説明

免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤及びその使用

【課題】免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤を提供する。
【解決手段】搾乳動物の乳由来の免疫グロブリン及び/又はそのFcフラグメントを有効成分として含有せしめて免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤とし、これを経口的に摂取する。この免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤は、アレルギー症又は関節リウマチ症を予防し、その症状を改善するために好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンはIgG,IgM,IgA,IgD及びIgEに分類され、それぞれに対応する基本分子構造としてγ,μ,α,δ,ε鎖と呼ばれるH鎖を有することが知られている。免疫グロブリンのパパイン消化物であるH鎖のC末端側の部分は、Fcフラグメントと呼ばれ、このFcフラグメントが結合する細胞表面上の受容体はFcレセプターと呼ばれている。免疫グロブリンFcフラグメントレセプターは免疫担当細胞に発現して、免疫担当細胞の機能を発揮させるために重要な役割を果たすことが知られている。
【0003】
また、免疫グロブリンFcフラグメントレセプターに構造上の相同性を有する免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパクも、免疫担当細胞の機能と重要な関係があると考えられている。
【0004】
従来、例えば下記特許文献1には、Fcレセプター産生促進剤の発明が開示されている。下記特許文献2には、Fcレセプターに対するモノクローナル抗体の発明が開示されている。
【特許文献1】特開平6−340586号公報
【特許文献2】特開平9−316100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパクの産生を抑制することができる技術は少なかった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパクの産生を抑制することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、搾乳動物の乳由来の免疫グロブリン及び/又はそのFcフラグメントの経口的摂取により、免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパクの産生を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は以下の通りである。
(1) 搾乳動物の乳由来の免疫グロブリン及び/又はそのFcフラグメントを有効成分として含有することを特徴とする免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
(2) 前記搾乳動物は、ウシ、ヤギ、ヒツジ、及びウマから選ばれた1種である前記(1)に記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
(3) 前記免疫グロブリンは、IgGである前記(1)又は(2)に記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
(4) 搾乳動物の乳から調製された脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、及び乳たんぱく質濃縮物から選ばれた少なくとも一種に含有する免疫グロブリン及び/又はそのFcフラグメントを有効成分として含有する前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
(5) 前記有効成分として前記免疫グロブリンを含有し、更に該免疫グロブリンに特異的に認識される抗体標的物質を含有する前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
(6) 前記搾乳動物の乳は、搾乳動物を免疫原性物質で過免疫した後、搾乳して得た乳であり、かつ、前記免疫原性物質を特異的に認識する免疫グロブリンを含有する前記(5)に記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
(7) 前記抗体標的物質が、前記過免疫するために用いた免疫原性物質と同一物質である前記(6)に記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
(8) 前記抗体標的物質が、大腸菌、酵母、乳酸菌、納豆菌、及び花粉から選ばれた1種である前記(5)〜(7)のいずれか一つに記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
(9) 前記免疫原性物質が、大腸菌、酵母、乳酸菌、納豆菌、及び花粉から選ばれた1種である前記(8)に記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
(10) 前記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤を配合してなる飲食品。
(11) 練乳、アイスクリーム、ヨーグルト、酸乳等の乳製品から選ばれた1種である前記(10)に記載の飲食品。
(12) 前記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤を経口摂取することを特徴とする免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制方法。
【0009】
本発明においては、前記免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤を経口摂取することで、免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパクの産生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパクの産生を抑制することができる技術が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤は、搾乳動物の乳由来の免疫グロブリン及び/又はそのFcフラグメントを有効成分として含有することを特徴とする。
【0012】
本発明において、「搾乳動物の乳」とは、搾乳のために飼育できる動物から得られる乳でありウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等の乳を好ましく例示できる。
【0013】
本発明において、「免疫グロブリン」とは、IgG,IgM,IgA,IgD及びIgEである。
【0014】
本発明において、「免疫グロブリンのFcフラグメント」とは、IgG,IgM,IgA,IgD、又はIgEのパパイン消化物である免疫グロブリンH鎖のC末端側の部分に相当するFcフラグメント領域部分のタンパク断片であり、構造上それと同等の性質を有するものを含む。
【0015】
本発明においては、免疫グロブリンとしてIgGを用いることが好ましい。
【0016】
本発明においては、搾乳動物の乳から調製された脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、及び乳たんぱく質濃縮物から選ばれた少なくとも一種に含有する免疫グロブリン及び/又はそのFcフラグメントを、上記の有効成分とすることが好ましい。
【0017】
本発明の一つの態様においては、有効成分として前記免疫グロブリンを含有し、更に該免疫グロブリンに特異的に認識される抗体標的物質を含有する。
【0018】
本発明の上記一態様において、「免疫グロブリンに特異的に認識される抗体標的物質」とは、その構造に起因して免疫グロブリンに対して免疫学的に有意な選択的結合能を有する物質を意味する。
【0019】
本発明において、「免疫グロブリンに特異的に認識される」とは、免疫学分野において用いられる用語の意味における抗原―抗体複合体を形成できる程度に選択性及び親和性を有することを意味する。そして、本発明において、「免疫グロブリンに特異的に認識される抗体標的物質」とは、その構造に起因して免疫グロブリンに対して免疫学的に有意な抗原―抗体複合体を形成できる物質を意味する。
【0020】
本発明において用いられる抗体標的物質は、ヒトに継続的に経口摂取しても有害とならない物質であれば特に制限されることはなく、後述する過免疫をするために用いられる免疫原性物質と同一物質であってもよい。また、該免疫原性物質と物質として同一ではないが、共通の認識部位を有することにより、当該免疫グロブリンに特異的に認識される物質であってもよい。
【0021】
具体的には、例えば、大腸菌、酵母、乳酸菌、納豆菌、花粉等を用いることができる。なお、ヒトに継続的に経口摂取しても有害とならないように、抗体標的物質が細菌や微生物である場合には、加熱、加圧処理等することで殺菌してその死菌体を用いることが好ましい。また、酵母、乳酸菌、納豆菌等は、従来から食品や健康食品として経口的に摂取されていたものであるので、本発明に好ましく用いることができる。更にまた、後述する過免疫をするために用いられる免疫原性物質を認識する抗原―抗体認識部分を同定して、上記の抗体標的物質のかわりにその認識部分のみを抗体標的物質として用いることもできる。
【0022】
本発明の他の態様においては、前記搾乳動物の乳は、搾乳動物を免疫原性物質で過免疫した後、搾乳して得た乳であり、かつ、前記免疫原性物質を特異的に認識する免疫グロブリンを含有する。
【0023】
本発明の上記一態様において、「過免疫」とは、当該分野において用いられる用語の意味において、通常よりも自然に又は人工的に免疫反応が進んだ状態を意味する。動物に筋肉注射、皮下注射、静脈注射、腹腔注射、経口摂取等の方法により任意の物質を投与し、その物質に対する免疫反応状態を誘導して、その動物を過免疫の状態とすることができる。
【0024】
本発明の上記一態様において、「免疫原性物質」とは、動物に筋肉注射、皮下注射、静脈注射、腹腔注射、経口摂取等の方法により投与すると、その物質に対する免疫反応状態を誘導して、その動物を過免疫の状態とすることができる物質を意味する。そのような作用を有するものであれば特に制限されないが、本発明においては、免疫原性物質として、例えば、大腸菌、酵母、乳酸菌、納豆菌、花粉等を用いることができる。なお、免疫原性物質が細菌や微生物である場合には、加熱、加圧処理等することで殺菌してその死菌体を用いることが好ましい。
【0025】
本発明の上記一態様において、「搾乳動物を免疫原性物質で過免疫した後、搾乳して得た乳」とは、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等の搾乳動物を、任意の免疫原性物質で過免疫した後、搾乳により採取される乳を意味する。乳が、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の反芻動物から搾乳により採取される乳であることが好ましく、より好ましくは乳牛の乳である。
【0026】
これらの搾乳動物を免疫原性物質で過免疫すると、その免疫原性物質を特異的に認識する免疫グロブリンであるIgGが乳に移行し蓄積する。なお、牛乳中のIgGはIgG1が殆どである。
【0027】
免疫原性物質による搾乳動物の過免疫は、特開昭52−1014号公報、特開昭54−113425号公報、特開昭57−188523号公報等に記載されている公知の方法に準じて行うことができる。
【0028】
すなわち、例えば、下記表1に示す26種類の細菌をそれぞれ常法にしたがって培養し、加熱殺菌した後、各菌体を回収して凍結乾燥する。各凍結乾燥菌体を等量ずつ採取して混合し、滅菌した生理的食塩水に懸濁し、4×10細胞/mlとなるように希釈して死菌体ワクチンを調製して免疫原性物質として用いる。そして、雌乳牛に前記の死菌体ワクチン5ml(20×10細胞)を1週間に1回、連続8週間以上筋肉注射し、乳中に十分な量のIgGが含まれているのを確認してから、乳を採取する。なお、免疫反応状態を誘導した後は、2週間毎に同一量の上記ワクチンをブースター注射すれば、死菌体ワクチンに対する抗体産生を維持できる。
【0029】
【表1】

【0030】
上記の表1右欄には、このように得られた乳中の総IgG量に含まれる各種細菌に対する特異的抗体の含有量について、各種細菌をコーティングしたマイクロプレートを用いたELISA法により定量した結果の一例を示す。これによれば、例えば、エシィリキア コリ(Esherichia coli;ATCC No.26)を特異的に認識するIgGは1,683μg/g(総IgG)の含有量であり、ストレプトコッカス ビオゲネス タイプA14型(Streptococcus pyogenes Atype14;ATCC No.12972)を特異的に認識するIgGは48,368μg/g(総IgG)の含有量であり、それぞれの細菌を特異的に認識するIgGが乳中に移行・蓄積していることがわかる。
【0031】
なお、上記表1に示す26種類の細菌で過免疫した乳牛から採取した乳から調製した脱脂粉乳、あるいは乳清たんぱく質濃縮物は、例えば、脱脂粉乳として商品名「スターリミルク」、乳清たんぱく質濃縮物として商品名「スターリ乳清」、あるいは脱脂粉乳/乳清たんぱく質濃縮物混合物として商品名「スターリミルクゴールド」(いずれも兼松ウェルネス株式会社から販売)等が市販されており、本発明に好ましく用いることができる。
【0032】
なお、これらの脱脂粉乳や乳清たんぱく質濃縮物は、水に戻して飲用する際の飲用1回分である20〜40g当たりに総IgG換算で96〜192mgのIgGを含有する組成物である。
【0033】
本発明において用いられる免疫グロブリンのFcフラグメントは、上記の初乳、免疫ミルクから調製された免疫グロブリンを、パパイン、ペプシン、トリプシン、及びパンクレアチン等のプロテアーゼで処理することにより得ることができる。上記の脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、及び乳たんぱく質濃縮物をそのままプロテアーゼ処理してもよい。
【0034】
具体的には、例えば、精製した免疫グロブリンを、システイン、EDTA及び塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(pH7.3)に溶解し、適量のパパインを添加して40〜55℃で60〜120分間反応させた後、酵素を失活させることにより調製することができる。本発明においては、上記パパイン消化物をゲル濾過クロマトグラフィー及びアフィニティクロマトグラフィーに供して、Fcフラグメントを分離して用いることができる。
【0035】
本発明においては、上記の乳や乳加工組成物から、分離膜やカラムクロマトグラフィー等を用いて免疫グロブリン及び/又はそのFcフラグメントを濃縮・精製して本発明の有効成分として用いることができる。また、上記の脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、及び乳たんぱく質濃縮物をそのまま本発明の有効成分として用いることもできる。本発明の有効成分は、牛乳の成分からなるものであるので、安全性に優れ、継続的に長期間に摂取するのに適している。
【0036】
本発明の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤は、これを経口的に摂取することで、腸管の免疫担当細胞であるパイエル板細胞に主に影響を与えて、免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパクの産生を抑制することができる。
【0037】
本発明の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤によれば、後述する実施例で示すように、例えば高親和性IgE受容体であるFcεR1の産生を抑制して、花粉症、ダニアレルギー、食物アレルギー等のアレルギー症の改善及び/又はその予防をすることができる。また、例えば、免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパクであるFcレセプター様3(FCRL3)タンパクの産生を抑制して、関節リウマチの改善及び/又はその予防をすることができる。
【0038】
本発明の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤の成人1日当りの有効摂取量は、摂取者の健康状態、症状、体重、性別、年齢等によって適宜選択すればよいが、通常、免疫グロブリン及び/又はそのFcフラグメントの質量換算で0.1mg〜10mgである。
【0039】
また、その有効摂取量において、抗体標的物質の有効摂取量は、その抗原―抗体複合体の特性に応じて有効な抗原―抗体複合体が形成されるように適宜選択すればよいが、通常、成人1日当り0.1μg〜10gとすることが好ましい。
【0040】
本発明の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤は、他の成分として、例えば、免疫調節作用を有することが知られている、ラクトフェリン、カゼイン、ラクトアルブミン等、又はそれらに由来するカゼインホスホペプチド、グリコマクロペプチド、パラ−κ−カゼイン等の生物活性ペプチド又はその誘導体等を含むことができ、これらの成分による相乗効果を期待することができる。
【0041】
本発明の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤の製剤形態は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、液剤、ゼリー、チュアブル、ペースト等が挙げられ、有効性を損わない範囲で、食品、及び医薬的に許容される担体、賦形剤、糖類、甘味料、香料、酸味料、着色料、その他補助的添加剤を配合することができる。
【0042】
一方、本発明の飲食品は、上記の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤を配合してなるものであるが、そのような飲食品として、練乳、アイスクリーム、ヨーグルト、酸乳等の乳製品が挙げられる。
【0043】
上記の飲食品への免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤の配合量は、飲食品の種類及び上述した有効摂取量に基いて適宜設定すればよく、また、食品衛生上許容される賦形剤、安定剤、防腐剤、保存剤、光沢剤、増粘剤、着色剤、ミネラル類、ビタミン類、糖類、香料、油脂、アミノ酸等の添加剤を適宜配合することができる。
【実施例】
【0044】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
以下の試験例に用いるためにIgG含有組成物を調製した。すなわち、ホルスタイン種乳牛の初乳に硫酸アンモニウムを33質量%飽和濃度になるように加え、得られた沈殿を蒸留水に対して一晩透析して乳たんぱく質濃縮物を調製した。この乳たんぱく質濃縮物を、常法にしたがってイオン交換カラムクロマトグラフィー(商品名「DEAE Sephadex A−50」、Pharmacia社製)、プロテインGカラムクロマトグラフィー(商品名「UltraLink Protein G plus」、Pierce社製)、プロテインAカラムクロマトグラフィー(商品名「Shodex Afpak APA−894」、昭和電工株式会社製)に供し、IgGを分離して、総IgG濃度3.0mg/ml(IgG1:IgG2=96:4)のIgG含有組成物を調製した。
【0046】
また、IgGのFcフラグメントを調製するために、上記のようにして得られたIgGのパパイン消化を行った。パパイン消化は、システイン、EDTA及び塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(pH7.3)中で、基質:酵素=50:1にして、55℃で2時間反応を行った。各パパイン消化物をプロテインGカラムクロマトグラフィー(商品名「UltraLink Protein G plus」、Pierce社製)に供し、Fcフラグメントを分離精製した。
【0047】
一方、抗体標的物質として大腸菌の死菌体を調製した。すなわち、大腸菌を、菌体成分が遊離しない低温度保持殺菌処理(75℃で15分)し、PBS緩衝液で洗浄した後、PBS緩衝液に1×1011個/mlの細胞濃度で懸濁し、これを大腸菌含有組成物とした。
【0048】
得られたIgG、Fcフラグメント及び大腸菌含有組成物を用いて以下の試験を行った。
【0049】
<試験例1> (DNAマイクロアレイによる免疫関連遺伝子の解析)
マウス用無蛋白飼料(Purina Mills社製、商品名「Purified Diet」)にオボアルブミンを添加したものをベースにして下記表2に示す試験飼料を調製し、4週齢のC3H/HeN系雄マウスに自由摂取させた。なお、下記表2中の試験飼料1に配合されたIgG及び大腸菌は、上記のIgG含有組成物(IgG濃度3.0mg/ml)、上記の大腸菌含有組成物(1×1011個/ml)を、混和して、遠心操作により大腸菌を回収したもの(大腸菌を認識するIgGを含む)であり、大腸菌と大腸菌を認識するIgGとの複合体(IgG−大腸菌複合体)である。
【0050】
そして、その摂取開始から5週目にマウスを麻酔下に解剖し、小腸からパイエル板を切り分け、0.1mMのEDTAを含む37℃のHanks’Balanced Salt Solution(HBSS)中で攪拌することで、パイエル板上皮細胞を上澄みに遊離させ、遠心操作によりパイエル板細胞を沈殿として回収した。
【0051】
【表2】

【0052】
採取したパイエル板細胞から常法に従いmRNAを抽出し、DNAマイクロアレイ法によってそれぞれの試験群又は対照群のパイエル板細胞における遺伝子発現量の相対値を測定した。なお、測定では誤差を最小化するため、各試験群及び対照群につき4匹のマウスを用いてその遺伝子発現量の相対値を測定し、それらの平均を求めた。図1は、全33696遺伝子について、試験飼料1を摂取させた試験群と対照群との比較における発現量の相関を示すグラフである。また、図2は、全33696遺伝子について、試験飼料2を摂取させた試験群と対照群との比較における発現量の相関を示すグラフである。
【0053】
【表3】

【0054】
その結果、マウスに牛乳IgG−大腸菌複合体を含有する試験飼料1、又は牛乳IgGのFcフラグメントを含有する試験飼料2を経口的に摂取させることにより、高親和性IgE受容体であるFcεR1(α、β、及びγサブユニットからなる)の遺伝子発現を減少させることができることが明らかとなった。また、マウスに牛乳IgG−大腸菌複合体を含有する試験飼料1、又は牛乳IgGのFcフラグメントを含有する試験飼料2を経口的に摂取させることにより、免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパクであるFcレセプター様3(FCRL3)の遺伝子発現を減少させることができることが明らかとなった。
【0055】
高親和性IgE受容体であるFcεR1は、花粉症、ダニアレルギー、食物アレルギー等のアレルギー症に関与することが知られていることから、上記の作用効果によれば、花粉症、ダニアレルギー、食物アレルギー等のアレルギー症の症状の改善及び/又はその予防をすることが期待できる。また、免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパクであるFcレセプター様3(FCRL3)は、関節リウマチ症に関与することが知られていることから、上記の作用効果によれば、関節リウマチ症の症状の改善及び/又はその予防をすることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】マウスに牛乳IgG−大腸菌複合体を摂取させた試験群と対照群との比較における全33696遺伝子の発現量の相関を示すグラフである。
【図2】マウスに牛乳IgGFcフラグメントを摂取させた試験群と対照群との比較における全33696遺伝子の発現量の相関を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搾乳動物の乳由来の免疫グロブリン及び/又はそのFcフラグメントを有効成分として含有することを特徴とする免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
【請求項2】
前記搾乳動物は、ウシ、ヤギ、ヒツジ、及びウマから選ばれた1種である請求項1に記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
【請求項3】
前記免疫グロブリンは、IgGである請求項1又は2に記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
【請求項4】
搾乳動物の乳から調製された脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、及び乳たんぱく質濃縮物から選ばれた少なくとも一種に含有する免疫グロブリン及び/又はそのFcフラグメントを有効成分として含有する請求項1〜3のいずれか一つに記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
【請求項5】
前記有効成分として前記免疫グロブリンを含有し、更に該免疫グロブリンに特異的に認識される抗体標的物質を含有する請求項1〜4のいずれか一つに記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
【請求項6】
前記搾乳動物の乳は、搾乳動物を免疫原性物質で過免疫した後、搾乳して得た乳であり、かつ、前記免疫原性物質を特異的に認識する免疫グロブリンを含有する請求項5に記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
【請求項7】
前記抗体標的物質が、前記過免疫するために用いた免疫原性物質と同一物質である請求項6に記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
【請求項8】
前記抗体標的物質が、大腸菌、酵母、乳酸菌、納豆菌、及び花粉から選ばれた1種である請求項5〜7のいずれか1つに記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
【請求項9】
前記免疫原性物質が、大腸菌、酵母、乳酸菌、納豆菌、及び花粉から選ばれた1種である請求項8に記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤。
【請求項10】
前記請求項1〜9のいずれか1つに記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤を配合してなる飲食品。
【請求項11】
練乳、アイスクリーム、ヨーグルト、酸乳等の乳製品から選ばれた1種である請求項10に記載の飲食品。
【請求項12】
前記請求項1〜9のいずれか1つに記載の免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制剤を経口摂取することを特徴とする免疫グロブリンFcフラグメントレセプタータンパク及び/又は免疫グロブリンFcフラグメントレセプター様タンパク産生抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−179572(P2008−179572A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14953(P2007−14953)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(399072255)兼松ウェルネス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】