説明

全固体電池

【課題】本発明は、拡散抵抗が低減し、レート特性が向上した全固体電池を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明においては、正極体および負極体のうち少なくとも一方の電極体の電極活物質層は、上記電極活物質層の一部分に含まれる固体電解質材料の体積(V(partial))に対する上記電極活物質層の上記一部分に含まれる電極活物質の体積(V(partial))の比(V(partial)/V(partial))で表される局所含有体積比が、上記電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなる組成分布を有し、上記電極活物質層の空隙率が、上記電極活物質層の厚み方向を固体電解質界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなることを特徴とする全固体電池を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散抵抗が低減し、レート特性が向上した全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。現在、種々の電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウム電池が注目を浴びている。
【0003】
現在市販されているリチウム電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質層に変えて、電池を全固体化した全固体リチウム電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
このような全固体リチウム電池の電極においては、通常、リチウムイオンの伝導度を高めるために、固体電解質材料を混合して用いる。例えば、特許文献1においては、平板状の正極集電体の両面に、正極活物質粉末と固体電解質粉末を含有する正極合材層を形成させた正極と、固体電解質層(SE)および負極集電体を順次積層して設けた固体電解質リチウム二次電池が開示されている。これは、正電極もしくは負電極と密着性の高い固体電解質を介した層構成とすることで、充放電に伴う正電極と負電極の膨張・収縮による電池の反りや歪みやクラックの低減を図ったものである。
【0005】
また、全固体リチウム電池は、例えば、車載用電池として、さらなる高容量・高出力化が要求されており、高容量化の手段としては、電極活物質層の厚膜化が挙げられるが、この方法は厚膜化による抵抗増加のため、出力特性が低下するという問題があった。この対策として、例えば、特許文献2においては、集電体と、前記集電体の表面に形成された、活物質を含む活物質層と、を有し、前記活物質の比表面積が、前記活物質層の表面側から前記集電体側に向かって増加する電池用電極が開示されている。これは、活物質の比表面積を、活物質層の表面側から活物質層の集電体側に向かって増加させることで、高出力条件下での充放電においても、活物質層の厚さ方向に沿った反応ムラを緩和し、電池の耐久性向上を目的としたものである。また、特許文献3には、集電体上の、電解質として全固体高分子電解質または高分子ゲル電解質を含む電極活物質層において、前記電極活物質層表面から集電体側に向かって電解質以外の固形分濃度が大きくなるように濃度勾配を有する非水電解質電池用電極が開示され、特許文献4には、集電体と、前記集電体の面に形成された活物質層と、を備え、前記活物質層に含まれる活物質の濃度が、前記集電体側から前記活物質層の表面側に向かって増加する電池用電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−146657号公報
【特許文献2】特開2006−210003号公報
【特許文献3】特許第4055671号
【特許文献4】特開2010−27530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
全固体電池においては、さらなる拡散抵抗の低減およびレート特性の向上が求められている。本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、拡散抵抗が低減し、レート特性が向上した全固体電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明においては、正極集電体、ならびに上記正極集電体上に形成され、正極活物質および固体電解質材料を含有する正極活物質層を有する正極体と、負極集電体、ならびに上記負極集電体上に形成され、負極活物質および固体電解質材料を含有する負極活物質層を有する負極体と、上記正極体および上記負極体の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、上記正極体および上記負極体のうち少なくとも一方の電極体の電極活物質層は、上記電極活物質層の一部分に含まれる固体電解質材料の体積(V(partial))に対する上記電極活物質層の上記一部分に含まれる電極活物質の体積(V(partial))の比(V(partial)/V(partial))で表される局所含有体積比が、上記電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなる組成分布を有し、上記電極活物質層の空隙率が、上記電極活物質層の厚み方向を固体電解質界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなることを特徴とする全固体電池を提供する。
【0009】
本発明によれば、電極活物質層が、電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなる局所含有体積比(V(partial)/V(partial))を有することで、集電体側に電極活物質を増やして電子伝導パスを形成しやすくすることができるとともに、固体電解質層側に固体電解質材料を増やしてLiイオン伝導パスを太く形成することができる。これにより、電流量を増やすことができ、拡散抵抗が低減し、レート特性が向上した全固体電池とすることができる。また、電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど電極活物質層の空隙率を大きくすることによって、電極活物質が多い集電体側で特に顕著な電極活物質の膨張・収縮を空隙により吸収させることができ、全固体電池の耐久性を向上させることができる。
【0010】
上記発明においては、上記電極体が上記正極体であり、上記電極活物質層が上記正極活物質層であることが好ましい。
【0011】
上記発明においては、上記固体電解質材料が、硫化物固体電解質材料であることが好ましい。硫化物固体電解質材料は軟らかいため、変形しやすく、イオン伝導パスを形成しやすいからである。
【0012】
上記発明においては、上記固体電解質材料が、粒子状であることが好ましい。電極活物質層において、固体電解質材料間に空隙を形成することができ、電極活物質が膨張または収縮した際の機械的な変位を吸収することができるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、拡散抵抗が低減し、レート特性が向上した全固体電池を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の全固体電池の一例を示す概略断面図である。
【図2】パーコレーション理論のシミュレーションによる電極活物質粒子密度と電極活物質粒子の結合割合との関係を示すグラフである。
【図3】電池密度および電池の耐久性の関係を示すグラフである。
【図4】実施例1、比較例1および比較例2で得られた全固体電池のレート特性評価の結果を示すグラフである。
【図5】実施例1、比較例1および比較例2で得られた全固体電池の拡散抵抗測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の全固体電池について、詳細に説明する。
【0016】
本発明の全固体電池は、正極集電体、ならびに上記正極集電体上に形成され、正極活物質および固体電解質材料を含有する正極活物質層を有する正極体と、負極集電体、ならびに上記負極集電体上に形成され、負極活物質および固体電解質材料を含有する負極活物質層を有する負極体と、上記正極体および上記負極体の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、上記正極体および上記負極体のうち少なくとも一方の電極体の電極活物質層は、上記電極活物質層の一部分に含まれる固体電解質材料の体積(V(partial))に対する上記電極活物質層の上記一部分に含まれる電極活物質の体積(V(partial))の比(V(partial)/V(partial))で表される局所含有体積比が、上記電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなる組成分布を有し、上記電極活物質層の空隙率が、上記電極活物質層の厚み方向を固体電解質界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなることを特徴とするものである。
【0017】
本発明において、「電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなる組成分布」とは、上記局所含有体積比が固体電解質層界面側から集電体界面側に向かって増加する組成分布を意味し、より詳細には、電極活物質層中の異なる2つの部分の局所含有体積比を比較した場合に、集電体により近い部分の局所含有体積比が、固体電解質層により近い部分の局所含有体積比よりも大きい組成分布を意味する。この場合の局所含有体積比の増加には、傾斜状増加、線状増加等の連続的増加、および、階段状増加等の間歇的増加の両方が含まれる。
また、「電極活物質層の空隙率が、電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなる」とは、電極活物質層の空隙率が固体電解質層界面側から集電体界面側に向かって増加することを意味し、より詳細には、電極活物質層中の異なる2つの部分の空隙率を比較した場合に、集電体により近い部分の空隙率が、固体電解質層により近い部分の空隙率よりも大きいことを意味する。この場合の空隙率の増加には、傾斜状増加、線状増加等の連続的増加、および、階段状増加等の間歇的増加の両方が含まれる。
【0018】
図1は、本発明の全固体電池の一例を示す概略断面図である。図1における全固体電池100は、正極集電体11、ならびに正極集電体11上に形成され、正極活物質1および固体電解質材料2を含有する正極活物質層12を有する正極体20と、負極集電体13、ならびに負極集電体13上に形成され、負極活物質3および固体電解質材料2を含有する負極活物質層14を有する負極体30と、正極体20および負極体30の間に形成され、固体電解質材料2からなる固体電解質層40とを有する。
また、正極活物質層12は、第1正極活物質層12aおよび第2正極活物質層12bから構成される。正極活物質層12のうち、第1正極活物質層12aは、正極集電体11により近い側に配置され、第2正極活物質層12bは、固体電解質層40により近い側に配置されている。第1正極活物質層12aおよび第2正極活物質層12bは、いずれも正極活物質1および固体電解質材料2を含有しているが、第1正極活物質層12aの局所含有体積比(V(partial)/V(partial))をa1、空隙率をb1とし、第2正極活物質層12bの上記局所含有体積比をa2、空隙率をb2としたとき、a1>a2、b1>b2という関係に設定する。すなわち、第1正極活物質層12a中の正極活物質1の体積比で表される局所含有体積比は、第2正極活物質層12b中の正極活物質1の体積比で表される局所含有体積比よりも高く、かつ、第1正極活物質層12a中の空隙率は、第2正極活物質層12b中の空隙率よりも低く設定する。
【0019】
本発明によれば、電極活物質層が、電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなる上記局所含有体積比(V(partial)/V(partial))を有することで、集電体側に電極活物質を増やして電子伝導パスを形成しやすくすることができるとともに、固体電解質層側に固体電解質材料を増やしてLiイオン伝導パスを太く形成することができる。これにより、電流量を増やすことができ、拡散抵抗が低減し、レート特性が向上した全固体電池とすることができる。また、電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど電極活物質層の空隙率を大きくすることによって、電極活物質が多い集電体側で特に顕著な電極活物質の膨張・収縮を空隙により吸収させることができ、全固体電池の耐久性を向上させることができる。従来、電極活物質層の集電体側の空隙率を大きくすることは、拡散抵抗の増加につながると考えられていた。これに対して、本発明においては、電極活物質層の集電体側の空隙率および上記局所含有体積比(V(partial)/V(partial))を大きくすることで、拡散抵抗の増加を抑制しつつ、耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0020】
本発明においては、集電体側の電極活物質を増やすことで、電極活物質同士がつながりやすくなり、電子伝導パスが形成されやすくなると考えられるが、これは、例えば、パーコレーション理論に基づいて説明できる。図2は、パーコレーション理論のシミュレーションによる電極活物質粒子密度と電極活物質粒子の結合割合との関係を示すグラフである。図2においては、縦軸に結合電極活物質粒子の割合(%)をとり、横軸に電極活物質粒子密度(Vol%)をとっている。ここで、「結合電極活物質粒子の割合」とは、集電体から電極活物質層の所定の距離まで連続して結合している電極活物質粒子の割合をいい、「電極活物質粒子密度」とは、電極活物質層における電極活物質粒子の割合をいう。図2に示されるように、電極活物質粒子密度および結合電極活物質粒子の割合には正の相関があり、特に、電極活物質粒子密度が50Vol%付近である場合に、結合電極活物質粒子の割合が急激に上昇している。なお、固体電解質材料でも同様である。
【0021】
図3は、電池密度および電池の耐久性の関係を示すグラフである。図3においては、縦軸に抵抗上昇率(%)をとり、横軸に電池密度(%)をとっている。ここで、「抵抗上昇率」とは、電池の初期の直流抵抗および反応抵抗に対する、電池の充放電を所定回数繰り返した際の直流抵抗および反応抵抗の割合をいい、「電池密度」とは、電池の非空隙部分(電極等の電池構成部材が占有する部分)の割合をいう。図3に示されるように、電池密度および電池の耐久性には負の相関があり、電池密度が小さいほど、直流抵抗および反応抵抗の抵抗上昇率が低下し、電池の耐久性が向上する。これは、電池密度が小さいと、電池の空隙部分が大きく、電極活物質の膨張および収縮をより吸収することができるためと考えられる。本発明においては、電極活物質層の空隙率を考慮することにより、充放電に伴う電極活物質の膨張・収縮を緩和し、全固体電池の耐久性を確保している。
以下、本発明の全固体電池について、構成ごとに説明する。
【0022】
1.正極体
まず、本発明における正極体について説明する。本発明における正極体は、正極集電体、ならびに正極集電体上に形成され、正極活物質および固体電解質材料を含有する正極活物質層を有するものである。
【0023】
(1)正極活物質層
本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質および固体電解質材料を含有する層であり、必要に応じて、導電化材および結着材の少なくとも一つをさらに含有していても良い。
【0024】
本発明に用いられる正極活物質としては、例えば、LiCoMn、LiNiCo、LiNiMn、LiNiCoMn、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、鉄オリビン(LiFePO)、コバルトオリビン(LiCoPO)、マンガンオリビン(LiMnPO)、チタン酸リチウム(LiTi12)等のリチウム遷移金属酸化物;銅シュブレル(CuMo)、硫化鉄(FeS)、硫化コバルト(CoS)、硫化ニッケル(NiS)等のカルコゲン化物等を挙げることができる。
【0025】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状を挙げることができ、中でも、直方体状または楕円球状であることが好ましい。また、正極活物質が粒子状である場合、その平均粒径としては、例えば、1μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、1μm〜20μmの範囲内であることがより好ましく、3μm〜5μmの範囲内であることがさらに好ましい。正極活物質の平均粒径が小さすぎると、取り扱い性が悪くなる可能性があるからであり、正極活物質の平均粒径が大きすぎると、平坦な正極活物質層を得るのが困難になる場合があるからである。なお、正極活物質の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される活物質担体の粒径を測定して、平均することにより求めることができる。
【0026】
本発明に用いられる固体電解質材料としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、硫化物固体電解質材料、酸化物固体電解質材料等を挙げることができる。本発明においては、中でも、硫化物固体電解質材料が好ましい。硫化物固体電解質材料は軟らかいため、変形しやすく、イオン伝導パスを形成しやすいからである。
【0027】
本発明に用いられる硫化物固体電解質材料としては、硫黄(S)を含有し、かつ、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではない。ここで、本発明の全固体電池が全固体リチウム電池である場合、用いられる硫化物固体電解質材料としては、具体的には、LiS−P(LiS:P=50:50〜100:0)、LiS−P−LiI、LiS−P−LiO−LiI、LiS−SiS、LiS−SiS−LiI、LiS−SiS−LiBr、LiS−SiS−LiCl、LiS−SiS−B−LiI、LiS−SiS−P−LiI、LiS−B、LiS−P−Z(Z=Ge、Zn、Ga)、LiS−GeS、LiS−SiS−LiPO、LiS−SiS−LiMO(M=P、Si、Ge、B、Al、Ga、In)等を挙げることができる。
なお、本発明に用いられる酸化物固体電解質材料としては、本発明の全固体電池が全固体リチウム電池である場合、例えば、LiPON(リン酸リチウムオキシナイトライド)、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、La0.51Li0.34TiO0.74、LiPO、LiSiO、LiSiO等を挙げることができる。
【0028】
本発明においては、固体電解質材料が、粒子状であることが好ましい。正極活物質層において、固体電解質材料間に空隙を形成することができ、正極活物質が膨張または収縮した際の機械的な変位を空隙により吸収することができるからである。
【0029】
本発明における正極活物質層は、さらに導電化材を含有していても良い。導電化材としては、正極活物質層の導電性を向上させることができれば特に限定されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。正極活物質層が導電化材を含有する場合、集電体により近い部分に含まれる導電化材の体積が、固体電解質層により近い部分に含まれる導電化材の体積よりも多いことが好ましい。この場合の導電化材の体積の増加には、傾斜状増加、線状増加等の連続的増加、および、階段状増加等の間歇的増加の両方が含まれる。また、正極活物質層における導電化材の含有量は、導電化材の種類によって異なるものであるが、通常、1質量%〜10質量%の範囲内である。
【0030】
また、本発明における正極活物質層は、さらに結着材を含有していても良い。結着材としては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有結着材等を挙げることができる。また、正極活物質層における結着材の含有量は、正極活物質等を固定化できる程度の量であれば良く、より少ないことが好ましい。結着材の含有量は、通常、1質量%〜10質量%の範囲内である。
【0031】
本発明においては、上記電極体が正極体であり、上記電極活物質層が正極活物質層であることが好ましい。その場合、正極活物質層は、上記正極活物質層の一部分に含まれる固体電解質材料の体積(V(partial))に対する上記正極活物質層の上記一部分に含まれる正極活物質の体積(V(partial))の比(V(partial)/V(partial))で表される局所含有体積比が、上記正極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から正極集電体界面側へ近づけるほど大きくなる組成分布を有し、上記正極活物質層の空隙率が、上記正極活物質層の厚み方向を固体電解質界面側から正極集電体界面側へ近づけるほど大きくなる。上記局所含有体積比(V(partial)/V(partial))は、固体電解質層界面側から正極集電体界面側に向けて大きくなっていれば特に限定されるものではない。
上記局所含有体積比(V(partial)/V(partial))が、固体電解質層界面側から集電体界面側に向けて間歇的に増加する組成分布を有する正極活物質層の形成方法としては、例えば、正極活物質および固体電解質材料の体積比が異なる正極活物質層をプレス成形により複数層形成し、得られた複数の正極活物質層を貼り合わせて一体化させる方法、正極活物質および固体電解質材料の体積比が異なる正極活物質層形成用インクを重ね塗りする方法、正極活物質および固体電解質材料の体積比が異なる正極活物質層形成用インクをCVD蒸着、PVD蒸着などによって重ねて形成する方法等を挙げることができる。このとき、正極活物質層形成用インクとしては、溶媒を混ぜてスラリー状にしたものを用いても良い。
上記局所含有体積比(V(partial)/V(partial))が、固体電解質層界面側から集電体界面側に向けて連続的に増加する組成分布を有する正極活物質層の形成方法としては、例えば、正極活物質および固体電解質材料の体積比が連続的な勾配を有するように、スパッタ法、インクジェット法などによって正極活物質層を形成する方法、正極集電体(例えば、アルミニウム箔等)に正極活物質および固体電解質材料が均一に混合された正極合材層を塗布し、磁力をかけて、塗布界面において正極活物質が多い組成を形成する方法等を挙げることができる。
正極活物質層を形成した後、電極密度を向上させるために、正極活物質層をプレスしても良い。
【0032】
また、上記正極活物質層の空隙率は、固体電解質層界面側から集電体界面側に向けて大きくなっていれば良いが、例えば、0.05%〜40%の範囲内であることが好ましく、0.1%〜20%の範囲内であることがより好ましい。正極活物質層の空隙率が低すぎると、正極活物質の膨張・収縮による機械的な変位を空隙により十分に吸収しきれず、正極活物質層に反り、歪み、クラック等が生じる可能性があるからであり、正極活物質層の空隙率が高すぎると、正極活物質層の抵抗が増加する可能性があるからである。なお、正極活物質層の空隙率は、正極活物質層に含まれる各材料の重量および密度から算出した各材料の体積の合計と、実際の正極活物質層の体積とを比較することにより求めることができる。また、正極活物質層の空隙率は、正極活物質層を形成する際に調整することができ、具体的には、正極活物質層を構成する材料をプレス成形する際のプレス圧およびプレス温度、正極活物質層を構成する材料の分散度合等により調整することができる。
【0033】
本発明における正極活物質層は、1層からなる単層構造であっても良く、2層以上の層からなる多層構造であっても良い。正極活物質層が多層構造の場合、層数が多すぎると、抵抗が大きく増加し、全固体電池が作動しなくなる可能性があるため、好ましくない。また、上記正極活物質層の厚さは、例えば、1μm〜300μmの範囲内であることが好ましく、20μm〜200μmの範囲内であることがより好ましい。正極活物質層の厚さが小さすぎると、十分な容量を得ることができないおそれがあるからであり、正極活物質層の厚さが大きすぎると、抵抗が増加しすぎて出力特性が低下してしまうおそれがあるからである。なお、上記正極活物質層の厚さは、正極活物質層が複数の層からなる場合は、各正極活物質層の総厚みとする。
【0034】
本発明における正極活物質層が2層構造の場合、例えば、図1に示すような、正極集電体11により近い側に配置された第1正極活物質層12a、および、固体電解質層40により近い側に配置された第2正極活物質層12bからなる正極活物質層12を用いることができる。正極集電体側の第1正極活物質層においては、含まれる正極活物質の体積が、含まれる固体電解質材料の体積よりも大きいことが好ましい。第1正極活物質層における正極活物質の含有量は、上述した図2の記載から、50Vol%以上であることが好ましく、55Vol%以上であることがより好ましく、60Vol%以上であることがさらに好ましい。第1正極活物質層における正極活物質粒子の結合割合を大幅に向上させることができるからである。また、第1正極活物質層における正極活物質粒子の結合割合は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。良好な電子伝導パスを形成することができるからである。一方、固体電解質層側の第2正極活物質層においては、含まれる固体電解質材料の体積が、含まれる正極活物質の体積よりも大きいことが好ましい。第2正極活物質層における固体電解質材料の含有量は、同様に、50Vol%以上であることが好ましく、55Vol%以上であることがより好ましく、60Vol%以上であることがさらに好ましい。第2正極活物質層における固体電解質材料粒子の結合割合を大幅に向上させることができるからである。また、第2正極活物質層における固体電解質材料粒子の結合割合は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。良好なイオン伝導パスを形成することができるからである。
【0035】
(2)正極集電体
本発明における正極集電体は、上記正極活物質層の集電を行う機能を有するものである。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができ、中でも、SUSが好ましい。また、正極集電体の厚さや形状等については、全固体電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。
【0036】
2.負極体
次に、本発明における負極体について説明する。本発明における負極体は、負極集電体、ならびに上記負極集電体上に形成され、負極活物質および固体電解質材料を含有する負極活物質層を有するものである。
【0037】
(1)負極活物質層
本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質および固体電解質材料を含有する層であり、必要に応じて、導電化材および結着材の少なくとも一つをさらに含有していても良い。
【0038】
本発明に用いられる負極活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等のカーボン材料;チタン酸リチウム(LiTi12)等のリチウム遷移金属酸化物;LaNiSn等の金属合金等を挙げることができる。また、負極活物質は、粉末状であっても良く、薄膜状であっても良い。なお、負極活物質層に用いられる固体電解質材料、導電化材および結着材については、上述した正極活物質層における場合と同様である。
【0039】
本発明においては、上記電極体が負極体であり、上記電極活物質層が負極活物質層であってもよい。その場合、負極活物質層は、上記負極活物質層の一部分に含まれる固体電解質材料の体積(V(partial))に対する上記負極活物質層の上記一部分に含まれる負極活物質の体積(V(partial))の比(V(partial)/V(partial))で表される局所含有体積比が、上記負極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から負極集電体界面側へ近づけるほど大きくなる組成分布を有し、上記負極活物質層の空隙率が、上記負極活物質層の厚み方向を固体電解質界面側から負極集電体界面側へ近づけるほど大きくなる。上記局所含有体積比(V(partial)/V(partial))は、固体電解質層界面側から負極集電体界面側に向けて大きくなっていれば特に限定されるものではない。
なお、上記局所含有体積比(V(partial)/V(partial))が、固体電解質層界面側から負極集電体界面側に向けて増加する組成分布を有する負極活物質層の形成方法、負極活物質層の空隙率については、上述した正極活物質層における場合と同様である。
【0040】
本発明における負極活物質層は、1層からなる単層構造であっても良く、2層以上の層からなる多層構造であっても良い。負極活物質層が多層構造の場合、層数が多すぎると、抵抗が大きく増加し、全固体電池が作動しなくなる可能性があるため、好ましくない。また、上記負極活物質層の厚さは、例えば、10μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、10μm〜50μmの範囲内であることがより好ましい。なお、上記負極活物質層の厚さは、負極活物質層が複数の層からなる場合は、各負極活物質層の総厚みとする。
【0041】
(2)負極集電体
本発明における負極集電体は、上記負極活物質層の集電を行う機能を有するものである。負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができ、中でも、SUSが好ましい。また、負極集電体の厚さや形状等については、全固体電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。
【0042】
3.固体電解質層
次に、本発明における固体電解質層について説明する。本発明における固体電解質層は、正極体および負極体の間に形成される層であり、固体電解質材料から構成される層である。固体電解質層に含まれる固体電解質材料は、絶縁性およびイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0043】
固体電解質層における固体電解質材料の含有量は、所望の絶縁性が得られる割合であれば特に限定されるものではないが、例えば、10体積%〜100体積%の範囲内、中でも、50体積%〜100体積%の範囲内であることが好ましい。特に、本発明においては、固体電解質層が固体電解質材料のみから構成されていることが好ましい。出力特性に優れた全固体電池とすることができるからである。
【0044】
固体電解質層は、必要に応じて、上述した結着材を含有していても良い。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、0.1μm〜300μmの範囲内であることがより好ましい。また、固体電解質層の形成方法としては、例えば、固体電解質層を構成する材料をプレス成形する方法を挙げることができる。また、固体電解質層を構成する材料と溶媒とを混ぜてスラリー状にしたものを塗布することで固体電解質層を形成しても良い。
【0045】
4.その他の構成
本発明の全固体電池は、上述した正極体、負極体および固体電解質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、これらの部材を収納する電池ケースを有する。本発明に用いられる電池ケースには、一般的な全固体電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースとしては、例えば、SUS製電池ケース等を挙げることができる。
【0046】
5.全固体電池
本発明の全固体電池の種類としては、全固体リチウム電池、全固体ナトリウム電池、全固体マグネシウム電池および全固体カルシウム電池等を挙げることができ、中でも、全固体リチウム電池および全固体ナトリウム電池が好ましく、特に、全固体リチウム電池が好ましい。また、本発明の全固体電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば、車載用電池として有用だからである。本発明の全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。
【0047】
また、本発明の全固体電池は、正極活物質層、固体電解質層および負極活物質層からなる発電要素が、集電体を介して直列に積層されているバイポーラ構造の全固体電池であっても良く、上記発電要素が、集電体を介して並列に積層されているモノポーラ構造の全固体電池であっても良い。
【0048】
本発明の全固体電池は、使用時の放電レートが8C以下であることが好ましく、6C以下であることがより好ましく、4C以下であることがさらに好ましく、2C以下であることが特に好ましい。車両における通常の充放電環境で良好な性能を示すことができるからである。なお、使用時の放電レートは、通常、0.1C以上である。
また、本発明の全固体電池の製造方法としては、上述した全固体電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な全固体電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。全固体電池の製造方法の一例としては、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層を上述した方法でそれぞれ形成し、正極集電体、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体を順次積層した積層体をプレスすることにより発電要素を作製し、この発電要素を電池ケースの内部に収納し、電池ケースをかしめる方法等を挙げることができる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0051】
[実施例1]
まず、固体電解質材料(75LiS−25P)を1ton/cmでプレスし、固体電解質層を形成した。
次に、正極活物質(LiCoO)および固体電解質材料(75LiS−25P)を3:2の体積比で混合した正極合材を1ton/cmでプレスし、第1正極活物質層を形成した。第1正極活物質層の空隙率は、20%であった。また、上記正極活物質および上記固体電解質材料を3:5の体積比で混合した正極合材を1ton/cmでプレスし、第2正極活物質層を形成した。第2正極活物質層の空隙率は、17%であった。続いて、第1正極活物質層と第2正極活物質層とを貼り合わせ、プレスすることにより一体化させ、正極活物質層を形成した。
さらに、負極活物質(C)および固体電解質材料(75LiS−25P)を1:1の体積比で混合した負極合材を4.0ton/cmでプレスし、負極活物質層を形成した。
最後に、第1正極活物質層が集電体側、第2正極活物質層が固体電解質層側となるように、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層を順に積層した積層体をSUS箔集電体で挟持した後、プレス機を用いて圧縮し、全固体電池を作製した。
【0052】
[比較例1]
正極活物質および固体電解質材料を1:1の体積比で混合した正極合材を1ton/cmでプレスし、正極活物質層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を作製した。なお、正極活物質層の空隙率は、18.5%であった。また、比較例1で用いられた正極活物質層の厚さは、実施例1で用いられた正極活物質層の厚さと同じであった。
【0053】
[比較例2]
第1正極活物質層が固体電解質層側、第2正極活物質層が集電体側となるように、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層を順に積層したこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を作製した。
【0054】
[評価]
(レート特性評価)
実施例1、比較例1および比較例2で得られた全固体電池を用いて、レート特性評価を行った。まず、全固体電池を、25℃で3時間放置した。次に、全固体電池を4.1Vまで充電した。充電後、全固体電池を25℃で8時間放置した。さらに、放電電流を0.1C、0.5C、2C、5C、10Cと変化させて、各放電電流で3Vまで放電試験を行い、放電比容量を測定した。これにより、レート特性評価を行った。その結果を図4に示す。図4に示されるように、実施例1で得られた全固体電池は、比較例1および比較例2で得られた全固体電池と比べて、高い放電比容量を示し、レート特性が向上していることが確認された。
【0055】
(拡散抵抗測定)
実施例1、比較例1および比較例2で得られた全固体電池を用いて、拡散抵抗測定を行った。全固体電池の電位を3.7Vに調整した後、複素インピーダンス測定を行うことにより、全固体電池の拡散抵抗を算出した。その結果を図5に示す。図5に示されるように、実施例1で得られた全固体電池は、比較例1および比較例2で得られた全固体電池と比べて、拡散抵抗が低減していることが確認された。
【符号の説明】
【0056】
1 … 正極活物質
2 … 固体電解質材料
3 … 負極活物質
11 … 正極集電体
12 … 正極活物質層
12a … 第1正極活物質層
12b … 第2正極活物質層
13 … 負極集電体
14 … 負極活物質層
20 … 正極体
30 … 負極体
40 … 固体電解質層
100 … 全固体電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体、ならびに前記正極集電体上に形成され、正極活物質および固体電解質材料を含有する正極活物質層を有する正極体と、
負極集電体、ならびに前記負極集電体上に形成され、負極活物質および固体電解質材料を含有する負極活物質層を有する負極体と、
前記正極体および前記負極体の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、
前記正極体および前記負極体のうち少なくとも一方の電極体の電極活物質層は、前記電極活物質層の一部分に含まれる固体電解質材料の体積(V(partial))に対する前記電極活物質層の前記一部分に含まれる電極活物質の体積(V(partial))の比(V(partial)/V(partial))で表される局所含有体積比が、前記電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなる組成分布を有し、
前記電極活物質層の空隙率が、前記電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなることを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
前記電極体が前記正極体であり、前記電極活物質層が前記正極活物質層であることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記固体電解質材料が、硫化物固体電解質材料であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記固体電解質材料が、粒子状であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の全固体電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−104270(P2012−104270A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249816(P2010−249816)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】