説明

全反射減衰型光学プローブおよびそれを用いた水溶液分光測定装置

【課題】180nm以下の遠紫外域で水などの分光測定を容易に行えるようにする。
【解決手段】全反射減衰型光学プローブは、遠紫外域で光透過特性を有する光学材料からなり、サンプルと接する接触面と、サンプルと接触しない入射面および出射面とを備えるプリズムと、開口部を備える支持部材であって、開口部の近傍で前記プリズムの接触面と気密に接合される支持部材とからなる。接触面、入射面および出射面は、入射面を透過した光が臨界角より大きい入射角で接触面に入射し、接触面で全反射する光が出射面を出ていくように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠紫外域での分光分析に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年水の純度やその性質の微弱な変化を精度よく、かつ、その水質を変化させることなく測定するという用途が増加している。たとえば半導体の製造プロセスは、その比抵抗が理論限界値に近いレベルの純度を要求するに至っている。また、近年では、その非常に純度の高い超純水に特定の機能を付加させた機能水なるものが利用されるようになってきている。
【0003】
水または水溶成分の識別・定量分析において、分光分析は非常に有効な手段として多種多様に利用されている。その分光分析手法は、測定波長領域によって、紫外可視分光、近赤外分光、赤外分光に大別される。
【0004】
特に、近赤外分光では、水特有の水素結合を反映する吸収スペクトルが800〜1400nmに顕著に観測され、たとえば特開平3−175341号公報には、このスペクトルを利用した水中の溶解成分の測定方法が提案されている。水分子は液体状態では互いに水素結合しているが、水中に他の溶解成分が混入された場合には、この水素結合の状態がきわめて敏感に変化する。そして、その変化の様子を調べることで、混入成分の定量分析が可能となるのである。より具体的には、無機電解質が水溶液中でイオン電離する際に、イオンの水和によって生じるイオン近傍の水分子とバルクの水分子との間の水素結合の切断や歪み、イオンの電場による水分子の分極の影響などによって、水分子自身の結合状態や、水素結合した水分子どうしの結合状態が影響を受け、その近赤外吸収スペクトルは純水の場合と異なるものとなる。そこで、あらかじめその変化を検量することで、イオン種に帰属する吸収スペクトルからではなく、水の吸収スペクトルの変化からそのイオン種の濃度を定量できる。
【0005】
また、最近になって、特開平2005−214863号公報やAPPLIED SPECTROSCOPY Vol. 58, No. 8 (2004) 910-916には、水の遠紫外スペクトルが、近赤外スペクトルと同様に水の水素結合状態に密接に関与していることを利用して水溶液中の水和物質の濃度を定量する方法が提示されている。より具体的には、150nm付近にピークを有する水のn→σ遷移による吸収スペクトルが、水自体と水中に溶解する水和イオンとの間に形成する電場の影響で長波長側にシフトし、スペクトルの一部が常用分光装置(真空排気を必要としない分光装置)で測定可能な領域に現れることを利用して、水溶液の識別や微量成分濃度の定量分析を行うものである。水の遠紫外スペクトル吸収を利用する方法は、近赤外スペクトルを利用する場合よりも格段に微量成分に対する検出・定量感度が上がるが、水自身の吸光度が非常に大きいため、これまでは透過スペクトル測定の限界である180nmより長い波長領域でしか利用されていなかった。
【0006】
ところで、本発明では、非常に吸収が大きい物質の吸収スペクトルを測定する方法として、全反射減衰吸光(Attenuated Total Reflectance)法に着目するので、ここで、従来の全反射減衰吸光法について説明する。全反射減衰吸光法によれば、光が光学プローブの表面で全反射する際に形成される波長オーダーの光の浸みだし(エバネッセント波)による試料内での光吸収量を測定できるので、理論的に波長オーダーのセル長による透過スペクトルと類似の吸収スペクトルを得ることができる。特開昭62−75230号公報には、光学プローブを応用した全反射減衰吸光法による濃厚溶液類の測定方法が提案されている。光学プローブの材質として合成石英やサファイアを用いた全反射減衰吸光法が種々に実現され、全反射減衰吸光法自体の測定感度を高める方法も特開平7−12716号公報などに提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平3−175341号公報
【特許文献2】特開平2005−214863号公報
【特許文献3】特開昭62−75230号公報
【特許文献4】特開平7−12716号公報
【非特許文献1】APPLIED SPECTROSCOPY Vol. 58, No. 8 (2004) 910-916
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近赤外に現れる水の吸収スペクトルは本来禁制遷移で吸収が弱く、水の中のごく微量の溶解成分の濃度が測定できない。そこで、近赤外スペクトルでは有意差が得られないごく微量の溶解成分の濃度測定法が必要になっている。一方、水には150nm付近に大きな吸収ピークがあり、この吸収スペクトルの変化から、近赤外スペクトルを利用する場合よりはるかに高い感度で水溶液中の溶解成分の検出や濃度測定が可能である。しかし、遠紫外域で水や水溶液のスペクトルを測定するには、水の吸収が分光測定での大きな障害となる。水以外の物質においても遠紫外域で大きな吸収がある場合は、同様に、その吸収が分光測定での障害となる。なお、赤外域や可視域で使用可能な上述の従来の全反射減衰吸光測定法は、遠紫外域では透過率が十分でないため、または、光学プローブがサンプル物質と接する平面で全反射を生じないため利用できなかった。
【0009】
発明の目的は、180nm以下の遠紫外域での分光測定を容易に行えるようにして、水溶液中の微量な溶解成分などを高感度に検出し、定量分析できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る全反射減衰型光学プローブは、遠紫外域で光透過特性を有する光学材料からなり、サンプルと接する接触面と、サンプルと接触しない入射面および出射面とを備えるプリズムと、開口部を備える支持部材であって、前記開口部の近傍で前記プリズムの接触面と気密に接合される支持部材とからなる。前記接触面、前記入射面および前記出射面は、前記入射面を透過した光が臨界角より大きい入射角で前記接触面に入射し、前記接触面で全反射する光が前記出射面を出ていくように配置される。
【0011】
前記全反射減衰型光学プローブにおいて、好ましくは、前記プリズムにおける前記入射面から前記接触面を経て前記出射面までの光路長は、前記入射面に垂直に入射した160nmの波長の光が少なくとも10%以上の内部透過率(反射損失を考慮しない材質自体の透過率)を有する長さである。
【0012】
前記全反射減衰型光学プローブにおいて、好ましくは、前記光学材料は、合成石英、水晶およびサファイアのいずれかからなる。
【0013】
前記全反射減衰型光学プローブにおいて、好ましくは、前記プリズムの光学材料が合成石英であり、前記支持部材も合成石英からなる。または、好ましくは、前記プリズムの光学材料がサファイアであり、前記支持部材もサファイアからなる。
【0014】
本発明に係る水溶液分光測定装置は、サンプル物質に接して配置される上述の全反射減衰型光学プローブと、前記全反射減衰型光学プローブに遠紫外光を照射する光源と、前記全反射減衰型光学プローブからの全反射光を検出する受光素子と、前記光源から前記受光素子までの光路において、遠紫外光を分光する分光素子とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、吸光度の大きな物質に対して遠紫外域での分光測定を可能にした。これにより、水溶液中の微量な溶解成分などを容易に高感度に検出し、定量分析できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照して発明の実施の形態を説明する。
近赤外域に現れる水の吸収スペクトルは本来禁制遷移で吸収が弱く、ごく微量の溶解成分の濃度が測定できない。そこで、発明者は、遠紫外スペクトルに着目して研究したところ、純粋な水は遠紫外域の150nm付近に非常に大きなシャープな吸収ピークを有し、そのシャープな吸収の裾部分の変化を測定することにより、水溶液中に水和する極微量の溶解成分の濃度が測定できることを見出した。つまり、水自身は150nm付近の吸収ピークから200nm付近の吸収ボトムまでに非常に急峻な吸収スペクトルの減少を示し、かつ、この吸収バンドのピーク位置やバンド幅がごく微量の溶質成分の水和によっても変化する。そのため、その吸収ピークのわずかな波長シフトは、そのシャープな吸収の傾斜部分では非常に高感度に捉えられ、水溶液中のごく微量成分の濃度測定に利用できる。これについては特開2005−214863号公報に記載されている。すなわち、水の吸収ピークの裾部分のスペクトルを測定し、複数波長での吸光度の多変量解析により検量線を作成することにより、ごく微量の溶解成分を測定できた。たとえば、特開2005−214863号公報の図1は、0〜20ppmの範囲内の11の濃度(1、2、3、4、5、6、8、10、12、16、20ppm)のHCl水溶液の遠紫外スペクトルを示し、特開2005−214863号公報の図2は、HClの濃度を予測する検量線モデルの相関性を示す。モデルの相関係数Rと標準偏差σは、0.9987と0.18ppmであった。少なくとも100ppmまで微量のHClが高精度で定量測定できることが分かった。本測定例での水溶液中のHClの検出限界は0.5ppmであった。
【0017】
上述の水及び水溶液の測定例において、測定波長は180〜210nmにある水の吸収バンドの裾部分に限定したものであった。それは、水の150nm付近にピークを持つ吸収バンドの吸光係数が非常に大きく、180nm以下の測定波長の透過スペクトルを得るためには測定のセル長を数百nmにまで薄くする必要があり、また測定雰囲気中の酸素を除去する必要があるなど、実現が困難と考えられたためである。しかし、さらに高感度な成分分析を実施するためには、よりスペクトル吸収の変化が大きく現れる160nm〜180nmの強大な吸収傾斜部分を測定する必要がある。
【0018】
遠紫外域に存在する水の吸収ピーク付近(150nm)で水や水溶液のスペクトルを測るには、セル長を100nm程度に短くする必要があるが、これは困難である。そこで、発明者は、非常に吸収が大きい物質の吸収スペクトルを測定する方法として知られている全反射減衰吸光法(ATR法)に着目した。特開2005−214863号公報の前の遠紫外分光法による水溶液中の溶解成分濃度測定方法は、すべて溶質の吸収バンドから特定物質の濃度を測定するものであって、溶媒である水のスペクトル変化から溶質の濃度を測定するものではなかった。しかし、以下に説明する全反射減衰吸光法を用いた光学プローブ(以下では全反射減衰光学プローブという)及び水溶液分光測定装置により、溶媒である水のスペクトル変化から溶質の濃度を測定する上述の特開2005−214863号公報による方法を、その測定波長域を160nm〜180nmへ拡張することによって高感度化できる。
【0019】
まず、全反射減衰吸光法について説明すると、図1に示すように、屈折率がより高い媒体(たとえば合成石英)と屈折率がより低い媒体(測定対象のサンプル物質)(たとえば水)の間の界面が図の上側にある場合、屈折率がより高い媒体側から光線が当たると、入射角θが臨界角より大きな場合には光線は全反射される。しかし、この際に、光線は、屈折率がより低い媒体にも波長オーダーの一定の距離潜り込み、界面方向に進み、その後、反射される。この屈折率がより低い媒体に潜り込む光線をエバネッセント波という。エバネッセント波の電界強度は反射点で最大であり、界面方向と界面に鉛直な方向に向かってすぐに減衰する。なお、図1の上側の面の上側にエバネッセント波の界面に鉛直な方向での電界強度の変化を図式的に示しているが、エバネッセント波の電場強度が1/eまで減衰する距離を潜り込み深さ(penetration depth)という。かかる方法によれば、光が全反射する際に形成される波長オーダーの光の潜り込み(エバネッセント波)に対する光の吸収を反射光から測定できる。この光の潜り込み深さが通常の透過スペクトルの光路長に対応するので、理論的に波長オーダーのセル長による透過スペクトルと類似の吸収スペクトルを得ることができる。本発明は、遠紫外域で水の吸収スペクトルを測定するには数百nm以下のセル長で測定する必要があるという制約と、水溶液中のごく微量の成分の分析を行ううえでは160nm〜180nmの波長領域での測定が重要であるという条件に対して、160nm〜180nmの波長領域で減衰全反射プリズムによる反射吸収スペクトルを測定するということでうまく適応できることを提案するものである。
【0020】
全反射減衰吸光法に適応できる光学プローブ(全反射減衰光学プローブ)は、以下の2つの条件を満足している必要がある。
(1)光学プローブの材質の屈折率がサンプル物質の屈折率よりも大きいこと(全反射条件)。
(2)光学プローブの材質が測定波長領域で透明である(光透過率が十分に高い)こと(透過条件)。
しかし、水の屈折率は遠紫外域では波長が短くなるにつれて著しく増加するため(図4参照)、全反射減衰光学プローブとしての2つの条件を満たす材料がない。つまり、石英やサファイアのように屈折率が遠紫外域でも水より高い材質は160nm付近では十分な透過率を有さず、一方、その波長領域の遠紫外線を透過する材質(たとえばフッ化マグネシウム、フッ化カルシウムなど)はすべて遠紫外域で屈折率が水の屈折率よりも低くなり、全反射条件を満足できなくなる。このため、測定波長領域を200nmまたはせいぜい190nm以上に限定する光学プローブしか実用化されていない。すなわち、水の150nm付近のピーク波長まで測定できる光学プローブを用いた全反射減衰吸光法の例は、背景技術で説明した従来の全反射減衰光学プローブを含め、報告されていなかった。
【0021】
発明者は、全反射条件を満たす光学材料と透過条件を満たす光学材料とからなる多層構造の全反射減衰光学プローブを検討した。光は、透過条件を満たす光学材料から全反射条件を満たす光学材料に入り、サンプルとの下面で全反射する。水の全反射減衰の測定には、石英やサファイアのように屈折率が遠紫外域で水より高い光学材質は160nm付近では十分な透過率を有しないが、屈折率が遠紫外域で水より高い光学材質内の光路長を短くすれば、透過光が残り、反射吸収スペクトルを測定できる。たとえば、遠紫外線領域で透過性の高い合成石英やサファイアの160nm付近における内部透過率(反射損失を考慮しない材質自体の透過率)は、1mmの長さでは50%以上である。サンプルと接触する中央の高屈折率低透過率材質の第2部分とその両側の低屈折率高透過率材質の第1部分からなる縦型3層構造では、第2部分内の光路長を1mm以下にできることがわかった。しかし、高屈折率材質が遠紫外線領域で透過性の高い合成石英あるいはサファイアである場合には、光学材料を通過する光路の長さが1mmより長くても、5mm以下と十分に小さい場合、その内部透過率は160nm付近でも10%以上は残り、全反射減衰光学プローブとして機能できる。そのような全反射減衰光学プローブは多層構造でも実現できるが、発明者は、その検討過程で、以下に説明するように、単層構造でも実現できることに着目した。
【0022】
図2と図3は、この考えに基づく1つの実施の形態の光学プローブを示す。この光学プローブは、サンプル物質と接するための開口12が設けられている長方形の保持板10と、その開口12を気密に封止する長方形の高屈折率材質板14からなる。開口の形状は円形には限らず、たとえば長方形でもよい。高屈折率材質板14は、保持板1の開口12の全体を覆う。高屈折率材質板14と保持板10の接触面は、オプティカルコンタクトまたは熱融着によって接合される。接着剤の使用は、サンプル物質との接合箇所との接点から不純物の溶出を引き起こしたり、接着層へのサンプル液たまりが生じたりする危険性があるため好ましくない。保持板10は高屈折率材質板14のサンプル物質(たとえば水)に接する側に配置され、高屈折率材質板14は、開口12の側の端面16でサンプル物質に接する。高屈折率材質板14は、対向する入射面18と出射面20を備える。入射面18と出射面20は、サンプル物質には接しない。これらの面18,20は、平面であり、保持板10の接触面となす角度は、全反射のため臨界角より大きくする。高屈折率材質14の高さは、入射角と開口12の位置と大きさにより決められる。図3に示すように、入射面18に垂直に入射した紫外光は、開口12の端面16で全反射され、光出射面20に垂直に入射して出ていく。
【0023】
高屈折率材質板14の光学材料は、その屈折率が160nm付近の遠紫外域に至る波長域において、水の屈折率よりも大きな屈折率を有する必要がある(全反射条件)。光学材料はたとえば合成石英、水晶またはサファイアである。(なお、図4には各種材料、すなわち、サファイア、合成石英または水晶(SiO)、フッ化マグネシウムおよび水の屈折率の波長依存性が示されている。ここで、実線は適当な近似関数である。)一方、この光学プローブでは、保持体10は高屈折率材質板14のサンプル側に配置されるため、保持板10中を光が通過することがない。したがって、保持板10は、遠紫外透過特性を有さずともよく、高屈折率材質板14との良好な接合性があればよい。最も望ましい材質は、高屈折率材質板14と同じものであるが、これに限るものではない。
【0024】
1例では、保持板10と高屈折率材質板14の厚さは、いずれも1mmであり、保持板10の開口12の直径は2.0mmであり、高屈折率材質板14は、4.0mm×4.0mmの大きさであり、高屈折率材質板14の側面である入射面18と出射面20が保持板10の端面16となす角度は110°である。このとき高屈折率材質板14の光学材料を通過する光路の長さは約3.8mmとなる。
【0025】
サンプル物質と接する高屈折率材質板14の光学材料が、遠紫外線領域で透過性の高い合成石英である場合、たとえば、上記構造の光学プローブでは、160nmでの遠紫外線透過率は、サンプル物質との界面に到達するまでに70%程度になり、サンプル物質で全反射して高屈折率材質板14をすべて通過した時点では50%程度になる。また、高屈折率材質板14がサファイアである場合では、同じ構造で150nmでの遠紫外線透過率がサファイア部分をすべて通過した時点でも20%程度ある。上述の例のように光学材料を通過する光路長が5mm以下と十分に短い場合、その内部透過率は160nm付近でも10%以上は残り、全反射減衰プローブとして機能できる。
【0026】
一般的には、全反射条件を満たす高屈折率材質板14において、入射面18から接触面14を経て出射面20までの光路長は、入射面18に垂直に入射した160nmの波長の光が10%以上、好ましくは20%、より好ましくは50%以上の透過率を有する長さとすればよい。なぜならば、160nm付近で測定光が水による吸収を経て反射される反射率は、高屈折率材質の屈折率や光の入射角度にもよるが、およそ10分の1程度となる。一般的な分光装置の安定性から考えて、測定の光量が100分の1より小さい領域では十分な測定分解能が得られない。よって光学材質を通過する光の内部透過率は少なくとも10%以上必要ということになる。
【0027】
以下に、具体的な光学プローブについての実測データを示す。図5は、高屈折率材質板をサファイアとした光学プローブにおいて、溶質濃度の異なる水溶液の吸光度のスペクトル測定結果である。入射角θは60°である。195nm付近に溶質であるNaI由来の吸収ピークがあるが、溶質の濃度が増加するとその吸収ピークが上昇するとともに、180nm以下の波長領域で水の吸収バンドが長波長側へシフトしている。そして、そのシフト量を定量分析することで、溶質由来の吸収バンドの変化を用いるよりも高感度な分析が可能となる。
【0028】
図6は、上述の光学プローブ(全反射減衰光学プローブ)を用いる遠紫外分光応用微量成分濃度計(測定波長160〜210nm)の構成を示す。この濃度計は水溶液分光測定装置として使用できる。サンプル通路100のサンプル物質18に接面して光学プローブ102を設ける。サンプル物質をセルに導入するようにし、光学プローブをセル内のサンプル物質に面するようにしてもよいし、また、セルを用いずに、たとえばサンプルを導入する配管の壁面をプローブとしてもよい。紫外光源(たとえば重水素ランプ)104から発生された光は、単色分光器であるグレーティングミラー106をとおり、ミラー108で反射されて、光学プローブ102に入射する。光学プローブ102への入射角は適当に設定する。光学プローブ102からの反射光は、ミラー110で反射された後、紫外光センサ112に入射する。なお、上述の光学系内には、光学系内から酸素ガスを排除するため、窒素ガスが導入されているが、アルゴンガスによる空気置換や空気自体を真空に排気するという方法もとれる。すなわち、光路中の酸素は、遠紫外域で吸収を生じないガスで置換されるか、もしくは、真空状態まで排気される。紫外光センサ112で検出されたスペクトルは信号処理部114で処理され、測定データを基に吸光度が計算される。ここで、複数波長での吸光度に対する公知の多変量解析により検量線を作成できる。160nmで水のスペクトルを測るにはセル長を100nm程度にする必要があるが、全反射減衰光学プローブを用いることにより、微小なセル長が実現できるので、水の吸収ピークが高感度で測定できる。また、測定はリアルタイムで行える。また、測定用紫外光が作用するのはサンプル物質のプローブ界面のごく一部であるため、実質的に紫外光照射によるサンプル変化を回避できる。
【0029】
なお、当業者に容易に理解されるように、上述の光学プローブは、水の他にも、遠紫外域で大きな吸収のある他の液体、気体、固体の試料を全反射減衰吸光法で測定できる。たとえば、イソプロピルアルコールなどの液体や、酸素などの気体が測定できる。図7に高屈折率光学材質層の光学材料として、サファイアを用いて測定したメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールの遠紫外域でのスペクトルを例示した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】一般的な反射減衰吸収光学プローブの構成を示す図
【図2】光学プローブの平面図、立面図および側面図
【図3】光学プローブに入射した光の経路を示す図
【図4】遠紫外域における各光学材料の屈折率の波長依存性を示すグラフ
【図5】サファイアを用いる光学プローブによる吸光度の溶質濃度による変化を示す実験データのグラフ
【図6】遠紫外分光応用微量成分濃度計のブロック図
【図7】水以外の物質の遠紫外域でのスペクトルのグラフ
【符号の説明】
【0031】
10 保持板、 14 プリズム、 16 サンプルと接する面、 18 入射面、 20 出射面、 100 サンプル通路、 102 光学プローブ、 104 紫外光源、 106 グレーティングミラー、 112 紫外光センサ、 114 信号処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠紫外域で光透過特性を有する光学材料からなり、サンプルと接する接触面と、サンプルと接触しない入射面および出射面とを備えるプリズムと、
開口部を備える支持部材であって、前記開口部の近傍で前記プリズムの接触面と気密に接合される支持部材と
からなり、
前記接触面、前記入射面および前記出射面は、前記入射面を透過した光が臨界角より大きい入射角で前記接触面に入射し、前記接触面で全反射する光が前記出射面を出ていくように配置される、全反射減衰型光学プローブ。
【請求項2】
前記プリズムにおける前記入射面から前記接触面を経て前記出射面までの光路長は、前記入射面に垂直に入射した160nmの波長の光が10%以上の内部透過率を有する長さであることを特徴とする、請求項1に記載された、全反射減衰型光学プローブ。
【請求項3】
前記光学材料が、合成石英、水晶およびサファイアのいずれかからなることを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載の全反射減衰型光学プローブ。
【請求項4】
前記プリズムの光学材料が合成石英であり、前記支持部材も合成石英からなることを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載の全反射減衰型光学プローブ。
【請求項5】
前記プリズムの光学材料がサファイアであり、前記支持部材もサファイアからなることを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載の全反射減衰型光学プローブ。
【請求項6】
サンプル物質に接して配置される請求項1〜5のいずれかに記載の全反射減衰型光学プローブと、前記全反射減衰型光学プローブに遠紫外光を照射する光源と、前記全反射減衰型光学プローブからの全反射光を検出する受光素子と、前記光源から前記受光素子までの光路において遠紫外光を分光する分光素子とを備えた水溶液分光測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−224240(P2008−224240A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58895(P2007−58895)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【出願人】(503092180)学校法人関西学院 (71)
【Fターム(参考)】