説明

共役ポリマー及びその製造中間体

【課題】新たな共役ポリマー及びその製造中間体の提供。
【解決手段】下記式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物。


(式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ハロゲノアルキル基、アルカノイル基、アルカノイルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミノアルキル基、ニトロソ基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、ホルミル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基又はフェニル基を示し、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルカノイル基、アルカノイルアミノ基、ニトロ基、シアノ基又はアミノ基を示し、Z1、Z2及びZ3はそれぞれ独立に−N(R5)−、−S−又は−O−を示し、R5は水素原子、アルキル基又はアルケニル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役ポリマー及びその製造中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
共役ポリマーは高いキャリア移動を示すため電子デバイスなどの材料として応用されている。更に、共役部分の長さをコントロールすることで様々な色を生み出すことも可能であり、有機ELなどの発光材料としても用いられている。
【0003】
共役ポリマーの中でも、ジベンゾチオフェンやカルバゾール等の芳香族化合物構造を有するポリマーはこの構造が高い平面性や電子が豊富な構造をしているため電子デバイスなどの機能性ポリマー材料として有用である。
【0004】
これらの共役ポリマーの合成法として様々な合成方法が用いられているが、そのうちスズキカップリング反応とスティルカップリング反応は広く用いられている反応である。スズキカップリング反応の場合は、ジハロ置換芳香族モノマーとジボレート置換モノマーが、またスティルカップリング反応の場合はジハロ置換芳香族モノマーとビス(トリアルキルスズ)置換モノマーが用いられる。
【0005】
スズキカップリング反応用のジボレート置換芳香族モノマー合成は数多く報告されている。しかしスズキカップリング反応は水と塩基存在下での反応であるため反応相手のモノマーに限りがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−104916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これに対し、スティルカップリング反応は、反応条件が比較的簡便であり、無水、無塩基条件の反応であるためモノマーの制限が少ないことから、共役ポリマーの製造法として有用である。しかし、まだスティルカップリング反応により得られた共役ポリマーの特性は十分満足すべきものではなく、より優れた特性を有する共役ポリマーの開発が求められている。
従って、本発明の課題は、スティルカップリング反応に有用な新たなビス(トリアルキルスズ)芳香族化合物を提供すると共に、得られた化合物を用いることで優れた特性を有する共役ポリマーを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者らは、ジベンゾチオフェンやカルバゾール等の芳香族骨格に着目し、これらの芳香族骨格を有する化合物の2個のベンゼン環上にトリアルキルスズ基を導入した新規化合物の合成に成功し、更に得られたモノマーを用いれば種々のジハロゲン化物とのスティルカップリング反応により広範囲な共役ポリマーが得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を提供するものである。
【0010】
【化1】

【0011】
(式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ハロゲノアルキル基、アルカノイル基、アルカノイルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミノアルキル基、ニトロソ基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、ホルミル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基又はフェニル基を示し、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルカノイル基、アルカノイルアミノ基、ニトロ基、シアノ基又はアミノ基を示し、Z1、Z2及びZ3はそれぞれ独立に−N(R5)−、−S−又は−O−を示し、R5は水素原子、アルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0012】
また、本発明は、次式(2)で表される化合物と次式(3)で表される化合物とを、遷移金属触媒の存在下に反応させることを特徴とする上記式(1)で表される高分子化合物の製造方法を提供するものである。
【0013】
【化2】

【0014】
(式(2)および式(3)において、X1及びX2はそれぞれハロゲン原子を示し、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し、Z1、Z2、Z3、R1、R2、R3、R4及びR5は前記と同じ。)
【0015】
また、本発明は、下記式(3)で表される化合物を提供するものである。
【0016】
【化3】

【0017】
(式(3)において、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し、Z1、R1及びR2は前記と同じ。)
【発明の効果】
【0018】
本発明の高分子化合物は、高い平面性及び電子が豊富な共役ポリマーであり、電子デバイス、特に有機ELなどの材料として有用である。
また、式(3)の化合物を用いれば、種々のジハロゲン化芳香族モノマーとの間のスティルカップリング反応により、高い平面性及び電子が豊富な共役ポリマーを得ることができる。このスティルカップリング反応によれば、無水、無塩基条件下で広範囲の共役ポリマーが簡易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェンのH−NMR測定結果を示す。
【図2】3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェンの1H−NMR測定結果を示す。
【図3】2,7−ビス(トリメチルスズ)−9−ヘキシルカルバゾールの1H−NMR測定結果を示す。
【図4】高分子化合物P1の1H−NMR測定結果を示す。
【図5】高分子化合物P1のUV−vis(a)と、蛍光スペクトル(b)の測定結果を示す。
【図6】高分子化合物P1のFTIRスペクトルの測定結果を示す。
【図7】高分子化合物P2の1H−NMR測定結果を示す。
【図8】高分子化合物P2のUV−vis(a)と、蛍光スペクトル(b)の測定結果を示す。
【図9】高分子化合物P2のFTIRスペクトルの測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
式(1)、(2)及び(3)中、Z1、Z2及びZ3はそれぞれ独立に−N(R5)−、−S−又は−O−を示すが、Z1としては−N(R5)−又は−S−がより好ましく、−S−が特に好ましい。また、Z2及びZ3としては、−N(R5)−、−S−、−O−のいずれでもよい。
【0021】
1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ハロゲノアルキル基、アルカノイル基、アルカノイルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミノアルキル基、ニトロソ基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、ホルミル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基又はフェニル基を示す。ここで、アルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖のアルキル基が挙げられ、炭素数1〜12の直鎖又は分枝鎖のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖のアルキル基が特に好ましい。当該アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0022】
ハロゲノアルキル基としては、上記炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基に1〜12個のハロゲン原子が置換した基が挙げられる。具体例としては、クロロエチル基、フルオロエチル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。アルカノイル基としては、炭素数2〜8のアルカノイル基が挙げられ、具体的にはアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。アルカノイルアミノ基としては、炭素数2〜8のアルカノイルアミノ基が挙げられ、具体的にはアセチルアミノ基、プロピルオニルアミノ基、ブチリルアミノ基等が挙げられる。アミノアルキル基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基にアミノ基が置換した基が挙げられ、具体的にはアミノエチル基、アミノプロピル基、アミノブチル基等が挙げられる。
【0023】
アルコキシ基としては、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖のアルコキシ基が好ましく、更に炭素数1〜12、特に炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖のアルコキシ基が好ましい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、n−ペントキシ基等が挙げられる。アルコキシカルボニル基としては、総炭素数2〜21の直鎖又は分枝鎖のアルコキシカルボニル基が挙げられ、総炭素数2〜13、特に総炭素数2〜7の直鎖又は分枝鎖のアルコキシカルボニル基が好ましい。具体例としては、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等が挙げられる。
【0024】
式(1)及び(2)中、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルカノイル基、アルカノイルアミノ基、ニトロ基、シアノ基又はアミノ基を示す。ここで、アルキル基、アルカノイル基、アルカノイルアミノ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基は、前記R1及びR2で示したものと同様の基を例示することができる。
【0025】
式(2)中、X1及びX2はそれぞれハロゲン原子を示すが、特に塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0026】
5は、水素原子、アルキル基又はアルケニル基を示す。ここで、アルキル基及びアルケニル基としては炭素数1〜20、更に炭素数1〜12、特に炭素数1〜8の直鎖又は分枝鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。当該アルキル基又はアルケニル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、ビニル基、プロペニル基等が挙げられる。
【0027】
6及びR7は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示すが、アルキル基が特に好ましい。当該アルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖のアルキル基が挙げられ、炭素数1〜12の直鎖又は分枝鎖のアルキル基がより好ましい。ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。このうち、炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖のアルキル基がより好ましく、メチル基とブチル基が特に好ましい。
【0028】
式(3)において、Sn(R63及び−Sn(R73は、下記式(3a)、(3b)のように、番号を付した場合、2位及び7位に置換している(2,7置換)か、又は3位及び6位に置換している(3,6置換)のが、共役ポリマーを得るうえで好ましい。ただし、この番号は、カルバゾールの場合であり、ジベンゾチオフェンの場合これらの置換位置は、それぞれ3,7置換、2,8置換に相当する。
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、R6、R7及びZ1は前記と同じ)
また、−Sn(R63及び−Sn(R73としては、トリメチルスズ基、トリブチルスズ基が好ましく、特にトリメチルスズ基が好ましい。
【0031】
式(3)において、ジベンゾチオフェン骨格(Z1=−S−)の場合の例としては、2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、3,7−ビス(トリメチルスズ)−2−アセチルジベンゾチオフェン、3−ニトロ−2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン5−オキシド、2−アセチルアミノ−3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、3−アセチルアミノ−2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、3−メチル−2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、4−メチル−2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、4−メチル−3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、4,6−ジメチル−2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、2,8−ジフルオロ−3,7−ビス(トリメチルスズ)ベンゾチオフェン、2,8−ジクロロ−3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、2,8−ジフルオロ−3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、2,8−ジブロモ−3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、3,7−ジメチル−2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、1,7−ジメチル−2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、3,4−ジメチル−2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン等が挙げられ、製造容易性の点で、2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、3,7−ジメチル−2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェンが好ましく、2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン、3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェンがより好ましい。
【0032】
式(3)において、カルバゾール骨格(Z1=−N(R5)−)の場合の例としては、2,7−ビス(トリメチルスズ)−9−ニトロソ−9H−カルバゾール、2,7−ビス(トリメチルスズ)−9H−カルバゾール−9−酢酸、2,7−ビス(トリメチルスズ)−N−ビニルカルバゾール、2,7−ビス(トリメチルスズ)−9−エチル−9H−カルバゾール−1−アミン、2,7−ビス(トリメチルスズ)−N−エチルカルバゾール、3,6−ビス(トリメチルスズ)−9H−カルバゾール、2,7−ビス(トリメチルスズ)−9−エチル−9H−カルバゾール−3−アミン、2,7−ビス(トリメチルスズ)−3−メチル−9H−カルバゾール、3,6−ビス(トリメチルスズ)−2−メチル−9H−カルバゾール、3,6−ビス(トリメチルスズ)−1−メチル−9H−カルバゾール、3,7−ビス(トリメチルスズ)−4−メチル−9H−カルバゾール、3,6−ビス(トリメチルスズ)−9−(2−クロロエチル)−9H−カルバゾール、3,6−ビス(トリメチルスズ)−9H−カルバゾール−2,7−ジアミン、2,7−ビス(トリメチルスズ)−3,6−ジブロモ−9H−カルバゾール、3,6−ビス(トリメチルスズ)−9H−カルバゾール−2−アミン、3,6−ビス(トリメチルスズ)−9−アセチル−9H−カルバゾール、2,7−ビス(トリメチルスズ)−3−メトキシ−9H−カルバゾール等が挙げられ、製造容易性の点で、2,7−ビス(トリメチルスズ)−9−ヘキシルカルバゾールが好ましく、2,7−ビス(トリメチルスズ)−9−ヘキシルカルバゾールがより好ましい。
【0033】
式(3)中、Z1が−N(R5)−の場合の特に好ましい化合物は、下記式(3c)及び(3d)で表される化合物である。
【0034】
【化5】

【0035】
(式中、R5は水素原子、アルキル基又はアルケニル基を示す)
【0036】
式(3)の化合物は、例えば次の反応式に示すように、ジハロゲノ三環性化合物(4)をトリアルキルスズ化することにより製造することができる。
【0037】
【化6】

【0038】
(式中、X3及びX4はそれぞれハロゲン原子を示し、Z1、R1、R2、R6及びR7は前記と同じ)
【0039】
化合物(4)は、芳香族化合物にハロゲン原子を反応させることにより、製造することができる。この反応は、例えばクロロホルム、塩化メチレン、酢酸等の溶媒中、0℃〜80℃の温度で行うことができる。
また、芳香族化合物にN−ブロモコハク酸イミド、N−クロロコハク酸イミド等のハロゲン化剤を反応させることによっても、化合物(4)を得ることができる。
更に、後述の実施例のように、ハロゲン化ビフェニル化合物を原料として、芳香族化合物を合成することもできる。
【0040】
式(3)の化合物は、三環性骨格に2つのトリアルキルスズ基を有することから、これにジハロゲン化物を反応させればスティルカップリングにより共役ポリマーを製造することができる。すなわち、式(3)の化合物と式(2)で表される化合物とを、遷移金属触媒の存在下に反応させれば式(1)で表される繰り返し単位を有する共役ポリマーを製造することができる。
【0041】
【化7】

【0042】
(式中、Z1〜Z3、R1〜R7、X1及びX2は前記と同じ)
【0043】
スティルカップリング反応に用いる遷移金属触媒としては、パラジウム又はパラジウム化合物、ニッケル又はニッケル化合物、コバルト又はコバルト化合物、鉄又は鉄化合物が挙げられるが、パラジウム化合物としては、酸化パラジウム、硫化パラジウム、セレン化パラジウム、二硫化パラジウム、四塩化パラジウム、水酸化パラジウム(II)、二塩化パラジウム、二テルル化パラジウム等が挙げられる。
【0044】
ニッケル化合物としては、塩化ニッケル、臭化ニッケル、シアン化ニッケル、ヨウ化ニッケル、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、二フッ化ニッケル、硫化ニッケル、ケイ化二ニッケル、ほう化ニッケル、ヒ化ニッケル、ブレイソープタイト、水素化ニッケル等が挙げられる。
【0045】
コバルト化合物としては、臭化第一コバルト、ジクロロコバルト(II)、コバルトヨージド、フッ化コバルト、コバルト(II)ジヒドロスルフィド、酒石酸コバルト(II)、シコポライト、ケイ化二コバルト、セレン化コバルト、リン化コバルト、水酸化コバルト、塩化コバルト(III)、コバルト(II)、コバルト(II)ジエトキシド、コハク酸コバルト(II)等が挙げられる。
【0046】
鉄化合物としては、シュウ酸鉄(II)、二ギ酸鉄(II)、塩化第二鉄、塩化鉄(II)、二臭化鉄、フッ化第二鉄、一酸化鉄、一硫化鉄、二酢酸鉄(II)、コハク酸鉄(II)、二ヨウ化鉄、二フッ化鉄、水酸化鉄、セレン化鉄(II)、リン化鉄、ゲータイト、ホウ化鉄等が挙げられる。
【0047】
スティルカップリング反応に用いる反応溶媒としては、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、THF等のエーテル系溶媒等が用いられる。反応温度は、0〜200℃、特に50〜150℃が好ましい。
【0048】
得られる高分子化合物(1)は、共役ポリマーであり、その重量平均分子量(Mw)は、1,000〜500,000、特に5,000〜300,000が好ましい。高分子化合物(1)は共役ポリマーであり、側鎖の置換基を変化させることにより、種々の色にすることができることから、有機ELなどの発光材料として、また電子デバイスなどにも応用可能である。
【実施例】
【0049】
以下実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0050】
実施例1
2,8−ジブロモジベンゾチオフェンの合成
ジベンゾチオフェン(5g,27.1mmol)のクロロホルム(50mL)溶液に、室温で14.1g(88.5mmol)の臭素を加え、24時間室温で攪拌した後、水に注いだ。飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液で赤色が消えるまで洗浄した後、ジクロロメタンで水層から生成物を抽出した。クロロホルム層とジクロロメタン層を合わせて有機相として硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、ジクロロメタン溶媒を除去し得られた固体をクロロホルムとヘキサン混合溶媒を用いて再結晶し、下記反応式(3)で示すように、無色固体状の2,8−ジブロモジベンゾチオフェン(4.3g)を収率46%で得た。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)7.58(dd,J=2.0 and 8.4Hz,2H),7.71(d,J=8.4Hz,2H),8.24(d,J=2.0Hz,2H).
【0051】
【化8】

【0052】
2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェンの合成
前記反応(3)から得られた2,8−ジブロモジベンゾチオフェン(1.00g、2.92mol)のTHF(20ml)溶液に、−80℃でn−BuLi(3.72mL,6.13mmol)(1.65Mヘキサン溶液)をシリンジで加えた後、−80℃で20分間、0℃で10分間攪拌した。再び−80℃まで温度を下げトリメチルスズクロリド(1.34g、6.72mmol)を加えた。室温で4時間攪拌した後、水を加えて、ジエチルエーテルで抽出する。抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去した。混合物をトリメチルアミンで処理したシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)により、下記反応式(4)で示すように、精製した無色固体状の2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン(0.72g)を収率48%で得た。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)0.39(s、−SnMe3,18H),7.55(d,J=8.0Hz,Ph−H,2H),7.84(d,J=8.0Hz,Ph−H,2H),8.29(s、Ph−H,2H).
【0053】
【化9】

【0054】
実施例2
ジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシドの合成
ジベンゾチオフェン(5g,27.1mmol)の酢酸(70mL)溶液に過酸化水素(12.2mL,33%水溶液)を室温で加えた後、4時間還流する。その後、温度を下げ、水に注ぎ、固体をろ過した後、水とメタノールで洗浄し、下記反応式(5)で示すように、無色固体状のジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド(4.8g)を収率82%で得た。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)7.54(td、J=0.8 and 7.6Hz、2H)、7.65(td J=1.2 and 7.6Hz、2H)、7.8(dd、J=1.2 and 7.6Hz、2H)、7.83(dd、J=0.8 and 7.6Hz、2H)
【0055】
【化10】

【0056】
3,7−ジブロモジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシドの合成
前記反応(5)から得られたジベンゾチオフェンジオキシド(1g,4.62mmol)の硫酸(30mL)溶液にNBS(1.64g、9.24mmol)を室温で加えた。24時間室温で攪拌した後、氷水にゆっくり注ぎ、固体をろ過し水とメタノールで洗浄する。クロロベンゼンで再結晶し、下記反応式(6)で示すように、3,7−ジブロモジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド(0.81g)を収率47%で得た。
1H NMR(DMSO−d6):δ(ppm)8.05(dd、J=2.0 and 8.4 Hz、2H),8.19(d、J=8.4Hz、2H)、8.39(d、J=2.0Hz、2H).
【0057】
【化11】

【0058】
3,7−ジブロモジベンゾチオフェンの合成
前記反応(6)から得られた3,7−ジブロモジベンゾチオフェンジオキシド(0.50g,1.34mmol)のジエチルエーテル(20mL)溶液にLiAlH4(0.20g,5.27mmol)をゆっくり加えた。30分間還流した後、温度を下げゆっくり水を加えた後、濃塩酸(3mL)を加えた。有機溶媒を留去した後、析出した固体をろ過し水とメタノールで洗浄し、下記反応式(7)で示すように、無色固体状の3,7−ジブロモジベンゾチオフェン(0.26g)を収率57%で得た。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)7.58(dd、J=2.0and8.4Hz、2H)、7.96(d、J=8.4Hz、2H)、7.98(d,J=2.0Hz,2H).
【0059】
【化12】

【0060】
3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェンの合成
2,8−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェンと同じ方法で、前記反応(7)から得られた3,7−ジブロモベンゾ不チオフェンを用いて合成し、下記反応式(8)で示すように、無色固体状の3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン(0.78g)収率52%で得た。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)0.36(s、−SnMe3,18H),7.54(d,J=7.6Hz,Ph−H,2H),7.98(s、Ph−H,2H)、8.13(d,J=7.6Hz,Ph−H,2H).
【0061】
【化13】

【0062】
実施例3
4,4−ジブロモ−2−ニトロビフェニルの合成
4,4−ジブロモビフェニル(10.0g,32.1mmol)の酢酸溶液(150mL)に硝酸(46mL)を加え後、100℃で6時間攪拌した。室温まで温度を下げ析出した黄色固体をろ過し水とエタノールで洗浄した後、下記反応式(9)で示すように、黄色固体状の4,4−ジブロモ−2−ニトロビフェニル(7.2g)を収率63%で得た。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)7.16(d,J=8.6,Ph−H,2H),7.29(d,J=8.4Hz,Ph−H,1H),7.56(d,J=8.6,Ph−H,2H),7.76(dd,J=2.0 and 8.2Hz,Ph−H,1H),8.04(d,J=2.0,Ph−H,1H).
【0063】
【化14】

【0064】
2,7−ジブロモ−9H−カルバゾールの合成
上記反応(9)から得られた4,4−ジブロモ−2−ニトロビフェニル(3.50g,9.80mmol)とPPh3(6.43g,24.5mmol)のo−ジクロロベンゼン(20mL)溶液を7時間攪拌した後、室温まで温度を下げ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム=1:2)により精製し、下記反応式(10)で示すように、薄い茶色固体状の2,7−ジブロモ−9H−カルバゾール(1.95g)を収率61%で得た。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)7.36(dd,J=1.6 and 8.4Hz,Ph−H,18H),7.57(d,J=1.6Hz,Ph−H,2H),7.87(d,J=8.4,Ph−H,2H),8.03(s,N−H,1H).
【0065】
【化15】

【0066】
2,7−ジブロモ−9−ヘキシルカルバゾールの合成
上記反応(10)から得られた2,7−ジブロモ−9H−カルバゾール(2.00g,6.15mmol)のDMF(60mL)溶液にNaH(0.19g,8.00mmol)を室温で加えた後、30分間室温で攪拌した。その後、ブロモヘキサン(1.22g,7.38mmol)を加えた後、室温で20時間攪拌した。反応終了後、水に溶液を注いだ後、ジエチルエーテルで抽出した。抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去した。混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)により精製し、下記反応式(11)で示すように、薄い黄色固体状の2,7−ジブロモ−9−ヘキシルカルバゾール(2.1g)を収率83%で得た。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)0.88(t,J=7.0Hz,−CH3,3H),1.27−1.37(m,−CH2−,6H),1.79−1.86(m,−CH2−,2H),4.17(t,J=7.4,NCH2−,2H),7.331(dd,J=1.6 and 8.4Hz,Ph−H,2H),7.52(d,J=1.6Hz,Ph−H,2H),7.88(d,J=8.4Hz,Ph−H,2H).
【0067】
【化16】

【0068】
2,7−ビス(トリメチルスズ)−9−ヘキシルカルバゾールの合成
上記反応(11)から得られた2,7−ジブロモ−9−ヘキシルカルバゾール(1.00g,2.44mmol)のTHF(30mL)溶液に−80℃でn−BuLi(3.11mL,5.13mmol)(1.65Mヘキサン溶液)をシリンジで加えた後、−80℃で20分間、0℃で10分間攪拌した。再び−80℃まで温度を下げトリメチルスズクロリド(1.12g,5.61mmol)を加えた。室温で3時間攪拌した後、水を加えジエチルエーテルで抽出する。抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を流去した。混合物をトリメチルアミンで処理したシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)により精製し無色オイル状の生成物を得た。それをメタノールに加えて固化させることで、下記反応式(12)で示すように、無色固体状の2,7−ビス(トリメチルスズ)−9−ヘキシルカルバゾール(0.75g)を収率53%で得た。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)0.37(s,−SnMe3,18H),0.88(t,J=7.2Hz,−CH3,3H),1.27−1.42(m,−CH2−,6H),1.86−1.93(m,−CH2−,2H),4.33(t,J=7.2Hz,NCH2−,2H),7.32(d,J=7.6Hz,Ph−H,2H),7.51(s,Ph−H,2H),8.07(d,J=7.6Hz,Ph−H,2H).
【0069】
【化17】

【0070】
実施例4
高分子化合物P1の合成
上記反応(8)から得られた3,7−ビス(トリメチルスズ)ジベンゾチオフェン(0.25g,0.50mmol)と5,5’−ジブロモ−2,2’−ビチオフェン−4,4’−ジカルボン酸ジドデシル(0.37g、0.50mmol)のトルエン(40mL)/DMF(8mL)溶液にPd(PPh34(46mg、0.040mmol)を加え115℃で48時間攪拌した。その後、温度を下げメタノールで再沈殿し、ろ過により回収する事で、下記反応式(13)で示すように、黄色固体状の高分子化合物P1(0.38g)を収率88%で得た。(Mw12400,PDI3.9)。図4に高分子化合物P1の1H−NMRの測定結果を示し、図5に高分子化合物P1のUV−visと、蛍光スペクトルの測定結果を示し、図6に高分子化合物P1のFTIRスペクトルの測定結果を示す。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)0.87(t,−CH3,J=6.6Hz,6H),1.11−1.26(m、−CH2−,40H)、4.18(t、−OCH2−,J=6.6Hz、4H),7.65−768(m,Th−H and Ph−H,4H),8.00−8.05(m,Ph−H,2H),8.18−8.22(m、Ph−H,2H).
【0071】
【化18】

【0072】
実施例5
高分子化合物P2の合成
上記反応(12)から得られた2,7−ビス(トリメチルスズ)−9−ヘキシルカルバゾール (0.25g,0.50mmol)と5,5’−ジブロモ−2,2’−ビチオフェン−4,4’−ジカルボン酸ジドデシル(0.37g,0.50mmol)のトルエン(40mL)/DMF(8mL)溶液にPd(PPh34(46mg,0.040mmol)を加え115℃で48時間攪拌した。その後、温度を下げメタノールで再沈殿し、ろ過により回収する事で、下記反応式(14)で示すように、黄色固体状の高分子化合物P2(0.38g)を収率91%で得た。(Mw8800、PDI1.9)。図7に高分子化合物P2のH−NMRの測定結果を示し、図8に高分子化合物P2のUV−visと、蛍光スペクトルの測定結果を示し、図9に高分子化合物P2のFTIRスペクトルの測定結果を示す。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)0.87(s,−Me3,9H),1.11−1.95(m、−CH2−,48H)、4.17(s,−OCH2−,4H),4.34(s、−NCH2−,2H),7.44(s、Ph−H,2H),7.61(s,Th−H,2H),7.61(s,Th−H,2H),7.68(s、Ph−H,2H)、8.81(s、Ph−H,2H).
【0073】
【化19】

【0074】
以上の結果は、高分子化合物P1と高分子化合物P2の光吸収波長(UV−vis)及び、励起されたポリマーから出る蛍光の測定結果である。実施例4、実施例5で得られた高分子化合物P1と高分子化合物P2から、479nm〜480nmで最大ピークが観測することができた。このことから、緑色の発光を出すことが確認された。蛍光測定結果から、例えば、高分子化合物P1と高分子化合物P2を有機ELの発光材料や、その他の発光材料として用いる事も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物。
【化1】

(式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ハロゲノアルキル基、アルカノイル基、アルカノイルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミノアルキル基、ニトロソ基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、ホルミル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基又はフェニル基を示し、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルカノイル基、アルカノイルアミノ基、ニトロ基、シアノ基又はアミノ基を示し、Z1、Z2及びZ3はそれぞれ独立に−N(R5)−、−S−又は−O−を示し、R5は水素原子、アルキル基又はアルケニル基を示す。)
【請求項2】
次式(2)で表される化合物と次式(3)で表される化合物とを、遷移金属触媒の存在下に反応させることを特徴とする請求項1記載の高分子化合物の製造方法。
【化2】

(式(2)および式(3)において、X1及びX2はそれぞれハロゲン原子を示し、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し、Z1、Z2、Z3、R1、R2、R3、R4及びR5は前記と同じ。)
【請求項3】
遷移金属触媒が、パラジウム、パラジウム化合物、ニッケル、ニッケル化合物、コバルト、コバルト化合物、鉄又は鉄化合物である請求項2記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項4】
下記式(3)で表される化合物。
【化3】

(式(3)において、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ハロゲノアルキル基、アルカノイル基、アルカノイルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミノアルキル基、ニトロソ基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、ホルミル基、アルコキシ基又はアルコキシカルボニル基を示し、Z1は−N(R5)−、−S−又は−O−を示す。)
【請求項5】
1が−S−又は−N(R5)−である請求項4記載の化合物。
【請求項6】
下記式(3c)又は(3d)で表される化合物。
【化4】

(式中、R5は水素原子、アルキル基又はアルケニル基を示す)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−111478(P2011−111478A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266895(P2009−266895)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】