説明

光記録媒体とその作製方法

【課題】 2光子又は多光子吸収より記録が行なわれる光記録層を複数有し、紫外線硬化可能な材料からなる中間層を形成する際の紫外線照射に伴う光記録層の光化学的な変化を抑制し、光記録層への悪影響を低減することができる光記録媒体、及び、その低コストの作製方法の提供。
【解決手段】 (1)基板上に、2光子又は多光子吸収により記録が行なわれる光記録層、膜厚が100〜1000nmの紫外線吸収層、紫外線硬化可能な材料からなる中間層がこの順に積層された3層構造を2組以上有する光記録媒体。
(2)基板上に、2光子又は多光子吸収により記録が行なわれる光記録層、膜厚が100〜1000nmの紫外線吸収層、紫外線硬化可能な材料からなる中間層がこの順に積層された3層構造を2組以上有し、隣接する3層構造の間の中間層に、該中間層を二つの層に分離する形でスペーサ層が挿入されている光記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2光子又は多光子吸収により記録が行なわれる光記録層を複数有する光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2光子吸収記録材料の1つであるフォトクロミック材料を光記録層に用い、更に紫外線カット層を設けた光記録媒体が提案されている。ここで、紫外線カット層には紫外線吸収剤を含む有機材料層を用いているが、紫外線を吸収させるには通常ミクロンオーダー以上の厚さが必要であるため、光記録媒体の記録層を多層化する場合にはやや厚すぎて適用できない。
特許文献2には、紫外線カット層として銀を含む金属膜を設けた光記録媒体が提案されている。この方式では、紫外線カット層を膜厚100nm程度に薄くすることができるが、このような薄い金属層の形成には蒸着等の真空プロセスが必要であり、製造コストが高くなる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−149501号公報
【特許文献2】特開2003−67975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、2光子又は多光子吸収により記録が行なわれる光記録層を複数有し、紫外線硬化可能な材料からなる中間層を形成する際の紫外線照射に伴う光記録層の光化学的な変化を抑制し、光記録層への悪影響を低減することができる光記録媒体、及び、その低コストの作製方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は次の1)〜5)の発明(以下、本発明1〜5という)によって解決される。
1) 基板上に、2光子又は多光子吸収により記録が行なわれる光記録層、膜厚が100〜1000nmの紫外線吸収層、紫外線硬化可能な材料からなる中間層がこの順に積層された3層構造を2組以上有することを特徴とする光記録媒体。
2) 基板上に、2光子又は多光子吸収により記録が行なわれる光記録層、膜厚が100〜1000nmの紫外線吸収層、紫外線硬化可能な材料からなる中間層がこの順に積層された3層構造を2組以上有し、隣接する3層構造の間の中間層に、該中間層を二つの層に分離する形でスペーサ層が挿入されていることを特徴とする光記録媒体。
3) 紫外線吸収層が、銀のナノ微粒子とバインダーを含むアモルファス材料から成ることを特徴とする1)又は2)記載の光記録媒体。
4) 紫外線吸収層が、銀のナノロッドとバインダーを含むアモルファス材料から成ることを特徴とする1)又は2)記載の光記録媒体。
5) 各中間層を硬化させる際に、中間層側から紫外線を含む光を照射することを特徴とする1)〜4)の何れかに記載の光記録媒体の作製方法。
【0006】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
図1、図2に本発明の光記録媒体の構成例の模式的断面図を示す。
図1は、本発明1の構成例であり、基板1上に、光記録層2、紫外線吸収層3、中間層4という3層構造が積層され、更に2、3、4が繰り返し積層されている。
図2は、本発明2の構成例であり、中間層4に、該中間層を二つの層に分離する形でスペーサ層5が挿入されている。
【0007】
本発明1の光記録媒体は、光吸収層、膜厚が100〜1000nmの紫外線吸収層、中間層という3層構造を有するので、中間層側から紫外線を含む光を照射して中間層を硬化させる際に、紫外線吸収層により紫外線が吸収され、光記録層に到達する紫外線量を低減させることができ、これにより、紫外線吸収層が無い場合に比べて、紫外線照射時の光記録層の光化学的な変化を抑制することができる。また、本発明の光記録媒体では、紫外線吸収層が薄いので、前記3層構造を2組以上積層しても、例えば実用上用いられる最も大きい開口数NA=0.85の対物レンズを用いて波長0.8μmの光で2光子記録をする場合、対物レンズの焦点深度は0.5×波長×(焦点距離/レンズ開口半径/屈折率)で与えられ、媒体の屈折率が1.5程度の場合、約0.46μmとなる。ここで記録層の膜厚を0.1〜1μm程度とした時、記録層の間隔は3μm程度にする事が可能である。この場合、紫外線吸収層+中間層の膜厚は、最小で2μm程度にする必要がある。中間層は回折光を得るためにグルーブ等を形成する必要があり、波長オーダー程度以上の厚さは必要となる。このため高密度記録を行うには、紫外線吸収層の厚さは1μm以下程度にする必要がある。本発明1の光記録媒体は、紫外線吸収層の厚さは1μm以下としたため、各記録層の高密度の記録再生が可能になる。
本発明2の光記録媒体は、中間層にスペーサ層を挿入するので、スペーサ層がない場合に比べて、隣接する3層構造の光記録層同士の間隔を広げることが可能となり、記録層間の干渉を防ぐため部分的に記録層の間隔を広げる必要のある場合に対応した光記録媒体が構成できるなど、光記録媒体の設計の自由度を大きくすることが出来る。
【0008】
本発明3又は本発明4の光記録媒体は、紫外線吸収層が銀のナノ微粒子又は銀のナノロッドを含み、有機樹脂などをバインダーとするモルファス材料からなるので、蒸着等の真空プロセスが不要で、溶剤等を用いる塗布等の低コストな方法で紫外線吸収層を形成することができる。また他の材料に比べて紫外線の吸収効果が大きく、紫外線吸収層を薄くすることが出来る。
更に、ナノロッドのアスペクト比を変化させることにより、紫外線の吸収ピーク波長を制御することが可能となるので、媒体設計の自由度を大きくすることが出来る。
本発明5は、本発明1〜4の光記録媒体の作製方法であり、一組の3層構造を積層する度に、中間層側から紫外線を含む光を照射して紫外線吸収層を硬化させることにより、紫外線照射に伴う光記録層の光化学的な変化を抑制し、光記録層に対する紫外線照射の悪影響を低減しながら、光記録媒体を作製することが出来る。
【0009】
次に、本発明の光記録媒体の各層に用いる材料について説明する。
基板材料としては、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、非晶質ポリオレフィン、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられるが、ポリカーボネートや非晶質ポリオレフィンが好ましい。
基板の厚さは、強度が保てる範囲であれば任意でよいが、0.6〜1.2mm程度が好ましい。
光記録層には、2光子又は多光子記録材料を用いる。例えば前記特許文献1に開示されているフルギド系、ジアリールエテン系のフォトクロミック材料やその他の多光子吸収色素を含む材料が挙げられる。
光記録層の膜厚は、高密度記録のためには、前述した理由で100〜1000nm程度とするのが望ましい。
【0010】
紫外線吸収層には、例えば、銀のナノ微粒子又はナノロッドを含み、PMMA(メタアクリル酸メチル)、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル等の有機樹脂をバインダーとする材料を用いる。
銀のナノ微粒子又はナノロッドの大きさは数十nm程度が望ましい。銀以外の他の金属材料としては白金のナノ粒子も用いることができるが、その場合には吸収波長が短波長側の250〜300nm付近となる。白金と銀のナノ粒子を混合して用いることもできる。
上記のように高密度記録を行うには、紫外線吸収層の膜厚を1μm以下程度にする必要がある。但し、薄すぎると紫外線の吸収機能が低下するため、100nm以上とすることが望ましい。これについては、銀の薄膜の膜厚が100nm以下になると反射率が低下し、透過率が上昇する事が知られている。図4に銀の薄膜の反射率の膜厚及び波長依存性(計算値)を示した。図中、1000Åの場合と2000Åの場合は、実質上、線が重なってしまうため、一本の線で示されている。この結果から銀のナノ粒子を含む紫外線吸収層に関しても100nm程度の膜厚が必要であると推定できる。更に紫外線吸収層中の銀のナノ粒子の大きさは数nm〜数十nm程度のため、少なくも100nm程度の膜厚が必要である。
【0011】
中間層には紫外線を含む光の照射により硬化する紫外線硬化樹脂などを用いる。このような樹脂としては、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系等のものが知られている。
中間層の膜厚は、深さ方向の高密度化のためには薄い方が望ましいが、フォーカス、トラックサーボ用のグルーブ等を形成するために、約1μm以上が必要になる。
スペーサ層には、可視光に対して透明な材料を用いる。例えば、セルロース、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド製の樹脂フィルムなどが挙げられる。
スペーサ層の膜厚は、隣接する3層構造の光記録層同士の間隔を広げることができるように、必要に応じて、1〜数十μm程度に設定すればよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、2光子又は多光子吸収により記録が行なわれる光記録層を複数有し、紫外線硬化可能な材料からなる中間層を形成する際の紫外線照射に伴う光記録層の光化学的な変化を抑制し、光記録層への悪影響を低減することができる光記録媒体、及び、その低コストの作製方法を提供できる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0014】
実施例1
図1の構成の光記録媒体を作製した。
基板1には、厚さ0.6mmのポリカーボネート基板を用い、光記録層2は、2光子記録用のフォトクロミック材料であるジシアノ系ジアリールエテン(東京化成、B1576)とPMMA(メタアクリル酸メチル)を混合した材料を用いて、スピンコート法で、膜厚約1μm塗布し乾燥した。
紫外線吸収層3は、PVA(ポリビニルアルコール)をバインダーとして、大きさが10〜100nm程度の銀のナノ粒子を混合して用い、同じくスピンコート法で膜厚0.6μmに成膜した。銀のナノ粒子は、AgNO溶液と界面活性剤を用いて紫外線照射による光還元法で作製したものを用いた。
中間層4は、紫外線硬化樹脂(東亞合成化学、アロニックスM350)を用いてスピンコート法で膜厚2μmに成膜した。続いて高圧水銀ランプを用いた露光装置で紫外線の照射を行い、中間層4の硬化を行った。紫外線の照射は光記録層2への影響を防止するため基板1と反対側から行った。
図3に銀のナノ粒子を含む溶液の吸収スペクトルの測定例を示すが、波長350nm〜520nm付近に強い吸収を示し、その他の領域では吸収が小さいことが分かる。したがって、この波長域の光のカット作用がある。ここで2光子吸収記録材料は通常800nm付近の波長で記録再生を行うため、この特性でも問題ない。図3から分かるように銀材料の特徴として短波長側の320nm付近は吸収が小さく効果が小さい欠点がある。
図3の結果から明らかなように、本実施例では、上記紫外線吸収層3を設けることにより、紫外線硬化可能な材料からなる中間層を形成する際の紫外線照射に伴う光記録層の光化学的な変化を抑制し、光記録層への悪影響を低減することができる。
【0015】
実施例2
中間層4中にスペーサ層5を挿入した点以外は、実施例1と同様にして、図2の構成の光記録媒体を作製した。スペーサ層には、可視光に対して透明なPET(ポリエチレンテレフタレート)製の厚さ16μmのフィルムを圧着して用いた。
本実施例においても、実施例1と同様に、紫外線照射に伴う光記録層への悪影響を低減することができる。
【0016】
実施例3
紫外線吸収層3の材料として、銀のナノ微粒子とほぼ同じ大きさの銀のナノロッドを用いた点以外は、実施例1と同様にして、図1の構成の光記録媒体を作製した。銀のナノロッドは銀ナノ粒子と同様の光還元法で作製した。
銀のナノ粒子に代えて銀のナノロッドを用いた本実施例においても、実施例1と同様に、紫外線照射に伴う光記録層への悪影響を低減することができる。
【0017】
実施例4
紫外線吸収層3の材料として、銀のナノ微粒子とほぼ同じ大きさの銀のナノロッドを用いた点以外は、実施例2と同様にして、図2の構成の光記録媒体を作製した。
本実施例においても、実施例3と同様に、紫外線照射に伴う光記録層への悪影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の光記録媒体の構成例の模式的断面図。
【図2】本発明の光記録媒体の別の構成例の模式的断面図。
【図3】銀のナノ粒子を含む溶液の吸収スペクトルの測定例を示す図。
【図4】銀の薄膜の反射率の膜厚及び波長依存性(計算値)を示す図。
【符号の説明】
【0019】
1 基板
2 光記録層
3 紫外線吸収層
4 中間層
5 スペーサ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、2光子又は多光子吸収により記録が行なわれる光記録層、膜厚が100〜1000nmの紫外線吸収層、紫外線硬化可能な材料からなる中間層がこの順に積層された3層構造を2組以上有することを特徴とする光記録媒体。
【請求項2】
基板上に、2光子又は多光子吸収により記録が行なわれる光記録層、膜厚が100〜1000nmの紫外線吸収層、紫外線硬化可能な材料からなる中間層がこの順に積層された3層構造を2組以上有し、隣接する3層構造の間の中間層に、該中間層を二つの層に分離する形でスペーサ層が挿入されていることを特徴とする光記録媒体。
【請求項3】
紫外線吸収層が、銀のナノ微粒子とバインダーを含むアモルファス材料から成ることを特徴とする請求項1又は2記載の光記録媒体。
【請求項4】
紫外線吸収層が、銀のナノロッドとバインダーを含むアモルファス材料から成ることを特徴とする請求項1又は2記載の光記録媒体。
【請求項5】
各中間層を硬化させる際に、中間層側から紫外線を含む光を照射することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の光記録媒体の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−80312(P2007−80312A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263548(P2005−263548)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】