説明

免震システムのロッキング防止装置

【課題】簡単且つ安価な構成により複数のシリンダ連結体同士が相互に移動負荷を伝達して確実なロッキング防止を行えるようにする。
【解決手段】免震対象物4の下部に設けた複合体とアキュムレータとに接続した複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結して免震対象物4の周縁に沿って配置したシリンダ連結体26と、シリンダ連結体26の端部同士を接続する移動同期装置18とを備えたロッキング防止装置と、免震対象物4の下部に複数配置した3次元免震装置とからなる免震システムの移動同期装置18を、一方のシリンダ連結体26の端部に接続した第1シリンダ50と、他方のシリンダ連結体26の端部に接続した第2シリンダ52と、両シリンダ50,52の近い側の液室50a,52a同士を接続する液圧配管53と、近い側の液室50a,52aに連通した液圧調整装置55とからなるシリンダ伝達装置56とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単且つ安価な構成にて複数のシリンダ連結体同士が相互に移動負荷を伝達して確実なロッキング防止を行えるようにした免震システムのロッキング防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビル或いは原子炉発電設備等のような大重量の免震対象物を免震する装置としては、荷重支持シリンダの液圧室を空気アキュムレータに接続した構成の液圧免震装置(3次元免震装置)が提案されており、この種の液圧免震装置としては特許文献1に示すものがある。
【0003】
図7は、特許文献1に開示された液圧免震装置を示しており、基礎1上に、薄いゴム2aと薄い鋼板2bを積層して横方向(水平方向)の免震を行うようにした積層ゴム2を固定し、該積層ゴム2の上部に荷重支持シリンダ3を積み重ねて固定した複合体39を構成している。該複合体39の荷重支持シリンダ3は、免震を行う免震対象物4の底面に下方に突出するよう固定した例えば略球形のスイベル5に上端が嵌合したピストン6を有しており、該ピストン6を包囲するシリンダ7の内部底面と前記ピストン6の下端との間にはシリンダ加圧室8が形成されており、該シリンダ加圧室8をアキュムレータ10に接続することによって液圧免震装置Mを構成している。図中13はピストン6とシリンダ7のシール材である。
【0004】
前記シリンダ加圧室8には油等の作動液が供給してあり、また、アキュムレータ10には可撓区画壁11によりガス室が形成してあり、前記シリンダ加圧室8の作動液が作動液配管9によりアキュムレータに導かれてガス室12内部の空気等のガスを圧縮するようになっている。前記アキュムレータ10は、図7に示す如く固定部材14によって免震対象物4側に固定する場合と、図示しないが固定部材によって基礎1側に固定する場合とがある。前記スイベル5は、地震によって基礎1が免震対象物4に対して横方向に相対移動した際の複合体39の傾きを吸収するためのものであるが、このようなスイベル5は備えられていないものや、他の方式にて液圧免震装置Mの傾きを吸収するようにしたものもある。
【0005】
前記液圧免震装置Mは、図8に示すように免震対象物4の下部に多数規則的に配置しており、免震対象物4の重量は各液圧免震装置Mのスイベル5及びピストン6を介してシリンダ加圧室8の作動液に伝えられ、更に、シリンダ7から積層ゴム2を介して基礎1に伝えられる。前記免震対象物4の重量により加圧されたシリンダ加圧室8内の作動液は作動液配管9によりアキュムレータ10に伝えられ、可撓区画壁11を介してガス室12の空気を圧縮することにより、前記免震対象物4を一定の高さに保持するようになっている。
【0006】
地震の発生によって基礎1が縦方向に振動した場合には、基礎1と共に積層ゴム2とシリンダ7がピストン6に対して上下動し、シリンダ加圧室8の間隔が減少する動き(基礎1が上昇)のときにはシリンダ加圧室8の作動液がアキュムレータ10に供給され、また、シリンダ加圧室8の間隔が増加する動き(基礎1が下降)のときにはアキュムレータ10の作動液がシリンダ加圧室8に供給されるように作用し、この時、作動液配管9の流動抵抗によって振動の衝撃が減衰され、且つアキュムレータ10のガス室12の空気の圧縮弾性によって免震対象物4は軟らかく支持される。従って、アキュムレータ10に接続された荷重支持シリンダ3は、基礎1の縦方向の振動の緩衝のみに有効に作用する。
【0007】
また、地震の発生によって基礎1が横方向に振動した場合には、その動きに応じて積層ゴム2が横方向に撓んで変形し、これにより、免震対象物4は横方向に免震される。基礎1が横方向に移動すると荷重支持シリンダ3に対して積層ゴム2が横方向にずれて変形するために複合体39が傾く力を受けることになるが、この傾きに対しては、ピストン6がスイベル5を中心に回転して折れ曲がることにより無理な力が発生するのを防止している。従って、上記したように、シリンダ加圧室8をアキュムレータ10に接続した荷重支持シリンダ3と積層ゴム2とからなる液圧免震装置Mによれば3次元免震が可能となる。
【0008】
一方、図7に示したような液圧免震装置Mを図8に示すように免震対象物4の下部に多数配置した構成としても、図12に示す如く重心が高い位置にある免震対象物4を免震する場合には、地震によって免震対象物4がロッキング(前後或いは左右方向等への揺動)を起こすことが考えられ、ロッキングが生じた際には、免震対象物4の下部中心に配置した液圧免震装置Mに比して外周部に配置した液圧免震装置Mのシリンダ7がピストン6に対してより大きなストロークで上下に作動することになる。
【0009】
しかし、このように大きなストロークで上下に作動することが許容でき、しかも免震対象物4を柔らかく支持できる液圧免震装置Mの設計は非常に困難であり、装置構成も非常に大型になってしまうという問題がある。
【0010】
この問題を解決するために、前記特許文献1では、図8〜図11に示す如く、免震対象物4の下部に前記したように複数の液圧免震装置Mを配置した上で、免震対象物4の周縁下部にロッキング防止装置41を備えて免震システムを構成している。
【0011】
前記ロッキング防止装置41は、図8に示す如く、両ロッド型の複数のロッキング抑制シリンダ15のピストン16を連結ロッド17で直線状に連結した構成のシリンダ連結体26を、免震対象物4の周縁下部に沿って配置しており、免震対象物4が矩形の場合には周縁の各4辺に沿って配置している。
【0012】
更に、前記免震対象物4の周縁下部には、図9に示す如く、積層ゴム2と荷重支持シリンダ3とを一体に積み重ねた構成の複合体39を、前記シリンダ連結体26を挟むように2列に配置している。尚、図9に示す複合体39は、基礎1上に積層ゴム2を固定する一方、荷重支持シリンダ3のシリンダ7を免震対象物4の下面に固定し、前記荷重支持シリンダ3のピストン6に嵌合したスイベル5を有する固定部材5aを前記積層ゴム2に固定した場合を示している。図中40はピストン6の外周に設けられた摺動部材である。
【0013】
シリンダ連結体26を挟むように2列に配置した複合体39は、例えば図8に示すように4個1組のブロック19(19a,19b,19c,19d)に区画し、各ブロック19における各荷重支持シリンダ3のシリンダ加圧室8に接続した作動液配管9を、図11に示す如く1つの集合配管20に集合して、対応するロッキング抑制シリンダ15(15a,15b,15c,15d)の一側の液室Aに接続している。この時、前記作動液配管9は、図8に示す如く、外周部に配置するシリンダ連結体26に沿って回転する方向において各ロッキング抑制シリンダ15のピストン16の同じ側(例えば回転方向前側)の液室Aに夫々接続している。
【0014】
更に、各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの他側の液室Bには、図10に示すように、内部に可撓区画壁11を有して液室Bの作動液によってガス室12内部の空気等のガスを圧縮するようにしたアキュムレータ25を接続している。又、図示例では、上記アキュムレータ25のガス室12には、連絡管28を介して補助アキュムレータ29が接続してあり、前記連絡管28には流路断面積を設定できるようにした絞り30が設けられている。尚、上記補助アキュムレータ29は備えなくてもよい。
【0015】
更に、前記液室Aに連通している集合配管20の夫々には、図11に示す如く、液圧装置21から所定圧力の作動液がマニホールド22及び液圧配管23を介して供給されて免震対象物4の傾きなどに対する設定・調整が行えるようになっている。尚、液圧配管23は各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの一側の液室Aに直接接続されていてもよい。また、前記各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの他側の液室Bには、前記液圧装置21からの一定圧力の作動液がマニホールド22及び液圧配管24を介して供給されている。
【0016】
前記シリンダ連結体26により免震対象物4のロッキングを防止するためには、免震対象物4のコーナ部に位置するシリンダ連結体26の端部間に、一方の連結ロッド17の押し引きの動きを90゜方向を変えて他方の連結ロッド17に押し引きとして伝える(免震対象物4の周縁に沿って配置した各連結ロッド17が平面的に同方向に回転するように移動させる)ための移動同期装置(角つなぎ機構)を備える必要がある。
【0017】
このために、図8では、免震対象物4のコーナ部における連結ロッド17の互いの端部に接続シリンダ31,32を取り付け、該接続シリンダ31,32の間を配管33,34で接続した移動同期装置18を構成しており、1つの連結ロッド17が一方向に押されると、この動きが前記移動同期装置18により90゜向きが変えられて他方の連結ロッド17が一方向に押されるようになっている。
【0018】
前記移動同期装置18で接続されたシリンダ連結体26は、免震対象物4の周縁に沿って無端状に構成されていてもよく、又は1箇所が切断された一筆書き状に構成されていてもよい。
【0019】
図8に示したように、免震対象物4の下部に多数の液圧免震装置Mを配置すると共に、免震対象物4の周縁下部にロッキング防止装置41を配置した免震システムによれば、免震対象物4は液圧免震装置Mにより3次元免震されると共に、ロッキング防止装置41によってロッキングが防止される。
【0020】
地震によって免震対象物4がロッキングを起こそうとした場合には、例えば図8の左辺の荷重支持シリンダ3のピストン6(図9)は上昇し、前記左辺と平行な図示しない右辺の荷重支持シリンダ3のピストン6は下降するように移動しようとする。この時、ピストン6が上昇しようとする側(図8の左側)では荷重支持シリンダ3のシリンダ加圧室8の作動液圧が高められて作動液配管9によりロッキング抑制シリンダ15の一方の液室Aに作動液が供給されて連結ロッド17を図8の矢印方向に移動させる力が働く。この力は移動同期装置18を介して相互に伝達されている外周部の連結ロッド17全体を時計回りに動かそうとする力として作用する。逆に、前記荷重支持シリンダ3のピストン6が下降しようとする側(図示しないが図8の右側)では、前記シリンダ加圧室8は作動液配管9を介してロッキング抑制シリンダ15の一方の液室Aの作動液を吸引することになるため、外周部の連結ロッド17全体を反時計回りに動かそうとする力を発生させることとなる。このように、ロッキング防止装置41は、免震対象物4がロッキングを起こそうとしても、上昇側と下降側で拮抗する力が連結ロッド17に作用するように構成されていることにより、免震対象物4のロッキングを防止する。
【0021】
一方、免震対象物4がロッキングを伴わない上下振動を行う場合は、外周部の連結ロッド17全体が同一回転方向に動き、ロッキング抑制シリンダ15の液室Bに接続されたアキュムレータ10のガス室12内の空気を均一に加圧/減圧することになるので、空気の圧縮弾性による軟らかい支持と作動液及び空気の流体抵抗による減衰が実現される。
【特許文献1】特開2003−206988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
図8に示したように従来の免震システムにおいては、免震対象物4の下部に図7に示す構成の液圧免震装置Mを多数配置すると共に、免震対象物4の周縁下部にロッキング防止装置41を配置して、免震対象物4の3次元免震とロッキングの防止とを行うようにしているが、前記液圧免震装置Mは複雑な構成を有していて高価であり、原子炉設備等においてはこの高価な液圧免震装置Mを非常に多数備える必要があるために、免震システム全体が非常に高価になるという問題がある。
【0023】
更に、前記ロッキング防止装置41におけるシリンダ連結体26の端部同士をコーナ部で連結する移動同期装置18は、図8では単に接続シリンダ31,32の間を配管33,34で接続した構成としているが、免震対象物4のロッキング発生時にはシリンダ連結体26に非常に大きな移動負荷が作用するため、前記接続シリンダ31,32には常に液漏洩の問題が考えられる。また、前記ロッキング防止装置41の設置時には、各シリンダ連結体26の位置の調整を行う必要がある。しかし、図8の従来の移動同期装置18においては前記液漏洩補償及びシリンダ連結体26の位置調整のための構成について全く開示しておらず、よって、前記従来のロッキング防止装置41においてロッキング防止を常に確実に行うことはできないという問題がある。
【0024】
本発明は、かかる従来装置のもつ問題点を解決すべくなしたもので、簡単且つ安価な構成により複数のシリンダ連結体同士が相互に移動負荷を伝達して確実なロッキング防止を行えるようにした免震システムのロッキング防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
請求項1の発明は、免震対象物の下部に設けた複合体のシリンダ加圧室とアキュムレータとに接続した複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結ロッドにより連結して免震対象物の周縁に沿って配置したシリンダ連結体と、該シリンダ連結体の端部同士を接続して一方の連結ロッドの移動負荷を他方の連結ロッドに伝える移動同期装置とを有するロッキング防止装置と、
免震対象物の下部に複数配置した3次元免震装置と
からなる免震システムの前記ロッキング防止装置であって、
前記移動同期装置が、一方のシリンダ連結体の端部に接続した第1シリンダと、他方のシリンダ連結体の端部に接続した第2シリンダと、両シリンダの近い側の液室同士を接続する液圧配管と、近い側の液室に連通した液圧調整装置とからなるシリンダ伝達装置であることを特徴とする免震システムのロッキング防止装置、に係るものである。
【0026】
請求項2の発明は、前記3次元免震装置が、空気バネ免震装置であることを特徴とする請求項1に記載の免震システムのロッキング防止装置、に係るものである。
【0027】
請求項3の発明は、前記移動同期装置が、前記両シリンダの近い側の液室同士を接続する液圧配管と、前記近い側の液室に連通した液圧調整装置を有し、且つ、前記両シリンダの遠い側の液室同士を接続する別の液圧配管と、遠い側の液室に連通した液圧調整装置を有するシリンダ伝達装置からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震システムのロッキング防止装置、に係るものである。
【0028】
請求項4の発明は、免震対象物の下部に設けた複合体のシリンダ加圧室とアキュムレータとに接続した複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結ロッドにより連結して免震対象物の周縁に沿って配置したシリンダ連結体と、該シリンダ連結体の端部同士を接続して一方の連結ロッドの移動負荷を他方の連結ロッドに伝える移動同期装置とを有するロッキング防止装置と、
免震対象物の下部に複数配置した3次元免震装置と
からなる免震システムの前記ロッキング防止装置であって、
前記移動同期装置が、一方のシリンダ連結体の端部に固定した第1ラックと、他方のシリンダ連結体の端部に固定した第2ラックと、両ラックに噛合するピニオンを有する歯車伝達装置からなることを特徴とする免震システムのロッキング防止装置、に係るものである。
【0029】
請求項5の発明は、免震対象物の下部に設けた複合体のシリンダ加圧室とアキュムレータとに接続した複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結ロッドにより連結して免震対象物の周縁に沿って配置したシリンダ連結体と、該シリンダ連結体の端部同士を接続して一方の連結ロッドの移動負荷を他方の連結ロッドに伝える移動同期装置とを有するロッキング防止装置と、
免震対象物の下部に複数配置した3次元免震装置と
からなる免震システムの前記ロッキング防止装置であって、
前記移動同期装置が、L形リンクの中間部が支点ピンにより回動可能に支持され一方のアーム部に一方のシリンダ連結体の端部がピン接続され、他方のアーム部に他方のシリンダ連結体の端部がピン接続されたリンク伝達装置からなることを特徴とする免震システムのロッキング防止装置、に係るものである。
【0030】
請求項6の発明は、前記3次元免震装置が、空気バネ免震装置であることを特徴とする請求項4又は5に記載の免震システムのロッキング防止装置、に係るものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、免震対象物の下部に、該免震対象物の重量を支持して3次元免震を行う複数の3次元免震装置を配置すると共に、免震対象物の周縁下部に、シリンダ連結体のロッド端部間を移動同期装置により連結したロッキング防止装置を配置して、免震対象物の3次元免震とロッキングの防止を同時に達成できるようにした免震システムにおいて、前記移動同期装置を、一方のシリンダ連結体の端部に接続した第1シリンダと、他方のシリンダ連結体の端部に接続した第2シリンダと、両シリンダの近い側の液室同士を接続する液圧配管と、前記近い側の液室に連通した液圧調整装置とを有するシリンダ伝達装置としたので、シリンダ連結体に作用する軸方向の大きな移動負荷を他のシリンダ連結体に確実に伝えることができる。この時、経時的に液漏洩れの問題が生じても液圧調整装置によって補償することができ、更に、シリンダ連結体26の設置時に前記液圧調整装置により連結ロッド17の位置を容易に調整でき、よって、ロッキング防止装置によるロッキング防止を常に確実に達成できる効果がある。
【0032】
上記において、3次元免震装置を空気バネ免震装置とすることにより、免震システム全体を安価に実施できる効果がある。
【0033】
また、前記移動同期装置を、前記両シリンダの近い側の液室同士を接続する液圧配管と、前記近い側の液室に連通した液圧調整装置を有し、且つ、前記両シリンダの遠い側の液室同士を接続する別の液圧配管と、遠い側の液室に連通した液圧調整装置を有するシリンダ伝達装置とすると、シリンダ連結体に対する移動負荷の作用時にシリンダ伝達装置の液室に負圧が生じて気泡吸引等を生じる問題を確実に防止できる効果がある。
【0034】
また、前記移動同期装置を、一方のシリンダ連結体の端部に固定した第1ラックと、他方のシリンダ連結体の端部に固定した第2ラックと、両ラックに噛合するピニオンを有する歯車伝達装置とすると、移動同期装置の構成を非常に簡略化できる効果がある。
【0035】
また、前記移動同期装置を、L形リンクの中間部が支点ピンにより回動可能に支持され一方のアーム部に一方のシリンダ連結体の端部がピン接続され、他方のアーム部に他方のシリンダ連結体の端部がピン接続されたリンク伝達装置とすると、移動同期装置の構成を非常に簡略化できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0037】
図1〜図6は、本発明の形態の一例を示したものであり、図1は本発明のロッキング防止装置における移動同期装置の一例を示す平面図、図2は移動同期装置の他の例を示す平面図、図3は移動同期装置の更に他の例を示す平面図、図4は移動同期装置の更に他の例を示す平面図、図5は図2の移動同期装置を備えたロッキング防止装置と、空気バネ免震装置による3次元免震装置とからなる免震システムの一例を示す平面図、図6は本発明の免震システムに用いる空気バネ免震装置の一例を示す切断正面図であり、図7〜図12と同一のものには同じ符号を付して詳細な説明は省略し、本発明の特徴部分についてのみ詳述する。
【0038】
本発明の免震システムのロッキング防止装置は、図5に示す如く、免震対象物4の周縁より内側の下部に、免震対象物4を基礎1上に支持するための3次元免震装置を配置する。図5では、3次元免震装置として図6に示すような構成を有する多数の空気バネ免震装置42を規則的に配置した場合を示しているが、図7に示した液圧免震装置M或いはその他の3次元免震が可能な装置を配置するようにしても良い。
【0039】
前記空気バネ免震装置42は、図6に示す如く、積層ゴム2からなる水平免震手段43と空気ばね室44a,44bからなる垂直免震手段45とを直列に連結している。垂直免震手段45は、補助タンクとしての空気ばね室44aを備えた作動体46に嵌合して昇降する外筒47を備えており、外筒47の内部には、空気ばね室44bを画成するダイヤフラム48が備えてあり、ダイヤフラム48内に画成された空気ばね室44bは前記補助タンクとしての空気ばね室44aとオリフィス45aを介して連通している。図6中72は、空気圧配管71を介して前記空気バネ免震装置42の空気バネ室44bに接続した空気圧縮機である。
【0040】
更に、前記免震対象物4の周縁下部には、図5に示す如くロッキング防止装置41を配置する。ロッキング防止装置41は、前記図8と同様に両ロッド型の複数のロッキング抑制シリンダ15のピストン16を連結ロッド17で直線状に連結した構成を有するシリンダ連結体26を、免震対象物4の周縁(四周)下部に配置している。更に、図9の構成を有する複合体39を、前記シリンダ連結体26を挟むように2列に配置し、この複合体39を4個1組のブロック19(19a,19b,19c,19d)に区画して、各ブロック19における各荷重支持シリンダ3のシリンダ加圧室8に接続した作動液配管9を、対応するロッキング抑制シリンダ15(15a,15b,15c,15d)の一側の液室Aに接続し、また、各ロッキング抑制シリンダ15a,15b,15c,15dの他側の液室Bにアキュムレータ25を接続している。更に、免震対象物4のコーナ部において、前記各シリンダ連結体26の端部間を移動同期装置18で連結し、これによりロッキング防止装置41を構成している。
【0041】
上記したように、免震対象物4の周縁下部の内側に配置した複数の空気バネ免震装置42と、免震対象物4の周縁下部に沿って配置したロッキング防止装置41とによって、免震対象物4は3次元免震されると同時にロッキングが防止される。
【0042】
しかし、前記ロッキング防止装置41を構成しているシリンダ連結体26の端部同士を免震対象物4のコーナ部で連結している移動同期装置18は、ロッキング防止を行うために経時的な液漏洩れの可能性があるためにこれを補償する必要があり、更に、シリンダ連結体26の設置時には連結ロッド17の位置調整を可能にする必要がある。
【0043】
このため、図1の移動同期装置18は、免震対象物4のコーナ部に位置する一方のシリンダ連結体26における連結ロッド17の端部にピストン49が固定された第1シリンダ50と、他方のシリンダ連結体26における連結ロッド17の端部にピストン51が固定された第2シリンダ52を設け、第1シリンダ50の液室50a,50bと第2シリンダ52の液室52a,52bのうち、互いに近い側の液室50a,52a同士を液圧配管53により接続し、更に、前記近い側の液室50a,52aに配管54にて連通させた液圧調整装置55を備えてシリンダ伝達装置56としている。この時、前記液圧調整装置55は、図1に示す如く前記液室50aに接続しても、或いは液室52aに接続しても、更には液圧配管53に接続してもよいが、細孔57によって接続することが好ましい。
【0044】
図2に示す移動同期装置18は、前記図1の構成に加えて、前記第1シリンダ50と第2シリンダ52における互いに遠い側の液室50b,52b同士を液圧配管58により接続し、更に、前記遠い側の液室50b,52bに配管59にて連通させた液圧調整装置60を備えてシリンダ伝達装置56としている。この時、前記液圧調整装置60は、図2に示す如く前記液室52aに接続しても、或いは液室52bに接続しても、更には液圧配管58に接続してもよいが、細孔57によって接続することが好ましい。また、図5に示すように、前記近い側の液室50a,52aと遠い側の液室50b,52bの夫々を切換手段60aを介して1つの液圧調整装置60bに接続するようにしてもよい。
【0045】
図3の移動同期装置18は、免震対象物4のコーナ部に位置する一方のシリンダ連結体26における連結ロッド17の端部に第1ラック61を固定し、他方のシリンダ連結体26における連結ロッド17の端部に第2ラック62を固定し、両ラック61,62に噛合するようにしたピニオン63を備えた歯車伝達装置64としている。この時、前記第1ラック61におけるピニオン63が噛合する側の反対側には反力受けローラ61aを設け、前記第2ラック62におけるピニオン63が噛合する側の反対側には反力受けローラ62aを設けている。
【0046】
図4の移動同期装置18は、L形リンク65の中間部が支点ピン66により回動可能に支持され一方のアーム部65aに一方のシリンダ連結体26における連結ロッド17の端部がピン67で接続され、他方のアーム部65bに他方のシリンダ連結体26における連結ロッド17の端部がピン67で接続されたリンク伝達装置68としている。尚、前記L形リンク65におけるピン67の接続部にはL形リンク65の回動による位置ずれを吸収するための長孔69が形成されている。更に、各シリンダ連結体26の位置調整を行った後に各シリンダ連結体26の端部をL形リンク65によって連結できるように、少なくとも一方のシリンダ連結体26の連結ロッド17には、両ねじ式の長さ調整具70を備えている。
【0047】
以下に、上記形態例の作用を説明する。
【0048】
図5に示すように、免震対象物4の周縁下部の内側には複数の空気バネ免震装置42を配置し、免震対象物4の周縁下部には複数の複合体39と、シリンダ連結体26と、各シリンダ連結体26における免震対象物4のコーナ部の端部間を連結する移動同期装置18とからなるロッキング防止装置41を配置した免震システムによれば、空気バネ免震装置42による免震対象物4の3次元免震と、ロッキング防止装置41による免震対象物4のロッキング防止とを同時に効果的に達成することができる。
【0049】
この時、ロッキング防止装置41のシリンダ連結体26を相互に連結する移動同期装置18を、図1では、一方のシリンダ連結体26の端部に接続した第1シリンダ50と、他方のシリンダ連結体26の端部に接続した第2シリンダ52と、両シリンダ50,52の近い側の液室50a,52a同士を接続する液圧配管53と、前記近い側の液室50a,52aに連通した液圧調整装置55とを有するシリンダ伝達装置56としたので、一方のシリンダ連結体26に作用する軸方向(矢印方向)の大きな移動負荷を他のシリンダ連結体26に確実に伝えられる。
【0050】
即ち、経時的に、前記シリンダ50,52に液漏れの問題が生じても液圧調整装置55によって補償することができ、更に、シリンダ連結体26の設置時に前記液圧調整装置55により連結ロッド17の位置を容易に調整することができ、これによって、ロッキング防止装置41によるロッキング防止を常に確実に達成できる。またこの時、液圧調整装置55を細孔57によって両シリンダ50,52の近い側の液室50a,52aに接続したので、液圧調整装置55の小さい圧力で液室50a,52aの液圧を調整することができる。
【0051】
また、図2では、前記移動同期装置18を、両シリンダ50,52の近い側の液室50a,52a同士を接続する液圧配管53と、前記近い側の液室50a,52aに連通した液圧調整装置55を備えると共に、前記両シリンダ50,52の遠い側の液室50b,52b同士を接続する別の液圧配管58と、遠い側の液室50b,52bに連通した液圧調整装置60を備えたシリンダ伝達装置56としたので、シリンダ連結体26に対する移動負荷の作用時にシリンダ伝達装置56の液室50a,52a、50b,52bに負圧が生じて気泡吸引等の問題が生じるのを確実に防止することができる。
【0052】
また、図3では、前記移動同期装置18を、一方のシリンダ連結体26の端部に固定した第1ラック61と、他方のシリンダ連結体26の端部に固定した第2ラック62と、両ラック61,62に噛合するピニオン63を有する歯車伝達装置64としたので、移動同期装置の構成を非常に簡略化できる効果がある。図3の歯車伝達装置64では、各シリンダ連結体26の位置調整を行った後に、前記第1ラック61と第2ラック62にピニオン63を噛合させることで容易に組立てることができる。また、前記第1ラック61と第2ラック62は反力受けローラ62aで支持されているので、一方のシリンダ連結体26の移動負荷を確実に他方のシリンダ連結体26に伝えることができる。
【0053】
また、図4では、前記移動同期装置18を、L形リンク65の中間部が支点ピン66により回動可能に支持され一方のアーム部65aに一方のシリンダ連結体26の端部をピン67で接続し、他方のアーム部65bに他方のシリンダ連結体26の端部をピン67で接続したリンク伝達装置68としたので、移動同期装置18の構成を非常に簡略化して一方のシリンダ連結体26の移動負荷を他方のシリンダ連結体26に確実に伝えることができる。更に、図4のリンク伝達装置68では、少なくとも一方のシリンダ連結体26の連結ロッド17に両ねじ式の長さ調整具70を備えたので、各シリンダ連結体26を設置して位置調整を行った後に、L形リンク65により各シリンダ連結体26の端部を容易に連結することができる。
【0054】
尚、本発明は上記形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の免震システムのロッキング防止装置を構成する移動同期装置の一例を示す平面図である。
【図2】移動同期装置の他の例を示す平面図である。
【図3】移動同期装置の更に他の例を示す平面図である。
【図4】移動同期装置の更に他の例を示す平面図である。
【図5】本発明を適用する免震システムのコーナ部の構成を示す平面図である。
【図6】本発明を適用する免震システムのロッキング防止装置に用いる空気バネ免震装置の一例を示す切断正面図である。
【図7】従来の液圧免震装置の一例を示す切断側面図である。
【図8】従来の免震システムの一例を示す平面図である。
【図9】本発明にも用いられる従来の複合体の構成を示す切断側面図である。
【図10】ロッキング防止装置の一部を示す切断側面図である。
【図11】従来のロッキング防止装置の液圧系統図である。
【図12】従来の液圧免震装置を備えた免震対象物においてロッキングが生じる状態を示した側面図である。
【符号の説明】
【0056】
4 免震対象物
15,15a,15b,15c,15d ロッキング抑制シリンダ
16 ピストン
17 連結ロッド
18 移動同期装置
25 アキュムレータ
26 シリンダ連結体
39 複合体
41 ロッキング防止装置
42 空気バネ免震装置
49 ピストン
50 第1シリンダ
50a,50b 液室
51 ピストン
52 第2シリンダ
52a,52b 液室
53 液圧配管
55 液圧調整装置
56 シリンダ伝達装置
58 液圧配管
60 液圧調整装置
61 第1ラック
62 第2ラック
63 ピニオン
64 歯車伝達装置
65 L形リンク
65a アーム部
65b アーム部
66 支点ピン
67 ピン
68 リンク伝達装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震対象物の下部に設けた複合体のシリンダ加圧室とアキュムレータとに接続した複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結ロッドにより連結して免震対象物の周縁に沿って配置したシリンダ連結体と、該シリンダ連結体の端部同士を接続して一方の連結ロッドの移動負荷を他方の連結ロッドに伝える移動同期装置とを有するロッキング防止装置と、
免震対象物の下部に複数配置した3次元免震装置と
からなる免震システムの前記ロッキング防止装置であって、
前記移動同期装置が、一方のシリンダ連結体の端部に接続した第1シリンダと、他方のシリンダ連結体の端部に接続した第2シリンダと、両シリンダの近い側の液室同士を接続する液圧配管と、近い側の液室に連通した液圧調整装置とからなるシリンダ伝達装置であることを特徴とする免震システムのロッキング防止装置。
【請求項2】
前記3次元免震装置が、空気バネ免震装置であることを特徴とする請求項1に記載の免震システムのロッキング防止装置。
【請求項3】
前記移動同期装置が、前記両シリンダの近い側の液室同士を接続する液圧配管と、前記近い側の液室に連通した液圧調整装置を有し、且つ、前記両シリンダの遠い側の液室同士を接続する別の液圧配管と、遠い側の液室に連通した液圧調整装置を有するシリンダ伝達装置からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震システムのロッキング防止装置。
【請求項4】
免震対象物の下部に設けた複合体のシリンダ加圧室とアキュムレータとに接続した複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結ロッドにより連結して免震対象物の周縁に沿って配置したシリンダ連結体と、該シリンダ連結体の端部同士を接続して一方の連結ロッドの移動負荷を他方の連結ロッドに伝える移動同期装置とを有するロッキング防止装置と、
免震対象物の下部に複数配置した3次元免震装置と
からなる免震システムの前記ロッキング防止装置であって、
前記移動同期装置が、一方のシリンダ連結体の端部に固定した第1ラックと、他方のシリンダ連結体の端部に固定した第2ラックと、両ラックに噛合するピニオンを有する歯車伝達装置からなることを特徴とする免震システムのロッキング防止装置。
【請求項5】
免震対象物の下部に設けた複合体のシリンダ加圧室とアキュムレータとに接続した複数のロッキング抑制シリンダのピストンを連結ロッドにより連結して免震対象物の周縁に沿って配置したシリンダ連結体と、該シリンダ連結体の端部同士を接続して一方の連結ロッドの移動負荷を他方の連結ロッドに伝える移動同期装置とを有するロッキング防止装置と、
免震対象物の下部に複数配置した3次元免震装置と
からなる免震システムの前記ロッキング防止装置であって、
前記移動同期装置が、L形リンクの中間部が支点ピンにより回動可能に支持され一方のアーム部に一方のシリンダ連結体の端部がピン接続され、他方のアーム部に他方のシリンダ連結体の端部がピン接続されたリンク伝達装置からなることを特徴とする免震システムのロッキング防止装置。
【請求項6】
前記3次元免震装置が、空気バネ免震装置であることを特徴とする請求項4又は5に記載の免震システムのロッキング防止装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−342934(P2006−342934A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171215(P2005−171215)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度、経済産業省、発電用新型炉技術確証試験(高速増殖炉技術確証試験)に関する委託業務、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【Fターム(参考)】