説明

光路長設定支援装置及び濃度測定システム

【課題】伸縮自在の測定セルの光路長の設定を支援する。
【解決手段】光路長Lが伸縮自在に設定可能な測定セル10を用いて試料ガスの濃度を測定するに当たり、測定セル10の光路長Lの設定を支援する光路長設定支援装置であって、測定セル10における複数の異なる光路長Lで検出した赤外線センサ15のセンサ出力に基づいて、測定セル10中の試料ガスの濃度範囲に適した光路長Lを特定する特定情報を記憶する特定情報記憶手段22と、複数の異なる光路長Lに対応して赤外線センサ15が出力したセンサ出力を当該光路長Lに関連付けて取り込むセンサ出力取込手段21aと、該取り込んだセンサ出力と特定情報記憶手段22の特定情報とに基づいて前記濃度範囲に適した光路長Lを特定する光路長特定手段21bと、該特定した光路長Lに測定セル10の変更を指示する光路長変更指示手段21cと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光路長設定支援装置及び濃度測定システムに関し、より詳細には、二酸化炭素、一酸化炭素、水分、ハイドロカーボン等の試料ガスの濃度測定に用いる光路長が伸縮自在に設定可能な測定セルの光路長の設定を支援する光路長設定支援装置、及び、該光路長設定支援装置を備える濃度測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体は赤外線波長領域において特有の吸収波長帯をもっているものが多いことから、測定すべき気体の赤外線吸収光度の比を検出し、その濃度を精度良く測定する気体濃度測定装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
図7は従来の気体濃度測定装置の概略構成を示す図である。例えば、二酸化炭素の赤外線吸収波長は4.3μmと15μmであり、この比は安定していることから、それらの赤外光を検出できるように、図7に示す気体濃度測定装置は、4.3μm、15μmのフィルタ107,108と光検出器109,110とを組み合わせて設けている。そして、セル102は、その一方側の透明な窓103が光源101、また、その他方側の窓104がフィルタ107,108にそれぞれ対向するように配置されており、その内部に測定すべき気体を取り入れる取入口105とその気体の取出口106とを有する。
【0004】
まず、セル102中に所定の気体を充填させた状態で光源101を点灯させて光検出器109,110からの信号を測定し、その比を基準となる吸収強度の比として設定する。次に測定すべき気体をセル102中に充填させ、光検出器109,110からの信号を測定し、その比が予め設定している基準となる比と一致したときに、気体濃度測定装置は測定気体の赤外線吸収強度により気体の濃度を測定することで、他の気体の影響を受けずに精度良く濃度を測定することを可能としてきた。
【0005】
しかしながら、上述した気体濃度測定装置は、2種類の高価な光学フィルタを必要とすることから、高額なものになってしまい、コストダウンを図ることができないという問題があった。また、個々のフィルタの特性は経時的に変化するが、その特性が同様に変化する可能性は低いことから、その変化にずれが生じた場合に測定精度が低下するという問題があった。
【0006】
また、測定精度を向上させるためには、測定セルの長さ(光路長)を試料ガスの濃度範囲に応じて、濃度が低いときには長く、また、濃度が高いときには短く設定することが知られている。しかしながら、測定セルの長さを変更しようとすると、測定セルの部品は、試料ガスの濃度範囲の種々な仕様に対応し得るように、光路長の異なるものを多数用意しなければならないという問題があった。
【0007】
この問題を解決するために、試料ガスの濃度範囲に適した光路長の測定セルを、簡単かつ低コストで製作する測定セルが提案されてきた。この測定セルは、第1の円筒体の左側に光源部、第2の円筒体の右側に検出部を配設し、第1の円筒体の右側部分の内周部に第2の円筒体の左側部分の外周部を嵌合し、軸線方向に相対的に移動可能とすることで、試料ガスの濃度範囲に適した光路長を組み立て調整だけで実現してきた(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭48−42792号公報
【特許文献2】特開平10−62335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、測定セルによって試料ガスの濃度範囲に適した光路長とすることは可能となっていたが、試料ガスの濃度が未知である場合などでは、その濃度に適した光路長に測定セルを設定することが困難であり、試料ガスの濃度範囲に適した光路長に設定されていないと、測定した濃度の精度が低下しまうという問題があった。そのため、2種類の高価な光学フィルタを必要とする上述した気体濃度測定装置を用いなければならず、濃度測定装置を有する濃度測定システムのコストダウンを図ることができなかった。
【0009】
よって本発明は、上述した問題点に鑑み、伸縮自在の測定セルの光路長の設定を支援する光路長設定支援装置及び濃度測定システムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明によりなされた請求項1記載の光路長設定支援装置は、図1の基本構成図に示すように、一方側に赤外線を発する光源13を配置し、かつ、他方側に前記赤外線を吸収する試料ガスの吸収帯に応じた波長を透過するフィルタ14と該フィルタ14を透過した赤外線の強度を検出する赤外線センサ15とを順次配置し、前記光源13から前記フィルタ14又は前記赤外線センサ15までの光路長Lが伸縮自在に設定可能な測定セル10を用いて前記試料ガスの濃度を測定するに当たり、前記測定セルの光路長の設定を支援する光路長設定支援装置であって、予め定められた前記測定セル10における複数の異なる光路長Lで前記赤外線センサ15が検出した前記赤外線の強度を示すセンサ出力に基づいて、前記測定セル10に充填された試料ガスの濃度範囲に適した前記光路長Lを特定する特定情報を記憶する特定情報記憶手段22と、前記複数の異なる光路長Lに対応して前記赤外線センサ15が出力したセンサ出力を当該光路長Lに関連付けて取り込むセンサ出力取込手段21aと、前記センサ出力取込手段21aが取り込んだセンサ出力と前記特定情報記憶手段22が記憶している特定情報とに基づいて前記試料ガスの濃度範囲に適した光路長Lを特定する光路長特定手段21bと、前記光路長特定手段21bが特定した光路長Lに前記測定セル10の変更を指示する光路長変更指示手段21cと、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記請求項1に記載した本発明の光路長設定支援装置によれば、予め定められた測定セル10における複数の異なる光路長Lに対応して赤外線センサ15が出力するセンサ出力に基づいて、測定セルに充填された試料ガスの濃度範囲に適した光路長Lを特定する例えば、算出式、テーブル等の特定情報が特定情報記憶手段に記憶される。そして、複数の異なる光路長Lに対応して赤外線センサ15が検出した赤外線の強度を示すセンサ出力は、センサ出力取込手段21aによって対応する光路長Lに関連付けられて取り込まれる。そして、そのセンサ出力と特定情報記憶手段22が記憶している特定情報とに基づいて試料ガスの濃度範囲に適した光路長Lが光路長特定手段21bによって特定され、この光路長Lに測定セル10の変更が光路長変更指示手段21cが指示される。
【0012】
上記課題を解決するためになされた請求項2記載の発明は、図1の基本構成図に示すように、請求項1に記載の光路長設定支援装置において、前記複数の異なる光路長Lの中の少なくとも1つを、前記測定セル10を通過する前記赤外線が前記試料ガスに吸収されない光路長Lとなるように設定したことを特徴とする。
【0013】
上記請求項2に記載した本発明の光路長設定支援装置によれば、測定セル10における複数の異なる光路長Lの中の少なくとも1つは、測定セル10を通過する赤外線が試料ガスに吸収されないように、光源13からフィルタ14又は赤外センサ15までの光路長Lが例えば零、限りなく零に近い値などと設定される。また、零と限りなく零に近い値というように光路長Lを複数設定することもできる。
【0014】
上記課題を解決するため本発明によりなされた請求項3記載の濃度測定システムは、図1の基本構成図に示すように、赤外線を発する光源13と、試料ガスが前記赤外線を吸収する波長を透過するフィルタ14と、該フィルタ14を透過した赤外線の強度を検出してその強度を示すセンサ信号を出力する赤外線センサ15と、一方側の端部に前記光源13を配置し、かつ、他方側の端部に前記フィルタ14と該フィルタ14を透過した赤外線の強度を検出する前記赤外線センサ15とを順次配置し、前記光源13から前記フィルタ14又は前記赤外線センサ15までの光路長Lが変更可能な測定セル10と、前記赤外線センサ15が出力したセンサ出力に基づいて前記試料ガスの濃度を測定する濃度測定装置20と、を備える濃度測定システムにおいて、請求項1又は2に記載の光路長設定支援装置2をさらに備え、前記濃度測定装置20は、前記光路長設定支援装置2の光路長変更指示手段21cが変更を指示した光路長Lに変更された前記測定セル10に前記試料ガスが充填されると、当該測定セル10を通過して前記フィルタ14を透過した前記光源13からの赤外線の強度を検出した前記赤外線センサ15のセンサ出力に基づいて前記試料ガスの濃度を測定するようにしたことを特徴とする。
【0015】
上記請求項3に記載した本発明の濃度測定システムによれば、光路長設定支援装置2の指示によって測定セル10の光路長Lが設定されると、試料ガスが充填された測定セル10に光源13からの赤外線が入射され、測定セル10を通過してフィルタ14を透過した赤外線が赤外線センサ15によって検出される。そして、この検出に応じた赤外線センサ15のセンサ出力に基づいた試料ガスの濃度が濃度測定装置20によって測定される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように請求項1に記載した本発明の光路長設定支援装置によれば、測定セルにおける複数の異なる光路長に対応した赤外線センサのセンサ出力に基づいて、測定セルに充填された試料ガスの濃度範囲に適した光路長を特定するための特定情報を予め記憶しておき、試料ガスが充填された測定セルの複数の異なる光路長に対応して赤外線センサが実際に測定したセンサ出力を取り込み、それらのセンサ出力と特定情報とに基づいて試料ガスの濃度範囲に適した光路長を特定して測定セルの設定を指示するようにしたことから、測定者等はその指示に基づいて測定セルの光路長を設定することで、試料ガスの濃度が未知であってもその濃度範囲に適した光路長とすることができる。従って、試料ガスの濃度範囲に適した光路長の測定セルでその濃度を測定することができるため、測定精度の向上に貢献することができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、測定セルにおける複数の異なる光路長の中の1つを、赤外線が試料ガスに吸収されないように光路長を設定するようにしたことから、赤外線センサが検出する赤外線は試料ガスの濃度に関係なく、光源の劣化及び環境による赤外線の変動等に関係した基準のセンサ出力となるため、光源の劣化、環境による変動等を考慮して光路長を特定することができ、経年変化による測定精度の低下を軽減することができる。従って、試料ガスの濃度範囲により一層適した光路長の測定セルでその濃度を測定することができるため、測定精度の向上に貢献することができる。
【0018】
以上説明したように請求項3に記載した本発明の濃度測定システムによれば、光路長設定支援装置の指示によって測定セルの光路長が設定されると、その測定セルを通過した赤外線の検出に応じた赤外線センサのセンサ出力に基づいて試料ガスの濃度を測定するようにしたことから、試料ガスの濃度範囲に適した光路長に設定された測定セルで試料ガスの濃度を測定することができるため、試料ガスの濃度を精度良く検出することができる。また、複数の異なる光路長の中の1つの光路長が基準となるように設定することで、試料ガスが赤外線を吸収する吸収帯域に対応したフィルタのみを用いれば良くなるため、濃度測定システムのコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る光路長設定支援装置を組み込んだ濃度測定装置を備える濃度測定システムの一実施の形態を、図2〜図6の図面を参照して説明する。
【0020】
図2は本発明に係る光路長設定支援装置及び濃度測定システムの概略構成を示す構成図である。図2に示すように、濃度測定システム1は、二酸化炭素ガス(試料ガス)が充填される測定セル10と、この測定セル10に入射させる赤外線を発する光源13と、測定セル10内を通過して測定セル10から出射した赤外線のうち試料ガスが赤外線を吸収する波長を透過するフィルタ14と、このフィルタ14を通過した赤外線の強度を検出する赤外線センサ15と、赤外線センサ15が出力したセンサ信号に基づいて二酸化炭素ガスの濃度を測定する濃度測定装置20と、を有する。なお、本最良の形態では、測定セル10に濃度が未知の二酸化炭素ガスを充填させ、その濃度を濃度測定装置20で測定する場合について説明する。
【0021】
測定セル10は、第1の円筒体11と第2の円筒体12とを備え、第2の円筒体12の内周部12aに第1の円筒体11の外周部11aが嵌合し、測定セル10の軸方向に相対的に移動可能な構成になっている。そして、第1の円筒体11の前記一端側の端面11bと第2円筒体12の内周部12aとに囲まれた空間が、試料ガスが充填される測定室Eとなっており、この測定室Eは、第1の円筒体11を前記軸方向に移動させることによって容積を変更することが可能な構成となっている。
【0022】
第1の円筒体11の一端側(図2中左側)には、赤外線を発する光源13、第2の円筒体12の他端側(図2中右側)にはフィルタ14及び赤外線センサ15を順次配置している。そして、第1の円筒体11を前記軸方向に移動させることで、光源13からフィルタ14までの距離である光路長Lを変更することが可能な構成となっている。
【0023】
なお、本最良の形態では、図2に示すように、フィルタ14の位置に対応するポイントP0から第2の円筒体12の一端側(図2中左側)の移動限界位置に対応するポイントP2(P2>P0)までの範囲の移動が可能な構成となっている。そして、図3は測定セル10のモード1を説明するための図である。図3に示すように、第1の円筒体11をポイントP2からフィルタ14に向けて所定距離[例えば(P2−P0)/2]だけ移動させた位置がポイントP1(P2>P1>P0)となっている。
【0024】
また、図4は測定セルのモード0を説明するための図である。図4に示すように、第1の円筒体11をポイントP1からフィルタ14に向けてその端面11bが第2の円筒体12の端面12bに接するように移動させた位置がポイントP0’となっている。このポイントP0’は、ポイントP0に限りなく近いことから、そのときの光路長Lは零と見なすことができる。つまり、光源13からフィルタ14に到達する赤外線は、試料ガスによる吸収の影響を受けなくなるため、その時のセンサ出力を基準センサ出力として用いることができる。
【0025】
濃度測定システム1において、第1の円筒体11の端面11bがポイントP2に位置する場合をモード2、ポイントP1に位置する場合をモード1、ポイントP0’に位置する場合をモード0とそれぞれ定義している。なお、本最良の形態では、3段階のモードを設定した場合について説明するが、本発明はこれに限定するものではなく、3段階以上のモードを設定する、モードを設定せずにポイントP0、P0’からの任意の距離とするなど種々異なる実施の形態とすることができる。
【0026】
また、第2の円筒体12の周壁には、測定室Eに試料ガスを流入される流入口12sと測定室Eに充填した試料ガスを流出させる2個(複数)の流出口12e1,12e2とを設けている。なお、流入口12s及び流出口12e1,12e2は、図示していないが、弁などを有し、流入及び流出を制御可能なように構成している。
【0027】
流入口12sはモード0のときに第1の円筒体11によって塞がれる、つまり、試料ガスの流入が阻止される位置に設けられている。また、流出口12e1は、モード0のときに第1の円筒体11によって塞がれ、モード1及び2のときに試料ガスの流出が可能なように設けられている。そして、流出口12e2は、モード0、1のときに第1の円筒体11によって塞がれ、モード2のときに試料ガスの流出が可能なように設けられている。
【0028】
また、図5は図2中の部分Aを拡大した拡大図であり、第1の円筒体11及び第2の円筒体12の各々には、上述したポイントP0’〜P2に位置決めするための溝11c、12cを各ポイントP0’〜P2に対応させて設けている。そして、第2の円筒体12の溝12cの各々には、ベアリング12fが外周部12aから第2の円筒体12の内部に突出させる方向に付勢するバネ12gを設けている。
【0029】
第2の円筒体12が移動されるとベアリング12fは、第2の円筒体12の溝12cに収まり、第1の円筒体11の複数の溝11cまで移動されるまでは、その溝12cに押し込められた状態となる。そして、位置決め位置まで移動されると、ベアリング12fはバネ12gの付勢力によって第1の円筒体11の溝11cに入り込み、位置決めされる。
【0030】
光源13は、印加される電圧により赤外線(熱エネルギー)の波長が変わるものとし、例えば黒体炉、電球等を用いる。そして、光源13に印可する電圧により発生する熱が変化すると、遠赤外線(熱エネルギー)の波長のピークが変化することから、光源13の温度は印加される電圧によって制御される。
【0031】
フィルタ14は、本最良の形態における試料ガスである二酸化炭素ガスの吸収波長が4.3μmであることから、その4.3μmの波長を透過する光学フィルタを用いている。
【0032】
赤外線センサ15は、焦電型赤外線センサ等を用い、後述する濃度測定装置20に接続している。この赤外線センサ15は、フィルタ14を透過した赤外線の熱を電気エネルギーに変換するもので、熱の変化時に電気エネルギーに変換してセンサ出力として濃度測定装置20に出力する。
【0033】
次に、濃度測定装置20は、予め定められたプログラムに従って動作するマイクロプロセッサ(MPU)21を有する。このMPU21は周知のように、予め定めたプログラムに従って各種の処理や制御などを行う中央演算処理装置(CPU)21a、CPU21aのためのプログラム等を格納した読み出し専用のメモリであるROM21b、各種のデータを格納するとともにCPU21aの処理作業に必要なエリアを有する読み出し書き込み自在のメモリであるRAM21c等を有して構成している。
【0034】
また、MPU21には、装置本体がオフ状態の間も記憶内容の保持が可能な電気的消去/書き換え可能な読み出し専用のメモリ22を接続している。そして、このメモリ22には、濃度の算出に必要な後述する各種情報を記憶するとともに、算出した濃度を外部から読出可能に時系列的に記憶する。
【0035】
濃度測定装置20はさらに、制御回路23と表示部24とインタフェース部25とを有し、それらはMPU21にそれぞれ接続している。この制御回路23は、MPU21からの指示に応じて光源13に印加する電圧を制御する。そして、例えば1Hzなどの所定周期光源13をON/OFFさせることで、光源13を点滅させるようにしている。
【0036】
表示部24は、LCD等が用いられ、MPU21から指示された各種情報を表示する。そして、本最良の形態では、MPU21から出力される測定セル10の最適なモード(光路長)への変更を指示する変更指示情報を表示することで、表示部24が測定者等にモードの変更を指示する構成となっている。
【0037】
インタフェース部25は、測定セル10の赤外線センサ15との接続が可能な構成となっており、赤外線センサ15が出力したセンサ出力を増幅するアンプ等を有する。そして、インタフェース部25にて増幅されたセンサ出力はMPU21に入力される。また、MPU11は、赤外線センサ15からのセンサ出力を前記所定周期に同期して取り込み、そのセンサ出力をフーリエ変換し、各周波数の電圧に変換する。したがって、1Hz時のみの電圧を参照することにより、ノイズ等の影響を最小に抑えるようにしている。
【0038】
次に、上述した構成において、測定セル10の測定室Eに充填された試料ガスを通過した赤外線には、Beer−Lambertの法則(以下、ランバート・ベールの法則という)を適用することができる。そして、光路長L、濃度C、その吸光係数αの測定セル1に波長λの入射光I0λが入射し、出射光Iλで出射する場合、ランバート・ベールの法則により以下の式が成り立つ。
ln(I0λ/Iλ)=αCL …(1)
そして、この式(1)を展開すると、以下の式が成り立つ。
Iλ=I0λe-αCL …(2)
このように式(2)より、Iλはガス濃度、光路長(長さ)に対応して、指数関数的に減少していくことが分かる。
【0039】
そして、Iλ/I0λの比と赤外線センサ15のセンサ出力PVとの間には、以下の算出式が成り立つ。
Iλ/I0λ=A*PV …(3)
この式(3)を式(1)に代入して濃度Cを求めると次の式となる。
C=ln(A*PV)/αL …(4)
式(4)中のA、α、Lは既知の値であることから、これらを一式にまとめ、実験より濃度Cに対応したセンサ出力PVを測定し、その回帰式より係数βを求めることで、次の式となる。
C=β*PV …(5)
【0040】
よって、式(5)を示す濃度算出情報をROM21bに予め記憶しておき、CPU21aは赤外線センサ15からRAM21c等に取り込んだセンサ出力を濃度算出情報に代入することによって濃度を算出するようにしている。
【0041】
メモリ22には、予め定められた測定セル10における上述したポイントP0’〜P2(複数の異なる光路長)で赤外線センサ15が検出した赤外線の強度を示すセンサ出力に基づいて、測定セル10に充填された試料ガスの濃度に適したポイントP0’〜P2(光路長)を特定する特定情報を記憶していることから、メモリ22が請求項中の特定情報記憶手段として機能している。
【0042】
例えば、本最良の形態では、ポイントP0’とポイントP2で赤外線センサ15が検出した赤外線の強度を示すセンサ出力PV2、PV0の比(PV2/PV0)に基づいて濃度を算出する算出式と、この濃度に対応するポイントP0’〜P2とを対応させたテーブルとを特定情報として記憶する場合について説明する。
【0043】
ポイントP0’の場合、式(2)の光路長Lに”0”を代入することにより、入射光I0λと出射光Iλの比は”1”となり、光源13の赤外線がガス濃度と関係なくセンサ出力となり、光源13の劣化及び環境による赤外線の変動等にのみ関係することから、二酸化炭素濃度を測る際の基準として利用することができる。
【0044】
そして、その基準のセンサ出力をKとし、式(5)を変形してβ*PV/Kに基づいて、環境等の変動を補正して濃度を算出する算出式は、実験により次の式として導き出される。なお、β*PV/Kを引数Xとする。
F(X)=C0+A*e(X-X0)/t …(6)
但し、C0、A、X0、tは定数。
【0045】
式(6)に光源13の変化、及び周囲環境による変動をδで表すと、β*PV*δ/K*δで表され、分母、分子に同様に影響することから、δは相殺されて光源13の変化及び周囲環境の変動の影響を受けないことになる。なお、基準のセンサ出力を用いることで、従来の構成に必要であった試料ガスの影響を受けない基準の赤外線のセンサ出力を得るための参照用のフィルタを構成から排除することができる。
【0046】
よって、本最良の形態では、式(6)に相当する算出プログラムを特定情報として記憶しておき、赤外線センサ15から取り込んだセンサ出力PV2、PV0(Kに相当)からβ*PV2/PV0を引数として前記算出プログラムを実行する(呼び出す)ようにしている。そして、この算出プログラムは、算出結果である濃度をRAM21cの予め定められた領域に記憶する。
【0047】
図6は濃度算出装置(光路長設定支援装置)のCPUが実行する本発明に係る処理概要の一例を示すフローチャートであり、図6に示すフローチャートを参照して二酸化炭素ガス(試料ガス)の濃度の算出例を説明する。
【0048】
ステップS1において、測定セル10のモード2への変更を指示するための変更指示情報が生成されて表示部24に出力されることで、表示部24にモード2への変更を指示する指示画面が表示され、その後ステップS2に進む。
【0049】
ステップS2(センサ出力取込手段)において、表示部24におけるモード2への指示画面の表示に応じて、予め定められた所定電圧による電圧制御が制御回路13に指示されることで、光源2は赤外線を発し、測定セル10の測定室Eを通過した赤外線を検出した赤外線センサ15が出力したセンサ出力PV2が取り込まれ、モード2(光路長)に関連付けられてRAM21cに記憶され、その後ステップS3に進む。
【0050】
ステップS3において、測定セル10のモード0への変更を指示するための変更指示情報が生成されて表示部24に出力されることで、表示部24にモード0への変更を指示する指示画面が表示され、その後ステップS4に進む。
【0051】
ステップS4(センサ出力取込手段)において、表示部24におけるモード0への指示画面の表示に応じて、予め定められた所定電圧による電圧制御が制御回路13に指示されることで、光源2が発した赤外線を検出した赤外線センサ15が出力したセンサ出力PV0が取り込まれ、モード0(光路長)に関連付けられてRAM21cに記憶され、その後ステップS5に進む。
【0052】
ステップS5(光路長特定手段)において、RAM21cのセンサ出力PV2、PV0に基づいて上述した引数であるβ*PV2/PV0を算出し、この値を引数としてメモり22の算出プログラムが実行され、RAM21cに算出された濃度と特定情報のテーブルとに基づいて最適モードが特定され、その特定されたモードがRAM21cに記憶され、その後ステップS6に進む。
【0053】
ステップS6(光路長変更指示手段)において、RAM21cのモードに測定セル10のモード変更を指示するための変更指示情報が生成されて表示部24に出力されることで、表示部24にモード変更を指示する指示画面が表示され、その後ステップS7に進む。なお、光路長の変更指示の方法については、音声で指示する、表示と音声で指示するなど種々異なる形態とすることができる。また、測定セル10の光路長の変更が駆動装置等によって自動的に行う場合は、その駆動装置等に変更を指示することになる。
【0054】
ステップS7において、図示しない入力部、接続部等から入力データに基づいて、測定セル11のモード変更が完了したか否かが判定される。モード変更が完了していないと判定された場合は(S7でN)、この判定処理を繰り返すことで、モード変更の完了を待つ。一方、モード変更が完了したと判定された場合は(S7でY)、ステップS8に進む。
【0055】
ステップS8において、予め定められた所定電圧による電圧制御が制御回路13に指示されることで、光源2は赤外線を発し、測定セル10の測定室Eを通過した赤外線を検出した赤外線センサ15が出力したセンサ出力PVが取り込まれてRAM21cに記憶され、その後ステップS9に進む。
【0056】
ステップS9において、ROM21bに記憶している前記濃度算出情報にRAM21cのセンサ出力PVが代入されて試料ガスの濃度が算出されてRAM21cに記憶され、ステップS10において、RAM21cの濃度を表示部24に出力するための濃度情報が生成されて表示部24に出力されることで、表示部24に試料ガスの濃度が表示され、その後処理を終了する。
【0057】
以上の説明からも明らかなように、濃度測定装置10のCPU11aが、特許請求の範囲に記載のセンサ出力取込手段、光路長特定手段、及び光路長変更指示手段として機能している。
【0058】
次に、上述した構成の濃度測定装置(光路長設定支援装置)20を用いた濃度測定システム1の本実施の形態の動作(作用)の一例を、以下に説明する。
【0059】
濃度が未知の二酸化炭素ガスの濃度を測定するに当たり、まず、濃度測定装置20が測定セル10のモード2への変更を指示すると、測定者等はモード2に対応したポイントP2まで第1の円筒体11を移動させることで、測定セル10の光路長Lを設定し、測定セル10の測定室Eに二酸化炭素ガスを充填する。そして、濃度測定装置20は、光源13に所定電圧を印加し、光源13が発した赤外線が測定セル10の測定室Eを通過し、フィルタ14を透過した赤外線が赤外線センサ15によって検出される。そして、この赤外線センサ15のセンサ出力PV2は、測定セル10の光路長Lに関連付けられて濃度測定装置20に取り込まれる。
【0060】
濃度測定装置20が測定セル10のモード0への変更を指示すると、測定者等は測定セル10の測定室Eから二酸化炭素ガスを外部に流出させ、モード0に対応したポイント0’まで第1の円筒体11を移動させることで、測定セル10の光路長Lを設定する。そして、そして、濃度測定装置20は、光源13に所定電圧を印加することで、光源13が発した赤外線はフィルタ14を透過して赤外線センサ15によって検出される。そして、この赤外線センサ15のセンサ出力PV0は、測定セル10の光路長Lに関連付けられて濃度測定装置20に取り込まれる。
【0061】
濃度測定装置20は、センサ出力PV2,PV0とメモリ22の特定情報とに基づいて測定セル10の最適モードを特定すると、この最適モードへの変更を表示部24によって測定者等に指示する。例えば、最適モードがモード1の場合、測定者等はモード1に対応したポイントP1まで第1の円筒体11を移動させることで、測定セル10の光路長Lを設定し、測定セル10の測定室Eに二酸化炭素ガスを充填する。
【0062】
そして、測定準備の完了に応じて濃度測定装置20は、光源13に所定電圧を印加することで、光源13が発した赤外線はフィルタ14を透過して赤外線センサ15によって検出され、この赤外線センサ15のセンサ出力PVは、濃度測定装置20に取り込まれる。そして、濃度測定装置20は、取り込んだセンサ出力PVとROM21bの濃度算出情報とに基づいて濃度を算出し、この濃度をRAM21cに記憶すると共に表示部24に表示する。
【0063】
以上説明したように、濃度測定装置(光路長設定支援装置)20によれば、測定セル10における複数の異なる光路長Lに対応した赤外線センサ15のセンサ出力に基づいて、測定セル10に充填された二酸化炭素ガス(試料ガス)の濃度範囲に適した光路長Lを特定するための特定情報を予め記憶しておき、試料ガスが充填された測定セル10の複数の異なる光路長Lに対応して赤外線センサ15が実際に測定した際のセンサ出力を取り込み、それらのセンサ出力と特定情報とに基づいて試料ガスの濃度範囲に適した光路長Lを特定して測定セル10の設定を指示するようにしたことから、測定者等はその指示に基づいて測定セル10の光路長Lを設定することで、試料ガスの濃度が未知であってもその濃度範囲に適した光路長とすることができる。従って、試料ガスの濃度範囲に適した光路長Lの測定セル10でその濃度を測定することができるため、測定精度の向上に貢献することができる。
【0064】
また、測定セル10における複数の異なる光路長Lの中の1つを、赤外線が二酸化炭素ガス(試料ガス)に吸収されないように光路長Lを設定するようにしたことから、赤外線センサ15が検出する赤外線は試料ガスの濃度に関係なく、光源の劣化及び環境による赤外線の変動等に関係した基準のセンサ出力となるため、光源13の劣化、環境による変動等を考慮して光路長Lを特定することができ、経年変化による測定精度の低下を軽減することができる。従って、試料ガスの濃度範囲により一層適した光路長Lの測定セル10でその濃度を測定することができるため、測定精度の向上に貢献することができる。
【0065】
本発明の濃度測定システム1によれば、濃度測定装置(光路長設定支援装置)20の指示によって測定セル10の光路長Lが設定されると、その測定セル10を通過した赤外線の検出に応じた赤外線センサ15のセンサ出力に基づいて試料ガスの濃度を測定するようにしたことから、試料ガスの濃度範囲に適した光路長Lに設定された測定セル10で試料ガスの濃度を測定することができるため、試料ガスの濃度を精度良く検出することができる。また、複数の異なる光路長Lの中の1つの光路長Lが基準となるように設定することで、試料ガスが赤外線を吸収する吸収帯域に対応したフィルタ14のみを用いれば良くなるため、濃度測定システム1のコストダウンを図ることができる。
【0066】
なお、上述した本最良の形態では、モード2,0のときに取り込んだ各センサ出力と特定情報とに基づいて試料ガスの濃度範囲に適したモード(光路長)を特定する場合について説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、モード2,1,0やそれ以上のポイントで検出した各センサ出力と特定情報とから特定するなど種々異なる形態とすることができる。
【0067】
また、上述した本最良の形態では、検出した信号をフーリエ変換した濃度換算データを使う場合について説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、検出した信号の波形のピークツーピーク(最高値−最低値=波形の幅)等に基づいた濃度換算データを使うなど種々異なる形態とすることができる。
【0068】
さらに、上述した本最良の形態では、本発明の光路長設定支援装置を濃度測定装置20に組み込んだ場合について説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、光路長設定支援装置を単独の装置として実現するなど種々異なる形態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の光路長設定支援装置及び濃度測定システムの基本構成を示す構成図である。
【図2】本発明の光路長設定支援装置及び濃度測定システムの概略構成を示す構成図である。
【図3】測定セルのモード1を説明するための図である。
【図4】測定セルのモード0を説明するための図である。
【図5】図2中の部分Aを拡大した拡大図である。
【図6】濃度算出装置(光路長設定支援装置)のCPUが実行する本発明に係る処理外傷の一例を示すフローチャートである。
【図7】従来の気体濃度測定装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 濃度測定システム
2 光路長設定支援装置
10 測定セル
13 光源
14 フィルタ
15 赤外線センサ
20 濃度測定装置
21a センサ出力取込手段(CPU)
21b 光路長特定手段(CPU)
21c 光路長変更指示手段(CPU)
22 特定情報記憶手段(メモリ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側に赤外線を発する光源を配置し、かつ、他方側に前記赤外線を吸収する試料ガスの吸収帯に応じた波長を透過するフィルタと該フィルタを透過した赤外線の強度を検出する赤外線センサとを順次配置し、前記光源から前記フィルタ又は前記赤外線センサまでの光路長が伸縮自在に設定可能な測定セルを用いて前記試料ガスの濃度を測定するに当たり、前記測定セルの光路長の設定を支援する光路長設定支援装置であって、
予め定められた前記測定セルにおける複数の異なる光路長で前記赤外線センサが検出した前記赤外線の強度を示すセンサ出力に基づいて、前記測定セルに充填された試料ガスの濃度範囲に適した前記光路長を特定する特定情報を記憶する特定情報記憶手段と、
前記複数の異なる光路長に対応して前記赤外線センサが出力したセンサ出力を当該光路長に関連付けて取り込むセンサ出力取込手段と、
前記センサ出力取込手段が取り込んだセンサ出力と前記特定情報記憶手段が記憶している特定情報とに基づいて前記試料ガスの濃度範囲に適した光路長を特定する光路長特定手段と、
前記光路長特定手段が特定した光路長に前記測定セルの変更を指示する光路長変更指示手段と、
を備えることを特徴とする光路長設定支援装置。
【請求項2】
前記複数の異なる光路長の中の少なくとも1つを、前記測定セルを通過する前記赤外線が前記試料ガスに吸収されない光路長となるように設定したことを特徴とする請求項1に記載の光路長設定支援装置。
【請求項3】
赤外線を発する光源と、試料ガスが前記赤外線を吸収する波長を透過するフィルタと、該フィルタを透過した赤外線の強度を検出してその強度を示すセンサ信号を出力する赤外線センサと、一方側の端部に前記光源を配置し、かつ、他方側の端部に前記フィルタと該フィルタを透過した赤外線の強度を検出する前記赤外線センサとを順次配置し、前記光源から前記フィルタ又は前記赤外線センサまでの光路長が変更可能な測定セルと、前記赤外線センサが出力したセンサ出力に基づいて前記試料ガスの濃度を測定する濃度測定装置と、を備える濃度測定システムにおいて、
請求項1又は2に記載の光路長設定支援装置をさらに備え、
前記濃度測定装置は、前記光路長設定支援装置の光路長変更指示手段が変更を指示した光路長に変更された前記測定セルに前記試料ガスが充填されると、当該測定セルを通過して前記フィルタを透過した前記光源からの赤外線の強度を検出した前記赤外線センサのセンサ出力に基づいて前記試料ガスの濃度を測定するようにした
ことを特徴とする濃度測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−153543(P2006−153543A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341782(P2004−341782)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】