値を、100(任意単位)に設定する。
【0048】
他の例との比較を容易にするために、光触媒活性を100の値(任意単位)に設定する。
【0049】
〔例1〕
Si34、SiO2及びTiO2の薄い層を、サン−ゴバン・グラス・フランスによりSGG Planiluxの商標で市販されている透明なソーダ−石灰−シリカガラスの2mm厚の板上に連続して被着させる。被着は、マグネトロンスパッタリング法によって既知のようにして行う。
【0050】
得られる積重体は次のとおり、すなわち、ガラス/Si34(30nm)/SiO2(45nm)/Si34(35nm)/SiO2(50nm)/TiO2(11.5nm)、である。
【0051】
これらの厚さは幾何学的厚さである。光学的厚さは、それぞれ64、68、75及び76nmである。
【0052】
従って、この積重体は、高屈折率層がSi34、SiO2、次いでSi34の3つの層を含む複合層である単一の対を含む。この場合、複合層の厚さは207nmである。
【0053】
紫外線の吸収は225に等しく、すなわち比較例1に対して2倍を超える吸収である。測定された光触媒活性は、試料に応じて約150〜175であり、すなわち同一厚さの光触媒層について75%までの範囲になりうる増加である。
【0054】
L率は11.3%であり、a*及びb*値はそれぞれ−9及び−4である。この負の色度値は、青色及び緑色に及ぶ範囲の心地よい色合いに相当する。
【0055】
〔例2〕
例2の積重体は以下の構造、すなわち、ガラス/Si34(112nm)/SiO2(55nm)/TiO2(11.5nm)、を有する。
【0056】
これらの厚さは幾何学的厚さである。光学的厚さは、Si34から作製された高屈折率の層が239nmであり、SiO2から作製された低屈折率の層については76nmである。
【0057】
紫外線の吸収は160に等しい。RLは9.9%であり、a*及びb*値はそれぞれ−12及び−10である。
【0058】
〔例3〕
例3は、高屈折率の層として幾何学的厚さが90nmのTiO2層を選択する点で例2と異なる。その光学的厚さは252nmである。
【0059】
紫外線の吸収は200に等しい。RL率は9.5%であり、a*及びb*値はそれぞれ−11及び−11である。例2の場合のように、本発明の範囲内で高屈折率層を選択すると、低反射及び青味がかった色合いを得ることが可能になる。
【0060】
酸化チタンの選択それ自体が、その比較的高い屈折率のゆえに、光触媒層内での紫外線の吸収を増加させるのを可能にする。
【0061】
〔例4〕
例4は、高屈折率の層として幾何学的厚さが110nmのSnZnOx層を選択する点で例2と異なる。その光学的厚さは235nmである。
【0062】
紫外線の吸収は150に等しい。RL率は9.7%であり、a*及びb*値はそれぞれ−12及び−12である。
【0063】
〔例5〕
例5は、高屈折率の層として幾何学的厚さが105nmのSiZrNx層を選択する点で例2と異なる。その光学的厚さは230nmである。
【0064】
紫外線の吸収は185に等しい。RL率は9.9%であり、a*及びb*値はそれぞれ−12及び−12である。
【0065】
〔例6〕
例6は、Si34から作製された高屈折率の層を、Si34及びTiO2から作製された2つの重ね合わせた個別の層から構成される複合層と取り換える点で例2と異なる。
【0066】
例6の積重体は以下のとおり、すなわち、ガラス/Si34(75nm)/TiO2(35nm)/SiO2(50nm)/TiO2(11.5nm)、である。
【0067】
これらの厚さは幾何学的厚さである。光学的厚さは、それぞれ160、98及び76nmである。従って、高屈折率の複合層の光学的厚さは258nmである。
【0068】
紫外線の吸収は200に等しい。RL率は非常に低く、この場合には5.8%であり、そしてa*及びb*値はそれぞれ−7.8及び0.6である。従って、反射の外観は非常に満足しうるものである。
【0069】
〔例7〕
例7は、例6と以下のように異なる。
・複合層のTiO2の個別の層が、幾何学的厚さ15nm(光学的厚さ33nm)のSiZrNxの個別の層によって置換されている。
・Si34の個別の層の幾何学的厚さが100nm(光学的厚さは214nm)である。
【0070】
従って、高屈折率の複合層の光学的厚さは247nmである。
【0071】
紫外線の吸収は185に等しい。RL率は10.0%であり、a*及びb*値はそれぞれ−13.3及び−6.5である。
【0072】
〔例8〕
例8は、例7と以下のように異なる。
・SiZrNxの個別の層の幾何学的厚さが20nm(光学的厚さは44nm)である。
・Si34の個別の層の幾何学的厚さが95nm(光学的厚さは203nm)である。
【0073】
従って、高屈折率の複合層の光学的厚さは247nmである。
【0074】
紫外線の吸収は185に等しい。RL率は9.7%であり、a*及びb*値はそれぞれ−13.4及び−5.7である。
【0075】
〔例9〕
例9は、実施例6と以下のように異なる。
・TiO2の個別の層の幾何学的厚さが12nm(光学的厚さは34nm)である。
・Si34の個別の層の幾何学的厚さが101nm(光学的厚さは216nm)である。
【0076】
従って、高屈折率の複合層の光学的厚さは250nmである。
【0077】
紫外線の吸収は200に等しい。RL率は9.0%であり、a*及びb*値はそれぞれ−13.3及び−5.2である。
【0078】
〔例10〕
例10は、例6と以下のように異なる。
・TiO2の個別の層の幾何学的厚さが20nm(光学的厚さは56nm)である。
・Si34の個別の層の幾何学的厚さが91nm(光学的厚さは195nm)である。
【0079】
従って、高屈折率の複合層の光学的厚さは251nmである。
【0080】
紫外線の吸収は215に等しい。RL率は7.8%であり、a*及びb*値はそれぞれ−12.8及び−1である。
【0081】
〔例11〕
例12は、実施例6と以下のように異なる。
・TiO2の個別の層の幾何学的厚さが25nm(光学的厚さは70nm)である。
・Si34の個別の層の幾何学的厚さが95nm(光学的厚さは203nm)である。
・SiO2から作製された低屈折率の層の厚さが40nm(光学的厚さは61nm)である。
【0082】
従って、高屈折率の複合層の光学的厚さは273nmである。
【0083】
紫外線の吸収は225に等しい。RL率は9.7%であり、a*及びb*値はそれぞれ−12.6及び−0.1である。
【0084】
〔比較例2〕
比較例2では、光触媒層の下にある層の積重体は、構造的な干渉現象のゆえに、「紫外線ミラー」として知られる紫外線の反射を最大化することを意図する積重体である。この積重体は以下のとおり、すなわち、ガラス/Si34(35nm)/SiO2(65nm)/Si34(35nm)/SiO2(65nm)/Si34(15nm)/TiO2(11.5nm)、である。
【0085】
各層の光学的厚さは、それぞれ75、99、75、99及び32nmである。この積重体は、3つの層から構成される高屈折率の複合層と、SiO2及びSi34層から構成される低屈折率の複合層とを含むものと考えることができる。その光学的厚さは131nmであり、従って本発明によって推奨される範囲外にある。
【0086】
紫外線の吸収は50に等しい。測定した光触媒活性は約70であり、すなわちこれは比較例1についてよりも30%低く、本発明による例1の活性の半分である。
【0087】
酸化チタン層に向かって紫外線を反射させることによって光触媒活性が増強されると考えられるので、これらの結果はなおさら意外なものである。
【0088】
〔比較例3〜6〕
これらの比較例は、高屈折率層及び低屈折率層の光学的厚さが本発明に準拠しないガラス/Si34/SiO2/TiO2タイプの積重体を説明するものである。
【0089】
比較例3については、Si34層の光学的厚さは85nm、SiO2層の光学的厚さは144nmである。従って、高屈折率層及び低屈折率層は推奨される厚さを有していない。この場合、紫外線の吸収は50にすぎず、これは光触媒活性が比較例1のものよりも低くなることを意味する。
【0090】
比較例4の場合、Si34層の光学的厚さは149nm、SiO2層の光学的厚さは80nmである。ここでは、本発明によって推奨される光学的厚さを有していないのは高屈折率の層である。紫外線の吸収は100であり、従って比較例1のものに匹敵するにすぎない。
【0091】
比較例5については、Si34層の光学的厚さは149nm、SiO2層の光学的厚さは144nmである。両方(高屈折率及び低屈折率)の層が特許請求の範囲に記載される光学的厚さを有していないこの事例においては、紫外線の吸収は80にすぎず、従って比較例1の事例におけるよりも少ない。
【0092】
比較例6の場合、Si34層の光学的厚さは53nm、SiO2層の光学的厚さは76nmである。従って、高屈折率層の光学的厚さが本発明によって推奨される領域外にある。この場合、紫外線の吸収は160に等しく、これは比較例1に対する改善となる。他方において、a*及びb*値はそれぞれ1.5及び11であり、これは反射に黄色の外観を与える。
【0093】
従って、各層の光学的厚さを狭い範囲内で選択することが、酸化チタン層の光触媒活性を有意に改善するためには不可欠である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幾何学的厚さが2〜30nmである光触媒層と、該光触媒層の下に配置された少なくとも1対の各高屈折率及び低屈折率の層とを含む積重体が、基材の表面の少なくとも一方の少なくとも一部に、該1対又は各対において高屈折率の層が該基材に最も近く、該光触媒層が該基材から最も遠い対の低屈折率の層と直接接触するように被覆された基材を含む材料であって、該光触媒層を除く高屈折率の層の波長350nmに対する光学的厚さが170〜300nmであり、低屈折率の層の波長350nmに対する光学的厚さが30〜90nmである材料。
【請求項2】
前記低屈折率の層の波長350nmに対する光学的厚さが35〜80nmである、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記基材がガラス板である、請求項1又は2に記載の材料。
【請求項4】
前記光触媒層が、少なくとも部分的にアナターゼ型に結晶化している酸化チタンから作製されている、請求項1〜3の一つに記載の材料。
【請求項5】
前記光触媒層の幾何学的厚さが25nm以下、特に20nm以下である、請求項1〜4の一つに記載の材料。
【請求項6】
1対又は2対の高屈折率及び低屈折率の層を含む、請求項1〜5の一つに記載の材料。
【請求項7】
前記基材から出発して、高屈折率の層と、その上に接触して配置された低屈折率の層と、その上に接触して配置された光触媒層とを連続して含む、請求項6に記載の材料。
【請求項8】
1つの前記高屈折率の層又は任意選択的に各高屈折率の層の波長350nmに対する光学的厚さが180〜260nmである、請求項1〜7の一つに記載の、特に請求項7に記載の材料。
【請求項9】
1つの前記低屈折率の層又は任意選択的に各低屈折率の層の波長350nmに対する光学的厚さが35〜80nmである、請求項8に記載の材料。
【請求項10】
前記高屈折率の層が、2つ又は3つの重ね合わせた個別の層から構成される複合層である、請求項9に記載の材料。
【請求項11】
前記低屈折率の層の平均屈折率が1.7以下であり、前記高屈折率の層の平均屈折率が1.7より高い、請求項1〜10の一つに記載の材料。
【請求項12】
前記高屈折率の材料が酸化物又は窒化物であり、特にSi34、TiO2、ZrO2、SnO2、ZnO、Nb25、Ta25あるいはこれらの混合物又は固溶体のいずれか一つから選択されるものである、請求項1〜11の一つに記載の材料。
【請求項13】
前記低屈折率の材料が、SiO2、Al23、SiOCあるいはこれらの混合物又は固溶体のいずれか一つから選択される材料を基礎材料としている、請求項1〜12の一つに記載の材料。
【請求項14】
請求項1〜13の一つに記載の材料を少なくとも1つ含むグレージングユニット。

【公表番号】特表2012−533500(P2012−533500A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520011(P2012−520011)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060085
【国際公開番号】WO2011/006905
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】