説明

内燃機関の排気浄化方法および内燃機関の排気浄化装置

【課題】 NOx,SOx,HC,CO,COなどの各種有害化学物質およびPMを同時に排気ガス中から除去できる内燃機関の排気浄化方法ならびに内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】 本発明の内燃機関の排気浄化方法は、植物を水蒸気蒸留して得た植物精油と、前記水蒸気蒸留の際に得られる水溶性画分と、水とからなる植物精油含有水溶液を内燃機関の排気通路内に噴霧すること、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子状物質(PM)および各種の有害化学物質を含む排気ガスを浄化する内燃機関の排気浄化方法および内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題への関心が高まるなかで、自動車などの内燃機関からの汚染物質の排出量を規制する動きが活発化している。例えば、ディーゼルエンジン車が排出する微粒子状物質(PM),NOx,SOxなどの排出量の規制が実施され、この規制は次第に強化される方向にある。
PMとは、微粒子状物質の総称であり、その成分はSOF(Soluble organic Fraction)、イオウ酸化物(サルフェート)、窒素酸化物などで、その構成割合はエンジンタイプ、運転条件、燃料性状等により異なる。ここで、SOFとは、C15〜C35程度の粒子状炭化水素であり、ジクロロメタンで抽出できるものをいう。PMの大きさは通常数十μm以下であるが、大気汚染の原因物質といわれる直径10μm以下の粒子を浮遊粒子状物質(SPM)といい、この中でも特に小さい直径2.5μm以下のものをPM2.5という。上述したように、PM2.5はSPMよりも格段に小さく、SPMよりも肺の奥まで入り込むため、喘息や気管支炎などのアレルギー疾患を起こす確率が高いといわれている。
【0003】
現在、ディーゼルエンジン車から排出されるPMやNOxなどの汚染物質を浄化するために酸化触媒が使用されている。酸化触媒としては、SOFの酸化と、高温におけるサルフェートの抑制能力向上とを同時に実現するために、例えばPt/AlとPd−Rh/SiO−Alとを組合せた触媒が考案されている。しかしながら、これらの酸化触媒を使用して排気ガスを浄化する場合、PMやNOxなどの汚染物質を十分に除去することはできず、特にコールドスタート時におけるHC(炭化水素)の除去が不十分であった。
また、ガソリンエンジン車には一般に、排気ガス中の汚染物質を浄化するために、三元触媒を用いた排気ガス浄化装置が用いられている。すなわち、三元触媒を用いた排気ガス浄化装置では、排気ガスが三元触媒を通過することにより浄化される。しかしながら、三元触媒を用いた排気ガス浄化装置では、HCとCOとNOxとを同時に除去し得るように空燃比を制御することが困難である。また、ガソリン中の鉛やリン、イオウによって三元触媒が被毒しやすいうえに、熱によって三元触媒が劣化しやすい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、NOx,SOx,HC,CO,COなどの有害化学物質ならびにPMを同時に排気ガス中から除去できるうえに、排気ガス臭を除去できる内燃機関の排気浄化方法および内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1.内燃機関の排気浄化方法
本発明の内燃機関の排気浄化方法は、植物を水蒸気蒸留して得た植物精油と、前記水蒸気蒸留の際に得られる水溶性画分と、水とからなる植物精油含有水溶液を内燃機関の排気通路内に噴霧すること、を含む。本出願において、「水溶性画分」とは、植物の水蒸気蒸留を行なった場合に、前記水蒸気蒸留により得られた水溶性成分が移行した水の画分をいう。この水溶性画分は、前記水蒸気蒸留により、前記植物精油と分離して得られる。
【0006】
本発明の内燃機関の排気浄化方法によれば、NOx,SOx,HC,CO,COなどの各種有害化学物質ならびにPMを排気ガス中から同時に除去することができるうえに、排気ガス臭を除去することができる。また、前記植物精油含有水溶液に含まれる成分は人体に悪影響を及ぼすものではないため、排気ガス中から前記成分を除去する必要がない。すなわち、前記成分を除去するための特別な除去装置を設置する必要がない。さらに、前記排気経路内で、PMまたは有害化学物質などの汚染物質を前記成分に吸着させることができるため、前記汚染物質を前記成分に吸着させるための特別な装置または領域を別途設ける必要がない。以上により、排気浄化処理の低コスト化を図ることができる。
【0007】
ここで、前記水溶液の噴霧は、前記水溶液を前記排気通路内に噴射し気化させることにより行なうことができる。この場合、噴霧された前記水溶液は、前記排気通路中に設けられたマフラーに導入できる。その際、前記マフラーを反応室として使用することができる。あるいは、この場合、噴霧された前記水溶液は、前記排気通路中に設けられたセラミックフィルタに導入することができる。これにより、前記マフラー内またはセラミックフィルタ内で、前記植物精油含有水溶液に含まれる成分に前記汚染物質を吸着させることができるため、前記汚染物質を前記成分に吸着させるための特別な領域を別途設ける必要がない。以上により、排気浄化処理の低コスト化を図ることができる。
【0008】
また、ここで、前記植物は、ヒノキ科の植物、ツバキ科の植物、イチョウ科の植物、イネ科の植物、シソ科植物、タケ科の植物、ヤナギ科の植物、アオイ科の植物、およびスギ科の植物からなる群から選ばれる1種以上であることができる。これらの植物には、PMおよび有害化学物質を排気ガス中から除去するのに有用な成分が含まれている。このため、前記植物が、上述した植物からなる群から選ばれる1種以上であることにより、排気ガス中のPMおよび有害化学物質を除去することができる。
【0009】
2.内燃機関の排気浄化装置
噴霧口から植物精油含有水溶液を噴霧する噴霧装置を含み、
前記噴霧口は前記排気通路内に設けられ、
前記植物精油含有水溶液は、植物を水蒸気蒸留して得た植物精油と、前記水蒸気蒸留の際に得られる水溶性画分と、水とからなる。
【0010】
本発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、NOx,SOx,HC,CO,COなどの各種有害化学物質ならびにPMを排気ガス中から同時に除去することができ、排気ガス臭を除去することができる。また、本発明の内燃機関の排気浄化方法の欄で上述したように、前記植物精油含有水溶液に含まれる成分を除去するための特別な除去装置を設置する必要がないうえに、前記PMまたは有害化学物質などの汚染物質を前記成分に吸着させるための特別な領域を別途設ける必要がない。したがって、本発明によれば、安価でかつ維持管理が容易な排気浄化装置を提供することができる。
【0011】
ここで、前記噴霧装置はさらに、前記植物精油含有水溶液を貯蔵する貯液槽と、該貯液槽から該排気通路へと該水溶液を導入する管とを含むことができる。この場合、前記噴霧装置は、前記水溶液を前記噴霧口から前記排気通路内に噴射し気化させることにより、該水溶液を噴霧することができる。また、この場合、前記排気通路中にマフラーを設けることができ、噴霧された前記水溶液を前記マフラー内に導入することができる。その際、前記マフラーを反応室として使用することができる。あるいは、この場合、前記排気通路中にセラミックフィルタを設けることができ、噴霧された前記水溶液を前記セラミックフィルタ内に導入することができる。
【0012】
また、ここで、前記植物は、ヒノキ科の植物、ツバキ科の植物、イチョウ科の植物、イネ科の植物、シソ科植物、タケ科の植物、ヤナギ科の植物、アオイ科の植物、およびスギ科の植物からなる群から選ばれる1種以上であることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本実施の形態の内燃機関の排気浄化方法および内燃機関の排気浄化装置について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の内燃機関の排気浄化装置1を模式的に示す概略図である。図2は、図1に示す噴霧装置4の一例(噴霧装置44)を模式的に示す図である。
【0015】
(排気浄化装置)
本実施の形態の内燃機関の排気浄化装置1は図1に示すように、噴霧装置4を含む。噴霧装置4は、噴霧口4dから排気通路2内に植物精油含有水溶液を噴霧する。より具体的には、噴霧装置4は、前記水溶液を噴霧口4dから排気通路2内に噴射し気化させることにより、該水溶液を噴霧する。なお、本実施の形態で用いる植物精油含有水溶液の成分については後で詳述する。
【0016】
図1には、排気通路2の一部が示されており、流入口9は内燃機関(図示せず)に連結されている。内燃機関は例えば自動車や二輪車などの車両のエンジンである。本実施の形態においては、内燃機関がディーゼル機関である場合について説明する。
【0017】
排気通路2内では、流入口9から排気口10への方向(図1に示す白抜き矢印の方向)に排気ガスが流れる。さらに、また、図1に示すように、この排気浄化装置1においては、酸化触媒5、セラミックフィルタ6、およびマフラー3を排気通路2中に設けることができる。すなわち、内燃機関から排出された排気ガスは、排気通路2において、流入口9、酸化触媒5、セラミックフィルタ6、およびマフラー3内を順に通過した後、排気口10から排出される。
【0018】
酸化触媒5は排気ガス中の還元性物質を酸化する機能を有する。例えば、NOは酸化触媒5によりNOに酸化される。酸化触媒5は例えばアルミナを担体とし、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)のような貴金属が担持されている。セラミックフィルタ6は排気ガス中のPMを除去する機能を有する。なお、排気通路2には別のマフラー(図示せず)を設けることができる。
【0019】
噴霧装置4は、貯液槽4aおよび管4cを含む。貯液槽4aは、前記植物精油含有水溶液を貯蔵する。管4cは、貯液槽4aから排気通路2へと該水溶液を導入する。排気経路2へと導入された管4cの端部には噴霧口4dが設けられている。この噴霧口4dから植物精油含有水溶液が噴霧されて、ミストが生じる。噴霧により生じるミストの直径は0.1〜50μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましく、5〜10μmであることがさらに好ましい。噴霧により生じるミストの直径が50μmを超える場合あるいは0.1μm未満である場合、前記水溶液中の植物精油がPMならびにSOxやNOxなどの有害化学物質の分子を効果的に捕獲できず、これらの汚染物質を有効に除去できないことがある。
【0020】
本実施の形態の排気浄化装置1においては、図1に示すように、植物精油含有水溶液が、通気経路2のうちセラミックフィルタ6とマフラー3との間で噴霧される場合を示す。すなわち、この排気浄化装置1においては、管4cが通気経路2のうちセラミックフィルタ6とマフラー3との間に連結されており、噴霧口4dが排気通路2内において、セラミックフィルタ6とマフラー3との間に配置されている。したがって、この排気浄化装置1においては、排気通路2において、内燃機関から、前記水溶液を噴射する位置(噴霧口4d)までの距離が、内燃機関からマフラー3までの距離より短い。
【0021】
噴霧装置4はさらに、ポンプ4bを含むことができる。このポンプ4bは、貯液槽4aから管4dへと植物精油含有水溶液を汲み出す機能を有する。したがって、ポンプ4bを駆動させることによって、管4e,4cを介して貯液槽4aから排気経路2へと移動する植物精油含有水溶液の圧力を調整することができ、該水溶液の流量を調整することができる。例えば、本実施の形態の排気浄化装置を車両のエンジンに適用する場合、ポンプ4bは車両のバッテリから電力を供給して駆動させることができる。
【0022】
噴霧装置4のより具体的な構成例(噴霧装置44)を図2に示す。図2には、噴霧装置44および排気経路2の一部のみが示されている。この噴霧装置44は、貯液槽44a(4a)、コンプレッサー44b、および管44c(4c),44e(4e)を含む。本例においては、排気通路2に2流体ノズル7が連結されている。この2流体ノズル7の先端に噴霧口44d(4d)が設けられており、この噴霧口44dは排気通路2内に設けられている。また、2流体ノズル7には連結口44h,44iが設けられ、この連結口44h,44iに管44c,44gが連結されている。コンプレッサー44bおよび2流体ノズル7を用いて植物精油含有水溶液を噴霧することにより、圧縮された空気とともに植物精油含有水溶液が噴霧される。これにより、より細かなミストを発生させることができる。ミストが細かくなることにより、PMの粒子径ならびに有害化学物質の分子の大きさに近づいていくため、ミストがPMおよび有害化学物質に吸着しやすくなると考えられる。なお、管44c内を移動する植物精油含有水溶液の圧力を検知するセンサ(図示せず)を設けてもよい。また、本実施の形態の排気浄化装置を車両のエンジンに適用する場合、コンプレッサー44bは車両のバッテリから電力を供給して駆動させることができる。
【0023】
貯液槽44aには植物精油含有水溶液8が貯蔵されている。貯液槽44a内の植物精油含有水溶液8は、コンプレッサー44bを駆動させることによって、圧縮された空気ととともに、管44e,44cおよび2流体ノズル7を介して、噴霧口44dから排気通路2内に噴霧された後、マフラー3(図1参照)内へと導入される。ここで、管44cから余剰に供給された植物精油含有水溶液は、2流体ノズル7の連結口44iから管44g,44fを介して貯液槽44aへと戻される。
【0024】
なお、本実施の形態においては、内燃機関がディーゼル機関である場合を示しているが、内燃機関はディーゼル機関に限定されるわけではなく、例えば点火式機関であってもよい。このことは、第2の実施の形態においても同様に適用される。
【0025】
(排気浄化方法)
本実施の形態の内燃機関の排気浄化方法は、植物を水蒸気蒸留して得た植物精油と、前記水蒸気蒸留の際に得られる水溶性画分と、水とからなる植物精油含有水溶液を内燃機関の排気通路内に噴霧すること、を含む。以下、図1を参照して、本実施の形態の排気浄化方法について、さらに具体的に説明する。
【0026】
まず、内燃機関から排出された排気ガスが排気経路2内を通って、酸化触媒5に導入される。この酸化触媒5により、排気ガス中の還元性物質が酸化される。例えば、この酸化触媒5により、排気ガス中のNOがNOへと変換される。次に、酸化触媒5から排出された排気ガスはセラミックフィルタ6へと導入される。このセラミックフィルタ6により、排気ガス中のPMがある程度除去されるが、セラミックフィルタ6のみでは排気ガス中のPMをほぼ完全に除去するのは困難であるため、若干量のPMが排気ガス中に残存する。
【0027】
次に、セラミックフィルタ6から排出された排気ガスはマフラー3へと導入される。次いで、排気経路2において、セラミックフィルタ6とマフラー3との間には噴霧装置4の噴霧口4dが設けられているため、噴霧装置4によってこの噴霧口4dから植物精油含有水溶液が噴霧される。より具体的には、噴射手段4によって植物精油含有水溶液が排気通路2内に噴射されると、前記水溶液は排気ガスと混合される。そして、排気ガスの熱によって前記水溶液が気化し、該水溶液がミスト状となる。噴霧により生じた前記水溶液のミストは、排気ガスとともに黒矢印の方向に移動して、マフラー3に導入される。このマフラー3内で、噴霧により生じた前記水溶液のミストが排気ガス中のPMまたは有害化学物質に吸着して、PMを無害化するとともに、有害化学物質を除去する。例えば、噴霧により生じた前記水溶液のミストが、NOx,SOxなどの酸性の有害化学物質を還元し除去する。この工程において、マフラー3は反応室としての機能を有する。より具体的には、前記水溶液のミスト(具体的には、植物精油の小胞)と汚染物質(PMおよび有害化学物質)との反応がマフラー3内で生じる。以上の工程により、PMおよび有害化学物質が除去された排気ガスは、排出口10から外部へと排出される。
【0028】
ここで、マフラー3内における排気ガス中のPMの無害化および有害化学物質の除去のメカニズムについて説明する。
【0029】
(1)PMの無害化
PMは一般に、炭素粒と、炭素粒の表面に付着した炭化水素成分と、前記炭化水素成分の表面を覆う油膜とから構成される。PMが生体内に取り込まれた場合、この炭化水素成分が、目やのどの痛み、喘息や花粉症などのアレルギー疾患を引き起こすと考えられている。また、この炭化水素成分の多くは発がん性物質であるため、できる限り除去する必要がある。
【0030】
一方、本実施の形態で用いられる植物精油含有水溶液は植物精油を含む。したがって、前記植物精油含有水溶液のミスト中には、植物精油の小胞が分散している。ここで、植物精油は親油性であること、ならびにPMはその表面に油膜を含む。すなわち、植物精油およびPMの表面はいずれも親油性であることにより、植物精油の小胞がPMに吸着して、PMに含まれる炭化水素成分を除去することにより、PMを炭素粒のみに変換した後排出することができる。
【0031】
(2)酸化性物質の除去
本実施の形態で使用される植物精油含有水溶液中の植物精油には、還元性物質(例えば、リモネン、ピネン)が含まれている。したがって、前記植物精油含有水溶液を噴霧してミストを生じさせ、このミスト中に含まれる植物精油の小胞をSOx,NOx(例えばNO)などの酸化性物質と反応させることにより、これらの酸化性物質を除去することができる。
【0032】
(植物精油含有水溶液およびその製造方法)
1.植物精油含有水溶液の成分
本発明で用いられる植物精油含有水溶液は、植物を水蒸気蒸留して得た植物精油と、前記水蒸気蒸留の際に得られる水溶性画分と、水とからなる。また、本発明で用いられる植物精油含有水溶液は、植物を水蒸気蒸留し、前記水蒸気蒸留により得られた植物精油と水溶性画分と水とを重量比で0.5〜2:2〜4:4〜8の割合で含むことができる。
【0033】
ここで、前記植物は、ヒノキ科の植物、ツバキ科の植物、イチョウ科の植物、イネ科の植物、シソ科植物、タケ科の植物、ヤナギ科の植物、アオイ科の植物、およびスギ科の植物からなる群から選ばれる1種以上であることができる。前記植物は、より具体的には、青森産ヒバ、台湾ヒノキ、オーストラリア(豪州)産西洋ヒノキ、茶、イチョウ、モウソウチク、マダケ、クマザサ、チシマザサ、ラベンダー、セイヨウハコヤナギ、ケナフ、およびスギからなる群から選ばれたものであることが好ましい。これらの植物には、PMおよび有害化学物質を排気ガス中から除去するのに有用な成分が含まれている。
【0034】
ヒノキ科植物には、エンピツビャクシン、台湾ヒノキ、西洋ヒノキ、ネズミサシ、ヒノキ、ベニヒ、ヒバ、ヒノキアスナロなどが含まれる。ヒノキは、南限が台湾の阿里山、北限が福島県といわれる分布域を有するヒノキ科の常緑高木である。単にヒノキといえば日本特産種を指し、台湾原産のものを台湾ヒノキという。台湾ヒノキは台湾の山地に自生し、高さは60mにも達する。台湾ヒノキは多くのテルペン類を含む。台湾ヒノキからは、芳香成分であるヒノキチオールを含む精油が得られる。このような芳香成分はヒノキの心材の部分に存在するが、樹齢60年以上のヒノキになると心材の割合が80%に達するため、樹齢の古いものの方が精油を多く得ることができる。台湾ヒノキについては、樹齢が2千年とも3千年ともいわれるものを伐採した根の部分から、植物精油を水蒸気蒸留により抽出して後述する方法にしたがって、ヒノキ油を得ることができる。
【0035】
台湾ヒノキ油(Chamaecyparis btusa Endl.)は、台湾ヒノキの葉または根を常法にしたがってチップにし、水蒸気蒸留して得られる精油である。台湾ヒノキ油に含まれる成分としては、α−ピネン、β−ピネン、カンフェン、p−シメン、γ−テルピネン、d−サビネン、テルピネオール、リナロール、ツヨプセン、β−エレメン、α−セドレン、エレモール、ビドロール、セドロール、ヒノキチオール(特有成分)、α−ツヤプリシン、トロポロイド、ヒノキチンなどが含まれる。この方法によると香り成分が沸点よりかなり低い温度で留出するため、香り成分の熱による変性を抑えることができる。また、本実施の形態において、ヒノキ油の製造に使用するヒノキは、建築用材として使用できない台湾ヒノキの根の部分から得ることができるため、森林資源の有効利用が可能となる。特に、台湾ヒノキの根の部分は主要な産業を持たない山間地に住む人々にとっては重要な収入源ともなっており、根を掘り起こした跡地を農地として開墾できるという利点もある。
【0036】
豪州産西洋ヒノキ油は、豪州産西洋ヒノキの幹の部分(材)を、台湾ヒノキ油を得る場合と同様にしてチップにし、水蒸気蒸留によって得た精油画分をいい、特有成分としてグアイオールを含有するものをいう。
【0037】
青森産ヒバ(Thujoposis dolabrata Seib.et Zucc. var. Hondai Makino)は、青森県を産地とするヒバをいい、材および枝葉を水蒸気蒸留することによってヒバ油を得ることができる。材油には、ロジン酸α−ツヤプリシン、β−ツヤプリシン、ヒノキチオール、ツヨプセン(主成分)、セドロール、カルバクロールなどのフェノール類が含まれ、葉油には、ジペンテン、サビネン、ボルネオール、サビノールを中心としたモノテルペノイド(主成分)、酢酸サビニル、セスキテルペノイドならびにヒバエンなどのジテルペノイドが含まれる。
【0038】
ツバキ科植物には、茶、ツバキ、サザンカなどが含まれる。茶(Thea sinensis L.)油には、約300種の成分が含まれることが同定により明らかにされている。それらのうち、シス−3−ヘキセノールおよびヘキサン酸エステル、トランス−2−ヘキセン酸エステル、そしてリナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、シス−ジャスモン、ジャスモン酸メチル、インドールなどが緑茶の成分として重要である。
イチョウ科植物には、イチョウ(Gingko biloba)、Baiera、Stenophyllum、Sphaenobaieraなどが含まれる。イチョウ油は、東アジアを産地とするイチョウ類イチョウ目に属するイチョウ(Gingko biloba)の葉を水蒸気蒸留して得ることができる。
イネ科植物には、ホウライチク(Bambusa)、ヤダケ(Pseudosasa)、スズタケ(Sasamorpha)、モウソウチク(Arundinaria)およびマダケ(Phyllostachys)、並びにクマザサまたはチシマザサ(Sasa)、アズマザサ(Sasaella)、オカメザサ(Shibataea)などが含まれる。竹油は、主に東アジアおよび日本を主産地とするホウライチク(Bambusa)、ヤダケ(Pseudosasa)、スズタケ(Sasamorpha)、モウソウチク(Arundinaria)およびマダケ(Phyllostachys)の材または葉の部分を水蒸気蒸留して得る。また、ササ油は、クマザサまたはチシマザサ(Sasa)の材または葉を水蒸気蒸留して得ることができる。
【0039】
ラベンダー油は、フランス、イタリア、ハンガリー、ロシア南部、イギリス、北アメリカ、オーストラリアおよび北海道などを主産地とするラベンダー(Lavandula officinalis Chaix.)の花を水蒸気蒸留して得ることができる。ラベンダー油には、リナロール(10〜20%)、酢酸リナリル(30〜60%)、ラバンジュロール(特有成分)、酢酸ラバンジュリル、3−オクタノール、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、シネオール、シトロネラールなどの多数の成分が含まれる。
【0040】
スギ科植物には、コウヨウザ、エンコウスギ、スギ、台湾スギ、ヌマスギ、メタセコイヤなどが含まれる。スギ油は、杉の材または葉を水蒸気蒸留して得ることができる。
【0041】
ヤナギ科の植物には、セイヨウハコヤナギ(別名ポプラ;ヤナギ科ヤマナラシ属)などが含まれる。ポプラ油は、セイヨウハコヤナギの枝や葉を水蒸気蒸留して得ることができる。
【0042】
アオイ科の植物には、ケナフなどが含まれる。ケナフ油は、ケナフの枝や葉を水蒸気蒸留して得ることができる。ケナフは二酸化炭素の吸収量が多いことで知られている。
【0043】
一般に、植物の葉、花、種子、樹皮、果肉、果皮などに含まれる揮発性有香物質を、水蒸気蒸留または抽出法などによって得た、油状から半固体状物質までのものを精油(植物精油)という。本発明の植物精油含有水溶液に用いられる植物精油は、上述した各植物を水蒸気蒸留して得られる。植物精油は大別してテルペン系化合物、脂肪族鎖状化合物と芳香族化合物とを含有する。テルペン系化合物は、(Cなる分子式をもつ鎖状および環状の炭化水素で、母体のテルペン系炭化水素と同じ炭素骨格をもつアルコール、アルデヒド、ケトンその他の誘導体までが含まれる。テルペン系化合物はイソプレン単位の数によって、ヘミテルペン(C)、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)、トリテルペン(C3048)、ポリテルペン(Cなどに分類することができる。
【0044】
上述したように、植物精油は揮発性油であり、一般に、水蒸気蒸留法、圧搾法、抽出法によって得ることができる。抽出法により得られたものは、アブソリュート、オレオレジンおよびレジノイド、ならびにチンキに分けられる。アブソリュートは、花、種子および果実などを油脂に吸収させたポマードとこれらを揮発性溶剤または液化ガスで臨界抽出したコンクリートとを含む。オレオレジンおよびレジノイドは樹脂や種子などを溶剤抽出して得られたものをいい、これらを浸出(エタノール抽出)したものが芳香チンキである。上述の茶、イチョウ、竹、ササなどは、水蒸気蒸留に使用した植物体重量の約3重量%程度を精油として抽出すると、目的とする成分を効率よく得ることができる。
【0045】
植物精油に含まれる種々の化学物質(以下、精油成分という)の大部分は水に不溶であるので、水蒸気の熱によりにおい成分が変化しない場合には、水蒸気蒸留法による抽出が広く用いられている。水蒸気蒸留法を用いると、植物精油の沸点(通常、150〜350℃)よりはるかに低い温度で留出させることができるため、植物精油の分解や変質が生じるおそれはほとんどないという利点がある。水蒸気蒸留を行った場合でも、例えば、ローズ油やオレンジフラワー油のように水溶性成分を含むのものでは、水溶性成分は水の画分に移行するので、バラ水と呼ばれる画分が得られる。
【0046】
植物精油は、同じ植物であっても抽出に用いる部位によって、得られる組成が異なるので、所望の組成を有する植物精油が得られるように特定の部位を使用する。例えば、本実施の形態で用いる植物精油含有水溶液を得るために使用する植物が台湾ヒノキの場合には根部を、茶、イチョウ、クマザサ、竹などの場合には葉を、また、ラベンダーの場合には花の部分をそれぞれ使用する。これらの植物からはいずれも、水溶性画分(水蒸気蒸留を行なった場合に植物精油と分離して得られる、水溶性成分が移行した水の画分)が得られる。
【0047】
また、本実施の形態の植物精油含有水溶液および水溶性画分を製造する際に用いられる水は、他の成分の含有量が少ないことが好ましく、例えばイオン交換水または純水を用いることが好ましい。他の成分(例えば塩素イオンその他のミネラル分)を多く含む水の場合、植物精油含有水溶液の安定性が低くなるため、好ましくない。
2.植物精油含有水溶液の製造方法
本実施の形態で用いられる植物精油含有水溶液は、例えば、前述した植物を水蒸気蒸留して得られた植物精油および水溶性画分と、水とを撹拌子を用いて混合し、酸素含有量が10容積%以上の気体を吹き込みながら噴射しつつ撹拌して混合液とし、ついで前記混合液を複数の噴射手段から互いに衝突するように噴射して植物精油含有混合液として回収することにより得ることができる。この場合、前記水蒸気蒸留により得られた植物精油と水溶性画分と水とを重量比で0.5〜2:2〜4:4〜8の割合で混合することが好ましい。さらに、撹拌子を用いて混合した後、さらに撹拌子を用いて混合することが好ましい。
【0048】
本実施の形態で使用される植物精油含有水溶液は、より具体的には以下のようにして製造することができる。
【0049】
まず、所定量の植物を所定温度(通常90〜150℃)で所定時間(通常、30分間〜8時間程度)、植物精油を抽出しようとする植物の全体または特定の部位を選択して水蒸気蒸留する。これにより、上層に植物精油(精油画分)、下層に水溶性画分という二層の溶液が得られる。本実施の形態で使用される植物精油含有水溶液は、植物精油(精油画分)とその水溶性画分と水との混合比を0.5〜2:2〜4:4〜8(重量比)とすることが効率よく混合できるという点から好ましく、1:3:6とすると特に、前述したPMおよび有害化学物質(例えば還元性物質)の除去効果が高い点で好ましい。
【0050】
ここで、植物精油(精油画分)と水溶性画分と水との撹拌方法の一例を図4に示す。撹拌装置20は、図4に示すように、撹拌槽12と、気体供給装置(図示せず)と、複数の撹拌棒13と、保持部材14と、混合液循環装置27とを含む。前記気体供給装置は、少なくとも酸素含有量が10容量%以上の気体を混合液M中に吹き込む。この気体供給装置には、後述する図5の気体供給装置と同様の構成を有することができ、具体的には、ポンプ26,28と同様のポンプ(図示せず)を設置することができる。混合槽の大きさに対応して使用する気体供給装置の数を選択することにより、水と水溶性画分と植物精油(精油画分)との混合を十分に行うことができる。すなわち、混合槽が小さい場合には単独で使用すればよく、大きい場合には複数の混合槽を使用すればよい。
【0051】
保持部材14は、撹拌槽12の底部を貫通する撹拌棒Sを含む。保持部材14は、植物精油(精油画分)と水溶性画分と水とを撹拌して混合するものであり、撹拌棒Sは全体が棒状部材で形成されていてもよく、棒状部材の先に羽を有するものなどであってもよい。
【0052】
混合液循環装置27は、ポンプPにより、撹拌槽12の側部に連通した配管15から混合液Mを吸引し、撹拌槽12の上方に設置されたノズル16から前記混合液をシャワー状に吐出させることができる。
【0053】
撹拌装置20を使用して混合液Mを撹拌混合する場合、ノズル16から混合液Mをシャワーするとともに、後述する撹拌棒23(図5参照)で混合液Mを撹拌することができる。混合液Mをノズル16からシャワーする場合には高圧で行い、混合液Mを激しい勢いで吐出させることが好ましい。
【0054】
次いで、図5に示すように、上記の混合工程で得た混合液を、さらに撹拌装置30にて混合することができる。より具体的には、撹拌装置30は、植物精油と水溶性画分と水との混合液を入れる撹拌槽22と、撹拌棒23と、保持部材24とを含む。さらに、この撹拌装置30は、図4に示す撹拌装置20に設けられた混合液循環装置27および保持部材14(図5では図示せず)を含むことができる。なお、以降の図面中、図4中の部材と同じ役割を果たす部材については図4で使用したのと同じ符号を付し、説明を省略する。
【0055】
撹拌装置30を用いた混合液の撹拌方法について、図5を参照しながら以下に説明する。まず、上記の混合工程で得た混合液を撹拌槽22に入れ、保持部材24を上下させて撹拌棒23に上下運動を与える。保持部材24に上下運動を与えると同時に、気体供給装置(図示せず)のポンプ26,28から、少なくとも酸素含有量が10容量%以上の気体を混合液中に吹き込む。
【0056】
撹拌棒23は、中空の管状部材をエンドレスに曲げて作製したジグザグ形状の棒である。このジグザグ形状部分に適当な大きさの孔を適宜開けておくと、精油と水との混合が促進されるという利点がある。この混合は、上記の気体を吹き込みながら約20℃で所定の時間、具体的には、2〜5時間程度をかけて行う。なお、図5には、撹拌棒23がジグザグ状の棒からなる場合を示したが、撹拌棒23としては、撹拌が十分に行われているものである限り、らせん状の棒からなるものや上述した羽のついた棒からなるものなど種々の形状のものを使用することができる。
【0057】
次いで、図6に示すように、植物精油(精油画分)と水溶性画分と水との混合をさらに促進するために、酸素を溶解させた粗混合液を配管によって送り、複数の噴霧手段(ノズル)34',36',38'から吐出させることができる。このとき、各ノズルから吐出された粗混合液は、霧状となって互いにぶつかりあうように、各ノズルを配置する。具体的には、ノズル34'を水平に置いた容器32の底面に垂直となるように配置し、ノズル34'を備える配管34はノズル36'を備える配管36と約30〜約40度をなすように配置し、ノズル38を備えるラインはノズル38'を備える配管38と約40〜50度をなすように配置する。配管34と配管36とがなす角度は約35度であり、配管34と配管38とがなす角度は約45度とすることが好ましい。
【0058】
各ノズルからの混合液の吹き出しはコンプレッサーを用いて行うことができる。ここで、このときの圧力は約10気圧とすると、吹き出される液滴の径が100μm前後のものが大部分となるため、混合効率および製造コストの面から好適である。この混合を行う際の混合液の温度は約20〜約40℃であることが好ましく、約25〜約35℃であることがさらに好ましい。各ノズルから吐出された混合液Mは霧状となって互いにぶつかり合い、植物精油含有水溶液として容器32内に回収される。以上のようにして得られた混合液を24時間程度静置して、水で適宜希釈することにより、植物精油の含量が20重量%の植物精油含有水溶液を得ることができる。この植物精油含有水溶液をさらに水で希釈して、植物精油の含量がより低い植物精油含有水溶液を得ることもできる。
【0059】
なお、本実施の形態で用いられる植物精油含有水溶液は、必要に応じて、ワックス類を添加してもよい。ワックス類には、天然ワックスと合成ワックスとに大別され、天然ワックスには、カルナウバワックス、木ろう、サトウロウなどの植物ワックス;ミツロウ、昆虫ロウ、鯨ロウ、羊毛ロウなどの動物ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス;モンタンワックス、オゾケライトなどの鉱物ワックスが含まれる。また、合成ワックスには、カーボワックス、ポリエチレンワックス、塩素化ナフタレンワックスなどが含まれる。なお、植物精油(精油画分)と水溶性画分との混合割合は、植物精油の粘稠度によって適宜、増減すればよい。
【0060】
本実施の形態に用いられる植物精油含有水溶液は、界面活性剤や有機溶媒を含んでいないため、排気浄化装置に用いた場合に有害な物質が生成することがない。また、植物精油および水溶性画分には毒性がないため、長期間にわたって使用する上でも安全性が高い。
【0061】
以下、本実施の形態で用いられる植物精油含有水溶液の製造方法の一例として、台湾ヒノキ油含有水溶液の製造方法について説明する。
【0062】
まず、伐採した台湾ヒノキの根を掘り起こし、クラッシャーなどを用いて0.5〜1mm角程度の大きさのチップにする。根部分の細断に際してはクラッシャーなどを用い、0.5〜1mm角程度の大きさとすることが台湾ヒノキ油の抽出効率の点から好ましい。こうして得たチップ約500kgを蒸留装置に入れ、所定の温度で、チップに含まれる水分を利用して水蒸気蒸留を行う。なお、抽出時間、蒸留釜の大きさ、蒸留時間などは、使用するチップの量によって適宜調整すればよい。より具体的には、約100〜120℃の温度で4〜8時間程度蒸し、チップに含まれる精油成分を蒸気とともに留出させる。温度および時間は、チップにした木の含水量などにより適宜調節する。
【0063】
次いで、精油成分を含む蒸気を水に通すことにより冷却する。これにより、植物精油(精油画分)と水溶性画分とが二層に分離して得られる。約100kgのチップを上記のようにして処理すると、0.5〜1kgの植物精油(精油画分)と約200〜300kgの水溶性画分とを得ることができる。水蒸気蒸留により台湾ヒノキを抽出すると、香り成分がそれら成分の沸点よりかなり低い温度で留出されるため、香り成分の熱による変性を抑えることができる。この方法で得られた植物精油(精油画分)は、約60〜70重量%の台湾ヒノキ油を含有する。また、上述の水溶性画分には、台湾ヒノキに含まれる精油成分のうち水溶性のものが含まれている。
台湾ヒノキ油含有水溶液を製造する際は、上記のようにして得られた植物精油(精油画分)をその水溶性画分とともに使用する。植物精油(精油画分)とその水溶性画分とを合わせて使用することにより、後述するPMおよび有害化学物質の除去効果が一層高くなる。台湾ヒノキ油含有水溶液を製造する際は、台湾ヒノキ油(精油画分)とその水溶性画分と水との混合比は通常0.5〜2:2〜4:4〜8(容積比)、好ましくは1:3:6とする。台湾ヒノキ油含有水溶液中における台湾ヒノキ油(精油画分)の含有量の上限値は、約30重量%である。台湾ヒノキ油がこれ以上の含有量になると、台湾ヒノキ油(精油画分)と水溶性画分と水とを混合する際に精油画分が液面に浮いてしまうことがあるため、好ましくない。植物精油(精油画分)と水溶性画分と水とは、上記の容積比の範囲内で以下の方法に従って混合し、さらに水で25〜50倍程度希釈することにより、台湾ヒノキ油含有水溶液(植物精油含有水溶液)を製造することができる。
【0064】
(作用効果)
本実施の形態の内燃機関の排気浄化方法および内燃機関の排気浄化装置は以下の作用効果を有する。
【0065】
(1)第1に、NOx,SOx,HC,CO,COなどの各種有害化学物質およびPMを排気ガス中から同時に除去することができる。また、前記植物精油含有水溶液に含まれる成分は人体に悪影響を及ぼすものではないため、排気ガス中から前記成分を除去する必要がない。すなわち、前記成分を除去するための特別な除去装置を設置する必要がない。さらに、排気経路2内(本実施の形態においてはマフラー3)で、PMまたは有害化学物質などの汚染物質を前記成分に吸着させることができるため、前記汚染物質を前記成分に吸着させるための特別な装置や領域を別途設ける必要がない。以上により、排気浄化処理の低コスト化を図ることができる。
【0066】
(2)第2に、より安価で小型の排気浄化装置とすることができる。この作用効果を説明するために、現在開発が進められている排気浄化装置の構成について説明する。
【0067】
現在、尿素水溶液を排気経路内に噴霧することにより、NOxを除去する排気浄化装置が開発されている。この排気浄化装置においては、例えば、以下の反応式(1)〜(3)によってNOx(NO,NO)がアンモニアへと変換される。
【0068】
NHCONH + HO → 2NH + CO …(1)
4NH + 4NO + O → 4N + 6HO …(2)
8NH + 6NO → 7N + 12HO …(3)
反応式(1)においては、尿素が加水分解されることにより、アンモニアへと分解される。また、反応式(2)および(3)においてはそれぞれ、アンモニアがNOまたはNOと反応し、Nおよび水へと分解される。また、反応式(2)および反応式(3)においては、NOよりもNOのほうが、NOx還元反応が進みやすいことから、例えば酸化触媒を用いてあらかじめNOをNOへと変換しておいてから、反応式(3)に示すように、NOをNへと変換することが多い。
【0069】
しかしながら、この方法によれば、反応式(2)または(3)において使用されなかった過剰のアンモニアを脱臭するための装置(スクラバー)が別途必要となる。さらに、NOをNOへと変換する場合、高温にする必要があるため、加熱装置を別途設置する必要がある。すなわち、新たな装置を設置しなければならないため、コストが高騰する。
【0070】
これに対して、本実施の形態の排気浄化装置によれば、アンモニアを脱臭するための装置ならびに加熱装置を別途設置する必要がない。これにより、より安価で小型の排気浄化装置とすることができる。
【0071】
(3)第3に、植物精油含有水溶液に含まれる成分(例えば、テルペン類)により、排気ガス中に含まれる臭い成分を分解して、排気ガス臭を除去することができる。これにより、排気ガスの臭いを少なくすることができる。例えば、ディーゼル機関から排出される排気ガスの臭いはディーゼル臭と呼ばれている。このディーゼル臭は主にベンゼンやトルエンをはじめとするHC等が原因である。本実施の形態の排気浄化方法(装置)によれば、ディーゼル臭を効果的に除去することができる。
【0072】
また、本実施の形態の排気浄化装置に用いられる噴霧装置は小型であるため、設置する場所の選択範囲が広い。
【0073】
[第2の実施の形態]
図3は、本発明の第2の実施の形態の内燃機関の排気浄化装置11を模式的に示す概略図である。本実施の形態の内燃機関の排気浄化装置11は、排気経路2において、噴霧口4dが酸化触媒5およびセラミックフィルタ6の間に設けられている点を除いて、第1の実施の形態の内燃機関の排気浄化装置1と同様の構成および作用効果を有する。すなわち、本実施の形態の内燃機関の排気浄化装置11では、排気通路2において、内燃機関から植物精油含有水溶液を噴射する位置(噴霧口4d)までの距離は、該内燃機関からセラミックフィルタ6までの距離より短い。本実施の形態の内燃機関の排気浄化装置11において、第1の実施の形態の内燃機関の排気浄化装置1と同様の構成要素については、同じ符号を付して詳しい説明は省略する。
【0074】
本実施の形態の内燃機関の排気浄化装置11では、噴霧装置4によって排気経路2内に導入された植物精油含有水溶液のミストがセラミックフィルタ6内に導入され、PMの無害化および気体状の有害化学物質(例えば、NOx,SOx,HC,CO,CO)の除去がセラミックフィルタ6内(場合によってはさらに、マフラー3内でも)で行われた後、排気口10から外部へと放出される。
【0075】
本実施の形態の内燃機関の排気浄化装置11によれば、第1の実施の形態の内燃機関の排気浄化装置1と同様の作用効果を有する。
【0076】
なお、第1の実施の形態において示した噴霧装置44(図2参照)は、本実施の形態の内燃機関の排気浄化装置11の噴霧装置4にも適用することができる。
【0077】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および結果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【実験例】
【0078】
以下、実験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記実験例に何ら限定されるものではない。
【0079】
[実験例1] 台湾ヒノキ油含有水溶液の製造
(1)台湾ヒノキ油含有水溶液の製造
台湾ヒノキのチップ(0.5×1×1mm角)100kgを、120℃で5〜6時間水蒸気蒸留し、約1kgの台湾ヒノキ油(精油画分)と250kgの水溶性画分とを得た。
【0080】
(2)台湾ヒノキ油含有水溶液の製造
図4に示す撹拌装置10の混合槽12に、水溶性画分約7kgおよび水14kgを入れ、上記(1)で得た台湾ヒノキ油(精油画分)を水溶性画分の重量の約10%を加えた。混合槽12中にて、気体供給装置によって空気をこの混合液中に吹き込みつつ(図4参照)、保持部材24を上下に動かすことにより撹拌棒23を上下させ(図5参照)、約3時間かけて撹拌、混合した。混合液が乳白色になったところで、再び台湾ヒノキ油を5重量%加えて同様に撹拌し再度混合した。最終的に、約10重量%の台湾ヒノキ油を含む混合液を得た。
次に、この混合液を撹拌装置20(図5参照)でさらに混合した。混合槽22内の混合液を撹拌棒23で撹拌しつつ、ポンプPで吸い上げ、ノズル16から吹き出し、粗混合液を製造した。次に、この工程の終了後、撹拌した粗混合液をコンプレッサーを用いて約10気圧で、3本のノズル34'、36'、および38'からそれぞれ噴射させて霧状にした。ここで、噴射された混合液が互いに衝突するようにノズルを配置した。図6に、これら3本のノズルの位置関係およびこれらのノズルから吐出される混合液の衝突具合を示す。混合液はノズル34'から混合槽32の底面に対して鉛直に吐出され、ノズル36'から吐出される混合液の中心部での方向と、38' から吐出される混合液の中心部での方向とが、ノズル34'から吐出される混合液の中心での方向に対して、それぞれ35°および45°となるように設定した。
互いに衝突した霧状の液体はより大きな液滴を形成して混合槽32の中に溜まり、約25容量%の台湾ヒノキ油を含む台湾ヒノキ油含有水溶液(植物精油含有水溶液)が得られた。この水溶液は安定で、台湾ヒノキ油(精油画分)と水溶性画分とが分離することはない。以上のようにして得られた混合液を約24時間、約20℃で空気との接触をできる限り防ぐように、植物精油含有水溶液を容器に充填して静置した。この後、水で50倍に希釈して使用した。希釈後の台湾ヒノキ油含有水溶液のpHをガラス電極法で測定したところ6.7であった。
【0081】
[実験例2] 排気ガス中の成分測定
本発明を適用した実験例2の内燃機関の排気浄化装置を、自動車(トヨタ自動車(株)製,型式:KJ−CR42V)の排気経路に設置して、ディーゼル10・15モードの条件でこの自動車のエンジンを駆動させて、有害化学物質(NOx,CO)および微粒子状物質(PM)の排出量を測定した。実験例2の内燃機関の排気浄化装置(図示せず)は、酸化触媒5およびセラミックフィルタ6が設けられていない点以外は、本発明の第1の実施の形態の内燃機関の排気浄化装置1(図1参照)と同様の構成を有するものであった。実験例2で用いる植物精油含有水溶液は、上述した方法によって製造されたヒノキ油含有水溶液400ml(うち、使用した植物精油(ヒノキ油)の量は100ml)を20Lの水で希釈したものを使用した。NOx,COならびにPMの排出量は、排出ガス分析計(堀場製作所(株)製,MEXA−9200,MEXA−9500D)、CVS装置(CFV)(堀場製作所(株)製,CVS−9400T)、およびダイナモメータ(日立製作所(株)製,小型シャシダイナモメータ)を用いて測定した。また、比較例として、実験例2の排気浄化装置を設置しない点以外は同じ条件にて同物質の排出量を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1において、各物質の排出量は、自動車が1km走行させた場合の各物質の排出量(g/km)である。
【表1】

表1によれば、実験例2の排気浄化装置を用いることにより、NOx,COおよびPMの排出量が低減したことが確認された。これにより、実験例2の排気浄化装置によれば、有害化学物質およびPMを除去できたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態の内燃機関の排気浄化装置を模式的に示す概略図である。
【図2】図2は、図1に示す噴霧装置の一例を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態の内燃機関の排気浄化装置を模式的に示す概略図である。
【図4】図4は、図1に示す排気浄化装置で使用される植物精油含有水溶液の製造工程において、水蒸気蒸留によって得られた植物精油(精油画分)と水溶性画分と水とを混合して粗混合液を製造する装置を模式的に示す概略図である。
【図5】図5は、図1に示す排気浄化装置で使用される植物精油含有水溶液の製造工程において、図4に示す工程にて得られた粗混合液をさらに混合する装置を模式的に示す概略図である。
【図6】図6は、図1に示す排気浄化装置で使用される植物精油含有水溶液の製造工程において使用されるノズルの配置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0083】
1,11 排気浄化装置
2 排気通路
3 反応室
4,44 噴霧装置
4a,44a 貯液槽
4b ポンプ
4c,4e,44c,44e,44g,44f 管
4d,44d 噴霧口
5 酸化触媒
6 セラミックフィルタ
7 2流体ノズル
8 植物精油含有水溶液
9 流入口
10 排気口
12,22 撹拌槽
13,23 撹拌棒
14,24 保持部材
15 管
16 ノズル
20,30 撹拌装置
26,28 ポンプ
27 混合液循環装置
32 容器
34,36,38 配管
34',36',38' 噴霧手段(ノズル)
44b コンプレッサー
44h,44i 連結口
M 混合液
P ポンプ
S 撹拌棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を水蒸気蒸留して得た植物精油と、前記水蒸気蒸留の際に得られる水溶性画分と、水とからなる植物精油含有水溶液を内燃機関の排気通路内に噴霧すること、を含む、内燃機関の排気浄化方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記水溶液の噴霧は、前記水溶液を前記排気通路内に噴射し気化させることにより行なわれる、内燃機関の排気浄化方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
噴霧された前記水溶液は、前記排気通路中に設けられたマフラーに導入される、内燃機関の排気浄化方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記マフラーを反応室として使用する、内燃機関の排気浄化方法。
【請求項5】
請求項1または2において、
噴霧された前記水溶液は、前記排気通路中に設けられたセラミックフィルタに導入される、内燃機関の排気浄化方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記植物が、ヒノキ科の植物、ツバキ科の植物、イチョウ科の植物、イネ科の植物、シソ科植物、タケ科の植物、ヤナギ科の植物、アオイ科の植物、およびスギ科の植物からなる群から選ばれる1種以上である、内燃機関の排気浄化方法。
【請求項7】
噴霧口から植物精油含有水溶液を噴霧する噴霧装置を含み、
前記噴霧口は前記排気通路内に設けられ、
前記植物精油含有水溶液は、植物を水蒸気蒸留して得た植物精油と、前記水蒸気蒸留の際に得られる水溶性画分と、水とからなる、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記噴霧装置はさらに、前記植物精油含有水溶液を貯蔵する貯液槽と、該貯液槽から該排気通路へと該水溶液を導入する管とを含む、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記噴霧装置は、前記水溶液を前記噴霧口から前記排気通路内に噴射し気化させることにより、該水溶液を噴霧する、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれかにおいて、
前記排気通路中にマフラーが設けられ、
噴霧された前記水溶液が前記マフラー内に導入される、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記マフラーを反応室として使用する、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項12】
請求項7ないし9のいずれかにおいて、
前記排気通路中にセラミックフィルタが設けられ、
噴霧された前記水溶液が前記セラミックフィルタ内に導入される、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項13】
請求項7ないし12のいずれかにおいて、
前記植物が、ヒノキ科の植物、ツバキ科の植物、イチョウ科の植物、イネ科の植物、シソ科植物、タケ科の植物、ヤナギ科の植物、アオイ科の植物、およびスギ科の植物からなる群から選ばれる1種以上である、内燃機関の排気浄化装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−40105(P2007−40105A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−392050(P2003−392050)
【出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【出願人】(598112453)株式会社ジュオン (11)
【Fターム(参考)】