説明

共沸混合物の分離装置及び共沸混合物の分離方法

【課題】装置の構成や工程が簡素で低コストであるとともに、エネルギー投入量を軽減できるため省エネルギー効果が高く、得られる成分の純度が高い共沸混合物の分離装置及び共沸混合物の分離方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、共沸混合物を蒸留塔2により蒸留して留出蒸気と缶出液を得て、
得られた留出蒸気を、リボイラー熱源用の蒸気と製品抜き出し用の蒸気に分岐する。圧縮、昇温された留出蒸気Aがリボイラー5に熱源として供給され、圧縮、昇温された留出蒸気Bは蒸気透過膜6を通過し、非透過成分と透過成分に分離され、このうち非透過成分を共沸混合物の加熱手段とした後に回収する。本発明によれば、装置の構成や工程が簡素であるため設備コストを低く抑えることができるとともに、省エネルギー効果が高く、また、蒸気透過膜6を用いて成分を分離しているので、純度の高い成分が得られる共沸混合物の分離装置1及び共沸混合物の分離方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共沸混合物の分離装置及び共沸混合物の分離方法に関する。さらに詳しくは、装置の構成や工程が簡素であるため設備コストを低く抑えることができ、省エネルギー効果が高く、また、純度の高い成分が得られる共沸混合物の分離装置及び共沸混合物の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールやイソプロパノール等のアルコール類は、その製造工程において水を含んだ混合水溶液として得られるが、かかる混合水溶液におけるアルコール類は低濃度であり、そのまま製品とするには問題があった。このような問題から、高純度なアルコール類を得るために、分離工程により脱水されているが、かかる分離工程における脱水操作には、一般的には蒸留分離が用いられており、多大なエネルギーを消費することになっていた。また、エタノールやイソプロパノールのような炭素数が2以上のアルコール類は水と共沸混合物を形成するため、蒸留分離工程では、まず共沸混合物まで濃縮し、それ以上に脱水が必要な場合は、エントレーナー(共沸ブレーカーとも呼ばれる。)等の第3成分を添加して、これを脱水してアルコール類を濃縮する共沸蒸留が行われている(例えば、特許文献1を参照。)。第3成分であるエントレーナー(共沸ブレーカー)としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン等が用いられている。
【0003】
図2は、従来の共沸混合物の分離装置100の一態様を示した概略図である。図2に示す共沸混合物の分離装置100は、3台の蒸留塔91〜93、リボイラー94〜96、液々分離器97、冷却器98、99を備える。反応工程より生成した低濃度のイソプロパノールと水の共沸混合物は、1塔目の蒸留塔(共沸塔)91に導入され、例えば、イソプロパノール濃度が約85質量%の共沸混合物に濃縮される。蒸留塔(共沸塔)91の塔頂から得られる共沸混合物は、2塔目の蒸留塔(脱水塔)92に送られ、適当なエントレーナーにより脱水されることにより(共沸蒸留)、蒸留塔(脱水塔)92の塔底から高純度のイソプロパノールが得られることになる。なお、塔頂のエントレーナーと水は凝縮された後に液々分離器97で液々分離され、液々分離後の水相は、3塔目の蒸留塔(排水ストリッパー)93により処理されて、塔底より共沸混合物中に含まれていた水が得られることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−255876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、蒸留分離はそれだけで多大なエネルギーを消費することに加え、前記した従来の分離装置では、図2に示した構成に代表されるように複数(図2では3台)の蒸留塔が必要であり、設備コストがかかるものであった。特に、図2に示したような装置では、3つの蒸留塔におけるリボイラーへの総エネルギー投入量が非常に大きいことや、第3成分であるエントレーナーを含んだ系を共沸蒸留し、さらにこのエントレーナーを別途回収する必要があるため、こちらも多大なエネルギーを消費する手段となっていた。さらに、共沸蒸留はプロセスや設備構成が複雑となり、第3成分を持ち込むことによる製品や排水への不純物の増加という問題も生じ、好ましくなかった。
【0006】
なお、近年、蒸留塔のエネルギーを削減可能な技術として、自己熱再生型蒸留プロセスが提供されている。このプロセスでは、蒸留塔の塔頂から得られる留出蒸気を圧縮機で圧縮し、リボイラーの熱源と原料の予熱に用いることにより、既存の蒸留塔での総エネルギー投入量を大幅に削減することが可能である。一方、かかるプロセスを前記したようなイソプロパノール等のアルコール類と水の混合系からアルコール類を蒸留するプロセスとして用いた場合にも、同程度のエネルギー削減効果が期待できるが、塔頂から得られる成分はアルコール類と水の共沸混合物のままであり、改良が望まれていた。
【0007】
本発明は前記のような問題を解決するためになされたものであり、装置の構成や工程が簡素で低コストであるとともに、エネルギー投入量を軽減できるため省エネルギー効果が高く、得られる成分の純度が高い共沸混合物の分離装置及び共沸混合物の分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明に係る共沸混合物の分離装置は、入力される共沸混合物を蒸留して留出蒸気と缶出液を得る蒸留塔と、得られた前記留出蒸気を、リボイラー熱源用の蒸気(留出蒸気A)と製品抜き出し用の蒸気(留出蒸気B)に分岐する分岐部と、分岐される前の前記留出蒸気、または分岐された後の前記留出蒸気A及び前記留出蒸気Bの少なくとも一方を圧縮、昇温する圧縮機と、圧縮、昇温された前記留出蒸気Aを熱源としてリボイラーに供給する経路と、前記リボイラーを通過した前記留出蒸気Aを前記蒸留塔に戻す経路と、圧縮、昇温された前記留出蒸気Bを通過させ、非透過成分と透過成分に分離する蒸気透過膜と、前記蒸気透過膜で分離された前記非透過成分を、入力される前記共沸混合物の加熱手段として送り出す経路と、前記非透過成分を出力、回収する第1出力部と、蒸留して得られた前記缶出液を出力、回収する第2出力部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る共沸混合物の分離装置は、前記した本発明において、前記圧縮機が、分岐された後の留出蒸気Aが前記リボイラーに供給される前に、及び前記留出蒸気Bが前記蒸気透過膜を通過する前に圧縮、昇温するように配設されることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る共沸混合物の分離装置は、前記した本発明において、前記蒸気透過膜で分離された前記透過成分を前記蒸留塔に戻す経路を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る共沸混合物の分離装置は、前記した本発明において、前記蒸気透過膜がゼオライト膜であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る共沸混合物の分離方法は、入力される共沸混合物を蒸留塔により蒸留して留出蒸気と缶出液を得る工程と、得られた前記留出蒸気を、リボイラー熱源用の蒸気(留出蒸気A)と製品抜き出し用の蒸気(留出蒸気B)に分岐する工程と、分岐される前の前記留出蒸気、または分岐された後の前記留出蒸気A及び前記留出蒸気Bの少なくとも一方を圧縮、昇温する工程と、圧縮、昇温された前記留出蒸気Aを熱源としてリボイラーに供給する工程と、前記リボイラーを通過した前記留出蒸気Aを前記蒸留塔に戻す工程と、圧縮、昇温された前記留出蒸気Bを蒸気透過膜に通過させ、非透過成分と透過成分に分離する工程と、前記蒸気透過膜で分離された前記非透過成分を、入力される前記共沸混合物の加熱手段とした後、回収する工程と、前記蒸留により得られた前記缶出液を回収する工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る共沸混合物の分離方法は、前記した本発明において、前記分岐された後の留出蒸気Aが前記リボイラーに供給される前に、及び前記留出蒸気Bが前記蒸気透過膜を通過する前に圧縮、昇温されることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る共沸混合物の分離方法は、前記した本発明において、前記蒸気透過膜で分離された前記透過成分を前記蒸留塔に戻す工程を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る共沸混合物の分離方法は、前記した本発明において、前記蒸気透過膜がゼオライト膜であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る共沸混合物の分離方法は、前記した本発明において、前記共沸混合物が、炭素数が2以上のアルコールと水からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、装置の構成や工程が簡素であるため設備コストを低く抑えることができるとともに、省エネルギー効果が高く、また、蒸気透過膜を用いて成分を分離しているので、純度の高い成分が得られる共沸混合物の分離装置及び共沸混合物の分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る共沸混合物の分離装置の一態様を示した概略図である。
【図2】従来の共沸混合物の分離装置の一態様を示した概略図である。
【図3】本発明に係る共沸混合物の分離方法の一例のフローチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(I)共沸混合物の分離装置の構成:
以下、図1を用いて、本発明に係る共沸混合物の分離装置の一態様の構成を説明する。図1は、本発明に係る共沸混合物の分離装置の一態様を示した概略図である。図1に示す本実施形態に係る共沸混合物の分離装置1(以下、「分離装置1」とする場合がある。)は、蒸留塔2、分岐部3、第1圧縮機41、第2圧縮機42、リボイラー5、蒸気透過膜6、第1出力部71、第2出力部72、経路80〜90、を基本構成として備える。
【0020】
本発明に係る分離装置1は、共沸混合物を構成する2成分(第1成分と、第1成分とは異なる成分であり、第1成分より沸点が高く、第1成分と共沸混合物を形成する第2成分)に分離するために用いられる。対象となる共沸混合物の組み合わせとしては、特に制限はないが、例えば、炭素数が2以上のアルコール(エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等)と水との組み合わせや、芳香族化合物とアルコール、芳香族とパラフィン等の組み合わせが挙げられる。
【0021】
蒸留塔2は、入力部70から原料であり分離対象となる共沸混合物を入力する。分離対象となる共沸混合物は、第1成分(例えばエタノール、イソプロパノール(IPA)、ブタノール等といった炭素数が2以上のアルコール)と、かかる第1成分とは異なる成分であり、第1成分と共沸混合物を形成する第2成分(例えば水)を含む混合水溶液(流体)である。蒸留塔2は、入力された共沸混合物を、気体状態の第1成分を含む留出蒸気と、液体状態の第2成分からなる缶出液に分離する。なお、本実施形態では、入力部70と蒸留塔2の間に予熱器11が配設されており、導入される原料(共沸混合物)が適当な温度に予熱されることになる。予熱器11としては、例えばスチーム予熱等の公知の加熱手段を用いたものを使用することができる。
【0022】
蒸留塔2から出力された留出蒸気は、経路80を通過して、分岐部3に到達する。分岐部3では、本実施形態にあっては、留出蒸気を、リボイラー熱源用の蒸気(留出蒸気A)と製品抜き出し用の蒸気(留出蒸気B)に分岐する。分岐部3における留出蒸気の分岐の割合(留出蒸気Aと留出蒸気Bの割合)は、リボイラー5の熱源として使用される分と製品として抜き出す分のバランスを考慮して適宜決定すればよいが、留出蒸気A(リボイラー5の熱源として使用される分)は、概ね最小還流比の1.2〜2.0倍の範囲であることが好ましく、1.2〜1.5倍の範囲であることが特に好ましい。
【0023】
分岐部3で分岐された留出蒸気のうち、留出蒸気Aは、経路81を通過して第1圧縮機41に入力される。第1圧縮機41は、入力された留出蒸気Aを圧縮することにより昇温し、リボイラー5と熱交換可能な温度レベルとなるようにする。第1圧縮機41としては、例えば、スクリュー型圧縮機やターボ式圧縮機等を用いることができる。第1圧縮機41の圧縮比は、例えば、1.5〜5.0であることが好ましく、また、リボイラー5で凝縮した場合の温度が、蒸留塔2の塔底温度より5〜10℃高くなるように設定することが好ましい。
【0024】
第1圧縮機41によって圧縮、昇温された留出蒸気Aは、経路82を通過して、リボイラー5に供給される。リボイラー5は、主として蒸留塔2の塔底の加熱を行うものであるが、本実施形態では、リボイラー5の熱源として、第1圧縮機41でリボイラーと熱交換可能な温度レベルとなるように圧縮、昇温された留出蒸気Aを用いることができるため、ボイラー等の外部の加熱媒体を別途配設する必要がなくなる。ここで、ボイラー等の加熱媒体で加熱するためのエネルギーは、留出蒸気Aを第1圧縮機41で圧縮するエネルギーと比較して非常に大きいため、本発明にあっては、リボイラー5の加熱に必要なエネルギーを大幅に低減することが可能となり、省エネルギー化を図ることができる。
【0025】
リボイラー5を通過した留出蒸気Aは、経路83を通過した後、蒸留塔2で減圧されてフラッシュすることを防止するために、冷却器12に導入されて冷却される。なお、経路83には、図示しないバルブを設けて、経路83を通過する留出蒸気Aの圧力を、経路80を通過する留出蒸気と同程度になるように調整する(低下させる)ようにしてもよい。冷却器12によって冷却された留出蒸気Aは、経路84を通過して再び蒸留塔2に戻される。
【0026】
一方、分岐部3で分岐された留出蒸気Bは、経路85を通過して、第2圧縮機42に入力される。第2圧縮機42は、留出蒸気Bを、入力部70から導入される原料(共沸混合物)の予熱が可能な温度レベルになるように圧縮、昇温する。第2圧縮機42における圧縮比は、例えば、1.5〜5.0であることが好ましく、蒸気透過膜6の内部で蒸気の凝縮が起こらないように、留出蒸気Bの温度を10〜50℃上昇させることが好ましい。
【0027】
第2圧縮機42で圧縮、昇温された留出蒸気Bは、経路86を通過して蒸気透過膜6に導入され、かかる蒸気透過膜6を通過する。蒸気透過膜6(蒸気透過分離膜とも呼ばれる。)は、蒸気成分(透過成分)を透過して取り出し、残りの成分(非透過成分)を分離して経路88に送り出す。本実施形態に係る分離装置1にあっては、蒸気透過膜6の透過側の経路87に真空ポンプ13が配設されており、透過側が減圧されることになる。かかる真空ポンプ13により、蒸気透過膜6の導入側(経路86側)と透過側(経路87側)に圧力差を生じさせ、この圧力差をドライビングフォースとして、蒸気透過膜6の選択特性にしたがって、蒸気となる成分を優先的に透過させることができる。
【0028】
蒸気透過膜6の種類は、共沸混合物を構成する成分の種類や、導入される留出蒸気の温度、圧力等の諸条件により適宜決定すればよく、例えば、有機(高分子)系であれば、ポリイミド膜、ポリビニルアルコール膜、酢酸セルロース系の膜等が、無機系であれば、ゼオライト膜、炭素膜、セラミックス多孔膜等が挙げられる。また、例えば、共沸混合物を構成する成分として水を含む場合にあっては、水(水蒸気)を選択的に透過し、他の成分との分離を効率よく行うことができる水蒸気透過膜を用いることができる。特に、共沸混合物がイソプロパノール、エタノール等の炭素数が2以上のアルコールと水の2成分系の場合には、水(水蒸気)を透過し、イソプロパノール等と分離するゼオライト膜、ポリイミド膜等を水蒸気透過膜として使用することができ、イソプロパノール等と水の共沸混合物から効率的かつ選択的に水を透過させて分離することができる。
【0029】
蒸気透過膜6の構成(メッシュ径、形状、多孔質・非多孔質等)は、特に制限はなく、前記した蒸気透過膜6の種類と同様、共沸混合物を構成する成分の種類や、導入される留出蒸気Bの温度、圧力等の諸条件により適宜決定すればよい。また、蒸気透過膜6は、多管式の、いわゆる分離膜モジュールのような形態で用いるようにしてもよい。
【0030】
蒸気透過膜6で分離された成分のうち、非透過成分(例えば、共沸混合物がイソプロパノールと水の2成分系の場合におけるイソプロパノール)は、経路88を通過して入力部70に送り出され、原料である共沸混合物を予熱する加熱手段として利用される。かかる成分により原料が予熱されるため、予熱器11の負荷を軽減できるとともに、リボイラー5が必要とする熱量も削減されることになる。かかる非透過成分は、入力部70を通過後、第1出力部71から系外に出力され、回収されることになる。
【0031】
一方、蒸気透過膜6で分離された成分のうち、透過成分(例えば、共沸混合物がイソプロパノールと水の2成分系の場合における水)は、蒸気透過膜6の選択特性の程度にもよるが、若干ではあるが非透過成分(第1成分)が含まれている場合がある。本実施形態に係る分離装置1にあっては、透過成分(蒸気)が通過する経路89に透過成分(蒸気)を凝縮するための凝縮器14及びポンプ15が配設されており、かかる凝縮器14等で凝縮された透過成分が、再度蒸留塔2に戻されることになる。
【0032】
また、蒸留塔2で分離された、第1成分をほとんど含まない液体状態の第2成分からなる缶出液は、蒸留塔2の塔底に連接された経路90を通過して第2出力部72から系外に出力され、回収されることになる。なお、系外に出される缶出液の一部は、リボイラー5で熱交換が行われる。
【0033】
(II)共沸混合物の分離方法の一例:
以下、本実施形態に係る共沸混合物の分離装置1を用いた共沸混合物の分離方法を、分離の対象とする共沸混合物としてイソプロパノール(isopropyl Alcohol:IPA)と水との共沸混合物とした例を挙げて、図3に示したフローチャートを用いて説明する。
【0034】
まず、イソプロパノール(第1成分)と水(第2成分)からなる共沸混合物を、入力部70から入力し、予熱器11で予熱した後に蒸留塔2に入力する(ステップ1/S1)。蒸留塔2では、入力された共沸混合物を、気体状態の第1成分を含む留出蒸気と、液体状態の第2成分からなる缶出液に分離し(ステップ2/S2)、蒸留塔2の塔頂から留出蒸気を出力する。
【0035】
蒸留塔2から出力された留出蒸気は、リボイラー熱源用の蒸気(留出蒸気A)と製品抜き出し用の蒸気(留出蒸気B)に分岐される(ステップ3/S3)。分岐された留出蒸気のうち、留出蒸気Aは、第1圧縮機41により、リボイラー5と熱交換可能な温度レベルとなるように圧縮、昇温される(ステップ4/S4)。昇温された留出蒸気Aは、リボイラー5に供給され、リボイラー加熱用の熱源として利用される(ステップ5/S5)。リボイラー5を通過した留出蒸気Aは、冷却器12に導入されて冷却される。冷却器12によって冷却された留出蒸気Aは、再び蒸留塔2に戻される(ステップ6/S6)。
【0036】
一方、分岐部3で分岐された留出蒸気Bは、第2圧縮機42により、入力部70から導入される原料(共沸混合物)の予熱が可能な温度レベルになるように圧縮、昇温される(ステップ7/S7)。第2圧縮機42で圧縮、昇温された留出蒸気Bは、蒸気透過膜6に入力され、非透過成分(イソプロパノール:第1成分)と透過成分(水:第2成分)に分離する(ステップ8/S8)。なお、蒸気透過膜6の透過側に真空ポンプ13等の減圧手段を配することにより、透過側が減圧され、これにより、蒸気透過膜6の導入側と透過側に圧力差を生じさせることができ、この圧力差をドライビングフォースとして蒸気透過膜6の特性に従い、蒸気となる成分を優先的に透過させることができる。
【0037】
蒸気透過膜6で分離された成分のうち、非透過成分(イソプロパノール:第1成分)は、入力部70に送り出され、原料を予熱する加熱手段として供給・利用される(ステップ9/S9)。かかる非透過成分は、入力部70を通過後、第1出力部71から系外に出力され、回収される(ステップ10/S10)。一方、蒸気透過膜6で分離された成分のうち、透過成分(水:第2成分)は、好ましくは凝縮された後、再度蒸留塔2に戻され(ステップ11/S11)、若干ではあるが含まれている可能性がある非透過成分(第1成分)を再度回収する。
【0038】
また、蒸留塔2で分離された、第1成分をほとんど含まない液体状態の第2成分からなる缶出液は、蒸留塔2の塔底より第2出力部72から系外に出力され、回収されることになる(ステップ12/S12)。なお、系外に出される缶出液の一部は、リボイラー5で熱交換が行われる。
【0039】
以上説明した本発明に係る共沸混合物の分離装置1及び分離方法によれば、共沸混合物を構成成分に分離するに際し、蒸留塔2からの留出蒸気を、リボイラー熱源用の蒸気(留出蒸気A)と製品抜き出し用の蒸気(留出蒸気B)とに分けて、リボイラー熱源用の蒸気を圧縮、昇温した後にリボイラー熱源として利用するので、リボイラー5を加熱するための加熱媒体を別途配設する必要がなくなり、いわゆる自己熱再生型蒸留を実施し、省エネルギー化を図ることができる。
【0040】
また、製品抜き出し用の蒸気を圧縮、昇温した後に蒸気透過膜6で分離することにより、分離対象とする成分を選択的に分離できるとともに、既存プロセスで用いられている第3成分(エントレーナー、共沸ブレーカー)を用いた共沸蒸留が不要となり、不純物が少なく高純度な成分が得られる。
【0041】
さらに、いわゆる自己熱再生型蒸留の留出蒸気の経路を改良し、これを蒸気透過膜6と組み合わせるという簡素な構成であるため、複数の蒸留塔2や第3成分を別途回収する操作も必要なく、既存の蒸留分離プロセスを簡素化することができる。
【0042】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本発明に含まれるものである。
【0043】
例えば、前記した実施形態では、蒸留塔2からの留出蒸気を分岐部3でリボイラー熱源用の蒸気(留出蒸気A)と製品抜き出し用の蒸気(留出蒸気B)に分岐し、リボイラー5に供給する前の経路81と経路82の間に第1圧縮機41を配設して留出蒸気Aを圧縮、加熱し、また、蒸気透過膜6を通過する前の経路85と経路86の間に第2圧縮機42を配設し、留出蒸気Bを圧縮、加熱する態様を示した。一方、留出蒸気(留出蒸気A、留出蒸気B)の圧縮等の位置や圧縮機の台数はこれには限定されず、第1圧縮機41及び第2圧縮機42の代わりに、例えば、図1の経路80に圧縮機を配設し、蒸留塔2からの留出蒸気を圧縮、昇温した状態として分岐部3で留出蒸気Aと留出蒸気Bに分岐し、留出蒸気Aをリボイラー5に供給、留出蒸気Bを蒸気透過膜6に導入、通過させるようにしてもよい。加えて、このように分岐前の留出蒸気を圧縮、昇温した後に分岐部3で留出蒸気A及び留出蒸気Bに分岐して、例えば、留出蒸気Aがリボイラー5に供給する前の経路81と経路82の間に第1圧縮機41を配設し、また、例えば、留出蒸気Bが蒸気透過膜6を通過する前の経路85と経路86の間に第2圧縮機42を配設し、留出蒸気Aと留出蒸気Bをさらに圧縮、昇温するようにして、留出蒸気Aをリボイラー5に供給、留出蒸気Bを蒸気透過膜6に導入、通過させるようにしてもよい。
【0044】
前記した実施形態では、蒸気透過膜6で分離された透過成分を、経路89を通過させて再び蒸留塔2に戻す態様を示したが、蒸気透過膜6の分離性能が十分な場合等にあっては、透過成分を蒸留塔2に戻さずに、系外に出して回収するようにしてもよい。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例等に何ら限定されるものではない。
【0046】
[実施例1及び比較例1]
共沸混合物をイソプロパノールと水(入力時における共沸混合物全体に対するイソプロパノールの含有量 87.1質量%、水の含有量 12.9質量%)として、図1(実施例1)及び図2(比較例1)に示した分離装置により共沸混合物の分離操作を行い、比較、評価した。
【0047】
なお、実施例1及び比較例1における蒸留塔、圧縮機の基本的な条件は下記のとおりであり、なお、蒸留塔は実施例1(図1)、比較例1(図2)ともSUS304製の蒸留塔である。図1のA〜K、図2のa〜fにおける温度、圧力、流量、イソプロパノールと水の組成を表1(実施例1)及び表2(比較例1)にそれぞれ示す。また、両者の使用する総エネルギー(熱量)の比較を表3に示す。
【0048】
(装置の仕様:実施例1)
蒸留塔2:塔径 100mm、高さ 20m、充填物 SUS304製 5/8ボールリング
第1圧縮機41、第2圧縮機42:レシプロ型の蒸気圧縮機
蒸気透過膜6:ゼオライト膜(ダイヤメンブレン/三菱化学(株)製)
【0049】
(装置の仕様:比較例1)
蒸留塔(共沸塔)91:塔径 100mm、高さ 20m、充填物 SUS304製 5/8ボールリング
蒸留塔(脱水塔)92:塔径 50mm、高さ 20m、充填物 SUS304製 5/8ボールリング
蒸留塔(排水ストリッパー)93:塔径 50mm、高さ 20m、充填物 SUS304製 5/8ボールリング
圧縮機94〜96:レシプロ型の蒸気圧縮機
エントレーナーの種類:ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン
【0050】
(結果:実施例1)
【表1】

【0051】
(結果:比較例1)
【表2】

【0052】
(使用する総エネルギーの比較)
【表3】

【0053】
表1に示すように、図1に示した本発明に係る装置による分離方法を用いた場合、純度がほぼ100%のイソプロパノールと水を得ることができた。また、表3に示すように、図1に示した本発明に係る装置により分離方法を用いた場合、図2に示した従来の装置を用いた蒸留分離方法と比較して、総エネルギー投入量を約1/5に抑えることが可能であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、例えば、エタノール、イソプロパノール等の炭素数が2以上のアルコール類と水との共沸混合物から高純度のアルコール類を分離するための手段として有利に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 …… 共沸混合物の分離装置
11…… 予熱器
12…… 冷却器
13…… 真空ポンプ
14…… 凝縮器
15…… ポンプ
2 …… 蒸留塔
3 …… 分岐部
41…… 第1圧縮機
42…… 第2圧縮機
5 …… リボイラー
6 …… 蒸気透過膜
70…… 入力部
71…… 第1出力部
72…… 第2出力部
80〜90…… 経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される共沸混合物を蒸留して留出蒸気と缶出液を得る蒸留塔と、
得られた前記留出蒸気を、リボイラー熱源用の蒸気(留出蒸気A)と製品抜き出し用の蒸気(留出蒸気B)に分岐する分岐部と、
分岐される前の前記留出蒸気、または分岐された後の前記留出蒸気A及び前記留出蒸気Bの少なくとも一方を圧縮、昇温する圧縮機と、
圧縮、昇温された前記留出蒸気Aを熱源としてリボイラーに供給する経路と、
前記リボイラーを通過した前記留出蒸気Aを前記蒸留塔に戻す経路と、
圧縮、昇温された前記留出蒸気Bを通過させ、非透過成分と透過成分に分離する蒸気透過膜と、
前記蒸気透過膜で分離された前記非透過成分を、入力される前記共沸混合物の加熱手段として送り出す経路と、
前記非透過成分を出力、回収する第1出力部と、
蒸留して得られた前記缶出液を出力、回収する第2出力部と、
を備えることを特徴とする共沸混合物の分離装置。
【請求項2】
前記圧縮機が、分岐された後の留出蒸気Aが前記リボイラーに供給される前に、及び前記留出蒸気Bが前記蒸気透過膜を通過する前に圧縮、昇温するように配設されることを特徴とする請求項1に記載の共沸混合物の分離装置。
【請求項3】
前記蒸気透過膜で分離された前記透過成分を前記蒸留塔に戻す経路を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の共沸混合物の分離装置。
【請求項4】
前記蒸気透過膜がゼオライト膜であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の共沸混合物の分離装置。
【請求項5】
入力される共沸混合物を蒸留塔により蒸留して留出蒸気と缶出液を得る工程と、
得られた前記留出蒸気を、リボイラー熱源用の蒸気(留出蒸気A)と製品抜き出し用の蒸気(留出蒸気B)に分岐する工程と、
分岐される前の前記留出蒸気、または分岐された後の前記留出蒸気A及び前記留出蒸気Bの少なくとも一方を圧縮、昇温する工程と、
圧縮、昇温された前記留出蒸気Aを熱源としてリボイラーに供給する工程と、
前記リボイラーを通過した前記留出蒸気Aを前記蒸留塔に戻す工程と、
圧縮、昇温された前記留出蒸気Bを蒸気透過膜に通過させ、非透過成分と透過成分に分離する工程と、
前記蒸気透過膜で分離された前記非透過成分を、入力される前記共沸混合物の加熱手段とした後、回収する工程と、
前記蒸留により得られた前記缶出液を回収する工程と、
を備えることを特徴とする共沸混合物の分離方法。
【請求項6】
前記分岐された後の留出蒸気Aが前記リボイラーに供給される前に、及び前記留出蒸気Bが前記蒸気透過膜を通過する前に圧縮、昇温されることを特徴とする請求項5に記載の共沸混合物の分離方法。
【請求項7】
前記蒸気透過膜で分離された前記透過成分を前記蒸留塔に戻す工程を備えることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の共沸混合物の分離方法。
【請求項8】
前記蒸気透過膜がゼオライト膜であることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の共沸混合物の分離方法。
【請求項9】
前記共沸混合物が、炭素数が2以上のアルコールと水からなることを特徴とする請求項5ないし請求項8のいずれかに記載の共沸混合物の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−110832(P2012−110832A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261671(P2010−261671)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構、「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/規則性ナノ多孔体精密分離膜部材基盤技術の開発」に係る共同研究業務及び委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】