説明

共重合ポリエステルの製造方法

【課題】 アンチモン、ゲルマニウムおよびチタン系以外の金属成分を触媒の主たる金属成分とする重縮合触媒で色調、熱安定性を維持し、かつ重縮合速度が速く、品質と生産性を両立させた共重合ポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】 アルミニウムおよびその化合物から選ばれる少なくとも1種と、リン化合物から選択される少なくとも1種を含む重合触媒を用いて重縮合する共重合ポリエステルにおいて、ポリカルボン酸とポリオールとのエステル化反応により得られる下記式1を満たすオリゴマーに対して、融点が400℃以下もしくは非晶性のポリカルボン酸を添加し、下記式2を満たすオリゴマーを得、当該生成物を重縮合させることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
(式1)還元粘度≦0.4dl/g
(式2)55モル%≦ヒドロキシル末端基の割合≦75モル%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生産性が高められた共重合ポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステルは、機械的特性、及び化学的特性に優れている。また、要求に応じ、多種多様の酸/アルコールを選択して得られた高機能化した共重合ポリエステルはそれぞれの特性に応じて、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用、磁気テープ用、光学用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、塗料、接着剤、インキのバインダー、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用されている。
【0003】
一般にポリエステルはジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールおよび/またはそのエステル形成性誘導体とのエステル化反応もしくはエステル交換反応によってオリゴマー混合物を製造し、これを高温、真空下で触媒を用いて液相重縮合させ製造されている。
【0004】
従来から、このようなポリエステルの重縮合時に用いられるポリエステル重縮合触媒としては、アンチモンあるいはゲルマニウム、チタン化合物が広く用いられている。
【0005】
三酸化アンチモンは、安価で、かつ優れた触媒活性をもつ触媒であるが、これを主成分、即ち、実用的な重合速度が発揮される程度の添加量にて使用すると、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、ポリエステルに黒ずみや異物が発生する。
【0006】
アンチモン化合物以外で優れた触媒活性を有し、かつ上記の問題を有しないポリエステルを得ることの出来る触媒としては、ゲルマニウム化合物がすでに実用化されているが、この触媒は非常に高価であるという問題点や、重合中に反応系から系外へ留出しやすいため反応系の触媒濃度が変化し重合の制御が困難になるという課題を有しており、触媒主成分として使用することには問題がある。
【0007】
テトラアルコキシチタネートに代表されるチタン化合物を用いて製造されたポリエステルは溶融成形時に熱劣化を受けやすく、またポリエステルが著しく着色するという問題点を有する。
【0008】
以上のような経緯で、アンチモン、ゲルマニウムおよびチタン系以外の金属成分を触媒の主たる金属成分とする重縮合触媒であり、触媒活性に優れ、色調や熱安定性に優れかつ成形品の透明性に優れたポリエステルを与える重縮合触媒が望まれている。
【0009】
上記の要求に答える新規の重縮合触媒として、アルミニウム化合物とリン化合物とからなる触媒系が開示されており注目されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開2001−131276号公報
【特許文献2】特開2001−163963号公報
【特許文献3】特開2001−163964号公報
【特許文献4】特開2002−220446号公報
【0010】
また、上記重縮合触媒系によるポリエステルの製造方法に関して、該重縮合触媒系の好ましい添加時期が開示されている(例えば、特許文献5〜7参照)。
【特許文献5】特開2002−322250号公報
【特許文献6】特開2002−322255号公報
【特許文献7】特開2002−327052号公報
【0011】
上記重縮合触媒系で得られたポリエステルは、色調、透明性や熱安定性が良好であり、前記要求に答えるものである。しかし、重縮合速度においては十分に満足するレベルに到達しておらずその改善が強く嘱望されていた。重縮合速度を高める方法の一つとして、特許文献6ではエステル化により得られたオリゴマーにテレフタル酸を添加し、高温で再度エステル化することで特定の粘度条件、酸価条件、水酸基価条件、分子量条件、エステル化条件を満たすオリゴマーを得、当該生成物を重縮合させる製造方法が記載されている。しかし、特許文献6に記載の製造方法ではジカルボン酸とジオールとのエステル化反応により得られたオリゴマーにテレフタル酸を添加後、テレフタル酸の溶解性が悪い為、高温で長時間、エステル化しているが、共重合ポリエステルにおいては、高温で長時間、エステル化することにより、グリコール成分の組成制御やオリゴマーのヒドロキシル末端基の制御が難しくなる問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はアンチモン、ゲルマニウムおよびチタン系以外の金属成分を触媒の主たる金属成分とする重縮合触媒で色調、熱安定性を維持し、かつ重縮合速度が速く、品質と生産性を両立させた共重合ポリエステルの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果本発明に到達した。すなわち本発明は、アルミニウムおよびその化合物から選ばれる少なくとも1種と、リン化合物から選択される少なくとも1種を含む重合触媒を用いて重縮合する共重合ポリエステル樹脂の製造方法において、ポリカルボン酸とポリオールとのエステル化反応により得られる下記式1を満たすオリゴマーに対して、融点が400℃以下もしくは非晶性のポリカルボン酸を添加し、下記式2を満たすオリゴマーを得た後、当該オリゴマーを重縮合することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂の製造方法に関する。
(式1)還元粘度≦0.4dl/g
(式2)55モル%≦ヒドロキシル末端基の割合≦75モル%
【発明の効果】
【0014】
本発明の共重合ポリエステル製造方法は、従来技術に比べ、低温度、短時間でエステル化反応を進めることができるため、エステル化反応後の生成物の末端基組成を制御しやすく、グリコール組成変動も小さい。また、重縮合速度が速く、全体として高品質の共重合ポリエステル樹脂が得られ、さらにその生産性が飛躍的に高まることを見出したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に言う共重合ポリエステルとは、2種以上から成るポリカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とポリオールおよび/またはそのエステル形成性誘導体とから成るものをいう。一般的にはジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールおよび/またはそのエステル形成性誘導体を用いる。
【0016】
ジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、 テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0017】
これらのジカルボン酸のうちテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸が得られるポリエステルの物性等の点で好ましく、必要に応じて他のジカルボン酸を構成成分とする。
【0018】
これらジカルボン酸以外にも少量であれば多価カルボン酸を併用しても良い。該多価カルボン酸としては、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0019】
グリコールとしてはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1,12−ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール、などに例示される芳香族グリコールが挙げられる。
【0020】
これらのグリコールのうちエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0021】
これらグリコール以外に少量であれば多価アルコールを併用しても良い。該多価アルコールとしては、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0022】
また、ヒドロキシカルボン酸を併用しても良い。該ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4−ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0023】
また、環状エステルの併用も許容される。該環状エステルとしては、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、β−メチル−β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0024】
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらの化合物のアルキルエステルやヒドロキシルアルキルエステル等が挙げられる。
【0025】
ジオールのエステル形成性誘導体としては、ジオールの酢酸等の低級脂肪族カルボン酸とのエステルが挙げられる。
【0026】
本発明の共重合ポリエステルの製造方法においては、まず、ジカルボン酸とジオールとのエステル化反応により得られるオリゴマーのヒドロキシル末端基の割合((ヒドロキシル末端基/全末端基)×100)が55〜75%を満たすオリゴマーを製造する必要がある。尚、ヒドロキシル末端基はオリゴマーの酸価(AVo)と水酸基価(OHVo)を滴定によって求め{OHVo/(OHVo+AVo)}×100の計算により算出した値とする。
【0027】
従来の触媒あるいは無触媒にて製造する際、ポリカルボン酸とポリオールのエステル化により得られるオリゴマーではヒドロキシル末端基の割合が高い。これを本発明のようなアルミニウムおよびその化合物から選ばれる少なくとも1種と、フェノール系化合物から選択される少なくとも1種を含む重合触媒を用いて重縮合する共重合ポリエステル樹脂に応用した場合、重縮合速度が低くなってしまう。本発明においては、ポリカルボン酸とポリオールのエステル化より得られた還元粘度が0.4dl/g以下のオリゴマーに対し、さらにポリカルボン酸を添加し、引き続きエステル化工程を進行させることにより、ヒドロキシル末端基の割合が55〜75%のオリゴマーを得ることが出来る。オリゴマーの還元粘度の下限は特に限定されないが、0.01dl/g以上であることが望ましい。ヒドロキシル末端基の割合が55%未満であっても75モル%を超えても重縮合反応の時間が著しく長くなることがある。
【0028】
その際、融点の高いポリカルボン酸を添加するとエステル化工程で高温かつ長時間必要となるため、グリコール成分の組成制御やオリゴマーのヒドロキシル末端基の制御が難しくなる。
【0029】
そのため、本発明においては、エステル化により得られたオリゴマーに添加するポリカルボン酸として、非晶性もしくは融点が400℃以下のポリカルボン酸を添加することにより、エステル化温度およびエステル化時間を抑えることが出来る為、グリコール成分の組成制御やオリゴマーのヒドロキシル末端基の制御が容易になる。
【0030】
上記に挙げられた非晶性もしくは融点が400℃以下のポリカルボン酸としてはイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸が好ましい。
【0031】
次に本発明において用いる重縮合触媒について説明する。重合触媒はアルミニウムおよびその化合物から選ばれる少なくとも1種と、リン系化合物から選択される少なくとも1種を含むものである。アルミニウムないしアルミニウム化合物としては、金属アルミニウムのほか、公知のアルミニウム化合物は限定なく使用できる。
【0032】
アルミニウム化合物としては、具体的には、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニ
ウムエトキサイド、アルミニウムn−プロポキサイド、アルミニウムiso−プロポキサイド、アルミニウムn−ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso−プロポキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物及びこれらの部分加水分解物、アルミニウムのアルコキサイドやアルミニウムキレート化合物とヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、酸化アルミニウム、超微粒子酸化アルミニウム、アルミニウムシリケート、アルミニウムとチタンやケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物などが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩及びキレート化合物が好ましく、これらの中でもさらに酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネートがとくに好ましい。
【0033】
これらのアルミニウム化合物の中でも、アルミニウム含有量が高い酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムが好ましく、さらに溶解度の観点から酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムが好まし
い。さらに、装置を腐食しない観点から、酢酸アルミニウムの使用がとくに好ましい。
【0034】
ここで、水酸化塩化アルミニウムは一般にポリ塩化アルミニウムや塩基性塩化アルミニウムなどとも呼ばれるものの総称であり、水道用に使われるものなどが使用できる。これらは、例えば一般構造式[Al2(OH)nl6-nm(ただし1≦n≦5)で表される。これらの中でも、装置を腐食しない観点から塩素含有量の少ないものが好ましい。
【0035】
上記の酢酸アルミニウムは、塩基性酢酸アルミニウム、トリ酢酸アルミニウム、酢酸アルミニウム溶液などに代表される酢酸のアルミニウム塩の構造を有するものの総称であり、これらの中でも、溶解性および溶液の安定性の観点から、塩基性酢酸アルミニウムの使用が好ましい。塩基性酢酸アルミニウムの中でも、モノ酢酸アルミニウム、ジ酢酸アルミニウム、あるいはこれらがホウ酸で安定化されたものが好ましい。ホウ酸で安定化されたものを用いる場合、塩基性酢酸アルミニウムに対して等モル以下の量のホウ酸で安定化されたものを用いることが好ましく、とくに1/2〜1/3モル量のホウ酸で安定化された塩基性酢酸アルミニウムの使用が好ましい。塩基性酢酸アルミニウムの安定剤としては、ホウ酸以外に尿素、チオ尿素などが挙げられる。
【0036】
上記のアルミニウムまたはアルミニウム化合物は粉末状で添加しても良いが、スラリー状あるいは溶液状で添加するのが好ましい。特に溶液状で添加するのが触媒活性や得られるポリエステルの品質の観点から好ましい。すなわち、水やグリコールなどの溶媒に可溶化したもの、特に、水および/またはエチレングリコールに可溶化したものを用いることが好ましい。
【0037】
以下にアルミニウム化合物の溶解方法を例示する。
(1)塩基性酢酸アルミニウムの水溶液の調製例
塩基性酢酸アルミニウムに水を加え50℃以下で3時間以上攪拌する。攪拌時間は、6時間以上であることが更に好ましい。その後、60℃以上で数時間以上攪拌を行う。この場合の温度は、60〜100℃の範囲であることが好ましい。攪拌時間は、1時間以上であることが好ましい。水溶液の濃度は、10g/l〜30g/lが好ましく、とくに15g/l〜20g/lが好ましい。
【0038】
(2)塩基性酢酸アルミニウムのエチレングリコール溶液の調製例
上記の水溶液に対してエチレングリコールを加える。エチレングリコールの添加量は水溶液に対して容量比で0.5〜5倍量が好ましい。より好ましくは1〜3倍量である。該溶液を数時間常温で攪拌することで均一な水/エチレングリコール混合溶液を得る。その後、該溶液を加熱し、水を留去することでエチレングリコール溶液を得ることができる。温度は80℃以上が好ましく、200℃以下が好ましい。より好ましくは90〜150℃で数時間攪拌して水を留去することが好ましい。また留去の際に系を減圧にしても良い。減圧にすることで、より低温で迅速にエチレングリコールを留去することができる。つまり減圧下では80℃以下でも留去が可能となり、系に与える熱履歴をより少なくすることができる。
【0039】
(3)乳酸アルミニウムのエチレングリコール溶液の調製例
乳酸アルミニウムの水溶液を調製する。調製は室温下でも加熱下でもよいが室温下が好ましい。水溶液の濃度は20g/l〜100g/lが好ましく、50〜80g/lが特に好ましい。該水溶液にエチレングリコールを加える。エチレングリコールの添加量は水溶液に対して容量比で1〜5倍量が好ましい。より好ましくは2〜3倍量である。該溶液を常温で攪拌し均一な水/エチレングリコール混合溶液を得た後、該溶液を加熱し、水を留去することでエチレングリコール溶液を得ることができる。温度は80℃以上が好ましく、120℃以下が好ましい。より好ましくは90〜110℃で数時間攪拌して水を留去することが好ましい。
【0040】
本発明においてアルミニウムないしアルミニウム化合物の使用量としては、得られるポリエステルのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.001〜0.5モル%が好ましく、更に好ましくは0.005〜0.1モル%である。使用量が0.001モル%未満であると触媒活性が十分に発揮されない場合があり、使用量が0.5モル%以上になると、熱安定性や熱酸化安定性の低下、アルミニウムに起因する異物の発生や着色の増加が問題になる場合が発生する。この様にアルミニウム成分の添加量が少なくても本発明の重縮合触媒は十分な触媒活性を示す点に大きな特徴を有する。その結果熱安定性や熱酸化安定性が優れ、アルミニウムに起因する異物や着色が低減される。
【0041】
本発明において重縮合触媒を構成するリン化合物としては、特に限定はされないが、リン酸ならびにトリメチルリン酸、トリエチルリン酸、フェニルリン酸、トリフェニルリン酸等のリン酸エステル、亜リン酸ならびにトリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスファイト等の亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0042】
本発明においてより好ましいリン化合物は、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のリン化合物である。これらのリン化合物を用いることで触媒活性の向上効果が見られるとともに、ポリエステルの熱安定性等の物性が改善する効果が見られる。これらの中でも、ホスホン酸系化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0043】
本発明で言うホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物とは、それぞれ下記式(化1)〜(化6)で表される構造を有する化合物のことを言う。
【0044】
【化1】

【0045】
【化2】

【0046】
【化3】

【0047】
【化4】

【0048】
【化5】

【0049】
【化6】

【0050】
本発明におけるホスホン酸系化合物としては、例えば、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、ベンジルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチルなどが挙げられる。本発明におけるホスフィン酸系化合物としては、例えば、ジフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸メチル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸メチル、フェニルホスフィン酸フェニルなどが挙げられる。本発明におけるホスフィンオキサイド系化合物としては、例えば、ジフェニルホスフィンオキサイド、メチルジフェニルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0051】
ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物の中では、本発明のリン化合物としては、下記式(化7)〜(化12)で表される化合物が好ましい。
【0052】
【化7】

【0053】
【化8】

【0054】
【化9】

【0055】
【化10】

【0056】
【化11】

【0057】
【化12】

【0058】
上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0059】
また、本発明においてリン化合物としては、下記一般式(化13)〜(化15)で表される化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が特に大きく好ましい。
【0060】
【化13】

【0061】
【化14】

【0062】
【化15】

【0063】
(式(化13)〜(化15)中、R1、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R2、R3はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。ただし、炭化水素基はシクロヘキシル等の脂環構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0064】
本発明においてリン化合物としては、上記式(化13)〜(化15)中、R1、R4、R5、R6が芳香環構造を有する基である化合物がとくに好ましい。
【0065】
本発明においてリン化合物としては、例えば、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、ベンジルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、ジフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸メチル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸メチル、フェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィンオキサイド、メチルジフェニルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらのうちで、フェニルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチルがとくに好ましい。
【0066】
上記したリン化合物の中でも、本発明では、リン化合物としてリンの金属塩化合物がとくに好ましい。リンの金属塩化合物とは、リン化合物の金属塩であれば特に限定はされないが、ホスホン酸系化合物の金属塩を用いると本発明の課題であるポリエステルの物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。リン化合物の金属塩としては、モノ金属塩、ジ金属塩、トリ金属塩などが含まれる。
【0067】
また、上記したリン化合物の中でも、金属塩の金属部分が、Li、Na、K、Be、Mg、Sr、Ba、Mn、Ni、Cu、Znから選択されたものを用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらのうち、Li、Na、Mgがとくに好ましい。
【0068】
本発明においてリンの金属塩化合物としては、下記一般式(化16)で表される化合物から選択される少なくとも一種を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0069】
【化16】

【0070】
(式(化16)中、R1は水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R2は、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R3は、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基またはカルボニルを含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。lは1以上の整数、mは0または1以上の整数を表し、l+mは4以下である。Mは(l+m)価の金属カチオンを表す。nは1以上の整数を表す。炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0071】
上記のR1としては、例えば、フェニル、1―ナフチル、2―ナフチル、9−アンスリル、4−ビフェニル、2−ビフェニルなどが挙げられる。上記のR2としては例えば、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、長鎖の脂肪族基、フェニル基、ナフチル基、置換されたフェニル基やナフチル基、−CH2CH2OHで表される基などが挙げられる。R3O−としては例えば、水酸化物イオン、アルコラートイオン、アセテートイオンやアセチルアセトンイオンなどが挙げられる。
【0072】
上記一般式(化16)で表される化合物の中でも、下記一般式(化17)で表される化合物から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0073】
【化17】

【0074】
(式(化17)中、R1は水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R3は、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基またはカルボニルを含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。lは1以上の整数、mは0または1以上の整数を表し、l+mは4以下である。Mは(l+m)価の金属カチオンを表す。炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0075】
上記のR1としては、例えば、フェニル、1―ナフチル、2―ナフチル、9−アンスリル、4−ビフェニル、2−ビフェニルなどが挙げられる。R3O−としては例えば、水酸化物イオン、アルコラートイオン、アセテートイオンやアセチルアセトンイオンなどが挙げられる。
【0076】
上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0077】
上記式(化17)の中でも、Mが、Li,Na、K、Be、Mg、Sr、Ba、Mn、Ni、Cu、Znから選択されたものを用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらのうち、Li、Na、Mgがとくに好ましい。
【0078】
本発明においてリンの金属塩化合物としては、リチウム[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、ナトリウム[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、カリウム[(2−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[(2−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、リチウム[ベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[ベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[ベンジルホスホン酸エチル]、ベリリウムビス[ベンジルホスホン酸エチル]、ストロンチウムビス[ベンジルホスホン酸エチル]、マンガンビス[ベンジルホスホン酸エチル]、ベンジルホスホン酸ナトリウム、マグネシウムビス[ベンジルホスホン酸]、ナトリウム[(9−アンスリル)メチルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[(9−アンスリル)メチルホスホン酸エチル]、ナトリウム[4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[4−クロロベンジルホスホン酸フェニル]、マグネシウムビス[4−クロロベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[4−アミノベンジルホスホン酸メチル]、マグネシウムビス[4−アミノベンジルホスホン酸メチル]、フェニルホスホン酸ナトリウム、マグネシウムビス[フェニルホスホン酸エチル]、亜鉛ビス[フェニルホスホン酸エチル]などが挙げられる。これらの中で、リチウム[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、ナトリウム[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル]、リチウム[ベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[ベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[ベンジルホスホン酸エチル]、ベンジルホスホン酸ナトリウム、マグネシウムビス[ベンジルホスホン酸]がとくに好ましい。
【0079】
上記したリン化合物の中でも、本発明では、リン化合物としてP−OH結合を少なくとも一つ有するリン化合物がとくに好ましい。これらのリン化合物を含有することでポリエステルの物性改善効果がとくに高まることに加えて、ポリエステルの重合時に、これらのリン化合物をアルミニウム化合物と共存して用いることで触媒活性の向上効果が大きく見られる。
P−OH結合を少なくとも一つ有するリン化合物とは、分子内にP−OHを少なくとも一つ有するリン化合物であれば特に限定はされない。これらのリン化合物の中でも、P−OH結合を少なくとも一つ有するホスホン酸系化合物を用いるとポリエステルの物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0080】
上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0081】
本発明においてP−OH結合を少なくとも一つ有するリン化合物としては、下記一般式(化18)で表される化合物から選択される少なくとも一種を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0082】
【化18】

【0083】
(式(化18)中、R1は水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R2は、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。nは1以上の整数を表す。炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0084】
上記のR1としては、例えば、フェニル、1―ナフチル、2―ナフチル、9−アンスリル、4−ビフェニル、2−ビフェニルなどが挙げられる。上記のR2としては例えば、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、長鎖の脂肪族基、フェニル基、ナフチル基、置換されたフェニル基やナフチル基、−CH2CH2OHで表される基などが挙げられる。
【0085】
上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0086】
本発明においてP−OH結合を少なくとも一つ有するリン化合物としては、(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル、(1−ナフチル)メチルホスホン酸、(2−ナフチル)メチルホスホン酸エチル、ベンジルホスホン酸エチル、ベンジルホスホン酸、(9−アンスリル)メチルホスホン酸エチル、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル、2−メチルベンジルホスホン酸エチル、4−クロロベンジルホスホン酸フェニル、4−アミノベンジルホスホン酸メチル、4−メトキシベンジルホスホン酸エチルなどが挙げられる。これらの中で、(1−ナフチル)メチルホスホン酸エチル、ベンジルホスホン酸エチルがとくに好ましい。
【0087】
本発明における好ましいリン化合物としては、化学式(化19)であらわされるリン化合物が挙げられる。
【0088】
【化19】

【0089】
(式(化19)中、R1は炭素数1〜49の炭化水素基、または水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基を含む炭素数1〜49の炭化水素基を表し、R2,R3はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0090】
また、更に好ましくは、化学式(化19)中のR1,R2,R3の少なくとも一つが芳香環構造を含む化合物である。
【0091】
これらのリン化合物の具体例を以下に示す。
【0092】
【化20】

【0093】
【化21】

【0094】
【化22】

【0095】
【化23】

【0096】
【化24】

【0097】
【化25】

【0098】
また、本発明におけるリン化合物は、分子量が大きいものの方が重合時に留去されにくいため効果が大きく好ましい。
【0099】
本発明におけるリン化合物は、フェノール部を同一分子内に有するリン化合物であることが好ましい。フェノール部を同一分子内に有するリン化合物を含有することでポリエステルの物性改善効果が高まることに加えて、ポリエステルの重合時にフェノール部を同一分子内に有するリン化合物を用いることで触媒活性を高める効果がより大きく、従ってポリエステルの生産性に優れる。
【0100】
フェノール部を同一分子内に有するリン化合物としては、フェノール構造を有するリン化合物であれば特に限定はされないが、フェノール部を同一分子内に有する、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物からなる群より選ばれる一種または二種以上の化合物を用いるとポリエステルの物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらの中でも、一種または二種以上のフェノール部を同一分子内に有するホスホン酸系化合物を用いるとポリエステルの物性改善効果や触媒活性の向上効果がとくに大きく好ましい。
【0101】
本発明におけるフェノール部を同一分子内に有するリン化合物としては、下記一般式(化26)〜(化28)で表される化合物が好ましい。
【0102】
【化26】

【0103】
【化27】

【0104】
【化28】

【0105】
(式(化26)〜(化28)中、R1はフェノール部を含む炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基およびフェノール部を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R4,R5,R6はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R2,R3はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基などの置換基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。ただし、炭化水素基は分岐構造やシクロヘキシル等の脂環構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。R2とR4の末端どうしは結合していてもよい。)
【0106】
本発明におけるフェノール部を同一分子内に有するリン化合物としては、例えば、p−ヒドロキシフェニルホスホン酸、p−ヒドロキシフェニルホスホン酸ジメチル、p−ヒドロキシフェニルホスホン酸ジエチル、p−ヒドロキシフェニルホスホン酸ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸メチル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸フェニル、p−ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸、p−ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸メチル、p−ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸フェニル、p−ヒドロキシフェニルホスフィン酸、p−ヒドロキシフェニルホスフィン酸メチル、p−ヒドロキシフェニルホスフィン酸フェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド、トリス(p−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイド、および下記式(化29)〜(化32)で表される化合物などが挙げられる。これらのうちで、下記式(化31)で表される化合物およびp−ヒドロキシフェニルホスホン酸ジメチルがとくに好ましい。
【0107】
【化29】

【0108】
【化30】

【0109】
【化31】

【0110】
【化32】

【0111】
上記の式(化31)にて示される化合物としては、SANKO−220(三光株式会社
製)があり、使用可能である。
【0112】
本発明におけるフェノール部を同一分子内に有するリン化合物の中でも、下記一般式(化33)で表される特定のリンの金属塩化合物から選択される少なくとも一種がとくに好ましい。
【0113】
【化33】

【0114】
((式(化33)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。R3は、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R4は、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基またはカルボニルを含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。R4O−としては例えば、水酸化物イオン、アルコラートイオン、アセテートイオンやアセチルアセトンイオンなどが挙げられる。lは1以上の整数、mは0または1以上の整数を表し、l+mは4以下である。Mは(l+m)価の金属カチオンを表す。nは1以上の整数を表す。炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0115】
これらの中でも、下記一般式(化34)で表される化合物から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0116】
【化34】

【0117】
(式(化34)中、Mn+はn価の金属カチオンを表す。nは1,2,3または4を表す。)
【0118】
上記式(化33)または(化34)の中でも、Mが、Li,Na、K、Be、Mg、Sr、Ba、Mn、Ni、Cu、Znから選択されたものを用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらのうち、Li、Na、Mgがとくに好ましい。
【0119】
本発明における特定のリンの金属塩化合物としては、リチウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸]、カリウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸]、ベリリウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸メチル]、ストロンチウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、バリウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸フェニル]、マンガンビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ニッケルビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、銅ビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、亜鉛ビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]などが挙げられる。これらの中で、リチウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、マグネシウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]がとくに好ましい。
【0120】
本発明におけるフェノール部を同一分子内に有するリン化合物の中でも、下記一般式(化35)で表されるP−OH結合を少なくとも一つ有する特定のリン化合物から選択される少なくとも一種がとくに好ましい。
【0121】
【化35】

【0122】
((式(化35)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。R3は、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。nは1以上の整数を表す。
炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0123】
これらの中でも、下記一般式(化36)で表される化合物から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0124】
【化36】

【0125】
(式(化36)中、R3は、水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。炭化水素基はシキロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0126】
上記のR3としては例えば、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、長鎖の脂肪族基、フェニル基、ナフチル基、置換されたフェニル基やナフチル基、−CH2CH2OHで表される基などが挙げられる。
【0127】
本発明におけるP−OH結合を少なくとも一つ有する特定のリン化合物としては、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸メチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸イソプロピル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸フェニル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸オクタデシル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸などが挙げられる。これらの中で、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸メチルがとくに好ましい。
【0128】
本発明におけるフェノール部を同一分子内に有するリン化合物の中でも、下記一般式(化37)で表される特定のリン化合物から選ばれる少なくとも一種のリン化合物が好ましい。
【0129】
【化37】

【0130】
(上記式(化37)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。R3、R4はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。nは1以上の整数を表す。炭化水素基はシクロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0131】
上記一般式(化37)の中でも、下記一般式(化38)で表される化合物から選択される少なくとも一種を用いるとポリエステルの物性改善効果や触媒活性の向上効果が高く好ましい。
【0132】
【化38】

【0133】
(上記式(化38)中、R3、R4はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜50の炭化水素基を表す。炭化水素基はシクロヘキシル等の脂環構造や分岐構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。)
【0134】
上記のR3、R4としては例えば、水素、メチル基、ブチル基等の短鎖の脂肪族基、オクタデシル等の長鎖の脂肪族基、フェニル基、ナフチル基、置換されたフェニル基やナフチル基等の芳香族基、−CH2CH2OHで表される基などが挙げられる。
【0135】
本発明における特定のリン化合物としては、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジイソプロピル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジ−n−ブチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジオクタデシル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジフェニルなどが挙げられる。これらの中で、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジオクタデシル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジフェニルがとくに好ましい。
【0136】
本発明におけるフェノール部を同一分子内に有するリン化合物の中でも、本発明でとくに望ましい化合物は、化学式(化39)、(化40)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種のリン化合物である。
【0137】
【化39】

【0138】
【化40】

【0139】
上記の化学式(化39)にて示される化合物としては、Irganox1222(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)が市販されており、また化学式(化40)にて示される化合物としてはIrganox1425(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)が市販されており、使用可能である。
【0140】
本発明においては、上記リン化合物が、予め水およびアルキレングリコールからなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒中で加熱処理されたものを用いることが好ましい実施態様である。該処理により前記のアルミニウムやアルミニウム化合物に上記のリン化合物を併用することによる重縮合触媒活性が向上すると共に、該重縮合触媒起因の異物形成性が低下する。
【0141】
リン化合物を予め加熱処理する時に使用する溶媒としては、水およびアルキレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であれば限定されず任意であるが、リン化合物を溶解する溶媒を用いることが好ましい。アルキレングリコールとしては、エチレングリコール等の目的とするポリエステルの構成成分であるグリコールを用いることが好ましい。溶媒中での加熱処理は、リン化合物を溶解してから行うのが好ましいが、完全に溶解していなくてもよい。また、加熱処理の後に、化合物がもとの構造を保持している必要はなく、加熱処理による変性で溶媒に対する溶解性が向上するものであっても構わない。
【0142】
加熱処理の温度は特に限定はされないが、20〜250℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは、100〜200℃の範囲である。温度の上限は、用いる溶媒の沸点付近とすることが好ましい。加熱時間は、温度等の条件によっても異なるが、溶媒の沸点付近の温度だと1分〜50時間の範囲であることが好ましく、より好ましくは30分〜10時間、さらに好ましくは1〜5時間の範囲である。加熱処理の系の圧力は常圧、もしくはそれ以上あるいは以下であってもよく特に限定されない。溶液の濃度は、リン化合物として1〜500g/lであることが好ましく、より好ましくは5〜300g/l、さらに好ましくは10〜100g/lである。加熱処理は窒素等の不活性気体の雰囲気下で行うことが好ましい。加熱後の溶液もしくはスラリーの保管温度は特に限定はされないが、0℃〜100℃の範囲であることが好ましく、20℃〜60℃の範囲であることがより好ましい。溶液の保管は窒素等の不活性気体の雰囲気下で行うことが好ましい。
【0143】
リン化合物を予め溶媒中で加熱処理する際に、アルミニウムまたはその化合物を共存してもよい。また、リン化合物を予め溶媒中で加熱処理したものに、本発明のアルミニウムまたはその化合物を粉状、溶液状、あるいはスラリー状として添加してもよい。さらに、添加後の溶液またはスラリーを加熱処理してもよい。これらの操作で得られた溶液もしくはスラリーを本発明の重縮合触媒として用いることが可能である。
【0144】
本発明におけるリン化合物の使用量としては、得られるポリエステルのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.0001〜0.5モル%が好ましく、0.005〜0.05モル%であることがさらに好ましい。
【0145】
本発明においては、上記のアルミニウムもしくその化合物とリン化合物を併用すれば実用性の高い重縮合触媒活性を発現することができるが、さらに少量のアルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物から選択される少なくとも1種を第2金属含有成分として共存させることが好ましい態様である。かかる第2金属含有成分を触媒系に共存させることは、ジエチレングリコールの生成を抑制する効果に加えて触媒活性を高め、従って反応速度をより高めた触媒成分が得られ、生産性向上に有効である。
【0146】
アルミニウム化合物にアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を添加して十分な触媒活性を有する触媒とする技術は公知である。かかる公知の触媒を使用すると熱安定性に優れたポリエステルが得られるが、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を併用した公知の触媒は、実用的な触媒活性を得ようとするとそれらの添加量が多く必要であり、アルカリ金属化合物を使用したときは得られるポリエステルの耐加水分解性が低下すると共にアルカリ金属化合物に起因する異物量が多くなり、繊維に使用したときには製糸性や糸物性が、またフィルムに使用したときはフィルム物性などが悪化する。またアルカリ土類金属化合物を併用した場合には、実用的な活性を得ようとすると得られたポリエステルの熱安定性が低下し、加熱による着色が大きく、異物の発生量も多くなり、耐加水分解性も低下する。
【0147】
アルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物を添加する場合、その使用量M(モル%)は、ポリエステルを構成する全ポリカルボン酸ユニットのモル数に対して、1×10-6以上0.1モル%未満であることが好ましく、より好ましくは5×10-6〜0.05モル%であり、さらに好ましくは1×10-5〜0.03モル%であり、特に好ましくは、1×10-5〜0.01モル%である。アルカリ金属、アルカリ土類金属の添加量が少量であるため、熱安定性低下、異物の発生、着色、耐加水分解性の低下等の問題を発生させることなく、反応速度を高めることが可能である。アルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物の使用量Mが0.1モル%以上になると熱安定性の低下、異物発生や着色の増加、並びに耐加水分解性の低下が製品加工上問題となる場合が発生する。Mが1×10-6未満では、添加してもその効果が明確ではない。
【0148】
本発明においてアルミニウムもしくはその化合物に加えて使用することが好ましい第2金属含有成分を構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属としては、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種であることが好ましく、このうちLi,Na,Mgないしその化合物から選択される少なくとも1種の使用がより好ましい。アルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物としては、例えば、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどとのキレート化合物、水素化物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。
【0149】
これらのアルカリ金属、アルカリ土類金属またはそれらの化合物のうち、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いる場合、これらはエチレングリコール等のジオールもしくはアルコール等の有機溶媒に溶解しにくい傾向があるため、水溶液で重合系に添加しなければならず重合工程上問題となる場合が有る。さらに、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いた場合、重合時にポリエステルが加水分解等の副反応を受け易くなるとともに、重合したポリエステルは着色し易くなる傾向があり、耐加水分解性も低下する傾向がある。従って、本発明のアルカリ金属またはそれらの化合物あるいはアルカリ土類金属またはそれらの化合物として好適なものは、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、不飽和脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン塩、ハロゲン含有カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸から選ばれる無機酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸塩、キレート化合物、及び酸化物である。これらの中でもさらに、取り扱い易さや入手のし易さ等の観点から、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、特に酢酸塩の使用が好ましい。
【実施例】
【0150】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、評価法は以下の方法で実施した。
【0151】
1、還元粘度(ηsp/c)の測定
ポリエステル樹脂0.10gをフェノール/テトラクロロエタン(60:40、重量比)混合溶媒25cm3に溶かし、ウベローデ粘度管を用いて、30℃で測定した。
【0152】
2、オリゴマーのAVo(酸価)の測定
オリゴマーを0.2g精秤し、20mlのクロロホルムに溶解し、0.1N−KOHエタノール溶液で、フェノールフタレインを指示薬として滴定し、樹脂106g当たりの当量(単位;eq/106g)を求めた。
【0153】
3、オリゴマーのOHVo(OH価)の測定
オリゴマー0.5gを精秤し、アセチル化剤(無水酢酸ピリジン溶液0.5モル/L)10mlを加え、95℃以上の水槽に90分間浸漬した。水槽から取り出した直後、純水10mlを添加し室温まで放冷した。フェノールフタレインを指示薬として0.2N−NaOH−CH3OH溶液で滴定した。試料を入れずにブランクも同じ作業を行う。なお事前に、N/10−塩酸20mlをフェノールフタレインを指示薬として0.2N−NaOH−CH3OH溶液で滴定し、該溶液のファクター(F)を下記式に従い求めておく。
F=0.1×f×20/a
(f=N/10−塩酸のファクター、a=滴定数(ml))
下記式に従って、OHVo(eq/ton)を算出する。
OHVo={(B−A)×F×1000/W}+AVo
(A=滴定数(ml),B=ブランクの滴定数(ml),F=N/5−NaOH−CH3OH溶液のファクター,W=試料の重さ(g))
【0154】
4、OHV%(ヒドロキシル末端基の割合)の算出
上記方法で求めたOHVoとAVoとより下記式に従って算出した。
OHV%={OHVo/(OHVo+AVo)}×100
【0155】
5、ポリエステル樹脂の組成
クロロホルム−d溶媒中ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ−200を用いて、1H−NMR分析を行ってその積分比より決定した。
【0156】
<重縮合触媒溶液の調製>
(リン化合物のエチレングリコール溶液)
窒素導入管、冷却管を備えたフラスコに、常温常圧下、エチレングリコール2.0リットルを加えた後、窒素雰囲気下200rpmで攪拌しながら、リン化合物として(化39)で表されるIrganox1222(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)の200gを加えた。さらに2.0リットルのエチレングリコールを追加した後、ジャケット温度の設定を196℃に変更して昇温し、内温が185℃以上になった時点から60分間還流下で攪拌した。その後加熱を止め、直ちに溶液を熱源から取り去り、窒素雰囲気下を保ったまま、30分以内に120℃以下まで冷却した。得られた溶液中のIrganox1222のモル分率は40%、Irganox1222から構造変化した化合物のモル分率は60%であった。
【0157】
(アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液)
冷却管を備えたフラスコに、常温常圧下、純水5.0リットルを加えた後、200rpmで攪拌しながら、塩基性酢酸アルミニウム(ヒドロキシアルミニウムジアセテート)の200gを純水とのスラリーとして加えた。さらに全体として10.0リットルとなるよう純水を追加して常温常圧で12時間攪拌した。その後、ジャケット温度の設定を100.5℃に変更して昇温し、内温が95℃以上になった時点から3時間還流下で攪拌した。攪拌を止め、室温まで放冷した。その際、未溶解粒子が見られた場合は、溶液をガラスフィルター(3G)にてろ過してアルミニウム化合物の水溶液を得た。
続いて、蒸留装置を備えたフラスコに、常温常圧下、前記アルミニウム化合物の水溶液2.0リットルとエチレングリコール2.0リットルを仕込み、200rpmで30分間攪拌後、均一な水/エチレングリコール混合溶液を得た。次いで、ジャケット温度の設定を110℃に変更して昇温し、該溶液から水を留去した。留出した水の量が2.0リットルになった時点で加熱を止め、室温まで放冷することでアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を得た。
【0158】
<実施例1>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50部、イソフタル酸40部、アジピン酸58部、エチレングリコール80部、ネオペンチルグリコール73部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、溜出する水を系外に除きつつ第1エステル化反応を行った。その後、還元粘度が0.4dl/g以下のオリゴマーを180℃以下に冷却し、イソフタル酸を10部仕込み、30分かけて190℃まで徐々に昇温し、第2エステル化反応を行った。第2エステル化で得られたオリゴマーをサンプリングし、オリゴマーのAVo(酸価)、OHVo(OH価)を測定し、OHV%(ヒドロキシル末端基の割合)を算出した。続いて、前記の重縮合触媒溶液を、リン化合物のエチレングリコール溶液およびアルミニウム化合物のエチレングリコール混合溶液をポリエステル中の酸成分に対してリン原子として0.04モル%を、アルミニウム原子として0.03モル%となるように添加した後、1時間かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うとともに270℃まで上昇し、さらに1mmHg以下で後期重合を行い、ポリエステル樹脂を得た。
【0159】
<実施例2>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50部、イソフタル酸50部、アジピン酸50部、エチレングリコール80部、ネオペンチルグリコール73部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、溜出する水を系外に除きつつ第1エステル化反応を行った。その後、還元粘度が0.4dl/g以下のオリゴマーを180℃以下に冷却し、アジピン酸を8部仕込み、30分かけて180℃まで徐々に昇温し、第2エステル化反応を行った。続いて、オリゴマーサンプリングおよびOHV%の算出、重縮合触媒溶液を添加する工程、重縮合工程は実施例1と同様に実施し、ポリエステル樹脂を得た。
【0160】
<実施例3>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸86部、イソフタル酸30部、セバシン酸47部、エチレングリコール81部、ネオペンチルグリコール73部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、溜出する水を系外に除きつつ第1エステル化反応を行った。その後、還元粘度が0.4dl/g以下のオリゴマーを180℃以下に冷却し、セバシン酸を13部仕込み、30分かけて160℃まで徐々に昇温し、第2エステル化反応を行った。続いて、オリゴマーサンプリングおよびOHV%の算出、重縮合触媒溶液を添加する工程、重縮合工程は実施例1と同様に実施し、ポリエステル樹脂を得た。
【0161】
<実施例4>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸55部、イソフタル酸30部、アゼライン酸80部、エチレングリコール124部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、溜出する水を系外に除きつつ第1エステル化反応を行った。その後、還元粘度が0.4dl/g以下のオリゴマーを180℃以下に冷却し、アゼライン酸を12部仕込み、30分かけて150℃まで徐々に昇温し、第2エステル化反応を行った。続いて、オリゴマーサンプリングおよびOHV%の算出、重縮合触媒溶液を添加する工程、重縮合工程は合成例1と同様に実施し、ポリエステル樹脂を得た。
ポリエステル樹脂の実施例1〜4の特性値を表1に示した。
【0162】
<比較例1>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸30部、イソフタル酸50部、アジピン酸58部、エチレングリコール80部、ネオペンチルグリコール73部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、溜出する水を系外に除きつつ第1エステル化反応を行った。その後、還元粘度が0.4dl/g以下のオリゴマーを180℃以下に冷却し、400℃を超える融点を有するテレフタル酸を20部仕込み、60分かけて260℃まで徐々に昇温し、第2エステル化反応を行った。続いて、オリゴマーサンプリングおよびOHV%の算出、重縮合触媒溶液を添加する工程、重縮合工程は実施例1と同様に実施し、ポリエステル樹脂を得た。
【0163】
<比較例2>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸65部、イソフタル酸30部、セバシン酸60部、エチレングリコール81部、ネオペンチルグリコール73部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、溜出する水を系外に除きつつ第1エステル化反応を行った。その後、還元粘度が0.4dl/g以下のオリゴマーを180℃以下に冷却し、400℃を超える融点を有するテレフタル酸を21部仕込み、60分かけて260℃まで徐々に昇温し、第2エステル化反応を行った。続いて、オリゴマーサンプリングおよびOHV%の算出、重縮合触媒溶液を添加する工程、重縮合工程は実施例1と同様に実施し、ポリエステル樹脂を得た。
【0164】
<比較例3>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸33部、イソフタル酸30部、アゼライン酸92部、エチレングリコール124部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、溜出する水を系外に除きつつ第1エステル化反応を行った。その後、還元粘度が0.4dl/g以下のオリゴマーを180℃以下に冷却し、400℃を超える融点を有するテレフタル酸を22部仕込み、60分かけて260℃まで徐々に昇温し、第2エステル化反応を行った。続いて、オリゴマーサンプリングおよびOHV%の算出、重縮合触媒溶液を添加する工程、重縮合工程は実施例1と同様に実施し、ポリエステル樹脂を得た。
【0165】
<比較例4>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50部、イソフタル酸35部、アジピン酸58部、エチレングリコール80部、ネオペンチルグリコール73部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、溜出する水を系外に除きつつ第1エステル化反応を行った。その後、還元粘度が0.4dl/g以下のオリゴマーを180℃以下に冷却し、イソフタル酸を15部仕込み、30分かけて190℃まで徐々に昇温し、第2エステル化反応を行った。続いて、オリゴマーサンプリングおよびOHV%の算出、重縮合触媒溶液を添加する工程、重縮合工程は実施例1と同様に実施し、ポリエステル樹脂を得た。
【0166】
<比較例5>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50部、イソフタル酸50部、アジピン酸58部、エチレングリコール80部、ネオペンチルグリコール73部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、溜出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。ポリカルボン酸を加えることなく、続いて、オリゴマーサンプリングおよびOHV%の算出、重縮合触媒溶液を添加する工程、重縮合工程は実施例1と同様に実施し、ポリエステル樹脂を得た。
ポリエステル樹脂の比較合成例1〜5の特性値を表2に示した。
【0167】
【表1】

【0168】
【表2】

【0169】
実施例1〜4のポリエステルの製造法は、エステル化時間が短く、かつ重縮合速度が速く、生産性が高い。また、共重合ポリエステル樹脂のグリコール組成の変動も見られない。一方、本発明外である比較例1〜4はエステル化時間が長く、重合速度も遅く、生産性が劣る。また、共重合ポリエステル樹脂のグリコール組成変動が大きい。比較例5においては、エステル化時間は短いが、重合速度が非常に遅い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の共重合ポリエステル製造方法は、従来技術に比べ、低温度、短時間でエステル化反応を進めることができるため、エステル化反応後の生成物の末端基組成を制御しやすく、グリコール組成変動も小さい。また、重縮合速度が速く、全体として高品質の共重合ポリエステル樹脂が得られ、さらにその生産性が飛躍的に高まる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムおよびその化合物から選ばれる少なくとも1種と、リン化合物から選択される少なくとも1種を含む重合触媒を用いて重縮合する共重合ポリエステル樹脂の製造方法において、ポリカルボン酸とポリオールとのエステル化反応により得られる下記式1を満たすオリゴマーに対して、融点が400℃以下もしくは非晶性のポリカルボン酸を添加し、下記式2を満たすオリゴマーを得た後、当該オリゴマーを重縮合することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
(式1)還元粘度≦0.4dl/g
(式2)55モル%≦ヒドロキシル末端基の割合≦75モル%
【請求項2】
融点が400℃以下もしくは非晶性のジカルボン酸が、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2006−291030(P2006−291030A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113475(P2005−113475)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】