説明

共有HLA−B*0702エピトープの同定、最適化および免疫療法のための使用

本発明は、腫瘍抗原の共有エピトープを表すペプチドに基づいて、HLA-B*0702表現型を有する患者を効率的に治療する新規な方法および材料を提供する。特に、本発明は、1つの単独の多重遺伝子ファミリーからのいくつかの抗原に対する細胞傷害性応答を誘発できるHLA-B*0702拘束性ペプチドを同定するための方法と、いくつかのそのようなエピトープとに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド免疫療法の分野に関する。特に、本発明は、腫瘍抗原の共有エピトープを表すペプチドに基づいて、HLA-B*0702表現型を有する患者を効率的に治療する新規な方法および材料を提供する。
【背景技術】
【0002】
ペプチド免疫化または免疫療法は、がんの予防または治療の状況において現在、大きな興味対象である治療的アプローチである。この原理は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)により認識される腫瘍抗原のTエピトープを再生するペプチドを用いて免疫化することに基づき、CTLは、これらの抗原をその表面で発現するがん細胞の排除において主要な役割を演じる。
【0003】
CTLはタンパク質抗原全体を認識しないが、種々の細胞の表面で発現される主要組織適合複合体(MHC)分子により提示されるそのペプチドフラグメントを認識することが思い起こされる。これらのペプチドフラグメントは、Tエピトープを構成する。主要組織適合複合体クラスI(MHC I)により提示されるペプチドは、通常、8〜11アミノ酸を有し、細胞傷害性応答の主要な成分であるCD8+ T細胞により認識される。抗原プロセシング中に、ペプチド選択が生じ、これはペプチド提示の階層性をもたらす。MHC I分子により優先的に提示されるペプチドは、免疫優性とよばれ、弱く提示されるペプチドは、潜在性とよばれる。免疫優性ペプチドは、MHC Iについて高い親和性を示し、免疫原性であるが、潜在性ペプチドは、MHC Iについて低い親和性を示し、非免疫原性である。
【0004】
腫瘍特異的エピトープ、特に(細胞傷害性におけるCD8+応答の必須の役割に鑑みて)より頻度が高いMHC Iアレルにより提示されるものを同定することは、抗腫瘍免疫療法組成物の開発のための必須のステップを構築する。多くの腫瘍抗原が、現在のところ既知である。これらの抗原のTエピトープのいくつかが同定され、これらのTエピトープを再生するペプチドに基づくワクチンの有効性が、多くの場合において示されている(Menez-JametおよびKosmatopoulos、2009)。
【0005】
しかし、腫瘍抗原の大多数の発現は、腫瘍のある組織学的な型に拘束され、これがそれらの臨床的な使用を制限している。広く発現される「ユニバーサル」腫瘍抗原の探索が、発癌性の表現型の維持のために必須な機能を有する抗原の同定とともに激化しており、患者の大多数により発現されるエピトープを同定するための努力がなされている。
【0006】
ペプチド免疫療法の別の考慮すべき制限は、ある患者における腫瘍バリアント(エスケープバリアント)の出現に起因し、これらは、細胞傷害性Tリンパ球により認識される抗原をもはや発現しない。
いくつかの腫瘍抗原は、多重遺伝子ファミリーに属する。同じファミリー内では、配列相同性が存在し、これは、同じファミリーの2つ以上のメンバーに共通の共有エピトープの存在をもたらし得る。
【0007】
一般的に、抗原の同じファミリーの種々のメンバーは、種々の腫瘍の型において発現される。これらの抗原が共有するエピトープの使用は、広いスペクトルの活性を有する抗腫瘍ワクチンを得ることを可能にする可能性がある。
さらに、多くの場合、同じファミリーのいくつかの抗原は、同じ腫瘍系統において同時発現される。全てのこれらの抗原の発現の喪失の可能性は非常に低いので、これらの抗原が共有するエピトープの使用は、エスケープバリアントの出現を回避し得る。
【0008】
多重遺伝子ファミリーに属することが知られている腫瘍抗原のうち、特に、MAGE-A、HER、BAGEまたはGAGEファミリーの抗原を特に挙げることができる。
MAGE-Aは、X染色体のq28領域にある12の相同遺伝子(MAGE-A1〜A12)からなる多重遺伝子ファミリーである(De Plaenら、1994)。このファミリーのメンバーのうち、MAGE-A1、-A2、-A3、-A4、-A6、-A10および-A12は、腫瘍により強く発現されるが、正常組織によってはそうでない(精巣および胎盤を除く)。
【0009】
MAGE-A1、-A2、-A3、-A4、-A6、-A10および-A12抗原は、非常に多様な組織学的起源の広いスペクトルの腫瘍、例えばメラノーマ、肺がん、乳がん、頭頚部腫瘍および肉腫、骨髄腫などに存在する。
MAGEに基づくがんワクチン、例えばMAGE-A3抗原特異的がん免疫治療薬(Antigen Specific Cancer Immunotherapeutic;ASCI) (GlaxoSmithKline)は、現在、開発の後期段階であり、見込みのある結果が得られている。例えば、GSKが所有するアジュバントシステムと組み合わせた組換えタンパク質として患者の免疫系に提示される腫瘍抗原に基づくこのワクチンは、メラノーマおよび非小細胞肺がんにおける2つの臨床試験を成功して終了している。
【0010】
各MAGE-A抗原の発現は、腫瘍ごとに変動するが、全体として、非常に大多数の腫瘍が、少なくとも1つのMAGE-A抗原を発現する。
共有Tエピトープを用いることの潜在的な利点にもかかわらず、このアプローチは、抗原ごとに完全に同一である適当なサイズ(MHC Iにより提示されるペプチドについて少なくとも8アミノ酸)の領域がまれであることから、ほとんど用いられていない。
【0011】
本発明者らは、HLAクラスI分子により提示され、同じ多重遺伝子ファミリーのいくつかの抗原が共有するペプチドエピトープを同定するための方法について、以前に記載している。この方法は、以下のステップを特徴とする(EP1485719):
a)N末端に3アミノ酸が先行し、所望によりC末端に1もしくは2つのアミノ酸が続く少なくとも1つの共通ペンタペプチド配列を含む、各抗原上にある8〜10アミノ酸の配列を同定するために上記の抗原の配列を整列させるステップ(実際に、著者らは、ペプチドのP4位〜P8位にわたる5アミノ酸の配列に制限される同一性が十分であったことを見出した)、
b)同定された配列に相当するペプチドを調製し、問題のHLAクラスI分子についての各ペプチドの結合親和性と、それらの免疫原性とを、ヒトCMH-Iトランスジェニックマウスを用いて決定するステップ、
c)選択されたペプチドが潜在性であり、よって、非免疫原性である場合は、この方法は、その免疫原性を増加させるステップをさらに含む。
【0012】
この方法を用いて、本発明者らは、配列YLEYRQVPV(配列番号1)により規定され、MAGE-AファミリーのMAGE-A1、-2、-3、-4、-6、-10および-12抗原に共通するHLA-A*0201により提示され、これら全てのMAGE-A抗原を認識するCTLを誘導でき、このMAGE-Aファミリーの少なくとも1つの抗原を発現する腫瘍細胞を溶解できる免疫原性ペプチドについて記載した。
【0013】
免疫優性ペプチドは、前臨床および臨床研究において腫瘍ワクチンの標的として広く用いられているが、結果は期待に反するものである(Grossら、2004)。実際に、腫瘍抗原は、頻繁に、腫瘍により過剰発現され、正常細胞および組織によってより低いレベルで発現される自己タンパク質である。免疫系は、自己寛容プロセスのために、これらの自己抗原に対して反応できない。自己寛容は、主に免疫優性ペプチドに関するので、これらのペプチドが腫瘍免疫を誘導できないことが説明される。
【0014】
潜在性ペプチドは、自己寛容プロセスへの関与がより少なく(Grossら、2004)、よって、効果的な腫瘍免疫を誘導でき、それらの免疫原性の増進を提供する。
それらの低いMHC I親和性を原因として非免疫原性である潜在性ペプチドの免疫原性を増進するための通常のストラテジーは、MHC I分子についてのそれらの親和性を、アミノ酸置換により増加させることである。MHC I分子についてのペプチド親和性は、「1次アンカー残基」とよばれる明確な位置(1次アンカー位置)での残基の存在に主に依存する。これらの残基は、MHC Iアレル特異的である。1次アンカー残基の存在は、頻繁に必要ではあるが、高いMHC I親和性を確実にするために十分ではない。1次アンカー位置の外側にある残基(2次アンカー残基)が、MHC Iについてのペプチドの親和性に好ましいかまたは好ましくない影響を示し得ることが示されている。これらの2次アンカー残基の存在により、1次アンカーモチーフを有するペプチド内に、結合親和性についての大きな変動性があることが説明できる(Ruppertら、1993)。
【0015】
さらに、MHC I分子についての親和性を向上させることを狙いとするアミノ酸置換は、このような最適化ペプチドの抗原性を保存しなければならない。最適化ペプチドに対して生じるCTLは、実際に、腫瘍細胞表面で天然に提示される、対応する天然ペプチドと交差反応しなければならない。
【0016】
本発明者らは、腫瘍抗原における潜在性ペプチドを選択する方法、ならびにそれらを最適化して、HLA-A*0201 ((Tourdotら、2000)、EP1309860)およびHLA-B*0702 (WO2008/010098)の患者についての特異的免疫応答を誘導するための方法について以前に記載した。HLA-A*2402拘束性潜在性エピトープを選択するための方法も、まだ公開されていない特許出願において本発明者らにより最近記載されている。簡単に述べると、この方法は、2位にチロシンを有する8〜12アミノ酸のペプチドであるが、但し、該ペプチドが、1位の正電荷を有するアミノ酸(リジンまたはアルギニン)およびC末端位にロイシンまたはイソロイシンまたはフェニルアラニンを同時に有さないことを条件とするペプチドを抗原中で選択することにある。このような潜在性ペプチドは、次いで、そのN末端残基をアルギニンもしくはリジンで置換し、および/またはそのC末端残基をロイシン(もしくはイソロイシンもしくはフェニルアラニン)で置換することにより最適化できる。
【0017】
HLA-B*0702は、頻繁に発現される分子である(集団の25%)。HLA-B*0702拘束性腫瘍ペプチドの同定および最適化は、よって、HLA-B*0702を発現する患者についての効果的ながんワクチンを開発するために必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
HLA-B*0702を発現する患者についての広いスペクトルの腫瘍ワクチンを同定するために、本発明者らは、MAGE-A抗原の配列を整列させ、アンカー位置2および3(それぞれプロリンと、アルギニンまたはヒスチジンまたはメチオニンまたはリジン)を有するペプチドと、該ペプチドのP4位〜P8位にわたる領域における同一配列とについて探索した。保存されたMAGE-A領域では、対応する配列は見出されなかった。
【0019】
次いで、抗原性領域(9マー中のP4位〜P8位、および10マー中のP4位〜P9位)中に1つだけ改変を有する配列を選択し、非免疫原性エピトープを、WO2008/010098に記載されるようにして最適化した。驚くべきことに、本発明者らは、その抗原性を増加させるように改変した潜在性HLA-B*0702エピトープに相当するペプチドが、天然ペプチドに対してだけでなく、その他のMAGE-A抗原上に存在する相同エピトープに対しても細胞傷害性応答を惹起できることを証明した。
【課題を解決するための手段】
【0020】
よって、本発明の第1の態様は、1つの単独の多重遺伝子ファミリーからの少なくとも2つの抗原に対する細胞傷害性応答を誘発できるHLA-B*0702拘束性ペプチドを同定するための方法であって、少なくとも以下の:
(i) 上記の多重遺伝子ファミリーの遺伝子中で、2位にPと3位にR、K、HおよびMからなる群より選択されるアミノ酸とを有する9または10アミノ酸のペプチドを同定するステップと、
(ii) (i)で得られた配列を整列させるステップと、
(iii) ステップ(i)で得られたペプチドの中から、少なくとも2ペプチドの群を同定するステップであって、少なくとも1つのペプチドが、上記の群のその他のペプチドのものとはその抗原性領域が最大で1残基異なるものであり、上記の抗原性領域が、9アミノ酸を有するペプチド中の4位〜8位にわたり、10アミノ酸を有するペプチドの4位〜9位にわたる、該ステップと
を含む、上記方法である。
【0021】
ステップ(iii)で同定される群のその他のペプチドのものとはその抗原性領域が最大で1残基異なるペプチドは、本明細書において、以下、「必須共有ペプチド」という。このようなペプチドは、上記の多重遺伝子ファミリーからの少なくとも2つの抗原に対する細胞傷害性応答を誘発する。
【0022】
上記の方法の好ましい実施形態によると、方法は、上記の多重遺伝子ファミリーからの少なくとも3、4、5、6、7またはそれより多くの抗原に対する細胞傷害性応答を誘発できるHLA-B*0702拘束性ペプチドの同定を可能にする。これは、ステップ(iii)で選択されたペプチドの群が、それぞれ上記の多重遺伝子ファミリーの少なくとも3、4、5、6、7またはそれより多い遺伝子からのペプチドを含む場合である。
【0023】
上記の方法の特定の実施形態において、ステップ(iii)で選択されたペプチドの群は、異なる抗原性領域を有する少なくとも2つのペプチドを含む。この場合、以下の実施例に示すように、これらのペプチドの少なくとも2つは、それらの抗原性領域において1つであって1つだけの違いを示す。
【0024】
好ましい実施形態において、方法は、選択された必須共有ペプチドの免疫原性を測定するステップ(iv)をさらに含む。このステップは、適当なモデル、すなわちHLA-B*0702を発現する個体におけるペプチドの免疫原性を予測するモデルにおいてインビボで好ましく行われる。このような適当なモデルの例は、実施例部分に記載され、HLA-B*0702トランスジェニックマウスからなる。このモデルにおいて、選択されたペプチドの免疫原性は、マウスにワクチン接種し、特異的CTLが作製されたかについて、HLA-B*0702を発現し、かつペプチドが装填されたヒト細胞を標的細胞として用いることにより試験することにより測定される。以下において、ワクチン接種されたマウスが、試験されたペプチドに対する特異的免疫応答を発生しない場合は、ペプチドは非免疫原性エピトープとみなす。全てではないがいくらかのマウスが、試験されたペプチドに対する特異的免疫応答を生じるならば、ペプチドは免疫原性であるとみなすが、その免疫原性をさらに改良することが有利であり得る。
【0025】
選択された必須共有ペプチドが非免疫原性であるか、またはその免疫原性が増進されなければならない場合、上記の方法は、その免疫原性を、WO2008/010098に記載される方法により増強させるステップをさらに含む。特に、選択された必須共有ペプチドが非免疫原性であり、そのN末端にP以外の任意のアミノ酸を有するならば(特に、該潜在性エピトープの最初の3残基がAPRまたはAPKまたはAPHまたはAPMであるならば)、ステップ(v)は、上記のエピトープのC末端残基をロイシンで置換することからなる。選択された必須共有ペプチドが非免疫原性であり、そのC末端にL、A、I、V、M、CまたはT(特にL、A、I、VまたはM)から選択されるアミノ酸を有する場合、ステップ(v)は、上記のエピトープのN末端残基をアラニンで置換することにより行うことができる。もちろん、この方法において、「置換する」との用語は、ペプチドを得るために用いる技法にかかわらず、その配列が、言及される置換による上記のHLA-B*0702拘束性潜在性エピトープの配列に由来するペプチドを得ることとして理解される。例えば、ペプチドは、人工的ペプチド合成または組換え発現により生成できる。
【0026】
本発明による方法は、いずれの既知の多重遺伝子ファミリー、例えばMAGE-A、HER、BAGEまたはGAGEファミリーの複数のメンバーに対する免疫原性応答を誘発できるエピトープを同定するために行うことができる。好ましい実施形態において、以下の実施例部分に示すように、上記の多重遺伝子ファミリーは、MAGE-Aファミリーである。
【0027】
本発明の別の態様は、上記の方法により同定された単離されたペプチドであって、該選択されたペプチドが、MPKTGFLII (配列番号2)、MPKTGLLII (配列番号3)、FPKTGLLII(配列番号4)、VPKTGLLII (配列番号5)、MPKAGLLII (配列番号6)、MPKTGILIL (配列番号7)、MPKTGFLIIV (配列番号8)、MPKTGFLIII (配列番号9)、MPKTGLLIIV (配列番号10)、FPKTGLLIIV(配列番号11)、VPKTGLLIIV (配列番号12)、MPKAGLLIIV (配列番号13)、MPKTGILILI (配列番号14)、GPRALAETS (配列番号15)、GPRALIETS(配列番号16)、GPRALVETS (配列番号17)、GPRALAETSY (配列番号18)、GPRALIETSY (配列番号19)、GPRALVETSY (配列番号20)、EPRKLLTQD(配列番号21)、HPRKLLTQD(配列番号22)、DPKKLLTQH (配列番号23)、DPKKLLTQY (配列番号24)、HPKKLLMQD (配列番号25)、EPRKLLTQDL (配列番号26)、EPRKLLTQDW(配列番号27)、HPRKLLTQDL (配列番号28)、HPKKLLMQDL (配列番号29)、DPKKLLTQHF (配列番号30)、DPKKLLTQYF (配列番号31)からなる群より選択されるペプチドである。
【0028】
もちろん、本文において、「単離されたペプチド」との用語は、狭く解釈されない。反対に、この用語は、アミノ酸残基(LまたはD立体配置にある)がペプチド(-CO-NH-)結合により連結された分子だけでなく、ペプチド結合が改変されて、特にタンパク質分解に対してより耐性を有するようになった合成偽ペプチドもしくはペプチド模倣物であって、それらの免疫原性がこの改変により損なわれないものも指す。
【0029】
上記のリストのエピトープに由来する免疫原性最適化ペプチドも、本発明の一部である。以下において、「最適化ペプチド」または「最適化免疫原性HLA-B*0702拘束性エピトープ」との表現は、上記のおよびWO2008/010098に記載される方法によりHLA-B*0702拘束性エピトープ(その「同族天然ペプチド」とよばれる)から導かれる免疫原性ペプチドを指す。本発明による最適化ペプチドは、以下の表1に開示される配列番号32〜67のペプチドである。
【0030】
【表1】

【0031】
多重特異性腫瘍ワクチン接種は、単独特異性ワクチン接種よりも腫瘍細胞をより広く制御することを可能にし、そのことにより、免疫エスケープバリアントの出現の危険性を低減する。多くの場合、免疫療法は、よって、いくつかのエピトープを標的にする方が、1つだけのエピトープを標的にする場合よりも効果的である(但し、腫瘍が全ての標的にされる抗原を発現することがわかっていることを条件とする)。本発明者らは、3つの異なるユニバーサル腫瘍抗原に由来するHLA-A*0201拘束性最適化潜在性ペプチド(TERT988Y、HER-2/neu402YおよびMAGE-A248V9)からなる、Vx-006と命名されたポリペプチドについて以前に記載した(WO2007/073768)。Vx-006は、HLA-A*0201トランスジェニックHHDマウスにおいてインビボでおよびヒトにおいてインビトロでの両方で、多重特異性CD8細胞応答を誘導できるが、TERT988Yペプチド、HER-2/neu402YペプチドおよびMAGE-A248V9ペプチドの混合物は、3重特異性応答を誘導できなかった。よって、いくつかのエピトープを含むキメラポリペプチドは、1より多いエピトープに対する応答を誘発するために、同じエピトープの単なる混合物よりも効果的であり得る。状況に応じて、1つの単独エピトープの反復を含むキメラポリペプチドも、上記のエピトープからなるペプチドよりも、該エピトープに対するより強い応答を誘発できる。実際に、ポリペプチドの組織化(いくつかの異なるエピトープを有するかまたは1つの単独エピトープの反復を有する)は、標的にされたペプチド特異的免疫応答を最適化できる新しい接合エピトープ、特にCD4拘束性エピトープを生成できる。さらに、遊離のペプチドが皮下注射される場合、ペプチドは、注射部位に存在する全ての細胞のMHC分子と直接結合する。ポリペプチドはプロセシングされることが必要であるので、ポリペプチドを用いるワクチン接種は、抗原性ペプチドが、樹状細胞のような専門の抗原提示細胞(APC)を標的にするようにするためにより効果的である。
【0032】
本発明のさらなる態様は、よって、上記の1、2、3またはそれより多いHLA-B*0702拘束性エピトープを含むキメラポリペプチドである。特に、本発明によるキメラポリペプチドは、上記の1、2、3もしくはそれより多いHLA-B*0702拘束性エピトープ、または配列番号32〜67から選択される1、2、3もしくはそれより多い免疫原性最適化HLA-B*0702拘束性エピトープを含むことができる。もちろん、最適化HLA-B*0702拘束性エピトープは、キメラポリペプチドにおいて、免疫原性エピトープとして同定されている天然のHLA-B*0702拘束性エピトープと組み合わせることもできる。本発明によるキメラポリペプチドにおいて、エピトープは互いに異なることができ、かつ/または同じエピトープが複数回反復できる。
【0033】
同じHLA分子について特異的ないくつかのエピトープを、混合物またはキメラポリペプチドとして一緒に用いる場合、エピトープは、対応するHLA分子との結合について競合することが注目される。反対に、異なるHLA拘束性エピトープ(HLA-A*0201、HLA-A*2402、HLA-B*0702またはその他)の混合物、またはそれらと同じ異なるHLA拘束性エピトープを含むキメラポリペプチドを用いることにより、HLA結合についての競合がなく、全てのHLA分子がワクチン接種された個体において発現することを条件として、多重特異性応答が確実に得られる。
【0034】
本発明によるキメラポリペプチドにおいて、上記のHLA-B*0702拘束性潜在性または免疫原性(天然または最適化)エピトープは、よって、以前に記載されたHLA-A*0201 (WO02/02716)および/もしくはHLA-B*0702ペプチド(WO2008/010010およびWO 2008/010098)、ならびに/または以下の表2に開示されるHLA-A*2402ペプチド、ならびに/またはCEA、PRAME、チロシナーゼ、TRAG-3、NY-Eso-1、P53、Muc-1、PSA/PSMA、サバイビン、Melan-A/MART-1、TRP-1、TRP-2、WT1、EphA1、EphA2、EphA3、EphA4、G250/MN/CAIX、STEAP、アルファフェトプロテイン、RAGE-1、PAGE-1を含む以前に記載された腫瘍関連抗原に由来する免疫原性エピトープと関連させることが有利である。もちろん、少なくとも、本発明によるペプチドと1つの異なるHLA拘束性エピトープ(HLA-A*0201、HLA-A*2402、HLA-B*0702またはその他)を含む多重アレルペプチド混合物も、本発明の一部である。
【0035】
HLA-B*0702拘束性MAGE-Aエピトープと有利に組み合わせることができるエピトープ(混合物またはキメラポリペプチドにおいて)の例、および(天然または最適化)免疫原性HLA-B*0702拘束性MAGE-Aエピトープと有利に組み合わせることができる最適化免疫原性エピトープの例を、以下の表2に記載する。もちろん、これらのリストは、限定的でない。
【0036】
【表2−1】

【0037】
【表2−2】

【0038】
当業者は、このようなポリペプチドを生成するために任意の既知の技術を選択できる。例えば、ポリペプチドは、化学合成により、または遺伝子工学の技術を用いることにより得ることができる(Veldersら、2001)。
【0039】
本発明の別の目的は、潜在性HLA-B*0702拘束性MAGE-Aエピトープ、または免疫原性HLA-B*0702拘束性MAGE-Aエピトープ(天然もしくは最適化のいずれか)、または上記のキメラポリペプチドの発現を引き起こすように設計された単離された核酸分子である。ペプチドの「発現を引き起こすように設計された」により、本明細書において、核酸が適当な細胞に導入された場合に、上記のペプチドがそのまま、その配列が選択された(そして適当な場合には、上記のように最適化された)抗原全体から単離されて発現されることを意味する。エピトープまたはキメラポリペプチドをコードする領域は、典型的には、ポリヌクレオチド中の適切なプロモーターの制御下にある。細菌プロモーターが細菌での発現のために好ましく、これは、インビトロまたは特定の状況においてインビボでポリペプチドを生成できる。本発明によるペプチドまたはポリペプチドをインビボで直接生成するために用いることができる細菌の例は、リステリア・モノシトゲネス(Listeria monocytogenes)であり、これは、能動的食作用により専門の抗原提示細胞に侵入する通性細胞内細菌である(PatersonおよびMaciag、2005)。代わりに、本発明による核酸は、適当なベクターを用いて直接投与できる。この場合、組織特異的、強く構成性または内因性のプロモーターを用いてペプチド発現を制御できる。適切なベクター系は、ネイキッドDNAプラスミド、送達を増進するためのリポソーム組成物、および一過性の発現を引き起こすウイルスベクターを含む。ウイルスベクターの例は、アデノウイルスまたはワクシニアウイルスのベクター、およびヘルペスファミリー、特に非複製性の形態でのベクターである。
【0040】
本発明は、少なくとも、活性物質として、上記のHLA-B*0702拘束性MAGE-A潜在性エピトープ、もしくは上記の免疫原性(最適化もしくは天然)HLA-B*0702拘束性MAGE-Aエピトープ、もしくは本発明によるキメラポリペプチド、またはこれらのいずれかをコードする核酸、および/または該核酸を保持するベクターを含む医薬組成物にも関する。医薬組成物の処方は、現在の基準および技術に従う。ヒト投与を意図する医薬品は、適切な滅菌条件で調製され、ここでは、活性成分を、等張溶液または推奨される治療的使用のために適当なその他の医薬的担体と組み合わせる。適切な製剤および技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences (Maack Publishing Co、Easton PA)の最新版に全般的に記載される。
【0041】
特に、本発明によるHLA-B*0702拘束性MAGE-Aエピトープまたはキメラポリペプチドまたは核酸は、予防的または治癒的な抗がん免疫療法のための組成物の調製のために用いることができる。ペプチドGPRALVETL (配列番号54)およびそれを含むキメラポリペプチドは、この目的のために特に適切である。
【0042】
特定の実施形態において、本発明による医薬組成物は、ワクチンである。この後者の場合において、上記の成分は、免疫応答を強化するアジュバントと組み合わせることができる。伝統的なアジュバントは、油性エマルジョン、例えば不完全フロイントアジュバントまたはMontanide、および接着性表面、例えばミョウバンを含む。特にTLRを介して樹状細胞を動員して活性化する(例えば細菌DNAまたは細菌膜由来タンパク質)か、または細胞傷害性T細胞の惹起を助けるアジュバントが、特に有用である。それ以外の点では免疫応答を高めるかまたはがん細胞のアポトーシスもしくは排除を促進するその他の因子、例えばIL-2もしくはIL-12サイトカインまたはGM-CSFも組成物に含めることができる。
【0043】
本発明の免疫原性組成物の複数回用量および/または異なる組み合わせを、別々または一緒での配給のために包装できる。各組成物または組成物の組、例えば以下に記載する部分品のキットに、免疫応答を惹起するためおよび/またはがんを治療するための組成物または組み合わせの使用に関する書面での使用説明を添付できる。
【0044】
以前の特許出願(WO2006/120038)において、本出願人は、サブドミナント/潜在性エピトープを標的にするT細胞応答の開始および維持を可能にするワクチン接種プロトコルについて記載している。WO2006/120038において報告される結果は、サブドミナント/潜在性エピトープに相当する天然ペプチドの注射と、その後の、その同族最適化ペプチドでのワクチン接種とが、該最適化ペプチドにより開始された免疫応答を維持できることを証明している。
【0045】
本発明によると、HLA-B*0702拘束性MAGE-A潜在性エピトープは、よって、その同族最適化ペプチドにより開始されたCTL免疫応答を維持するための医薬組成物の調製のために用いることができる。HLA-B*0702拘束性MAGE-A潜在性エピトープに由来する最適化免疫原性HLA-B*0702拘束性MAGE-Aエピトープ配列を有する免疫原性ペプチドも、該HLA-B*0702拘束性MAGE-A潜在性エピトープに対するCTL免疫応答を開始するための医薬組成物の調製のために用いることができるが、上記の方法のステップ(iii)で選択された群の全てのエピトープに対するCTL免疫応答を開始するための医薬組成物の調製のためにも用いることができる。もちろん、ステップ(iii)で選択された群からのペプチドの混合物も、必須共有ペプチドにより開始されたCTL免疫応答を維持するために用いることができる。例えば、配列番号15〜17のペプチドの混合物は、配列番号54のペプチドにより開始されたCTL免疫応答を維持するために用いることができる。
【0046】
本発明は、腫瘍抗原またはウイルス抗原に対して患者をワクチン接種する方法であって、上記のステップ(iii)で選択された群の抗原またはエピトープの天然HLA-B*0702拘束性MAGE-A潜在性エピトープと同族の最適化免疫原性ペプチドを用いてワクチン接種する第1ステップと、考慮した群の上記の天然ペプチドまたはペプチドの混合物を用いてワクチン接種するその後の第2ステップとを含む方法も包含する。
【0047】
このような方法において、第1ステップおよび/または第2ステップは、単独エピトープペプチドの代わりに、上記の1、2、3もしくはそれより多い最適化または潜在性ペプチドを含むキメラポリペプチドを用いることにより行うことができる。特に、それらの抗原性領域中に最大で1つのバリアント位置を有するいくつかの潜在性エピトープを含むキメラポリペプチドを用いて、上記の潜在性エピトープの1つと同族の最適化ペプチドにより開始されたCTL免疫応答を維持できる。例えば、配列番号15〜17の配列を含むキメラポリペプチドを、配列番号54のペプチドにより開始されたCTL免疫応答を維持するために用いることができる。MAGE-A抗原の発現指向性により、上記のHLA-B*0702拘束性エピトープが免疫原性であることが証明されるならば、同じ天然免疫原性エピトープを、両方のワクチン接種ステップにおいて用いることができる。特に、天然免疫原性MAGE-Aエピトープを、第1キメラポリペプチドまたは単独エピトープペプチドの混合物において天然潜在性エピトープと、そして第2のキメラポリペプチドまたは単独エピトープペプチドの混合物において最適化エピトープと有利に組み合わせることができる。
【0048】
本発明は、別々の製剤または容器(バイアル、チューブなど)中に:
(i) HLA-B*0702拘束性MAGE-A天然(好ましくは潜在性)エピトープの配列を含む第1ペプチドと、
(ii) (i)に記載される天然エピトープと同族の最適化免疫原性エピトープに相当する配列を含む第2ペプチドと
を含む部分品のキットにも関する。
【0049】
本発明によるキットの部分となり得るペプチドの例は、配列番号2〜31のペプチドであり、これらは、第1ペプチドを構成でき、第2ペプチドは、上記のおよびWO2008/010098に記載される、免疫原性を増加させるための方法により上記の第1ペプチドから導かれる。本発明による好ましいキットは、配列番号54のペプチドと、別の容器中に、配列番号17または15または16のペプチド、優先的には配列番号17のペプチドとを含む。このキットの変形において、キットは、配列番号17と同じ容器または1つもしくは複数の別々の容器中に配列番号16および/または15のペプチドも含む。
【0050】
本発明による部分品のその他のキットは、少なくとも1つのキメラポリペプチドを含む。この実施形態において、キットは、少なくとも、キメラポリペプチドに含まれるエピトープの1つと同族のペプチドも含み、該同族ペプチドは、単離されているか、または別のキメラポリペプチドに含まれている。
【0051】
このようなキットのいくつかの好ましい変形が構想される。第1の実施形態において、キットは、別々の製剤で、1、2、3もしくはそれより多いHLA-B*0702拘束性MAGE-A潜在性エピトープを含む第1キメラポリペプチドと、その同族HLA-B*0702拘束性MAGE-A免疫原性キメラポリペプチドに相当する第2キメラポリペプチド(このことは、これが、第1キメラポリペプチドに含まれる潜在性エピトープと同族の最適化HLA-B*0702拘束性MAGE-A免疫原性エピトープを含むことを意味する)とを含む。第2の実施形態において、キットは、別個のHLA-B*0702拘束性MAGE-A潜在性エピトープに相当する1、2、3またはそれより多いペプチドを含み、該ペプチドは、1つの単一製剤に混合されているか、または別々の製剤に分けられており、別々の製剤において、キメラポリペプチドは、上記の潜在性ペプチドと同族の最適化HLA-B*0702拘束性MAGE-A免疫原性エピトープを含む。
【0052】
上記のように、多重アレル刺激(すなわち、異なるHLA分子に特異的なエピトープを用いる)を行って、多重特異性応答を有利に得ることができる。よって、本発明によるキットの好ましい実施形態は、別々の容器中に:
(i) 少なくとも、上記のHLA-B*0702拘束性MAGE-A天然(好ましくは潜在性)エピトープと、少なくとも1つの異なるHLA拘束性天然(好ましくは潜在性)エピトープ(MAGE-Aファミリーの抗原からまたは別の抗原から)とを含む多重アレルペプチド混合物または多重アレルキメラポリペプチドと、
(ii) 少なくとも、(i)に記載されるHLA-B*0702拘束性MAGE-A天然エピトープと同族のHLA-B*0702拘束性MAGE-A免疫原性エピトープと、少なくとも、(i)に記載されるその他の天然エピトープと同族の別の免疫原性エピトープとを含む多重アレルペプチド混合物または多重アレルキメラポリペプチドと
を含む。
あるいは、本発明によるキットは、ペプチドまたはキメラポリペプチドの少なくとも部分の代わりに、上記のペプチドまたはキメラポリペプチドをコードする核酸を含むことができる。この場合、核酸は上記のとおりである。
【0053】
本発明によるいくつかの具体的なキットの以下の記載において、そこに含まれるペプチド(天然または最適化)のみに言及する。キメラポリペプチド(天然潜在性エピトープまたは最適化エピトープを含む)を、単独エピトープペプチドの代わりにキットに含めることができ、上記のペプチドまたはキメラポリペプチドの少なくとも部分に加えてまたはその代わりに核酸も含めることができることが理解される。
【0054】
本発明の特定の実施形態において、キットは、ワクチン接種キットであり、上記の第1(天然)および第2(同族最適化)ペプチドは、別々のワクチン接種用量(dose)中にある。好ましい実施形態において、ワクチン接種キットは、最適化ペプチドの2または3回の用量と、天然ペプチドの3、4、5または6回の用量とを含む。本発明による特定のワクチン接種キットは、6回の注射の第1連続ワクチン接種に適合され、最適化ペプチドの2または3回の用量と、天然ペプチドの4または3回の用量とを含む。長期持続性疾患の場合、この1回目のワクチン接種(primo-vaccination)の後に得られる免疫のレベルを、通常の想起(regular recalls)により維持することが好ましい。このことは、例えば、1〜6ヶ月毎に行われる注射により行うことができる。よって、天然ペプチドの少なくとも2回の用量で、40または50回までの用量を含む補足的なキットも、本発明の一部である。代わりに、ワクチン接種キットは、最適化ペプチドの2〜3回の用量と、天然ペプチドの3〜40または50回までの用量とを含むことができる。もちろん、キットに存在する上記の天然および最適化ペプチドは、上記のとおりである。
【0055】
各用量は、0.1と10 mgの間のペプチド、好ましくは1〜5mgまたは1と20 mgの間のポリペプチドを含む。好ましい実施形態において、各用量は、皮下注射のために処方される。例えば、各用量は、アジュバントとして用いるMontanide ISA51を用いて乳化された水性溶液のエマルジョンの0.3〜1.5 mlに処方できる。当業者は、Montanide ISA51の代わり(またはそれに加えて)に任意のその他のアジュバントを選択できる。特定の実施形態において、用量は、水性溶液の形態にある。代わりに、用量は、注射するための液体溶液の即時調製用の凍結乾燥ペプチドの形態にあることができる。上記のキットのその他の可能性のある成分は、投与前にペプチド組成物に加えられる1またはいくつかのアジュバントと、このキットをどのように使用するかについて記載した注意書きである。
【0056】
本発明を、以下の図面および実施例によりさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】MAGE-A多重遺伝子ファミリー配列。多様なMAGE-A抗原が共有し、HLA-B*0702分子により提示される1または複数のエピトープを同定するために、MAGE-A抗原の配列を整列させ、少なくとも5アミノ酸の領域を、これらの抗原同士の相同性に基づいて選択した(黒の実線で囲む)。MAGE-A1、-A2、-A3、-A4、-A6、-A12および/または-A10から完全に同一のアミノ酸を、灰色で強調する。
【図2】HLA-B*0702拘束性最適化潜在性ペプチドの免疫原性。HLA-B*0702トランスジェニックマウスに、記載するプロトコルに従って最適化ペプチドをワクチン接種し、作製されたCTLを、最適化され、記載される両方の対応する天然ペプチドを装填したT2-B7標的に対して試験した。A;配列番号171のMAGE-A A1L9ペプチドでのワクチン接種、B;配列番号54の単独改変MAGE A L9ペプチドでのワクチン接種。
【発明を実施するための形態】
【0058】
実施例
実施例を、以下の材料および方法を用いて行った。
トランスジェニックマウス。HLA-B7 H-2クラスIノックアウトマウスは、以前に記載された(Rohrlichら、2003)。
細胞。HLA-B*0702トランスフェクトヒトT2-B7細胞は、以前に記載された(Rohrlichら、2003)。
ペプチドおよびプラスミド。ペプチドを、Epytop (Nimes、France)により合成した。HLA-B*0702プラスミドは、Lemonnier博士(Institut Pasteur、Paris、France)により提供された(Rohrlichら、2003)。
【0059】
HLA-B*0702に対するペプチド相対的親和性の測定。用いたプロトコルは、以前に記載された(Rohrlichら、2003)。簡単に述べると、T2-B7細胞を、37℃にて16時間、100μM〜0.1μMの範囲の濃度のペプチドとインキュベートし、次いで、ME-1モノクローナル抗体(mAb)で染色して、HLA-B*0702の表面発現を定量した。各ペプチド濃度について、HLA-B*0702特異的染色を、100μMの参照ペプチドCMV265-274 (R10V; RPHERNGFTV、配列番号172)を用いて得られた染色のパーセンテージとして算出した。相対的親和性(RA)は、次のようにして決定した:RA = (20%のHLA-B*0702発現を誘導する各ペプチドの濃度/20%のHLA-B*0702発現を誘導する参照ペプチドの濃度)。
【0060】
HLA-B*0702トランスジェニックマウスにおけるインビボでのCTL誘導。マウスに、不完全フロイントアジュバント(IFA)中で乳化した100μgのペプチドを、150μgのI-Ab拘束性HBVcore128Tヘルパーエピトープ(TPPAYRPPNAPIL、配列番号173)の存在下で皮下注射した。11日後に、5×107の脾臓細胞を、インビトロで、ペプチド(10μM)を用いて刺激した。培養第6日に、バルクのレスポンダー集団を、特異的細胞傷害性について試験した。
【0061】
細胞傷害性アッセイ。標的を、100μCiのCr51で60分間標識し、96ウェルV底プレートに播種し(100μLのRPMI 1640培地中に3×103細胞/ウェル)、必要な場合に、ペプチド(1μM)を用いて37℃にて2時間パルスした。次いで、エフェクターをウェルに加え、37℃にて4時間インキュベートした。特異的溶解のパーセンテージは、%溶解= (実験による放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)×100として決定した。
【0062】
実施例1:MAGE-A1、-A2、-A3、-A4、-A6、-A12および/または-A10抗原が共有するHLA-B*0702分子により提示される潜在性エピトープの同定、および該HLA分子とのそれらの親和性の決定
多様なMAGE-A抗原が共有し、HLA-B*0702分子により提示される1または複数のエピトープを同定するために、MAGE-A抗原の配列を整列させ(図1)、9〜10アミノ酸の領域を、MAGE-A1、-A2、-A3、-A4、-A6、-A12および/または-A10抗原間のそれらの相同性に基づいて探索した(配列を灰色で強調する、図1)。MAGE-A10配列は、MAGE-A1、-A2、-A3、-A4、-A6、-A12よりも相同性が低いので、MAGE-A10で等価なものが見つからなくても、共有配列は排除しなかった(図1)。
【0063】
以下の記載において、9〜10アミノ酸のこれらの領域は、MAGE-A1配列におけるそれらの最初のアミノ酸の位置に関して記載する。少なくとも9アミノ酸の2つの領域だけが同定された(181位および270位)。以前に記載されたように、相同な配列がほとんど存在しないので、著者らは、N末端に3アミノ酸が先行し、所望によりC末端に1もしくは2つのアミノ酸が続く少なくとも1つの共通ペンタペプチド配列を含む8〜10アミノ酸の配列を同定する方法を記載した。実際に、著者らは、ペプチドのP4位〜P8位にわたる5アミノ酸の配列に制限される同一性が十分であったことを見出した。少なくとも5共通アミノ酸の配列を、図1において箱で囲む。この選択方法を用いて、4つのさらなる領域を同定した(21位、65位、132位、256位)。
【0064】
HLA-B*0702拘束性ペプチドに対応する、2位にPを有し、3位にR、K、HおよびMからなる群より選択されるアミノ酸を有する9または10アミノ酸のペプチドを、次いで、同定した。図1に示すように、完全に同一の配列は見出されなかった。
候補ペプチドの選択肢を広げるために、記載された方法に従って2回目の探索を行って、P4位とP8位の間で完全な配列同一性を示す領域を選択した。いま一度、配列は同定されなかった。最後に、3回目の探索を行って、P4位とP8位の間で1つのミスマッチだけを有する配列を選択した。同定された配列は、上の表1に記載され、図1において点線で囲む。
【0065】
MAGE-A 269 (9マー)群は、3つの異なる配列だけが全てのMAGE-A遺伝子を認識する(MAGE-A10を受け入れる)ことを可能にするので選択した。この群は、3つのペプチドを含む:MAGE-A A、配列番号15 (MAGE-A1、-A4)、MAGE-A I、配列番号16 (MAGE-A2、-A6)およびMAGE-A V、配列番号17 (MAGE-A3、-A12)、これらは、それらのP6位の点で異なる。MAGE-A10において対応する配列は見出されなかった。
各ペプチドを、HLA-B*0702と結合するその能力について試験した(表3)。
【0066】
【表3】

【0067】
3つの天然ペプチドのいずれも、これらのペプチドが1次P2R3アンカー位置を有するにもかかわらず、HLA-B*0702分子と結合することは示されず、このことは、これらが潜在性ペプチドであることを示した。この研究の目的は、発現されるMAGE-A遺伝子が何であっても細胞を認識できる特異的免疫応答を誘導できる免疫原性ペプチドを見出すことであった。より正確には、確認されたペプチドでのワクチン接種により誘導されるCTLは、両方のMAGE-A A、MAGE-A IおよびMAGE-A V潜在性天然ペプチドを発現するかまたは提示する細胞を認識できなければならない(天然ペプチド交差認識)。選択されたペプチドは、次いで、改変してそれらの免疫原性を増進した。
【0068】
実施例2:選択されたペプチドの免疫原性の増進
これらの低親和性ペプチドのHLA-B*0702親和性と、よって免疫原性とを増進するために、好ましくない2次アンカーモチーフを同定し、それらを好ましいモチーフで置換することが必要である。天然ペプチドを、P2R3 1次アンカー位置を有するように選択した。これにより、興味は、2次アンカー位置1および9に集中した。
【0069】
試験した最初の最適化ペプチドは、MAGE-A V配列に基づき、両方の位置にてP1をHLA-B*0702結合に好ましいアミノ酸であることが既知のアラニン(A)で、そしてP9をロイシン(L)で置き換えることによりそれぞれ改変した。
ペプチドMAGE-A A1L9は、配列APRALVETL (配列番号171)を有し、MHCと結合でき(表4)、このことにより、改変が、HLA-B*0702分子についてのその親和性を増進したことが確認された。HLA-B*0702トランスジェニックマウスに、次いで、改変ペプチドをワクチン接種して、11日後に、それらの脾臓細胞を、ペプチドを用いてインビトロで刺激した。図2Aおよび表4に示すように、改変ペプチドは免疫原性であったが、誘導されたMAGE-A A1L9特異的CTLは、天然ペプチドを交差認識できなかった。
【0070】
置換は、しかし、TCRと相互作用するペプチドセグメントの立体構造を保ち、ペプチド特異性を保つはずである。2つの改変は、ペプチド立体構造を劇的に改変できたので、9位だけで改変された新しい最適化ペプチドを試験した。実際に、1位のGは、中性で、MHCとのペプチド親和性について好ましくなくはないと記載されている。
【0071】
MAGE-A L9 (配列番号54)は、全てのワクチン接種されたマウスが、MAGE-A L9に対する特異的免疫応答を発生したので、強く免疫原性であることが示された。最も重要なことには、MAGE-A L9ペプチドにより誘導されたCTLが、各天然潜在性ペプチドを装填した標的細胞を認識できたことであった(図2Bおよび表4)。
【0072】
【表4】

【0073】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの単独の多重遺伝子ファミリーからの少なくとも2つの抗原に対する細胞傷害性応答を誘発できるHLA-B*0702拘束性ペプチドを同定するための方法であって、少なくとも以下の:
(i) 前記多重遺伝子ファミリーの遺伝子中で、2位にPと3位にR、K、HおよびMからなる群より選択されるアミノ酸とを有する9または10アミノ酸のペプチドを同定するステップと、
(ii) (i)で得られた配列を整列させるステップと、
(iii) ステップ(i)で得られたペプチドの中から、少なくとも2ペプチドの群を同定するステップであって、少なくとも1つのペプチドが「必須共有ペプチド」であり、すなわち、前記群のその他のペプチドのものとはその抗原性領域が最大で1残基異なるものであり、前記抗原性領域が、9アミノ酸を有するペプチド中の4位〜8位にわたり、10アミノ酸を有するペプチドの4位〜9位にわたる、前記ステップと
を含み、
前記少なくとも1つの必須共有ペプチドが、前記多重遺伝子ファミリーの少なくとも2つの抗原に対する細胞傷害性応答を誘発する、前記方法。
【請求項2】
前記多重遺伝子ファミリーからの少なくとも3つの抗原に対する細胞傷害性応答を誘発できるHLA-B*0702拘束性ペプチドを同定するための方法であり、ステップ(iii)で選択されたペプチドの群が、前記多重遺伝子ファミリーの少なくとも3つの遺伝子からのペプチドを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(iii)で選択されたペプチドの群が、異なる抗原性領域を有する少なくとも2つのペプチドを含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
必須共有ペプチドの免疫原性を測定するステップ(iv)をさらに含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
必須共有ペプチドの免疫原性を増強させるステップ(v)をさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(iii)で選択された必須共有ペプチドが、そのN末端にP以外のアミノ酸を有する非免疫原性エピトープであり、ステップ(v)が、前記エピトープのC末端残基をロイシンで置換することからなる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(iii)で選択された必須共有ペプチドが、L、A、I、V、M、CおよびTからなる群より選択されるC末端アミノ酸を有する非免疫原性エピトープであり、ステップ(v)が、前記エピトープのN末端残基をアラニンで置換することからなる請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記多重遺伝子ファミリーが、MAGE-Aファミリーである請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記必須共有ペプチドが、MPKTGFLII (配列番号2)、MPKTGLLII (配列番号3)、FPKTGLLII(配列番号4)、VPKTGLLII (配列番号5)、MPKAGLLII (配列番号6)、MPKTGILIL (配列番号7)、MPKTGFLIIV (配列番号8)、MPKTGFLIII (配列番号9)、MPKTGLLIIV (配列番号10)、FPKTGLLIIV(配列番号11)、VPKTGLLIIV (配列番号12)、MPKAGLLIIV (配列番号13)、MPKTGILILI (配列番号14)、GPRALAETS (配列番号15)、GPRALIETS(配列番号16)、GPRALVETS (配列番号17)、GPRALAETSY (配列番号18)、GPRALIETSY (配列番号19)、GPRALVETSY (配列番号20)、EPRKLLTQD(配列番号21)、HPRKLLTQD(配列番号22)、DPKKLLTQH (配列番号23)、DPKKLLTQY (配列番号24)、HPKKLLMQD(配列番号25)、EPRKLLTQDL(配列番号26)、EPRKLLTQDW(配列番号27)、HPRKLLTQDL (配列番号28)、HPKKLLMQDL (配列番号29)、DPKKLLTQHF (配列番号30)、DPKKLLTQYF (配列番号31)からなる群より選択される請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により同定された単離されたペプチド。
【請求項10】
前記単離されたペプチドが、配列番号32〜67からなる群より選択される請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法により同定された単離されたペプチド。
【請求項11】
請求項9に記載の1、2、3またはそれより多いHLA-B*0702拘束性エピトープを含むキメラポリペプチド。
【請求項12】
請求項10に記載の1、2、3またはそれより多いHLA-B*0702拘束性エピトープを含むキメラポリペプチド。
【請求項13】
請求項9もしくは10に記載のHLA-B*0702拘束性エピトープ、または請求項11もしくは12に記載のキメラポリペプチドの発現を引き起こすように設計された単離された核酸分子。
【請求項14】
少なくとも、活性物質として、請求項9もしくは10に記載のHLA-B*0702拘束性エピトープ、または請求項11もしくは12に記載のキメラポリペプチド、または請求項13に記載の核酸を含む医薬組成物。
【請求項15】
ワクチンである請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
別々の容器中に:
(i) 配列番号2〜31の群から選択されるHLA-B*0702拘束性エピトープの配列を含む第1ペプチドと、
(ii) 配列番号32〜67の群から選択されるHLA-A*2402拘束性エピトープからなる配列を含む第2ペプチドと
を含む部分品のキット。
【請求項17】
前記第1ペプチドが、配列番号2〜31の群から選択される単離されたエピトープであり、前記第2ペプチドが、その同族最適化エピトープである請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記第1ペプチドが、GPRALAETS (配列番号15)、GPRALIETS (配列番号16)およびGPRALVETS (配列番号17)から選択される配列を含み、前記第2ペプチドが、配列GPRALVETL (配列番号54)を含む請求項16または17に記載のキット。
【請求項19】
ワクチン接種キットであり、前記第1および第2ペプチドまたはキメラペプチドが、別々のワクチン接種用量にある請求項16〜18のいずれか1項に記載のキット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2012−529283(P2012−529283A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514541(P2012−514541)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006332
【国際公開番号】WO2010/143010
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511298060)
【氏名又は名称原語表記】VAXON BIOTECH
【住所又は居所原語表記】3 rue de l’Arrivee, 75749 PARIS Cedex 15, France
【Fターム(参考)】