説明

光部品接合材

【課題】気泡の混入による接続損失の発生を回避し、接合時における作業性が向上し、更には、経済的負担を小さくすることのできる光部品接合材を提供することにある。
【解決手段】光部品接合材は、触媒を含むシリコーン系オイルと、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサン及び複数のケイ素原子にそれぞれ結合した複数の水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを混合したシリコーン混合溶液とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信分野における光路接続や、レンズ、プリズム等の光学素子の複合化に利用される光部品接合材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光ファイバによる光路接続や、レンズ、プリズム等の光学素子の複合化においては、光学用接着剤による接着や、物理的な接続及び複合化等が行われる。特に、接合部分での位置変動が光学特性に大きく影響する場合、使用環境下での変形量が小さい部品を用いて、光ファイバやレンズ等の光部品が物理的に接続及び複合化される。この場合、接合部分での位置変動は抑えられるものの、接合部分への空気の侵入を回避することができず、結果として、光部品の光学特性を大きく低下させてしまうことがある。従って、接合部分への空気の侵入を防ぐため、光部品を物理的に接続及び複合化する際に接合材が用いられる。
【0003】
接合材の使用について多芯光ファイバ用コネクタへの適用例を参照して説明する。
図1に示すように、多芯光ファイバ用コネクタ1(以下、コネクタと称す)は、複数の光ファイバ2による光路接続のために使用される。このコネクタ1の場合、一組のフェルール3がそれらの接合面3bを対向させて配置され、各フェルール3の両ガイド孔3aにガイド棒4が挿入される。これにより、各光ファイバ2は、対応する光ファイバ2と同軸上に配置され、かつ物理的に接続される。しかし、こうした物理的な接続だけでは、両フェルール3の接合面3b間に空気が侵入し、その空気により数%の光の接続損失が生じる。そこで、図2に示すように、空気の混入による接続損失を極力小さくするため、両フェルール3の接合面3b間に、光学特性及び非分解性に優れる接合材5が充填される。このような接合材5として、具体的には、屈折率が所望の値になるように調製された光学用シリコーンオイル等が用いられる。
【0004】
この種の接合材5は液状であるため、両フェルール3の接合面3b間に充填された後、経時的に流出し、最終的には、両フェルール3の接合部分に存在しなくなる。この問題を解消するため、特許文献1には、両フェルールの接合面間に、流動性が極めて低く、かつ高粘度の低架橋密度のシリコーンゲルを充填する方法が提案されている。しかし、この文献に開示の方法によれば、シリコーンゲルの粘度が高いため、充填時に混入した気泡は接合材から除去され難く、その気泡により光の接続損失が発生する虞がある。また、特許文献2には、両フェルールの接合面間に、シリコーンゲルパッドを介在させる方法が開示されている。この文献に開示の方法によれば、接合材であるシリコーンゲルパッドが固体物であるため、接合材中への気泡の混入は抑止できるものの、フェルール及び接合材間への気泡の混入までは回避することができない。そこで、塗布時に液状であり、経時的に硬化し、最終的に固化する液状硬化性接合材の使用が考えられる。液状硬化性接合材として、例えば、シリコーン系、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、シアノ系等の液状硬化性材料からなるものが挙げられるが、これらのうち、光透過性及び耐環境性に優れ、かつ低い表面張力及び粘度を有しているとの理由から、シリコーン系液状硬化性材料が光部品のための接合材として非常に適している。
【0005】
シリコーン系液状硬化性材料のうち、触媒の存在下で、不飽和基を有する成分とケイ素原子に結合した水素原子を有する成分とがヒドロシリル化反応(付加重合)し、硬化するものとして、付加型液状シリコーン材料が知られている。この付加型液状シリコーン材料は、硬化反応に伴い反応物を生成せず、空気による硬化阻害も受けないため、ゴム、樹脂成形体、接着剤、ポッティング材又は塗料などに幅広く用いられている。
【特許文献1】再公表特許WO2001/088584号公報
【特許文献2】特開平10−111429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この付加型液状シリコーン材料を光部品接合材として用いる場合、不飽和基を有する成分とケイ素原子に結合した水素原子を有する成分と触媒とを均一に混合する必要がある。そのため、混合時に気泡が材料中に混入することがあり、その場合、気泡をその材料から取り除かなければならない。また、上記の両成分及び触媒を均一に混合した後、その混合物を適量だけ採取して光部品に塗布するため、実際の使用量よりも多くの材料を必要とする。従って、付加型液状シリコーン材料を光部品接合材として用いた場合、混合作業や脱泡作業等を伴い、かつ材料の使用量が多くなり、経済的、効率的な負担が大きく、非常に使い難いものとなっていた。
【0007】
本発明の目的は、気泡の混入による接続損失の発生を回避することができ、接合時における作業性が向上し、更には、経済的負担を小さくすることのできる光部品接合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、光部品を接合するための光部品接合材であって、触媒を含むシリコーン系オイルと、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサン及び複数のケイ素原子にそれぞれ結合した複数の水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを混合したシリコーン混合溶液とを含むことを要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において、シリコーン系オイルは、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル又はそれらの混合物であることを要旨とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンは、両末端ビニル−ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン構造を有し、ポリオルガノシロキサンに含まれるジフェニルシロキサンの割合が1〜20モル%の範囲に設定されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、気泡の混入による接続損失の発生を回避することができ、接合時における作業性が向上し、更に、経済的負担を小さくすることのできる光部品接合材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の光部品接合材を具体化した一実施形態について説明する。
本実施形態において、光部品接合材は、触媒を含むシリコーン系オイルと、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサン及び複数のケイ素原子にそれぞれ結合した複数の水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを混合したシリコーン混合溶液とを含む。この場合、まず、光部品の接合面に、触媒を含むシリコーン系オイルが塗布される。すると、光部品の接合面において、触媒がシリコーン系オイルと共に均一に分散される。その触媒にシリコーン混合溶液を接触させるだけで、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンと、複数のケイ素原子にそれぞれ結合した複数の水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンとが付加重合し、シリコーン混合溶液が経時的に硬化する。このように、光部品接合材は、最初は液状であるが、触媒にシリコーン混合溶液を接触させると、経時的に硬化し、最終的に固化する。
【0013】
触媒として、具体的には、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム等の白金属系遷移触媒を用いることができる。これらの白金属系遷移触媒のうち、触媒とシリコーン混合溶液とを接触させたときヒドロシリル化反応が速やかに進行するとの理由から、塩化白金酸やそのアルコール変性物、白金のビニルシロキサン錯体を用いることが好ましく、より具体的には、白金と、テトラビニルシラン、カルボニルビニルメチル、ジビニルテトラメチルジシロキサン又はシクロビニルメチルシロキサンとの錯体溶液や、白金とオクチルアルデヒド/オクタノールとの錯体溶液等を用いることが好ましい。
【0014】
触媒を含むシリコーン系オイルは、シリコーン混合溶液との接触前に触媒を塗布面(光部品の接合面)に均一に分布させるために用いられる。シリコーン系オイルは、非常に小さい表面張力(約25dyn/cm以下)を有している。このため、シリコーン系オイルは、塗布後、濡れ広がり易く、平滑化され易い。これにより、触媒は、シリコーン系オイルが塗布された光部品の接合面上で、シリコーン系オイルと共に広がり、均一に分散される。そして、その触媒にシリコーン混合溶液が接触したとき、シリコーン混合溶液中に触媒が取り込まれるため、ヒドロシリル化反応が促進される。シリコーン系オイルとして、具体的には、メチルシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジメチル−ジフェニルシリコーンオイル、ジメチル−フェニルメチルシリコーンオイル、フェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フロロシリコーンオイル等を用いることができる。
【0015】
シリコーン系オイルは、触媒を溶解し、シリコーン混合溶液との相溶性を示すものであれば任意の種類のシリコーン系オイルを使用できるが、塗布面を濡らす程度に低い粘度を有していることが好ましい。シリコーン系オイルとして、比較的低い粘度を有しているとの観点から、ジメチルシリコーンオイルを用いることが好ましく、ジメチルシリコーンオイルは、3〜20csの粘度を有していることが特に好ましい。
【0016】
シリコーン混合溶液に取り込まれるシリコーン系オイルによっては、硬化後の接合材の光学特性に影響を及ぼすことがある。この場合、接合材の光学特性を考慮して、塗布されるシリコーン系オイルの量を調整することが好ましい。硬化後の接合材の光学特性の変動を小さく抑えるため、シリコーン系オイル及びシリコーン混合溶液の重量比は、0.5/10〜2/10の範囲に設定されることが好ましい。また、複数の種類のシリコーン系オイルを混合して用いることもできる。特に、光通信分野の用途では、接合材の屈折率が約1.4〜1.5の範囲に設定されることが望ましい。このように、接合材の光学特性のうち屈折率が特に重要とされる用途では、屈折率が約1.4であるジメチルシリコーンオイルや、屈折率が約1.5であるフェニルメチルシリコーンオイルや、それらの混合物を用いて、シリコーンオイルの屈折率を調整することができる。
【0017】
シリコーン系オイルに含まれる触媒の含有量は、塗布面に触媒を残存させることのできる量であれば特に限定されないが、シリコーン混合溶液の硬化時間やシリコーン系オイルの安定性などを考慮して、白金換算で100ppm〜10000ppmの範囲に設定されることが好ましい。触媒の濃度が100ppm未満の場合、シリコーン混合溶液の塗布量に対し触媒の量が少なすぎるため、ヒドロシリル化反応を十分に進行させることができず、好ましくない。また、触媒の濃度が10000ppmを超える場合、触媒の貯蔵安定性に問題があり、好ましくない。
【0018】
シリコーン混合溶液は、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサン、及び複数のケイ素原子にそれぞれ結合した複数の水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを混合したものである。ポリオルガノシロキサンは、シロキサン骨格を有する重合体であって、シロキサン骨格の側鎖に、メチル基やエチル基等に代表されるアルキル基、フェニル基等のアリール基、クロロメチル基等の置換アルキル基を有している。本実施形態において、ポリオルガノシロキサンは、シロキサン骨格の末端又は側鎖に複数の不飽和基を有している。不飽和基は、隣接する原子間で、2価以上で結合している化学結合を有している。不飽和基として、具体的には、ビニル基、アリール基、アセチレン基、1−ブテニル基等が挙げられる。
【0019】
複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンは、両末端ビニル−ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン構造であることが特に好ましい。この場合、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンは、高屈折率を生じるジフェニル側鎖ユニットと、低屈折率を生じるジメチル側鎖ユニットとを兼ね備えている。また、ポリオルガノシロキサンに含まれるジフェニルシロキサンの割合は、1〜20モル%の範囲に設定されていることが好ましい。ジフェニルシロキサンの割合が1モル%未満である場合、接合材の屈折率を1.4〜1.5の範囲に調整することが困難になるため、好ましくない。一方、ジフェニルシロキサンの割合が20モル%を超える場合も、接合材の屈折率を1.4〜1.5の範囲に調整することが困難になるため、好ましくない。更に、この場合、両末端にあるビニル基がポリオルガノハイドロジェンシロキサンとの付加重合に寄与するため、架橋構造の変化による屈折率の変動が小さく抑えられる。従って、両末端ビニル−ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン構造は、接合材の光学特性のうち屈折率が特に要求される場合に適している。
【0020】
ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、1分子中に、複数のケイ素原子に結合した少なくとも2つの水素原子を有している。このようなポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンとの付加重合により架橋構造を形成する。ケイ素原子に結合した置換基として、水素原子以外に、例えば、メチル基やエチル基等に代表されるアルキル基、フェニル基等のアリール基、クロロメチル基等の置換アルキル基等が挙げられる。また、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、直鎖状、分岐状及び環状のいずれの形態であってもよく、それらが組み合わされたものであってもよい。
【0021】
ポリオルガノハイドロジェンシロキサンとして、以下の(a)〜(c)に示すものを使用することが好ましい。
(a)(CHHSiO−基を側鎖として含むポリオルガノハイドロジェンシロキサン
(b)
【0022】
【化1】

(但し、式中、Rはメチル基又は長鎖アルキル基、Rはメチル基又はエチル基、mは3〜100、nは0〜100の整数)で表される直鎖状ポリオルガノハイドロジェンシロキサン。
(c)
【0023】
【化2】

(但し、式中、Rはメチル基又はフェニル基、pは1〜100、qは0〜100の整数)で表される直鎖状ポリオルガノハイドロジェンシロキサン。
【0024】
触媒存在下で、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンと複数のケイ素原子に結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンとが付加重合した固化後の接合材は、流動性を示さない程度の硬さを有していればよく、粘土状、ゲル状、ゴム状又はガラス状の固化物であることが好ましい。しかしながら、固化後の接合材を光部品から外して、再度、光部品に接合する場合、固化後の接合材は、ゲル状又はゴム状を有していることが好ましい。この場合、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンの配合量は、ポリオルガノシロキサンの不飽和基1個に対し、ケイ素原子に結合した水素原子の数が1個〜10個になるように設定され、1.5個〜4個になるように設定されることが好ましい。
【0025】
接合材の光学特性のうち屈折率が特に要求される場合、シリコーン混合溶液に、その屈折率を調整するため、屈折率調整材を添加してもよい。屈折率調整材は、シリコーン混合溶液と反応しないとの理由から、ケイ素原子に結合した置換基として、メチル基やエチル基等のアルキル基、又はフェニル基等のアリール基を有するポリオルガノシロキサンが用いられる。屈折率調整材としてポリオルガノシロキサンを用いる場合、光部品接合材の屈折率を低くするためには、ポリジメチルシロキサンを用いることが好ましく、光部品接合材の屈折率を高くするためには、ポリフェニルメチルシロキサンやポリジフェニルシロキサンを用いることが好ましい。この場合、シリコーン混合溶液中に含まれるポリオルガノハイドロジェンシロキサンの割合、その含有量の増減に応じて屈折率の調整が容易に行えるとの理由から、1wt%〜25wt%の範囲に設定されていることが好ましい。また、シリコーン混合溶液の硬化後の屈折率の変動を考慮すれば、光部品接合材の屈折率を所望の値から−0.02〜+0.02の範囲で調整することもできる。
【0026】
シリコーン混合溶液に、その粘度を調整するため、シリカ等の微粉末を添加し、分散させてもよい。これ以外の方法として、シリコーン混合溶液を構成する各シロキサンの分子量を調整してもよい。これらの方法によって、シリコーン混合溶液の粘度は、0.01Pa・s〜100Pa・s(10cs〜100000cs)の範囲で調整されるが、光部品の接合面へ気泡の混入を防ぐとの観点から、低く設定することが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態の光部品接合材の使用方法について説明する。
まず、光部品の接合面に、触媒を含むシリコーン系オイルを塗布する。塗布後、シリコーン系オイルが光部品の接合面上で濡れて広がるため、触媒はシリコーン系オイルと共に均一に分散する。次に、シリコーン系オイルが塗布された光部品とそれに接合される別の光部品とを対向して配置し、両光部品の接合面間の隙間にシリコーン混合溶液を所定量だけ注入及び充填する。このとき、光部品の接合面上に塗布された触媒にシリコーン混合溶液が接触し、触媒存在下で、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンとポリオルガノハイドロジェンシロキサンとがヒドロシリル化反応する。その結果、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンとポリオルガノハイドロジェンシロキサンとが付加重合し、液状のシリコーン混合溶液は、時間の経過と共に徐々に硬化し、最終的に固化する。こうしたシリコーン混合溶液の固化によって、2つの光部品が接合される。なお、この場合、シリコーン混合溶液の粘度は、注入及び充填時における溶液中への気泡の混入を防ぎ、かつ溶液中に混入した空気が容易に除去されるとの理由から、0.1Pa・s(100cs)以下に設定することが好ましい。
【0028】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)光部品接合材は、触媒を含むシリコーン系オイルと、複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサン及び複数のケイ素原子にそれぞれ結合した複数の水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを混合したシリコーン混合溶液とを含む。このような光部品接合材によって、2つの光部品を接合するとき、両光部品の接合面間に気泡が混入することもなく、かつ接合部分から光部品接合材が流出することもない。また、触媒と不飽和基を有する成分とケイ素原子に結合した水素原子を有する成分とを均一に混合する必要もなく、触媒に接触させるだけで液状のシリコーン混合溶液を固化させることができる。つまり、混合作業や脱泡作業等を伴うこともなく、材料の使用量を節約することもでき、よって、作業的な負担や経済的な負担などを減らすことができる。従って、気泡の混入による接続損失の発生を回避することができ、接合時における作業性が向上し、更には、経済的負担を小さくすることのできる光部品接合材を提供することができる。
【0029】
(2)シリコーン系オイルは、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル又はそれらの混合物である。これらのシリコーン系オイルは、いずれも非常に小さい表面張力を有している。そのため、シリコーン系オイルは、塗布後、濡れ広がり易く、平滑化され易い。これにより、触媒をシリコーン系オイルと共により均一に分散させることができる。その結果、触媒存在下でのヒドロシリル化反応を促進させることができる。従って、接合時における作業性が一層向上し、更には、経済的負担を一層小さくすることのできる光部品接合材を提供することができる。
【0030】
(3)複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンは、両末端ビニル−ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン構造を有し、ポリオルガノシロキサンに含まれるジフェニルシロキサンの割合が1〜20モル%の範囲に設定されている。この場合、光部品接合材の屈折率を所望の値に容易に調整することができ、また、架橋構造の変化による屈折率の変動を小さく抑えられることもできる。従って、接合材の光学特性のうち屈折率が特に要求される場合に適している。
【0031】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・本実施形態において、光部品の接合面に触媒を含むシリコーン系オイルを塗布した後、シリコーン系オイルが塗布された光部品とそれに接合される別の光部品とを対向して配置し、両光部品の接合面間にシリコーン混合溶液を注入及び充填していた。これに代えて、光部品の接合面にシリコーン混合溶液を塗布した後、シリコーン混合溶液が塗布された光部品とそれに接合される別の光部品とを対向して配置し、両光部品の接合面間に触媒を含むシリコーン系オイルを注入及び充填するようにしてもよい。この場合、光部品の接合面に塗布されたシリコーン混合溶液の流出を防ぎ、かつシリコーン混合溶液の平滑性を良くするため、シリコーン混合溶液の粘度は高く設定されることが好ましく、具体的には、0.1Pa・s〜1Pa・s(100〜1000cs)の範囲に設定されることが好ましい。
【0032】
次に、本実施形態の光部品接合材を具体化した試験例及び比較例について説明する。
(実施例1)
【0033】
実施例1において、触媒を含むシリコーン系オイルとして、白金−シクロビニルメチルシロキサン錯体をジメチルシリコーンオイルに溶解することで、白金含有量が0.05wt%になるように調製した。複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンとして、ジフェニルシロキサンの含有量が15モル%、粘度が0.5Pa・s(500cs)、屈折率が1.46である両末端ビニル−ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマーを用いた。複数のケイ素原子に結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンとして、メチルHシロキシ基の含有量が40モル%、粘度が0.1Pa・s(100cs)、屈折率が1.50であるメチルHシロキサン−フェニルメチルシロキサン構造を持つポリオルガノハイドロジェンシロキサンを用いた。そして、100重量部の両末端ビニル−ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマーと、4重量部のポリオルガノハイドロジェンシロキサンとを混合して、シリコーン混合溶液を調製した。
【0034】
次に、図3に示すように、複数の光ファイバ12と、これらを支持する直方体状の樹脂成形体13とから評価用光部品11を作製した。樹脂成形体13の材料として、固化後の接合材15に含まれる気泡や、接合部分からの接合材15の流出を目視で観察できるように、透明なUV硬化性樹脂を用いた。樹脂成形体13を成形する際、複数の光ファイバ12を並行に配置し、それらの片側端面を同位置に揃えた状態で、UV硬化性樹脂を光ファイバ12と共に硬化した。そして、樹脂成形体13の端面を研磨することで、評価用光部品11の接合面11aを平滑に仕上げた。
【0035】
続いて、一組の評価用光部品11を準備し、第一の評価用光部品11の接合面11aに、触媒を含むシリコーン系オイルを刷毛により塗布した。また、第二の評価用光部品11の接合面11aに、シリコーン混合溶液をスポイトにより塗布した。そして、両評価用光部品11をそれらの接合面11a間の距離が0.1mmになるように近接させ、その状態で、室温で約30分間放置し、シリコーン混合溶液を固化させ、両評価用光部品11を接合した。その結果、図4に示すような接合体21が得られた。
(実施例2)
【0036】
実施例2において、触媒を含むシリコーン系オイルとして、白金―ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体をシリコーンオイルに溶解することで、白金含有量が0.05wt%になるように調製した。複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンとして、ジフェニルシロキサン含有量が3モル%、粘度が0.5Pa・s(500cs)、屈折率が1.42である両末端ビニル−ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンポリマーを用いた。複数のケイ素原子に結合した水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンとして、(CHHSi−基の含有量が8当量/kg、粘度が0.01Pa・s(10cs)、屈折率が1.41であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンを用いた。そして、100重量部の両末端ビニル−ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンポリマーと、10重量部のポリオルガノハイドロジェンシロキサンとを混合して、シリコーン混合溶液を調製した。得られたシリコーン混合溶液の粘度は0.1Pa・s(100cs)であった。
【0037】
続いて、一組の評価用光部品11を準備し、第一の評価用光部品11の接合面11aに、触媒を含むシリコーン系オイルを刷毛により塗布した。また、第二の評価用光部品11の接合面11aに、シリコーン混合溶液を刷毛により塗布し、その溶液中に気泡が存在しないことを確認した後、更に、シリコーン混合溶液をスポイトにより塗布した。そして、両評価用光部品11の接合面11a間の距離を0.1mmに近接させ、両評価用光部品11の位置を固定することにより、図4に示す接合体21を作製した。
(比較例1)
【0038】
第一の評価用光部品11の接合面11aに、実施例2で用いたシリコーン混合溶液を刷毛により塗布し、その溶液中に気泡が存在しないことを確認した後、更に、シリコーン混合溶液をスポイトにより塗布した。一方、第二の評価用光部品11には、触媒を含むシリコーン系オイルを塗布しなかった。そして、両評価用光部品11の接合面11a間の距離を0.1mmに近接させ、両評価用光部品11の位置を固定することにより、図4に示す接合体21を作製した。
(比較例2)
【0039】
実施例1で用いたシリコーン混合溶液を10gに、同じく実施例1で用いたシリコーン系オイル0.1gを混合して、新たにシリコーン混合溶液を調製した。第一の評価用光部品11の接合面11aに、新たに調整されたシリコーン混合溶液を刷毛により塗布した後、更に、その溶液をスポイトにより塗布して、室温で約30分間放置した。一方、第二の評価用光部品11には、触媒を含むシリコーン系オイルを塗布しなかった。塗布されたシリコーン混合溶液が十分に固化したことを確認後、両評価用光部品11の接合面11a間の距離を0.1mmに近接させ、両評価用光部品11の位置を固定することにより、図4に示す接合体21を作製した。
(評価方法)
実施例1及び2、比較例1及び2について、第一の評価用光部品11の接合面にシリコーン混合溶液を塗布した後、液状のシリコーン混合溶液が固化するまでの時間を測定した。また、両評価用光部品11の接合部分を目視で観察し、気泡の存在について確認した。更に、60℃に加温した接合体21をオペレータが把持し、オペレータが手でその接合体21を10回振った後に、接合部分からの接合材15の流出についても判定した。それらの結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

実施例1及び2について、シリコーン混合溶液は、塗布後、1時間かけて徐々に硬化することを確認した。実施例1、2では、数分後に硬化し始め、1時間後に完全に固化した。また、実施例1及び2の場合、両評価用光部品11の接合面間への気泡の混入はなく、接合部分からの接合材の流出も確認されなかった。一方、比較例1の場合、シリコーン混合溶液は、塗布後、硬化しなかった。しかも、両評価用光部品11の接合面間への気泡の混入が確認され、接合部分からの接合材15の流出も確認された。比較例2の場合、両評価用光部品11の接合面間への気泡の混入が確認された。これは、評価用光部品11の接合面11aに塗布されたシリコーン混合溶液を硬化させた後に、両評価用光部品11を接合したことによるものと推察される。なお、比較例2については、両評価用光部品11を接合する前にシリコーン混合溶液を予め固化したため、シリコーン混合溶液が固化するまでの時間を測定しなかった。また、実施例1〜3の接合材を用いて試験片を作製し、接合強度を評価した。具体的には、2枚のポリカーボネート樹脂製の板を準備し、両板の接合面(接合面積2cm)に接合材を薄く塗布した。塗布後、両板を貼り合わせて、両板間の接合材を固化することにより、上記の試験片を作製した。そして、両カーボネート樹脂製の板の一方と他方とを接合材の塗布面に沿って反対方向に引っ張り、その引っ張り剥離強度を測定することによって、得られた試験片の接合強度を評価した。その結果、実施例1〜3の接合体では、それらの接合強度についていずれも2N以上となり、良好な結果が得られた。
【0041】
次に、実施例1及び2で得られた接合体21から固化後の接合材15を剥がして、その接合材15の屈折率を、アタゴ社製の多波長アッベ屈折計DR−M2(ナトリウムD線)を用いて測定した。その結果を、液状のシリコーン混合溶液の屈折率と合わせて表2に示す。
【0042】
【表2】

実施例1及び2の場合、シリコーン混合溶液の屈折率は、固化前と固化後とで大きな差違が見られなかった。この結果から、実施例1及び2の場合、所望の屈折率が容易に得られる接合材であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】多芯光ファイバ用コネクタの斜視図
【図2】一組のフェルールが接合された状態を示す側断面図。
【図3】評価用光部品の斜視図。
【図4】一組の評価用光部品が接合された状態を示す上断面図。
【符号の説明】
【0044】
1…コネクタ、2…光ファイバ、3…フェルール、3a…ガイド孔、3b…接合面、4…ガイド棒、5…接合材、11…評価用光部品、11a…接合面、12…光ファイバ、13…樹脂成形体、15…接合材、21…接合体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光部品を接合するための光部品接合材であって、
触媒を含むシリコーン系オイルと、
複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサン及び複数のケイ素原子にそれぞれ結合した複数の水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを混合したシリコーン混合溶液と
を含むことを特徴とする光部品接合材。
【請求項2】
請求項1記載の光部品接合材において、
前記シリコーン系オイルは、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル又はそれらの混合物であることを特徴とする光部品接合材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の光部品接合材において、
複数の不飽和基を有するポリオルガノシロキサンは、両末端ビニル−ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン構造を有し、ポリオルガノシロキサンに含まれるジフェニルシロキサンの割合が1〜20モル%の範囲に設定されていることを特徴とする光部品接合材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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