説明

六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法、ならびに磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】S/Nが格段に向上した磁気記録媒体を作製可能な六方晶フェライト磁性粉末の提供。
【解決手段】ガラス結晶化法により製造された六方晶フェライト磁性粉末およびこの粉末を含む磁気記録媒体。上記粉末の平均板径は15〜25nm、平均板状比は2.0〜2.8、かつ抗磁力Hcは159〜279kA/mである。六方晶フェライト磁性粉末の製造方法およびこの製造方法により六方晶フェライト磁性粉末を得ることを含む磁気記録媒体の製造方法。上記六方晶フェライト磁性粉末の製造方法において使用される六方晶フェライト形成成分は、Fe置換成分としてNb25成分およびTa25成分からなる群から選択される5価元素成分のみを含み、かつ使用される原料混合物は、NbおよびTaからなる群から選択される5価元素を、該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子%以上含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法に関するものであり、より詳しくは、高抗磁力かつ低板状比の微粒子六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記六方晶フェライト磁性粉末を用いた磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度記録用磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属磁性粉末が主に用いられてきた。強磁性金属磁性粉末は主に鉄を主体とする針状粒子であり、高密度記録のために粒子サイズの微細化、高抗磁力化が追求され各種用途の磁気記録媒体に用いられてきた。
【0003】
記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高密度記録が要求されている。しかしながら更に高密度記録を達成するためには、強磁性金属強磁性粉末の改良には限界が見え始めている。これに対し、六方晶フェライト磁性粉末は、抗磁力は永久磁石材料にも用いられた程に大きく、抗磁力の基である磁気異方性は結晶構造に由来するため粒子を微細化しても高抗磁力を維持することができる。更に、六方晶フェライト磁性粉末を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト磁性粉末は高密度化に最適な強磁性体である。六方晶フェライト磁性粉末は、通常、ガラス結晶化法(特許文献1、2参照)、共沈法(特許文献3参照)等により製造される。
【0004】
磁気記録媒体の記録密度向上のためには高いSN比が必要である。SN比向上のためには、記録減磁や短波長記録した際の自己減磁を抑制するために抗磁力Hcを高く設定し、ノイズを抑制するため磁性粉末の粒子サイズをできるだけ小さく設計することが有効であることが知られている。しかし、特許文献1〜3に記載の方法等の従来用いられていた製造方法では、板径を小さくすると板状比が大きくなる傾向がある。また、六方晶フェライトのHcを高くするためには、Feの一部を置換する元素を減量することが行われるが、単に置換元素を減量するのみではHcは高くなるものの、粒子の板状比が増加する。板状比が増加すると磁気記録媒体の磁性層中で六方晶フェライト粒子の充填密度低下および粒子間でスタッキングと呼ばれる凝集が発生しノイズが増加する現象が現れ、高密度記録用磁気記録媒体として十分な性能を得ることは困難となる。
【0005】
これに対し特許文献4には、逆ミセル法により所望の六方晶マグネトプランバイト型フェライト組成の共沈物を形成し、この共沈物を用いて六方晶マグネトプランバイト型フェライトを得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−5299号公報
【特許文献2】特開2002−313619号公報
【特許文献3】特公平4−32005号公報
【特許文献4】特開2007−91517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4に記載の方法により得られる六方晶フェライトは、平均板径、板状比とも小さく、かつ高Hcであるため、この六方晶フェライトを使用することにより、従来の製法により得られる六方晶フェライトを使用した磁気記録媒体と比べてS/Nが向上した磁気記録媒体を得ることができる。しかし、更なる高密度記録化が進行している現状では、特許文献4に記載の技術により達成可能なS/Nを超える、より一層のS/N向上が求められている。
【0008】
そこで本発明の目的は、S/Nが格段に向上した磁気記録媒体を作製可能な六方晶フェライト磁性粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが上記目的を達成するために特許文献4に記載の技術について検討を重ねたところ、逆ミセル法では、乾燥後の粒子を空気中でフェライト化する為に、粒子が磁性を帯びると粒子同士が磁気的に凝集し易く、この凝集がノイズの原因となるという、製法特有の課題があることが新たに判明した。
そこで本発明者らは、上記知見に基づき更に鋭意検討を重ねた結果、平均板径が15〜25nm、平均板状比が2.0〜2.8、かつ抗磁力Hcが159〜279kA/mであるガラス結晶化法により製造された六方晶フェライト磁性粉末を用いることにより、媒体に起因するノイズを大幅に低減することができ、これにより高S/Nを示す磁気記録媒体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]平均板径が15〜25nm、平均板状比が2.0〜2.8、かつ抗磁力Hcが159〜279kA/mであるガラス結晶化法により製造されたことを特徴とする六方晶フェライト磁性粉末。
[2]Feの置換元素としてNbおよびTaからなる群から選択される5価元素のみを含有する[1]に記載の六方晶フェライト磁性粉末。
[3]前記5価元素を、該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子%以上含有する[2]に記載の六方晶フェライト磁性粉末。
[4]前記5価元素を、該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子%以上6原子%以下含有する[3]に記載の六方晶フェライト磁性粉末。
[5]前記5価元素として、Nbのみを含む[2]〜[4]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末。
[6]ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶融し溶融物を得ること、
上記溶融物を急冷し固化物を得ること、ならびに、
上記固化物を加熱し六方晶フェライト磁性粉末を析出させること、
を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法であって、
上記六方晶フェライト形成成分は、Fe置換成分としてNb25成分およびTa25成分からなる群から選択される5価元素成分のみを含み、かつ、
上記原料混合物は、NbおよびTaからなる群から選択される5価元素を、該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子%以上含有することを特徴とする六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[7]前記5価元素成分はNb25成分のみからなる[6]に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[8]前記原料混合物は、前記5価元素を、該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子%以上6原子%以下含有する[6]または[7]に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[9]非磁性支持体上に、[1]〜[5]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体。
[10][6]〜[8]のいずれかに記載の方法により六方晶フェライト磁性粉末を得ること、および、得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いて磁性層を形成すること、を含む磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、極めて良好なS/Nを示す磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】原料混合物組成の説明図(三角相図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[六方晶フェライト磁性粉末]
本発明の六方晶フェライト磁性粉末は、平均板径が15〜25nm、平均板状比が2.0〜2.8、かつ抗磁力Hcが159〜279kA/m(2000〜3500Oe)であり、ガラス結晶化法により製造されたことを特徴とする。本発明は、上記粒子サイズおよびHcを有する六方晶フェライト磁性粉末の中でもガラス結晶化法により製造されたものを用いることにより、上記と同様の粒子サイズおよびHcを有する特許文献4に記載の六方晶フェライト磁性粉末では実現できない顕著なS/N向上効果が得られること、本発明者らが新たに見出し完成されたものである。このように上記粒子サイズおよびHcを有する六方晶フェライト磁性粉末の中でも、ガラス結晶化法により得られた六方晶フェライト磁性粉末が優れたS/N向上効果を発揮する理由について、本発明者らは以下のように推定している。
前述のように本発明者らの検討の結果、逆ミセル法では磁性粒子が磁気的に凝集しやすく、この凝集がノイズの原因となるという、製法特有の課題があることが新たに判明した。一方、ガラス結晶化法では、ガラス成分の中で粒子成長とフェライト化が進行する為に、磁性を帯びた粒子の磁気的凝集をガラス成分が抑制する。磁性粒子の凝集の度合いは、TEM観察や磁性粒子の磁気特性の測定から判断できる。すなわち、同程度の平均板径、平均板比、Hcを有する磁性粒子であっても、凝集の多い磁性粒子はSFD(switching field distribution)が大きく、凝集の少ない磁性粒子はSFDが小さい。SFDは磁化反転のシャープさを表す指標であり、SFDが小さい磁性粒子は、ある特定の外部磁界の大きさによって一斉に磁化反転が起こすことができるため、磁性体としてSFDの小さい磁性粒子を含む媒体は、高記録密度においても高いS/Nを得ることができる。本発明の六方晶フェライト磁性粉末は、例えば0.90以下、更には0.30〜0.85の範囲のSFDを示すことができる。
なお、六方晶フェライト磁性粉末がガラス結晶化法により得られたものであることは、例えばICP分析によりガラス成分に由来する元素(ホウ素、ケイ素等)が検出されることにより確認することができる。
以下、本発明の六方晶フェライト磁性粉末について更に詳細に説明する。
【0014】
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の平均板径は、15〜25nmの範囲である。平均板径が15nm未満では、十分な磁気特性が得られず、25nmを超えるとノイズが大きくなり、いずれの場合も高密度記録用の磁気記録媒体に必要なSN比を確保することが困難となる。S/N向上の観点から、平均板径は、好ましくは 17〜21nm、より好ましくは18〜20nmの範囲である。
【0015】
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の平均板状比は、2.0〜2.8の範囲である。平均板状比が2.0未満では磁気特性のバランスが得られず、2.8を超えると磁性層中で磁性粉末充填率が低くなるとともにスタッキングによるノイズ低下が見られる。平均板状比は、好ましくは2.3〜2.8、より好ましくは2.5〜2.8の範囲である。
【0016】
本発明における六方晶フェライト磁性粉末の平均板径は、透過型電子顕微鏡で撮影した写真(TEM写真)において無作為に選択した500個の粒子について板径を測定した値の算術平均とし、平均板状比とは、TEM写真において無作為に選択した500個の粒子について、(板径/板厚)を測定した値の算術平均とする。
【0017】
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の抗磁力Hcは、159〜279kA/m(2000〜3500Oe)である。Hcが159kA/m未満では、高密度記録を達成することが困難となり、279kA/mを超えるとオーバーライトが困難となりノイズが増大し、またはヘッドの記録電流が不足し記録自体ができなくなることがある。前記Hcは、高密度記録において良好なS/Nを得るためには、好ましくは167〜270kA/m、より好ましくは175〜260kA/mの範囲である。
【0018】
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の比表面積は、BET法による値(SBET)で45〜80m2/gであることが好ましい。上記範囲内であれば、良好な分散性とノイズ低減を両立することができる。
【0019】
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の飽和磁化σsは、好ましくは35A・m2/kg以上60A・m2/kg以下(35emu/g以上60emu/g以下)である。上記範囲内であれば良好な磁磁気特性を示す磁気記録媒体を得ることができる。
【0020】
本発明の六方晶フェライト磁性粉末は、上記平均板径、平均板状比およびHcを有するガラス結晶化法で製造された六方晶フェライト磁性粉末である。先に説明したように、従来の六方晶フェライト磁性粉末では、平均板径の低減およびHc向上と平均板状比低減を両立することは困難であった。これに対し、後述する本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法によれば、ガラス結晶化法により、平均板径および平均板状比がいずれも小さく、かつHcが高い六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。こうして得られる六方晶フェライト磁性粉末は、Fe(三価の鉄)の置換元素としてNbおよびTaからなる群から選択される5価元素のみを含有する。即ち、本発明の六方晶フェライト磁性粉末は、Feの置換元素として上記5価元素のみを含有し得る。上記5価元素量は、該5価元素とFeの合計を100原子%とした場合、例えば2.5原子%以上である。なお、上記5価元素の添加量が一定値を超えると、添加に伴う六方晶フェライト磁性粉末の磁気特性の変化がきわめて小さくなる現象が見られた。これは、上記5価元素は結晶内のある特定のサイトに取り込まれるため、そのサイトが埋まるとそれ以上取り込まれないことに起因すると考えられる。本発明者らが検討した結果、この取り込み量の上限は、上記5価元素とFeの合計を100原子%とした場合、6原子%程度であった。したがって、本発明の六方晶フェライト磁性粉末中の上記5価元素量の上限も、該5価元素とFeの合計量100原子%に対して、例えば6原子%程度である。六方晶フェライト磁性粉末中の上記5価元素量は、例えばICP(誘導結合高周波プラズマ発光分析法)によって測定可能であるが、その量が6原子%程度までであれば原料中の5価元素のほぼ全量が結晶内に取り込まれるため原料中の5価元素量と同一とみなすことができる。本発明の六方晶フェライト磁性粉末は、磁気特性の点からはFeの置換元素としてNbのみを含むことが好ましい。
【0021】
[六方晶フェライト磁性粉末の製造方法]
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法は、以下の工程を含み、本発明の六方晶フェライトを製造する方法として好適である。但し、本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法により得られる六方晶フェライト磁性粉末は、本発明の六方晶フェライト磁性粉末に限定されるものではない。
(1)ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶融し溶融物を得ること、
(2)上記溶融物を急冷し固化物を得ること、ならびに、
(3)上記固化物を加熱し六方晶フェライト磁性粉末を析出させること。
本発明の製造方法では、上記六方晶フェライト形成成分は、Fe置換成分としてNb25成分およびTa25成分からなる群から選択される5価元素成分のみを含み、かつ、上記原料混合物は、NbおよびTaからなる群から選択される5価元素を、該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子%以上含有する。
以下、本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0022】
本発明において六方晶フェライト形成成分とは、六方晶フェライト磁性粉末の結晶構造を構成する元素を含む成分をいい、Fe23、BaO、SrO、PbO等の金属酸化物が挙げられる。例えば、六方晶フェライト形成成分の主成分としてFe23およびBaOを使用することによりバリウムフェライト磁性粉末を得ることができる。本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法では、六方晶フェライト形成成分として、Fe置換成分としてNb25成分およびTa25成分からなる群から選択される5価元素成分のみを含む原料混合物を使用する。ここでFe置換成分とは、六方晶フェライト磁性粉末の結晶構造内でFe(三価の鉄)を置換する元素を含む成分をいう。
【0023】
一般的なガラス結晶化法では、抗磁力調整のためFe3+の一部を他の元素により置換することが広く行われている。この場合、置換元素の電荷の合計が置換される鉄原子の電荷と等しくなるように電荷を補償している。したがって従来のガラス結晶化法では、本発明のようにFeの一部を5価元素のみにより置換することは行われていなかった。これに対し本発明では、チャージバランスを考慮せずFeの一部を特定の5価元素のみによって置換する。本発明者らの検討の結果、このようにFeの一部を上記5価元素のみによって置換することにより、従来のガラス結晶化法では実現することができなかった、平均板径の低減、平均板状比の低減およびHcの向上を達成することができ、本発明の六方晶フェライト磁性粉末を製造できることが明らかとなった。詳細は明らかではないが、以下のメカニズムが推定される。
例えばバリウムフェライトの場合、上記5価元素がバリウムフライト結晶内に取り込まれる際、格子定数を変化させるとともに格子歪を発生することが推測される。バリウムフェライトの単位格子はc軸方向(板厚方向)で23.19Å、a軸方向(板径方向)で5.89Åとc軸方向に長いため、a軸方向の歪は緩和されにくく、結晶成長の過程で歪を小さくするためa軸方向の成長が抑制され、結果として板状比を低減できるのではないかと考えられる。但し、同じく5価の元素であってもV、Mo、Wでは、平均板径を低減しHcを向上したうえで板状比を低減することはできなかった。その理由は定かではないが、Mo、Wについてはガラス中で6価の酸化物として安定していることが板状比低減効果が得られない理由ではないかと考えられる。また、上記原料混合物において、NbおよびTaからなる群から選択される5価元素の量が、該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子%未満では、置換効果が不十分であり、所望の粒子サイズおよびHcを有する六方晶フェライト磁性粉末を得ることが困難となる。そこで本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法では、Nb25成分およびTa25成分の割合を、上記5価元素量が該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子以上となる原料混合物を使用する。ただし先に説明したように、上記5価元素量が6原子%を超えると、それ以上添加しても効果に大きな違いはないため、上記5価元素量は、6原子%以下とすることが好ましい。前記5価元素量は、より好ましくは5.5原子%以下、更に好ましくは5原子%以下、よりいっそう好ましくは3.0〜4.5原子%の範囲である。
【0024】
ガラス結晶化法において原料混合物に含まれる各成分は、酸化物として、または溶融時に酸化物に変わり得る各種の塩として存在する。本発明において「Nb25成分」とは、Nb25自体および溶融時にNb25に変わり得る各種の塩を含むものとする。Ta25成分等の他の成分についても同様とする。
【0025】
ガラス形成成分とは、ガラス転移現象を示し非晶質化(ガラス化)し得る成分であり、通常のガラス結晶化法ではB23成分が使用される。本発明でもガラス形成成分としてB23成分を使用することができる。
【0026】
高いHcおよび飽和磁化σsを達成するためには、AO(式中、Aは例えばBa、Sr、CaおよびPbから選択された少なくとも1種を表す)、B23、Fe23を頂点とする、図1に示す三角相図において、斜線部(1)〜(3)の組成領域内の原料混合物を使用するが好ましい。特に、下記のa,b,c,dの4点で囲まれる組成領域内(斜線部(1))にある原料が好ましい。但し本発明では、前述のようにFe23成分の一部を上記5価元素成分によって置換する。
(a)B23=50,AO=40,Fe23=10モル%
(b)B23=45,AO=45,Fe23=10モル%
(c)B23=25,AO=25,Fe23=50モル%
(d)B23=30,AO=20,Fe23=50モル%
【0027】
上記原料混合物は、各成分を秤量および混合して得ることができる。
【0028】
原料混合物の溶融、溶融物の固化
本発明では、前記原料混合物を溶融し溶融物を得る。溶融温度は、例えば1200〜1500℃であり、好ましくは1300〜1400℃である。溶融時間は、原料混合物が十分溶融するように適宜設定すればよい。
【0029】
次いで、得られた溶融物を急冷することにより固化物を得る。この固化物は、ガラス形成成分が非晶質化(ガラス化)した非晶質体を含む。上記急却は、ガラス結晶化法で非晶質体を得るために通常行われる急冷工程と同様に実施することができ、例えば高速回転させた水冷双ローラー上に溶融物を注いで圧延急冷する方法等の公知の方法で行うことができる。
【0030】
固化物の加熱処理
上記急冷後、得られた固化物を加熱処理する。この工程により、六方晶フェライト粒子を結晶化させ非晶質相(ガラス相)中に析出させることができる。上記加熱処理は、急冷により得られた固化物を、好ましくは600〜750℃の温度域まで加熱し該温度域に所定時間保持して行うことができる。析出させる六方晶フェライト磁性粉末の粒子サイズは、加熱温度および加熱時間により制御可能であり、上記温度域で加熱処理を行うことにより微粒子状の六方晶フェライトを析出させることができる。上記温度域までの昇温速度は、例えば0.5〜2℃/分程度が好適であり、上記温度域での保持時間は、例えば2〜24時間であり、好ましくは4〜8時間である。
【0031】
上記加熱処理物は、通常、六方晶フェライト磁性粉末と非晶質相を含む。非晶質相を除去し六方晶フェライト磁性粉末を得る処理としては、加熱下酸処理等のガラス結晶化法で一般的に行われる各種処理を用いることができる。この処理により余分なガラス成分を除去した粒子に、必要に応じて水洗、乾燥等の後処理を施すことにより、磁気記録媒体に適用可能な六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。
【0032】
[磁気記録媒体およびその製造方法]
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に、本発明の六方晶フェライト磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有するものである。
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法により六方晶フェライト磁性粉末を得ること、および、得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いて磁性層を形成すること、を含む。
以下、本発明の磁気記録媒体および本発明の磁気記録媒体の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0033】
磁性層
磁性層に使用される六方晶フェライト磁性粉末の製造方法の詳細は、前述の通りである。六方晶フェライト磁性粉末を分散する際に粒子表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも可能である。表面処理剤は無機化合物、有機化合物のいずれでもよい。主な化合物としてはSi、Al、P、等の酸化物または水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。量は磁性体に対して、通常0.1質量%以上10%質量以下である。磁性体のpHは、通常4以上12以下程度であり、分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から一般に6以上10以下程度が選択される。磁性体に含まれる水分は、分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01質量%以上2.0質量%以下が好ましい。
【0034】
前記磁性層は、六方晶フェライト磁性粉末とともに結合剤を含む。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層においても結合剤として使用することができる。また、上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0035】
上記結合剤は強磁性粉末、非磁性粉体の分散性を向上させるため、これらの粉体表面に吸着する官能基(極性基)を持つことが好ましい。好ましい官能基としては−SO3M、−SO4M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、−COOM、=NSO3M、=NRSO3M、−NR12、−N+123-などがある。ここでMは水素またはNa、K等のアルカリ金属、Rはアルキレン基、R1、R2、R3はアルキル基またはヒドロキシアルキル基または水素、XはCl、Br等のハロゲンである。結合剤中の官能基の量は10μeq/g以上200μeq/g以下が好ましく、30μeq/g以上120μeq/g以下がさらに好ましい。この範囲内であれば、良好な分散性が得られるので好ましい。
【0036】
結合剤の分子量は質量平均分子量で10,000以上200,000以下であることが好ましい。この範囲内にあれば、塗膜強度が十分であり、耐久性が良好であり、また分散性が向上するので好ましい。
【0037】
非磁性層、磁性層には、非磁性粉末または強磁性粉末に対し、例えば5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で結合剤を用いることができる。
【0038】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。上記添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。
【0039】
磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。カーボンブラックを使用する場合、強磁性粉末の質量に対して0.1〜30質量%で用いることが好ましい。磁性層で使用できるカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0040】
本発明で使用されるこれらの添加剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0041】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。
【0042】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどを単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0043】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜500nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜500nmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜500nmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。
【0044】
非磁性粉末の比表面積は、例えば1〜150m2/gであり、好ましくは20〜120m2/gであり、さらに好ましくは50〜100m2/gである。比表面積が1〜150m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、適量の結合剤で分散できるため好ましい。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、例えば5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、例えば1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は、例えば0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下または脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることを防ぐことができる。非磁性粉末の含水率は、例えば0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0045】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、好ましくは1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいものはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいものはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0046】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に硬度を調整することができる。例えば、非磁性層にはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0047】
非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は、例えば100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は、例えば20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、例えば5〜80nm、好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。また、カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは非磁性粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%を越えない範囲で使用することが好ましい。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用することができる。本発明において非磁性層で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0048】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0049】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0050】
また、本発明の磁気記録媒体は、下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層または非磁性層との接着力を向上させることができる。接着性向上のための下塗り層としては、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂を使用することができる。
【0051】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmが好ましい。
【0052】
層構成
本発明の磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μmである。また、非磁性支持体と非磁性層の間に下塗り層を設ける場合、下塗り層の厚みは、例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0053】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には10〜150nmであり、好ましくは20〜80nmであり、さらに好ましくは30〜80nmである。また、磁性層の厚み変動率は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±40%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0054】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0055】
バック層
本発明の磁気記録媒体には、非磁性支持体の非磁性層および磁性層を有する面とは反対の面にバック層を設けることもできる。バック層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バック層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バック層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0056】
製造方法
磁性層、非磁性層またはバック層を形成するための塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバック層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。分散メディアとしては、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズも好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0057】
磁気記録媒体の製造方法では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に、非磁性層塗布液を所定の膜厚となるように塗布して非磁性層を形成し、次いでその上に、磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。上記磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0058】
磁性層塗布液の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層塗布液の塗布層中に含まれる強磁性粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて磁場配向処理してもかまわない。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0059】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい。また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0060】
このようにして得られた塗布原反は、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後、この巻き取りロールから巻き出され、次いでカレンダー処理に施され得る。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどを利用することができる。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0061】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。
【0062】
カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度を、例えば60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲とすることができ、圧力は、例えば100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲とすることができる。また非磁性層表面に対して、例えば上記条件でカレンダー処理を行うこともできる。
【0063】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等を選定することができる。
【実施例】
【0064】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。また、実施例中の「部」、「%」は、特に示さない限り質量部、質量%を示す。
【0065】
1.六方晶フェライト磁性粉末の作製
[実施例1〜13、比較例1、2(ガラス結晶化法による六方晶バリウムフェライト磁性粉末の作製)]
BaOを31.35モル%、B23を31.35モル%、Baフェライト成分37.3モル%を得るために、BaO・(Fe23(12-x)/2・(M25)x(式中、Mは5価元素を表す)で表される各元素に対応する原料を秤量し十分に混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を白金ルツボに投入し、高周波加熱装置を用いて1350℃で加熱溶融した。全ての原料を溶融したのち、均質化するため1時間攪拌し、均質化した熔融物を高速回転させた水冷双ローラー上に注いで圧延急冷し、非晶質体を作製した。得られた非晶質体を熱処理炉で、表1に示す結晶化温度まで1.6℃/分の昇温速度で昇温した後、該結晶化温度で5時間保持してBaフェライト結晶を析出させた。その後、析出物を粉砕したのち、10%の酢酸溶液中で、溶液温度を80℃以上に制御しながら、4時間攪拌し酸処理を行い、BaOおよびB23を溶解した。続いて、これらのBaO、B23および酸成分を除去するため、水洗を十分に繰り返した。最後に、スラリーを乾燥させ、磁性粉末を得た。得られた磁性粉末の特性を表1に組成成分と共に示す。
【0066】
[比較例3(逆ミセル法による六方晶バリウムフェライト磁性粉末の作製)]
NaOH 80ミリモルを純水160mlに溶解した水溶液に、エーロゾルOT 108gとデカン800mlとを混合したアルカン溶液を添加、混合して逆ミセル溶液(I)を調製した。
BaCl2・2H2O 2ミリモル、FeCl3・6H2O 22.7ミリモル、CoCl2・6H2O 0.56ミリモル、ZnCl2 0.50ミリモル、Nb(NO33 0.24ミリモルを純水140mlに溶解した金属塩水溶液に、エーロゾルOT54gとデカン500mlとを混合したアルカン溶液を添加、混合して逆ミセル溶液(II)を調製した。
逆ミセル溶液(I)を22℃でオムニミキサー(ヤマト科学製)で高速攪拌しながら、22℃にした逆ミセル溶液(II)を3分間かけて添加した。マグネチックスターラーで8分攪拌した後、50℃に昇温して30分間熟成した。室温まで冷却し、冷却後大気中に取出した。逆ミセルを破壊するために、水500mlとメタノール500mlとの混合溶液を添加して水相と油相とに分離した。油相側に共沈粒子が分散した状態が得られた。油相側を水600mlとメタノール200mlとの混合溶液で2回洗浄した。
その後、メタノールを2000ml添加して共沈粒子にフロキュレーションを起こさせて沈降させた。上澄み液を除去して、ヘプタン100mlを添加して再分散した。
さらに、メタノール1000ml添加による沈降とヘプタン100ml分散との沈降分散を2回繰り返し、メタノールを添加して共沈粒子を沈降させた。上澄みを除去し、次に水1000mlを添加し分散、沈降、上澄み除去を2回繰り返した。
得られた共沈物について、組成の分析を行った。組成は、反応して得られた共沈物含有液を塩酸で溶解し、ICP(誘導結合高周波プラズマ発光分析法)で測定し算出した。実験誤差内で添加したマグネトプランバイト型フェライト組成物が含有されていた。
得られた共沈物を純水1L中に再分散し、0.1モルのCaCl2・6H2Oを純水に溶解したものを添加し、次いでNH4OHで中和し、Baフェライト組成物粒子表面にCa(OH)2の被覆を形成した。沈殿物をろ過・水洗し、次いで120℃で乾燥した。乾燥物を乾式粉砕した。
乾燥物を空気中で600℃にて加熱し表面被覆物を酸化物とした後、さらに800℃で熱処理し、Baフェライトとした。生成物を5%酢酸水溶液に入れ表面被覆物を除去し、マグネトプランバイト型フェライトを回収した。
【0067】
磁性粉末の評価
(1)粉末サイズ
得られた磁性粉末の平均板径および平均板厚は、透過型電子顕微鏡で40万倍の粒子写真を測定し、粒子側面が見える粒子500ヶの板径および板厚を測定し算術平均として求めた。また、平均板状比は、(板径/板厚)の算術平均として求めた。
(2)磁気特性(Hc、σs、SFD)
得られた磁性粉末のHcおよびSFDを、振動試料型磁束計(東栄工業社製)を用い、23℃で印加磁界796kA/m(10kOe)で測定した。
(3)比表面積
得られた磁性粉末の比表面積をBET法により求めた。
【0068】
【表1】

【0069】
2.磁気テープの作製、評価
磁気テープの作製
磁性層形成用塗布液
バリウムフェライト磁性粉末(表2参照) 100部
ポリウレタン樹脂 12部
質量平均分子量 10000
スルホン酸官能基 0.5meq/g
α−アルミナ HIT60(住友化学社製) 8部
カーボンブラック #55(旭カーボン社製)粒子サイズ0.015μm 0.5部
ステアリン酸 0.5部
ブチルステアレート 2部
メチルエチルケトン 180部
シクロヘキサノン 100部
【0070】
非磁性層形成用塗布液
非磁性粉体 α酸化鉄 100部
平均長軸長0.09μm、BET法による比表面積 50m2/g
pH 7
DBP吸油量 27〜38ml/100g
表面処理層Al23 8質量%
カーボンブラック 25部
コンダクテックスSC−U(コロンビアンカーボン社製)
塩化ビニル共重合体 MR104(日本ゼオン社製) 13部
ポリウレタン樹脂 UR8200(東洋紡社製) 5部
フェニルホスホン酸 3.5部
ブチルステアレート 1部
ステアリン酸 2部
メチルエチルケトン 205部
シクロヘキサノン 135部
【0071】
上記の塗布液のそれぞれについて、各成分をニ−ダで混練した。1.0mmφのジルコニアビーズを分散部の容積に対し65%充填する量を入れた横型サンドミルに、塗布液をポンプで通液し、2000rpmで120分間(実質的に分散部に滞留した時間)、分散させた。得られた分散液にポリイソシアネ−トを非磁性層の塗料には5.0部、磁性層の塗料には2.5部を加え、さらにメチルエチルケトン3部を加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用および磁性層形成用の塗布液をそれぞれ調製した。
得られた非磁性層形成用塗布液を、厚さ4μmポリエチレンテレフタレートベース上に乾燥後の厚さが1.5μmになるように塗布乾燥させた後、磁性層形成用塗布液を乾燥後の磁性層の厚さが0.10μmになるように逐次重層塗布を行い、磁性層がまだ湿潤状態にあるうちに6000G(600mT)の磁力を持つコバルト磁石と6000G(600mT)の磁力を持つソレノイドにより配向させ乾燥させた。次いで7段のカレンダで温度90℃、線圧300kg/cm(294kN/m)にて処理を行った。その後、厚み0.5μmのバック層(カーボンブラック 平均粒子サイズ:17nm 100部、炭酸カルシウム 平均粒子サイズ:40nm 80部、αアルミナ 平均粒子サイズ:200nm 5部をニトロセルロース樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネートに分散)を塗布した。3.8mmの幅にスリットし、スリット品の送り出し、巻き取り装置を持った装置に不織布とカミソリブレードが磁性面に押し当たるように取り付け、テープクリーニング装置で磁性層の表面のクリーニングを行い、磁気テープ媒体を得た。
【0072】
磁気テープの評価
(1)磁気特性(Hc、SQ、SFD)
作製した磁気テープのHc、SQ、SFDを、振動試料型磁束計(東栄工業社製)を用い、23℃で印加磁界796kA/m(10KkOe)で測定した。
(2)中心面平均粗さRa
WYKO社(USアリゾナ州)製光干渉式表面粗さ計HD−2000を使用し、250μm角の試料面積を測定した。測定値の算出にあたっては、傾斜補正、球面補正、円筒補正等の補正をJIS-B601に従って実施し、中心面平均粗さRaを表面粗さの指標とした。
(3)出力、SNR
記録ヘッド(MIG、ギャップ0.15μm、1.8T)と再生用AMRヘッドをドラムテスターに取り付けて出力およびノイズを測定した。ヘッド−媒体相対速度は15m/secとし、ノイズは変調ノイズを測定した。SNは、比較例4を0dBとして表した。
【0073】
【表2】

【0074】
3.磁気ディスクの作製、評価
磁気ディスクの作製
磁性層形成用塗布液
バリウムフェライト磁性粉末(表3参照) 100部
ポリウレタン樹脂 12部
質量平均分子量 10000
スルホン酸官能基 0.5meq/g
ダイアモンド微粒子 平均粒径0.10μm 2部
カーボンブラック #55(旭カーボン社製)粒子サイズ0.015μm 0.5部
ステアリン酸 0.5部
ブチルステアレート 2部
メチルエチルケトン 230部
シクロヘキサノン 150部
【0075】
非磁性層形成用塗布液
非磁性粉体 α酸化鉄 100部
平均長軸長0.09μm、BET法による比表面積 50m2/g
pH 7
DBP吸油量 27〜38ml/100g
表面処理層Al23 8質量%
カーボンブラック 25部
コンダクテックスSC−U(コロンビアンカーボン社製)
塩化ビニル共重合体 MR104(日本ゼオン社製) 3部
ポリウレタン樹脂 UR8200(東洋紡社製) 5部
フェニルホスホン酸 3.5部
ブチルステアレート 1部
ステアリン酸 2部
メチルエチルケトン 205部
シクロヘキサノン 135部
【0076】
上記の塗布液のそれぞれについて、各成分をニ−ダで混練した。1.0mmφのジルコニアビーズを分散部の容積に対し65%充填する量を入れた横型サンドミルに、塗布液をポンプで通液し、2000rpmで120分間(実質的に分散部に滞留した時間)、分散させた。得られた分散液にポリイソシアネ−トを非磁性層の塗料には6.5部、磁性層の塗料には2.5部を加え、さらにメチルエチルケトン7部を加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用および磁性層形成用の塗布液をそれぞれ調製した。
得られた非磁性層形成用塗布液を、厚さ62μmポリエチレンテレフタレートベース上に乾燥後の厚さが1.5μmになるように塗布乾燥させた後、磁性層形成用塗布液を乾燥後の磁性層の厚さが0.10μmになるように逐次重層塗布を行い、乾燥後、7段のカレンダで温度90℃、線圧300kg/cmにて処理を行った。これらの操作を非磁性支持体の両面に施した。3.5吋に打ち抜き、表面研磨処理を施して磁気ディスク媒体を得た。
【0077】
磁気ディスクの評価
得られた磁気ディスク媒体について、磁気テープ媒体と同様に磁気特性およびRaを測定した。出力およびノイズについては、記録ヘッド(MIG、ギャップ0.15μm、1.8T)と再生用GMRヘッドをスピンスタンドに取り付けて測定した。媒体回転数4000rpm、記録波長0.2μmとし、ノイズは変調ノイズを測定した。SNは、比較例6を0dBとして表した。
【0078】
【表3】

【0079】
評価結果
表1の結果から、実施例で作製した磁性粉末は、比較例に比べて、板径が小さくてもSFDの増加が抑制されていることが分かる。また、表2および3の結果から、実施例で作製した磁性粉末は、良好な出力特性および低ノイズ性も示していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の磁気記録媒体は、高密度記録用磁気記録媒体として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均板径が15〜25nm、平均板状比が2.0〜2.8、かつ抗磁力Hcが159〜279kA/mであるガラス結晶化法により製造されたことを特徴とする六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項2】
Feの置換元素としてNbおよびTaからなる群から選択される5価元素のみを含有する請求項1に記載の六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項3】
前記5価元素を、該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子%以上含有する請求項2に記載の六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項4】
前記5価元素を、該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子%以上6原子%以下含有する請求項3に記載の六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項5】
前記5価元素として、Nbのみを含む請求項2〜4のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項6】
ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶融し溶融物を得ること、
上記溶融物を急冷し固化物を得ること、ならびに、
上記固化物を加熱し六方晶フェライト磁性粉末を析出させること、
を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法であって、
上記六方晶フェライト形成成分は、Fe置換成分としてNb25成分およびTa25成分からなる群から選択される5価元素成分のみを含み、かつ、
上記原料混合物は、NbおよびTaからなる群から選択される5価元素を、該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子%以上含有することを特徴とする六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
前記5価元素成分はNb25成分のみからなる請求項6に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項8】
前記原料混合物は、前記5価元素を、該5価元素とFeの合計100原子%に対して2.5原子%以上6原子%以下含有する請求項6または7に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項9】
非磁性支持体上に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体。
【請求項10】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法により六方晶フェライト磁性粉末を得ること、および、得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いて磁性層を形成すること、を含む磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−282671(P2010−282671A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132903(P2009−132903)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】