説明

光電気素子及びその製造方法

第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極;第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極;及び第1電極と第2電極との間に配置される有機材料層を有する光電気素子であって、前記有機材料層は電荷輸送性及び/又は発光性の第1ポリマーと電荷輸送性及び/又は発光性の第2ポリマーの混合物を含有し、少なくとも第1ポリマーが架橋して第2ポリマーを内包する第1架橋マトリクスを形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電気素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の光電気素子では、光を発する又は検知するために有機材料を用いる。このような素子は、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)又はポリフルオレンのフィルム等からなる有機発光層が、該有機層に負電荷担体(電子)を注入するカソードと正電荷担体(正孔)を注入するアノードとの間に挟まれた基本構造を有する。これら電子と正孔が有機層中で結合して光子が発生する。WO90/13148(特許文献1)では有機発光材料としてポリマーを用いている。US4539507(特許文献2)では有機発光材料として(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)等の公知の小分子材料を用いている。実用的な素子では電極の一方が透明であり、そこから光子が素子外部に放出される。
【0003】
典型的な有機発光素子(OLED)は、ガラス又はプラスチックの基板をインジウムスズ酸化物(ITO)等の透明アノードで被覆し、この第1電極を少なくとも1種の有機電界発光材料からなる薄膜層で被覆し、最後にこの有機電界発光材料層をカソードで被覆して得られる。カソードは通常は金属又は合金からなり、アルミニウム等の単層や、カルシウムとアルミニウム等の複数層からなるものであってよい。
【0004】
素子を駆動すると、アノードから素子に正孔が注入され、カソードから素子に電子が注入される。正孔と電子が有機電界発光層中で結合して励起子を形成し、該励起子が放射崩壊し光を発する。
【0005】
このような素子はディスプレイでの利用に非常に有望である。しかしながら、幾つか重要な課題がある。課題の一つは、素子の高効率化、特に外部電力効率及び外部量子効率として測定される効率の向上である。他の課題は、ピーク効率が得られる電圧の最適化(例えば低減)、素子の電圧特性の長期安定化、素子の長寿命化である。
【0006】
そのため、これら課題の1以上を解決する目的で、上述した素子の基本構造に多くの改良が加えられてきた。電荷の注入及び輸送を補助する目的で、電極及び有機発光層の間に更なる層を形成することができる。アノードと発光層の間に正孔注入層及び/又は正孔輸送層を用いるのが特に好ましい。正孔注入層はPEDOT:PSS等の導電性ポリマーを含有してよい。正孔輸送層はフルオレン繰り返し単位とトリアリールアミン繰り返し単位のコポリマー等の半導体ポリマーを含有してよい。有機発光層は小分子、デンドリマー、又はポリマーを含有してよく、また燐光発光部及び/又は蛍光発光部を有してよい。
【0007】
本出願人の前の公開出願であるWO99/48160(特許文献3)は、発光部、電子輸送部、及び正孔輸送部を含む材料の混合物からなる発光層を開示している。これらの部位は、単一の分子内に存在しても、別々の分子上に存在してもよい。
【0008】
電荷輸送材料及び発光材料の層を別々に形成するのではなく、材料の混合物を単層中に用いる場合、これら材料を単一パスで積層でき、素子の製造工程を簡略化できるという利点がある。更に、複数の機能を有する単層を形成すると、原理上、より優れた電荷輸送特性、電荷移動特性、及び発光特性が得られる場合がある。また、層数が減るため素子をより薄く製造でき、素子の駆動電圧を低減できる場合もある。更には、素子内の層間接合部の数が減少すると有利であり、これは接合部は構造欠陥の原因となることがあり、また電気的及び光学的に不利な効果を示す(素子内の電荷移動を妨げる、光散乱や内部反射を引き起こす等)場合があるためである。
【0009】
光電気素子に混合物を用いる方法は、多層を形成するよりも幾つかの点で優れているが、この方法を提案する過程で、光電気素子内で該混合物を用いる際に幾つかの問題が生じることを発見した。混合物の構造及び特性を制御するのが難しい場合がある。例えば、(特に素子駆動中に)混合物中の化学種が移動するため、混合物中での材料の混合が制御困難又は不安定となることがある。単一の分子に異なる化学種を付与することによって、素子駆動中のこれら化学種の移動の差を低減することができる。しかしながら、複数成分からなるポリマーは調製が難しい。更に、複数の化学種を同一分子内に付与しても、駆動中に分子の配置が変化すると、やはりこれら化学種の部分的な相分離が起こり得る。例えば、各化学種は同系のポリマー部位と部分的に相分離し、層内にドメインを形成する場合がある。このような混合物の構造変化によって、素子使用中に混合物の機能特性が変化することがある。光電気素子の電圧特性の経時安定化を図る際には、このような効果は不利となり得る。
【0010】
材料の混合物を用いる場合の上記問題を踏まえて、当該分野の多くの研究者が、電荷輸送成分及び発光成分を別々の層に用いた多層素子構造への回帰について考察し、この構造をどのように改善し得るか検討してきた。
【0011】
これに関連して、本出願人の前の公開出願であるWO2006/043087(特許文献4)は、光電気素子内で互いに混合することなく複数の層を積層することを目的とした、ポリマーの架橋について開示している。該文献は架橋性の正孔輸送性モノマーを開示している。このモノマーを重合し、積層した後、架橋して正孔輸送層を形成できる。この正孔輸送層上には、発光層を該正孔輸送層に溶解することなく積層できる。また、架橋性の正孔輸送性モノマーを発光性モノマーと混合し、重合して正孔輸送性モノマー及び発光性モノマーを共に含むポリマーを形成し、積層し、その後架橋して発光層を形成する手法についても開示しており、この発光層上には、電子輸送層を該発光層に溶解することなく積層できる。
【0012】
上記配置を用いると、非常に堅牢な素子構造が得られ、互いに混ざり合うことなく多層を形成できる。しかしながら、WO99/48160(特許文献3)に関して上述した、異なる機能を有する材料を混合することによる利点を完全には得られていない。
【0013】
WO2005/049689(特許文献5)は、電界発光素子用の架橋性フルオレン化合物を開示している。
【0014】
Bozano et al, J. Appl. Phys. 2003, 94(5), 3061-3068(非特許文献1)は、有機発光素子用の架橋2成分混合物を開示している。
【0015】
かくして、本発明者らは、混合物を用いることによる有利な特徴が得られ、不利な特徴を回避できるような配置を提供することが望ましいと理解した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】WO90/13148
【特許文献2】米国特許第4539507号
【特許文献3】WO99/48160
【特許文献4】WO2006/043087
【特許文献5】WO2005/049689
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Bozano et al, J. Appl. Phys. 2003, 94(5), 3061-3068
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様によれば、第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極;第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極;及び第1電極と第2電極との間に配置される有機材料層を有する光電気素子が提供され、前記有機材料層は電荷輸送性及び/又は発光性の第1ポリマーと電荷輸送性及び/又は発光性の第2ポリマーの混合物を含有し、少なくとも第1ポリマーが架橋して第1架橋マトリクスを形成しており、第2ポリマーが第1架橋マトリクス内に存在する。
【0019】
上記第1ポリマーと第2ポリマーは、異なるポリマーである。
【0020】
本発明の一実施形態では、官能基を用いて有機フィルム中でポリマー同士を架橋することによって、即ち2種以上のポリマーを混合物として含む単一の架橋マトリクスを形成することによって、安定したモルホロジーが得られる。しかしながら、これはやや粗雑な方法であり、多くの場合においてその化学的理論は明確ではなく、構造は不明瞭である。この不明確な化学特性は、製造工程を通してほとんど制御できないことも意味している。
【0021】
上記の点から、上記ポリマーのうち一方又は両方を選択的に架橋することが有利である。一実施形態において、上記ポリマーの一方が架橋され、他方が例えば単純な直鎖状の非官能性ポリマーであり、架橋マトリクスを通して相分離凝集体ではなく連続相として存在していれば、半相互貫入網目構造(semi-interpenetrating network)が形成される。これら2種のポリマー同士が架橋されることは殆ど又は全くない。
【0022】
或いは、上記電荷輸送性ポリマー及び発光性ポリマーの他方も架橋して、第2架橋マトリクスを形成する。第2架橋マトリクスは第1架橋マトリクスを通して連続相として存在し、従って第1架橋マトリクスと第2架橋マトリクスが相互貫入網目構造(interpenetrating network)を形成する。この場合も、2種のポリマー同士が架橋されることは殆ど又は全くない。
【0023】
相互貫入網目構造の場合も半相互貫入網目構造の場合も、安定なアモルファスモルホロジーを示す密なポリマー鎖混合物が得られる。相互貫入網目構造又は半相互貫入網目構造を用いることで、光電気素子を長期に渡って駆動する場合も安定なモルホロジーを示す有機層を形成できる。
【0024】
相互貫入網目構造を用いることで、安定した明確な構造の薄膜を形成可能なモルホロジーを「ロックイン(locking-in)」するための洗練された手段が得られる。また、該構造を用いると、安定したモルホロジーを示す混合物が得られるという利点がある。
【0025】
WO2006/043087等に開示されているように架橋正孔輸送層を別個の発光層と共に用いると安定した接合部が得られるが、本発明の実施形態では安定した段階的接合部(graded interface)が得られる。有機材料層中で第1ポリマー及び第2ポリマーの濃度が変化していてよい。例えば、有機材料層は第1ポリマーからなる第1領域、第2ポリマーからなる第2領域、及び第1領域と第2領域との間に配置される接合領域を有してよく、該接合領域が上記混合物を含有してよい。
【0026】
また、WO2006/043087に開示の配置では、安定な系を得るために正孔輸送層と発光層の2層を別々に積層する。一方、本発明の実施形態では、2つの架橋系の混合物、又は1つの架橋系と1つの非架橋系の混合物を用いることで、有機材料を一回のみ積層して安定した混合物モルホロジーが得られる。
【0027】
第1ポリマーは正孔輸送性ポリマーであってよい。第2ポリマーは発光性及び/又は電子輸送性のポリマーであってよい。ある配置においては、第2ポリマーが電子輸送性ポリマーであり、更に内部に発光部(燐光発光部等)を含む。発光部は電子輸送性ポリマーとは別個の成分であってよく、また電子輸送性ポリマーに化学的に結合していてもよい。
【0028】
或いは、第1ポリマーと第2ポリマーが共に電荷輸送性ポリマーであってよく、即ち、共に正孔輸送性ポリマーであってもよいし、共に電子輸送性ポリマーであってもよい。また、一方が正孔輸送性ポリマーで、他方が電子輸送性ポリマーであってもよい。例えば、第1ポリマーと第2ポリマーが正孔輸送性ポリマーである場合、これら第1ポリマー及び第2ポリマーを含有する架橋層上に発光層を形成してよい。このように2種の異なる正孔輸送性の第1ポリマー及び第2ポリマーを用いると、アノードから(正孔注入層を形成する場合は該層から)発光層への段階的な(stepped)正孔輸送が可能となる。これら2種の正孔輸送性ポリマーは、種類、配列、及び/又はポリマー内の正孔輸送単位の量において異なっていてよい。特に、段階的な正孔輸送を達成するために、2種のポリマーは異なるHOMO準位を有してよい。
【0029】
また、第1ポリマーと第2ポリマーは異なる波長の光を発することが可能な発光性ポリマーであってよく、これらの光を組み合わせて白色発光素子を形成してよい。この点について、有機材料層は更に第1ポリマー及び第2ポリマーとは異なる波長の光を発することが可能な第3ポリマーを含有してよく、この光を第1ポリマー及び第2ポリマーからの発光と組み合わせて白色発光素子を形成してもよい。白色発光は、黒体による2500〜9000Kの放射に等価なCIEのx座標、及び黒体放射の0.05の範囲内のCIEのy座標で定義される範囲に含まれるのが好ましく、黒体による4000〜8000Kの放射に等価なx座標、及び黒体放射の0.025の範囲内のy座標で定義される範囲に含まれるのがより好ましい。
【0030】
有機材料層への電荷注入を補助するために、有機材料層と第1電極の間に、電荷注入材料(正孔注入材料等)の層を設置してもよい。電荷注入材料は導電性ポリマー(ドープPEDOT等、好ましくはPEDOT:PSS)を含有してよい。
【0031】
好ましくは、第1ポリマー及び第2ポリマーは共役半導体ポリマーである。
【0032】
本発明の一実施形態において、第1ポリマーの発光極大と第2ポリマーの吸収極大との波長差は、30nmを超える。
【0033】
本発明の他の実施形態においては、第1ポリマーは発光性ポリマーであり、第2ポリマーは電荷輸送性ポリマーである。該発光性ポリマーは、電荷輸送性ポリマーからの第1極性の電荷担体、及び第1電極又は第2電極からの第2極性の電荷担体を受容する。
【0034】
本発明の他の態様によれば、第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極を有する基板上に、溶媒中の第1ポリマーと第2ポリマーの混合物を積層する工程;第1ポリマーを架橋して第2ポリマーを内包する第1架橋マトリクスを形成する工程;及び第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極を積層する工程を含む光電気素子の製造方法が提供される。
【0035】
この方法は、更に、第2ポリマーを架橋して第2架橋マトリクスを形成し、第1架橋マトリクスと第2架橋マトリクスで相互貫入網目構造を形成する工程を含んでよい。また、ポリマーの一方のみを架橋し、他方が例えば単純な直鎖状の非官能性ポリマーである場合は、半相互貫入網目構造が形成される。
【0036】
ある配置においては、第1温度に加熱することによって第1ポリマーを架橋し、第1温度よりも高い第2温度に加熱することによって第2ポリマーを架橋する。
【0037】
積層後、架橋に先立って、第1ポリマーと第2ポリマーが部分的に相分離してもよい。即ち、例えば、電荷輸送性及び発光性のポリマー材料からなる別々の領域が形成されてよく、その間に相互貫入網目構造又は半相互貫入網目構造を有する段階的接合部が形成されてよい。
【0038】
本発明の他の態様によれば、第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極を有する基板上に、第1溶媒中の第1ポリマーを積層する工程;第1ポリマー材料上に、第2溶媒中の第2ポリマーを積層する工程;一定時間待機して第1ポリマー材料と第2ポリマー材料を少なくとも部分的に混合させる工程;第1ポリマー及び/又は第2ポリマーを架橋して相互貫入網目構造又は半相互貫入網目構造を形成する工程;及び第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極を積層する工程を含む光電気素子の製造方法が提供される。
【0039】
本発明の他の態様によれば、第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極;第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極;及び第1電極と第2電極との間に配置される有機材料層を有する光電気素子が提供され、該有機材料層は電荷輸送性及び/又は発光性の第1ポリマーと電荷輸送性及び/又は発光性の第2ポリマーの混合物を含有し、少なくとも第1ポリマーが架橋して第1架橋マトリクスを形成しており、第2ポリマーが第1架橋マトリクス内に存在し、且つ有機材料層上に発光層が形成されている。
【0040】
本発明の他の態様によれば、
第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極を有する基板上に、電荷輸送性及び/又は発光性の第1ポリマーを積層する工程;
第1ポリマーを部分的に架橋する工程;
部分的に架橋した第1ポリマー上に、電荷輸送性及び/又は発光性の材料を積層する工程;
第1ポリマーを更に架橋する工程;及び
第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極を積層する工程
を含む光電気素子の製造方法が提供される。
【0041】
上記部分的に架橋した第1ポリマーは、溶解に対して安定な表面を有し、また横方向に多孔性の構造を有する。更に架橋する工程によってロックインする前に、上記電荷輸送性及び/又は発光性の材料はこの多孔構造に少なくとも部分的に吸収される。
【0042】
第1ポリマーを部分的に架橋するための好適な条件は当業者に自明であろう。例えば熱架橋ポリマーの場合、部分的に架橋するために熱処理の時間及び/又は温度を選択してよい。
【0043】
本発明の他の態様によれば、第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極;第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極;及び第1電極と第2電極との間に配置される有機材料層を有する光電気素子が提供され、前記有機材料層は第1電荷輸送材料と第2電荷輸送材料の混合物を含有し、これら第1電荷輸送材料及び第2電荷輸送材料のうち少なくとも一方が架橋ポリマーを含む。
【0044】
上記光電気素子は、好ましくは有機発光層を有する有機発光素子である。第1電荷輸送材料と第2電荷輸送材料が正孔輸送材料であることが好ましい。第1電荷輸送材料及び第2電荷輸送材料を含有する有機材料層上に、有機発光層を溶液から積層させてよい。
【0045】
上述した架橋層の利点に加えて、更にこれらの層は不溶性であるという点で有利である。即ち、上記ポリマーを溶液から積層させ、その後架橋して得られる層は、次の材料を溶液から積層させる際に安定である。これにより、複数の活性層を溶液から積層させることができるという利点がある。
【0046】
本発明の上記態様のいずれかにおいて、好ましくは第1電極はアノードであり、第2電極はカソードである。
【0047】
上記架橋性ポリマーを第1電極上に直接積層してよい。しかしながら、第1電極がアノードである場合、アノードと架橋性ポリマーとの間に正孔注入材料からなる層を設けるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態による有機発光素子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明するが、下記説明は単なる例示にすぎない。
【0050】
素子の一般構造
図1に示すように、本発明の一実施形態による電界発光素子は、透明なガラス又はプラスチックからなる基板1、インジウムスズ酸化物からなるアノード2、及びカソード4を含む構造を有する。アノード2とカソード4の間には発光層3が形成される。
【0051】
電荷輸送層
アノード2とカソード3の間に、電荷輸送層、電荷注入層、電荷ブロック層等の更なる層を配置してもよい。
【0052】
特に、アノード2と発光層3の間にドープ有機材料からなる導電性正孔注入層を形成し、アノードから該層又は半導体ポリマー層への正孔注入を補助するのが望ましい。ドープ有機正孔注入材料の例としては、ドープしたポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、特にEP0901176及びEP0947123に開示されているようなポリスチレンスルホネート(PSS)をドープしたPEDOTや、US5723873及びUS5798170に開示されているようなポリアニリン等が挙げられる。無機材料、例えば酸化モリブデン等の遷移金属酸化物を含む正孔注入層を用いてもよい。
【0053】
アノード2と発光層3の間に、1以上の半導電正孔輸送層を形成してもよい。正孔輸送層を形成する場合は、正孔輸送層のHOMO準位は好ましくは5.5eV以下、より好ましくは4.8〜5.5eV程度である。この正孔輸送層は上記正孔注入層と組み合わせて形成してよく、正孔注入層と電界発光層3の間に配置してよい。複数の正孔輸送層を形成して、アノードから(正孔注入層を形成する場合は該層から)発光層3へ正孔輸送を段階的に行ってもよい。
【0054】
発光層3とカソード4の間に電子輸送層を配置する場合は、電子輸送層のLUMO準位は好ましくは3〜3.5eV程度である。
【0055】
発光層
発光層3は発光性ポリマーと電荷輸送性ポリマーの混合物を含有し、この発光性ポリマーと電荷輸送性ポリマーのうち少なくとも一方が架橋して第1架橋マトリクスを形成し、他方を第1架橋マトリクス内に配置する。例えば白色光を得るために、発光層3上に更なる発光層を積層し、発光層3と更なる発光層の両方から発光する素子を形成してもよい。
【0056】
他の実施形態(図示せず)では、アノードと発光層の間に2種の正孔輸送性ポリマーを含有する正孔輸送層を形成し、正孔輸送性ポリマーの少なくとも一方を架橋して架橋マトリクスを形成し、他方をこの架橋マトリクス中に配置する。正孔輸送性ポリマーの一方のみを架橋する場合、正孔輸送層の表面を透過性とすることができる。この場合、正孔輸送層は少なくとも部分的に発光層を吸収し、正孔輸送層と発光層の間に段階的接合部を形成し得る。
【0057】
他の実施形態(図示せず)では、アノードと発光層の間に2種の発光性ポリマーを含有する発光層を形成し、発光性ポリマーの少なくとも一方を架橋して架橋マトリクスを形成し、他方をこの架橋マトリクス中に配置する。この架橋発光層上に電子輸送材料を積層してよい。発光性ポリマーの一方を架橋しない場合、発光層内に電子輸送層が少なくとも部分的に吸収されていてよい。
【0058】
共役ポリマー(蛍光発光性及び/又は電荷輸送性)
層3に好適に用いられる発光性ポリマーとしては、ポリ(p−フェニレンビニレン)等のポリ(アリーレンビニレン)、並びにポリフルオレン(特に2,7−結合9,9−ジアルキルポリフルオレン又は2,7−結合9,9−ジアリールポリフルオレン)、ポリスピロフルオレン(特に2,7−結合ポリ−9,9−スピロフルオレン)、ポリインデノフルオレン(特に2,7−結合ポリインデノフルオレン)、ポリフェニレン(特にアルキル又はアルコキシ置換されたポリ−1,4−フェニレン)等のポリアリーレンが挙げられる。このようなポリマーは、例えばAdv. Mater. 2000 12(23) 1737-1750及びその参考文献に開示されている。
【0059】
ポリマーは、アリーレン繰り返し単位:特に、J. Appl. Phys. 1996, 79, 934に開示されているような1,4−フェニレン繰り返し単位、EP0842208に開示されているようなフルオレン繰り返し単位、Macromolecules 2000, 33(6), 2016-2020等に開示されているようなインデノフルオレン繰り返し単位、並びにEP0707020等に開示されているようなスピロフルオレン繰り返し単位、から選ばれる第1繰り返し単位を含んでよい。これら繰り返し単位はそれぞれ任意に置換されていてよい。置換基の例としては、C1−20アルキル又はアルコキシ等の可溶化基;フッ素、ニトロ、シアノ等の電子吸引基;ポリマーのガラス転移温度(Tg)を上昇させる置換基;等が挙げられる。
【0060】
ポリマーは、任意に置換された2,7−結合フルオレンを含むのが特に好ましく、下記式:
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素、並びに任意に置換されたアルキル、アルコキシ、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、及びヘテロアリールアルキルから選ばれる。R及びRの少なくとも1つが任意に置換されたC−C20アルキル又はアリール基を含むのがより好ましい)により表される繰り返し単位を含むのが最も好ましい。
【0061】
第1繰り返し単位を含むポリマーは、それを用いる素子の層及び組み合わせる繰り返し単位の特性に応じて、正孔輸送、電子輸送、及び発光のうち1以上の機能を有してよい。
【0062】
特に、第1繰り返し単位のホモポリマー(9,9−ジアルキルフルオレン−2,7−ジイルのホモポリマー等)を電子輸送の目的で使用してよく、また、第1繰り返し単位及びトリアリールアミン繰り返し単位(特に下記式1〜6から選ばれる繰り返し単位)を含むコポリマーを正孔輸送及び/又は発光の目的で使用してもよい。
【化2】

式中、X、Y、A、B、C、及びDはそれぞれ独立にH及び置換基から選ばれる。より好ましくは、X、Y、A、B、C、及びDのうち1つ以上が、それぞれ独立に、任意に置換された分岐状又は直鎖状のアルキル基、アリール基、パーフルオロアルキル基、チオアルキル基、シアノ基、アルコキシ基、ヘテロアリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基からなる群から選ばれる。最も好ましくは、X、Y、A、及びBがC1−10アルキルである。
【0063】
特に好ましいこの種の正孔輸送性ポリマーは、第1繰り返し単位とトリアリールアミン繰り返し単位のABコポリマーである。
【0064】
第1繰り返し単位とヘテロアリーレン繰り返し単位を含むコポリマーは、電荷輸送又は発光の目的で使用できる。好ましいヘテロアリーレン繰り返し単位は下記式7〜21から選ばれる。
【化3】

(式中、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立に水素又は置換基であり、好ましくはアルキル、アリール、パーフルオロアルキル、チオアルキル、シアノ、アルコキシ、ヘテロアリール、アルキルアリール、又はアリールアルキルである。容易に製造するためには、R及びRは同じであるのが好ましい。R及びRは同じフェニル基であるのがより好ましい。)
【化4】



【0065】
例えばWO00/55927及びUS6353083に開示されているように、電界発光性コポリマーは、電界発光領域と、正孔輸送領域及び電子輸送領域のうち少なくとも1つとを有してよい。正孔輸送領域と電子輸送領域のうち一方のみを有する場合は、電界発光領域が他方の正孔輸送又は電子輸送の機能を有していてよい。
【0066】
このようなポリマー中の異なる領域は、US6353083のようにポリマー骨格鎖に沿って存在してよく、或いはWO01/62869のようにポリマー骨格鎖から垂れ下がる基に存在してもよい。
【0067】
発光性ポリマーを架橋させて架橋マトリクスを形成し、該架橋マトリクス内に電荷輸送性ポリマーを配置する場合、BCBやビニル基等の適当な架橋性基で発光性ポリマーを官能化する必要がある。
【0068】
電荷輸送性ポリマーを架橋させて架橋マトリクスを形成し、該架橋マトリクス内に発光性ポリマーを配置する場合、BCBやビニル基等の適当な架橋性基で電荷輸送性ポリマーを官能化する必要がある。
【0069】
電荷輸送性ポリマーと発光性ポリマーの両方を架橋させて第1架橋マトリクス及び第2架橋マトリクスを形成し、これらの架橋マトリクスで相互貫入網目構造を形成する場合、BCBやビニル基等の適当な架橋性基で電荷輸送性ポリマーと発光性ポリマーの両方を官能化する必要がある。
【0070】
燐光発光体用ホスト
本発明の実施形態では、架橋電荷輸送性ポリマーマトリクスを、発光性ポリマーのホストとして用いることができる。発光性ポリマーは燐光発光部を有してよい。
【0071】
多くのホストが先行技術に記載されており、その例としては、ポリ(ビニルカルバゾール)(Appl. Phys. Lett. 2000, 77(15), 2280等に開示)、ポリフルオレン(Synth. Met. 2001, 116, 379、Phys. Rev. B 2001, 63, 235206、及びAppl. Phys. Lett. 2003, 82(7), 1006)、ポリ[4−(N−4−ビニルベンジルオキシエチル−N−メチルアミノ)−N−(2,5−ジ−tert−ブチルフェニルナフタルイミド](Adv. Mater. 1999, 11(4), 285)、並びにポリ(パラフェニレン)(J. Mater. Chem. 2003, 13, 50-55)等のホモポリマーが挙げられる。コポリマーもホストとして公知である。
【0072】
架橋電荷輸送性ポリマーマトリクスを発光性ポリマーのホスト材料として形成するために、上記ポリマーホスト材料を架橋性基で官能化してもよい。
【0073】
金属錯体(通常は燐光発光性だが、最終的に蛍光発光性であってもよい)
好ましい金属錯体は、下記式(V)で表される任意に置換可能な錯体を含む。
【化5】

式中、Mは金属であり、L、L、及びLはそれぞれ配位基であり、qは整数であり、r及びsはそれぞれ独立に0又は整数である。(a.q)+(b.r)+(c.s)の合計はM上の配位可能部位の数に等しく、ここでaはL上の配位部位の数、bはL上の配位部位の数、cはL上の配位部位の数である。
【0074】
重元素Mは強いスピン軌道結合を誘導し、迅速な項間交差及び三重項状態からの発光(燐光発光)を可能とする。適当な重金属Mとしては:
ランタニド金属、例えばセリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、ツリウム、エルビウム、ネオジム等、並びに
dブロック金属、特に第2周期及び第3周期の元素、即ち39〜48及び72〜80の元素、特にルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、及び金 が挙げられる。
【0075】
fブロック金属に適した配位基としては、カルボン酸、1,3−ジケトネート、ヒドロキシカルボン酸、シッフ塩基(アシルフェノール、イミノアシル基等)等の酸素又は窒素のドナー系が挙げられる。既に知られているとおり、発光性ランタニド金属錯体は増感基を必要とする。増感基は金属イオンの第1励起状態よりも高い三重項励起エネルギー準位を有する。金属のf−f遷移により発光が起こり、そのため金属の選択によって発光色が決まる。一般に鋭い発光は狭く、ディスプレイ用途に有用な純粋色の発光が得られる。
【0076】
dブロック金属は、ポルフィリンや下記式(VI)により表される二座配位子等の炭素又は窒素のドナーと共に有機金属錯体を形成する。
【化6】

式中、Ar及びArは同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立に任意に置換されたアリール及びヘテロアリールから選ばれ、X及びYは同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素及び窒素から選ばれる。Ar及びArは互いに縮合していてもよい。Xが炭素であり、且つYが窒素である配位子が特に好ましい。
【0077】
二座配位子の例を以下に示す。
【化7】

Ar及びArはそれぞれ1つ以上の置換基を有してよい。特に好ましい置換基としては、WO02/45466、WO02/44189、US2002−117662、及びUS2002−182441に開示されているような、錯体の発光を青色側にシフトさせるために使用できるフッ素及びトリフルオロメチル;JP2002−324679に開示されているようなアルキル基及びアルコキシ基;WO02/81448に開示されているような、発光材料として用いた際に錯体への正孔輸送を補助することができるカルバゾール;WO02/68435及びEP1245659に開示されているような、更なる基を付加させるために配位子を官能化する際に有用な臭素、塩素、及びヨウ素;並びにWO02/66552に開示されているような、金属錯体に溶解処理特性を付与する又は該特性を得るために有用なデンドロンが挙げられる。
【0078】
dブロック元素との使用に適した他の配位子としては、ジケトネート類、特にアセチルアセトネート(acac)、トリアリールホスフィン類、及びピリジンが挙げられる。これらは置換されていてもよい。
【0079】
主族金属錯体は配位子又は電荷輸送に基づく発光を示す。このような錯体では、金属の選択のほか、配位子の選択によって発光色が決まる。
【0080】
ホスト材料及び金属錯体を物理的ブレンドの形態で組み合わせて使用してよい。或いは、金属錯体をホスト材料に化学的に結合させてもよい。ポリマー状のホストの場合、EP1245659、WO02/31896、WO03/18653、及びWO03/22908等に開示されているように、金属錯体を置換基としてポリマー骨格鎖に化学結合させてよく、繰り返し単位としてポリマー骨格鎖に組み込んでもよく、或いはポリマーの末端基として付与してもよい。
【0081】
様々な蛍光性低分子量金属錯体が知られており、実際に有機発光素子に使用されている(例えば、Macromol. Sym. 125 (1997) 1-48、US−A5150006、US−A6083634、及びUS−A5432014参照)。特にトリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウムが挙げられる。2価又は3価の金属に対する適当な配位子としては、例えば酸素−窒素又は酸素−酸素を供与するオキシノイド(oxinoid)(通常は環窒素原子と置換基酸素原子、或いは置換基窒素原子又は置換基酸素原子と置換基酸素原子を有し、例えば8−ヒドロキシキノレート、ヒドロキシキノキサリノール−10−ヒドロキシベンゾ(h)キノリナト(II)等)、ベンザゾール(III)、シッフ塩基、アゾインドール、クロモン誘導体、3−ヒドロキシフラボン、カルボン酸類(サリチラトアミノカルボキシレート、エステルカルボキシレート等)等が挙げられる。発光色を変化させ得る(ヘテロ)芳香族環上の任意の置換基としては、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、ハロアルキル、シアノ、アミノ、アミド、スルホニル、カルボニル、アリール、ヘテロアリール等が挙げられる。
【0082】
重合法
ポリマーの調製方法としては、WO00/53656等に記載の鈴木重合、及びT. Yamamoto, "Electrically Conducting And Thermally Stable π-Conjugated Poly(arylene)s Prepared by Organometallic Processes", Progress in Polymer Science 1993, 17, 1153-1205等に記載の山本重合が好ましい。これら重合法は共に「金属挿入」によって重合を行うものであり、金属錯体触媒の金属原子がモノマーのアリール基と脱離基の間に挿入される。山本重合ではニッケル錯体触媒を使用し、鈴木重合ではパラジウム錯体触媒を使用する。
【0083】
例えば山本重合によって直鎖状ポリマーを合成する際には、2つの反応性ハロゲン基を有するモノマーを用いる。同様に、鈴木重合による方法においては、少なくとも1つの反応性基がボロン酸やボロン酸エステル等のホウ素誘導体基であり、他の反応性基がハロゲンである。ハロゲンは好ましくは塩素、臭素、又はヨウ素であり、最も好ましくは臭素である。
【0084】
従って、本願で述べるアリール基を含む繰り返し単位及び末端基は、適当な脱離基を有するモノマーから誘導されるものであってよいと解される。
【0085】
鈴木重合を用いて位置規則的コポリマー、ブロックコポリマー、又はランダムコポリマーを調製してよい。特に、一方の反応性基がハロゲンであり、他方の反応性基がホウ素誘導体基であるとき、ホモポリマー又はランダムコポリマーを調製できる。また、第1モノマーの反応性基が共にホウ素であり、第2モノマーの反応性基が共にハロゲンであるときは、ブロックコポリマー又は位置規則的コポリマー(特にABコポリマー)を調製できる。
【0086】
ハロゲン化物の代替物として金属挿入に利用可能な他の脱離基を用いてもよく、その例としては、トシレート、メシレート、及びトリフレートが挙げられる。
【0087】
溶解処理
単一のポリマー又は複数のポリマーを溶液から積層させて層5を形成してよい。ポリアリーレン(特にポリフルオレン)に適した溶媒としては、トルエンやキシレン等のモノ−又はポリ−アルキルベンゼン類が挙げられる。特に好ましい溶液堆積法はスピンコーティング及びインクジェット印刷である。
【0088】
スピンコーティングは、電界発光材料のパターニングが不要な素子(例えば照明や単純なモノクロ分割ディスプレイ)に特に適している。
【0089】
インクジェット印刷は、高情報量ディスプレイ、特にフルカラーディスプレイに特に適している。OLEDのインクジェット印刷については、例えばEP0880303に記載されている。
【0090】
架橋
例えば、熱処理やUV、IR、又はマイクロ波放射線への暴露等のような適当な方法を用いて架橋を行うことができる。熱処理は低コストで簡易に架橋を達成できる方法だが、素子内の不安定な層の破損を避けるために熱処理を行わないほうが望ましい場合もある。更に、照射方法を用いると、より速く架橋でき、そのため総製造時間を短縮できる場合もある。本発明のポリマーを通常の溶媒に溶解し、積層し、次いで架橋させて相互貫入網目構造又は半相互貫入網目構造を形成することができる。相互貫入網目構造を形成する場合、一方のポリマーが有する架橋性基は、他方のポリマーが有する架橋性基と比較して、選択的に架橋可能であるべきである。例えば、発光性ポリマー上の架橋性基は、電荷輸送性ポリマー上の架橋性基とは異なる温度で架橋可能なものであってよい。或いは、一方のポリマー上の架橋性基が熱架橋性で、他方のポリマー上の架橋性基がUV架橋性であってよい。また、各ポリマー上の架橋性基が化学的に異なり、類似の架橋性基を有するポリマーに選択的に架橋するものであってもよい。
【0091】
段階的接合部を形成するために、溶媒を用いてポリマーを積層させ、その上に同一の溶媒を用いて他のポリマーを積層させてよい。所定の時間だけ接合部で混合させ、その後ポリマーの一方又は両方を架橋して接合部のモルホロジーを“固定(freeze)”し、安定な段階的接合部を形成することができる。
【0092】
例えば、正孔輸送性ポリマーを積層させ、その上に、ホストポリマーの中に燐光発光部を有する発光材料を積層させることができる。所定の時間だけ接合部で混合させ、その後正孔輸送性ポリマーとホストポリマーの一方又は両方を架橋して接合部のモルホロジーを固定し、安定な段階的接合部を形成することができる。
【0093】
或いは、一方のポリマーが下層に対して高い親和性を有する場合は、共通の溶媒を用いて各ポリマーを積層させて段階的接合部を形成してもよい。ポリマーを所定時間放置すると、下層に対する親和性が高いポリマーが下層に向かって優先的に拡散し、濃度勾配を形成する。その後、これらポリマーの一方を架橋してモルホロジーを固定して、安定な段階的接合部が得られる。例えば、アミン繰り返し単位を含むポリマーは下の酸性層(PSSのような酸をドープしたPEDOTからなる正孔注入層等)に対して親和性を示す場合がある。理論に拘束する意図はないが、これは酸性の正孔輸送層と塩基性のアミンとの間の酸塩基相互作用によるものと考えられる。また、正孔輸送性ポリマーが下の極性正孔注入層(PEDOT/PSS等)に引き付けられるように、正孔輸送性ポリマーに極性の末端基及び/又は置換基を付与してもよい。相分離に影響を及ぼす他の要因として、ポリマーの分子量が考えられる。特に低分子量ポリマーは、対応する高分子量材料と比較してより移動しやすく、そのため他のポリマーから離れやすい場合がある。
【0094】
カソード
カソード4は、発光層に電子を注入し得る仕事関数を有する材料から選択される。カソード材料を選択する際には、カソードと発光材料が不都合な相互作用を起こす可能性といった他の要因も考慮する。カソードはアルミニウム層のような単一材料からなるものであってよい。或いは、カソードは複数の金属を含有してもよく、例えばWO98/10621に開示されているようなカルシウムとアルミニウムの二層、WO98/57381、Appl. Phys. Lett. 2002, 81(4), 634、及びWO02/84759に開示されているバリウム元素、又は電子注入を補助する金属化合物の薄層等を含んでよい。この金属化合物としては、WO00/48258に開示されているフッ化リチウムやAppl. Phys. Lett. 2001, 79(5), 2001に開示されているフッ化バリウムのようなフッ化物、酸化バリウムのような酸化物等が挙げられる。素子に電子を効率的に注入する観点で、カソードの仕事関数は、好ましくは3.5eV未満、より好ましくは3.2eV未満、最も好ましくは3eV未満である。
【0095】
封入
光学的素子は水分や酸素の影響を受けやすい傾向がある。従って、水分や酸素が素子内部に侵入するのを防ぐために、基板は良好な遮断特性を有することが好ましい。基板は通常はガラスからなるが、特に柔軟な素子を所望する場合等は、代替基板を用いてよい。例えば、基板はUS6268695に記載されているようにプラスチックを含有してよい。該文献はプラスチックと障壁層を交互に用いた基板を開示している。また、EP0949850に開示されているように、基板は薄ガラスとプラスチックの積層物であってもよい。
【0096】
水分及び酸素の侵入を防ぐために、カプセル材料(図示せず)を用いて素子を封入するのが好ましい。適当なカプセル材料としては、ガラス板や適当な遮断特性を有するフィルム(例えば、WO01/81649等に開示されているようなポリマーと誘電体の交互積層物、あるいはWO01/19142等に開示されているような密閉容器等)が挙げられる。基板やカプセル材料を透過して侵入する大気中の水分及び/又は酸素を吸収するために、基板とカプセル材料の間にゲッタ材料を配置してもよい。
【0097】
その他
実用素子においては、光が吸収(光応答性素子の場合)又は放出(OLEDの場合)されるように、電極のうち少なくとも一方を半透明とする。アノードが透明である場合、典型的にはインジウムスズ酸化物を含有する。透明カソードの例はGB2348316等に開示されている。
【0098】
図1の実施形態に示す素子は、まずアノードを基板上に形成し、その上に電界発光層/発光層及びカソードを積層して得られる。しかしながら、本発明の素子は、まずカソードを基板上に形成し、その上に電界発光層及びアノードを積層しても得られる。
【0099】
ディスプレイ
同一色の電界発光材料を含む画素配列を用いてモノクロディスプレイを形成できる。また、赤色、緑色、及び青色のサブ画素を用いてフルカラーディスプレイが得られる。「赤色電界発光材料」は電界発光により600〜750nm、好ましくは600〜700nm、より好ましくは610〜650nmの波長の光を放射する有機材料であり、最も好ましくは約650〜660nmに発光ピークを有する。「緑色電界発光材料」は電界発光により510〜580nm、好ましくは510〜570nmの波長の光を放射する有機材料である。「青色電界発光材料」は電界発光により400〜500nm、より好ましくは430〜500nmの波長の光を放射する有機材料である。
【0100】
ディスプレイはアクティブマトリクス型又はパッシブマトリクス型であってよい。このような類のディスプレイの詳細は当業者に公知であり、ここでは詳しく説明しない。
【実施例】
【0101】
相互貫入網目構造の場合、単純な例は官能性が異なる2種のポリマーであろう。ポリマーAは、例えばフルオレン系モノマー単位、トリアリールアミン単位(TFB等)、及びビニル官能化モノマー単位等を含む電荷輸送性ポリマーであってよい。ポリマーBは、例えば同様にフルオレンを含む発光性ポリマー又は異なる電荷輸送性ポリマーであってよい。モノマー単位のうち幾つかをBCB単位で官能化してもよい。
【0102】
構造例を以下に示す。
【化8】

【0103】
トルエン中で有機塩基を用い、Pd触媒による鈴木カップリングを行うことによって、ポリマーを合成できる。
【化9】

【0104】
第1の正孔輸送性ポリマー層には以下のモノマーを使用できる。
【化10】

RはC17のようなアルキルであってよい。このポリマーは、典型的にはX=0.5、Y=0.425、Z=0.075の組成を有する。
【0105】
第2の発光性ポリマーは、同様の方法を用いて以下のモノマーから調製できる。
【化11】

本発明で可能な組成はX=0.5、Y=0.4、Z=0.1であろう。
【0106】
これら2種の材料を共通の溶媒に溶解し、それから基板上に積層させてよい(スピンコート又はインクジェット印刷)。このように形成した有機層を適切な温度に加熱して、ビニル基の架橋を開始することができる(70℃より高い温度で開始、150℃で概ね完了)。続いて、有機層を他の官能基の架橋温度(この場合はBCB単位、〜200℃)まで更に加熱してよい。BCB単位は反応性の差が少ないことが多いが、このような方法により相互貫入網目構造を形成できる。
【符号の説明】
【0107】
1 基板
2 アノード
3 有機発光領域
4 カソード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極;第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極;及び前記第1電極と前記第2電極の間に配置される有機材料層を有する光電気素子であって、前記有機材料層は電荷輸送性及び/又は発光性の第1ポリマーと電荷輸送性及び/又は発光性の第2ポリマーの混合物を含有し、少なくとも前記第1ポリマーが架橋して第1架橋マトリクスを形成しており、前記第2ポリマーが前記第1架橋マトリクス内に存在することを特徴とする光電気素子。
【請求項2】
前記第2ポリマーも架橋して第2架橋マトリクスを形成しており、前記第1架橋マトリクスと前記第2架橋マトリクスが相互貫入網目構造を形成していることを特徴とする請求項1に記載の光電気素子。
【請求項3】
前記第2ポリマーが架橋せず前記第1架橋マトリクス内に存在し、半相互貫入網目構造を形成していることを特徴とする請求項1に記載の光電気素子。
【請求項4】
前記有機材料層中、前記有機材料層が延在する平面に垂直な方向で、前記第1ポリマーと前記第2ポリマーの濃度が変化していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光電気素子。
【請求項5】
前記有機材料層が、前記第1ポリマーからなる第1領域、前記第2ポリマーからなる第2領域、及び前記第1領域と前記第2領域の間に配置される接合領域を有し、前記接合領域が前記混合物を含有することを特徴とする請求項4に記載の光電気素子。
【請求項6】
前記第1ポリマーが正孔輸送性ポリマーであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光電気素子。
【請求項7】
前記第2ポリマーが発光性及び/又は電子輸送性のポリマーであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光電気素子。
【請求項8】
前記第2ポリマーが電子輸送性ポリマーであり、更に内部に発光部を含むことを特徴とする請求項7に記載の光電気素子。
【請求項9】
前記発光部が燐光発光部であることを特徴とする請求項8に記載の光電気素子。
【請求項10】
前記発光部が別個の成分として前記電子輸送性ポリマーと混合されているか、或いは前記電子輸送性ポリマーに化学的に結合していることを特徴とする請求項8又は9に記載の光電気素子。
【請求項11】
前記第1ポリマー及び前記第2ポリマーが異なる波長の光を発することが可能な発光性ポリマーであり、これら光が組み合わされて白色発光素子を形成していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光電気素子。
【請求項12】
前記有機材料層が更に前記第1ポリマー及び前記第2ポリマーとは異なる波長の光を発することが可能な第3ポリマーを含有し、この光が前記第1ポリマー及び前記第2ポリマーからの発光と組み合わされて白色発光素子を形成していることを特徴とする請求項11に記載の光電気素子。
【請求項13】
前記有機材料層と前記第1電極の間に、正孔注入材料からなる層が配置されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の光電気素子。
【請求項14】
前記第1ポリマー及び前記第2ポリマーが共役半導体ポリマーであることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の光電気素子。
【請求項15】
第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極を有する基板上に、溶媒中の第1ポリマーと第2ポリマーの混合物を積層する工程;
前記第1ポリマーを架橋して前記第2ポリマーを内包する第1架橋マトリクスを形成する工程;及び
第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極を積層する工程
を含むことを特徴とする光電気素子の製造方法。
【請求項16】
更に、前記第2ポリマーを架橋して第2架橋マトリクスを形成し、前記第1架橋マトリクスと前記第2架橋マトリクスで相互貫入網目構造を形成する工程を含むことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
第1温度に加熱することによって前記第1ポリマーを架橋し、前記第1温度よりも高い第2温度に加熱することによって前記第2ポリマーを架橋することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
積層後、架橋に先立って、前記第1ポリマーと前記第2ポリマーが部分的に相分離することを特徴とする請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極を有する基板上に、第1溶媒中の第1ポリマーを積層する工程;
前記第1ポリマー材料上に、第2溶媒中の第2ポリマーを積層する工程;
一定時間待機して前記第1ポリマー材料と前記第2ポリマー材料を少なくとも部分的に混合させる工程;
前記第1ポリマー及び/又は前記第2ポリマーを架橋して相互貫入網目構造又は半相互貫入網目構造を形成する工程;及び
第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極を積層する工程
を含むことを特徴とする光電気素子の製造方法。
【請求項20】
第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極を有する基板上に、電荷輸送性及び/又は発光性の第1ポリマーを積層する工程;
前記第1ポリマーを部分的に架橋する工程;
部分的に架橋した前記第1ポリマー上に、電荷輸送性及び/又は発光性の材料を積層する工程;
前記第1ポリマーを更に架橋する工程;及び
第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極を積層する工程
を含むことを特徴とする光電気素子の製造方法。
【請求項21】
第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極;第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極;及び前記第1電極と前記第2電極との間に配置される有機材料層を有する光電気素子であって、前記有機材料層は第1電荷輸送材料と第2電荷輸送材料の混合物を含有し、前記第1電荷輸送材料及び前記第2電荷輸送材料のうち少なくとも一方が架橋ポリマーを含むことを特徴とする光電気素子。

【図1】
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【公表番号】特表2010−506417(P2010−506417A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531905(P2009−531905)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003832
【国際公開番号】WO2008/044003
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(503419985)シーディーティー オックスフォード リミテッド (21)
【出願人】(506061668)サメイション株式会社 (51)
【Fターム(参考)】