説明

光電変換装置、電子機器および建築物

【課題】色素の脱離や凝集を抑制することで、長期的な性能低下を抑制できる光電変換装置、電子機器および建築物を提供する。
【解決手段】光電変換装置は、導電層と、多孔質半導体層と、対極と、電解質層と、を備え、多孔質半導体層は、色素と、デシルホスホン酸などのリン化合物とを含むものである。色素に対するリン化合物のモル比は、0.5以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、光電変換装置、電子機器および建築物に関し、例えば色素増感型太陽電池に用いて好適な光電変換装置、並びに、この光電変換装置を用いる電子機器および建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池(Dye−sensitized solar cell;DSSC)などの光電変換装置は、電解質を利用できること、原料および製造コストが安価であること、色素利用のため装飾性を有することなどの特徴があり、近年、活発な研究がなされている。一般的に、光電変換装置は、導電層が形成された基板と、半導体微粒子層(TiO2層など)および色素を組み合わせた色素増感半導体層と、ヨウ素などの電荷輸送剤と、対極とから構成されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、疎水性部分および固定用基を含む稠密化用化合物が、フォトアノードの半導体金属酸化物層上に色素と共に共吸着されて密な混合自己集合単分子層を形成している色素増感型太陽電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−525632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
色素増感型太陽電池では、セルの周りの環境温度が高くなると、色素の脱離も起こりやすくなり、性能も長期的に低下する傾向にある。また、色素がTiO2層の表面に吸着するときに凝集も起こり、発電に寄与しない色素も存在することになる。
【0006】
したがって、本技術の目的は、色素の脱離や凝集を抑制することで、長期的な性能低下を抑制できる光電変換装置、電子機器および建築物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本技術は、導電層と、多孔質半導体層と、対極と、電解質層と、を備え、多孔質半導体層は、色素と、一般式(A)で表わされるリン化合物とを含み、色素に対するリン化合物のモル比は、0.5以上である光電変換装置である。
【化1】

(式中、Rは、炭素数8以上16以下の直鎖状のアルキル基である。)
【0008】
本技術において、光電変換装置は、電子機器に適用して好適なものである。
【0009】
本技術において、光電変換装置は、建築物に適用して好適なものである。
【0010】
本技術では、多孔質半導体層は、多孔質半導体層に吸着された色素および共吸着剤を含み、色素は、ルテニウム錯体を含み、共吸着剤は、一般式(A)で表わされるリン化合物を含み、色素に対するリン化合物のモル比は、0.5以上に設定されている。これにより、色素の脱離や凝集を抑制することで、長期的な性能低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本技術によれば、色素の脱離や凝集を抑制することで、長期的な性能低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1Aは、本技術の第1の実施形態による光電変換装置の構成例を示す平面図である。図1Bは、図1Aに示すB−B線に沿った断面図である。
【図2】図2は、色素および共吸着剤のTiO2微粒子に対する吸着状態を示す模式図である。
【図3】図3Aは、半導体ペーストを塗布する工程を示す断面図である。図3Bは、焼成工程を示す断面図である。図3Cは、多孔質半導体層を色素溶液に浸漬させる工程を示す断面図である。図3Dは、導電性基材の貼り合わせ工程を示す断面図である。図3Eは、電解液の注液工程を示す断面図である。
【図4】図4A〜図4Cは、本技術に係る建築物の例を示す図である。
【図5】図5は、実施例1−1〜1−3、比較例1についての測定結果を示すグラフである。
【図6】図6は、試験例1についての測定結果を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例2−1〜2−3、比較例2についての測定結果を示すグラフである。
【図8】図8は、試験例2についての測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術の実施形態について図面を参照して説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
1.第1の実施形態(光電変換装置の構成例)
2.第2の実施形態(光電変換装置を備える建築物の構成例)
3.第3の実施形態(光電変換装置を備える電子機器の構成例)
4.他の実施形態(変形例)
【0014】
1.第1の実施形態
[光電変換装置の構成例]
本技術の第1の実施形態による光電変換装置の構成例について説明する。図1Aは、本技術の第1の実施形態による光電変換装置の構成例を示す断面図である。図1Bは、図1Aに示したB−B線に沿った断面図である。図1Aおよび図1Bに示すように、この光電変換装置は、導電性基材1と、導電性基材2と、色素が担持された多孔質半導体層3と、電解質層4と、対極5と、集電体6と、保護層7と、封止材8と、集電体端子9を備える。
【0015】
導電性基材1と導電性基材2とが対向配置されている。導電性基材1は、導電性基材2と対向する一主面を有し、この一主面に多孔質半導体層3が形成されている。また、導電性基材1の一主面には集電体6が形成され、この集電体6の表面に保護層7が形成されている。導電性基材2は、導電性基材1と対向する一主面を有し、この一主面に対極5が形成されている。対向する多孔質半導体層3と対極5との間に電解質層4が介在されている。導電性基材1は、多孔質半導体層3が形成された一主面とは反対側の他主面を有し、例えばこの他主面が太陽光などの光Lを受光する受光面となる。
【0016】
導電性基材1と導電性基材2との対向面の周縁部に封止材8が設けられている。多孔質半導体層3と対極5との間隔は、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜40μmである。電解質層4は、多孔質半導体層3が形成された導電性基材1と、対極5が形成された導電性基材2と、封止材8とによって囲まれた空間に封入されている。
【0017】
以下、この光電変換装置を構成する導電性基材1、2、多孔質半導体層3、増感色素、電解質層4、対極5、集電体6、保護層7、封止材8、集電体端子9について順次説明する。
【0018】
(導電性基材)
導電性基材1は、例えば、透明導電性基材であり、基材11と、この基材11の一主面上に形成された透明導電層12とを備え、この透明導電層12上に多孔質半導体層3が形成される。導電性基材2は、基材21と、この基材21の一主面上に形成された透明導電層22とを備え、この透明導電層22上に対極5が形成される。
【0019】
基材11としては、透明性を有するものであればよく、種々の基材を用いることができる。透明性を有する基材としては、太陽光の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ないものが好ましく、例えば、ガラス基材、樹脂基材などを用いることができるが、これに限定されるものではない。ガラス基材の材料としては、例えば、石英、青板、BK7、鉛ガラスなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。樹脂基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルブチラート、ポリプロピレン(PP)、テトラアセチルセルロース、シンジオクタチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエステルスルフォン、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ、塩化ビニルなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。基材11、12としては、例えば、フィルム、シート、基板などを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0020】
基材21としては、透明性を有するものに特に限定されるものではなく、不透明性のものを用いることができ、例えば、不透明性または透明性を有する無機基材またはプラスチック基材などの種々の基材を用いることができる。無機基材またはプラスチック基材の材料としては、例えば、上述の基材11の材料として例示したものを同様に用いることができるが、それ以外にも金属基材などの不透明な基材を用いることも可能である。基材21として、金属基材などの導電性基材を用いる場合には、透明導電層22の形成を省略するようにしてもよい。
【0021】
透明導電層12、22は、太陽光の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ないことが好ましい。透明導電層12、22の材料としては、例えば、導電性の良好な金属酸化物、炭素を用いることが好ましい。金属酸化物としては、例えば、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素ドープSnO2(FTO)、アンチモンドープSnO2(ATO)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム−亜鉛複合酸化物(IZO)、アルミニウム−亜鉛複合酸化物(AZO)、およびガリウム−亜鉛複合酸化物(GZO)からなる群より選択される1種以上を用いることができる。透明導電層22と多孔質半導体層3との間に、結着の促進、電子伝達の改善、または逆電子過程の防止などを目的とした層をさらに設けるようにしてもよい。
【0022】
(多孔質半導体層)
多孔質半導体層3は、金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層であることが好ましい。金属酸化物半導体微粒子は、チタン、亜鉛、スズおよびニオブの少なくとも1種を含む金属酸化物を含むことが好ましい。このような金属酸化物を含むことで、吸着させる色素と金属酸化物間にて適切なエネルギーバンドを形成し、その後、光照射により色素にて発生した電子が金属酸化物に円滑に伝達し、その後のヨウ素の酸化還元による発電に寄与することができるからである。具体的には、金属酸化物半導体微粒子の材料としては、酸化チタン、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ストロンチウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ランタノイド、酸化イットリウム、および酸化バナジウムなどなる群より選ばれる1種以上を用いることができるが、これらの限定されるものではない。多孔質半導体層表面が増感色素によって増感されるためには、多孔質半導体層3の電導帯が増感色素の光励起順位から電子を受け取りやすい位置に存在することが好ましい。この観点からすると、上述した金属酸化物半導体微粒子の材料の中でも、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、および酸化ニオブからなる群より選ばれる1種以上が特に好ましい。さらに、価格や環境衛生性などの観点から、酸化チタンが最も好ましい。金属酸化物半導体微粒子は、アナターゼ型またはブリュッカイト型の結晶構造を有する酸化チタンを含むことが特に好ましい。このような酸化チタンを含むことで、吸着させる色素と金属酸化物間にて適切なエネルギーバンドを形成し、その後、光照射により色素にて発生した電子が金属酸化物に円滑に伝達し、その後のヨウ素の酸化還元による発電に寄与することができるからである。金属酸化物半導体微粒子の平均一次粒子径は、5nm以上500nm以下であることが好ましい。5nm未満であると、結晶性が極端に劣化し、アナターゼ構造を維持できなくアモルファス構造となる傾向がある。一方、500nmを超えると、比表面積が著しく低下し、多孔質半導体層3に吸着させる発電に寄与する色素の総量が減少する傾向がある。ここで、平均一次粒子径は、一次粒子が分散できる溶媒系を用いて、所望な分散剤を添加して一次粒子まで分散処理した希薄溶液を用いて、光散乱法により測定する方法より求めたものである。
【0023】
多孔質半導体層3は、共吸着剤および色素を含んでいる。共吸着剤および色素は、多孔質半導体層3に吸着していることが好ましい。多孔質半導体層3が金属酸化物半導体微粒子である場合には、金属酸化物半導体微粒子の表面に共吸着剤および色素が吸着していることが好ましい。
【0024】
(共吸着剤)
共吸着剤としては、具体的には、例えば、式(1)で表わされるデシルホスホン酸(DPA)が挙げられる。その他、オクチルホスホン酸(OPA)などのように、デシルホスホン酸の鎖状のアルキル基の炭素数が多小増減したような化合物であっても、同様の効果が得られる傾向にある。したがって、共吸着剤は、例えば、一般式(A)で表わされるリン化合物であればよい。
【0025】
【化2】

【0026】
【化3】

(式中、Rは、炭素数8以上16以下の直鎖状のアルキル基であり、好ましくは炭素数8以上14以下の直鎖状のアルキル基であり、より好ましくは炭素数8以上12以下の直鎖状のアルキル基である。)
【0027】
(色素)
色素としては、ルテニウム錯体色素を用いることが好ましい。ルテニウム錯体色素としては、例えば、ルテニウム−ビピリジン錯体色素、ルテニウム−ターピリジン錯体色素、ルテニウムフェナントロリン錯体色素、キノリン系ルテニウム錯体色素、β−ジケトン−ルテニウム錯体色素を単独または2種以上組み合わせて用いることができる。具体的には、ルテニウム錯体色素としては、式(2)で表わされるZ907〔シス−ビス(チオシアネート)(4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジン)(4,4’−ジカルボキシル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)錯体〕、式(3)で表わされるZ991〔シス−ビス(チオシアネート){4,4’−(5’−オクチル[2,2’ビチオフェン]−5−イル)−2,2’−ビピリジン}(4,4’−ジカルボキシル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)錯体〕、N719〔シス−ビス(チオシアネート)ビス(4,4’−ジカルボキシレート−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)二テトラブチルアンモニウム錯体〕、N3〔シス−ビス(チオシアネート)ビス(4,4’−ジカルボキシレート−2,2’−ビピリジン)ルテニウム(II)錯体〕などのルテニウム−ビピリジン錯体色素やブラックダイ〔トリス(チオシアネート)(4,4’,4”−トリカルボキシレート−2,2’:6’,2”−テルピリジン)ルテニウム(II)三テトラブチルアンモニウム錯体〕などのルテニウム−ターピリジン錯体色素などが挙げられる。これらの色素は、1種であっても2種以上であってもよい。
【0028】
【化4】

【化5】

【0029】
(モル比(共吸着剤/色素))
多孔質半導層3に吸着されている、共吸着剤の吸着量の色素の吸着量に対するモル比(以下、モル比(共吸着剤/色素)と適宜略称する)は、0.5以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、0.8以上3.0以下であることがさらに好ましく、0.8以上2.0以下であることが、特に好ましい。モル比(共吸着剤/色素)の下限を0.5に設定したのは、モル比(共吸着剤/色素)が0.5以上で、色素の脱離、凝集を抑制でき、長期的な性能低下を抑制することができるからである。モル比(共吸着剤/色素)の上限は、モル比が大きくなるに従い、長期的な性能低下もより抑制できるようになるが、長期的な性能低下を抑制できる点に加えて、初期の光電変換効率も考慮すると、モル比(共吸着剤/色素)の上限は3.0であることが好ましく、2.0であることがより好ましい。
【0030】
モル比(共吸着剤/色素)は、例えば、多孔質半導体層3に吸着した色素および共吸着剤を、加圧酸分解などにより分解し、ICP−AES(ICP-Atomic Emission Spectrometry)により、ルテニウム錯体色素のRuと、共吸着剤のPとを定量分析することにより、求めることができる。
【0031】
(共吸着剤の作用効果)
本技術では、多孔半導体層3に、上記の共吸着剤と上記のルテニウム錯体色素とが、所定のモル比(モル比(共吸着剤/色素)が0.5以上)で吸着されることによって、色素の脱離、凝集などを抑制し、長期的な性能低下を抑制することが可能になる。このような効果は、例えば以下に説明するメカニズムにより得られると推定される。
【0032】
図2は、上記の共吸着剤としてのデシルホスホン酸(DPA)と、ルテニウム錯体色素(Z907)とが、多孔質半導体層3としての多孔質酸化チタン層に対して吸着した状態を模式化した模式図である。所定のモル比で、共吸着剤としてのデシルホスホン酸(DPA)と、ルテニウム錯体色素(Z907)とが共に、TiO2微粒子61の表面に吸着し、色素の脱離を抑制することが考えられる。
【0033】
また、図2に示すように、共吸着剤としてのデシルホスホン酸(DPA)が、ルテニウム錯体色素(Z907)間に介在することによって、ルテニウム錯体色素(Z907)の凝集を抑制することで、色素同士が相互作用を起こし、発電に寄与しない色素が生じることなどを抑制できることが考えられる。また、DPAのホスホン基側がTiO2微粒子61の表面に吸着し、長鎖のアルキル基がTiO2微粒子61の表面から延びた状態になっていることが考えられる。これにより、TiO2微粒子61の表面が疎水雰囲気になることで、電解液中に微量な水分が存在しても色素がTiO2微粒子61の表面から脱離することを抑制できることが考えられる。
【0034】
また、共吸着剤としてのデシルホスホン酸(DPA)などがTiO2微粒子61の表面に吸着し、TiO2の表面積が減少することによって、逆電子の移動を抑制できることが考えられる。
【0035】
ところで、背景技術で記載した特許文献1(特表2006−525632号公報)では、デシルホスホン酸(共吸着剤)を色素溶液に添加して多孔質半導体層上に色素とともに吸着するようにしている。特許文献1では、セル製造工程において、色素吸着に用いる色素溶液中の共吸着剤と色素との具体的なモル比の数値範囲について、開示されている。しかしながら、本技術のように、多孔質半導体層3に吸着された色素と共吸着剤とのモル比の数値範囲については開示されてはおらず、そのモル比の数値範囲と、長期的な性能低下を抑制する効果との関連性については全く着目されてはいない。
【0036】
また、特許文献1に記載されているように、セル製造工程において、色素吸着に用いる色素溶液中の共吸着剤と色素との濃度を固定しても、多孔質酸化チタン層の表面積が変わると単位面積当たりの色素の吸着量が大きく変わってしまう。したがって、長期的な性能低下を抑制する効果を得るためには、本技術のように、多孔質半導体層3に吸着された色素と共吸着剤とのモル比の範囲を規定することが必要となる。
【0037】
多孔質半導体層3の膜厚は、0.5μm以上200μm以下であることが好ましい。膜厚が0.5μm未満であると、有効な変換効率が得られなくなる傾向がある。一方、膜厚が200μmを超えると、成膜時に割れや剥がれが生じるなど作製が困難になる傾向がある。また、多孔質半導体層3の電解質層側の表面と、透明導電層12の多孔質半導体層側の表面との距離が増えるために、発生電荷が透明導電層12に有効に伝えられなくなるので、良好な変換効率が得られにくくなる傾向がある。
【0038】
(対極)
対極5は、光電変換装置(光電変換セル)の正極として機能するものである。対極5に用いる導電性の材料としては、例えば、金属、金属酸化物、または炭素などが挙げられるが、これに限定されるものではない。金属としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウムなどを用いることができるが、これに限定されるものではない。金属酸化物としては、例えば、ITO(インジウム−スズ酸化物)、酸化スズ(フッ素などがドープされた物を含む)、酸化亜鉛などを用いることができるが、これに限定されるものではない。対極5の膜厚は、特に制限はないが、5nm以上100μm以下であることが好ましい。
【0039】
(電解質層)
電解質層4は、電解質、媒体、および添加物から構成されることが好ましい。電解質は、I2とヨウ化物(例としてLiI、NaI、KI、CsI、MgI2、CaI2、CuI、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど)の混合物、Br2と臭化物(例としてLiBrなど)の混合物、この中でもI2とヨウ化物の組み合わせとしてLiI、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなどを混合した電解質が好ましいがこの組み合わせに限定されるものではない。
【0040】
媒体に対する電解質の濃度は、0.05〜10Mが好ましく、0.05〜5Mがより好ましく、0.2〜3Mがさらに好ましい。I2やBr2の濃度は0.0005〜1Mが好ましく、0.001〜0.5Mがより好ましく、0.001〜0.3Mがさらに好ましい。また、光電変換装置の開放電圧を向上させる目的で、4−tert−ブチルピリジンやベンズイミダゾリウム類などの各種添加剤を加えることもできる。
【0041】
電解質層4に用いられる媒体は、良好なイオン電導性を発現できる化合物であることが好ましい。溶液状の媒体としては、例えば、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどの鎖状エーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、3−メチル−2−オキサゾリジノンなどの複素環化合物、ジメチルスルホキシド、スルホランなど非プロトン極性物質などを用いることができる。
【0042】
また、固体状(ゲル状を含む)の媒体を用いる目的で、ポリマーを含ませることもできる。この場合、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーを前記溶液状媒体中に添加することで、エチレン性不飽和基を有した多官能性モノマーを前記溶液状媒体中で重合させて媒体を固体状にする。
【0043】
電解質層4としてはこの他、CuI、CuSCN媒体を必要としない電解質および、2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)9,9’−スピロビフルオレンのような正孔輸送材料を用いることができる。
【0044】
(集電体、集電体端子)
集電体6および集電体端子9は、透明導電層22よりも電気抵抗の低い材料によって形成される。集電体6は、例えば、導電性基材1の一主面に所定形状で形成された集電配線材である。集電配線の形状としては、例えば、ストライプ状、格子状などが挙げられるが、これらの形状に限定されるものではない。集電体6および集電体端子9を構成する材料として、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、又は、これらの金属の化合物や合金、半田などを挙げることができる。必要に応じて、集電体6の全部又は一部を、導電性接着剤、導電ゴム、異方性導電接着剤などにより形成してもよい。
【0045】
(保護層)
保護層7は、電解液などを構成する電解質(例えばヨウ素)に対して耐腐食性を有する材料から構成すればよく、保護層7を設けることで、集電体6が電解質層4と接することが無くなり、逆電子移動反応や集電体6の腐食を防ぐことができる。集電体6を構成する材料としては、例えば、金属酸化物、TiN、WNなどの金属窒化物、低融点ガラスフリットなどのガラス、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリイソブチレン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリオレフィン樹脂などの各種樹脂を挙げることができる。
【0046】
(封止材)
封止材8は、電解質層4の漏洩や揮発、外部からの不純物の進入を防ぐものである。封止材8としては、電解質層4を構成する材料に対して耐性を有する樹脂を使用することが好ましく、例えば、熱融着フィルム、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂、セラミックなどを使用することができ、より具体的には、エポキシ樹脂、アクリル系接着剤、EVA(エチレンビニルアセテート)、アイオノマー樹脂などを用いることができる。
【0047】
[光電変換装置の製造方法]
次に、本技術の一の実施形態に係る光電変換装置の製造方法の一例について説明する。以下の説明では、図3A〜図3Eに示す断面図を適宜参照しながら説明する。
【0048】
(透明導電性基材の形成)
まず、板状やフィルム状の基材11を準備する。次に、スパッタリング法などの薄膜作製技術により、透明導電層12を基材11上に形成する。これにより、導電性基材1が得られる。
【0049】
(集電体の形成)
次に、透明導電層12上に、例えば、集電体6を形成する。例えば、Agペーストなどの導電性ペーストをスクリーン印刷法などで透明導電層12上に塗布し必要に応じて乾燥、焼成を行うことにより、銀などからなる集電体6を形成する。なお、図3A〜図3E中の集電体6の図示は省略する。
【0050】
(保護層の形成)
次に、集電体6を電解液から遮断し、保護するために、集電体6の表面に保護層7を形成する。具体的には、例えば、エポキシ系樹脂などをスクリーン印刷法などで塗布し、硬化することにより、集電体6の表面に保護層7を形成する。例えば、エポキシ系樹脂などの樹脂材料を用いた場合、エポキシ系樹脂が十分にレベリングした後、UVスポット照射機を使用して、エポキシ系樹脂を完全に硬化させる。なお、図3A〜図3E中の保護層7の図示は省略する。
【0051】
(多孔質半導体層の形成)
次に、導電性基材1の透明導電層12上に多孔質半導体層3を形成する。以下、多孔質半導体層3の形成工程の詳細について説明する。
【0052】
まず、金属酸化物半導体微粒子を溶剤中に分散させて、多孔質半導体層形成用組成物であるペーストを調製する。必要に応じて、結着剤(バインダー)を溶媒中さらに分散させるようにしもよい。ペースト作製の際には、必要に応じて、水熱合成から得られた単分散コロイド粒子を利用してもよい。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノールなどの炭素数が4以下の低級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,3−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールなどの脂肪族グリコール、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジメチルエチルアミンなどのアミン類などが単独または2種以上混合して用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。分散方法としては、例えば、公知の方法を用いることができ、具体的には例えば、攪拌処理、超音波分散処理、ビーズ分散処理、混錬処理、ホモジナイザー処理などを用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0053】
次に、図3Aに示すように、例えば、スクリーン印刷機71を用いたスクリーン印刷法により、調製されたペーストを透明導電層12上に塗布または印刷する。次に、透明導電層12上に塗布または印刷されたペーストを乾燥させることにより、溶媒を揮発させる。これにより、多孔質半導体層3が透明導電層12上に形成される。乾燥条件は特に限定されるものではなく、自然乾燥であっても、乾燥温度や乾燥時間などを調整する人工的乾燥であってもよい。人工的に乾燥させる場合には、乾燥温度や乾燥時間は、基材11の耐熱性を配慮し、基材11を変質させない範囲で設定することが好ましい。なお、塗布または印刷方法は、スクリーン印刷法に限定されるものではなく、簡便で量産性に適した方法を用いることが好ましい。塗布方法としては、例えば、マイクログラビアコート法、ワイヤーバーコート法、ダイレクトグラビアコート法、ダイコート法、ディップ法、スプレーコート法、リバースロールコート法、カーテンコート法、コンマコート法、ナイフコート法、スピンコート法などを用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。また、印刷方法としては、例えば、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、凹版印刷法、ゴム版印刷法などを用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0054】
(焼成)
次に、図3Bに示すように、例えば、コンベア式の電気炉72により、上述のようにして作製した多孔質半導体層3を焼成し、多孔質半導体層3における金属酸化物半導体微粒子間の電子的な接続を向上させる。焼成温度は、好ましくは40〜1000℃であり、より好ましくは40〜600℃程度であるのが、特にこの温度範囲に限定されるものではない。また、焼成時間は、好ましくは30秒間〜10時間程度であるが、特にこの時間範囲に制限されるものではない。このとき、バインダー成分が除去される。
【0055】
(色素担持)
次に、図3Cに示すように、浸漬液74として、液槽73に溜められた色素溶液中に、多孔質半導体層3が形成された導電性基材1を浸漬させることにより、多孔質半導体層3に含まれる金属酸化物微粒子に対して色素および共吸着剤が吸着される。
【0056】
色素溶液は、例えば、以下のように調製する。すなわち、まず、色素および共吸着剤を溶媒に溶解させて、溶液を調製する。色素および共吸着剤を溶解させるために必要に応じて、加熱、溶解助剤の添加および不溶分のろ過を行ってもよい。溶媒としては、色素および共吸着剤を溶解可能であり、かつ、多孔質半導体層3に色素吸着の仲立ちを行えるものであることが好ましく、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、炭酸ジエチル、炭酸プロピレンなどの炭酸エステル系溶剤、ヘキサン、オクタン、トルエン、キシレンなどの炭水化物系位溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチルイミダゾリノン、Nメチルピロリドン、水などを単独または2種以上混合して用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0057】
一方、導電性基材2を準備し、対極5を形成する。対極5の形成方法としては、例えば、塗布法などの湿式法、スパッタリング法、真空蒸着法などの物理的気相成長法、各種の化学的気相成長法(CVD)法などの乾式法などが挙げられる。
【0058】
次に、図3Dに示すように、対極5を形成した導電性基材2の透明導電層22の周縁部に、封止材8を配した後、この封止材8を介して、導電性基材1を貼り合わせる。これにより、導電性基材1と導電性基材2と封止材8とにより、電解質層4が充填される空間4aが形成される。この際、多孔質半導体層3および対極5が、所定間隔、例えば1〜100μm、好ましくは1〜50μmの間隔を置いて対向配置する。また、導電性基材1と導電性基材2とを貼り合わせる際には、プレス機75により、導電性基材1および/または導電性基材2を加圧するようにしてもよい。
【0059】
次に、図3Eに示すように、空間4aに例えば導電性基材2に予め形成された注入口から、注入機76を用いて、電解液を注入し、空間内に電解質層4としての電解液を充填する。その後、この注入口を紫外線硬化型樹脂で封止する。これにより、目的とする光電変換装置が製造される。
【0060】
2.第2の実施形態
図4A〜図4Cは、本技術に係る建築物の例を示す図である。建築物としては、典型的には、例えば、ビルディング、マンションなどの大型建築物などを挙げることができるが、これに限られず、外壁面を有する建築された構造物であれば、基本的にはどのような建築物であってもよい。建築物としては、具体的には、例えば、戸建住宅、アパート、駅舎、校舎、庁舎、競技場、球場、病院、教会、工場、倉庫、小屋、車庫、橋、商店などが挙げられる。光電変換モジュール101は、例えば、複数個の光電変換装置が電気的に接続されたものである。光電変換装置としては、例えば、第1の実施形態による光電変換装置を用いることができる。光電変換モジュール101を構成する複数の光電変換装置の形成形態は、特に限定されるものではなく、複数の光電変換装置が、個別の基板に形成されていてもよいし、1つの基板に形成されていてもよいし、所定の個数ごとに1つの基板に形成されていてもよい。また、複数の光電変換装置が、所定個数のブロックに分けられ、ブロックごとに個別の基板に形成されていてもよい。
【0061】
図4Aは、光電変換モジュール101が設置されたビルディングの一例を示す図である。図4Aに示すように、ビルディング91の屋上には、光電変換モジュール101が、水平に、または、例えば南東〜南西向き(ビルディング91が北半球に建築される場合)に傾けられて設置されている。光電変換モジュール101をこのような向きに設置することで、より効果的に太陽光Rを受光することができるからである。
【0062】
図4Aに示すように、光電変換モジュール101が、窓部などの採光部に設けられてもよい。窓部、採光部などに光電変換モジュール101が設けられる場合には、光電変換モジュール101が、2枚の透明な基材の間に配置されることが好ましい。透明な基材としては、例えば、ガラス板を挙げることができる。このとき、光電変換モジュール101の内部で光電変換モジュール101が移動することを防止するため、必要に応じて、光電変換モジュール101が、2枚の基材のうちの一方に固定されることが好ましい。
【0063】
光電変換モジュール101は、例えば、建築物内の電力系統との電気的接続を有する。光電変換モジュール101により得られた電力は、例えば、照明や空調など、建築物内で使用される電力として供給されたり、売電のために外部に送出されたりする。必要に応じて、蓄電装置に蓄電されてもよい。建築物が、例えば、橋などの構造物である場合、光電変換モジュール101により得られた電力を外部へ取り出すための出力用のソケットなどを備えることが好ましい。光電変換モジュール101により得られた電力を、モバイル機器への充電や、災害時などの緊急用電源として利用することができるからである。
【0064】
図4Bは、光電変換モジュール101が設置された住宅の一例を示す図である。図4Bに示すように、住宅93の屋根には、光電変換モジュール101が、水平に、または、傾けられて設置される。
【0065】
図4Cは、駐輪場に設置された、光電変換モジュール101を備える雨除けの一例を示す図である。図4Cに示すように、駐輪場に設置された雨除け95には、例えば、光電変換モジュール101が配設される。雨除け95が、電動自転車などの充電スタンドの機能を備えていてもよい。
【0066】
建築物としては、そのほかにも、例えば、道路や線路などとともに設置される防音壁や、アーケードの屋根などを挙げることができる。建築物としては、少なくとも一つの採光部を有する建築された構造物であることが特に好ましい。人工木陰と呼ばれる、日除けのための構造物に本技術を適用することもできる。
【0067】
3.第3の実施形態
本技術に係る電子機器の例について説明する。電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器、ロボット、パーソナルコンピュータ、車載機器、各種家庭電気製品などである。これらの電子機器は、電源として、光電変換装置を備える。この光電変換装置は、例えば、こららの電子機器の電源として用いられる太陽電池である。光電変換装置としては、例えば、第1の実施形態による光電変換装置を用いることができる。
【実施例】
【0068】
<実施例1−1>
(光電変換装置の作製)
まず、導電性基材1としては、基材11としてのガラス基板に、FTO層からなる透明導電層12が形成されたものを用いた。
【0069】
次に、透明導電層12上に、多孔質半導体層3としての多孔質酸化チタン層を形成した。具体的には、酸化チタンペーストを調製し、このペーストを透明導電層12上に塗布し、多孔質酸化チタン層を得た。そして、多孔質酸化チタン層を510℃で30分間、電気炉中で焼成し、放冷した。次に、透明導電層12上に、Agからなる集電体6および集電体端子9を形成した。具体的には、透明導電層12上に銀ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、図1Aに示す形状を有する集電体6、集電体端子9を得た。そして、塗布した銀ペーストが十分に乾燥した後、510℃で30分間、電気炉中で焼成した。次に、集電体6を電解液から遮蔽し、保護するために、集電体6の表面に保護層7を形成した。具体的には、保護層7を形成するためにエポキシ系樹脂をスクリーン印刷法で塗布し、保護層7を形成した。エポキシ液樹脂が十分にレベリングした後、UVスポット照射機を使用して、エポキシ系樹脂を完全に硬化させた。
【0070】
(浸漬法による色素吸着)
多孔質酸化チタン層に対して、浸漬法により色素を吸着した。すなわち、色素溶液として、ルテニウム錯体色素(Z907)およびデシルホスホン酸(以下、DPAと略称する)をアセトニトリル/tert−ブチルアルコールの混合液に溶解した色素溶液を調製し、この色素溶液に浸漬させることにより、多孔質半導体層3に色素を吸着させた。
【0071】
一方、基材21として、ガラス板を使用し、その基材21上に、対極5としてPt層を形成した。具体的には、ガラス板上にスパッタリングでPt層を形成した。
【0072】
次に、基材21の所定の位置に、YAGレーザを照射して、注入口を設けた。その後、封止材8を形成した。次に、電解液を準備した。この電解液は以下のように調製した。メトキシプロピオニトリル5.0gに、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムヨーダイド1.1g、ヨウ素0.1g、1−ブチルベンズイミダゾール0.2gを溶解させ、これにより電解液を調製した。
【0073】
次に、基材21に設けた注入口から電解液を注入した後、所定時間保持し、完全に電解液を導電性基材1と、Pt層が形成された基材21との間に浸透させた。その後、注入口の周辺の電解液を完全に除去し、注入口を紫外線硬化型樹脂で封止した。以上により、光電変換装置を作製した。
【0074】
(色素と共吸着剤とのモル比の測定)
ガラス基板から、色素付き多孔質酸化チタン層を剥離し、測定サンプルとした。測定サンプルに吸着した色素および共吸着剤を加圧酸分解により分解し、ICP−AESにより、Ru、Pを定量分析した。これにより、多孔質酸化チタン層に吸着した、単位体積あたりの色素量および共吸着剤量を求めた。
【0075】
その結果、多孔質酸化チタン層に吸着した、Z907とDPAとのモル比は、Z907:DPA=1:0.8であった。すなわち、DPAの吸着量のZ907の吸着量に対するモル比は0.8であった。
【0076】
<実施例1−2>
色素吸着の際に、色素溶液の濃度と色素溶液に浸漬する時間とを適宜調整することにより、多孔質酸化チタン層に吸着する、色素の吸着量と共吸着剤の吸着量との比率を変えたこと以外は、実施例1−1と同様にして、光電変換装置を作製した。また、実施例1−1と同様にして、多孔質酸化チタン層に吸着した色素量および共吸着剤量を求めた。その結果、多孔質酸化チタン層に吸着した、Z907とDPAとのモル比は、Z907:DPA=1:1.5であった。すなわち、DPAの吸着量のZ907の吸着量に対するモル比は1.5であった。
【0077】
<実施例1−3>
色素吸着の際に、色素溶液の濃度と色素溶液に浸漬する時間とを適宜調整することにより、多孔質酸化チタン層に吸着する、色素の吸着量と共吸着剤の吸着量との比率を変えたこと以外は、実施例1−1と同様にして、光電変換装置を作製した。また、実施例1−1と同様にして、多孔質酸化チタン層に吸着した色素量および共吸着剤量を求めた。その結果、多孔質酸化チタン層に吸着した、Z907とDPAとのモル比は、Z907:DPA=1:2.0であった。すなわち、DPAの吸着量のZ907の吸着量に対するモル比は2.0であった。また、多孔質酸化チタン層への単位体積あたりの吸着量は、Z907:1.23μmol/cm3、DPA:2.46μmol/cm3であった。
【0078】
<比較例1>
色素吸着の際の色素溶液を、DPAを含まないものとしたこと以外は、実施例1−1と同様にして、光電変換装置を作製した。
【0079】
作製した複数の光電変換装置について、それぞれ以下の試験を行った。
【0080】
(85℃暗所保存試験)
アモルファスシリコンのJIS規格(JIS C 8983 アモルファス太陽電池モジュールの環境試験方法および耐久性試験方法)に準じて、長期性能を評価する加速試験を行った。すなわち、85℃±2℃に保持された環境下で、光電変換装置を1000±12時間設置し、その後の性能低下の割合を確認した。
【0081】
85℃の保存時間を横軸とし、縦軸を初期効率に対する維持率として、測定結果をプロットしたグラフを作成した。図5に、測定結果をプロットしたグラフを示す。
【0082】
図5に示すように、比較例1では、多孔質酸化チタン層に、DPAが吸着されていないため、セルの85℃加速試験では、100時間後で初期性能の6割程度まで落ち込んだ。これに対して、実施例1−1〜実施例1−3では、多孔質酸化チタン層に対する、DPAの吸着量のZ907の吸着量に対するモル比が、0.8以上であるため、85℃1000時間後の性能維持率も改善した。実施例1−1によれば、多孔質酸化チタン層に吸着されたZ907とDPAとのモル比(Z907:DPA)が1:0.8の場合には、80%まで改善することが確認できた。実施例1−3によれば、多孔質酸化チタン層に吸着されたZ907とDPAとのモル比(Z907:DPA)が1:2.0の場合には、初期性能の9割程度まで改善することが確認された。
【0083】
<試験例1>
また、色素溶液の色素濃度と色素溶液に浸漬する時間とを適宜調整することにより、多孔質酸化チタン層に吸着した、ルテニウム系の色素(Z907)の吸着量およびDPAの吸着量を変えた、複数の光電変換装置を作製した。
【0084】
複数の光電変換装置それぞれについて、以下の測定を行った。
【0085】
(DPAの吸着量のZ907の吸着量に対するモル比)
上記と同様、ICP−AESにより、Ru、Pを定量分析した。これにより、多孔質酸化チタン層に吸着した、単位体積あたりのDPAの吸着量のZ907の吸着量に対するモル比を求めた。
【0086】
(初期効率の測定)
ソーラーシュミレータによる疑似太陽光(AM1.5G、100mW/cm2)照射時におけるI−V測定を行い、初期の光電変換効率を測定した。
【0087】
(85℃暗所保存試験)
アモルファスシリコンのJIS規格(JIS C 8983 アモルファス太陽電池モジュールの環境試験方法および耐久性試験方法)に準じて、長期性能を評価する加速試験を行った。すなわち、85℃±2℃に保持された環境下で、光電変換装置を1000±12時間設置し、その後の性能低下の割合を確認した。
【0088】
多孔質酸化チタン層に吸着した、DPAの吸着量のZ907に対する吸着量のモル比を横軸とし、縦軸を初期効率として、測定結果をプロットしたグラフを作成した。また、DPAの吸着量のZ907に対する吸着量のモル比を横軸とし、縦軸を85℃1000時間後の初期効率に対する維持率として、測定結果をプロットしたグラフを作成した。図6に、測定結果をプロットしたグラフを示す。なお、図6のグラフにおいて、左縦軸を初期効率とし、右縦軸を85℃1000時間後の初期効率に対する維持率としている。点a〜lの各モル比(DPA/Z907)は、以下のとおりである。
点a:0.78、点b:0.81、点c:0.79、点d:1.43、点e:1.49、点f:1.46、点g:1.96、点h:1.98、点i:2.06、点j:2.49、点k:2.50、点l:2.51
【0089】
図6に示すように、多孔質酸化チタン層に吸着したZ907の吸着量に対して、DPAの吸着量のモル比を増やしていくと、モル比2.0までは、同程度の光電変換効率を保持した。モル比2.0を超えた場合に、若干初期の光電変換効率が低下していく傾向にあるが、モル比3.0では、初期効率6.0%以上を維持できる傾向にある。また、モル比が0.5以上になると、維持率が0.70を越え、良好な維持率を示し、その後は、モル比が大きくなるに伴い、維持率も大きくなっていった。
【0090】
<実施例2−1>
色素吸着の際に、Z907の代わりにルテニウム系の色素(Z991)を用いると共に、色素溶液の濃度と色素溶液に浸漬する時間とを変えたこと以外は、実施例1−1と同様にして、光電変換装置を作製した。
【0091】
(色素と共吸着剤とのモル比の測定)
ガラス基板から、色素付き多孔質酸化チタン層を剥離し、測定サンプルとした。測定サンプルに吸着した色素および共吸着剤を加圧酸分解により分解し、ICP−AESにより、Ru、Pを定量分析した。これにより、多孔質酸化チタン層に吸着した単位体積あたりの色素量および共吸着剤量を求めた。
【0092】
その結果、多孔質酸化チタン層に吸着した、Z911とDPAとのモル比は、Z911:DPA=1:0.8であった。すなわち、DPAの吸着量のZ911の吸着量に対するモル比は、0.8であった。
【0093】
<実施例2−2>
色素吸着の際に、色素溶液の濃度と色素溶に浸漬する時間とを適宜調整することにより、多孔質酸化チタン層に吸着する、色素の吸着量と共吸着剤の吸着量との比率を変えたこと以外は、実施例2−1と同様にして、光電変換装置を作製した。また、実施例2−1と同様にして、多孔質酸化チタン層に吸着した色素量および共吸着剤量を求めた。その結果、多孔質酸化チタン層に吸着したZ911とDPAとのモル比は、Z911:DPA=1:1.5であった。すなわち、DPAの吸着量のZ911の吸着量に対するモル比は、1.5であった。
【0094】
<実施例2−3>
色素吸着の際に、色素溶液の濃度と色素溶液に浸漬する時間とを適宜調整することにより、多孔質酸化チタン層に吸着する、色素の吸着量と共吸着剤の吸着量との比率を変えたこと以外は、実施例2−1と同様にして、光電変換装置を作製した。また、実施例2−1と同様にして、多孔質酸化チタン層に吸着した色素量および共吸着剤量を求めた。その結果、多孔質酸化チタン層に吸着した、Z911とDPAとのモル比は、Z911:DPA=1:2.0であった。すなわち、DPAの吸着量のZ911の吸着量に対するモル比は、2.0であった。また、多孔質酸化チタン層への単位体積あたりの吸着量は、Z911:1.09μmol/cm3、DPA:2.18μmol/cm3であった。
【0095】
<比較例2>
色素吸着の際の色素溶液を、DPAを含まないものとしたこと以外は、実施例2−1と同様にして、光電変換装置を作製した。
【0096】
(85℃暗所保存試験)
作製した複数の光電変換装置について、それぞれ、上記同様、85℃暗所保存試験を行った。
【0097】
85℃の保存時間を横軸とし、縦軸を初期効率に対する維持率として、測定結果をプロットしたグラフを作成した。図7に、測定結果をプロットしたグラフを示す。
【0098】
図7に示すように、比較例2では、多孔質酸化チタン層に、DPAが吸着されていないため、セルの85℃加速試験では、100時間後で初期性能の7割程度まで落ち込んだ。これに対して、実施例2−1〜実施例2−3では、多孔質酸化チタン層に対する、DPAの吸着量の色素の吸着量に対するモル比が、0.8以上であるため、85℃1000時間後の性能維持率も改善した。実施例2−1によれば、多孔質酸化チタン層に吸着されたZ911とDPAとのモル比(Z911:DPA)が1:0.8の場合には、82%程度まで改善することが確認できた。実施例2−3によれば、多孔質酸化チタン層に吸着されたZ911とDPAとのモル比(Z911:DPA)が1:2.0の場合には、初期性能の98%程度まで改善することが確認された。
【0099】
<試験例2>
また、色素溶液の色素濃度と色素溶液に浸漬時間とを適宜調整することにより、多孔質酸化チタン層に吸着した、ルテニウム系の色素(Z911)の吸着量およびDPAの吸着量を変えた、複数の光電変換装置を作製した。
【0100】
複数の光電変換装置それぞれについて、以下の測定を行った。
【0101】
(DPAの吸着量のZ911の吸着量に対するモル比)
上記同様、ICP−AESにより、Ru、Pを定量分析した。これにより、多孔質酸化チタン層に吸着した、単位体積あたりのDPAの吸着量のZ911の吸着量に対するモル比を求めた。
【0102】
(初期効率の測定)
ソーラーシュミレータによる疑似太陽光(AM1.5G、100mW/cm2)照射時におけるI−V測定を行い、初期の光電変換効率を測定した。
【0103】
(85℃暗所保存試験)
アモルファスシリコンのJIS規格(JIS C 8983 アモルファス太陽電池モジュールの環境試験方法および耐久性試験方法)に準じて、長期性能を評価する加速試験を行った。すなわち、85℃±2℃に保持された環境下で、光電変換装置を1000±12時間設置し、その後の性能低下の割合を確認した。
【0104】
多孔質酸化チタン層に吸着した、DPAの吸着量のZ911に対する吸着量のモル比を横軸とし、縦軸を初期効率として、測定結果をプロットしたグラフを作成した。また、DPAの吸着量のZ911に対する吸着量のモル比を横軸とし、縦軸を85℃1000時間後の初期効率に対する維持率として、測定結果をプロットしたグラフを作成した。図8に、測定結果をプロットしたグラフを示す。なお、図8のグラフにおいて、左縦軸を初期効率とし、右縦軸を85℃1000時間後の初期効率に対する維持率としている。点m〜xの各モル比(DPA/Z911)は、以下のとおりである。
点m:0.785、点n:0.795、点o:0.80、点p:1.44、点q:1.51、点r:1.47、点s:1.97、点t:2.00、点u:1.98、点v:2.50、点w:2.47、点x:2.49
【0105】
図8に示すように、多孔質酸化チタン層に吸着したZ911の吸着量に対して、DPAの吸着量のモル比を増やしていくと、モル比2.0までは、同程度の光電変換効率を保持した。モル比2.0を超えた場合に、若干初期の光電変換効率が低下していく傾向にあるが、モル比3.0では、初期効率6.7%以上を維持できる傾向にある。また、モル比が0.5以上になると、維持率が0.77を越え、良好な維持率を示し、その後は、モル比が大きくなるに伴い、維持率も大きくなっていった。
【0106】
4.他の実施形態
本技術は、上述した本技術の実施形態に限定されるものでは無く、本技術の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0107】
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0108】
また、上述の実施形態の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本技術の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0109】
また、上述の実施形態に係る光電変換装置(セル)を複数組み合わせてモジュールを形成するようにしてもよい。複数の光電変換装置は、電気的に直列および/または並列に接続され、例えば直列に組み合わせた場合には高い起電圧を得ることができる。
【0110】
また、本技術は以下の構成をとることもできる。
[1]
導電層と、
多孔質半導体層と、
対極と、
電解質層と、
を備え、
上記多孔質半導体層は、色素と、一般式(A)で表わされるリン化合物とを含み、
上記色素に対する上記リン化合物のモル比は、0.5以上である光電変換装置。
【化6】

(式中、Rは、炭素数8以上16以下の直鎖状のアルキル基である。)
[2]
上記リン化合物は、式(1)で表わされるデシルホスホン酸である[1]に記載の光電変換装置。
【化7】

[3]
上記色素が、ルテニウム錯体色素である[1]〜[2]の何れかに記載の光電変換装置。
[4]
上記ルテニウム錯体色素は、式(2)および式(3)で表わされるルテニウム錯体色素の少なくとも1種である[3]に記載の光電変換装置。
【化8】

【化9】

[5]
上記色素に対する上記リン化合物のモル比は、3.0以下である[1]〜[4]の何れかに記載の光電変換装置。
[6]
上記色素および上記リン化合物は、上記多孔質半導体層に吸着している[1]〜[5]の何れかに記載の光電変換装置。
[7]
[1]〜[6]の何れかに記載の光電変換装置を備える電子機器。
[8]
[1]〜[6]の何れかに記載の光電変換装置を備える建築物。
【符号の説明】
【0111】
1、2 導電性基材
3 多孔質半導体層
4 電解質層
5 対極
6 封止材
11、21 基材
12、22 透明導電層
43 集電体
45 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層と、
多孔質半導体層と、
対極と、
電解質層と、
を備え、
上記多孔質半導体層は、色素と、一般式(A)で表わされるリン化合物とを含み、
上記色素に対する上記リン化合物のモル比は、0.5以上である光電変換装置。
【化1】

(式中、Rは、炭素数8以上16以下の直鎖状のアルキル基である。)
【請求項2】
上記リン化合物は、式(1)で表わされるデシルホスホン酸である請求項1に記載の光電変換装置。
【化2】

【請求項3】
上記色素が、ルテニウム錯体色素である請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項4】
上記ルテニウム錯体色素は、式(2)および式(3)で表わされるルテニウム錯体色素の少なくとも1種である請求項3に記載の光電変換装置。
【化3】

【化4】

【請求項5】
上記色素に対する上記リン化合物のモル比は、3.0以下である請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項6】
上記色素および上記リン化合物は、上記多孔質半導体層に吸着している請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項7】
請求項1に記載の光電変換装置を備える電子機器。
【請求項8】
請求項1に記載の光電変換装置を備える建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−26082(P2013−26082A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161195(P2011−161195)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】