説明

光透過性導電体及びその製造方法、帯電除去シート、並びに電子デバイス

【課題】カーボンナノチューブなどのカーボンナノ線状構造体からなる導電材によって構成され、その光透過性や電気伝導性を損なわずに発現させることのできる光透過性導電体、及び簡便でスケールアップの容易なその製造方法、それを用いた帯電除去シート、並びに電子デバイスを提供すること。
【解決手段】光透過性支持体3をカーボンナノチューブ(CNT)の分散液に浸漬し、その表面にCNTを吸着させ、洗浄後、溶媒を蒸発させて、吸着されたCNTを固着させ、光透過性支持体3に直接結合した導電材2を形成する。導電材2はカーボンナノチューブ1のみで形成され、カーボンナノチューブ1がその一部で接し合いながら、二次元に集積しているため、光透過性が高い。また、接し合っているカーボンナノチューブ1同士は直接に結合しているため、導電性が高い。予め支持体3の表面にCNTに対する親和性を向上させる処理を行うのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性および電気伝導性に優れた光透過性導電体及びその製造方法、帯電除去シート、並びに電子デバイスに関するものであり、より詳しくは、カーボンナノチューブなどのカーボンナノ線状構造体を用いた光透過性導電体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶表示装置やタッチパネルなど、光の出入りを伴うエレクトロニクス装置の透明電極や、クリーンルームのパーティションなど、塵埃の付着を嫌う光透過性部材の静電気除去フィルム等として用いられている。従来、透明導電膜の材料としては、主として、インジウムスズ酸化物(ITO)などの無機系酸化物や、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの無機系フッ化物が用いられてきた。しかしながら、これらの酸化物やフッ化物は硬くてもろく、わずかな曲げやたわみなどの変形によっても割れや剥離を生じやすく、機械的加工性が悪いという問題点がある。また、インジウムは資源量が少なく、将来、資源が不足するおそれがある。
【0003】
他の導電材として、バインダー樹脂中に金属やカーボン等の導電性微粒子を分散させた導電性樹脂組成物が提案されているが、このような導電性樹脂組成物は光透過性に劣るため、透明性が要求される用途には適さない。
【0004】
一方、カーボンナノチューブは、その存在が1991年に発見されて以来、わずかな構造の違いで金属性または半導体性に変化する特異な電気特性や、しなやかで強靱な機械的特性が注目され、基礎研究および応用研究が盛んに行われている。近年、応用研究の一つとして、金属性カーボンナノチューブが示す極めて高い電気伝導性に注目し、カーボンナノチューブを導電材料として用いた透明導電膜およびその製造方法が提案されている。
【0005】
例えば、後述の特許文献1には、透明な熱可塑性樹脂基板の少なくとも片面に、カーボンナノチューブを含んだ透明な熱可塑性樹脂よりなる制電層が形成されている制電性透明樹脂板が提案されている。特許文献1には、上記制電層中のカーボンナノチューブは、一本ずつ分離した状態で、もしくは、複数本集まって束になったものが一束ずつ分離した状態で、熱可塑性樹脂中に分散して互いに接触していると、記載されている。上記制電層は、熱可塑性樹脂粉末、カーボンナノチューブ、および分散剤を含む塗液を基板に塗布して形成される。
【0006】
しかしながら、上記の制電層の構成および製造方法では、カーボンナノチューブ同士の接触が熱可塑性樹脂および分散剤によって阻害され、カーボンナノチューブ本来の優れた電気伝導性を利用することができない。このため、所定の導電性を得るために、大量のカーボンナノチューブを添加することが必要になり、透明性が低下する原因となる。また、カーボンナノチューブを熱可塑性樹脂中に均一に分散させることが困難であり、制電層内において均一な電気伝導性が得られないおそれがある。
【0007】
そこで、後述の特許文献2には、基材と、基材の表面に形成され、且つ導電層の内部に分散された細い導電繊維を含む導電層とからなり、少なくとも前記導電繊維のある部分が基材に固定され、少なくとも前記導電繊維の他の部分が導電層の最表面から突出していて、前記導電繊維が、最表面から突出した部分又は基材に固定された部分でお互いに電気的に接触していることを特徴とする導電性成形体が提案されている。
【0008】
特許文献2の実施例1では、特許文献1の制電層と同様にして導電層を形成した後、導電層を熱プレスし、カーボンナノチューブのスプリングバック力によって熱可塑性樹脂層表面からカーボンナノチューブを突出させ、上記導電性成形体を作製した例が示されている。この例では、熱プレス実施の前後で導電層の表面抵抗率は、2.4×1011Ω/□から7.7×107Ω/□へ減少した。特許文献2には、この理由として、熱プレスしていない導電層ではカーボンナノチューブが熱可塑性樹脂層内に埋没しているのに対し、熱プレスした導電層ではカーボンナノチューブの一部が熱可塑性樹脂層から突出し、この突出したカーボンナノチューブが熱可塑性樹脂層外で交わる場合には、相互間に電気絶縁物質(熱可塑性樹脂)が無くなるため、カーボンナノチューブ間の抵抗が低抵抗になったと説明されている。
【0009】
また、特許文献2の実施例2では、単層カーボンナノチューブと分散剤(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体)とを、イソプロピルアルコールと水との混合溶媒と混合した塗液を、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムに塗布し、カーボンナノチューブと分散剤のみからなる導電材を形成した後、ウレタンアクリレート溶液を塗布し、PETフィルム表面とこの表面に接しているカーボンナノチューブとの接合部をウレタンアクリレート樹脂層で被覆して、上記導電性成形体を作製した例が示されている。塗液におけるカーボンナノチューブの含有量は0.003質量%、分散剤の含有量は0.05質量%であった。
【0010】
半導体性カーボンナノチューブの半導体特性を応用したものとしては、例えば、後述の非特許文献1に、バインダー樹脂や分散剤を含まず、単層カーボンナノチューブのみからなる導電層を形成し、この導電層をチャネル層とする電界効果トランジスタ(FET)構造のトランジスタおよび物質センサを作製した例が示されている。非特許文献1には、単層カーボンナノチューブを分散させた1,2−ジクロロベンゼンに基板を浸漬し、単層カーボンナノチューブと基板との親和性を利用して単層カーボンナノチューブを基板に付着させ、導電層を形成する方法が示されている。そして、単層カーボンナノチューブは大部分の基板材料の露出面に対し強い親和性を示すと記載され、そのような基板材料として、金、二酸化ケイ素、ガラス、ケイ素、およびアルミニウムが例示されている。
【0011】
また、後述の非特許文献2では、化学気相成長法(CVD法)を用いてシリコンウエーハ表面の酸化シリコン層上に形成したカーボンナノチューブを、PETフィルム上に形成した光硬化性エポキシ粘着剤層に転写印刷する方法を用いて、ゲート電極、半導体層、およびソース電極とドレイン電極を積層して形成し、ゲート絶縁層以外のすべての部材をカーボンナノチューブで形成した透明でフレキシブルな薄膜トランジスタ(TFT)を作製した例が示されている。
【0012】
また、後述の非特許文献3では、カーボンナノチューブが均一に分布した導電材を形成する方法として、カーボンナノチューブを分散させた分散液をフィルタで濾過し、フィルタ上に均一に堆積したカーボンナノチューブを、透明基板上に転写する方法が提案されている。
【0013】
【特許文献1】特開2004−230690号公報(請求項1、第3−6頁、表1)
【特許文献2】特開2006−519712号公報(請求項1及び2、第6−11頁、図2及び4)
【非特許文献1】M.Lee et al., Nature nanotechnology, 2006,1,66
【非特許文献2】Q.Cao et al., Advanced Materials, 2006, 18, 304
【非特許文献3】Y.Zhou et al., Applied Physics Letters, 2006, 88, 123109
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
金属性カーボンナノチューブをはじめとして、カーボンナノ線状構造体には極めて高い電気伝導性を示すものがある。また、カーボンナノ線状構造体の中には、半導体性カーボンナノチューブのように優れた半導体性を示すものがある。これらのカーボンナノ線状構造体が示す特異な電気伝導性を十分に発現させるためには、例を挙げて前述したように、バインダー樹脂や分散剤など、カーボンナノチューブ間に介在してカーボンナノチューブ間の電気伝導性を阻害する他の物質は、できるだけ含まれないことが望ましい。
【0015】
特許文献1に示されている制電層は、カーボンナノチューブ以外に熱可塑性樹脂や分散剤を含むため、これらによってカーボンナノチューブ間の電気伝導性が阻害される。特許文献2の実施例1に示されている導電層では、熱可塑性樹脂層表面から突出しているカーボンナノチューブ間には熱可塑性樹脂は無いものの、熱可塑性樹脂層内に埋没したカーボンナノチューブ間には、特許文献1に示されている制電層と同様、熱可塑性樹脂や分散剤が介在するため、カーボンナノチューブ間の電気伝導性が阻害される。
【0016】
特許文献2の実施例2に示されている導電層では、カーボンナノチューブと分散剤のみからなる導電材を形成した後、ウレタンアクリレート樹脂層を形成するため、カーボンナノチューブ間にウレタンアクリレート樹脂が侵入してカーボンナノチューブ間の電気伝導性が阻害される可能性は小さい。しかし、この導電材には、カーボンナノチューブの質量の約17倍の質量の分散剤が含まれているため、カーボンナノチューブ間に分散剤が介在して、カーボンナノチューブ間の電気伝導性が阻害される可能性が高い。また、この導電材は塗布法で形成されるため、溶媒が蒸発する際にカーボンナノチューブ同士が凝集し、カーボンナノチューブが不均一に分布した導電材が形成されやすいという問題点もある。
【0017】
非特許文献1に示されている導電層は、均一に分布した単層カーボンナノチューブ(SWNT)のみからなるため、上記のような問題点は生じないが、半導体性カーボンナノチューブの利用について検討されているのみで、金属性カーボンナノチューブの利用については検討されていない。また、基板を含めたデバイスとしての光透過性に関しても検討されていない。単層カーボンナノチューブと基板との親和性に関しても、前述したこと以外の記載はない。以上のように、光透過性導電体およびその製造方法という観点からの検討は何もなされていない。
【0018】
非特許文献2に示されている導電層も、均一に分布した単層カーボンナノチューブ(SWNT)のみからなり、光透過性であることが強調されている。しかし、この文献に示されている作製方法では、転写によってSWNT層をエポキシ粘着剤層に貼り付けるので、積層層数が増え、光透過性が低下する。また、転写するSWNT層をCVD法によって形成するので、スケールアップが困難であり、特性の揃った大面積の光透過性導電体を作製することは非常に困難である。非特許文献3では分散液中のカーボンナノチューブをフィルタ上に均一に堆積させ、これを転写する導電材の形成方法が示されているが、成膜プロセスが非常に煩雑であり、不純物を多く含んでしまうおそれが大きい。
【0019】
本発明の目的は、上記のような実情に鑑み、カーボンナノチューブなどのカーボンナノ線状構造体からなる導電材によって構成され、その光透過性や電気伝導性を損なわずに発現させることのできる光透過性導電体、及び簡便でスケールアップの容易なその製造方法、それを用いた帯電除去シート、並びに電子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、光透過性支持体表面に比べてカーボンナノチューブに対する親和性の劣る溶媒中にカーボンナノチューブを分散させた後、この分散液に光透過性支持体を浸漬すると、カーボンナノチューブが自発的に光透過性支持体表面に吸着されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
即ち、本発明は、光透過性支持体の表面に、
多数のカーボンナノ線状構造体がその一部で接し合い、二次元に集積した導電材が設 けられており、
前記導電材が前記カーボンナノ線状構造体のみで構成された光透過性導電材であり、
前記光透過性支持体表面とこの表面に接しているカーボンナノ線状構造体との間、及 び、接し合っているカーボンナノ線状構造体同士の間には、直接に結合が形成されてい る
、光透過性導電体に係わる。
【0022】
また、本発明は、前記光透過性導電体の製造方法であって、
カーボンナノ線状構造体が分散用溶媒中に分散している分散液に前記光透過性支持体 を所定の時間浸漬し、前記光透過性支持体表面にカーボンナノ線状構造体を吸着させる 工程と、
前記分散液から取り出した前記光透過性支持体表面を洗浄用溶媒によって洗浄し、吸 着されていないカーボンナノ線状構造体を除去する工程と、
前記分散用溶媒及び前記洗浄用溶媒を蒸発させ、吸着されたカーボンナノ線状構造体 を固着させる工程と
からなる一連の工程を所定の回数行う、光透過性導電体の製造方法に係わる。
【0023】
また、本発明は、前記光透過性導電体からなる、帯電除去シートに係わり、また、前記光透過性導電体が設けられている、電子デバイスに係わる。
【0024】
なお、本発明において、カーボンナノ線状構造体とは、典型的には、単層カーボンナノチューブ、又は二層以上の多層カーボンナノチューブであるが、カーボンナノチューブほど高い結晶性(原子配列の規則性)をもたない材料をも含むものとする。すなわち、カーボンナノ線状構造体とは、筒状に丸められたグラフェンシート構造の全部又は一部を導電領域として含み、グラフェンシート構造が断面の大きさが数nmから数十nm程度の極細線の外形形状をもち、断面方向の電子の運動がナノサイズの領域に制限され、長さ方向(軸方向)の電子の運動のみがマクロなスケールで許されている炭素系材料であれば何でもよい。その外形形状は、直線状又は曲線状であって、分岐や節を含んでいてもよい。具体的には、筒状のカーボンナノチューブの他に、カップスタック型のカーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバンブー、気相成長カーボンナノファイバ(例えば、昭和電工社製VGCF)、又はカーボンナノワイヤなどであってよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の光透過性導電体では、多数のカーボンナノ線状構造体がその一部で接し合い、二次元に集積した導電材が、光透過性支持体の表面に直接設けられている。前記カーボンナノ線状構造体は、直径が可視光の波長よりはるかに小さいので、可視光をよく透過させる。しかも、前記導電材の厚さ方向(前記光透過性支持体の表面に垂直な方向)には、通常、前記カーボンナノ線状構造体が1本あるかないかであり、最大でも数本重なるだけであるので、前記導電材の可視光透過性は高い。本発明の光透過性導電体では、前記光前記導電材以外に可視光の透過を遮るものは前記光透過性支持体だけであり、前記導電材の高い可視光透過性を最大限に生かすことができる。
【0026】
また、前記導電材は前記カーボンナノ線状構造体のみで構成された導電材であり、接し合っているカーボンナノ線状構造体同士の間には、バインダー樹脂や分散剤などが介在せず、直接に結合が形成されている。このため、前記導電材では前記カーボンナノ線状構造体自体の特性が、損なわれることなく発現する。例えば、前記カーボンナノ線状構造体が極めて高い電気伝導性を有する金属性カーボンナノチューブからなる場合には、後に実施例で示すように、前記導電材は、金属性カーボンナノチューブの面密度が比較的小さくても十分な電気伝導性を示し、高い光透過性と両立させることができる。このような導電材は、透明導電膜として好適である。また、前記カーボンナノ線状構造体が半導体性カーボンナノチューブからなる場合には、前記導電材は優れた半導体特性を示し、透明でフレキシブルなTFTのチャネル層として用いることができる。また、前記カーボンナノ線状構造体がカーボンナノチューブからなる場合には、カーボンナノチューブが有するしなやかで強靱な機械的特性も損なわれず、前記導電材の特性として発現する。
【0027】
本発明の光透過性導電体の製造方法では、カーボンナノ線状構造体が分散用溶媒中に分散している分散液に前記光透過性支持体を所定の時間浸漬し、前記光透過性支持体表面にカーボンナノ線状構造体を吸着させる。そして、前記分散液から取り出した前記光透過性支持体表面を洗浄用溶媒によって洗浄し、吸着されていないカーボンナノ線状構造体を除去した後、吸着されたカーボンナノ線状構造体を固着させる。
【0028】
上記の製造方法によれば、前記カーボンナノ線状構造体と前記光透過性支持体表面との親和性を利用して、前記分散液中の前記カーボンナノ線状構造体を前記光透過性支持体表面に自発的に吸着させ、さらに、吸着されていないカーボンナノ線状構造体を次の洗浄工程で除去するので、前記光透過性支持体表面に吸着されたカーボンナノ線状構造体のみが固着される。このため、溶媒の蒸発によってカーボンナノ線状構造体を強制的に支持体表面に堆積させる塗布法と異なり、溶媒が蒸発する際にカーボンナノ線状構造体同士が凝集することもなく、前記分散液中での高い分散状態を維持したまま、カーボンナノ線状構造体を均一に固着させることができる。
【0029】
また、塗布した分散液に含まれるすべてのカーボンナノ線状構造体が堆積する塗布法と異なり、前記分散液中に分散状態の悪いカーボンナノ線状構造体が含まれていても、これが前記光透過性支持体表面に吸着されなければ問題が生じることはない。従って、前記分散液におけるカーボンナノ線状構造体の分散性は、塗布法で用いる分散液におけるカーボンナノ線状構造体の分散性に比べて低くてよい場合がある。このため、適当な溶媒が選択できる場合には、分散剤なしで前記分散液を調製できるので、分散剤が前記導電材に含まれることはない。分散剤が必要な溶媒を用いる場合でも、塗布法で用いる分散液に比べて分散剤の量を減らすことができる。しかも、塗布法と異なり、上記洗浄工程で分散剤を除去することができる。このため、分散剤が前記導電材に残ることはない。また、前記分散液中に不純物が含まれていても、これが前記光透過性支持体表面に吸着されなければ問題がない。また、吸着されたとしても上記洗浄工程で除去することができる。このため、不純物が前記導電材に残ることはない。
【0030】
また、前記導電材を構成するカーボンナノ線状構造体は必ず前記光透過性支持体表面に結合しており、前記光透過性支持体表面に結合していないカーボンナノ線状構造体が何層にも積み重なるということはない。従って、前記導電材を構成するカーボンナノ線状構造体の面密度には自ずと上限値が存在する。前記光透過性支持体表面に吸着されるカーボンナノ線状構造体の面密度は、前記分散液におけるカーボンナノ線状構造体の濃度及び浸漬時間を適宜選択することによって、上記上限値以下の範囲で容易に制御することができる。
【0031】
以上のように、本発明の光透過性導電体の製造方法では、簡便でスケールアップの容易な方法で、分散剤や不純物が含まれず、均一にカーボンナノ線状構造体が分布した平坦性の高い前記導電材を形成することができ、カーボンナノチューブなどのカーボンナノ線状構造体が有する光透過性、電気伝導特性及び機械的特性を損なわずに発現させることのできる光透過性導電体を製造することができる。
【0032】
本発明の帯電除去シートは前記光透過性導電体からなり、また、本発明の電子デバイスは前記光透過性導電体が設けられているので、前記カーボンナノ線状構造体が有する光透過性、電気伝導特性及び機械的特性などの優れた特性を損なわずに利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の光透過性導電体において、前記カーボンナノ線状構造体がその一部で上下に重なっているのがよい。前述したように、前記導電材は、多数のカーボンナノ線状構造体がその一部で接し合いながら、基本的には二次元に集積したものであり、前記導電材の厚さ方向(前記光透過性支持体の表面に垂直な方向)には、通常、前記カーボンナノ線状構造体が1本あるかないかである。しかしながら、カーボンナノチューブなどの前記カーボンナノ線状構造体は、曲がりくねった曲線状の形状をもつものが多いので、所によっては上下(厚さ方向)に3本程度のカーボンナノ線状構造体が重なることもある。
【0034】
また、前記導電材は、面抵抗が10〜1000000Ω/□であり、且つ、可視光の透過率が70%以上であるのがよい。このようであれば、前記導電材を透明電極や透明導電膜として好適に用いることができる。
【0035】
また、前記導電材が透明電極を形成しているのがよい。これは、現時点で最も重要な用途である。
【0036】
本発明の光透過性導電体及びその製造方法において、前記カーボンナノ線状構造体がカーボンナノチューブであるのがよい。例えば、単層カーボンナノチューブには、極めて高い電気伝導性を示す金属性カーボンナノチューブや、優れた半導体特性を示す半導体性カーボンナノチューブがある。本発明で適用可能なカーボンナノチューブは、特に限定されるものではなく、用途に応じて、金属性カーボンナノチューブ、半導体性カーボンナノチューブ、およびこれらの混合物を適宜使い分けることができる。また、二層カーボンナノチューブや多層カーボンナノチューブ、およびこれらの混合物を適宜使い分けることができる。また、中空部にフラーレンや金属イオンなどを内包したカーボンナノチューブを用いることもできる。
【0037】
また、前記光透過性支持体がガラス板又は高分子樹脂板であるのがよい。この際、前記光透過性支持体表面に、前記カーボンナノ線状構造体との親和性を高めるための処理が施されているのがよい。例えば、前記光透過性支持体が、オゾン処理、オゾンガス存在下での紫外線処理、及び酸素ガス存在下でのプラズマ処理の少なくとも1つによって表面の親水性が向上したガラス板であるのがよい。また、前記光透過性支持体が、オゾン処理、オゾンガス存在下での紫外線処理、酸素ガス存在下でのコロナ処理、酸素ガス存在下でのプラズマ処理、及びシランカップリング剤による処理の少なくとも1つによって表面が親水化されているか、又は表面に親水層が積層されている高分子樹脂板であるのがよい。
【0038】
また、上記に対応して、前記カーボンナノ線状構造体に、前記光透過性支持体表面との親和性を高めるための処理が施されているのがよい。例えば、前記カーボンナノ線状構造体が、過酸化水素水、硝酸、および濃硫酸のうちの少なくとも1種との加熱処理によって親水化されているのがよい。
【0039】
また、前記光透過性支持体表面とこの表面に接しているカーボンナノ線状構造体との接合部を被覆する高分子樹脂層が設けられているのがよい。
【0040】
本発明の光透過性導電体の製造方法において、前記分散用溶媒としてハロゲン化炭化水素を用いるのがよい。
【0041】
本発明の電子デバイスにおいて、前記導電材が透明電極を形成しているのがよい。前記導電材は、前記カーボンナノ線状構造体の特性を生かして、透明性や導電性が高く、機械的強度にも優れた透明導電膜が得られるため、これをタッチパネルなどに用いることができる。また、前記導電材をセンサ部とする物質センサとして構成されているのがよい。また、前記導電材が薄膜トランジスタを構成しているのがよい。この場合、前記導電材がゲート電極、ソース電極およびドレイン電極のいずれかを形成するのでもよく、半導体層を形成するのでもよく、ゲート絶縁層以外のすべての部材を前記導電材で作り分け、透明でフレキシブルな薄膜トランジスタ(TFT)を作製するのでもよい。
【0042】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的に説明する。
【0043】
実施の形態1
実施の形態1では、主として、請求項1〜9に記載した光透過性導電体、および、請求項13〜21に記載した光透過性導電体の製造方法の例について説明する。この際、前記カーボンナノ線状構造体としてカーボンナノチューブを用いるものとする。
【0044】
図1は、本発明の実施の形態1に基づく光透過性導電体10の構造を示す断面図および部分拡大断面図である。図1に示すように、光透過性導電体10では、多数のカーボンナノチューブ1がその一部で接し合い、二次元に集積した導電材2が、光透過性支持体3の一方の主表面に直接設けられている。導電材2は、カーボンナノチューブ1が基本的には二次元に集積したものであり、導電材2の厚さ方向(光透過性支持体3の表面に垂直な方向)には、通常、カーボンナノチューブ1が1本あるかないかである。しかしながら、カーボンナノチューブ1は、曲がりくねった曲線状の形状をもつものが多いので、所によっては上下(厚さ方向)に3本程度のカーボンナノ線状構造体が重なることもある。
【0045】
カーボンナノチューブ1は、直径が可視光の波長よりはるかに小さいので、可視光をよく透過させる。しかも、上述したように、導電材2の厚さ方向には、通常、カーボンナノチューブ1が1本あるかないかであり、最大でも数本重なるだけであるので、導電材2の可視光透過性は高い。光透過性導電体10では、導電材2以外に可視光の透過を遮るものは光透過性支持体3だけであるから、導電材2の高い可視光透過性を最大限に生かすことができる。
【0046】
また、導電材2はカーボンナノチューブ1のみで構成された導電材であり、接し合っているカーボンナノチューブ1同士の間には、バインダー樹脂や分散剤などが介在せず、直接に結合が形成されている。このため、導電材2ではカーボンナノチューブ1自体の特性が、損なわれることなく発現する。例えば、カーボンナノチューブ1が極めて高い電気伝導性を有する金属性カーボンナノチューブからなる場合には、後に実施例で示すように、導電材2は、カーボンナノチューブ1の面密度が比較的小さくても十分な電気伝導性を示し、高い光透過性と両立させることができる。このような導電材は、透明電極や透明導電膜として好適に用いることができる。また、カーボンナノチューブ1が半導体性カーボンナノチューブからなる場合には、導電材2は優れた半導体特性を示し、光透過性TFTのチャネル層として用いることができる。また、カーボンナノチューブ1が有するしなやかで強靱な機械的特性も損なわれず、導電材2の特性として発現する。
【0047】
本実施の形態で適用可能なカーボンナノチューブ1は、特に限定されるものではなく、用途に応じて、単層カーボンナノチューブのうち、金属性カーボンナノチューブ、半導体性カーボンナノチューブ、およびこれらの混合物を適宜使い分けることができる。また、二層カーボンナノチューブや多層カーボンナノチューブ、およびこれらの混合物を適宜使い分けることもできる。また、中空部にフラーレンや金属イオンなどを内包したカーボンナノチューブを用いることもできる。
【0048】
カーボンナノチューブ1の製造方法は、特に限定されるものではなく、具体的には、アーク放電法、レーザーアブレーション法、およびCVD法、あるいはCVD法の1種であるHiPco法などを挙げることができる。これらの製造方法によって得られたカーボンナノチューブから、酸化、洗浄、ろ過、遠心分離などの精製法によって不純物を除去し、高純度化したカーボンナノチューブを用いることが好ましい。
【0049】
光透過性支持体3としては、ガラス板または高分子樹脂板を用いる。高分子樹脂板の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、およびエポキシ樹脂などが挙げられる。光透過性支持体3の形状は、特に限定されないが、例えば、フィルム状またはシート状で、厚さは80〜300μmである。
【0050】
図2および図3は、本発明の実施の形態1に基づく光透過性導電体10の作製工程のフローを示す断面図および部分拡大断面図である。
【0051】
まず、カーボンナノチューブに、光透過性支持体3の表面との親和性を高めるための処理を施す。例えば、カーボンナノチューブを、過酸化水素水との加熱処理によって親水化する。カーボンナノチューブの親水性を向上させる処理としては、過酸化水素水または酸化力のある酸による酸化処理を行う。具体的には、過酸化水素水、硝酸、濃硫酸およびこれらを複数組み合わせた酸溶液を用いる。処理温度、処理時間は特に限定されるものではないが、条件により、用いる溶媒への分散状態や、基板への付着量、透明導電膜を作成したときの特性などが変化するため、目的の特性になるように最適な条件を選ぶ必要がある。なお、購入したカーボンナノチューブは、合成方法や精製方法の違いによって、カーボンナノチューブに導入された親水基の数や含まれる欠陥の数や異なるため、カーボンナノチューブの特性をよく把握して、最適な処理条件を選ぶ必要がある。
【0052】
次に、図2(a)に示すように、光透過性支持体3の表面に、前記カーボンナノ線状構造体との親和性を高めるための処理を施す。その方法は限定しないが、例えば、上記のカーボンナノチューブ1の処理に対応して、光透過性支持体3がガラス板である場合には、オゾン処理、オゾンガス存在下での紫外線処理、及び酸素ガス存在下でのプラズマ処理の少なくとも1つによって、その表面の親水性を向上させる。また、光透過性支持体3が高分子樹脂板である場合には、オゾン処理、オゾンガス存在下での紫外線処理、酸素ガス存在下でのコロナ処理、酸素ガス存在下でのプラズマ処理、及びシランカップリング剤による処理の少なくとも1つによってその表面を親水化するか、または、化学気相成長法(CVD法)、スパッタリング法、及び蒸着法の少なくとも1つによって表面に酸化シリコン層やアルミナ層などの親水層を積層する。
【0053】
次に、図2(b)に示すように、光透過性支持体1をカーボンナノチューブ分散液11に浸漬する。分散液11に用いる分散用溶媒としては、カーボンナノチューブ1を均一に分散できることが望ましい。加えて、光透過性支持体3の表面に比べてカーボンナノチューブ1に対する親和性の劣る溶媒である必要がある。このような分散用溶媒の例として、結合に小さな極性をもつハロゲン化炭化水素系溶媒を挙げることができる。具体的には、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ブロモメタン、o−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、および1,1,2,2−テトラクロロエタンなどを好適に用いることができる。
【0054】
このようなカーボンナノチューブ分散液11に光透過性支持体3を浸漬すると、親和性の差によって、分散用溶媒中に分散しているカーボンナノチューブ12の一部が自発的に光透過性支持体3の表面に吸着される。この際、吸着されるカーボンナノチューブ13の面密度は、分散液11におけるカーボンナノチューブ12の濃度および浸漬時間を適宜選択することによって、容易に制御することができる。
【0055】
次に、図3(c)に示すように、光透過性支持体3を取り出す。この状態では光透過性支持体3に付着している分散液11中に光透過性支持体3に吸着されていないカーボンナノチューブ14が存在する。このまま分散用溶媒を蒸発させると、吸着されていないカーボンナノチューブ14同士が凝集し、カーボンナノチューブの均一分散性が悪化する。そこで、図3(d)に示すように、光透過性支持体3を洗浄用溶媒15で洗浄し、吸着されていないカーボンナノチューブ14を除去する。分散液11中に分散剤や不純物が含まれている場合には、これらの分散剤や不純物もこの洗浄工程で取り除くことができる。洗浄用溶媒15としては、分散用溶媒と同じ溶媒を用いてもよいが、分散剤や不純物と親和性の大きい溶媒を用いれば、これらを効率よく取り除くことができる。
【0056】
次に、図3(e)に示すように、分散用溶媒および洗浄用溶媒を蒸発させ、光透過性支持体3の表面に吸着されているカーボンナノチューブ13を光透過性支持体3表面に固着させ、固着したカーボンナノチューブ1のみからなる導電材2を形成する。
【0057】
必要に応じて、図2(b)〜図3(e)の工程からなる一連の工程を所定の回数行い、目的とする導電率を示す光透過性導電体10を作製する。
【0058】
上記の方法によれば、カーボンナノチューブ1と光透過性支持体3表面との親和性を利用して、分散液11中のカーボンナノチューブ12の一部を光透過性支持体3表面に自発的に吸着させ、さらに、吸着されていないカーボンナノチューブ14を次の洗浄工程で除去するので、光透過性支持体3表面に吸着されたカーボンナノチューブ13のみが固着される。このため、溶媒の蒸発によってカーボンナノチューブを強制的に支持体表面に堆積させる塗布法と異なり、溶媒が蒸発する際にカーボンナノチューブ同士が凝集することもなく、分散液11中での高い分散状態を維持したまま、カーボンナノチューブを均一に固着させることができる。
【0059】
また、塗布した分散液に含まれるすべてのカーボンナノチューブが堆積する塗布法と異なり、分散液11中に分散状態の悪いカーボンナノチューブが含まれていても、これが光透過性支持体3表面に吸着されなければ、浸漬法では問題が生じることはない。従って、分散液11におけるカーボンナノチューブ12の分散性は、塗布法で用いる分散液におけるカーボンナノチューブの分散性に比べて低くてよい場合がある。このため、適当な溶媒が選択できる場合には、分散剤なしで分散液11を調製できるので、分散剤が導電材2に含まれることはない。分散剤が必要な溶媒を用いる場合でも、塗布法で用いる分散液に比べて分散剤の量を減らすことができ、しかも、塗布法と異なり、上記洗浄工程で分散剤を除去することができる。このため、分散剤が導電材2に残ることはない。また、分散液11中に不純物が含まれていても、これが光透過性支持体3表面に吸着されなければ問題が生じることはない。また、吸着されたとしても上記洗浄工程で除去することができる。このため、不純物が導電材2に残ることはない。
【0060】
また、導電材2を構成するカーボンナノチューブ1は必ず光透過性支持体3表面に結合しており、光透過性支持体3表面に結合していないカーボンナノチューブが何層にも積み重なるということはない。従って、導電材2を構成するカーボンナノチューブの面密度には自ずと上限値が存在する。光透過性支持体3表面に吸着されるカーボンナノチューブ13の面密度は、分散液11におけるカーボンナノチューブ12の濃度、浸漬時間、および浸漬回数を適宜選択することによって、上記上限値以下の範囲で容易に制御することができる。
【0061】
以上のようにして、本実施の形態の光透過性導電体10の製造方法では、簡便でスケールアップの容易な方法で、分散剤や不純物が含まれず、均一にカーボンナノチューブ1が分布した平坦性の高い導電材2を形成することができ、カーボンナノチューブ1が有する光透過性、電気伝導特性及び機械的特性を損なわずに発現させることのできる光透過性導電体10を製造することができる。
【0062】
実施の形態2
実施の形態2では、主として、請求項11に記載した光透過性導電体、および請求項22に記載した光透過性導電体の製造方法の例について説明する。
【0063】
図4は、本発明の実施の形態2に基づく光透過性導電体20の構造を示す断面図および部分拡大断面図である。図4に示すように、光透過性導電体20では、光透過性支持体3の一方の主面に固着されたカーボンナノチューブ1からなる導電材2が配置されており、さらに光透過性支持体3の表面とこの表面に接しているカーボンナノチューブ1との接合部を被覆する高分子樹脂層21が設けられている。
【0064】
高分子樹脂層21は、特許文献2の実施例2で述べられているウレタンアクリレート樹脂層と同様の樹脂層である。例えば、カーボンナノチューブのみからなる導電材2を形成した後、PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))などの導電性高分子溶液を塗布し、上記接合部を被覆するように形成する。光透過性導電体20では、光透過性支持体3の表面とカーボンナノチューブ1との接合部が高分子樹脂層21によって保護されているので、機械的な耐久性が向上する。PEDOTを用いると光透過性は少し低下するが、導電性は向上するので好ましい。他に、Nafion(デュポン社 登録商標)やポリフッ化ビニリデンを適当な溶媒に分散させて塗布してもよい。
【0065】
実施の形態3
実施の形態3では、主として、請求項24に記載した光透過性導電体が設けられている電子デバイスの例として、タッチパネルとして構成された電子デバイスについて説明する。
【0066】
図5は、本発明の実施の形態3に基づくタッチパネル50の構造を示す断面図である。タッチパネル50は抵抗膜方式のタッチパネルであって、光透過性支持体31に透明導電膜32が設けられた光透過性導電体30と、光透過性支持体41に透明導電膜42が設けられた光透過性導電体40とが、透明導電膜32と透明導電膜42とが対向するように配置されている。
【0067】
例えば、光透過性支持体31はガラス基板であり、光透過性支持体41はPETフィルムなどの透明高分子樹脂フィルムである。光透過性支持体31と光透過性支持体41とをともに透明高分子樹脂フィルムにすることもでき、この場合は、フレキシブルなパネル面を有するタッチパネルを形成することができる。
【0068】
光透過性導電体40に押圧されていない通常時には、透明導電膜32と透明導電膜42とはスペーサ51によって隔てられている。光透過性導電体40に強く触れると、光透過性支持体41と透明導電膜42とがしなり、押圧された位置の透明導電膜32と透明導電膜42とが接触し、このときの抵抗値から触れた位置の座標情報が検出される。
【0069】
本実施の形態の特徴として、光透過性導電体40、または光透過性導電体30と光透過性導電体40との両方が、実施の形態1で説明した光透過性導電体10であり、透明導電膜42、または、透明導電膜32と透明導電膜42との両方が、カーボンナノチューブからなる導電材2である。導電材2は光透過率が高く、シート抵抗の均一性が高く、しなやかで強靱な機械的特性を有する。この結果、本実施の形態に基づくタッチパネル50は、光透過率が高く、位置検出精度が高く、高い耐久性や信頼性を有する。
【実施例】
【0070】
次に、実施の形態1で説明した光透過性導電体およびその製造方法について、実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例1〜5
<光透過性導電体の作製>
レーザーアブレーション法によって単層カーボンナノチューブを合成した。この単層カーボンナノチューブの酸化処理を、30質量%の過酸化水素水を用いて100℃にて8時間行った後、純水で洗浄し、乾燥させた。
【0072】
このようにして作製した単層カーボンナノチューブを、所定の濃度になるようにo−ジクロロベンゼン中に加え、超音波洗浄器を用いて2時間超音波を照射して、カーボンナノチューブがo−ジクロロベンゼン中に均一に分散した分散液を調製した。
【0073】
厚さ188μmのPETフィルムの表面をアセトンを用いて洗浄し、続いて、紫外線(UV)/オゾン照射装置を用いて、オゾンガス存在下で紫外線を照射して親水性を高める表面処理をPETフィルム表面に20分間施した。この後、速やかに、調製しておいたカーボンナノチューブ分散液にこのPETフィルムを浸漬した。
【0074】
所定の時間含浸させた後、PETフィルムをカーボンナノチューブ分散液から引き上げ、速やかにアセトン溶媒中で10秒間ほどすすいで、洗浄することで溶媒や余分な付着物を除去した。その後、エアブローで溶媒を蒸発させ、100℃に5分間加熱することによって、残存する溶媒を完全に蒸発させた。
【0075】
<作製された光透過性導電体の評価>
作製した光透過性導電体の全光線透過率を測定した。また、4端子のシート抵抗測定器を用いて、光透過性導電体のシート抵抗を測定した。さらに、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、光透過性導電体の表面状態の観察を行った。
【0076】
実施例1〜5では、分散液におけるカーボンナノチューブ濃度や浸漬時間を変化させた場合の、可視光透過率とシート抵抗の変化を評価した。得られた光透過性導電体の特性を表1に示す。なお、表1に示す可視光透過率は、可視光全体を代表して波長550nmの光の透過率である。また、光透過性支持体であるPETフィルム単独の波長550nmの光の透過率は89%であるので、カーボンナノチューブからなる導電材単独の透過率は97〜100%と推定される。
【0077】
実施例6〜10
HiPco法によって製造された単層カーボンナノチューブを、カーボンナノテクノロジー社から購入した。この単層カーボンナノチューブを所定の濃度になるように1,1,2,2−テトラクロロエタン中に加えた後、超音波洗浄器を用いて2時間超音波を照射して、単層カーボンナノチューブが1,1,2,2−テトラクロロエタン中に均一に分散した分散液を調製した。それ以外は実施例1〜5と同様にして光透過性導電体を作製し、その特性を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
図6は、実施例1〜5における、分散液のカーボンナノチューブ濃度と浸漬時間との積と、得られた光透過性導電体のシート抵抗値との関係を示すグラフである。両者の対数は、分散液におけるカーボンナノチューブ濃度が0.01g/Lである場合と、0.1g/Lまたは0.2g/Lである場合とで、異なる直線上にあるが、同様の傾向を示し、吸着量が飽和する傾向は見られない。従って、分散液のカーボンナノチューブ濃度または浸漬時間をさらに増大させることによって、シート抵抗値をさらに低下させることもできると考えられる。実施例6〜10でも同様の傾向が見られた。
【0080】
図7は、実施例3で得られた光透過性導電体表面のAFMによる観察像である。図7から、カーボンナノチューブが細い束(bundle)状になりながら、均一に基板表面に付着しており、カーボンナノチューブ以外の不純物がほとんど付着していないことがわかる。
【0081】
なお、分散剤を加えてカーボンナノチューブ分散液を調製した場合には、実施例と同様のPETフィルムをこの分散液に浸漬しても、カーボンナノチューブがPETフィルムに吸着されることはなかった。また、実施例と同様のカーボンナノチューブ分散液に、表面処理していないPETフィルムを浸漬した場合にも、カーボンナノチューブがPETフィルムに吸着されることはなかった。
【0082】
実施例1〜10で作製した光透過性導電体は、面抵抗値が10〜1000000Ω/□で、可視光線透過率が70%以上である。また、面抵抗値の面内ばらつきは、特に限定しないが、例えば、平均値の±10%以内である。このようであれば、前記導電材を透明電極や透明導電膜として広く用いることができる。
【0083】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の光透過性導電体は、今後、ますます重要性が増すと考えられる透明導電膜および透明電極を高性能化し、液晶表示装置やタッチパネルなどの、光の出入りを伴うエレクトロニクス装置や、クリーンルームのパーティションなどの、塵埃の付着を嫌う光透過性部材に用いられ、これらの高性能化と普及に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施の形態1に基づく光透過性導電体の構造を示す断面図および部分拡大断面図である。
【図2】同、光透過性導電体の作製工程のフローを示す断面図および部分拡大断面図である。
【図3】同、光透過性導電体の作製工程のフローを示す断面図および部分拡大断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2に基づく光透過性導電体の構造を示す断面図および部分拡大断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3に基づくタッチパネルの構造を示す断面図である。
【図6】本発明の実施例1〜5における、分散液のカーボンナノチューブ濃度と浸漬時間との積と、得られた光透過性導電体のシート抵抗値との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例3で得られた光透過性導電体表面のAFMによる観察像である。
【符号の説明】
【0086】
1…光透過性支持体の表面に固着されたカーボンナノチューブ、2…導電材、
3…光透過性支持体、10…光透過性導電体、20…光透過性導電体、
21…高分子樹脂層、30…光透過性導電体、31…光透過性支持体、
32…透明導電膜、40…光透過性導電体、41…光透過性支持体、42…透明導電膜、
50…タッチパネル、51…スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性支持体の表面に、
多数のカーボンナノ線状構造体がその一部で接し合い、二次元に集積した導電材が設 けられており、
前記導電材が前記カーボンナノ線状構造体のみで構成された光透過性導電材であり、
前記光透過性支持体表面とこの表面に接しているカーボンナノ線状構造体との間、及 び、接し合っているカーボンナノ線状構造体同士の間には、直接に結合が形成されてい る
、光透過性導電体。
【請求項2】
前記カーボンナノ線状構造体がその一部で上下に重なっている、請求項1に記載した光透過性導電体。
【請求項3】
前記カーボンナノ線状構造体がカーボンナノチューブである、請求項1に記載した光透過性導電体。
【請求項4】
前記光透過性支持体がガラス板又は高分子樹脂板である、請求項1に記載した光透過性導電体。
【請求項5】
前記光透過性支持体表面に、前記カーボンナノ線状構造体との親和性を高めるための処理が施されている、請求項4に記載した光透過性導電体。
【請求項6】
前記光透過性支持体が、オゾン処理、オゾンガス存在下での紫外線処理、及び酸素ガス存在下でのプラズマ処理の少なくとも1つによって表面の親水性が向上したガラス板である、請求項5に記載した光透過性導電体。
【請求項7】
前記光透過性支持体が、オゾン処理、オゾンガス存在下での紫外線処理、酸素ガス存在下でのコロナ処理、酸素ガス存在下でのプラズマ処理、及びシランカップリング剤による処理の少なくとも1つによって表面が親水化されているか、又は表面に親水層が積層されている高分子樹脂板である、請求項5に記載した光透過性導電体。
【請求項8】
前記カーボンナノ線状構造体に、前記光透過性支持体表面との親和性を高めるための処理が施されている、請求項1に記載した光透過性導電体。
【請求項9】
前記カーボンナノ線状構造体が、過酸化水素水、硝酸、及び濃硫酸のうちの少なくとも1種との加熱処理によって親水化されている、請求項8に記載した光透過性導電体。
【請求項10】
前記導電材は、面抵抗が10〜300000Ω/□であり、且つ、可視光の透過率が70%以上である、請求項1に記載した光透過性導電体。
【請求項11】
前記光透過性支持体表面とこの表面に接しているカーボンナノ線状構造体との接合部を被覆する高分子樹脂層が設けられている、請求項1に記載した光透過性導電体。
【請求項12】
前記導電材が透明電極を形成している、請求項1に記載した光透過性導電体。
【請求項13】
光透過性支持体の表面に、
多数のカーボンナノ線状構造体がその一部で接し合い、二次元に集積した導電材が設 けられており、
前記導電材が前記カーボンナノ線状構造体のみで構成された光透過性導電材であり、
前記光透過性支持体表面とこの表面に接しているカーボンナノ線状構造体との間、及 び、接し合っているカーボンナノ線状構造体同士の間には、直接に結合が形成されてい る
光透過性導電体の製造方法であって、
カーボンナノ線状構造体が分散用溶媒中に分散している分散液に前記光透過性支持体 を所定の時間浸漬し、前記光透過性支持体表面にカーボンナノ線状構造体を吸着させる 工程と、
前記分散液から取り出した前記光透過性支持体表面を洗浄用溶媒によって洗浄し、吸 着されていないカーボンナノ線状構造体を除去する工程と、
前記分散用溶媒及び前記洗浄用溶媒を蒸発させ、吸着されたカーボンナノ線状構造体 を固着させる工程と
からなる一連の工程を所定の回数行う、光透過性導電体の製造方法。
【請求項14】
前記カーボンナノ線状構造体としてカーボンナノチューブを用いる、請求項13に記載した光透過性導電体の製造方法。
【請求項15】
前記分散用溶媒としてハロゲン化炭化水素を用いる、請求項13に記載した光透過性導電体の製造方法。
【請求項16】
前記光透過性支持体としてガラス板又は高分子樹脂板を用いる、請求項13に記載した光透過性導電体の製造方法。
【請求項17】
前記光透過性支持体表面に、前記カーボンナノ線状構造体との親和性を高めるための処理を施す、請求項16に記載した光透過性導電体の製造方法。
【請求項18】
前記光透過性支持体としてガラス板を用い、その表面の親水性をオゾン処理、オゾンガス存在下での紫外線処理、及び酸素ガス存在下でのプラズマ処理の少なくとも1つによって向上させる、請求項17に記載した光透過性導電体の製造方法。
【請求項19】
前記光透過性支持体として高分子樹脂板を用い、その表面をオゾン処理、オゾンガス存在下での紫外線処理、酸素ガス存在下でのコロナ処理、酸素ガス存在下でのプラズマ処理、及びシランカップリング剤による処理の少なくとも1つによって親水化するか、又は表面に親水層を積層する、請求項17に記載した光透過性導電体の製造方法。
【請求項20】
前記カーボンナノ線状構造体に、前記光透過性支持体表面との親和性を高めるための処理を施す、請求項13に記載した光透過性導電体の製造方法。
【請求項21】
前記カーボンナノ線状構造体を、過酸化水素水、硝酸、及び濃硫酸のうちの少なくとも1種との加熱処理によって親水化する、請求項20に記載した光透過性導電体。
【請求項22】
前記光透過性支持体表面とこの表面に接しているカーボンナノ線状構造体との接合部を被覆する高分子樹脂層を設ける工程を有する、請求項13に記載した光透過性導電体の製造方法。
【請求項23】
請求項1〜12のいずれか1項に記載した光透過性導電体からなる、帯電除去シート。
【請求項24】
請求項1〜12のいずれか1項に記載した光透過性導電体が設けられている、電子デバイス。
【請求項25】
前記導電材が透明電極を形成している、請求項24に記載した電子デバイス。
【請求項26】
前記導電材をセンサ部とする物質センサとして構成されている、請求項24に記載した電子デバイス。
【請求項27】
前記導電材が薄膜トランジスタを構成している、請求項24に記載した電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−295378(P2009−295378A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146780(P2008−146780)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】