説明

六方晶フェライト磁性粉末の製造方法、磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】磁性層形成用の磁性塗料中で多大な分散負荷を掛けることなく容易に分散可能な磁性粉末を提供する。
【解決手段】六方晶フェライト磁性粉末の製造方法で、ガラス結晶化法において、酸処理後に得られた六方晶フェライト磁性粒子を水系溶媒中で湿式処理することにより、上記六方晶フェライト磁性粒子の等電点に対して、式(1):pH0−pH*≧2.5[式(1)中、pH0は上記六方晶フェライト磁性粒子の等電点であり、pH*は上記水系磁性液のpHであって2.0以上の値である。]を満たす水系磁性液を調製すること、上記水系磁性液に、該水系磁性液中でアニオン性基となる官能基およびアルキル基を有する表面改質剤を添加し六方晶フェライト磁性粒子の表面改質処理を行うこと、ならびに、上記表面改質処理後に水系溶媒を除去し六方晶フェライト磁性粒子を得ることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶フェライト磁性粉末の製造方法に関するものであり、詳しくは、磁気記録媒体の磁性層形成用磁性塗料中で容易に高度な分散状態を実現し得る六方晶フェライト磁性粉末の製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記製造方法により得られた六方晶フェライト磁性粉末を磁性層に含む磁気記録媒体およびその製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報を高速に伝達するための手段が著しく発達し、莫大な情報をもつ画像およびデータ転送が可能となった。このデータ転送技術の向上とともに、情報を記録、再生および保存するための記録再生装置および記録媒体には更なる高密度記録化が要求されている。高密度記録領域において良好な電磁変換特性を得るためには、微粒子磁性体を使用するとともに、微粒子磁性体を高度に分散させ、磁性層表面の平滑性を高めることでスペーシングロスを低減することが有効であることが知られている。
【0003】
磁性粒子の分散性を高める手段として、例えば特許文献1には、六方晶フェライト磁性粉末をpKa1〜4の表面処理剤とともに湿式分散することが提案されている。特許文献1では、上記表面処理剤は磁性層に使用される脂肪酸よりもpKaが低い強酸であるため、磁性粒子表面に吸着し分散性向上に寄与するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−30828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例に具体的に記載されている方法は、ガラス結晶化法による六方晶フェライト磁性粒子作製時、酸処理によりガラス成分を除去して得られた微結晶を水洗後、上記湿式分散に付すものである。湿式分散後に磁性粉末は水スラリー中で沈降、濃縮、脱水、乾燥させて捕集される。このように乾固させた磁性粉末を磁性塗料中で解砕し微粒子状に分散するためには多大な負荷を要するため、分散メディアにより磁性粉末がダメージを受けることが懸念される。
【0006】
そこで本発明の目的は、磁性層形成用の磁性塗料中で多大な分散負荷を掛けることなく容易に分散可能な磁性粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1の実施例で採用されているガラス結晶化法は、微粒子状の六方晶フェライト磁性粉末を得る方法として好適なものである。そこで本発明者らは、ガラス結晶化法により磁性層形成用の磁性塗料中で容易に分散可能な六方晶フェライト磁性粉末を得るための手段を見出すべく検討を重ねた。
一般的なガラス結晶化法は、(1)ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶解→(2)急冷固化→(3)固化物の加熱処理(六方晶フェライト粒子が析出)→(4)固化物を酸処理(ガラス成分を溶解除去)→(5)水系溶媒による洗浄、という工程を含む。本発明者らは、ガラス結晶化法の工程中、六方晶フェライト磁性粒子の表面を疎水性基を有する化合物により十分に被覆することで、磁性層形成用の磁性塗料中での分散負荷を大きく低減できるのではないかと考えた。磁性層形成用の磁性塗料は有機溶媒を用いて調製されるため、疎水性基で表面が十分に被覆された磁性粒子であれば、有機溶媒中(疎水性環境下)では、疎水性基が有機溶媒に対する親和性を示すことにより容易に微粒子状に分散させることができると推察したものである。かかる技術思想のもと、本発明者らは更に鋭意検討を重ねた結果、下記(A)および(B)の知見を得るに至った。
(A)ガラス結晶化法の洗浄工程において、水系溶媒中で磁性粒子表面を十分プラスに帯電させることで、磁性粒子は個々の粒子が磁気的に高度に分離した状態で存在することができる。また、磁性粒子表面が十分にプラスに帯電している状態で、アニオン性基と疎水性基を有する表面改質剤が存在すると、磁性粒子表面の正電荷のサイトにアニオン性基が吸着することで十分な量の表面改質剤を磁性粒子表面に存在させる(これにより磁性粒子表面を十分に疎水化する)ことが可能となる。更に、磁性粒子が磁気的に高度に分散した状態で上記表面改質剤を吸着させることで、個々の六方晶フェライト磁性粒子表面に均一に表面改質剤を吸着させることができる。これにより、磁性塗料中で一次粒子に近い状態にまで六方晶フェライト磁性粒子を高度に分散させることが可能となる。
(B)表面が疎水化された磁性粒子は水系溶媒中では凝集するが、ここで形成される凝集物は疎水性基同士の相互作用によって会合しているに過ぎないため、磁性層形成用の磁性塗料中では、凝集状態を容易に解除することができる。即ち、磁性層形成用の磁性塗料中で多大な分散負荷を掛けることなく容易に分散させることができる。
以上の知見に基づき本発明者らは更に検討を重ねた結果、本発明を完成した。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶融し、得られた溶融物を急冷し固化物を得ること、
得られた固化物を加熱処理することにより該固化物中に六方晶フェライト磁性粒子と結晶化したガラス成分を析出させること、
上記加熱処理後の固化物に酸処理を施すことにより上記ガラス成分を溶解除去すること、
上記酸処理後に得られた六方晶フェライト磁性粒子を水系溶媒中で湿式処理することにより、上記六方晶フェライト磁性粒子の等電点に対して、下記式(1)を満たす水系磁性液を調製すること、
pH0 − pH* ≧ 2.5 …(1)
[式(1)中、pH0は上記六方晶フェライト磁性粒子の等電点であり、pH*は上記水系磁性液のpHであって2.0以上の値である。]
上記水系磁性液に、該水系磁性液中でアニオン性基となる官能基およびアルキル基を有する表面改質剤を添加し六方晶フェライト磁性粒子の表面改質処理を行うこと、ならびに、
上記表面改質処理後に水系溶媒を除去し六方晶フェライト磁性粒子を得ること、
を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[2]前記原料混合物はAlを含む、[1]に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[3]前記原料混合物は、酸化物換算の全量に対してAl23換算で1.0〜10.0モル%のAlを含む、[1]または[2]に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[4]前記表面改質剤は、下記一般式(I)で表される化合物および下記一般式(II)で表される化合物からなる群から選択される[1]〜[3]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【化1】

[一般式(I)において、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数5〜10のアルキル基であり、X1およびX2は水素原子または置換基であり、ただしX1およびX2のいずれか一方は上記磁性液中でアニオン性基となる官能基である。]
【化2】

[一般式(II)において、R3は炭素数12〜17のアルキル基であり、X3は上記磁性液中でアニオン性基となる官能基である。]
[5]前記湿式処理は、酸添加によるpH調整を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[6]前記水系磁性液中でアニオン性基となる官能基はスルホン酸(塩)基である、[1]〜[5]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[7]一般式(I)中、X1およびX2の一方は前記水系磁性液中でアニオン性基となる官能基であり、他方は水素原子である、[4]〜[6]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末。
[9][1]〜[7]のいずれかに記載の方法により六方晶フェライト磁性粉末を製造すること、ならびに、
製造した六方晶フェライト磁性粉末を有機溶媒および結合剤とともに分散処理して磁性塗料を作製し、作製した磁性塗料を用いて磁性層を形成すること、
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
[10]前記有機溶媒はケトン系溶媒を含有する、[9]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[11][9]または[10]に記載の製造方法により得られた磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、六方晶フェライト磁性粉末が高度に分散された、優れた電磁変換特性を発揮し得る磁気記録媒体を提供することができる。
更に、六方晶フェライト磁性粉末の分散が容易となるため、製造工程における磁性体の分散負荷を大きく軽減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】原料混合物組成の一例を示す説明図(三角相図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法は、ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶融し、得られた溶融物を急冷し固化物を得ること、得られた固化物を加熱処理することにより該固化物中に六方晶フェライト磁性粒子と結晶化したガラス成分を析出させること、上記加熱処理後の固化物に酸処理を施すことにより上記ガラス成分を溶解除去すること、上記酸処理後に得られた六方晶フェライト磁性粒子を水系溶媒中で湿式処理することにより、上記六方晶フェライト磁性粒子の等電点に対して、下記式(1)
pH0 − pH* ≧ 2.5 …(1)
[式(1)中、pH0は上記六方晶フェライト磁性粒子の等電点であり、pH*は上記水系磁性液のpHであって2.0以上の値である。]
を満たす水系磁性液を調製すること、上記水系磁性液に、該水系磁性液中でアニオン性基となる官能基およびアルキル基を有する表面改質剤を添加し六方晶フェライト磁性粒子の表面改質処理を行うこと、ならびに、上記表面改質処理後に水系溶媒を除去し六方晶フェライト磁性粒子を得ること、を含む。
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法は、ガラス結晶化法において、酸処理によるガラス成分除去後に得られる六方晶フェライト磁性粒子に対して、後述する所定の処理を施すことにより、有機溶媒中で容易に高度な分散状態を実現し得る六方晶フェライト磁性粉末を提供することを可能とするものである。
以下、本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0012】
ガラス結晶化法において使用される原料混合物は、ガラス形成成分と六方晶フェライト形成成分を含むものであり、本発明においても少なくとも上記成分を含む原料混合物を使用する。ガラス形成成分とは、ガラス転移現象を示し非晶質化(ガラス化)し得る成分であり、通常のガラス結晶化法ではB23成分が使用される。本発明でもガラス形成成分としてB23成分を含む原料混合物を使用することができる。なお、ガラス結晶化法において原料混合物に含まれる各成分は、酸化物として、または溶融等の工程において酸化物に変わり得る各種の塩として存在する。本発明において「B23成分」とは、B23自体および工程中にB23に変わり得るH3BO3等の各種の塩を含むものとする。他の成分についても同様である。また、B23成分以外のガラス形成成分としては、例えばSiO2成分、P25成分、GeO2成分等を挙げることができる。
【0013】
原料混合物に含まれる六方晶フェライト形成成分としては、六方晶フェライト磁性粉末の構成成分となる成分であって、Fe23、BaO、SrO、PbO等の金属酸化物が挙げられる。例えば、六方晶フェライト形成成分の主成分としてBaO成分を使用することによりバリウムフェライト磁性粉末を得ることができる。原料混合物中の六方晶フェライト形成成分の含有量は、所望の磁気特性に応じて適宜設定することができる。
【0014】
原料混合物の組成は、特に限定されるものではないが、例えば、高い抗磁力Hcおよび飽和磁化σsを達成するために、AO成分(式中、Aは例えばBa、Sr、CaおよびPbから選択された少なくとも1種を表す)、B23成分、Fe23成分を頂点とする、図1に示す三角相図において、斜線部(1)〜(3)の組成領域内の原料が好ましい。特に、下記のa、b、c、dの4点で囲まれる組成領域内(斜線部(3))にある原料が好ましい。なお前述のようにB23成分の一部をGeO2成分等の他のガラス形成成分と置換することができ、後述するようにFe23成分の一部を抗磁力調整のための成分と置換することもできる。また、後述するように本発明では、B23成分の一部をAl化合物と置換し、ガラス形成成分としてAl化合物を使用することが好ましい。
(a)B23=44モル%,AO=46モル%,Fe23=10モル%
(b)B23=40モル%,AO=50モル%,Fe23=10モル%
(c)B23=21モル%,AO=29モル%,Fe23=50モル%
(d)B23=10モル%,AO=40モル%,Fe23=50モル%
【0015】
六方晶フェライト磁性粉末として、抗磁力調整のためFeの一部が他の金属元素によって置換されたものを得ることもできる。置換元素としては、Co−Zn−Nb、Zn−Nb、Co、Zn、Nb、Co−Ti、Co−Ti−Sn、Co−Sn−Nb、Co−Zn−Sn−Nb、Co−Zn−Zr−Nb、Co−Zn−Mn−Nb等が挙げられる。このような六方晶フェライト磁性粉末を得るためには、六方晶フェライト形成成分として、抗磁力調整のための成分を併用すればよい。抗磁力調整成分としては、CoO、ZnO等の2価金属の酸化物成分、TiO2、ZrO2、SnO2、MnO2等の4価金属の酸化物成分、Nb25等の5価金属の酸化物成分が挙げられる。上記抗磁力調整成分を使用する場合、その含有量は所望の抗磁力等にあわせて、適宜決定すればよい。
【0016】
また、本発明では、Alを含有する原料混合物を使用することが好ましい。これは、Alを含むことで、酸処理後に得られる六方晶フェライト磁性粒子の等電点を高めることができるからである。酸処理後に得られた磁性粒子の等電点pHが高いほど、同じpH*を示す水性磁性液において、以下に詳述する(pH0−pH*)の値は大きくなる。この値が大きいほど磁性粒子表面に存在する正電荷量が多いこと、即ち磁性粒子表面が十分にプラスに帯電していることを意味する。これに関連し、帯電した粒子を含有する水系溶媒のスラリーは、一般的にスラリー中の電解質濃度(イオン濃度)が分散/凝集状態に影響を及ぼすことが知られている。電解質濃度が低い場合、帯電した粒子の周りに電気二重層が広がり、この電気二重層の重なり合いを避けるように反発力が働き、帯電した粒子は分散状態を良好に維持することができる。したがって、表面を十分にプラスに帯電させることで、帯電した粒子間の反発力によって、個々の六方晶フェライト磁性粒子を高度に分散させた状態で存在させることができる。また、表面のプラス帯電によって後述する表面改質剤がアニオン性基によって吸着しやすくなり、これにより磁性粒子表面を十分に疎水化することが可能になる。ここで良好に分散した状態で後述する表面改質剤を吸着させることで、個々の六方晶フェライト磁性粒子表面に均一に表面改質剤を吸着させることができる。これにより、磁性塗料中で一次粒子に近い状態にまで六方晶フェライト磁性粒子を高度に分散させることが可能となる。なお、酸処理後に得られた磁性粒子の等電点が高いほど、式(1)を満たす水性磁性液を得るための湿式処理を穏やかな条件で行うことができる。他方、酸処理後に得られた磁性粒子の等電点が低いほど、式(1)を満たす水性磁性液を得るためには、より強い酸性条件下で湿式処理を行うこととなる。したがって、Alを含有する原料混合物を使用することで酸処理後に得られる六方晶フェライト磁性粒子の等電点を高めることができる点は、湿式処理を穏やかな条件で行うことができる点でも有利である。
Alは、酸化物として、または溶融等の工程において酸化物に変わり得る各種の塩(水酸化物等)として添加することができる。酸化物換算の全量に対してAl23換算で1.0モル%以上のAlを含む原料混合物を使用することが、上記理由から好ましい。また、本発明者らの検討によれば、Alを多く含む原料混合物から得られた六方晶フェライト磁性粒子を用いて作製した磁気記録媒体では、媒体表面が硬くなる現象が確認された。媒体表面が硬くなるとヘッドを磨耗させることで出力が低下する場合がある。出力確保の観点からは、酸化物換算の全量に対してAl23換算で10.0モル%以下のAlを含む原料混合物を使用することが好ましい。
【0017】
上記原料混合物は、各成分を秤量および混合して得ることができる。次いで、前記原料混合物を溶融し溶融物を得る。溶融温度は原料組成に応じて設定すればよく、通常、1000〜1500℃である。溶融時間は、原料混合物が十分溶融するように適宜設定すればよい。
【0018】
次いで、上記工程で得られた溶融物を急冷することにより固化物を得る。この固化物は、ガラス形成成分により非晶質化(ガラス化)した非晶質体である。上記急冷は、ガラス結晶化法で非晶質体を得るために通常行われる急冷工程と同様に実施することができ、例えば高速回転させた水冷双ローラー上に溶融物を注いで圧延急冷する方法等の公知の方法で行うことができる。
【0019】
上記急冷後、得られた非晶質体を加熱処理する。この工程により、六方晶フェライト磁性粒子および結晶化したガラス成分を析出させることができる。六方晶フェライト磁性粒子核生成温度を考慮すると、結晶化温度は580℃以上760℃以下とすることが好ましく、600℃以上760℃以下とすることがより好ましい。
【0020】
析出させる六方晶フェライト磁性粉末の粒子サイズは、結晶化温度および結晶化のための加熱時間により制御可能である。高密度記録用磁気記録媒体の磁性体として好適な粒径、好ましくは35nm以下、より好ましくは15〜30nmの粒径(一次粒子径)を有する六方晶フェライト磁性粒子が得られるように、結晶化温度および上記加熱時間を決定することが好ましい。結晶化温度は、上記好ましい範囲内で最適な範囲に設定することが好ましい。上記結晶化温度までの昇温速度は、例えば0.2〜10℃/分程度が好適であり、好ましくは0.5〜5℃/分であり、上記温度域での保持時間は、例えば0.5〜24時間であり、好ましくは1〜8時間である。なお、後述する粉砕処理や磁性塗料中での分散処理では、六方晶フェライト磁性粒子の粒子サイズは実質的に変化しない。
【0021】
上記結晶化工程において加熱処理を施された加熱処理物中には、六方晶フェライト磁性粒子と結晶化したガラス成分が析出している。そこで、加熱処理物に酸処理を施すと、粒子を取り囲んでいた、結晶化したガラス成分が溶解除去されるため、六方晶フェライト磁性粒子を採取することができる。
【0022】
上記酸処理の前には、酸処理の効率を高めるために粉砕処理を行うことが好ましい。粗粉砕は乾式、湿式のいずれの方法で行ってもよいが均一な粉砕を可能とする観点から湿式粉砕を行うことが好ましい。粉砕処理条件は、公知の方法にしたがって設定することができ、また後述の実施例も参照できる。
【0023】
上記酸処理は、加熱下酸処理等のガラス結晶化法で一般的に行われる方法により行うことができる。好ましくは、60〜90℃に加温した酢酸、蟻酸、酪酸等の水溶液中(好ましくは2〜25質量%程度の酸濃度)で0.5〜10時間程度、粗粉砕物を保持することが好ましい。これにより結晶化したガラス成分を溶解除去することができる。また、粒子表面にAlが被着している場合には、表面電荷制御のため、酸処理後の粒子に対してアルカリ処理を施し、被着しているAlの一部を除去することもできる。アルカリ処理は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液により酸処理後の粒子を洗浄することにより行うことができる。
【0024】
次に、酸処理により周りを取り囲んでいたガラス成分が除去された六方晶フェライト磁性粒子を、水系溶媒中で湿式処理することにより、上記六方晶フェライト磁性粒子の等電点に対して、下記式(1)を満たす水系磁性液を調製する。
pH0 − pH* ≧ 2.5 …(1)
[式(1)中、pH0は上記六方晶フェライト磁性粒子の等電点であり、pH*は上記水系磁性液のpHであって2.0以上の値である。]
後述する表面改質剤は、水系溶媒中で電離して生じるアニオン性基が、六方晶フェライト磁性粒子の表面正電荷に吸着することで該磁性粒子表面を改質すると考えられるが、上記(pH0−pH*)が0以上2.5未満では、帯電粒子の電荷が少ないため分散しにくくなると共に表面改質剤を十分に吸着させるに足る正電荷を六方晶フェライト磁性粒子表面に付与することは困難である。また、上記(pH0−pH*)がマイナスの値を取ると六方晶フェライト磁性粒子は表面に負電荷を有することになり、該磁性粒子表面を表面改質剤によって改質することが困難となる。したがって本発明では、上記(pH0−pH*)が2.5以上となる水系磁性液を調製する。表面が十分にプラスに帯電した六方晶フェライト磁性粒子は磁気的には個々に分離、分散した状態で存在し、この状態の磁性粒子に対して表面改質剤を作用させることで、各磁性粒子表面へ表面改質剤を均一に吸着させることが可能となる。以上の点から上記(pH0−pH*)は、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは4.0以上である。ただし、酸でpH*を低くしすぎると磁性粒子が溶解し所望の粉体特性が得られなくなるため、pH*は2.0以上とする。また、同様の理由から上記(pH0−pH*)は8.0以下であることが好ましい。
なお、前述のように酸処理後に得られた磁性粒子の等電点が高いほど、式(1)を満たす水性磁性液を得るための湿式処理を穏やかな条件で行うことができる。他方、酸処理後に得られた磁性粒子の等電点が低いほど、式(1)を満たす水性磁性液を得るためには、より強い酸性条件下で湿式処理を行うこととなる。湿式処理を穏やかな条件下で行うことができる点から好ましいpH0の範囲は、7.0以上、更には7.5以上、特に8.0以上である。また、ゼータ電位はpHにより規定されるため上限値は14.0となる。上記の通りpH*は2.0以上であるが、六方晶フェライト磁性粒子の等電点は、一般にpHとして中性〜塩基性領域にあるため、式(1)を満たすpH*は、通常酸性〜中性領域にあり、例えば2.0以上7.5以下程度である。
【0025】
本発明において、六方晶フェライト磁性粒子のpH0とは、測定対象溶液の一部を採取し磁性粒子濃度が0.02質量%となるように水で希釈した液を酸またはアルカリ溶液で調整した際、ゼータ電位が0mVになるpHとする。ゼータ電位測定器としては、例えばシスメックス製ゼータサイザーナノシリーズ等を使用することができる。また、等電点、ゼータ電位、およびpHとは、液温25℃において測定される値をいうものとする。
【0026】
前記水系溶媒とは、水を主成分とする溶媒であり、水、または水と水溶性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン等との混合溶媒を挙げることができ、好ましくは水である。
【0027】
前記湿式処理は、水系溶媒、好ましくは水による洗浄と、その後の酸添加によるpH調整を含むことができる。洗浄は、攪拌、デカンテーション、濾過、遠心沈降、超音波洗浄等の公知の方法を任意に組み合わせて行うことができる。また、添加する酸としては、水中(25℃)でのpKaが3以下の酸が、少量添加でpHの制御が可能であるため好ましい。具体的には、塩酸等を好ましい酸として例示することができる。ここで添加する酸の量は、使用する酸の種類に応じて上記(pH0−pH*)を所望の範囲に制御できる量に設定すればよい。
【0028】
その後、前記した式(1)を満たすように調製された水系磁性液に、液中の磁性粒子表面を疎水性基で被覆するための表面改質処理を施す。本発明において、上記磁性液中で磁性粒子を表面改質処理するために使用される表面改質剤は、上記水系磁性液中でアニオン性基となる官能基およびアルキル基を有する化合物である。かかる表面改質剤は、水系磁性液中で電離により生じたアニオン性基を介して六方晶フェライト磁性粒子表面の正電荷に吸着することで、該磁性粒子を疎水性基であるアルキル基によって疎水化することができる。
【0029】
上記表面改質剤が有するアルキル基は、疎水化効果と水系磁性液への溶解性の観点から、炭素数3〜20のアルキル基が好ましく、炭素数5〜17のアルキル基がより好ましい。また、上記表面改質剤が有する、前記した水系磁性液中でアニオン性基となる官能基の詳細は、後述の一般式(I)、(II)で表される化合物について説明する通りである。
なお、本発明において、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、該置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1〜6のアルキル基)、水酸基、アルコキシル基(例えば炭素数1〜6のアルコキシル基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシル基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。また、本発明において、「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0030】
かかる表面改質剤として好ましい化合物としては、下記一般式(I)で表される化合物、下記一般式(II)で表される化合物を例示できる。ただし、本発明において使用される表面改質剤は、前記した官能基とアルキル基をそれぞれ1つ以上有するものであれば所期の効果を発揮することができるため、一般式(I)、(II)で表される化合物に限定されるものではない。
【0031】
【化3】

【0032】
一般式(I)において、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数5〜10のアルキル基である。上記アルキル基は、直鎖であっても分岐を有していてもよいが、磁性粒子表面を効率的に疎水化する観点からは、分岐アルキル基が好ましい。
1、R2で表されるアルキル基の炭素数が5以上であることで磁性粒子表面を十分に疎水化することができる。一方、上記アルキル基の炭素数が10を超えると、一般式(I)で表される化合物の水溶性が低下するため、各アルキル基の炭素数は10以下とする。また、R1およびR2は、同一でも異なっていてもよい。水溶性の点からは、R1で表されるアルキル基の炭素数とR2で表されるアルキル基の炭素数の合計が16以下である化合物が好ましい。
【0033】
一般式(I)中、X1およびX2は水素原子または置換基であり、X1およびX2のいずれか一方は上記磁性液中でアニオン性基となる官能基である。一般式(I)で表される化合物は、前記水系磁性液中でアニオン性基となる官能基を有することにより、正電荷を帯びた六方晶フェライト磁性粒子表面に、疎水性基であるR1およびR2を外に向けた状態で吸着することができる。これにより、六方晶フェライト磁性粒子表面を疎水化することができる。
【0034】
上記の磁性液中でアニオン性基となる官能基としては、上記式(1)を満たす水系磁性液中で安定に解離(電離)できる官能基が好ましい。この点から好ましい官能基としては、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、硫酸エステル(塩)基、カルボン酸(塩)基、燐酸(塩)基、燐酸エステル(塩)基、等を挙げることができる。
ここで、「スルホン酸(塩)基」とは、スルホン酸基(−SO3H)と−SO3Na、−SO3Li、−SO3K等のアルカリ金属を対イオンとして有するスルホン酸塩基、およびそれらの塩を含むものとする。硫酸(塩)基、硫酸エステル(塩)基、カルボン酸(塩)基、燐酸(塩)基、燐酸エステル(塩)基についても同様である。六方晶フェライト磁性粒子表面への吸着力に優れるという点で、上記官能基としてスルホン酸(塩)基を持つ化合物を用いることが好ましい。
【0035】
1およびX2のいずれか一方は上記官能基であり、他方は水素原子または置換基である。上記置換基の詳細は前記した通りである。アニオン性基を六方晶フェライト磁性粒子表面に良好に吸着させるためには、アニオン性基近傍に存在する基の立体障害は小さいことが好ましい。この点からX1およびX2のうち、上記官能基ではないものは水素原子であることが好ましい。
【0036】
【化4】

【0037】
一般式(II)において、R3は炭素数12〜17のアルキル基であり、X3は水系溶媒中でアニオン性基となる官能基である。
【0038】
一般式(II)中、R3で表されるアルキル基の炭素数が12以下であることで磁性粒子表面を十分に疎水化することができる。他方、上記アルキル基の炭素数が17を超えると、一般式(II)で表される化合物の水溶性が低下するため、R3で表されるアルキル基の炭素数は17以下とする。なお、R3で表されるアルキル基は直鎖であっても分岐を有していてもよいが、六方晶フェライト磁性粒子表面の疎水化効果の点からは直鎖であることが好ましい。一方、分岐アルキル基であると構造の対称性が低下するため、同一炭素数の直鎖アルキル基に対して水、有機溶媒への溶解性が向上する点で有利である。
【0039】
一般式(II)中、X3で表される官能基の詳細は、先に一般式(I)について述べた通りである。X3で表される官能基の置換位置は、六方晶フェライト磁性粒子表面の疎水化効果の点からはX3に対してパラ位であることが好ましい。
【0040】
一般式(I)で表される化合物、一般式(II)で表される化合物はいずれも、公知の方法で合成することができ、または市販品として入手可能である。以下に、一般式(I)で表される化合物、一般式(II)で表される化合物の具体例を示す。ただし本発明は、下記具体例に限定されるものではない。
【0041】
【化5】

【0042】
上記表面改質剤を前記式(1)を満たす水系磁性液に添加し、好ましくは攪拌処理を行うことで、六方晶フェライト磁性粒子の表面改質処理を行うことができる。表面改質のための攪拌処理は、サンドミル等の公知の分散機を用いて行うことができる。処理時間は特に限定されるものではなく六方晶フェライト磁性粒子表面が十分に疎水化されるように設定すればよい。例えば表面改質剤を添加した後に更に5分〜1時間程度、攪拌処理を行うことができる。
【0043】
上記表面改質処理において使用される表面改質剤は、1種のみでもよく2種以上を組み合わせて使用することもできる。一般式(I)で表される表面改質剤および一般式(II)は、どちらも優れた表面改質効果を示すものであるが、より優れた表面改質効果を得るためには一般式(I)で表される表面改質剤が好ましい。表面改質剤の使用量は、表面改質処理後の六方晶フェライト磁性粒子上に均一な疎水性表面を形成する観点からは磁性粒子100質量部に対して5質量部以上とすることが好ましい。また、使用量が過剰であると六方晶フェライト磁性粒子表面で表面修飾剤が2層で吸着し疎水化が不十分となる場合があるため、十分な疎水化を達成するためには、六方晶フェライト磁性粒子100質量部に対して表面改質剤を15質量部以下使用することが好ましく、10質量部以下使用することが更に好ましい。また、六方晶フェライト磁性粒子に対して10〜500倍量(質量基準)の水系溶媒を使用することが、六方晶フェライト磁性粒子の表面改質処理を良好に行ううえで好ましい。
【0044】
上記表面改質処理後、磁性液から水系溶媒を除去することで、磁気記録媒体形成のために使用可能な六方晶フェライト磁性粒子を得ることができる。一態様では、上記表面改質処理後、水系溶媒中から磁性粒子を採取する。その後、採取した磁性粒子は磁気記録媒体形成用の磁性塗料の調製に使用することができる。例えば、表面改質処理後の磁性粒子を、必要に応じてデカンテーション等により洗浄した後に濾過等の公知の方法によって水系溶媒から取り出し乾燥処理を行った後に、得られた磁性粒子を用いて公知の方法により磁気記録媒体形成用の磁性塗料を作製することができる。他の態様では、乾燥処理を施すことなく、表面改質処理後に水系溶媒を有機溶媒に置換する溶媒置換処理を行った後に、得られた磁性粒子を用いて通常の方法で磁気記録媒体形成用の磁性塗料を作製することができる。前記処理を経て得られた六方晶フェライト磁性粒子は、仮に磁性粒子が乾燥時に凝集したとしても、先に説明したように、この凝集物は有機溶媒中で容易に分散可能である。
【0045】
上記の溶媒置換は、公知の方法で行うことができるが、一例として以下の方法を挙げることができる。
上記表面改質処理により得られた磁性液をフィルター濾過する。好ましくは、表面改質剤による処理によって沈降物を生じた磁性液の上澄みをデカンテーションで除去することにより得られた沈降物をフィルター濾過する。なお、上記表面改質処理において表面改質剤が吸着することにより、六方晶フェライト磁性粒子表面の正電荷が中和されるため、正電荷および電気二重層による分散安定性が低下することと六方晶フェライト磁性粒子表面が疎水化される結果、六方晶フェライト磁性粒子は沈降しやすい状態となる。したがって水系溶媒中で六方晶フェライト磁性粒子が短時間で自然沈降するため磁性液の固液分離は容易である。通常のガラス結晶化法では、水洗後の六方晶フェライト磁性粒子は容易には沈降しないため、最終的に得られた粒子を捕集するために凝集工程(長時間放置、凝集剤の添加、pHを粒子の等電点付近に調整、等)を行うことが多いが、本発明によれば、そのような凝集工程が不要になる。
その後、フィルター上の濾過物が乾燥する前に、水および磁性層形成用の磁性塗料に使用する有機溶媒の両者に混合し得る溶媒(例えばアルコール)をフィルターに注ぐことにより濾過物中に残存する水分を除去する。次いで、磁性塗料に使用する有機溶媒をフィルター上に注ぐことにより、水系溶媒を有機溶媒に溶媒置換することができる。こうして得られた濾過物を用いて通常の方法で磁性層形成用塗料を作製することができる。
得られた磁性塗料を用いて磁気記録媒体を製造する方法の詳細については、後述する。上記の通り本発明によれば、水系の磁性液中で凝集していた六方晶フェライト磁性粒子は有機溶媒中で容易に分散可能であるため、分散負荷を高めることなく磁性層形成用の磁性塗料において高度な分散状態を実現することができる。
【0046】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0047】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法により六方晶フェライト磁性粉末を製造すること、製造した六方晶フェライト磁性粉末を有機溶媒および結合剤とともに分散処理して磁性塗料を作製し、作製した磁性塗料を用いて磁性層を形成すること、を含む。
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法において、六方晶フェライト磁性粒子の表面改質処理は水系溶媒中で行われるが、水系溶媒を含む磁性塗料を用いて磁性層を形成すると、形成された磁性層は親水性となるため吸湿による可塑化等の弊害が発生することが懸念される。これに対し本発明の磁気記録媒体の製造方法では、磁性層を形成するために有機溶媒系の磁性塗料を使用する。ここで有機溶媒とは非水系の有機溶媒をいうものとするが、磁性塗料中に可塑化等の弊害を生じない程度に微量の水分が残留していることは許容するものとする。
【0048】
磁性塗料に使用する有機溶媒としては、一般に塗布型磁気記録媒体調製のために使用される有機溶媒を挙げることができる。具体的には、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。中でも、磁気記録媒体に通常使用される結合剤の溶解性および磁性粒子表面への結合剤の吸着の点からはケトン類を含有する有機溶媒(ケトン系有機溶媒)を用いることが好ましい。
【0049】
上記有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0050】
上記有機溶媒との分散処理に付される磁性粒子は、水系溶媒中で表面改質剤によって処理された結果、表面が疎水化されている。したがって、磁性層形成のために行われる通常の分散処理によって高度に分散することができる。
【0051】
以下、本発明の磁気記録媒体の製造方法の具体的態様について説明する。
【0052】
磁性層
本発明における磁性層は、前記の処理が施された六方晶フェライト磁性粒子と結合剤を含む層である。六方晶フェライト磁性粒子の製造方法の詳細は、先に説明した通りである。
【0053】
磁性層を形成するための磁性塗料に使用される結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報段落[0029]〜[0031]を参照できる。また、上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0054】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。
【0055】
磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。カーボンブラックを使用する場合、強磁性粉末の質量に対して0.1〜30質量%で用いることが好ましい。磁性層で使用されるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0056】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明では、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を形成することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010−24113号公報段落[0036]〜[0039]を参照できる。
【0057】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。また、非磁性層にはカーボンブラックや有機質粉末を添加することも可能である。それらについては、例えば特開2010−24113号公報段落[0040]〜[0042]を参照できる。
【0058】
非磁性支持体
前記方法で調製された磁性塗料は、非磁性層上に直接、または非磁性層等の他の層を介して非磁性支持体上に塗布される。これにより、非磁性支持体上に、必要に応じて非磁性層等の他の層を介して磁性層を有する磁気記録媒体を得ることができる。
【0059】
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmが好ましい。
【0060】
層構成
本発明により得られる磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μmである。磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.01〜0.15μmであり、好ましくは0.02〜0.12μmであり、さらに好ましくは0.03〜0.10μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0061】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明における磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明における磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0062】
バックコート層
本発明では、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0063】
製造工程
磁性層形成のための塗布液(磁性塗料)は、本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法により得られた六方晶フェライト磁性粉末を使用する点以外、通常の磁性層形成用塗布液の調製方法と同様の方法で作製することができる。
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための塗布液を製造する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる磁性粒子、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバックコート層塗布液を分散させるには、ガラスビーズやその他のビーズを用いることができる。このような分散メディアとしては、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。磁気記録媒体の製造方法の詳細については、例えば特開2010−24113号公報段落[0051]〜[0057]を参照できる。
【0064】
本発明によれば、六方晶フェライト磁性粒子が高度に分散された磁性層を形成することができる。これにより本発明によれば、優れた電磁変換特性を発揮し得る高密度記録用磁気記録媒体を提供することができる。即ち、本発明の製造方法により得られた磁気記録媒体は、高密度記録用磁気記録媒体として好適である。例えば本発明の磁気記録媒体は、400Kbpi以上の線記録密度で磁気信号を記録し、該磁気信号を再生するために使用することができる。特に本発明の磁気記録媒体は、線記録密度500Kbpi超のシステムにおいて高SNRを示すことができ、線記録密度550Kbpi以上のシステムでSNR向上が顕著である。線記録密度は、550〜600Kbpiであることが特に好ましい。
【0065】
再生ヘッドとしては、高密度記録された磁気信号を高感度で再生するために、磁気抵抗効果型ヘッド(MRヘッド)を使用することが好ましい。MRヘッドは高感度であるためノイズも高感度に検出する傾向があるが、本発明の磁気記録媒体は微粒子磁性体の凝集によるノイズを低減することができるため、MRヘッドによる再生において高SNRを実現することができる。高感度再生の観点から、MRヘッドとしては、シールド間距離が0.05〜0.2μmのMRヘッドを使用することが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。以下に記載の「部」、「%」は、「質量部」、「質量%」を示す。
【0067】
1.結晶化物の調製例
【0068】
[結晶化物Aの調製]
酸化物換算でB23:23.0モル%、Al23:8.7モル%、BaO:37.0モル%、Fe23:31.3モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したものを容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、720℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。
【0069】
[結晶化物Bの調製]
酸化物換算でB23:26.3モル%、Al23:5.4モル%、BaO:37.0モル%、Fe23:31.3モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したもの(Feの一部をCo=0.5at%、Zn=1.5at%、Nb=1at%で置換したものを用いた)を容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、700℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。
【0070】
[結晶化物Cの調製]
酸化物換算でB23:22.8モル%、Al23:1.5モル%、BaO:31.7モル%、Fe23:44.0モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したもの(Feの一部をZn=1.5at%、Nb=0.75at%で置換したものを用いた)を容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、660℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。
【0071】
[結晶化物Dの調製]
酸化物換算でB23:4.7モル%、BaCO3:10.0モル%、Fe23(Si/Fe(原子比)=0.005):10.8モル%、CoCO3:0.54モル%、ZnO:0.50モル%、Nb25:0.12モル%となるように、対応する酸化物を所定量秤量し、ミキサーにて混合したもの(Feの一部をZn=1.5at%、Nb=0.75at%で置換したものを用いた)を容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを525℃に保持した電気炉に仕込み5時間保持させた後、680℃に保持した電気炉に直ちに仕込み5時間保持して六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。
【0072】
2.六方晶フェライト磁性粒子および磁気記録媒体作製の実施例、比較例
【0073】
[実施例1〜9、比較例3〜5]
表1に示す結晶化物を得るための結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。30%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理してガラス成分を溶解した。固形物を沈降後、上澄みをデカンテーション除去して磁性粒子の沈降物を得た。沈降物の残ったビーカーに5Lになるまで純水を注ぎ、70℃に温度制御した状態で1規定の塩酸またはNaOH溶液で表1に示すpHに調整した。その後、磁性体100部に対して5部相当の表1に示す表面改質剤を添加し、30分攪拌を行った。その後、デカンテーション洗浄(水洗)を表1に示す回数行った後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0074】
[比較例1]
結晶化(結晶化物A)が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。30%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理した。その後、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0075】
[比較例2]
特開2004−30828号公報の段落[0062]と同じ処理を行い、製造例2と同じ磁性粒子を作製した。
【0076】
3.磁性粒子の評価
(1)酸処理後のバリウムフェライト磁性粒子の等電点(pH0)
実施例、比較例において酸処理後の溶液の一部を採取し、磁性粒子濃度が0.02%となるように水で希釈した液を酸またはアルカリ溶液で調整しゼータ電位0mVとなったpHを求めた。ゼータ電位は、シスメックス製ゼータサイザーナノシリーズにより測定した。
(2)磁気特性(保磁力)変化の測定
上記pH調整による磁性粒子そのものへの影響を確認するため、pH調整前後の磁性粒子を一部採取し乾燥させた。乾燥した粉体の保磁力を、振動試料型磁束計(東栄工業社製)を用い、23℃で印加磁界1194kA/m(15kOe)で測定した。pH調整前後の保磁力の差ΔHcから、pH調整により磁性粒子の溶解等の影響がないかを確認した。
【0077】
4.磁性層塗布液の処方
上記で得られたバリウムフェライト磁性粒子 100部
ポリウレタン樹脂 5部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、
−SO3Na=0.07meq/g
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104) 10部
オレイン酸 10部
α−アルミナ(粒子サイズ0.15μm) 5部
カーボンブラック(平均粒径20nm) 0.5部
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0078】
5.磁性層塗布液の調製
磁性層塗布液については、バリウムフェライトとオレイン酸とを乾式で15分間分散させた後、この分散物を上記磁性層成分とともにオープンニーダーで混練した後、サンドミルを用いて表1に記載の時間、分散させた。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製コロネートL)を3部加え、更にメチルエチルケトン、シクロヘキサノン混合溶媒40部を加え、混合、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過して磁性層塗布液を調製した。
【0079】
6.非磁性層塗布液の処方
非磁性無機粉体 85部
α−酸化鉄
表面処理層:Al23、SiO2
平均長軸長 0.15μm
平均針状比:7
BET法による比表面積 52m2/g
PH8
カーボンブラック 15部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR110) 10部
ポリウレタン樹脂 10部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、
−SO3Na=0.2meq/g
フェニルホスホン酸 5部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0080】
7.非磁性層塗布液の調製
上記の非磁性層塗布液については、各成分をオープンニーダーで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製コロネートL)を4部加え、更にメチルエチルケトン、シクロヘキサノン混合溶媒40部を加え、混合、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過して非磁性層塗布液を調製した。
【0081】
8.バックコート層塗布液の処方
微粒子状カーボンブラック粉末 100部
(キャポット社製BPr800、平均粒子サイズ:17nm)
粗粒子状カーボンブラック粉末 10部
(カーンカルブ社製、サーマルブラック、平均粒子サイズ:270nm)
α−アルミナ(硬質無機粉末) 2部
平均粒子サイズ:200nm、モース硬度:9
ニトロセルロース樹脂 140部
ポリウレタン樹脂 15部
ポリエステル樹脂 5部
分散剤:オレイン酸銅 5部
銅フタロシアニン 5部
硫酸バリウム 5部
(堺化学工業(株)製BF−1、平均粒径:50nm、モース硬度3)
メチルエチルケトン 1200部
酢酸ブチル 300部
トルエン 600部
【0082】
9.バックコート層塗布液の調製
バックコート層塗布液については、上記成分を連続ニーダーで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に、ポリイソシアネート40部(コロネートL、日本ポリウレタン工業(株)製)、メチルエチルケトン1000部を添加し、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過してバックコート層塗布液を調製した。
【0083】
10.磁気テープの作製
得られた非磁性層塗布液および磁性層用塗布液を、非磁性層は乾燥後の膜厚で1.0μm、磁性層は乾燥後の膜厚で0.10μmになるように、更に乾燥後のテ−プ総厚が6.6μmになるように厚さ5μmの支持体(二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート)上に同時重層塗布を行い、乾燥させた。その後、磁性層面とは反対の面に、バックコート層を乾燥後に厚さ0.5μmになるように塗布した。
その後、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧350kg/cm(343kN/m)、温度80℃でカレンダー処理を行い、得られたロールを60℃で48時間加熱処理を行った。次いで、1/2インチ幅にスリットして磁気テ−プを作製した。
【0084】
11.磁性層塗布液中の磁性粒子の液中粒径
実施例、比較例で調製した磁性層塗布液の一部を採取し、採取した液をバリウムフェライト濃度が0.2%になるように、メチルエチルケトンとシクロヘキサノンの1:1(質量比)混合溶媒で希釈した液を調製した。調製した希釈液中のバリウムフェライト磁性粒子の粒度分布を、株式会社堀場製作所製動的光散乱式粒度分布測定装置LB−500を用いて測定した(反復測定回数50回)。測定した粒度分布の積算分布曲線の50%に相当する最大長径を、磁性塗料中の液中粒径とした。液中粒径が小さいほど、磁性層塗布液中で磁性粒子が良好に分散していることを意味する。
【0085】
12.電磁変換特性(SNR)の評価
実施例、比較例の各磁気テープのSNRを、以下の方法によってヘッドを固定した1/2インチリニアシステムで測定した。ヘッド/テープ相対速度は10m/secとした。
記録ヘッドとして、飽和磁束密度1.8TのMIGヘッド(ギャップ長:0.2μm、トラック幅8μm)を使い、記録電流を各テープの最適記録電流に設定し600kbpiの線記録密度でテープ長手方向に磁気信号を記録した。記録した磁気信号を、再生ヘッドとして、素子厚み15nm、シールド間距離0.05μmの異方性型MRヘッド(A−MR)を用いて再生した。再生信号をシバソク製のスペクトラムアナライザーで周波数分析し、キャリア信号の出力と、スペクトル全帯域の積分ノイズとの比をSNRとした。
【0086】
【表1】

【0087】
評価結果
表1に示す結果から、以下の点が確認できる。
(1)上記の通り表1に示した液中粒径は、磁性粒子の分散性の指標である。比較例4は、実施例と同等の液中粒径であり分散性は良好であったがSNRは実施例と比べて劣っていた。これは、pH*が2.0を下回るほど強酸処理を行ったため磁性粒子が溶解し磁気特性が低下したためである(表1に示すように、ΔHcの値が大きい)。
(2)比較例1は、通常のガラス結晶化法により作製された磁性粒子を用いて磁気テープを作製した例である。実施例の3倍もの分散時間をかけ磁性層塗布液を調製したにもかかわらず、液中粒径は実施例よりも大きく分散性に劣っていた。
(3)比較例2、3、5は、(pH0−pH*)が2.5に満たないか、使用した表面改質剤の効果が不十分であるため、分散処理に実施例の3倍もの時間をかけ磁性層塗布液を調製したにもかかわらず、液中粒径は実施例よりも大きく分散性に劣っていた。
(4)これに対し実施例では、液中粒径が小さく磁性層塗布液中の磁性粒子の分散性が良好であり、高いSNRを示す磁気テープを得ることができた。
(5)実施例1〜3の対比から、ガラス結晶化法の原料混合物中のAl量を増量するほど、pH0が高まることが確認できる。pH0を高めることができれば、湿式処理により調整するpH(pH*)が同じであっても(pH0−pH*)の値は大きくなるため、磁性粒子の分散性向上を容易に実現するうえで、Alの使用は有利である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、高密度記録用磁気記録媒体の製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶融し、得られた溶融物を急冷し固化物を得ること、
得られた固化物を加熱処理することにより該固化物中に六方晶フェライト磁性粒子と結晶化したガラス成分を析出させること、
上記加熱処理後の固化物に酸処理を施すことにより上記ガラス成分を溶解除去すること、
上記酸処理後に得られた六方晶フェライト磁性粒子を水系溶媒中で湿式処理することにより、上記六方晶フェライト磁性粒子の等電点に対して、下記式(1)を満たす水系磁性液を調製すること、
pH0 − pH* ≧ 2.5 …(1)
[式(1)中、pH0は上記六方晶フェライト磁性粒子の等電点であり、pH*は上記水系磁性液のpHであって2.0以上の値である。]
上記水系磁性液に、該水系磁性液中でアニオン性基となる官能基およびアルキル基を有する表面改質剤を添加し六方晶フェライト磁性粒子の表面改質処理を行うこと、ならびに、
上記表面改質処理後に水系溶媒を除去し六方晶フェライト磁性粒子を得ること、
を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
前記原料混合物はAlを含む、請求項1に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記原料混合物は、酸化物換算の全量に対してAl23換算で1.0〜10.0モル%のAlを含む、請求項1または2に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記表面改質剤は、下記一般式(I)で表される化合物および下記一般式(II)で表される化合物からなる群から選択される請求項1〜3のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【化1】

[一般式(I)において、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数5〜10のアルキル基であり、X1およびX2は水素原子または置換基であり、ただしX1およびX2のいずれか一方は上記磁性液中でアニオン性基となる官能基である。]
【化2】

[一般式(II)において、R3は炭素数12〜17のアルキル基であり、X3は上記磁性液中でアニオン性基となる官能基である。]
【請求項5】
前記湿式処理は、酸添加によるpH調整を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
前記水系磁性液中でアニオン性基となる官能基はスルホン酸(塩)基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
一般式(I)中、X1およびX2の一方は前記水系磁性液中でアニオン性基となる官能基であり、他方は水素原子である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により六方晶フェライト磁性粉末を製造すること、ならびに、
製造した六方晶フェライト磁性粉末を有機溶媒および結合剤とともに分散処理して磁性塗料を作製し、作製した磁性塗料を用いて磁性層を形成すること、
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記有機溶媒はケトン系溶媒を含有する、請求項9に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の製造方法により得られた磁気記録媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−203956(P2012−203956A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67549(P2011−67549)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】