説明

光電気素子

【課題】優れた電子輸送特性と十分広い反応界面を有する電子輸送層を備え、低抵抗損失を有し、光と電気の変換効率に優れた光電気素子を提供する。
【解決手段】光電気素子は、第一の電極3と、第二の電極4と、前記第一の電極3と前記第二の電極4との間に挟まれている電子輸送層1及び正孔輸送層5と、電解質溶液と、増感色素とを備える。前記電子輸送層1が、繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部を有する有機化合物を備えている。前記電解質溶液が前記酸化還元部の還元状態を安定化させる機能を有している。前記有機化合物と前記電解質溶液とがゲル層2を形成している。前記増感色素は前記電子輸送層1に接して設けられている。前記正孔輸送層5は、前記増感色素の酸化体を還元する機能を有する有機化合物によって形成された電荷輸送媒体を含有している。前記電荷輸送媒体は、酸化還元電位が銀/塩化銀参照電極に対して0.3V以上1.0V以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を電気に変換する光電気素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光電池や太陽電池等の光電変換による発電素子、温度や光などを感知するセンサ素子等に、光電気素子(光電変換素子)が用いられている。
【0003】
光電気素子における電子輸送層には、高い電子輸送特性が必要とされる。更に電子輸送層においては、外部から与えられるエネルギーにより電子が生成すると共に、外部から電子が注入されて作用する反応界面の面積の大きさが重要である。このような電子輸送層は、従来、金属、有機半導体、無機半導体、導電性高分子、導電性カーボンなどから形成されていた。
【0004】
例えば光電変換素子においては、電子を輸送するための電子輸送層が、フラーレン、ペリレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ペンタセンなどの電子をキャリアとする有機物から形成されている。これにより、電子輸送層の電子輸送能力が向上して光電変換素子の変換効率が向上しつつある(フラーレンについては非特許文献1参照、ペリレン誘導体については非特許文献2参照、ポリフェニレンビニレン誘導体については非特許文献3参照、ペンタセンについては非特許文献4参照)。
【0005】
更に、分子素子型太陽電池として電子供与性分子(ドナー)と電子受容性分子(アクセプター)を化学結合させて構成される構造体を基板上に薄膜形成する報告もなされている(非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】P.Peumans, Appl.Phys. Lett., 79号, 2001年, 126頁
【非特許文献2】C.W.Tang, Appl.Phys. Lett., 48号, 1986年, 183頁
【非特許文献3】S.E.Shaheen, Appl.Phys. Lett.,78号,2001年, 841頁
【非特許文献4】J.H.Schon, Nature (London), 403号, 2000年, 408頁
【非特許文献5】今堀博,福住俊一, 「分子太陽電池の展望」, 化学工業2001年7月号, 41頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記各非特許文献で報告されている電子輸送層では、十分な電子輸送特性と、電子輸送層として作用するための十分な界面の面積とが両立されていない。このため、より優れた電子輸送特性と十分に広い界面とを有する、電子輸送のための電子輸送層が望まれているのが現状である。
【0008】
例えば、フラーレンなどから形成される有機系の電子輸送層の場合、電子の電荷再結合が起こり易く、有効拡散距離が十分ではないために、更なる変換効率の向上が困難である。有効拡散距離とは電荷分離がなされた後に電極に到達するまでの距離であり、有効拡散距離が大きいほど素子の変換効率は大きくなる。酸化チタンなどの無機系の電子輸送層の場合、電荷分離の界面面積が十分でなく、開放電圧に影響する電子伝導電位が構成元素で一義的に決まってしまうなどの理由から、変換効率が十分ではない。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、優れた電子輸送特性と十分広い反応界面を有する電子輸送層を備え、低抵抗損失を有し、光と電気の変換効率に優れた光電気素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光電気素子は、第一の電極と、第二の電極と、前記第一の電極と前記第二の電極との間に挟まれている電子輸送層及び正孔輸送層と、電解質溶液と、増感色素とを備えることを特徴とする。
【0011】
そして、前記電子輸送層が、繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部を有する有機化合物を備え、前記電解質溶液が前記酸化還元部の還元状態を安定化させる機能を有し、前記有機化合物と前記電解質溶液とがゲル層を形成し、前記増感色素は前記電子輸送層に接して設けられ、前記正孔輸送層は、前記増感色素の酸化体を還元する機能を有する有機化合物によって形成された電荷輸送媒体を含有し、前記電荷輸送媒体は、酸化還元電位が銀/塩化銀参照電極に対して0.3V以上1.0V以下であることを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記電荷輸送媒体は、フェロセン誘導体で形成されている。または、好ましくは、前記電荷輸送媒体は、トリフェニルアミン誘導体で形成されている。または、好ましくは、前記電荷輸送媒体は、フェノチアジン誘導体で形成されている。または、好ましくは、前記電荷輸送媒体は、TEMPO誘導体で形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた電子輸送特性と十分広い反応界面を有する電子輸送層を備え、低抵抗損失を有し、光と電気の変換効率に優れた光電気素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る光電気素子の実施の形態の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、光電気素子では、一対の電極3,4(第一の電極3及び第二の電極4)間に電子輸送層1と正孔輸送層5が挟まれている。電子輸送層1は、繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部を有する有機化合物を備える。この有機化合物が、酸化還元部の還元状態を安定化させる電解質溶液を含んで膨潤することで、ゲル層2が形成されている。
【0016】
また、増感色素は前記電子輸送層1に接して設けられている。増感色素は、光増感剤としての機能を有する色素であり、光増感反応により酸化体に変化するものである。
【0017】
そして、前記正孔輸送層5は、増感色素の酸化体を還元する機能を有する電荷輸送媒体を含有している。電荷輸送媒体は、有機化合物によって形成されており、その酸化還元電位が銀/塩化銀参照電極に対して0.3V以上1.0V以下である。
【0018】
このように、電子輸送層1の有機化合物と電解質溶液がゲル層2を構成することで反応界面が大きくなり、しかも、電子輸送層1に接した増感色素は、その酸化体が正孔輸送層5内の電荷輸送媒体により速やかに還元されるので、増感色素の酸化還元サイクルが高速化可能となる。このため、光電気素子による光−電気間の変換効率が向上する。
【0019】
増感色素は、電子輸送層1に接すると共に、この増感色素がゲル層2を構成する有機化合物との間の物理的または化学的作用により固定化されていてもよい。この場合、増感色素と有機化合物との距離が接近することにより、増感色素と有機化合物との間の電子輸送効率が向上する。増感色素が電子輸送層1に接するとは、増感色素が電子輸送層1と正孔輸送層5との界面領域に存在する状態を含むものである。
【0020】
図1は光電気素子の実施形態の一例である。この光電気素子では、一対の基材6,7(第一の基材6及び第二の基材7)が対向して配置されている。第一の基材6の内側の表面上に第一の電極3が、第二の基材7の内側の表面上に第二の電極4が配置され、第一の電極3と第二の電極4が相対向している。第一の電極3の第一の基材6と反対側の表面上には電子輸送層1が設けられている。電子輸送層1は第一の電極3に接していてもよい。第二の電極4の第二の基材7と反対側の表面上には正孔輸送層5が設けられている。正孔輸送層5は第二の電極4に接していてもよい。電子輸送層1は、酸化還元部を有する有機化合物から形成される。電子輸送層1における有機化合物と電解質溶液とがゲル層2を形成している。
【0021】
第一の電極3は、例えばガラスや透光性を有するフィルムなどから形成される絶縁性の第一の基材7の上に導電性材料が積層することで形成される。第一の電極3は、金属の単独膜から形成されてもよい。導電性材料の好ましい例としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;炭素;インジウム−錫複合酸化物、アンチモンをドープした酸化錫、フッ素をドープした酸化錫等の導電性の金属酸化物;前記金属や化合物の複合物;前記金属や化合物上に酸化シリコン、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムなどをコートして得られる材料などが、挙げられる。電極4の表面抵抗は低い程よいが、好ましくは表面抵抗が200Ω/□以下、より好ましくは50Ω/□以下である。この表面抵抗の下限は、特に制限はないが、通常0.1Ω/□である。
【0022】
第一の電極3が第一の基材6の上に形成される場合において、第一の基材6を光が通過する必要があれば、第一の基材6の光透過率が高いことが望ましい。この場合の第一の基材6の好ましい光透過率は、波長500nmにおいて50%以上であり、より好ましくは80%以上である。第一の電極3の厚みは、0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。この範囲内であれば、第一の電極3が均一な厚みに容易に形成され、更に第一の電極3の光透過性の低下が抑制される。これにより、第一の電極3を介して、十分な光が光電気素子に入射され得るようになる。
【0023】
第一の基材6の上に設けられる透明導電性酸化物の層から第一の電極3が形成される場合、例えばガラスや樹脂などからなる透光性の第一の基材6の上にスパッタ法や蒸着法など真空プロセスにより第一の電極3が形成されてもよいし、スピンコート法、スプレー法、スクリーン印刷など湿式法により、酸化インジウムや酸化スズ、酸化亜鉛などで構成される透明導電性酸化物の層が成膜がされることで第一の電極3が形成されてもよい。
【0024】
第二の電極4は、光電気素子の正極として機能する。第二の電極4は、例えば第二の基材7の上に導電性材料が積層することにより形成される。第二の電極4が金属の単独膜から形成されてもよい。第二の電極4を形成するための材料としては、この第二の電極4を備える光電気素子の種類によるが、例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属、グラファイト、カーボンナノチューブ、白金を担持したカーボン等の炭素材料、インジウム−錫複合酸化物、アンチモンをドープした酸化錫、フッ素をドープした酸化錫等の導電性の金属酸化物、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などが挙げられる。第二の基材7上に第二の電極4を形成するための方法としては、第一の基材6上に第一の電極3を形成する場合と同様の方法が用いられ得る。
【0025】
第二の基材7は、第一の基材6と同じ材料から形成され得る。第二の電極4が第二の基材7上に形成される場合、第二の基材7は透光性を有していても有していなくてもよい。光電気素子の正孔輸送層5側および電子輸送層1側の両側から光が入射することが可能になる点では、第二の基材7が透明であることが好ましい。第二の基材7の光の透過率は第一の基材6の光の透過率と同様に設定することができる。
【0026】
電子輸送層1は有機化合物から構成される。この有機化合物の分子は、繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部を有すると共に、電解質溶液を含んで膨潤することでゲルとなる部位(以下ゲル部位と呼ぶ)も有する。酸化還元部はゲル部位に化学的に結合している。分子内での酸化還元部とゲル部位の位置関係は、特に限定されないが、例えばゲル部位が分子の主鎖などの骨格を構成する場合に、酸化還元部が側鎖として主鎖に結合している。ゲル部位を形成する分子骨格と酸化還元部を形成する分子骨格とが交互に結合していてもよい。このように酸化還元部とゲル部位が同一分子内に存在していると、ゲル層2が酸化還元部を、この酸化還元部が電子を輸送しやすい位置にとどまるように保持することができる。
【0027】
酸化還元部とゲル部位を有する有機化合物は、低分子体でもよいし、高分子体でもよい。有機化合物が低分子体である場合、水素結合などを介していわゆる低分子ゲルを形成する有機化合物が使用され得る。有機化合物が高分子体の場合、数平均分子量1000以上の有機化合物が、自発的にゲル化の機能を発現することができるために好ましい。有機化合物が高分子体の場合、その分子量の上限は特に制限されないが、100万以下であることが好ましい。ゲル層2のゲルの状態は、例えば、こんにゃく状や、イオン交換膜のような外観形状であることが好ましいが、これらの状態に制限されない。
【0028】
酸化還元部は、酸化還元反応において可逆的に酸化体および還元体となる部位を意味する。この酸化還元部は、酸化体と還元体からなる一対の酸化還元系を構成する部位であればよく、特に限定されるものではないが、酸化体と還元体が同一電荷を持つことが好ましい。
【0029】
ゲル層2に関する、反応界面の大きさに影響を与える物理指標として、膨潤度がある。ここに言う膨潤度は、次の式で表される。
【0030】
膨潤度=(ゲルの重量)/(ゲル乾燥体の重量)×100
ゲル乾燥体とは、ゲル層2を乾燥させたものを指す。ゲル層2を乾燥させるとは、ゲル層2に内包される溶液の除去すること、特には溶媒を除去することを指す。ゲル層2を乾燥させる方法としては、加熱による方法、真空環境中で溶液または溶媒を除去する方法、別の溶媒を利用してゲル層2に内包される溶液又は溶媒を除去する方法などが挙げられる。
【0031】
なお、別の溶媒を利用してゲル層2に内包される溶液または溶媒を除去する際は、ゲル層2に内包される溶液または溶媒と親和性が高く、さらに、加熱、真空環境中で除去され溶媒が選択されると、ゲル層2に内包される溶液または溶媒が効率的な除去される。
【0032】
ゲル層2の膨潤度は、110〜3000%であることが好ましく、150〜500%がより好ましい。膨潤度が110%未満である場合、ゲル層2中での電解質成分が少なくなるために酸化還元部が充分に安定化されなくなるおそれがある。膨潤度が3000%を超える場合、ゲル層2中の酸化還元部が少なくなって電子輸送能力が低下するおそれがある。いずれの場合も光電気素子の特性が低下することになる。
【0033】
上記のような酸化還元部とゲル部位とを一つの分子中に有する有機化合物は、次の一般式で表すことができる。
【0034】
(Xnj:Y
(Xはゲル部位を示し、Xはゲル部位を構成する化合物のモノマーを示す。ゲル部位はポリマー骨格から形成され得る。モノマーの重合度nは、n=1〜10万の範囲が好ましい。Yは(Xに結合している酸化還元部を示す。j,kはそれぞれ1分子中に含まれる(X、Yの数を表す任意の整数であり、いずれも1〜10万の範囲が好ましい。酸化還元部Yはゲル部位(Xを形成するポリマー骨格のいかなる部位に結合していてもよい。酸化還元部Yは種類の異なる部位を含んでいてもよく、この場合は電子交換反応の観点から酸化還元電位が近い部位が好ましい。
【0035】
このような酸化還元部Yとゲル部位(Xを一分子中に有する有機化合物としては、キノン類が化学結合して構成されるキノン誘導体骨格を有するポリマー、イミドを含有するイミド誘導体骨格を有するポリマー、フェノキシルを含有するフェノキシル誘導体骨格を有するポリマー、ビオロゲンを含有するビオロゲン誘導体骨格を有するポリマーなどが挙げられる。これらの有機化合物では、それぞれポリマー骨格がゲル部位となり、キノン誘導体骨格、イミド誘導体骨格、フェノキシル誘導体骨格、ビオロゲン誘導体骨格がそれぞれ酸化還元部となる。
【0036】
上記の有機化合物のうち、キノン類が化学結合して構成されるキノン誘導体骨格を有するポリマーの例として、下記[化1]〜[化4]の化学構造を有するものが挙げられる。[化1]〜[化4]において、Rはメチレン、エチレン、プロパン−1,3−ジエニル、エチリデン、プロパン−2,2−ジイル、アルカンジイル、ベンジリデン、プロピレン、ビニリデン、プロペン−1,3−ジイル、ブト−1−エン−1,4−ジイルなどの飽和又は不飽和炭化水素類;シクロヘキサンジイル、シクロヘキセンジイル、シクロヘキサジエンジイル、フェニレン、ナフタレン、ビフェニレンなど環状炭化水素類;オキサリル、マロニル、サクシニル、グルタニル、アジポイル、アルカンジオイル、セバコイル、フマロイル、マレオイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイルなどケト、二価アシル基;オキシ、オキシメチレノキシ、オキシカルボニルなどエーテル、エステル類;サルファンジイル、サルファニル、サルホニルなど硫黄を含む基;イミノ、ニトリロ、ヒドラゾ、アゾ、アジノ、ジアゾアミノ、ウリレン、アミドなど窒素を含む基;シランジイル、ジシラン−1,2−ジイルなど珪素を含む基;またはこれらの基の末端を置換した基或いは複合した基を示す。
【0037】
[化1]はポリマー主鎖にアントラキノンが化学結合して構成される有機化合物の例である。[化2]はアントラキノンが繰り返しユニットとしてポリマー主鎖に組み込まれて構成される有機化合物の例である。[化3]はアントラキノンが架橋ユニットとなっている有機化合物の例である。[化4]は酸素原子と分子内水素結合を形成するプロトン供与性基を有するアントラキノンの例である。
【0038】
【化1】

【0039】
【化2】

【0040】
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
上記のキノンポリマーは、プロトン移動に律速されない高速レドックス反応が可能であり、レドックスサイト(酸化還元部)であるキノン基の間に電子的な相互作用が存在せず、長期使用に耐えうる化学安定性を備える。しかも、このキノンポリマーは電解質溶液中に溶出しないので、第一の電極3に保持されることで電子輸送層1を形成することができる点で有用である。
【0043】
イミドを含有するイミド誘導体骨格を有するポリマーとして、[化5]及び[化6]に示されるポリイミドが挙げられる。[化5]及び[化6]において、R〜Rはフェニレン基などの芳香族基、アルキレン基、アルキルエーテルなど脂肪族鎖、又はエーテル基である。ポリイミドポリマー骨格はR〜Rの部分で架橋していてもよいが、ポリイミドポリマー骨格が溶媒中で膨潤するのみで溶出しなければ架橋構造を有さなくてもよい。架橋している場合はその架橋が生じている部分がゲル部位(Xに相当する。ポリイミドポリマー骨格に架橋構造が導入される場合、架橋ユニットにイミド基が含有されていてもよい。イミド基としては、電気化学的に可逆な酸化還元特性を示せばフタルイミドやピロメリットイミドなどが好適に用いられる。
【0044】
【化5】

【0045】
【化6】

【0046】
フェノキシルを含有するフェノキシル誘導体骨格を有するポリマーとして、例えば[化7]に示すようなガルビ化合物(ガルビポリマー)が挙げられる。このガルビ化合物においては、ガルビノキシル基([化8]参照)が酸化還元部位Yに相当し、ポリマー骨格がゲル部位(Xに相当する。
【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
ビオロゲンを含有するビオロゲン誘導体骨格を有するポリマーとして、例えば、[化9]や[化10]に示すようなポリビオロゲンポリマーが挙げられる。このポリビオロゲンポリマーにおいて、[化11]に示す部位が酸化還元部Yに相当し、ポリマー骨格がゲル部位(Xに相当する。
【0050】
【化9】

【0051】
【化10】

【0052】
【化11】

【0053】
上記の[化1]〜[化3]、[化5]〜[化7]、[化9]及び[化10]において、m、nは、モノマーの重合度を示し、その値は1〜10万の範囲が好ましい。
【0054】
このように、光電気素子の電子輸送層1は、有機化合物として、イミド誘導体、キノン誘導体、ビオロゲン誘導体、フェノキシル誘導体の少なくとも1つを含んで構成されていることが好ましいものである。これらは、分子内での電子のやり取りが高速に行なわれる化合物であり、これらを用いることで電子輸送能力の高い電子輸送層を形成することができる。
【0055】
前述したように、上記の酸化還元部とポリマー骨格からなるゲル部位とを有する有機化合物のポリマー骨格間に電解質溶液が含有されて膨潤することで、ゲル層2が形成される。このように有機化合物から形成される電子輸送層1に電解質溶液が含まれることで、酸化還元部の酸化還元反応により形成されるイオン状態が電解質溶液中の対イオンで補償され、酸化還元部が安定化される。
【0056】
電解質溶液は、電解質と溶媒を含むものであればよい。電解質は支持塩と、酸化体と還元体からなる一対の酸化還元系構成物質の、いずれか一方あるいは両方である。支持塩(支持電解質)としては、例えば過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩やピリジニウム塩などのアンモニウム塩、過塩素酸リチウムや四フッ化ホウ素酸カリウムなどアルカリ金属塩などが挙げられる。酸化還元系構成物質とは、酸化還元反応において可逆的に酸化体および還元体の形で存在する一対の物質を意味する。このような酸化還元系構成物質としては、例えば、塩素化合物−塩素、ヨウ素化合物−ヨウ素、臭素化合物−臭素、タリウムイオン(III)−タリウムイオン(I)、水銀イオン(II)−水銀イオン(I)、ルテニウムイオン(III)−ルテニウムイオン(II)、銅イオン(II)−銅イオン(I)、鉄イオン(III)−鉄イオン(II)、ニッケルイオン(II)−ニッケルイオン(III)、バナジウムイオン(III)−バナジウムイオン(II)、マンガン酸イオン−過マンガン酸イオンなどが挙げられるが、これらに限定はされない。これらの酸化還元系構成物質は電子輸送層1内の酸化還元部とは区別されて機能する。電解質溶液は、前述したようにゲル化または固体化されていてもよい。
【0057】
電解質溶液を構成する溶媒は、水、有機溶媒、イオン液体のいずれか少なくとも一つを含む。
【0058】
電解質溶液の溶媒として水や有機溶媒が用いられることによって、有機化合物の酸化還元部の還元状態が安定化し、このためより安定して電子が輸送される。水及び有機溶媒のいずれも使用され得るが、酸化還元部がより安定化するためには、イオン伝導性に優れた有機溶媒が好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル化合物、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソシラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン等のエーテル化合物、3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物、スルフォラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性化合物などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いることもできるし、2種類以上を混合して併用することもできる。中でも、光電気素子を光電変換素子に用いて太陽電池出力特性を向上させる観点からは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネ−ト化合物、γ―ブチロラクトン、3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、吉草酸ニトリル等のニトリル化合物が好ましい。
【0059】
電解質溶液の溶媒としてイオン液体が用いられると、酸化還元部が安定化し、しかもイオン液体は揮発性がなく、難燃性が高いために安定性に優れる。イオン液体としては、公知のイオン性液体全般を用いることができるが、例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートなどイミダゾリウム系、ピリジン系、脂環式アミン系、脂肪族アミン系、アゾニウムアミン系のイオン性液体や、欧州特許第718288号明細書、国際公開WO95/18456号パンフレット、電気化学第65巻11号923頁(1997年)、J. Electrochem. Soc.143巻,10号,3099頁(1996年)、Inorg. Chem. 35巻,1168頁(1996年)に記載されたものを挙げることができる。
【0060】
上記のような、酸化還元部を有する有機化合物と電解質溶液とで形成されるゲル層2が、電極4の表面上に設けられることによって、電子輸送層1が形成される。このようにして形成される電子輸送層1では、電子がドーパントとして振舞い、例えばこの電子輸送層1は、酸化還元電位が銀/塩化銀参照電極4に対して+100mVよりも卑であるような酸化還元部を有する。
【0061】
電子輸送層1の厚みは、良好な電子輸送性を維持する観点から、10nm〜10mmの範囲が好ましい。特に好ましくは100nm〜100μmであり、この厚みであれば電子輸送層1の良好な電子輸送特性と界面の面積の大面積化とがより高いレベルで両立し得る。
【0062】
電極4の表面上に電子輸送層1を形成するにあたっては、溶液などを塗布することで電子輸送層1を形成する湿式の形成方法が、より簡便で低コストな製法であることから好ましい。特に電子輸送層1が数平均分子量1000以上のいわゆる高分子の有機化合物から形成される場合は、成形性の観点から湿式の形成方法が好ましい。湿式のプロセスとしては、スピンコート法、液滴を滴下してから乾燥するドロップキャスト法、スクリーン印刷やグラビア印刷などの印刷法などが挙げられる。そのほか、スパッタ法や蒸着法などの真空プロセスを採用することもできる。
【0063】
増感色素は、可視光や近赤外光を効率よく吸収する光増感剤として機能する。増感色素は、電子輸送層1に接して設けられており、この場合、電子輸送層1と正孔輸送層5との界面に設けられてもよい。電子輸送層1における酸化還元部を有する有機化合物が電解質溶液で膨潤することでゲル層2が形成されており、また正孔輸送層5は同様な電解質溶液で形成されているので、ゲル層2内に含有される電解質溶液も正孔輸送層5の一部をなす。従って、電子輸送層1を形成する有機化合物の表面に増感色素が付着し、あるいは吸着し、あるいは結合することで増感色素がゲル層2内に存在することで、増感色素が電子輸送層1と正孔輸送層5の界面に設けられる。このように増感色素が設けられると、色素増感性光電変換素子が作製される。
【0064】
増感色素としては、公知の材料を用いることができ、例えば、9−フェニルキサンテン系色素、クマリン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、テトラフェニルメタン系色素、キノン系色素、アゾ系色素、インジゴ系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素などが挙げられる。増感色素として、RuL(HO)タイプのルテニウム−シス−ジアクア−ビピリジル錯体(ここで、Lは、4,4’−ジカルボキシル−2,2’−ビピリジンを示す。)、ルテニウム−トリス(RuL)、ルテニウム−ビス(RuL)、オスニウム−トリス(OsL)、オスニウム−ビス(OsL)などのタイプの遷移金属錯体、亜鉛−テトラ(4−カルボキシフェニル)ポルフィリン、鉄−ヘキサシアニド錯体、フタロシアニンなども、挙げられる。増感色素として、例えば、「FPD・DSSC・光メモリーと機能性色素の最新技術と材料開発」(株式会社エヌ・ティー・エス)のDSSCの章にあるような色素も適用され得る。中でも会合性を有する色素は、光電変換時の電荷分離を促進する観点から好ましい。会合体を形成して効果のある色素としては、例えば[化12]の構造で示される色素が好ましい。
【0065】
【化12】

【0066】
上記構造式において、X、Xはアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環を少なくとも一種類以上有する有機基であり、それぞれ置換基を有していてもよい。上記の[化12]のような色素は会合性であることが知られている。この場合、電子輸送層1と正孔輸送層5に存在する電子と正孔の再結合が劇的に減り、それにより得られる光電変換素子の変換効率が向上する。
【0067】
電子輸送層1に接する増感色素は、ゲル層2を構成する有機化合物との間の物理的または化学的作用などにより、ゲル層2の表面又は内部において固定化されていてもよい。更に、増感色素は、ゲル層2内に存在してもよく、このとき特にゲル層2内の全体に亘って存在していてもよい。
【0068】
「増感色素がゲル層2内に存在している」とは、増感色素がゲル層2の表層のみに存在するのではなく、その内部にも存在していることを意味する。これにより、ゲル層2内に存在する増感色素の量が一定値以上の状態に持続的に保たれ、これにより光電気素子の出力向上効果がもたらされる。
【0069】
「増感色素がゲル層2内に存在している状態」には、「増感色素がゲル層2を構成する電解質溶液中に存在している状態」と、「増感色素がゲル層2を構成する有機化合物と物理的または化学的に相互作用することによりゲル層2中に保持されている状態」とが含まれる。
【0070】
「増感色素がゲル層2を構成する有機化合物と物理的に相互作用することによりゲル層2中に保持されている状態」とは、例えば、ゲル層2を構成する有機化合物として、増感色素のゲル層2中の分子の移動を妨げる構造をもつ有機化合物が用いられることにより、ゲル層2中において増感色素の分子の移動が妨げられているような状態である。増感色素の分子の移動を妨げる構造としては、有機化合物のアルキル鎖などの各種分子鎖が立体障害を発現する構造、有機化合物の分子鎖間に存在する空隙サイズが増感色素の分子の移動を抑制することができる程度に小さくなっている構造などが、挙げられる。
【0071】
物理的相互作用を発現する要因を増感色素側にもたらすことも有効である。具体的には、増感色素にアルキル鎖などの各種分子鎖による立体障害を発現する構造を付与すること、二つ以上の増感色素の分子を結び付けることなども有効である。増感色素の分子間が結合するためには、メチレン、エチレン、プロパン−1,3−ジエニル、エチリデン、プロパン−2,2−ジイル、アルカンジイル、ベンジリデン、プロピレンなどの飽和炭化水素類、ビニリデン、プロペン−1,3−ジイル、ブト−1−エン−1,4−ジイルなどの不飽和炭化水素類、シクロヘキサンジイル、シクロヘキセンジイル、シクロヘキサジエンジイル、フェニレン、ナフタレン、ビフェニレンなど環状炭化水素類、オキサリル、マロニル、サクシニル、グルタニル、アジポイル、アルカンジオイル、セバコイル、フマロイル、マレオイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイルなどケト、二価アシル基、オキシ、オキシメチレノキシ、オキシカルボニルなどエーテル、エステル類、サルファンジイル、サルファニル、サルホニルなど硫黄を含む基、イミノ、ニトリロ、ヒドラゾ、アゾ、アジノ、ジアゾアミノ、ウリレン、アミドなど窒素を含む基、シランジイル、ジシラン−1,2−ジイルなど珪素を含む基、またはこれらの末端を置換した基または複合した基を活用することが有効である。前記の部位は、置換していても直鎖状でも分岐鎖状でもよいアルキル基、例えばメチル、エチル、i−プロピル、ブチル、t−ブチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2−メトキシエチル、ベンジル、トリフルオロメチル、シアノメチル、エトキシカルボニルメチル、プロポキシエチル、3−(1−オクチルピリジニウム−4−イル)プロピル、3−(1−ブチル−3−メチルピリジニウム−4−イル)プロピルなどや、置換していても直鎖状でも分岐鎖状でもよいアルケニル基、例えばビニル、アリルなどを介して、増感色素と結合していることが望ましい。
【0072】
また、「増感色素がゲル層2を構成する有機化合物と化学的に相互作用することによりゲル層2中に保持されている状態」とは、例えば、増感色素と有機化合物の間の共有結合、配位結合、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合などや、疎水性相互作用、親水性相互作用、静電的相互作用に基づく力などの化学的相互作用により、ゲル層2内に増感色素が保持されているような状態である。このように、増感色素とゲル層2を構成する有機化合物との間の化学的相互作用により増感色素がゲル層2中に固定されると、増感色素と有機化合物との距離が接近し、このためより効率よく電子が移動する。
【0073】
有機化合物と増感色素との間の化学的相互作用によりゲル層2内に増感色素が固定される場合には、有機化合物および増感色素に官能基が適宜導入され、この官能基を介した化学反応などにより、有機化合物に対して増感色素が固定されることが好ましい。このような官能基としては、水酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、ニトロ基、アルキル基、炭酸基、アルデヒド基、チオール基などが挙げられる。官能基を介した化学反応の反応形式としては、縮合反応、付加反応、開環反応等が挙げられる。
【0074】
増感色素とゲル層2を構成する有機化合物との化学的結合に際しては、増感色素における官能基が、この増感色素が光励起した状態において電子密度が高くなる部位付近に導入され、且つゲル層2中の有機化合物における官能基が、この有機化合物中の電子輸送に関与する部位付近に導入されることが好ましい。この場合、増感色素から有機化合物への電子移動の効率および有機化合物中での電子輸送の効率の向上が図れる。特に、増感色素とゲル層2を構成する有機化合物との間が、増感色素の電子雲と有機化合物の電子雲とを結び付ける電子輸送性の高い結合基で結合されると、より効率よく増感色素から有機化合物へと電子が移動し得るようになる。具体的には、増感色素のπ電子雲と有機化合物のπ電子雲とを結び付ける化学結合として、π電子系をもつエステル結合などを利用する例が挙げられる。
【0075】
増感色素と有機化合物とが結合するタイミングは、有機化合物がモノマー状態にあるとき、有機化合物がポリマー化するとき、有機化合物がポリマー化した後に有機化合物がゲル化するとき、有機化合物がゲル化した後の、いずれでもよい。具体的な手法の例としては、有機化合物で形成されている電子輸送層1を増感色素を含有する浴に浸漬する方法、有機化合物と増感色素を含有する塗布液を電極4に塗布成膜することで電子輸送層1を形成する方法などが挙げられ、複数の方法が組み合わされてもよい。
【0076】
上記のように増感色素がゲル層2を構成する有機化合物との間の物理的または化学的作用により固定化されている場合、増感色素と有機化合物との距離が接近することにより、増感色素と有機化合物との間の電子輸送効率が向上する。
【0077】
ゲル層2内の増感色素の含有量は適宜設定されるが、特に増感色素の含有量が有機化合物100質量部に対して0.1質量部以上であれば、ゲル層2の単位膜厚あたりの増感色素の量が十分に高くなり、これにより増感色素の光吸収能力が向上して、高い電流値が得られる。特に増感色素の含有量が有機化合物100質量部に対して1000質量部以下であれば、有機化合物の間に過剰量の増感色素が介在することが抑制され、有機化合物内の電子移動が増感色素によって阻害されることが抑制されて、高い導電性が確保される。
【0078】
正孔輸送層5は、増感色素の酸化体を還元する機能を有する電荷輸送媒体を含んで形成されている。正孔輸送層5を形成するための材料としては、有機化合物が含まれていればよく、酸化還元対などの電解質を溶媒中に溶解させた電解質溶液、溶融塩のような固体電解質、トリフェニルアミン等のアミン誘導体、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子などが挙げられる。
【0079】
正孔輸送層5を電解質溶液で形成する場合には、ゲル層2を構成する電解質溶液で正孔輸送層5を形成することもできる。この場合、ゲル層2を構成する電解質溶液が、正孔輸送層5の一部を構成することになる。
【0080】
電解質溶液は、高分子マトリックスに保持されていてもよい。高分子マトリックスとして使用されるポリフッ化ビニリデン系高分子化合物としては、フッ化ビニリデンの単独重合体、あるいはフッ化ビニリデンと他の重合性モノマー(好適にはラジカル重合性モノマー)との共重合体が、挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合させる他の重合性モノマー(以下、共重合性モノマーという。)としては、具体的には、ヘキサフロロプロピレン、テトラフロロエチレン、トリフロロエチレン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレンなどが例示される。
【0081】
正孔輸送層5に含まれる電荷輸送媒体としては、有機電荷輸送媒体を用いることができる。有機電荷輸送媒体の酸化還元電位は、0.3V以上1.0V以下である。これは、従来の無機電荷輸送媒体であるヨウ素の酸化還元電位(銀/塩化銀参照電極に対して0.3V)と同じかそれより貴であり、かつ色素のHOMO準位(銀/塩化銀参照電極に対して1.0V)と同じかそれより卑である範囲である。この場合、第一に、より貴な酸化還元電位を有することで、電荷輸送媒体と電子輸送材の酸化還元電位の差で規定される開放電圧は向上し得る。また、第二に、色素のHOMO準位と電荷輸送媒体の酸化還元電位の電位差が小さくなり、色素と電荷輸送媒体間の電荷分離効率が向上し、短絡電流密度は向上し得る。これらの二点により、光電気素子の変換効率を向上することができる。ただし、電化輸送媒体の酸化還元電位が色素のHOMO準位よりも貴になるとエネルギー準位の観点から電荷分離が起こらないため、有機電化輸送媒体の酸化還元電位は色素のHOMO準位よりも卑であることが好ましい。なお、HOMOとは、Highest Occupied Molecular Orbital(最高被占軌道)のことである。また、銀/塩化銀参照電極とは、銀−塩化銀電極とも呼ばれ、電極として銀と塩化銀を用いる基準電極(電極電位の測定時に電位の基準点を与える電極)のことであり、一般的な構造は、銀の表面を塩化銀で覆ったものである。
【0082】
開放電圧が向上する理由としては次の点が考えられる。
【0083】
ここで言う開放電圧は、次の式で表される。
【0084】
開放電圧(V) = 電荷輸送媒体の酸化還元電位(V) − 電子輸送材の酸化還元電位(V)
なお、上式における(V)は、単位:ボルトである。
【0085】
従来の無機電荷輸送媒体であるヨウ素では、無機物であるがゆえにその酸化還元電位は一義的であり固定された値であったのに対し、有機電荷輸送媒体は置換基効果や酸化還元中心を変えることで酸化還元電位を制御できるということが考えられる。そして、上式から、より貴な酸化還元電位を有する有機電荷輸送媒体を適用することで、開放電圧は向上するものと考えられる。
【0086】
また、本実施形態の光電気素子おいては、電子輸送層を形成する有機化合物は酸化還元部の還元状態を安定化させる電解質溶液を含んでいるため、還元状態の電子寿命は極めて長いものである。このような電子寿命の長い電子輸送材は、逆電子移動が抑制され開放電圧の損失は低減される。つまり、光電気素子における開放電圧は、電荷輸送媒体または電子輸送材の酸化還元電位が大きく影響を与えるものと考えられる。そのため、光電気素子においては、より貴な酸化還元電位の電荷輸送媒体を用いることは特に有効であると考えられる。
【0087】
短絡電流密度が向上する理由としては次の点が挙げられる。
【0088】
短絡電流密度を決定する要因として電荷分離効率が挙げられるので、電位などの電気的な性質や分子サイズなどの構造的な性質に応じた界面設計が重要である。有機電荷輸送媒体は、従来のヨウ素よりも貴な酸化還元電位を有するため、色素のHOMO準位との準位差が小さくなり電荷分離効率が向上し、短絡電流密度の向上が可能であると考えられる。ただし、電荷輸送媒体の酸化還元電位が色素のHOMO準位よりも貴になるとエネルギー準位の観点から電荷分離が起こらないため、有機電荷輸送媒体の酸化還元電位は色素のHOMO準位よりも卑であることが好ましい。
【0089】
このようにして、開放電圧または短絡電流密度が向上し、変換効率を高めることができるのである。
【0090】
正孔輸送層5に含まれる電荷輸送媒体としては、フェロセン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、フェノチアジン誘導体、及び、TEMPO誘導体から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0091】
フェロセン誘導体は、[化13]で示されるフェロセンの誘導体である。
【0092】
【化13】

【0093】
誘導体としては、水素原子が炭化水素基に置換されたものが挙げられる。
【0094】
トリフェニルアミン誘導体は、[化14]で示される。
【0095】
【化14】

【0096】
ここで、置換基R、R、Rは、相互に独立に、水素原子、置換もしくは非置換基の脂肪族または芳香族のC1〜C30の炭化水素基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アリールオキシ基、及び、アシル基から選択される置換基である。
【0097】
トリフェニルアミン誘導体としては、例えば、トリス(4−メトキシフェニル)アミンが挙げられる。また、高分子化によりn=10〜500程度の高分子構造体もとりうる。
【0098】
フェノチアジン誘導体は、[化15]で示されるフェノチアジンの誘導体である。
【0099】
【化15】

【0100】
誘導体としては、水素原子が炭化水素基に置換されたものが挙げられる。
【0101】
TEMPO誘導体は、[化16]で示される。
【0102】
【化16】

【0103】
ここで、置換基R〜Rは、相互に独立に、水素原子、置換もしくは非置換基の脂肪族または芳香族のC1〜C30の炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アリールオキシ基及びアシル基から選択される。
【0104】
TEMPO誘導体としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)が挙げられる。
【0105】
フェロセン誘導体は、鉄と芳香族化合物の錯体であり、π電子雲の広がりが大きいため、可逆でかつ迅速な電子授受が期待できる。迅速な電子授受により色素カチオンは速やかに還元されるため、色素カチオンへの逆電子移動は抑制され開放電圧の向上が期待される。
【0106】
トリフェニルアミン誘導体は、フェニル基を有しており、種々の置換基を導入した誘導体の合成が容易である。例えば、フェニル基のp−位に電子吸引性の置換基を導入すると酸化還元電位は貴にシフトし、電子供与性の置換基を導入すると酸化還元電位は卑にシフトすることが可能である。開放電圧はメディエータの酸化還元電位に起因するため、酸化還元電位の異なるトリフェニルアミン誘導体を用いることで開放電圧の向上が期待できる。
【0107】
フェノチアジン誘導体は、汎用の有機溶媒への溶解性が高い。光電気素子の高出力化には、光照射により励起電子が生成された時に、そこで生成した色素カチオンを還元するために十分量のメディエータの存在が望ましい。そのため電解液中のメディエータ濃度は濃い方が好ましい。
【0108】
TEMPO誘導体は、生成した正孔を安定ラジカル化合物の非常に速い電子移動反応によって、効率よく対極まで輸送させることができ、変換効率を向上することができるものである。
【0109】
安定ラジカル化合物としては、不対電子を有する化学種、すなわちラジカルを有する化合物であれば特に限定されることなく使用することができるが、なかでも分子中にニトロキシド(NO・)を有するラジカル化合物が好ましい。またラジカル化合物は分子量(数平均分子量)が1000以上のものが好ましい。分子量が1000以上であれば、常温では固体または固体に近づいて揮発が起こり難くなるので、素子の安定性の観点から好ましいものである。
【0110】
また、その他にも、電荷輸送体として、例えば、テトラチアフルバレン誘導体、ニトロニルニトロキシド誘導体等のp型酸化還元特性を有する材料などが挙げられる。
【0111】
光電気素子が作製される際は、例えば第一の基材6上に設けられた第一の電極3の上に有機化合物が湿式方等で積層されることで電子輸送層1が第一の電極3上に固定されて形成されて、この電子輸送層1の上に正孔輸送層5、第二の電極4が積層される。正孔輸送層5が電解質溶液から形成される場合には、例えば電子輸送層1と第二の電極4との間が封止材で封止されている状態で、この電子輸送層1と第二の電極4との間の隙間に電解質溶液が充填されることで、正孔輸送層5が形成され得る。このとき、電解質溶液の一部が電子輸送層1に浸透することで、電子輸送層1を構成する有機化合物が膨潤し、これによりゲル層2が形成され得る。
【0112】
以上の説明のように構成される光電気素子は、電子輸送層1の有機化合物と電解質溶液がゲル層2を形成することにより、反応界面が大きくなり、しかも、電子輸送層1に接した増感色素は、その酸化体が正孔輸送層5内の電荷輸送媒体により速やかに還元されるので、増感色素の酸化還元サイクルが高速化可能となる。このため、光電気素子の光と電気の変換効率が向上する。
【0113】
例えば、光電気素子へ第一の基材6側から第一の電極3を通して光が照射されると、増感色素が光を吸収して励起し、生成した励起電子が電子輸送層1に流れ込んで、第一の電極3を経て外部に取り出されると共に、増感色素における正孔が正孔輸送層5から第二の電極4を経て外部に取り出される。
【0114】
このとき、電子輸送層1の有機化合物と電解質溶液がゲル層2を形成することにより、反応界面が十分広くなると共に、増感色素の酸化体は正孔輸送層5内に存在する電荷輸送媒体により速やかに還元され、増感色素は再び励起可能な状態となる。そして、増感色素は再び光を吸収して励起し、電子及び正孔が再び外部に取り出される。このような増感色素の酸化還元サイクルが高速に繰り返し連続して行われる。これにより増感色素による光吸収特性が向上し、光電気素子の光と電気の変換効率が向上する。
【実施例】
【0115】
[実施例1]
下記スキーム1に示す反応の手順で、ガルビ(Galvi)化合物を合成した。
【0116】
[スキーム1]
【0117】
【化17】

【0118】
(ガルビモノマーの合成)
まず、4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール(135.8g;0.476mol)にアセトニトリル(270ml)を加え、さらに不活性雰囲気下、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA)(106.3g;129.6ml)を加え、70℃で終夜撹拌し、完全に結晶が析出するまで反応した。そして析出した白色結晶を濾過し、真空乾燥した後、エタノールで再結晶して精製することによって、[スキーム1]において符号1で示す、(4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)トリメチルシラン(150.0g;0.420mol)を白色板状結晶として得た。
【0119】
次に、上記のようにして得た、(4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)トリメチルシラン(9.83g;0.0275mol)を、不活性雰囲気下、テトラヒドロフラン(200ml)に溶解し、ドライアイス/メタノールを用いて−78℃に冷却した。これに1.58Mのn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(15.8ml;0.025mol)を加え、78℃の温度で30分撹拌した。リチオ化後、テトラヒドロフラン(75ml)に溶解した4−ブロモ安息香酸メチル(1.08g;0.005mol、Mw:215.0、TCI)を添加し、−78℃〜室温で終夜撹拌した。反応溶液は黄色から薄黄色、アニオンの発生を示す濃青色へと変化した。反応後、飽和塩化アンモニウム水溶液を反応溶液が完全に黄色になるまで加え、エーテル/水で分液抽出することにより黄色粘稠液体を得た。
【0120】
次にこの生成物、THF(10ml)、メタノール(7.5ml)、撹拌子を入れ、溶解後、10N−HClを反応溶液が赤橙色に変化するまで徐々に加え、30分間、室温にて撹拌した。次に溶媒除去、エーテル/水による分液抽出、溶媒除去、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム=1/1)による分画、ヘキサンによる再結晶の各操作を経て精製し、[スキーム1]において符号2で示す、(p−ブロモフェニル)ヒドロガルビノキシル(2.86g;0.0049mol)を橙色結晶として得た。
【0121】
次いで、上記のようにして得た(p−ブロモフェニル)ヒドロガルビノキシル(2.50g;4.33mmol)を、不活性雰囲気下、トルエン(21.6ml;0.2M)に溶解し、これに2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(4.76mg;0.0216mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.150g;0.130mmol)、トリ−n−ブチルビニルすず(1.65g;5.20mmol,Mw:317.1,TCI)をすばやく加え、100℃で17時間加熱撹拌した。
【0122】
そして反応生成物をエーテル/水で分液抽出し、溶媒除去した後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム=1/3)にて分画し、さらにヘキサンで再結晶して精製することによって、[スキーム1]において符号3で示す、p−ヒドロガルビノキシルスチレン(1.54g;2.93mmol)を橙色微結晶として得た。
【0123】
(ガルビモノマーの重合)
上記ガルビモノマーの合成で得られたガルビモノマー(p−ヒドロガルビノキシルスチレン)1gと、テトラエチレングリコールジアクリレート57.7mgと、アゾビスイソブチロニトリル15.1mgを、テトラヒドロフラン2mlに溶解した後、窒素置換し、一晩還流することで、ガルビモノマーを重合させ、[スキーム1]において符号4で示すガルビポリマーを得た。このガルビポリマーの数平均分子量は10000であった。
【0124】
(電子輸送層の作製)
第一の電極3が設けられた基材6として、厚み0.7mm、シート抵抗100Ω/□の導電性ガラス基板を用意した。この導電性ガラス基板は、ガラス基板と、このガラス基板の片面に積層された、フッ素ドープされたSnOからなるコーティング膜とから構成されるものであり、ガラス基板が基材6、コーティング膜が第一の電極3となる。
【0125】
また、上記のガルビポリマーをクロロベンゼンに2質量%の割合で溶解し、ガルビポリマー溶液を調製した。そして、このガルビポリマー溶液を、導電性ガラス基板の電極が形成された面に2000rpmでスピンコートし、60℃、0.01MPaの条件下で1時間乾燥することによって、厚み60nmのガルビポリマー層を形成した。
【0126】
このようにガルビポリマー層を形成した後、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを濃度0.1Mで、4−tert−ブチルピリジンを濃度0.025Mで含有するアセトニトリルの電解液中で、電位掃印幅を−0.5Vから+0.5Vの範囲でサイクリックボルタンメトリー測定によりラジカルへ誘導した。これにより、電子輸送層3が形成された。
【0127】
次に、このように形成した電子輸送層3を、[化18]で示される増感色素(D131)を0.3mMの濃度で含むアセトニトリル溶液中に1時間浸漬した後、水洗した。これにより、電子輸送層3に増感色素が設けられた。
【0128】
【化18】

【0129】
(光電気素子の作製)
上記の電子輸送層3の形成の際に用いた導電性ガラス基板と同じ構成を有する導電性ガラス基板を用意した。また、イソプロピルアルコールに塩化白金酸をその濃度が5mMとなるように溶解した。そして、このようにして得られた溶液を、導電性ガラス基板のコーティング膜の側の面にスピンコートした後、400℃で30分間焼成することで、第二の電極4を形成した。
【0130】
次に、電子輸送層3が設けられた導電性ガラス基板と、第二の電極4が設けられた導電性ガラス基板とを、電子輸送層3と第二の電極4とが対向するように配置し、両者の間の外縁に幅1mm、厚み50μmの熱溶融性接着剤(デュポン社製、バイネル)を介在させた。そして、この熱溶融性接着剤を加熱しながら上記の二枚の導電性ガラス基板を厚み方向に加圧することで、二枚の導電性ガラス基板を熱溶融性接着剤を介して接合した。このとき、熱溶融性接着剤には、電解液の注入口となる空隙を形成した。
【0131】
続いて、電子輸送層3と第二の電極4との間に、上記の注入口から電解液を充填した。電解液としては、[化19]で示されるフェロセンを0.1Mの濃度で、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)を0.5Mの濃度で、4−tert−ブチルピリジンを0.025Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。なお、4−tert−ブチルピリジンは、光電変換素子を作製する際に、電子輸送層3(ガルビポリマー)の酸化還元反応の安定剤として添加されるものである。
【0132】
【化19】

【0133】
次に、この注入口にUV硬化性樹脂を塗布した後、UV光を照射してUV硬化性樹脂を硬化させることで、注入口を孔埋めした。これにより、電解液からなる正孔輸送層5を形成すると共にこの電解液を電子輸送層1へ浸透させて電子輸送層1を構成する有機化合物(ガルビポリマー)を膨潤させ、ゲル層2を形成した。
【0134】
以上のようにして、図1のような層構成の光電気素子を作製した。
【0135】
[実施例2]
電解液として、[化20]で示されるトリス(4−メトキシフェニル)アミンを0.1Mの濃度で、LiTFSIを0.5Mの濃度で、4−tert−ブチルピリジンを0.025Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、光電気素子を作製した。
【0136】
【化20】

【0137】
[実施例3]
電解液として、[化21]で示されるフェノチアジンを0.1Mの濃度で、LiTFSIを0.5Mの濃度で、4−tert−ブチルピリジンを0.025Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、光電気素子を作製した。
【0138】
【化21】

【0139】
[実施例4]
電解液として、[化22]で示される2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを0.1Mの濃度で、LiTFSIを0.5Mの濃度で、4−tert−ブチルピリジンを0.025Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、光電気素子を作製した。
【0140】
【化22】

【0141】
[比較例1]
電解液として、ヨウ化ナトリウムを0.1Mの濃度で、LiTFSIを0.5Mの濃度で、4−tert−ブチルピリジンを0.025Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、光電気素子を作製した。
【0142】
[比較例2]
電解液として、[化23]で示されるトリス(4−ブロモフェニル)アミンを0.1Mの濃度で、LiTFSIを0.5Mの濃度で、4−tert−ブチルピリジンを0.025Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、光電気素子を作製した。
【0143】
【化23】

【0144】
[電荷輸送媒体の酸化還元電位]
実施例1〜4及び比較例1、2の電荷輸送媒体の酸化還元電位について、以下の測定方法にて測定した。
【0145】
(フェロセンの酸化還元電位測定)
実施例1に対応する電解液として、フェロセンを1mMの濃度で、LiTFSIを0.1Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。そして、対極として白金電極を用い、参照電極に銀/塩化銀電極を用いて半電池を作製し、サイクリックボルタンメトリー測定を行なった。酸化還元電位は、0.45Vであった。
【0146】
(トリス(4−メトキシフェニル)アミンの酸化還元電位測定)
実施例2に対応する電解液として、トリス(4−メトキシフェニル)アミンを1mMの濃度で、LiTFSIを0.1Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。そして、対極として白金電極を用い、参照電極に銀/塩化銀電極を用いて半電池を作製し、サイクリックボルタンメトリー測定を行なった。酸化還元電位は、0.62Vであった。
【0147】
(フェノチアジンの酸化還元電位測定)
実施例3に対応する電解液として、フェノチアジンを1mMの濃度で、LiTFSIを0.1Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。そして、対極として白金電極を用い、参照電極に銀/塩化銀電極を用いて半電池を作製し、サイクリックボルタンメトリー測定を行なった。酸化還元電位は、0.65Vであった。
【0148】
(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルの酸化還元電位測定)
実施例4に対応する電解液として、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを1mMの濃度で、LiTFSIを0.1Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。そして、対極として白金電極を用い、参照電極に銀/塩化銀電極を用いて半電池を作製し、サイクリックボルタンメトリー測定を行なった。酸化還元電位は、0.68Vであった。
【0149】
(ヨウ化ナトリウムの酸化還元電位測定)
比較例1に対応する電解液として、ヨウ化ナトリウムを1mMの濃度で、LiTFSIを0.1Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。そして、対極として白金電極を用い、参照電極に銀/塩化銀電極を用いて半電池を作製し、サイクリックボルタンメトリー測定を行なった。酸化還元電位は、0.28Vであった。
【0150】
(トリス(4−ブロモフェニル)アミンの酸化還元電位測定)
比較例2に対応する電解液として、トリス(4−ブロモフェニル)アミンを1mMの濃度で、LiTFSIを0.1Mの濃度で含有するアセトニトリル溶液を用いた。そして、対極として白金電極を用い、参照電極に銀/塩化銀電極を用いて半電池を作製し、サイクリックボルタンメトリー測定を行なった。酸化還元電位は、1.13Vであった。
【0151】
なお、上記の酸化還元電位測定では、4−tert−ブチルピリジンを含まない条件で測定しているが、これは、4−tert−ブチルピリジンは酸化還元電位に影響を与えないと考えられるからである。
【0152】
[評価]
各光電気素子について、光電変換部の平面視面積1cmの領域に200ルックスの光を照射しながら、「Keithley 2400source meter」(ケースレイ社製の2400型汎用ソースメータ)を用いたIV測定により、発電特性を測定した。このとき、光源には蛍光灯(パナソニック株式会社製ラピッド蛍光灯「FLR20S・W/M」)を使用し、25℃環境下で測定を行なった。
【0153】
結果を表1に示す。
【0154】
表1に示されるように、各実施例のものは、比較例のものより最高特性や短絡電流密度が高く、変換効率が向上していることが確認された。
【0155】
【表1】

【符号の説明】
【0156】
1 電子輸送層
2 ゲル層
3 第一の電極
4 第二の電極
5 正孔輸送層
6 第一の基材
7 第二の基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、第二の電極と、前記第一の電極と前記第二の電極との間に挟まれている電子輸送層及び正孔輸送層と、電解質溶液と、増感色素とを備え、
前記電子輸送層が、繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部を有する有機化合物を備え、
前記電解質溶液が前記酸化還元部の還元状態を安定化させる機能を有し、
前記有機化合物と前記電解質溶液とがゲル層を形成し、
前記増感色素は前記電子輸送層に接して設けられ、
前記正孔輸送層は、前記増感色素の酸化体を還元する機能を有する有機化合物によって形成された電荷輸送媒体を含有し、
前記電荷輸送媒体は、酸化還元電位が銀/塩化銀参照電極に対して0.3V以上1.0V以下であることを特徴とする光電気素子。
【請求項2】
前記電荷輸送媒体は、フェロセン誘導体で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の光電気素子。
【請求項3】
前記電荷輸送媒体は、トリフェニルアミン誘導体で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の光電気素子。
【請求項4】
前記電荷輸送媒体は、フェノチアジン誘導体で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の光電気素子。
【請求項5】
前記電荷輸送媒体は、TEMPO誘導体で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の光電気素子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−190665(P2012−190665A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53586(P2011−53586)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】