説明

光送信装置および光送信方法

【課題】偏波多重された信号光間の干渉により招致される伝送特性の劣化を防ぐ光送信装置を実現する。
【解決手段】送信光源2から出力される信号光3を、互いに直交する2つの偏波成分の信号光5a,5bに分離し、一方の信号光5aに対して可干渉距離以上の光路長に相当する遅延を付与した後、この遅延付与された信号光5aと信号光5bとをそれぞれ送信すべきデータ列に応じて変調してから偏波多重化して出力する。したがって、光ファイバ伝送路9に存在する偏波モード分散によって2つの偏波成分の直交関係が崩れてビート雑音成分が発生しても、偏波多重後の信号光5a,5bの相関関係が弱められてビート雑音成分が広帯域化して伝送特性の劣化を防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏波多重された信号光間の干渉により招致される伝送特性の劣化を防ぐ光送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ伝送では、伝送容量の増大を図る各種の多重化手法が開発されており、その一つとして互いに直交する偏波を用いて信号伝送する偏波多重化方式が知られている。ここで、図4を参照して偏波多重方式による光送信装置の概略構成について説明する。図4において、送信光源20は、所定波長の信号光30(例えば連続レーザ光あるいはパルスレーザ光)を発生する。偏波分離手段40は、送信光源20が発生する信号光30を互いに直交する2つの偏波成分(X偏波成分、Y偏波成分)に分離し、X偏波成分の第1の信号光50aとY偏波成分の第2の信号光50bとを発生する。
【0003】
光変調器60a、60bは、それぞれ第1の信号光50a、第2の信号光50bについて送信すべきデータ列に応じて変調する。偏波多重手段70では、光変調器60aにより変調された第1の信号光50aと、光変調器60bにより変調された第2の信号光50bとを偏波多重して出力する。偏波多重手段70から出力される信号光は、光ファイバ伝送路80を介して光受信装置側(不図示)で受信される。このような構成によれば、それぞれの偏波で独立したデータ伝送が可能になる為、原理的に伝送レートを2倍にすることが可能になる。なお、こうした偏波多重方式の光送信装置については、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−338805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に光ファイバ伝送路には光ファイバの不均一性に起因した偏波モード分散が存在し、これによって信号光の偏波モード成分間に伝播速度差が生じることが知られている。なお、光ファイバの不均一性とは、コア断面形状が真円ではなく僅かに楕円化した状態や、コアの断面方向に非等方的な応力が作用した状態を指す。
【0006】
偏波モード分散が存在すると、図4に図示した光送信装置から光ファイバ伝送路80を介して光受信装置側(不図示)に伝送される第1の信号光50aと第2の信号光50bとの直交関係が崩れる。直交関係が崩れた第1の信号光50aと第2の信号光50bとを光受信装置側で偏波分離すると、一方の偏波成分が他方の偏波成分に混入して干渉する。図5は、こうした状態の信号スペクトルを示す図である。この図に示すように、光受信装置側で偏波分離した一方の偏波成分の受信信号10に対し、他方の偏波成分の混入により干渉して生じるビート雑音成分11が重畳される。
【0007】
偏波多重手段70にて偏波多重された第1の信号光50aと第2の信号光50bとの間には強い相関関係がある為、図5に図示する通り、受信信号10に重畳されるビート雑音成分11は直流周波数付近に集中し、しかも第1の信号光50aと第2の信号光50bとの間の位相関係の微小な変動によって瞬間的に非常に大きなインパルス状の雑音となり、これが伝送特性の劣化を招致するという問題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、偏波多重された信号光間の干渉により招致される伝送特性の劣化を防ぐことができる光送信装置および光送信方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明では、光源光を互いに直交する2つの偏波成分に分離し、その一方の偏波成分である第1の信号光と他方の偏波成分である第2の信号光とを発生する偏波分離手段と、前記偏波分離手段により分離された第1の信号光を遅延して出力する光遅延手段と、前記遅延手段により遅延された第1の信号光を送信すべきデータ列に応じて変調して出力する第1の変調手段と、前記偏波分離手段により分離された第2の信号光を送信すべきデータ列に応じて変調して出力する第2の変調手段と、前記第1の変調手段から出力される第1の信号光と前記第2の変調手段から出力される第2の信号光とを偏波多重して光ファイバ伝送路へ出力する偏波多重手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、偏波多重された信号光間の干渉により招致される伝送特性の劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の一形態による光送信装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】光ファイバ伝送路を伝送した後の信号光の偏波状態を示す図である。
【図3】受信信号10に重畳されるビート雑音成分11のスペクトルを示す図である。
【図4】従来例を説明するための図である。
【図5】従来例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、実施の一形態による光送信装置1の構成を示すブロック図である。図1において、送信光源2は、レーザ光源等から構成され、所定波長の信号光3(光源光)を発生する。偏波分離手段4は、例えば偏光ビームスプリッタを用い、送信光源2から出力される信号光3を互いに直交する2つの偏波成分(垂直偏波成分、水平偏波成分)に分離し、一方の偏波成分である信号光5aと他方の偏波成分である信号光5bを発生する。
【0013】
光遅延手段6は、信号光5bに対し、信号光3(光源光)の可干渉距離以上の光路長に相当する遅延を信号光5aに付与する偏波保存光ファイバから構成される。例えば信号光3の線幅(スペクトル幅)が100MHzであれば、可干渉距離は約3mとなるので、長さ3m以上の偏波保存光ファイバを光遅延手段6として用いる。光変調器7aは、遅延付与された信号光5aに対して送信すべきデータ列に応じて変調する。光変調器7bは、信号光5bに対して送信すべきデータ列に応じて変調する。なお、本発明は光変調器7a,7bの光変調方式に依存しないので、強度変調方式、光位相変調方式、多値変調方式、OFDM方式等どのような変調方式であっても構わない。偏波多重手段8は、光変調器7aにより変調された信号光5aと、光変調器7bにより変調された信号光5bとを偏波多重し、光ファイバ伝送路9を介して光受信装置側(不図示)へ出力する。
【0014】
上記構成によれば、送信光源2から出力される信号光3を、互いに直交する2つの偏波成分の信号光5a,5bに分離する。そして、一方の信号光5aに対して可干渉距離以上の光路長に相当する遅延を付与し、この遅延付与された信号光5aと信号光5bとをそれぞれ送信すべきデータ列に応じて変調した後に偏波多重化して光ファイバ伝送路9に出力する。
【0015】
したがって、光ファイバ伝送路9に存在する偏波モード分散によって2つの偏波成分の直交状態が崩れ、これにより光受信装置側で前述のビート雑音成分11が発生しても、一方の信号光5aに対してのみ可干渉距離以上の光路長に相当する遅延を付与することによって偏波多重後の信号光5a,5bの相関関係が弱まる。偏波多重後の信号光5a,5bの相関関係が弱まると、図5に図示した一例のように、ビート雑音成分11が直流周波数付近に集中したインパルス状雑音とは成り得ず、これにより伝送特性の劣化を防ぐことが可能になる。
【0016】
ここで、図2〜図3を参照して、偏波多重後の信号光5a,5bの相関関係を弱めて伝送特性の劣化を防ぐ点について説明する。先ず図2は光ファイバ伝送路を伝送した後の信号光の偏波状態を示す図である。偏波モード分散が存在しない理想的な光ファイバ伝送路であれば、図2(a)に図示する通り、伝送後も信号光5a,5bの直交関係は保たれ、これを光受信装置側で偏波分離すると、同図(b)、(c)のように各偏波成分の信号光5a,5bを完全に分離できる。
【0017】
ところが、光ファイバ伝送路の不均一性により偏波モード分散が存在する場合には、図2(d)に図示するように、伝送後に信号光5a,5bの直交関係が崩れる。偏波面の直交関係が崩れた信号光5a,5bを光受信装置側で偏波分離した場合、例えば図2(f)に図示するように、信号光5bの成分に信号光5aの成分が混入する。この場合、信号光5bを受信して得られる受信信号10以外に、信号光5bと混入した信号光5aとが干渉してビート雑音成分11が発生する。
【0018】
受信信号10に重畳されるビート雑音成分11のスペクトルは、偏波多重後の信号光5a,5bの相関関係に依存する。信号光5aに対して可干渉距離以上の光路長に相当する遅延を付与して偏波多重後の信号光5a,5bの相関関係を弱めると、図3に図示するように、ビート雑音成分11は幅広い帯域(おおよそ信号光線幅の2倍の帯域)にわたって分布するスペクトル特性となる。この雑音スペクトルは安定しており、その大きさが許容範囲以下であれば、伝送特性に大きな影響を与えることはない。
【0019】
以上のように、本実施形態では、送信光源2から出力される信号光3を、互いに直交する2つの偏波成分の信号光5a,5bに分離し、一方の信号光5aに対して可干渉距離以上の光路長に相当する遅延を付与した後、この遅延付与された信号光5aと信号光5bとをそれぞれ送信すべきデータ列に応じて変調してから偏波多重化して出力するので、光ファイバ伝送路9に存在する偏波モード分散によって2つの偏波成分の直交状態が崩れてビート雑音成分11が発生しても、偏波多重後の信号光5a,5bの相関関係を弱めてビート雑音成分11の広帯域化を図る結果、偏波多重された信号光間の干渉により招致される伝送特性の劣化を防ぐことが可能になる。
【0020】
なお、上述した実施形態では、光変調器7aの前段に光遅延手段6を設けて信号光5aに遅延付与するようにしたが、これに限らず、光変調器7bの前段に光遅延手段6を設けて信号光5bに遅延付与する態様であっても構わない。すなわち、偏波分離され、互いに直交する2つの偏波成分の信号光の内、一方の信号光に可干渉距離以上の光路長に相当する遅延を付与して偏波多重後の両信号光間の相関関係を弱める構成であれば良い。
【符号の説明】
【0021】
1 光送信装置
2 送信光源
3 信号光
4 偏波分離手段
5a,5b 信号光
6 光遅延手段
7a,7b 光変調器
8 偏波多重手段
9 光ファイバ伝送路
10 受信信号
11 ビート雑音成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源光を互いに直交する2つの偏波成分に分離し、その一方の偏波成分である第1の信号光と他方の偏波成分である第2の信号光とを発生する偏波分離手段と、
前記偏波分離手段により分離された第1の信号光を遅延して出力する光遅延手段と、
前記遅延手段により遅延された第1の信号光を送信すべきデータ列に応じて変調して出力する第1の変調手段と、
前記偏波分離手段により分離された第2の信号光を送信すべきデータ列に応じて変調して出力する第2の変調手段と、
前記第1の変調手段から出力される第1の信号光と前記第2の変調手段から出力される第2の信号光とを偏波多重して光ファイバ伝送路へ出力する偏波多重手段と
を具備することを特徴とする光送信装置。
【請求項2】
前記光遅延手段は、光源光の可干渉距離以上の光路長に相当する遅延を第1の信号光に付与することを特徴とする請求項1記載の光送信装置。
【請求項3】
光源光を互いに直交する2つの偏波成分に分離し、その一方の偏波成分である第1の信号光と他方の偏波成分である第2の信号光とを発生する偏波分離過程と、
前記偏波分離過程により分離された第1の信号光を遅延して出力する光遅延過程と、
前記遅延過程により遅延された第1の信号光を送信すべきデータ列に応じて変調して出力する第1の変調過程と、
前記偏波分離過程により分離された第2の信号光を送信すべきデータ列に応じて変調して出力する第2の変調過程と、
前記第1の変調過程から出力される第1の信号光と前記第2の変調過程から出力される第2の信号光とを偏波多重して光ファイバ伝送路へ出力する偏波多重過程と
を具備することを特徴とする光送信方法。
【請求項4】
前記光遅延過程は、光源光の可干渉距離以上の光路長に相当する遅延を第1の信号光に付与することを特徴とする請求項3記載の光送信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−166423(P2010−166423A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8125(P2009−8125)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】