説明

光電変換素子およびその製造方法

【課題】高い開放端電圧を有する光電変換素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】色素が吸着された半導体層を有する半導体層電極と対電極との間に、電荷輸送機能を有する電解質層を備え、前記色素が、その前記半導体層への吸着を補助する機能を有する、一般式(I):


(式中、R1、R2およびR3は、同一または異なって、炭素数1〜6でありかつアルキル基、アリール基およびアルケニル基から選択される基であり、Zは−COOH基および−PO32基ならびにそれらの塩から選択される基である)で表される化合物の存在下に、前記半導体層の表面に吸着されてなることを特徴とする光電変換素子により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池や光センサーなどに使用できる、高い開放端電圧を有する光電変換素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色素が吸着された半導体層を有する半導体電極、電解質層および対電極などから構成される光電変換素子は、色素増感太陽電池などのエネルギーデバイスおよび光センサーなどへの応用が期待されている。他方、化石燃料に代わるエネルギー源として、太陽光を電力に変換する太陽電池が注目され、シリコン系太陽電池が実用化されるに至っているが、製造コストが高いというの欠点ある。
そこで、上記の欠点を補う有機系太陽電池が注目され、上記の光電変換素子を用いた色素増感太陽電池は、有機系太陽電池の中でも高い光電変換効率(単に「変換効率」ともいう)を示すために特に注目されている。
【0003】
このような色素増感太陽電池の半導体電極には、可視光領域に吸収を有する分光増感色素(「増感色素」、単に「色素」ともいう)を半導体表面に吸着させた半導体層が用いられている。
例えば、特許第2664194号公報(特許文献1)には、遷移金属錯体からなる色素を半導体表面に吸着させた金属酸化物半導体層を用いた光電気化学電池(色素増感太陽電池)が記載されている。
【0004】
また、特公平8−15097号公報(特許文献2)には、金属イオンをドープした酸化チタン半導体層の表面に、遷移金属錯体などの分光増感色素層を有する光電池(色素増感太陽電池)が記載されている。
さらに、特開平7−249790号公報(特許文献3)には、半導体膜の表面に分光増感剤のエタノール溶液を加熱還流させることにより得られた光電変換材料用半導体層を用いた色素増感太陽電池が記載されている。
【0005】
電解質層として液体電解質(「電解液」ともいう)を用いた一般的な色素増感太陽電池は、次のようにして作製される。
まず、図2に示すように、透明支持体31上に透明導電層(第1導電層)32および酸化チタンなどの半導体層33を形成し、得られた半導体層33に色素を吸着させる。次いで、対電極(第2導電層)35上に白金膜などの触媒層36を形成(コーティング)し、半導体層33と触媒層36とが対向するように透明支持体31と対電極35とを重ね合わせる。次いで、これらの側面をエポキシ系樹脂などの封止材37で封止し、半導体層33と触媒層36との間の空隙に液体電解質を注入・封止して電解質層34とすることにより色素増感太陽電池を得る。
【0006】
色素増感太陽電池においては、通常、半導体層から液体電解質に逆電流が流れると開放端電圧(Voc)が低下して、変換効率が低下するとされている。
このような変換効率の低下の問題を解決するために、半導体層の表面を特定の化合物で処理する、すなわち半導体層の表面に特定の化合物を吸着させる方法、電解質層に特定の化合物を添加する方法が提案されている。
【0007】
前者の方法に用いる化合物として、例えば、特開2002−334728号公報(特許文献4)には特定式で表されるアミノ基またはチオシアナト基を有する化合物、特開2004−119279号公報(特許文献5)にはフッ素原子を含有する、アルコキシシラン、クロロシラン、シラノール、ピリジン類およびイミダゾール類から選択される化合物、特開2006−134631号公報(特許文献6)には、t−ブチルピリジン、1−メトキシベンゾイミダゾールおよびデシルリン酸のような化合物が記載されている。
【0008】
特許文献4〜6に記載されている化合物は、色素増感太陽電池の逆電子反応を抑制し、色素の溶出を防止して開放端電圧を向上させるための半導体の表面修飾材料として用いられている。しかしながら、これらの材料では十分な開放端電圧が得られていない。これは、逆電子反応の抑制が十分でないことによるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2664194号公報
【特許文献2】特公平8−15097号公報
【特許文献3】特開平7−249790号公報
【特許文献4】特開2002−334728号公報
【特許文献5】特開2004−119279号公報
【特許文献6】特開2006−134631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い開放端電圧を有する光電変換素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、色素が吸着された半導体層を有する半導体層電極と対電極との間に、電荷輸送機能を有する電解質層を備えた光電変換素子において、色素がその半導体層への吸着を補助する機能を有する特定の化合物の存在下に、半導体層の表面に吸着されてなることにより、高い開放端電圧が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
かくして、本発明によれば、色素が吸着された半導体層を有する半導体層電極と対電極との間に、電荷輸送機能を有する電解質層を備え、前記色素が、その前記半導体層への吸着を補助する機能を有する、一般式(I):
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、R1、R2およびR3は、同一または異なって、炭素数1〜6でありかつアルキル基、アリール基およびアルケニル基から選択される基であり、Zは−COOH基および−PO32基ならびにそれらの塩から選択される基である)
で表される化合物の存在下に、前記半導体層の表面に吸着されてなることを特徴とする光電変換素子が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、上記の光電変素子の製造方法であり、
(a)前記色素と前記一般式(I)の化合物とを溶解した溶液に前記半導体層を浸漬し、次いで洗浄・乾燥する操作、
(b)前記色素を溶解した溶液に前記半導体層を浸漬して洗浄・乾燥し、次いで前記一般式(I)の化合物を溶解した溶液に前記半導体層を浸漬して洗浄・乾燥する操作、または
(c)前記色素を溶解した溶液に前記半導体層を浸漬し、次いで前記一般式(I)の化合物を溶解した溶液に前記半導体層を浸漬して洗浄・乾燥する操作
により、前記色素を前記一般式(I)の化合物の存在下に前記半導体層の表面に吸着させる工程を含むことを特徴とする光電変換素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い開放端電圧を有する光電変換素子およびその製造方法を提供することができる。
【0017】
開放端電圧は、色素増感太陽電池において重要なファクターであり、例えば、開放端電圧が0.01V向上することにより、変換効率が約0.1〜0.2%程度向上することになるため、開放電圧の向上は変換効率の向上に対して極めて重要となる。
【0018】
一般式(I)の化合物が、置換基R1、R2およびR3としてそれぞれメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、ビニル基、ペンテニル基およびフェニル基から選択される基を有する化合物ならびにそれらの塩から選択される化合物である場合、特にトリメチル酢酸、2,2−ジメチルブタン酸、2,2−ジエチルブタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2,2−ジプロピルペンタン酸、2,2−ジメチルブテン酸、2,2−ジメチルペンテン酸、トリフェニル酢酸およびt−ブチルリン酸ならびにそれらの塩から選択される化合物である場合には、上記の効果がさらに発揮される。
【0019】
また、一般式(I)の化合物が、置換基Zとして−COOH基を有するカルボン酸またはその塩である場合、特にトリメチル酢酸、2,2−ジエチルブタン酸および2,2−ジメチルペンテン酸ならびにそれらの塩から選択される化合物である場合には、上記の効果がさらに発揮される。
【0020】
色素が、ルテニウム金属錯体色素である場合には、その色素がインターロック基を有することにより半導体層への吸着が強固になり、上記の効果がさらに発揮される。
【0021】
上記の操作(a)〜(c)により、色素を一般式(I)の化合物の存在下に、半導体層の表面に効率よく吸着させることができるので、本発明の光電変換素子を簡易に製造することができる。
また、半導体層の浸漬が、液温5〜80℃の、色素と前記一般式(I)の化合物とを溶解した溶液、色素を溶解した溶液または前記一般式(I)の化合物本発明の光電変換素子を簡易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の色素増感太陽電池の作製工程を説明するための概略断面図である。
【図2】色素増感太陽電池の層構成を示す要部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の光電変換素子は、色素が吸着された半導体層を有する半導体層電極と対電極との間に、電荷輸送機能を有する電解質層を備え、前記色素が、その前記半導体層への吸着を補助する機能を有する、一般式(I)で表される化合物の存在下に、前記半導体層の表面に吸着されてなることを特徴とする。
本発明において、一般式(I)で表される化合物は、半導体層の表面への色素の吸着を補助し、電解質層への色素の溶出を防止し、色素増感太陽電池の逆電子反応を抑制すると共に開放端電圧を向上させる機能を有するものと考えられる。したがって、本発明では、一般式(I)で表される化合物を「表面吸着剤」と称する。
【0024】
本発明の光電変換素子の好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、この実施形態である色素増感太陽電池は一例であり、種々の形態での実施が本発明の範囲内で可能である。
本発明の光電変換素子(以下「色素増感太陽電池」ともいう)は、図1(d)に示されるように、透明基板1a上に透明導電層(第1導電層)1bが形成された導電性基板1、透明導電層1b上に形成されかつ色素および表面吸着剤が吸着された半導体層3、電解質層7、およびその上に触媒層4が形成された対電極(第2導電層)5を備え、透明導電層1bと触媒層4とが対向するように導電性基板1と対電極4とが張り合わせられ、それらの周囲が封止材6で封止され、電解質層7が封入(注入)されている。図番5aおよび8は、それぞれ電解質層7の注入用の貫通孔およびそれを封止する封止材を示す。
本発明では、導電性基板1と色素が吸着された半導体層3とを合わせて「半導体層電極」という。
以下、まず本発明の特徴である色素の表面吸着剤について説明し、他の光電変換素子の各構成要素について詳述する。
【0025】
(表面吸着剤)
本発明における表面吸着剤としての化合物は、一般式(I):
【化2】

【0026】
(式中、R1、R2およびR3は、同一または異なって、炭素数1〜6でありかつアルキル基、アリール基およびアルケニル基から選択される基であり、Zは−COOH基および−PO32基ならびにそれらの塩から選択される基である)
で表されるカルボン酸、ホスホン酸およびそれらの塩である。
それらの塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
1、R2およびR3としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6のアリール基(フェニル基)、炭素数1〜6のアルケニル基が好ましい。
【0027】
一般式(I)における置換基R1、R2およびR3としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などのアルキル基;フェニル基;ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、メチルプロペニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基などのアルケニル基が挙げられる。
一般式(I)で表される表面吸着剤は、置換基R1、R2およびR3としてメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、ビニル基、ペンテニル基およびフェニル基から選択される基を有する化合物およびそれらの塩が好ましい。
【0028】
一般式(I)で表される好ましい表面吸着剤としては、例えば、トリメチル酢酸、2,2−ジメチルブタン酸、2,2−ジエチルブタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2,2−ジプロピルペンタン酸、2,2−ジメチルブテン酸、2,2−ジメチルペンテン酸、トリフェニル酢酸およびt−ブチルリン酸およびそれらの塩が挙げられる。
【0029】
一般式(I)で表される表面吸着剤は、一般式(I)における置換基Zとして−COOH基を有する化合物が好ましく、トリメチル酢酸、2,2−ジエチルブタン酸および2,2−ジメチルペンテン酸から選択される化合物およびそれらの塩が特に好ましい。
【0030】
(導電性基板1)
導電性基板1は、透光性を有しかつ光電変換素子を支持し得るものであれば特に限定されず、それ自体が導電性を有しているものであっても、透明基板1a上に透明導電層1bが形成されたものであってもよい。
ここで「透光性」および「透明」とは、少なくとも用いられる増感色素に実効的な感度を有する波長の光を実質的に透過させることを意味し、必ずしもすべての波長領域の光を透過させる必要はない。
【0031】
透明基板を構成する材料としては、例えば、ソーダ石灰フロートガラス、石英ガラスなどのガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムなどの透明プラスチックフィルムが挙げられる。
透明基板の厚さは、通常、0.5〜8μm程度である。
【0032】
透明導電層を構成する材料としては、酸化錫(SnO2)、フッ素がドープされた酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In23)およびインジウム錫複合酸化物(ITO)などが挙げられる。
透明導電層は、スパッタ法、蒸着法などの公知の方法により透明基板上に形成される。
透明導電層の膜厚は、通常、0.1〜5μm程度である。
【0033】
(半導体層3)
半導体層としては、当該技術分野で一般に光電変換材料に使用されるものであれば特に限定されない。
半導体層を構成する半導体材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウムなどの公知の半導体化合物およびそれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、変換効率、安定性および安全性の点から酸化チタンが特に好ましい。
酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、無定形酸化チタン、メタチタン酸、オルソチタン酸などの種々の酸化チタン、含酸化チタン複合体などが挙げられ、本発明ではこれらの単独または混合物を用いることができる。これらの中でも、変換効率、安定性および安全性の点からアナターゼ型酸化チタンが特に好ましい。
アナターゼ型とルチル型の2種類の結晶系酸化チタンは、その製法や熱履歴によりいずれの形態にもなり得るが、アナターゼ型が一般的である。本発明においては、色素増感に関して、アナターゼ型の含有率の高いもの、例えば80%以上のものが特に好ましい。
【0034】
半導体層の形状としては、半導体粒子(「半導体微粒子」ともいう)などを焼結することにより得られる多孔性半導体層、ゾルーゲル法・スパッタ法・スプレー熱分解法などにより得られる薄膜状半導体層などが挙げられる。
その他繊維状半導体層や針状晶からなる半導体層など光電変換素子の使用目的に応じて、適宜選択することができる。
本発明の半導体層としては、色素吸着量などの観点から、多孔性半導体層、針状晶からなる半導体層など比表面積の大きな半導体層が好ましい。また、半導体微粒子の粒径により入射光の利用率などを調整できる観点から、半導体微粒子から形成される多孔性半導体層が特に好ましい。
【0035】
また、半導体層は、単層であっても多層であってもよい。多層にすることにより、十分な厚さの半導体層を容易に形成することができる。
多層の半導体層では、各半導体層が平均粒径の異なる粒子から形成されていてもよい。例えば、光入射側に近い方の半導体層(第1半導体層)の平均粒径を、遠い方の半導体層(第2半導体層)より小さくすることにより、第1半導体層で多くの光を吸収させ、第1半導体層を通過した光を第2半導体層で散乱させて第1半導体層に戻し、再び第1半導体層で吸収させることにより、全体の光吸収率を向上させることができる。
【0036】
半導体層の膜厚は、特に限定されるものではないが、透過性、変換効率などの観点から、0.5〜45μm程度が好ましい。
多量の色素および表面吸着剤を吸着させるために、半導体層の比表面積は、好ましくは10〜200m2/gである。また、色素を吸着させ、電解質中のイオンを十分に拡散させて電荷輸送を行わせるために、半導体層の空隙率は、好ましくは40〜80%がである。
ここで「空隙率」とは、半導体層の体積の中で、半導体層中の細孔が占める体積の割合を%で示したものとする。
【0037】
半導体粒子の平均粒径は、好ましくは1nm〜500nm程度であり、多孔質半導体層の比表面積を大きくするという点から、平均粒径は1〜50nm程度であるのが好ましく、光電変換素子の入射光の利用率を高めるという点から、平均粒径は200〜400nm程度であるのが好ましい。
【0038】
半導体粒子の製造方法は、目的の粒子を製造できる方法であれば特に限定されず、水熱合成法などのゾルーゲル法、硫酸法、塩素法などが挙げられ、結晶性の観点から、水熱合成法が好ましい。
【0039】
(半導体層の形成方法)
半導体層の形成方法について、多孔性半導体層を例にとって説明する。
多孔性半導体層3は、例えば、半導体粒子を高分子などの有機化合物および分散剤と共に、有機溶剤や水などの分散媒に加えて懸濁液を調製し、この懸濁液を導電性基板1上に塗布し、これを乾燥、焼成することによって形成することができる。
半導体微粒子と共に分散媒に有機化合物を添加しておくと、焼成時に有機化合物が燃焼して多孔性半導体層内に隙間を確保することができ、添加する有機化合物の分子量や添加量を制御することで空隙率を変化させることができる。
【0040】
有機化合物は、懸濁液中に溶解し、焼成時に燃焼して除去できるものであればよく、例えば、ポリエチレングリコール、エチルセルロースなどの高分子が挙げられる。
有機化合物の種類や量は、使用する半導体粒子の状態、懸濁液全体の総重量などにより適宜選択し調整することができる。
【0041】
分散剤としては、半導体粒子を効率よく分散させ、焼成時に燃焼して除去できるものであればよく、例えば、高分子化合物などが挙げられる。
有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのグライム系溶剤、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、イソプロピルアルコール/トルエンなどのアルコール系混合溶剤などが挙げられる。
【0042】
半導体粒子の割合が懸濁液全体の総重量に対して10wt%以上のときには、形成した膜の強度を充分に強くすることができ、半導体粒子の割合が懸濁液全体の総重量に対して40wt%以下であれば、空隙率が大きな多孔性半導体層を得ることができるため、半導体粒子の割合は懸濁液全体の総重量に対して10〜40wt%であることが好ましい。
【0043】
懸濁液の塗布方法としては、ドクターブレード法、スキージ法、スピンコート法、スクリーン印刷法などの公知の方法が挙げられる。
その後、得られた塗膜を乾燥、焼成することにより多孔性半導体層を得る。
乾燥および焼成に必要な温度、時間、雰囲気などは、適宜設定すればよく、例えば、大気雰囲気下または不活性ガス雰囲気下、温度50〜800℃程度の範囲で10秒〜12時間程度が挙げられる。この乾燥および焼成は、単一の温度で1回または温度を変化させて2回以上行ってもよい。
多孔性半導体層を複数層で構成する場合には、異なる半導体粒子の懸濁液を調製し、塗布、乾燥および焼成の少なくとも一方を行う工程を2回以上繰り返せばよい。
【0044】
(色素)
本発明において、光増感剤として機能する色素(以下「色素」ともいう)は、種々の可視光領域および赤外光領域に吸収を有するものであって、半導体層に強固に吸着させるために、色素分子中にCOOH基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、スルホン酸基、エステル基、メルカプト基、ホスホニル基などのインターロック基を有するものが好ましい。このような中でもCOOH基を有するものが特に好ましい。
【0045】
インターロック基は、励起状態の色素と半導体の導電帯との間の電子移動を容易にする電気的結合を供給するものである。
インターロック基を含有する色素としては、例えば、ルテニウム金属錯体色素(ルテニウムビピリジン系金属錯体色素、ルテニウムターピリジン系金属錯体色素、ルテニウムクォーターピリジン系金属錯体色素など)、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ベリレン系色素、インジゴ系色素、ナフタロシアニン系色素などが挙げられ、これらの中でも、変換効率や安定性の点でルテニウム金属錯体色素が特に好ましい。
【0046】
(色素の吸着)
半導体層に色素を吸着させる方法としては、例えば、導電性基板上に形成された半導体層を、色素を溶解した溶液(色素溶液)に浸漬する方法が挙げられる。
色素を溶解させる溶剤としては、色素を溶解し得るものであれば特に限定されず、例えば、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリルなどの窒素化合物、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。これらの溶剤は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0047】
色素溶液中の色素濃度は、使用する色素および溶剤の種類などにより適宜設定することができる。吸着機能を向上させるためにはある程度高濃度であるのが好ましく、例えば、5×10-5モル/L以上の濃度が好ましい。
色素およびその吸着状態、半導体層を構成する酸化チタンの粒子表面などを制御するために、色素溶液にデオキシコール酸(Deoxycholic Acid)などの有機化合物を添加してもよい。
【0048】
色素溶液中に半導体層を浸漬する際の温度、時間、雰囲気などは、使用する色素、溶剤の種類、溶液の濃度などにより適宜設定すればよく、例えば、室温程度の大気圧下が挙げられる。なお、色素吸着を効果的に行うためには、加熱するのが好ましく、例えば、温度5〜80℃程度の範囲で1分〜80時間程度である。
また、表面吸着剤を添加した色素溶液に半導体層を浸漬して、色素と表面吸着剤とを同時に吸着処理してもよく、これについては次項で説明する。
【0049】
(表面吸着剤の吸着)
半導体層に表面吸着剤を吸着させる方法として、
(a)色素と一般式(I)の化合物とを溶解した溶液に半導体層を浸漬し、次いで洗浄・乾燥する操作、
(b)色素を溶解した溶液に半導体層を浸漬して洗浄・乾燥し、次いで一般式(I)の化合物を溶解した溶液に半導体層を浸漬して洗浄・乾燥する操作、または
(c)色素を溶解した溶液に半導体層を浸漬し、次いで一般式(I)の化合物を溶解した溶液に半導体層を浸漬して洗浄・乾燥する操作
が挙げられ、色素や表面吸着剤の組み合わせなどにより適宜選択することができる。
【0050】
表面吸着剤を溶解させる溶剤としては、表面吸着剤を溶解し得るものであれば特に限定されず、例えば、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリルなどの窒素化合物類、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、水などが挙げられる。これらの溶剤は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0051】
表面吸着剤溶液中の表面吸着剤の濃度は、使用する表面吸着剤および溶剤の種類などにより適宜設定することができ、好ましくは0.1〜1000ミリモル/L、より好ましくは1〜500ミリモル/Lである。
【0052】
表面吸着剤溶液中に半導体層を浸漬する際の温度、時間、雰囲気などは、使用する表面吸着剤、溶剤の種類、溶液の濃度などにより適宜設定すればよく、例えば、室温程度の大気圧下が挙げられる。なお、色素吸着を効果的に行うためには、加熱するのが好ましく、例えば、温度5〜80℃程度の範囲で1分〜80時間程度である。
【0053】
すなわち、上記の半導体層の浸漬は、液温5〜80℃の、色素と一般式(I)の化合物とを溶解した溶液、色素を溶解した溶液または一般式(I)の化合物を溶解した溶液中に、1分〜80時間静置することからなるのが好ましい。
【0054】
(触媒層4)
触媒層を構成する材料は、一般に光電変換材料に使用されるものであれば特に限定されない。このような材料としては、例えば、白金、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレンなどが挙げられ、これらの中でも白金が好ましい。
触媒層は、例えば、白金を用いる場合には、スパッタ法、塩化白金酸の熱分解、電着などの公知の方法により形成することができる。その膜厚は、触媒機能を発現できればよく、例えば1〜2000nm程度である。また、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレンなどのカーボンを用いる場合には、溶剤に分散してペースト状にしたカーボンをスクリーン印刷法などにより塗布して触媒層を形成することができる。
【0055】
(対電極5)
触媒層の抵抗が高い場合には、触媒層上に対極がさらに積層されてなるのが好ましい。
対極を構成する材料としては、インジウム錫複合酸化物(ITO)、酸化錫(SnO2)、酸化錫にフッ素をドープしたもの(F-doped SnO2、FTO)、酸化亜鉛(ZnO)、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、チタンなどが挙げられる。
対極は、スパッタ法、スプレー法などの公知の方法により、触媒層上に形成することができる。その膜厚は、0.02〜5μm程度であり、その膜抵抗は低いほどよく、40Ω/sq以下が好ましい。
また、対電極は、半導体層電極と同一基板上に形成されていてもよい。この場合、対電極と半導体層電極の間の導電層をレーザースクライブなどにより切断して、同一基板上に二つ以上の電極を形成することができる。
【0056】
(電解質層7)
電解質層は、イオンを輸送し得る導電性材料からなり、液状で流動性がある液体電解質、流動性がない固体電解質の何れからなってもよい。
【0057】
(液体電解質)
液体電解質層は、酸化還元種を含む液状物であればよく、一般に電池や太陽電池などにおいて使用することができるものであれば特に限定されない。具体的には、酸化還元種とこれを溶解可能な溶剤からなる組成物が挙げられる。
【0058】
酸化還元種としては、例えば、LiI、NaI、KI、CaI2などの金属ヨウ化物とヨウ素の組み合わせ、LiBr、NaBr、KBr、CaBr2などの金属臭化物と臭素の組み合わせ、ヨウ化物イオンからなる塩とヨウ素の組み合わせ、臭化物イオンからなる塩と臭素の組み合わせが挙げられ、これらの中でも、LiIとヨウ素の組み合わせ、ヨウ化物イオンからなる塩とヨウ素の組み合わせが好ましい。これらの酸化還元種は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
液体電解質層には、電極表面への吸着などによる特性改善のために、グアニジンチオシアネートなどのイオン性化合物や4-tert-ブチルピリジンなどの窒素含有複素環化合物、その他の有機化合物が添加されていてもよい。
【0059】
酸化還元種を溶解可能な溶剤としては、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、γ−ブチロラクトンなどのラクトン類、アセトニトリルなどのニトリル化合物、エタノールなどのアルコール類、水、非プロトン極性物質などが挙げられ、これらの中でも、カーボネート化合物、ラクトン類、ニトリル化合物が特に好ましい。これらの溶剤は2種類以上を混合して用いることもできる。
【0060】
酸化還元種を溶解可能な溶剤として溶融塩を用いることもでき、上記の溶剤と混合して用いることもできる。
「溶融塩」とは、溶剤を含まず、イオンのみから構成される液体状態の塩である。
溶融塩は、例えばInorg. Chem., 1996年, 35, p.1168-1178およびElectrochemistry., 2002年, 2, p.130-136などの文献、ならびに特表平9−507334号公報および特開平8−259543号公報などの特許文献に記載されているような、一般に電池や太陽電池などにおいて使用することができるものであれば特に限定されない。また、溶融塩は、酸化還元種の生成に関与するものでも関与しないものでもどちらでも用いることができ、これらを混合したものも用いることができる。
溶融塩としては、室温(25℃)より低い融点を有する塩、室温より高い融点を有していても他の溶融塩や溶融塩以外の電解質層塩と溶解させることにより室温で液体状態となる塩が好ましい。
【0061】
溶融塩のカチオンとしては、アンモニウム、イミダゾリウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、ピラゾリウム、イソオキサゾリウム、チアジアゾリウム、オキサジアゾリウム、トリアゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピリダジニウム、ピラジニウム、トリアジニウム、ホスホニウム、スルホニウム、カルバゾリウム、インドリウムおよびその誘導体が好ましく、これらの中でも、アンモニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウムが特に好ましい。
【0062】
溶融塩のアニオンとしては、AlCl4-、Al2Cl7-などの金属塩化物、PF6-、BF4-、CF3SO3-、N(CF3SO22-、N(SO2F)2-、F(HF)n-などのフッ素含有物、NO3-、CH3COO-、C611COO-、SCN-、N(CN)2-などの非フッ素含有物、ヨウ素、臭素などのハロゲン化物が挙げられる。
【0063】
溶融塩は、上記の各種文献や特許公報に記載された公知の方法により合成することができる。4級アンモニウム塩を例に挙げると、第一段階として3級アミンにアルキル化剤としてアルキルハライドを用いてアミンの4級化を行い、第二段階としてハライドアニオンから目的のアニオンへイオン交換を行うという方法、および3級アミンを目的のアニオンを有する酸と反応させて一段階で目的の化合物を得る方法が挙げられる。
【0064】
酸化還元種を溶解可能な溶剤として溶剤や溶融塩を用いる場合には、導電層と対電極との短絡を防止するために、これらの間にセパレータ層を設けてもよい。
セパレータ層は、電気的に絶縁であり、太陽電池の構成材料に対して安定なものであれば特に限定されず、具体的にはSiO2やZrO2などの金属酸化物から形成される多孔質層、高分子化合物などから形成される不織布などが挙げられる。
【0065】
(固体電解質)
固体電解質としては、液体電解質を高分子化合物により固体化した高分子電解質、溶融塩を含む液体電解質を微粒子により固体化した電解質などが挙げられる。
液体電解質を固体化するための高分子化合物としては、液体電解質を保持できる高分子化合物であればよく、下記一般式(2)で表されるモノマーを重合して得られるポリ(メタ)アクリレート類、イソシアネート基を有する化合物Aと活性水素基を有する化合物Bを重付加したもの、エポキシ樹脂類、ポリフッ化ビニリデン系樹脂などが挙げられ、中でもポリ(メタ)アクリレート系の重合体もしくは共重合体、イソシアネート基を有する化合物Aと活性水素基を有する化合物Bを重付加したもの、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましい。
【0066】
【化3】

(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Xはエステル基と炭素原子で結合している残基であり、nは2〜4である。)
【0067】
重合方法としては光重合、熱重合、自然放置などが考えられ、用いる材料により適宜選択する必要がある。半導体層が酸化チタンからなる場合、酸化チタンは紫外線領域にて光触媒反応を起こす物質であるため、光重合を行う際に紫外線光が照射されると光触媒反応が起こり、半導体に吸着させた色素が分解するなどの問題が考えられるため、熱重合、もしくは自然放置により重合を行うことが好ましい。
【0068】
固体電解質は、重合前にモノマーと液体電解質とを混合し、その後、モノマーを重合させて作製してもよく、液体電解質と混合せずに重合を行って、得られた高分子化合物を液体電解質中に浸漬させることによって、液体電解質を高分子化合物中に浸透させて、作製してもよい。液体電解質がヨウ素を含む場合、ヨウ素が重合に影響しないイソシアネートを含む化合物と活性水素基を含む化合物などから作製される高分子化合物を用いる場合は前者の方法を採用することができるが、ヨウ素が重合禁止剤として働くラジカル重合により作製される(メタ)アクリレート類などの高分子化合物を用いる場合は、後者の方法を採用することが好ましい。
【0069】
また、固体電解質は、高分子化合物と液体電解質を混合して加熱することにより高分子化合物を液体電解質に溶解させ、得られた溶液を後述する方法で半導体層に浸透させた後、この溶液を冷却(自然冷却であってもよい)することによって作製してもよい。
また液体電解質の中でも溶融塩を含む場合には、高分子化合物ではなく微粒子などを添加することで固体化することが可能である場合があり、この場合、これらの微粒子を用いて液体電解質を固体化して用いてもよい。具体的な微粒子としては、液体電解質を固体化することができればよく、具体的には酸化ケイ素などの金属酸化物、カーボンナノチューブなどが好ましい。
【0070】
(電解質の注入)
半導体層と電解質層との電気接触を確保するために、半導体層への電解質を十分に浸透させることが好ましい。特に、半導体層が多孔性の場合、その空孔内部に電解質を浸透させることが重要である。
粘度の低い液体電解質の場合は常温常圧下でも注入することは可能であるが、高粘度溶剤や溶融塩を多量に含む液体電解質の場合は粘度が高いため、半導体層の細孔内部にまで注入しにくい。そのため半導体層を真空下におき、その後液体電解質を注入する真空注入法が望ましい。
具体的には、実施例に記載のように、予め対電極に設けておいた貫通孔5aから電解質の注入する方法が挙げられる。
【0071】
また、高分子化合物を用いた固体電解質の場合には、液状であるモノマー溶液を半導体中に含浸させ、その後に重合させる。半導体層中へのモノマー溶液を注入させるには、高粘度の液体電解質と同様に半導体層を真空下におき、その後モノマー溶液を注入する真空注入法が望ましい。また、ポリフッ化ビニリデンのような物理架橋のゲル電解質などを固体電解質として用いる場合は、加熱などにより液体状態にしたものを真空注入法により半導体層内へ注入する。
【0072】
(封止材6、8)
封止材6、8は、光電変換素子内部の電解質(電解液)の漏れを防止する機能、基板などの支持体に作用する落下物や応力(衝撃)を吸収する機能、長期にわたる使用時において支持体に作用するたわみなどを吸収する機能を有する。
封止材を構成する材料は、一般に光電変換素子に使用可能で、かつ前記機能を発揮し得る材料であれば、特に限定されない。このような材料としては、紫外線硬化性樹脂および熱硬化性樹脂などが挙げられ、具体的には、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソブチレン系樹脂、ホットメルト樹脂、ガラスフリットなどが挙げられ、これら2種類以上の材料を2層以上に積層して用いることもできる。
紫外線硬化樹脂としては、スリーボンド社製、型番:31X−101、熱硬化性樹脂としては、スリーボンド社製、型番:31X−088や一般に市販されているエポキシ樹脂などを用いることができる。
【0073】
上記のように、本発明の光電変素子の製造方法は、
(a)色素と一般式(I)の化合物とを溶解した溶液に半導体層を浸漬し、次いで洗浄・乾燥する操作、
(b)色素を溶解した溶液に半導体層を浸漬して洗浄・乾燥し、次いで一般式(I)の化合物を溶解した溶液に半導体層を浸漬して洗浄・乾燥する操作、または
(c)色素を溶解した溶液に半導体層を浸漬し、次いで一般式(I)の化合物を溶解した溶液に半導体層を浸漬して洗浄・乾燥する操作
により、色素を一般式(I)の化合物の存在下に半導体層の表面に吸着させる工程を含むことを特徴とする。
【実施例】
【0074】
本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
図1の作製工程に基づいて色素増感太陽電池の作製した。
【0075】
1.導電性基板の準備
まず、図1(a)に示すような、ガラスからなる透明基板1a上に膜厚500nmのSnO2からなる透明導電層1bが成膜された導電性基板1(日本板硝子株式会社製、SnO2膜付きガラス)を準備した。
【0076】
2.多孔性半導体層の形成
次に、図1(b)に示すように、導電性基板1上に多孔性半導体層3を形成した。
まず、次のようにして酸化チタン粒子を作製した。
チタンイソプロポキシド(キシダ化学株式会社製)25mLと、pH調製剤としての0.1M硝酸水溶液(キシダ化学株式会社製)150mLとを混合し、得られた混合物を温度80℃で8時間加熱することによりチタンイソプロポキシドを加水分解させ、ゾル液を得た。
得られたゾル液を容量0.5Lのチタン製のオートクレーブ中で、温度230℃で11時間処理して酸化チタン粒子を成長させた。
得られた酸化チタン粒子を、30分間超音波分散処理することにより平均粒径15nmの酸化チタン粒子を含むコロイド溶液Iを得た。次いで、コロイド溶液Iを回転数5000rpmで遠心分離処理することにより酸化チタン粒子を沈殿させた。
得られた酸化チタン粒子とエタノール1000mLとを混合し、次いで遠心分離処理することにより酸化チタン粒子を沈殿させる操作(洗浄)を3回繰り返して、酸化チタン粒子Iを得た(約4g)。
なお、コロイド溶液に含まれる酸化チタン粒子の平均粒径は、光散乱光度計(大塚電子株式会社製)を用いて、レーザー光の動的光散乱を解析することにより求めた。
【0077】
また、オートクレーブでの処理条件を温度210℃で17時間に変えたこと以外は上記コロイド溶液Iと同様の手順により、平均粒径310nmの酸化チタン粒子を含むコロイド溶液IIを調製し、酸化チタン粒子IIを得た(約4g)。
さらに、上記と同様の手順によりコロイド溶液Iおよびコロイド溶液IIを調製し、コロイド溶液Iが90wt%、コロイド溶液IIが10wt%になるように混合してコロイド溶液IIIを調製した。得られたコロイド溶液IIIをコロイド溶液Iと同様の手順により処理して、酸化チタン粒子IIIを得た。
【0078】
次いで、得られた酸化チタン粒子I〜IIIをそれぞれ、エチルセルロース(キシダ化学株式会社製)とテルピネオール(キシダ化学株式会社製)とを溶解させた無水エタノール溶液に加え、攪拌することにより酸化チタン粒子を分散させた。得られた分散液を40mbarの真空条件下、温度50℃でエタノールを蒸発させ、コロイド溶液I〜IIIをそれぞれ含む酸化チタンペースト(懸濁液I〜III)を得た。
なお、各懸濁液の最終的な組成が、酸化チタン固体濃度20wt%、エチルセルロース10wt%およびテルピネオール64wt%になるように濃度を調整した。
【0079】
色素増感太陽電池の作製とは別に、半導体微粒子としての酸化チタン粒子の平均粒径を測定した。
具体的には、上記の導電性基板1上に、各懸濁液I〜IIIをドクターブレード法により塗布し、塗膜を乾燥させた。その後、塗膜を大気中、温度450℃で30分間焼成し、多孔性半導体層を得、導電性基板と多孔性半導体層とからなる半導体層電極(光電極)を得た。
得られた各半導体層電極の多孔性半導体層について、X線回折装置を用いたθ/2θ測定における回折角25.28°(アナターゼの(101)面に対応)のピークの半値幅を測定し、その値とシェラーの式から酸化チタン粒子の平均粒径を求めた。得られた結果を表1に示す。
また、各半導体層電極の多孔性半導体層をFE−SEM(電界放射型走査型電子顕微鏡)により観察したところ、柱状の微粒子が含まれているが確認された。
【0080】
【表1】

【0081】
次に、導電性基板1上に多孔性半導体層3を形成し、半導体層電極を得た。
まず、上記の導電性基板1上の面積10mm×10mmの領域に、懸濁液Iをスクリーン印刷法により塗布し、得られた塗膜を温度80℃で30分間予備乾燥させた後、大気中、温度500℃で30分間焼成し、膜厚7μmの第1の多孔性半導体膜を得た。
次いで、上記の多孔性半導体膜上に、上記と同様の手順により懸濁液IIIを塗布し、予備乾燥および焼成を経て、膜厚8μmの第2の多孔性半導体膜を得、合計膜厚15μmの多孔性半導体層3を得た。
【0082】
3.色素の吸着
次に、ルテニウム金属錯体色素(Solaronix社製、商品名:Ruthenium 535−bisTBA色素)を濃度4×10-4モル/Lになるように無水エタノールに溶解させて色素溶液(200mL)を調製した。
次いで、得られた色素溶液に、多孔性半導体層3を形成した導電性基板1を温度40℃で20時間浸漬し、その後、引き上げてエタノールで洗浄し乾燥させて、多孔性半導体層3に色素を吸着させた。
【0083】
4.表面吸着剤の吸着
次に、トリメチル酢酸(Aldrich社製)を濃度10ミリモル/Lになるようにアセトニトリルに溶解させて表面吸着剤溶液(200mL)を調製した。
次いで、得られた表面吸着剤溶液に、色素を吸着させた多孔性半導体層3を温度25℃で24時間浸漬し、その後、引き上げてエタノールで洗浄し乾燥させて、多孔性半導体層3に表面吸着剤を吸着させた。
【0084】
5.液体電解質の注入
次に、図1(c)に示すように、多孔性半導体層3を作製した導電性基板1(半導体層電極)と、ITO導電性膜上に膜厚1μmの白金膜(触媒層)4を備えたITO導電性基板(対電極)5を、多孔性半導体層3と触媒層4とが対向するように張り合わせ、その周囲を封止材(エポキシ系樹脂)6を用いて封止した。ITO導電性基板5には、予め液体電解質注入用の貫通孔5aを形成しておいた。
【0085】
次いで、溶剤としてのアセトニトリル(キシダ化学株式会社製)に、酸化還元種としてのヨウ化リチウムおよびヨウ素、ならびに添加剤としての1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾールヨーダイドおよび4−tert−ブチルピリジンを、それぞれの濃度が0.1モル/L、0.05モル/L、0.6モル/Lおよび0.5モル/Lになるように溶解させて液体電解質を調製した。
次いで、図1(d)に示すように、得られた液体電解質を、貫通孔5aから注入して電解質層7を形成した後、封止材(エポキシ系樹脂)8を用いて貫通孔5aを封止することにより、色素増感太陽電池を完成した。
【0086】
得られた色素増感太陽電池に、1kW/m2の強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射して、その開放端電圧(V)を測定した。
得られた結果を、表面吸着剤、その濃度(ミリモル/L)、吸着操作および吸着条件(温度(℃)×時間(hr))と共に表2に示す。
【0087】
(実施例2)
表面吸着剤の吸着において、トリメチル酢酸の代わりにトリフェニル酢酸を用いたこと以外は、実施例1と同様に色素増感太陽電池を作製し評価した。
【0088】
(実施例3)
色素の吸着処理の前に、多孔性半導体層をトリメチル酢酸のアセトニトリル溶液に25℃で10時間浸漬したこと以外は、実施例1と同様に色素増感太陽電池を作製し評価した。
【0089】
(実施例4)
ルテニウム金属錯体色素の無水エタノールにトリメチル酢酸を濃度4ミリモル/Lになるように添加した溶液に、多孔性半導体層を25℃で24時間浸漬して、色素とトリメチル酢酸を同時に吸着させたこと以外は、実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製し評価した。
【0090】
(実施例5)
表面吸着剤の吸着において、トリメチル酢酸の代わりに2,2−ジエチルブタン酸(Aldrich社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製し評価した。
【0091】
(実施例6)
表面吸着剤の吸着において、トリメチル酢酸の代わりに2,2−ジメチル−4−ペンテン酸(Aldrich社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製し評価した。
【0092】
(実施例7)
表面吸着剤の吸着において、トリメチル酢酸の代わりにtert-ブチルリン酸(Aldrich社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製し評価した。
【0093】
(比較例1)
表面吸着剤の吸着において、トリメチル酢酸の代わりに酢酸(キシダ化学株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製し評価した。
【0094】
(比較例2)
表面吸着剤の吸着において、トリメチル酢酸の代わりにデシルリン酸(Aldrich社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製し評価した。
【0095】
(比較例3)
表面吸着剤の吸着工程を省くこと以外は、実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製し評価した。
【0096】
【表2】

【0097】
表2の結果から、色素を特定の表面吸着剤の存在下に、多孔性半導体層の表面に吸着させた本発明の色素増感太陽電池(実施例1〜7)は、従来の色素増感太陽電池(比較例1〜3)と比較して、高い開放端電圧を有することがわかる。特に、本発明の色素増感太陽電池は、デシルリン酸を色素と共に多孔性半導体層に吸着させた従来の色素増感太陽電池(比較例2)よりも優れていることがわかる。
【0098】
また、表面吸着剤としてトリメチル酢酸、2,2−ジエチルブタン酸および2,2−ジメチルペンテン酸を用いた場合には、より高い開放端電圧を有する色素増感太陽電池が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0099】
1 導電性基板
1a 透明基板
1b 透明導電層(第1導電層)
3 半導体層(多孔性半導体層)
4 触媒層(白金膜)
5 対電極(第2導電層、ITO導電性基板)
5a 貫通孔
6、8封止材(エポキシ系樹脂)
7 電解質層
【0100】
31 透明支持体
32 透明導電層(第1導電層)
33 半導体層(多孔性半導体層)
34 電解質層
35 対電極(第2導電層)
36 触媒層(白金膜)
37 封止材(エポキシ系樹脂)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素が吸着された半導体層を有する半導体層電極と対電極との間に、電荷輸送機能を有する電解質層を備え、前記色素が、その前記半導体層への吸着を補助する機能を有する、一般式(I):
【化1】

(式中、R1、R2およびR3は、同一または異なって、炭素数1〜6でありかつアルキル基、アリール基およびアルケニル基から選択される基であり、Zは−COOH基および−PO32基ならびにそれらの塩から選択される基である)
で表される化合物の存在下に、前記半導体層の表面に吸着されてなることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記一般式(I)の化合物が、置換基R1、R2およびR3としてそれぞれメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、ビニル基、ペンテニル基およびフェニル基から選択される基を有する化合物ならびにそれらの塩から選択される化合物である請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記一般式(I)の化合物が、トリメチル酢酸、2,2−ジメチルブタン酸、2,2−ジエチルブタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2,2−ジプロピルペンタン酸、2,2−ジメチルブテン酸、2,2−ジメチルペンテン酸、トリフェニル酢酸およびt−ブチルリン酸ならびにそれらの塩から選択される化合物である請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記一般式(I)の化合物が、置換基Zとして−COOH基を有するカルボン酸またはその塩である請求項1〜3のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記一般式(I)の化合物が、トリメチル酢酸、2,2−ジエチルブタン酸および2,2−ジメチルペンテン酸ならびにそれらの塩から選択される化合物である請求項1〜4のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記色素が、ルテニウム金属錯体色素である請求項1〜5のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の光電変素子の製造方法であり、
(a)前記色素と前記一般式(I)の化合物とを溶解した溶液に前記半導体層を浸漬し、次いで洗浄・乾燥する操作、
(b)前記色素を溶解した溶液に前記半導体層を浸漬して洗浄・乾燥し、次いで前記一般式(I)の化合物を溶解した溶液に前記半導体層を浸漬して洗浄・乾燥する操作、または
(c)前記色素を溶解した溶液に前記半導体層を浸漬し、次いで前記一般式(I)の化合物を溶解した溶液に前記半導体層を浸漬して洗浄・乾燥する操作
により、前記色素を前記一般式(I)の化合物の存在下に前記半導体層の表面に吸着させる工程を含むことを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記半導体層の浸漬が、液温5〜80℃の、前記色素と前記一般式(I)の化合物とを溶解した溶液、前記色素を溶解した溶液または前記一般式(I)の化合物を溶解した溶液中に、1分〜80時間静置することからなる請求項7に記載の光電変素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−165615(P2011−165615A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30251(P2010−30251)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】