説明

全固体電池用積層体

【課題】本発明は、固体電解質層中に活物質材料の局在部分が発生することを防止し、活物質層および固体電解質層の密着性に優れた全固体電池用積層体を製造することが可能な製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】前記活物質層または前記固体電解質層のうち、いずれか一方の層を第1構成層として形成する第1構成層形成工程と、前記活物質層または前記固体電解質層のうち、他方の層を前記第1構成層上に第2構成層として形成する第2構成層形成工程と、を有し、前記第2構成層形成工程では、粒子状の活物質材料または粒子状の無機固体電解質材料、および溶剤を含有する第2構成層用スラリーを調製し、前記第2構成層用スラリーを乾燥状態の前記第1構成層上にスプレー法を用いて塗布することにより前記第2構成層を形成することを特徴とする全固体電池用積層体の製造方法を提供し、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば全固体型電池に用いられ、活物質層および固体電解質層を有する全固体電池用積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池は、高い起電力および高エネルギー密度を有するため、情報関連機器、通信機器の分野で広く実用化されている。一方、自動車の分野においても、環境問題、資源問題から電気自動車やハイブリッド自動車の開発が急がれており、これらの電源としても、リチウム電池が検討されている。リチウム電池は、一般的に、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、正極活物質層および負極活物質層の間に形成された電解質層とを有する。
【0003】
現在市販されているリチウム電池は、可燃性の有機溶剤を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質層に代えて、電池を全固体化した全固体リチウム電池は、電池内に可燃性の有機溶剤を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
固体電解質層の形成方法としては、例えば、特許文献1に示すように、固体電解質材料および溶剤を含有する固体電解質層用スラリーを調製し、ドクターブレード法等の塗布方法を用いて、支持基体上に塗布することにより形成する方法が挙げられる。
【0005】
ところで、全固体リチウム電池においては、固体電解質層および正極活物質層または負極活物質層(活物質層)の間におけるリチウムの伝導効率を効率を向上させるために、固体電解質層および活物質層の密着性をより高いものとすることが要求されている。そこで、活物質層上に固体電解質層用スラリーを直接ドクターブレード法等を用いて塗布することにより、活物質層および固体電解質層が積層されて構成される全固体電池用積層体を形成することが検討されている。
【0006】
しかしながら、図3(a)〜(c)に示すように、活物質層2が粒子状の活物質材料21を含むものである場合、固体電解質材料31および溶剤32を含有する固体電解質層用スラリー3’は、通常、集電体1’等の支持基体1上に形成された乾燥状態の活物質層2上にドクターブレード20等を用いて直接塗布される(図3(a))ことから、活物質層2に剪断応力がかかるため、固体電解質層用スラリー3’中の溶剤32と接触することで浮き上がった活物質材料21を巻き上げてしまい、固体電解質層用スラリー3’中に混入させてしまうという問題がある(図3(b))。また、その結果、形成された固体電解質層3中に活物質材料21の局在部分Aが生じてしまうという問題がある(図3(c))。このような局在部分Aは、全固体電池において短絡の原因となるものである。なお、図3(a)〜(c)は従来の全固体電池用積層体の製造方法の一例を示す工程図である。
【0007】
また、固体電解質層を活物質層上に形成する方法として、特許文献2には、静電スプレー法を用いて、集電体と、固体電解質粒子および活物質粒子とを異なる電荷に帯電させ、集電体上に各粒子を分散させたガスを吹き付けることにより形成する方法が開示されている。しかしながらこの方法は、特殊な装置が必要となることから製造コストが高くなるという問題や、集電体上に活物質層および固体電解質層を形成したのち各構成を除電する必要があることから製造工程が煩雑になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−054327号公報
【特許文献2】特開2010−282803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、固体電解質層中に活物質材料の局在部分が発生することを防止し、活物質層および固体電解質層の密着性に優れた全固体電池用積層体を製造することが可能な全固体電池用積層体の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明においては、粒子状の活物質材料を含有する活物質層、および粒子状の無機固体電解質材料を含有する固体電解質層が積層されて構成される全固体電池用積層体の製造方法であって、上記活物質層または上記固体電解質層のうち、いずれか一方の層を第1構成層として形成する第1構成層形成工程と、上記活物質層または上記固体電解質層のうち、他方の層を上記第1構成層上に第2構成層として形成する第2構成層形成工程と、を有し、上記第2構成層形成工程では、上記活物質材料または上記無機固体電解質材料、および溶剤を含有する第2構成層用スラリーを調製し、上記第2構成層用スラリーを乾燥状態の上記第1構成層上にスプレー法を用いて塗布することにより上記第2構成層を形成することを特徴とする全固体電池用積層体の製造方法を提供する。
【0011】
本発明によれば、第2構成層用スラリーをスプレー法を用いて乾燥状態の第1構成層上に塗布する上記第2構成層形成工程を有することにより、乾燥状態の第1構成層に剪断応力をかけずに第2構成層用スラリーを塗布することが可能となることから、第1構成層の粒子状の材料を巻き上げることなく、第2構成層用スラリーを塗布して第2構成層を形成することが可能となる。よって、第2構成層用スラリー中に第1構成層の粒子状の材料が混入することを防止することができ、形成された固体電解質層中に活物質材料の局在部分が発生することを防止することができる。したがって全固体電池に用いた場合に短絡を生じにくい全固体電池用積層体を製造することが可能となる。
また、本発明によれば、第2構成層用スラリーに用いられる溶剤の揮発度、固形分率、ガス圧力、スプレーノズルおよび活物質表面の間の距離(以下、スプレー距離と称する場合がある。)等を調整することにより、第1構成層上に塗布された直後の第2構成層用スラリーを半ドライ状態とすることが可能となることから、第2構成層用スラリー中の溶剤と接触することによる第1構成層の粒子状の材料の混入を好適に防止し、かつ、高い密着性で活物質層および固体電解質層を積層させて形成することができる。
【0012】
上記発明においては、上記第2構成層用スラリーの固形分率が、10質量%〜40質量%の範囲内であることが好ましい。第1構成層上に第2構成層をより均質に形成することが可能となるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、固体電解質層中に活物質材料の局在部分が発生することを防止し、活物質層および固体電解質層の密着性に優れた全固体電池用積層体を製造することが可能な製造方法を提供することができるといった作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の全固体電池用積層体の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の全固体電池用積層体の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図3】従来の全固体電池用積層体の製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の全固体電池用積層体の製造方法について説明する。本発明の全固体電池用積層体の製造方法は、粒子状の活物質材料を含有する活物質層、および粒子状の無機固体電解質材料を含有する固体電解質層が積層されて構成される全固体電池用積層体の製造方法であって、上記活物質層または上記固体電解質層のうち、いずれか一方の層を第1構成層として形成する第1構成層形成工程と、上記活物質層または上記固体電解質層のうち、他方の層を上記第1構成層上に第2構成層として形成する第2構成層形成工程と、を有し、上記第2構成層形成工程では、上記活物質材料または上記無機固体電解質材料、および溶剤を含有する第2構成層用スラリーを調製し、上記第2構成層用スラリーを乾燥状態の上記第1構成層上にスプレー法を用いて塗布することにより上記第2構成層を形成することを特徴とする全固体電池用積層体の製造方法である。
【0016】
なお、本発明における「粒子状の活物質材料」、「粒子状の無機固体電解質材料」とは、活物質材料、または無機固体電解質材料の平均粒子径(D50)が、1nm〜100μmの範囲内、より好ましくは10nm〜30μmの範囲内であるものを指す。また、上記活物質材料または無機固体電解質材料は、上述した平均粒子径を有するものであれば特に限定されず、例えば、球状、針状、板状等の粒子形状を有するものを含む。
【0017】
また、本発明において「第1構成層が乾燥状態である」とは、第1構成層が溶剤を含有しないことを指し、より具体的には、第1構成層中の溶剤の含有量が、好ましくは0質量%〜5質量%の範囲内、特に好ましくは0質量%〜1質量%の範囲内であることを指す。なお、上記第1構成層中の溶剤の含有量については、例えば以下の方法により測定することが可能である。すなわち、第1構成層の固形分率により溶剤の含有量を測定することができる。より具体的な方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。まず第1構成層を乾燥させた後、その一部を抜き取り、質量を測定する。その後、抜き取った第1構成層を完全に乾燥させる。次いで、再び抜き取った第1構成層の質量を測定し、完全乾燥前の質量との差分により固形分率を算出することにより溶剤の含有量を求める。
【0018】
本発明によれば、第2構成層用スラリーをスプレー法を用いて乾燥状態の第1構成層上に塗布する上記第2構成層形成工程を有することにより、乾燥状態の第1構成層に剪断応力をかけずに第2構成層用スラリーを塗布することが可能となることから、第1構成層の粒子状の材料を巻き上げることなく、第2構成層用スラリーを塗布して第2構成層を形成することが可能となる。よって、第2構成層用スラリー中に第1構成層の粒子状の材料が混入することを防止することができ、形成された固体電解質層中に活物質材料の局在部分が発生することを防止することができる。したがって全固体電池に用いた場合に短絡を生じにくい全固体電池用積層体を製造することが可能となる。
また、本発明によれば、第2構成層用スラリーに用いられる溶剤の揮発度、固形分率、ガス圧力、スプレー距離等を調整することにより、第1構成層上に塗布された直後の第2構成層用スラリーを半ドライ状態とすることが可能となることから、第2構成層用スラリー中の溶剤と接触することによる第1構成層の粒子状の材料の混入を好適に防止し、かつ、高い密着性で活物質層および固体電解質層を積層させて形成することができる。
【0019】
なお、「固体電解質層中の活物質材料の局在部分」とは、本発明の製造方法により製造される全固体電池用積層体を全固体電池に用いた場合に短絡が発生する程度に、固体電解質層中で活物質材料が存在している部分を指す。
【0020】
また、「第2構成層用スラリーが半ドライ状態である」とは、第1構成層上に塗布された直後の第2構成層用スラリーが、第1構成層の粒子材料を混入させない程度に溶剤を含有し、かつ活物質層および固体電解質材料の密着性が良好となるように各層を積層させて形成することができる程度に溶剤を含有していることを指す。なお、「第2構成層用スラリーが半ドライ状態である」ことについては、形成された第2構成層の表面や断面において第2構成層のムラ、欠落部分等が生じていないことを観察することにより確認することができる。
【0021】
ここで、全固体電池の容量を増加させるためには、固体電解質層の厚みを薄く形成することが好ましいところ、従来の全固体電池用積層体の製造方法においては、固体電解質層を薄膜に形成するほど、混入された活物質層が固体電解質層全体に占める割合が大きくなることから、活物質材料の局在部分の発生頻度が高くなり、上記全固体電池用積層体を用いた全固体電池における短絡の発生頻度が高くなるという問題がある。一方、本発明によれば、第1構成層に剪断応力をかけずに第2構成層用スラリーを塗布することが可能であることから、固体電解質層を薄膜に形成する場合においても、上述した活物質材料の局在部分の発生を好適に防止することが可能となるため、本発明の製造方法により得られた全固体電池用積層体を用いた全固体電池の容量を大きいものとすることができる。
【0022】
さらに、本発明によれば、活物質層および固体電解質層を形成する際に用いられる装置として特殊な装置を必要としないことから、製造コストを削減することが可能となる。
【0023】
ここで、本発明の全固体電池用積層体の製造方法は、上記活物質層および固体電解質層の形成順により2つの態様に大別される。すなわち、第1構成層として上記活物質層を形成し、第2構成層として固体電解質層を形成する態様(以下、第1態様とする。)と、第1構成層として上記固体電解質層を形成し、第2構成層として上記活物質層を形成する態様(以下、第2態様とする。)との2つの態様に大別される。以下、各態様について説明する。
【0024】
I.第1態様
本発明の全固体電池用積層体の製造方法の第1態様は、第1構成層として活物質層を形成し、第2構成層として固体電解質層を形成する製造方法である。より具体的には、粒子状の活物質材料を含有する活物質層を形成する第1構成層形成工程と、粒子状の無機固体電解質材料を含有する固体電解質層を活物質層上に形成する第2構成層形成工程とを有し、第2構成層形成工程では、無機固体電解質材料および溶剤を含有する固体電解質層用スラリーを調製し、固体電解質層用スラリーを乾燥状態の活物質層上にスプレー法を用いて塗布することにより固体電解質層を形成することを特徴とする製造方法である。
【0025】
ここで、本態様の全固体電池用積層体の製造方法について図を用いて説明する。図1(a)〜(d)は本態様の全固体電池用積層体の製造方法の一例を示す工程図である。本態様において、まず第1構成層形成工程では、粒子状の活物質材料21および溶剤22を含有する活物質層用スラリー2’を調製し、活物質層用スラリー2’をドクターブレード20を用いて支持基体1上に塗布し(図1(a))、乾燥させることにより活物質層2を形成する(図1(b))。また、支持基体1としては、集電体1’を用いることができる。なお、図示しないが、第1構成層形成工程においては、活物質材料を加圧プレスすることにより活物質層を形成することもできる。次に、第2構成層形成工程では、粒子状の無機固体電解質材料31および溶剤32を含有する固体電解質層用スラリー3’を調製し、固体電解質層用スラリー3’を乾燥状態の活物質層2上にスプレーノズル30を用いて塗布する(図1(c))ことにより固体電解質層3を形成する(図1(d))。上述の各工程を経て、活物質層2および固体電解質層3を有する全固体電池用積層体10を製造することができる。
【0026】
本態様においては、第2構成層形成工程でスプレー法を用いて固体電解質層用スラリーを乾燥状態の活物質層上に塗布することから、活物質層中の活物質材料を巻き上げることなく固体電解質層用スラリーを塗布することができ、固体電解質層用スラリー中に活物質材料が混入することを好適に防止することができる。したがって、固体電解質層中に活物質層の局在部分が発生することを抑制することができる。
以下、本態様の全固体電池用積層体の製造方法の各工程について説明する。
【0027】
1.第1構成層形成工程
本態様における第1構成層形成工程は、粒子状の活物質材料を含有する活物質層を形成する工程である。
【0028】
本工程に用いられる活物質層の形成方法としては、集電体とともに用いられることにより、電極として機能する活物質層を形成することが可能な方法であれば特に限定されず、具体的には、粒子状の活物質材料を加圧プレスして活物質層を形成する方法、上記活物質材料および溶剤を含有する活物質層用スラリーを調製し、活物質層用スラリーを支持基体上に塗布することにより活物質層を形成する方法等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、活物質層用スラリーを用いた方法であることが好ましい。活物質層を生産性高く形成することが可能となるからである。また、大面積の活物質層を形成することが可能となるからである。
【0029】
以下、活物質層用スラリーを用いた活物質層の形成方法についてより詳細に説明する。
【0030】
本工程に用いられる上記活物質材料としては、粒子状であり、かつ所望の電極特性を示す活物質層を形成することが可能であれば特に限定されず、全固体電池に使用される一般的な活物質材料を用いることができる。また、上記活物質材料は、正極活物質材料として用いても良く、負極活物質材料として用いても良い。
【0031】
例えば、上記全固体電池用積層体が全固体リチウム電池に用いられる場合、正極活物質材料として有用な活物質材料としては、例えばLiCoO、LiNiO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiVO、LiCrO等の層状正極活物質材料、LiMn、Li(Ni0.25Mn0.75、LiCoMnO、LiNiMn等のスピネル型正極活物質材料、LiCoPO、LiMnPO、LiFePO等のオリビン型正極活物質材料等を挙げることができる。
【0032】
一方、負極活物質として有用な活物質としては、例えば金属活物質材料およびカーボン活物質材料を挙げることができる。金属活物質としては、例えばIn、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。
【0033】
活物質層における活物質の含有量は、例えば60質量%〜99質量%の範囲内、中でも70質量%〜95質量%の範囲内であることが好ましい。
【0034】
また、上記活物質層用スラリーに用いられる溶剤としては、活物質層材料を劣化させることなく、支持基体上に均一に上記活物質層用スラリーを塗布することが可能となるものであれば特に限定されず、後述する第2構成層形成工程の項で説明する溶剤と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0035】
本態様においては、上述した活物質材料および溶剤以外にも、導電化剤、結着剤、および固体電解質材料を含有していてもよい。
【0036】
また、上記活物質層用スラリーの固形分率としては、支持基体上に所望の膜厚を有する活物質層を形成可能な程度であれば特に限定されず、通常は、上記活物質層用スラリーの塗布方法により適宜調製される。
【0037】
また、上記支持基体としては、活物質層を形成することが可能なものであれば特に限定されず、例えば、樹脂製基材、ガラス基材、金属基材等を挙げることができる。本態様においては、なかでも、上記支持基体が集電体に用いることが可能な基材であることが好ましい。集電体上に活物質層を形成することにより、本態様の全固体電池用積層体を用いて全固体電池を製造する際に、製造工程を簡略化することができるからである。また、集電体および活物質層の密着性を高いものとすることができることから、優れた電極特性を示すことが可能となるからである。
【0038】
上記活物質層用スラリーの塗布方法としては、所望の活物質層を形成することが可能な方法であれば特に限定されず、一般的な活物質層の形成方法に用いられる方法と同様とすることができる。具体的には、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法等を挙げることができる。
【0039】
本工程において、活物質層用スラリーを用いて活物質層を形成した場合は、通常、活物質層を乾燥させる工程が行われる。また、活物質層における活物質材料の密着性を向上させるため、乾燥工程後に必要に応じて、加圧工程を行うことができる。
【0040】
2.第2構成層形成工程
本態様における第2構成層形成工程は、粒子状の無機固体電解質材料を含有する固体電解質層を形成する工程である。また本工程では、無機固体電解質材料および溶剤を含有する固体電解質層用スラリーを調製し、固体電解質層用スラリーを乾燥状態の活物質層上にスプレー法を用いて塗布することにより固体電解質層を形成する。
【0041】
無機固体電解質材料としては、粒子状であり、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されず、例えば酸化物固体電解質材料および硫化物固体電解質材料を挙げることができる。特に、本態様により形成された全固体電池用積層体を全固体リチウム電池に用いる場合、固体電解質材料は、硫化物固体電解質材料であることが好ましい。Liイオン伝導性が高く、高出力な電池を得ることができるからである。
【0042】
硫化物固体電解質材料は、通常は、伝導するイオンとなる金属元素(M)と、硫黄(S)とを含有する。上記Mとしては、例えばLi、Na、K、Mg、Ca等を挙げることができ、中でもLiが好ましい。特に、硫化物固体電解質材料は、Li、A(Aは、P、Si、Ge、Al、Bからなる群から選択される少なくとも一種である)、Sを含有することが好ましい。さらに、上記AはP(リン)であることが好ましい。さらに、硫化物固体電解質材料は、Cl、Br、I等のハロゲンを含有していても良い。ハロゲンを含有することにより、イオン伝導性が向上するからである。また、硫化物固体電解質材料はOを含有していても良い。
【0043】
Liイオン伝導性を有する硫化物固体電解質材料としては、例えば、LiS−P、LiS−P−LiI、LiS−P−LiO、LiS−P−LiO−LiI、LiS−SiS、LiS−SiS−LiI、LiS−SiS−LiBr、LiS−SiS−LiCl、LiS−SiS−B−LiI、LiS−SiS−P−LiI、LiS−B、LiS−P−Z(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn、Gaのいずれか。)、LiS−GeS、LiS−SiS−LiPO、LiS−SiS−LiMO(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)等を挙げることができる。なお、上記「LiS−P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質材料を意味し、他の記載についても同様である。
【0044】
また、硫化物固体電解質材料が、LiSおよびPを含有する原料組成物を用いてなるものである場合、LiSおよびPの合計に対するLiSの割合は、例えば70mol%〜80mol%の範囲内であることが好ましく、72mol%〜78mol%の範囲内であることがより好ましく、74mol%〜76mol%の範囲内であることがさらに好ましい。オルト組成またはその近傍の組成を有する硫化物固体電解質材料とすることができ、化学的安定性の高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。ここで、オルトとは、一般的に、同じ酸化物を水和して得られるオキソ酸の中で、最も水和度の高いものをいう。本発明においては、硫化物で最もLiSが付加している結晶組成をオルト組成という。LiS−P系ではLiPSがオルト組成に該当する。LiS−P系の硫化物固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiSおよびPの割合は、モル基準で、LiS:P=75:25である。なお、上記原料組成物におけるPの代わりに、AlまたはBを用いる場合も、好ましい範囲は同様である。LiS−Al系ではLiAlSがオルト組成に該当し、LiS−B系ではLiBSがオルト組成に該当する。
【0045】
また、硫化物固体電解質材料が、LiSおよびSiSを含有する原料組成物を用いてなるものである場合、LiSおよびSiSの合計に対するLiSの割合は、例えば60mol%〜72mol%の範囲内であることが好ましく、62mol%〜70mol%の範囲内であることがより好ましく、64mol%〜68mol%の範囲内であることがさらに好ましい。オルト組成またはその近傍の組成を有する硫化物固体電解質材料とすることができ、化学的安定性の高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。LiS−SiS系ではLiSiSがオルト組成に該当する。LiS−SiS系の硫化物固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiSおよびSiSの割合は、モル基準で、LiS:SiS=66.6:33.3である。なお、上記原料組成物におけるSiSの代わりに、GeSを用いる場合も、好ましい範囲は同様である。LiS−GeS系ではLiGeSがオルト組成に該当する。
【0046】
また、硫化物固体電解質材料が、LiX(X=Cl、Br、I)を含有する原料組成物を用いてなるものである場合、LiXの割合は、例えば1mol%〜60mol%の範囲内であることが好ましく、5mol%〜50mol%の範囲内であることがより好ましく、10mol%〜40mol%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0047】
また、硫化物固体電解質材料は、硫化物ガラスであっても良く、結晶化硫化物ガラスであっても良く、固相法により得られる結晶質材料であっても良い。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質材料がLiイオン伝導体である場合、常温におけるLiイオン伝導度は、例えば1×10−5S/cm以上であることが好ましく、1×10−4S/cm以上であることがより好ましい。
【0048】
また、溶剤としては、無機固体電解質材料を劣化させることなく、スプレー法を用いて活物質層上に均質な固体電解質層を形成することを可能な固体電解質層用スラリーとすることができるものであれば特に限定されるものではないが、常温常圧における揮発度が、0mmHg〜800mmHgの範囲内、なかでも、0mmHg〜100mmHgの範囲内、特に5mmHg〜80mmHgの範囲内であることが好ましい。上記揮発度が上記範囲に満たない場合は、支持基体上に形成された活物質層中に溶剤が残留しやすくなり、乾燥工程に多くの時間がかかることから製造効率が低下したり、また乾燥のため高温での加熱が必要となることから、活物質材料が劣化する可能性があるからである。一方、上記揮発度が上記範囲を超える場合は、支持基体への上記活物質層用スラリーの塗布性が低下したり、活物質層用スラリーの濃度変化が大きいことから、均質な活物質層を形成することが困難となる可能性があるからである。
【0049】
上記溶剤としては、常温常圧における揮発度が上記範囲内のものであれば特に限定されないが、具体的には、ヘプタン、キシレン、トルエン、上述の溶剤を2種類以上混合させた混合溶剤等を挙げることができる。
【0050】
(2)塗布条件
本工程における固体電解質層用スラリーの塗布条件としては、活物質層上にスプレー法を用いて所望の膜厚を有する固体電解質層を均質に形成することが可能であれば特に限定されない。本工程においては、なかでも、活物質層上に塗布される固体電解質層用スラリーを上述した半ドライ状態とすることが可能となるように、溶剤の揮発度、固形分率、ガス圧力、スプレーノズルおよび活物質表面の間の距離(以下、スプレー距離と称する場合がある。)等を調整して塗布条件を決定することが好ましい。本工程においては、スプレー法を用いて活物質層上に固体電解質層用スラリーを塗布するものであることから、スプレーノズルから噴射された固体電界質層用スラリー中の溶剤の一部を揮発させて活物質層上に塗布することが可能となる。よって、上述した各パラメータを調整することにより、揮発する溶剤の量を調整し、活物質層上に塗布される固体電解質層用スラリーを半ドライ状態とすることが可能となる。
【0051】
溶剤の揮発度については、上述したため、ここでの説明は省略する。
【0052】
本工程における固体電解質層用スラリーの固形分率としては、活物質層上に塗布される固体電解質層用スラリーを半ドライ状態とすることができ、均質な固体電解質層を形成することが可能であれば特に限定されない。具体的には、固体電解質層用スラリーの固形分率が、10質量%〜40質量%の範囲内、なかでも20質量%〜40質量%の範囲内、特に25質量%〜35質量%の範囲内であることが好ましい。固体電解質層用スラリーの固形分率が上記範囲に満たない場合は、活物質層と接触する固体電解質層用スラリー中の溶剤の量が多くなることから、活物質材料が混入し、その結果、固体電解質層中に活物質材料の局在部分が発生してしまう可能性があるからである。一方、固体電解質層用スラリーの固形分率が上記範囲に満たない場合は、活物質層上に形成される固体電解質層の密着性が十分でないことから、活物質層および固体電解質層の界面におけるリチウムの伝導効率が低下する可能性があるからである。
【0053】
上記ガス圧力としては、活物質層上に塗布される固体電解質層用スラリーを半ドライ状態とすることができ、均質な固体電解質層を形成することが可能であれば特に限定されない。具体的には、上記ガス圧力としては、0.05MPa〜0.5MPaの範囲内、なかでも0.1MPa〜0.4MPaの範囲内、特に0.15MPa〜0.35MPaの範囲内であることが好ましい。上記ガス圧力が上記範囲に満たない場合は、固体電解質層用スラリーの噴射量が少ないことから、固体電解質層用スラリー中に含まれる溶剤の量が少なくなり、活物質層および固体電解質層の密着性を十分に高くすることが困難となる可能性があるからである。上記ガス圧力が上記範囲を超える場合は、ノズルから噴射される固体電解質層スラリーの量が多くなることから、活物質層に接触する固体電解質層用スラリー中の溶剤の量が多くなることから、活物質材料が混入し、その結果、固体電解質層中に活物質材料の局在部分が発生してしまう可能性があるからである。
【0054】
上記スプレー距離としては、活物質層上に塗布される固体電解質層用スラリーを半ドライ状態とすることができ、均質な固体電解質層を形成することが可能であれば特に限定されない。具体的には、上記スプレー距離としては、2cm〜40cmの範囲内、なかでも5cm〜30cmの範囲内、特に10cm〜25cmの範囲内であることが好ましい。上記スプレー距離が上記範囲に満たない場合は、単位面積当たりに噴射される固体電解質層用スラリーの量が多くなることから、活物質層に接触する溶剤の量が多くなるため、活物質材料が混入し、その結果、固体電解質層中に活物質材料の局在部分が発生してしまう可能性があるからである。また、上記スプレー距離が上記範囲を超える場合は、固体電解質層用スラリーが活物質表面に到達するまでに固体電解質層用スラリー中に含まれる溶剤が所望の量よりも揮発することにより、活物質層および固体電解質層の密着性を十分に高いものとすることが困難となる可能性があるからである。
【0055】
なお、スプレー法に用いられるスプレーノズル、ガス、その他の装置については、一般的なスプレー法に用いられるものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0056】
本工程において形成される固体電解質層の厚みとしては、イオン伝導性および絶縁性を示すことが可能となる程度であれば特に限定されず、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。また、上述した範囲内においては、固体電解質層の厚みがより薄いことが好ましい。イオン伝導性を向上させることができ、全固体電池用積層体を用いた全固体電池の容量を大きなものとすることが可能となるからである。また、固体電解質層を薄く形成する場合は、特に、上記活物質材料の局在部分の発生頻度が高くなることから、本発明の作用効果を大きく発揮することが可能となるからである。
【0057】
3.その他の工程
本態様の全固体電池用積層体の製造方法としては、上述した各工程を有するものであれば特に限定されないが、必要に応じて他の工程を追加することが可能である。このような工程としては、例えば、第2構成層形成工程後に、固体電解質層上に第2の活物質層を形成する第3構成層形成工程等を挙げることができる。なお、上記第2の活物質層に用いられる活物質材料としては、上述した第1構成層形成工程において形成された活物質層との電位の関係を考慮して形成される。また、上記第2の活物質層を形成する方法としては、上述した第2構成層形成工程と同様に、活物質材料および溶剤を含有する活物質層用スラリーを調製し、スプレー法を用いて固体電解質層に塗布して形成することが好ましい。
【0058】
II.第2態様
本発明の全固体電池用積層体の製造方法の第2態様は、第1構成層として固体電解質層を形成し、第2構成層として活物質層を形成する製造方法である。より具体的には、粒子状の無機固体電解質材料を含有する固体電解質層を形成する第1構成層形成工程と、粒子状の活物質材料を含有する活物質層を固体電解質層上に形成する第2構成層形成工程とを有し、第2構成層形成工程では、活物質材料および溶剤を含有する活物質層用スラリーを調製し、活物質層用スラリーを乾燥状態の固体電解質層上にスプレー法を用いて塗布することにより活物質層を形成することを特徴とする製造方法である。
【0059】
ここで、本態様の全固体電池用積層体の製造方法について図を用いて説明する。図2(a)〜(c)は本態様の全固体電池用積層体の製造方法の一例を示す工程図である。本態様においては、まず第1構成層形成工程では、支持基体1上に粒子状の無機固体電解質材料31を含有する固体電解質層3を形成する(図2(a))。次に、第2構成層形成工程では、粒子状の活物質材料21および溶剤22を含有する活物質層用スラリー2’を調製し、活物質層用スラリー2’を乾燥状態の固体電解質層3上にスプレーノズル30を用いて塗布する(図2(b))ことにより活物質層2を形成する(図2(c))。上述した各工程を経て、活物質層2および固体電解質層3が積層されて構成される全固体電池用積層体10を製造することができる。
【0060】
ここで、固体電解質層上に活物質層用スラリーをドクターブレード法等を用いて塗布して活物質層を形成する場合は、固体電解質層にかかる剪断応力により、無機固体電解質材料が巻き上げられ、活物質層用スラリー中に混入してしまうという問題や、無機固体電解質材料が巻き上げられることによって生じた固体電解質層の欠損部分に活物質材料が入りこむことにより、固体電解質層中に活物質材料の局在部分が生じてしまうという問題がある。
一方、本態様においては、第2構成層形成工程でスプレー法を用いて活物質層用スラリーを乾燥状態の固体電解質層上に塗布することから、固体電解質層に剪断応力をかけずに活物質層用スラリーを塗布することができる。したがって、上述した無機固体電解質材料の巻き上げや、欠損部分の発生を防止することができ、固体電解質層中に活物質材料の局在部分が発生することを好適に防止することが可能となる。
以下、本態様の全固体電池用積層体の製造方法の各工程について説明する。
【0061】
1.第1構成層形成工程
本態様における第1構成層形成工程は、粒子状の無機固体電解質材料を含有する固体電解質層を形成する工程である。
【0062】
本工程に用いられる固体電解質層の形成方法としては、イオン伝導性および絶縁性を有する固体電解質層を形成することが可能であれば特に限定されず、加圧プレスにより形成してもよく、固体電解質層用スラリーを支持基体上に塗布することにより形成してもよい。
【0063】
本工程において、用いられる無機固体電解質材料、および溶剤、については、上述した「(1)第1態様」の項で説明した固体電解質スラリーに用いられるものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0064】
本工程に用いられる支持基体としては、上述した第1態様の項で説明した樹脂製基材、ガラス基材、金属基材等を挙げることができる。また、本工程においては、集電体および活物質層を有する電極体を用いることもできる。なお、この場合、電極体が有する活物質層については、後述する第2構成層形成工程で形成される活物質層と異なる材料を用いて形成されるものである。
【0065】
また、上記固体電解質層用スラリーの固形分率、および塗布方法については、上述した第1態様の活物質層用スラリーの固形分率、および塗布方法と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0066】
本工程により形成される固体電解質層の厚みとしては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されず、第1態様の項で説明した固体電解質層の厚みと同様とすることができる。本工程においても、固体電解質層の厚みとしては、上述した数値範囲においてより薄いことが好ましい。固体電解質層を薄膜に形成した場合は、第1態様と同様に本発明の作用効果を大きく発揮することが可能となるからである。
【0067】
2.第2構成層形成工程
本態様における第2構成層形成工程は、粒子状の活物質材料を含有する活物質層を形成する工程である。また本工程では、活物質材料および溶剤を含有する活物質層用スラリーを調製し、活物質層用スラリーを乾燥状態の固体電解質層上にスプレー法を用いて塗布することにより活物質層を形成する。
【0068】
本工程に用いられる活物質材料、および溶剤については、上述した第1態様における活物質層用スラリーに用いられるものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。また、塗布条件については上述した第1態様における第2構成層形成工程の項で説明した条件と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0069】
本工程においては、スプレー法を用いて塗布される活物質層用スラリーの組成を変化させて塗布することにより、得られる活物質層を、活物質層の厚み方向に活物質材料の濃度に傾斜を有するものとすることができる。
【0070】
3.その他の工程
本態様の全固体電池用積層体の製造方法としては、上述した各工程を有するものであれば特に限定されないが、必要に応じて他の工程を追加することが可能である。このような工程としては、例えば、第2構成層形成工程後に、支持基体から固体電解質層を剥離し、剥離された側の固体電解質層上に第2の活物質層を形成する第3構成層形成工程等を挙げることができる。なお、第3構成層形成工程については、上述した第1態様の項で説明した工程と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0071】
4.その他
本態様の全固体電池用積層体の製造方法においては、上述した第1態様において固体電解質層を形成する工程、すなわち、第1態様における第2構成層形成工程を本態様における第1構成層形成工程とし、第2構成層形成工程で上述した固体電解質層上に活物質層を形成することができる。
【0072】
III.全固体電池用積層体の製造方法
本発明の全固体電池用積層体の製造方法においては、上述した第1態様および第2態様のいずれの製造方法も採用することが可能であるが、第1態様であることがより好ましい。固体電解質層中の活物質材料の局在部分については、活物質層上に固体電解質層を形成する場合において特に発生しやすいからである。また、第1態様においては、集電体、活物質層、および固体電解質層の各層の密着性を高いものとすることができることから、全固体電池に用いた場合に、高性能な全固体電池を得ることが可能となるからである。
【0073】
また、第1態様を採用した場合は、上述したように、第1態様における第2構成層形成工程を第2態様の第1構成層形成工程として、第2態様の第2構成層形成工程を行うことにより、活物質層/固体電解質層/活物質層の層構成を有する全固体電池用積層体を製造することも好ましい。
【0074】
IV.全固体電池用積層体
本発明の製造方法により製造される全固体電池用積層体は、上記活物質層および固体電解質層が積層されて構成されるものであり、種々の全固体電池に用いられるものである。このような全固体電池としては、例えば全固体リチウム電池、全固体ナトリウム電池、全固体マグネシウム電池および全固体カルシウム電池等を挙げることができ、中でも、全固体リチウム電池および全固体ナトリウム電池が好ましく、特に、全固体リチウム電池が好ましい。また、上記全固体電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば、車載用電池として有用だからである。また、本発明の製造方法により製造される全固体電池用積層体の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等の全固体電池に使用することが可能な形状を挙げることができる。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0077】
[実施例1]
(全固体電池用積層体の作製)
以下の手順により全固体電池用積層体を作製した。
【0078】
<活物質層の形成>
活物質としてLiCoO(全固形分中49質量%)、固体電解質としてLiS−P(全固形分中49質量%)、結着材としてブチレンラバー(BR)(全固形分中2質量%)、および溶剤としてヘプタンを用い、固形分率が35質量%となるように、活物質層用スラリーを調製した。次に、支持基体上に上記活物質層用スラリーをドクターブレードを用いて塗布した後、乾燥させることにより、活物質層を形成した。
【0079】
<固体電解質層の形成>
固体電解質としてLiS−P(全固形分中98質量%)、結着材としてBR(全固形分中2質量%)、および溶剤としてヘプタンを用い、固形分率が35質量%となるように、固体電解質層用スラリーを調製した。次に、上記固体電解質層用スラリーを、スプレーツール(アネスト岩田製)を用いて、乾燥状態の上記活物質層上に塗布することにより固体電解質層を形成した。また、塗布条件としては、ガスとしてアルゴンを用い、ガス圧力0.15MPa、スプレー距離15cmとした。
【0080】
(評価)
得られた全固体電池用積層体の表面を観察したところ、固体電解質層中に活物質の局在部分は観察されず、固体電解質層は均質に形成されていた。
【0081】
[実施例2〜6]
(全固体電池用積層体の作製)
固体電解質用スラリーの固形分率を5質量%(実施例2)、10質量%(実施例3)、40質量%(実施例4)、60質量%(実施例5)、90質量%(実施例6)に変化させたこと以外は、実施例1の全固体電池用積層体と同様にしてそれぞれ実施例2〜実施例6の全固体電池用積層体を作製した。
【0082】
(評価)
実施例3、4、5の全固体電池用積層体においては固体電解質層が良好に製膜されていることを確認することができた。
一方、実施例2の全固体電池用積層体については、実施例1における塗布条件では固体電解質層中に活物質の局在部分が発生したが、塗布条件を変更することにより、固体電解質層が良好に製膜されていることを確認することができた。これは、実施例2における固体電解質層用スラリーを用いて実施例1における塗布条件で固体電解質層を形成した場合は、活物質層上に塗布される固体電解質層用スラリー中の溶剤が多すぎることから活物質が混入したものと考えられる。
また、実施例6の全固体電池用積層体については、実施例1における塗布条件では活物質層および固体電解質層の密着性を十分なものとすることができなかったが、塗布条件を変更することにより、活物質層および固体電解質層の密着性が良好であり、さらに固体電解質層が良好に製膜されていることを確認することができた。これは、実施例6における固体電解質層用スラリーを用いて実施例1における塗布条件で固体電解質層を形成した場合は、活物質層上に塗布される前に溶剤が揮発して、活物質層上に塗布される固体電解質層用スラリー中の溶剤が少なくなりすぎることから密着性が不十分になったものと考えられる。
したがって、塗布条件の設定の容易性等を考慮すると、固体電解質層用スラリーの固形分率としては、10質量%〜40質量%の範囲内とすることが好ましいことが考えられる。
【符号の説明】
【0083】
1 … 支持基体
2 … 活物質層
3 … 固体電解質層
10 … 全固体電池用積層体
11 … 集電体
21 … 活物質材料
22、32 … 溶剤
31 … 無機固体電解質材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の活物質材料を含有する活物質層、および粒子状の無機固体電解質材料を含有する固体電解質層が積層されて構成される全固体電池用積層体の製造方法であって、
前記活物質層または前記固体電解質層のうち、いずれか一方の層を第1構成層として形成する第1構成層形成工程と、
前記活物質層または前記固体電解質層のうち、他方の層を前記第1構成層上に第2構成層として形成する第2構成層形成工程と、を有し、
前記第2構成層形成工程では、前記活物質材料または前記無機固体電解質材料、および溶剤を含有する第2構成層用スラリーを調製し、前記第2構成層用スラリーを乾燥状態の前記第1構成層上にスプレー法を用いて塗布することにより前記第2構成層を形成することを特徴とする全固体電池用積層体の製造方法。
【請求項2】
前記第2構成層用スラリーの固形分率が、10質量%〜40質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池用積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−252833(P2012−252833A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123520(P2011−123520)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】