説明

内燃機関のトルク変動抑制構造

【課題】内燃機関におけるトルクの変動の抑制を図る。
【解決手段】内燃機関のトルク変動抑制装置は、ピストンの往復動により回転するクランク軸を備える内燃機関において、クランク軸に同期して回転する駆動軸と、駆動軸に設けられるカムと、カムの回転によって駆動される補機とを備えてなり、ピストンが下死点にある位相とカムが補機を最も大きく駆動する位相とを一致させてなる構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンの往復運動によりトルクを発生させる内燃機関のトルク変動抑制構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストンの往復動をコネクティングロッドによりクランク軸に伝達して、クランク軸よりトルクを取り出すいわゆるレシプロエンジン(以下、エンジン)が知られている。この種のエンジンでは、ピストンの往復動でクランク軸を回転させていることから、トルクが変動する。単気筒や二気筒などの気筒数が少ないエンジンにおいて、トルクの変動は顕著である。
【0003】
このようなトルクの変動を抑制するために、種々の構造が考えられている。例えば、クランク軸に接続されるクラッチの容量やフライホイールの質量を大きくすることが考えられるが、ノイズが発生したり振動が大きくなるといった不具合が生じることがある。
【0004】
例えば特許文献1のものでは、クランク軸と一体となって回転するトルクコンバータに相対回転可能に結合してクランク軸の捩り振動をトーショナルダンパにより吸収し、かつクランク軸と逆方向に回転するサブフライホイールにクランク軸の回転を増速して伝達する構成である。このような構成によれば、エンジンの運転時、トーショナルダンパがクランク軸のトルク変動を吸収することにより、トルクコンバータ又はクラッチなどを介して車両のパワートレインに伝達されるトルク変動を抑えるようにしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1のものでは、構造が複雑になり、その結果、重量が増加するとともに製造コストが増加することになった。このため、自動車などに搭載した場合、燃費が低下することになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11‐91376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は以上の点に着目し、トルク変動の低減を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の内燃機関のトルク変動抑制構造は、ピストンの往復動により回転するクランク軸を備える内燃機関において、クランク軸に同期して回転する駆動軸と、駆動軸に設けられるカムと、カムの回転によって駆動される補機とを備えてなり、ピストンが下死点にある位相とカムが補機を最も大きく駆動する位相とを一致させてなることを特徴とする。
【0009】
本発明のクランク軸に同期して回転する駆動軸としては、クランク軸自体、クランク軸に駆動されて内燃機関の振動を相殺するバランス軸、バランス軸と同様にクランク軸に駆動される専用の軸などが挙げられる。
【0010】
カムが補機を最も大きく駆動するとは、補機が最大出力になるように駆動することを言う。
【0011】
このような構成によれば、ピストンが下死点に達する際、つまりクランク軸におけるトルクが最大になる時点で、カムが補機を最も大きく駆動することになる。したがって、補機の駆動によりトルクの一部を消費することで、トルクの変動を抑制することが可能になる。これにより、本発明を適用しない内燃機関に対して、クランク軸に接続されるクラッチディスクの容量を小さくすること、フライホイールの質量を小さくすること、及びノイズや振動を低くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上説明したような構成であり、駆動軸とカムとを用い、ピストンが下死点にある位相で補機を最も大きく駆動するので、補機の駆動によりトルクが最も大きくなる時点でトルクの一部を消費することで、トルクの変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態のエンジンの概略構成説明図。
【図2】同実施形態の要部を拡大して示す構成説明図。
【図3】同実施形態の作用説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜3を参照して説明する。
【0015】
このエンジン100は、二気筒360°位相のもので、シリンダ1内をピストン2が往復動するいわゆるレシプロエンジンである。エンジン100は、シリンダ1が内部に形成されるシリンダブロック3と、シリンダブロック3とオイルパン4とで形成されるクランク室5内に配置されるクランク6軸と、一端がクランク軸6に回転可能に接続されるコネクティングロッド(以下、コンロッドと称する)7と、コンロッド7の他端に回転可能に接続されるピストン2とを備えている。なお、以下に説明するクランク軸6及び後述する補機である予備オイルポンプ8以外の構成、例えばオイルポンプ、ウォーターポンプ、吸排気弁、燃料噴射ポンプ、フライホイールなどについては、この分野でよく知られているものと同じであってよい。
【0016】
クランク軸6は、その一部分を所定の厚みで径方向に膨出させてクランク軸6表面をカムプロファイルの一部として形成されるカム9を備える。カム9は、クランク軸6の軸芯から最も長い距離離れたカム山10を備える。このカム山10は、ピストン2が下死点にある位相で予備オイルポンプ8を最も大きく駆動する。カムプロファイルは、カム9の回転方向におけるカム山10より前側が後側に比べて膨らむ形状である。
【0017】
予備オイルポンプ8は、クランク室5内に取り付けられる。図2に示すように、予備オイルポンプ8は、潤滑油が溜められるポンプ本体11と、ポンプ本体11内を潤滑油が漏洩しない状態で往復動する弁12と、ポンプ本体11の外周面に沿って設けられて弁11を付勢するコイルバネ13と、ポンプ本体11に設けられるオイル入口14及びオイル出口15とを備えている。
【0018】
ポンプ本体11は、例えば有底円筒形状で、その底面16近傍の側面にオイル入口14とオイル出口15とを備えている。オイル入口14とオイル出口15とにはそれぞれ、図示しない逆止弁が取り付けてある。すなわちオイル出口15に取り付けられる逆止弁は、弁12がカム9の回転によりポンプ本体11の底面16の方向に押し込まれた際に、潤滑油がオイル出口15からのみ吐出されるように作動する。一方、オイル入口14に取り付けられる逆止弁は、弁12がコイルバネ13の付勢力で底面16から離れるように移動する際に、潤滑油がオイル入口14からポンプ本体11内に吸入されるように作動する。なお、オイル入口14は、オイルパン4内に設置されるストレーナ(図示しない)に接続されるとともに、オイル出口15は、エンジン100のオイルフィルタ(図示しない)に接続される。
【0019】
弁12は、ポンプ本体11の内部に収容されてポンプ本体11内を往復動する弁体17と、その弁体17にカム9の駆動力を伝達する軸体18とを備える。軸体18は、その一端に弁体17が固定される軸部19と、軸部19の他端に固定されてポンプ本体11の外面に沿って移動可能な頭部20とを備えている。頭部20は、コイルバネ13により頭部20がカム9に接触するように、つまりカム9の方向に付勢されている。
【0020】
このような構成において、エンジン100の運転中にあってはクランク軸6が回転する(図2において、その回転方向を矢印で示す)。クランク軸6の回転によりクランク軸6に形成されたカム9が回転し、予備オイルポンプ8を駆動する。具体的には、ピストン2が上死点TDCにある場合、カム9は弁12を押し込まずに、カム9の押圧力とコイルバネ13の付勢力とが均衡し(図2において二点鎖線で示す)、コイルバネ13の縮み量は最小となる(図3に、発生するトルクと予備オイルポンプ8のコイルバネ13の縮み量の関係を示す)。この後、ピストン2が下死点に向かって動くと、カム9がコイルバネ13の付勢力に抗して弁12を押す。これにより、コイルバネ13の縮み量が増加するととともに、ポンプ本体11内に存在する潤滑油がオイル出口15より吐出される。そして、カム9の回転に対応して、弁12がポンプ本体11の底面15に向かって押し込まれる。さらにピストン2が下死点BDCに達した時点で、弁12はカム9のカム山10により押され、コイルバネ13が最も大きく収縮して、ポンプ本体11の底面16に最も近い位置まで移動する。つまり、ピストン2が下死点BDCに達する位相と予備オイルポンプ8がカム9により最も大きく駆動される位相とが一致するものである。
【0021】
このように、ピストン2が上死点から下死点に至るまで移動する間は、カム9がコイルバネ13の付勢力に抗して弁12を押すため、クランク軸6に発生するトルクの一部は、コイルバネ13に保存されることになる。これにより、発生したトルクのピーク(最大値)が、コイルバネ13に保存される分だけ、言い換えれば潤滑油をポンプ本体11から吐出させるに必要なトルクだけ低下してエンジン100の出力トルクとなり(図3に、一点鎖線で示す)、後述する負のトルクを打ち消すこととにより、トルク変動を低減することができる。このように、補助オイルポンプ8により潤滑油を循環させるので、主となるオイルポンプを小容量化(小型化)若しくは廃止することができる。
【0022】
この後、下死点にあるピストン2が上死点に向かって移動する際、つまりピストン2を移動させるための負のトルクが発生するが、その負のトルクをコイルバネ13に保存されたトルク、つまりコイルバネ13の付勢力により、カム9が弁12の軸体18により駆動されることになる。したがって、このトルクが生じている間、コイルバネ13の付勢力がカム9の回転、ひいてはクランク軸6の回転を補助することになる。この結果、負のトルクが小さくなることにより、膨張行程において発生するトルクの最大値と負のトルクの最大値との差が小さくなり、トルク変動を小さくすることができるものである。
【0023】
トルク変動を小さくできることにより、フライホイール21の質量を小さくすることができ、エンジン100の軽量化をすることができる。又同様にして、クラッチディスクの容量を小さくすることができるので、騒音や振動を低減することができる。しかもこれらを小型化することにより、製造コストを低減することができる。
【0024】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0025】
上記実施形態においては、カム9をクランク軸6に一体に形成したものを説明したが、例えばクランク軸により駆動されるバランス軸に形成するものであってもよい。このようにバランス軸と本発明とを併用することによりさらにトルク変動を低減することができる。さらには、クランク軸と回転の位相を一致させて回転させることができる専用の駆動軸に、カムを形成するものであってもよい。
【0026】
また、カムは、上述したようないわゆる板カム以外に、クランク軸の回転を往復動に変換するものであれば、円筒カム、端面カム、斜板カムなどを適用するものであってもよい。
【0027】
補機としては、上述した予備オイルポンプ8以外に、冷却水を循環させるウォーターポンプを補助するポンプなどであってもよい。
【0028】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の活用例として、自動車などの車両に搭載され頻繁に回転数が変更される内燃機関、特には気筒数の少ない内燃機関が挙げられる。
【符号の説明】
【0030】
2…ピストン
6…クランク軸
9…カム
8…予備オイルポンプ
100…エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの往復動により回転するクランク軸を備える内燃機関において、クランク軸に同期して回転する駆動軸と、
駆動軸に設けられるカムと、
カムの回転によって駆動される補機とを備えてなり、
ピストンが下死点にある位相とカムが補機を最も大きく駆動する位相とを一致させてなる内燃機関のトルク変動抑制構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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