説明

内燃機関の制御装置

【課題】空燃比のインバランスに対して空燃比F/B制御の学習精度を維持する。
【解決手段】
排気経路に少なくとも一つの空燃比検出手段を備えると共に、該空燃比検出手段により検出された空燃比を複数の気筒における燃料噴射量にフィードバックすることを含む所定の空燃比F/B制御により前記燃料噴射量が決定される内燃機関を制御する内燃機関の制御装置(100)は、前記空燃比F/B制御に係るF/B制御量を学習する学習手段と、前記検出された空燃比に基づいて前記複数の気筒における空燃比のインバランス度を推定する推定手段と、前記推定されたインバランス度が前回値との間に所定以上の偏差を有する場合において、前記学習手段における前記F/B制御量の学習値を初期化する初期化手段と、前記学習値が初期化された後に、前記学習値の更新速度を標準値に対し向上させる更新速度変更手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射量の空燃比F/B制御を好適に行うための内燃機関の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、特許文献1には、バッテリ取り外しにより空燃比F/B制御の学習値が初期化された場合に、学習値を早期に安定させることを目的として学習値の更新速度を増大させる多気筒内燃機関の制御装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、空燃比の学習に関し、可及的迅速に学習値の収束判定を行うために、学習値のリセット(初期化)後に学習値の収束判定を行う空燃比制御装置が開示されている。
【0004】
尚、空燃比学習値の初期化に関しては、特許文献3にも開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、空燃比学習値に限らずエンジン運転制御に供し得る各種の学習に関し、学習値に異常値が認められた場合には当該学習値を初期化すると共に、このような理由から初期化がなされた場合には、通常の学習に対して促進された学習を行うようにした自動車用エンジンの学習制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−174809号公報
【特許文献2】特開2007−321620号公報
【特許文献3】特開2000−257487号公報
【特許文献4】特開昭62−135643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
空燃比センサやOセンサ等を利用した所謂空燃比F/B制御においては、上記従来例の如く、燃料噴射量の補正に供される補正係数の一部等が、適宜更新を伴いつつ学習される。この学習処理において適宜更新される学習値は、上述したようにバッテリの取り外し等不測の事態が生じた場合等を除き、基本的には継続して使用される。或いは、学習値を記憶する記憶手段の構成次第では、この種の不測の事態が生じた場合においても学習値を維持することも出来る。従って、例えば前回トリップ時に最後に更新された学習値は、最新トリップ時においても継続的に使用される(例えば、初期値として使用される)。
【0008】
ところで、各気筒に燃料噴射装置を備えた多気筒内燃機関においては、燃料噴射装置に製造上の或いは経時変化等に起因する固体差がある。従って、ある駆動信号に対する実際の燃料噴射量は、気筒相互間で若干のばらつきを生じることが多い。この燃料噴射量のばらつきは、気筒相互間における空燃比のインバランスを生じさせる要因となる。
【0009】
ここで、空燃比のインバランスの度合いは、一トリップ(例えば、IGオンからIGオフまでの期間)中であれば大きく変化し難いものの、異なるトリップ間では、外的内的を問わず何らかの要因により大きく変化することがある。インバランスの度合いが不連続に変化すると、排気経路における排気の状態も変化し、空燃比F/BにおけるF/B制御量の学習値は、この変化したインバランスの度合いに対応した値へ向けて新たに収束を開始する。
【0010】
一方、空燃比のインバランスの度合いがトリップ間で変化することは、空燃比F/B制御に係る学習処理側から見れば一種の外乱であり、当該学習処理の学習値は異常値ではない。従って、このような空燃比のインバランスについて何ら考慮されない上記従来例においては、このようなインバランスの度合いの大きな変化が生じた場合において、前トリップの学習値が継続的に使用されることになる。
【0011】
ところが、排気の状態が不連続に変化した場合に従前の学習値に基づいた学習処理を行うと、従前の学習値が適切でないことから、空燃比F/B制御のF/B制御量の学習値を迅速に収束させることが出来ない。この際、上記従来例を参酌し、このようなインバランスの度合いの比較的大きな変化が生じた場合について、学習値の更新速度を向上させ学習を促進することも考えられる。然るに、従前の学習値が適切でない場合に学習値の更新速度を向上させてしまうと、例えば真の収束値と異なる収束値へ収束する、或いは、真の収束値への収束がかえって遅くなる等といった事態が生じる。
【0012】
即ち、上記従来例を含む従来の技術には、空燃比のインバランスと空燃比F/B制御におけるF/B制御量の学習処理との関係性が明確に規定されていないことに起因して、空燃比のインバランスの度合いが不連続に大きく変化した場合等において、当該学習処理が好適に行われ難いという技術的問題点がある。
【0013】
本発明は、係る技術的問題点に鑑みてなされたものであり、空燃比のインバランスに対して空燃比F/B制御の学習精度を維持し得る内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するため、本発明に係る内燃機関の制御装置は、複数の気筒と、該複数の気筒からの排気が集約される排気経路に設置された少なくとも一つの空燃比検出手段とを備えると共に、該空燃比検出手段により検出された空燃比を前記複数の気筒における燃料噴射量にフィードバックすることを含む所定の空燃比F/B制御により前記燃料噴射量が決定される内燃機関を制御する装置であって、前記空燃比F/B制御に係るF/B制御量を学習する学習手段と、前記検出された空燃比に基づいて前記複数の気筒における空燃比のインバランス度を推定する推定手段と、前記推定されたインバランス度が前回値との間に所定以上の偏差を有する場合において、前記学習手段における前記F/B制御量の学習値を初期化する初期化手段と、前記学習値が初期化された後に、前記学習値の更新速度を標準値に対し向上させる更新速度変更手段とを具備することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る内燃機関は、各々が例えば吸気ポート等に電子制御インジェクタ等の燃料噴射装置を有する複数の気筒を備えてなる、多気筒内燃機関として構成される。また、この複数の気筒からの排気が集約される排気経路(例えば、各気筒の排気ポートが集約される排気マニホールドやその下流の排気管等)には、当該排気経路の空燃比を検出可能な、空燃比センサやOセンサ等の空燃比検出手段が設置される。排気経路の空燃比とは、厳密には、空燃比検出手段が設置された部位を流れる被検出ガスの空燃比を意味し、当該被検出ガスが上流側(気筒側)から下流側へ向かって停止することなく流れる点に鑑みれば、好適な一形態として、当該被検出ガスの空燃比の時間平均値を意味する。
【0016】
尚、空燃比検出手段が空燃比を検出する際の実践的態様は多義的であり、空燃比検出手段は、その振る舞いが空燃比と一義的な関係を有する値、例えば演算式やマップ等を利用した所定の換算処理を経て空燃比に換算可能な電圧値等を検出する手段であってもよい。また、検出手段の詳細な設置態様には各種あり、検出手段は、例えば、三元触媒等の排気浄化装置の上流側に設置された空燃比センサと、同じく下流側に設置されたOセンサとを含んで構成されていてもよい。
【0017】
本発明に係る内燃機関においては、空燃比F/B制御により燃料噴射量が決定される。空燃比F/B制御は、気筒内の混合気の空燃比がその時点の目標空燃比(例えば、理論空燃比)に維持される又は漸近若しくは収束するように、排気経路の空燃比に基づいて、基本となる燃料噴射量を適宜補正する周知の制御であり、その実践的態様は多義的である。
【0018】
例えば、空燃比検出手段が、排気経路における排気浄化装置の上流側に設置された空燃比センサとして構成される場合、空燃比F/B制御は、検出される空燃比と目標空燃比との偏差に応じてF/B制御量(例えば、基本噴射量に乗じるべき補正係数等)を演算すると共に、このF/B制御量に基づいて基本噴射量を補正する制御であってもよい。
【0019】
或いは、空燃比検出手段が排気経路に設置される排気浄化装置を挟んで設置された複数のセンサから構成される場合、空燃比F/B制御は、排気浄化装置の下流側に設置されたセンサ(下流側センサ)を利用したサブF/B制御と、排気浄化装置の上流側に設置されたセンサ(上流側センサ)を利用したメインF/B制御とから構築されていてもよい。より具体的には、サブF/B制御は、下流側センサにより検出される空燃比(下流側空燃比)と目標空燃比との偏差に応じて下流側空燃比を目標空燃比に維持する又は漸近若しくは収束させるためのサブF/B制御量を演算すると共に、このサブF/B制御量に基づいて、上流側センサにより検出される空燃比(上流側空燃比)を補正する制御として構築されていてもよい。また、この場合、メインF/B制御は、この補正された上流側空燃比と目標空燃比との偏差に応じて、上流側空燃比を目標空燃比に維持する又は漸近若しくは収束させるためのメインF/B制御量(例えば、基本噴射量に乗じるべき補正係数等)を決定し、基本噴射量を補正する制御として構築されていてもよい。
【0020】
尚、本願における空燃比F/B制御は、例えば、F/B制御量が比例項(P項)及び積分項(I項)を含む所謂PI制御であってもよいし、F/B制御量が比例項及び積分項に更に微分項(D項)を加えて構築される所謂PID制御であってもよい。また、空燃比F/B制御は、全気筒一律になされるものであっても、各気筒個別になされるものであってもよい。
【0021】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、このような内燃機関を制御する装置であって、好適にはCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサから構成される、ECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)等の各種コンピュータ装置/システムとして構成される。尚、このコンピュータ装置/システムには適宜ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の各種記憶手段が付帯されていてもよい。
【0022】
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、学習手段によりこの空燃比F/B制御に係るF/B制御量(上述のように空燃比F/B制御の実践的態様に応じて多様である)が学習される。
【0023】
学習とは、概念的には、過去の状態を現在の制御に幾らかなり反映させることを意味し、その概念の範囲内において実践的態様は多義的である。但し、学習とは、望ましくは、過去の状態を反映させることにより現在の制御(即ち、最新時刻での制御)に係る制御量の精度向上、算出時間短縮或いは算出負荷軽減等の利益を得んとするものである。係る観点からすれば、学習により適宜更新される学習値とは、好適な一形態として、F/B制御量のうち定常成分に相当する値であってもよい。例えば、空燃比F/B制御が、上述したPI制御やPID制御の形態を採る場合、定常成分とは、この積分項に対応する値であってもよい。
【0024】
一方、本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、検出された空燃比に基づいて、推定手段により複数の気筒における空燃比のインバランス度が推定される。
【0025】
本発明における「空燃比のインバランス度」とは、複数の気筒相互間の空燃比のインバランスの度合いを意味する定量的な指標であり、その実践的態様は、係る概念の範囲において多義的である。また、空燃比のインバランス度は、実践上の定義に応じて、内燃機関に対し一つ定められる値であってもよいし、各気筒について定められる値であってもよい。
【0026】
本発明に係る「空燃比のインバランス度」は、例えば下記(1)〜(3)に定義されるものを含み得る。尚、下記の「相当する値」とは、対象値と一義的な関係を有し得る制御量、物理量又は指標値を包括する概念である。例えば、空燃比に相当する値とは、検出電圧値であってもよいし、空燃比が燃料噴射量の補正に供される点に鑑みれば、燃料噴射量であってもよい。
(1)全気筒の空燃比の平均値に対する各気筒の空燃比の割合に相当する値
(2)特定の気筒の空燃比の、残余の気筒の空燃比に対する割合に相当する値
(3)気筒相互間の空燃比の乖離量(ばらつき)の最大値に相当する値
尚、空燃比検出手段は、空燃比F/B制御の運用面においては、好適には、排気経路の空燃比を気筒各々に対応付けて把握しない(上述したように、好適には時間平均値である)。然るに、ある空燃比の混合気が、燃焼行程を経てある気筒から排出されるにあたって、どの程度の時間遅延(クランク角遅延又はサイクル数遅延であってもよい)を経て空燃比検出手段の設置空間に到達するかは、例えば予め実験的に、経験的に又は理論的に求めておくことができる。従って、推定手段は、検出された空燃比を各気筒に対応付けて把握することが可能であり、必然的に各気筒の空燃比(厳密には、各気筒の空燃比と一義的に扱い得る空燃比)を把握することが可能である。或いは、推定手段は、予め実験的に、経験的に又は理論的に策定された算出モデルに従って、検出された排気経路の空燃比から各気筒の空燃比を算出し推定してもよい。
【0027】
ところで、従来の空燃比F/B制御のF/B制御量の学習処理は、空燃比のインバランスを考慮したものとなっていない。従って、前回トリップと最新トリップとで気筒間の空燃比のインバランスが大きく異なっていても、前回トリップにおけるF/B制御量の学習値は有効である。これは、学習処理に何らの落ち度もないこと、即ち、前回トリップの学習値が正常値であることからすれば至極当然である。
【0028】
ところが、実践的運用面においては、空燃比のインバランスに大きな変化が生じると、排気経路を流れる排気の状態が大きく変化するから、空燃比F/B制御におけるF/B制御量の学習処理において収束すべき学習値も大きく変化する。新たに収束すべき学習値(真の学習値)が大きく変化してしまうと、従前の学習値が今回の学習に適した値ではなくなり、例え学習速度を向上させて学習を促進させたとしても、学習値を迅速に真の学習値に収束させることが難しくなる。
【0029】
より具体的には、単に学習を促進すると、前回までの学習履歴が反映される分、真の学習値への収束がかえって遅れることがある。また、前回の学習値と真の学習値との差が結果的にそれ程大きくない場合には、真の学習値へのアプローチが、学習が促進されている分かえって阻害され、学習値が真の学習値と異なる値に収束する可能性がある。これは、空燃比F/B制御による燃料噴射量の決定が、気筒全体で一律になされるとしても、気筒各々についてなされるとしても変わることはない。
【0030】
そこで、本発明に係る内燃機関の制御装置では、推定されるインバランス度が前回値との間に所定の偏差を有する場合において、初期化手段によりF/B制御量の学習値が初期化される。また、学習値の初期化がなされた後に、更新速度変更手段により学習値の更新速度(学習速度)が標準値よりも高い側、即ち増速側へ更新され、F/B制御量の学習が促進される。
【0031】
推定手段により推定される空燃比のインバランス度は、前回と今回とで空燃比のインバランスがどの程度変化したかを把握する指標として有効であり、前回値と最新の推定値(今回値)との偏差は、前回の学習値が今回のF/B制御量の学習処理に対し適切な値であるか否か(例えば、初期値として適当であるか否か)を判断する指標となる。この偏差が大き過ぎる場合には、前回の学習条件が今回と大きく異なっていることから、前回までの学習値を破棄すべき旨の判断を合理的に行うことが出来る。一方で、学習値が初期化(初期値はゼロであっても、予め設計的に与えられてもよい)された後に学習値の更新速度を向上させることができれば、学習促進に係る効果を確実に得ることが出来る。
【0032】
このように、本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、空燃比のインバランス度が大きく異なる場合に、前回までの学習処理により得られた学習値が最新の学習処理の適切な進行を妨げ得る点に想到し、前回までの学習処理により得られた学習値を正常値であっても初期化し、初期化後に学習値の更新速度を向上させる旨の技術思想により、このような場合に生じ得る、学習値の収束遅れや収束精度の低下を未然に防ぐことが可能となる。即ち、空燃比のインバランスを考慮した空燃比F/B制御のF/B制御量の好適な学習が可能となるのである。
【0033】
本発明に係る内燃機関の制御装置の一の態様では、前記内燃機関は、前記排気経路に排気を浄化可能な排気浄化装置を備え、前記空燃比検出手段は、前記排気経路における前記排気浄化装置の上下流側に夫々少なくとも一つ設置される。
【0034】
この態様によれば、排気浄化装置の上下流に夫々少なくとも一つの空燃比検出手段を備える構成を採ることから、上述したサブF/B制御とメインF/B制御とを組み合わせた精度の高い空燃比F/B制御が可能となる。
【0035】
ここで特に、空燃比F/B制御がこのような複数のF/B系統を有する場合、各F/B系統において学習処理がなされ得る。従って、空燃比のインバランスが空燃比F/B制御に与える影響もまた、このような複数のF/B系統を有する場合においては相対的に大きくなり易い。係る点に鑑みれば、本発明に係る内燃機関の制御装置は、この種の内燃機関の制御に用いられた場合には顕著にその効果を発揮する。
【0036】
本発明に係る内燃機関の制御装置の他の態様では、前記学習値が収束したか否かを判定する判定手段を更に具備し、前記更新速度変更手段は、前記判定手段により前記学習値が収束したと判定された場合に前記更新速度を前記標準値に戻す。
【0037】
この態様によれば、判定手段により、初期化後の学習値が収束したか否かが判定され、所定値/範囲に収束した旨が判定された場合に、学習処理における学習値の更新速度が標準値に戻される。従って、真の収束値近傍で更新速度が高過ぎることによる収束精度の低下が防止され、高精度な学習が可能となる。
【0038】
尚、係る点に鑑みれば、判定手段により判定される「収束」とは、その時点のインバランス度に応じて収束すべき真の収束値を基準とした比較的狭範囲への収束を意味せずともよく、標準速度での学習の方がより好適であると判断され得る、真の収束値を基準とした比較的広範囲への収束を意味してもよい。このような更新速度の切り替えの判断基準となる収束状態は、予め実験的に、経験的に又は理論的に定めておくことができる。例えば、判定手段は、学習処理が進行する過程における、F/B制御量の反転回数(増加又は減少傾向が減少又は増加傾向に切り替わった回数)や空燃比の反転回数(空燃比が目標空燃比に対しリッチ側又はリーン側からリーン側又はリッチ側に切り替わった回数)が判断基準値を超えた場合に学習値が収束した旨の判定を下してもよい。より単純には、判定手段は、初期化後の学習時間が基準値を超えた場合に学習値が収束した旨の判定を下してもよい。
【0039】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のエンジンシステムにおけるエンジンの具体的構成を例示する概略断面図である。
【図3】図1のエンジンシステムにおいてECUにより実行される学習補償制御のフローチャートである。
【図4】図3の学習精度補償制御の一実行過程における各種制御値の一時間推移を例示するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0042】
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の一実施形態に係るエンジンシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0043】
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載され、ECU100及びエンジン200を備える。
【0044】
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備え、エンジンシステム10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「内燃機関の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する学習補償制御を実行可能に構成されている。
【0045】
尚、ECU100は、本発明に係る「学習手段」、「推定手段」、「初期化手段」、「更新速度変更手段」及び「判定手段」の夫々一例として機能し得る一体の電子制御ユニットであるが、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、これら各手段は、例えば複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0046】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たる多気筒ガソリンエンジンである。ここで、図2を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、エンジン200の具体的構成を例示する概略断面図である。
【0047】
図2において、エンジン200は、シリンダブロック201Aに収容される気筒201B内において、燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して燃料たるガソリンと空気との混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼に伴う爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換可能に構成された機関である。
【0048】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたエンジン200のクランク角は、一定又は不定の周期でECU100に参照され、例えば、機関回転速度NEの算出や、各種の制御に供される構成となっている。
【0049】
尚、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201B(即ち、本発明に係る「複数の気筒」の一例)が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201Bの構成は相互に等しいため、図2においては一の気筒201Bについてのみ説明を行うこととする。また、このような構成は、本発明に係る「内燃機関」が採り得る一例に過ぎない。
【0050】
エンジン200において、外部から吸入された空気は、図示せぬクリーナにより浄化された後、吸気管207に導かれる。吸気管207には、この吸入空気に係る吸入空気量を調節可能なスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続された、不図示のスロットルバルブモータによってその駆動状態が制御される構成となっている。
【0051】
尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルポジションセンサにより検出されるアクセル開度Taに応じたスロットル開度Thrが得られるようにスロットルバルブモータを駆動制御するが、スロットルバルブモータの動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することもまた可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0052】
スロットルバルブ208により適宜調量された吸入空気は、気筒201Bの各々に対応する吸気ポート209において、吸気ポートインジェクタ211から噴射された燃料と混合されて前述の混合気となる。燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬ低圧フィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介して吸気ポートインジェクタ211に圧送供給されている。
【0053】
尚、吸気ポートインジェクタ211は、図示せぬ燃料噴射弁を有しており、この燃料噴射弁の開弁期間に相当する燃料噴射期間TAUに応じた量の燃料を吸気ポートに噴射可能に構成される。この燃料噴射弁を駆動する不図示の且つ公知の駆動装置は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によりその動作が制御される構成となっている。
【0054】
気筒201Bの内部と吸気ポート209とは、吸気バルブ210の開閉によってその連通状態が制御される。即ち、上述した混合気は、吸気バルブ210の開弁期間(IVO)において、気筒201Bの内部に吸入される。気筒201Bの内部で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ210の開閉に連動して開閉する排気バルブ212の開弁時に排気ポート213を介して排気管214に導かれる。排気管214は、本発明に係る「排気経路」の一例である。
【0055】
排気管214には、本発明に係る「排気浄化装置」の一例たる公知の三元触媒215が設置される。三元触媒215は、触媒担体が白金等の貴金属を担持する構成となっており、未燃成分であるTHC(Total Hydro Carbon)及び一酸化炭素COの酸化燃焼反応と、窒素酸化物NOxの還元反応とを略同時に生じさせることによって排気を浄化可能に構成される。
【0056】
排気管214における三元触媒215の上流側には、触媒流入ガスの空燃比である上流側空燃比A/Finを検出するための上流側空燃比センサ216が設置されている。上流側空燃比センサ216は、例えば、拡散抵抗層を備えた限界電流式広域空燃比センサである。尚、触媒流入ガスとは、各気筒に対応する排気ポート213に排出され、更に不図示の排気マニホールドに集約された後、排気管214に導かれた排気を意味する。
【0057】
上流側空燃比センサ216は、上流側空燃比A/Finに応じた出力電圧Vafinを出力するセンサである(即ち、空燃比と一義的な関係を有する電圧値により間接的に空燃比を検出する構成である)。この出力電圧Vafinは、上流側空燃比A/Finが理論空燃比である時に出力値Vstに一致し、上流側空燃比A/Finが理論空燃比よりもリッチ側である(低い)場合に出力値Vstより低くなり、上流側空燃比A/Finが理論空燃比よりもリーン側である(高い)場合に出力値Vstより高くなる。即ち、出力電圧Vafinは、上流側空燃比A/Finの変化に対して連続的に変化する。上流側空燃比センサ216は、ECU100と電気的に接続されており、検出された出力電圧Vafinは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0058】
一方、排気管214における三元触媒215の下流側には、触媒排出ガスの空燃比である下流側空燃比A/Foutを検出するための下流側空燃比センサ217が設置されている。下流側空燃比センサ217は、例えば、周知の起電力式酸素濃度センサ(安定化ジルコニアを用いた濃淡電池型の酸素濃度センサ)である。尚、触媒排出ガスとは、三元触媒215を通過した直後の排気を意味する。また、触媒排出ガスとは、望ましくは、三元触媒215の下流側に設置された下流側触媒(通常、三元触媒であるが、貴金属の担持割合が三元触媒215と異ならしめられる場合が多い)に流入するガスである。
【0059】
下流側空燃比センサ217は、下流空燃比A/Foutに応じた出力電圧Voxsを出力するセンサである(即ち、空燃比と一義的な関係を有する電圧値により間接的に空燃比を検出する構成である)。この出力電圧Voxsは、下流側空燃比A/Foutが理論空燃比である時に出力値Vim(例えば、約0.5V程度)となり、下流側空燃比A/Foutが理論空燃比よりもリッチ側にある(低い)時に最大値Vmax(例えば、約0.9V程度)に変化する。また、下流側空燃比A/Foutが理論空燃比よりもリーン側にある(高い)時に最小値Vmin(例えば、約0.1V程度)に変化する。出力電圧Voxsの下流側空燃比A/Foutに対する変化は、上流側空燃比センサ216と異なり不連続であり、下流側空燃比A/Foutがリッチ側(リーン側)からリーン側(リッチ側)へ変化した場合、出力電圧Voxsは、最大値Vmax(最小値Vmin)から最小値Vmin(最大値Vmax)へ急激に変化する。
【0060】
尚、下流側空燃比センサ217は、ECU100と電気的に接続されており、検出された出力電圧Voxsは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0061】
シリンダブロック201Aを取り囲むように設置されたウォータジャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温Twを検出するための冷却水温センサ218が配設されている。冷却水温センサ218は、ECU100と電気的に接続されており、検出された冷却水温Twは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0062】
<実施形態の動作>
<空燃比F/B制御の概要>
エンジン200において、吸気ポートインジェクタ211の燃料噴射量Qは、ECU100によりエンジン200の稼動期間について常時実行される、空燃比F/B制御により制御されている。空燃比F/B制御は、上流側空燃比センサ216の出力電圧Vafin及び下流側空燃比センサ217の出力電圧Voxsを、燃料噴射量Qの補正にフィードバックする制御である。
【0063】
空燃比F/B制御は、(1)上流側空燃比センサ216の出力電圧Vafinに基づいて得られる上流側空燃比A/Fin(より具体的には後述するF/B制御用空燃比A/Finc)を上流側目標空燃比A/Fintgに一致させるためのメインF/B制御と、(2)下流側空燃比センサ217の出力電圧Voxsを目標値Voxstgに一致させるためのサブF/B制御とを含む。
【0064】
より具体的には、ECU100は、上流側空燃比センサ216の出力電圧Vafinを、下流側空燃比センサ217の出力電圧Voxsとその目標値Voxstgとの偏差Dvoxsが小さくなるように算出されたサブF/B制御量Vfbs及びその学習値たるサブF/B学習値Vfbslにより補正し、F/B制御用空燃比A/Fincを算出する。以上がサブF/B制御に属する。更に、ECU100は、この算出されたF/B制御用空燃比A/Fincが上流側目標空燃比A/Fintgに一致するように、機関の運転条件に応じて定まる燃料噴射量Qの基本値である基本燃料噴射量Qbの補正に供すべき補正係数としてのメインF/B制御量FAFを決定し、基本燃料噴射量Qbを補正することによって燃料噴射量Qを制御する。以上がメインF/B制御に属する。
【0065】
<空燃比F/B制御の詳細>
以下に、空燃比F/B制御の詳細について説明する。
【0066】
始めに、ECU100は、下記(1)式に従って、F/B制御用出力電圧Vafincを算出する。既に述べたように、式中において、Vafinは上流側空燃比センサ216の出力電圧、VfbsはサブF/B制御量、VfbslはサブF/B学習値を意味する。
【0067】
Vafinc=Vafin+Vfbs+Vfbsl…(1)
F/B制御用出力電圧Vafincが求まると、ECU100は、予めROMに記憶された換算用マップを参照し、F/B制御用出力電圧VafincをF/B制御用空燃比A/Fincに変換する。
【0068】
一方、ECU100は、気筒201Bの内部に吸入される筒内吸入空気量Mcを求める。筒内吸入空気量Mcは、各気筒の吸気行程毎に、図1において不図示のエアフローメータにより検出される吸入空気量Ga及び機関回転速度NEに基づいて算出される。尚、筒内吸入空気量Mcの算出方法については公知の各種方法を適用可能である。
【0069】
ECU100は、筒内吸入空気量Mcを求めると、この筒内吸入空気量Mcをその時点の上流側目標空燃比A/Fintg(本実施形態では、基本的に理論空燃比であるとする)で除すことによって、基本燃料噴射量Qbを求める。
【0070】
基本燃料噴射量Qbが求まると、ECU100は、下記(2)式により、吸気ポートインジェクタ211の燃料噴射弁から噴射すべき最終的な燃料噴射量Qを求める。
【0071】
Q=Qb・KG・FAF…(2)
ここで、式中KGはメインF/B学習値(メインF/B制御量FAFに関する学習値)であり、FAFは、メインF/B制御により適宜更新されるメインF/B制御量である。メインF/B制御量FAFは、本発明に係る「F/B制御量」の一例であり、メインF/B学習値KGは、本発明に係る「学習値」の一例である。
【0072】
メインF/B制御量FAFは、メインF/B値DFに基づいて算出される。メインF/B値DFは、次のようにして求められる。
【0073】
ECU100は、現時点よりもNサイクル(即ち、本実施形態ではN・720°CA)前の時点における筒内吸入空気量Mcnを、上記F/B制御用空燃比A/Fincで除すことにより、現時点よりNサイクル前の時点において気筒201Bの燃焼室に供給された燃料量である筒内燃料供給量Qcnを求める。
【0074】
尚、「Nサイクル前」の値を利用するのは、燃焼室内で燃焼処理に供された混合気が上流側空燃比センサ216に到達するまでにNサイクルに相当する時間を要するためである。即ち、サイクル数Nは、予め実験的に、経験的に又は理論的に求められている。但し、上流側空燃比センサ216が晒される触媒流入前ガスは、各気筒から排出された排気がある程度混合されたガスである。
【0075】
次に、ECU100は、Nサイクル前の筒内吸入空気量Mcnを同じくNサイクル前の上流側目標空燃比A/Fintg(尚、本実施形態では、説明の簡略化のために上流側目標空燃比A/Fintgは理論空燃比で一定である)で除すことにより、Nサイクル前の目標筒内燃料供給量Qcntgを求める。
【0076】
ECU100は、このNサイクル前の目標筒内燃料供給量Qcntgから、先に求められたNサイクル前の筒内燃料供給量Qcnを減じた値を、筒内燃料供給量偏差DFcとする。この筒内燃料供給量偏差DFcは、Nサイクル前の時点で筒内に供給された燃料の過不足分を表す。筒内燃料供給量偏差DFcが求まると、下記(3)式に従って、メインF/B値DFが求められる。
【0077】
DF=(Gp・DFc+Gi・SDFc)・KFB…(3)
ここで、式中のGpは比例ゲイン、Giは積分ゲインである。また式中の係数KFBは設計値であり、ここでは「1」に設定される。但し、係数KFBは、機関回転速度NE及び筒内吸入空気量Mc等に応じて可変であってもよい。また式中のSDFcは、筒内燃料供給量偏差DFcの積分値である。即ち、メインF/B値DFは、公知のフィードバック制御の一種であるPI制御により求められる構成となっている。
【0078】
メインF/B値DFが求められると、ECU100は、下記(4)式によりメインF/B制御量FAFを求める。
【0079】
FAF=(Qbn+DF)/Qbn…(4)
上記(4)式におけるQbnは、Nサイクル前の基本燃料噴射量である。即ち、メインF/B制御量FAFは、Nサイクル前の基本燃料噴射量QbnとメインF/B値DFとの和をNサイクル前の基本燃料噴射量Qbにより除した値である。
【0080】
このようにして求められたメインF/B制御量FAFは、所定の更新タイミング毎に基本燃料噴射量Qbに乗じられ、最終的な燃料噴射量Qが算出される。以上が、空燃比F/B制御におけるメインF/B制御である。尚、メインF/B学習値KGについては後述する。
【0081】
次に、上記(1)式において使用されるサブF/B制御量Vfbs(本発明に係る「F/B制御量」の他の一例である)の算出方法について説明する。ECU100は、所定の更新タイミング毎に、下流側空燃比センサ217の出力電圧Voxsの目標値Voxstgから当該出力電圧Voxsを減じることにより、出力電圧偏差Dvoxsを算出する。尚、出力電圧Voxsの目標値Voxstgは、三元触媒215での排気浄化効率が良好となるように適宜定められ得るが、本実施形態では、説明の煩雑化を防ぐ目的から、先述した理論空燃比に相当する出力値Vimに設定されているものとする。
【0082】
ECU100は、出力電圧偏差Dvoxsが求まると、ECU100は、下記(5)式に従って、サブF/B制御量Vfbsを算出する。尚、式中Kp、Ki及びKdは夫々比例ゲイン、積分ゲイン及び微分ゲインである。またSDvoxs及びDDvoxsは、夫々偏差Dvoxsの時間積分値及び時間微分値である。
【0083】
Vfbs=Kp・Dvoxs+Ki・SDvoxs+Kd・DDvoxs…(5)
このように、ECU100は、所定の更新タイミング毎に、下流側空燃比センサ217の出力電圧Voxsを目標値に一致させるため、公知のフィードバック制御の一種であるPID制御を実行する。
【0084】
ここで、上記(1)式において使用される、サブF/B制御量Vfbsの学習値Vfbsl(本発明に係る「学習値」の他の一例である)の算出方法について説明する。ECU100は、下流側空燃比センサ217の出力電圧Voxsが目標値である出力値Vimを横切る毎に、下記(6)式に従ってサブF/B制御量Vfbsの学習値Vfbslを更新する。尚、式左辺の(i)は、最新時刻の学習値であることを意味し、右辺の(i-1)は、1サンプリング時刻前の学習値であることを意味する。
【0085】
Vfbsl(i)=(1-p)・Vfbsl(i−1)+p・Ki・SDvoxs…(6)
このように、サブF/B制御量の学習値Vfbslは、サブF/B制御量Vfbsの積分項Ki・SDvoxsにノイズ除去のためのフィルタ処理を施した値であり、更新タイミング毎に、サブF/B制御量Vfbsの定常成分に応じた量となるように更新される。
【0086】
尚、上記(6)式において、値pは0以上1未満の任意の値である。また、上記(6)式から明らかなように、値pが大きい程、積分項が学習値Vfbslに大きく反映される。即ち、値pを大きくする程、学習値Vfbslの更新速度たる学習値更新速度Vupdtを大きくすることが出来る。尚、上記(6)式に従った学習値の更新処理は、F/B制御量の学習処理の一例である。
【0087】
以上説明したように、空燃比F/B制御においては、サブF/B制御量Vfbsと学習値Vfbslとの和だけ上流側空燃比センサ216の出力電圧Vafinが補正され、その補正により得られたF/B制御用出力電圧Vafincに基づいてF/B制御用空燃比A/Fincが求められる。そして、この求められたF/B制御用空燃比A/Fincが上流側目標空燃比A/Fintgに一致するように基本燃料噴射量Qbが補正される。その結果、上流側空燃比A/Finは、その目標値A/Fintgに漸近し、同時に、下流側空燃比センサ217の出力電圧Voxsは、その目標値である出力値Vim(理論空燃比に相当する値)に漸近する。
【0088】
ここで、メインF/B学習値KGの更新処理について説明する。メインF/B学習値KGは、メインF/B制御量FAFを基本値「1」に近付けるように更新される。
【0089】
より具体的には、ECU100は、メインF/B制御量FAFが算出されるタイミングで、下記(7)式に従って、メインF/B制御量FAFの加重平均値FAFAVを求める。尚、式中qは、0より大きく且つ1未満の設計値である。また、上述したように、(i)は現在値を、(i−1)は前回値を表わす。
【0090】
FAFAV(i)=q・FAF+(1−q)・FAFAV(i−1)…(7)
ECU100は、この加重平均値FAFAVが、1+α(尚、αは0以上1未満の設計値である)以上である場合に、メインF/B学習値KGを予め設定された補正量Xだけ増加させ、反対に、加重平均値FAFAVが1+α以下である場合に、メインF/B学習値KGを補正量Xだけ減少させる。また、これらに挟まれた範囲にある場合には、メインF/B学習値を更新しない。
【0091】
このように空燃比F/B制御が進行する過程においてメインF/B学習値KGが適宜更新されると、加重平均値FAFAVは、徐々に「1−α」と「1+α」との間に収束する。ここで、更新タイミングにおいて加重平均値FAFAVがこの範囲にあった回数(更新されなかった回数)は、ECU100が別途カウンタによりカウントされており、カウント値が所定回数を超えると、ECU100は、メインF/B学習値KGが収束したと判定する。即ち、学習が完了したと判定される。
【0092】
<学習精度補償制御の詳細>
次に、ECU100により実行される学習精度補償制御の詳細について、図3を参照して説明する。ここに、図3は、学習精度補償制御のフローチャートである。
【0093】
図3において、ECU100は、気筒201B相互間の空燃比のインバランス率Ribを計算する(ステップS101)。
【0094】
空燃比のインバランス率Ribとは、各気筒201Bにおける混合気の空燃比のばらつきの度合いを意味し、本発明に係る「インバランス度」の一例である。より具体的には、本実施形態に係るインバランス率Ribは、各気筒201Bについて上流側空燃比センサ216の出力電圧Vafinに基づいて算出される上流側空燃比A/Finの最大値と最小値との比である。尚、これは本発明に係るインバランス度の一例に過ぎず、気筒間の空燃比のばらつきの度合いを表し得る限りにおいて、インバランス度の実践的態様は限定されない趣旨である。
【0095】
各気筒201Bに対応する吸気ポートインジェクタ211は、その個体差や経時変化等により、駆動信号に対する燃料噴射量Qが必ずしも一律でない。このようなばらつきは、基本的には、問題にならない程度で済む場合が多いが、ある特定の気筒に対応する吸気ポートインジェクタ211に何らかの変化が生じると、この特定の気筒における燃料噴射量Qが他の気筒の燃料噴射量と大きく乖離することがある。インバランス率Ribは、このような燃料噴射装置に生じた変化を検出する指標として有効である。
【0096】
ECU100は、インバランス率Ribを所定のタイミング毎に算出し絶えず更新している。このようなインバランス率Ribの更新もまた、一種の学習処理として行われる。ECU100は、インバランス率Ribの最新の学習値を常にRAMに保持している。
【0097】
インバランス率Ribを計算する(より具体的には、学習処理により更新する)と、ECU100は、下記(8)式に従って、インバランス率偏差ΔRibを算出する。
【0098】
ΔRib=|Rib−Ribpast|…(8)
ここで、Ribpastは、前回トリップ時におけるインバランス率Ribの最終的な学習値である。インバランス率偏差ΔRibは、前回トリップ時と今回(最新トリップ時)とでインバランス率Ribがどの程度異なるか(即ち、排気管における排気の状態がどの程度異なるか)を示す指標となる。
【0099】
ECU100は、偏差Ribを算出すると、この偏差Ribが所定値より大きいか否かを判定する(ステップS102)。偏差Ribが所定値以下である場合(ステップS102:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻す。尚、この所定値は設計値である。
【0100】
偏差Ribが所定値よりも大きい場合(ステップS102:YES)、ECU100は、初期化フラグFgrstに「1」をセットし、また学習促進フラグFgprmに「1」をセットする(ステップS103)。
【0101】
尚、初期化フラグFgrstは、値として「0」又は「1」を採り、「1」が空燃比F/B制御に係る学習値(即ち、メインF/B学習値KG及びサブF/B学習値Vfbsl)を初期化すべき旨に相当する制御用フラグである。また、学習促進フラグFgprmは、値として「0」又は「1」を採り、「1」が空燃比F/B制御に係る学習値の更新速度を向上させるべき旨に相当する制御用フラグである。即ち、本実施形態においては、前回トリップ時と今回との間にインバランス率Ribが所定値より大きい偏差を有する場合において、空燃比F/B制御に係る学習値の初期化(即ち、破棄)及び学習の促進が促される。
【0102】
ECU100は、学習値を初期化し(ステップS104)、初期化フラグFgrstを「0」に戻す(ステップS105)。続いて、学習値更新速度Vupdtを標準値Vupdt1よりも大きいVupdt2に設定し、空燃比F/B制御の学習を促進する(ステップS106)。
【0103】
学習値更新速度VupdtがVupdt2に設定されると、ECU100は、この設定された学習値更新速度Vupdt2で各学習値の学習を開始する(ステップS107)。尚、本実施形態において、学習値更新速度Vupdtの向上とは、上記(6)式の値pを大きくすることに対応する。但し、学習値の更新速度向上に係る実践的措置は、このような係数の変更に限定されない。例えば、算出周期を早める、或いは、複数サンプル置きに学習する等の態様も更新速度の向上に類するものである。
【0104】
ECU100は、学習値が収束したか否かを判定する(ステップS108)。本実施形態における学習値の収束判定は、上述したように、メインF/B制御量FAFの加重平均値FAFAVが所定範囲内にあった回数に基づいてなされる。学習値が収束していない場合(ステップS108:NO)、学習は継続される。
【0105】
一方、学習値が収束した場合(ステップS108:YES)、ECU100は、学習促進フラグFgprmを「0」にセットし(ステップS109)、学習値更新速度Vupdtを標準値であるVupdt1(Vupdt1<Vupdt2)に復帰させる(ステップS110)。学習値更新速度Vupdtが標準値に復帰せしめられると、学習精度補償制御は終了する。
【0106】
次に、図4を参照し、学習精度補償制御を視覚的に説明する。ここに、図4は、学習精度補償制御における各制御値の一時間推移を例示するタイミングチャートである。
【0107】
図4において、上段から順に、インバランス率Rib、初期化フラグFgrst、学習促進フラグFgprm、学習値更新速度Vupdt及びメインF/B学習値KGの各時間推移が例示される。
【0108】
時刻T1において、何らかの理由によりインバランス率Ribが前回トリップ時の値Ribpastから乖離し始め、時刻T2において偏差ΔRibが所定値を超えたとする。
【0109】
この場合、時刻T2において初期化フラグFgrst及び学習促進フラグFgprmが夫々「1」にセットされ、メインF/B学習値KG(図示しないが、サブF/B制御量Vfbsの学習値Vfbslも同様である)が初期化される。
【0110】
学習値初期化後(時刻T2以降)の時間領域においては、学習値更新速度VupdtがVupdt1からVupdt2へと切り替えられ、促進された学習が開始される。その結果、メインF/B学習値KGは迅速に新たな収束値へ収束を開始する。
【0111】
以上説明したように、本実施形態に係る学習精度補償制御によれば、気筒間の空燃比のばらつきの度合いとしてのインバランス率Ribが前回トリップ時から所定以上に変化した場合において、それまでの学習値が破棄され、学習値の破棄後に促進された(更新速度が早められた)学習が開始される。
【0112】
インバランス率Ribが所定以上に変化した状態においては、排気管214における上流側空燃比センサ216の設置空間における排気の状態も比較的大きく変化したと考えられる。そのような状態において、従前の学習値を継続的に使用して学習の促進のみを行ってしまうと、既に妥当性を喪失した従前の学習値が、かえって学習値の収束を遅らせる結果となる場合がある(図4における時刻T1〜T2間の学習値の振る舞い参照)。或いは、新たな学習により収束すべき真の学習値と従前の学習値との間に大きな差がない場合には、学習を促進することによって、この真の学習値とは異なった誤った収束値へと学習値が収束する可能性がある。いずれにせよ学習値の収束(学習の完了)が遅れると、三元触媒215における排気の浄化効率が低下して、エミッション制御上不利になる。
【0113】
これに対し、本実施形態の如く、学習を促進する前に学習値が初期化された場合、真の学習値と初期化された学習値(初期値)との間に十分な差を与えることが出来ることから、本来の学習促進効果が十分に発揮され、不要な学習の遅れが回避される。即ち、排気の浄化効率の低下を可及的に回避することが可能となるのである。
【0114】
補足すると、従来の空燃比F/B制御においては、気筒間の空燃比のインバランス率Ribは考慮されていない。従って、前回トリップ時に対して、当該インバランス率Ribがどれだけ変化したとしても、前回トリップ時の学習値が破棄されることはない。何故なら、学習処理自体は正常に機能しており、前回トリップ時の学習値は何ら異常値ではないからである。その点、本実施形態では、インバランス率Ribの変化が空燃比F/B制御の学習に影響を与える点を見出し、インバランス率Ribを判断基準として従前の学習値を破棄する構成としたので、空燃比のインバランスが実践上無視し得ない程度に顕在化した場合において、学習値の収束速度及び収束精度の点で従来の如何なる制御態様に対しても明らかに有利である。
【0115】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、燃料の噴射制御に空燃比F/B制御が適用される内燃機関の制御に利用可能である。
【符号の説明】
【0117】
10…エンジンシステム、100…ECU、200…エンジン、202A…シリンダブロック、202B…気筒、211…吸気ポートインジェクタ、214…排気管、215…三元触媒、216…上流側空燃比センサ、217…下流側空燃比センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒と、該複数の気筒からの排気が集約される排気経路に設置された少なくとも一つの空燃比検出手段とを備えると共に、該空燃比検出手段により検出された空燃比を前記複数の気筒における燃料噴射量にフィードバックすることを含む所定の空燃比F/B制御により前記燃料噴射量が決定される内燃機関を制御する装置であって、
前記空燃比F/B制御に係るF/B制御量を学習する学習手段と、
前記検出された空燃比に基づいて前記複数の気筒における空燃比のインバランス度を推定する推定手段と、
前記推定されたインバランス度が前回値との間に所定以上の偏差を有する場合において、前記学習手段における前記F/B制御量の学習値を初期化する初期化手段と、
前記学習値が初期化された後に、前記学習値の更新速度を標準値に対し向上させる更新速度変更手段と
を具備することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、前記排気経路に排気を浄化可能な排気浄化装置を備え、
前記空燃比検出手段は、前記排気経路における前記排気浄化装置の上下流側に夫々少なくとも一つ設置される
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記学習値が収束したか否かを判定する判定手段を更に具備し、
前記更新速度変更手段は、前記判定手段により前記学習値が収束したと判定された場合に前記更新速度を前記標準値に戻す
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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