説明

内燃機関及びシリンダライナ

【課題】 簡単かつ安価な構成でありながら、効果的にシリンダライナの温度を低減することができ、以って潤滑油消費量の低減、ピストンリング及びシリンダライナの摩耗低減等を促進できる内燃機関及びシリンダライナを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、シリンダブロック3に着脱可能に挿入保持されるシリンダライナ1を備えた内燃機関であって、シリンダライナ1の外周と、シリンダブロック3のシリンダライナ挿入穴の内周と、の間に、高熱伝導部材10を配設したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関及び内燃機関のシリンダライナに関する。詳しくは、シリンダライナの冷却効率を高めることができる内燃機関及び該内燃機関に用いられるシリンダライナに関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼熱を受けるピストンから、ピストンリング溝、ピストンリングを介して、シリンダライナに熱が伝達され、特にピストン上死点付近におけるトップリング(ピストンリングのうち最上部に配置されるピストンリング)との当接位置においてシリンダライナは高温となる。
【0003】
シリンダライナが高温となると、シリンダライナ内面に付着しているエンジンオイル(潤滑油)の消費量が増加し、またトップリングはその背面に作用する燃焼圧を受け高面圧でシリンダライナ内面と摺動するためトップリングのシリンダライナ内面との間の潤滑状態が悪化してシリンダライナ内面及びトップリング外周面などの摩耗が増えたり、スカッフ等が発生し易くなるといった惧れがある。
【0004】
このため、シリンダライナのトップリング周辺を冷却することが要求されるが、従来においては、例えば冷却水流量を増加させたり、シリンダライナが挿入保持されているシリンダブロックのウォータジャケットをシリンダライナのトップリング周辺に配設することなどが考えられるが、冷却水流量の増加はウォーターポンプ容量の増大延いてはエンジンの大型化などを招き小型・軽量化して省燃費化を図るといった要請に反することになる。
【0005】
また、シリンダライナのトップリング周辺位置に対応するシリンダブロックのトップデッキ付近の位置にウォータジャケットを設けることは強度面や製造品質など設計上の観点から困難である。
【0006】
なお、ピストンリングとシリンダライナ間の摩耗の増大やスカッフ等の発生の抑制は、これらの材質の変更や表面改質等により対処することもある程度可能であるが、材質の変更などは製品コストが増大すると共に、潤滑油消費量の低減には効果的に寄与し得ないのが実情である。
【0007】
このようなことから、例えば特許文献1において、図3に示すような構造が提案されている。
この図3に示した構造は、ピストン7が上死点近傍に位置する際のトップリング4の位置近傍におけるシリンダライナ1の外周面を周方向において取り囲むように、オイル溝2をシリンダブロック3のトップデッキ部に刻設し、当該オイル溝2に図示しないメインギャラリから送出されるエンジンオイルの一部を循環供給することにより、ピストン7の上死点付近においてトップリング4及びその他のピストンリングから伝達される熱をエンジンオイルに伝達して逃がすことで、シリンダライナ1の温度の低減を図ることができるようにしたものである。
なお、図3中、符号5はヘッドガスケット、符号6はシリンダライナのフランジ部、符号8はウォータジャケット、符号9はシリンダヘッドである。
【0008】
【特許文献1】特開2002−89355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したような特許文献1に記載の冷却装置は、エンジンオイル供給系への負担が増すと共に、機械加工により、シリンダブロック3のシリンダライナ1の挿入穴の内周にオイル溝2を形成したり、エンジンオイルの供給通路を形成することは、生産コストの増加を招き、低コスト化を阻害する要因となるといった実情がある。
【0010】
本発明は、かかる従来の種々の実情に鑑みなされたものであって、簡単かつ安価な構成でありながら、効果的にシリンダライナの温度を低減することができ、以って潤滑油消費量の低減、ピストンリング及びシリンダライナの摩耗低減等を促進できる内燃機関及びシリンダライナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため、本発明に係る内燃機関は、
シリンダブロックに着脱可能に挿入保持されるシリンダライナを備えた内燃機関であって、
シリンダライナの外周と、シリンダブロックのシリンダライナ挿入穴の内周と、の間に、高熱伝導部材を配設したことを特徴とする。
【0012】
本発明において、前記高熱伝導部材は、シリンダライナの外周の少なくとも一部に略一体的に配設されることを特徴とすることができる。
【0013】
本発明において、前記高熱伝導部材は、シリンダライナの外周のピストン上死点位置におけるトップリング位置付近に配設されることを特徴とすることができる。
【0014】
また、本発明に係るシリンダライナは、
内燃機関のシリンダブロックに着脱可能に挿入保持されるシリンダライナであって、
外周の少なくとも一部に高熱伝導部材が略一体的に配設されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単かつ安価な構成でありながら、効果的にシリンダライナの温度を低減することができ、以って潤滑油消費量の低減、ピストンリング及びシリンダライナの摩耗低減等を促進できる内燃機関及びシリンダライナを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る一実施の形態を、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
なお、図3に示した従来の装置と同様の要素については、同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0017】
ここにおいて、特許文献1に記載されているような構造、すなわち市場でのサービス性等を重視し、シリンダライナ1をシリンダブロック3から着脱可能とし交換可能とした構造(所謂ドライライナ構造)は、シリンダライナ1をシリンダブロック3に設けられている挿入穴に作業性等を考慮して比較的ルーズな嵌め合いで挿入するものであり、シリンダライナ1の外周と、シリンダブロック3のシリンダライナ挿入穴の内周と、の間にはそれ程大きくはないものの空気層(図1、図3参照)が存在することになる。
【0018】
この空気層は、シリンダライナ1とシリンダブロック3との間の熱の伝達経路において断熱層として働くことになるため、シリンダライナ1の熱をシリンダブロック3側へ良好に伝達することができず、以ってシリンダライナ1を効果的に冷却することができなくなる。
【0019】
このため、特許文献1に記載される従来の装置では、オイル溝2を設け、ここにエンジンオイルを供給することで、シリンダライナ1を効果的に冷却することができるようにしているが、かかる複雑な構成ではコストを低減することが難しい。
【0020】
本発明者等は、かかる実情に鑑み、種々の研究を行い、特許文献1に記載される従来の装置とは異なるアプローチにより、比較的簡単な構成でありながらシリンダライナ1を効果的に冷却することができる構造を見い出した。
【0021】
すなわち、本発明では、前記空気層を別材料で埋めることによって、シリンダライナ1からシリンダブロック3への熱伝達率を上げると共に、別材料を高熱伝導率な材料で形成することで、シリンダライナ1の熱をシリンダブロック3側へ良好に伝達できるようにして、シリンダライナ1を効果的に冷却できるようにしている。
【0022】
具体的には、図3で示した従来装置のような、シリンダライナ1の外周を取り囲むようにシリンダブロック3に形成されたオイル溝2及び当該オイル溝2へのエンジンオイルの供給通路などを省略し、本実施の形態では、図1に示すように、ピストン7の上死点位置におけるトップリング4の位置周辺において、シリンダライナ1の外周の円周方向に沿って延在するように、高い熱伝導率を有する高熱伝導部材10が、シリンダライナ1とシリンダブロック3の間に配設される。なお、図1において空気層は、理解し易くするためにやや誇張して記載されている。
【0023】
この高熱伝導部材10は、例えば高熱伝導性のフィラーが充填された高熱伝導性樹脂(例えば、NT−783など、出光PPS:NT−700シリーズ、日本科学冶金株式会社製のホームページ「http://www.yakin.co.jp/10tcp/tcp.html」等参照)などを材料とすることができ、該高熱伝導部材10は、例えば、図2に示すように、シリンダライナ1の外周面にコーティング、溶着等によって略一体的に取り付けることができる。
【0024】
但し、高熱伝導部材10は、シリンダブロック3のシリンダライナ挿入穴の内周側に配設する構成とすることもできる。
【0025】
また、高熱伝導部材10は、例えば、高熱伝導性粉末をフィラーとする焼結体(例えば、松尾産業株式会社製 高熱伝導AINフィラーFAN−fシリーズ)、ALSiC−MMC(SiC含有率45%)(秋葉ダイカスト工業所製)、高強度炭化ケイ素耐火物NEWSIC(日本ガイシ社製)等の高熱伝導材料を利用した構成とすることもできる。
【0026】
なお、本実施の形態では、図1に示したように、ピストン7の上死点位置におけるトップリング4の位置周辺において、シリンダライナ1の外周の円周方向に沿って延在するように高熱伝導部材10を配設する構成とすれば、ピストン7の上死点位置付近においてトップリング4及びその他のピストンリングからシリンダライナ1へ伝達される熱を、高熱伝導部材10を介して効率良くシリンダブロック3に伝達することができるので、シリンダライナ1の温度を効果的に低減することができることになる。
【0027】
従って、所謂コンプレッションハイト(ピストンピン中心からピストン頂面までの高さ)を短くしたいといった場合や、高圧縮比化すべくデッドボリュームを低減したいといった場合に、トップリング4の位置をピストン頂面に近づけることが可能となり、トップリング4の位置を、より上方(シリンダヘッド9側)へ移動させることができ、コンプレッションハイトの低減、高圧縮比化に対する要求に応えることができることになる。
【0028】
また、本実施の形態では、シリンダブロック3側にオイル溝2及び当該オイル溝2へのエンジンオイルの供給通路などを省略することが可能であり、製造コストを低く抑えることができると共に、図3に示した部分Aの強度低下などを招くことがない。
【0029】
なお、本実施の形態では、図1、図2に示したように、ピストン7の上死点位置におけるトップリング4の位置周辺において、シリンダライナ1の外周の円周方向に沿って延在するように高熱伝導部材10を配設する構成としたが、これに限定されるものではなく、種々の要求に応じて高熱伝導部材10を適宜の部位に配設することができる。
【0030】
例えば、シリンダライナ1の外周面全体に高熱伝導部材10を配設するような構成とすることができる。
【0031】
ところで、本実施の形態に係るシリンダライナの冷却装置が用いられる内燃機関はディーゼル燃焼機関に限定されるものではなく、ガソリンその他の燃料を使用する内燃機関とすることができ、燃焼方式に拘わらず、あらゆる移動式・定置式の内燃機関とすることができる。
【0032】
以上で説明した一実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施の形態に係るシリンダライナを備えた内燃機関のシリンダライナ挿入部の一部を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図2】同上実施の形態に係るシリンダライナの一例を示す正面図である。
【図3】従来の内燃機関のシリンダライナ挿入部の一部を拡大して示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 シリンダライナ
3 シリンダブロック
4 トップリング
5 ヘッドガスケット
6 フランジ部
7 ピストン
8 ウォータジャケット
10 高熱伝導部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックに着脱可能に挿入保持されるシリンダライナを備えた内燃機関であって、
シリンダライナの外周と、シリンダブロックのシリンダライナ挿入穴の内周と、の間に、高熱伝導部材を配設したことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記高熱伝導部材は、シリンダライナの外周の少なくとも一部に略一体的に配設されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記高熱伝導部材は、シリンダライナの外周のピストン上死点位置におけるトップリング位置付近に配設されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
内燃機関のシリンダブロックに着脱可能に挿入保持されるシリンダライナであって、
外周の少なくとも一部に高熱伝導部材が略一体的に配設されたことを特徴とするシリンダライナ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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