説明

内燃機関のピストン構造

【課題】ピストンの断熱性を向上し、しかも表面に付着する煤等を除去できる内燃機関のピストン構造を提供する。
【解決手段】アルミニウムやアルミニウム合金で形成されたピストン20の表面にアルマイト皮膜11を形成し、そのアルマイト皮膜11で形成された多孔質層に触媒金属13を担持させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストン構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年は、車両の燃費向上のためにエンジンの燃費改善はもとより、シリンダーから排出された排ガスの排気エネルギーをターボチャージャーで回収して、吸気を過給することで、投入エネルギーの最大効率化を図っている。
【0003】
一方、燃焼時の熱エネルギーがピストン、シリンダーを介して冷却水に伝播する分は、エネルギーの回収が不可で、最終的にはラジエターを介して大気に放出される。
【0004】
エネルギーの効率化を図るには、冷却水損出分のエネルギーを減少させ、排気エネルギーの増加を図り、ターボチャージャーでエネルギーを回収する考えは、従来より提案されている。
【0005】
このために、過去にはピストン表面にセラミックなどの断熱材を貼り付けた仕様のものが試みられたが、断熱材の強度、製造などの問題から熱容量の大きいものしか作製できなかった。結果として燃焼時には、燃料の熱エネルギーが断熱材等に蓄熱され、排気行程中に蓄熱エネルギーを完全に放出することが出来ず、吸気行程にても熱を放出することになり、吸気された空気がシリンダー内で温度を高められ、吸入空気密度が低下し、効率の悪化を招くことになる。
【0006】
そこで、特許文献1、2に示されるようにピストンに陽極酸化処理にてアルマイト皮膜を施して耐熱性や耐摩耗性を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭62−137361号公報
【特許文献2】特開平11−267929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ピストンの強度の向上は望めるものの、陽極酸化処理しただけのアルマイト皮膜は多孔質状態であり、多孔質の状態では、酸化、腐蝕されるために、封止処理を実施しており、微細孔の空気層が封止材で塞がれて断熱性能は保持されていない問題がある。
【0009】
一方、燃焼室内には燃料の二次生成物である煤も多く存在する。煤のサイズは100μm以上と、アルマイト皮膜に形成される50〜500nmの径の微細孔おりも大きく、煤が多孔質層に侵入する可能性は少ないものの、煤が表面に堆積してケーキ層を形成することとなり好ましくない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、ピストンの断熱性を向上し、しかも表面に付着する煤等を除去できる内燃機関のピストン構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、アルミニウムやアルミニウム合金で形成されたピストンの表面にアルマイト皮膜を形成し、そのアルマイト皮膜で形成された多孔質層に触媒金属を担持させたことを特徴とする内燃機関のピストン構造である。
【0012】
請求項2の発明は、アルマイト皮膜は、ピストン頂面とその頂面に形成された燃焼室及びピストンの全周面に形成される請求項1記載の内燃機関のピストン構造である。
【0013】
請求項3の発明は、アルマイト皮膜は、ピストン頂面とその頂面に形成された燃焼室及びリング溝上部のピストン周面に形成される請求項1記載の内燃機関のピストン構造である。
【0014】
請求項4の発明は、ピストンの表面を、陽極酸化処理を行って細孔径が50〜500nm、深さが500nm〜1000nmの多孔質層からなるアルマイト皮膜を形成し、その多孔層の細孔内に白金からなる触媒金属を担持させた請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関のピストン構造である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、ピストンの表面にアルマイト皮膜を形成し、そのアルマイト皮膜で形成された多孔質層に触媒金属を担持させることで、断熱性能が良好で、しかも煤が堆積しても焼却除去できるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の内燃機関のピストン構造において、アルマイト皮膜の構造を示す拡大図である。
【図2】本発明の内燃機関のピストン構造の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
先ず、本発明が適用されるピストン20の全体構成を図2により説明する。
【0019】
図2において、ピストン20の頂面中央には、凹状に形成された燃焼室21が形成され、上部周面には、ピストンリングのリング溝22が形成され、さらにコンロッドに連結するピストン孔23が形成される。
【0020】
本発明においては、図2(a)に示すようにピストン20の頂面とその頂面に形成された燃焼室21及びピストン20のトップランド24及びリング溝22を含めた全周面に、細孔内にプラチナからなる触媒金属を担持させたアルマイト皮膜11を形成、あるいは図2(b)に示すように、ピストン20の頂面とその頂面に形成された燃焼室21及びリング溝22上部のピストン20のトップランド24の周面に、細孔内にプラチナからなる触媒金属を担持させたアルマイト皮膜11を形成したものである。
【0021】
図1は、ピストン20の表面であるアルミニウム又はアルミニウム合金層10上に多孔質層を形成するアルマイト皮膜11を形成し、そのアルマイト皮膜11で形成される多孔質層の微細孔12に触媒金属13を担持させた状態を拡大して示したものである。
【0022】
アルマイト皮膜11の形成は、陽極酸化処理によって形成されるが、この形成過程で、アルミニウム又はアルミニウム合金層10の表面のアルミニウムが酸化されながら酸化アルミニウムとなり、アルミニウム又はアルミニウム合金層10の表面にバリヤー層14を形成し、そのバリヤー層14から径が数μmの被膜セル15が集合した状態で形成されていくが、アルミニウム以外の金属元素の存在や電気の流れなどにより、被膜セル15の厚み方向に細長い微細孔12を多数有する多孔質構造となる。この微細孔12の径は、50nm〜500nmで、深さは500〜1000nm前後のものである。
【0023】
通常、この微細孔12は、硬度や耐食性を劣化させる原因となるが、本発明においては、この微細孔12内に白金などのナノサイズの触媒金属13を担持させるようにしたものである。
【0024】
ここで、アルマイト皮膜11の厚さは、1μm〜5μm程度となるように陽極酸化を行う。
【0025】
また微細孔12に担持する触媒金属13は、白金であれば、塩化白金酸を用いて微細孔12内に浸漬させて担持させる。
【0026】
次に本発明の作用を説明する。
【0027】
ピストン20の燃焼室21を含む頂面とその上部周面あるいは全周面が触媒金属13を担持させたアルマイト皮膜11で形成されることで、アルマイト皮膜11が十分に薄くても多孔質層内の空気が断熱材としての機能を果たすことになる。また主たる断熱機能材料が空気でもあり燃焼ガスで高温化すると膨張し微細孔12から一部は流出し、吸気行程でピストンが冷却されると、新気を自動的に取り込むことになり、次のサイクルに余分な熱を持ち込まない利点がある。
【0028】
この表面処理したアルマイト皮膜11は、冷却水への熱エネルギーの伝播を減少させ、排気エネルギーの増加が可能となり、従来の断熱材と比較して熱容量が少ないため、次のサイクルへの熱的な影響が少ない効果的な断熱の働きをする。
【0029】
一方、燃焼室21内及びトップランド24には燃料の二次生成物である煤も多く存在する。煤のサイズは100μm以上と、50〜500nmの微細孔より大きく、多孔質層内に侵入することはなく、また燃焼時の熱と微細孔12内に担持した触媒金属13の触媒作用により煤が焼却されてアルマイト皮膜11の表面部分が清掃されることとなる。また二次的な効果としては、微細孔12内に担持した触媒金属13が燃焼時に発生するHC(ハイドロカーボン)などを触媒効果により酸化することで排気ガスの浄化も図れる。
【符号の説明】
【0030】
10 アルミニウム又はアルミニウム合金層
11 アルマイト皮膜
12 微細孔
13 触媒金属
20 ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムやアルミニウム合金で形成されたピストンの表面にアルマイト皮膜を形成し、そのアルマイト皮膜で形成された多孔質層に触媒金属を担持させたことを特徴とする内燃機関のピストン構造。
【請求項2】
アルマイト皮膜は、ピストン頂面とその頂面に形成された燃焼室及びピストンの全周面に形成される請求項1記載の内燃機関のピストン構造。
【請求項3】
アルマイト皮膜は、ピストン頂面とその頂面に形成された燃焼室及びリング溝上部のピストン周面に形成される請求項1記載の内燃機関のピストン構造。
【請求項4】
ピストンの表面を、陽極酸化処理を行って細孔径が50〜500nm、深さが500nm〜1000nmの多孔質層からなるアルマイト皮膜を形成し、その多孔層の細孔内に白金からなる触媒金属を担持させた請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関のピストン構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−122445(P2012−122445A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275845(P2010−275845)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】