内燃機関の制御装置
【課題】ロックアップクラッチの作動に対して内燃機関の制御が遅れることなく、車両を円滑に加速させること。
【解決手段】制御装置1は、アクセル操作に伴う車両Vの加速時に、アクセル操作に伴う内燃機関3の目標出力を、内燃機関の出力変化量が所定速度となるように、規制する手段を備える。その規制手段は、加速時におけるロックアップクラッチ7の目標作動圧力と、車両の加速の直前におけるロックアップクラッチの作動圧力の実測値もしくは目標値またはロックアップクラッチの制御状態とに基づいて、所定速度を設定する規制値設定手段を有する。
【解決手段】制御装置1は、アクセル操作に伴う車両Vの加速時に、アクセル操作に伴う内燃機関3の目標出力を、内燃機関の出力変化量が所定速度となるように、規制する手段を備える。その規制手段は、加速時におけるロックアップクラッチ7の目標作動圧力と、車両の加速の直前におけるロックアップクラッチの作動圧力の実測値もしくは目標値またはロックアップクラッチの制御状態とに基づいて、所定速度を設定する規制値設定手段を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、より具体的には、ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータを有する自動変速機付きの車両に用いられる内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両を円滑に加速させるための内燃機関の制御技術が開示されている。例えば、特許文献1は、自動変速機付車両用エンジンの燃料制御装置を開示する。この装置では、車両を円滑に加速させるために、トルクコンバータの滑り率を演算し、得られた滑り率に応じて燃料増量を変化させる制御をおこなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−268946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1による制御で利用される滑り率は、車両の加速時にスロットル弁が開き、ロックアップクラッチの作動圧が変化した後に得られる値であるため、ロックアップクラッチの作動に対して内燃機関の制御が遅れてしまう。その結果、特許文献1による制御では、車両を円滑に加速させることができない場合が生じてしまう。
【0005】
そこで、本発明は、ロックアップクラッチの作動に対して内燃機関の制御が遅れることなく、車両を円滑に加速させることを可能にする内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内燃機関と、ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータとを有する自動変速機付きの車両に用いられ、アクセル操作に伴う車両の加速時に、アクセル操作に伴う内燃機関の目標出力を、内燃機関の出力変化量が所定速度となるように規制する規制手段を備える内燃機関の制御装置である。その規制手段は、加速時におけるロックアップクラッチの目標作動圧力と、加速の直前におけるロックアップクラッチの作動圧力の実測値もしくは目標値またはロックアップクラッチの制御状態とに基づいて、所定速度を設定する規制値設定手段を有する。
【0007】
本発明によれば、ロックアップクラッチの目標作動圧力を考慮することで、ロックアップクラッチの作動に対して遅れを生ずることなく、内燃機関の出力変化量を制御することができる。また、本発明によれば、車両の加速直前におけるロックアップクラッチの状態を考慮することで、ロックアップクラッチの作動に対して内燃機関の出力変化量を過不足なく適切に制御することができる。
【0008】
本発明の一形態によると、内燃機関は吸入空気量を制御するスロットル弁を備え、規制手段はスロットル弁の目標開度を規制し、規制値設定手段は目標開度の許容変化量を設定する。
【0009】
本発明の一形態によれば、ロックアップクラッチの締結状態に応じたスロットル弁の制御により、車両の加速時におけるトルクショックおよび振動を回避することができる。
【0010】
本発明の一形態によると、自動変速機が、車両の加速に伴いロックアップクラッチの目標作動圧力を所定値まで上昇させた後に当該目標作動圧力を一時的に低下させた状態において、規制値設定手段は、目標作動圧力が当該所定値に保持されているものとして、規制値(所定速度またはスロットル弁の目標開度)を設定する。
【0011】
本発明の一形態によれば、車両の加速時に目標作動圧力を一時的に低下させることで、自動変速機の作動騒音を低減できると共に、その目標作動圧力の一時的な低下を無視して規制値(所定速度またはスロットル弁の目標開度)を設定することで、内燃機関の出力の急激な変化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態による制御装置を、これを適用した内燃機関とともに概略的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態によるスロットル開度の制御の構成図である。
【図3】本発明の実施形態による要求トルクまたは目標スロットル開度の制御の様子を示す図である。
【図4】本発明の実施形態による要求トルクまたは目標スロットル開度の補正量算出のための制御フローを示す図である。
【図5】本発明の実施形態によるロックアップクラッチの作動圧(LC圧)の時間変化を示す図である。
【図6】本発明の実施形態による制御対象である(a)AP開度、(b)LC圧、および(c)目標スロットル(TH)開度の時間変化を示す図である。
【図7】本発明の実施形態による目標LC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。
【図8】本発明の実施形態によるLC圧に応じた増分補正の制御フローを示す図である。
【図9】本発明の実施形態によるLC圧の時間変化(a)と目標スロットル(TH)開度などの時間変化(b)を示す図である。
【図10】本発明の実施形態によるLC圧の時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【図11】本発明の実施形態による現在のLC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。
【図12】本発明の実施形態によるLC制御モードに応じた増分補正の制御フローを示す図である。
【図13】本発明の実施形態によるLC制御モードの時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【図14】本発明の実施形態によるLC制御モードの時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【図15】本発明の実施形態による現在のLC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。
【図16】本発明の実施形態による減速中のLC圧と加速中のLC圧との差分に応じた増分補正の制御フローを示す図である。
【図17】本発明の実施形態によるLC圧の差分の時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本実施形態による内燃機関の制御装置1を、これを適用した内燃機関3(以下「エンジン」という)とともに概略的に示している。エンジン3は、車両Vに搭載された、例えば4気筒4サイクルのエンジンである。
【0014】
電子制御ユニット(以下、「ECU」という)2は、入出力インターフェース、中央演算処理装置(CPU)、およびメモリを備えるコンピュータである。メモリには、車両の様々な制御を実現するためのコンピュータ・プログラムおよび該プログラムの実施に必要なデータを格納することができる。本発明に従う制御のためのプログラム、および該プログラムの実行の際に用いるデータおよびマップは、メモリに格納されている。ECU2は、車両の各部から送られてくるデータを受け取って演算を行い、制御信号を生成して、エンジン3の各部を制御するために送る。
【0015】
エンジン3の各気筒(図示せず)には、インジェクタ4が設けられている(1つのみ図示)。インジェクタ4は、燃料供給装置(図示せず)から供給された燃料を気筒内に噴射する。インジェクタ4の燃料噴射量は、後述するECU2からの駆動信号によって制御される。
【0016】
エンジン3のクランクシャフト10には、例えばマグネットロータおよびMREピックアップで構成されたクランク角センサ21が設けられている。クランク角センサ21は、クランクシャフト10の回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。CRK信号は、所定クランク角(例えば10度)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数NEを算出する。TDC信号は、エンジン3の各気筒において、ピストン(図示せず)が吸気行程の開始時の上死点よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、本実施形態のような4気筒エンジンの場合には、クランク角180度ごとに出力される。
【0017】
車両Vは、フロントエンジン・フロントドライブタイプのものであり、エンジン3は、自動変速機9、終減速装置(図示せず)およびドライブシャフト12などを介して、駆動輪である左右の前輪W(1つのみ図示)に連結されている。
【0018】
自動変速機9は、ロックアップクラッチ7付きのトルクコンバータ6と、有段変速機8とを組み合わせたものであり、このロックアップクラッチ7は、油圧回路5からの油圧の供給によって接続・遮断される。なお、自動変速機9の形式は有段変速機に限定されず、無段変速機または二重クラッチ式変速機(Dual Clutch Transmission)などであっても良い。油圧回路5にはLC電磁弁5aと油圧センサ5bが設けられており、両者はECU2に電気的に接続されている。ECU2によりLC電磁弁5aの動作状態が制御されることによって、ロックアップクラッチ7の接続・遮断状態が制御される。この場合、ロックアップクラッチ7が完全に接続(係合)された状態では、エンジン3のクランクシャフト10は、トルクコンバータ6の従動軸11に機械的に直結された状態となる。油圧センサ5bは、検出した油圧(LC圧)信号をECU2に送る。
【0019】
従動軸11には回転数センサ23が設けられている。この回転数センサ23は、クランク角センサ21と同様、マグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、従動軸11が所定角度、回転するごとに、パルス信号である検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この検出信号に基づき、従動軸11の回転数を算出する。
【0020】
ECU2には、アクセル開度センサ22から、アクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が出力される。
【0021】
吸気管13内にはスロットル弁14が配置されている。スロットル弁14は、ECU2からの制御信号に応じてアクチュエータ(図示せず)によって駆動されるドライブバイワイヤ(DBW)式のスロットル弁である。スロットル弁開度センサ24がスロットル弁14に設けられており、スロットル開度に応じた信号をECU2に出力する。
【0022】
次に、本実施形態による車両の加速時におけるスロットル開度の制御について説明する。図2は、図1の制御装置1によって実行されるスロットル開度の制御の構成図である。最初に、ブロック32において、アクセル開度(AP)30とエンジン3の回転数(NE)31とから、エンジン3の要求トルク(以下「要求TRQ」という)または目標スロットル開度(以下「目標TH開度」という)が算出される。ブロック33において、得られた要求TRQまたは目標TH開度に対してフィルタリング処理が行われる。
【0023】
このフィルタリング処理は、例えば次のようにおこなわれる。図3は、要求TRQまたは目標TH開度の制御の様子を示す図である。図3において、要求TRQまたは目標TH開度の設定パルス(時間的な変化)40に対して、フィルタリング処理後の段階的に立ち上がるパルス41が示されている。このように、本実施形態によるフィルタリング処理は、要求TRQまたは目標TH開度を急激に増加させるのではなく、徐々に増加させる(信号の立ち上がりを遅くする)ための処理を意味する。
【0024】
図3のフィルタリング処理では、要求TRQまたは目標TH開度をΔt時間毎にΔTRQまたはΔTHだけ増加させている。このΔt時間は例えば10msである。増加分ΔTRQまたはΔTHは、図2のブロック34において、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正量として算出される。この増分補正量算出のための制御の詳細につては後述する。最後に、図2のブロック35において、フィルタリング処理後の要求TRQまたは目標TH開度に基づきスロットル弁14の開度(θTH)が算出される。
【0025】
図4は、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正量算出のための制御フローを示す図である。図4の制御フローは、制御装置1のECU2によって所定の周期で実行される。ステップS1において、アクセルペダルが踏み込まれているか否かを判定する。この判定は車両が加速中であるか否かを確認するためにおこなわれる。具体的には、例えばアクセル開度(AP)が所定値以上であるか否かを判定する。この判定がNoの場合、ステップS3において、ロックアップクラッチの作動圧(以下「LC圧」という)およびロックアップクラッチの制御モード(以下「LC制御モード」という)のオンまたはオフ(クラッチのロックアップまたはその解除)の監視をおこなった後に本制御が終了される。
【0026】
ステップS1の判定がYesの場合、次のステップS2において、LC制御モードがオフか否かを判定する。この判定がYesの場合、ステップS4において、ドンギク用のLC圧のホールド処理をおこなう。ここで、ドンギクとは車両の加速時においてエンジンの出力トルクが大きく変動することにより車両が振動して、スムーズな加速が妨げられるような状態を意味する。
【0027】
図5を参照しながらドンギク用のLC圧のホールド処理を説明する。図5はLC圧の時間変化を示す図である。図5において、時間T1において車両が減速モードから加速モードに切り替わったとする。時間T1においてLC制御モードがオン、すなわちクラッチがロックアップされ、目標LC圧が符号43で示されるようにパルス状に立ち上げられる。時間T2において、LC制御モードがオフにされると、目標LC圧は所定値(例えばゼロ)に低下され、急激にLC圧を減少させる制御が実行される。その後、時間T3において、LC制御モードがオンになると、再び目標LC圧は所定値まで戻される。
【0028】
このように、短時間で急減に目標LC圧が変化すると、後述する要求TRQまたは目標TH開度の増分補正(増分補正量算出)に瞬間的な大きな変動を与えてしまう。そこで、本実施形態では、点線44で示されるように、時間T2〜T3において目標LC圧が変化していないものとして、そのホールド処理をおこなう。
【0029】
図4に戻って、ステップS2の判定がNoの場合、ステップS5において、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう。図6〜図17を参照しながら、この増分補正について以下に説明する。
【0030】
最初に図6と図7を参照しながら、ドンギク抑制のための増分補正について説明する。なお、このドンギク抑制のための増分補正は、従来からも行われている補正である。図6は、制御対象である目標TH開度などの時間変化を示す図である。図7は、目標LC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。ここで、補正ゲインは、図2のフィルタリング処理33において利用されるフィルタリングゲインに相当する。
【0031】
図6(a)において、時間T1でアクセルペダル開度46がオン(開)になり、車両の加速が開始する。図6(b)の目標LC圧は、時間T1以降において線47で示されるように段階的に上昇される。このとき、何ら要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなわないと、例えば図6(c)の目標TH開度は線48で示されるように時間T1において急激に立ち上ってしまう。その結果、ドンギクが発生して車両の円滑な加速が妨げられる恐れがある。
【0032】
そこで、本実施形態では、図7に例示されるように、目標LC圧に応じて補正ゲイン52を小さくする。図7の横軸は目標LC圧(図6(b)の符号47)であり、かっこ書きのLCルーズとLCタイトは、それぞれクラッチのロックアップ状態が緩いかきついかを意味する。言い換えれば、LCタイトは、図1のロックアップクラッチ7が完全に(固く)接続(係合)された状態であり、LCルーズはその係合が緩めである状態を意味する。図7に例示されるように、目標LC圧の増加に伴って補正ゲイン52を段階的に小さくすると、図6(c)の目標スロットル(TH)開度は、線49で示されるように時間T1から徐々に増加していく。この目標TH開度の緩やかな立ち上がりは、既に説明した図3の段階的なTH開度の増加の結果として得られる変化に相当する。この線49で例示されるようなTH開度の緩やかな立ち上がりにより加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。
【0033】
次に、図8と図9を参照しながら、車両の減速中のLC圧に応じて、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう場合について説明する。図8は、LC圧に応じた増分補正の制御フローを示す図である。図9は、LC圧の時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【0034】
図8のステップS10において、減速中のLC圧がゼロであるか否かを判定する。ここで、LC圧としては目標LC圧を用いるが、油圧センサ5b(図1)によって検出される実際のLC圧を用いてもよい。この判定がYesの場合、ステップS11において、補正係数α1が選択される。補正係数α1は、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に対する減速中のLC圧がゼロの場合における補正係数である。ステップS10の判定がNoの場合、ステップS12において、補正係数α2が選択される。補正係数α2は、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に対する減速中のLC圧がゼロよりも大きい(LC圧>0)場合における補正係数である。ここで、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)とは、目標LC圧に対応して予め設定されているTH開度(または要求TRQ)である。
【0035】
次のステップS13において、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に選択した補正係数α1またはα2を乗算して、TH開度(または要求TRQ)の増分補正量を算出する。補正係数α1またはα2による増分補正量の相違について図9を参照して説明する。
【0036】
図9の(a)において、減速中の目標LC圧がゼロの場合(LC=0)とゼロより大きい場合(LC>0)が例示されている。加速時には、LC=0およびLC>0のいずれの場合も、線53で示される目標LC圧の時間的な変化を示す。すなわち、線53は実際にはLC=0およびLC>0の2つの場合を含んでいる。線54は減速中の目標LC圧がゼロにおける実際のLC圧の時間的な変化を示し、線55は減速中の目標LC圧がゼロよりも大きい場合における実際のLC圧の時間的な変化を示す。図から明らかなように、減速中の目標LC圧がゼロよりも大きい場合の方が、減速中の目標LC圧がゼロの場合よりも加速時において実際のLC圧が早く目標LC圧に達する。したがって、急激なトルク上昇を緩和させるために、目標LC圧がゼロよりも大きい場合における補正係数α2を目標LC圧がゼロの場合における補正係数α1よりも小さく設定する(α2<α1)。
【0037】
その結果、図9の(b)の曲線56として例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を緩やかに上昇させることができる。逆に、目標LC圧がゼロの場合は補正係数α2よりも大きな補正係数α1を採用することにより、図9の(b)の曲線57として例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を比較的早めに上昇させることができる。このように、本実施形態によれば、減速中のLC圧に応じてベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分の補正係数を持ち代えることにより、TH開度(または要求TRQ)の緩やかな立ち上がりにより加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。なお、補正係数α1またはα2を持ち替える代わりに、図8のステップS10の判定結果に応じて、図7の補正ゲインを持ち替えるようにしてもよい。
【0038】
次に、図10と図11を参照しながら、車両の減速中のLC圧に応じて、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう場合の他の実施例について説明する。この実施例は、減速中のLC圧の大きさに応じて補正係数(ゲイン)を持ち替える例である。図10は、LC圧の時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。図11は、現在のLC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。ここで、補正ゲインは、図2のフィルタリング処理33において利用されるフィルタリングゲインに相当する。
【0039】
図10の(a)において、減速中の目標LC圧の大きさが、小(例えばゼロ)、中、および大(フルタイト)の3段階が例示されている。なお、LC圧の大きさの段階は3段階に限られず、2段階あるいは4段階以上に分けてもよい。加速時には、減速中の目標LC圧の3段階(小、中、大)のいずれの場合も、線58で示される目標LC圧の時間的な変化を示す。すなわち、線58は実際にはこの3段階の場合を含んでいる。線59、60、61は、減速中のLC圧の大きさが、大(フルタイト)、中、小(例えばゼロ)の各場合における実際のLC圧の時間的な変化を示す。減速中のLC圧と、該減速に続く加速中の目標LC圧との差が小さい程、加速時において実際のLC圧が早く目標LC圧に達する。
【0040】
したがって、急激なトルク上昇を緩和させるために、本実施形態では、図11に例示されるように、現在のLC圧の方向に応じて補正ゲインを段階的に小さくすると同時に、さらに減速中のLC圧の大きさに応じて加速時の補正ゲインを可変(増減)する。図11の横軸は現在のLC圧の方向を示し、LCルーズとLCタイトは、それぞれクラッチのロックアップ状態が緩いかきついかを意味する。線65、66、67は、減速中のLC圧の大きさが、小(例えばゼロ)、中、大(フルタイト)の各場合における補正ゲインの変化を示す。図から明らかなように、減速中のLC圧の大きさが大きく(小さく)なるほど、補正ゲインをより小さく(大きく)する。
【0041】
具体的には、減速中のLC圧が、該減速に続く加速中の目標LC圧より小さい場合は、減速中のLC圧と加速中の目標LCとの差が大きいほど該目標LC圧に基づく補正ゲイン(図7)を大きくするようにする。また、減速中のLC圧が、該減速に続く加速中の目標LC圧より大きい場合は、減速中のLC圧と加速中の目標LC圧との差が大きいほど該目標LC圧に基づく補正ゲイン(図7)を小さくするようにする。
【0042】
その結果、図10の(b)に例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を緩やかに上昇させることができる。図10(b)において、線62、63、64は、減速中のLC圧の大きさが、小(例えばゼロ)、中、大(フルタイト)の各場合におけるTH開度(または要求TRQ)の変化を示す。図から明らかなように、減速中のLC圧の大きさが大きい(小さく)ほど、TH開度(または要求TRQ)の立ち上がりをよりゆっくり(早め)にする。これにより加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。
【0043】
次に、図12と図13を参照しながら、車両の減速中のLC制御モードに応じて、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう場合について説明する。図12は、LC制御モードに応じた増分補正の制御フローを示す図である。図13は、LC制御モードの時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【0044】
図12のステップS20において、減速中のLC制御モードがオフか否かを判定する。この判定がYesの場合、ステップS21において、補正係数α3が選択される。補正係数α3は、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に対する減速中のLC制御モードがオフの場合における補正係数である。ステップS20の判定がNoの場合、すなわち減速中のLC制御モードがオンの場合、ステップS22において、補正係数α4が選択される。補正係数α4は、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に対する減速中のLC制御モードがオンの場合における補正係数である。ここで、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)とは、図8の場合と同様に、目標LC圧に対応して予め設定されているTH開度(または要求TRQ)である。
【0045】
次のステップS23において、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に補正係数α3またはα4を乗算して、TH開度(または要求TRQ)の増分補正量を算出する。補正係数α3またはα4による増分補正量の相違について図13を参照して説明する。
【0046】
図13の(a)は、減速中でのLC制御モードがオフまたはオンの状態から加速時にLC制御モードがオンになる状態を示している。減速中でのLC制御モードがオンの状態から加速時にもその状態を継続する場合、クラッチのロックアップがそのまま維持されるので、急激なトルク上昇が起こりやすい。したがって、その急激なトルク上昇を緩和させるために、減速中のLC制御モードがオンの場合状態における補正係数α4をLC制御モードがオフの場合における補正係数α3よりも小さく設定する(α4<α3)。
【0047】
その結果、図13の(b)の破線LC ONとして例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を緩やかに上昇させることができる。逆に、LC制御モードがオフの場合は補正係数α4よりも大きな補正係数α3を採用することにより、図13の(b)の実線LC OFFとして例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を比較的早めに上昇させることができる。このように、本実施形態によれば、減速中のLC制御モードに応じてベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分の補正係数を持ち代えることにより、TH開度(または要求TRQ)の緩やかな立ち上がりにより加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。なお、補正係数α3またはα4を持ち替える代わりに、図12のステップS20の判定結果に応じて、図7の補正ゲインを持ち替えるようにしてもよい。
【0048】
次に、図14と図15を参照しながら、車両の減速中のLC制御モードに応じて、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう他の実施例について説明する。この実施例はLC制御モードをさらに細かく分けた場合の例である。図14は、LC制御モードの時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。図15は、現在のLC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。ここで、補正ゲインは、図2のフィルタリング処理33において利用されるフィルタリングゲインに相当する。
【0049】
図14の(a)において、減速中のLC制御モードとして、オフ(LC OFF)、フィードバック(LC F/B)、オンのフルタイト(LCフルタイト)の3つのモードから加速時にオン(LC ON)モードになる状態を示している。ここで、LC F/BモードはLC圧を所定値(OFFとON(フルタイト)との間)にフィードバック制御するモードである。減速中でのLC制御モードがオン(LC F/Bを含む)の状態から加速時にもそのオン状態を継続する場合、クラッチのロックアップがそのまま維持されるので、急激なトルク上昇が起こりやすい。
【0050】
したがって、その急激なトルク上昇を緩和させるために、本実施形態では、図15に例示されるように、現在のLC圧の方向に応じて補正ゲインを段階的に小さくすると同時に、さらに減速中のLC制御モードに応じて加速時の補正ゲインを可変(増減)する。図15の横軸は現在のLC圧の方向を示し、LCルーズとLCタイトは、それぞれクラッチのロックアップ状態が緩いかきついかを意味する。線72、73、74は、減速中のLC制御モードが、LC OFF、LC F/B、LCフルタイトの各場合における補正ゲインの変化を示す。図から明らかなように、減速中のLC制御モードがLC OFFからLCフルタイトに向かうほど、補正ゲインをより小さくする。
【0051】
その結果、図14の(b)に例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を緩やかに上昇させることができる。図14(b)において、線68、69、70は、減速中のLC制御モードが、LC OFF、LC F/B、LCフルタイトの各場合におけるTH開度(または要求TRQ)の変化を示す。図から明らかなように、LC OFF(68)、LC F/B(69)、LCフルタイト(70)の順で、TH開度(または要求TRQ)の立ち上がりがよりゆっくりになる。これにより加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。
【0052】
次に、図16と図17を参照しながら、車両の減速中のLC圧と加速中のLC圧との差分に応じて、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう場合について説明する。図16は、減速中のLC圧と加速中のLC圧との差分に応じた増分補正の制御フローを示す図である。図17は、LC圧の差分の時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【0053】
図16のステップS30において、車両が減速中であるか否かを判定する。具体的には、例えばアクセル開度(AP)が所定値以下であるか否かを判定する。この判定がYesの場合、ステップS35減速中のLC圧の監視をおこなった後に本制御が終了される。
【0054】
ステップS30判定がNoの場合、ステップS31において、減速中のLC圧がメモリに一時的に保持される。ステップS32において、保持された減速中のLC圧と加速中の現在のLC圧との差分LC圧を算出する。この差分LC圧は、例えば図17の(a)のΔP1、ΔP2が該当する。図17(a)は基本的に既に説明した図9(a)と同様であり、同じ意味の線には同じ符号をつけてある。すなわち、線53、54、55はそれぞれ目標LC圧、減速中の目標LC圧がゼロにおける実際のLC圧、減速中の目標LC圧がゼロよりも大きい場合における実際のLC圧を示す。差分LC圧ΔP1は、減速中のLC圧ゼロと加速中のLC圧との差分である。同様に、差分LC圧ΔP2は、減速中のLC圧がゼロよりも大きい場合におけるそのLC圧と加速中のLC圧との差分である。なお、LC圧としては目標LC圧を用いるが、油圧センサ5b(図1)によって検出される実際のLC圧を用いてもよい。
【0055】
ステップS33において、算出された差分LC圧に応じて補正係数を算出する。この補正係数は、既に説明したベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に対する補正係数である。ステップS34において、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に算出した補正係数を乗算して、TH開度(または要求TRQ)の増分補正量を算出する。この補正係数に応じた増分補正量の相違について図13を参照して説明する。
【0056】
図17の(a)から明らかなように、小さい差分LC圧ΔP1の場合の方が、大きな差分LC圧ΔP2の場合よりも加速時において実際のLC圧が早く目標LC圧に達する。したがって、急激なトルク上昇を緩和させるために、差分LC圧ΔP1における補正係数αp1を差分LC圧ΔP2における補正係数αp2よりも小さく設定する(αp1<αp2)。
【0057】
その結果、図17の(b)の曲線76として例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を緩やかに上昇させることができる。逆に、大きな差分LC圧ΔP2の場合は補正係数αp1よりも大きな補正係数αp2を採用することにより、図17の(b)の曲線75として例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を比較的早めに上昇させることができる。このように、本実施形態によれば、車両の減速中のLC圧と加速中のLC圧との差分に応じてベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分の補正係数を持ち代えることにより、TH開度(または要求TRQ)を緩やかに立ち上がらせて加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において改変して用いることができる。例えば、図8等に例示される補正係数をベースTH開度(またはTRQ)値に乗算して補正する代わりに、当該補正をベースTH開度(またはTRQ)値に対する加減算で行っても良い。要は目標LC圧および減速LC圧がタイトなほど、ΔTHまたはΔTRQを小さくできる補正であれば良い。また、エンジン回転数NE、アクセル開度AP、およびギヤ段からブロック33(図2)のフィルタリング処理に用いるベースゲインを算出し、該ベースゲインに、目標LC圧と減速時のLC圧に基づく補正ゲインを乗算または加減算して、ブロック33のフィルタリング処理に用いるゲインを算出するようにしても良い。
【符号の説明】
【0059】
V 車両
W 前輪
1 制御装置
2 ECU
3 エンジン
6 トルクコンバータ
7 ロックアップクラッチ
9 自動変速機
14 スロットル弁
22 アクセル開度センサ
24 スロットル弁開度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、より具体的には、ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータを有する自動変速機付きの車両に用いられる内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両を円滑に加速させるための内燃機関の制御技術が開示されている。例えば、特許文献1は、自動変速機付車両用エンジンの燃料制御装置を開示する。この装置では、車両を円滑に加速させるために、トルクコンバータの滑り率を演算し、得られた滑り率に応じて燃料増量を変化させる制御をおこなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−268946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1による制御で利用される滑り率は、車両の加速時にスロットル弁が開き、ロックアップクラッチの作動圧が変化した後に得られる値であるため、ロックアップクラッチの作動に対して内燃機関の制御が遅れてしまう。その結果、特許文献1による制御では、車両を円滑に加速させることができない場合が生じてしまう。
【0005】
そこで、本発明は、ロックアップクラッチの作動に対して内燃機関の制御が遅れることなく、車両を円滑に加速させることを可能にする内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内燃機関と、ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータとを有する自動変速機付きの車両に用いられ、アクセル操作に伴う車両の加速時に、アクセル操作に伴う内燃機関の目標出力を、内燃機関の出力変化量が所定速度となるように規制する規制手段を備える内燃機関の制御装置である。その規制手段は、加速時におけるロックアップクラッチの目標作動圧力と、加速の直前におけるロックアップクラッチの作動圧力の実測値もしくは目標値またはロックアップクラッチの制御状態とに基づいて、所定速度を設定する規制値設定手段を有する。
【0007】
本発明によれば、ロックアップクラッチの目標作動圧力を考慮することで、ロックアップクラッチの作動に対して遅れを生ずることなく、内燃機関の出力変化量を制御することができる。また、本発明によれば、車両の加速直前におけるロックアップクラッチの状態を考慮することで、ロックアップクラッチの作動に対して内燃機関の出力変化量を過不足なく適切に制御することができる。
【0008】
本発明の一形態によると、内燃機関は吸入空気量を制御するスロットル弁を備え、規制手段はスロットル弁の目標開度を規制し、規制値設定手段は目標開度の許容変化量を設定する。
【0009】
本発明の一形態によれば、ロックアップクラッチの締結状態に応じたスロットル弁の制御により、車両の加速時におけるトルクショックおよび振動を回避することができる。
【0010】
本発明の一形態によると、自動変速機が、車両の加速に伴いロックアップクラッチの目標作動圧力を所定値まで上昇させた後に当該目標作動圧力を一時的に低下させた状態において、規制値設定手段は、目標作動圧力が当該所定値に保持されているものとして、規制値(所定速度またはスロットル弁の目標開度)を設定する。
【0011】
本発明の一形態によれば、車両の加速時に目標作動圧力を一時的に低下させることで、自動変速機の作動騒音を低減できると共に、その目標作動圧力の一時的な低下を無視して規制値(所定速度またはスロットル弁の目標開度)を設定することで、内燃機関の出力の急激な変化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態による制御装置を、これを適用した内燃機関とともに概略的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態によるスロットル開度の制御の構成図である。
【図3】本発明の実施形態による要求トルクまたは目標スロットル開度の制御の様子を示す図である。
【図4】本発明の実施形態による要求トルクまたは目標スロットル開度の補正量算出のための制御フローを示す図である。
【図5】本発明の実施形態によるロックアップクラッチの作動圧(LC圧)の時間変化を示す図である。
【図6】本発明の実施形態による制御対象である(a)AP開度、(b)LC圧、および(c)目標スロットル(TH)開度の時間変化を示す図である。
【図7】本発明の実施形態による目標LC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。
【図8】本発明の実施形態によるLC圧に応じた増分補正の制御フローを示す図である。
【図9】本発明の実施形態によるLC圧の時間変化(a)と目標スロットル(TH)開度などの時間変化(b)を示す図である。
【図10】本発明の実施形態によるLC圧の時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【図11】本発明の実施形態による現在のLC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。
【図12】本発明の実施形態によるLC制御モードに応じた増分補正の制御フローを示す図である。
【図13】本発明の実施形態によるLC制御モードの時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【図14】本発明の実施形態によるLC制御モードの時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【図15】本発明の実施形態による現在のLC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。
【図16】本発明の実施形態による減速中のLC圧と加速中のLC圧との差分に応じた増分補正の制御フローを示す図である。
【図17】本発明の実施形態によるLC圧の差分の時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本実施形態による内燃機関の制御装置1を、これを適用した内燃機関3(以下「エンジン」という)とともに概略的に示している。エンジン3は、車両Vに搭載された、例えば4気筒4サイクルのエンジンである。
【0014】
電子制御ユニット(以下、「ECU」という)2は、入出力インターフェース、中央演算処理装置(CPU)、およびメモリを備えるコンピュータである。メモリには、車両の様々な制御を実現するためのコンピュータ・プログラムおよび該プログラムの実施に必要なデータを格納することができる。本発明に従う制御のためのプログラム、および該プログラムの実行の際に用いるデータおよびマップは、メモリに格納されている。ECU2は、車両の各部から送られてくるデータを受け取って演算を行い、制御信号を生成して、エンジン3の各部を制御するために送る。
【0015】
エンジン3の各気筒(図示せず)には、インジェクタ4が設けられている(1つのみ図示)。インジェクタ4は、燃料供給装置(図示せず)から供給された燃料を気筒内に噴射する。インジェクタ4の燃料噴射量は、後述するECU2からの駆動信号によって制御される。
【0016】
エンジン3のクランクシャフト10には、例えばマグネットロータおよびMREピックアップで構成されたクランク角センサ21が設けられている。クランク角センサ21は、クランクシャフト10の回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。CRK信号は、所定クランク角(例えば10度)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数NEを算出する。TDC信号は、エンジン3の各気筒において、ピストン(図示せず)が吸気行程の開始時の上死点よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、本実施形態のような4気筒エンジンの場合には、クランク角180度ごとに出力される。
【0017】
車両Vは、フロントエンジン・フロントドライブタイプのものであり、エンジン3は、自動変速機9、終減速装置(図示せず)およびドライブシャフト12などを介して、駆動輪である左右の前輪W(1つのみ図示)に連結されている。
【0018】
自動変速機9は、ロックアップクラッチ7付きのトルクコンバータ6と、有段変速機8とを組み合わせたものであり、このロックアップクラッチ7は、油圧回路5からの油圧の供給によって接続・遮断される。なお、自動変速機9の形式は有段変速機に限定されず、無段変速機または二重クラッチ式変速機(Dual Clutch Transmission)などであっても良い。油圧回路5にはLC電磁弁5aと油圧センサ5bが設けられており、両者はECU2に電気的に接続されている。ECU2によりLC電磁弁5aの動作状態が制御されることによって、ロックアップクラッチ7の接続・遮断状態が制御される。この場合、ロックアップクラッチ7が完全に接続(係合)された状態では、エンジン3のクランクシャフト10は、トルクコンバータ6の従動軸11に機械的に直結された状態となる。油圧センサ5bは、検出した油圧(LC圧)信号をECU2に送る。
【0019】
従動軸11には回転数センサ23が設けられている。この回転数センサ23は、クランク角センサ21と同様、マグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、従動軸11が所定角度、回転するごとに、パルス信号である検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この検出信号に基づき、従動軸11の回転数を算出する。
【0020】
ECU2には、アクセル開度センサ22から、アクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が出力される。
【0021】
吸気管13内にはスロットル弁14が配置されている。スロットル弁14は、ECU2からの制御信号に応じてアクチュエータ(図示せず)によって駆動されるドライブバイワイヤ(DBW)式のスロットル弁である。スロットル弁開度センサ24がスロットル弁14に設けられており、スロットル開度に応じた信号をECU2に出力する。
【0022】
次に、本実施形態による車両の加速時におけるスロットル開度の制御について説明する。図2は、図1の制御装置1によって実行されるスロットル開度の制御の構成図である。最初に、ブロック32において、アクセル開度(AP)30とエンジン3の回転数(NE)31とから、エンジン3の要求トルク(以下「要求TRQ」という)または目標スロットル開度(以下「目標TH開度」という)が算出される。ブロック33において、得られた要求TRQまたは目標TH開度に対してフィルタリング処理が行われる。
【0023】
このフィルタリング処理は、例えば次のようにおこなわれる。図3は、要求TRQまたは目標TH開度の制御の様子を示す図である。図3において、要求TRQまたは目標TH開度の設定パルス(時間的な変化)40に対して、フィルタリング処理後の段階的に立ち上がるパルス41が示されている。このように、本実施形態によるフィルタリング処理は、要求TRQまたは目標TH開度を急激に増加させるのではなく、徐々に増加させる(信号の立ち上がりを遅くする)ための処理を意味する。
【0024】
図3のフィルタリング処理では、要求TRQまたは目標TH開度をΔt時間毎にΔTRQまたはΔTHだけ増加させている。このΔt時間は例えば10msである。増加分ΔTRQまたはΔTHは、図2のブロック34において、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正量として算出される。この増分補正量算出のための制御の詳細につては後述する。最後に、図2のブロック35において、フィルタリング処理後の要求TRQまたは目標TH開度に基づきスロットル弁14の開度(θTH)が算出される。
【0025】
図4は、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正量算出のための制御フローを示す図である。図4の制御フローは、制御装置1のECU2によって所定の周期で実行される。ステップS1において、アクセルペダルが踏み込まれているか否かを判定する。この判定は車両が加速中であるか否かを確認するためにおこなわれる。具体的には、例えばアクセル開度(AP)が所定値以上であるか否かを判定する。この判定がNoの場合、ステップS3において、ロックアップクラッチの作動圧(以下「LC圧」という)およびロックアップクラッチの制御モード(以下「LC制御モード」という)のオンまたはオフ(クラッチのロックアップまたはその解除)の監視をおこなった後に本制御が終了される。
【0026】
ステップS1の判定がYesの場合、次のステップS2において、LC制御モードがオフか否かを判定する。この判定がYesの場合、ステップS4において、ドンギク用のLC圧のホールド処理をおこなう。ここで、ドンギクとは車両の加速時においてエンジンの出力トルクが大きく変動することにより車両が振動して、スムーズな加速が妨げられるような状態を意味する。
【0027】
図5を参照しながらドンギク用のLC圧のホールド処理を説明する。図5はLC圧の時間変化を示す図である。図5において、時間T1において車両が減速モードから加速モードに切り替わったとする。時間T1においてLC制御モードがオン、すなわちクラッチがロックアップされ、目標LC圧が符号43で示されるようにパルス状に立ち上げられる。時間T2において、LC制御モードがオフにされると、目標LC圧は所定値(例えばゼロ)に低下され、急激にLC圧を減少させる制御が実行される。その後、時間T3において、LC制御モードがオンになると、再び目標LC圧は所定値まで戻される。
【0028】
このように、短時間で急減に目標LC圧が変化すると、後述する要求TRQまたは目標TH開度の増分補正(増分補正量算出)に瞬間的な大きな変動を与えてしまう。そこで、本実施形態では、点線44で示されるように、時間T2〜T3において目標LC圧が変化していないものとして、そのホールド処理をおこなう。
【0029】
図4に戻って、ステップS2の判定がNoの場合、ステップS5において、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう。図6〜図17を参照しながら、この増分補正について以下に説明する。
【0030】
最初に図6と図7を参照しながら、ドンギク抑制のための増分補正について説明する。なお、このドンギク抑制のための増分補正は、従来からも行われている補正である。図6は、制御対象である目標TH開度などの時間変化を示す図である。図7は、目標LC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。ここで、補正ゲインは、図2のフィルタリング処理33において利用されるフィルタリングゲインに相当する。
【0031】
図6(a)において、時間T1でアクセルペダル開度46がオン(開)になり、車両の加速が開始する。図6(b)の目標LC圧は、時間T1以降において線47で示されるように段階的に上昇される。このとき、何ら要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなわないと、例えば図6(c)の目標TH開度は線48で示されるように時間T1において急激に立ち上ってしまう。その結果、ドンギクが発生して車両の円滑な加速が妨げられる恐れがある。
【0032】
そこで、本実施形態では、図7に例示されるように、目標LC圧に応じて補正ゲイン52を小さくする。図7の横軸は目標LC圧(図6(b)の符号47)であり、かっこ書きのLCルーズとLCタイトは、それぞれクラッチのロックアップ状態が緩いかきついかを意味する。言い換えれば、LCタイトは、図1のロックアップクラッチ7が完全に(固く)接続(係合)された状態であり、LCルーズはその係合が緩めである状態を意味する。図7に例示されるように、目標LC圧の増加に伴って補正ゲイン52を段階的に小さくすると、図6(c)の目標スロットル(TH)開度は、線49で示されるように時間T1から徐々に増加していく。この目標TH開度の緩やかな立ち上がりは、既に説明した図3の段階的なTH開度の増加の結果として得られる変化に相当する。この線49で例示されるようなTH開度の緩やかな立ち上がりにより加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。
【0033】
次に、図8と図9を参照しながら、車両の減速中のLC圧に応じて、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう場合について説明する。図8は、LC圧に応じた増分補正の制御フローを示す図である。図9は、LC圧の時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【0034】
図8のステップS10において、減速中のLC圧がゼロであるか否かを判定する。ここで、LC圧としては目標LC圧を用いるが、油圧センサ5b(図1)によって検出される実際のLC圧を用いてもよい。この判定がYesの場合、ステップS11において、補正係数α1が選択される。補正係数α1は、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に対する減速中のLC圧がゼロの場合における補正係数である。ステップS10の判定がNoの場合、ステップS12において、補正係数α2が選択される。補正係数α2は、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に対する減速中のLC圧がゼロよりも大きい(LC圧>0)場合における補正係数である。ここで、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)とは、目標LC圧に対応して予め設定されているTH開度(または要求TRQ)である。
【0035】
次のステップS13において、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に選択した補正係数α1またはα2を乗算して、TH開度(または要求TRQ)の増分補正量を算出する。補正係数α1またはα2による増分補正量の相違について図9を参照して説明する。
【0036】
図9の(a)において、減速中の目標LC圧がゼロの場合(LC=0)とゼロより大きい場合(LC>0)が例示されている。加速時には、LC=0およびLC>0のいずれの場合も、線53で示される目標LC圧の時間的な変化を示す。すなわち、線53は実際にはLC=0およびLC>0の2つの場合を含んでいる。線54は減速中の目標LC圧がゼロにおける実際のLC圧の時間的な変化を示し、線55は減速中の目標LC圧がゼロよりも大きい場合における実際のLC圧の時間的な変化を示す。図から明らかなように、減速中の目標LC圧がゼロよりも大きい場合の方が、減速中の目標LC圧がゼロの場合よりも加速時において実際のLC圧が早く目標LC圧に達する。したがって、急激なトルク上昇を緩和させるために、目標LC圧がゼロよりも大きい場合における補正係数α2を目標LC圧がゼロの場合における補正係数α1よりも小さく設定する(α2<α1)。
【0037】
その結果、図9の(b)の曲線56として例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を緩やかに上昇させることができる。逆に、目標LC圧がゼロの場合は補正係数α2よりも大きな補正係数α1を採用することにより、図9の(b)の曲線57として例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を比較的早めに上昇させることができる。このように、本実施形態によれば、減速中のLC圧に応じてベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分の補正係数を持ち代えることにより、TH開度(または要求TRQ)の緩やかな立ち上がりにより加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。なお、補正係数α1またはα2を持ち替える代わりに、図8のステップS10の判定結果に応じて、図7の補正ゲインを持ち替えるようにしてもよい。
【0038】
次に、図10と図11を参照しながら、車両の減速中のLC圧に応じて、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう場合の他の実施例について説明する。この実施例は、減速中のLC圧の大きさに応じて補正係数(ゲイン)を持ち替える例である。図10は、LC圧の時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。図11は、現在のLC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。ここで、補正ゲインは、図2のフィルタリング処理33において利用されるフィルタリングゲインに相当する。
【0039】
図10の(a)において、減速中の目標LC圧の大きさが、小(例えばゼロ)、中、および大(フルタイト)の3段階が例示されている。なお、LC圧の大きさの段階は3段階に限られず、2段階あるいは4段階以上に分けてもよい。加速時には、減速中の目標LC圧の3段階(小、中、大)のいずれの場合も、線58で示される目標LC圧の時間的な変化を示す。すなわち、線58は実際にはこの3段階の場合を含んでいる。線59、60、61は、減速中のLC圧の大きさが、大(フルタイト)、中、小(例えばゼロ)の各場合における実際のLC圧の時間的な変化を示す。減速中のLC圧と、該減速に続く加速中の目標LC圧との差が小さい程、加速時において実際のLC圧が早く目標LC圧に達する。
【0040】
したがって、急激なトルク上昇を緩和させるために、本実施形態では、図11に例示されるように、現在のLC圧の方向に応じて補正ゲインを段階的に小さくすると同時に、さらに減速中のLC圧の大きさに応じて加速時の補正ゲインを可変(増減)する。図11の横軸は現在のLC圧の方向を示し、LCルーズとLCタイトは、それぞれクラッチのロックアップ状態が緩いかきついかを意味する。線65、66、67は、減速中のLC圧の大きさが、小(例えばゼロ)、中、大(フルタイト)の各場合における補正ゲインの変化を示す。図から明らかなように、減速中のLC圧の大きさが大きく(小さく)なるほど、補正ゲインをより小さく(大きく)する。
【0041】
具体的には、減速中のLC圧が、該減速に続く加速中の目標LC圧より小さい場合は、減速中のLC圧と加速中の目標LCとの差が大きいほど該目標LC圧に基づく補正ゲイン(図7)を大きくするようにする。また、減速中のLC圧が、該減速に続く加速中の目標LC圧より大きい場合は、減速中のLC圧と加速中の目標LC圧との差が大きいほど該目標LC圧に基づく補正ゲイン(図7)を小さくするようにする。
【0042】
その結果、図10の(b)に例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を緩やかに上昇させることができる。図10(b)において、線62、63、64は、減速中のLC圧の大きさが、小(例えばゼロ)、中、大(フルタイト)の各場合におけるTH開度(または要求TRQ)の変化を示す。図から明らかなように、減速中のLC圧の大きさが大きい(小さく)ほど、TH開度(または要求TRQ)の立ち上がりをよりゆっくり(早め)にする。これにより加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。
【0043】
次に、図12と図13を参照しながら、車両の減速中のLC制御モードに応じて、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう場合について説明する。図12は、LC制御モードに応じた増分補正の制御フローを示す図である。図13は、LC制御モードの時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【0044】
図12のステップS20において、減速中のLC制御モードがオフか否かを判定する。この判定がYesの場合、ステップS21において、補正係数α3が選択される。補正係数α3は、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に対する減速中のLC制御モードがオフの場合における補正係数である。ステップS20の判定がNoの場合、すなわち減速中のLC制御モードがオンの場合、ステップS22において、補正係数α4が選択される。補正係数α4は、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に対する減速中のLC制御モードがオンの場合における補正係数である。ここで、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)とは、図8の場合と同様に、目標LC圧に対応して予め設定されているTH開度(または要求TRQ)である。
【0045】
次のステップS23において、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に補正係数α3またはα4を乗算して、TH開度(または要求TRQ)の増分補正量を算出する。補正係数α3またはα4による増分補正量の相違について図13を参照して説明する。
【0046】
図13の(a)は、減速中でのLC制御モードがオフまたはオンの状態から加速時にLC制御モードがオンになる状態を示している。減速中でのLC制御モードがオンの状態から加速時にもその状態を継続する場合、クラッチのロックアップがそのまま維持されるので、急激なトルク上昇が起こりやすい。したがって、その急激なトルク上昇を緩和させるために、減速中のLC制御モードがオンの場合状態における補正係数α4をLC制御モードがオフの場合における補正係数α3よりも小さく設定する(α4<α3)。
【0047】
その結果、図13の(b)の破線LC ONとして例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を緩やかに上昇させることができる。逆に、LC制御モードがオフの場合は補正係数α4よりも大きな補正係数α3を採用することにより、図13の(b)の実線LC OFFとして例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を比較的早めに上昇させることができる。このように、本実施形態によれば、減速中のLC制御モードに応じてベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分の補正係数を持ち代えることにより、TH開度(または要求TRQ)の緩やかな立ち上がりにより加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。なお、補正係数α3またはα4を持ち替える代わりに、図12のステップS20の判定結果に応じて、図7の補正ゲインを持ち替えるようにしてもよい。
【0048】
次に、図14と図15を参照しながら、車両の減速中のLC制御モードに応じて、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう他の実施例について説明する。この実施例はLC制御モードをさらに細かく分けた場合の例である。図14は、LC制御モードの時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。図15は、現在のLC圧と補正ゲインとの関係を示す図である。ここで、補正ゲインは、図2のフィルタリング処理33において利用されるフィルタリングゲインに相当する。
【0049】
図14の(a)において、減速中のLC制御モードとして、オフ(LC OFF)、フィードバック(LC F/B)、オンのフルタイト(LCフルタイト)の3つのモードから加速時にオン(LC ON)モードになる状態を示している。ここで、LC F/BモードはLC圧を所定値(OFFとON(フルタイト)との間)にフィードバック制御するモードである。減速中でのLC制御モードがオン(LC F/Bを含む)の状態から加速時にもそのオン状態を継続する場合、クラッチのロックアップがそのまま維持されるので、急激なトルク上昇が起こりやすい。
【0050】
したがって、その急激なトルク上昇を緩和させるために、本実施形態では、図15に例示されるように、現在のLC圧の方向に応じて補正ゲインを段階的に小さくすると同時に、さらに減速中のLC制御モードに応じて加速時の補正ゲインを可変(増減)する。図15の横軸は現在のLC圧の方向を示し、LCルーズとLCタイトは、それぞれクラッチのロックアップ状態が緩いかきついかを意味する。線72、73、74は、減速中のLC制御モードが、LC OFF、LC F/B、LCフルタイトの各場合における補正ゲインの変化を示す。図から明らかなように、減速中のLC制御モードがLC OFFからLCフルタイトに向かうほど、補正ゲインをより小さくする。
【0051】
その結果、図14の(b)に例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を緩やかに上昇させることができる。図14(b)において、線68、69、70は、減速中のLC制御モードが、LC OFF、LC F/B、LCフルタイトの各場合におけるTH開度(または要求TRQ)の変化を示す。図から明らかなように、LC OFF(68)、LC F/B(69)、LCフルタイト(70)の順で、TH開度(または要求TRQ)の立ち上がりがよりゆっくりになる。これにより加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。
【0052】
次に、図16と図17を参照しながら、車両の減速中のLC圧と加速中のLC圧との差分に応じて、要求TRQまたは目標TH開度の増分補正をおこなう場合について説明する。図16は、減速中のLC圧と加速中のLC圧との差分に応じた増分補正の制御フローを示す図である。図17は、LC圧の差分の時間変化(a)と目標TH開度の時間変化(b)を示す図である。
【0053】
図16のステップS30において、車両が減速中であるか否かを判定する。具体的には、例えばアクセル開度(AP)が所定値以下であるか否かを判定する。この判定がYesの場合、ステップS35減速中のLC圧の監視をおこなった後に本制御が終了される。
【0054】
ステップS30判定がNoの場合、ステップS31において、減速中のLC圧がメモリに一時的に保持される。ステップS32において、保持された減速中のLC圧と加速中の現在のLC圧との差分LC圧を算出する。この差分LC圧は、例えば図17の(a)のΔP1、ΔP2が該当する。図17(a)は基本的に既に説明した図9(a)と同様であり、同じ意味の線には同じ符号をつけてある。すなわち、線53、54、55はそれぞれ目標LC圧、減速中の目標LC圧がゼロにおける実際のLC圧、減速中の目標LC圧がゼロよりも大きい場合における実際のLC圧を示す。差分LC圧ΔP1は、減速中のLC圧ゼロと加速中のLC圧との差分である。同様に、差分LC圧ΔP2は、減速中のLC圧がゼロよりも大きい場合におけるそのLC圧と加速中のLC圧との差分である。なお、LC圧としては目標LC圧を用いるが、油圧センサ5b(図1)によって検出される実際のLC圧を用いてもよい。
【0055】
ステップS33において、算出された差分LC圧に応じて補正係数を算出する。この補正係数は、既に説明したベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に対する補正係数である。ステップS34において、ベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分に算出した補正係数を乗算して、TH開度(または要求TRQ)の増分補正量を算出する。この補正係数に応じた増分補正量の相違について図13を参照して説明する。
【0056】
図17の(a)から明らかなように、小さい差分LC圧ΔP1の場合の方が、大きな差分LC圧ΔP2の場合よりも加速時において実際のLC圧が早く目標LC圧に達する。したがって、急激なトルク上昇を緩和させるために、差分LC圧ΔP1における補正係数αp1を差分LC圧ΔP2における補正係数αp2よりも小さく設定する(αp1<αp2)。
【0057】
その結果、図17の(b)の曲線76として例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を緩やかに上昇させることができる。逆に、大きな差分LC圧ΔP2の場合は補正係数αp1よりも大きな補正係数αp2を採用することにより、図17の(b)の曲線75として例示されるように、加速時におけるTH開度(または要求TRQ)を比較的早めに上昇させることができる。このように、本実施形態によれば、車両の減速中のLC圧と加速中のLC圧との差分に応じてベースとなるTH開度(または要求TRQ)の増分の補正係数を持ち代えることにより、TH開度(または要求TRQ)を緩やかに立ち上がらせて加速時におけるドンギクの発生を抑制あるいは緩和することが可能となる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において改変して用いることができる。例えば、図8等に例示される補正係数をベースTH開度(またはTRQ)値に乗算して補正する代わりに、当該補正をベースTH開度(またはTRQ)値に対する加減算で行っても良い。要は目標LC圧および減速LC圧がタイトなほど、ΔTHまたはΔTRQを小さくできる補正であれば良い。また、エンジン回転数NE、アクセル開度AP、およびギヤ段からブロック33(図2)のフィルタリング処理に用いるベースゲインを算出し、該ベースゲインに、目標LC圧と減速時のLC圧に基づく補正ゲインを乗算または加減算して、ブロック33のフィルタリング処理に用いるゲインを算出するようにしても良い。
【符号の説明】
【0059】
V 車両
W 前輪
1 制御装置
2 ECU
3 エンジン
6 トルクコンバータ
7 ロックアップクラッチ
9 自動変速機
14 スロットル弁
22 アクセル開度センサ
24 スロットル弁開度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータとを有する自動変速機付きの車両に用いられ、アクセル操作に伴う車両の加速時に、アクセル操作に伴う内燃機関の目標出力を、内燃機関の出力変化量が所定速度となるように規制する規制手段を備える内燃機関の制御装置であって、
前記規制手段は、前記加速時における前記ロックアップクラッチの目標作動圧力と、前記加速の直前における前記ロックアップクラッチの作動圧力の実測値もしくは目標値または前記ロックアップクラッチの制御状態とに基づいて、前記所定速度を設定する規制値設定手段を有する、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は吸入空気量を制御するスロットル弁を備え、前記規制手段は当該スロットル弁の目標開度を規制し、前記規制値設定手段は当該目標開度の許容変化量を設定する、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記自動変速機が、前記車両の加速に伴い前記ロックアップクラッチの目標作動圧力を所定値まで上昇させた後に当該目標作動圧力を一時的に低下させた状態において、前記規制値設定手段は、前記目標作動圧力が当該所定値に保持されているものとして前記所定速度を設定する、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記自動変速機が、前記車両の加速に伴い前記ロックアップクラッチの目標作動圧力を所定値まで上昇させた後に当該目標作動圧力を一時的に低下させた状態において、前記規制値設定手段は、前記目標作動圧力が当該所定値に保持されているものとして前記目標開度の許容変化量を設定する、請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項1】
内燃機関と、ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータとを有する自動変速機付きの車両に用いられ、アクセル操作に伴う車両の加速時に、アクセル操作に伴う内燃機関の目標出力を、内燃機関の出力変化量が所定速度となるように規制する規制手段を備える内燃機関の制御装置であって、
前記規制手段は、前記加速時における前記ロックアップクラッチの目標作動圧力と、前記加速の直前における前記ロックアップクラッチの作動圧力の実測値もしくは目標値または前記ロックアップクラッチの制御状態とに基づいて、前記所定速度を設定する規制値設定手段を有する、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は吸入空気量を制御するスロットル弁を備え、前記規制手段は当該スロットル弁の目標開度を規制し、前記規制値設定手段は当該目標開度の許容変化量を設定する、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記自動変速機が、前記車両の加速に伴い前記ロックアップクラッチの目標作動圧力を所定値まで上昇させた後に当該目標作動圧力を一時的に低下させた状態において、前記規制値設定手段は、前記目標作動圧力が当該所定値に保持されているものとして前記所定速度を設定する、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記自動変速機が、前記車両の加速に伴い前記ロックアップクラッチの目標作動圧力を所定値まで上昇させた後に当該目標作動圧力を一時的に低下させた状態において、前記規制値設定手段は、前記目標作動圧力が当該所定値に保持されているものとして前記目標開度の許容変化量を設定する、請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−127248(P2012−127248A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278952(P2010−278952)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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