説明

内分泌撹乱化学物質を実質的に含まないアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物

【課題】アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を製造する。
【解決手段】少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、酸触媒の存在下、少なくとも一種の約20乃至約80の炭素原子を有する分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーと反応させる。ただし、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーには、いかなるビニリデン基も実質的に含有しない。上記アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物については、処女の未成熟な雌のラットにおける成熟段階の発育と甲状腺機能に対する効果が定量され、内分泌撹乱化学物質が実質的に存在しないことが確認された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内分泌撹乱化学物質が実質的に存在しないアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物およびそのアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なルイス酸もしくはブレンステッド酸の触媒が、芳香族のアルキル化の触媒として機能することが良く知られている。代表的な工業用触媒は、リン酸/珪藻土、ハロゲン化アルミニウム、三フッ化ホウ素、塩化アンチモン、塩化第二スズ、塩化亜鉛、ポリ(フッ化水素)オニウム、フッ化水素、固体酸触媒、例えば、酸性スルホン酸イオン交換樹脂(例、アンバーリストTM)、固体酸性白土、および酸性ゼオライト物質を含む。低分子量のオレフィン、例えば、プロピレンによるアルキル化は、液相もしくは蒸気相中で実施できる。より高分子量のオレフィン、例えば、C16+のオレフィンによるアルキル化については、液相中でアルキル化を行う。
【0003】
いくつかの合成および天然化学物質が、エストロゲンもしくはアンドロゲンに対してアゴニストもしくはアンタゴニストとして機能し、甲状腺ホルモンの作用に複数の経路で干渉する可能性があるとの証拠が増加している。そのような化合物は、内分泌撹乱因子と呼ぶことができる。例えば、内分泌撹乱因子は、体内に本来存在している化学物質を擬態もしくは阻害することができ、それにより、体のホルモン生成能に変化を及ぼし、ホルモンが体内を移動する経路に干渉し、ホルモン受容体に到達するホルモンの濃度が変更される。
【0004】
内分泌撹乱因子と天然エストロゲンとは、同じ作用機構を共有している。通常の場合、エストロゲンの作用は、天然エストロゲンが、細胞の核内に存在するエストロゲン受容体(ER)に結合し、引き続き、それにより占拠したERの転写による活性化によって生じる。内分泌撹乱因子が存在する場合、内分泌撹乱因子がERに結合すると、通常のエストロゲンの作用が乗っ取られて、天然エストロゲンが存在しない場合であってもERの転写による活性化が起きる。同様に、抗エストロゲンの作用は、ERに結合するが、引き続いて天然エストロゲンのように占拠したERを活性化しない内分泌撹乱因子によって生じる。最後に、選択的エストロゲン受容体調節因子(SERM)はERに結合するが、引き続き天然エストロゲンによって活性化される細胞応答とは異なる応答を活性化する。一般に、ERに結合する分子の全ては、ただし極めて少ない数であるが、エストロゲンとして、もしくはSERMとして、受容体の活性化を起こす。
【0005】
内分泌撹乱因子として疑われている例は、例えば、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ヘキサクロロベンゼン(HCB)、ペンタクロロフェノール(PCP)、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5−T)、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、アルキルフェノール(例、ノニルフェノールもしくはオクチルフェノール)、ビスフェノールA、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジ−n−ブチル(DBP)、フタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)、フタル酸ジエチル(DEP)、ベンゾ(a)ピレン、2,4−ジクロロフェノール(2,4−DPC)、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、ベンゾフェノン、p−ニトロトルエン、4−ニトロトルエン、オクタクロロスチレン、フタル酸ジ−n−ペンチル(DPP)、フタル酸ジヘキシル(DHP)、フタル酸ジプロピル(DprP)、スチレン2量体および3量体、n−ブチルベンゼン、エストラジオール、アジピン酸ジエチルヘキシル(DEHA)、トランス−クロロダン、シス−クロロダン、p−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(TMBP)、および(2,4−ジクロロフェノキシ)酢酸(2,4−PA)を含む。
【0006】
アルキルフェノールおよびそれから生成する生成物は、それらが潜在的な内分泌撹乱成分を想起するため、精査される場合が増加している。これは、基本となるアルキルフェノールとアルキルフェノール生成物の分解中間体との弱いエストロゲンの作用のためでもある。アルキルフェノールは商業的に、除草剤、ガソリン添加剤、染料、ポリマー添加剤、界面活性剤、潤滑油添加剤、および酸化防止剤において使用されている。近年では、アルコキシ化アルキルフェノール、例えば、エトキシ化ノニルフェノールは、生分解性が貧弱であること、そしてフェノール部分の生分解における副生成物の高い水生毒性を示すこと理由に批判され、これらの化学物質が内分泌撹乱因子として作用する懸念が増加している。幾つかの研究結果は、アルキルフェノールとヒトの男性の精子の数の減少との間には関連性があり、アルキルフェノールがヒトのエストロゲンおよびアンドロゲン受容体の作用を有害に撹乱しうる証拠があることを示している。
【0007】
アルコキシ化アルキルフェノールが環境と健康とに及ぼす影響についての関心から、これらの界面活性剤の使用を、欧州では政策的に制限し、米国では自発的に産業界が制限する事態に至っている。多くの産業では、これらの好ましいとされているアルコキシ化アルキルフェノール界面活性剤を、アルコキシ化直鎖および分岐アルキル一級および二級アルコールに置き換えることを試みているが、臭気、性能、処方、および経費増加に関する問題に直面している。アルコキシ化アルキルアルコールの臭気および性能の一部に関する難点は、残存する遊離のアルコールに関連しており、このアルコールは、アルコキシ化工程においてアルキレンオキシドと反応しない反応体アルコールの一部である。
【0008】
特許文献1は、フェノール性化合物をアルキル化し、オルト−もしくはパラ−モノアルキル化フェノールまたは2,4−もしくは2,6−ジアルキル化フェノールを生成させるための方法を開示している。
【0009】
特許文献2は、パラ−キシレン反応体(もしくは少なくとも約25質量%のパラ−キシレンを含むキシレン異性体の混合物)をアルキル化し、得られたアルキレートをスルホン酸化し、任意に生成物であるアルキルキシレンスルホネートを塩に変換することにより製造されたアルキルキシレンスルホネート組成物を開示している。アルキル化は、類似化合物について知られている方法、例えば、ルイス酸触媒の存在下、ハロゲン化アルキル、アルカノール、もしくはアルケン反応体を用いるフリーデル−クラフツ反応により実施してもよい。好ましくは、触媒はフッ化水素もしくは活性化クレーである。
【0010】
特許文献3は、ヘテロ多重酸および水の存在下、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する芳香族化合物とアルキル化剤との液相反応によるヒドロキシル含有アルキル化芳香族化合物の生成方法を開示している。
【0011】
特許文献4は、フェノールをアルキル化するための方法を開示しており、フェノールは、酸触媒の存在下、残油から誘導される熱分解硫黄含有石油留出油のオレフィン成分でアルキル化され、上記のアルキル基において平均して2つ未満のアルキル分岐を有するモノアルキルフェノールが生成する。
【0012】
特許文献5は、以下の性質を有するように生成されたアルキル化芳香族炭化水素を開示している:(a)アルキル化芳香族炭化水素の40質量%未満が2−アリールであり;(b)アルキル化芳香族炭化水素の少なくとも20質量%がモノアルキレートである。
【0013】
特許文献6は、0.5%以下の4級脂肪族炭素原子を含む分岐オレフィンを製造するための方法を開示している。上記方法は、イソパラフィン系組成物を適切な触媒により脱水素することを含む。上記イソパラフィン系組成物は、7乃至35の範囲の炭素数を有するパラフィンを含む。上記パラフィンの少なくとも一部の分子は分岐しており、パラフィンの分子当たり平均分岐数は少なくとも0.7であって、その分岐はメチルおよび任意にエチル分岐を含む。上記イソパラフィン系組成物は、パラフィン系ろうの水素化分解および水素化異性化により得ることができる。
【0014】
特許文献7は、分岐オレフィンコポリマーおよびそのコポリマーを製造するための方法を開示している。上記の分岐部分は、ラジカル重合反応もしくはアニオン重合反応により生成する。
【0015】
特許文献8は、開環交差複分解において使用される直鎖および/または分岐不飽和生成炭化水素を生成するための方法を開示している。
【0016】
特許文献9は、0.5%以下の4級脂肪族炭素原子を含む分岐オレフィンを製造するための方法を開示している。上記方法は、イソパラフィン系組成物を適切な触媒により脱水素することを含む。上記イソパラフィン系組成物は、7乃至35の範囲の炭素数を有するパラフィンを含む。上記パラフィンの少なくとも一部の分子は分岐しており、パラフィンの分子当たり平均分岐数は少なくとも0.7であって、その分岐はメチルおよび任意にエチル分岐を含む。上記イソパラフィン系組成物は、パラフィン系ろうの水素化分解および水素化異性化により得ることができる。
【0017】
特許文献10は、直鎖オレフィンを含む混合直鎖オレフィン/パラフィン異性化原料油からの分岐オレフィンの生成方法を開示している。
【0018】
特許文献11は、漂白クレーまたはリン酸もしくはp−トルエンスルホン酸で処理された漂白クレーの触媒作用により、フェノールもしくは置換フェノールを、最小量で0.25モル当量のビニリデン基を有するプロピレンオリゴマーで、アルキル化することによるヒドロキシ芳香族化合物をアルキル化するための方法を開示している。特許文献11は、上記方法で使用する触媒が弱いアルキル化触媒であることも開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第4475001号明細書
【特許文献2】米国特許第4873025号明細書
【特許文献3】米国特許第4912264号明細書
【特許文献4】米国特許第4973764号明細書
【特許文献5】米国特許第5922922号明細書
【特許文献6】米国特許第6765106号明細書
【特許文献7】米国特許第7022763号明細書
【特許文献8】米国特許第7041864号明細書
【特許文献9】米国特許第7087777号明細書
【特許文献10】米国特許第7157613号明細書
【特許文献11】チェコスロバキア国特許第226912号明細書(Pac外)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
実質的に内分泌攪乱化学物質を含まないように改良されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の第一の態様に従うと、少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、酸触媒の存在下、少なくとも一種の約20乃至約80の炭素原子を有する分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーと反応させて、アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させることを含む方法により製造されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物が提供される。ただし、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーには、いかなるビニリデン含量も実質的に存在せず、ヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素は、メチルもしくは3乃至5の炭素原子を有する分岐アルキル基である第一の基、少なくとも約18の炭素原子を有し、2つの炭素原子毎に平均して一つの分岐を有し、各分岐が1乃至2の炭素原子を含む分岐アルキル基である第二の基、および1乃至5の炭素原子を有する直鎖アルキル基である第三の基によって置換されているが、第一および第二の基それぞれがベンジル性炭素に直接結合している炭素基は、CH基ではない。
【0022】
本発明の第二の態様に従うと、少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、酸触媒の存在下、少なくとも一種の約20乃至約80の炭素原子を有する分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーと反応させて、アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させることを含むヒドロキシ芳香族化合物をアルキル化するための方法が提供される。ただし、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーには、いかなるビニリデン含量も実質的に存在せず、ヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素は、メチルもしくは3乃至5の炭素原子を有する分岐アルキル基である第一の基、少なくとも約18の炭素原子を有し、2つの炭素原子毎に平均して一つの分岐を有し、各分岐が1乃至2の炭素原子を含む分岐アルキル基である第二の基、および1乃至5の炭素原子を有する直鎖アルキル基である第三の基によって置換されているが、第一および第二の基それぞれがベンジル性炭素に直接結合している炭素基は、CH基ではない。
【0023】
本発明の第三の態様に従うと、下記の工程を含むヒドロキシ芳香族化合物をアルキル化するための方法が提供される:
(a)イオン性液体触媒の存在下、プロピレンをオリゴマー化して、少なくとも一種の約20乃至約80の炭素原子を有する分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーを生成する工程、ただし、上記少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーには、いかなるビニリデン含量も実質的に存在しない、そして
(b)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、酸触媒の存在下、少なくとも一種の約20乃至約80の炭素原子を有する分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーと反応させる工程。
【0024】
本発明の第四の態様に従うと、下記を含む潤滑油組成物が提供される:
(a)主要量の潤滑粘度の油;および
(b)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、酸触媒の存在下、少なくとも一種の約20乃至約80の炭素原子を有する分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーと反応させて、アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させることを含む方法により製造されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物であるが、ただし、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーには、いかなるビニリデン含量も実質的に存在せず、ヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素は、メチルもしくは3乃至5の炭素原子を有する分岐アルキル基である第一の基、少なくとも約18の炭素原子を有し、二つの炭素原子毎に平均して一つの分岐を有し、各分岐が1乃至2の炭素原子を含む分岐アルキル基である第二の基、および1乃至5の炭素原子を有する直鎖アルキル基である第三の基によって置換されているが、第一および第二の基それぞれがベンジル性炭素に直接結合している炭素基は、CH基ではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1の生成物においてヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素原子に隣接するCH炭素の量を示すNMRスペクトルである。
【図2】未成熟な雌のラットにおける成熟段階の発育を評価するため、投与量に対する応答を表示したものである。図2におけるデータは、性的な成熟により測定される内分泌機能を撹乱する可能性を試験した化合物について、それらを区別するための評価法の感度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書が開示する主題の理解を容易にするため、本明細書で使用する多数の用語、略語、もしくは他の簡略表記を、以下で定義する。定義されていない用語、略語、もしくは簡略表記は、いずれも本願が出願された時期と同時代の当業者によって使用されている通常の意味を有すると理解される。
【0027】
(オレフィン)
「オレフィン」の用語は、数多くの方法で得られる一つ以上の炭素−炭素間二重結合を有する不飽和脂肪族炭化水素の分類を意味する。一つの二重結合を含むものはモノ−アルケンと呼ばれ、二つの二重結合を有するものはジエン、アルキルジエン、もしくはジオレフィンと呼ばれる。アルファオレフィンは、二重結合が第一および第二炭素の間にあるため、特に反応性がある。例としては、1−オクテンおよび1−オクタデセンであって、これらは環境生分解可能な界面活性剤のための出発点として利用される。直鎖および分岐のオレフィンもオレフィンの定義に含まれている。
【0028】
(部分的分岐直鎖オレフィン)
「部分的分岐直鎖オレフィン」の用語は、二重結合を含む直鎖当たり一つ未満のアルキル分岐を含む直鎖オレフィンの分類を意味し、アルキル分岐はメチル基もしくはそれ以上であってもよい。部分的分岐直鎖オレフィンは二重結合異性化オレフィンも含むことができる。
【0029】
(分岐オレフィン)
「分岐オレフィン」の用語は、二重結合を含む直鎖当たり一つ以上のアルキル分岐を含むオレフィンの分類を意味し、アルキル分岐はメチル基もしくはそれ以上であってもよい。
【0030】
(ヒドロキシル不含芳香族化合物)
「ヒドロキシル不含芳香族化合物」の用語は、芳香族環もしくはいずれの置換基にも、全くヒドロキシル基を有していない芳香族化合物を意味する。
【0031】
(未置換芳香族化合物)
「未置換化合物」の用語は、芳香族環に結合している置換基を全く有していない芳香族化合物を意味する。これらの化合物は、単環式、二環式、もしくは多環式のいずれでもよい。そのような化合物の例は、これらに限定されるものではないが、ベンゼン、ナフタレンその他を含む。
【0032】
(モノ置換芳香族化合物)
「モノ置換化合物」の用語は、芳香族環に結合している一つの置換基を有する芳香族化合物を意味する。これらの化合物は、単環式、二環式、もしくは多環式のいずれでもよい。そのような化合物の例は、これらに限定されるものではないが、以下の置換基の一つを伴う芳香族化合物を含む:−OR、−R、−X、−NH、−NHR、もしくは−NR、そしてその他、上記のRはアルキル基であり、Xはハライドである。
【0033】
(ジ置換芳香族化合物)
「ジ置換化合物」の用語は、芳香族環に結合している二つの置換基を有する芳香族化合物を意味する。上記芳香族化合物は、単環式、二環式、もしくは多環式のいずれでもよい。そのような化合物の例は、これらに限定されるものではないが、以下の置換基の一つを伴う芳香族化合物を含む:−OR、−R、−X、−NH、−NHR、もしくは−NR、そしてその他、上記のRはアルキル基であり、Xはハライドである。
【0034】
[ヒドロキシ芳香族化合物]
少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物もしくはヒドロキシ芳香族化合物の混合物は、本発明におけるアルキル化反応に用いることができる。本発明の方法に従いアルキル化できるヒドロキシ芳香族化合物は、1乃至4、好ましくは1乃至3のヒドロキシル基を有する単環式のモノヒドロキシおよびポリヒドロキシ芳香族炭化水素を含む適切なヒドロキシ芳香族化合物は、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール、クレゾール、その他、およびそれらの混合物を含む。ある態様において、ヒドロキシ芳香族化合物はフェノールである。
【0035】
(ヒドロキシ芳香族化合物の供給源)
本発明において用いられる上記少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物もしくはヒドロキシ芳香族化合物の混合物は、この技術において良く知られている方法により製造される。
【0036】
[オレフィン]
(オレフィンの供給源)
本発明において用いられるオレフィンは、プロピレンの重合から誘導される少なくとも一種の分岐鎖オレフィンである。この少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーは、分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーの混合物であってもよい。
【0037】
オレフィンは、他の官能基、例えばヒドロキシ基、カルボン酸基、ヘテロ原子、その他で置換されていてもよい。ただし、そのような基は、酸イオン性液体触媒とは反応しない。
【0038】
上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーは、約20の炭素原子乃至約80の炭素原子の範囲に炭素数を有するプロピレンオリゴマーから選択される。ある態様において、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーは、約20乃至約60の炭素原子の範囲に炭素数を有するプロピレンオリゴマーから選択される。別の態様において、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーは、約20乃至約40の炭素原子の範囲に炭素数を有するプロピレンオリゴマーから選択される。
【0039】
ある態様において、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーはヒドロキシ芳香族化合物に結合し、ヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素原子はメチルもしくは3乃至5の炭素原子を有する分岐アルキル基である第一の基、少なくとも約18の炭素原子を有し、二つの炭素原子毎に平均して一つの分岐を有し、各分岐が1乃至2の炭素原子を含む分岐アルキル基である第二の基、および1乃至5の炭素原子を有する直鎖アルキル基である第三の基によって置換されている。ただし、第一および第二の基それぞれがベンジル性炭素に直接結合している炭素基は、CH基ではない。
【0040】
一般に、本発明で使用するための上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーもしくはそれらの混合物には、いかなるビニリデン含量も実質的に存在しない。本明細書で用いる用語「実質的に存在しない」とは、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーにおいて、いかなるビニリデン含量も比較的少ないか、あるいは全く存在しないことを意味すると理解すべきである。ある態様において、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーのビニリデン含量は、約1質量%未満である。
【0041】
[オレフィン性オリゴマーの製造]
本発明において使用する上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーは、イオン性液体触媒の存在下、プロピレンのオリゴマー化によって合成される。ある態様において、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーは、約20乃至約80の範囲で炭素を有する。
【0042】
上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーは、約−20℃乃至約100℃かつ大気圧乃至約1000psigの圧力下で、連続式、バッチ式、もしくは準バッチ式の反応により、本明細書に記載するように、プロピレンモノマーを酸イオン性液体触媒で反応させることにより製造できる。これらの処理条件は、限定的ではない。オレフィンのオリゴマー化における処理条件の最適化は、当業者の裁量の範囲内である。
【0043】
[酸イオン性液体触媒]
酸イオン性液体触媒は、錯体を構成する二種類の成分からなる。上記触媒の第一の成分は一般に、ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化アルキルアルミニウム、ハロゲン化ガリウム、およびハロゲン化アルキルガリウムからなる群より選ばれる化合物を含む。第一の成分として、特に好ましくは、ハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化アルキルアルミニウムである。特に三塩化アルミニウムを、本発明を実施する際に使用する触媒を製造するための第一の成分として使用できる。
【0044】
イオン性液体触媒を製造する第二の成分は、有機塩もしくは塩の混合物である。これらの塩は一般式Qで定義でき、Qはアンモニウム、ホスホニウム、もしくはスルホニウム陽イオンであり、Aは負の電荷を有するイオン、例えば、Cl、Br、ClO、NO、BF、BCL、PF、SbF、AlCl、ArF、TaF、CuCl、FeCl、SOCF、SO、および3−SOフェニルである。ある好ましい態様において、第二の成分は、約1乃至約9の炭素原子を有する一つ以上のアルキル部分を含むハロゲン化4級アンモニウム、例えば、塩酸トリメチルアミン、メチルトリブチルアンモニウム、および1−ブチルピリジニウム、もしくはハロゲン化炭化水素置換イミダゾリウム、例えば、塩化1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムである。
【0045】
第一の成分の存在は、イオン性液体にルイス酸性を与える必要がある。一般に、第一の成分対第二の成分のモル比が大きいと、イオン性液体混合物の酸性度が大きくなる。三塩化アルミニウムおよび塩酸トリメチルアミンが酸イオン性液体触媒の第一および第二の成分としてそれぞれ使用される場合、それらは約1:1以上乃至約2:1のモル比で存在することが好ましい。
【0046】
[アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を製造するための方法]
本発明のある態様において、アルキル化方法は、ヒドロキシ芳香族化合物もしくはヒドロキシ芳香族化合物の混合物、少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーもしくは分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーの混合物、および酸触媒を含む炭化水素原料油を、撹拌を継続している反応ゾーンに加えることによって実施される。得られる混合物は、アルキル化条件下で、オレフィンのヒドロキシ芳香族アルキレートへの実質的な変換(すなわち、少なくとも約70モル%のオレフィンの反応が完了)を可能にするために充分な時間、アルキル化ゾーンに留まる。必要とされる時間の経過後、反応混合物は、アルキル化ゾーンから除かれ、液体−液体分離器に送られ、閉鎖環状サイクルにおける反応器で再利用される酸触媒から炭化水素生成物を分離することを可能にする。炭化水素生成物は、さらに処理されて、目的とするアルキレート生成物から、過剰で未反応のヒドロキシ芳香族化合物および任意にオレフィン性化合物を除く。過剰のヒドロキシ芳香族化合物は、反応器で再利用することもできる。
【0047】
多くの種類の配置からなる反応器が、反応器ゾーンで使用できる。これらは、これらに限定されるものではないが、バッチ式および連続式の撹拌タンク反応器、反応器と上昇管との配置、沸騰床もしくは固定床反応器、および他の当業者に良く知られている反応器の配置を含む。それらの反応器の多くは当業者に知られており、アルキル化反応に適している。バッチ式もしくは準バッチ式の反応器において、撹拌はアルキル化反応に必須であり、回転翼を回転させること(隔壁はあってもなくてもよい)、静的撹拌器、上昇管における動的な撹拌、もしくは当業者に良く知られている他の任意の撹拌装置により実施できる。
【0048】
アルキル化方法は、約0℃乃至約200℃の温度で実施できる。この方法は、原料成分の実質的な部分が液相として残存するために充分な圧力下で実施する。一般に、0乃至150psigの圧力が、原料と生成物とを液相として維持するために充分である。
【0049】
反応器に留まる時間は、オレフィンの実質的な部分をアルキレート生成物に変換するために充分な時間である。必要な時間は、約30秒間乃至約300分間である。より正確な滞留時間は、当業者がバッチ式の撹拌タンク反応器を用いて、アルキル化方法の速度を測定することにより決定できる。
【0050】
上記の少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物もしくはそれらの混合物と上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーもしくはそれらの混合物とは、別々に反応ゾーンに注入でき、あるいは注入前に予め混合することもできる。単一および複数の反応ゾーンのいずれも、上記ヒドロキシ芳香族化合物と上記少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーもしくはそれらの混合物とを一つの、多くの、もしくは全ての反応ゾーンに注入する際に使用できる。複数の反応ゾーンを、同じ処理条件に保つ必要はない。
【0051】
アルキル化方法のための炭化水素原料油は、ヒドロキシ芳香族化合物と少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーもしくはそれらの混合物との混合物を含むことができ、ヒドロキシ芳香族化合物対オレフィンのモル比は、約0.5:1乃至約50:1以上である。ヒドロキシ芳香族化合物対オレフィンのモル比が約1.0を超える場合、過剰量のヒドロキシ芳香族化合物が存在する。過剰のヒドロキシ芳香族化合物は、一般に反応速度を増加させ、生成物の選択性を改良するために使用される。過剰のヒドロキシ芳香族化合物が使用される場合、反応器の排出液における過剰で未反応のヒドロキシ芳香族は、例えば、蒸留により分離し、反応器で再利用することができる。
【0052】
ある態様において、アルキル化方法は、閉鎖環状で触媒の再利用を伴う連続方法である。ヒドロキシ芳香族化合物もしくはそれらの混合物と、少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーもしくはそれらの混合物とを含む炭化水素原料油は、連続的に反応器に加えられる。あるいは、ヒドロキシ芳香族化合物とオレフィンの混合物とを、別々に加えてもよい。方法の開始において、ある量の新たな酸触媒を反応器に加える。炭化水素原料油と酸イオン性液体触媒とを、アルキル化処理条件下、加えた原料油における実質的な量の上記少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーが反応し、ヒドロキシ芳香族アルキレート化合物を生成させるために充分な時間、撹拌しながら反応器内に保つ。
【0053】
反応器内の圧力は、背圧弁によって保たれる。反応器からの排出液は、背圧弁を通過し、分離器に至る。分離器において、混和しない炭化水素と酸触媒とを、二つの相に分離する。酸触媒の方が炭化水素相よりも高密度であって、酸触媒は分離器の底に定着する。分離器の底および境界線を満たす充分な量の酸触媒が得られた場合は、新たな触媒の流れを停止し、「使用済み」もしくは「再利用」触媒を分離器から反応器に戻す。この態様において、この方法の主要な部分は、触媒再利用の条件下で上記のように実施され、その条件下では、新たな触媒を加えることをしないか、あるいは少量の補充触媒のみが加えられる。ヒドロキシ芳香族アルキレート化合物と過剰で未反応のヒドロキシ芳香族とを含む炭化水素生成物は、生成物分離区画に流し込む。生成物の分離において、過剰なヒドロキシ芳香族化合物を留出し、反応器に戻し、アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を残す。
【0054】
[酸触媒]
アルキル化芳香族化合物は、強酸触媒、例えば、ブレンステッド酸もしくはルイス酸を用いて製造できる。
【0055】
ある態様において、強酸触媒は、塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、硫酸、過塩素酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸、アンバーリスト(登録商標)36スルホン酸(ローム・アンド・ハース社より購入可能)、硝酸、その他、およびそれらの混合物を含む。アルキル化方法は、バッチ式もしくは連続式の方法において実施できる。強酸触媒は、バッチ式もしくは連続式の方法において使用する場合、再利用もしくは再生利用できる。
【0056】
強酸触媒は、不活性化(すなわち、触媒が、その触媒活性の全てもしくは一部を失った)後、再生利用できる。この技術分野で良く知られている方法が、不活性化フッ化水素酸触媒の再生利用に用いることができる。
【0057】
[アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物]
得られる生成物は、下記の構造を有するアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物である:
【0058】
【化1】

【0059】
式中、Rは少なくとも約18の炭素原子を有し、二つの炭素原子毎に平均して少なくとも一つの分岐し、各分岐が1乃至2の炭素原子を含む分岐アルキル基であり、Rはメチルもしくは3乃至5の炭素原子を有する分岐アルキル基であり、そしてRは1乃至5の炭素原子を有する直鎖アルキル基である。ただし、RおよびRのいずれも、ヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素原子に隣接するCHを含まない。
【0060】
好ましくは、得られる生成物はオルトおよびパラ異性体の混合物である。一般に、生成物は約1乃至99%のオルト異性体および99乃至1%のパラ異性体、好ましくは約5乃至70%のオルト異性体および95乃至30%のパラ異性体を含む。
【0061】
[潤滑油組成物]
本発明の別の態様は、少なくとも(a)潤滑粘度の油および(b)潤滑油添加剤として有用な本発明のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を含む潤滑油組成物に関する。潤滑油組成物は、従来知られている方法によって、適量の本発明の潤滑油添加剤に潤滑粘度の基油を混合することにより製造できる。特定の基油は、潤滑剤の意図する用途および他の添加剤の存在に基づいて選択する。一般に、潤滑油組成物における本発明のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1乃至約10質量%の範囲である。
【0062】
本発明の潤滑油組成物において使用するための潤滑粘度の油は、基油とも呼ばれ、一般に主要量、例えば、組成物の全質量に基づき50質量%を超える量、好ましくは約70質量%を超える量、さらに好ましくは約80乃至約99.5質量%、最も好ましくは約80乃至約98質量%で存在する。本明細書で使用する表現「基油」は、単一の製造者により同一の仕様に(供給源や製造者の所在地とは無関係に)製造され、同じ製造者の仕様を満たし、かつ各々特有の処方、製造物確認番号、もしくはそれらの両方によって識別される潤滑剤成分である、基材油もしくは配合された基材油を意味すると理解されたい。ここで使用される基油は、ありとあらゆる用途(例、エンジン油、舶用シリンダー油、機能液、具体的には油圧作動油、ギヤ油、変速機液等)で潤滑油組成物を処方する際に使用される、今日知られているか、あるいは後日発見されるいかなる潤滑粘度の油であってもよい。例えば、基油は、ありとあらゆる用途、例えば、乗用車エンジン油、高負荷ディーゼル発動機油、および天然ガスエンジン油のための潤滑油組成物の処方に際して用いることができる。さらに、本発明で使用するための基油は、任意に粘度指数向上剤(例、重合アルキルメタクリレート);オレフィン性コポリマー(例、エチレン−プロピレンコポリマーもしくはスチレン−ブタジエンコポリマー);その他、およびそれらの混合物を含むことができる。
【0063】
当業者であれば容易に理解できるように、基油の粘度は用途に依存する。従って、ここで使用する基油の粘度は、通常、摂氏100度(℃)で約2乃至約2000センチストークス(cSt)の範囲にある。一般にエンジン油として使用される個々の基油は、動粘度範囲が100℃で約2cSt乃至約30cSt、好ましくは約3cSt乃至約16cSt、最も好ましくは約4cSt乃至約12cStであり、そして所望の最終用途および最終油の添加剤に応じて選択または配合されて、所望のグレードのエンジン油、例えばSAE粘度グレードが0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40、10W−50、15W、15W−20、15W−30、もしくは15W−40の潤滑油組成物を与える。ギア油として使用される油は、100℃において約2cSt乃至約2000cStの範囲の粘度を有することができる。
【0064】
基材油は様々な種類の方法を用いて製造することができ、その例は、これらに限定されるものではないが、蒸留、溶剤精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化、および再精製を含む。再精製基材油には、製造、汚染もしくは以前の使用において混入した物質が実質的に含まれない。本発明の潤滑油組成物の基油は、いかなる天然もしくは合成潤滑基油であってもよい。適切な炭化水素合成油は、これらに限定されるものではないが、エチレンの重合または1−オレフィン類の重合でポリマーにすることにより製造された油、例えばポリアルファオレフィン(PAO)油もしくはフィッシャー・トロプシュ法のような一酸化炭素ガスと水素ガスとを用いた炭化水素合成法により製造された油を含む。例えば適切な基油は、重質留分を含む場合でもその量がわずかであり、例えば100℃で粘度が20cSt以上の潤滑油留分をほとんど含むことのない油である。
【0065】
基油は、天然潤滑油、合成潤滑油、もしくはそれらの混合物から誘導することができる。適切な基油は、合成ろうおよび粗ろうの異性化により得られる基材油、並びに粗原料の芳香族および極性成分を(溶剤抽出というよりはむしろ)水素化分解することにより生成する水素化分解基材油を含む。適切な基材油は、API公報1509、第14版、補遺I、1998年12月に規定されたAPI分類I、II、III、IV、およびVに属するものすべてを含む。IV種基材油はポリアルファオレフィン(PAO)類である。V種基材油には、I、II、III、もしくはIV種に含まれなかったその他すべての基材油が含まれる。II、III、およびIV種基材油が本発明で使用するために好ましいが、これらの基油を、1種以上のI、II、III、IV、およびV種基材油もしくは基油を組み合わせて製造することもできる。
【0066】
有用な天然油は、鉱物潤滑油、例えば液体石油、パラフィン系、ナフテン系、もしくは混合パラフィン−ナフテン系の溶剤処理もしくは酸処理鉱物潤滑油、石炭もしくは頁岩から誘導された油、動物油および植物油(例、ナタネ油、ヒマシ油、およびラード油)その他を含む。
【0067】
有用な合成潤滑油は、これらに限定されるものではないが、炭化水素油およびハロゲン置換炭化水素油、例えば重合化および共重合化オレフィン類、具体的にはポリブチレン類、ポリプロピレン類、プロピレン・イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン類、ポリ(1−ヘキセン)類、ポリ(1−オクテン)類、ポリ(1−デセン)類その他およびそれらの混合物;アルキルベンゼン類、例えばドデシルベンゼン類、テトラデシルベンゼン類、ジノニルベンゼン類、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン類その他;ポリフェニル類、例えばビフェニル類、ターフェニル類、アルキル化ポリフェニル類その他;アルキル化ジフェニルエーテル類およびアルキル化ジフェニルスルフィド類、並びにそれらの誘導体、類似物、および同族体その他を含む。
【0068】
他の有用な合成潤滑油は、これらに限定されるものではないが、炭素原子が5未満のオレフィン類、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン類、イソブテン、ペンテン、およびそれらの混合物を重合することにより製造された油を含む。そのような重合油の製造方法は当業者によく知られている。
【0069】
別の有用な合成炭化水素油は、適正な粘度を有するアルファオレフィン類の液状ポリマーを含む。特に有用な合成炭化水素油は、C乃至C12のアルファオレフィンの水素化液状オリゴマー類、例えば1−デセン三量体である。
【0070】
有用な合成潤滑油の別の分類は、これらに限定されるものではないが、アルキレンオキシドポリマー、すなわち単独ポリマー、コポリマー、および末端ヒドロキシル基が、例えばエステル化もしくはエーテル化により変性したそれらの誘導体を含む。これらの油の例は、エチレンオキシドもしくはプロピレンオキシドの重合により製造された油、これらポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびフェニルエーテル類(例、平均分子量1000のメチルポリプロピレングリコールエーテル、分子量500乃至1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量1000乃至1500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、もしくはそれらのモノおよびポリカルボン酸エステル類、例えば酢酸エステル類、C乃至Cの混合脂肪酸エステル類、もしくはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルである。
【0071】
有用な合成潤滑油のさらに別の分類は、これらに限定されるものではないが、ジカルボン酸類(例、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸類、アルケニルコハク酸類、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸類、アルケニルマロン酸類等)と各種アルコール類(例、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等)とのエステル類を含む。これらエステル類の具体例は、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、セバシン酸1モルをテトラエチレングリコール2モルおよび2−エチルヘキサン酸2モルと反応させて生成した複合エステルその他を含む。
【0072】
合成油として有用なエステル類は、これらに限定されるものではないが、炭素原子が約5乃至約12のカルボン酸類と、アルコール類(例、メタノール、エタノール等、ポリオールおよびポリオールエーテル類、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトールその他)とから製造されたものも含む。
【0073】
ケイ素系の油、例えばポリアルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ−、もしくはポリアリールオキシ−シロキサン油およびシリケート油は、合成潤滑油の別の有用な分類を構成する。これらの具体例は、これらに限定されるものではないが、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ(4−メチルヘキシル)シリケート、テトラ(p−tert−ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン類、およびポリ(メチルフェニル)シロキサン類その他を含む。さらに別の有用な合成潤滑油は、これらに限定されるものではないが、リン含有酸の液状エステル類(例、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、デカンホスフィン酸のジエチルエステル等)、および高分子量テトラヒドロフラン類その他を含む。
【0074】
潤滑油は、以上に開示した種類のうち、天然、合成、もしくは任意の二種以上の混合物の未精製、精製、および再精製の油から誘導することができる。未精製油は、天然もしくは合成原料(例、石炭、頁岩、もしくはタール・サンド・ビチューメン)から直接に、それ以上の精製や処理を施すことなく得られた油である。未精製油の例は、これらに限定されるものではないが、レトルト操作により直接得られた頁岩油、蒸留により直接得られた石油、またはエステル化処理により直接得られたエステル油を含み、これらの各々はその後それ以上の処理なしで使用される。精製油は、一つ以上の性状を改善するために一以上の精製工程でさらに処理されたことを除いては、未精製油と同じである。これらの精製技術は、当業者に知られているが、例えば溶剤抽出、二次蒸留、酸もしくは塩基抽出、ろ過、パーコレート、水素処理、脱ろう等が挙げられる。再精製油は、精製油を得るのに用いたのと同様の方法で使用済みの油を処理することにより得られる。そのような再精製油は、再生もしくは再処理油としても知られていて、消費された添加剤や油分解生成物の除去を目的とする技術によりしばしばさらに処理される。
【0075】
ろうの水素異性化から誘導された潤滑油基材油も、単独で、あるいは前記天然および/または合成基材油と組み合わせて使用することができる。そのようなろう異性化油は、天然もしくは合成ろうまたはそれらの混合物を水素異性化触媒により水素異性化することにより生成する。
【0076】
天然ろうは一般に、鉱物油を溶剤脱ろうすることにより回収された粗ろうであり、合成ろうは一般に、フィッシャー・トロプシュ法により生成したろうである。
【0077】
本発明の潤滑油組成物は、補助機能を付与するための従来の潤滑油組成物添加剤も含有していてもよく、これら添加剤が分散または溶解した潤滑油組成物(最終配合物)をもたらす。例えば、酸化防止剤、耐摩耗剤、金属清浄剤などの清浄剤、さび止め剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶媒、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤、その他、およびそれらの混合物と、潤滑油組成物を配合することができる。様々な添加剤が知られていて市販もされている。これらの添加剤またはこれらに類似した化合物を通常の配合手段によって、本発明の潤滑油組成物の製造に用いることができる。
【0078】
酸化防止剤の例は、これらに限定されるものではないが、アミン型、例えば、ジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、N,N−ジ(アルキルフェニル)アミン類、およびアルキル化フェニレンジアミン類;フェノール系、例えばBHT、立体障害のあるアルキルフェノール類、具体的に2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、および2,6−ジ−tert−ブチル−4−(2−オクチル−3−プロパン酸)フェノール;およびそれらの混合物を含む。
【0079】
耐摩耗剤の例は、これらに限定されるものではないが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛およびジアリールジチオリン酸亜鉛、例えば「様々な潤滑の機構において幾つかのジアルキル−およびジアリール−ジチオリン酸金属の化学構造と効果との関係」との表題のボーン外の文献、潤滑の科学4−2、1992年1月において公表、例えば97〜100頁参照に記載のもの;アリールリン酸および亜リン酸、硫黄−含有エステル、リン硫黄化合物、金属もしくは灰を含有しないジチオカルバメート、キサンテート、硫化アルキル、その他、およびそれらの混合物を含む。
【0080】
無灰分散剤の代表例は、これらに限定されるものではないが、架橋基を介してポリマーの骨格に結合しているアミン、アルコール、アミド、もしくはエステルの極性部分を含む。本発明の無灰分散剤は、例えば、長鎖炭化水素置換モノおよびジカルボン酸もしくはそれらの無水物の油溶性塩、エステル、アミノ−エステル、アミド、イミド、およびオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体、直接結合しているポリアミンを有する長鎖脂肪族炭化水素;および長鎖置換フェノールをホルムアルデヒドおよびポリアルキレンポリアミンで縮合することにより製造したマンニッヒ縮合生成物から選択される。
【0081】
カルボン酸系分散剤は、少なくとも約34、好ましくは少なくとも約54の炭素原子を含むカルボン酸系アシル化剤(酸、無水物、エステル等)と、窒素含有化合物(例えばアミン)、有機ヒドロキシ化合物(例えば一価および多価アルコールを含む脂肪族化合物、もしくはフェノールおよびナフトールを含む芳香族化合物)、および/または塩基性無機物質との反応生成物である。これらの反応生成物はイミド、アミド、およびエステルを含む。
【0082】
コハク酸イミド分散剤は、カルボン酸系分散剤の一種である。それらは、炭化水素置換コハク酸アシル化剤を、有機ヒドロキシ化合物と、もしくは窒素原子に結合している少なくとも一つの水素原子を含むアミンと、もしくはヒドロキシ化合物とアミンとの混合物と反応させることによって製造される。用語「コハク酸アシル化剤」は炭化水素置換コハク酸もしくはコハク酸−生成化合物を意味し、後者は酸そのものを包含する。そのような物質は、通常は炭化水素置換コハク酸、無水物、エステル(半エステルを含む)およびハロゲン化物を含む。
【0083】
コハク酸起源の分散剤は、広く様々な化学構造を有する。コハク酸起源の分散剤の一つの分類は、下記の式で表すことができる:
【0084】
【化2】

【0085】
式中、Rは、それぞれ独立に、炭化水素基、例えばポリオレフィン−誘導基である。通常は、炭化水素基はアルキル基、例えばポリイソブチル基である。別の表現では、Rの基は約40乃至約500の炭素原子を含むことができ、そしてこれらの原子は脂肪族の状態で存在することができる。Rはアルキレン基、普通はエチレン(C)基である。コハク酸イミド分散剤の例は、例えば、米国特許第3172892号、同第4234435号および同第6165235号の各明細書に記載されているものを含む。
【0086】
置換基を誘導するポリアルケンは、一般に2乃至約16の炭素原子、そして通常は2乃至6の炭素原子の重合性オレフィンモノマーのホモポリマーおよびコポリマーである。コハク酸アシル化剤と反応してカルボン酸系分散剤組成物を形成するアミンは、モノアミンもしくはポリアミンのいずれでもよい。
【0087】
コハク酸イミド分散剤は、それらが通常は主にイミドとして機能する状態の窒素を含むため、そのように呼ばれるが、アミドとして機能するアミン塩、アミド、イミダゾリン、並びにそれらの混合物の状態であってもよい。コハク酸イミド分散剤を製造するため、一種以上のコハク酸−生成化合物と一種以上のアミンとは、任意に実質的に不活性な有機液状溶媒/希釈剤の存在下、加熱され、そして通常は水が除去される。反応温度は、約80℃乃至混合物もしくは生成物の分解温度(通常は約100℃乃至約300℃の範囲に入る)にすることができる。本発明のコハク酸イミド分散剤の製造方法について、その他の詳細および例は、例えば、米国特許第3172892号、同第3219666号、同第3272746号、同第4234435号、同第6165235号、および同第6440905号の各明細書に記載されているものを含む。
【0088】
適切な無灰分散剤は、アミン分散剤も含む。アミン分散剤は、比較的高分子量の脂肪族ハロゲン化物とアミン、好ましくはポリアルキレンポリアミンとの反応生成物である。そのようなアミン分散剤の例は、例えば、米国特許第3275554号、同第3438757号、同第3454555号、および同第3565804号の各明細書に記載されているものを含む。
【0089】
適切な無灰分散剤は、さらに「マンニッヒ分散剤」も含む。マンニッヒ分散剤は、アルキルフェノール(アルキル基は少なくとも約30の炭素原子を含む)とアルデヒド(特にホルムアルデヒド)およびアミン(特にポリアルキレンポリアミン)との反応生成物である。そのような分散剤の例は、例えば、米国特許第3036003号、同第3586629号、同第3591598号、および同第3980569号の各明細書に記載されているものを含む。
【0090】
適切な無灰分散剤は、後処理されたコハク酸イミド(例、ボレートもしくはエチレンカーボネート、例えば米国特許第4612132号および同第4746446号の各明細書に開示されているものを用いる後処理法;その他、並びに他の後処理法)のような後処理された無灰分散剤であってもよい。カーボネート処理されたアルケニルコハク酸イミドは、約450乃至約3000、好ましくは約900乃至約2500、さらに好ましくは約1300乃至約2400、最も好ましくは約2000乃至約2400の分子量を有するポリブテン、並びにこれらの分子量の混合物から誘導されるポリブテンコハク酸イミドである。例えば米国特許第5716912号明細書(その記載は参照のため本明細書の記載とする)に開示されているように、反応性条件下で、ポリブテンコハク酸誘導体、不飽和酸性試薬とオレフィンとの不飽和酸性試薬コポリマー、およびポリアミンの混合物を反応させることにより製造することが好ましい。
【0091】
適切な無灰分散剤は、ポリマーであってもよい。ポリマーは、油溶性モノマー、例えばデシルメタクリレート、ビニルデシルエーテルおよび高分子量オレフィンと、極性置換基を含むモノマーとのコポリマーである。ポリマー分散剤の例は、例えば、米国特許第3329658号、同第3449250号、および同第3666730号の各明細書に記載されているものを含む。
【0092】
本発明の好ましい態様において、潤滑油組成物で使用する無灰分散剤は、約700乃至約2300の数平均分子量を有するポリイソブテニル基から誘導されるビス−コハク酸イミドである。本発明の潤滑油組成物で使用する分散剤は、好ましくは非ポリマー(例、モノ−もしくはビス−コハク酸イミド)である。
【0093】
一般に、一種以上の無灰分散剤は、潤滑油組成物の全質量に基づき約1乃至約8質量%、好ましくは約1.5乃至約6質量%の範囲の量で潤滑油組成物中に存在する。
【0094】
本発明の潤滑油組成物に用いる清浄剤は、堆積物を削減もしくは除去する清浄剤と酸中和剤もしくはさび止め剤との双方として機能し、それにより摩耗および腐食を減少させ、エンジンの寿命を延ばす。清浄剤は一般に長い疎水性尾部を伴う極性頭部からなり、極性頭部は酸性有機化合物の金属塩を含む。
【0095】
本発明に従う潤滑油組成物は、一種以上の清浄剤を含むことができる。清浄剤は通常は塩、特に過塩基性の塩である。過塩基性の塩もしくは過塩基性の物質は、金属と該金属に反応する特定の酸性有機化合物との化学量論的な存在量よりも過剰な金属含有量を特徴とする単相で均一なニュートン系である。過塩基性物質は、少なくとも一種の不活性有機溶媒(例えば、鉱物油、ナフサ、トルエン、キシレン)中、化学量論的に過剰な金属塩基および促進剤の存在下、酸性物質(典型的には、二酸化炭素のような無機酸もしくは低級カルボン酸)を、酸性有機化合物を含む混合物と反応させることにより製造される。
【0096】
過塩基性組成物を製造するために有用な酸性有機化合物は、カルボン酸、スルホン酸、リン含有酸、フェノール、およびそれらの混合物を含む。好ましくは、酸性有機化合物はカルボン酸もしくはスルホン酸、および炭化水素置換サリチル酸である。
【0097】
カルボキシレート清浄剤(例、サリチレート)は、芳香族カルボン酸を、酸化物もしくは水酸化物のような適切な金属化合物と反応させることにより製造できる。次に、中性もしくは過塩基性の生成物は、この技術において良く知られている方法により得ることができる。芳香族カルボン酸の芳香族部分は、窒素原子および酸素原子のようなヘテロ原子を一つ以上含むことができる。好ましくは、芳香族部分は炭素原子のみである。より好ましくは、芳香族部分はベンゼン部分のように6以上の炭素原子を含む。芳香族カルボン酸は、一つ以上のベンゼン部分のように、一つ以上の芳香族部分を含むことができ、任意に一緒になって縮合もしくはアルキレン架橋を介して連絡してもよい。芳香族カルボン酸の代表的な例は、サリチル酸類およびその硫化誘導体(例えば、炭化水素置換サリチル酸およびその誘導体)を含む。例えば、炭化水素置換サリチル酸の硫化処理は、当業者に公知の方法で実施できる。サリチル酸は一般に、フェノキシドのカルボキシル化(例えば、コルベ−シュミット法)によって製造される。その場合、サリチル酸は通常、カルボキシル化されなかったフェノールとの混合物中で希釈剤中から得られる。
【0098】
フェノールおよび硫化フェノールの金属塩は、酸化物もしく水酸化物のような適切な金属化合物との反応により製造される。中性もしくは過塩基性の生成物は、この分野で良く知られている方法により得ることができる。例えば、硫化フェノールは、フェノールを硫黄または硫化水素、モノハロゲン化硫黄、もしくはジハロゲン化硫黄のような硫黄含有化合物と反応させ、二つ以上のフェノールが硫黄含有結合により連結されている化合物の混合物として生成物を生じさせることにより製造できる。
【0099】
過塩基性塩の製造に有用な金属化合物は、一般に元素の周期律表のI族もしくはII族の金属の化合物である。好ましくは、金属化合物はII族の金属であり、IIa族のアルカリ土類金属(例、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)のみではなく、亜鉛やカドミウムのようなIIb族の金属も含む。II族の金属は、好ましくはマグネシウム、カルシウム、バリウム、もしくは亜鉛であり、さらに好ましくはマグネシウムもしくはカルシウムであり、最も好ましくはカルシウムである。
【0100】
過塩基性清浄剤の例は、これらに限定されるものではないが、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリチレート、カルシウムステアレート、およびそれらの混合物を含む。本発明の潤滑油組成物中で使用するのに適した過塩基性清浄剤を、低度の過塩基性(例、約100よりも低いBNを有する過塩基性清浄剤)にすることができる。そのような低過塩基性清浄剤のBNは、約5乃至約50、もしくは約10乃至約30、もしくは約15乃至約20にすることができる。あるいは、本発明の潤滑油組成物中で使用するのに適した過塩基性清浄剤を、高度の過塩基性(例、約100を超えるBNを有する過塩基性清浄剤)にすることができる。そのような高過塩基性清浄剤のBNは、約100乃至約450、もしくは約200乃至約350、もしくは約250乃至約280とすることができる。約17のBNを有する低過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤と、約120のBNを有する高過塩基性硫化カルシウムフェネートとは、本発明の潤滑油組成物中で使用する過塩基性清浄剤を代表する二つの例である。
【0101】
本発明に従う潤滑油組成物は、一種以上の過塩基性清浄剤を含むことができる。複数の過塩基性清浄剤は、いずれも低BN清浄剤であっても、いずれも高BN清浄剤であっても、あるいは両者の混合物であってもよい。例えば、本発明の潤滑油組成物は、約100乃至約450のBNを有する過塩基性アルカル土類金属スルホネート清浄剤である第一の金属含有清浄剤と約10乃至約50のBNを有する過塩基性アルカリ土類金属スルホネートもしくはフェネート清浄剤である第二の金属含有清浄剤とを含むことができる。
【0102】
潤滑油組成物における使用に適切な清浄剤は、例えばフェネート/サリチレート、スルホネート/フェネート、スルホネート/サリチレート、スルホネート/フェネート/サリチレートその他のような「ハイブリッド」清浄剤も含む。ハイブリッド清浄剤は、例えば米国特許第6153565号、同第6281179号、同第6429178号、および同第6429179号の各明細書に記載されているものを含む。
【0103】
一般に、一種以上の金属含有清浄剤は潤滑油組成物中に、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.5乃至約8.5質量%、好ましくは約1乃至約6質量%の範囲の量で存在する。二種類の金属含有清浄剤を用いる場合、潤滑油組成物の全質量に基づき、第一の金属含有清浄剤は潤滑油組成物中に約0.5乃至約5質量%、好ましくは約1乃至約3質量%の範囲の量で存在し、第二の金属含有清浄剤は潤滑油組成物中に約0.1乃至約1.0質量%、好ましくは約0.2乃至約0.5質量%の範囲の量で存在する。
【0104】
さび止め剤の例は、これらに限定されるものではないが、非イオン性ポリオキシアルキレン界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエート;ステアリン酸および他の脂肪酸;ジカルボン酸;金属石鹸;脂肪酸アミン塩;重質スルホン酸の金属塩;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル;(短鎖)アルケニルコハク酸;それらの部分エステルおよびそれらの窒素含有誘導体;合成アルカリールスルホネート、例えば、金属ジノニルナフタレンスルホネート;その他、およびそれらの組合せを含む。さび止め剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0105】
摩擦緩和剤の例は、これらに限定されるものではないが、アルコキシル化脂肪族アミン;ホウ酸化脂肪族エポキシド;脂肪族ホスファイト、脂肪族エポキシド、脂肪族アミン、ホウ酸化アルコキシル化脂肪族アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸化グリセロールエステル;および米国特許第6372696号明細書に開示されている脂肪族イミダゾリン、その開示内容も参照のため本明細書の記載とする;C乃至C75、好ましくはC乃至C24、最も好ましくはC乃至C20の脂肪酸エステルと、アンモニアおよびアルカノールアミンからなる群より選ばれた窒素含有化合物との反応生成物から得られた摩擦緩和剤、その他、およびそれらの組合せを含む。摩擦緩和剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0106】
消泡剤の例は、これらに限定されるものではないが、アルキルメタクリレートポリマー;ジメチルシリコーンポリマー、その他、およびそれらの混合物を含む。
【0107】
流動点降下剤の例は、これらに限定されるものではないが、ポリメタクリレート、アルキルアクリレートポリマー、アルキルメタクリレートポリマー、ジ(テトラ−パラフィンフェノール)フタレート、テトラ−パラフィンフェノールの縮合物、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、およびそれらの混合物を含む。ある態様では、流動点降下剤はエチレン−ビニルアセテートコポリマー、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリアルキルスチレン、その他、およびそれらの組合せを含む。流動点降下剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0108】
抗乳化剤の例は、これらに限定されるものではないが、アニオン性界面活性剤(例、アルキル−ナフタレンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート等)、非イオン性アルコキシル化アルキルフェノール樹脂、アルキレンオキシドポリマー(例、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のブロックコポリマー)、油溶性酸のエステル、ポリオキシエチレンのソルビタンエステル、その他、およびそれらの組合せを含む。抗乳化剤の量は、約0.01質量%乃至約10質量%の範囲で変更することができる。
【0109】
腐食防止剤の例は、これらに限定されるものではないが、ドデシルコハク酸、リン酸エステル、チオホスフェート、アルキルイミダゾリン、サルコシン、その他、およびそれらの組合せの半エステルもしくはアミドを含む。腐食防止剤の量は、約0.01質量%乃至約5質量%の範囲で変更することができる。
【0110】
極圧剤の例は、これらに限定されるものではないが、硫化した動物もしくは植物の脂肪もしくは油、硫化した動物もしくは植物の脂肪酸エステル、完全にもしくは部分的にエステル化したリンの3価もしくは5価の酸のエステル、硫化オレフィン、ジ炭化水素ポリスルフィド、硫化したディールス−アルダー付加物、硫化ジシクロペンタジエン、脂肪酸エステルおよびモノ不飽和オレフィンの硫化もしくは共硫化混合物、脂肪酸の共硫化混合物、脂肪酸エステルおよびアルファ−オレフィン、官能基置換ジ炭化水素ポリスルフィド、チアアルデヒド、チアケトン、エピチオ化合物、硫黄−含有アセタール誘導体、テルペンおよび非環状オレフィンの共硫化混合物、およびポリスルフィドオレフィン生成物、リン酸エステルもしくはチオリン酸エステルのアミン塩、その他、およびそれらの組合せを含む。極圧剤の量は、約0.01質量%乃至約5質量%の範囲で変更することができる。
【0111】
本発明の別の態様において、一種以上の本発明のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を、添加剤パッケージもしくは濃縮物として提供でき、その中で上記一種以上のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物は、実質的に不活性な通常は液体の有機希釈剤、例えば、鉱物油、ナフサ、ベンゼン、トルエン、もしくはキシレンに加えて、添加剤濃縮物を生成する。これらの濃縮物は、通常はそのような希釈剤を約20質量%乃至約80質量%含む。通常は100℃において約4乃至約8.5cSt、好ましくは100℃において約4乃至約6cStの粘度を有する中性油を希釈剤として用いるが、添加剤および最終潤滑油と相溶性がある合成油並びに他の有機液体も用いることができる。添加剤パッケージは、通常は上記のような一種以上の様々な添加剤を必要とされる量、かつ必要な量の基油と直接的に組み合わせることを可能にする比率で含有する。
【0112】
本発明の潤滑油組成物を適用できるが、特に限定する訳ではない分野は、例えば、舶用シリンダー潤滑剤、トランクピストンエンジン油、およびシステム油;自動車のエンジン油;鉄道エンジン油;固定エンジン油、例えば、天然ガスエンジン油;グリース;および機能性液体、例えば、トラクターの油圧液、ギア油、耐摩耗油圧油、および変速機液を含む。
【0113】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明するために示されるが、どのようにしても本発明の範囲を限定するように解釈することはできない。
【実施例】
【0114】
[例1A]
(トリメチルアンモニウムクロロアルミネートからなるイオン性液体触媒の製造)
機械式攪拌機、温度計、および水冷式還流冷却器が取り付けられた1000mlの乾燥した三ツ口ガラス製丸底フラスコに、67.2g(0.7モル)のトリメチルアンモニウム塩酸を加えた。これを、吸引下(400mmHg)、105℃まで約65時間かけて加熱し、次に窒素雰囲気下で室温まで放置して冷却した。この塩酸塩に187.8(1.4モル)の三塩化アルミニウムをいくつかの部分に分け、窒素中で撹拌しながら約30分間かけて加え、その間にフラスコの内容物の温度を103℃まで上昇させた。反応混合物を、約70℃まで加熱し、2時間10分撹拌し、さらに窒素中で室温まで冷却した。液体トリメチルアンモニウムクロロアルミネートからなるイオン性液体は、使用するまで窒素中で保存した。
【0115】
[例1B]
(連続撹拌流動反応器におけるイオン性液体触媒によるプロピレンのオリゴマー化)
外部冷却/加熱器に接続し、底部排出弁が装備され、機械式パドル攪拌機、温度計、反応器底部の溶融ガラス製取入口、およびゴム製の血清ストッパーと皮下注射針の穴とを備えた水冷式冷却器が取り付けられ、ジャケットが装着された清浄に乾燥したおよそ1リットルのガラス製反応器に、およそ195gの例1Aのイオン性液体触媒とおよそ150mlのヘキサンとを加えた。撹拌機を高速で作動させ、外部冷却/加熱器を55℃に調節した。プロピレンガスを、ガス分散管を通して0.2〜0.4リットル/分、およそ8時間かけて導入した。この間、反応器温度の変化を、55℃乃至61℃とした。
【0116】
上記の8時間の期間の最後に、撹拌機とプロピレンガスの添加とを停止し、イオン性液体触媒、続いてヘキサン層を反応器から排出した。二日後、集めたイオン性液体触媒、続いて150mlのヘキサンを再び反応器に加えた。外部加熱/冷却器を55℃に調節し、プロピレンガスを、ガス分散管を通して0.2〜0.4リットル/分、30.5時間かけて導入した。この間、反応器温度の変化を55℃乃至58℃とした。次に撹拌機を停止し、触媒、続いてヘキサン層を反応器から排出した。ヘキサン層をまとめたものを氷に流し込んでクエンチし、水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、吸引下(1mmHg真空)、80℃で回転蒸発器を用いてヘキサンを除き、450gの第一の生成物を得た。SFCによる第一の生成物の分析では広い分子量分布を示し、MALS検出を用いるHPLCサイズ排除クロマトグラフィーによる分析はMn=935、Mw=1013、および1.08のDIを示した。
【0117】
200gのイオン性液体触媒、150gのヘキサン、および合計時間でおよそ53時間のプロピレンガス添加を、55℃乃至61℃の反応器温度で、停止反応なしで(およそ45時間の反応時間後、追加の100mlのヘキサンを反応器に加えて)採用し、上記の手順を繰り返した。後処理およびヘキサン溶媒の除去により、460gの第二の生成物を得た。SFCによるこの第二の生成物の分析では広い分子量分布を示し、MALS検出を用いるHPLCサイズ排除クロマトグラフィーによる分析はMn=1321、Mw=1348、および1.02のDIを示した。
【0118】
第一の生成物と第二の生成物とを組み合わせて、炭素NMRで分析したところ、0.0014%のメチルビニリデンオレフィンを含むことが判明した。
【0119】
[実施例1]
(プロピレンオリゴマー・アルキルフェノールの製造)
機械式撹拌機、水冷却器、液体添加漏斗、および温度計が取り付けられた2リットルのガラス製四ツ口丸底フラスコに、窒素雰囲気下、268.9g(2.86モル)のフェノールを加えた。撹拌しながら反応の温度を130℃に上げ、およそ6.7gのトリフルオロメタンスルホン酸をスポイトから滴下して加え(反応混合物はオレンジ色に変化し)、直ちに787g(およそ0.95モル)の例1Bのプロピレンオリゴマーを添加漏斗から加えた。反応混合物を130℃で2時間保ち、次に室温まで冷却し、1リットルのヘキサンで希釈し、飽和重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、重力濾過を行い、吸引下で溶媒を除去し、806gの褐色油を得た。この褐色油の一部(775g)を吸引蒸発により分留し(1.0トルと151乃至204℃にプログラムされた温度における10”×2”の未充填ビグリューカラム)、残存する未反応のフェノールを全て除去し、725gの第二の褐色油を得た。この第二の褐色油の一部(575g)を二回目の吸引蒸発により分留し(0.3トルと193乃至240℃にプログラムされた温度における10”×2”の未充填ビグリューカラム)、C−C18アルキルフェノールを全て除去し、精製されたプロピレンオリゴマー・アルキルフェノールを得た:
【0120】
1H NMR、0.3〜2.0ppm(脂肪族C−H)、4〜5ppm(O−H)、および6.6〜7.6ppm(芳香族C−H);IR745cm−1(オルト−アルキルフェノール)、825cm−1(パラ−アルキルフェノール);HPLC(5cm×4.6cm、5μC8カラム、78:22=メタノール:水、10分間、次に85/15、1ml/分で100%メタノールを35分間、225×313emの蛍光を用い2μlで注入)は0.02質量%のC−C18のアルキルフェノールの存在を示し;吸着クロマトグラフィー(シリカゲルSepPakTM、ヘキサン、次にジエチルエーテル)は、プロピレンオリゴマー・アルキルフェノールが70.0質量%のアルキルフェノールを含み、残りが未反応のポリプロピレンオリゴマーであることを示した。
【0121】
[実施例1の生成物についてヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素原子に隣接するCHの不存在の測定]
ヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素原子に隣接するCHは、炭素NMRスペクトルにおいて約49乃至51ppmに出現することが計算されている。この化学的シフト(50.5ppm)は、次の構造においてCH炭素に特異的である:
【0122】
【化3】

【0123】
この計算値は、ソフトウェアー(ChemDraw UltraTM、(c)、1985〜2001、バージョン7.0.1、ケンブリッジソフト社、米国、MA02140、ケンブリッジ、100ケンブリッジパーク・ドライブ)を用いて決定した。
【0124】
実施例1の生成物について、ヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素原子に隣接するCHの全量を測定するため、無歪感度向上分極移動(DEPT)NMRを実施した。DEPTは、最初にドッドレル外(J. Magn. Reson.、48:323、1982年)によって開示され、大部分のNMR機器において利用されている。DEPTの実験は、(a)完全にプロトン化した炭素、(b)CH炭素、(c)CH炭素、および(d)CH炭素を含む試料について四種類の分離したNMRスペクトルを与える。図1は、実施例1の生成物においてDEPTの実験からCH炭素の量のみを示す。
【0125】
図1において、約49乃至51ppmの領域の累積値は、実施例1の生成物において、ヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素原子に隣接するCH炭素が約0.65%のみであることを示している。これは、実施例1の生成物において、CH炭素の99%がヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素原子に隣接していないことを意味する。
【0126】
[比較例A]
(精製されたプロピレン四量体アルキルフェノールカルシウム塩)
分岐ドデシルフェノールカルシウム塩を、主にプロピレン四量体から誘導された分岐鎖C10−C15のオレフィンの混合物によるフェノールのアルキル化によって製造した。得られたアルキルフェノールは、下記第1表に示す炭素分布を有していた:
【0127】
第1表
──────────
炭素数 質量%
──────────
≦C
10,11 6.6
12 82.7
13+ 10.7
──────────
【0128】
乾燥窒素の雰囲気下、機械式撹拌機、冷却器付きのディーン・スターク・トラップを取り付けた3リットルの五つ口丸底フラスコに、607g(2.32モル)の上記C12分岐アルキルフェノール、続いて500gのシェブロンRLOP100N油を加えた。この混合物をおよそ150℃まで加熱し、撹拌しながらこの温度を一晩保った。次に混合物を、氷浴を用いておよそ20℃まで冷却し、48.8g(1.16モル)の水素化カルシウム(CaH、98%、アルドリッチ・ケミカル社から入手)を、およそ10g毎に分割した混合物に撹拌しながら加えた。混合物を、およそ270℃まで、およそ1時間かけて加熱し、撹拌しながらこの温度を8時間保った。混合物を一晩200℃まで冷却し、温度を280℃まで高めてその状態を4時間維持した。混合物を230℃まで冷却し、この温度を一晩維持した。混合物をおよそ150℃まで冷却し、およそ3.5時間かけて補助的に吸引しながら、セライト(CeliteTM)濾過助剤(120℃で一晩乾燥したもの)を含む焼結ガラス製ブフナー漏斗を通して濾過し、乾燥濾過フラスコに入れた。得られた淡い蜂蜜色の液体は、3.82%のカルシウムを含んでいた。この反応を繰り返し、生成物をまとめたものは、3.82%のカルシウムを含む蜂蜜色の液体であった。
【0129】
[比較例B]
(プロピレン五量体アルキルフェノールカルシウム塩)
分岐ペンタデシルフェノールカルシウム塩を、主にプロピレン5量体から誘導された分岐鎖C14−C18のオレフィンによるフェノールのアルキル化によって製造した。乾燥窒素の雰囲気下、機械式撹拌機、冷却器付きのディーン・スターク・トラップを取り付けた2リットルの丸底フラスコに、705g(2.32モル)のC15分岐アルキルフェノール、続いて500gのシェブロンRLOP100N油を加えた。この混合物を、氷浴を用いておよそ13℃まで冷却し、次に48.8g(1.16モル)の水素化カルシウム(98%、アルドリッチ・ケミカル社から入手)を、およそ10g毎に分割した混合物に撹拌しながら加えた。反応温度を50分間かけて100℃まで加熱し、140分間かけて200℃まで加熱し、200℃をおよそ18時間保ち、1時間かけて280℃まで加熱し、280℃を8.5時間保ち、230℃まで冷却し、230℃をおよそ14時間保った。反応温度を150℃まで冷却し、補助的に吸引しながら、セライトの濾過床を含む乾燥かつ加熱(150℃)した600mlのブフナー漏斗を通して濾過し、110℃乃至120℃に維持し、3.51質量%のカルシウムを含む生成物を得た。
【0130】
[比較例C]
(プロピレン四量体アルキルフェノール)
分岐した主にC12もしくは分岐ドデシルフェノールを、プロピレン四量体から誘導される分岐鎖C10−C15のオレフィンによるフェノールのアルキル化によって製造した。得られたアルキルフェノールは、下記第2表に示す炭素分布を有していた:
【0131】
第2表
───────
炭素数 質量%
───────
≦C10
11 18
12 59
13 17
14
≧C15
───────
【0132】
[比較例D]
(プロピレン四量体・二量体アルキルフェノール)
機械式撹拌機、水冷却器、および温度計を取り付けたガラス製三ツ口丸底フラスコに、896g(〜2.7モル)のプロピレン四量体・二量体と82.4gのアンバーリストTM36スルホン酸イオン交換樹脂とを加えた。この混合物を撹拌しながら90℃まで加熱し、753g(8.0モル)のフェノールを反応器に加えた。反応温度を120℃まで上昇させ、24時間保った。反応温度を1.5時間かけて130℃まで上昇させ、その後、放置して室温まで冷却した。反応混合物を補助的に吸引しながら、ガラス製溶融ブフナー漏斗を通して濾過した。得られた濾液(1721g)を吸引蒸発により分留し(10”×2”のビグリューカラム、10〜50トル、111乃至180℃にプログラムされた温度)、未反応のフェノールを除去し、1079gの残油生成物を得た。上記アルキル化反応を繰り返し、蒸留残油生成物をまとめたもの(1721g)を、二回目の吸引蒸発により分留し(10”×2”のビグリューカラム、1.0トル、100乃至195℃にプログラムされた温度)、C−C18のアルキルフェノールを全て除去し、675gの精製されたプロピレン4量体2量体アルキルフェノールを得た:
【0133】
IR745cm−1(オルト−アルキルフェノール)、825cm−1(パラ−アルキルフェノール);FIMS分析はC10−C31のアルキルフェノールの存在を示し;HPLC(5cm×4.6cm、5μC8カラム、78:22=メタノール:水、10分間、次に85/15、1ml/分で100%メタノールを35分間、225×313emの蛍光を用い2μlで注入)は3.05質量%のC−C18のアルキルフェノールの存在を示し;吸着クロマトグラフィー(シリカゲルSepPakTM、ヘキサン、次にジエチルエーテル)は、プロピレン四量体・二量体アルキルフェノールが88.0質量%のアルキルフェノールを含み、残りが未反応のポリプロピレン四量体・二量体であることを示した。
【0134】
(評価)
実施例1および比較例A−Dの化合物を経口胃管栄養投与した後、未成熟な雌のCDTM(Sprague−Dawley)ラットにおける成熟段階の発育の評価を実施した。この評価は、「雌の成熟段階の評価法」と呼ばれる毒物学の評価制度の修正版である。この評価法は、20日の被検物質投与期間に、エストロゲンおよび抗エストロゲンの作用、並びに視床下部−下垂体−生殖腺/甲状腺軸の不安定要因を検出する。効果は、性的な成熟(膣が開口する齢)の時期の変化、生体の体重変化、および最初の発情期の齢によって検出される。この評価法は、内分泌末端に感度を有するように設定されているが、ある特定の内分泌介在機構を選択することがないとの観点から最先端の設計である。
【0135】
雌の成熟段階の評価法は視床下部−下垂体−生殖腺/甲状腺軸に対する生物学的活性により化学物質を検出できる最先端の評価法であることに留意すべきである。雌の生殖腺に直接作用する化学物質、例えば、エストロゲン擬態物質として記述されているものも、子宮影響評価法として知られるより簡単な評価法で検出される。子宮影響評価法はエストロゲン性に特異的である。ただし、雌の成熟段階の評価法は、雌の生殖腺に直接作用する化学物質と、これらの内分泌軸における他の成分に対して作用する化学物質との双方を検出しなければならない。
【0136】
手短に述べると、評価法は以下のように実施する。日齢21で体重が所定範囲内の適切な雌のラットを離乳させ、無作為に四つの処置群に分けた。各処理群は、15匹の雌で構成した。投薬レベルを決定し、投与量を毎日の体重に基づく量とした。被検動物への被検化合物もしくは賦形剤(MazolaTMコーン油)の経口投与を、22日齢から開始し41日齢まで継続した。コーン油を投与した別の賦形剤対照群は、各成分と同時に追跡した。体重を毎日記録すると共に、臨床的な徴候を実験期間中、一日に二回、観察した。PND(生後の日数)25に、膣の穿孔について被検動物を調べた。膣の穿孔が終了した日を、膣の開口齢と認定し、その日の体重を記録した。膣の穿孔日から始めて検死に至るまで毎日、発情期を決定するため膣スミアを行った。PND42の検死において、雌を安楽死させ、甲状腺刺激ホルモン(TSH)およびチロキシン(T)を分析するため、血液を大静脈から集めた。子宮、卵巣、肝臓、下垂体、腎臓、甲状腺、および副腎の重量を収集した。体重、体重増加、臓器重量、(液中および吸い取った)管腔液重量、膣の穿孔を捕捉した平均日、最初の発情期の平均齢、および発情期間の長さを、統計的な方法、例えば、パラメトリック一元配置分散分析法(ANOVA)を用いて分析し、被検群間の相違を決定した。
【0137】
【表1】

【0138】
第3表のデータは、性的な成熟で測定される内分泌機能を撹乱する可能性について、化合物を区別する評価法の感度を示している。
【0139】
実施例1では、非常に高い投与量であっても、膣が開口する日数の減少(第3表および図2を参照)もしくは性的な成熟時の体重の減少(第3表を参照)で測定される内分泌撹乱の証拠を示さなかった。これに対して、比較例A、B、C、およびDは、内分泌撹乱の証拠を示した。さらに、比較例A、B、C、およびDは高い投与率における顕著な効果を伴う体重についての低下傾向を示した。類似の低下傾向は、膣が開口する平均生後日数についても認められた。有効性について、遊離のアルキルフェノールとそのカルシウム塩との間で大きな変化がないこと(比較例AおよびCを参照)についても注目すべきである。
【0140】
本明細書に開示した態様には様々な変更を成しうることを理解されたい。従って、上記の説明は、限定的に構成されるものではなく、単に好ましい態様の例示であると解釈すべきである。例えば、上述した本発明を実施する最良の形態として遂行した機能は、説明のためでしかない。当該分野の熟練者であれば、本発明の範囲および真意から逸脱することなく、その他の配合や方法を遂行することができよう。また、当該分野の熟練者であれば、本出願に添付した特許請求の範囲の真意および範囲内で、他の変更を考慮するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む方法により製造されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物:
少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、酸触媒の存在下、少なくとも一種の20乃至80の炭素原子を有する分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーと反応させて、アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を生成させる、ただし、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーには、いかなるビニリデン含量も実質的に存在せず、かつヒドロキシ芳香族環に結合しているベンジル性炭素は、メチルもしくは3乃至5の炭素原子を有する分岐アルキル基である第一の基、少なくとも18の炭素原子を有し、2つの炭素原子毎に平均して一つの分岐を有し、各分岐が1乃至2の炭素原子を含む分岐アルキル基である第二の基、および1乃至5の炭素原子を有する直鎖アルキル基である第三の基によって置換されている、ただし第一および第二の基のそれぞれがベンジル性炭素に直接結合している炭素基は、CH基ではない。
【請求項2】
上記の少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物が、1乃至4のヒドロキシル基を有する単環式のヒドロキシ芳香族炭化水素である請求項1に記載の方法により製造されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物。
【請求項3】
上記の少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物が、1乃至3のヒドロキシル基を有する単環式のヒドロキシ芳香族炭化水素である請求項2に記載の方法により製造されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物。
【請求項4】
上記の少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物がフェノールである請求項3に記載の方法により製造されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物。
【請求項5】
上記の酸触媒が強酸である請求項1に記載の方法により製造されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物。
【請求項6】
上記の酸触媒がトリフルオロメタンスルホン酸もしくはアンバーリスト36スルホン酸である請求項1に記載の方法により製造されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物。
【請求項7】
上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーが20乃至60の炭素原子を有する請求項1に記載の方法により製造されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物。
【請求項8】
上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーが分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーの混合物である請求項1に記載の方法により製造されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物。
【請求項9】
上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーのビニリデン含量が1質量%未満である請求項1に記載の方法により製造されたアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物。
【請求項10】
(a)主要量の潤滑粘度の油;および
(b)一種以上の請求項1のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物
を含む潤滑油組成物。
【請求項11】
上記の一種以上のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物が、組成物の全質量に基づいて、0.1質量%乃至10質量%の量で存在する請求項10の潤滑油組成物。
【請求項12】
さらに、酸化防止剤、耐摩耗剤、清浄剤、さび止め剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶媒、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤を含む請求項10の潤滑油組成物。
【請求項13】
少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、酸触媒の存在下、少なくとも一種の20乃至80の炭素原子を有する分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーと反応させることを含む、但し、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーにはいかなるビニリデン含量も実質的に存在しない、ヒドロキシ芳香族化合物をアルキル化するための方法。
【請求項14】
上記のアルキル化されたヒドロキシ芳香族化合物が、オルトおよびパラ異性体の混合物である請求項13に従う方法。
【請求項15】
上記のアルキル化されたヒドロキシ芳香族化合物が、1乃至99%のオルト異性体と99乃至1%のパラ異性体とを含む請求項13に従う方法。
【請求項16】
上記のアルキル化されたヒドロキシ芳香族化合物が、5乃至70%のオルト異性体と95乃至30%のパラ異性体とを含む請求項13に従う方法。
【請求項17】
上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーが20乃至60の炭素原子を有する請求項13に従う方法。
【請求項18】
上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーが、分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーの混合物である請求項13に従う方法。
【請求項19】
上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーのビニリデン含量が1質量%未満である請求項13の方法。
【請求項20】
下記の工程を含むヒドロキシ芳香族化合物をアルキル化するための方法:
(a)イオン性液体触媒の存在下、プロピレンをオリゴマー化して、少なくとも一種の20乃至80の炭素原子を有する分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーを生成する工程、ただし、上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーには、いかなるビニリデン含量も実質的に存在しない、そして
(b)少なくとも一種のヒドロキシ芳香族化合物を、酸触媒の存在下、少なくとも一種の20乃至80の炭素原子を有する分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーと反応させる工程。
【請求項21】
上記の酸イオン性液体触媒が第一の成分と第二の成分とを含み、この第一の成分がハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化アルキルアルミニウム、ハロゲン化ガリウム、およびハロゲン化アルキルガリウムからなる群より選ばれる化合物を含み、第二の成分がアンモニウム塩、ホスホニウム塩、もしくはスルホニウム塩から選ばれる塩を含む請求項20に従う方法。
【請求項22】
上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーが20乃至60の炭素原子を有する請求項20に従う方法。
【請求項23】
上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーが分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーの混合物である請求項20に従う方法。
【請求項24】
上記の少なくとも一種の分岐オレフィン性プロピレンオリゴマーのビニリデン含量が1質量%未満である請求項20の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−511538(P2013−511538A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540055(P2012−540055)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/057214
【国際公開番号】WO2011/063113
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】