説明

共重合ポリエステルの製造方法

【課題】イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを共重合し、かつポリエステルの劣化による異物の発生を抑制した共重合ポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体をエステル化またはエステル交換反応させた後、重縮合触媒の存在下で重縮合反応して、イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを共重合した融点が230℃以下、ガラス転移温度が50〜65℃であるポリエステルを製造するに際して、重縮合反応開始前までに数平均分子量が500〜2000のポリエチレングリコールと下記一般式(1)で示すリン化合物を得られるポリエステルに対してリン原子換算で1〜100ppm添加することを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを共重合し、かつポリエステルの劣化による異物の発生を抑制した共重合ポリエステルの製造方法である。さらに詳しくは、特定の分子量のポリエチレングリコールを共重合し、特定のリン化合物を添加することで異物の発生を抑制した共重合ポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソフタル酸成分およびポリエチレングリコール成分を含有する共重合ポリエステルは、優れた光学特性、結晶化特性、機械特性を有しており、液晶反射板用白色フィルム等様々な用途に広く使用されている。しかしながら、該ポリエステルは、イソフタル酸およびポリエチレングリコールを含有しているため、耐熱性および耐酸性に劣り、ポリエステルの劣化により異物が発生することにより白色フィルムの輝度低下や反射光にムラが生じるという問題がある。
【0003】
ポリエステルの異物を抑制する方法としては、例えば、特許文献1では、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物、特定のリン化合物、チタン化合物を使用する方法が、特許文献2では、オリゴマー含有量を減少させたポリエステルに、混練により水酸基を有しないリン酸エステル化合物を混練する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、前述の方法では、イソフタル酸成分およびポリエチレングリコール成分を含有する共重合ポリエステルにおいては効果が不十分であり、必ずしも十分な異物抑制効果が得られない課題がある。
【特許文献1】特開2004−359744号公報
【特許文献2】特開2007−204577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記した従来の課題を解決し、イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを重縮合反応開始前までの任意の段階で添加、共重合し、かつポリエステルの劣化による異物の発生を抑制した共重合ポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した、本発明の目的は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体をエステル化またはエステル交換反応させた後、重縮合触媒の存在下で重縮合反応して、イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを共重合した融点が230℃以下、ガラス転移温度が50〜65℃であるポリエステルを製造するに際して、重縮合反応開始前までに数平均分子量が500〜2000のポリエチレングリコールを添加しかつエステル化またはエステル交換反応終了から重縮合反応開始までの間に下記一般式(1)で示すリン化合物を、得られるポリエステルに対してリン原子換算で1〜100ppm添加することを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法によって達成される。
【0007】
【化1】

【0008】
(但し、式中、R、R、Rは炭素数1以上の炭化水素基である。Xはカルボニル基、エステル基のいずれかを示す。nは、0または1である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを共重合したポリエステルの劣化による異物の発生を抑制した共重合ポリエステルを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における共重合ポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分からなる芳香族ポリエステルに、イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを共重合した共重合ポリエステルをいう。イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを共重合する芳香族ポリエステルとしては従来公知の、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等を挙げることができ、これらのうちポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0011】
本発明の製造方法による共重合ポリエステルは、融点が230℃以下であることが必要である。融点が230℃を超える場合、フィルムの結晶性が高くなりフィルムの成形加工性が損なわれる。
【0012】
本発明の製造方法による共重合ポリエステルは、ガラス転移温度が50〜65℃であることが必要である。ガラス転移温度が50℃未満の場合、耐熱性が不足するため、製膜安定性が損なわれ、ガラス転移温度が65℃を超える場合、フィルムの結晶性が高くなりフィルムの成形加工性が損なわれる。
【0013】
本発明の製造方法では、前記した特性を与えるために、ポリエステルはイソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを共重合することが必要である。イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを共重合することにより、ポリエステルの融点およびガラス転移温度を、所定の範囲とすることができる。イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールの添加量については特に限定されないが、得られる共重合ポリエステルの熱特性の点から、添加量の合計が得られるポリエステルに対して1〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30重量%である。また、ポリエチレングリコールは重縮合反応開始前までに添加される必要があり、例えばエステル化またはエステル交換反応前にジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体と共に添加する方法や、エステル化またはエステル交換反応による反応生成物に添加する方法が挙げられる。
【0014】
本発明の製造方法では、異物抑制の観点から、数平均分子量が500〜2000のポリエチレングリコールを添加することが必要である。かかる範囲のポリエチレングリコールを共重合することにより、ポリエステルの劣化による異物の発生を抑制することが可能となる。
【0015】
数平均分子量が500未満の場合、ポリエチレングリコールの耐熱性が不足するため、熱劣化および酸化劣化により異物が発生し、本製造方法によって得られた共重合ポリエステルの異物抑制効果が得られなくなる。また、数平均分子量が2000を超える場合、融点をかかる範囲とするためにポリエチレングリコールを多量に添加する必要があり、ポリエステルの粘度やガラス転移温度等の物性に影響が生じる。本発明におけるポリアルキレングリコールの数平均分子量は、700〜1800の範囲が好ましく、さらには800〜1500の範囲が好ましい。
【0016】
また、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、共重合ポリエステルに他の共重合成分を添加してもよい。
【0017】
本発明の製造方法では、異物抑制の観点から、エステル化またはエステル交換反応終了から、重縮合反応開始までの間に、下記一般式(1)で示すリン化合物を、得られるポリエステルに対してリン原子換算で1〜100ppm添加することが必要である。一般的なリン化合物は、酸性または反応性の高い官能基を持つことにより、イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを共重合した共重合ポリエステルの劣化が促進され、異物発生の原因となる。そのため、下記一般式(1)で示すリン化合物を添加することで、異物の発生を抑制することが可能となる。好ましい添加量は5〜80ppmであり、より好ましくは10〜60ppmである。100ppmを超えるとリン化合物によるポリエステルの劣化が促進されて異物が発生し、1ppm未満では得られた共重合ポリエステルの色調や耐熱性が悪化する。
【0018】
【化1】

【0019】
(但し、式中、R、R、Rは炭素数1以上の炭化水素基である。Xはカルボニル基、エステル基のいずれかを示す。nは、0または1である。)
例えばトリメチルホスホノアセテート、メチルジエチルホスホノアセテート、エチルジメチルホスホノアセテート、トリエチルホスホノアセテート、トリエチル3−ホスホノプロピネート、トリエチル2−ホスホノプロピネート、トリエチル2−ホスホノブチレート、tert−ブチルジエチルホスホノアセテート、ジエチルホスホノ酢酸、トリメチル2−ホスホノアクリレート、トリエチル4−ホスホノクロトネート、アリールジエチルホスホノアセテート、ジメチル(3−オキソプロプル)ホスホネート、ジメチル(3−フェノキシアセトニル)ホスホネート、ジエチル(3−オキソプロプル)ホスホネート、ジエチル(2−オキソ−2−フェニルエチル)ホスホネート、ジエチル(ヒドロキシメチル)ホスホネート等を挙げることができる。上記したリン化合物は、一種のみ用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらのリン化合物を用いることで、ポリエステルの劣化による異物の発生を抑制することが可能となる。これらのリン化合物のうちでも特に、異物抑制の効果の点からトリエチルホスホノアセテートが好ましい。
【0020】
本発明の共重合ポリエステルの具体的な製造方法としては、例えばポリエチレンテレフタレートにイソフタル酸およびポリエチレングリコールを共重合したポリエステルについて説明すると、テレフタル酸、イソフタル酸およびポリエチレングリコールとエチレングリコ−ルとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチルおよびポリエチレングリコールとエチレングリコールとをエステル交換反応させる第1段階の反応と、この第1段階の反応生成物を重縮合反応させる第2段階とによって製造する方法等を挙げることができる。この際、反応触媒として、従来公知のアルカリ金属、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛、アンチモン、ゲルマニウム、チタン化合物等が用いられ、さらに下記一般式(1)で示すリン化合物が任意の段階で添加・配合される。
【0021】
【化1】

【0022】
本発明の製造方法では必要に応じて、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックスなどの有機滑剤あるいはポリシロキサンなどの消泡剤を添加してもよく、さらには滑り性などを付与する目的でクレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、湿式および乾式法シリカさらにはコロイド状シリカ、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナなどの無機粒子さらにはアクリル、スチレンなどを構成成分とする有機粒子等を添加してもよい。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0024】
(1)共重合ポリエステルのガラス転移温度、融点
測定するサンプルを約10mg秤量し、アルミニウム製パン、パンカバーを用いて封入し、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC7型)によって測定した。測定においては窒素雰囲気中で20℃から285℃まで16℃/分の速度で昇温した後液体窒素を用いて急冷し、再び窒素雰囲気中で20℃から285℃まで16℃/分の速度で昇温する。この2度目の昇温過程でガラス転移温度、融点を測定した。
【0025】
(2)共重合ポリエステルの異物個数
共重合ポリエステルをチップ状にし、10kgのポリエステルを観察して、ポリエステル中にある異物(最大直径100μm以上)の個数を確認した。
【0026】
(3)共重合ポリエステルの濾過性
濾過性試験機(中部化学機械製作所CN−25)を用いて、フィルター目開き40μmにおいて、ポリエステル組成物6kg通過時の圧力と初期圧力の差を濾過圧力ΔPとして判定した。濾過圧力が小さいほど、異物が少なく良好である。
【0027】
(4)共重合ポリエステルのゲル化物量
共重合ポリエステル1gを凍結粉砕して直径300μm以下の粉体状とし真空乾燥する。この試料を、オーブン中で、大気下、300度で2.5時間熱処理する。これを、50mlのオルトクロロフェノール(OCP)中、80〜150度の温度で0.5時間溶解させる。続いて、ブフナー型ガラス濾過器(最大細孔の大きさ20〜30μmで濾過し、洗浄・真空乾燥する。濾過前後の濾過器の重量の増分より、フィルターに残留したOCP不溶物の重量を算出し、OCP不溶物の共重合ポリエステル重量(1g)に対する重量分率を求め、ゲル化物量(%)とした。
【0028】
実施例1
テレフタル酸76重量部、イソフタル酸10重量部およびエチレングリコール39重量部とのエステル反応物即ちビスヒドロキシエチルテレフタレート(低重合体)をエステル化反応槽で255℃で溶融し、これにテレフタル酸76重量部、イソフタル酸10重量部およびエチレングリコール39重量部の組成からなる混合物を加え、255℃で攪拌しながらエステル化反応を行った。エステル化反応を続け、水の留出量がエステル化反応率で97%以上となる理論留出量に達したところで、テレフタル酸86重量部に相当する反応物を重合装置に移行した。重合装置に移行したテレフタル酸86重量部に相当する反応物に、トリエチルホスホノアセテート(TEPA)をリン原子換算で55ppmとなるように添加し、さらに三酸化アンチモンを0.040重量部、酢酸マグネシウム4水塩を0.060重量部添加した後、数平均分子量1000のポリエチレングリコール(PEG)6重量部を添加し、重合装置内容物を撹拌しながら減圧および昇温し、エチレングリコールを留出させながら重合をおこなった。なお、減圧は60分かけて常圧から133Pa以下に減圧し、昇温は60分かけて255℃から280℃まで昇温した。
【0029】
重合装置の撹拌トルクが所定の値に達したら重合装置内を窒素ガスにて常圧へ戻し、重合装置下部のバルブを開けてガット状のポリマーを水槽へ吐出した。水槽で冷却されたポリエステルガットはカッターにてカッティングし、共重合ポリエチレンテレフタレートチップを得た。
【0030】
得られた共重合ポリエステルの特性を表1に示す。本発明の共重合ポリエステルには異物は確認されず、濾過性によるΔPは0.1MPa、ゲル化物量は1.1%と良好であった。
【0031】
実施例2、3
PEGの数平均分子量を変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを重合した。結果を表1に示す。異物個数は2個および1個、濾過性によるΔPは共に0.1MPa、ゲル化物量は1.8%および1.3%と良好であった。
【0032】
実施例4
リン化合物をトリメチルホスホノアセテート(TMPA)に変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを重合した。結果を表1に示す。異物個数は2個、濾過性によるΔPは0.1MPa、ゲル化物量は1.7%と良好であった。
【0033】
実施例5〜8
TEPAの添加量を変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを重合した。結果を表1に示す。実施例1と同様、異物個数、濾過性によるΔP、ゲル化物量は良好であった。
【0034】
比較例1
実施例1の共重合ポリエステルの重合において、数平均分子量100のPEGを6重量部添加した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを重合した。結果を表1に示すが、PEGの数平均分子量が規定の範囲外であったため、異物個数が33個、濾過性によるΔPが1.1MPa、ゲル化物量が7.0%と不良であった。
【0035】
比較例2
実施例1の共重合ポリエステルの重合において、数平均分子量4000のPEGを8重量部添加した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを重合した。結果を表1に示すが、PEGの数平均分子量が規定の範囲外であったため、異物個数が32個、濾過性によるΔPが1.0MPa、ゲル化物量が9.2%と不良であった。
【0036】
比較例3
実施例1の共重合ポリエステルの重合において、リン化合物をリン酸(PA)に変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを重合した。結果を表1に示すが、特定のリン化合物を使用しなかったため、異物個数が45個、濾過性によるΔPが2.3MPa、ゲル化物量が12.3%と不良であった。
【0037】
比較例4、5
実施例1の共重合ポリエステルの重合において、TEPAの添加量を変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを重合した。結果を表1に示すが、TEPAの添加量が規定の範囲外であったため、異物個数が39個および36個、濾過性によるΔPが1.8MPaおよび1.2MPa、ゲル化物量が11.0%および8.4%と不良であった。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体をエステル化またはエステル交換反応させた後、重縮合触媒の存在下で重縮合反応して、イソフタル酸成分およびポリエチレングリコールを共重合した融点が230℃以下、ガラス転移温度が50〜65℃であるポリエステルを製造するに際して、重縮合反応開始前までに数平均分子量が500〜2000のポリエチレングリコールを添加し、かつエステル化またはエステル交換反応終了から重縮合反応開始までの間に下記一般式(1)で示すリン化合物を、得られるポリエステルに対してリン原子換算で1〜100ppm添加することを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法。
【化1】

(但し、式中、R、R、Rは炭素数1以上の炭化水素基である。Xはカルボニル基、エステル基のいずれかを示す。nは、0または1である。)
【請求項2】
リン化合物が、トリエチルホスホノアセテートであることを特徴とする、請求項1に記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られた共重合ポリエステル。

【公開番号】特開2010−120995(P2010−120995A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294045(P2008−294045)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】