説明

全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物および光ピックアップレンズホルダー

【課題】制振特性に優れた光ピックアップレンズホルダー部品。
【解決手段】全芳香族液晶ポリエステル樹脂100質量部と、式(1)3≦X+0.1Y≦33(但し、0≦X≦33、0≦Y≦100)を充足する、相対粒子量が50体積%における粒径(D50)が5〜200μmの球状無機中空充填材X質量部および/または数平均径5〜20μmの繊維状無機充填材Y質量部とを溶融混練してなる全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物を使用する。
【効果】薄肉部を有する光ピックアップレンズホルダーであっても、制振性が制御された光ピックアップレンズホルダーを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録再生装置に使用される光ピックアップレンズホルダーに使用される全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物および該樹脂組成物の射出成形体を構成部材として含む光ピックアップレンズホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップは、コンパクトディスク、レーザーディスク、ビデオディスク、光磁気ディスク等に用いられ、半導体レーザーをレンズで数μm径スポットまで絞って照射し、ディスク上に記録された情報を読み取るものであり、一般に発光素子、受光素子、ミラー等の光学素子等を固定する光フレームと、対物レンズ、対物レンズホルダーを光ディスクの動きに追従させるためのアクチュエーター部と、このアクチュエーター部を保持し光フレームとの光学路を形成するベースフレームとから構成されている。
【0003】
光ピックアップの軽量化、低コスト化が促進され、構成材料を金属から樹脂に代替する試みがなされており、特に液晶ポリエステル樹脂は、熱可塑性樹脂の中でも、機械的特性、成形性、寸法精度、耐熱性および制振性に優れていることからレンズホルダー、ベースフレーム等の光ピックアップ部材として注目されてきた。しかし、近年のデジタルディスク駆動装置の扱う情報の大容量化、高速化に伴い、制振特性に対する要求が厳しくなっており、これを構成する液晶ポリエステル樹脂組成物にも高度の特性が要求されるようになった。
【0004】
近年の光ピックアップレンズホルダーピックにおいては、特に厚さ0.3mm以下の部分を含むものにおいては、全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物のみで射出成形体を製造した場合、射出成形製品の表面でのフィブリルの発生・剥離等が問題となる場合がある。
さらに、例えば、0.3mm以下の厚み部分を含むものにおいても、共振周波数2500Hz以上かつ損失係数0.10以上が要求されるようになっている。また、これらは、低消費電力で駆動されることを前提としているから、金属材料では、低比重であるマグネシユウムでも比重1.8であり、損失係数は小さいから満足することができない。
【0005】
従来から、光ピックアップ部材に適した液晶ポリエステル樹脂組成物としては、液晶ポリエステルとガラス繊維からなる樹脂組成物(特許文献1参照。)、液晶ポリエステルと炭素繊維からなる樹脂組成物(特許文献2、3参照。)が提案された。しかし、通常、ガラス繊維を充填した樹脂組成物では2次共振周波数が低くなる傾向があり、炭素繊維を充填した組成物では、2次共振周波数は高くなるが、損失係数が低くなる傾向がある。また公知の充填材を多量に含有させた場合、全芳香族ポリエステルの優れた制振性効果が十分に発揮されない場合がある。
【特許文献1】特開昭2002−197691号
【特許文献2】特開平6−172619号
【特許文献3】特開平11−126351号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、光ピックアップレンズホルダー部品において、近年のデジタルディスク駆動装置の扱う情報の大容量化、高速化に対応する制振特性を、特定の液晶ポリエステル樹脂と特定の充填材配合とからなるポリエステル樹脂組成物を使用して解決する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第1は、p−ヒドロキシ安息香酸60〜70モル%、テレフタル酸および4,4’−ジヒドロキシジフェニルあわせて40〜30モル%、イソフタル酸および/またはヒドロキノン0〜5モル%(いずれにおいてもこれらの誘導体を含む。これらの合計を100モル%とする。)を重縮合してなる全芳香族液晶ポリエステル樹脂100質量部と、
下式(1)を充足する、相対粒子量が50体積%における粒径(D50)が5〜200μmの球状無機中空充填材X質量部および/または数平均平均径5〜20μmの繊維状無機充填材Y質量部とを溶融混練してなる光ピックアップレンズホルダーの射出成形に用いられる全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
3≦X+0.1Y≦33 (1)
但し、0≦X≦33、0≦Y≦100 とする
【0008】
本発明の第2は、本発明の第1において、球状無機中空充填材が体積中空率50%〜80%であることを特徴とする全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【0009】
本発明の第3は、本発明の第1または第2において、繊維状無機充填材がガラス繊維であることを特徴とする全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【0010】
本発明の第4は、本発明の第1〜第3のいずれかにおいて、光ピックアップレンズホルダーが厚さ0.3mm以下の部分を含むことを特徴とする全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【0011】
本発明の第5は、本発明の第1〜3のいずれかの全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物を射出成形してなる光ピックアップレンズホルダーに関するものである。
【0012】
本発明の第6は、本発明の第5の光ピックアップレンズホルダーが厚さ0.3mm以下の部分を含むことを特徴とする光ピックアップレンズホルダーに関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薄肉部を有する光ピックアップレンズホルダーであっても、制振性が制御された光ピックアップレンズホルダーを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いる全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、p−ヒドロキシ安息香酸60〜70モル%、テレフタル酸および4,4’−ジヒドロキシジフェニルあわせて40〜30モル%、イソフタル酸および/またはヒドロキノン0〜5モル%(いずれにおいてもこれらの誘導体を含む。以下、特に断らない限り誘導体を含む。)を使用し、これらの合計を100モル%とした原料を重縮合してなる。イソフタル酸および/またはヒドロキノンは、要求性能に応じて、任意成分として適宜使用することができる。これらの誘導体としては、公知の誘導体のいずれも用いることができるが、フェノール性水酸基をアシル化したもの、例えば、酢酸または無水酢酸によるアセチル化誘導体またはフェノール類によるフェニルエステル化誘導体が溶融重合の進行が早く副反応を抑制でき、モノマー原料の配合が全芳香族ポリエステル樹脂の分子構造に反映されるので好ましい。
【0015】
本発明者らは、p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、4、4´−ジヒドロキシビフェニルが全モノマーの95〜100モル%からなることにより全芳香族ポリエステル分子構造に高い剛直性が付与されること、かつ、その分子構造の60〜70モル%を特に剛直付与効果が高いp−ヒドロキシ安息香酸が占めること、ベンゼン環が炭素結合およびエステル結合等で連結される構造を有すること等が相乗効果的に光ピックアップレンズホルダー等に対する制振性付与に大きな効果を与えていると考えている。
特に、p−ヒドロキシ安息香酸の含有量は重要であって、これは、60モル%以下では剛直性の付与が十分でなく、70モル%以上では溶融温度が高目となり、通常の射出成形において分解等が生じるためか成形体中での上記分子構造効果の出現が不十分となる。
【0016】
全芳香族ポリエステルの融点あるいは射出成形温度の低下調整の目的で任意成分として併用可能なモノマーとしては数多くのモノマーが公知であるが、本発明の全芳香族液晶ポリエステルにおいては、上記制振特性を維持するために、イソフタル酸、ヒドロキノンを使用することが好ましい。ただし、これらの芳香族化合物が5モル%を超えると、分子構造の剛直性低下のためか制振特性が低下するので好ましくない。これらが好ましい理由は明らかではないが、これらが芳香族環を1つのみ有する構造を有していることから、これらの含有にかかわらず、全芳香族ポリエステルの分子構造において、ベンゼン環が炭素結合およびエステル結合等で連結される基本構造が保たれるためと推定される。
【0017】
本発明の全芳香族液晶ポリエステルの製造は、これらのモノマーを使用して公知の溶融重縮合、または、溶融重縮合と固相重縮合で行うことができる。重縮合反応において触媒は使用してもしなくてもよい。使用する触媒としては、ポリエステルの重縮合用触媒として従来公知の触媒を使用することができ、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチアネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒等が挙げられる。
【0018】
また,溶融重縮合における重合器は特に限定されるものではないが,一般の高粘度反応に用いられる攪拌設備、例えば錨型、多段型、螺旋帯、螺旋軸等の各種形状の攪拌機またはそれらを変形したものを有する攪拌槽型重合器、具体的にはワーナー式ミキサー、バンバリーミキサー、ポニーミキサー、ミュラーミキサー、ロールミル、連続操作可能のコニーダー、パグミル、ギアーコンパウンダーなどから選ぶことが望ましい。
【0019】
本発明においては、下式(1)を充足する、相対粒子量が50体積%における粒径(D50)が5〜200μmの球状無機中空充填材X質量部および/または数平均径5〜20μmの繊維状充填材Y質量部を用い、上記全芳香族液晶ポリエステル樹脂に溶融混練する。
3 ≦X+0.1Y ≦33 (1)
但し、0≦X≦33、0≦Y≦100 とする
【0020】
相対粒子量が50体積%における粒径(D50)が5〜200μmの本発明に用いる球状無機中空充填材は、他の充填材と比較して低比重であることから、光ピックアップレンズホルダーにおいて本発明に係る全芳香族ポリエステルの制振性を有効に発揮できるが、全芳香族液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して33質量部を越える量を配合すると、薄肉部を有する光ピックアップレンズホルダーを成形するときの流動性に問題を生じることがある。その材質の具体例としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、マグネシア、ガラス、シラス、フライアッシュ、ホウ酸塩,リン酸塩、セラミックス等の無機質材料からなるものが挙げられる。これら球状無機中空充填材は組成物の製造工程、成形工程等での応力の履歴を受けることによって破損が不可避であるので、強度が高いほど好ましいが、強度を追求するあまり比重の大きい材料からなる中空体を採用すると成形体が重くなって商品価値が低下することがある。これらのバランスの観点から好ましいものをあげれば、ガラスバルーンもしくはシラスバルーン、セラミックバルーンと称する微小中空体であり、最も好ましいのはガラスバルーンである。
【0021】
本発明に用いる球状無機中空充填材の形状は概球体であり、その長径と短径の比は2以下が好ましい。この比が2を超えると中空体が破損しやすく好ましくない。
また本発明に用いる球状無機中空充填材の相対粒子量が50体積%における粒径(D50)は5〜200μmのものが好ましい。粒径が5μm未満の場合は、得られた組成物の流動性が著しく低下してしまい好ましくなく、200μmを超えると溶融混練および射出成形中に球状無機中空充填材が破損し比重が変動してしまうため好ましくない。特に好ましくは平均10〜100μmである。
本発明に用いる球状無機中空充填材の体積中空率は、光ピックアップレンズホルダー製品の低熱伝導率化および比重低下のためには50%以上のものが好ましく、また、球状無機中空充填材の破損率制御のために80%以下のものが好ましい。即ち、球状無機中空充填材の体積中空率が80%を超えると、溶融混練において球状無機中空充填材の破損率が上昇し、得られる組成物の熱伝導率および比重にばらつき生じるため好ましくない。なお、体積中空率とは、100×(1−微小中空体の真比重/微小中空体の材料比重)で求めることができる。球状無機中空充填材の体積中空率が50%以下では、製品の熱伝導率および比重を低下させる効果が低く好ましくない。
【0022】
球状無機中空充填材の具体的な例示としては、住友スリーエム(株)製のグラスバブルス(商品名:スコッチライトS−60)、東海工業(株)製のガラス微小中空体(商品名:セルスターPZ−6000)などが挙げられる。これらは必要に応じて全芳香族液晶ポリエステルとの密着性を向上させるために、シランカップリング剤などによる予備処理を施すこともできる。
【0023】
本発明に用いる繊維状無機充填材のアスペクト比は20以上が好ましい。アスペクト比20以上の場合は全芳香族液晶ポリエステルの射出成形時の流動性を向上させるのに有効である。アスペクト比20未満の場合は弾性特性の向上効果が発現せず、比重を大きくする弊害が発生してしまうので好ましくない。
本発明に用いる繊維状無機充填材の全芳香族液晶ポリエステル樹脂100質量部に対する配合量は100質量部以下であり、例えばガラス繊維は比重が約2.7程度あるため、100質量部を越えて配合すると光ピックアップレンズホルダー自体の比重と全芳香族ポリエステルとの比重(約1.4)との解離が大きくなるためか、本発明に係る全芳香族ポリエステルの制振性に係る特性を十分に発揮することができなくなることがある。
本発明に用いる繊維状無機充填材の具体的な例としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカアルミナ繊維、チタン酸カリウム繊維、炭素もしくは黒鉛繊維、さらにアルミニウム、チタン、銅などの金属の繊維状物質、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ウオラストナイトがあげられる。
これらの中でも、数平均径5〜20μmのガラス繊維が射出成形時の流動特性の点から好ましい。数平均径が5μm未満の場合は、人体に与える影響を勘案すると好ましくなく、20μmを超えると弾性特性の向上効果が充分でなくで好ましくない。さらに好ましい平均径は、射出成形時の流動性および成形体の表面特性から、7〜15μm、特に好ましくは、9〜12μmである。繊維状無機充填材は混練作業中に切断が生じることを考慮して適切な長さのものを使用する。ガラス繊維ロービングのような長繊維の繊維状無機充填材であっても、常法に従い、適宜混練条件または混練機を選択すれば、混練操作中に切断が生じて、適切な繊維長に収まる。
【0024】
相対粒子量が50体積%における粒径(D50)が5〜200μmの本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物の球状無機中空充填材の配合量X質量部と数平均径5〜20μmの、繊維状充填材の配合量Y質量部との間に、次の関係式(1)が成り立つことが必要である。
3 ≦X+0.1Y ≦33 (1)
(但し、0≦X≦33、0≦Y≦100)
X+0.1Yが3より小さいときは、まず、フィブリルの生成可能性に起因する表面特性低下の観点から好ましくない。X+0.1Yが33より大きいときは、射出成形時の流動性不足に起因する表面特性低下の観点から好ましくない。X+0.1Yの特に好ましい範囲は、5〜15である。
【0025】
本発明では、その効果を妨げない範囲で他の充填材、例えば、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、タルク、クレー、ケイ藻土、などのケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナ、硫酸カルシウム、その他各種金属粉末、各種金属箔、フッ素系ポリマー、芳香族ポリエステル、芳香族ポリイミド、ポリアミドなどからなる耐熱性高強度の繊維のような有機充填材などが挙げられる。
【0026】
更に、本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料(たとえばニグロシンなど)および顔料(たとえば硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラックなど)を含む着色剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加して、所定の特性を付与することができる。
【0027】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物は、当該技術分野で一般的に使用されている溶融混練方法で得ることができるものであり、製造方法に特に制限はない。好ましい製造法としては、1対の2条スクリュを有する混練機で、ホッパーから投入した全芳香族液晶ポリエステルを溶融後、中途フィード口から充填材、すなわち繊維状無機充填材および/または球状無機中空充填材、を投入する方法が挙げられる。この混練機は、2軸混練機と呼ばれるものであり、その中でも切り替えし機構を有することで充填材の均一分散を可能とする同方向回転式であるもの、充填材の食い込みが容易となるバレル−スクリュウ間の空隙が大きい40mmφ以上のシリンダー径を有するものが好ましい。さらに、スクリュウ間の大きいかみ合い率1.45以上のものを使用すると、充填材の破損が避けることができ、本発明に係る全芳香族ポリエステル樹脂組成物が効率よく得ることができる。
【0028】
このようにして得られる全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物は、2次共振周波数と損失係数が共に優れており、0.5mm以下、好ましくは0.3〜0.05mmの厚みを有する光ピックアップレンズホルダー部材として好適である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお実施例、比較例に示した比重については、65mm×12.7mm×3.0mmの射出成形品を用いて、ASTM D790に準拠して測定した。
【0030】
以下のとおり全芳香族液晶ポリエステルA〜Fを製造した。全芳香族液晶ポリエステルA〜Cは本発明の要件を充足するものであり、全芳香族液晶ポリエステルD〜Fは本発明の要件を充足しないものである。
【0031】
全芳香族液晶ポリエステルAの製造:
溶融重縮合:SUS316を材質とし、ダブルヘリカル攪拌翼を有する1700L重合槽(神戸製鋼所製)にp−ヒドロキシ安息香酸197.5kg(1.43キロモル:65モル%)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル71.7kg(0.385キロモル:17.5モル%)、テレフタル酸64.0kg(0.385キロモル:17.5モル%)、触媒として酢酸カリウム0.06kgを仕込み、重合槽の減圧−窒素注入を2回行って窒素置換した後、無水酢酸242.6kg(2.3キロモル)を添加し、攪拌翼の回転数45rpmで150℃まで1.5時間で昇温して還流状態で2時間アセチル化反応を行った。アセチル化終了後、酢酸留出状態にして0.5℃/分で昇温して、305℃において重合物を重合槽下部の抜き出し口から取り出した。
【0032】
固相重縮合:
取り出した該重合体を冷却固化した後、ホソカワミクロン株式会社製の粉砕機により粉砕してプレポリマーを得た。得られたプレポリマーは、高砂工業株式会社製のロータリーキルンを用い固相重縮合を行った。キルン内筒の形状は概ね正6角形であり、一辺の長さ500mm、全長3500mmである。プレポリマーを該キルンに150kg充填し、窒素を15Nm/時間流通し、回転数2rpmでヒーター内の温度を室温から400℃まで5時間で昇温し、400℃で12時間保持した。粉砕物の温度が340℃に到達したことを確認し、加熱を停止してロータリーキルンを回転しながら7時間冷却して全芳香族液晶ポリエステルAを得た。
【0033】
全芳香族液晶ポリエステルBの製造:
全芳香族液晶ポリエステルAにおける原料の配合を、p−ヒドロキシ安息香酸197.5kg(1.43キロモル:65モル%)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル71.7kg(0.385キロモル:17.5モル%)、テレフタル酸60.3kg(0.363キロモル:16.5モル%)、イソフタル酸3.65kg(0.022キロモル:1.0モル%)、に変え、以下全芳香族液晶ポリエステルAと同様に溶融重縮合と固相重縮合を行い、全芳香族液晶ポリエステルBを得た。
【0034】
全芳香族液晶ポリエステルCの製造:
全芳香族液晶ポリエステルAにおける原料の配合を、p−ヒドロキシ安息香酸197.5kg(1.43キロモル:65モル%)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル71.7kg(0.385キロモル:17.5モル%)、テレフタル酸60.3kg(0.363キロモル:16.5モル%)、ヒドロキノン2.42kg(0.022キロモル:1.0モル%)、に変え、以下全芳香族液晶ポリエステルAと同様に溶融重縮合と固相重縮合を行い、全芳香族液晶ポリエステルCを得た。
【0035】
全芳香族液晶ポリエステルDの製造:
全芳香族液晶ポリエステルAにおける原料の配合を、p−ヒドロキシ安息香酸151.9kg(1.1キロモル:50モル%)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル102.4kg(0.55キロモル:25モル%)、テレフタル酸91.4kg(0.55キロモル:25モル%)、に変え、以下全芳香族液晶ポリエステルAと同様に溶融重縮合と固相重縮合を行い、全芳香族液晶ポリエステルDを得た。
【0036】
全芳香族液晶ポリエステルEの製造:
全芳香族液晶ポリエステルAにおける原料の配合を、p−ヒドロキシ安息香酸227.9kg(1.65キロモル:75モル%)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル51.2kg(0.275キロモル:12.5モル%)、テレフタル酸45.7kg(0.275キロモル:12.5モル%)、に変え、以下全芳香族液晶ポリエステルAと同様に溶融重縮合と固相重縮合を行い、全芳香族液晶ポリエステルEを得た。
【0037】
全芳香族液晶ポリエステルFの製造:
全芳香族液晶ポリエステルAにおける原料の配合を、p−ヒドロキシ安息香酸197.5kg(1.43キロモル:65モル%)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル71.7kg(0.385キロモル:17.5モル%)、テレフタル酸60.3kg(0.363キロモル:16.5モル%)、2,6−ナフタレンジカルボン酸4.76kg(0.022キロモル:1.0モル%)、に変え、以下同様の溶融重合と固相重縮合を行い、全芳香族液晶ポリエステルFを得た。
【0038】
全芳香族液晶ポリエステルGの製造:
全芳香族液晶ポリエステルAにおける原料の配合を、p−ヒドロキシ安息香酸191.4kg(1.386キロモル:63モル%)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル75.8kg(0.407キロモル:18.5モル%)、テレフタル酸67.6kg(0.407キロモル:18.5モル%)、に変え、以下全芳香族液晶ポリエステルAと同様に溶融重縮合と固相重縮合を行い、全芳香族液晶ポリエステルGを得た。
【0039】
全芳香族液晶ポリエステルHの製造:
全芳香族液晶ポリエステルAにおける原料の配合を、p−ヒドロキシ安息香酸206.6kg(1.496キロモル:68モル%)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル65.5kg(0.352キロモル:16モル%)、テレフタル酸58.5kg(0.352キロモル:16モル%)、に変え、以下全芳香族液晶ポリエステルAと同様に溶融重縮合と固相重縮合を行い、全芳香族液晶ポリエステルHを得た。
【0040】
充填材は以下のものを、市場から入手してそのまま使用した。
(1)繊維状無機充填材(ガラス繊維):PX−1:旭ファイバーグラス(株)製のガラス繊維(チョップドガラスファイバー)。(アスペクト比350、数平均繊維径10μm、数平均繊維長さ3.5mm、比重2.54)
数平均繊維径の測定方法:ガラス繊維をルツボ中で焼成した後、そのガラス繊維100mgを100ccの石鹸水中に分散させ、その分散液をスパチュラでスライドガラス上に置き、顕微鏡下に観察して写真撮影した。その写真に投影されたガラス繊維の繊維径を50本測定して数平均繊維径を求めた。
(2)球状無機中空充填材:
S−60:住友3M(株)製のソーダ石灰ホウケイ酸ガラス球状中空体。(アスペクト比1、相対粒子量が50体積%における粒径(D50)30μm、真比重0.60、材料比重2.50、体積中空率76%)
粒径(D50)の測定方法:レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により、分散媒として純水を使用し、超音波バスを用いて分散させ、循環系により相対粒子量が50体積%における粒径(D50)を測定した。
【0041】
全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物の製造:
表1に記載の配合割合の全芳香族液晶ポリエステル、ガラス繊維、および球状無機中空充填材を用いて、全芳香族液晶ポリエステルと所定量のガラス繊維とをあらかじめリボンブレンダーで混合し、この混合物を2軸押出機((株)神戸製鋼所製KTX−46)のホッパーから投入して、シリンダーの最高温度410℃で溶融混練してペレットを得た。なお、無機中空球体は、途中のベント孔から投入した。
【0042】
光ピックアップレンズホルダーとしての制振特性等の評価:
試験片:各樹脂組成物のペレットから、射出成形機(住友重機械工業(株)製SG−25)を用いてシリンダー温度410℃の条件で、下記試験用の試験片を各5個づつ成形した。
【0043】
試験方法:
(1)2次共振周波数、損失係数
幅12.7mm、厚み0.3mm、長さ40mmの試験片により、JIS G 0602に準じて測定を行った。上記試験片をブリュエルケア−社の加振器に有効長20mmとなるように試験片の1端を取り付け、ポリテック社のレーザー振動計にて測定を行った。2次共振点の周波数を共振周波数とし、そのときの損失係数を半値幅法により求めた.
(2)成形性(成形品外観)
幅12.7mm、厚さ0.3mm、長さ50mmの試験片について、ルーペにて成形性を観察し、表面にフィブリル等の剥離、流動性不良による面荒れの有無を確認した。
【0044】
表1にそれぞれの樹脂組成物の射出成形品の評価結果を示した。
【表1】

【0045】
表1に示すように、本発明に従って製造された実施例1〜9の全芳香族ポリエステル樹脂組成物は、良好な成形性を示し、得られた射出成形品は、2次共振周波数および損失係数ともに良好な結果となり、制振性能に優れていた。これに対し、全芳香族液晶ポリエステルD〜Fを使用した比較例1〜4の樹脂組成物および成形品、全芳香族液晶ポリエステルA〜Cを用いたが充填材の配合量が本発明の範囲外の比較例5,6,7の樹脂組成物および成形品は、成形性、制振性のいずれかまたは両方が、本発明に従って製造されたものより劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル樹脂成形体は、薄肉部を有する光ピックアップレンズホルダー成形材料として、特に、近年のデジタルディスク駆動装置の扱う情報の大容量化、高速化に伴い、制振特性に対する要求が厳しい光ピックアップレンズホルダー成形材料として使用でき、得られた光ピックアップレンズホルダーは、優れた制振性能を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p−ヒドロキシ安息香酸60〜70モル%、テレフタル酸および/または4,4’−ジヒドロキシジフェニルあわせて40〜30モル%、イソフタル酸および/またはヒドロキノン0〜5モル%(いずれにおいてもこれらの誘導体を含む。これらの合計を100モル%とする。)を重縮合してなる全芳香族液晶ポリエステル樹脂100質量部と、下式(1)を充足する、相対粒子量が50体積%における粒径(D50)が5〜200μmの球状無機中空充填材X質量部および/または数平均径5〜20μmの繊維状無機充填材Y質量部とを溶融混練してなる光ピックアップレンズホルダーの射出成形に用いられる全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物。
3≦X+0.1Y≦33 (1)
但し、0≦X≦33、0≦Y≦100 とする
【請求項2】
球状無機中空充填材が体積中空率50%〜80%であることを特徴とする請求項1に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
繊維状無機充填材がガラス繊維であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
光ピックアップレンズホルダーが厚さ0.3mm以下の部分を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物を射出成形してなる光ピックアップレンズホルダー。
【請求項6】
光ピックアップレンズホルダーが、厚さ0.3mm以下の部分を含むことを特徴とする請求項5に記載の光ピックアップレンズホルダー。

【公開番号】特開2007−2230(P2007−2230A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140474(P2006−140474)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】