説明

共重合体ラテックス組成物、紙塗工用組成物、及び塗工紙

【課題】塗工紙の印刷適性を維持しつつ、上記紙塗工用組成物の塗工操業性のうち、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性を良好にすることが可能な共重合体ラテックス組成物を提供する。
【解決手段】(a−1)脂肪族共役ジエン系単量体を30〜70質量%、(a−2)シアン化ビニル単量体を5〜40質量%、及び(a−3)エチレン性不飽和カルボン酸単量体を0.1〜10質量%含む単量体成分を乳化重合して得られる共重合体(A)ラテックスに含有され、かつ、数平均粒子径が50〜100nmである共重合体(A)と、(b−1)アミド基含有エチレン系不飽和単量体を70質量%以上含む単量体成分を重合して得られる重合体水溶液に含有される重合体(B)と、を含有するとともに、共重合体(A)及び重合体(B)の含有比が、質量比で99.8:0.2〜95:5である共重合体ラテックス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体ラテックス組成物、紙塗工用組成物、及び塗工紙に関し、更に詳しくは、塗工紙の印刷適性を維持しつつ、上記紙塗工用組成物の塗工操業性のうち、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性を良好にすることが可能な共重合体ラテックス組成物、この共重合体ラテックス組成物を含有する紙塗工用組成物、及びこの紙塗工用組成物により形成される塗工層を有する塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カタログ、ポスター、美術誌等の雑誌には、その外観や印刷適性を改良するために、顔料とバインダーとを含有する紙塗工用組成物を紙(塗工原紙)に塗工した塗工紙が用いている。そして、上記バインダーは、例えば、澱粉、ラテックスなどを含むものが一般的であり、上記紙塗工用組成物は、バインダー中にラテックスを含有させることにより、塗工紙を製造する際の塗工操業性が優れるとともに、得られる塗工紙の、印刷光沢、インク乾燥性、表面強度等の印刷適性が優れることが知られている。このような種々の特性を有するラテックスを含有する組成物は、多くの報告がなされている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−279336号公報
【特許文献2】特開2001−172894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2のラテックスは、ベトツキ防止性、カラー洗浄性等の塗工操業性について以下のような問題があった。例えば、ロールコーターにおいて紙塗工用組成物を紙に塗工する場合、塗工ロールにラテックスを含む紙塗工用組成物が固着してしまうことがあった。また、種々のコーターで紙塗工用組成物を塗工した塗工紙を乾燥工程に送る際のロール類にラテックスを含む紙塗工用組成物が付着してしまうという問題があった。特許文献1,2のラテックスは、上記問題点を有し、近年、塗工紙に求められている印刷適性を維持しつつ、上記塗工操業性のうち、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性を良好にするという点において未だ十分ではなかった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、印刷適性を維持しつつ、上記紙塗工用組成物の塗工操業性のうち、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性を良好にすることが可能な共重合体ラテックス組成物、この共重合体ラテックス組成物を含有する紙塗工用組成物、及びこの紙塗工用組成物により形成される塗工層を有する塗工紙を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、数平均粒子径が所定の範囲であり、所定量の単量体を含有する単量体成分を乳化重合させて得られる共重合体と、所定量の単量体を含有する単量体成分を重合させて得られる重合体と、を所定の含有比で有させることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、以下に示す共重合体ラテックス組成物、紙塗工用組成物、及び塗工紙が提供される。
【0008】
[1] (a−1)脂肪族共役ジエン系単量体を30〜70質量%、(a−2)シアン化ビニル単量体を5〜40質量%、及び(a−3)エチレン性不飽和カルボン酸単量体を0.1〜10質量%含む単量体成分を乳化重合して得られる共重合体(A)ラテックスに含有され、かつ、数平均粒子径が50〜100nmである共重合体(A)と、(b−1)アミド基含有エチレン系不飽和単量体を70質量%以上含む単量体成分を重合して得られる重合体水溶液に含有される重合体(B)と、を含有するとともに、前記共重合体(A)及び前記重合体(B)の含有比が、質量比で99.8:0.2〜95:5である共重合体ラテックス組成物。
【0009】
[2] 前記重合体(B)の重量平均分子量が、1,000〜50,000である前記[1]に記載の共重合体ラテックス組成物。
【0010】
[3] 前記共重合体(A)のガラス転移温度の少なくとも一点が、−100〜60℃の範囲に存在するとともに、前記共重合体(A)の示差熱量曲線における転移領域中の最低温度T1と最高温度T2との差(ΔT)が、30℃以上である前記[1]または[2]に記載の共重合体ラテックス組成物。
【0011】
[4] 前記重合体(B)が、ポリアクリルアミドである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の共重合体ラテックス組成物。
【0012】
[5] 前記[1]〜[4]いずれかに記載の共重合体ラテックス組成物を含有する紙塗工用組成物。
【0013】
[6] 前記[5]に記載の紙塗工用組成物により形成した塗工層を有する塗工紙。
【発明の効果】
【0014】
本発明の共重合体ラテックス組成物は、この共重合体ラテックス組成物を含有する紙塗工用組成物により形成した塗工層を備えた塗工紙における印刷適性を維持しつつ、上記紙塗工用組成物の塗工操業性のうち、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性を良好にすることが可能であるという効果を奏するものである。
【0015】
本発明の紙塗工用組成物は、この紙塗工用組成物により形成した塗工層を備えた塗工紙における印刷適性を維持しつつ、塗工操業性のうち、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性が良好であるという効果を奏するものである。
【0016】
本発明の塗工紙は、印刷適性を維持しつつ、この塗工紙を製造する際の塗工操業性、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性が良好であるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0018】
[1]共重合体ラテックス組成物:
本発明の共重合体ラテックス組成物は、(a−1)脂肪族共役ジエン系単量体(以下、「(a−1)単量体」と記す場合がある)を30〜70質量%、(a−2)シアン化ビニル単量体(以下、「(a−2)単量体」と記す場合がある)を5〜40質量%、及び(a−3)エチレン性不飽和カルボン酸単量体(以下、「(a−3)単量体」と記す場合がある)を0.1〜10質量%含む単量体成分を乳化重合して得られる共重合体(A)ラテックスに含有され、かつ、数平均粒子径が50〜100nmである共重合体(A)と、(b−1)アミド基含有エチレン系不飽和単量体を70質量%以上含む単量体成分を重合して得られる重合体水溶液に含有される重合体(B)と、を含有するとともに、上記共重合体(A)及び上記重合体(B)の含有比が、質量比で99.8:0.2〜95:5であるものである。
【0019】
このような共重合体ラテックス組成物により、塗工紙における印刷適性を維持しつつ、上記紙塗工用組成物の塗工操業性のうち、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性を良好にすることができる。
【0020】
上記共重合体(A)と上記重合体(B)との含有比は、質量比で、99.8:0.2〜95:5であり、99.7:0.3〜96:4であることが好ましく、99.5:0.5〜97:3であることが更に好ましい。上記含有比が99.8:0.2の範囲外である場合、即ち、重合体(B)の含有比が0.2未満であると、物性(特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性)の向上の程度が小さい傾向がある。一方、上記含有比が95:5の範囲外である場合、即ち、重合体(B)の含有比が5超であると、紙塗工用組成物の粘度が高くなり過ぎ、操業性低下するおそれがある。
【0021】
共重合体(A)と重合体(B)との合計量は、共重合体ラテックス組成物に対して、30〜70質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることが更に好ましい。上記合計量が30質量%未満であると、共重合体ラテックス組成物を含有してなる紙塗工用組成物の固形分が低くなり過ぎて取り扱いが困難になるおそれがある。一方、70質量%超であると、共重合体ラテックス組成物の粘度が高くなり過ぎて取り扱いが困難になるおそれがある。
【0022】
[1−1]共重合体(A):
共重合体(A)は、上記(a−1)〜(a−3)単量体を含む単量体成分(以下、「第一の単量体成分」と記す場合がある)を乳化重合して得られる共重合体(A)ラテックスに含有されるものであり、その数平均粒子径が50〜100nmである。このような共重合体(A)により、塗工時の高速流動性に優れ、また、塗工紙の表面強度等の印刷適性に優れるという利点がある。
【0023】
共重合体(A)の数平均粒子径は、50〜100nmであり、55〜95nmであることが好ましく、60〜90nmであることが好ましい。上記数平均粒子径が、50nm未満であると、共重合体(A)ラテックスの粘度が高くなり過ぎ、作業性が低下するおそれがある。一方、100nm超であると、表面強度、白紙光沢、印刷光沢などの印刷適正が低下するおそれがある。ここで、本明細書において、「数平均粒子径」とは、光散乱分析法により測定して得られる値のことである。この数平均粒子径は、例えば、大塚電子社製の粒子径測定装置「FPRA−1000(商品名)」によって測定することができる。
【0024】
なお、共重合体(A)は、そのガラス転移温度の少なくとも一点が、−100〜60℃の範囲に存在することが好ましく、−80〜55℃であることが更に好ましく、−70〜50℃であることが特に好ましい。上記ガラス転移温度が−100℃未満であると、ベトツキ防止性が良好に発揮されないおそれがある。一方、60℃超であると、共重合体(A)が硬くなり過ぎるため、バインダーとして塗工原紙に対する接着強度が不十分になるおそれがある。ここで、本明細書において、「ガラス転移温度」とは、共重合体(A)を含有する共重合体(A)ラテックスを100℃で20時間真空乾燥を行ってフィルムを作製し、この乾燥フィルムのガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量計(「DSC6100」、セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、ASTM法に準じて測定した値のことである。
【0025】
また、共重合体(A)は、その示差熱量曲線における転移領域中の最低温度T1と最高温度T2との差(ΔT)が、30℃以上であることが好ましく、35〜150℃であることが更に好ましく、40〜100℃であることが特に好ましい。上記差(ΔT)が30℃未満であると、広範な印刷速度範囲において印刷適正を高レベルに維持することが困難になるため、充分な印刷速度範囲が確保できなくなるおそれがある。また、塗工紙の表面強度及び耐衝撃性が低下し、高速印刷における変形速度の大きい、衝撃的な変形に対して耐えられなくなるおそれがある。即ち、塗工紙の強度が低下するおそれがある。
【0026】
ここで、本明細書において、「示差熱量曲線」とは、共重合体(A)をサンプルとして示差走査熱量計(例えば、セイコーインスツルメンツ社製の「DSC6100」)でガラス転移温度を測定したときに得られる曲線であり、「示差熱量曲線における転移領域」とは、示差熱量曲線におけるガラス転移領域であって、その範囲は、上記示差熱量曲線([温度]−[電力/時間]曲線)において、[電力/時間]の値が変化し始める温度から、[電力/時間]の値の一連の変化が終わる温度までを示す。
【0027】
別言すると、転移領域は、一定の温度領域にわたって幅広く広がった状態となるときの温度領域を意味する。この転移領域は、示差熱量曲線の微分曲線([温度]−[電力/時間]曲線)の上記温度領域において、転移領域のピーク部分(先端部分)の形状が、三角形の頂点部分のような形状ではなく、台形の上底のような幅広いピーク形状となったものである。
【0028】
このように、転移領域が幅広く広がった状態になる場合には、ASTM法に準じたガラス転移温度は複数観測できず、示差熱量曲線におけるガラス転移を示す領域全体が、ガラス転移領域(転移領域)としてとらえられる。
【0029】
上記示差熱量曲線が得られる共重合体(A)ラテックスに含有される共重合体(A)は、ガラス転移温度の異なる複数のポリマーから構成され、それぞれのガラス転移温度が連続的に並ぶように構成されていると考えられる。
【0030】
共重合体(A)は、そのトルエン不溶分が、50%以上であることが好ましく、70%以上であることが更に好ましく、80〜99%であることが特に好ましい。上記トルエン不溶分が50%未満であると、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性が低下するおそれがある。ここで、本明細書において「トルエン不溶分」とは、共重合体(A)ラテックスをイソプロパノールで凝固させて凝固物を得、得られた凝固物をトルエンに浸漬した後に得られる残存凝固物の量の、上記共重合体(A)ラテックスの全固形分に対する割合(%)をいう。
【0031】
上記第一の単量体成分は、(a−1)脂肪族共役ジエン系単量体、(a−2)シアン化ビニル単量体、及び(a−3)エチレン性不飽和カルボン酸単量体を所定量含む成分であり、これらの単量体以外に、これらの単量体と共重合可能な、第一のその他の単量体(以下、「(a−4)単量体」と記す場合がある)を含むことができる。
【0032】
[1−1−1](a−1)脂肪族共役ジエン系単量体:
(a−1)脂肪族共役ジエン系単量体とは、直鎖状または分岐状であり、置換され、または置換されていない脂肪族共役ジエン単量体である。このような単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等を挙げることができる。これらの中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。なお、これらは、単独でまたは2種以上を使用することができる。
【0033】
(a−1)単量体の含有量は、第一の単量体成分全体に対して、30〜70質量%であり、33〜60質量%であることが好ましく、35〜55質量%であることが更に好ましい。(a−1)単量体の含有量が、30質量%未満であると、共重合体(A)ラテックスが硬くなり過ぎるため、バインダーとして塗工原紙に対する接着強度が不十分になるおそれがある。一方、(a−1)単量体の含有量が、70質量%超であると、紙塗工用組成物により形成される塗工層が、柔らかくなり過ぎるため、ベトツキ防止性が不十分になるおそれがある。
【0034】
[1−1−2](a−2)シアン化ビニル単量体:
(a−2)シアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等を挙げることができる。これらの中でも、アクリロニトリルが好ましい。
【0035】
(a−2)単量体の含有量は、第一の単量体成分全体に対して、5〜40質量%であり、10〜35質量%であることが好ましく、15〜33質量%であることが更に好ましい。(a−2)単量体の含有量が、5質量%未満であると、耐インク溶剤性が低下するため、印刷光沢が低下するおそれがある。一方、(a−2)単量体の含有量が、40質量%超であると、共重合体(A)ラテックスが硬くなり過ぎるため、バインダーとして塗工原紙に対する接着強度が不十分になるおそれがある。
【0036】
[1−1−3](a−3)エチレン性不飽和カルボン酸単量体:
(a−3)エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができる。なお、これらは、単独でまたは2種以上を使用することができる。
【0037】
(a−3)単量体の含有量は、第一の単量体成分全体に対して、0.1〜10質量%であり、0.7〜7質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることが更に好ましい。(a−3)単量体の含有量が、0.1質量%未満であると、重合安定性、及び分散安定性が低下するおそれがある。一方、(a−3)単量体の含有量が、10質量%超であると、共重合体(A)ラテックスの粘度が高くなり過ぎ、作業性が低下するおそれがある。
【0038】
[1−1−4]第一のその他の単量体:
(a−4)単量体としては、(a−1)〜(a−3)単量体以外の単量体であって、(a−1)〜(a−3)単量体と共重合可能なものであれば特に制限はなく、例えば、芳香族ビニル単量体、アルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、水酸基を有する単量体等を挙げることができる。
【0039】
これらのうち、芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、特にメチルメタクリレートが好ましい。また、水酸基を有する単量体としては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0040】
(a−4)単量体の含有量は、第一の単量体成分全体に対して、0〜64.9質量%であることが好ましい。(a−4)単量体の含有量が、64.9質量%超であると、表面強度、白紙光沢、印刷光沢などの印刷適正が低下するおそれがある。なお、第一の単量体成分は、(a−1)〜(a−4)単量体の含有量の合計が100質量%である。
【0041】
上記共重合体(A)ラテックスは、上述した第一の単量体成分を乳化重合して得ることができる。前記乳化重合は、公知の方法により行うことができる。例えば、第一の単量体成分を含む水性媒体中に、乳化剤、重合開始剤、分子量調節剤、キレート化剤、無機電解質等を添加して行う。重合温度としては、20〜60℃が好ましく、25〜60℃が更に好ましく、30〜60℃が特に好ましい。また、重合時間は、8〜30時間が好ましく、10〜25時間が更に好ましい。
【0042】
乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを挙げることができる。なお、これらは単独でまたは2種以上を併用することもできる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの硫酸エステルなどを挙げることができる。ノニオン性界面活性剤としては、通常のポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型などを挙げることができる。両性界面活性剤としては、アニオン部分として、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、燐酸エステル塩を含有し、カチオン部分として、アミン塩、第4級アンモニウム塩を含有するものなどを挙げることができる。具体的には、ラウリルベタイン、ステアリルベタインなどのベタイン類、ラウリル−β−アラニン、ステアリル−β−アラニン、ラウリルジ(アミノエチル)グリシン、オクチルジ(アミノエチル)グリシンなどのアミノ酸タイプの両性界面活性剤などを挙げることができる。
【0043】
重合開始剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤、過酸化ベンゾイル、ラウリルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性重合開始剤、還元剤との組み合わせによるレドックス系重合開始剤などを挙げることができる。これらは単独でまたは2種以上を併用することもできる。
【0044】
分子量調節剤としては、クロロホルム、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素類、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸などのメルカプタン類、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン類、ターピノーレン、α−メチルスチレンダイマー、1,1−ジフェニルエチレンなど通常の乳化重合で使用可能なものを使用することができる。なお、これらの中では、難水溶性のメルカプタン系分子量調節剤であるt−ドデシルメルカプタンなどを使用することが好ましい。
【0045】
[1−2]重合体(B):
重合体(B)は、(b−1)アミド基含有エチレン系不飽和単量体を70質量%以上含む単量体成分(以下、「第二の単量体成分」と記す場合がある)を重合して得られる重合体水溶液に含有されるものである。上記重合体(B)としては、具体的には、ポリアクリルアミドであることが好ましい。
【0046】
また、重合体(B)の重量平均分子量は、1,000〜50,000であることが好ましく、1,000〜40,000であることが更に好ましく、2,000〜30,000であることが特に好ましい。上記重量平均分子量が、1,000未満であると、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性の効果が得られなくなるおそれがある。一方、50,000超であると、紙塗工用組成物の粘度(カラー粘度)が高くなりすぎ、作業性が低下するおそれがある。
【0047】
第二の単量体成分は、(b−1)アミド基含有エチレン系不飽和単量体を所定量含むであり、この(b−1)単量体以外に、(b−1)単量体と共重合可能な、(b−1)単量体以外のその他の単量体(以下、「(b−2)単量体」と記す場合がある)を含むものであってもよい。
【0048】
[1−2−1](b−1)アミド基含有エチレン系不飽和単量体:
(b−1)アミド基含有エチレン系不飽和単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミンプロピル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。これらの中でも、アクリルアミド、メタクリルアミドが好ましい。なお、これらは、単独でまたは2種以上を使用することができる。
【0049】
(b−1)単量体の含有量は、第一の単量体成分全体に対して、70質量%以上であり、80〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることが更に好ましい。(b−1)単量体の含有量が、70質量%未満であると、紙塗工用組成物の粘度が高くなり過ぎ、操業性が低下するおそれがある。
【0050】
[1−2−2]第二のその他の単量体:
(b−2)単量体としては、(b−1)単量体以外の単量体であって、(b−1)単量体と共重合可能なものであれば特に制限はなく、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、芳香族ビニル単量体、アルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、水酸基を有する単量体等を挙げることができる。
【0051】
これらのうち、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができる。芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン等が挙げることができる。アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート等が挙げることができる。また、水酸基を有する単量体としては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0052】
(b−2)単量体の含有量は、第二の単量体成分全体に対して、0〜30質量%であることが好ましく、0〜20質量%であることが更に好ましく、0〜10質量%であることが特に好ましい。(b−2)単量体の含有量が、30質量%超であると、表面強度、白紙光沢、印刷光沢などの印刷適正が低下するおそれがある。なお、第二の単量体成分は、(b−1)単量体及び(b−2)単量体の含有量の合計が100質量%である。
【0053】
[1−2−3]重合体(B)の製造:
重合体(B)は、例えば、水溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、固相重合等の公知の重合方法により製造することができる。具体的には、水溶液重合により重合体(B)を合成する場合には、(b−1)アミド基含有エチレン系不飽和単量体を所定量含む水性媒体中に、重合開始剤、分子量調節剤、キレート化剤、無機電解質等を添加し、重合反応を行って重合体水溶液を得、得られた重合体水溶液を乾燥させることにより製造することができる。重合温度としては、30〜120℃が好ましく、40〜110℃が更に好ましく、50〜100℃が特に好ましい。また、重合時間は、15時間以内が好ましく、1〜10時間が更に好ましい。なお、本発明の共重合体ラテックス組成物は、重合体水溶液を乾燥させて得られる重合体(B)を用いても良いし、重合によって得られる重合体水溶液を用いても良い。
【0054】
乳化剤、重合開始剤、キレート化剤、無機電解質等は、上述した共重合体(A)ラテックスの合成方法と同様のものを好適に用いることができる。
【0055】
分子量調節剤としては、クロロホルム、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素類、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸などのメルカプタン類、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン類、ターピノーレン、α−メチルスチレンダイマー、1,1−ジフェニルエチレンなど通常の乳化重合で使用可能なものを使用することができる。なお、これらの中では、水溶性のメルカプタン系分子量調節剤であるメルカプトプロピオン酸などを使用することが好ましい。
【0056】
[2]紙塗工用組成物:
本発明の紙塗工用組成物は、上述した共重合体ラテックス組成物を含有するものである。そのため、本発明の紙塗工用組成物は、この紙塗工用組成物により形成した塗工層を備えた塗工紙における印刷適性を維持しつつ、塗工操業性のうち、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性が良好であるという利点がある。なお、本発明の紙塗工用組成物に含有される共重合体ラテックス組成物は、紙塗工用組成物を塗工原紙に塗工した際に、バインダーとして機能するものである。
【0057】
バインダーとして機能するものとしては、上記共重合体ラテックス組成物以外に、澱粉、カゼイン、大豆蛋白等を挙げることができる。本発明の紙塗工用組成物は、これら共重合体ラテックス組成物以外のバインダーを含有してもよい。共重合体ラテックス組成物以外のバインダーの中では、澱粉が好ましい。なお、これらのバインダーは単独でまたは2種以上を併用することもできる。また、上記澱粉としては、燐酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉等の加工澱粉を使用することができる。
【0058】
また、本発明の紙塗工用組成物は、上記バインダー以外に、顔料、耐水性改良剤、顔料分散剤、粘度調節剤、着色顔料、蛍光染料、及びpH調節剤等の、一般に使用される種々の添加剤を任意に配合することができる。
【0059】
顔料としては、カオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、サチンホワイト等を挙げることができる。これらの中でも、重質炭酸カルシウムが好ましく、カオリンと重質炭酸カルシウムとを併用することも好ましい。なお、これらは単独でまたは2種以上を併用することもできる。
【0060】
本発明の紙塗工用組成物に含有される共重合体ラテックス組成物(固形分)は、その含有量が、顔料100質量部に対して、2〜20質量部であることが好ましく、3〜15質量部であることが更に好ましく、4〜12質量部であることが特に好ましい。2質量部未満であると、表面強度や印刷光沢が低下するおそれがある。一方、20質量部超であると、カラー洗浄性が低下するおそれがある。
【0061】
なお、本発明の紙塗工用組成物に、更に顔料を含有させる場合、顔料と共重合体ラテックス組成物との合計量(固形分)は、紙塗工用組成物(固形分)の総量に対して、90質量%以上であることが好ましく、95〜100質量%であることが更に好ましい。
【0062】
[3]塗工紙:
本発明の塗工紙は、上述した紙塗工用組成物により形成した塗工層を有するものである。このような塗工紙は、印刷適性を維持しつつ、この塗工紙を製造する際の塗工操業性、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性が良好であるという利点がある。
【0063】
本発明の塗工紙の塗工層は、上述した紙塗工用組成物を塗工液として用い、公知の方法により塗工原紙に塗布して(塗工工程)得られるものである。また、塗工液の塗布量は、1〜50g/mであることが好ましい。1g/m未満であると、白紙光沢、及び印刷光沢が低下するおそれがある。一方、50g/m超であると、コストに対して品質の向上が小さくなる傾向がある。即ち、コストと品質のバランスが良好でなくなるおそれがある。
【0064】
上記塗工原紙は、特に限定されるものではなく、紙塗工用組成物を塗工した場合に、得られる塗工紙が、従来有する程度の印刷適性を発現するものであればよい。そして、塗工原紙の原料パルプの種類も、特に限定されるものではなく、例えば、機械パルプ、化学パルプ、古紙パルプ(DIP)等を挙げることができる。なお、塗工原紙は、内添剤として炭酸カルシウム、クレー及びタルク等の顔料、アルキルケテンダイマー、ロジン酸石鹸及び硫酸バンド等のサイズ剤、カチオン澱粉及びポリアクリルアミド等の紙力増強剤、並びに嵩高剤等を使用することもできる。また、塗工原紙の表面には、サイズプレス、ゲートロールコーター、メータードサイズプレス等を使用して、アクリルアミド、アクリル−スチレンポリマー等の表面サイズ剤を塗布することもできる。
【0065】
紙塗工用組成物を塗工原紙に塗布する公知の方法としては、例えば、ブレードコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ゲートロールコーター、チャンプレックスコーター、サイズプレスコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等を使用して塗工する方法などが挙げられる。
【0066】
なお、上記塗工工程によって未乾燥塗工紙を作製した後、作製した未乾燥塗工紙を乾燥させる乾燥工程を行うことが好ましい。また、上記乾燥工程後、更に、カレンダー工程を行ってもよい。カレンダー工程において、カレンダー処理を行うことによって、得られる塗工紙の白紙光沢及び印刷光沢を充分に引き出すことができるという利点がある。なお、上述した各工程以外に、適宜所望の工程を行ってもよい。
【0067】
本発明の塗工紙は、枚葉オフセット印刷用、及び輪転オフセット印刷用として特に好適に使用することができる。また、その他の平版印刷用、グラビア印刷等の凹版印刷用、及び凸版印刷用としても使用することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0069】
(合成例1)
共重合体(A)を含有する共重合体(A)ラテックスの合成方法について説明する。共重合体(A)ラテックスは、以下に示す方法により乳化重合を行い、合成した。まず、水100部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部、過硫酸カリウム2.0、亜硫酸水素ナトリウム0.22部、硫酸第一鉄7水塩0.0066部、(a−1)脂肪族共役ジエン系単量体としてブタジエン5.4部、スチレン2.84部、(a−2)シアン化ビニル単量体としてアクリロニトリル2.5部、(a−3)エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸0.1875部、及びt−ドデシルメルカプタン0.0385部(以上を「1段目成分」と記す場合がある)を仕込み、窒素で重合系内を置換した。その後、重合系内の温度を40℃に昇温し、この温度で1.5時間重合を行った。
【0070】
次いで、ブタジエン28.0部、スチレン7.25部、アクリロニトリル10.5部、(a−3)エチレン性不飽和カルボン酸単量体アクリル酸0.375部、α−メチルスチレンダイマー0.6部、t−ドデシルメルカプタン0.1562部、及び亜硫酸水素ナトリウム0.0975部(以上を「2段目成分」と記す場合がある)を7時間かけて連続的に重合系内に添加し、重合を行った。
【0071】
更に、ブタジエン3.7部、スチレン13.5875部、アクリロニトリル6.0部、イタコン酸0.1875部、t−ドデシルメルカプタン0.0803部、及び亜硫酸水素ナトリウム0.075部(以上を「3段目成分」と記す場合がある)を2時間かけて連続的に重合系内に添加した。その後、重合系内の温度を55℃に昇温した。
【0072】
その後、ブタジエン4.15部、アクリロニトリル8.0部、メチルメタクリレート5.0部、アクリル酸0.375部、イタコン酸0.625部、(a−3)エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸1.125部、α−メチルスチレンダイマー0.1部、t−ドデシルメルカプタン0.22部、及び亜硫酸水素ナトリウム0.4部(以上を「4段目成分」と記す場合がある)のうち、亜硫酸水素ナトリウムを除く成分は2時間かけて、亜硫酸水素ナトリウムは3.5時間かけて連続的に重合系内に添加して共重合体(A)ラテックスを得た。最終的な重合転化率は98%であった。
【0073】
得られた共重合体(A)ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpH7.5に調整した後、水蒸気を吹き込んで未反応単量体を除去し、更に加熱水蒸気蒸留を行った。このようにして、共重合体(A)を含有する共重合体(A)ラテックス(固形分濃度52%)を得た。
【0074】
得られた共重合体(A)ラテックス中の共重合体(A)の数平均粒子径、トルエン不溶分、ガラス転移温度、示差熱量曲線における転移領域の最低/最高温度の差ΔTについて、以下に示す方法により測定した。
【0075】
[数平均粒子径]:
共重合体(A)ラテックス中の共重合体(A)の数平均粒子径は、粒子径測定装置(FPAR−1000:大塚電子社製)を用いて測定した。
【0076】
[トルエン不溶分]:
共重合体(A)ラテックスをpH8.0に調整した後、イソプロパノールで凝固させて凝固物を得た。この凝固物を洗浄、乾燥した後、所定量(約0.03g)の試料を所定量(100ml)のトルエンに20時間浸漬した。その後、120メッシュの金網でろ過し、金網に残存した凝固物(残存凝固物)の量を測定した。その後、共重合体(A)ラテックスの全固形分に対する、上記残存凝固物(残存固形分)の量(質量%)を算出してトルエン不溶分(%)とした。
【0077】
[ガラス転移温度(Tg)]:
共重合体(A)ラテックスを100℃で20時間真空乾燥を行い、フィルムを作製した。この乾燥させたフィルムについて、示差走査熱量計(「DSC6100」、セイコーインスツルメンツ社製)を用いてASTM法に準じてガラス転移温度(Tg)を測定した。この測定値を共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)とした。
【0078】
[示差熱量曲線]:
共重合体(A)ラテックスに含まれる共重合体(A)について、示差走査熱量計(「DSC6100」、セイコーインスツルメンツ社製)を用い、ASTM法に準じて示差熱量曲線を測定した。この示差熱量曲線により、共重合体(A)の転移領域を決定し、この転移領域中の最低温度T1と最高温度T2との差(ΔT)(℃)を算出した。なお、表2中、「(ΔT)(℃)」と示す。
【0079】
本合成例の共重合体(A)ラテックスに含有される共重合体(A)は、数平均粒子径が80nm、トルエン不溶分が91.5%、ガラス転移温度が−20℃、示差熱量曲線における転移領域中の最低/最高温度の差(ΔT)が67℃であった。
【0080】
(合成例2〜4)
攪拌装置及び温度調節機を備えた耐圧反応容器に、1段目成分を仕込み、窒素で重合系内を置換した。その後、重合系内の温度を45℃に昇温し、この温度で2.5時間重合を行った。次いで、2段目成分を2時間かけて連続的に重合系内に添加し、重合を行った。更に、3段目成分を4時間かけて連続的に重合系内に添加した。その後、重合系内の温度を50℃に昇温し、亜硫酸水素ナトリウムを除く4段目成分を2.5時間かけて、亜硫酸水素ナトリウムは5時間かけて連続的に重合系内に添加して共重合体(A)ラテックスを得た。最終的な重合転化率は、それぞれ98%であった。
【0081】
得られた共重合体(A)ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpH7.5に調整した後、水蒸気を吹き込んで未反応単量体を除去し、更に加熱水蒸気蒸留を行った。このようにして、合成例2〜4の共重合体(A)を含有する共重合体(A)ラテックス(いずれも、固形分濃度52%)を得た。なお、それぞれの配合量を表1,2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
得られた共重合体(A)ラテックス中の共重合体(A)は、数平均粒子径、トルエン不溶分、ガラス転移温度、示差熱量曲線における転移領域の最低/最高温度の差ΔTを測定した。測定結果は表2に示す。
【0085】
(合成例5)
重合体(B)を含有する重合体水溶液の合成方法について説明する。まず、攪拌装置及び温度調節機を備えた耐圧反応容器に、水150部、過硫酸カリウム8.0部を仕込み、窒素で重合系内を置換した。その後、重合系内の温度を75℃に昇温し、(b−1)アミド基含有エチレン系不飽和単量体としてアクリルアミド100部、メルカトプロピオン酸2.0部、及び亜硫酸水素ナトリウム2.0部を連続的に重合系内に添加し、重合を行った。なお、亜硫酸水素ナトリウム以外の成分(アクリルアミド、メルカプト酢酸)は、2.5時間かけて連続的に添加し、亜硫酸水素ナトリウムは、3時間かけて連続的に添加した。重合後、重合系内の温度を75℃に保持し、1時間攪拌して重合体水溶液を得た。最終的な重合転化率は、99%であった。
【0086】
得られた重合体水溶液を、水酸化ナトリウムを用いてpH7.0に調整し、重合体(B)を含有する重合体水溶液(固形分濃度26%)を得た。この重合体水溶液を使用し、重合体水溶液中の重合体(B)について、以下の条件で重量平均分子量を測定した。その結果、本合成例の重合体(B)の重量平均分子量は、5,000であった。
【0087】
[重量平均分子量]:
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置「LC Module 1 plus」(Waters社製)を用いて下記条件により測定した。なお、測定に際しては、分子量既知のポリエチレングリコール標準物質を用いて、予め検量線を作成し、これを用いた。
【0088】
(GPC測定条件)
カラム;水系GPCカラム「α−2500」(東ソー社製)
検出器;示差屈折率計
温度;40℃
溶離液;0.1M NaCl水溶液/アセトニトリル=80/20(V/V)
試料濃度;0.2質量%
注入量;100μl
【0089】
(合成例6〜13)
表3に示す配合処方とした以外は、合成例5と同様にして合成例6〜13の重合体水溶液を合成した。なお、合成例2〜9において最終的な重合転化率は、全て、98%以上であった。得られた合成例6〜13の重合体水溶液に含有される重合体(B)について、重量平均分子量を測定した。その測定結果を表3に示す。
【0090】
【表3】

【0091】
(実施例1)
[共重合体ラテックス組成物の調製]
合成例1の共重合体(A)ラテックス100部、合成例5の重合体水溶液3部を混合し、これらのラテックスに含有される、共重合体(A)と重合体(B)との含有比が、質量比で98.5:1.5である共重合体ラテックス組成物を調製した。調製した共重合体ラテックス組成物について、以下に示す方法により、ベトツキ防止性(ラテックスのベトツキ防止性)を評価した。その評価結果は、4.0であった。
【0092】
[ベトツキ防止性]:
固形分濃度を48.5%に調整した共重合体ラテックス組成物を、No.18ロッド(RDS WEBSTER社製)によりポリエチレンテレフタレートフィルム(型番「ルミラー100−T60」、パナック社製)上に塗布し、120℃で30秒間、乾燥し、皮膜を形成させた。この皮膜と黒羅紗紙とを合わせて、グロスカレンダー(YURIROLL MASHINE社製)により線圧15kg/cm−14rpm、温度65℃の条件下で圧着させた。皮膜と黒羅紗紙とを引き剥がし、黒羅紗紙に転写した共重合体ラテックス組成物の程度を目視により以下に示す5段階の評価を行った。転写の少ないものほど高得点とした。評価値は測定回数6回の平均値で示した。
1点:ラテックスの転写が80%以上
2点:ラテックスの転写が60%以上80%未満
3点:ラテックスの転写が40%以上60%未満
4点:ラテックスの転写が20%以上40%未満
5点:ラテックスの転写が20%未満
【0093】
[紙塗工用組成物の調製]
カオリンクレー(HUBER社製)30.0部、炭酸カルシウム70.0部、分散剤としてポリアクリル酸ソーダ0.07部、水酸化ナトリウム0.1部、澱粉3.0部、及び上述のようにして調製した共重合体ラテックス組成物(固形分)10.0部に、水を適当量添加して全固形分が65%となるように調整し、ミキサー(島崎社製)を用いて均一に混合して紙塗工用組成物を調製した。この紙塗工用組成物について以下に示す、カラー粘度、及びカラー洗浄性について下記の方法で評価を行った。評価結果は、カラー粘度が2130mPa・sであり、カラー洗浄性が4.0であった。なお、pHが9.5であった。
【0094】
[カラー粘度]:
カラー粘度は、調製した直後の上記紙塗工用組成物を、BM型粘度計(型番「DVM−BII」、TOKIMEC,INC.社製)を用いて測定した。ローターは、#4を使用した。なお、カラー粘度は、その値が低いと、塗工液(紙塗工用組成物)の流動性が良く、塗工操業性に優れた塗工液であることを示す。
【0095】
[カラー洗浄性]:
上記紙塗工用組成物を表面研磨処理した天然ゴム板上にNo.30ロッド(RDS WEBSTER社製)により塗布し、150℃で30秒間、乾燥し、紙塗工用組成物を固着させた。このゴム板を40℃の温水に1分間浸漬し、40℃の流水(流量10L/min)で20秒間すすぎ、室温にて1時間乾燥させた。ゴム板上に固着した紙塗工用組成物の残存量の程度を目視し、残存量によって5段階の評価を行った。転写の少ないもの(残存量の少ないもの)程、高得点とした。評価値は測定回数6回の平均値で示した。
1点:ラテックスの転写が80%以上
2点:ラテックスの転写が60%以上80%未満
3点:ラテックスの転写が40%以上60%未満
4点:ラテックスの転写が20%以上40%未満
5点:ラテックスの転写が20%未満
【0096】
[塗工紙の製造]
紙塗工用組成物を塗被原紙上に、塗工量が片面15.0±0.5g/mとなるように、電動式ブレードコーター(熊谷理機工業社製)で塗工し、その後、150℃の電気式熱風乾燥機にて5秒間処理して乾燥した塗工原紙を得た。得られた塗工原紙を温度23℃、湿度60%の恒温恒湿槽に1昼夜放置し、その後、線圧120kg/cm、ロール温度50℃の条件で、スーパーカレンダー処理(YURIROLL MASHINE社製)を2回行い、塗工紙を製造した。この塗工紙について以下に示す、ドライピック強度、ウェットピック強度、白紙光沢、及び印刷光沢について下記の方法で評価を行った。
【0097】
[ドライピック強度]:
RI印刷機(明製作所社製)で印刷したときのピッキングの程度を目視で判定し、5段階で評価した。評価基準は、ピッキング現象の少ないものほど高得点(5点)とした。具体的には、ピッキングがない場合を5点、少しピッキングがある場合を4点、部分的にピッキングがある場合を3点、全体的にピッキングがある場合を2点、全体的に激しくピッキングがある場合を1点とした。なお、数値は測定回数(6回)の平均値で示した。
【0098】
[ウェットピック強度]:
RI印刷機(明製作所社製)を用いて、上記塗工紙の表面を吸水ロールで湿らせた後、RI印刷機で印刷したときのピッキングの程度を目視で判定し、5段階で評価した。評価基準は、ピッキング現象の少ないものほど高得点(5点)とした。具体的には、ピッキングがない場合を5点、少しピッキングがある場合を4点、部分的にピッキングがある場合を3点、全体的にピッキングがある場合を2点、全体的に激しくピッキングがある場合を1点とした。なお、数値は測定回数(6回)の平均値で示した。
【0099】
[白紙光沢]:
村上式光沢計(村上色彩技術研究所社製)を使用して75度の角度における上記塗工紙の白紙光沢を測定した。なお、測定値が大きい程、白紙光沢が高いことを示す。
【0100】
[印刷光沢]:
RI印刷機(明製作所社製)を用いて、市販のオフセット印刷用墨インキ(商品名「SMX タック グレード 15」、東洋インキ製作所社製)を1度ベタ塗りした後、村上式光沢計(村上色彩技術研究所社製)を使用して60度の角度における上記塗工紙の印刷光沢を測定した。測定値が大きい程、印刷光沢が高いことを示す。
【0101】
本実施例の塗工紙は、ドライピック強度が3.0、ウェットピック強度が3.0、白紙光沢が58.4、印刷光沢が37.0であった。
【0102】
(実施例2〜10、比較例1〜6)
表4、5に示す配合処方とすること以外は、前述の実施例1の場合と同様にして、共重合体ラテックス組成物、紙塗工用組成物、及び塗工紙を得た。得られた共重合体ラテックス組成物、紙塗工用組成物、及び塗工紙の各評価結果を表4、5に示す。
【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【0105】
表4、5に示すように、実施例1〜10の共重合体ラテックス組成物を用いれば、比較例1〜6の共重合体ラテックス組成物を用いた場合に比べて、塗工紙における印刷適性を維持しつつ、紙塗工用組成物の塗工操業性のうち、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性が良好であることが明らかである。
【0106】
特に、実施例1〜8の共重合体ラテックス組成物と比較例1〜3の共重合体ラテックス組成物を比べると、ベトツキ防止性、カラー洗浄性、白紙光沢、印刷光沢に優れることが顕著にわかる。特に、実施例4〜6、9の共重合体ラテックス組成物は、ベトツキ防止性、カラー洗浄性が更に良好であることが確認できた。
【0107】
実施例3及び9の紙塗工用組成物において、重合体(B)の重量平均分子量が小さいと、本発明も効果が非常に小さくなることが確認できた。また、重合体(B)の重量平均分子量が大きいと、カラー粘度が高くなり好ましくないことが確認できた。
【0108】
比較例4は、共重合体(A)と重合体(B)の質量比が、本発明の範囲を超えているため、カラー粘度が高くなり、流動性、表面強度の低下が顕著である。
【0109】
比較例5は、重合体水溶液を構成するための単量体成分の配合量が、本発明の範囲を超えているため、カラー粘度が高くなり、流動性、表面強度の低下が顕著である。
【0110】
比較例6は、重合体(B)の数平均粒子径が大きいため、表面強度が低く、比較例1〜3は、操業性/強度のバランスが改良されているとはいえない。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の共重合体ラテックス組成物は、この共重合体ラテックス組成物を含有する紙塗工用組成物により形成した塗工層を備えた塗工紙の印刷適性を維持しつつ、上記紙塗工用組成物の塗工操業性のうち、特に、ラテックスのベトツキ防止性、及びカラー洗浄性が良好であるため、塗工液(紙塗工用組成物)のバインダーとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a−1)脂肪族共役ジエン系単量体を30〜70質量%、
(a−2)シアン化ビニル単量体を5〜40質量%、及び
(a−3)エチレン性不飽和カルボン酸単量体を0.1〜10質量%
含む単量体成分を乳化重合して得られる共重合体(A)ラテックスに含有され、かつ、数平均粒子径が50〜100nmである共重合体(A)と、
(b−1)アミド基含有エチレン系不飽和単量体を70質量%以上含む単量体成分を重合して得られる重合体水溶液に含有される重合体(B)と、
を含有するとともに、
前記共重合体(A)及び前記重合体(B)の含有比が、質量比で99.8:0.2〜95:5である共重合体ラテックス組成物。
【請求項2】
前記重合体(B)の重量平均分子量が、1,000〜50,000である請求項1に記載の共重合体ラテックス組成物。
【請求項3】
前記共重合体(A)のガラス転移温度の少なくとも一点が、−100〜60℃の範囲に存在するとともに、前記共重合体(A)の示差熱量曲線における転移領域中の最低温度T1と最高温度T2との差(ΔT)が、30℃以上である請求項1または2に記載の共重合体ラテックス組成物。
【請求項4】
前記重合体(B)が、ポリアクリルアミドである請求項1〜3のいずれか一項に記載の共重合体ラテックス組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか一項に記載の共重合体ラテックス組成物を含有する紙塗工用組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の紙塗工用組成物により形成した塗工層を有する塗工紙。

【公開番号】特開2008−231279(P2008−231279A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74064(P2007−74064)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】