説明

共用光学レンズ系および光学レンズ系の共用取り付け方法

【課題】 簡単な構成で、高解像度のメガCCDと、通常の解像度を有するレギュラーCCDに共用できる光学レンズ系を提供する。
【解決手段】 任意の解像度の撮像装置に使用される共用光学レンズ系は、複数のレンズ群で構成され一定の焦点距離を有するレンズ系と、前記レンズ系と撮像装置の撮像面との間に挿入される交換可能な光学ローパスフィルタとを含む。光学ローパスフィルタは、使用される撮像装置の解像度にかかわりなく一定の厚さを有すし、(a)撮像装置の解像度を定義する画素ピッチに比例して決定される厚さの水晶体と、(b)水晶体の厚さの変化分を補償する厚さを有し、かつ所定の光透過特性(IRカット特性)を有する赤外カットフィルタとで構成される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はビデオカメラ等の撮像装置に用いられる、光学ローパスフィルタを含む光学レンズ系に関し、特に異なる解像度の撮像装置間で共用される光学レンズ系に関する。
【0002】
【従来の技術】ビデオカメラ等の撮像装置は、通常、撮像レンズと、CCD等の撮像素子の間に、ノイズ(偽信号)の抑制を目的とする光学ローパスフィルタが挿入されている。
【0003】図1は、一般的なビデオカメラで用いられる撮像光学ユニット100の一部省略断面図である。撮像光学ユニット100は、鏡筒101の中に、たとえば第1〜第4レンズ群(第3レンズ群は図示省略)102a〜102dで構成される撮像レンズを収納する。撮像レンズを通過した光は、CCDアレイ103上に配置される撮像素子(不図示)に入射する前に、光学ローパスフィルタ107を通過する。
【0004】光学ローパスフィルタ107は、水晶体105と、水晶体の出射面に貼り合わせられた赤外カットフィルタ106と、CCDアレイ103の解像度に応じて、水晶体105および赤外カットフィルタ106を通過した光の結像位置を調整するためのダミーガラス104を有する。
【0005】水晶体は複屈折性を有し、入射光線を空間的に光路が離間した常光線109aと異常光線109bとに分離して出射する。この複屈折による分離幅は、CCDアレイ103の画素ピッチに応じたものであり、被写体からの光のうち、CCDアレイ103の画素ピッチに近接する空間周波数成分が減衰されてCCDアレイ103の光電変換面に像が結ばれる。これにより、被写体の特定空間周波数と画素ピッチとの干渉に起因するサンプリングノイズ(偽信号)が抑制される。
【0006】また、水晶体105の出射面に位置する赤外カットフィルタ106は、入射光のうち近赤外域を中心とした波長の光を除去する。一般にビデオカメラに使用されている撮像素子の光の分光特性は、可視領域から近赤外域である950nmあたりまで延びているため、近赤外域を除去して、CCD等の撮像素子の波長感度特性を人間の視感度に近い特性に補正する必要があるからである。
【0007】具体的には、400〜520nmの光の透過率を極力高く、600nm〜950nmの光を極力吸収することのできるガラス材を赤外カットフィルタとして使用するが、ガラス材そのものの種類が限られており、ガラス材が決まると、赤外カットフィルタとして上述した光学特性を出すことのできる最良の厚さが一義的に決まってくる。
【0008】ところで、CCDアレイ103の画素ピッチは、ビデオカメラの解像度によって異なる。上述したように、光学ローパスフィルタ107の水晶体105は、CCDアレイ103の画素ピッチに対応する空間周波数成分を減衰させる目的で挿入されるので、水晶体105の厚さtは、使用されるビデオカメラの画素ピッチに応じて決定される。
【0009】具体的には、図2(a)に示すように、常光線と異常光線との分離幅dが、CCDアレイ103上のCCD111の配列ピッチにほぼ一致する場合に、被写体の空間周波数と画素ピッチとの干渉を排除できる。逆にいえば、分離幅dが画素ピッチにほぼ一致するように、水晶体105の厚さを設定する必要がある。
【0010】水晶体の厚さをt(mm)、分離幅をd(μm)とすると、一般に、d=5.88t (1)
の関係がある。
【0011】式(1)の関係を満たすように、使用するCCDアレイの画素ピッチに応じて、水晶体105の厚さtが選択されるのである。
【0012】解像度が比較的低い、すなわち画素ピッチが比較的広いCCDアレイで厚さt1の水晶体105を用いるとする。この場合、図2(b)の実線で示すように、入射光線は、水晶体105で複屈折し、厚さt’の赤外カットフィルタ106を通過して撮像面上の点Xで結像する。
【0013】次に、より高解像の、すなわち画素ピッチが狭いCCDアレイに光学ローパスフィルタ107を使用する場合は、その画素ピッチに対応する空間周波数の干渉を排除するために、水晶体の厚さをより薄いt2に設定する必要がある。しかし、赤外カットフィルタ106の厚さt’と、レンズ系102自体の焦点距離は一定なので、入射光線は図2(b)の破線で示すように複屈折して、撮像面より距離Δだけ手前の点Yで結像する。
【0014】撮像面上で結像しなくなると、画像がぼやけ、画質が損なわれる。したがって、焦点位置のずれΔ(Δ=0.26×(t2−t1))を解消しなければならない。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】焦点位置のずれΔを解消するために、以下の3つの方法が用いられてきた。
【0016】(1) 図1に示すように、光学ローフィルタ107にΔの厚さに対応するダミーガラス104を挿入して、結像位置をXに一致させる。
【0017】(2) 解像度の異なる撮像装置ごとに、鏡筒101の設計を変更する。
【0018】(3) CCDアレイ103の保持部に取り外し可能のスペーサ(不図示)を挿入して、CCDアレイ103の撮像面を結像点Yに一致させる。
【0019】しかし、光学ローパスフィルタにローパスダミーガラス104を挿入すると、製造工程が増える上に、コストも高くなる。
【0020】鏡筒の設計を変更するには、金型自体の設計を変更する必要があり、金型の設計、作製のための費用がかかる。また、作製した鏡筒は、その光学ローパスフィルタを含む光学レンズ系専用にしか使用できない。
【0021】CCDアレイ103の保持部にスペーサを挿入して撮像面の位置を調整する方法では、部品コストが余分にかかるうえに、スペーサとCCDアレイとの間の位置決めピンを要するため、位置精度が劣り、結果的に画質が劣る。
【0022】したがって、本発明では、鏡筒の設計を変えずに、かつ、余分な部品や構成要素を増やすことなく、光学ローパスフィルタを含めた一本のレンズ系で、解像度の異なるCCDアレイに共用できる光学レンズ系および共用方法を提供する。
【0023】
【課題を解決するための手段】解像度に応じた水晶体の厚さの変化にかかわらず結像位置を一定に保つには、光学ローパスフィルタ自体の厚さが一定であればよい。従来は、必要な厚さのダミーガラス104を挿入することによって、光学ローパスフィルタ107全体の厚さを一定にしていた。赤外カットフィルタ106は、所定の光透過特性を出すための厚さが一義的に決まっていたからである。
【0024】本発明では、ダミーガラスを用いずに、赤外カットフィルタの厚さそのものを調整して、結果的に光学ローパスフィルタの厚さが一定となるようにする。すなわち、水晶体の厚さの変化分を、赤外カットフィルタの厚さで補償するのである。たとえば、解像度のより低いビデオカメラで使用するために、水晶体の厚さを厚くした場合は、その厚さの変化分だけ、赤外カットフィルタの厚さを薄くして、トータルの光学ローパスフィルタの厚さを一定とする。
【0025】本発明の第1の態様において、任意の解像度の撮像装置に使用される共用光学レンズ系は、一定の焦点距離を有するレンズ部と、レンズ部と撮像装置の撮像面との間に挿入される交換可能な光学ローパスフィルタとを含む。光学ローパスフィルタは、使用される撮像装置の解像度にかかわりなく一定の厚さを有し、(a)撮像装置の解像度を定義する画素ピッチに比例して決定される厚さの水晶体と、(b)水晶体の厚さの変化分を補償する厚さを有し、かつ所定の光透過特性(IRカット特性)を有する赤外カットフィルタとで構成される。
【0026】この共用光学レンズ系は、追加の部品を必要とせず、鏡筒の設計を変更しなくとも、異なる解像度の撮像装置間で共用することができる。また、部品追加による誤差の蓄積がないので、高精度を維持できる。
【0027】さらに、スペーサやダミーガラスのための部品コストを削減できる。複数種類の撮像装置間で共用できるため、ロット数を増やして量産コストも低減できる。
【0028】本発明の第2の態様では、異なる解像度の撮像装置間での光学レンズ系の共用取り付け方法を提供する。この方法は、(a)第1の解像度を有する第1撮像装置の光学レンズ系に、第1の解像度に応じた第1の厚さの水晶体と、所定の光透過特性を有する赤外カットフィルタとで構成される、所定の厚さの第1光学ローパスフィルタを挿入する;
(b)第1光学ローパスフィルタに代えて、前記光学レンズ系に、第1の厚さと異なる第2の厚さの水晶体と、水晶体の厚さの変化分を補償する厚さかつ前記所定の光透過特性を示す別の赤外カットフィルタとで構成され、前記所定の厚さを有する第2光学ローパスフィルタを挿入する;そして(c)第2光学ローパスフィルタを含む光学レンズ系を、第2の解像度を有する第2撮像装置に取り付けるというステップを含む。
【0029】この方法では、新たに鏡筒のための金型設計や作製工程が不要であり、ダミーガラスやスペーサの製造、組み込みの工程も不要である。
【0030】
【発明の実施の形態】図3は、本発明の一実施形態に係る共用光学レンズ系10を示す。共用光学レンズ系10は、複数のレンズ群で構成され一定の焦点距離を有するレンズ系11と、前記レンズ系11と撮像装置の撮像面13との間に挿入される交換可能な光学ローパスフィルタ17とを含む。光学ローパスフィルタ17は、使用される撮像装置の解像度にかかわりなく一定の厚さTを有する。光学ローパスフィルタ17は、撮像装置の解像度を定義する画素ピッチに比例して決定される厚さの水晶体15と、水晶体15の厚さの変化分を補償する厚さを有し、かつ所定の光透過特性(IRカット特性)を有する赤外カットフィルタ16とで構成される。
【0031】図3(a)において、共用光学レンズ系10は、高解像度の、たとえば133万画素のビデオカメラに使用される態様にある。この場合、画素ピッチを2.8μmとする。水晶体15は一定の複屈折性を有するため、入射光線の分離幅dを、画素ピッチに合わせて選択する必要がある。実用面では、完全に分離幅と画素ピッチ(CCD撮像素子の格子幅)とが一致する設計もあるし、撮像素子の格子幅に対して分離幅を数%ほど高域に(すなわち狭く)設定する設計もあり、ケースバイケースで選択する。
【0032】今、水晶体の厚さをt(mm)、分離幅をd(μm)とすると、一般にt=d/5.88 (2)
の関係がある。
【0033】したがって、図3(a)の133万画素の例では、dの値を画素ピッチ2.8μmより若干小さく設定して式(2)に代入すると、水晶体15の厚さt1は、 t1=2.8×0.93/5.88=0.44mm (3)
となる。
【0034】このとき、赤外カットフィルタ16として、たとえばSCM504(住田光学製)を用いる。SCM504を用いたときの良好なIRカット特性を示すIRカットフィルタ16の厚さは、0.75mmである。光学ローパスフィルタ17のトータルの厚さTは、1.19mmとなる。この光学ローパスフィルタ17を共用光学レンズ系10に挿入して、133万画素のビデオカメラに使用すると、結像位置が正確で、干渉が低減され、かつIRカット特性が良好で色モアレ等のない良好な画像が得られる。
【0035】次に、図3(b)に示すように、この共用光学レンズ系10をスペーサやダミーガラスを用いず、かつ鏡筒の設計も変更することなく、一般的な63万画素のビデオカメラに使用する。63万画素のCCDアレイ13の画素ピッチは、3.8μmである。したがって、水晶体15の厚さを、画素ピッチ3.8μmに対応する厚さt2に設定する必要がある。この場合も、分離幅を若干高域に設定する例を用いると、 t2=3.8×0.96/5.88=0.62mm (4)
光学ローパスフィルタ27の厚さTを一定にして、結像位置を撮像面13上に維持するには、赤外カットフィルタの厚さを、 T−t2=1.19−0.62=0.57mm (5)
にしなければならない。図3(a)で使用したSCM504を、そのまま薄くするだけでは、ビデオカメラに必要な所定のIRカット特性が得られない。SCM504は厚さ0.75mmで最良のIR特性を示すからである。
【0036】そこで、厚さを0.57mmまで低減でき、かつ0.75mmのSCM504と同等のIRカット特性を有する赤外カットフィルタ26が必要になる。
【0037】本実施形態では、レギュラー解像度(63万画素)用の赤外カットフィルタ26として、厚さ0.57mmの松浪ガラス製のBS−15EDを使用する。この赤外カットフィルタは、厚さ0.75mmで最良のIR特性を示すSCM504に比較して、CuOの含有量が多く設定してある。したがって、0.57mmの薄さでも同様のIRカット特性を示す。
【0038】なお、光学ローパスフィルタ27自体の厚さは変わらず、トータルで1.19mmである。この光学ローパスフィルタ27を、図3(a)の光学ローパスフィルタに代えて、共用光学レンズ系10に挿入すると、63万画素のビデオカメラに好適に共用できる。
【0039】これをまとめると以下のようになる。
【0040】
解像度 水晶厚(mm) IRフィルタ(mm) 合計(mm)
63万画素 0.62 0.57(BS-15ED) 1.19133万画素 0.44 0.75(SCM504) 1.19 変化量 −0.18 +0.18
【0041】図4は、上述した2つのIRカットフィルタの分光特性グラフである。厚さ0.57mmのBS15EDを用いたレギュラーCCD用の光学ローパスフィルタの分光特性(光透過特性)を実線で、厚さ0.75mmのSCM504を用いたメガCCD用の光学フィルタの分光特性を破線で示す。いずれを用いた場合も、可視領域で90%近い透過率を維持し、550nmから赤外領域にかけて急激に光透過をカットする良好な特性を得ることができる。
【0042】このように、撮像素子の画素ピッチ、すなわち解像度に応じて決定される水晶体の厚さの変化分を補償するように、IRカットフィルタの厚さを決定し、決定した厚さにおいて、変更前のIRカット特性と同等の特性を示す素材のIRカットフィルタを選択する。これによって、光学ローパスフィルタのトータルの厚さを一定に維持する。
【0043】この構成によると、撮像装置の解像度に応じて水晶体の厚さが変わっても、光学ローパスフィルタのトータルの厚さは一定であり、結像位置が一定に維持される。したがって、結像位置を調整するためのダミーガラスや、結像位置に撮像面を合わせるためのスペーサが不要になる。鏡筒を再設計する必要もない。解像度に応じた光学ローパスフィルタを光学レンズ系に交換可能に挿入するだけで、光学レンズ系を異なる解像度の撮像装置間で共用して取り付けることが可能になる。
【0044】なお、上述した実施形態では、ズームレンズに光学ローパスフィルタを挿入した光学レンズ系を示したが、これに限定されず、単焦点のレンズにも適用可能であることはいうまでもない。
【0045】
【発明の効果】簡単な手法で、高解像度のメガCCDと、通常の解像度を有するレギュラーCCDに光学レンズ系を共用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的なビデオカメラの撮像光学系の概略断面図である。
【図2】撮像装置で使用される光学ローパスフィルタの作用を示す図であり、図2(a)は水晶体の複屈折性による入射光線の分離を、図2(b)は水晶体の厚さの変化による結像位置のずれを示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る共用光学レンズ系の概略図であり、図3(a)は高解像度用の光学ローパスフィルタを含む共用光学レンズ系を、図3(b)は通常の解像度用の光学ローパスフィルタに交換した共用光学レンズ系を示す図である。
【図4】図3の異なる解像度用の光学ローパスフィルタの光学透過特性を示すグラフである。
【符号の説明】
10 共用光学レンズ系
11 レンズ系
13 撮像面(CCDアレイ)
15 水晶体
16 赤外(IR)カットフィルタ
17 光学ローパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 任意の解像度の撮像装置に使用される共用光学レンズ系であって、一定の焦点距離を有するレンズ部と、前記レンズ部と、前記撮像装置の撮像面との間に挿入される交換可能な光学ローパスフィルタとを備え、前記光学ローパスフィルタは、使用される撮像装置の解像度にかかわりなく一定の厚さを有し、前記解像度を定義する画素ピッチに基づいて決定される厚さの水晶体と、前記解像度の変化に応じた水晶体の厚さの変化分を補償する厚さを有し、かつ所定の光透過特性を有する赤外カットフィルタとで構成されることを特徴とする共用光学レンズ系。
【請求項2】 第1の解像度を有する第1撮像装置の光学レンズ系に、前記第1の解像度に応じた第1の厚さの水晶体と、所定の光透過特性を有する赤外カットフィルタとで構成される、所定の厚さの第1光学ローパスフィルタを挿入するステップと、前記第1光学ローパスフィルタに代えて、前記光学レンズ系に、前記第1の厚さと異なる第2の厚さの水晶体と、前記水晶体の厚さの変化分を補償する厚さかつ前記所定の光透過特性を有する別の赤外カットフィルタとで構成され、前記所定の厚さを有する第2光学ローパスフィルタを挿入するステップと、当該第2光学ローパスフィルタを含む光学レンズ系を、第2の解像度を有する第2撮像装置に取り付けるステップとを含む、光学レンズ系の共用取り付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2003−279852(P2003−279852A)
【公開日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−79435(P2002−79435)
【出願日】平成14年3月20日(2002.3.20)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】