説明

内燃機関の質量補償装置

内燃機関の慣性力及び/又は慣性モーメントを相殺するための質量補償装置を提供する。質量補償装置は、アンバランスマスを形成するための複数の軸区分(6,7)と、2つの外側の軸受ジャーナル(9,10)と、2つの軸区分(6,7)を接合する少なくとも1つの内側の軸受ジャーナル(5)とを備えたアンバランス軸(4)を備えており、アンバランス軸(4)は軸受ジャーナル(5,9,10)において、内燃機関の対応する軸受個所(2,1,3)で回動可能に支承されている。本発明において、内側の軸受ジャーナル(5)は内側の軸受ジャーナル(5)に隣接する2つの軸区分(6,7)に対して半径方向に引き込まれていてかつ内側の軸受個所(2)と共に半径方向の滑り支承部を形成する。本発明により、外側の軸受ジャーナル(9,10)は外側の軸受個所(1,3)と共に夫々、半径方向の転がり支承部を形成するようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の慣性力及び/又は慣性モーメントを相殺するための質量補償装置に関する。この質量補償装置は、アンバランスマスを形成するための軸区分と、2つの外側の軸受ジャーナルと、2つの軸区分を接合する少なくとも1つの内側の軸受ジャーナルとを備えたアンバランス軸を備えており、このアンバランス軸は軸受ジャーナルにおいて、内燃機関の対応する軸受個所で回動可能に支承されている。本発明において、内側の軸受ジャーナルは内側の軸受ジャーナルに隣接する2つの軸区分に対して半径方向に引き込まれていてかつ内側の軸受個所と共に半径方向の滑り支承部を形成する。
【0002】
発明の背景
上述の質量補償装置は、欧州特許出願公開第1304450号明細書に開示されている。この明細書において提案されている質量補償装置は、直列4気筒エンジンの二次自由慣性力を相殺するために働き、クランクシャフトの2倍の回転数で反対方向に回転する2つのアンバランス軸を有している。これらのアンバランス軸は4個所で支承されていて、アンバランスマスを形成するために偏心的な質量中心を備えた2つの相並んでいる軸区分を夫々有している。軸区分を接合する内側の軸受ジャーナルの直径は、軸区分の包絡円よりも明らかに小さいので、摩擦損失に関して有利な、分割型でない軸受輪を備えた半径方向の転がり支承部による、上記軸受個所に設けられている半径方向の滑り支承部の代用は組付けの理由から可能ではない。いずれにしてもこの構成において、分割型の外輪を備えた転がり軸受が使用可能である。しかしこの転がり軸受においては、外側走行路における段部の形成が不可避であるので、機能が制限され、かつ寿命が短くなる恐れがある。また各アンバランス軸の他の3つの軸受ジャーナルも、対応する軸受個所において半径方向に滑り支承されている。
【0003】
欧州特許出願公開第0243683号明細書に、3個所で完全に転がり支承されているアンバランス軸を備えた質量補償装置が開示されている。しかしアンバランスマスを形成する単に1つの軸区分しか備えていない質量補償装置の幾何学形状が、分割型でない転がり軸受の組付けを容易に可能にする。同じことが、フランス国特許出願公開第2619881号明細書に開示されている、駆動側の端部区分において、転がり支承されている代わりに滑り支承されているアンバランス軸にも当てはまる。
【0004】
本発明の目的
本発明の目的は、冒頭で述べた形式の質量補償装置を改良して、アンバランス軸を従来通り容易に組み付けることができ、質量補償装置の運転に基づく摩擦損失を可能な限り十分に減じる質量補償装置を提供することである。
【0005】
本発明の要約
上記課題は本発明においては、外側の軸受ジャーナルが夫々、外側の支承個所と共に半径方向の転がり支承部を形成することにより達成される。言い換えれば、アンバランス軸の複合支承部を備えた質量補償装置のことである。本発明において、引き込まれている内側の軸受ジャーナルは依然として半径方向に滑り支承されている一方で、外側の軸受ジャーナルと適切な支承個所との間には、摩擦に有利な転がり軸受が設けられている。
【0006】
本発明の有利な構成において、半径方向の滑り支承部は、アンバランス軸の軸線方向の滑り支承部と組み合わされていることがよい。本構成において、2つの軸区分には、内側の支承個所の軸線方向端面に対して軸線方向接触面が備え付けられている。この製造技術的に簡単な構成が、他の個所におけるアンバランス軸の軸線方向支承を省く一方で、さらに軸線方向滑り支承部の軸線方向の遊びを、軸線方向接触面と、これらの軸線方向接触面に夫々対応する軸線方向端面とが、半径方向の滑り支承部から流出する液圧媒体のための絞りとして作用するように、小さく寸法設定することができる。言い換えると、軸受個所及び軸区分の互いに滑る軸線方向面、若しくは互いに狭く離間されている軸線方向面が、半径方向の滑り支承部からの適切に制限された液圧媒体流出を伴う貫流抵抗を形成する。
【0007】
上述のように形成された軸線方向の滑り支承部の高められたシール作用は、特に半径方向の滑り支承部の半径方向の軸受の遊びを、アンバランス軸が所定の量だけ撓曲して初めて、アンバランス軸の半径方向の支承に内側の軸受ジャーナルが関与するような大きさを持って寸法設定することを特に可能にする。アンバランス軸の低い回転数範囲において軸受荷重は小さいので、アンバランス軸を安定的に支承するための内側の軸受ジャーナルは不要である。質量体を偏心させて分配することにより、アンバランス軸のアンバランスマス方向への撓曲は、アンバランス軸の回転数に伴い増大するので、内側の軸受ジャーナルも有利には、アンバランス軸の安定的な支承の役割を担う。また、アンバランス軸の回転数を考慮した上記構成は、とりわけ半径方向の滑り支承部の比較的高い摩擦損失を、アンバランス軸の回転数が低い場合に弊害にならない程度に小さく保持することができる。
【0008】
アンバランス軸の回転数に基づく撓曲に適合した、上記半径方向の滑り支承部における一定の接触力の形成に基づき、内側の軸受ジャーナルは、アンバランス軸の回転軸線に対して平行に、かつアンバランスマスの方向にずらされて延在する中心軸線を有していることが望まれる。
【0009】
構造的に有利な構成において、アンバランス軸は鍛造部分として製造されていることが望ましく、半径方向の転がり支承部は、内輪を有していないニードル軸受を夫々有していることが望ましい。この構成において、アンバランス軸の外側の軸受ジャーナルは、ニードルのための内側走行路として夫々働く。滑り軸受に対して、転がり軸受の半径方向において必要な構成スペースは、内輪を省くことにより、また、小さな直径を備えたニードルを使用することにより、最小にまで減じることができる。特にこのことは、ニードル軸受が、非切削加工により製造され、薄壁の外輪と、ケージと、このケージ内において案内されるニードルとを有するニードルスリーブとして廉価に形成されていると、さらに有利である。
【0010】
また、内輪を有していないニードル軸受に対して択一的な構成として、半径方向の転がり支承部は、内輪を備えたニードル軸受として夫々形成されていてよい。この構成は、アンバランス軸が鍛造部分としてではなく、簡単に加工できかつ廉価な鋳造部分として製造されていて、かつ、軸受ジャーナルが転がり軸受走行路に必要な材料特性を有していない場合に必須であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】アンバランス軸の軸受の配列を斜視的に示す縦断面図である。
【0012】
本発明のさらなる特徴及び実施の形態について、本発明の実施の形態を簡潔に示した以下の記載及び図に基づいて説明する。
【0013】
図面の詳細な説明
図面に、直列4気筒エンジンの2次自由慣性力を相殺するために働く質量補償装置の、本発明を理解するために重要な区分を示す。クランクシャフトの2倍の回転数によって逆方向に回転する2つのアンバランス軸の一方のアンバランス軸と、内燃機関におけるアンバランス軸の支承状態とが示されている。本構成においてアンバランス軸を駆動させるために必要な構成部分、例えばスプロケット及び歯車は図面を見やすくするために省略する。
【0014】
内燃機関の軸受個所1,2,3の3個所において支承されているアンバランス軸4は、内側の軸受ジャーナル5により接合されている2つの軸区分6,7を有している。これらの軸区分6,7は夫々、アンバランス軸4の回転軸線8に対して偏心して延びていて、半径方向において同一方向に配向されている質量中心を備えたアンバランスマスを形成する。内側の軸受ジャーナル5の直径は、この軸受ジャーナル5に隣接する2つの軸区分6,7の包絡円(Huellkreis)よりも実質的に小さいので、軸区分6,7に対して半径方向に明らかに引き込まれている。分割型でない軸受輪を備えた転がり軸受の組付けは、軸受ジャーナル5においては明らかに可能ではないので、内側の軸受ジャーナル5は内側の軸受個所2と共に流体力学的な半径方向の滑り支承部を形成する。
【0015】
これに対して、2つの外側の軸受個所1,3は鍛造されたアンバランス軸4の対応する外側の軸受ジャーナル9,10と共に、摩擦に有利な半径方向の転がり支承部を形成する。これらの半径方向の転がり支承部は、内輪を省略したニードル軸受11を有しており、このニードル軸受11は容易にアンバランス軸4に組付け可能であり、ニードル軸受11のニードル12が内側走行路として形成されている外側の軸受ジャーナル9,10において、直接的に転動する。各ニードル軸受11は、薄壁の外輪13と、ケージ14と、このケージ14内において案内されているニードル12とを備えた、非切削加工により製造されたいわゆるニードルスリーブとして形成されている。
【0016】
内側の軸受ジャーナル5における半径方向の滑り支承部は、通常の実施の形態に比べて明らかに大きな半径方向の軸受遊びを有している。この半径方向の軸受遊びは、アンバランス軸4が所定の量だけ撓曲して初めて、内側の軸受ジャーナル5がアンバランス軸4の半径方向の支承に関与する程度に大きく寸法設定されている。冒頭で説明したように、アンバランス軸4の上記撓曲はアンバランスマスに基づき、アンバランス軸4の回転数と共に増大するので、所定の限界回転数を下回っている場合には、外側の軸受ジャーナル9,10における2つの半径方向の転がり支承部だけが、アンバランス軸4の半径方向の支承に有利に寄与する。極めて誇張して図示したが、内側の軸受ジャーナル5の中心軸線15は、回転軸線8に対して平行に延在していて、かつアンバランスマスの方向にずらされているので、半径方向の滑り軸受において連続的な接触力が形成される。
【0017】
大きな遊びを伴う半径方向の滑り支承部から流出する、液圧媒体体積流を制限するために、軸線方向の遊びの寸法に関して適合された軸線方向の滑り支承部が働く。この軸線方向の滑り支承部は半径方向の滑り支承部と組み合わされている。軸線方向の滑り支承部は、内側の軸受個所2の軸線方向端面16,17、及び2つの軸区分6,7における軸線方向接触面18,19により形成されている。軸線方向接触面18,19は、通常の実施の形態に比べて明らかに小さな軸線方向の遊びを持って、軸線方向端面16,17を取り囲む。質量補償装置の運転中に内側の軸受個所2に対してアンバランス軸4が占める、アンバランス軸4の軸線方向の相対的な位置に応じて、単数又は複数の適切に狭幅な軸線方向の間隙がもたらされ、軸線方向の滑り軸受が、半径方向の滑り支承部から流出する液圧媒体のための絞り抵抗を形成する。
【符号の説明】
【0018】
1 外側の軸受個所、 2 内側の軸受個所、 3 外側の軸受個所、 4 アンバランス軸、 5 内側の軸受ジャーナル、 6 軸区分、 7 軸区分、 8 アンバランス軸の回転軸線、 9 外側の軸受ジャーナル、 10 外側の軸受ジャーナル、 11 ニードル軸受、 12 ニードル、 13 外輪、 14 ケージ、 15 内側の軸受ジャーナルの中心軸線、 16 内側の軸受個所の軸線方向端面、 17 内側の軸受個所の軸線方向端面、 18 軸線方向接触面、 19 軸線方向接触面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の慣性力及び/又は慣性モーメントを相殺するための質量補償装置であって、アンバランスマスを形成するための複数の軸区分(6,7)と、2つの外側の軸受ジャーナル(9,10)と、2つの前記軸区分(6,7)を接合する少なくとも1つの内側の軸受ジャーナル(5)とを備えたアンバランス軸(4)を備えており、前記アンバランス軸(4)は前記軸受ジャーナル(5,9,10)において、前記内燃機関の対応する軸受個所(2,1,3)において回動可能に支承されており、前記内側の軸受ジャーナル(5)は該内側の軸受ジャーナル(5)に隣接する2つの前記軸区分(6,7)に対して半径方向に引き込まれていてかつ前記内側の軸受個所(2)と共に半径方向の滑り支承部を形成する、内燃機関の慣性力及び/又は慣性モーメントを相殺するための質量補償装置において、
前記外側の軸受ジャーナル(9,10)は前記外側の軸受個所(1,3)と共に夫々、半径方向の転がり支承部を形成することを特徴とする、内燃機関の慣性力及び/又は慣性モーメントを相殺するための質量補償装置。
【請求項2】
前記半径方向の滑り支承部は前記アンバランス軸(4)の軸線方向の滑り支承部と組み合わされており、前記2つの軸区分(6,7)に前記内側の軸受個所(2)の軸線方向端面(16,17)のための軸線方向接触面(18,19)が備え付けられていることを特徴とする、請求項1記載の質量補償装置。
【請求項3】
前記軸線方向接触面(18,19)と、該軸線方向接触面(18,19)に夫々対応する前記軸線方向端面(16,17)とが、前記半径方向の滑り支承部から流出する液圧媒体のための絞りとして作用するように、前記軸線方向の滑り支承部の軸線方向の遊びが小さく寸法設定されていることを特徴とする、請求項2記載の質量補償装置。
【請求項4】
前記内側の軸受ジャーナル(5)は、前記アンバランス軸(4)が所定の撓曲をして初めて、前記アンバランス軸(4)の半径方向の支承に関与する程度に、前記半径方向の滑り支承部の半径方向の軸受遊びは寸法設定されていることを特徴とする、請求項1記載の質量補償装置。
【請求項5】
前記内側の軸受ジャーナル(5)は前記アンバランス軸(4)の回転軸線(8)に対して平行に、かつ前記アンバランスマスの方向にずらされて延びている中心軸線(15)を有していることを特徴とする、請求項4記載の質量補償装置。
【請求項6】
前記半径方向の転がり支承部は夫々内輪を省略したニードル軸受(11)を有しており、鍛造部分として製造された前記アンバランス軸(4)の外側の軸受ジャーナル(9,10)は、ニードル(12)のための内側走行路として夫々働くことを特徴とする、請求項1記載の質量補償装置。
【請求項7】
前記ニードル軸受(11)は、非切削加工により製造された薄壁の外輪(13)と、ケージ(14)と、該ケージ(14)内において案内されているニードル(12)とを備えたニードルスリーブとして形成されている特徴とする、請求項6記載の質量補償装置。
【請求項8】
前記半径方向の転がり支承部は夫々ニードル軸受(11)を有しており、鋳造部分として製造された前記アンバランス軸(4)の外側の軸受ジャーナル(9,10)には夫々、ニードル(12)のための内側走行路として働く内輪が備え付けられていることを特徴とする、請求項1記載の質量補償装置。

【図1】
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【公表番号】特表2012−526248(P2012−526248A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508981(P2012−508981)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055580
【国際公開番号】WO2010/127959
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(510068035)シェフラー テクノロジーズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (69)
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 1−3, D−91074 Herzogenaurach, Germany
【Fターム(参考)】