説明

免震装置の製造方法

【課題】積層ゴム体の性能値についてのバラツキを低減することの可能な、免震装置の製造方法を提供する。
【解決手段】複数のゴム板16と複数の金属板20とを交互に積層し、加硫処理して積層ゴム本体部30を形成し、積層ゴム本体部30の水平方向の剛性である本体水平剛性を測定し、測定によって得られた本体水平剛性、及び、完成時の免震装置について要求される要求水平剛性に基づいて、積層ゴム本体部30に追加が必要な追加水平剛性を求め、追加水平剛性を有する被覆ゴム18で積層ゴム本体部30の外周を被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、ゴム板と金属板とが交互に積層された積層ゴム体を有する免震装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震等の振動から建築物、構造物を保護するため、従来から免震装置が用いられている。免震装置としては、ゴムシートと鋼板とを交互に積層した積層ゴムを用いたものが知られている(特許文献1、2参照)。このような免震装置の積層ゴムは、一般的に、ゴムシートと鋼板とを加硫処理によって接着する。
【0003】
ところで、免震装置においては、積層ゴムの性能値は重要であり、特に水平剛性の性能値は重要である。しかしながら、加硫処理を含む様々な要因が複雑に重なり合って、加硫処理後に得られる性能値はバラツキやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−141181
【特許文献2】特開2004−308861
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記事実を考慮して成されたものであり、積層ゴムの性能値についてのバラツキを低減することの可能な、免震装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係る免震装置の製造方法は、複数のゴム板と複数の金属板とが交互に積層された免震装置の製造方法であって、複数のゴム板と複数の金属板とを交互に積層し、加硫処理して積層ゴム本体部を形成し、前記積層ゴム本体部の水平方向の剛性である本体水平剛性を測定し、前記測定によって得られた本体水平剛性、及び、完成時の免震装置について要求される要求水平剛性に基づいて、前記積層ゴム本体部に追加が必要な追加水平剛性を求め、前記追加水平剛性を有する前記被覆ゴムで前記積層ゴム本体部体の外周を被覆するものである。
【0007】
本発明では、加硫処理後に測定した積層ゴム本体部の本体水平剛性について、完成時の免震装置で要求される要求水平剛性になるように、被覆ゴムで調整する。したがって、当該調整により、免震装置の性能値についてのバラツキを低減することができる。
なお、水平方向の剛性については、せん断弾性率、ばね定数などにより、規定することができる。
【0008】
本発明の第2の態様に係る免震用積層ゴム体の製造方法は、前記被覆ゴムについて、厚みを調整することにより前記追加水平剛性を得ること、を特徴とする。
【0009】
被覆ゴムについて、追加水平剛性を設定するためには、被覆ゴムの厚みを調整してもよいし、引張弾性率を調整してもよいが、厚みを調整することにより、簡易に調整することができる。
【0010】
本発明の第3の態様に係る免震装置の製造方法は、前記加硫処理について、前記本体水平剛性が前記要求水平剛性よりも小さくなるように加硫条件を設定すること、を特徴とする。
【0011】
このように、加硫処理において、本体水平剛性が要求水平剛性よりも小さくなるように加硫条件を設定することにより、本体水平剛性が要求水平剛性よりも大きくなって調整が困難になるケースを少なくすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、免震装置の性能値についてのバラツキを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る免震装置の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る免震装置の断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る免震装置をせん断変形させた状態の断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る積層ゴム本体部の断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る積層ゴム本体部をせん断変形させた状態の断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る免震装置(被覆ゴム接着前)の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る免震装置10の製造方法ついて図面を参照して説明する。
【0015】
図1〜図3には、本発明の実施形態に係る免震装置10が示されている。免震装置10は、積層ゴム体12、及び、取付プレート14A、14Bを備えている。積層ゴム体12は、複数枚の円板状の金属板20と、複数枚の円板状のゴム板16とを厚み方向(矢印B方向)に交互に積層した積層体とされている。
【0016】
金属板20とゴム板16とは、加硫接着により強固に一体化されている。このように、ゴム板16だけでなく、金属板20を使用してこれらを交互に積層したことで、鉛直方向(矢印B方向)の荷重に対しては所定の剛性を有し、水平方向(矢印E方向)の荷重に対してはばね機能を発揮すると共に所定の変形量を確保することが可能になっている。
【0017】
金属板20の外径は、積層ゴム体12の外径よりも小さくされており、金属板20の外縁には、全周に亘って、円筒状に被覆ゴム18が配置されている。被覆ゴム18によって金属板20及びゴム板16の積層部分が覆われており、金属板20が外部へ露出せず劣化が防止されている。
【0018】
積層ゴム体12の厚み方向(矢印B方向)の両端側には、取付プレート14A、14Bが固着されている。取付プレート14A、14Bは、肉厚の円環状の鋼板で構成されている。
【0019】
取付プレート14A、14Bはそれぞれ、地盤に設置される基礎(図示省略)及び免震装置10上に設置される構造物(図示省略)に固定される。
【0020】
上記構成の免震装置10は、構造物と基礎の間に配置されて、通常時、構造物から鉛直方向の荷重を受けている。地震などにより基礎と構造物とが水平方向の成分をもって相対移動すると、図3に示すように、積層ゴム体12がせん断変形して振動エネルギーが一部吸収されるようになっている。
【0021】
次に、本実施形態の免震装置10の製造方法について説明する。
【0022】
まず、ゴム板16となる未加硫のゴムシートと金属板20を交互に積層させ。取付けプレート14A、14Bを積層方向Bの両端部に配置する。そして、加硫処理を行い、未加硫ゴムシートを加硫、硬化させると共に、ゴム板16と金属板20と接着させる。これにより、積層ゴム本体部30が製造される(図4参照)。
【0023】
ここで、当該加硫処理は、積層ゴム本体部30の水平方向の剛性(本体水平剛性F1)が、完成時の免震装置10について要求される要求水平剛性F0よりも、小さくなるように設定することが好ましい。このように加硫条件を設定することにより、加硫処理後に、本体水平剛性F1が要求水平剛性F0よりも大きくなって、後述する調整が困難になるケースを少なくすることができる。
【0024】
次に、加硫処理して形成された積層ゴム本体部30をせん断変形させ(図5参照)、積層ゴム本体部30の本体水平剛性F1を測定する。そして、測定によって得られた本体水平剛性F1、及び、完成時の免震装置10において求められる要求水平剛性F0に基づいて、追加すべき追加水平剛性F2を求める。そして、求められた追加水平剛性F2が得られるように、被覆ゴム18を調整する。
【0025】
被覆ゴム18は、図6に示されるように、取付け前は、帯状のゴム板であり、長手方向の長さL1、短手方向の長さL2となっている。当該被覆ゴム18の厚みtまたは引張弾性率E、あるいは厚みt及び引張弾性率Eの両方を追加水平剛性F2に基づいて調整することにより、被覆ゴム18について所望の追加水平剛性F2を得ることができる。すなわち、本体水平剛性F1に追加水平剛性F2を追加することにより、要求水平剛性F0に近い水平剛性を得ることができる。
【0026】
ここで、追加水平剛性F2に基づく、被覆ゴム18の厚みtの算出方法の一例について説明する。積層ゴム本体部30の外径をD、積層ゴム本体部30の高さをH、ゴム板16の総積層厚さをTrとし、被覆ゴム18の1軸固定2軸引張り下における引張弾性率をE、厚さをt、内部ゴムの等価せん断弾性率をGとする。積層ゴム本体部30において、せん断ひずみ100%の変形時における水平方向の剛性を100a%上昇させたいとする。追加すべき水平剛性(追加水平剛性F2)は、(式1)となる。また、100%せん断変形時に、被覆ゴム18の変形によって生じる水平剛性(水平せん断力)は、(式2)のように表すことができる。
【0027】
【数1】

【0028】
【数2】

【0029】
(式1)=(式2)となればよいので、被覆ゴム18の厚みtは、(式3)のように求めることができる。
【0030】
【数3】

【0031】
次に、追加水平剛性F2を有する被覆ゴム18を、積層ゴム本体部30の外周に巻回し、外周面に接着させる。被覆ゴム18は、未加硫のゴム板を積層ゴム本体部30の外周に巻回して加硫処理を行い積層ゴム本体部30の外周面に接着させてもよいし、加硫済みのゴム板を接着剤を用いて積層ゴム本体部30の外周面に接着させてもよい。
【0032】
上記のようにして、免震装置10を製造することができる。本実施形態の製造方法によれば、積層ゴム本体部30の加硫製造後に、被覆ゴム18で水平剛性を調整することができるので、完成時において得られる免震装置10の水平剛性、すなわち、水平方向の性能値についてのバラツキを低減することができる。
【0033】
なお、本実施形態では、積層ゴム本体部30は、外周にゴムを巻回さずに製造したが、未加硫のゴムシートを巻回して加硫処理を行い、ゴム被覆された積層ゴム本体部を製造してもよい。この場合には、ゴム被覆のさらに外側に被覆ゴム18を巻いて、免震装置10の水平方向剛性を調整することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 免震装置
12 積層ゴム体
16 ゴム板
18 被覆ゴム
20 金属板
30 積層ゴム本体部
F0 要求水平剛性
F1 本体水平剛性
F2 追加水平剛性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のゴム板と複数の金属板とが交互に積層された積層ゴム体を有する免震装置の製造方法であって、
複数のゴム板と複数の金属板とを交互に積層し、加硫処理して積層ゴム本体部を形成し、
前記積層ゴム本体部の水平方向の剛性である本体水平剛性を測定し、
前記測定によって得られた本体水平剛性、及び、完成時の免震装置について要求される要求水平剛性に基づいて、前記積層ゴム本体部に追加が必要な追加水平剛性を求め、
前記追加水平剛性を有する前記被覆ゴムで前記積層ゴム本体部の外周を被覆する、免震装置の製造方法。
【請求項2】
前記被覆ゴムについて、厚みを調整することにより前記追加水平剛性を得ること、を特徴とする請求項1に記載の免震装置の製造方法。
【請求項3】
前記加硫処理は、前記本体水平剛性が前記要求水平剛性よりも小さくなるように加硫条件を設定すること、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の免震装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−159176(P2012−159176A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20817(P2011−20817)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】