説明

共焦点走査透過型電子顕微鏡装置及び3次元断層像観察方法

【課題】 共焦点走査透過型電子顕微鏡装置及び3次元断層像観察方法に関し、薄層状試料における異なった深さにおける原子配列を一画像で観察可能にする。
【解決手段】 電子を放出する電子源と、電子源から放出された電子を加速する手段と、加速された電子線を試料上に収束させる収束レンズと、電子線を試料表面上に走査するための走査コイルと、試料表面に焦点を合わせるための対物レンズと、試料により散乱された電子線の取り込み角度を制御するための投影レンズと、走査顕微鏡像を取得するための走査顕微鏡像検出器と、試料の組成および電子状態を分析する分析装置と、試料厚さを計測するための計測部と、対物レンズの焦点深度を調整する焦点深度調整手段とを有し、対物レンズの前段に対物レンズの球面収差を補正する球面収差補正装置と、対物レンズの色収差を補正および調整する色収差補正装置とを設けるとともに、対物レンズの色収差係数を調整するための制御部と、色収差係数を測定する測定部とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共焦点走査透過型電子顕微鏡装置及び3次元断層像観察方法に関するものであり、例えば、薄層状試料における異なった深さにおける原子配列を一画像で観察可能にするための手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡法(Transmission Electron Microscopy:TEM)や走査透過型電子顕微鏡法(Scanning Transmission Electron Microscopy: STEM)は固体中の原子配列を直接観察できるため、局所的な非周期構造領域の原子配列を測定する手法として用いられている。
【0003】
従来は、断面からTEM像やSTEM像を観察して、電子線透過方向の平均的な構造を評価することにより、界面でのマッチングや基板との配向性を決定してきた。しかしながら、断面観察では、電子線の奥行き方向で構造が変化している場合が多くあるため、正確な構造が把握できないことが問題となっている。
【0004】
また、TEM試料の厚さは、現実的に30nm以下まで薄くすることは不可能であるため、基板上に形成されている材料や結晶粒の大きさが30nm以下の場合、断面方向に重なって投影されてしまうため、観察が不可能であった。
【0005】
一方、平面観察法として、近年、原子レベルのオーダーまで細く絞り込んだ微小電子ビームを走査プローブとして用いた環状暗視野走査透過電子顕微鏡(Annular Dark Field −STEM)が、新たな手法として提案されている。
【0006】
ADF−STEMによる像、即ち、高角散乱電子強度の像は、原子番号Zに依存するため、像コントラストはZの大きな重い原子の位置でより明るくなるため、Zコントラストと称されている。
【0007】
しかし、平面観察では、表面層と基板層が重なった状態でしか観察することができなかった。そこで、近年、共焦点走査透過電子顕微鏡法を用いることによって、表面もしくは裏側から試料を観察して基板との配向性や原子レベルでのマッチングを評価することが試みられている。
【0008】
このような、走査透過型電子顕微鏡法における高空間分解能での共焦点法による深さ方向の断層像観察では、対物レンズの球面収差の影響による微小電子ビームからなる走査プローブ形状のフォーカス依存性のため、深さ方向の観察は困難であった。
【0009】
図10は、磁界型の対物レンズの球面収差の説明図である。図10(a)に示すように、球面収差は対物レンズ51の曲率によって、電子線52が対物レンズ51を通過する際の位置が異なることにより、焦点面でのプローブ55が広がり、像がぼやけてしまう影響を与える。即ち、電子線52を焦点面53で一点に収束させるためには対物レンズ51の球面収差を補正しなければならない。なお、焦点面53におけるぼけrは、球面収差係数をC、照射角度をαとすると、r=C×αで表わされる。
【0010】
そこで、図10(b)に示すように、レンズ51の前段に球面収差補正装置54を設けることにより対物レンズ51の球面収差を補正し、プローブ55の広がりが少なくして先鋭なプローブを形成している。これにより、共焦点走査透過型電子顕微鏡による観察が可能になった。例えば、アモルファスと結晶のコンポジット材料等の密度や原子番号差の大きい試料の組み合わせでの共焦点法による観察が可能になった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−153320号公報
【特許文献2】特開2004−259516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、球面収差補正を行っただけでは、結晶性の試料の複合材料等では十分に正確な構造を観察することができなかった。この問題として、対物レンズの色収差の影響による焦点深度の広がりが挙げられる。
【0013】
図11は、色収差の説明図であり、図11(a)に示すように、色収差は電子線52のエネルギーの違いによって、対物レンズ51を通過した後に軌道がずれて焦点面での焦点が広がる影響を与える。すなわち色収差によってフォーカスのずれが生じるため、共焦点観察を行うには、色収差を補正しなければならない。磁界型レンズは凸レンズしかないため、光学レンズのように凸レンズと凹レンズの組み合わせで収差を補正することができない。なお、焦点面53におけるぼけrは、照射角度をα、電子線のエネルギーをE、そのばらつきをΔE、色収差係数をCとすると、r=Cα(ΔE/E)で表わされる。
【0014】
そこで、近年、図11(b)に示すように非軸対称の多極子レンズを用いて収差を補正する色収差補正装置56を対物レンズ51の前段に設けることにより、色収差を補正することが行われている。色収差を補正することで最適な焦点深度で観察したとしても、基板レイヤーと薄膜レイヤーの両方を2回観察した像を比較しなければならない。その場合、計測間における試料のドリフト等の影響により試料の位置がずれる可能性があり、正確な原子位置の比較ができないという問題がある。
【0015】
したがって、本発明は、薄層状試料における異なった深さにおける原子配列を一画像で観察可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
開示する一観点からは、電子を放出する電子源と、前記電子源から放出された電子を加速する手段と、前記加速された電子線を試料上に収束させる収束レンズと、前記電子線を前記試料表面上に走査するための走査コイルと、前記試料表面に焦点を合わせるための対物レンズと、前記試料により散乱された電子線の取り込み角度を制御するための投影レンズと、走査顕微鏡像を取得するための走査顕微鏡像検出器と、前記試料の組成および電子状態を分析する分析装置と、前記試料厚さを計測するための計測部と、前記対物レンズの焦点深度を調整する焦点深度調整手段とを有し、前記対物レンズの前段に前記対物レンズの球面収差を補正する球面収差補正装置と、前記対物レンズの色収差を補正および調整する色収差補正装置とを設けるとともに、前記対物レンズの色収差係数を調整するための制御部と、前記色収差係数を測定する測定部とを有することを特徴とする共焦点走査透過型電子顕微鏡装置が提供される。
【0017】
また、開示する別の観点からは、電子を放出する電子源と、前記電子源から放出された電子を加速する手段と、前記加速された電子線を試料上に収束させる収束レンズと、前記電子線を前記試料表面上に走査するための走査コイルと、前記試料表面に焦点を合わせるための対物レンズと、前記試料により散乱された電子線の取り込み角度を制御するための投影レンズと、走査顕微鏡像を取得するための走査顕微鏡像検出器と、前記試料の組成および電子状態を分析する分析装置と、前記試料厚さを計測するための計測部と、前記対物レンズの焦点深度を調整する焦点深度調整手段とを有し、前記対物レンズの前段に前記対物レンズの球面収差を補正する球面収差補正装置と、前記対物レンズの色収差を補正および調整する色収差補正装置とを設けるとともに、前記対物レンズの色収差係数を調整するための制御部と、前記色収差係数を測定する測定部とを有することを特徴とする共焦点走査透過型電子顕微鏡装置を用いた3次元断層像観察方法であって、前記対物レンズの焦点深度を調整する焦点深度調整手段により、目的とする断層の部分或いは複数の層を同時に観察するために、前記試料の材料の構成、厚さ、焦点量をパラメータとして電子線散乱強度計算を行うことにより、投影方向に対する断層像を予測して焦点深度を最適化することを特徴とする3次元断層像観察方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
開示の共焦点走査透過型電子顕微鏡装置及び3次元断層像観察方法によれば、薄層状試料における異なった深さにおける原子配列を一画像で観察可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に用いる共焦点走査透過型電子顕微鏡装置の概念的構成図である。
【図2】焦点深度調整方法の概念的説明図である。
【図3】球面収差と色収差を0に補正した条件でシミュレーション計算を行った連続スルーフォーカス像である。
【図4】色収差を2mmの条件で計算した連続スルーフォーカス像である。
【図5】本発明の実施の形態の3次元断層像観察方法のフローチャートである。
【図6】照射角度αと取り込み角度βの説明図である。
【図7】試料とデフォーカス量Δfの説明図である。
【図8】収差補正STEMの共焦点デフォーカス連続像である。
【図9】低取り込み角度による収差補正STEMの共焦点デフォーカス連続像である。
【図10】磁界型の対物レンズの球面収差の説明図である。
【図11】色収差の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1乃至図6を参照して、本発明の実施の形態の3次元断層像観察方法を説明する。図1は、本発明の実施の形態に用いる共焦点走査透過型電子顕微鏡装置の概念的構成図である。共焦点走査透過型電子顕微鏡装置は、電子線10を放出する電界放射型電子銃11、放出された電子線10を加速する加速手段12を備えている。
【0021】
また、加速された電子線10は、2段以上からなる収束レンズ13,14(図においては2段構造として示している)により収束し、収束レンズ絞り15を挿入し試料40への照射半角度αを調整する。収束された電子線10からなる電子線プローブは、走査コイル16により偏向され試料40上を移動し、各点での画像強度および分析スペクトルを測定することにより、画像化、面分析を行う。
【0022】
試料40に照射される前に対物レンズ18により極微小電子線プローブを形成する。また、対物レンズ18の前段には収差補正装置17が設けられており、球面収差補正及び色収差補正を行う。なお、収差補正装置17により、球面収差係数は1μm以下に設定される。
【0023】
試料40内を透過、散乱した電子線10は、投影レンズ18を調整することにより取り込み角度βが制御された状態で、散乱した電子を試料40の下部に配置した走査顕微鏡像検出器20で検出し、STEM像もしくはZ−contrast像の観察を行う。
【0024】
また、走査顕微鏡像検出器20の後段には、TVカメラ或いはCCDカメラからなる試料厚さ測定装置21が配置されており、収束電子線回折法(CBED)により試料40からの電子回折像を取得して試料厚さを測定する。
【0025】
また、試料厚さ測定装置21の後段には、試料40の組成像や電子状態分布像を分析する分析装置22が配置されている。この分析装置22としては、電子エネルギー損失分光装置(EELS)装置或いはエネルギー分散型X線装置(EDX)を用いることができ、試料厚さの測定を行うことも可能である。
【0026】
また、走査顕微鏡像検出器20、試料厚さ測定装置21及び分析装置22は、水平方向に出し入れ自在に設定されており、各測定目的ごとに出し入れする。また、走査顕微鏡像検出器20、試料厚さ測定装置21及び分析装置22からの出力データは制御/解析部23に送られて、解析されて球面収差補正、色収差調整、色収差測定、試料厚さ測定、焦点深度計算を行う。その結果に基づいて、収差補正装置17及び対物レンズ18を制御することによって、焦点深度が最適になるように、球面収差及び色収差を調整する。
【0027】
このように、本発明の実施の形態においては、走査透過型顕微鏡層装置に収差補正装置17を搭載することにより、電子線プローブ形状のデフォーカスによる広がりを低減し、共焦点法における深さ方向の情報をピンポイントで計測することが可能になる。さらに色収差の影響による焦点深度の広がりを低減するため、対物レンズの色収差を収差補正装置17により補正しているので、試料40の深さ方向の情報を、原子レベルでレイヤーバイレイヤーでの計測をすることができる。
【0028】
しかしながら、共焦点走査透過電子顕微鏡法では、色収差の影響を低減するだけでは、特定の試料厚さや原子種により構成された材料や薄膜にしか適用することができない。そこで収差調整装置18による収差補正において色収差係数を最適化することにより、焦点深度を制御することが必要になる。
【0029】
例えば、基板上に成長させた薄膜の配向性や、基板表面に原子と成長させた薄膜の原子位置の整合性を計測する場合、色収差を補正することで最適な焦点深度で観察した場合、基板レイヤーと薄膜レイヤーの両方を2回観察した像を比較しなければならない。その場合、計測間における試料40のドリフト等の影響により試料の位置がずれる可能性があり、正確な原子位置の比較ができない。そこで、互いに異なった深さのレイヤーが一画像で観察できる焦点深度になるように色収差係数を調整することで確実な原子位置の比較が可能となる。
【0030】
次に、図2を参照して、焦点深度調整方法を概念的に説明する。図2(a)は焦点深度の照射半角度α依存性の説明図であり、左から右にかけて照射半角度αを変化させているように、焦点深度は、照射半角度αを小さくすることにより深くなり、反対に大きくすると浅くなる。
【0031】
図2(b)は、焦点深度の色収差依存性の説明図であり、左から右にかけて色収差を変化させているように、色収差が小さければ焦点深度は浅くなり、大きいと深くなる。このように、照射半角度αと色収差を調整することで焦点深度を制御することができる。
【0032】
図3は、球面収差と色収差を0に補正した条件でシミュレーション計算を行った連続スルーフォーカス像であり、それぞれの図の右側は強度が弱い部分のコントラストを強調して表示した図となっている。
【0033】
図3(a)は、34nmの厚さのSi上に6nmのAu膜を設けた構造モデルの連続スルーフォーカス像であり、図3(b)は14nmのSi上に6nmのAu膜を介して20nmのSiを設けた構造モデルの連続スルーフォーカス像である。さらに、図3(c)は、34nmの厚さのSi上に6nmのAu膜を設けた構造モデルを裏側から観察した連続スルーフォーカス像である。
【0034】
AuはSiより質量数が大きいので、最も高い強度を示すレイヤーの位置はAu原子層となる。図3(a)では、表面のAu原子層とその下のSi原子層が−40nmの焦点外れ量の位置まで明瞭に見られることがわかる. また, 焦点外れ量を12nm程度までアンダーフォーカス側に変化させるとSi原子層のみの原子像を観察することができる。
【0035】
しかしながら, 図3(c)のようにAu原子層の前面に厚いSi原子層がある場合、焦点外れ量(デフォーカス量)Δfが0の位置でもSi原子層に対応した強いコントラストが生じていることが分かる. また色収差係数が0の場合、焦点外れ量が0 からわずかでも外れた場合は、電子線プローブの形状が複雑に変化するため、偽像が生じやすくなる。
【0036】
今回の結果でも図3(b)及び図3(c)において矢印で示された位置にAu原子層でもSi原子層でもない構造像が示されている。このことから、色収差を単純に補正しただけでは、共焦点走査透過型電子顕微鏡による正確な観察が実施できないことがわかる。
【0037】
図4は、色収差を2mmの条件で計算した連続スルーフォーカス像である。図4(a)ではAu原子層が可視化できる焦点外れ量の幅は色収差が存在する分だけ大きくなり、焦点外れ量が−20nm程度までずれてもAu原子の位置が可視できることが分かる。
【0038】
一方、焦点外れ量を−40nmまでずらせば、ほぼSi原子層のみの情報として構造像が得られることが分かる。焦点外れ量が−20nm付近ではAu原子構造に加えSiの原子構造も重なった様に見えている。
【0039】
図4(b)においては、焦点外れ量を−30nm程度にしたときに、Au原子層のみの構造像が可視化できているが、Si原子層の構造だけを抽出することはできていない。これは、色収差係数の影響で焦点外れ量が0であっても、焦点位置の20nm下にある重元素であるAuの影響を受けるためである。
【0040】
図4(c)では、試料の表面近傍に焦点を結んだ場合、Si原子層の構造を可視化することができている。これは色収差があっても34nm下にある重元素であるAu層の影響はほとんど受けないためである。フォーカスをさらにアンダー側にすることによって、AuとSiを組み合わせた構造像を示すことができる。
【0041】
以上、説明したように、各構造モデルのシミュレーション計算結果から、色収差係数を調整することによって、最適な焦点深度を決定し、共焦点走査透過型電子顕微鏡による3次元断層像観察が実現できる。
【0042】
図5は、本発明の実施の形態の3次元断層像観察方法のフローチャートである。まず、
:観察条件を設定する。次いで、
:設定した観察条件を制御/解析部の解析データメモリ領域にインプットし、インプットした観察条件に基づいて、レンズの光軸調整、球面収差Cの補正を行う。次いで、S:評価用試料を挿入する。次いで、
:試料厚さ測定装置或いは分析装置を用いて評価試料の試料厚さ、材料構成、或いは、電子状態を測定する。測定した試料の厚さ、材料構成、結晶構造を解析データメモリ領域にインプットする。次いで、
:試料の厚さ、材料構成、結晶構造をパラメータとして共焦点スルーフォーカス像のシミュレーション計算を行う。なお、シミュレーションに関しては、上記の特許文献2に記載されている。これにより最適な焦点深度、デフォーカス量を決定し、最適焦点深度を解析データメモリ領域にインプットする。次いで、
:決定した最適な焦点深度、デフォーカス量に基づいて、収束レンズ絞りを選択して照射半角度αを設定する。
:次いで、最適な焦点深度になるように色収差係数の調整を行う。ここでは、単結晶試料を挿入し、色収差係数を計測する。なお、色収差係数測定方法は、上記の特許文献1に記載されている。色収差が設定値になるまで調整を続ける。次いで、
:観察目的にあったデフォーカス量、例えば、目的とする断層の部分のみを観察するのか或いは複数の層を同時に観察するのかに応じてデフォーカス量を設定する。次いで、S:共焦点デフォーカス連続像を撮影する。
【0043】
図6は、照射半角度αと取り込み角度βの説明図である。試料40に対する照射半角度αは、収束レンズ13,14と収束レンズ絞り15によって決定される。取り込み角度βは、試料40から散乱された電子を取り込む明視野像として取り込む角度であり、ここでは、吸収コントラストが支配的になるように、高取り込み角度である10mrad以上とする。
【0044】
また、暗視野像の取り込み角度は、βinner-outerで表わされ、取り込み角度の内角βinnerは、Zコントラストが支配的になるように、高取り込み角度である50mrad以上とする。なお、取り込み角度の外角βouterは、150mrad以上とする。
【実施例1】
【0045】
以上を前提として、次に、図7乃至図9を参照して、本発明の実施例1の3次元断層像観察方法を説明する。図7は、試料とデフォーカス量Δfの説明図であり、試料40として、(001)主面のSi基板41上に、1.5nmのSiO膜42を介して厚さが5nmのHfO膜43を設けた試料を用いた。なお、HfO膜43上には接着剤44が設けられている。
【0046】
ここでは、上記の材料組成、膜厚をパラメータとして共焦点スルーフォーカス像のシミュレーションを行って、球面収差Cを500nmとし、色収差Cが1.7mmになるように調整した。デフォーカス量Δfとしては、HfO膜43の表面にジャストフォーカスするΔf=0、内部20nmにフォーカスするΔf=−20nm、内部40nmにフォーカスするΔf=−40nmとした。
【0047】
明視野像としては、取り込み角度β=16mradとし、高角明視野像LABF(Large Angle Bright Field)として、吸収コントラストが支配的になるように設定した。一方、暗視野像は取り込み角度βinner-outerを70mrad−185mradとし、高角環状暗視野像HAADF(High Angle Annular Dark Field)として、Zコントラストが支配的になるように設定した。
【0048】
図8は、収差補正STEMの共焦点デフォーカス連続像であり、上段の図8(a)乃至図8(c)はデフォーカス量Δfを夫々、0,−20nm,−40nmとした高角明視野像LABFである。また、下段の図8(d)乃至図8(f)はデフォーカス量Δfを夫々、0,−20nm,−40nmとした高角環状暗視野像HAADFである。
【0049】
図に示すように、吸収コントラスト像であるLABFとZコントラスト像であるHAADFでは、デフォーカスすることによって、左から順にHfO層43、HfO層43+Si基板41の混合像、Si基板41を別々に識別することができている。したがって、観察対象に応じてデフォーカス量を設定して焦点深度を最適化すれば良い。なお、アモルファスであるSiO膜42及び接着剤44は各コントラスト像には現れない。
【0050】
図9は、低取り込み角度による収差補正STEMの共焦点デフォーカス連続像を参考のために示したものである。ここでは、球面収差補正及び色収差補正は、図8の場合と同じにして、明視野像としては、取り込み角度β=7mradとし、明視野像BF(Bright Field)を撮像した。一方、暗視野像は取り込み角度βinner-outerを30mrad−125mradとし、環状暗視野像ADF(Annular Dark Field)を撮像した。
【0051】
図9の場合も、上段の図9(a)乃至図9(c)はデフォーカス量Δfを夫々、0,−20nm,−40nmとした明視野像BFである。また、下段の図9(d)乃至図9(f)はデフォーカス量Δfを夫々、0,−20nm,−40nmとした環状暗視野像ADFである。
【0052】
通常のBF−STEM条件では、吸収コントラストではなく位相コントラストが支配的であるため、試料ボリュームの大きいSi基板41の構造しか識別することができない。また、ADF−STEMでは、アンダー側に大きくデフォーカスしてもHfO膜43の構造を引きずった像しか得られていないことがわかる。
【0053】
このように、共焦点走査透過型電子顕微鏡による三次元断層像観察を行う場合は、検出器の取り込み角度β、βinner-outerの設定も重要となってくることがわかる。
【0054】
ここで、実施例1を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を開示する。
(付記1)
電子を放出する電子源と、
前記電子源から放出された電子を加速する手段と、
前記加速された電子線を試料上に収束させる収束レンズと、
前記電子線を前記試料表面上に走査するための走査コイルと、
前記試料表面に焦点を合わせるための対物レンズと、
前記試料により散乱された電子線の取り込み角度を制御するための投影レンズと、
走査顕微鏡像を取得するための走査顕微鏡像検出器と、
前記試料の組成および電子状態を分析する分析装置と、
前記試料厚さを計測するための計測部と、
前記対物レンズの焦点深度を調整する焦点深度調整手段と
を有し、前記対物レンズの前段に
前記対物レンズの球面収差を補正する球面収差補正装置と、
前記対物レンズの色収差を補正および調整する色収差補正装置と、
前記対物レンズの色収差係数を調整するための制御部と、
前記色収差係数を測定する測定部と
を有することを特徴とする共焦点走査透過型電子顕微鏡装置。
(付記2)
前記焦点深度調整手段は、前記対物レンズの色収差係数を調整することによって、焦点深度を調整させることを特徴とする付記1に記載の共焦点走査透過型電子顕微鏡装置。
(付記3)
前記焦点深度調整手段は、前記試料への電子線照射角度を前記収束レンズで調整することにより焦点深度を調整させることを特徴とする付記1に記載の共焦点走査透過型電子顕微鏡装置。
(付記4)
前記試料厚さを計測するための計測部における計測方法が、電子エネルギー損失分光法或いは収束電子線回折法のいずれかであることを特徴とする付記1乃至付記3のいずれか1に記載の共焦点走査透過型電子顕微鏡装置。
(付記5)
前記試料の組成および電子状態を分析する分析装置が、電子エネルギー損失分光装置或いはエネルギー分散型X線装置のいずれかであることを特徴とする付記1乃至付記4のいずれか1に記載の共焦点走査透過型電子顕微鏡装置。
(付記6)
電子を放出する電子源と、
前記電子源から放出された電子を加速する手段と、
前記加速された電子線を試料上に収束させる収束レンズと、
前記電子線を前記試料表面上に走査するための走査コイルと、
前記試料表面に焦点を合わせるための対物レンズと、
前記試料により散乱された電子線の取り込み角度を制御するための投影レンズと、
走査顕微鏡像を取得するための走査顕微鏡像検出器と、
前記試料の組成および電子状態を分析する分析装置と、
前記試料厚さを計測するための計測部と、
前記対物レンズの焦点深度を調整する焦点深度調整手段と
を有し、前記対物レンズの前段に
前記対物レンズの球面収差を補正する球面収差補正装置と、
前記対物レンズの色収差を補正および調整する色収差補正装置と、
前記対物レンズの色収差係数を調整するための制御部と、
前記色収差係数を測定する測定部と
を有することを特徴とする共焦点走査透過型電子顕微鏡装置を用いた3次元断層像観察方法であって、
前記対物レンズの焦点深度を調整する焦点深度調整手段により、目的とする断層の部分或いは複数の層を同時に観察するために、前記試料の材料の構成、厚さ、焦点量をパラメータとして電子線散乱強度計算を行うことにより、投影方向に対する断層像を予測して焦点深度を最適化することを特徴とする3次元断層像観察方法。
(付記7)
前記走査顕微鏡像検出器の取り込み角度を、明視野観察においては10mrad以上とし、暗視野観察においては取り込み角度の内角が50mrad以上に設定して、走査顕微鏡像を観察することを特徴とする付記6に記載の3次元断層像観察方法。
(付記8)
前記走査顕微鏡像の観察において、フォーカスをステップ状に連続的に調整して観察を行い、得られた連続フォーカスステップ像を解析することにより、任意の断層像を取りだすことを特徴とする付記7に記載の3次元断層像観察方法。
【符号の説明】
【0055】
10 電子線
11 電界放射型電子銃
12 加速手段
13,14 収束レンズ
15 収束レンズ絞り
16 走査コイル
17 収差補正装置
18 対物レンズ
19 投影レンズ
20 走査顕微鏡像検出器
21 試料厚さ測定装置
22 分析装置
23 制御/解析部
40 試料
41 Si基板
42 SiO
43 HfO
44 接着剤
51 対物レンズ
52 電子線
53 焦点面
54 球面収差補正装置
55 プローブ
56 色収差補正装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出する電子源と、
前記電子源から放出された電子を加速する手段と、
前記加速された電子線を試料上に収束させる収束レンズと、
前記電子線を前記試料表面上に走査するための走査コイルと、
前記試料表面に焦点を合わせるための対物レンズと、
前記試料により散乱された電子線の取り込み角度を制御するための投影レンズと、
走査顕微鏡像を取得するための走査顕微鏡像検出器と、
前記試料の組成および電子状態を分析する分析装置と、
前記試料厚さを計測するための計測部と、
前記対物レンズの焦点深度を調整する焦点深度調整手段と
を有し、前記対物レンズの前段に
前記対物レンズの球面収差を補正する球面収差補正装置と、
前記対物レンズの色収差を補正および調整する色収差補正装置と
を設けるとともに、
前記対物レンズの色収差係数を調整するための制御部と、
前記色収差係数を測定する測定部と
を有することを特徴とする共焦点走査透過型電子顕微鏡装置。
【請求項2】
前記焦点深度調整手段は、前記対物レンズの色収差係数を調整することによって、焦点深度を調整させることを特徴とする請求項1に記載の共焦点走査透過型電子顕微鏡装置。
【請求項3】
前記焦点深度調整手段は、前記試料への電子線照射角度を前記収束レンズで調整することにより焦点深度を調整させることを特徴とする請求項1に記載の共焦点走査透過型電子顕微鏡装置。
【請求項4】
電子を放出する電子源と、
前記電子源から放出された電子を加速する手段と、
前記加速された電子線を試料上に収束させる収束レンズと、
前記電子線を前記試料表面上に走査するための走査コイルと、
前記試料表面に焦点を合わせるための対物レンズと、
前記試料により散乱された電子線の取り込み角度を制御するための投影レンズと、
走査顕微鏡像を取得するための走査顕微鏡像検出器と、
前記試料の組成および電子状態を分析する分析装置と、
前記試料厚さを計測するための計測部と、
前記対物レンズの焦点深度を調整する焦点深度調整手段と
を有し、前記対物レンズの前段に
前記対物レンズの球面収差を補正する球面収差補正装置と、
前記対物レンズの色収差を補正および調整する色収差補正装置と
を設けるとともに、
前記対物レンズの色収差係数を調整するための制御部と、
前記色収差係数を測定する測定部と
を有する共焦点走査透過型電子顕微鏡装置を用いた3次元断層像観察方法であって、
前記対物レンズの焦点深度を調整する焦点深度調整手段により、目的とする断層の部分或いは複数の層を同時に観察するために、前記試料の材料の構成、厚さ、焦点量をパラメータとして電子線散乱強度計算を行うことにより、投影方向に対する断層像を予測して焦点深度を最適化することを特徴とする3次元断層像観察方法。
【請求項5】
前記走査顕微鏡像検出器の取り込み角度を、明視野観察においては10mrad以上とし、暗視野観察においては取り込み角度の内角が50mrad以上に設定して、走査顕微鏡像を観察することを特徴とする請求項4に記載の3次元断層像観察方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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