説明

光送信機及び方法、光受信機及び方法、光送受信装置及び方法、並びに光伝送システム

【課題】誘導ブリルアン散乱による影響を低減することにより更なる長距離伝送を可能とする光伝送システム等を提供する。
【解決手段】光送信機30は、それぞれ異なる波長のレーザ光311〜31nを出力する複数の半導体レーザ321〜32nと、半導体レーザ321〜32nから出力されたレーザ光311〜31nに対して、同じ電気信号33に基づいて同じ変調を施すことにより、複数の光信号341〜34nとして出力する変調器35と、変調器35から出力された光信号341〜34nを一つの光信号21に合波して光ファイバ伝送路11へ出力する合波器36とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ伝送路を介して光信号を送る光送信機及び方法、光ファイバ伝送路を介して光信号を受ける光受信機及び方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信は、光ファイバの低損失性、広帯域性、無誘導性等の特徴により、長距離かつ大容量の伝送通信システムとして広く普及している。図5は、関連技術における光伝送システムを示すブロック図である。以下、この図面に基づき説明する。
【0003】
光伝送システム10Aは、光トランシーバ80,90と、光トランシーバ80,90を結ぶ光ファイバ伝送路11と、光ファイバ伝送路11の途中に設けられ光トランシーバ80,90から出力された光信号81,91を増幅して出力する光アンプ82,92とを備えている。
【0004】
光トランシーバ80は、単一の波長のレーザ光83を出力する半導体レーザ84と、半導体レーザ84から出力されたレーザ光83に対して電気信号85に基づいて変調を施すことにより光信号81として出力する変調器86と、光ファイバ伝送路11から送られてきた光信号91を電気信号87に変換する受信回路88とを備えている。図面では、半導体レーザをLD(Laser Diode)と略記する。
【0005】
同様に、光トランシーバ90は、単一の波長のレーザ光93を出力する半導体レーザ94と、半導体レーザ94から出力されたレーザ光93に対して電気信号95に基づいて変調を施すことにより光信号91として出力する変調器96と、光ファイバ伝送路11から送られてきた光信号81を電気信号97に変換する受信回路98とを備えている。以下に更に詳しく説明する。
【0006】
光伝送システム10Aは、長距離伝送を行うためのものである。光トランシーバ80,90は、通信を行いたい両端の装置内等に設置される。光トランシーバ80は、単一の波長光を発する半導体レーザ84と、この光を元にユーザ装置側から入力した電気信号85によって変調を行う変調器86と、対向する光トランシーバ90から受信した光信号91を電気信号87に変換する受信回路88とから構成される。変調器86からは変調された光信号81が出力される。光信号81は、光トランシーバ80外の光アンプ82に入力され、長距離伝送を行うために高出力パワーで発光するよう増幅され、対向する光トランシーバ90へ向けて出力される。この光信号81は、対向する光トランシーバ90の受信回路98に入力され、電気信号97に変換される。最終的に、電気信号97は対向ユーザ装置へ出力される。光トランシーバ90も、光トランシーバ80と同様の構成である。
【0007】
また、特許文献1には、分散を有する光ファイバを伝搬して歪みを受けた光信号の波形整形を行う光分散等化回路が開示されている。この光分散等化回路は、1本の入力導波路、第1のスラブ導波路、所定の導波路長差で順次長くなる複数本の導波路からなる第1の導波路アレイ、第2のスラブ導波路、複数本の出力導波路を順次接続した構造の第1のアレイ導波路回折格子および同様の構造の第2のアレイ導波路回折格子と、所定の遅延時間を与える導波路長差で順次長くなる複数本の導波路からなり、第1のアレイ導波路回折格子の出力導波路と第2のアレイ導波路回折格子の出力導波路を接続する第2の導波路アレイとを備え、第1のアレイ導波路回折格子の入力導波路に光信号を入力し、第2のアレイ導波路回折格子の入力導波路から光信号を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−104137号公報(要約等)
【特許文献2】特開2005−33584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、関連技術の光伝送システムでは、長距離伝送を行う場合、光ファイバ伝送路において高出力型の光アンプによって光信号を増幅している。しかし、光信号を増幅する際、光出力パワーの大きさに比例して、誘導ブリルアン散乱の影響が増大することにより、光信号の状態が不安定となるので、正常な伝送が困難となる。
【0010】
誘導ブリルアン散乱とは、水や結晶等の媒質中で光が密度の変化と相互作用して生じる散乱のことである。誘導ブリルアン散乱の影響によって、光の経路と周波数が変化する。また、誘導ブリルアン散乱は、大強度のレーザ光が光ファイバ等の媒質を伝播する際に、電場振動を発生させるとともに、電気歪み効果により媒質に音響振動を発生させる。この振動の影響から、レーザ光は、入射された方向とは反対の向きに散乱されることになる。誘導ブリルアン散乱は、スペクトル線幅の広いレーザ光では起こりにくく、逆にスペクトル線幅の狭いレーザ光では起こりやすい(例えば特許文献2参照)。
【0011】
関連技術の光伝送システムにおいて長距離かつ高速の伝送を行う際には、スペクトル線幅の狭いレーザ光を使用し、光アンプにおいて高い光出力パワーで増幅することにより、距離を伸ばすことが可能である。しかし、この誘導ブリルアン散乱によってレーザ光の強度が制限されることから、光アンプでの増幅率が制限されるという課題がある。
【0012】
一方、特許文献1の光分散等化回路は、単に「分散」による波形歪み(広がり等)を補償することを目的に考えられたものである。ここで言う分散は、光業界では一般的に「波長分散」と呼ばれている。これは、光の波長によって伝搬する速度が異なるために生じる分散であり、その発生の原理から材料分散と構造分散に分けられる。材料分散とは、ガラスの屈折率が伝送する光の波長によって異なることに起因する波形の広がりのことである。構造分散とは、光の全反射の際にクラッド側へしみ出す度合いが波長の違いによって異なることに起因する、波形の広がりのことである。特許文献1の光分散等化回路は、この波長分散の影響を抑えるために考えられたものである。したがって、単に特許文献1の光分散等化回路を用いただけでは、誘導ブリルアン散乱の影響を抑えることはできない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、誘導ブリルアン散乱による影響を低減することにより更なる長距離伝送を可能とする光伝送システム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る光送信機は、
光ファイバ伝送路を介して光信号を送る光送信機において、
それぞれ異なる波長のレーザ光を出力する複数のレーザ素子と、
これらのレーザ素子から出力された複数のレーザ光に対して、同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより、複数の光信号として出力する変調器と、
この変調器から出力された複数の光信号を一つの光信号に合波して前記光ファイバ伝送路へ出力する合波器と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る光受信機は、
光ファイバ伝送路を介して光信号を受ける光受信機において、
前記光信号は、異なる波長の複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより生成された複数の光信号が合波されたものであり、
前記光ファイバ伝送路から送られてきた前記光信号を各波長ごとに複数の光信号に分波し、これらの光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより前記複数の光信号の受信時刻を同じにし、受信時刻が同じになった前記複数の光信号を一つの光信号に合波して出力する遅延制御部と、
この遅延制御部から出力された前記一つの光信号を電気信号に変換する受信回路と、
を備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る光送受信装置は、
他の光送受信装置へ前記光ファイバ伝送路を介して前記光信号を送る本発明に係る光送信機と、
他の光送受信装置から前記光ファイバ伝送路を介して前記光信号を受ける本発明に係る光受信機と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る光伝送システムは、
複数の本発明に係る光送受信装置と、
これらの光送受信装置を結ぶ前記光ファイバ伝送路と、
前記光ファイバ伝送路の途中に設けられ、前記光送受信装置から出力された前記光信号を増幅して出力する光アンプと、
を備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る光送信方法は、
光ファイバ伝送路を介して光信号を送る光送信方法において、
異なる波長の複数のレーザ光を同時に生成し、
これらの複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより複数の光信号を生成し、
これらの光信号を一つの光信号に合波して前記光ファイバ伝送路へ出力する、
ことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る光受信方法は、
光ファイバ伝送路を介して光信号を受ける光受信方法において、
前記光信号は、異なる波長の複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより生成された複数の光信号が合波されたものであり、
前記光ファイバ伝送路から送られてきた前記光信号を各波長ごとに複数の光信号に分波し、
これらの光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより前記複数の光信号の受信時刻を同じにし、
受信時刻が同じになった前記複数の光信号を一つの光信号に合波し、
合波された前記一つの光信号を電気信号に変換する、
ことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る光送受信方法は、
光ファイバ伝送路を介して光信号を送受信する光送受信方法において、
異なる波長の複数のレーザ光を同時に生成し、
これらの複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより複数の光信号を生成し、
これらの光信号を一つの光信号に合波して前記光ファイバ伝送路へ出力し、
前記光ファイバ伝送路から送られてきた前記光信号を各波長ごとに複数の光信号に分波し、
これらの光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより前記複数の光信号の受信時刻を同じにし、
受信時刻が同じになった前記複数の光信号を一つの光信号に合波し、
合波された前記一つの光信号を電気信号に変換する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、波長の異なる複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施して複数の光信号を生成し、これらの光信号を合波して一つの光信号として光ファイバ伝送路へ出力することにより、実質的にスペクトル線幅の広いレーザ光を用いたことになるので、誘導ブリルアン散乱の影響を抑えることができる。これにより、光ファイバ伝送路を伝わる信号光の強さの上限が緩和されるので、光アンプの増幅率を上げることができ、その結果更なる長距離伝送が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る光伝送システム等の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1における遅延制御部の一例を示す概略平面図である。
【図3】本発明に係る光送信方法の一実施形態を示す流れ図である。
【図4】本発明に係る光受信方法の一実施形態を示す流れ図である。
【図5】関連技術における光伝送システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)について説明する。本実施形態では、光送受信装置の一例として光トランシーバ、レーザ素子の一例として半導体レーザを採り上げる。
【0024】
図1は、本発明に係る光伝送システム等の一実施形態を示すブロック図である。図2は、図1における遅延制御部の一例を示す概略平面図である。以下、これらの図面に基づき説明する。
【0025】
まず、本実施形態の光伝送システム10、光トランシーバ20,50、光送信機30,60及び光受信機40,70について説明する。
【0026】
図1に示すように、光伝送システム10は、複数の光トランシーバ20,50と、光トランシーバ20,50を結ぶ光ファイバ伝送路11と、光ファイバ伝送路11の途中に設けられ、光トランシーバ20,50から出力された光信号21,51をそれぞれ増幅して出力する光アンプ22,52とを備えている。
【0027】
光トランシーバ20は、他の光トランシーバ50へ光ファイバ伝送路11を介して光信号21を送る光送信機30と、他の光トランシーバ50から光ファイバ伝送路11を介して光信号51を受ける光受信機40とを備えている。同様に、光トランシーバ50は、他の光トランシーバ20へ光ファイバ伝送路11を介して光信号51を送る光送信機60と、他の光トランシーバ20から光ファイバ伝送路11を介して光信号21を受ける光受信機70とを備えている。
【0028】
光送信機30は、それぞれ異なる波長のレーザ光311〜31nを出力する複数の半導体レーザ321〜32nと、半導体レーザ321〜32nから出力されたレーザ光311〜31nに対して、同じ電気信号33に基づいて同じ変調を施すことにより、複数の光信号341〜34nとして出力する変調器35と、変調器35から出力された光信号341〜34nを一つの光信号21に合波して光ファイバ伝送路11へ出力する合波器36とを備えている。
【0029】
誘導ブリルアン散乱は、スペクトル線幅の狭いレーザ光では起こりやすく、逆にスペクトル線幅の広いレーザ光では起こりにくい、という性質がある。本発明者は、この性質を巧みに利用することにより、誘導ブリルアン散乱の影響を抑えることに思い至った。すなわち、関連技術では単一の波長のレーザ光を用いるのに対し、本発明では波長の異なる複数のレーザ光を用いる。そして、光送信機30は、波長の異なる複数のレーザ光311〜31nに対して同じ電気信号33に基づいて同じ変調を施して複数の光信号341〜34nを生成し、光信号341〜34nを合波して一つの光信号21として光ファイバ伝送路11へ出力する。つまり、実質的にスペクトル線幅の広いレーザ光を用いたことになるので、誘導ブリルアン散乱の影響を抑えることができる。これにより、光ファイバ伝送路11を伝わる信号光21の強さの上限が緩和されるので、光アンプ22の増幅率を上げることができ、その結果更なる長距離伝送が可能となる。
【0030】
同様に、光送信機60は、それぞれ異なる波長のレーザ光611〜61nを出力する複数の半導体レーザ621〜62nと、半導体レーザ621〜62nから出力されたレーザ光611〜61nに対して、同じ電気信号63に基づいて同じ変調を施すことにより、複数の光信号641〜64nとして出力する変調器65と、変調器65から出力された光信号641〜64nを一つの光信号51に合波して光ファイバ伝送路11へ出力する合波器66とを備えている。
【0031】
光受信機40は、光ファイバ伝送路11から送られてきた光信号51を各波長ごとに複数の光信号に分波し、複数の光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより複数の光信号の受信時刻を同じにし、受信時刻が同じになった複数の光信号を一つの光信号42に合波して出力する遅延制御部43と、遅延制御部43から出力された光信号42を電気信号45に変換する受信回路44とを備えている。
【0032】
光ファイバ伝送路11から送られてきた光信号51は、複数の光信号641〜64nが合波されたものである。これらの光信号641〜64nは、異なる波長の複数のレーザ光611〜61nに対して同じ電気信号63に基づいて同じ変調を施すことにより、生成されたものである。一方、光ファイバ伝送路11を伝わる信号光51の速度は、波長に応じて異なる。そのため、長距離の光ファイバ伝送路11を伝わってきた光信号51に含まれる複数の光信号は、それぞれ受信時刻が異なることになる。そこで、光受信機40は、光ファイバ伝送路11から送られてきた光信号51を各波長ごとに複数の光信号に分波し、これらの光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより、複数の光信号の受信時刻を同じにする。したがって、誘導ブリルアン散乱の影響を抑えた信号光51を受信した場合に、波長による遅延時間差を解消できるので、より高精度の長距離伝送が可能になる。
【0033】
同様に、光受信機70は、光ファイバ伝送路11から送られてきた光信号21を各波長ごとに複数の光信号711〜71n(図2)に分波し、光信号711〜71nにそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより光信号711〜71nの受信時刻を同じにし、受信時刻が同じになった光信号711〜71nを一つの光信号72に合波して出力する遅延制御部73と、遅延制御部73から出力された光信号72を電気信号75に変換する受信回路74とを備えている。
【0034】
図2に示すように、遅延制御部73は、光ファイバ伝送路11から送られてきた光信号21を各波長ごとに複数の光信号711〜71nに分波する分波器731と、光信号711〜71nに対応する異なる長さの複数の導波路761〜76nからなり、各導波路761〜76nがそれぞれに対応する光信号711〜71nを通過させることにより、光信号711〜71nの受信時刻を同じにする導波路アレイ732と、受信時刻が同じになった光信号711〜71nを一つの光信号72に合波して出力する合波器733とを備えている。遅延制御部43も、遅延制御部73と同様の構成である。
【0035】
分波器731及び合波器733は、例えばアレイ導波路グレーティング(AWG:Arrayed Waveguide Grating)であり、導波路アレイ732とともに平面光波回路(PLC:Planer Lightwave Circuit)734として形成してもよい。
【0036】
次に、本実施形態の光送信方法、光受信方法及び光送受信方法について説明する。図3は本実施形態の光送信方法の一例を示す流れ図であり、図4は本実施形態の光受信方法の一例を示す流れ図である。以下、図1乃至図4に基づき説明する。
【0037】
本実施形態の光送信方法、光受信方法及び光送受信方法は、それぞれ光送信機30,60、光受信機40,70及び光トランシーバ20,50の動作を方法の発明として捉えたものである。
【0038】
本実施形態の光送信方法は、光ファイバ伝送路11を介して光信号21を送る光送信方法であり、次のステップを含む。異なる波長の複数のレーザ光321〜32nを、同時に生成する(ステップ101)。レーザ光321〜32nに対して、同じ電気信号33に基づいて同じ変調を施すことにより、複数の光信号341〜34nを生成する(ステップ102)。光信号341〜34nを一つの光信号21に合波して光ファイバ伝送路11へ出力する(ステップ103)。
【0039】
本実施形態の光受信方法は、光ファイバ伝送路11を介して光信号21を受ける光受信方法であり、次のステップを含む。前提として、光信号21は、異なる波長の複数のレーザ光311〜31nに対して同じ電気信号33に基づいて同じ変調を施すことにより生成された複数の光信号341〜34nが合波されたものである。光ファイバ伝送路11から送られてきた光信号21を、各波長ごとに複数の光信号711〜71nに分波する(ステップ201)。光信号711〜71nにそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより、光信号711〜71nの受信時刻を同じにする(ステップ202)。受信時刻が同じになった光信号711〜71nを一つの光信号72に合波する(ステップ203)。合波された光信号72を電気信号75に変換する(ステップ204)。
【0040】
本実施形態の光受信方法は、本実施形態の光送信方法と本実施形態の光受信方法とを組み合わせて、光ファイバ伝送路11を介して光信号21を送受信する光送受信方法であり、次のステップを含む。異なる波長の複数のレーザ光321〜32nを、同時に生成する(ステップ101)。レーザ光321〜32nに対して、同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより、複数の光信号341〜34nを生成する(ステップ102)。光信号341〜34nを一つの光信号21に合波して光ファイバ伝送路11へ出力する(ステップ103)。光ファイバ伝送路11から送られてきた光信号21を、各波長ごとに複数の光信号711〜71nに分波する(ステップ201)。光信号711〜71nにそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより、光信号711〜71nの受信時刻を同じにする(ステップ202)。受信時刻が同じになった光信号711〜71nを一つの光信号72に合波する(ステップ203)。合波された光信号72を電気信号75に変換する(ステップ204)。
【0041】
また、ステップ202において、光信号711〜71nに対応する異なる長さの複数の導波路761〜76nを用い、各導波路761〜76nにそれぞれに対応する光信号711〜71nを通過させることにより、光信号711〜71nの受信時刻を同じにしてもよい。
【0042】
本実施形態の光送信方法、光受信方法及び光送受信方法も、光送信機30,60、光受信機40,70及び光トランシーバ20,50と同様の作用及び効果を奏する。
【0043】
以下に、本実施形態について更に詳しく説明する。
【0044】
図1に示す光伝送システム10は、光通信での長距離伝送に用いられる。本実施形態では、光トランシーバ20と光トランシーバ50とが対向して送受信する。ユーザの装置等に搭載された光トランシーバ20は、送信光波長の異なる半導体レーザ321〜32nと、半導体レーザ321〜32nから発したレーザ光311〜331nを、ユーザ側装置から入力した電気信号33を元にそれぞれ個別に変調する変調器35と、変調器35から出力された複数の光信号341〜34nを一つの光信号21として合波する合波器36と、対向する光トランシーバ50から受信する光信号51を受信し、波長の異なる光信号間の遅延状態を揃える制御を行う遅延制御部43と、遅延制御部43から出力された光信号42を電気信号45に変換する受信回路44とを有する。光アンプ22は、合波器36から出力された光信号21を入力し、高い出力パワーを持つ光信号に増幅し出力する。
【0045】
波長の異なる光信号341〜34nが合波され多重化された光信号21は、波長毎に屈折率が異なるため、光ファイバ伝送路11中を伝送する中で、波長成分毎に異なる遅延が発生することになる。遅延制御部73は、光アンプ22から出力された光信号21を入力し、光信号21に含まれる波長成分毎の遅延差を吸収できる構成になっている。すなわち、図2に示すように、遅延制御部73は、入力した光信号21を波長毎に分波して光信号711〜71nを得る分波器731と、それぞれ長さが異なる複数の導波路761〜76nと、導波路761〜76nを通過した光信号711〜71nを合波する合波器とを有する。導波路761〜76nは、光トランシーバ20に搭載されている半導体レーザ321〜32nにそれぞれ対応するように、光トランシーバ50に実装される。また、合波された光信号72は、受信回路74に入力され、最終的な電気信号75としてユーザ側装置に提供される。
【0046】
光トランシーバ20と光トランシーバ50とはともに同じ構成を有するが、以下、光トランシーバ20の動作を中心に説明する。
【0047】
図1において、半導体レーザ321〜32nから出力された波長の異なる複数のレーザ光311〜31nは、ユーザ側装置から入力した電気信号33に基づいて、変調器35に入力され変調処理を施される。変調器35については、現在一般的に使用されているLN(LiNbO3)変調器と呼ばれるニオブ酸リチウム光変調器や、EA(Electro Absorption)変調器と呼ばれる電界吸収型半導体変調器等を用いればよい。変調された複数波長の光信号341〜34nは、合波器36において波長多重され、物理的に一本の光ファイバ伝送路11へ出力される。この波長多重信号である光信号21は、光アンプ22において光出力パワーを持つ光信号として増幅され、長距離用の光ファイバ伝送路11を伝送される。伝送された光波長多重信号である光信号21は、対向する光トランシーバ50における遅延制御部73で受信される。遅延制御部73では、受信された光信号21が、分波器731に入力され波長毎に光信号711〜71nとして分波処理される。分波処理後、波長の長さに応じて、光信号711〜71nの導波路761〜76nへの入力経路が決まる。例えば、半導体レーザ321〜32nの番号の若い順に、短い波長から長い波長となるように波長が割り振られているとする。このとき、波長が長い光信号ほど伝搬速度が速いため、分波器731に一番早く到達し入力されるのは半導体レーザ32nの波長の光信号71nである。この波長の光信号71nは経路の最も長い導波路76nに割り振られることになる。逆に半導体レーザ321の最も短い波長の光信号711は、一番遅く分波器731に到達することになるので、最も短い導波路761を経由することになる。この経路長により遅延調整された各波長毎の光信号711〜71nがタイミングを合わせて合波器733に入力され、合波器733から波長多重された光信号72として出力される。この光信号72は、受信回路74に入力され電気信号75に変換され、最終的な信号としてユーザ側装置に提供される。
【0048】
次に、本実施形態の効果について説明する。本実施形態の光伝送システム10では、光トランシーバ20,50から出力される光多重信号の光出力パワーを波長毎に割り振り分散させているため、光アンプ22,52で出力を大きく増幅させたとしても、関連技術の光伝送システムと比べ、誘導ブリルアン散乱が殆ど発生しないことになり、更なる長距離伝送が可能である。また、受信側では、光多重信号の個々の波長毎の光出力パワーの総和パワーとして入力されるため、同じ半導体レーザで同じ光出力パワーで信号送信する場合に比べ、長距離伝送が可能である。
【0049】
本実施形態では光アンプを一つだけ光ファイバ伝送路に入れた形態で説明したが、これは光アンプの数を限定するものではない。一般的な長距離光伝送システムにおいては、幾つもの光アンプが数珠繋ぎとなり、増幅を繰り返す形態となっている。通常の光伝送システムと比べ、本実施形態の光伝送システムでは使用する光アンプの数量も少なく済むことになりシステム設置費用の削減効果も大きい。また、同じ長距離を伝送する場合を考えた場合、光アンプでの増幅率を下げることが可能であり、より安価な光アンプを使用することも可能である。
【0050】
本発明について総括する。前述の通り、誘導ブリルアン散乱は、光ファイバに入射されたレーザ光の向きと反対の向きに発生し、パワーが高くなるとその影響も大きくなる。また、長距離伝送の際に使用するスペクトル線幅が狭いレーザ光では、高い光出力で長距離を飛ばしたくても、この誘導ブリルアン散乱が特に顕著に表れるので、アンプの増幅率が制限されてしまう。本発明は、光アンプを介して長距離伝送を行う構成において、光出力パワーを大きくした際に顕著に表れる「誘導ブリルアン散乱」の影響を如何に抑えるかを目的に考えられたものである。本発明は、光通信の長距離伝送において波長多重化した光信号を光トランシーバ間で送受信することにより、誘導ブリルアン散乱の発生を抑え、関連する光伝送システムと比較して、更なる長距離伝送が可能となる。すなわち、本発明は光トランシーバの長距離伝送改善方法に関する。
【0051】
以上、上記実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細については、当業者が理解し得るさまざまな変更を加えることができる。また、本発明には、上記実施形態の構成の一部を相互に適宜組み合わせたものも含まれる。
【0052】
上記実施形態の一部又は全部は以下の付記のようにも記載され得るが、本発明は以下の構成に限定されるものではない。
【0053】
[付記1]光ファイバ伝送路を介して光信号を送る光送信機において、
それぞれ異なる波長のレーザ光を出力する複数のレーザ素子と、
これらのレーザ素子から出力された複数のレーザ光に対して、同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより、複数の光信号として出力する変調器と、
この変調器から出力された複数の光信号を一つの光信号に合波して前記光ファイバ伝送路へ出力する合波器と、
を備えたことを特徴とする光送信機。
【0054】
[付記2]光ファイバ伝送路を介して光信号を受ける光受信機において、
前記光信号は、異なる波長の複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより生成された複数の光信号が合波されたものであり、
前記光ファイバ伝送路から送られてきた前記光信号を各波長ごとに複数の光信号に分波し、これらの光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより前記複数の光信号の受信時刻を同じにし、受信時刻が同じになった前記複数の光信号を一つの光信号に合波して出力する遅延制御部と、
この遅延制御部から出力された前記一つの光信号を電気信号に変換する受信回路と、
を備えたことを特徴とする光受信機。
【0055】
[付記3]付記2記載の光受信機であって、
前記遅延制御部は、
前記光ファイバ伝送路から送られてきた前記光信号を各波長ごとに複数の光信号に分波する分波器と、
前記複数の光信号に対応する異なる長さの複数の導波路からなり、各導波路がそれぞれに対応する光信号を通過させることにより、前記複数の光信号の受信時刻を同じにする導波路アレイと、
受信時刻が同じになった前記複数の光信号を一つの光信号に合波して出力する合波器と、
を備えたことを特徴とする光受信機。
【0056】
[付記4]他の光送受信装置へ前記光ファイバ伝送路を介して前記光信号を送る付記1記載の光送信機と、
他の光送受信装置から前記光ファイバ伝送路を介して前記光信号を受ける付記2又は3記載の光受信機と、
を備えたことを特徴とする光送受信装置。
【0057】
[付記5]複数の付記4記載の光送受信装置と、
これらの光送受信装置を結ぶ前記光ファイバ伝送路と、
前記光ファイバ伝送路の途中に設けられ、前記光送受信装置から出力された前記光信号を増幅して出力する光アンプと、
を備えたことを特徴とする光伝送システム。
【0058】
[付記6]光ファイバ伝送路を介して光信号を送る光送信方法において、
異なる波長の複数のレーザ光を同時に生成し、
これらの複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより複数の光信号を生成し、
これらの光信号を一つの光信号に合波して前記光ファイバ伝送路へ出力する、
ことを特徴とする光送信方法。
【0059】
[付記7]光ファイバ伝送路を介して光信号を受ける光受信方法において、
前記光信号は、異なる波長の複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより生成された複数の光信号が合波されたものであり、
前記光ファイバ伝送路から送られてきた前記光信号を各波長ごとに複数の光信号に分波し、
これらの光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより前記複数の光信号の受信時刻を同じにし、
受信時刻が同じになった前記複数の光信号を一つの光信号に合波し、
合波された前記一つの光信号を電気信号に変換する、
ことを特徴とする光受信方法。
【0060】
[付記8]光ファイバ伝送路を介して光信号を送受信する光送受信方法において、
異なる波長の複数のレーザ光を同時に生成し、
これらの複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより複数の光信号を生成し、
これらの光信号を一つの光信号に合波して前記光ファイバ伝送路へ出力し、
前記光ファイバ伝送路から送られてきた前記光信号を各波長ごとに複数の光信号に分波し、
これらの光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより前記複数の光信号の受信時刻を同じにし、
受信時刻が同じになった前記複数の光信号を一つの光信号に合波し、
合波された前記一つの光信号を電気信号に変換する、
ことを特徴とする光送受信方法。
【0061】
[付記9]付記8記載の光送受信方法であって、
前記複数の光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより前記複数の光信号の受信時刻を同じにする際に、
前記複数の光信号に対応する異なる長さの複数の導波路を用い、各導波路にそれぞれに対応する光信号を通過させることにより、前記複数の光信号の受信時刻を同じにする、
ことを特徴とする光送受信方法。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、光ファイバ伝送路を介して光信号を送受信する装置等、例えば光通信の長距離伝送システム等に利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 光伝送システム
11 光ファイバ伝送路
20 光トランシーバ
21 光信号
22 光アンプ
30 光送信機
311〜31n レーザ光
321〜32n 半導体レーザ
33 電気信号
341〜34n 光信号
35 変調器
36 合波器
40 光受信機
42 光信号
43 遅延制御部
44 受信回路
45 電気信号
50 光トランシーバ
51 光信号
52 光アンプ
60 光送信機
611〜61n レーザ光
621〜62n 半導体レーザ
63 電気信号
641〜64n 光信号
65 変調器
66 合波器
70 光受信機
711〜71n 光信号
72 光信号
73 遅延制御部
731 分波器
732 導波路アレイ
733 合波器
734 平面光波回路
74 受信回路
75 電気信号
761〜76n 導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ伝送路を介して光信号を送る光送信機において、
それぞれ異なる波長のレーザ光を出力する複数のレーザ素子と、
これらのレーザ素子から出力された複数のレーザ光に対して、同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより、複数の光信号として出力する変調器と、
この変調器から出力された複数の光信号を一つの光信号に合波して前記光ファイバ伝送路へ出力する合波器と、
を備えたことを特徴とする光送信機。
【請求項2】
光ファイバ伝送路を介して光信号を受ける光受信機において、
前記光信号は、異なる波長の複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより生成された複数の光信号が合波されたものであり、
前記光ファイバ伝送路から送られてきた前記光信号を各波長ごとに複数の光信号に分波し、これらの光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより前記複数の光信号の受信時刻を同じにし、受信時刻が同じになった前記複数の光信号を一つの光信号に合波して出力する遅延制御部と、
この遅延制御部から出力された前記一つの光信号を電気信号に変換する受信回路と、
を備えたことを特徴とする光受信機。
【請求項3】
請求項2記載の光受信機であって、
前記遅延制御部は、
前記光ファイバ伝送路から送られてきた前記光信号を各波長ごとに複数の光信号に分波する分波器と、
前記複数の光信号に対応する異なる長さの複数の導波路からなり、各導波路がそれぞれに対応する光信号を通過させることにより、前記複数の光信号の受信時刻を同じにする導波路アレイと、
受信時刻が同じになった前記複数の光信号を一つの光信号に合波して出力する合波器と、
を備えたことを特徴とする光受信機。
【請求項4】
他の光送受信装置へ前記光ファイバ伝送路を介して前記光信号を送る請求項1記載の光送信機と、
他の光送受信装置から前記光ファイバ伝送路を介して前記光信号を受ける請求項2又は3記載の光受信機と、
を備えたことを特徴とする光送受信装置。
【請求項5】
複数の請求項4記載の光送受信装置と、
これらの光送受信装置を結ぶ前記光ファイバ伝送路と、
前記光ファイバ伝送路の途中に設けられ、前記光送受信装置から出力された前記光信号を増幅して出力する光アンプと、
を備えたことを特徴とする光伝送システム。
【請求項6】
光ファイバ伝送路を介して光信号を送る光送信方法において、
異なる波長の複数のレーザ光を同時に生成し、
これらの複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより複数の光信号を生成し、
これらの光信号を一つの光信号に合波して前記光ファイバ伝送路へ出力する、
ことを特徴とする光送信方法。
【請求項7】
光ファイバ伝送路を介して光信号を受ける光受信方法において、
前記光信号は、異なる波長の複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより生成された複数の光信号が合波されたものであり、
前記光ファイバ伝送路から送られてきた前記光信号を各波長ごとに複数の光信号に分波し、
これらの光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより前記複数の光信号の受信時刻を同じにし、
受信時刻が同じになった前記複数の光信号を一つの光信号に合波し、
合波された前記一つの光信号を電気信号に変換する、
ことを特徴とする光受信方法。
【請求項8】
光ファイバ伝送路を介して光信号を送受信する光送受信方法において、
異なる波長の複数のレーザ光を同時に生成し、
これらの複数のレーザ光に対して同じ電気信号に基づいて同じ変調を施すことにより複数の光信号を生成し、
これらの光信号を一つの光信号に合波して前記光ファイバ伝送路へ出力し、
前記光ファイバ伝送路から送られてきた前記光信号を各波長ごとに複数の光信号に分波し、
これらの光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより前記複数の光信号の受信時刻を同じにし、
受信時刻が同じになった前記複数の光信号を一つの光信号に合波し、
合波された前記一つの光信号を電気信号に変換する、
ことを特徴とする光送受信方法。
【請求項9】
請求項8記載の光送受信方法であって、
前記複数の光信号にそれぞれ異なる遅延時間を付与することにより前記複数の光信号の受信時刻を同じにする際に、
前記複数の光信号に対応する異なる長さの複数の導波路を用い、各導波路にそれぞれに対応する光信号を通過させることにより、前記複数の光信号の受信時刻を同じにする、
ことを特徴とする光送受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−213043(P2012−213043A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77745(P2011−77745)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】