説明

光除電装置

【課題】発生する軟X線のエネルギーと発生量とを個別に制御することが可能な汎用性に優れた光除電装置を低コストで提供する。
【解決手段】光除電装置は、軟X線を発生するための真空管である軟X線発生器10と高圧電源回路と制御部とを備え、軟X線発生器10は、陰極である電子源12と、陽極であるターゲット13と、電子源12及びターゲット13間に配置されたグリッド14と、電子源12から出た電子がターゲット13に衝突することによって発生する軟X線を外部に放射するための窓15,13とを有し、高圧電源回路は、電子源12とグリッド14との間に印可される電子発生電圧Vgと、グリッド14とターゲット13との間に印可される加速電圧Vaとを発生し、制御部は、高圧電源回路が発生する電子発生電圧Vgと加速電圧Vaとを個別に可変制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を気体中に照射して気体をイオン化し、このイオン化した気体によって帯電物の除電を行う光除電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
帯電したガラス板やプラスチック板のような帯電物を除電する(電荷を中和する)方法として、イオン化した空気等の気体を用いる方法がある。また、そのような方法を使用する除電装置としてコロナ放電式の除電装置が広く使用されている。この種の除電装置は、高電圧が印可された電極間に発生するコロナ放電によって空気等の気体をイオン化し、イオン化した気体を帯電物へ送ることによって帯電物の除電を行う。
【0003】
このようなコロナ放電式の除電装置は構造が比較的簡単である利点を有する反面、コロナ放電による電極の摩耗や塵埃の吸着等の欠点がある。電極の摩耗によって生じた金属酸化物の微小粒子や塵埃がわずかでも含まれている気体は、半導体や液晶ガラス基板のような精密部品の除電に使用することができない。
【0004】
近年、コロナ放電式と異なる方式の除電装置として、光の照射によって空気等の気体をイオン化して帯電物の除電に用いる光除電装置が実用化されている(例えば特許文献1参照)。この光除電装置は、光(軟X線又は真空紫外線)を帯電物の近くの雰囲気に照射することによって、その雰囲気中の気体分子をイオン化する。空気中の気体分子をイオン化するには数十eV以上のエネルギー(例えば数オングストローム以下の波長)を有する光(電磁波)が必要であり、このような光は軟X線又は真空紫外線と呼ばれている。
【0005】
図6(a)〜(c)は、従来の軟X線又は真空紫外線の発生装置の構造を示している。図6(a)に示す装置では、真空管の陰極である電子源101と陽極であるターゲット102との間に直流高電圧(加速電圧)103が印可されている。電子源101から出た電子がターゲット102に衝突し、このときに軟X線が放射される(制動放射)。発生する軟X線のエネルギー(波長)はターゲット102の材質(特性X線)及び衝突した電子の速度で決まり、電子の速度は加速電圧103を変えることによって調整することができる。したがって、加速電圧103を変えることによって軟X線のエネルギー(波長)をある程度調整することができる。
【0006】
発生した軟X線(真空紫外線)は真空管の壁面に設けられた窓104から外部に放射される。軟X線(真空紫外線)は物質(固体)を透過する力が非常に弱いので、窓104には原子量の小さい材料であるベリリウム(Be)が使用されている。
【0007】
図6(b)及び(c)に示す装置では、重水素、キセノン、アルゴン等のガスが封入された放電管の電極111及び112の間に直流又は交流の高電圧が印可される。放電によってガスに電流が流れ、励起されたガス分子が発光することによって真空紫外線(軟X線)が得られる。発生した真空紫外線(軟X線)は、放電管の側面又は端面に設けられた窓114から外部に放射される。窓114の材料として、波長200nm以下の光をよく透過する合成石英ガラス、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等が使用される。
【特許文献1】特許第2951477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような光除電装置は、コロナ放電式の除電装置のように電極が露出していないので、電極の摩耗や塵埃の吸着等に起因する前述のような問題が発生しない利点を有する。しかし、従来の光除電装置は、発生する軟X線のエネルギーと発生量とを個別に制御することが難しく、汎用性の面から改善が求められていた。また、コストの低廉化も求められていた。
【0009】
本発明は、上記のような課題に鑑み、発生する軟X線のエネルギーと発生量とを個別に制御することが可能な汎用性に優れた光除電装置を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光除電装置の第1の構成は、空気等の気体に軟X線を照射して気体をイオン化し、イオン化された気体を用いて帯電物の除電を行う光除電装置において、軟X線を発生するための真空管である軟X線発生器と高圧電源回路と制御部とを備え、軟X線発生器は、陰極である電子源と、陽極であるターゲットと、電子源及びターゲット間に配置されたグリッドと、電子源から出た電子がターゲットに衝突することによって発生する軟X線を外部に放射するための窓とを有し、高圧電源回路は、電子源とグリッドとの間に印可される電子発生電圧と、グリッドとターゲットとの間に印可される加速電圧とを発生し、制御部は、高圧電源回路が発生する電子発生電圧と加速電圧とを個別に可変制御することを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、主として加速電圧によって決まる軟X線のエネルギーと、主として電子発生電圧によって決まる軟X線の発生量とを個別に制御することが可能である。これによって、大きさ(面積)が異なる帯電物、例えば液晶表示器の基板(ガラス板)を1台の光除電装置で効率的に除電することが可能になる。つまり、軟X線のエネルギーを変えて軟X線発生器と除電対象の基板との距離を変えることによって、小さい基板から大きい基板まで1台の光除電装置で対応することが可能になる。あるいは、軟X線の発生量を変更することによって、コンベアで搬送される基板の移動速度、すなわち単位時間当たりの除電処理量の変化に対応することが可能になる。
【0012】
本発明による光除電装置の第2の構成は、上記第1の構成において、軟X線発生器の窓がターゲットを兼ねていることを特徴とする。このような構成によれば、軟X線発生器ひいては光除電装置の構造を簡素化し、そのコストの低減を図ることが可能になる。
【0013】
本発明による光除電装置の第3の構成は、上記第1又は第2の構成において、軟X線発生器の窓の材料としてアモルファスカーボンが使用されていることを特徴とする。従来は、前述のように軟X線が通過しやすい原子量の小さい材料として、高価なベリリウムを窓材料に使用していたが、比較的安価なアモルファスカーボンを使用することによって装置のコスト低減に寄与することができる。また、アモルファスカーボン以外の適切な材料として、カーボンコンポジット、カーボン繊維強化樹脂(CFRP)、炭化ボロン等がある。これらの材料はターゲットを兼ねた窓の材料としても適している。
【0014】
本発明による光除電装置の第4の構成は、上記いずれかの構成において、軟X線発生器の電子源の材料としてカーボンナノチューブが使用されていることを特徴とする。カーボンナノチューブを使用することによって、陰極である電子源の先端部を非常に微細な形状とすることができるので、電子を効率よく放出することができる。
【0015】
本発明による光除電装置の第5の構成は、上記いずれかの構成において、軟X線の照射領域を可視化するための可視光を照射する1又は複数の可視光光源が軟X線発生器の近傍に配置され、軟X線発生器のオン・オフに連動して可視光光源のオン・オフ又はその発光色が制御されることを特徴とする。可視光光源として、LED(発光ダイオード)又はレーザーを用いることができる。例えば、軟X線発生器がオンになれば可視光光源もオンになるように制御する。あるいは、軟X線発生器がオンのときに可視光光源が赤色光を照射し、軟X線発生器がオフのときに可視光光源が青色光を照射するように制御する。このような構成によれば、目に見えない軟X線の照射に連動して可視光が照射されるので安全性の確保に寄与することができる。また、可視光によって軟X線の照射領域を視認できるので、光除電装置を設置する際の位置合わせが容易になる。
【0016】
本発明による光除電装置の第6の構成は、軟X線発生器と高圧電源回路と制御部とが1つのケースに収容されて一体に構成されていることを特徴とする。このような構成によれば、軟X線発生器と高圧電源回路とを接続する高圧ケーブル、及び、高圧電源回路と制御部とを接続する配線ケーブルが外部に露出することなく、構造が簡素になると共に装置全体のコスト低減が可能になる。
【0017】
本発明による光除電装置の第7の構成は、空気等の気体に軟X線を照射して気体をイオン化し、イオン化された気体を用いて帯電物の除電を行う光除電装置において、軟X線を発生するための真空管である軟X線発生器と高圧電源回路と1又は複数の可視光光源と制御部とを備え、軟X線発生器は、陰極である電子源と、陽極であるターゲットと、電子源から出た電子がターゲットに衝突することによって発生する軟X線を外部に放射するための窓とを有し、高圧電源回路は、電子源とターゲットとの間に印可される電圧を発生し、1又は複数の可視光光源は、軟X線発生器の近傍に配置されて軟X線の照射領域を可視化するための可視光を照射し、制御部は、高圧電源回路が発生する電圧を可変制御すると共に、軟X線発生器のオン・オフに連動して可視光光源のオン・オフ又はその発光色を制御することを特徴とする。
【0018】
可視光光源として、LED又はレーザーを用いることができる。例えば、軟X線発生器がオンになれば可視光光源もオンになるように制御する。あるいは、軟X線発生器がオンのときに可視光光源が赤色光を照射し、軟X線発生器がオフのときに可視光光源が青色光を照射するように制御する。このような構成によれば、目に見えない軟X線の照射に連動して可視光が照射されるので安全性の確保に寄与することができる。また、可視光によって軟X線の照射領域を視認できるので、光除電装置を設置する際の位置合わせが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施例に係る光除電装置における軟X線発生器の概略構造を示す図である。図1(a)は実施例1の構造を示し、図1(b)は実施例2の構造を示している。図1(a)に示すように、軟X線発生器10を構成するガラス製又は金属製の真空容器11の中に、陰極である電子源12と、陽極であるターゲット13とが対向するように配置されている。つまり、円筒形状の真空容器11の一方の端面側に電子源12が配置され、他方の端面側にターゲット13が配置されている。電子源12とターゲット13との間の電子源12に近い位置には、格子電極であるグリッド14が電子源12と対向するように配置されている。
【0021】
また、電子源12から出た電子がターゲット13に衝突することによって発生する軟X線を外部に放射するための窓15が真空容器11の側面のターゲット13に近い位置に設けられている。窓15の材料には、透過力の弱い軟X線が透過しやすい原子量の小さい物質が使用されるが、本実施例ではアモルファスカーボンが使用されている。また、電子源(陰極)12の材料には、効率よく電子を放射することができるようにカーボンナノチューブが使用されている。
【0022】
図1(a)に示すように、電子源12とグリッド14との間には電子発生電圧Vgが印可され、グリッド14とターゲット13との間には加速電圧Vaが印可されている。電子発生電圧Vgによって電子源12から出た電子のうち、グリッド14をすり抜けた電子は加速電圧Vaによって加速され、矢印線FLで示すようにターゲット13に向かう。そして、電子がターゲット13に衝突した際に、その運動エネルギーに見合うエネルギー(波長)の軟X線が発生し、発生した軟X線は矢印線LXで示すように窓15を通過して外部に放射される。
【0023】
図1(b)に示す第2実施例の構造が図1(a)に示した第1実施例の構造と異なる点は、ターゲット13が軟X線を外部に放射する窓を兼ねていることである。つまり、円筒形状の真空容器11の端面の一部(又は全部)を構成するようにターゲット13が設けられ、真空容器11の側面に窓(図1における15)は設けられていない。ターゲット13の内側の面13aに電子が衝突することによって発生した軟X線は矢印線LXで示すように、ターゲット13を貫通して外側の面13bから外部に放射される。窓を兼ねたターゲット13の材料として、実施例1の窓と同様に、アモルファスカーボンが使用される。
【0024】
上記のように本発明の実施例に係る光除電装置の軟X線発生器10では、陰極である電子源12と、陽極であるターゲット13との間にグリッド14が設けられ、電子源12とグリッド14との間には電子発生電圧Vgが印可され、グリッド14とターゲット13との間には加速電圧Vaが印可される。そして、電子発生電圧Vgと加速電圧Vaが個別に可変制御される。これにより、主として加速電圧Vaによって決まる軟X線のエネルギーと、主として電子発生電圧Vgによって決まる軟X線の発生量とを個別に制御することが可能となり、以下に説明するように汎用性に優れた光除電装置が実現する。
【0025】
図2は、本発明の実施例に係る光除電装置の基本構成を示すブロック図である。上述のような軟X線発生器10に電子発生電圧Vg及び加速電圧Vaを供給する高圧電源回路21と、その発生電圧である電子発生電圧Vg及び加速電圧Vaを個別に可変制御するための制御部22とが設けられている。また、軟X線発生器10から放射される軟X線LXの照射領域内に光強度センサ23が配置され、その検出信号が制御部22に入力(フィードバック)されている。なお、制御部22は、マイクロコンピュータ等を用いて構成され、プログラム記憶用のメモリー(ROM)の他にデータ記憶用のメモリー(RAM)22aを内蔵している。
【0026】
制御部22は、光強度センサ23から入力された軟X線LXの強度に相当する検出値を予め定めた基準値と比較し、その比較結果にしたがって電子発生電圧Vgのフィードバック制御を行う。このフィードバック制御により、軟X線発生器10の温度特性や経時変化(劣化)等に起因する軟X線LXの強度の変動が補償され、常に一定の強度の軟X線LXが得られる。
【0027】
図3は、本発明の実施例に係る光除電装置における加速電圧及び電子発生電圧の個別制御の適用例を示す図である。図3(a)と図3(b)とを比較して分かるように、軟X線発生器10から放射される軟X線LXの広がり角度が一定の場合、軟X線発生器10から遠ざかるほど広い面積に軟X線LXを照射することが可能である。しかし、軟X線発生器10から遠ざかるほど軟X線LXのエネルギーが空気中の気体分子に吸収されて減衰する程度が大きくなる。そこで、除電対象物(帯電物)であるワークWKが軟X線発生器10から遠い場合は近い場合よりも加速電圧Vaを高くして発生する軟X線LXの波長を短く(透過力を大きく)し、遠くまで軟X線LXが届くようにする。
【0028】
すなわち、除電すべきワークWKの表面積が小さい場合はワークWKを軟X線発生器10に近づけて加速電圧Vaを下げ、除電すべきワークWKの表面積が大きい場合はワークWKを軟X線発生器10から遠ざけて加速電圧Vaを上げるような制御を制御部22に実行させればよい。このような制御によれば、例えばワークWKとなる液晶基板の場合、携帯電話用の液晶のように小さな表面積のものから大型フラットディスプレイのように大きい表面積のものまで種々の大きさの液晶基板に対応することが可能になる。
【0029】
また、軟X線発生器10から放射される軟X線LXの照射領域に入らないほどワークWKの表面積が大きい場合は、軟X線発生器10(軟X線LXの照射領域)とワークWKとを相対的に移動させる必要がある。図3(c)に示す例は、ローラコンベアRC上を一定速度で移動するワークWKの上方に軟X線発生器10を固定した場合を示している。逆に、ワークWKを固定し、その上方に配置した軟X線発生器10を一定速度で移動するようにしてもよい。
【0030】
上記のように、軟X線発生器10とワークWKとを相対的に移動させる場合、相対速度が速いほど単位時間当たりの除電処理量が多くなるので、多くの軟X線LXが必要となる。そこで、相対速度に応じて電子発生電圧Vgを変える制御を制御部22に実行させればよい。すなわち、軟X線発生器10とワークWKとの相対速度が速いほど電子発生電圧Vgを高くして電子の発生量を増加させ、ひいては軟X線LXの放射量を増加させる制御を行う。このとき、軟X線LXのエネルギー(透過力)を変える必要はないので加速電圧Vaは一定に制御すればよい。
【0031】
なお、上記のような制御における適切な電子発生電圧Vgや加速電圧Vaの調整値(目標値)は、その条件(軟X線発生器10とワークWKとの相対速度、ワークWKのサイズ等)と共に制御部22のメモリー22aに記憶され、必要に応じて読み出して使用することができる。例えば複数の相対速度に対応する複数の電子発生電圧Vgの目標値、あるいは複数のワークサイズに対応する複数の加速電圧Vaの目標値をルックアップテーブルとして記憶しておいてもよい。
【0032】
図3(c)において、ワークWKの移動方向(ローラコンベアRCの搬送方向)を横切る方向(幅方向)に軟X線発生器10を移動させることにより、幅の広いワークWKに対応することが可能になる。幅方向に軟X線発生器10を移動させる代わりに、複数の軟X線発生器10を幅方向に一定間隔で並べることにより、幅の広いワークWKの幅方向にわたって一度に除電できるように構成してもよい。例えばワークWKの上方に幅方向に架設されたカーテンレールのような支持部材に一定間隔で複数の軟X線発生器10をセットし、それぞれの軟X線発生器10から下方に軟X線を照射するように構成すればよい。
【0033】
図4は、本発明の別の実施例に係る光除電装置を示す模式図である。この実施例の光除電装置では、軟X線発生器10の近傍(周囲)に複数の可視光光源31が設けられ、軟X線発生器10から放射された軟X線LAの照射領域XAにほぼ等しい領域(の輪郭部分)VAを可視光光源31から出た可視光LVが照射するように構成されている。すなわち、目に見えない軟X線の照射領域XAに可視光LVの照射領域VAを重ねることによって照射領域XAを可視化する。こうすることにより、安全性が確保されると共に光除電装置(軟X線発生器10)を設置する際の位置合わせが容易になる。
【0034】
なお、図4では可視光LVの照射領域VAが軟X線LAの照射領域XAより大きくなっているが、両者がほぼ重なっておれば十分である。また、可視光LVの照射領域VAの内側全体を可視光LVで照射する必要は必ずしも無く、その輪郭部分のみを照射してもよい。更には複数の可視光光源31から照射された可視光LVのスポットが輪郭部分に沿って一定間隔で円環状に並ぶようにしてもよい。可視光光源31には、赤色又は他の色の発光ダイオード(LED)や半導体レーザーを使用することができる。もちろん1個の可視光光源31を軟X線発生器10と同じ光軸上に設けて照射領域VAの内側全体を可視光LVで照射するように構成してもよい。
【0035】
可視光光源31のオン・オフは、軟X線発生器10のオン・オフに連動するように制御部22が制御する。あるいは、軟X線発生器10のオン・オフに連動して可視光光源31から照射される可視光LVの色を変えるように制御してもよい。例えば、軟X線発生器10がオフで軟X線LXが照射されていないときは可視光光源31から緑色の可視光LVが照射され、軟X線発生器10がオンで軟X線LXが照射されているときは可視光光源31から赤色の可視光LVが照射されるようにすれば、安全性の確保にとって好ましい。
【0036】
図5は、本発明の別の実施例に係る光除電装置の構成を示すブロック図である。この光除電装置では、図2に示した基本構成に上述の可視光光源31、電流検出回路42、電源回路43、入出力回路44及び表示器45を加えたものが1つのケース41に収容されている。電流検出回路42は、高圧電源回路21から軟X線発生器10に供給される加速電圧Vaの電流を検出し、その検出信号(検出電流)を制御部22に与える。制御部22は、入力された検出電流が一定となるように、高圧電源回路21を制御する。また、過電流が検出されたときは異常と判断して高圧電源回路21の動作を停止する制御を制御部22が実行する。なお、図5では電流検出回路42が加速電圧Vaの電流のみを検出するように構成されているが、電子発生電圧Vgの電流をも検出し、その検出電流に基づいて制御部22が上記と同様の制御を行うように構成してもよい。
【0037】
電源回路43は、商用電源(AC100V)から直流低電圧を生成し、制御部22や高圧電源回路21に供給するための回路である。入出力回路44は、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)やパーソナルコンピュータのような外部機器と接続して情報の授受を行うための回路である。外部機器からの入力信号として、例えば緊急停止信号がある。また、外部機器への出力信号として、例えば軟X線発生器10がオンで軟X線LXが照射されていることを示す信号、軟X線発生器10又は高圧電源回路21が異常であることを示す信号、軟X線発生器10の交換時期に達したことを示す信号等がある。なお、軟X線発生器10の交換時期は、積算稼働時間又は劣化に伴う動作電流の増加率から判断することができる。
【0038】
表示器45は、例えば7セグメント複数桁のLED表示器又は蛍光表示管等で構成され、軟X線発生器10のオン・オフ状態の区別、使用時間、消費電力等の表示に使用される。また、高圧電源回路21の出力電圧(加速電圧Va及び電子発生電圧Vg)の表示や軟X線発生器10の交換時期の報知に使用される。これらの表示データは制御部22によって生成され、表示器45に与えられる。
【0039】
本実施例の光除電装置は、軟X線発生器10、高圧電源回路21及び制御部22が1つのケース41に収容されて一体に構成されているので、軟X線発生器10と高圧電源回路21とを接続する高圧ケーブル、及び、高圧電源回路21と制御部22とを接続する配線ケーブルが外部に露出することなく、構造が簡素になると共に装置全体のコスト低減が可能になる。
【0040】
また、図5の構成では、図2に示した光強度センサ23の他に、静電気センサ48及び距離センサ49が外部センサとして設けられ、これらの検出信号が制御部22に入力されている。静電気センサ48は帯電物であるワークWKの帯電状態(中和状態)を検出するためにワークWKの近傍に配置される。制御部22は、静電気センサ48の検出信号に基づいてワークWKが十分中和(除電)されていないと判断したときは基準値より多くの軟X線を放射するように制御し、ワークWKがほぼ中和状態であると判断したときは基準値より少ない軟X線を放射し、又は基準値の軟X線を維持するように制御する。
【0041】
距離センサ49は、光除電装置の所定部位に、好ましくは窓15又は13の近傍に設けられ、ワークWKまでの距離を計測するために使用される。制御部22は、距離センサ49の検出信号に基づいてワークWKまでの距離が基準距離より大きいと判断したときは基準値より多くの軟X線を放射するように制御し、ワークWKまでの距離が基準距離より小さいと判断したときは基準値より少ない軟X線を放射し、又は基準値の軟X線を維持するように制御する。本実施例の光除電装置は、静電気センサ48及び距離センサ49によって、状況に応じた最適な除電性能を発揮することができる。
【0042】
なお、本発明は上記の実施例に示した構成に限らず、種々の変更又は変形が可能である。例えば、入出力回路44を介する外部機器との情報の授受を有線又は無線のデータ通信によって行うようにしてもよい。また、図3(c)の変形例として説明したように複数の光除電装置を並べて使用する形態では、ネットワークを介してそれぞれの光除電装置を外部機器であるパーソナルコンピュータに接続し、そのパーソナルコンピュータが複数の光除電装置(軟X線発生器10の加速電圧Va及び電子発生電圧Vg等)を集中制御するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例に係る光除電装置における軟X線発生器の概略構造を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係る光除電装置の基本構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例に係る光除電装置における加速電圧及び電子発生電圧の個別制御の適用例を示す図である。
【図4】本発明の別の実施例に係る光除電装置を示す模式図である。
【図5】本発明の別の実施例に係る光除電装置の構成を示すブロック図である。
【図6】従来の軟X線又は真空紫外線の発生装置の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10 軟X線発生器
11 真空容器
12 電子源(陰極)
13 ターゲット(陽極)
14 グリッド
15 窓
21 高圧電源回路
22 制御部
31 可視光光源
41 ケース
Vg 電子発生電圧
Va 加速電圧
Wk ワーク(帯電物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気等の気体に軟X線を照射して気体をイオン化し、イオン化された気体を用いて帯電物の除電を行う光除電装置であって、
前記軟X線を発生するための真空管である軟X線発生器と高圧電源回路と制御部とを備え、
前記軟X線発生器は、陰極である電子源と、陽極であるターゲットと、前記電子源及びターゲット間に配置されたグリッドと、前記電子源から出た電子がターゲットに衝突することによって発生する軟X線を外部に放射するための窓とを有し、
前記高圧電源回路は、前記電子源と前記グリッドとの間に印可される電子発生電圧と、前記グリッドと前記ターゲットとの間に印可される加速電圧とを発生し、
前記制御部は、前記高圧電源回路が発生する前記電子発生電圧と前記加速電圧とを個別に可変制御することを特徴とする光除電装置。
【請求項2】
前記軟X線発生器の前記窓が前記ターゲットを兼ねていることを特徴とする
請求項1記載の光除電装置。
【請求項3】
前記軟X線発生器の前記窓の材料としてアモルファスカーボンが使用されていることを特徴とする
請求項1又は2記載の光除電装置。
【請求項4】
前記軟X線発生器の前記電子源の材料としてカーボンナノチューブが使用されていることを特徴とする
請求項1、2又は3記載の光除電装置。
【請求項5】
前記軟X線の照射領域を可視化するための可視光を照射する1又は複数の可視光光源が前記軟X線発生器の近傍に配置され、前記軟X線発生器のオン・オフに連動して前記可視光光源のオン・オフ又はその発光色が制御されることを特徴とする
請求項1、2、3又は4記載の光除電装置。
【請求項6】
前記軟X線発生器と前記高圧電源回路と前記制御部とが1つのケースに収容されて一体に構成されていることを特徴とする
請求項1から5のいずれか1項記載の光除電装置。
【請求項7】
空気等の気体に軟X線を照射して気体をイオン化し、イオン化された気体を用いて帯電物の除電を行う光除電装置であって、
前記軟X線を発生するための真空管である軟X線発生器と高圧電源回路と1又は複数の可視光光源と制御部とを備え、
前記軟X線発生器は、陰極である電子源と、陽極であるターゲットと、前記電子源から出た電子がターゲットに衝突することによって発生する軟X線を外部に放射するための窓とを有し、
前記高圧電源回路は、前記電子源と前記ターゲットとの間に印可される電圧を発生し、
前記1又は複数の可視光光源は、前記軟X線発生器の近傍に配置されて前記軟X線の照射領域を可視化するための可視光を照射し、
前記制御部は、前記高圧電源回路が発生する電圧を可変制御すると共に、前記軟X線発生器のオン・オフに連動して前記可視光光源のオン・オフ又はその発光色を制御することを特徴とする光除電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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