説明

免疫原性組成物および使用法

本明細書において、隣接する層が反対に荷電した多価電解質を含む、多価電解質の2つまたはそれ以上の層を含む多層被膜を含む免疫原性組成物を開示する。第一の層多価電解質は、1つまたは複数の抗原性決定領域に共有結合した1つまたは複数の表面吸着領域を含んだ抗原性ポリペプチドを含み、抗原性ポリペプチドと1つまたは複数の表面吸着領域とが同じ極性を有する。本免疫原性組成物を、脊椎生物の免疫応答を誘発する方法において使用してもよい。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み入れられる、2005年10月25日に提出された米国特許出願第60/729,828号の恩典を主張する。
【0002】
背景
ワクチンは、特定の疾患に関して、感染物質に対する最初の曝露がその後の感染に対して免疫を付与することが観察されて以来、医学において重要である。ワクチンは、何年もの間、ウイルス、細菌、真菌、および寄生虫のような特定の病原体による感染に対して個体において免疫を構築するために用いられている。ワクチンはまた、癌細胞上の抗原に対して、または病原性の筋原線維の形成に対して、個体が免疫応答を開始する能力を刺激するためにも用いられている。ワクチンは、たとえば経口、静脈内、皮下、経皮、舌下、筋肉内、および鼻腔内投与を含む様々な経路によって投与されうる。
【0003】
初期のワクチンは、その免疫原性を保持する「生存」病原体または「死滅」病原体に依存した。特定の病原体の構造および機能ならびに適応免疫のメカニズムの理解が進んだことにより、より安全でより方向性の高いワクチンの設計が可能となった。たとえば、B型肝炎ウイルスに対する現在のワクチンは、病原体全体よりむしろ、ウイルス表面抗原のごく一部を用いる接種に依存している。このタイプのワクチンは副作用がより少なく、それらは、非保護的である抗原、すなわち持続する免疫を付与しない抗原に対する望まない免疫応答を回避する。ワクチンはまた、好ましい症例において防御免疫応答が起こるDNAワクチンを提供するために、組換え型DNA技術および遺伝子治療を用いて開発されている。
【0004】
タンパク質抗原(たとえば、ウイルスタンパク質または腫瘍特異的抗原由来の)、またはタンパク質抗原に由来する免疫原性ポリペプチドによるワクチン接種は、その低い毒性および広い応用性のために臨床での大きな可能性を有する新しい戦略である。しかし、タンパク質に基づくワクチンは、部分的に、送達が難しいために臨床での成功はごく限られている。したがって、ポリペプチドに基づく抗原を操作する、より有効な手段を開発する必要がある。
【0005】
現在のところ、合成ペプチドワクチンが細菌、寄生虫、およびウイルスに対する保護に関して評価されている。細菌エピトープワクチンには、コレラ菌および赤痢菌に向けられるワクチンが含まれる。マラリアに対する合成ワクチンに関しては、フェーズIおよびフェーズII臨床試験が行われた。インフルエンザおよびB型肝炎は、合成ペプチドワクチンが特に有望であるように思われる2つのウイルス系の代表であり、ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)に対する合成ワクチンの開発に現在多くの関心が集まっている。
【0006】
ワクチンの状況におけるタンパク質またはペプチド抗原に対する望ましい免疫応答には、液性免疫と細胞性免疫の双方が含まれる。液性成分は、抗体を産生するB細胞の刺激を伴い、細胞性成分はTリンパ球を伴う。細胞障害性T-リンパ球(CTL)は、細胞性免疫系において重要な役割を果たしており、ウイルスに感染した細胞、または細菌に感染した細胞を溶解する。具体的には、CTLは、MHCクラスIおよび/またはクラスII分子に会合した異物ペプチドを認識することができる細胞表面受容体を保有する。
【0007】
ポリペプチドのような複雑な抗原を脊椎生物に送達するために適した方法および特殊な送達プラットフォームが必要である。免疫原性ポリペプチドの操作および免疫原性ポリペプチドで構成された構造は、この目的にとって有望である。好ましくは、その結果としての免疫原性決定基の提示は適応免疫系の少なくともいくつかの成分を活性化させ、すなわち抗原の提示は、免疫応答が抗体、細胞障害性T細胞、ヘルパーT細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、またはそのいくつかの組み合わせによって媒介されるか否かによらず、特定の病原体と戦うために十分な免疫応答を誘発すると考えられる。
【発明の開示】
【0008】
概要
1つの態様において、免疫原性組成物は、2つまたはそれ以上の層の多価電解質を含んだ多層被膜を含み、隣接する層が反対に荷電した多価電解質を含み、第一の層多価電解質(layer polyelectrolye)が1つまたは複数の抗原性決定領域に共有結合した1つまたは複数の表面吸着領域を含んだ抗原性ポリペプチドを含む。抗原性ポリペプチドおよび1つまたは複数の表面吸着領域は同じ極性を有する。1つまたは複数の表面吸着領域は1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含み、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフはアミノ酸5〜15個からなり、0.4より大きいかまたは0.4に等しい一残基あたりの実効電荷量を有する。1つまたは複数の抗原性決定領域はアミノ酸残基3〜約250個を含む。抗原性ペプチドはホモポリマーではなく、少なくとも15アミノ酸長であり、pH 4〜10で50μg/mLより大きい水溶性を有する。同様に、第二の層は、1,000より大きい分子量を有し、一分子あたり少なくとも5個の電荷を有し、かつ第一の層ポリペプチドと反対の電荷を有する、多価陽イオン材料または多価陰イオン材料を含む第二の層多価電解質を含む。
【0009】
もう1つの態様において、脊椎生物において免疫応答を誘発する方法は、上記の免疫原性組成物を脊椎生物に投与する段階を含む。
【0010】
詳細な説明
本発明は、免疫原性組成物および脊椎生物において免疫原性組成物によって免疫応答を誘発する方法に向けられる。
【0011】
本明細書において用いられるように、「層」は、たとえば吸着段階の後の被膜形成のための鋳型上での厚さの増加を意味する。「多層」は多数の(すなわち2つまたはそれ以上の)厚さの増加を意味する。「多価電解質多層被膜(polyelectrolyte multilayer film)」は、多価電解質の1つまたは複数の厚さの増加を含む被膜である。沈着後、多層被膜の層は個別の層として残っていなくてもよい。実際に、特に厚さの増加の界面において種の有意な混合が存在することがありうる。
【0012】
「多価電解質」という用語には、1,000より大きい分子量および一分子あたり少なくとも5個の電荷を有する多価陽イオンおよび多価陰イオン材料が含まれる。適した多価陽イオン材料には、たとえばポリアミンが含まれる。ポリアミンには、たとえばポリペプチド、ポリビニルアミン、ポリ(アミノスチレン)、ポリ(アミノアクリラート)、ポリ(N-メチルアミノアクリラート)、ポリ(N-エチルアミノアクリラート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノアクリラート)、ポリ(N,N-ジエチルアミノアクリラート)、ポリ(アミノメタクリラート)、ポリ(N-メチルアミノ-メタクリラート)、ポリ(N-エチルアミノメタクリラート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノメタクリラート)、ポリ(N,N-ジエチルアミノメタクリラート)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)、ポリ(塩化N,N,N-トリメチルアミノアクリラート)、ポリ(塩化メチアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム)、キトサンおよび前述の多価陽イオン材料の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれる。適した多価陰イオン材料には、ポリペプチド、核酸、アルギン酸塩、カラゲニン、フルセララン、ペクチン、キサンタン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、硫酸デキストラン、ポリ(メト)アクリル酸、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、酸性多糖類、クロスカルメロース、ペンダントカルボキシル基を含む合成ポリマーおよびコポリマー、および前述の多価陰イオン材料の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれる。
【0013】
「アミノ酸」は、ポリペプチドの構成要素を意味する。本明細書において用いられるように、「アミノ酸」には、一般的な天然に存在する20個のL-アミノ酸、他の全ての天然アミノ酸、全ての非天然アミノ酸、および全てのアミノ酸模倣体、たとえばペプトイドが含まれる。
【0014】
「天然に存在するアミノ酸」は、一般的な天然に存在する20個のL-アミノ酸、すなわちグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、およびプロリンを意味する。
【0015】
「非天然アミノ酸」は、一般的な天然に存在する任意のL-アミノ酸20個以外のアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸はL-立体化学またはD-立体化学のいずれかを有しうる。
【0016】
「ペプトイド」またはN-置換グリシンは、対応するアミノ酸単量体の類似体を意味し、対応するアミノ酸と同じ側鎖が残基のα-炭素よりむしろアミノ基の窒素原子に付属する側鎖を有する。その結果、ポリペプトイドにおける単量体間の化学的連結はペプチド結合ではなく、これはタンパク質分解消化を制限するために有用となりうる。
【0017】
「アミノ酸配列」および「配列」は、長さがアミノ酸残基で少なくとも2個であるポリペプチド鎖の隣接する長さを意味する。
【0018】
「残基」は、ポリマーまたはオリゴマーにおけるアミノ酸を意味し、これはそこからポリマーが形成されるアミノ酸単量体の残基である。ポリペプチド合成は、脱水を伴い、すなわち、ポリペプチド鎖へのアミノ酸の付加の際に水1分子が「失われる」。
【0019】
「アミノ酸配列モチーフ」は、nが5〜15である、残基n個を含む隣接アミノ酸配列を意味する。1つの態様において、アミノ酸配列モチーフにおける一残基あたりの実効電荷量は0.4より大きいかまたは0.4に等しい。もう1つの態様において、アミノ酸配列モチーフの一残基あたりの実効電荷量は0.5より大きいかまたは0.5に等しい。本明細書において用いられるように、実効電荷量は、実効電荷の絶対値を指し、すなわち実効電荷は陽性または陰性となりうる。
【0020】
本明細書において用いられるように、「ペプチド」および「ポリペプチド」は全て、隣接するアミノ酸のα-アミノ基とα-カルボキシ基の間のペプチド結合によって互いに接続した一連のアミノ酸を指し、改変の存在または欠如が免疫原性を破壊しない限り、グリコシル化、側鎖の酸化、またはリン酸化のような改変を含んでもよく、または含まなくてもよい。本明細書において用いられるように、「ペプチド」という用語は、ペプチドとポリペプチドまたはタンパク質の双方を指すことを意味する。
【0021】
「設計ポリペプチド」は、ポリペプチドの長さが少なくともアミノ酸15個であって、ポリペプチドにおける総残基数に対する、同じ極性の荷電残基数から反対極性の残基数を引いた数の割合がpH 7.0で0.4より大きいかまたは0.4に等しい、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含むポリペプチドを意味する。言い換えれば、ポリペプチドの一残基あたりの実効電荷量は0.4より大きいかまたは0.4に等しい。1つの態様において、ポリペプチドにおける総残基数に対する、同じ極性の荷電残基数から反対極性の残基数を引いた数の割合は、pH 7.0で0.5より大きいかまたは0.5に等しい。言い換えれば、ポリペプチドの一残基あたりの実効電荷量は0.5より大きいかまたは0.5に等しい。ポリペプチドの長さに絶対的な上限はないが、一般的に、ELBL沈着にとって適した設計ポリペプチドは、1,000残基の実際的な長さの上限を有する。
【0022】
「一次構造」は、ポリペプチド鎖におけるアミノ酸の隣接する直線的配列を意味し、「二次構造」は、非共有結合的相互作用、通常水素結合によって安定化されるポリペプチドにおける多少不規則なタイプの構造を意味する。二次構造の例には、α-へリックス、β-シート、およびβ-ターンが含まれる。
【0023】
「ポリペプチド多層被膜」は、先に定義された1つまたは複数の設計ポリペプチドを含む被膜を意味する。たとえば、ポリペプチド多層被膜は、設計ポリペプチドを含む第一の層と、設計ポリペプチドとは反対の極性の実効電荷を有する多価電解質を含む第二の層とを含む。たとえば、第一の層が正味の陽電荷を有する場合、第二の層は正味の陰電荷を有し、第一の層が正味の陰電荷を有する場合、第二の層は正味の陽電荷を有する。第二の層はもう1つの設計ポリペプチドまたはもう1つの多価電解質を含む。
【0024】
「基板」は、水溶液から多価電解質を吸着させるために適した表面を有する固体材料を意味する。基板の表面は本質的にいかなる形状も有することができ、たとえば平面、球状、または桿状等を有しうる。基板表面は規則的または不規則的となりうる。基板は結晶となりうる。基板は生物活性分子となりうる。基板の大きさはナノスケールからマクロスケールまでの範囲となりうる。その上、基板は任意でいくつかの小さい亜粒子(sub-particle)を含む。基板は有機材料、無機材料、生物活性材料、またはその組み合わせで作製されうる。基板の非制限的な例には、シリコンウェーハ;荷電コロイド粒子、たとえばCaCO3またはメラミンホルムアルデヒドの微粒子;赤血球、肝細胞、細菌細胞、または酵母細胞のような生物細胞;有機ポリマー格子、たとえばポリスチレンまたはスチレンコポリマー格子;リポソーム;オルガネラ;およびウイルスが含まれる。1つの態様において、基板は人工ペースメーカー、蝸牛インプラント、またはステントのような医療用装置である。
【0025】
被膜形成時または形成後に基板が崩壊する、またはそうでなければ除去される場合、これは「鋳型」(被膜形成のための)と呼ばれる。鋳型粒子は適当な溶媒に溶解させるか、または熱処置によって除去することができる。たとえば、部分的に架橋したメラミン-ホルムアルデヒド鋳型粒子を用いる場合、鋳型は穏やかな化学的方法によって、たとえばDMSOにおいて、またはpH値の変化によって崩壊させることができる。鋳型粒子の溶解後、交互の多価電解質層で構成される中空の多層外皮が残る。
【0026】
「マイクロカプセル」は、コアを取り囲む中空の外皮またはコーティングの形状の多価電解質被膜である。コアは、多様な異なるカプセル材料、たとえばタンパク質、薬物、またはその組み合わせを含む。
【0027】
「生物活性分子」は、生物学的効果を有する、分子、高分子、または高分子アセンブリを意味する。特異的な生物学的効果は、適したアッセイにおいて測定することができ、生物活性分子の単位重量あたりまたは一分子あたりに標準化することができる。生物活性分子は、多価電解質被膜の中に封入される、その後に保持される、または多価電解質被膜のカプセルに入れられる。生物活性分子の非制限的な例は、薬物、薬物の結晶、タンパク質、タンパク質の機能的断片、タンパク質の複合体、リポタンパク質、オリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、核酸、リボソーム、活性治療物質、リン脂質、多糖類、リポ多糖類である。本明細書において用いられるように、「生物活性分子」は、たとえば機能的膜断片、膜構造、ウイルス、病原体、細胞、細胞の凝集体、およびオルガネラのような生物活性構造をさらに含む。ポリペプチド被膜に封入またはその後に保持されうるタンパク質の例は、ヘモグロビン;たとえばグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、リゾチーム等のような酵素;たとえばフィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチンおよびコラーゲンのような細胞外マトリクスタンパク質;ならびに抗体である。ポリペプチド被膜に封入またはその後に保持されうる細胞の例は、移植された島細胞、真核細胞、細菌細胞、植物細胞、および酵母細胞である。
【0028】
「生物学的適合性」は、経口摂取、局所適用、経皮適用、皮下注射、筋肉内注射、吸入、埋め込み、または静脈内注射の際に実質的に有害な健康効果を引き起こさないことを意味する。たとえば、生物学的適合性の被膜には、たとえばヒトの免疫系と接触した場合に、実質的な免疫応答を引き起こさない被膜が含まれる。
【0029】
「免疫応答」は、体のいずれかの場所での物質の存在に対する細胞性免疫系または液性免疫系の反応を意味する。免疫応答を、多くの方法で、たとえば特定の抗原を認識する抗体数の血流での増加によって、特徴付けできる。抗体はB細胞によって分泌されるタンパク質であり、抗原は免疫応答を誘発する実体である。ヒトの体は感染と戦い、血流および他の場所で抗体数を増加させることによって再感染を阻害する。
【0030】
「抗原」は、感受性のある脊椎生物の組織に導入された場合に免疫応答(たとえば、特異的抗体分子の産生)を誘発する異物物質を意味する。抗原は1つまたは複数のエピトープを含む。抗原は、純粋な物質、物質の混合物(細胞または細胞断片を含む)であってもよい。抗原という用語には、適した抗原決定基、自己抗原(auto-antigen)、自己抗原(self-antigen)、交叉反応抗原、アロ抗原、寛容原、アレルゲン、ハプテン、および免疫原、またはその一部、およびその組み合わせが含まれ、これらの用語は互換的に用いられる。抗原は一般的に高分子量であり、一般的にポリペプチドである。強い免疫応答を誘発する抗原は、免疫原性が強いと言われる。相補的抗体が特異的に結合する抗原上の部位は、エピトープまたは抗原決定基と呼ばれる。
【0031】
「抗原性」は、組成物に対して特異的な抗体を生じる、または細胞性免疫応答を生じる組成物の能力を指す。
【0032】
本明細書において用いられるように、「エピトープ」および「抗原決定基」という用語は、互換的に用いられ、抗体によって認識される抗原、たとえばタンパク質または設計ペプチドの構造または配列を意味する。通常、エピトープはタンパク質の表面上に存在する。「連続エピトープ」は、いくつかの隣接アミノ酸残基を含むエピトープであり、折りたたまれたタンパク質において偶然に接触したかまたは空間の限定的な領域に存在するアミノ酸残基を含むエピトープではない。「コンフォメーショナルエピトープ(conformational epitope)」は、タンパク質の三次元構造において接触するようになるタンパク質の直線状の配列の異なる部分からのアミノ酸残基を含む。抗原と抗体との効率的な相互作用が起こるためには、エピトープは結合のために容易に利用できなければならない。このように、エピトープまたは抗原決定基は、抗原の本来の細胞環境に存在するか、または変性された場合に限って露出される。その天然型において、それらは細胞質(可溶性)でも、膜会合していても、または分泌型であってもよい。エピトープの数、位置、および大きさは、抗体作製プロセスの際に提示される抗原数に依存すると考えられる。
【0033】
本明細書において用いられるように、「ワクチン組成物」は、投与される哺乳動物において免疫応答を誘発して、および免疫物質または免疫学的に交叉反応性の物質によるその後の攻撃に対して免疫した生物を保護する組成物である。保護は、非ワクチン接種生物と比較して症状または感染の低減に関して完全または部分的となりうる。免疫原性の交叉反応性物質は、たとえばそこからサブユニットペプチドが免疫原として用いるために誘導されているタンパク質全体(たとえば、グルコシルトランスフェラーゼ)でありうる。または、免疫原性の交叉反応物質は、免疫物質によって誘発される抗体によって全体または部分的に認識される異なるタンパク質でありうる。
【0034】
本明細書において用いられるように、「免疫原性組成物」は、投与される生物において免疫応答を誘発して、免疫物質によるその後の攻撃時に免疫した哺乳動物を保護してもよく、保護しなくてもよい組成物を含むと意図される。1つの態様において、免疫原性組成物はワクチン組成物である。
【0035】
本発明には、1つまたは複数の抗原決定基を有する荷電抗原性ポリペプチドを含んだ多価電解質多層被膜を含む、ワクチン組成物と免疫原性組成物の双方が含まれる。
【0036】
多価電解質多層被膜は、反対に荷電した多価電解質の交互の層で構成される薄膜(たとえば、厚さ数ナノメートルから数ミリメートル)である。そのような被膜は、適した基板上での層ごとのアセンブリによって形成されうる。静電気的な層ごとの自己アセンブリ(「ELBL」)において、多価電解質が会合する物理的基礎は静電気力である。被膜の表面電荷密度の符号が、連続する層の沈着において逆転することから、被膜の構築が可能である。反対に荷電した多価イオンのELBL沈着の一般的原理を図1に図示する。ELBL被膜プロセスが一般的で、比較的単純であることにより、異なる多くのタイプの多価電解質の、多くの異なるタイプの表面への沈着を行うことができる。ポリペプチド多層被膜は、荷電ポリペプチドを含む少なくとも1つの層を含む、多価電解質多層被膜のサブセットである。ポリペプチド多層被膜の重要な長所は、環境に優しいことである。ELBL被膜はまた、カプセル封入のためにも用いることができる。ポリペプチド被膜およびマイクロカプセルの応用には、たとえばナノリアクター、バイオセンサー、人工細胞、および薬物送達媒体が含まれる。
【0037】
静電気的な層ごとの沈着にとって適したポリペプチドの設計原理は、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許公開第2005/0069950号において解明されている。簡単に説明すると、主要な設計重要事項は、ポリペプチドの長さおよび電荷である。静電気力は、ELBLの基礎であることから最も重要な設計重要事項である。適した電荷特性がなければ、ポリペプチドはpH 4〜10で水溶液において実質的に溶解性ではなく、ELBLによる多層被膜の製作のために容易に用いることができない。他の設計重要事項には、ポリペプチドの物理構造、ポリペプチドから形成された被膜の物理的安定性、ならびに被膜および成分ポリペプチドの生物学的適合性および生物活性が含まれる。
【0038】
先に定義したように、設計ポリペプチドは、長さが少なくともアミノ酸15個であって、ポリペプチドの実効電荷量がpH 7.0で0.4より大きいかまたは0.4に等しい、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含むポリペプチドを意味する。「アミノ酸配列モチーフ」は、nが5〜15個である、n個の残基を含む隣接アミノ酸配列を意味する。pH 7.0で正に荷電した(塩基性)天然に存在するアミノ酸は、Arg、His、およびLysである。pH 7.0で負に荷電した(酸性)天然に存在するアミノ酸残基はGluおよびAspである。電荷の全体的な比率が明記された基準を満たす限り、反対荷電のアミノ酸残基の混合物を含むアミノ酸モチーフを用いることができる。1つの態様において、望ましいポリペプチドはホモポリマーではない。
【0039】
1つの例示的な態様において、アミノ酸配列モチーフはアミノ酸7個を含む。4個より少ない電荷はペプチド溶解性の減少およびELBLに対する制御の減少を生じることから、荷電アミノ酸4個がモチーフサイズ7にとって適した最少値である。さらに、生物学的適合性に関して、ゲノムデータにおいてそれぞれ同定されたアミノ酸配列モチーフは、連続エピトープを構成するためには7残基で十分に長いが、タンパク質表面およびその内部の双方の残基に実質的に対応するにはそれほど長くない。このように、アミノ酸配列モチーフの電荷および長さは、ゲノムデータにおいて同定された配列モチーフが、配列モチーフが由来するタンパク質の折りたたまれた表面で生じる可能性があることを確実にするために役立つ。対照的に、非常に短いモチーフは、体にとってランダム配列または特異的に「自己」ではない配列であるように思われ、したがって免疫応答を誘発する可能性がある。
【0040】
いくつかの場合において、アミノ酸配列モチーフおよび設計ポリペプチドに関する設計重要事項は、その二次構造形成傾向、特にα-へリックスまたはβ-シート形成傾向である。いくつかの態様において、薄膜の層形成に対する制御を最大限にするために、水性培地における設計ポリペプチドによる二次構造形成を制御、たとえば最小限にできることが望ましい。第一に、より長いモチーフは溶液中で安定な三次元構造をとる可能性がより高いことから、配列モチーフは比較的短いこと、すなわちアミノ酸約5〜約15個であることが好ましい。第二に、設計ポリペプチドにおける連続的アミノ酸配列モチーフの間で共有結合的に接合されるグリシン残基またはプロリン残基のようなリンカーは、ポリペプチドが溶液中で二次構造をとる傾向を低減させるであろう。たとえばグリシンは、α-へリックス形成傾向が非常に低く、β-シート形成傾向が非常に低く、これによってグリシンとその隣接するアミノ酸が、水溶液において規則正しい二次構造を形成するためにはエネルギー的に非常に不都合である。第三に、設計ポリペプチド自身のα-へリックスおよびβ-シート形成傾向は、合計のα-へリックス形成傾向が7.5未満で、合計のβ-シート形成傾向が8未満であるアミノ酸配列モチーフを選択することによって最小限にすることができる。「合計」の形成傾向とは、モチーフにおける全てのアミノ酸のα-へリックスまたはβ-シート形成傾向の合計を意味する。いくぶん高い合計のα-へリックス形成傾向および/または合計のβ-シート形成傾向を有するアミノ酸配列モチーフは、特にGlyまたはProのようなリンカーによって接合した場合に、ELBLにとって適している。特定の応用において、ポリペプチドが二次構造を形成する傾向は、薄膜製作の特異的な設計特徴として比較的高くなりうる。天然に存在するアミノ酸20個全ての二次構造形成傾向は、Chou and Fasmanの方法(その全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、P. Chou and G. Fasman Biochemistry 13:211 (1974)を参照されたい)の方法を用いることによって計算することができる。
【0041】
もう1つの設計重要事項は、ポリペプチドELBL被膜の安定性の制御である。イオン結合、水素結合、ファンデルワールス相互作用、および疎水性相互作用は、多層被膜の安定性に寄与する。さらに、同じ層または隣接する層内のポリペプチドにおけるスルフヒドリル含有アミノ酸の間で形成された共有ジスルフィド結合は、構造強度を増加させうる。スルフヒドリル含有アミノ酸には、システインおよびホモシステインが含まれる。さらに、スルフヒドリルは、D,L-β-アミノ-β-シクロヘキシルプロピオン酸;D,L-3-アミノブタン酸;または5-(メチルチオ)-3-アミノペンタン酸のようなβ-アミノ酸に付加することができる。スルフヒドリル含有アミノ酸を用いて、酸化能の変化によって多層ポリペプチド被膜の層を「ロック(lock)」(共に結合する)および「アンロック(unlock)」することができる。同様に、設計ポリペプチドの配列モチーフにスルフヒドリル含有アミノ酸を組み入れることによって、分子間ジスルフィド結合形成のために、薄膜製作において比較的短いペプチドを使用することができる。スルフヒドリル含有アミノ酸を含むアミノ酸配列モチーフは、以下に記述される方法を用いて同定されたか、またはデノボで設計されたモチーフのライブラリから選択してもよい。
【0042】
1つの態様において、設計されたスルフヒドリル含有ポリペプチドは、化学合成されるか、または宿主生物において産生されるか否かによらず、未熟なジスルフィド結合形成を防止するために還元剤の存在下でELBLによって組み立てられる。被膜の組み立て後、還元剤を除去して酸化剤を加える。酸化剤の存在下で、スルフヒドリル基の間でジスルフィド結合が形成され、それによってチオール基が存在する層内および層間でポリペプチドを共に「ロッキング(locking)」する。適した還元剤には、ジチオスレイトール(「DTT」)、2-メルカプトエタノール(2-ME)、還元グルタチオン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)、およびこれらの化学物質の複数の組み合わせが含まれる。適した酸化剤には、酸化グルタチオン、tert-ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP)、チメロサル、ジアミド、5,5'-ジチオ-ビス-(2-ニトロ-安息香酸)(DTNB)、4,4'-ジチオジピリジン、臭素酸ナトリウム、過酸化水素、テトラチオン酸ナトリウム、ポルフィリンジン、オルトヨードソ安息香酸ナトリウム、およびこれらの化学物質の複数の組み合わせが含まれる。
【0043】
生物学的適合性は、生物医学応用における設計重要事項である。そのような応用において、理想的に「免疫学的に不活性な」ポリペプチドを生じるためのポリマー設計の基礎として、ゲノム情報またはプロテオーム情報を用いることができる。アプローチは、製作されたかまたはコーティングされた物体が循環血に接触する場合、特に有用と考えられる。アミノ酸配列モチーフは非常に極性が高く、それらは典型的にそれらが由来するタンパク質の本来の折りたたまれた型の表面で起こる。「表面」は、単に水の顆粒状の性質のために溶媒に接触する、または溶媒に近づくことができない折りたたまれたタンパク質の一部である。血液タンパク質において同定されたアミノ酸配列モチーフは、タンパク質が血液中に存在する間、免疫系の細胞および分子と常に有効に接触している。したがって、折りたたまれた血液タンパク質の表面に由来するポリペプチドは、無作為に選択された配列より免疫原性が低い可能性がある。設計ポリペプチドは一般的に生物学的適合性であるが、免疫応答または他の任意のタイプの生物反応の程度は、配列モチーフの特異的な細部に依存するのも当然である。
【0044】
多くの方法によって、生物活性を、被膜、コーティング、またはマイクロカプセルに組み入れることができる。たとえば、被膜を含む設計ポリペプチドは、機能的ドメインを含みうる。または、生物活性は、ポリペプチド薄膜によって封入されたかまたはコーティングされたもう1つの生物活性分子に関連してもよい。1つの態様において、鋳型はタンパク質結晶のような生物活性分子を含む。
【0045】
この状況における機能的ドメインは、特異的な生物機能性(たとえば、ホスホチロシンの結合)を有するタンパク質の独立した熱安定性領域である。マルチドメインタンパク質において、たとえばタンパク質テンシンにおける場合のように、ホスホチロシン結合ドメインおよびタンパク質チロシンホスファターゼドメインを含む多機能ドメインが存在してもよい。多層被膜に組み入れられた設計ポリペプチドに機能的ドメインを含めることは、被膜に、たとえば特異的リガンド結合、インビボでのターゲティング、バイオセンシング、および生体触媒を含む望ましい機能性を提供することができる。
【0046】
生物活性分子は、タンパク質、タンパク質の機能的断片、設計ポリペプチドの一部ではないタンパク質の機能的断片、タンパク質の複合体、オリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、核酸、リボソーム、活性治療物質、リン脂質、多糖類、リポ多糖類、機能的膜断片、膜構造、ウイルス、病原体、細胞、細胞凝集体、オルガネラ、脂質、炭水化物、薬剤、または抗菌剤でありうる。生物活性分子は、規則正しいまたは非晶質結晶の形でありうる。タンパク質は、酵素または抗体でありうる。基板は生物活性分子を含みうる。1つの態様において、基板は反対に荷電したポリペプチドの層の沈着前にその表面上に配置された生物活性分子を有する。もう1つの態様において、基板は生物活性分子を含む結晶である。
【0047】
1つの態様において、アミノ酸配列モチーフはデノボで設計される。他の態様において、アミノ酸配列モチーフは、ヒトゲノムのような、特異的生物のゲノム情報またはプロテオーム情報から選択される。たとえば、補体C3(gi|68766)またはラクトトランスフェリン(gi|4505043)の一次構造を用いて、ヒト血液タンパク質におけるアミノ酸配列モチーフを検索することができる。
【0048】
ポリペプチドにおける第一のアミノ酸配列モチーフを同定する方法は、ポリペプチドにおけるスターターアミノ酸残基を選択する段階;nが5〜15である、ポリペプチドにおけるスターターアミノ酸残基およびそれに続くn-1個のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を、正の電荷および負の電荷の発生に関して調べる段階;pH7でのアミノ酸残基5〜15個の側鎖の実効電荷が0.4*n未満より大きいかもしくはそれに等しい場合、アミノ酸配列モチーフとしてアミノ酸残基5〜15個を決定する段階;またはpH 7でアミノ酸残基5〜15個の側鎖の実効電荷が0.4*n未満である場合、配列を棄却する段階、を含む。
【0049】
1つの態様において、タンパク質配列データを、中性または負に荷電したアミノ酸のみを含む長さnの負に荷電したアミノ酸配列モチーフに関して検索するプロセスは、以下のように記述される。第一に、第一のアミノ酸残基をタンパク質配列において選択する。第二に、nが5〜15である、このアミノ酸残基およびそれに続くn-1個のアミノ酸残基をアルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)、またはリジン(Lys)(中性pHで正に荷電している可能性がある天然に存在する3つのアミノ酸)の発生に関して調べる。第三に、これらのn個のアミノ酸残基において1つまたは複数のArg、His、またはLys残基が見いだされる場合、プロセスを第二のアミノ酸残基で新たに開始する。しかし、これらのn個の残基においてArg、His、またはLysが見いだせない場合、n個の残基を調べて、グルタミン酸(Glu)および/またはアスパラギン酸(Asp)(中性pHで負に荷電した2個のアミノ酸)の発生数を決定する。第四に、n個の残基においてGluおよび/またはAspの少なくとも0.4*nの発生が認められる場合、配列を負に荷電したアミノ酸配列モチーフとして目録に載せる。しかし、負に荷電したアミノ酸の0.4*nより少ない発生が見いだされる場合、第一のアミノ酸残基から始まる配列を棄却して、たとえば第一のアミノ酸残基のすぐ近くに隣接する第二のアミノ酸残基でプロセスを新たに開始する。モチーフを目録に載せた後、プロセスを第二のアミノ酸残基で新たに開始することができる。
【0050】
正に荷電した配列モチーフを同定するためのプロセスは、中性または正に荷電したアミノ酸のみを含み、中性pHでアミノ酸残基側鎖の実効電荷量が0.4*nより大きいまたはそれに等しい、長さn個の残基のアミノ酸配列に関してタンパク質配列データを検索することと類似である。
【0051】
同様に、長さnの負に荷電したアミノ酸配列モチーフまたは正に荷電したアミノ酸配列モチーフを同定するためのプロセスも類似であり、モチーフにおける正に荷電したおよび負に荷電したアミノ酸残基の双方を可能にする。たとえば、長さnの正に荷電したアミノ酸配列を同定するための技法は、ポリペプチドにおける第一のアミノ酸残基を選択することであると考えられる。次に、このアミノ酸残基とそれに続くn-1個のアミノ酸残基を、pH 7で正に荷電した残基または負に荷電した残基の発生に関して調べる。n個のアミノ酸残基側鎖の実効電荷を決定する。実効電荷の絶対値が0.4*n未満である場合、配列を棄却して、もう1つのアミノ酸で新しい検索を開始するが、実効電荷の絶対値が0.4*nより大きいかまたはそれに等しい場合、配列はアミノ酸配列モチーフである。モチーフは、実効電荷がゼロより大きければ正であり、実効電荷がゼロ未満であれば負である。
【0052】
本明細書において定義されたアミノ酸配列モチーフのデノボ設計は、配列が天然に見いだされる配列に限定されないことを除き、本質的に類似の規則に従う。モチーフの長さn、望ましい符号、および実効電荷量を選択する。次に、それによって望ましい符号および電荷量が得られるアミノ酸n個を、アミノ酸n個の実効電荷量の絶対値が0.4*nより大きいかそれに等しくなるように選択する。アミノ酸配列モチーフのデノボ設計についての潜在的な長所は、実施者が、特定の公知のタンパク質配列において見いだされるアミノ酸に限定されるよりむしろ望ましい実効電荷を達成するために全てのアミノ酸(天然に存在するアミノ酸20個および全ての非天然アミノ酸)の中から選択することができる点である。アミノ酸のプールがより大きければ、ゲノム配列におけるアミノ酸配列の同定と比較して、モチーフの配列を設計するために選択することができる物理的、化学的および/または生物学的特徴の可能性がある範囲が拡大する。
【0053】
本明細書において定義された設計ポリペプチドは、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含むと考えられる。同じモチーフを繰り返してもよく、または異なるモチーフをELBLのポリペプチドの設計において接合してもよい。1つの態様において、アミノ酸配列モチーフは介在配列を含まずに共有結合的に接合される。もう1つの態様において、設計ポリペプチドは、リンカーによって共有結合的に接合された2つまたはそれ以上のアミノ酸配列モチーフを含む。リンカーは、アミノ酸骨格、たとえばグリシンもしくはプロリンのような1つもしくは複数のアミノ酸残基となりえるか、または2つのアミノ酸配列モチーフを共有結合するために適した任意の他の化合物となりうる。1つの態様において、リンカーはアミノ酸残基1〜4個、たとえばグリシンおよび/またはプロリン残基1〜4個を含む。リンカーは、設計ポリペプチドが0.4より大きいかまたは0.4に等しい一残基あたりの実効電荷量で維持されるように、適した長さまたは組成を含む。
【0054】
1つの態様において、設計ポリペプチドは、長さが15アミノ酸残基より長いかまたはそれに等しい。他の態様において、設計ポリペプチドは、18、20、25、30、32、または35アミノ酸長である。1,000残基はポリマーの長さの実質的な上限である。
【0055】
一旦デノボでアミノ酸配列モチーフが選択または設計されると、固相合成、F-moc化学、または細菌における異種発現後の遺伝子クローニングおよび形質転換のような、当技術分野において周知の方法を用いて、アミノ酸に基づくリンカーと共に設計ポリペプチドを合成する。設計ポリペプチドは、たとえばSynPep Corp.(Dublin, California)のようなペプチド合成企業によって合成されてもよく、または組換えDNA法によって産生されてもよい。いかなるペプチド合成の新規方法の開発もペプチドの産生を増強しうるであろうが、本明細書において記述されるように、基本的なペプチド設計を変更しないと考えられる。
【0056】
設計ポリペプチドの多層被膜を作製する方法は、少なくとも1つの層が設計ポリペプチドを含む、基板上で反対に荷電した化学種の層の複数を沈着させる段階を含む。連続的に沈着された多価電解質は反対の実効電荷を有すると考えられる。図1は、ELBL沈着を図示する略図である。1つの態様において、設計ポリペプチド(または他の多価電解質)の沈着は、ELBLに関して適した実効電荷を有するpHで、設計ポリペプチド(または他の多価電解質)を含む水溶液に基板を曝露する段階を含む。他の態様において、設計ポリペプチドまたは他の多価電解質の基板への沈着は、反対に荷電したポリペプチド溶液を連続的に噴霧することによって得られる。なお他の態様において、基板への沈着は、反対に荷電した多価電解質溶液を同時噴霧することによって得られる。
【0057】
多層被膜を形成するELBL法において、隣接する層の反対荷電は、アセンブリの推進力を提供する。反対層における多価電解質が同じ正味の線形電荷密度を有することは重要ではなく、反対層が反対荷電を有することのみが重要である。沈着による1つの標準的な被膜アセンブリ技法には、それらがイオン化されるpH(すなわち、pH 4〜10)で多価イオンの水溶液を形成する段階、表面電荷を有する基板を提供する段階、および荷電した多価電解質溶液に基板を交互に液浸する段階、が含まれる。基板は任意で交互の層の沈着の間に洗浄される。
【0058】
多価イオンの沈着にとって適した多価イオン濃度は、当業者によって容易に決定されうる。例示的な濃度は0.1〜10 mg/mLである。典型的に、産生された層の厚さは、記載の範囲での沈着の際の多価イオン溶液濃度とは実質的に無関係である。ポリ(アクリル酸)およびポリ(塩酸アリルアミン)のような典型的な非ポリペプチド多価電解質に関して、典型的な層の厚さは、溶液のイオン強度に応じて約3〜約5Åである。短い多価電解質は典型的に、長い多価電解質より薄い層を形成する。層の厚さに関して、多価電解質被膜の厚さは、湿度のみならず被膜の層の数および組成に依存する。たとえば、厚さ50 nmのPLL/PLGA被膜は、窒素による乾燥時に1.6 nmに収縮する。一般的に、被膜の水和状態、およびアセンブリにおいて使用される多価電解質の分子量に応じて、厚さ1 nm〜100 nmまたはそれより厚い被膜を形成することができる。
【0059】
さらに、安定な多価電解質多層被膜を形成するために必要な層の数は、被膜における多価電解質に依存すると考えられる。低分子量ポリペプチド層のみを含む被膜の場合、被膜は反対に荷電したポリペプチドの二重層を4つまたはそれ以上典型的に有すると考えられる。ポリ(アクリル酸)およびポリ(塩酸アリルアミン)のような高分子量の多価電解質を含む被膜の場合、反対に荷電した多価電解質の二重層1つを含む被膜は安定となりうる。
【0060】
免疫応答は、そのような反応を誘発することができる任意のタンパク質またはペプチドの提示によって誘発される可能性があると企図される。1つの態様において、抗原は、感染疾患の特定の物質、すなわち免疫優性エピトープに対して強い免疫応答を生じさせる重要なエピトープである。望ましくは、免疫応答の可能性を増加させるために、複数の抗原またはエピトープを免疫原性組成物に含めてもよい。
【0061】
1つの態様において、多層被膜は、第一の層抗原性ポリペプチドと1つまたは複数の表面吸着領域とが同じ正味の極性を有する、1つまたは複数の抗原性決定領域に共有結合した1つまたは複数の表面吸着領域を含んだ第一の層抗原性ポリペプチドを含む。表面吸着領域は1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含む。第一の層抗原性ポリペプチドは少なくとも15アミノ酸長であり、pH 4〜10の水溶液において50μg/mLより大きい水溶性を有する。1つの態様において、1つまたは複数の表面吸着領域および1つまたは複数の抗原性決定領域は同じ正味の極性を有する。もう1つの態様において、pH 4〜10での第一の層抗原性ポリペプチドの溶解度は、約1 mg/mLより大きいかまたは約1 mg/mLに等しい。溶解度は、水溶液からのポリペプチドの沈着を促進するための実際的な制限である。抗原性ポリペプチドの重合化の程度に対する実際の上限は、約1,000残基である。しかし、適当な合成法によって、より長い複合ポリペプチドを実現できると考えられる。
【0062】
1つの態様において、抗原性ポリペプチドは、2つの表面吸着領域によって隣接した単一の抗原性決定領域(3)、N末端表面吸着領域(1)、およびC末端表面吸着領域(2)を含む。(図2)
【0063】
抗原性ポリペプチドの独立した領域(たとえば、抗原性決定領域(1)および表面吸着領域(2,3))のそれぞれは、液相合成、固相合成、または適した宿主生物の遺伝子操作によって個別に合成することができる。(図3)液相合成は、今日、市販されている承認されたペプチド薬剤のほとんどの産生のために用いられている方法である。液相合成では、比較的長いペプチドおよび小さいタンパク質でさえ合成するために用いることができる。液相合成法によって作製した最も長いペプチドはカルシトニン(32量体)である。より一般的に、本方法は、数百キログラムまでの量で長さが短いかまたは中等度の長さのペプチドを産生するために用いられる。医薬品、医薬部外品の製造管理および品質管理規則(good manufacturing practices)に従う施設において望ましいペプチドのそのような大量を産生することが可能である。
【0064】
または、様々な独立した領域を、液相合成、固相合成、または適した宿主生物の遺伝子操作によって1つのポリペプチド鎖として共に合成することができる。任意の特定の場合におけるアプローチの選択は利便性または財政的問題であると考えられる。
【0065】
様々な抗原性決定領域および表面吸着領域を個別に合成する場合(図3)、たとえばイオン交換クロマトグラフィーの後に高速液体クロマトグラフィーによって精製した後、それらをペプチド結合合成によって接合する(図4)。すなわち、N末端表面吸着領域(1)、抗原性決定領域(3)およびC末端抗原性決定領域(2)を、共有結合的に接合させて、抗原性ポリペプチドを産生する(4)。アプローチは、完全に保護された側鎖を有するペプチドセグメントが固相技術によって合成された後、液相技法または固相技法においてペプチド結合によって接合される、いわゆるハイブリッド合成と類似である。このハイブリッドアプローチは、アミノ酸残基36個のペプチドであるT20の合成に適用されているが、広く用いられていない。
【0066】
図5は、2つの表面吸着領域(120および130)と1つの抗原性決定領域(110)とを含む抗原性ポリペプチドの態様を図示する。120はN末端表面吸着領域である。130はC末端吸着領域である。それぞれの表面吸着領域は1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含む。抗原性ポリペプチドは、1つのポリペプチド鎖における表面吸着領域(複数)および抗原性決定領域(複数)の独自の組み合わせである。リンカーペプチド配列(140)を用いて、1つのポリペプチド鎖中に抗原性決定領域を含む複合ポリペプチドを生成することができる。1つの態様において、抗原性決定領域(110)はアミノ酸残基約50〜約130個を含み、直径約2 nmを有する小さい機能的領域である。代わりの態様において、抗原性決定領域(110)は、アミノ酸残基約250個を含み、直径約4 nmを有する大きい機能的領域である。伸展したコンフォメーションにおけるアミノ酸残基16個の長さは約5.5 nmである。
【0067】
1つの態様において、抗原性ポリペプチドは、表面吸着領域が2つのアミノ酸配列モチーフを含む、1つの抗原性決定領域と1つの表面吸着領域とを含む。もう1つの態様において、抗原性ポリペプチドは、1つの抗原性決定領域と、1つが抗原性決定領域のN末端に付着し、もう1つが抗原性決定領域のC-末端に付着する2つの表面吸着領域とを含み、それぞれの表面吸着領域は1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含み、2つの表面吸着領域は同じかまたは異なるが、同じ極性を有する。(図2)表面吸着領域の目的は、多層被膜を構築するために反対に荷電した表面へのポリペプチドの吸着を可能にすることである。
【0068】
抗原性決定領域の数および/または長さに対する、抗原性ポリペプチド中の表面吸着領域の数は、溶解度の必要条件に関連する。たとえば、抗原性決定領域がたとえばアミノ酸残基3個の短いアミノ酸配列である場合、適した荷電表面上に抗原性ポリペプチドを吸着させるために必要なのは、少なくともアミノ酸残基12個のアミノ酸配列モチーフ1つのみであると考えられる。対照的に、抗原性決定領域が、たとえばアミノ酸残基120個を含むタンパク質の可溶性の折りたたまれた構造ドメインである場合、抗原性ポリペプチドが水溶性で吸着に適するために十分な電荷を付与するために、典型的にアミノ酸配列モチーフ2つで十分であると考えられる。モチーフは、ドメインのN末端で隣接して存在することができ、ドメインのC末端で隣接して存在することができるか、または1つがN末端で1つがC末端に存在し、隣接せずに存在できる。
【0069】
表面吸着領域の組み合わせた長さは、抗原性ポリペプチドの抗原性決定領域におけるアミノ酸残基の数よりも、抗原性ペプチドの吸着が自然に起こるために克服されなければならない熱エネルギーによる消散に関連する。したがって、抗原性決定領域の重合化の程度が2倍増加しても、抗原性ポリペプチドの表面吸着領域の有効な結合にとって2倍長い表面吸着領域を必ずしも必要としない。表面に対する抗原性ポリペプチドの吸着の物理的基礎は、静電気的誘引(およびバルク溶液への対イオンの放出)であり、ドメインの正確な質量はナノメートルの長さスケールでは二次的なものであり、抗原性ポリペプチドの吸着を打ち消す主な「力」は熱エネルギーである。このことを考慮して、当業者は、特定の対象抗原性決定領域の表面に対する物理的吸着に適した表面吸着領域を容易に設計することができる。
【0070】
抗原性決定領域は、アミノ酸残基3〜約250個を含む。抗原性決定領域という用語には、抗原性モチーフと抗原性ドメインの双方が含まれる。抗原性モチーフは比較的短く、したがって一般的に緻密な三次元の襞を有しない。それにもかかわらず、それらは特異的抗原性を示すことができる。抗原性モチーフは一般的に緻密な三次元の襞を有しないが、それらはα-へリックスおよびβ-シートのような二次構造の要素を含みうる。抗原性決定領域が抗原性モチーフである場合、これは典型的にアミノ酸残基3個〜約50個を含むと考えられる。抗原性決定領域が抗原性ドメインである場合、これは典型的にアミノ酸残基約50個〜約250個を含むと考えられる。
【0071】
抗原性ドメインは、本明細書において、折りたたまれた場合に、自身の疎水性コアを作製するポリペプチドの少なくとも一部として定義される。本来のタンパク質は、たとえばそのそれぞれが独立した、構造および機能の単位として作用する、複数の構造ドメインを含む可能性がある。1つのドメインの生物機能は、同じポリペプチド鎖における触媒ドメインおよび結合ドメインの場合と同様に、もう1つの機能とは完全に無関係となりえて、この場合2つのドメインは、互いに全く相互作用しない。本来のタンパク質におけるドメイン間の構造的相互作用は、可能であるばかりでなく、比較的一般的である。そのような場合、1つの構造ドメインともう1つの構造ドメインとの間の相互作用は、あるタイプの四次構造として見なされうる。
【0072】
本明細書において用いられるように、抗原性ドメインは典型的に、最少でアミノ酸残基約50個を有し、最大でアミノ酸残基約250個を有する。原則的に、抗原性ポリペプチドがELBL沈着にとって適当な水溶性を有する限り、タンパク質に由来する任意の抗原性ドメインも、本明細書において概要したように、抗原性ペプチドにおいて用いることができる。1つの態様において、抗原性ドメインは、pH 4〜10で50μg/mLより大きい水溶性を有する。もう1つの態様において、抗原性ドメインは、pH 4〜10において1 mg/mLより大きいかまたは1 mg/mLに等しい水溶性を有する。なおもう1つの態様において、抗原性決定領域が抗原性ドメインを含む場合、第一の層抗原性ポリペプチドは少なくとも2つのアミノ酸配列モチーフを含む。
【0073】
抗原性ポリペプチドが、機能的ドメインの代わりに抗原性モチーフを含む場合、典型的に0.4より大きいかまたは0.4に等しい一残基あたりの実効電荷量を有すると考えられる。しかし、抗原性モチーフが一残基あたり0.4未満の実効電荷量を有する場合、1つまたは複数の表面吸着領域は典型的に、これを代償して溶解度および物理的吸着に関して適当な電荷特性を抗原性ポリペプチドに与えるために、一残基あたり0.4より大きい実効電荷量を有すると考えられる。
【0074】
ポリペプチドまたは抗原は、1つまたは複数の異なる抗原決定基を含んでもよい。抗原決定基は多重鎖のポリペプチドの免疫原性部分を指してもよい。
【0075】
本明細書において記述される抗原性ポリペプチドは、抗原性決定領域を含む。適した抗原性決定領域には、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、寄生虫抗原、腫瘍抗原、自己免疫に関係する抗原、および前述の抗原性決定領域の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれる。
【0076】
1つの態様において、抗原性決定領域はウイルス抗原を含む。適したウイルス抗原には、gag、pol、およびenv遺伝子の遺伝子産物、Nefタンパク質、逆転写酵素、および他のHIV成分を含む、HIV-1抗原のようなレトロウイルス抗原;B型肝炎ウイルスのS、M、およびLタンパク質、B型肝炎ウイルスのプレ-S抗原、および他の肝炎、たとえばA、B、およびC型肝炎ウイルス成分のような肝炎ウイルス抗原;血液凝集素、ノイラミニダーゼ、および他のインフルエンザウイルス成分のようなインフルエンザウイルス抗原;麻疹ウイルス融合タンパク質および他の麻疹ウイルス成分のような麻疹ウイルス抗原;タンパク質E1およびE2、ならびに他の風疹ウイルス成分のような風疹ウイルス抗原;VP7scおよび他のロタウイルス成分のようなロタウイルス抗原;エンベロープ糖タンパク質Bおよび他のサイトメガロウイルス抗原成分のようなサイトメガロウイルス抗原;M2タンパク質および他のRSウイルス抗原成分のようなRSウイルス抗原;前初期タンパク質、糖タンパク質D、および他の単純ヘルペスウイルス抗原成分のような単純ヘルペスウイルス抗原;gpI、gpII、および他の水痘-帯状疱疹ウイルス抗原成分のような水痘-帯状疱疹ウイルス抗原;タンパク質E、M-E、M-E-NS 1、NS 1、NS 1-NS2A、80%E、および他の日本脳炎ウイルス抗原成分のような日本脳炎ウイルス抗原;狂犬病糖タンパク質、狂犬病核タンパク質、および他の狂犬病ウイルス抗原成分のような狂犬病ウイルス抗原;ならびに前述の抗原性決定領域の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0077】
もう1つの態様において、抗原性決定領域は細菌抗原を含む。適した細菌抗原には、百日咳毒素、線維様血液凝集素、ペルタクチン、FIM2、FIM3、アデニル酸シクラーゼ、および他の百日咳菌抗原成分のような百日咳細菌抗原;ジフテリア毒素または類毒素および他のジフテリア菌抗原成分のようなジフテリア菌抗原;破傷風毒素または類毒素および他の破傷風菌抗原成分のような破傷風菌抗原;Mタンパク質および他の連鎖球菌抗原成分のような連鎖球菌抗原;グラム陰性桿菌抗原;熱ショックタンパク質65(HSP65)、30 kDa主要分泌タンパク質、抗原85A、および他のマイコバクテリア抗原成分のようなヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)抗原;ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)抗原成分;ニューモリシンおよび他の肺炎球菌抗原成分のような肺炎球菌抗原;インフルエンザ菌(haemophilus influenza)抗原;炭疽防御抗原および他の炭疽菌抗原成分のような炭疽菌抗原;rompsおよび他のリケッチア菌抗原成分のようなリケッチア菌抗原;ならびに前述の抗原性決定領域の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0078】
もう1つの態様において、抗原性決定領域は真菌抗原を含む。適した真菌抗原には、カンジダ真菌抗原成分;熱ショックタンパク質60(HSP60)および他のヒストプラスマ真菌抗原成分のようなヒストプラスマ真菌抗原;莢膜多糖類および他のクリプトコックス真菌抗原成分のようなクリプトコックス真菌抗原;胞子嚢様抗原および他のコクシジオイデス真菌抗原成分のようなコクシジオイデス真菌抗原;トリコフィチンおよび他のコクシジオイデス真菌抗原成分のような白癬真菌抗原;ならびに前述の抗原性決定領域の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0079】
もう1つの態様において、抗原性決定領域は、寄生虫抗原を含む。適した原虫および他の寄生虫抗原には、メロゾイト表面抗原、スポロゾイト表面抗原、スポロゾイト周囲抗原、生殖母細胞/配偶子表面抗原、血液段階抗原pf1 55/RESAおよび他のマラリア原虫抗原成分のような熱帯熱マラリア原虫抗原;SAG-1、p30、および他のトキソプラズマ抗原成分のようなトキソプラズマ抗原;グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、パラミオシン、および他の充血吸虫抗原成分のような充血吸虫抗原;gp63、リポホスホグリカンおよびその関連タンパク質、ならびに他のリーシュマニア抗原成分のようなリーシュマニア主要抗原および他のリーシュマニア抗原;75-77 kDa抗原、56 kDa抗原、および他のトリパノソーマ抗原成分のようなクルーズトリパノソーマ抗原;ならびに前述の寄生虫抗原の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0080】
1つの態様において、抗原性決定領域は腫瘍抗原を含む。適した腫瘍抗原には、前立腺特異抗原(PSA)、テロメラーゼ;P-糖タンパク質のような多剤耐性タンパク質;MAGE-1、αフェトプロテイン、癌胎児抗原、変異体p53、乳糖腫ウイルス抗原、黒色腫および他の腫瘍細胞のガングリオシドまたは他の炭水化物含有成分;ならびに前述の腫瘍抗原の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれるがこれらに限定されるわけではない。いかなるタイプの腫瘍細胞からの抗原も、本明細書に記述の組成物および方法において用いられうると企図される。
【0081】
もう1つの態様において、抗原性決定領域は自己免疫に関係する抗原を含む。自己免疫に関係することが示されている適した抗原には、多発性硬化症のミエリン塩基性タンパク質、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質、およびプロテオリピッドタンパク質、およびリウマチ性関節炎のCIIコラーゲンタンパク質;ならびに前述の抗原性決定領域の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0082】
標的疾患の病原体の抗原に関する、抗原決定基またはエピトープに関する知識は、合成ペプチドワクチンの開発にとって有用な開始点となりうる。病原体、その作用メカニズム、および免疫系が感染症に反応する方法に関することがより知られるにつれて、成功するワクチンを調製する見込みは良好となる。病原体のゲノムの構造の完全な決定は、公知の病原体に関する抗原性決定部位の決定において役立ちうるルーチンで迅速な技法である。
【0083】
特異的抗体に関する、抗原決定基またはエピトープの位置および組成を決定するための方法および技術は、当技術分野において周知である。これらの技術は、抗原性決定領域として用いるためのエピトープを同定および/または特徴付けするために用いることができる。1つの態様において、抗原特異的抗体のためのエピトープのマッピング/特徴付けのための方法は、抗原性タンパク質における露出したアミン/カルボキシルの化学的改変を用いるエピトープ「フットプリンティング」によって決定することができる。そのようなフットプリンティング技術の一例は、受容体およびリガンドタンパク質アミドプロトンの水素/重水素交換、結合、および逆交換が起こり、タンパク質結合に関与する骨格アミド基が逆交換から保護されて、したがって重水素化されたままである、HXMS(質量分析によって検出される水素-重水素交換)を用いることである。関連する領域は、ペプチドタンパク質分解、高速(fast)マイクロボア高速液体クロマトグラフィー分離、および/またはエレクトロスプレーイオン化質量分析によって、この時点で同定される可能性がある。
【0084】
もう1つの態様において、適したエピトープ同定技術は、典型的に遊離の抗原および抗体のような抗原結合ペプチドと複合体を形成した抗原の二次元NMRスペクトルにおけるシグナルの位置が比較される、核磁気共鳴エピトープマッピング(NMR)である。抗原は典型的に、15Nによって選択的に同位元素標識され、NMRスペクトルには抗原に対応するシグナルのみが認められ、抗原結合ペプチドからのシグナルは認められない。抗原結合ペプチドとの相互作用に関係するアミノ酸を起源とする抗原シグナルでは典型的に、遊離の抗原のスペクトルと比較して複合体のスペクトルにおける位置がシフトし、結合に関係するアミノ酸はそのようにして同定される可能性がある。
【0085】
もう1つの態様において、エピトープマッピング/特徴付けはペプチドスキャニングによって行ってもよい。このアプローチにおいて、抗原のポリペプチド鎖の全長に及ぶ一連の重なり合うペプチドを調製して、免疫原性に関して個々に試験する。対応するペプチド抗原の抗体力価を、標準的な方法、たとえば酵素結合免疫吸着測定法によって決定する。その後、様々なペプチドを免疫原性に関して等級付けすることができる。このことにより、ワクチン開発についてペプチド設計を選択するための経験的な土台を提供する。
【0086】
もう1つの態様において、プロテアーゼ消化技術も同様に、エピトープマッピングおよび同定の状況において有用となる可能性がある。抗原決定基-関連領域/配列を、プロテアーゼ消化、たとえばトリプシンを抗原性タンパク質の終夜(0/N)消化に約1:50の比率で37℃、pH 7〜8で用いた後に、ペプチド同定のために質量分析(MS)を用いることによって決定してもよい。抗原性タンパク質によってトリプシン切断から保護されたペプチドを、次にトリプシン消化に供した試料と、CD38BPと共にインキュベートした後、たとえばトリプシンによる消化に供した試料との比較によって(それによって結合体のフットプリントが明らかとなる)同定してもよい。キモトリプシン、ペプシン等のような他の酵素を、類似のエピトープ特徴付け法において同様に用いても、または代わりに用いてもよい。その上、プロテアーゼ消化は、公知の抗体を用いて公知の抗原性タンパク質内での潜在的な抗原決定基配列の位置を決定するための迅速な方法を提供することができる。
【0087】
本発明はさらに、免疫原性組成物に向けられる。該免疫原性組成物は、多価電解質の2つまたはそれ以上の層を含む多層被膜を含み、ここでは隣接する層が反対に荷電した多価電解質を含み、第一の層多価電解質が抗原性ポリペプチドを含む。免疫原性組成物は任意で、さらなる抗原性ポリペプチドを含んだ1つまたは複数の層をさらに含む。
【0088】
1つの態様において、免疫原性組成物は、同じかまたは異なる抗原性ポリペプチド上に複数の抗原性決定領域を含む。複数の抗原性決定領域は、同じかまたは異なる感染物質に由来してもよい。1つの態様において、免疫原性組成物は、独自の複数の抗原性ポリペプチドを含む。もう1つの態様において、免疫原性組成物は、それぞれのポリペプチド内で多数の抗原性決定領域を含んだ複数の免疫原性ペプチドを含む。もう1つの態様において、ポリペプチドは、脂質部分に共役させたかまたは担体タンパク質部分に共役させた、抗原性ペプチド混合物を含む共役ペプチドである。これらの免疫原性組成物の長所は、多数の抗原決定基または1つの直線状抗原決定基の多数のコンフォメーションが1つの合成ワクチン粒子に存在しうる点である。多数の抗原決定基を有するそのような組成物は、おそらく多数のエピトープに対する抗体を生じさせ、生物の免疫系によって生成される抗体の少なくともいくつかが、たとえば病原体を中和するかまたは癌細胞における特異的抗原を標的とする見込みを増加させうる。
【0089】
1つの態様において、免疫原性組成物は、抗原性ポリペプチドのそれぞれが同じ病原体の免疫原である、複数の抗原性ポリペプチドを含む。任意で、抗原性組成物には、同じ病原体の異なるエピトープに向けられる複数の抗原性ポリペプチドが含まれる。異なるエピトープは任意で病原体表面の非常に近位の領域において見いだされる。このように、1つの態様において、第一の層多価電解質は、2つまたはそれ以上の抗原決定基を含む。もう1つの態様において、多層被膜は、1つまたは複数の第二の抗原性決定領域に共有結合した1つまたは複数の第二の表面吸着領域を含んだ第二の抗原性ポリペプチドを含み、該第二の抗原性ポリペプチドおよび該1つまたは複数の第二の表面吸着領域は同じ極性を有し、該1つまたは複数の第二の表面吸着領域は1つまたは複数の第二のアミノ酸配列モチーフを含み、1つまたは複数の第二のアミノ酸配列モチーフはアミノ酸5〜15個からなりかつ一残基あたりの実効電荷量は0.4より大きいかまたは0.4に等しく、該1つまたは複数の第二の抗原性決定領域はアミノ酸残基3〜約250個を含み、該第二の抗原性ポリペプチドはホモポリマーではなく、少なくとも15アミノ酸長であり、かつpH 4〜10で50μg/mlより大きい水溶性を有する。
【0090】
免疫原性組成物の免疫原性は、多くの方法で増強される可能性がある。1つの態様において、多層被膜は任意で1つまたは複数のさらなる免疫原性生物活性分子を含む。必要ではないが、1つまたは複数のさらなる免疫原性生物活性分子は典型的に、1つまたは複数のさらなる抗原性決定領域を含むと考えられる。適したさらなる免疫原性生物活性分子には、たとえば薬物、タンパク質、オリゴヌクレオチド、核酸、脂質、リン脂質、炭水化物、多糖類、リポ多糖類、または前述の生物活性分子の1つもしくは複数を含む組み合わせが含まれる。他のタイプのさらなる免疫増強物質には、機能的膜断片、膜構造、ウイルス、病原体、細胞、細胞凝集体、オルガネラ、または前述の生物活性構造の1つまたは複数を含む組み合わせが含まれる。
【0091】
1つの態様において、多層被膜は任意で1つまたは複数のさらなる生物活性分子を含む。1つまたは複数のさらなる生物活性分子は薬物となりうる。または、免疫原性組成物は中空の外皮の形状またはコアを取り巻くコーティングの形状である。コアは、多様な異なる封入体、たとえば薬物を含む、たとえば1つまたは複数のさらなる生物活性分子を含む。このように、本明細書において記述されるように設計された免疫原性組成物はまた、併用治療のために、たとえば免疫応答を誘発するため、および標的化薬物送達のために用いられる可能性がある。適した治療材料の「結晶」型でのミクロンサイズの「コア」に、抗原性ポリペプチドを含む免疫原性組成物を封入して、得られたマイクロカプセルを薬物送達のために用いる可能性がある。コアは何らかの条件で、たとえば高いpHかまたは低温では不溶性であって、徐放性放出が起こる条件で可溶性であってもよい。結晶上の表面電荷は、ζ-電位測定(液体培地においてコロイド様粒子上の静電気単位の変化を決定するために用いられる)によって決定することができる。マイクロカプセルの内容物がマイクロカプセル内部から周辺の環境に放出される速度は、封入外皮の厚さ、外皮において用いられる抗原性ポリペプチド、ジスルフィド結合の存在、ペプチドの架橋の程度、温度、イオン強度、およびペプチドを組み立てるために用いられる方法を含む多くの要因に依存すると考えられる。一般的にカプセルが厚ければ厚いほど、放出時間はより長くなる。
【0092】
もう1つの態様において、さらなる免疫原性生体分子は、望ましい免疫原の宿主生物合成を指示することができるか、または病原体から遺伝情報の発現を干渉することができる、核酸配列である。前者の場合、そのような核酸配列は、たとえば当業者に公知の方法によって適した発現ベクターに挿入される。インビボで高効率の遺伝子移入を産生するために適した発現ベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、およびワクシニアウイルスベクターが含まれる。そのような発現ベクターの操作上のエレメントには、少なくとも1つのプロモーター、少なくとも1つのオペレーター、少なくとも1つのリーダー配列、少なくとも1つのターミネーターコドン、ならびにベクター核酸の適当な転写およびその後の翻訳にとって好ましいかまたは必要な任意の他のDNA配列が含まれる。特に、そのようなベクターは、少なくとも1つの選択マーカーと共に宿主生物によって認識される少なくとも1つの複製開始点、および核酸配列の転写を開始することができる少なくとも1つのプロモーター配列を含むと企図される。後者の場合、そのような核酸配列の多数のコピーは、たとえば静脈内送達のためのカプセルの形状でポリペプチド多層被膜内への核酸の封入による送達のために調製されるであろう。
【0093】
組換え型発現ベクターの構築において、対象核酸配列の多数のコピー(E1またはコア)およびその付随の操作上のエレメントをそれぞれのベクターに挿入してもよいことにさらに注意すべきである。そのような態様において、宿主生物は、一ベクターあたりのより多くの量の望ましいE1、またはコアタンパク質を産生すると考えられる。ベクターに挿入される可能性がある核酸配列の多数のコピー数は、その大きさのせいで、適当な宿主微生物に転移され、複製され、および転写される得られたベクターの能力によってのみ制限される。
【0094】
さらなる態様において、免疫原性組成物は、抗原性ペプチド/免疫原性生物活性分子の混合物を含む。これらは、同じ抗原に由来してもよく、それらは同じ感染物質もしくは疾患からの異なる抗原であってもよく、またはそれらは異なる感染物質もしくは疾患に由来してもよい。したがって、複合体または混合物は、多数の抗原に対して、およびおそらく送達系の抗原性ペプチド/タンパク質成分によって特定されるように多数の感染物質または疾患に対して免疫応答を生じると考えられる。
【0095】
1つの態様において、免疫原性組成物は、病原体に対する免疫系からの反応を誘発する。1つの態様において、ワクチン組成物は、薬学的に許容される担体と共に免疫原性組成物を含む。このように、病原性の疾患に対するワクチン接種法は、ワクチン接種を必要とする被験者に免疫原性組成物の有効量を投与する段階を含む。
【0096】
薬学的に許容される担体には、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、多量体アミノ酸、アミノ酸コポリマー、不活性ウイルス粒子等のような大きく代謝の遅い高分子が含まれるがこれらに限定されるわけではない。薬学的に許容される塩、たとえば塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、または硫酸塩のような無機塩と共に、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、または安息香酸塩のような有機酸の塩も同様に組成物において用いることができる。組成物はまた、水、生理食塩水、グリセロール、およびエタノールのような液体と共に湿潤剤、乳化剤、またはpH緩衝剤のような物質を含みうる。リポソームも同様に担体として用いることができる。
【0097】
脊椎動物において、疾患または病原体に対して免疫応答を誘発する方法(たとえば、ワクチン接種)は、抗原性ポリペプチドを含む多層被膜を含む免疫原性組成物を投与する段階を含む。1つの態様において、抗原性ポリペプチドは、多層被膜の最も外側または溶媒に曝露される層に存在する。免疫原性組成物は、追加免疫投与を伴うか、または伴わずに、経口、鼻腔内、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、舌下、または経皮投与することができる。一般的に、組成物は、用量処方と両立する方法で、予防的および/または治療的に有効である量で投与される。投与される免疫原性組成物の正確な量は、医師の判断に依存し、各被験者にとって特有であってもよい。免疫原性組成物の治療的有効量は、中でも投与スケジュール、投与される抗原の単位用量、組成物が他の治療物質と併用して投与されるか否か、ならびにレシピエントの免疫状態および健康に依存することは当業者に明らかであると考えられる。治療的有効量は、患者の特徴(年齢、体重、性別、状態、合併症、他の疾患等)に基づいて当業者の医療従事者によって決定されうる。さらに、さらなるルーチン試験が行われるにつれて、様々な患者における様々な状態の処置のために適当な用量レベルに関するより特異的な情報が現れ、当業者は、治療状況、レシピエントの年齢および全身健康を考慮して適切な投与を確認することができる。
【0098】
免疫原性組成物は任意でアジュバントを含む。アジュバントは一般的に、非特異的に宿主の免疫応答を強化する物質を含む。アジュバントの選択は、ワクチン接種される被験者に依存する。好ましくは、薬学的に許容されるアジュバントを用いる。たとえば、ヒトのためのワクチンは、フロイントの完全および不完全アジュバントを含む油または炭化水素乳化アジュバントを避けるべきである。ヒトでの使用に適したアジュバントの一例はミョウバン(アルミナゲル)である。しかし、動物のためのワクチンは、ヒトでの使用にとって適当でないアジュバントを含んでもよい。
【0099】
本発明はさらに、以下の非制限的な実施例によって説明される。
【0100】
実施例
実施例1:単一の抗原決定基を有するHIV-1のためのワクチン組成物
抗原性ポリペプチドは、1つの抗原性決定領域を含み、抗原性決定領域は病原体からのポリペプチド配列であり、表面吸着領域は抗原性決定領域のN末端に存在する。1つの例において、抗原性決定領域は公知の病原体における抗原決定基、たとえばHIV-1、たとえばペプチドARP7022または

である。適した抗原性ポリペプチドは、

を含む。
【0101】
抗原性ペプチドの表面吸着領域は、KKKAKKKGKKKAKKKG (SEQ ID NO: 3)を含む。24残基のARP7022配列(SEQ ID NO:1)は、HIV-1糖タンパク質41(残基593〜616位)の保存された免疫優性領域を表し、ほとんどのヨーロッパおよびアフリカのHIV+血清によって認識される(Lange et al. (1993) AIDS 7, 461)。SEQ ID NO:2に対応する完全長のペプチドは、当技術分野において公知の任意の手段の1つによって合成される。人工ウイルスは、このペプチドについて多数の方法で、たとえばポリ(L-リジン)とポリ(L-グルタミン酸)の二重層5層とSEQ ID NO:2に対応するペプチドの最後の層とを含む免疫原性組成物を、炭酸カルシウムの直径3μmの微小粒子上にLBLによって沈着させることによって調製される。このようにして調製された人工ウイルスは、SEQ ID NO:2によって表される免疫原性ペプチドの多数のコピーで形成される外部または表面が曝露される層を有する。各層を吸着させるためのポリペプチド濃度は、pH 7の水溶液において2 mg-mL-1である。各層の吸着時間は20分である。微粒子を各ペプチド吸着段階の間に遠心によって「すすぐ」。いくつかの場合において、最終的な人工ウイルス構築物の炭酸カルシウム鋳型粒子はEDTAによる処置によって溶解する。このように調製された構造は、人工ウイルスまたは合成ワクチンと呼ばれうる。それらは、その表面抗原決定基において、本発明の場合、無傷のHIV-1を認識する抗体を生成する免疫応答を誘発することが知られている抗原性決定因子の多数のコピーを「表示する」。技術は、予防医学およびHIV-1処置にとって有望である。
【0102】
実施例2:多数の抗原決定基を有するHIV-1のためのワクチン組成物
多数の抗原決定基を有する免疫原性組成物には主な2つのタイプが存在する。1)同時に吸着されたそれぞれの抗原性ポリペプチドは、同一の複数の抗原性決定領域を含み、ポリペプチドの抗原性決定領域は同じかまたは異なり、抗原性決定領域は同じかまたは異なる病原体に基づき、かつ2)同時に吸着された多数の抗原性ペプチドはそれぞれ、複数の機能的単位の1つを含み、機能的領域は同じ病原体に存在するか、または基づかない。2つのタイプのペプチドの混合溶液は、原則的に、1つの表記のタイプまたは他のタイプの溶液よりも、人工ウイルスの表面層の製作のためにあまり有用ではないことに言及することは重要である。いずれかのタイプの表面吸着領域は当初、ペプチドからペプチドへと同一である必要はないと考えられる。その上、表面吸着領域は、複合抗原性ペプチドのN末端、C末端、同じ複合ペプチドの機能的領域の間、またはこれらの可能性のいくつかの組み合わせに存在しうる。
【0103】
多数の抗原決定基を有する1型免疫原性組成物。本実施例において、抗原性ポリペプチドは、抗原性決定領域において2つの抗原配列を含み、抗原配列はいずれも同じ病原体に由来し、抗原性決定領域のN末端、抗原性決定領域のC末端、および抗原配列の間に表面吸着領域が存在する。1つの例において、抗原決定基は公知の病原体、たとえばHIV-1、たとえばペプチドARP7022、または

およびLQARILAVERYLKDQQL (SEQ ID NO:4)に由来する。適した抗原性ポリペプチドは、

を含む。
【0104】
複合抗原性ペプチドの表面吸着領域は、KKKAKKKGKKKAKKKG (SEQ ID NO: 3)を含む。SEQ ID NO:4は、HIV-1糖タンパク質41の残基67〜83位に対応する。先に述べたように、SEQ ID NO:5に対応する完全長のペプチドを、当技術分野において公知の任意の手段の1つによって合成する。人工ウイルスを、このペプチドについて多くの方法によって、たとえばポリ(L-リジン)とポリ(L-グルタミン酸)の二重層5層とSEQ ID NO:5に対応するペプチドの最終層とを含む免疫原性組成物を、直径3μmの炭酸カルシウム微粒子にLBLによって沈着させることによって調製する。このようにして調製した人工ウイルスは、SEQ ID NO:5によって表される免疫原性ペプチドの多数のコピーで形成される外部または表面が曝露される層を有する。各層を吸着させるためのポリペプチド濃度は、pH 7の水溶液で2 mg-mL-1である。各層の吸着時間は20分間である。各ペプチドの吸着段階の間に遠心によって微粒子を「すすぐ」。いくつかの場合において、最終的な人工ウイルス構築物の炭酸カルシウム鋳型粒子を、EDTAによる処置によって溶解する。このようにして調製された構造は、人工ウイルスまたは合成ワクチンと呼ばれうる。それらは、本発明の場合、その表面抗原決定基において、無傷のHIV-1を認識する抗体を生成する免疫応答を誘発することが知られている抗原決定基の多数のコピーを「表示する」。技術は、予防医学およびHIV-1治療のみならず、癌治療(抗原性配列が癌の細胞表面マーカーを表す)に対しても有望である。
【0105】
実施例3:HIV-1およびSARSの免疫原性組成物
抗原性ポリペプチドは、2つの抗原性決定領域と2つの表面吸着領域とを含み、抗原性決定領域は1つの病原体からのポリペプチド配列であり、表面吸着領域は抗原性ポリペプチドのN末端およびC末端に存在し、第一の抗原性決定領域は短いリンカーによって中心の表面吸着領域から離れている。1つの例において、1つの抗原性決定領域は、病原体、たとえばHIV-1における公知の抗原決定基、たとえばペプチドARP7022、または

であり、および他の抗原性決定領域、すなわちYSRVKNLNSSEG (SEQ ID NO:6)は、重度急性呼吸器症候群(SARS)の推定のエンベロープタンパク質に由来し、短いリンカーは1つのグリシン残基、Gである。

先にも述べたように、複合抗原性ペプチドの表面吸着領域はそれぞれ、KKKAKKKGKKKAKKKG (SEQ ID NO: 3)を含む。
【0106】
実施例4:1つの抗原決定基を有する真菌に関するワクチン組成物
抗原性ポリペプチドは、1つの抗原性決定領域を含み、抗原性決定領域は、病原体からのポリペプチド配列であり、表面吸着領域は抗原性決定領域のC末端に存在する。1つの例において、抗原性決定領域は、タンパク質におけるシグナル配列、たとえば病原体、たとえばコクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis)のAg2/PRA、たとえばMQFSHALIALVAAGLASA (SEQ ID NO: 8)である。適した抗原性ポリペプチドは、

を含む。
【0107】
抗原性ペプチドの表面吸着領域は、KKKAKKKGKKKAKKKG (SEQ ID NO: 3)を含む。Ag2/PRA(SEQ ID NO:8)からの18残基配列は、呼吸器疾患であるコクシジオイデス真菌症(サンホアキン渓谷熱)の原因物質であるコクシジオイデス・イミチスの領域を表す。SEQ ID NO:9に対応する完全長のペプチドを当技術分野に公知の任意の手段の1つによって合成する。多層被膜を、このペプチドに関して多数の方法で、たとえばポリ(L-リジン)とポリ(L-グルタミン酸)の二重層5層とSEQ ID NO:9に対応するペプチドの最終層とを含む免疫原性組成物を、直径3μmの炭酸カルシウム微粒子にLBLによって沈着させることによって、調製する。このようにして調製された被膜は、SEQ ID NO:9によって表される免疫原性ペプチドの多数のコピーで形成される外部または表面が曝露される層を有する。各層を吸着させるためのポリペプチド濃度は、pH 7の水溶液で2 mg-mL-1である。各層の吸着時間は20分間である。各ペプチドの吸着段階の間に遠心によって微粒子を「すすぐ」。いくつかの場合において、最終的な人工ウイルス構築物の炭酸カルシウム鋳型粒子を、EDTAによる処置によって溶解する。このようにして調製された構造は、人工ウイルスまたは合成ワクチンと呼ばれうる。それらは、その表面抗原決定基において、本発明の場合無傷のコクシジオイデス・イミチスを認識する抗体を生成する免疫応答を誘発することが知られている抗原決定基の多数のコピーを「表示する」。技術は、予防医学およびコクシジオイデス・イミチス処置にとって有望である。
【0108】
実施例5:多数の抗原決定基を有する細菌に関するワクチン組成物
抗原性ポリペプチドは、1つの抗原性決定領域を含み、抗原性決定領域は病原性細菌からの2つのポリペプチド配列を含み、表面吸着領域は、抗原性決定領域のC末端、抗原性決定領域のN末端、および病原性細菌からの2つの配列の間に存在する。一例において、抗原決定基は、タンパク質、たとえばストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)MT8148の表面タンパク質抗原PAc、たとえば

および

である。適した抗原性ポリペプチドは、

を含む。
【0109】
抗原性ペプチドの表面吸着領域は、KKKAKKKGKKKAKKKG (SEQ ID NO: 3)を含む。PAc遺伝子産物の配列(SEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:11)は、表面タンパク質抗原におけるアラニンに富む反復領域の一部を表し、これは虫歯に対するワクチンのための抗原性成分として多くの注目を集めている。SEQ ID NO:12に対応する完全長のペプチドを、当技術分野において公知の任意の手段の1つによって合成する。多層被膜を、このペプチドに関して多くの方法で、たとえばポリ(L-リジン)とポリ(L-グルタミン酸)の二重層5層とSEQ ID NO:12に対応するペプチドの最終層とを含む免疫原性組成物を、直径3μmの炭酸カルシウム微粒子にLBLによって沈着させることによって調製する。このようにして調製された被膜は、SEQ ID NO:12によって表される免疫原性ペプチドの多数のコピーで形成される外部または表面が曝露される層を有する。各層を吸着させるためのポリペプチド濃度は、pH 7の水溶液で2 mg-mL-1である。各層の吸着時間は20分間である。各ペプチドの吸着段階の間に遠心によって微粒子を「すすぐ」。いくつかの場合において、最終的な人工ウイルス構築物の炭酸カルシウム鋳型粒子を、EDTAによる処置によって溶解する。このようにして調製された構造は、人工ウイルスまたは合成ワクチンと呼ばれうる。それらは、本発明の場合、その表面抗原決定基において、無傷のS.ミュータンス(S. mutans)を認識する抗体を生成する免疫応答を誘発することが知られている抗原決定基の多数のコピーを「表示する」。技術は、予防医学およびS.ミュータンス処置にとって有望である。
【0110】
要約すると、ELBLによって免疫原性ペプチドに関して製作された人工ウイルスは、以下の長所を証明する。合成ペプチドワクチンは、特定のワクチン安全性試験の必要性を不要にし、ワクチン産生の費用およびリスクを低減させる。たとえば、特異的毒性試験を用いて、たとえば細胞培養分析によって弱毒化ウイルス粒子または死滅ウイルス粒子を含むワクチンに関してビリオンの不完全な不活化を検出して、時間と資源を節約する。免疫原としてウイルスまたは他のタイプの病原体を用いないワクチン構築物は、そのような安全性試験を不要にする。さらに、本発明のウイルスを繁殖させるために、哺乳動物細胞培養が必要ではないことから、特に合成ペプチドおよび人工ウイルスがGMP条件で産生される場合には、ウイルス、微生物、または真核生物からの望ましくない材料が本発明のワクチンに混入するリスクはきわめて低い。
【0111】
本明細書において請求される発明のさらなる長所には、LBLにとって適したペプチドの合成に対する「カセット」アプローチによる製作の単純性および迅速な反応が含まれる。
【0112】
その上、本アプローチによって、1つの直線的抗原決定基の多数のコンフォメーションが1つの合成ワクチン粒子の表面上に同時に「表示される」ことが可能となり、配列の多数のコンフォメーションに対する抗体を生じ、それによって生物の免疫系によって生成される抗体の少なくともいくつかが、病原体を中和するか、または癌細胞上の特異的抗原を標的とする見込みを増加させる。先にも述べたように、異なる機能的領域を含むペプチドを、1つの合成ワクチン構築物に組み入れると、保護のスペクトルを増加させることができる可能性があると想像される。本明細書において請求される合成ワクチンは、多数の病原体に向けられる多数の抗原決定基を表して、1回のワクチン接種で多くの異なる病原体に対する保護を提供できる。
【0113】
合成ワクチンプラットフォームは、きわめて一般的で、原則的にいかなる病原体に関しても作用しうる。このように、遺伝子操作、適した発現宿主への遺伝子の移入、遺伝子の発現、組換え型タンパク質またはウイルス粒子の精製等を必要とする他の公知のワクチン接種アプローチとは異なり、本明細書に開示の合成ワクチンは病原体の脅威に対する反応時間の減少を提供できる。
【0114】
「1つ(a)」、「1つ(an)」および「その」という用語、ならびに類似の言及(特に以下の特許請求の範囲の文脈において)の使用は、本明細書においてそれ以外であることを明記している場合を除き、または文脈に明らかに矛盾する場合を除き、単数形と複数形の双方を含むと解釈される。本明細書において用いられる第一、第二等の用語は、任意の特定の順序を指すことを意味するのではなく、単にたとえば複数の層を指すために便宜上用いられる。「含む」、「有する」、「含まれる」および「含有する」という用語は、特に明記していなければ、開放端の用語として(すなわち、「が含まれるがこれらに限定されるわけではない」ことを意味する)と解釈される。値の範囲の引用は、本明細書において特に明記していなければその値の範囲内に入るそれぞれの個々の値に対して個別に参照するための簡便な方法として役立つと単に意図され、それぞれの個々の値はそれらが本明細書において個々に引用されているように明細書に組み入れられる。全ての範囲のエンドポイントがその範囲に含まれ、独立して組み合わせ可能である。本明細書において記述された方法は全て、本明細書において特に明記していなければ、または本文に明らかに矛盾していなければ、適した順序で行うことができる。任意のおよび全ての例、例示的な用語(たとえば、「のような」)は、それ以外であることを請求している場合を除き、本発明を単によりよく説明すると意図され、本発明の範囲に対する制限を課すものではない。本明細書におけるいかなる用語も、本明細書において用いられる本発明の実践にとって必須であるとして任意の非請求要素を示すと解釈してはならない。
【0115】
本発明は例示的な態様を参照して記述してきたが、様々な変更を行ってもよく、同等物をその要素の代わりに置換してもよく、それらも本発明の範囲に含まれることは当業者に理解されると考えられる。さらに、本発明の教示に対して特定の状況または材料を適合させるために多くの改変を行ってもよく、それらも本発明の本質的な範囲に含まれる。したがって、本発明は本発明の実施に関して企図される最善の様式であると開示される特定の態様に限定されず、本発明には添付の特許請求の範囲の範囲内に入る全ての態様が含まれるであろうと意図される。その全ての起こりうる変化における上記の要素のいかなる組み合わせも、本明細書においてそうでないことを示している場合を除き、または本文と明らかに矛盾している場合を除き、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】反対に荷電したポリペプチドのアセンブリの略図である。
【図2】1つの抗原性決定領域(3)と、1つが抗原性決定領域のN末端に付着し(1)、もう1つが抗原性決定領域のC末端に付着した(2)、2つの表面吸着領域(1,2)とを含む抗原性ポリペプチドの態様を図示する。
【図3】液相合成、固相合成、または組換え型ペプチド産生による、LBLのための抗原性ポリペプチドの異なる3つの領域の独立した調製を図示する。
【図4】抗原性ペプチド(4)の3つの領域の接合を図示する。
【図5】2つの表面吸着領域(120および130)および1つの抗原性決定領域(110)を含む抗原性ポリペプチドの態様を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価電解質の2つまたはそれ以上の層を含む多層被膜を含む免疫原性組成物であって、隣接する層が反対に荷電した多価電解質を含み、
第一の層多価電解質(layer polyelectrolye)が、1つまたは複数の抗原性決定領域に共有結合した1つまたは複数の表面吸着領域を含んだ第一の抗原性ポリペプチドを含み、該抗原性ポリペプチドと該1つまたは複数の表面吸着領域とが同じ極性を有し、
該1つまたは複数の表面吸着領域が、アミノ酸5〜15個からなり、かつ0.4より大きいかまたは0.4に等しい一残基あたりの実効電荷量を有する、1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含み、かつ
該1つまたは複数の抗原性決定領域がアミノ酸残基3〜約250個を含み、
該第一の抗原性ポリペプチドがホモポリマーではなく、少なくとも15アミノ酸長であり、pH 4〜10で50μg/mlより大きい水溶性を有し、
第二の層が、1,000より大きい分子量を有し、かつ一分子あたり少なくとも5個の電荷を有し、かつ第一の層ポリペプチドと反対の電荷を有する、多価陽イオン材料または多価陰イオン材料を含む第二の層多価電解質を含む、
免疫原性組成物。
【請求項2】
抗原性ポリペプチドが多層被膜の外層に存在する、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
抗原決定基が、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、寄生虫抗原、腫瘍抗原、自己免疫に関係する抗原、または前述の抗原決定領域の1つもしくは複数の組み合わせを含む、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
第一の層多価電解質が、2つまたはそれ以上の抗原決定基を含む、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
2つまたはそれ以上の抗原決定基が、同じかまたは異なる病原体または標的疾患に由来する、請求項4記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
1つまたは複数の第二の抗原性決定領域に共有結合した1つまたは複数の第二の表面吸着領域を含んだ第二の抗原性ポリペプチドをさらに含む、請求項1記載の免疫原性組成物であって、
該第二の抗原性ポリペプチドと該1つまたは複数の第二の表面吸着領域とが同じ極性を有し、
該1つまたは複数の第二の表面吸着領域が、アミノ酸5〜15個からなり、0.4より大きいかまたは0.4に等しい一残基あたりの実効電荷量を有する1つまたは複数の第二のアミノ酸配列モチーフを含み、かつ
該1つまたは複数の第二の抗原性決定領域がアミノ酸残基3〜約250個を含み、
第二の抗原性ポリペプチドがホモポリマーではなく、少なくとも15アミノ酸長であり、かつpH 4〜10で50μg/mlより大きい水溶性を有する、
免疫原性組成物。
【請求項7】
第一の抗原決定基および第二の抗原決定基が、同じかまたは異なる病原体または標的疾患に由来する、請求項6記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
多層被膜がさらなる免疫原性生物活性分子をさらに含む、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
さらなる免疫原性生物活性分子が、薬物、オリゴヌクレオチド、核酸、脂質、リン脂質、炭水化物、多糖類、リポ多糖類、または前述の生物活性分子の1つまたは複数の組み合わせを含む、請求項8記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
抗原性ポリペプチドが、約1 mg/mLより大きいかまたは約1 mg/mLに等しい水溶性を有する、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
抗原性決定領域がアミノ酸残基3〜約50個を含む抗原性モチーフを含み、かつ抗原性ポリペプチドが、中性pHで0.4より大きいかまたは0.4に等しい一残基あたりの電荷量を有する、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
抗原性決定領域がアミノ酸残基約50〜約250個を含む抗原性ドメインである、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
抗原性ドメインが、pH 4〜10で50μg/mLより大きい水溶性を有する、請求項12記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
多層被膜が1つまたは複数の非ペプチド生物活性分子を封入する、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
多層被膜がマイクロカプセルの形状である、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項16】
マイクロカプセルがコアを含み、かつコアがさらなる生物活性分子を含む、請求項15記載の免疫原性組成物。
【請求項17】
さらなる生物活性分子が、薬物、タンパク質、オリゴヌクレオチド、核酸、脂質、リン脂質、炭水化物、多糖類、リポ多糖類、または前述の生物活性分子の1つもしくは複数の組み合わせを含む、請求項16記載の免疫原性組成物。
【請求項18】
以下を含む免疫原性組成物を脊椎生物に投与する段階を含む、脊椎生物における免疫応答を誘発する方法:
多価電解質の2つまたはそれ以上の層を含む多層被膜であって、隣接する層が反対に荷電した多価電解質を含み、
第一の層多価電解質が、1つまたは複数の抗原性決定領域に共有結合した1つまたは複数の表面吸着領域を含んだ抗原性ポリペプチドを含み、該抗原性ポリペプチドと該1つまたは複数の表面吸着領域とが同じ極性を有し、
該1つまたは複数の表面吸着領域が、アミノ酸5〜15個からなり、かつ0.4より大きいかまたは0.4に等しい一残基あたりの実効電荷量を有する1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含み、かつ
該1つまたは複数の抗原性決定領域がアミノ酸残基3〜約250個を含み、
該抗原性ポリペプチドがホモポリマーではなく、少なくとも15アミノ酸長であり、かつpH 4〜10で50μg/mlより大きい水溶性を有し、
第二の層が、1,000より大きい分子量を有し、かつ一分子あたり少なくとも5個の電荷を有し、かつ第一の層ポリペプチドと反対の電荷を有する、多価陽イオン材料または多価陰イオン材料を含む第二の層多価電解質を含む、多層被膜。
【請求項19】
免疫原性組成物が筋肉内または皮下に投与される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
以下の段階を含む、免疫原性組成物を作製する方法:
第一の層を形成するために基板表面上に第一の層多価電解質を沈着させる段階であって、
ここで第一の層多価電解質が、1つまたは複数の抗原性決定領域に共有結合した1つまたは複数の表面吸着領域を含んだ第一の抗原性ポリペプチドを含み、該抗原性ポリペプチドと該1つまたは複数の表面吸着領域とが同じ極性を有し、
該1つまたは複数の表面吸着領域が、アミノ酸5〜15個からなり、かつ0.4より大きいかまたは0.4に等しい一残基あたりの実効電荷量を有する1つまたは複数のアミノ酸配列モチーフを含み、かつ
該1つまたは複数の抗原性決定領域がアミノ酸残基3〜約250個を含み、
該第一の抗原性ポリペプチドがホモポリマーではなく、少なくとも15アミノ酸長であり、かつpH 4〜10で50μg/mlより大きい水溶性を有する、沈着させる段階;
第二の層を形成するために第二の層多価電解質を第一の層多価電解質上に沈着させる段階であって、第二の層が、1,000より大きい分子量を有し、かつ一分子あたり少なくとも5個の電荷を有し、かつ第一の層ポリペプチドと反対の電荷を有する、多価陽イオン材料または多価陰イオン材料を含む第二の層多価電解質を含む、沈着させる段階。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−513651(P2009−513651A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537917(P2008−537917)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2006/041666
【国際公開番号】WO2007/050702
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(508206771)アーティフィシャル セル テクノロジーズ インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】