説明

光部品及び波長分散補償器

【課題】平行平面の一方に形成された完全反射層と他方に形成された部分反射層との間で光が多重反射しつつ徐々に部分反射層から出射する光部品であって、部分反射層の層厚が多段階で薄くなる構造の光部品について、反射層間の光学的距離をほぼ均一とする。
【解決手段】光部品としてのVIPA10の部分反射層13は、第1の反射層13aと、第1の反射層13aよりも層厚の薄い第2の反射層13bと、を含む。そして、第2の反射層13bで反射した光が完全反射層12で反射するまでの光学的距離D2を調整する補正層15が、部分反射層13の下に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力光を波長に応じて分波する機能を備えた光部品、及び該光部品を利用して波長分散を補償する波長分散補償器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信に使用される波長分散補償器等において、最近では、入力光を波長に応じて空間的に区別可能な複数の光束に分波する光部品の一つとして、VIPA(Virtually Imaged Phased Array)が使用されている。VIPAは、相対する平行な2つの反射面を有する素子として、例えばガラス製のエタロン(etalon)板の相対する平行平面に反射層を形成したものを用い、そのエタロン板内において、入射光を多重反射させることにより分波を行う。より詳しくは、エタロン板は、相対する平行平面のうちの一方の平面に形成される反射層が、エタロン板内に入射した光に対してほぼ100%の反射率を有する完全反射層であり、他方の平面に形成される反射層が、エタロン板内に入射した光に対して100%より低い反射率、例えば95%〜98%の反射率を有する部分反射層である。エタロン板への入射光は、完全反射層の側に形成された照射窓を通してエタロン板内に入射する。
【0003】
エタロン板内に入射した光は、2つの反射層の間で多重反射しつつ徐々に部分反射層を透過して、波長に応じた複数の光束となって出射する。この部分反射層から出射する光は、特許文献1の図11に記載されているように、エタロン板内での反射回数に応じた強度分布(プロファイル)をもつことが知られている。すなわち、出射光の強度は、多重反射方向において、反射回数が増えるに従って弱くなっていく。
【0004】
上記VIPAを波長分散補償器に使用した場合、多重反射しつつエタロン板から出射する出射光は、収束レンズを経て集光された後に三次元ミラーにあたって反射し、再び収束レンズを経てエタロン板に入射する。このとき、ミラーによって反射し、エタロン板に再入射する反射光の強度分布は、上記出射光の強度分布をほぼ反転させた分布をもつことになる。エタロン板に再入射した光は、2つの反射層間で多重反射した後に照射窓から出力されるが、この照射窓から出力される光の強度は、上記エタロン板の部分反射層から出射する光の強度分布と上記ミラーにより反射してエタロン板に再入射する光の強度分布とが重なる部分の面積(重なり面積)に相当するとして概念的に表すことができる(特許文献1の段落0008及び図11参照)。
【0005】
VIPAの挿入損失を考慮する場合、上記強度分布の重なり面積を大きくすると、挿入損失を低減することができる。そこで、例えば非特許文献1のFigure 3(c)に記載されているように、部分反射層を、2段階に反射率が変化する構造とし、強度分布の重なり面積を増やすことが提案されている。図7に、その2段階反射率変化構造の部分反射層を備えたVIPAの側面図を示す。
【0006】
図7のVIPA1において、エタロン板2の相対する平行平面の一方に、ほぼ100%の反射率を有する完全反射層3が形成されている。この完全反射層3を形成した平面には照射窓4が形成される。また、エタロン板2の相対する平行平面の他方には100%より低い反射率の部分反射層5が形成されるが、当該部分反射層は、例えば98%程度の反射率の第1の反射層5aと、第1の反射層5aよりも反射率の低い例えば95%程度の第2の反射層5bと、が多重反射方向に並べて形成された2段階反射率変化構造を有する。第1の反射層5aと第2の反射層5bとは、エタロン板2の平面をほぼ2等分して形成されており、高反射率の第1の反射層5aが照射窓4の側に形成される。
【0007】
図示しないコリメートレンズ及びライン焦点レンズ(シリンドリカルレンズ)を含む入射光学系を通して1つの線分上に集光され、照射窓4を通してエタロン板2内に入射する光は、完全反射層3と部分反射層5との間を多重反射しつつ徐々に部分反射層5を透過して出射する。このときに、出射光の強度は多重反射方向において反射回数が増えるに従って弱くなるが、第2の反射層5bの反射率が第1の反射層5aよりも低いので、図7中に示す出射光の強度分布I1においては、最初の反射位置のピークP1と、第1の反射層5aから第2の反射層5bに変わる位置のピークP2と、の2箇所のピークが現れる。
【0008】
部分反射層5から出射した光は、レンズ6及びミラー7を含む反射光学系によって反射してエタロン板2に再入射する。当該反射光の強度分布I2は、上述のように、出射光の強度分布I1をほぼ反転させた分布をもつので、同じく2つのピークP1’,P2’を有する。したがって、図7中に斜線で示す強度分布I1,I2の重なり面積は、第2のピークP2,P2’の無い場合に比べて増加し、挿入損失が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−243500号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】"Analysis of coating design in a virtually imaged phased array (VIPA) chromatic dispersion compensator", Christopher Lin and Masataka Shirasaki, WDM and Photonic Switching Device for Network Applications II, Proceeding of SPIE Vol. 4289 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図7に示すエタロン板2において、強度分布I1,I2の重なり面積、すなわち結合効率をさらに向上させようとすると、部分反射層5を2段階以上の反射率変化構造として、より細かく反射率を制御することが考えられる。このような多段階の反射率変化構造を実現するには、部分反射層5の層厚による反射率調整が不可避である。部分反射層5は多数の薄膜の積層構造を有するので、その積層数を変化させることによって、容易に層厚の違う反射層を形成することができる。
【0012】
図7を参照すると、第1の反射層5aと第2の反射層5bとは互いに層厚が異なり、第1の反射層5aに比べて第2の反射層5bが薄いことにより、第2の反射層5bの方が反射率が低くなっている(つまり透過率が高い)。このように反射率調整のために層厚を変化させる場合、図7に示すように、層厚の厚い第1の反射層5aで反射した光が完全反射層3で反射するまでの光学的距離D1と、層厚の薄い第2の反射層5bで反射した光が完全反射層3で反射するまでの光学的距離D2と、に差異が生じる。すなわち、第1の反射層5aと完全反射層3との間の光学的距離D1に対して、第2の反射層5bと完全反射層3との間の光学的距離D2が短くなり、当該光学的距離の差に起因して、第1の反射層5aの部分から出射する光と第2の反射層5bの部分から出射する光とで位相差が生じ、第1の反射層5aと第2の反射層5bとで、出射光の波長(周波数)に対する周期的特性を表すFSR(Free Spectral Range)に違いが出る。
【0013】
反射層5a,5bに対応したFSRに差が生じている場合、第1の反射層5aと第2の反射層5bとで出射光の干渉条件が異なることになるので、VIPA1における虚像光源(特許文献1の図10参照)の位置間隔が第1の反射層5aの部分と第2の反射層5bの部分とで違っているということになる。
【0014】
エタロン板2の部分反射層5から出射した光を反射させて再入射させるレンズ6及びミラー7を含む反射光学系は、部分反射層5から出射した光が反射して虚像光源の位置へ戻るように光路設計される。しかし、第1の反射層5aと第2の反射層5bとで虚像光源の位置間隔が違っているとなると、第1の反射層5a又は第2の反射層5bのいずれかにおいてミラー7による反射光が虚像光源の位置からずれてしまうことになり、上記の結合効率に影響し、挿入損失の増加につながる。
【0015】
以上の背景に鑑みると、平行平面の一方に形成された完全反射層と他方に形成された部分反射層との間で光が多重反射しつつ徐々に部分反射層から出射する上記のような光部品であって、その部分反射層に多段階反射率変化構造を有する光部品について、上記反射層間の光学的距離をほぼ均一とすることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題に対して提案する光部品は、
相対する平行な2つの平面を有する素子と、前記平面の一方に形成され、ほぼ100%の反射率を有する完全反射層と、前記平面の他方に形成され、100%より低い反射率を有する部分反射層と、を含んで構成され、
1線分上に集光された光が前記完全反射層と前記部分反射層との間に入射して該2つの反射層間で多重反射しながらその一部が前記部分反射層を透過して出射する、分波機能を備えた光部品であって、
前記部分反射層が、第1の反射層と、該第1の反射層よりも層厚の薄い第2の反射層と、を含むと共に、
前記第2の反射層で反射した光が前記完全反射層で反射するまでの光学的距離を調整する補正層が、前記部分反射層と前記他方の平面との間に形成されている。
【発明の効果】
【0017】
上記提案に係る光部品は、補正層を設けることにより、第1の反射層と完全反射層との間の光学的距離に対して第2の反射層と完全反射層との間の光学的距離が一致するように調整することができる。したがって、第1の反射層と第2の反射層とにおける出射光位相差の発生を抑制し、挿入損失の改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】光部品としてのVIPAを含んで構成される波長分散補償器の図。
【図2】VIPAの第1実施形態を示した図。
【図3】位相差の有無による挿入損失の違いを説明するためのグラフ。
【図4】第1実施形態のVIPAの製造工程図。
【図5】VIPAの第2実施形態を示した図。
【図6】第2実施形態のVIPAの製造工程図。
【図7】関連技術のVIPAを示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、光部品としてのVIPAを含んで構成された波長分散補償器を示している。
図1に示す波長分散補償器は、補償前の入力光をVIPA10に照射し、補償後の出力光をVIPA10から出力する入射光学系20として、光サーキュレータ21、光ファイバ22、コリメートレンズ23、ライン焦点レンズ24を備えている。すなわち、波長分散補償器の入力光は、光サーキュレータ21を通って光ファイバ22から出力された後、コリメートレンズ23及びライン焦点レンズ24を通り、1つの線分上に集光される。
【0020】
VIPA10は、ガラス製等のエタロン板11の相対する平行平面に反射層12,13を形成した構造を有する。エタロン板11の一方の平面に形成される完全反射層12は、エタロン板11内に入射した光に対してほぼ100%の反射率をもつ。そして、エタロン板11の他方の平面に形成される部分反射層13は、エタロン板11内に入射した光に対して100%より低い反射率をもつ。また、完全反射層12の下端部分には、ライン焦点レンズ24からエタロン板11内に光を照射するための照射窓14が形成されている。上記VIPA10は、入射光学系20からの光が垂直入射から所要の角度ずれた状態で入射するように傾けて配置される。
【0021】
ライン焦点レンズ24により1線分上に集光される光は、照射窓14を通して部分反射層13に照射され、完全反射層12へ向かって反射する。該反射光は、完全反射層12で全反射して部分反射層13に戻る。このようにエタロン板11内に入射した光は、完全反射層12と部分反射層13との間で多重反射しつつ徐々に部分反射層13を透過して、複数の光束となって出射する。
【0022】
部分反射層13からの出射光は、反射光学系30に含まれた収束レンズ31及び三次元ミラー32によって反射し、部分反射層13からエタロン板11内へ再入射する。すなわち、出射光は、収束レンズ31により波長に応じて三次元ミラー32上の異なる位置に集光されて反射し、この反射光が再び収束レンズ31を経て部分反射層13を透過し、エタロン板11内に再入射する。エタロン板11内に再入射した反射光は、完全反射層12と部分反射層13との間で反射した後に照射窓14を通って入射光学系20に戻され、ライン焦点レンズ24、コリメートレンズ23、及び光ファイバ22を順に通過し、光サーキュレータ21を経て入力光とは違うポートへ出力される。
【0023】
第1実施形態に係るVIPA10は、前述の挿入損失の観点から、図2に示すように部分反射層13が2段階に反射率の変化する構造とされている。すなわち、部分反射層13は、例えば98%程度の反射率の第1の反射層13aと、第1の反射層13aよりも反射率の低い例えば95%程度の第2の反射層13bと、が多重反射方向に並べて形成された2段階反射率変化構造を有する。第1の反射層13aと第2の反射層13bとは、エタロン板11の平面を所定の割合に分割して形成されており、高反射率の第1の反射層13aが照射窓14の側に形成される。
この2段階反射率変化構造の部分反射層13により、前述のように、出射光と反射光との強度分布の重なり面積が増加し、VIPA10の挿入損失が低減される。
【0024】
図2の部分反射層13においては、第2の反射層13bの層厚が第1の反射層13aよりも薄く形成されることにより、反射率が制御されている。そして、部分反射層13の一部である第2の反射層13bとエタロン板11の平面との間に、第2の反射層13bで反射した光が完全反射層12で反射するまでの光学的距離D2を調整する補正層15が形成されている。本実施形態の補正層15は、第2の反射層13bで反射した光が完全反射層12で反射するまでの光学的距離D2を、第1の反射層13aで反射した光が完全反射層12で反射するまでの光学的距離D1と一致させるために設けられる。
【0025】
補正層15によって、第1の反射層13aと完全反射層12との間の光学的距離D1に対して第2の反射層13bと完全反射層12との間の光学的距離D2が一致するように調整されると、第1の反射層13aの部分から出射する光と第2の反射層13bの部分から出射する光とで位相が一致する。位相差が発生しなければ、第1の反射層13aと第2の反射層5bとでFSRの違いは発生しないので、前述の虚像光源の位置間隔は正常に保たれる。したがって、反射光が虚像光源の位置へ戻るように光路設計された反射光学系30を経てVIPA10に再入射する光は、正常に虚像光源の位置へ戻り、2段階反射率変化構造の部分反射層13による結合効率の向上が図られて、挿入損失が低減される。
【0026】
なお、本実施形態では、部分反射層13において、層厚の薄い第2の反射層13bとエタロン板11の平面との間に補正層15を介在させる例を示すが、場合によっては、完全反射層12とエタロン板11との間に補正層15を介在させて光学的距離を調整する構造とすることも可能である。
【0027】
図3に、挿入損失の低減をシミュレーションしたグラフを示す。
図3のグラフは、完全反射層12の反射率が99.89%、部分反射層13における高反射率の方である第1の反射層13aの反射率が98.49%、低反射率の方である第2の反射層13bの反射率が94.4%、エタロン板11の長さが6.5mm(長辺)、これに対する第1の反射層13aの長さが2.5mm及び第2の反射層13bの長さが4mmと仮定した場合の透過特性の計算結果である。図3(A)〜(C)はそれぞれ、波長分散の補償量の設定が(A)−700ps/nm、(B)0ps/nm、(C)700ps/nmとした場合を示す。
いずれの場合を見ても、第1及び第2の反射層13a,13bにおける位相差無しの計算結果は、位相差有りの計算結果に比べ、透過特性のピークロスについて、0.5dB以上の挿入損失低減が図られている。
【0028】
図4は、図2の部分反射層13の製造工程を、工程順に示した図である。以下、順を追って説明する。なお、完全反射層12の製造工程については周知技術を使用可能につき、ここでは説明を省略する。
【0029】
図4(A)の工程において、エタロン板11(ガラス基板等)の平行平面のうち、部分反射層13を形成する平面上に、全面的にフォトレジストを塗布する。そして、フォトリソグラフィを実施して、第2の反射層13bを形成する領域のフォトレジストを除去することにより、第2の反射層形成用のレジストパターンRP1を形成する。
【0030】
図4(B)の工程において、レジストパターンRP1を形成した平面上に、スパッタ装置等を使用した成膜工程により、全面的に補正層15を形成する。次いで、図4(C)の工程において、補正層15上に、スパッタ装置等を使用して、全面的に第2の反射層13bを形成する。
【0031】
図4(D)の工程において、補正層15及び第2の反射層13bを形成したエタロン板11に対し、湿式エッチを実施して、平面上からレジストパターンRP1を除去することにより、該レジストパターンRP1上の補正層15及び第2の反射層13bを同時に除去する。これによって、補正層15を介在させた第2の反射層13bがパターニングされて、エタロン板11上に形成される。
【0032】
図4(E)の工程において、レジストパターンRP1の除去により補正層15及び第2の反射層13bをパターニングした後のエタロン板11の平面上に、全面的にフォトレジストを塗布する。そして、フォトリソグラフィを実施して、第1の反射層13aを形成する領域のフォトレジストを除去することにより、第1の反射層形成用のレジストパターンRP2を形成する。
【0033】
図4(F)の工程において、レジストパターンRP2を形成した平面上に、スパッタ装置等を使用した成膜工程により、全面的に第1の反射層13aを形成する。第1の反射層13aは、第2の反射層13bよりも厚く形成する。例えば、第1及び第2の反射層13a,13bは、多数の薄膜を積層することにより形成され、その積層数によって層厚を制御することができる。
【0034】
図4(G)の工程において、第1の反射層13aを形成したエタロン板11に対し、湿式エッチを実施して、平面上からレジストパターンRP2を除去することにより、該レジストパターンRP2上の第1の反射層13aを同時に除去する。これによって、第1の反射層13aがパターニングされてエタロン板11上に形成され、第1の反射層13a及び第2の反射層13bを含み、第2の反射層13bの下に補正層15を介在させた部分反射層13が形成される。
【0035】
補正層15の材質に関して、補正層15の屈折率がエタロン板11の屈折率±0.2以内となる材質にすると、エタロン板11と補正層15の界面部分にて反射による損失が実質的に生じないので好ましい。また、VIPA10を高温下で使用することや温度を意図的に変化させて使用することが想定される場合には、補正層15の屈折率の温度係数、あるいは熱膨張も考慮すると好ましい。補正層15の屈折率が温度変化により大きく変化してしまうと、部分反射層13での光の反射に影響するので、補正層15の屈折率の温度係数はなるべく小さい方がよい。あるいは、補正層15の熱膨張率は、エタロン板11の熱膨張率にほぼ等しいのが好ましい(一致もしくは近い値)。両者の熱膨張率が大きく異なると補正層15のクラック発生につながるので、耐久性の面から、両者の熱膨張率はほぼ等しくするのがよい。
【0036】
図5に、部分反射層を2段階以上の多段階、図示の例では4段階反射率変化構造とした第2実施形態に係るVIPA40を示す。このVIPA40も、図1に示す波長分散補償器のVIPA10として使用可能で、入射光学系20及び反射光学系30を備えることができる。また、VIPA40のエタロン板41及び完全反射層42と照射窓44は、図2に示す第1実施形態と同じである。
【0037】
図5のVIPA40における部分反射層43は、エタロン板41内に入射した光に対して100%より低い反射率を全体的にもち、且つそれぞれ反射率の異なる第1〜第4の反射層43a〜43dを含んでいる。第2実施形態に係るVIPA40は、部分反射層43が4段階に反射率の変化する構造とされているので、第1実施形態以上に、出射光と反射光の強度分布における重なり面積の増加が図られる。
【0038】
最も層厚が厚く高反射率であり、第1実施形態における第1の反射層13aに相当するのが第1の反射層43aで、最も照射窓44寄りに形成される。当該第1の反射層43aの反射率は、例えば98%程度である。この第1の反射層43aより層厚が薄くて反射率が低く、第1実施形態における第2の反射層13bに相当するのが、第2〜第4の反射層43b〜43dで、層厚が3段階で薄くなっている。第1の反射層43aの次に形成されているのが第2の反射層43bで、当該第2の反射層43bは、反射率が例えば96%程度となる層厚で形成されている。この第2の反射層43bより層厚が薄くさらに反射率の低い第3の反射層43cが次に形成されており、当該第3の反射層43cの反射率は、例えば94%程度である。最後に、最も層厚が薄く低反射率の第4の反射層43dが形成されており、当該第4の反射層43dの反射率は、例えば92%程度である。
【0039】
図5の部分反射層43でも、反射層厚により反射率を制御しており、第2〜第4の反射層43b〜43dの層厚が第1の反射層43aから徐々に薄くなるように形成される。したがって、第1の実施形態同様に光学的距離Dを調整する補正層45が、部分反射層43とエタロン板41の平面との間に形成されている。補正層45は、第2〜第4の反射層43b〜43dに対応する第1〜第3の補正層45a〜45cを含み、第2〜第4の反射層43b〜43dと完全反射層42との間の各光学的距離Dを調整して、第1の反射層43aと完全反射層42との間の光学的距離Dに一致させるべく設けられている。
【0040】
すなわち、第1の補正層45aは、第2の反射層43bで反射した光が完全反射層42で反射するまでの光学的距離Dを、第1の反射層43aと完全反射層42との間の光学的距離Dに一致させる層厚を有する。また、第2の補正層45bは、第3の反射層43cで反射した光が完全反射層42で反射するまでの光学的距離Dを、第1の反射層43aと完全反射層42との間の光学的距離Dに一致させる層厚を有する。さらに、第3の補正層45cは、第4の反射層43dで反射した光が完全反射層42で反射するまでの光学的距離Dを、第1の反射層43aと完全反射層42との間の光学的距離Dに一致させる層厚を有する。
【0041】
補正層45によって、第1〜第4の反射層43a〜43dと完全反射層12との間の光学的距離Dがすべて一致するように調整されると、第1〜第4の反射層43a〜43dにおいて出射する光の位相は一致する。位相差が発生しなければ、各反射層43a〜43dでFSRの違いは発生しないので、前述の虚像光源の位置間隔が正常に保たれて、4段階変化率変化構造の部分反射層43による結合効率の向上が図られ、挿入損失が低減される。
【0042】
図6は、図5の部分反射層43の製造工程を、工程順に示した図である。以下、順を追って説明する。なお、完全反射層42の製造工程については周知技術を使用可能につき、ここでは説明を省略する。
【0043】
図6(A)の工程において、エタロン板41(ガラス基板等)の平行平面のうち、部分反射層43を形成する平面上に、全面的にフォトレジストを塗布する。そして、フォトリソグラフィを実施して、第4の反射層43dを形成する領域のフォトレジストを除去することにより、第4の反射層形成用のレジストパターンRP10を形成する。
【0044】
図6(B)の工程において、レジストパターンRP10を形成した平面上に、スパッタ装置等を使用した成膜工程により、全面的に第3の補正層45cを形成する。この第3の補正層45cが最も厚い補正層となる。次いで、図6(C)の工程において、第3の補正層45c上に、スパッタ装置等を使用して、全面的に第4の反射層43dを形成する。
【0045】
図6(D)の工程において、第3の補正層45c及び第4の反射層43dを形成したエタロン板41に対し、湿式エッチを実施して、平面上からレジストパターンRP10を除去することにより、該レジストパターンRP10上の第3の補正層45c及び第4の反射層43dを同時に除去する。これによって、第3の補正層45cを介在させた第4の反射層43dがパターニングされて、エタロン板41上に形成される。
【0046】
図6(E)の工程において、レジストパターンRP10の除去により第3の補正層45c及び第4の反射層43dをパターニングした後のエタロン板41の平面上に、全面的にフォトレジストを塗布する。そして、フォトリソグラフィを実施して、第3の反射層43cを形成する領域のフォトレジストを除去することにより、第3の反射層形成用のレジストパターンRP11を形成する。
【0047】
図6(F)の工程において、レジストパターンRP11を形成した平面上に、スパッタ装置等を使用した成膜工程により、全面的に第2の補正層45bを形成する。第2の補正層45bは、第3の補正層45cよりも薄く形成する。次いで、図6(G)の工程において、第2の補正層45b上に、スパッタ装置等を使用して、全面的に第3の反射層43cを形成する。第3の反射層43cは、第4の反射層43dよりも厚く形成する。例えば、補正層及び反射層は、多数の薄膜を積層することにより形成され、その積層数によって層厚を制御することができる。
【0048】
図6(H)の工程において、第3の反射層43cを形成したエタロン板41に対し、湿式エッチを実施して、平面上からレジストパターンRP11を除去することにより、該レジストパターンRP11上の第2の補正層45b及び第3の反射層43cを同時に除去する。これによって、第2の補正層45bを介在させた第3の反射層43cがパターニングされて、エタロン板41上に形成される。
【0049】
図6(I)の工程において、レジストパターンRP11の除去により第2の補正層45b及び第3の反射層43cをパターニングした後のエタロン板41の平面上に、全面的にフォトレジストを塗布する。そして、フォトリソグラフィを実施して、第2の反射層43bを形成する領域のフォトレジストを除去することにより、第2の反射層形成用のレジストパターンRP12を形成する。
【0050】
図6(J)の工程において、レジストパターンRP12を形成した平面上に、スパッタ装置等を使用した成膜工程により、全面的に第1の補正層45aを形成する。第1の補正層45aは、第2の補正層45bよりも薄く形成する。次いで、図6(K)の工程において、第1の補正層45a上に、スパッタ装置等を使用して、全面的に第2の反射層43bを形成する。第2の反射層43bは、第3の反射層43cよりも厚く形成する。
【0051】
図6(L)の工程において、第2の反射層43bを形成したエタロン板41に対し、湿式エッチを実施して、平面上からレジストパターンRP12を除去することにより、該レジストパターンRP12上の第1の補正層45a及び第2の反射層43bを同時に除去する。これによって、第1の補正層45aを介在させた第2の反射層43bがパターニングされて、エタロン板41上に形成される。
【0052】
図6(M)の工程において、レジストパターンRP12の除去により第1の補正層45a及び第2の反射層43bをパターニングした後のエタロン板41の平面上に、全面的にフォトレジストを塗布する。そして、フォトリソグラフィを実施して、第1の反射層43aを形成する領域のフォトレジストを除去することにより、第1の反射層形成用のレジストパターンRP13を形成する。
【0053】
図6(N)の工程において、レジストパターンRP13を形成した平面上に、スパッタ装置等を使用した成膜工程により、全面的に第1の反射層43aを形成する。第1の反射層43aは、第2の反射層43bよりも厚く形成する。
【0054】
図6(O)の工程において、第1の反射層43aを形成したエタロン板41に対し、湿式エッチを実施して、平面上からレジストパターンRP13を除去することにより、該レジストパターンRP13上の第1の反射層43aを同時に除去する。これによって、第1の反射層43aがパターニングされてエタロン板41上に形成され、第1〜第4の反射層43a〜43dを含み、第2〜第4の反射層43b〜43dの下にそれぞれ第1〜第3の補正層45a〜45cを介在させた部分反射層43が形成される。
【0055】
以上の実施形態に関する付記を以下に開示する。
【0056】
(付記1)
相対する平行な2つの平面を有する素子と、前記平面の一方に形成され、ほぼ100%の反射率を有する完全反射層と、前記平面の他方に形成され、100%より低い反射率を有する部分反射層と、を含んで構成され、
1線分上に集光された光が前記完全反射層と前記部分反射層との間に入射して該2つの反射層間で多重反射しながらその一部が前記部分反射層を透過して出射する、分波機能を備えた光部品であって、
前記部分反射層が、第1の反射層と、該第1の反射層よりも層厚の薄い第2の反射層と、を含むと共に、
前記第2の反射層で反射した光が前記完全反射層で反射するまでの光学的距離を調整する補正層が、前記部分反射層と前記他方の平面との間に形成されている、光部品。
【0057】
(付記2)
付記1記載の光部品であって、
前記補正層は、前記第2の反射層で反射した光が前記完全反射層で反射するまでの光学的距離を、前記第1の反射層で反射した光が前記完全反射層で反射するまでの光学的距離と一致させる構成である、光部品。
【0058】
(付記3)
付記1又は付記2記載の光部品であって、
前記補正層の屈折率が、前記素子の屈折率±0.2以内である、光部品。
【0059】
(付記4)
付記1〜3のいずれかに記載の光部品であって、
前記補正層の熱膨張率と前記素子の熱膨張率とがほぼ等しい、光部品。
【0060】
(付記5)
付記1〜4のいずれかに記載の光部品であって、前記素子の一方の平面に、前記完全反射層と前記部分反射層との間に光を入射させる照射窓が形成された光部品と、
1線分上に光を集光して前記照射窓に照射する入射光学系と、
前記光部品の部分反射層から出射した光を前記部分反射層へ反射させる反射光学系と、
を含んで構成される波長分散補償器。
【0061】
(付記6)
付記1〜4のいずれかに記載の光部品の製造方法であって、
前記部分反射層を形成する前記素子の平面上にフォトレジストを塗布し、前記第2の反射層を形成する領域の当該フォトレジストを除去することにより、前記第2の反射層形成用のレジストパターンを形成する工程と、
該レジストパターンを形成した前記平面上に前記補正層を形成し、該補正層上に前記第2の反射層を形成する工程と、
前記補正層及び前記第2の反射層を形成した後の前記平面上から前記レジストパターンを除去する工程と、
該レジストパターンを除去した後の前記平面上にフォトレジストを塗布し、前記第1の反射層を形成する領域の当該フォトレジストを除去することにより、前記第1の反射層形成用のレジストパターンを形成する工程と、
該レジストパターンを形成した前記平面上に前記第1の反射層を形成する工程と、
該第1の反射層を形成した後の前記平面上から前記レジストパターンを除去する工程と、
を含む製造方法。
【符号の説明】
【0062】
10 VIPA(光部品)
11 エタロン板
12 完全反射層
13 部分反射層
13a 第1の反射層
13b 第2の反射層
14 照射窓
15 補正層
20 入射光学系
30 反射光学系
40 VIPA(光部品)
41 エタロン板
42 完全反射層
43 部分反射層
43a 第1の反射層
43b 第2の反射層
43c 第3の反射層
43d 第4の反射層
44 照射窓
45 補正層
45a 第1の補正層
45b 第2の補正層
45c 第3の補正層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する平行な2つの平面を有する素子と、前記平面の一方に形成され、ほぼ100%の反射率を有する完全反射層と、前記平面の他方に形成され、100%より低い反射率を有する部分反射層と、を含んで構成され、
1線分上に集光された光が前記完全反射層と前記部分反射層との間に入射して該2つの反射層間で多重反射しながらその一部が前記部分反射層を透過して出射する、分波機能を備えた光部品であって、
前記部分反射層が、第1の反射層と、該第1の反射層よりも層厚の薄い第2の反射層と、を含むと共に、
前記第2の反射層で反射した光が前記完全反射層で反射するまでの光学的距離を調整する補正層が、前記部分反射層と前記他方の平面との間に形成されている、光部品。
【請求項2】
請求項1記載の光部品であって、
前記補正層の屈折率が、前記素子の屈折率±0.2以内である、光部品。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の光部品であって、
前記補正層の熱膨張率と前記素子の熱膨張率とがほぼ等しい、光部品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光部品であって、前記素子の一方の平面に、前記完全反射層と前記部分反射層との間に光を入射させる照射窓が形成された光部品と、
1線分上に光を集光して前記照射窓に照射する入射光学系と、
前記光部品の部分反射層から出射した光を前記部分反射層へ反射させる反射光学系と、
を含んで構成される波長分散補償器。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の光部品の製造方法であって、
前記部分反射層を形成する前記素子の平面上にフォトレジストを塗布し、前記第2の反射層を形成する領域の当該フォトレジストを除去することにより、前記第2の反射層形成用のレジストパターンを形成する工程と、
該レジストパターンを形成した前記平面上に前記補正層を形成し、該補正層上に前記第2の反射層を形成する工程と、
前記補正層及び前記第2の反射層を形成した後の前記平面上から前記レジストパターンを除去する工程と、
該レジストパターンを除去した後の前記平面上にフォトレジストを塗布し、前記第1の反射層を形成する領域の当該フォトレジストを除去することにより、前記第1の反射層形成用のレジストパターンを形成する工程と、
該レジストパターンを形成した前記平面上に前記第1の反射層を形成する工程と、
該第1の反射層を形成した後の前記平面上から前記レジストパターンを除去する工程と、
を含む製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−53405(P2011−53405A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201536(P2009−201536)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(309015134)富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社 (72)
【Fターム(参考)】