説明

内燃機関のクランクケース換気装置

【課題】従来よりも確実に換気を行うことが可能な内燃機関のクランクケース換気装置を提供する。
【解決手段】機関本体2のクランクケース6を含む換気対象空間と吸気通路10のスロットルバルブ11よりも下流側の領域10bとを接続する排出通路21と、吸気通路10のスロットルバルブ11よりも上流側の領域10aと換気対象空間とを接続する新気導入通路22とを備えたを備えたクランクケース換気装置20において、排出通路21上にタンク23を設け、排出通路21上でかつ換気対象空間とタンク23との間には第1制御弁24を、新気導入通路22上には第2制御弁25をそれぞれ設け、内燃機関1の運転状態に応じて第1制御弁24及び第2制御弁25の開閉を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクケースに漏れ出たブローバイガスを排出する一方で、吸気通路に取り込まれた新気の一部をクランクケース内に導いて該クランクケース内を換気する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レシプロ式の内燃機関においては、ピストンとシリンダとの隙間からクランクケースに漏れ出たブローバイガスを処理するため、クランクケース内のブローバイガスを吸気通路のスロットルバルブの下流側の領域に還流させる一方で、吸気通路のスロットルバルブよりも上流側の領域から取り出した新気をクランクケース内に導入してクランクケース内を換気するクランクケース換気装置が従来より設けられている(例えば、特許文献1参照)。その他に、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2〜5が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−174734号公報
【特許文献2】特開2005−240792号公報
【特許文献3】特開2009−293549号公報
【特許文献4】国際公開第2009/122616号パンフレット
【特許文献5】特開平09−068028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のクランクケース換気装置では、内燃機関が高負荷で運転されているとき、特には全負荷運転状態のときに、クランクケース内圧の脈動で新気導入通路内をブローバイガスが往復し、クランクケース内への新気の導入に支障が生じて換気が十分にできないおそれがある。そこで、本発明は従来よりも確実に換気を行うことが可能なクランクケース換気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、機関本体のクランクケースを含む換気対象空間と吸気通路のスロットルバルブよりも下流側の領域とを接続する排出通路と、前記吸気通路の前記スロットルバルブよりも上流側の領域と前記換気対象空間とを接続する新気導入通路と、前記排出通路上に設けられたタンクと、前記排出通路上でかつ前記換気対象空間と前記タンクとの間に設けられた第1制御弁と、前記新気導入通路上に設けられた第2制御弁と、前記内燃機関の運転状態に応じて前記第1制御弁及び前記第2制御弁の開閉を制御する弁制御手段と、を備えた内燃機関のクランクケース換気装置としたものである(請求項1)。
【0006】
本発明のクランクケース換気装置によれば、第1制御弁又は第2制御弁のいずれか一方を開き、他方を閉じることにより、排出通路を介したブローバイガスの排出と、新気導入通路を介した新気の導入とを内燃機関の運転状態に応じて適宜に切り替えて実行することができる。例えば、換気対象空間の圧力が上昇しているときは第2制御弁を閉じて新気導入通路へのブローバイガスの逆流を防ぎつつ、第1制御弁を開いて換気対象空間の圧力をタンクへと開放し、それに伴って換気対象空間からタンク側へブローバイガスを排出することができる。一方、換気対象空間の圧力が低下傾向にあるときは第1制御弁を閉じて第2制御弁を開くことにより、新気導入通路から換気対象空間へと新気を導入することができる。このように、排出通路上に、圧力開放先としてのタンクを設けるとともに、第1制御弁及び第2制御弁の開閉を運転状態に応じて適宜に切り替え制御することにより、全負荷運転状態のように、吸気通路の圧力が高くなりがちな運転状態であっても、ブローバイガスの排出と新気の導入とを区分して実行して、クランクケースを含む換気対象空間を従来よりも確実に換気することができる。なお、本発明において換気対象空間の用語は、クランクケース及びこれと通じた空間、通路等といった機関本体内の空間であって、ブローバイガスを新気と置き換えて換気する対象となり得る空間を意味する。
【0007】
本発明の一形態において、前記吸気通路の前記下流側の領域の圧力が所定の閾値を超えるか否かを判別する圧力判別手段をさらに設け、前記弁制御手段は、前記圧力判別手段により、前記下流側の領域の圧力が前記所定の閾値を超えていると判断された場合、前記第1制御弁を開く一方で前記第2制御弁を閉じることにより前記換気対象空間の圧力を前記タンク側へ開放する圧力開放状態と、前記第1制御弁を閉じる一方で前記第2制御弁を開くことにより前記換気対象空間に導入する新気導入状態とを、前記内燃機関の運転状態に応じて交替的に生じさせる連係制御を実行してもよい(請求項2)。吸気通路のスロットルバルブよりも下流側の領域の圧力が閾値を超えた場合、第1制御弁と第2制御弁との連係制御を実行して圧力開放状態と新気導入状態とをそれらの状態に適した時期に交替的に生じさせることにより、内燃機関の負荷が上昇してもクランクケース等の換気を確実に行うことができる。
【0008】
上記の形態において、圧力開放状態と新気導入状態とは、時期をずらして交替的に生じていれば足り、両状態の間にさらに別の状態が介在してもよい。例えば、前記弁制御手段は、前記連係制御の実行時に、前記新気導入状態と前記圧力開放状態との間に、前記第1及び第2の制御弁のいずれも閉じる閉鎖状態を挟みつつ、前記新気導入状態と前記圧力開放状態とを交替的に生じさせてもよい(請求項3)。これによれば、新気導入状態と圧力排出状態との間に閉鎖状態を挟むことにより、換気対象空間に圧力を一旦閉じ込め、その後の圧力排出状態にてブローバイガスをタンク側へ効率よく排出することができる。
【0009】
前記弁制御手段は、前記内燃機関が全負荷運転状態にあるときに前記連係制御を実行してもよい(請求項4)。これによれば、全負荷運転状態においても、クランクケースを含む換気対象空間を確実に換気することができる。
【0010】
前記弁制御手段は、前記連係制御の実行時に、前記換気対象空間の圧力が低下傾向にあるときは前記新気導入状態を選択し、前記換気対象空間の圧力が所定の基準値を超えて上昇するときは前記圧力開放状態を選択してもよい(請求項5)。これによれば、換気対象空間の圧力の低下傾向を利用して新気を導入する一方、圧力が所定の基準値を超えて上昇するときには圧力開放状態を選択して換気対象空間からタンク側へとブローバイガスを排出することができる。
【0011】
前記弁制御手段は、前記換気対象空間の容積が増加する間に前記新気導入状態を選択し、前記換気対象空間の容積が減少して該換気対象空間の圧力が所定の基準値を超えて上昇するときは前記圧力開放状態を選択してもよい(請求項6)。内燃機関のピストンの上昇等によって換気対象空間の容積が増加する間は、その容積増加に伴ってクランクケース内の圧力が低下傾向となり、両制御弁を新気導入状態に制御すれば新気を導入することができる。一方、換気対象空間の容積が減少する場合には、その減少に伴って圧力が上昇する。その換気対象空間の圧力が所定の基準値を超えて上昇した場合に両制御弁を圧力開放状態に制御すれば、換気対象空間からタンク側へとブローバイガスを排出することができる。
【0012】
本発明の一形態において、前記排出通路上における前記タンクと前記吸気通路との間の領域には、前記タンクから空気を吸い込んで前記吸気通路側に送り出すポンプが設けられてもよい(請求項7)。これによれば、ポンプを動作させることによりタンクの圧力を低く維持し、第1制御弁が開かれたときに換気対象空間からタンクへとブローバイガスを確実にかつ効率よく排出させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、本発明のクランクケース換気装置によれば、ブローバイガスの排出通路上に、クランクケース側からの圧力開放先としてのタンクを設けるとともに、排出通路には第1制御弁を、新気導入通路には第2制御弁をそれぞれ設け、内燃機関の運転状態に応じてこれらの制御弁の開閉を制御することとしたので、全負荷運転状態のように、吸気通路のスロットルバルブよりも下流側の領域の圧力が高くなりがちな運転状態であっても、ブローバイガスの排出と新気の導入とを区分して実行して、クランクケースを含む換気対象空間を従来よりも確実に換気することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の形態に係るクランクケース換気装置を備えた内燃機関の概略構成を示す図。
【図2】図1のECUが実行するクランクケース内圧制御ルーチンを示すフローチャート。
【図3】制御弁連係制御の実行時における制御弁の開閉状態とクランクケース内の圧力との関係の一例を示す図。
【図4】クランクケース内の圧力状態に基づいて制御弁の開閉を制御する場合に適した制御弁連係制御ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図5】本発明の第2の形態に係るクランクケース換気装置を備えた内燃機関の概略構成を示す図。
【図6】第2の形態におけるクランクケース内圧制御ルーチンの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の形態)
図1は本発明の第1の形態に係るクランクケース換気装置を備えた内燃機関の概略構成を示している。内燃機関(以下、エンジンと呼ぶ。)1は車両に原動機として搭載されるものであって、エンジン本体2を有している。周知のように、エンジン本体2は、シリンダブロック3の上方にシリンダヘッド4及びヘッドカバー5が順次取り付けられ、シリンダブロック3の下方にクランクケース6が取り付けられた概略構成を有している。シリンダブロック3の内部にはシリンダ3aが形成されている。シリンダ3aの個数、つまりエンジン1の気筒数は適宜でよい。ただし、本形態では、クランクケース6内の圧力変動(脈動)が比較的大きくなる1〜3気筒のエンジン1が想定されている。
【0016】
シリンダ3aにはピストン7が装着されている。クランクケース6内にはクランクシャフト8が回転自在に取り付けられ、そのクランクシャフト8はコンロッド9を介して各ピストン7と連結されている。シリンダヘッド4には吸気通路10が接続されている。吸気通路10の入口には不図示のエアクリーナが設けられている。エアクリーナで濾過された新気は、スロットルバルブ11の開度に応じた流量でインテークマニホールド12に取り込まれ、さらにインテークマニホールド12からシリンダヘッド4の吸気ポートを経由してシリンダ3aに吸入される。なお、図1では、一つのシリンダのみを示している。エンジン1が複数気筒を有している場合には、図示以外のシリンダに関しても図1と同様の構成である。
【0017】
クランクケース6の内部には、ピストン7とシリンダ3aとの隙間から漏れ出たブローバイガスが流入する。そのブローバイガスは、クランクケース換気装置20によりクランクケース6から排出される。クランクケース換気装置20は、クランクケース6と吸気通路10のスロットルバルブ11よりも下流側の領域10bとを結ぶ排出通路21と、吸気通路10のスロットルバルブ11よりも上流側の領域10aとヘッドカバー5の内部空間とを結ぶ新気導入通路22とを備えている。排出通路21は、インテークマニホールド12に生じる負圧を利用して、クランクケース6のブローバイガスを吸気通路10に導くように設けられている。新気導入通路22は、吸気通路10に取り込まれた新気の一部をヘッドカバー5の内部空間に導くように設けられている。ヘッドカバー5の内部空間は、エンジン本体2の内部通路を介してクランクケース6と通じている。ヘッドカバー5の内部空間からクランクケース6までの空間が、エンジン本体2内における換気対象空間に相当する。エンジン1が複数のシリンダ3aを有する場合、換気対象空間は気筒間で仕切られることなく、相互に通じている。なお、以下では、換気対象空間をクランクケース6で代表することがある。
【0018】
クランクケース換気装置20は、排出通路21上に設けられたタンク23と、そのタンク23とクランクケース6との間に設けられた第1制御弁24と、新気導入通路22上に設けられた第2制御弁25とをさらに備えている。エンジン1が複数気筒を有する場合、タンク23、第1制御弁24及び第2制御弁25は気筒間で共通である。つまり、エンジン本体2の一つの換気対象空間に対してタンク23、第1制御弁24及び第2制御弁25がそれぞれ一つ設けられている。
【0019】
タンク23は、エンジン1の排気量以上の容積を有している。第1制御弁24は、全閉状態と全開状態との間で切り替えが可能な開閉弁である。一方、第2制御弁25は、全閉状態と全開状態との間で開度を連続的に、又は複数段に亘って変化させることにより、通過流量を調整可能な流量制御弁である。ただし、第1制御弁24も、開閉弁に代えて、流量制御弁としてもよい。また、第1制御弁24及び第2制御弁25は、いずれも電磁式のアクチュエータによって開閉操作が可能な電磁制御弁である。ただし、電磁式アクチュエータに限らず、空気式アクチュエータ等の他のアクチュエータが用いられてもよい。第2制御弁25は、新気導入通路22のヘッドカバー5に対する接続部分に設けられている。言い換えれば、第2制御弁25は換気対象空間におけるヘッドカバー5側の入口を開閉するように設けられている。
【0020】
第1制御弁24及び第2制御弁25の開閉動作は、電子制御装置(ECU)30にて制御される。ECU30には、エンジン1の燃焼制御に用いられるコンピュータユニットが兼用されてもよい。あるいは、燃焼制御用のコンピュータユニットとは別のコンピュータユニットがECU30として設けられてもよい。ECU30には、吸気通路10のスロットルバルブ11よりも下流側の領域10bの圧力、例えば、インテークマニホールド12内の圧力を検出するための手段として、圧力センサ31が接続されている。圧力センサ31の検出位置は、排出通路21のタンク23とインテークマニホールド12とに挟まれた領域21a内に設定されている。ただし、圧力センサ31は、吸気通路10のスロットルバルブ11よりも下流側の領域10bにおける圧力を検出できる位置であれば、他の位置に設けられてもよい。
【0021】
図2は、ECU30がクランクケース6の内圧を制御するために所定の周期で繰り返し実行するクランクケース内圧制御ルーチンを示している。図2のルーチンを開始すると、ECU30は、まずステップS1で、圧力センサ31の出力を参照してインテークマニホールド12の圧力を取得し、続くステップS2でインテークマニホールド12の圧力が負圧、つまり、大気圧よりも低いか否かを判別する。ただし、負圧か否かの判別には、適度な許容幅が設定されてもよい。例えば、インテークマニホールド12の圧力が、大気圧よりも所定の許容域を超えて低下しているときに負圧と判断されてもよい。あるいは、インテークマニホールド12の圧力が大気圧に対して所定の許容域を超えて上昇していない限り、負圧と判断されてもよい。
【0022】
ステップS2で圧力が負圧と判断された場合、ECU30はステップS3に進み、第1制御弁24を全開位置に制御する。続くステップS4で、ECU30はクランクケース6から排出通路21に排出されるブローバイガスの流量(排出流量)を、新気導入通路22からクランクケース6に導入される新気の流量(新気流量)よりも大きく維持するために必要な第2制御弁25の開度を決定する。ステップS4で開度を決定するためには、ベンチ適合試験、コンピュータシミュレーション等を用いてエンジン1の運転状態と第2制御弁25の開度との対応関係を予め解析し、得られた対応結果をマップ等のデータとしてECU30の内部メモリに記録し、ステップS4の処理時にエンジン1の運転状態を判別して、適切な開度を選べばよい。第2制御弁25の開度が決定された後、ECU30はステップS5に進み、第2制御弁25をステップS4で決定された開度に制御する。
【0023】
一方、ステップS2でインテークマニホールド12の圧力が負圧ではないと判断された場合、ECU30はステップS6に進んで第1制御弁24及び第2制御弁25に関する連係制御を実施する。以下、図3を参照して制御弁24、25の連係制御を説明する。図3では、4サイクル機関の4つの行程が完了する一周期のクランク角CAを横軸に取り、第1制御弁24及び第2制御弁25の開閉状態をクランク角CAと対応付けて図の上段に示している。また、クランクケース6の内圧変化をクランク角CAと対応付けて図の下段に示している。ステップS6の連係制御を実施した場合の内圧変化を実線で、比較例における内圧変化を想像線でそれぞれ示している。比較例としては、クランクケース6からタンク23へのブローバイガスの排出をそれらの間の圧力差のみに依存させるとともに、新気導入通路22とクランクケース6との間を一定の絞りを介して接続した構成を想定している。クランク角CAは、ピストン7が下死点と上死点との間の中間にあるときのクランク角を0としている。また、図3の例では、理解を容易にするため、エンジン1が単気筒であるか、または360°クランク形式の2気筒であると想定して、クランク角CAに対応する圧力変化を示している。なお、360°クランク形式とは、2つのピストンが360°の位相差でクランクシャフトに連結されることにより2つのピストン7の位置が揃う形式をいう。
【0024】
図3に示すように、連係制御が行われる場合には、ピストン7が下死点から上死点に移動する期間Aにて、排出通路21の第1制御弁24が閉じられ、新気導入通路22の第2制御弁25が開かれる。期間Aでは、ピストン7の上昇に伴ってクランクケース6の容積が漸次増加する。したがって、第1制御弁24が閉じていてもクランクケース6の内圧は徐々に低下する。そのため、第2制御弁25を開けば、クランクケース6の内圧の低下に伴って、新気導入通路22からクランクケース6内に新気が導入される。
【0025】
一方、ピストン7が上死点から下死点へと移動する場合には、期間Bと期間Cとで異なる制御が行われる。まず、ピストン7が上死点から所定の位置まで移動する期間Bにおいては、第1制御弁24及び第2制御弁25のいずれもが閉じられる。これにより、クランクケース6から新気導入通路22へとブローバイガスが逆流するおそれが排除される。また、クランクケース6からタンク23への圧力の開放も阻止されるので、クランクケース6内において、大気圧を超えない範囲で圧力を一旦蓄えることができる。
【0026】
ピストン7の下降に伴ってクランクケース6内の容積は減少し、クランクケース6の内圧は徐々に上昇する。その内圧が、基準値としての大気圧に達した時点からピストン7が下死点に達するまでの期間Cでは、第1制御弁24が開かれ、第2制御弁25は閉じた状態に維持される。この場合、第2制御弁25が閉じているので、新気導入通路22へのブローバイガスの逆流が阻止される。また、第1制御弁24が開かれてクランクケース6とタンク23とが通じるため、クランクケース6に蓄えられた圧力をタンク23へと開放し、それに伴って及びブローバイガスをタンク23側へ効率よく排出することができる。これにより、クランクケース6の内圧の正圧域における上昇が抑制される。図3に白抜き矢印で示したように、ピストン7の下死点到達時における比較例の圧力と比較して、クランクケース6の内圧は十分に小さく維持される。
【0027】
ピストン7が下死点まで達すると再び期間Aとなり、第1制御弁24が閉じ、第2制御弁25が開かれる。ピストン7が上死点に達する期間Bとなり、第1制御弁24及び第2制御弁25がいずれも閉じられる。以下、同様にして期間A、B、Cのそれぞれに応じて第1制御弁24及び第2制御弁25の開閉が制御される。
【0028】
以上のように、図2のステップS6の連係制御では、ピストン7の位相に応じて第1制御弁24及び第2制御弁25の開閉が切り替え制御される。つまり、ECU30は、クランク角CAに応じてピストン7の位置及び移動方向を判別して、制御弁24、25の開閉を切り替え制御すればよい。ステップS5又はステップS6で制御弁24、25の動作を制御した後、ECU30は今回のルーチンを終了する。
【0029】
以上の処理によれば、まず、インテークマニホールド12の圧力が負圧に維持されている場合、例えば、スロットルバルブ11の開度が中間的な位置にある場合には、ステップS2が肯定され、クランクケース6から第1制御弁24を介したブローバイガスの排出が許容される一方で、新気導入通路22からクランクケース6に導入される新気の流量はブローバイガスの排出流量よりも小さく制限される。よって、クランクケース6内が負圧に保持され、クランクケース6内の換気を確実かつ安定的に継続させることができる。
【0030】
一方、インテークマニホールド12の圧力が正圧に転じるような運転状態、典型的にはスロットルバルブ11が全開となるエンジン1の全負荷運転状態では、ピストン7の上昇時に排出通路21の第1制御弁24が閉じてクランクケース6とタンク23との間が遮断されるとともに新気導入通路22の第2制御弁25が開かれてクランクケース6に新気が導入される。また、ピストン7の下降時には、まず両制御弁24、25が閉じられてブローバイガスの排出及び新気の導入のいずれもが阻止される。その後、ピストン7の下降に伴うクランクケース6の容積減少でその内圧が基準値としての大気圧まで上昇すると、新気導入通路22が第2制御弁25にて閉じられた状態で排出通路21の第1制御弁24が開かれてクランクケース6とタンク23とが連通する。そのため、クランクケース6のブローバイガスがタンク23に押し出されるように排出されてクランクケース6の内圧の上昇が抑制される。これにより、全負荷運転状態のような新気が導入されにくい運転状態でも、クランクケース6を効率よく換気することができる。クランクケース6の正圧域での上昇を抑制することにより、エンジン1の各シール部からのオイル漏れといった不都合の発生を回避することもできる。
【0031】
上記の説明では、エンジン1が単気筒又は360°クランク形式の2気筒であると仮定した。しかしながら、クランクケース6(換気対象空間)の圧力が脈動する構成であれば、図2及び図3に示した制御弁24、25の開閉制御は適用可能である。その場合、ステップS6の連係制御は、ピストン7の位相、言い換えればクランク角CAを基準とする制御に代えて、クランクケース6内の圧力変動に基づく制御によって実現すればよい。そのような場合の制御弁連係制御ルーチンの一例を図4に示す。なお、図4のルーチンは、図2のステップS6のサブルーチンとして実行されるべきものである。
【0032】
図4の制御弁連係制御ルーチンにおいて、ECU30は、まずステップS11にてクランクケース6の内圧を取得する。ここで取得する内圧は、圧力センサによって実測した値としてもよいし、エンジン1の運転状態に基づいて推定した値としてもよい。内圧を推定する場合には、エンジン1のベンチ適合試験、あるいはコンピュータシミュレーションによってエンジン1の運転状態に相関する各種のパラメータとクランクケース6の内圧との相関関係を予め解析し、得られた相関関係を利用して内圧を推定すればよい。次のステップS12において、ECU30はクランクケース6の内圧が低下傾向にあるか否かを判別する。低下傾向にあるか否かは、過去のルーチン実行時に取得した内圧を参照して判断すればよい。
【0033】
ステップS12で内圧が低下傾向にあると判断された場合、ECU30はステップS13に進んで第1制御弁24を全閉状態に制御し、続くステップS14にて第2制御弁25を全開状態に制御する。この場合には、クランクケース6の内圧が低下傾向にあることを利用して、新気導入通路22から第2制御弁25を経由してクランクケース6内に新気を導入することができる。つまり、図3における期間Aと同様である。一方、ステップS12にて内圧が低下傾向にないと判断された場合、ECU30はステップS15に進み、クランクケース6の内圧が負圧か否かを判別する。この場合も図2のステップS2における判断と同様に、負圧か否かの判別に関して適度な許容幅が設定されてもよい。ステップS15で負圧と判断された場合、ECU30はステップS16に進み、第1制御弁24及び第2制御弁25のいずれも全閉状態に制御する。この場合には、ブローバイガスの排出及び新気の導入のいずれもが阻止される。つまり、図3における期間Bと同様である。一方、ステップS15にてクランクケース6の内圧が負圧と判断された場合、ECU30はステップS17に進んで第1制御弁24を全開状態に制御し、続くステップS18にて第2制御弁25を全閉状態に制御する。これにより、クランクケース6のブローバイガスがタンク23に押し出されるように排出されてクランクケース6の内圧の上昇が抑制される。つまり、図3における期間Cと同様である。ステップS14、S16又はS18の処理後、ECU30は今回のルーチンを終了する。
【0034】
図4のルーチンを実行することにより、クランクケース6内の圧力変動に応じて第1制御弁24及び第2制御弁25を適宜に開閉させ、それによりブローバイガスの新気導入通路22への逆流を防止しつつ、全負荷運転状態のような新気が導入されにくい運転状態でも、クランクケース6を効率よく換気することができる。
【0035】
(第2の形態)
図5は本発明の第2の形態に係るクランクケース換気装置を備えた内燃機関の概略構成を示している。ただし、図5において、図1と共通する構成要素には同一の参照符号を付し、以下では相違点を中心に説明する。本形態のクランクケース換気装置20Aでは、排出通路21のタンク23とインテークマニホールド12とに挟まれた領域21aにポンプ26が設けられている。ポンプ26は、タンク23から空気を吸い込んでインテークマニホールド12に送り出すように設けられている。
【0036】
ECU30は、圧力センサ31が検出したインテークマニホールド12の圧力に基づいてポンプ26の運転状態(吐出流量)を制御する。例えば、ECU30は、圧力が正圧に近付くほどポンプ26の回転数を上昇させる。あるいは、図6に示したように、図4のクランクケース内圧制御ルーチンに対して、ステップS2で負圧と判断された場合にポンプ26を停止させ(ステップS11)、負圧ではないと判断された場合にポンプ26を作動させる(ステップS12)といったように、ECU30にてポンプ26の運転状態を制御してもよい。このようにポンプ26を制御すれば、タンク23の圧力を第1の形態よりも低く維持し、それにより、第1制御弁24が開かれたときのクランクケース6からのブローバイガスの排出を促進することができる。
【0037】
以上に説明した各形態においては、ECU30が図2又は図6のルーチンを実行することにより弁制御手段として機能する。また、図3における期間Aが新気導入状態に相当し、期間Bが閉鎖状態に相当し、期間Cが圧力開放状態に相当する。さらに、上記の各形態では、圧力センサ31の検出圧力に基づいてECU30が図2又は図6のステップS2の判別を行うことにより、圧力判別手段として機能し、そのステップS2における分岐条件として設定された大気圧が、連係制御を実行するか否かを判別するための閾値に相当する。ただし、圧力判別手段は、圧力センサのような圧力の実測手段を利用する例に限らず、内燃機関の運転状態に基づいて吸気通路のスロットルバルブよりも下流側の領域の圧力が所定の閾値を超えるか否かを判別するように構成されてもよい。
【0038】
上記の各形態においては、図3に示した期間Cの始期をクランクケース6の圧力が大気圧に達した時点に設定することにより、大気圧を基準値として、これを超えてクランクケース6の圧力が上昇したときに制御弁24、25を圧力開放状態に切り替えている。ただし、その基準値は必ずしも大気圧に限定されない。大気圧に達する以前よりも低い圧力を基準として設定し、圧力開放状態への移行をより早期に開始してもよい。閉鎖状態、つまり図3の期間Bは、クランクケース内の圧力変動の状態によっては省略されてもよい。
【0039】
上記の各形態では、排出通路21がクランクケース6に接続され、新気導入通路22がヘッドカバー5に接続されている。しかしながら、本発明はこのような形態に限定されることなく、排出通路及び新気導入通路の機関本体に対する接続位置は、クランクケースを含む換気対象空間に通じる位置である限りにおいて、適宜に変更可能である。例えば、クランクケースからシリンダブロックにブローバイガスの通路が設けられている場合には、その通路と排出通路とが接続されてもよい。新気導入通路も、ヘッドカバーに限らず、シリンダブロック内の通路に接続されてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 エンジン(内燃機関)
2 エンジン本体(機関本体)
3 シリンダブロック
4 シリンダヘッド
5 ヘッドカバー
6 クランクケース
7 ピストン
10 吸気通路
10a スロットルバルブよりも上流側の領域
10b スロットルバルブよりも下流側の領域
11 スロットルバルブ
12 インテークマニホールド
20、20A クランクケース換気装置
21 排出通路
21a タンクと吸気通路との間の領域
22 新気導入通路
23 タンク
24 第1制御弁
25 第2制御弁
26 ポンプ
30 電子制御装置(弁制御手段、圧力判別手段)
31 圧力センサ(圧力判別手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関本体のクランクケースを含む換気対象空間と吸気通路のスロットルバルブよりも下流側の領域とを接続する排出通路と、
前記吸気通路の前記スロットルバルブよりも上流側の領域と前記換気対象空間とを接続する新気導入通路と、
前記排出通路上に設けられたタンクと、
前記排出通路上でかつ前記換気対象空間と前記タンクとの間に設けられた第1制御弁と、
前記新気導入通路上に設けられた第2制御弁と、
前記内燃機関の運転状態に応じて前記第1制御弁及び前記第2制御弁の開閉を制御する弁制御手段と、
を備えた内燃機関のクランクケース換気装置。
【請求項2】
前記吸気通路の前記下流側の領域の圧力が所定の閾値を超えるか否かを判別する圧力判別手段をさらに備え、
前記弁制御手段は、前記圧力判別手段により、前記下流側の領域の圧力が前記所定の閾値を超えていると判断された場合、前記第1制御弁を開く一方で前記第2制御弁を閉じることにより前記換気対象空間の圧力を前記タンク側へ開放する圧力開放状態と、前記第1制御弁を閉じる一方で前記第2制御弁を開くことにより前記換気対象空間に導入する新気導入状態とを、前記内燃機関の運転状態に応じて交替的に生じさせる連係制御を実行する請求項1に記載の内燃機関のクランクケース換気装置。
【請求項3】
前記弁制御手段は、前記連係制御の実行時に、前記新気導入状態と前記圧力開放状態との間に、前記第1及び第2の制御弁のいずれも閉じる閉鎖状態を挟みつつ、前記新気導入状態と前記圧力開放状態とを交替的に生じさせる請求項2に記載の内燃機関のクランクケース換気装置。
【請求項4】
前記弁制御手段は、前記内燃機関が全負荷運転状態にあるときに前記連係制御を実行する請求項2又は3に記載の内燃機関のクランクケース換気装置。
【請求項5】
前記弁制御手段は、前記連係制御の実行時に、前記換気対象空間の圧力が低下傾向にあるときは前記新気導入状態を選択し、前記換気対象空間の圧力が所定の基準値を超えて上昇するときは前記圧力開放状態を選択する請求項2〜4のいずれか一項に記載の内燃機関のクランクケース換気装置。
【請求項6】
前記弁制御手段は、前記換気対象空間の容積が増加する間に前記新気導入状態を選択し、前記換気対象空間の容積が減少して該換気対象空間の圧力が所定の基準値を超えて上昇するときは前記圧力開放状態を選択する請求項2〜4のいずれか一項に記載の内燃機関のクランクケース換気装置。
【請求項7】
前記排出通路上における前記タンクと前記吸気通路との間の領域には、前記タンクから空気を吸い込んで前記吸気通路側に送り出すポンプが設けられている請求項1〜6のいずれか一項に記載の内燃機関のクランクケース換気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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