説明

内燃機関のアイドリングストップの制御方法及びアイドリングストップシステム

【課題】エンジンの自動停止時における再始動を、従来よりも速やかに行うことができる内燃機関のアイドリングストップの制御方法及びアイドリングストップシステムを提供する。
【解決手段】エンジン1が完全停止する前に再始動要求が発生したときには、エンジン1の完全停止直前にスタータのピニオン5を飛び出させてエンジン1のクランク軸2に連結されたリングギア4に嵌合させ、エンジンが停止時の気筒10及びクランク角度を判別し、エンジン1の完全停止後に、その判別された気筒10の次に自着火する気筒10のクランク角度が吸気バルブが閉じるタイミングまで変化するように、ピニオン5でリングギア4を回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のアイドリングストップの制御方法及びアイドリングストップシステムに関し、更に詳しくは、エンジンの自動停止時における再始動を、従来よりも確実かつ速やかに行うことができる内燃機関のアイドリングストップの制御方法及びアイドリングストップシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のエンジンには、燃費の低減及び排気ガスによる環境悪化の防止の観点から、信号待ちやその他の条件で車両が停車している場合に、エンジンを停止して燃料消費を抑制し、ドライバーの発進の意志をブレーキペダル、クラッチペダルやシフト操作などから汲み取りエンジンを再始動する、いわゆるアイドリングストップ機構が搭載されるようになっている。
【0003】
エンジンの再始動の時間を短縮する技術として、エンジン停止時に適切なクランク位置で停止させることで、始動時の燃焼を素早く行う技術が開発されている。また、完全に停止する前に再始動可能にする技術として、スタータのピニオンの飛び出しと回転駆動とを、それぞれ別々に作動させることができるスタータモータが登場してきている。
【0004】
そのようなスタータモータを用いるものとして、例えば、エンジンの回転速度の変化を予測し、その回転速度とピニオンの回転速度とが同期する時点に合わせて、ピニオンをリングギアに向けて押し出すエンジン自動停止再始動装置が提案されている(特許文献1を参照)。
【0005】
しかしながら、上記のエンジン自動停止再始動装置では、再始動時の最初の圧縮行程にある気筒が、燃料の自着火に必要とされる十分な筒内圧力を得ることができない場合には、再始動が遅れるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4214401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、エンジンの自動停止時における再始動を、従来よりも速やかに行うことができる内燃機関のアイドリングストップの制御方法及びアイドリングストップシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の内燃機関のアイドリングストップの制御方法は、エンジンの運転中に発生した停止要求により前記エンジンへの燃料供給を停止し、再始動要求によりスタータを起動させるアイドリングストップシステムを備えた内燃機関のアイドリングストップの制御方法であって、前記エンジンが完全停止する前に前記再始動要求が発生したときには、前記エンジンの完全停止直前に前記スタータのピニオンを飛び出させて前記エンジンのクランク軸に連結されたリングギアに嵌合させ、エンジンが停止時の気筒及びクランク角度を判別し、前記エンジンの完全停止後に、前記気筒の次に自着火する気筒のクランク角度が吸気バルブが閉じるタイミングまで変化するように、前記ピニオンで前記リングギアを回転させることを特徴とするものである。
【0009】
上記の内燃機関のアイドリングストップの制御方法においては、エンジンが完全停止する前に前記再始動要求が発生したときには、エンジンの水温又は油温の測定値に対応するクランク軸のイナーシャI及びフリクショントルクTfを決定し、下記に示す式(1)〜(7)により求めたクランク軸の角加速度αを、再始動要求の発生時から所定の期間で積分することで、クランク軸の将来の推定回転速度Neを算出し、ピニオンを回転駆動するとともにその将来の推定回転速度Nsを決定し、クランク軸の推定回転速度Neがピニオンの推定回転速度Nsと同一の又は近似する値以下となる時点Tsにおいて、そのピニオンを押し出してクランク軸に連結されたリンクギアに噛合させるようにする。

但し、D:シリンダ内径、L:コンロッド長さ、R:クランク半径、mrec:往復部質量、P0:インマニ圧力、κ:比熱比、Vs:隙間容積、V0:下死点でのシリンダ容積、θ:クランク角度、ψ:コンロッド−シリンダ軸間角度、をそれぞれ示す。
【0010】
また、クランク軸の推定回転速度Neから、ピニオンの推定回転速度Nsを差し引いた値は0rpm以上となるようにするのが良い。
【0011】
更に、時点Tsからピニオンが押し出されてリングギアに噛合するまでの所定の移動時間Trだけ戻った時点において、ピニオンの押し出しを開始することが望ましい。
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の内燃機関のアイドリングストップシステムは、エンジンの運転中に発生した停止要求により前記エンジンへの燃料供給を停止し、再始動要求によりスタータを起動させる内燃機関のアイドリングストップシステムであって、前記エンジンの各気筒の行程を判別するクランクセンサと、制御手段とを備え、前記制御手段は、前記エンジンが完全停止する前に前記再始動要求が発生したときには、前記エンジンの完全停止直前に前記スタータのピニオンを飛び出させて前記エンジンのクランク軸に連結されたリングギアに噛合させ、前記クランクセンサの測定値からエンジンが停止時の気筒及びクランク角度を判別し、前記エンジンの完全停止後に、前記気筒の次に自着火する気筒のクランク角度が吸気バルブが閉じるタイミングまで変化するように、前記ピニオンで前記リングギアを回転させることを特徴とするものである。
【0013】
上記の内燃機関のアイドリングストップシステムにおいては、エンジンの水温又は油温を測定する測定手段を備え、制御手段は、エンジンが完全停止する前に再始動要求が発生したときには、その測定手段の測定値に対応するクランク軸のイナーシャI及びフリクショントルクTfを決定し、下記に示す式(1)〜(7)により求めたクランク軸の角加速度αを、再始動要求の発生時から所定の期間で積分することで、クランク軸の将来の推定回転速度Neを算出し、ピニオンを回転駆動するとともにその将来の推定回転速度Nsを決定し、クランク軸の推定回転速度Neがピニオンの推定回転速度Nsと同一の又は近似する値以下となる時点Tsにおいて、そのピニオンを押し出してリンクギアに噛合させるようにする。

但し、D:シリンダ内径、L:コンロッド長さ、R:クランク半径、mrec:往復部質量、P0:インマニ圧力、κ:比熱比、Vs:隙間容積、V0:下死点でのシリンダ容積、θ:クランク角度、ψ:コンロッド−シリンダ軸間角度、をそれぞれ示す。
【0014】
上述した内燃機関のアイドリングストップシステムは、内燃機関一般に適用する事ができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の内燃機関のアイドリングストップの制御方法及びアイドリングストップシステムによれば、再始動時の最初の圧縮行程にある気筒を判別し、エンジンの完全停止後にピニオンでリングギアを回転させることで、その気筒のクランク角度を吸気バルブが閉じるタイミングまで変化させるようにしたので、再始動時の最初の圧縮行程にある気筒が、燃料の自着火に必要とされる十分な筒内圧力を得ることができるため、エンジンの自動停止時における再始動を、従来よりも速やかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態からなる内燃機関のアイドリングストップシステムの構成を示す構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態からなる内燃機関のアイドリングストップの制御方法を説明するフロー図である。
【図3】1番気筒のエンジン回転速度の経時変化を示すグラフである。
【図4】1番気筒及び4番気筒の筒内圧力の経時変化を示すグラフである。
【図5】1番気筒と3番気筒のクランク角度の関係を説明する模式図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態からなる内燃機関のアイドリングストップの制御方法を説明するフロー図である。
【図7】図6の制御方法におけるエンジン及びピニオンの回転速度の経時変化を説明するグラフである。
【図8】エンジンの水温とフリクションの関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態の内燃機関のアイドリングストップシステムの構成を示す。
【0019】
この内燃機関のアイドリングストップシステムは、エンジン1のクランク軸2の回りにフライホイール3を介して接続されたリングギア4と、そのリングギア4に噛合可能なピニオン5と、エンジン1の水温又は油温を測定する測定手段6と、制御手段7とを有している。
【0020】
エンジン1は、クランク軸2に接続するピストン8が往復動するシリンダ9からなる複数(図1の例では4個)の気筒10を有している。このエンジン1では、1番気筒10a→3番気筒10c→4番気筒10d→2番気筒10bの順に燃料が自着火するようになっている。
【0021】
ピニオン5は、モータ11により回転駆動され、その回転軸12は電磁ソレノイド式のアクチュエータ13によってリングギア4に向けて伸縮可能に構成されている。モータ11とピニオン5の回転軸12との間には、図示しない減速ギアが介設されており、リングギア4からピニオン5に高速回転が付加されたときにモータ11を保護するようになっている。これらのピニオン5、モータ11、アクチュエータ13等によりスタータが構成される。
【0022】
エンジン1の水温又は油温を測定する測定手段6は、特に限定するものではないが、熱電対やサーミスタを利用したセンサが用いられる。エンジン1の水温及び油温としては、冷却水及びエンジンオイルの温度(例えば、一次遅れフィルタや移動平均フィルタ後の値)をそれぞれ用いるようにする。
【0023】
制御手段7は、不揮発性のメモリからなる記憶部14を備えたCPU(中央演算処理装置)から構成され、モータ11、アクチュエータ13、測定手段6及びエンジン1のECU(エンジンコントロールユニット)15のそれぞれに信号線16a〜16dを通じて接続している。
【0024】
ECU15は、燃料タンク17からエンジン1に燃料を供給する燃料供給管18に介設された電磁バルブ19に信号線16eを通じて接続しており、エンジン1の停止要求又は再始動要求の発生に応じて、主に電磁バルブ19を開弁又は閉弁することでアイドリングストップを行うようになっている。エンジン1の停止要求は、例えば、車速(車輪速センサにより検知)やバッテリー電圧などの項目のうちのいくつかが、所定の条件を満たしたときに発せられる。また、エンジンの再始動要求は、例えば、ギアの位置やクラッチペダルの状態などが、所定の条件を満たしたときに発せられる。
【0025】
更に、フライホイール3又はリングギア4の側面に対向する位置には、信号線16fにより制御手段7に接続された逆転検出機能付きのクランクセンサ20が取り付けられている。このクランクセンサ20としては、ホール素子や電磁ピックアップにより、フライホイール3表面に刻まれた凹凸やリングギア4の歯数を検出するものを例示することができる。クランクセンサ20により検出された回転パルスは、制御手段7においてクランク軸2の回転速度の変動及び各気筒10a〜10dの状態(行程)に変換される。
【0026】
上記の制御手段7、モータ11、アクチュエータ13、ECU15及びクランクセンサ20は、バッテリー21を電源として動作する。なお、図1においては、バッテリー21からの電気配線を省略している。
【0027】
なお、上記の構成では、制御手段7とECU15を別体としているが、ECU15に制御手段7の機能を合わせて持たせるようにしてもよい。
【0028】
このような構成を有するアイドリングストップシステムにおいて、エンジン1が完全停止する前に再始動要求が発せられた場合におけるアイドリングストップの第1の制御方法を、図2に示すフロー図に基づいて以下に説明する。
【0029】
制御手段7は、エンジン1が完全停止する前に発せられた再始動要求をECU15を通じて受け取ると(S10)、アクチュエータ13を起動して、回転又は停止しているピニオン5をリングギア4に向けて飛び出させて噛み合わせる(S20)。
【0030】
そして、クランクセンサ20により検出された回転パルスから、図3に示すように、逆転検出フラグによりエンジン1の逆転が検出される。ECU15では、カム及びクランク軸2の信号から、気筒10が判別されクランク位置を認識するが、エンジン1の逆転時には、クランクパルスのカウントを減算することにより、停止位置(クランク角度)を認識し、エンジン停止時の気筒10を判別できる(S30)。ここでは仮に、その気筒10を1番気筒10aとする。1番気筒10aの圧縮上死点にピストン8が到達する前に、圧縮による反力のためピストン8は押し返されてフライホイール3が逆転する。このフライホイール3の逆転により、図4に示すように、手前の気筒10である2番気筒10bの筒内圧力の上昇が観測される。このような圧縮による反力でピストン8が押し戻され、手前の気筒10の圧縮とのバランスでフライホイール3が停止し、そのときのクランク角度はほぼ同じところで停止する。その位置は、エンジン1の機種により多少の違いはあるが、上死点前70度付近となる。
【0031】
エンジン1が完全停止した後に(S40)、ステップS30で判別した気筒10(この例では1番気筒10a)の次に自着火する気筒10を判別し(S50)、その気筒10のクランク角度が、吸気バルブが閉じるタイミングまで変化するように、ピニオン5でリングギア4を強制的に回転させる(S60)。
【0032】
このように吸気バルブが閉じたところからエンジン1のクランキングを始めるようにすれば、十分な空気を圧縮して筒内圧力を自着火に必要なレベルまで上昇させることができる。そのため、再始動時の最初の圧縮行程にある気筒が、燃料の自着火に必要とされる十分な筒内圧力を得ることができるので、エンジン1の自動停止時における再始動を、従来よりも速やかに行うことができる。
【0033】
このステップS60の状態を、クランク軸周りの角度タイミングを示す図5に基づいて説明する。図5では、時計回りにエンジン1が回転するものとしている。
ピストン8が圧縮上死点前で停止している1番気筒10aの次に自着火するのは3番気筒10cである。この3番気筒10cのピストン8は、クランク軸2で180度反対側に位置している。そのため、ピニオン5でリングギア4を介してクランク軸2を90度回転させることにより、3番気筒10cのピストン8を圧縮開始直前の位置となる吸気バルブが閉じるタイミングまで持って行くのである。
【0034】
上記のピニオン5によるリングギア4の回転駆動は、スタータのモータ11にデューティー制御により微小な電流を印加することで行う。そして、クランク軸2の回転中におけるクランク角度の変化はクランクセンサ20によりカウントし、指定のクランク角度になったときにモータ11への電流の印加を停止する。なお、このときモータ11への電流の印加の停止からクランク軸2の回転停止までの、クランク軸2の慣性などに起因する遅れ時間を考慮して、指定のクランク角度になる手前で電流の印加を停止することが好ましい。このような遅れ時間は、あらかじめ実験等により求めることができる。
【0035】
アイドリングストップの第2の制御方法を、図6に示すフロー図、及び図7に示すグラフに基づいて以下に説明する。なお、図7は、エンジンが完全停止する前に、ECU15から再始動要求が発せられた場合におけるエンジン1(クランク軸2)及びピニオン5の回転速度の経時変化を示すグラフである。
【0036】
このアイドリングストップの第2の制御方法は、回転するピニオン5をリングギア4に向けて飛び出させる(S20)タイミングを適切に設定することで、両者をスムーズに噛み合わせて、異音の発生を抑制し、かつスタータの損傷を防止するという効果も得るものである。
【0037】
制御手段7は、エンジン1が完全停止する前に発せられた再始動要求をECU15を通じて受け取ると(S10)、信号線16aを通じてモータ11を起動してスタータのピニオン5の回転駆動を開始し(S11)、信号線16cを通じてエンジン1の水温又は油温の測定値を入力する(S12)。なお、このときECU11は、信号線16eを通じて、電磁バルブ19を開弁して、エンジン1に燃料を供給している。
【0038】
そして、あらかじめ記憶部14に格納されている、水温又は油温と、クランク軸2のイナーシャ及びフリクショントルクとの関係を示すデータテーブルと照合して、測定値に対応するイナーシャI及びフリクショントルクTfを決定する(S13)。図8に、水温とフリクショントルクとの関係を例示する。記憶部14には、このようなデータが、データテーブルの形式であらかじめ格納されている。
【0039】
次に、下記に示す式(1)〜(7)を用いて、クランク軸2の角加速度αを算出する。

但し、D:シリンダ内径、L:コンロッド長さ、R:クランク半径、mrec:往復部質量、P0:インマニ圧力、κ:比熱比、Vs:隙間容積、V0:下死点でのシリンダ容積、θ:クランク角度、ψ:コンロッド−シリンダ軸間角度、をそれぞれ示す。
【0040】
この角加速度αを再始動要求の発生時から所定の期間で積分することで、クランク軸2の将来の(例えば、数サイクル先までの)推定回転速度Neを算出する(S14)。この推定回転速度Neの計算においては、積分開始の初期値として、クランクセンサ20により検出されたフライホイール3又はリングギア4の回転速度を利用する。
【0041】
また、それと同時に、再始動要求後の一定時間におけるピニオン5の推定回転速度Nsも算出する(S14)。このピニオン5の推定回転速度Nsは、記憶部14に格納されている、あらかじめ実験的に得られたモータ11についての起動開始からの経過時間とバッテリー21の電圧とのデータテーブルを参照することにより求められる。
【0042】
そして、クランク軸2の推定回転速度Neが、ピニオン5の推定回転速度Nsと同一又は近似する値(近似幅:Nth)以下(Ne≦Ns+Nth)になるまでの時刻Tsからピニオン5の飛び出しタイミングTpを計算し(S15)、再始動要求の発生からTpが経過したときに(S16)、アクチュエータ10を起動して、回転するピニオン5をリングギア4に向けて飛び出させる(S20)。
【0043】
なお、ステップS20からステップ60までについては、アイドリングストップの第1の制御方法(図2参照)と同じであるため説明を省略する。
【0044】
このようにして、エンジン1の実際の状態を示す水温又は油温に基づき、エンジン1の実際の仕様を考慮した所定の式(1)〜(7)で算出した適切なタイミングで、ピニオン5を飛び出させてリングギア4と噛み合わせるようにしたので、リングギア4とピニオン5がスムーズに噛み合うようになる。
【0045】
アイドリングストップの第2の制御方法において、ピニオン5の推定回転速度Nsに近似する幅Nthを持たせているのは、図7に示すように、実際にはピニオン5が静止状態から回転速度Nsに達するまでのタイムラグTdやバラツキがあるためである。このタイムラグTdは、モータ11の特性とバッテリー21の電圧から、あらかじめ求めることができる。実際の機器の仕様、運転状態及びピニオン5とリングギア4との噛み合い作動のバラツキなどの条件を考慮すると、クランク軸2の推定回転速度Neからピニオン5の推定回転速度Nsを差し引いた値(Nth)は、例えば0rpm以上の値とするのがよい。
【0046】
更に、実際には、図7に示すように、ピニオン5の作動指令をしてからリングギア4に到達するまでの移動時間Trがあるので、その遅れ時間を考慮してピニオン5の作動を指令することが望ましい。
【0047】
この所定の移動時間Trは、あらかじめ実験等により求めることができるので、図7に示すように、クランク軸2の推定回転速度Neが、ピニオン5の推定回転速度Nsと同一又は近似する値X以下になるまでの時刻Tsから所定の移動時間Trの大きさだけ戻った時点が経過したときに、回転しているピニオン5を飛び出させるようにすればよい。
【0048】
なお、上述したタイムラグTdには、非常に微少な時間ではあるが、回路やリレーなどの遅れに起因するモータ11への通電から回転開始までのタイムラグも含まれるので、この微少なタイムラグを考慮することで、更にリングギア4とピニオン5をスムーズに噛み合わせることが可能になる。
【0049】
本発明のアイドリングストップの制御方法及びアイドリングストップシステムの用途は、アイドリングストップに限るものではなく、エンジン1の通常の停止/起動時にも適用することができる。また、対象は自動車用のエンジン1に限るものではなく、一般の内燃機関でもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン
2 クランク軸
3 フライホイール
4 リングギア
5 ピニオン
6 測定手段
7 制御手段
8 ピストン
9 シリンダ
10、10a、10b、10c、10d 気筒
11 モータ
12 回転軸
13 アクチュエータ
14 記憶部
15 ECU
16a〜16f 信号線
17 燃料タンク
18 燃料供給管
19 電磁バルブ
20 クランクセンサ
21 バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの運転中に発生した停止要求により前記エンジンへの燃料供給を停止し、再始動要求によりスタータを起動させるアイドリングストップシステムを備えた内燃機関のアイドリングストップの制御方法であって、
前記エンジンが完全停止する前に前記再始動要求が発生したときには、前記エンジンの完全停止直前に前記スタータのピニオンを飛び出させて前記エンジンのクランク軸に連結されたリングギアに嵌合させ、
エンジンが停止時の気筒及びクランク角度を判別し、
前記エンジンの完全停止後に、前記気筒の次に自着火する気筒のクランク角度が吸気バルブが閉じるタイミングまで変化するように、前記ピニオンで前記リングギアを回転させることを特徴とする内燃機関のアイドリングストップの制御方法。
【請求項2】
前記エンジンが完全停止する前に前記再始動要求が発生したときには、前記エンジンの水温又は油温の測定値に対応する前記クランク軸のイナーシャI及びフリクショントルクTfを決定し、下記に示す式(1)〜(7)により求めた前記クランク軸の角加速度αを、前記再始動要求の発生時から所定の期間で積分することで、前記クランク軸の将来の推定回転速度Neを算出し、前記ピニオンを回転駆動するとともにその将来の推定回転速度Nsを決定し、前記クランク軸の推定回転速度Neが前記ピニオンの推定回転速度Nsと同一の又は近似する値以下となる時点Tsにおいて、そのピニオンを押し出して前記クランク軸に連結されたリンクギアに噛合させる請求項1に記載の内燃機関のアイドリングストップの制御方法。

但し、D:シリンダ内径、L:コンロッド長さ、R:クランク半径、mrec:往復部質量、P0:インマニ圧力、κ:比熱比、Vs:隙間容積、V0:下死点でのシリンダ容積、θ:クランク角度、ψ:コンロッド−シリンダ軸間角度、をそれぞれ示す。
【請求項3】
前記クランク軸の推定回転速度Neから、前記ピニオンの推定回転速度Nsを差し引いた値が0rpm以上である請求項1又は2に記載の内燃機関のアイドリングストップの制御方法。
【請求項4】
前記時点Tsから前記ピニオンが押し出されて前記リングギアに噛合するまでの所定の移動時間Trだけ戻った時点において、該ピニオンの押し出しを開始する請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関のアイドリングストップの制御方法。
【請求項5】
エンジンの運転中に発生した停止要求により前記エンジンへの燃料供給を停止し、再始動要求によりスタータを起動させる内燃機関のアイドリングストップシステムであって、
前記エンジンの各気筒の行程を判別するクランクセンサと、制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記エンジンが完全停止する前に前記再始動要求が発生したときには、前記エンジンの完全停止直前に前記スタータのピニオンを飛び出させて前記エンジンのクランク軸に連結されたリングギアに噛合させ、
前記クランクセンサの測定値からエンジンが停止時の気筒及びクランク角度を判別し、
前記エンジンの完全停止後に、前記気筒の次に自着火する気筒のクランク角度が吸気バルブが閉じるタイミングまで変化するように、前記ピニオンで前記リングギアを回転させることを特徴とする内燃機関のアイドリングストップシステム。
【請求項6】
前記エンジンの水温又は油温を測定する測定手段を備え、
前記制御手段は、前記エンジンが完全停止する前に前記再始動要求が発生したときには、前記測定手段の測定値に対応する前記クランク軸のイナーシャI及びフリクショントルクTfを決定し、下記に示す式(1)〜(7)により求めた前記クランク軸の角加速度αを、前記再始動要求の発生時から所定の期間で積分することで、前記クランク軸の将来の推定回転速度Neを算出し、前記ピニオンを回転駆動するとともにその将来の推定回転速度Nsを決定し、前記クランク軸の推定回転速度Neが前記ピニオンの推定回転速度Nsと同一の又は近似する値以下となる時点Tsにおいて、そのピニオンを押し出して前記リンクギアに噛合させる請求項5に記載の内燃機関のアイドリングストップシステム。

但し、D:シリンダ内径、L:コンロッド長さ、R:クランク半径、mrec:往復部質量、P0:インマニ圧力、κ:比熱比、Vs:隙間容積、V0:下死点でのシリンダ容積、θ:クランク角度、ψ:コンロッド−シリンダ軸間角度、をそれぞれ示す。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の内燃機関のアイドリングストップシステムを備えた内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−60887(P2013−60887A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199860(P2011−199860)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】