説明

免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体及びその製造方法

【課題】簡単な製造方法によって大量生産が可能な球状黒鉛鋳鉄によって球状体を構成し、鋳鋼によって形成される鍛造球に対応できる如く強度、延性を改良した免震構造用鋳鉄球を提供する。
【解決手段】球状黒鉛鋳鉄に通常含有されるC:3.2〜4%、Si:2.0〜2.6%、S:0.02%以下、Mg:0.02〜0.06%にMn:0.3%以下、Cr:0.05%以下、P:0.05%以下の溶湯を、1300〜1340℃で無押湯により鋳込み、凝固膨張により得た健全な免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体。
【選択図】図5

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地震による振動から建造物を保護するための免震構造、耐震構造、地震感知装置等において使用される球状黒鉛鋳鉄製球体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の免震構造においては、建物の上部構造と下部構造とを別体にて構成し、その上部構造、下部構造間に硬い球体を各種保持構造を以って一体部位に保持させ、球体にて上部構造を支える構造或いはダンパーによる振動吸収機構が採用されているものが多い(特許文献1,2,3)。
【0003】
その際に、硬い球体を保持する構造としては、ゴム板を積層したもの、皿体、凹円板等が使用されている。
又、免震構造によって、単位面積当り一球体を適宜間隔に配置したり、複数の小球を所望位置に配置したり、更には大小の球体を組み合わせて配置したり、その構造は多様である。
【0004】
然して、これら免震構造体に使用されている球体は、鋼球ということで材質は鋼である。製法としては、小径のものは鉄線(ワイヤーロッド)を圧造して造られている。そして、径が大きいものは鋼棒を同じく球体成形加工によって造られるが、金型が使用され、コスト高になる。
【0005】
特に、口径が大きくなる程、強度を必要とし鍛造品が使用されている。口径の大きな鋳造球体は、ハンマー、プレス等の鍛造機構を使用して製造するため大量生産に適さず生産コストが高い。
又、複数の小球を一箇所に配置したり、大小の球体を組み合わせ配置したりする場合の強度については、均等な圧縮強度を有する必要があるが、その球体と共に均一な球体の製造はコスト高の要因となっている。
【0006】
これに対して、鋳造による径の大きい球の製造は、鋼製に比べて大幅なコスト低減が見込まれるが、一般的に鋳造による球体の製造に対しては内部欠陥の発生で、その材質の信頼性がよく疑問視される。
【0007】
【特許文献1】特開平11−303456号公報
【特許文献2】特開平11−303289号公報
【特許文献3】特開2000−352438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明において、特に大きい球体の製造については、鋳造による内部欠陥の発生を防ぎ、ダクタイル鋳鉄を特殊条件下で製造することにより、極めて健全な無欠陥の球体を得ること及びそれにより得られた球体により、強度のあるしかも均一な製品をコスト廉く提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、第1に、球状黒鉛鋳鉄に通常含有されるC:3.2〜4%、Si:2.0〜2.6%、S:0.02%以下、Mg:0.02〜0.06%にMn:0.3%以下、Cr:0.05%以下、P:0.05%以下の溶湯を、1300〜1340℃で無押湯により鋳込み、凝固膨張により得た健全な免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体である。
【0010】
又、第2に、
M≦3cm
1=M/F>0.5cm
M>3cm
F≦6
Mはモジュラスで、鋳物の体積(V)/鋳物の冷却面積(S)、
Fは形状係数で、{(鋳物の幅(W)+鋳物の長さ(L))/鋳物の厚み(T)}、
Iは安全指標で、M/F
の条件を満たす免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体である。
【0011】
又、第3に、球状黒鉛鋳鉄に通常含有されるC:3.2〜4%、Si:2.0〜2.6%、S:0.02%以下、Mg:0.02〜0.06%にMn:0.3%以下、Cr:0.05%以下、P:0.05%以下の溶湯を、1300〜1340℃で無押湯に鋳込み、凝固膨張により得る健全な免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体の製造方法である。
【0012】
又、第4に、
M≦3cm
1=M/F>0.5cm
M>3cm
F≦6
Mはモジュラスで、鋳物の体積(V)/鋳物の冷却面積(S)、
Fは形状係数で、{(鋳物の幅(W)+鋳物の長さ(L))/鋳物の厚み(T)}、
Iは安全指標で、M/F
の条件を満たす免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によれば、免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体の健全性は、その形状に大きく関係し、中でも球は最も形状的に内部欠陥の発生し難いことが確認できた。そして、本願免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体は特定条件のもとで、材質的にも、また内部の健全性の面でも極めて信頼性の高いものとして、免震、耐震装置用の球体として使用でき、従来の鋼球にも増して使用範囲を拡大できる。例えば、ジョイント、その他の機械要素或いはその一部として使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ダクタイル鋳鉄とは、組織中のグラファイト(黒鉛)の形を球状にして強度や延性を改良した鋳鉄である。その特徴的な黒鉛の形状から球状黒鉛鋳鉄、ノデュラー鋳鉄とも呼ばれる。
ダクタイル鋳鉄は、鋼に劣らない機械的性質を持つだけでなく、特に鋼に比べ圧縮強度が極めて大きい鋳鉄の特性を兼ね備えている。圧縮強度及び疲労強度についての鋳鉄と鋳鋼の比較図1及び2により、その圧縮強度及び疲労強度について明らかにする。
【0015】
本願発明は、材質がダクタイル鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄)であれば、極めて健全性な、即ち無欠陥の球が押湯無しで製造可能であることが明らかにした。
即ち、ダクタイル鋳鉄は、他の金属と異なり、凝固時に生じる凝固膨張を利用することで凝固収縮を補う溶湯補給のための押湯を必要としない場合があるのである。本願発明は、その新知見を基に、球状黒鉛鋳鉄製球体及びその製造方法に関する。
【0016】
それによれば、無押湯による健全なダクタイル鋳鉄製球体の製造条件としては、第一に、鋳物形状としては次のような条件を満たすものが適する。
(i)M≦3cm
I=M/F>0.5cm
(ii)M>3cm
F≦6
ここで、
Mはモジュラスで、鋳物の体積(V)/鋳物の冷却表面積(S)、
Fは形状係数で、{(鋳物の幅(W)+鋳物の長さ(L))/鋳物の厚み(T)}、
Iは安全指標で、M/F
である。特に球形についてFを求めると、F=2となる。
【0017】
ところで、安全指標(I)は、鋳物のMが3cm以下のものについて溶湯性状(特にP含有量)によって若干異なるが、一般的に0.5cmより大きくなればなる程、無押湯方案の適用が可能となる。
そして、Mが3cmより大きい鋳物に対しては、形状係数(F)だけで押湯の有無が決定されるが、形状係数は図3によって求められる。
そして、その評価法によれば、球の球状係数は2であり、無押湯方案に最も適した形状であることが明らかである。
【0018】
第二に、溶湯の化学成分としては、ひけ性の面で次のように設定すべきである。一つに、炭素当量(CE)は共晶組成が望ましく、しかも高Cにした方が良い。
鋳鉄溶湯は、注湯後、温度低下と共に液体収縮するが、共晶温度に至り、オーステナイトによる収縮と共に黒鉛による膨張が起こる。そして、注湯から凝固までの収縮量と膨張量は、主に注湯温度とCE値によって変化する。この計算式は省略するが、膨張量は注湯温度が低いほど、CE値は共晶組成の4.3でSi量よりもC量を上げた方でより大きくなる。CE値は、下記式1によって求められ、4.3±0.1が望ましい。
【数1】

また一つに、最終凝固部に偏析しやすいMn、Crや、そして特にP含有量は出来るだけ少なくすべきである。因みに、Mnは<0.3%、Crは<0.05%、そしてPは<0.05%が望ましい。
【0019】
第三に、凝固時の凝固膨張を利用するために、強い鋳型を用い、上型と下型はボルト締めやクランプなどの機械的方法でしっかり合わせることが必要である。
【0020】
第四に、注湯温度は、出来るだけ低く、1300〜1340℃に抑える。1350℃の注湯温度でも、CE値はは4.3とし、高C、低Siにすることで、若干膨張量が収縮量を上回るが、安全を見て注湯温度を1340℃以下とする。
また、下限を1300℃とするのは、それ以下の温度ではドロス欠陥の発生傾向が大きくなることによる。
【0021】
第五に、湯口系は、ドロス欠陥の発生を抑えるために、加圧式よりも非加圧式が望ましい。即ち、湯口系において最小断面積(絞り)を堰にするよりも、湯口棒の近くに位置することが好ましい。
【0022】
第六に、注湯は、ドロス欠陥防止のため、「静かに、早く」行い、凝固膨張を最大限に利用すべく、堰は注湯終了後できるだけ早く凝固させること。
最適時間t(秒)は、製品重量をW(kg)とし、下記式2となるようにするのが好ましい。
【数2】

【0023】
第七に、鋳込みが早くなるように、充分なガス揚がりをたてること。充分な鋳造内のガス抜きのための空気孔(直径10〜30mm)を必要箇所に設けるのが良い。
以上の条件を満たす場合には、内部欠陥のないダクタイル鋳鉄鋳物が押湯無しで製造可能となるのである。
【0024】
以上の条件を満たす場合には、内部欠陥のないダクタイル鋳鉄が押湯無しで製造可能となるのである。
球は、形状的に最も有利であることは明らかであるが、各大きさ(口径)について式(i)及び式(ii)によって計算すると、表1のようになる。
【0025】
【表1】

【0026】
この計算結果によれば、口径60mmのものでも押湯無しの条件を満足しているが、安全率20%みる(I>0.6)として、口径としては80mm以上のものが適すると思われる。
又、計算結果から、口径が大なる程、安全率の高いことが明らかである。
【実施例1】
【0027】
重量比、C:3.56%、Si:2.53%、Mn:0.15%、P:0.030%、S:0.012%、Mg:0.045%、Cr:0.05%以下の溶湯を用い、ボルト締したフラン樹脂鋳型を用い、1330℃で、径100mm、125mm、150mm、200mmの球状黒鉛鋳鉄球を鋳造した。材質は、FCD450、引張り強さ:465N/mm、耐力:302N/mm、伸び:22%であった。
【0028】
図4に示す写真は、上記実施例1により製造した径125mm、200mmの鋳放しによる球状黒鉛鋳鉄製球体である。
【0029】
図5に示す写真は、上記実施例1により製造した球状黒鉛鋳鉄製球体(材質はFCD450)のうち、径125mm、150mm、そして200mmの球体の切断写真で、いわゆるカラーチェック(浸透探傷検査)による内部の健全性を示したものである。
【実施例2】
【0030】
実施例1の化学成分の球状黒鉛鋳鉄溶湯に対して、銅(Cu)を0.3%添加(残留0.23%)、更に1.0%添加(残留0.84%)して製造した球状黒鉛鋳鉄球も内部が健全であることを確認している。
因みに、図6は、Cu1%添加した球状黒鉛鋳鉄球の内部の健全性を示したものである。
【実施例3】
【0031】
これに対して、実施例1の化学成分の球状黒鉛鋳鉄溶湯に対し内部ひけ巣の発生が予測されるリン(P)0.1%添加(残留0.091%)の球状黒鉛鋳鉄球では、径125mm、150mm、そして200mmの何れかにも内部欠陥のあることが認められた。
因みに、図7は、P0.1%添加した径200mmの球状黒鉛鋳鉄球の内部欠陥を示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】鋳鋼と球状黒鉛鋳鉄の圧縮強度の比較図
【図2】鋳鋼と球状黒鉛鋳鉄の疲労強度の比較図
【図3】形状係数Fを求めるL.W.Tの決め方図
【図4】本願発明の実施例1による鋳放しの球状黒鉛鋳鉄球
【図5】本願発明の実施例1による球状黒鉛鋳鉄球の切断面写真
【図6】本願発明の実施例2による球状黒鉛鋳鉄球の切断面写真
【図7】本願発明の実施例3による球状黒鉛鋳鉄球の切断面写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状黒鉛鋳鉄に通常含有されるC:3.2〜4%、Si:2.0〜2.6%、S:0.02%以下、Mg:0.02〜0.06%にMn:0.3%以下、Cr:0.05%以下、P:0.05%以下の溶湯を、1300〜1340℃で無押湯により鋳込み、凝固膨張により得た健全な免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体。
【請求項2】
M≦3cm
1=M/F>0.5cm
M>3cm
F≦6
Mはモジュラスで、鋳物の体積(V)/鋳物の冷却面積(S)、
Fは形状係数で、{(鋳物の幅(W)+鋳物の長さ(L))/鋳物の厚み(T)}、
Iは安全指標で、M/F
の条件を満たす請求項1の免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体。
【請求項3】
球状黒鉛鋳鉄に通常含有されるC:3.2〜4%、Si:2.0〜2.6%、S:0.02%以下、Mg:0.02〜0.06%にMn:0.3%以下、Cr:0.05%以下、P:0.05%以下の溶湯を、1300〜1340℃で無押湯により鋳込み、凝固膨張により得る健全な免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体の製造方法。
【請求項4】
M≦3cm
1=M/F>0.5cm
M>3cm
F≦6
Mはモジュラスで、鋳物の体積(V)/鋳物の冷却面積(S)、
Fは形状係数で、{(鋳物の幅(W)+鋳物の長さ(L))/鋳物の厚み(T)}、
Iは安全指標で、M/F
の条件を満たす請求項3の免震構造用球状黒鉛鋳鉄製球体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−255705(P2010−255705A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104756(P2009−104756)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(302039612)有限会社張技術事務所 (1)
【Fターム(参考)】