説明

免震装置の荷重受け替え方法及び装置

【課題】建造物に複数台の免震装置を据付ける際に、建造物に免震装置の弾性変形分の沈込みが生じないようにして免震装置の受替えを可能にした方法及び装置を提供する。
【解決手段】建造物10における免震装置17の据付け個所の上下間に仮受けジャッキ35を据付けて、建造物10の荷重を仮受けする第1の工程と、建造物10における上部躯体30と下部躯体31との間に免震装置設置空間52を形成する第2の工程と、免震装置設置空間52における下部躯体31に免震装置17を取付けるとともに、この免震装置17と上部躯体30との間に受替えジャッキ39とくさび装置42を並べて取付ける第3の工程と、前記受替えジャッキ39により前記仮受けジャッキ35の仮受け荷重を受替えする第4の工程と、前記くさび装置42により免震装置17と躯体(上部躯体30又は下部躯体31)との隙間がなくなるように密着させる第5の工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の建造物を地震による損傷から防護するために上部躯体と下部躯体とを切断してその空間に免震装置を取り付けるための免震装置の荷重受け替え方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設の高層建造物における荷重のかかる基礎杭の一部を切断し、その空間に免震装置を据え付ける方法が知られている(特許文献1)。この方法は、図8に示すように、建造物10の基礎杭11の周辺に、複数本の補助杭13を打ち込み、これらの補助杭13の上端部と建造物10との空間に、第1のサポートジャッキ14を介在して前記建造物10を支持し、基礎杭11と建造物10とを切り離して建造物10の下方に耐圧盤12を形成し、この耐圧盤12の上に複数台の第2のサポートジャッキ15とオイルジャッキ16を据え付け、これらの第2のサポートジャッキ15とオイルジャッキ16の上に免震装置17を載せ、この免震装置17を、上部支承部18を介して建造物10の下面に密接させ、密接後にオイルジャッキ16を除去して、第2のサポートジャッキ15を下部支承部19にて耐圧盤12に固着するようにしたものである。前記第1のサポートジャッキ14及びオイルジャッキ16は、図9に示すように、下部台板21を固定し、上部台板20を螺杆23とともにオイルジャッキにて押し上げて建造物10に密接させ、ナット24を回しながら直管22に接触させて固定するものである。
【0003】
基礎杭の切断に代えて、既設の建造物の柱27の一部を切断し、免震装置を据え付ける方法が知られている(特許文献2)。この方法は、図7に示すように、建造物10の既設の柱27の切断個所に柱補強28と梁補強29を施し、切断個所の上下にブラケット等を取り付け、上下のブラケット間にジャッキを介在して建造物10の荷重を受けた後、柱27の一部を切断した空間に免震装置17を据え付け、据え付け後に上下のブラケットとジャッキを除去するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−246004号公報。
【特許文献2】特開2003−161044号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
免震装置17は、上部鋼板と下部鋼板との間に複数枚の薄い鋼板とゴム板とを交互に積層し、外周をゴムで被覆した汎用品が用いられる。
このような免震装置17は、特許文献1及び2の方法で据え付けたとき、据え付け作業時に建造物10の荷重を支えていた油圧ジャッキを除去すると、免震装置17に建造物10の全荷重がかか+るので、免震装置17は、弾性変形をして建造物10が数mm沈み込むおそれがある。
一般に、重要な既設構造物、老朽化した既設構造物、不静定構造物など許容変位量が小さい場合、仮受け杭などの支持条件や荷重の変動が予想されるような場合には、プレロード工(前もって荷重を導入する工法)を導入する必要がある。
【0006】
さらに詳しくは、特許文献1によれば、免震装置17の建造物10側への密接調整及び第2のサポートジャッキ15の支持固定作業後に、オイルジャッキ16を除去して第2のサポートジャッキ15を下部支承部19で固着作業を行うことにより免震装置17の受け替えが完成する。1個所の免震荷重受け替えを終了すると、順次、他の基礎杭について同様の作業を繰り返す、と記載されている。
しかし、複数個所の第1のサポートジャッキ14をいつ解放するのか、サポートジャッキを解放して免震装置に荷重を受け替えるときに免震装置の弾性変形に伴い建造物が沈み込むのを調整するのかどうかなどの調整プレロード工についての記載はない。もし、沈み込みを調整しないと、第1のサポートジャッキ14を解放したときに建造物10に免震装置の弾性変形分の沈み込みが生じる。
【0007】
また、特許文献2によれば、免震装置にレベル調整のためのレベル調整ボルトを有し、ジャッキの開放時に鉛直荷重の負担による免震装置の沈下量を含めたレベル調整が行われる、と記載されているが、複数の免震装置への荷重の受け替えをどのような方法で、どのような順序で行うかについての詳細な記載はない。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたもので、建造物に複数台の免震装置を据え付ける際に、建造物に免震装置の弾性変形分の沈み込みが生じないようにして免震装置の受け替えを可能にした受け替え方法および装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による免震装置の荷重受け替え方法は、
建造物10における免震装置17の据え付け個所の上下間に仮受けジャッキ35を据え付けて、建造物10の荷重を仮受けする第1の工程と、
建造物10における上部躯体30と下部躯体31との間に免震装置設置空間52を形成する第2の工程と、
免震装置設置空間52における上部躯体30と下部躯体31のいずれか一方の面に免震装置17を取り付けるとともに、この免震装置17における躯体に接していない面と上部躯体30と下部躯体31のいずれか他方の面との間に受け替えジャッキ39とくさび装置42を並べて取り付ける第3の工程と、
前記受け替えジャッキ39により前記仮受けジャッキ35の仮受け荷重を受け替えする第4の工程と、
前記くさび装置42により免震装置17と躯体(上部躯体30又は下部躯体31)との隙間がなくなるように密着させる第5の工程と、
受け替えジャッキ39と仮受けジャッキ35を除去し、くさび装置42を躯体と一体化する第6の工程と
からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、
建造物における免震装置の据え付け個所の上下間に仮受けジャッキを据え付けて、建造物の荷重を仮受けする第1の工程と、
建造物における上部躯体と下部躯体との間に免震装置設置空間を形成する第2の工程と、
この免震装置設置空間における上部躯体と下部躯体のいずれか一方の面に免震装置を取り付けるとともに、この免震装置における躯体に接していない面と上部躯体及び下部躯体のいずれか他方の面との間に受け替えジャッキとくさび装置を並べて取り付ける第3の工程と、
前記受け替えジャッキにより前記仮受けジャッキの仮受け荷重を受け替えする第4の工程と、
前記くさび装置により免震装置と躯体との隙間がなくなるように密着させる第5の工程と
からなるので、受け替えジャッキによる仮受けジャッキの仮受け荷重を受け替えし、くさび装置により免震装置と躯体との隙間がなくなるように密着させることにより、免震装置に、建造物の荷重をあらかじめ加えるという調整プレロード工が行われる。従って、免震装置への受け替えを行っても免震装置の弾性変形による建造物の沈み込みが生じないから、ジャッキを解放しても建造物に異常な応力が発生せず、損傷を与えることがない。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、
くさび装置により免震装置と上部躯体または下部躯体の隙間がなくなるように密着させる第5の工程の後に、受け替えジャッキと仮受けジャッキを除去し、くさび装置を躯体と一体化する第6の工程を付加したので、免震装置が正しい位置に固定される。また、くさび装置が躯体と一体化されるが、くさび装置は、安全ナット機構付きジャッキを使用する場合に比較して安価であり、経済性にも優れている。ちなみに、くさび装置と受け替えジャッキを併用し、受け替え後に受け替えジャッキを除去して建造物と一体化する本発明は、従来のように、受け替えジャッキを使用し、受け替え後に受け替えジャッキを除去せずに埋め殺しして建造物と一体化する場合に比較して、そのコストを1/2〜1/3とすることができる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、
第2の工程は、建造物の柱又は既設杭を切断してこの柱又は既設杭の上部躯体と下部躯体との間に免震装置設置空間を形成するようにしたので、重要な既設構造物、老朽化した既設構造物、不静定構造物など許容変位量が小さい場合でも安全に作業ができる。
【0013】
請求項4記載の発明によれば、
第2の工程は、地中に別途埋設した基礎杭からなる下部躯体と建造物の一部からなる上部躯体との間に免震装置設置空間を形成するようにしたので、基礎杭の上に建造された建造物の免震が確実に行われる。
【0014】
請求項5記載の発明によれば、
建造物における上部躯体と下部躯体との間に形成した免震装置設置空間に、免震装置を据え付けて建造物を振動から保護する免震装置の荷重受け替え装置において、
前記免震装置設置空間の形成時に建造物の荷重を仮受けする仮受けジャッキと、
前記免震装置設置空間における上部躯体と下部躯体のいずれか一方の面に接して取り付けられる免震装置と、
この免震装置における躯体と接していない面と前記上部躯体と下部躯体のいずれか他方の面との間に取り付けられ、前記仮受けジャッキの仮受け荷重を受け替えする受け替えジャッキと、
この受け替えジャッキと並べて取り付けられて前記免震装置と前記躯体との隙間がなくなるように密着させるくさび装置と
を具備したので、建造物への受け替え時の建造物の荷重による免震装置の弾性変形をくさび装置で前もって除去し、建造物に異常な応力を発生させることなく確実に受け替えをすることができる。
【0015】
請求項6記載の発明によれば、
くさび装置は、固定側くさび板と可動側くさび板とからなる4台のくさび装置を、可動側くさび板が中心に向かって圧入されるように十文字状に配置し、これら十文字状のくさび装置の4隅に4台の受け替えジャッキを配置したので、バランスよく、かつ安定して荷重の受け替えができる。
【0016】
請求項7記載の発明によれば、
くさび装置は、免震装置の受圧面と略同面積の略4角形の上下2枚の固定側くさび板とこれら2枚の間に圧入される1枚の可動側くさび板からなり、この可動側くさび板に、この可動側くさび板を圧入する油圧機構を設け、受け替えジャッキとくさび装置とを兼用するようにしたので、構造が簡単で、安価に、しかも安全に免震装置を据え付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による免震装置の荷重受け替え方法及び装置の実施例1を示す正面図である。
【図2】本発明による免震装置の荷重受け替え方法及び装置の平面図である。
【図3】本発明による免震装置の荷重受け替え方法及び装置の詳細な正面図である。
【図4】本発明の免震装置の荷重受け替え方法及び装置に用いられたくさび装置42の側面図である。
【図5】本発明の免震装置の荷重受け替え方法及び装置に用いられたくさび装置42の他の例を示す側面図である。
【図6】本発明による免震装置の荷重受け替え方法及び装置の実施例2を示す平面図である。
【図7】柱27の一部を切断して免震装置17を据え付けた従来例を示す説明図である。
【図8】基礎杭11の一部を切断して免震装置17を据え付けた従来例を示す説明図である。
【図9】図8における第1のサポートジャッキ14の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の免震装置の荷重受け替え方法は、
建造物10における免震装置17の据え付け個所の上下間に仮受けジャッキ35を据え付けて、建造物10の荷重を仮受けする第1の工程と、
建造物10における上部躯体30と下部躯体31との間に免震装置設置空間52を形成する第2の工程と、
この免震装置設置空間52における上部躯体30と下部躯体31のいずれか一方の面に免震装置17を取り付けるとともに、この免震装置17における躯体に接していない面と上部躯体30及び下部躯体31のいずれか他方の面との間に受け替えジャッキ39とくさび装置42を並べて取り付ける第3の工程と、
前記受け替えジャッキ39により前記仮受けジャッキ35の仮受け荷重を受け替えする第4の工程と、
前記くさび装置42により免震装置17と躯体(上部躯体30又は下部躯体31)との隙間がなくなるように密着させる第5の工程と、
受け替えジャッキ39と仮受けジャッキ35を除去し、くさび装置42を躯体と一体化する第6の工程と
からなることを特徴とする。
からなる。
【0019】
第2の工程では、建造物10の柱27又は既設杭を切断してこの柱27又は既設杭の上部躯体30と下部躯体31との間に免震装置設置空間52を形成するようにすることができる。
また、この第2の工程では、地中に埋設した基礎杭からなる下部躯体と建造物の一部からなる上部躯体との間に免震装置設置空間52を形成するようにすることもできる。
【0020】
本発明の免震装置の荷重受け替え装置は、
建造物10における上部躯体30と下部躯体31との間に形成した免震装置設置空間52に、免震装置17を据え付けて建造物10を振動から保護する免震装置の荷重受け替え装置において、
前記免震装置設置空間52の形成時に建造物10の荷重を仮受けする仮受けジャッキ35と、
前記免震装置設置空間52における上部躯体30と下部躯体31のいずれか一方の面に接して取り付けられる免震装置17と、
この免震装置17における躯体と接していない面と前記上部躯体30と下部躯体31のいずれか他方の面との間に取り付けられ、前記仮受けジャッキ35の仮受け荷重を受け替えする受け替えジャッキ39と、
この受け替えジャッキ39と並べて取り付けられて前記免震装置17と前記躯体(上部躯体又は下部躯体)との隙間がなくなるように密着させるくさび装置とを具備している。
【0021】
くさび装置42は、固定側くさび板40と可動側くさび板41とからなる4台のくさび装置42を可動側くさび板41が中心に向かって圧入されるように十文字状に配置し、これら十文字状のくさび装置42の4隅に4台の受け替えジャッキ39を配置する。
また、くさび装置42は、免震装置17の受圧面と略同面積の略4角形の上下2枚の固定側くさび板40とこれら2枚の間に圧入される1枚の可動側くさび板41からなり、この可動側くさび板41に、この可動側くさび板41を圧入する油圧機構を設け、受け替えジャッキ39とくさび装置42とを兼用するようにしてもよい。
くさび装置42と受け替えジャッキ39の台数は、4台ずつに限られるものではなく、また、くさび装置42を十文字状に配置し、十文字状のくさび装置42の4隅に4台の受け替えジャッキ39を配置する例に限られるものではない。
【実施例1】
【0022】
以下、本発明の実施例1を図面に基づき説明する。
図1は、図7と同様に、既設の建造物10における地下階の垂直な複数の柱27の一部を切断して免震装置設置空間52を形成して免震装置17を据え付ける例を示している。
この免震装置設置空間52は、柱27の一部を切断して形成する例の他、図8に示すような既設の基礎杭11などの既設杭の一部を切断して形成する例、さらに、地中に別途新たに埋設した基礎杭と建造物との間に形成する例であってもよい。
以下は、柱27の一部を切断して免震装置設置空間52を形成した場合について説明する。
【0023】
(1)図1において、切断前の柱27における切断個所の上部側にそれぞれ両側から上部ブラケット32を挟み付けてPC鋼材34で固定するとともに、下部側にもそれぞれ両側から下部ブラケット33を挟み付けてPC鋼材34で固定する。この固定方法は、図示例に限られるものではなく、アンカーボルト等であってもよい。
【0024】
(2)これらの上部ブラケット32と下部ブラケット33との間には、仮受けジャッキ35を据え付けて建造物10の荷重を仮受けする。下部側の下部ブラケット33の取り付けは、図1に示す柱27に代えて図8に示すような別に設けた補助杭13であってもよい。
【0025】
(3)仮受けジャッキ35による仮受け後、上部ブラケット32と下部ブラケット33の間の柱27の一部をワイヤソーなどで切断する。図3の符号36が切断面を示している。切断することで、柱27は、上部躯体30と下部躯体31に分離される。
【0026】
(4)下部躯体31の上面の切断面36に必要に応じてアンカーボルト53を埋め込み、無収縮モルタルなどの成型層37で水平面に仕上げる。上部躯体30の下面の切断面36にも必要に応じてアンカーボルト53を埋め込み、無収縮モルタルなどの成型層37で水平面に仕上げる。これらの水平面には、それぞれベース板38を埋め込んだアンカーボルト53で固着する。このようにして、免震装置設置空間52が形成される。
【0027】
(5)免震装置設置空間52における下部躯体31側のベース板38の上に免震装置17を載せ、免震装置17の下側台板をアンカーボルト53等で固着する。また、免震装置17の上側台板には、ベース板38を固着し、このベース板38の上に4台の受け替えジャッキ39と4台のくさび装置42を載置する。これらの4台のくさび装置42は、それぞれ固定側くさび板40と可動側くさび板41からなり、固定側くさび板40の肉厚の厚い側を中心に向けて十文字状に配置し、上部躯体30側のベース板38に固定的に取り付ける。4台の受け替えジャッキ39は、くさび装置42を十文字状に配置した4隅に配置される。
【0028】
(6)これら4台の受け替えジャッキ39を油圧で伸長して、先に仮受けした仮受けジャッキ35に代わって建造物10の荷重を受け替える。すると、免震装置17は、建造物10の荷重を受けて荷重に応じた弾性変形をする。この状態で、可動側くさび板41を、外周側が肉厚側となるように挿入して固定側くさび板40とベース板38の間にハンマー等で叩いて圧入する。可動側くさび板41の内方部には、可動側くさび板41の挿入隙間が残るような厚さのものが差し込まれる。可動側くさび板41は、上下面に隙間がない状態で密接すれば良く、必要以上に強く叩き込む必要はない。この固定側くさび板40と可動側くさび板41の摺動面の角度は、2〜5度程度にして可動側くさび板41が垂直荷重で水平方向に移動しないような小さな角度とする。このようにして受け替えジャッキ39からくさび装置42に荷重を受け替える。
【0029】
(7)4台のくさび装置42にて荷重を受け替えたら、受け替えジャッキ39を開放してベース板38の上から除去する。また、仮受けジャッキ35も除去する。
【0030】
(8)4台のくさび装置42の周りを無収縮モルタル49で上部躯体30と一体化する。くさび装置42は、固定側くさび板40と可動側くさび板41の面積が大きいので鉄筋などの補強は不必要であるが、必要に応じて鉄筋54を入れてもよい。
【0031】
前記実施例では、免震装置17を下側に、受け替えジャッキ39とくさび装置42をその上側に据え付けたが、上下逆であってもよい。
【実施例2】
【0032】
前記実施例1では、4台の受け替えジャッキ39と4台のくさび装置42を用いたが、図4ないし図6に示すように、1台のくさび装置42を油圧機構46で駆動して受け替えジャッキ39とくさび装置42を兼用するようにしたものであってもよい。
さらに詳しくは、図5及び図6において、免震装置17の上に載せたベース板38の上に、免震装置17をすべて覆うような大きさの略4角形のくさび装置42が据え付けられる。このくさび装置42は、先端に向かって肉厚となる上下2枚の固定側くさび板40が免震装置17側のベース板38と上部躯体30側のベース板38に固定的に取り付けられ、これら2枚のくさび装置42の間に1枚の可動側くさび板41が挿入され、この可動側くさび板41の肉厚側に3台の油圧機構46が着脱自在に取り付けられている。
【0033】
前記可動側くさび板41には、等間隔で3本のPC鋼棒43が挿通し、可動側くさび板41の先端に圧入隙間を残して突出し、さらに2枚の固定側くさび板40の先端面に係止する反力座金47を貫通し、突出部にナット48が螺合されている。前記可動側くさび板41の基端部には、窓付きケース51をあてがい油圧機構46が取り付けられ、この油圧機構46を貫通したPC鋼棒43にナット48が螺合している。また、前記窓付きケース51内で盛り替えナット45が螺合し、2本のPC鋼棒43がカップラ44で連結されている。
【0034】
以上のような構成において、油圧機構46によりPC鋼棒43に引っ張り力を付与すると、可動側くさび板41は、図5の右方向に押し込まれ上部躯体30と下部躯体31との間に鉛直力が発生する。ここで、1台当たりの油圧機構46の水平力が35ton、くさび装置42の角度θ=5度、摩擦係数μ=0.1とすると、鉛直力は約185ton発生する。
このくさび装置42により、先に仮受けした仮受けジャッキ35に代わって建造物10の荷重を受け替える。すると、免震装置17は、建造物10の荷重に応じた弾性変形をする。この状態で、3個所の盛り替えナット45をPC鋼棒43側に回してPC鋼棒43の端面に密着して可動側くさび板41を固定する。可動側くさび板41が固定したら、カップラ44で連結した図中左側のPC鋼棒43を外して油圧機構46等を取り外す。また、仮受けジャッキ35も除去する。
くさび装置42の周りを無収縮モルタル49で埋め込み、上部躯体30と一体化する。
【0035】
図5に示す実施例では、上下2枚の固定側くさび板40と中間の可動側くさび板41との3枚でくさび装置42を構成したが、図4に示すように固定側くさび板40と可動側くさび板41が1枚ずつの2枚のくさび装置42であってもよい。この場合、可動側くさび板41がベース板38の上では滑りにくい場合には、可動側くさび板41とベース板38との間にスライディングベッド50を介在してもよい。なお、図4では、図5に示すような油圧機構46による駆動機構は省略してある。
【0036】
前記図2に示した実施例では、4台のくさび装置42を可動側くさび板41が中心に向かって圧入するように十文字状に配置し、十文字状のくさび装置42の4隅に4台の受け替えジャッキ39を配置したが、これに限られるものではない。
たとえば、上部躯体30と下部躯体31の形状や大きさ、くさび装置42と受け替えジャッキ39の形状や能力などに応じて、1ないし複数台のくさび装置42と、1ないし複数台の受け替えジャッキ39の任意の組み合わせ、任意の配置により構成することができる。
【符号の説明】
【0037】
10…建造物、11…基礎杭、12…耐圧盤、13…補助杭、14…第1のサポートジャッキ、15…第2のサポートジャッキ、16…オイルジャッキ、17…免震装置、18…上部支承部、19…下部支承部、20…上部台板、21…下部台板、22…直管、23…螺杆、24…ナット、25…補助板、26…地中梁、27…柱、28…柱補強、29…梁補強、30…上部躯体、31…下部躯体、32…上部ブラケット、33…下部ブラケット、34…PC鋼材、35…仮受けジャッキ、36…切断面、37…成型層、38…ベース板、39…受け替えジャッキ、40…固定側くさび板、41…可動側くさび板、42…くさび装置、43…PC鋼棒、44…カップラ、45…盛り替えナット、46…油圧機構、47…反力座金、48…ナット、49…無収縮モルタルによる躯体との一体化、50…スライディングベッド、51…窓付きケース、52…免震装置設置空間、53…アンカーボルト、54…鉄筋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物における免震装置の据え付け個所の上下間に仮受けジャッキを据え付けて、建造物の荷重を仮受けする第1の工程と、
建造物における上部躯体と下部躯体との間に免震装置設置空間を形成する第2の工程と、
この免震装置設置空間における上部躯体と下部躯体のいずれか一方の面に免震装置を取り付けるとともに、この免震装置における躯体に接していない面と上部躯体及び下部躯体のいずれか他方の面との間に受け替えジャッキとくさび装置を並べて取り付ける第3の工程と、
前記受け替えジャッキにより前記仮受けジャッキの仮受け荷重を受け替えする第4の工程と、
前記くさび装置により免震装置と躯体との隙間がなくなるように密着させる第5の工程と
からなることを特徴とする免震装置の荷重受け替え方法。
【請求項2】
くさび装置により免震装置と上部躯体または下部躯体の隙間がなくなるように密着させる第5の工程の後に、受け替えジャッキと仮受けジャッキを除去し、くさび装置を躯体と一体化する第6の工程を付加したことを特徴とする請求項1記載の免震装置の荷重受け替え方法。
【請求項3】
第2の工程は、建造物の柱又は既設杭を切断してこの柱又は既設杭の上部躯体と下部躯体との間に免震装置設置空間を形成するようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の免震装置の荷重受け替え方法。
【請求項4】
第2の工程は、地中に別途埋設した基礎杭からなる下部躯体と建造物の一部からなる上部躯体との間に免震装置設置空間を形成するようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の免震装置の荷重受け替え方法。
【請求項5】
建造物における上部躯体と下部躯体との間に形成した免震装置設置空間に、免震装置を据え付けて建造物を振動から保護する免震装置の荷重受け替え装置において、
前記免震装置設置空間の形成時に建造物の荷重を仮受けする仮受けジャッキと、
前記免震装置設置空間における上部躯体と下部躯体のいずれか一方の面に接して取り付けられる免震装置と、
この免震装置における躯体と接していない面と前記上部躯体と下部躯体のいずれか他方の面との間に取り付けられ、前記仮受けジャッキの仮受け荷重を受け替えする受け替えジャッキと、
この受け替えジャッキと並べて取り付けられて前記免震装置と前記躯体との隙間がなくなるように密着させるくさび装置と
を具備したことを特徴とする免震装置の荷重受け替え装置。
【請求項6】
くさび装置は、固定側くさび板と可動側くさび板とからなる4台のくさび装置を、可動側くさび板が中心に向かって圧入されるように十文字状に配置し、これら十文字状のくさび装置の4隅に4台の受け替えジャッキを配置したことを特徴とする請求項5記載の免震装置の荷重受け替え装置。
【請求項7】
くさび装置は、免震装置の受圧面と略同面積の略4角形の上下2枚の固定側くさび板とこれら2枚の間に圧入される1枚の可動側くさび板からなり、この可動側くさび板に、この可動側くさび板を圧入する油圧機構を設け、受け替えジャッキとくさび装置とを兼用するようにしたことを特徴とする請求項5記載の免震装置の荷重受け替え装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−179252(P2011−179252A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45375(P2010−45375)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(592173135)横河工事株式会社 (20)
【出願人】(592182573)オックスジャッキ株式会社 (19)
【Fターム(参考)】