内燃機関用オイルパン
【課題】オイルミストの気液分離機能に優れたオイルパンを提供する。
【解決手段】オイルパン3は、本体14とバッフルプレート15とで構成されており、バッフルプレート15の1つのコーナー部にはストレーナ逃がし穴17が形成されている。ストレーナ逃がし穴17を除いた周囲には周壁26が形成されており、周壁26に設けた上向き突出片26a〜26eが本体14に溶接されている。バッフルプレート15には溝33,34,周壁26の存在によって多数のランド部35が形成されており、これら多数のランド部35のうち中心線20を挟んでストレーナ逃がし穴17と反対側の部位にオイル落とし穴38,39が空いている。バッフルプレート15に付着したオイルミストは長い距離をかけてオイル落とし穴38,39に到るため、気液分離機能が高い。
【解決手段】オイルパン3は、本体14とバッフルプレート15とで構成されており、バッフルプレート15の1つのコーナー部にはストレーナ逃がし穴17が形成されている。ストレーナ逃がし穴17を除いた周囲には周壁26が形成されており、周壁26に設けた上向き突出片26a〜26eが本体14に溶接されている。バッフルプレート15には溝33,34,周壁26の存在によって多数のランド部35が形成されており、これら多数のランド部35のうち中心線20を挟んでストレーナ逃がし穴17と反対側の部位にオイル落とし穴38,39が空いている。バッフルプレート15に付着したオイルミストは長い距離をかけてオイル落とし穴38,39に到るため、気液分離機能が高い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、内燃機関用オイルパンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1〜3に示すように、車両に搭載される内燃機関用オイルパンは、上向きに開口した本体とその内部に配置したバッフルプレートとを備えており、車両の揺れによるオイルの飛び上がりをバッフルプレートで防止している。また、本体の内部には吸引口をオイルに浸漬させたストレーナが配置されており、そこで、バッフルプレートには、ストレーナを上向きに露出させるためのストレーナ逃がし穴が形成されている。
【0003】
バッフルプレートの上面に戻ったオイルは本体の内部に戻さねばならず、そこで、特許文献1では、平面視四角形のバッフルプレートの各コーナー部を切欠くことでオイル落とし穴を構成しており、また、特許文献2では、バッフルプレートの周縁部に飛び飛びで切欠きを形成し、切欠きの箇所をオイル落とし穴と成している。すなわち、特許文献1,2では、本体の内周面とバッフルプレートの外周との間にオイル落とし穴(オイル落とし通路)を設けている。他方、特許文献3では、バッフルプレート自体に複数個のオイル落とし穴を空けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−1808号のCD−ROM
【特許文献2】実開平3−52312号のマイクロフィルム
【特許文献3】特開2004−293307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、車両の揺れによってオイルが本体の内部で横移動すると、オイルは本体の内側面に沿って上向きに駆け上る挙動をとりがちである。このため、特許文献1,2のように本体の内周面とバッフルプレートの外周との間のみにオイル落とし穴を設けると、車両の走行に際してオイルが本体の内側面に沿ってオイル落とし穴から上向きに駆け上がりやすいという問題がある。従って、特許文献1,2はバッフルプレートの機能を十分に確保できないおそれがある。
【0006】
これに対し、特許文献2のようにバッフルプレート自体にオイル落とし穴を空けると、オイルの駆け上がり現象を防止してバッフルプレートの機能を向上できると解される。しかし、特許文献3では、シリンダブロックの内部に充満したオイルミストを油滴化してオイルパン本体に戻すにおいて、オイルミストに含まれている空気を除去する機能(気液分離機能)が低く、このため、本体に戻ったオイルに微小気泡が混入しやすくなるおそれが懸念される。
【0007】
つまり、機関の各部位に供給されて潤滑を司るオイルに空気が混入していると、冷却効率の低下やキャビテーションの発生などの不具合が発生するおそれがあり、そこで、オイルはできるだけ気泡を含まない状態でオイルパン本体に戻すべきなのであるが、特許文献3ではバッフルプレートの外周に沿って多数のオイル落とし穴が空いているため、シリンダブロックの内部に充満したオイルミストは、バッフルプレートの上面に付着して油滴化してオイル落とし穴に流れ込むにおいて、微小気泡を含んだ状態のままでオイル落とし穴に速やかに流れ込む傾向を呈し、このため、オイルパン本体に戻ったオイルに微小気泡が混入しやすくなると懸念されるのである。
【0008】
また、特許文献1ではバッフルプレートの外周部に上向きの溶接代を飛び飛びで設けて、この溶接代を本体に溶接することが記載されているが、この構成ではバッフルプレートを正確に位置決めすることが面倒であり、高い精度で溶接し難いおそれがある。
【0009】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明のオイルパンは、クランク軸が回転自在に保持されたシリンダブロックの下面に固定される上向き開口の金属製本体と、前記本体の内部のうち上部側に装着された金属板製バッフルプレートとを有しており、前記バッフルプレートのうち前記クランク軸の軸線と平行に延びる中心線を挟んで片側にずれた部位に、ストレーナを上向きに露出させるためのストレーナ逃がし穴が形成されている、という基本構成である。
【0011】
そして、本願発明では、前記バッフルプレートの外周に上向きの周壁が曲げ形成されていてこの周壁の箇所を前記本体に溶接しており、かつ、前記バッフルプレートのうち前記中心線を挟んで前記ストレーナ逃がし穴と反対側の部位に、前記周壁で止められたオイルが前記本体の内部に流入するオイル落とし穴を形成している。
【0012】
例えば、前記オイル落とし穴をクランク軸の軸線方向に沿って複数個形成して、前記オイル落とし穴を溶接に際しての位置決めに兼用することができる(第1の具体的態様)。更に他の態様として、前記オイル落とし穴をクランク軸の軸線方向に沿って複数個形成して、前記バッフルプレートの外周部のうち隣り合ったオイル落とし穴の部位に、平面視で前記本体と反対側に凹んだ湾部を形成して、前記湾部と本体との間の空間をオーバーフロー通路と成すことが可能である(第2の具体的態様)。
【発明の効果】
【0013】
本願発明において、シリンダブロックに充満したオイルミストはバッフルプレートの上面に付着し、バッフルプレートの上面を流れながら油滴化し、そしてオイル落とし穴に流れ込む。この場合、バッフルプレートに設けたストレーナ逃がし穴はその性質上かなり大きく、従って、バッフルプレートは中心線を挟んでストレーナ逃がし穴を設けた部位の面積は小さくなっているが、本願発明では、オイル落とし穴はストレーナ逃がし穴とは反対側の広い面積の箇所に位置していると共に、中心線からずれた状態で配置されているため、オイルミストがバッフルプレートの上面を伝って流れつつ油滴化しながらオイル落とし穴に流れ込むにおいて、オイルミストの移動距離を特許文献1よりも大きくすることができる。このため、オイルミストがバッフルプレートの上面を流れる過程で微小気泡を的確に除去することができ、その結果、本体に流れ込んだオイルに微小気泡が混入することを著しく抑制できる。
【0014】
そして、バッフルプレートに周壁が形成されているためリブ効果によって強度を向上できるが、強度アップ機能を有する周壁によってオイルの流れが塞き止められ、オイルはバッフルプレートの上である程度溜まってからオイル落とし穴に流入するため、気液分離機能が一層優れている。従って、強度とバッフル機能と気液分離機能とに優れたオイルパンを、簡単な構造で提供することができる。
【0015】
第1の具体的態様を採用すると、バッフルプレートを本体に溶接で固着するにおいて、バッフルプレートは構造を複雑化することなく正確に位置決めされるため、コストアップを招来することなく溶接精度を向上できる利点がある。また、第2の具体的態様を採用すると、例えば、車両の揺れ等でストレーナ逃がし穴からオイルがバッフルプレートの上に大量に流れ込んでも、これを本体の内部に迅速に戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】内燃機関のおおまかな正面図である。
【図2】図1のII-II 視断面図である。
【図3】(A)はバッフルプレートが組み込まれた状態でのオイルパンの斜視図、(B)は分離斜視図である。
【図4】オイルパンの分離斜視図である。
【図5】オイルパンの平面図である。
【図6】(A)は図5のVIA-VIA 視断面図、(B)は図5のVIB-VIB 視断面図である。
【図7】(A)は図5のVIIA-VIIA 視断面図、(B)は図5のVIIB-VIIB 視断面図である。
【図8】溶接工程を示す断面図であり、(A)は基本図、(B)はオイル落とし穴の箇所の断面図、(C)は補助支持部の箇所の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明で方向を特定するため「左右」「前後」の文言を使用するが、クランク軸の軸方向を左右方向と呼び、クランク軸の回転軸線と直交した水平方向を前後方向と呼んでいる。
【0018】
(1).内燃機関の概略
内燃機関は主要部材としてシリンダブロック1を備えており、図1に示すように、シリンダブロック1の上面にはシリンダヘッド2がガスケット(図示せず)を介してボルトで固定され、シリンダブロック1の下面にはオイルパン3がボルトで固定されている。
【0019】
本実施形態の内燃機関は2気筒であり、従って、図1に示すようにシリンダブロック1には2つのシリンダボア4が上下に開口している。図2に明示するように、シリンダボア4にはピストン5が摺動自在に嵌め込まれており、ピストン5の往復動は連接棒6を介してクランク軸7の回転運動に変換される。図1でクランク軸7の全体をおおまかに表示している(クランク軸7はその大部分がシリンダブロック1に内蔵されているが、形状の把握を容易ならしめるため、図1ではクランク軸7と連接棒6には平行斜線を引いている。従って、図1の平行斜線は断面表示ではない。)。
【0020】
クランク軸7は、その左右両端部を構成するメインクランクジャーナル8と、2つのシリンダボア4の間に位置した1つの中間クランクジャーナル9と、連接棒6が回転自在に嵌まった2本のクランクピン10と、クランクピン10が固定された左右一対ずつのクランクアーム11とを有しており、一対のクランクアーム11のうち一方はメインクランクジャーナル8に一体化又は固定され、他方は中間クランクジャーナル9に一体化又は固定されている。メインクランクジャーナル8及び中間クランクジャーナル9の軸受けキャップを介してシリンダブロック1に回転自在に保持されている。
【0021】
図2に示すように、シリンダブロック1の内部のうちシリンダボア4の直下部には、 上死点付近にあるピストン5 の内部に向けて斜め下方からオイルジェットを噴射するためのオイル噴射ノズル12を設けている。本実施形態のシリンダブロック1は、クランク軸7の軸線方向から見て、シリンダボア4の軸心は鉛直線に対して若干の角度だけ傾斜している。正確には、排気側の側面に向かって倒れるように傾斜しており、オイル噴射ノズル12は倒れ方向に向いて前方側に配置している。
【0022】
(2).オイルパンの構造
オイルパン3の構造は図3〜7に示されている。オイルパン3は、上向きに開口した本体14とその内部に配置されたバッフルプレート15とから成っており、両者とも、おおまかには、クランク軸7の長手方向に長い長方形に近い平面形状になっている。このため、両者とも4つのコーナー部を有する基本形状であり、各、コーナー部は丸みを帯びている。但し、バッフルプレート15のうち1つのコーナーの箇所にはストレーナ16を上向きに露出させるためのストレーナ逃がし穴17が切り開き形成されており、従って、バッフルプレート15では3つのコーナー部しか存在していない。バッフルプレート15は、本体14の内部のうち上部に配置している。
【0023】
既述のようにシリンダボア4は鉛直線に対して若干の角度だけ傾斜しているので、オイルパン3を構成する本体14の上面は水平面に対して若干傾斜しているが、図7では、本体14の上面を水平にした状態で表示している。また、オイルパン3の本体14の上面は水平に対して傾斜しているが、図2に明示するように、本体14は、その上面が水平に対して低くなる側が最も深くなっており、この深くなった部位にストレーナ16を配置している。
【0024】
本体14の全周には外向きのフランジ18が形成されており、フランジ18に、シリンダブロック1の下面にボルト8で固定するための多数の取り付け穴19a,19b,19cが空いている。正確に述べると、クランク軸7の軸線と平行に延びる中心線20と平行な2つの長手側縁のフランジ18には、それぞれ4個ずつの大径取り付け穴19aを穿設し、中心線20と交差した2つの短手側縁のうちストレーナ逃がし穴17に近い一方の側縁のフランジ18には4個の中径取り付け穴19bが穿設され、中心線20と交差した2つの短手側縁のうちストレーナ逃がし穴17と反対側の他方の側縁のフランジ18には、中心線20を挟んだ両側に、中径取り付け穴19b,19b′と小径取り付け穴19cとを1つずつ空けている。
【0025】
フランジ18のうち各取り付け穴19a,19b,19b′,19cの箇所は大むね円形に広がっている。フランジ18とシリンダブロック1との間にはパッキン(図示せず)を介在させているが、各取り付け穴19a,19b,19cの箇所で大むね円形に広がっているため、パッキンの強度を保持できる。フランジ18の外周には下向きの折り返し部18aが形成されている。
【0026】
図6に示すように、本体14のうちストレーナ逃がし穴17と反対側の短手他側部21は、船首のように傾斜している。正確に述べると、本体14の短手他側部21は、その上部は鉛直に近い姿勢の垂下部22になって、それより下方の部位は緩く湾曲して傾斜部23になっている。傾斜部23は、正面視で外側に向いて斜め下向きに凹の形態になっている。
【0027】
図8に示すように、本体14は、側断面視ではおおむね下向き凸に湾曲しており、周壁のうちその上部は、ほぼフランジ18と直交した垂下部22になっている。従って、垂下部22は全周にわたって延びている。本体14の底部は正面視で左右中間部が高くなるように形成されており、高くなった部位にドレンプラグ24を取り付けている。
【0028】
図3,4から容易に理解できるように、バッフルプレート15の外周のうちストレーナ逃がし穴17の箇所を除いた部位には、上向きの周壁26が全周にわたって形成されている。このため、バッフルプレート15は断面係数が高くなっており、曲げに対して高い強度を発揮する。本実施形態では、周壁26の高さは数ミリ程度になっている。また、周壁26には第1〜第5の上向き突出片26a〜26eを一体に設け、これら上向き突出片26a〜26eを本体14にスポット溶接している。溶接箇所は黒三角で指示している。
【0029】
この場合、第1上向き突出片26aと第5上向き突出片26eは周壁26の一端と他端とに位置しており、他の突出片26b〜26dは適当な間隔を空けて周方向に並んでいる。また、バッフルプレート15の中心部を挟んでストレーナ逃がし穴17と対角位置に設けた第3突出片26cは、図7(B)に示すように鉛直線と水平とに対して大きく傾斜しており、これが本体14における傾斜部23の上部に溶接されている。図6から容易に理解できるように、第3突出片26cはバッフルプレート15の対角方向外側に突出した状態になっている。バッフルプレート15のうち第3突出片26cを挟んだ両側の部位と本体14との間には、コーナー側空間27が空いている。従って、オイルはコーナー側空間27から下方に流れ込み得る。
【0030】
バッフルプレート15のうち、中心線20を挟んで ストレーナ逃がし穴17と反対側でかつ左右中間部よりもコーナー側空間27と反対側の部位には、平面視で本体14に向けて凹となるように凹んだ湾部28が形成されており、このため、湾部28と本体14との間には、オイルが流れ通過し得るサイド空間29が空いている。
【0031】
バッフルプレート15の上面には、前後左右に延びるメイン溝33が交差した状態に配置されている。また、ストレーナ逃がし穴17と反対の対角部には、交差した2本のメイン溝33から対角方向に延びるコーナー溝34が形成されており、コーナー溝34の先端から第3上向き突出片26cが延出されている。
【0032】
複数の溝33,34で囲われた部位は上向きに突出したランド部35になっており、また、溝33,34と周壁26とで囲われた部位も上向きに突出したランド部35になっている。また、溝33,34の端は周壁26で塞がれているため、溝33,34の端からオイルが垂れ落ちることはない。周壁26はランドよりも少し高くなっている。なお、溝33,34という文言を使用しているが、正確には、ランド部35を上向きに膨出形成したことで溝33,34になっており、バッフルプレート15の素材板を基準にすると、溝33,34は凹んでいるとは言えない。
【0033】
湾部28を挟んで短手一側に形成された第1ランド部35aと、1つのメイン溝33とコーナー溝34と周壁26とで囲われた第2ランド部35bとに、平面視円形の凹所37を形成し、この凹所37にオイル落とし穴38,39を空けている。この場合、第1ランド部35aに設けた第1オイル落とし穴38は中心線20に沿って長い長穴になっており、第2ランド部35bに設けた第2オイル落とし穴39は単なる円形になっている。更に、中心線20を挟んで第2ランド部35bと反対側に位置した第3ランド部35cには、円形の位置決め用凹所41を上向きに突設している。
【0034】
バッフルプレート15は、正面視では水平姿勢になっていると共に、側面視でも水平姿勢となるように、図2及び図7に示すように、本体14の上面に対して傾斜している。正確に述べると、本体14の上面に対して、ストレーナ逃がし穴17の側が高くてオイル落とし穴38,39の側が低くなるように傾斜している。
【0035】
本体14の上部のうち第2〜第5上向き突出片26b〜26eが重なる部位は、本体14の内側に突出した膨出部22′になっている。このため、膨出部22′を挟んだ両側では、バッフルプレート15と本体14との間に空間27,29が空いている。
【0036】
(2).まとめ
以上の構成において、シリンダブロック1の内部に発生したオイルミストはバッフルプレート15の上面に付着し、傾斜に沿って流れながら各ランド部35において水滴化し、溝33,34に一杯に溜まると第1及び第2ランド部35a,35bを覆うに至り、そして、オイル落とし穴38,39から本体14の内部に流下する。
【0037】
そして、オイル落とし穴38,39はバッフルプレート15のうち最も低い側部に設けているため、オイルミストは、長い距離をかけて油滴状態から溜まった状態に性状を変化させつつオイル落とし穴38,39にたどり着くことになり、その過程で微細気泡は放散されてしまう。このため、本体14に流下したオイルに微細気泡が混入することを著しく抑制できる。
【0038】
特に、ピストン5に向けてオイルジェットを噴射するオイル噴射ノズル12を設けると、シリンダブロック1の内部にオイルミストが充満するため、空気の除去(気液分離)が重要な問題になるが、本願発明では、シリンダブロック1の内部に大量のオイルミストが充満しても、的確に気液分離してオイルを本体14に戻すことができる。
【0039】
実施形態のようにランド部35a,35cにオイル落とし穴38,39を設けると、オイルは溝33,34に溜まってからでないとオイル落とし穴38,39に流入しないため、気液分離の効果が一層高くなる。また、ランド部35の群の存在により、バッフルプレート15はできるだけ板厚を薄くしつつ曲げ強度を向上できる。
【0040】
オイルジェットによって発生したオイルミストは、ピストン5の下降動によって下向きに押されるが、連接棒6やクランクアーム11等の運動により、下降しつつ、クランクピン10の回転方向に水平移動するように方向性が付与される。すなわち、オイルミストは、図2に矢印Bで示すように、ピストン5が下死点付近にあるときのクランクピン10の移動方向(図2のA方向)に向かうような方向性が付与されている。
【0041】
車両の揺れ等でバッフルプレート15の上面にオイルを被ることがあるが、この場合、オイルはコーナー側空間27やサイド空間29から本体14の内部に速やかに戻る。
【0042】
さて、本実施形態のオイルパン3の溶接工程は、図8に示す治具を使用して行われる。すなわち、オイルパン3を下向き開口した状態で治具43にセットし、この状態で溶接プローブ44を本体14に当てることでスポット溶接が行われる。この場合、治具43における中子部43aの上面には、バッフルプレート15における3つの凹所37,41を支持する受け座45が形成されており、従って、バッフルプレート15は三点支持の状態で安定良く支持される。
【0043】
そして、第1ランド部35aと第2ランド部35bとの凹所37を支持する受け座45には、オイル落とし穴38,39に嵌まる位置決めピン46を設けている。このため、バッフルプレート15は正確に位置決めされる。この場合、第1オイル落とし穴38は左右方向に長い長穴になっているため、バッフルプレート15に多少の加工誤差があってもこれを吸収して正確に位置決めすることができる。また、オイル落とし穴38,39はランド部35a,35bに設けているが、ランド部35a,35bはリブ効果で撓み変形しない構造になっているため、バッフルプレート15の高さも正確に位置決めすることができる。
【0044】
図示していないが、本体14の位置決めは、小径位置決め穴19cとこれと反対側に位置した1つの中径位置決め穴19b′との2つの取り付け穴を位置決めピン(図示せず)に嵌め込むことで行われる。この場合、位置決め用の中径位置決め穴19b′は第2オイル落とし穴38と同じ方向(中心線20と同じ方向)に長い長穴にあっており、このため、本体14に加工誤差があってもこれを吸収して正確に位置決めできる。
【0045】
また、位置決め用の中径位置決め穴19b′は中心線20を挟んで第2オイル落とし穴39と同じ側にずれて配置されているため、本体14とバッフルプレート15との相対位置も正確に位置決めできる。
【0046】
(3).その他
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、本体やバッフルプレートの形態は機関のタイプ等に応じて任意に設定できる。実施形態のストレーナ逃がし穴はバッフルプレートの外側に開口しているが、閉じた状態の穴とすることも可能である。オイル落とし穴の個数は2つには限らず、1つ又は3つ以上でもよい(ストレーナ逃がし穴と反対側の長手側縁に設けた各ランド部に、それぞれオイル落とし穴を設けることも可能である。)。オイル落とし穴はランド部に設ける必要性はなく、バッフルプレートの底部に設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本願発明は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのような内燃機関のオイルパンに実際に適用できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 シリンダブロック
4 シリンダボア
5 ピストン
7 クランク軸
10 クランクピン
12 オイル噴射ノズル
14 オイルパンの本体
15 バッフルプレート
16 ストレーナ
17 ストレーナ逃がし穴
20 中心線
26 周壁
35(35a〜35c) ランド部
37,41 凹所
38,39 オイル落とし穴
43 治具
46 位置決めピン
【技術分野】
【0001】
本願発明は、内燃機関用オイルパンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1〜3に示すように、車両に搭載される内燃機関用オイルパンは、上向きに開口した本体とその内部に配置したバッフルプレートとを備えており、車両の揺れによるオイルの飛び上がりをバッフルプレートで防止している。また、本体の内部には吸引口をオイルに浸漬させたストレーナが配置されており、そこで、バッフルプレートには、ストレーナを上向きに露出させるためのストレーナ逃がし穴が形成されている。
【0003】
バッフルプレートの上面に戻ったオイルは本体の内部に戻さねばならず、そこで、特許文献1では、平面視四角形のバッフルプレートの各コーナー部を切欠くことでオイル落とし穴を構成しており、また、特許文献2では、バッフルプレートの周縁部に飛び飛びで切欠きを形成し、切欠きの箇所をオイル落とし穴と成している。すなわち、特許文献1,2では、本体の内周面とバッフルプレートの外周との間にオイル落とし穴(オイル落とし通路)を設けている。他方、特許文献3では、バッフルプレート自体に複数個のオイル落とし穴を空けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−1808号のCD−ROM
【特許文献2】実開平3−52312号のマイクロフィルム
【特許文献3】特開2004−293307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、車両の揺れによってオイルが本体の内部で横移動すると、オイルは本体の内側面に沿って上向きに駆け上る挙動をとりがちである。このため、特許文献1,2のように本体の内周面とバッフルプレートの外周との間のみにオイル落とし穴を設けると、車両の走行に際してオイルが本体の内側面に沿ってオイル落とし穴から上向きに駆け上がりやすいという問題がある。従って、特許文献1,2はバッフルプレートの機能を十分に確保できないおそれがある。
【0006】
これに対し、特許文献2のようにバッフルプレート自体にオイル落とし穴を空けると、オイルの駆け上がり現象を防止してバッフルプレートの機能を向上できると解される。しかし、特許文献3では、シリンダブロックの内部に充満したオイルミストを油滴化してオイルパン本体に戻すにおいて、オイルミストに含まれている空気を除去する機能(気液分離機能)が低く、このため、本体に戻ったオイルに微小気泡が混入しやすくなるおそれが懸念される。
【0007】
つまり、機関の各部位に供給されて潤滑を司るオイルに空気が混入していると、冷却効率の低下やキャビテーションの発生などの不具合が発生するおそれがあり、そこで、オイルはできるだけ気泡を含まない状態でオイルパン本体に戻すべきなのであるが、特許文献3ではバッフルプレートの外周に沿って多数のオイル落とし穴が空いているため、シリンダブロックの内部に充満したオイルミストは、バッフルプレートの上面に付着して油滴化してオイル落とし穴に流れ込むにおいて、微小気泡を含んだ状態のままでオイル落とし穴に速やかに流れ込む傾向を呈し、このため、オイルパン本体に戻ったオイルに微小気泡が混入しやすくなると懸念されるのである。
【0008】
また、特許文献1ではバッフルプレートの外周部に上向きの溶接代を飛び飛びで設けて、この溶接代を本体に溶接することが記載されているが、この構成ではバッフルプレートを正確に位置決めすることが面倒であり、高い精度で溶接し難いおそれがある。
【0009】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明のオイルパンは、クランク軸が回転自在に保持されたシリンダブロックの下面に固定される上向き開口の金属製本体と、前記本体の内部のうち上部側に装着された金属板製バッフルプレートとを有しており、前記バッフルプレートのうち前記クランク軸の軸線と平行に延びる中心線を挟んで片側にずれた部位に、ストレーナを上向きに露出させるためのストレーナ逃がし穴が形成されている、という基本構成である。
【0011】
そして、本願発明では、前記バッフルプレートの外周に上向きの周壁が曲げ形成されていてこの周壁の箇所を前記本体に溶接しており、かつ、前記バッフルプレートのうち前記中心線を挟んで前記ストレーナ逃がし穴と反対側の部位に、前記周壁で止められたオイルが前記本体の内部に流入するオイル落とし穴を形成している。
【0012】
例えば、前記オイル落とし穴をクランク軸の軸線方向に沿って複数個形成して、前記オイル落とし穴を溶接に際しての位置決めに兼用することができる(第1の具体的態様)。更に他の態様として、前記オイル落とし穴をクランク軸の軸線方向に沿って複数個形成して、前記バッフルプレートの外周部のうち隣り合ったオイル落とし穴の部位に、平面視で前記本体と反対側に凹んだ湾部を形成して、前記湾部と本体との間の空間をオーバーフロー通路と成すことが可能である(第2の具体的態様)。
【発明の効果】
【0013】
本願発明において、シリンダブロックに充満したオイルミストはバッフルプレートの上面に付着し、バッフルプレートの上面を流れながら油滴化し、そしてオイル落とし穴に流れ込む。この場合、バッフルプレートに設けたストレーナ逃がし穴はその性質上かなり大きく、従って、バッフルプレートは中心線を挟んでストレーナ逃がし穴を設けた部位の面積は小さくなっているが、本願発明では、オイル落とし穴はストレーナ逃がし穴とは反対側の広い面積の箇所に位置していると共に、中心線からずれた状態で配置されているため、オイルミストがバッフルプレートの上面を伝って流れつつ油滴化しながらオイル落とし穴に流れ込むにおいて、オイルミストの移動距離を特許文献1よりも大きくすることができる。このため、オイルミストがバッフルプレートの上面を流れる過程で微小気泡を的確に除去することができ、その結果、本体に流れ込んだオイルに微小気泡が混入することを著しく抑制できる。
【0014】
そして、バッフルプレートに周壁が形成されているためリブ効果によって強度を向上できるが、強度アップ機能を有する周壁によってオイルの流れが塞き止められ、オイルはバッフルプレートの上である程度溜まってからオイル落とし穴に流入するため、気液分離機能が一層優れている。従って、強度とバッフル機能と気液分離機能とに優れたオイルパンを、簡単な構造で提供することができる。
【0015】
第1の具体的態様を採用すると、バッフルプレートを本体に溶接で固着するにおいて、バッフルプレートは構造を複雑化することなく正確に位置決めされるため、コストアップを招来することなく溶接精度を向上できる利点がある。また、第2の具体的態様を採用すると、例えば、車両の揺れ等でストレーナ逃がし穴からオイルがバッフルプレートの上に大量に流れ込んでも、これを本体の内部に迅速に戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】内燃機関のおおまかな正面図である。
【図2】図1のII-II 視断面図である。
【図3】(A)はバッフルプレートが組み込まれた状態でのオイルパンの斜視図、(B)は分離斜視図である。
【図4】オイルパンの分離斜視図である。
【図5】オイルパンの平面図である。
【図6】(A)は図5のVIA-VIA 視断面図、(B)は図5のVIB-VIB 視断面図である。
【図7】(A)は図5のVIIA-VIIA 視断面図、(B)は図5のVIIB-VIIB 視断面図である。
【図8】溶接工程を示す断面図であり、(A)は基本図、(B)はオイル落とし穴の箇所の断面図、(C)は補助支持部の箇所の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明で方向を特定するため「左右」「前後」の文言を使用するが、クランク軸の軸方向を左右方向と呼び、クランク軸の回転軸線と直交した水平方向を前後方向と呼んでいる。
【0018】
(1).内燃機関の概略
内燃機関は主要部材としてシリンダブロック1を備えており、図1に示すように、シリンダブロック1の上面にはシリンダヘッド2がガスケット(図示せず)を介してボルトで固定され、シリンダブロック1の下面にはオイルパン3がボルトで固定されている。
【0019】
本実施形態の内燃機関は2気筒であり、従って、図1に示すようにシリンダブロック1には2つのシリンダボア4が上下に開口している。図2に明示するように、シリンダボア4にはピストン5が摺動自在に嵌め込まれており、ピストン5の往復動は連接棒6を介してクランク軸7の回転運動に変換される。図1でクランク軸7の全体をおおまかに表示している(クランク軸7はその大部分がシリンダブロック1に内蔵されているが、形状の把握を容易ならしめるため、図1ではクランク軸7と連接棒6には平行斜線を引いている。従って、図1の平行斜線は断面表示ではない。)。
【0020】
クランク軸7は、その左右両端部を構成するメインクランクジャーナル8と、2つのシリンダボア4の間に位置した1つの中間クランクジャーナル9と、連接棒6が回転自在に嵌まった2本のクランクピン10と、クランクピン10が固定された左右一対ずつのクランクアーム11とを有しており、一対のクランクアーム11のうち一方はメインクランクジャーナル8に一体化又は固定され、他方は中間クランクジャーナル9に一体化又は固定されている。メインクランクジャーナル8及び中間クランクジャーナル9の軸受けキャップを介してシリンダブロック1に回転自在に保持されている。
【0021】
図2に示すように、シリンダブロック1の内部のうちシリンダボア4の直下部には、 上死点付近にあるピストン5 の内部に向けて斜め下方からオイルジェットを噴射するためのオイル噴射ノズル12を設けている。本実施形態のシリンダブロック1は、クランク軸7の軸線方向から見て、シリンダボア4の軸心は鉛直線に対して若干の角度だけ傾斜している。正確には、排気側の側面に向かって倒れるように傾斜しており、オイル噴射ノズル12は倒れ方向に向いて前方側に配置している。
【0022】
(2).オイルパンの構造
オイルパン3の構造は図3〜7に示されている。オイルパン3は、上向きに開口した本体14とその内部に配置されたバッフルプレート15とから成っており、両者とも、おおまかには、クランク軸7の長手方向に長い長方形に近い平面形状になっている。このため、両者とも4つのコーナー部を有する基本形状であり、各、コーナー部は丸みを帯びている。但し、バッフルプレート15のうち1つのコーナーの箇所にはストレーナ16を上向きに露出させるためのストレーナ逃がし穴17が切り開き形成されており、従って、バッフルプレート15では3つのコーナー部しか存在していない。バッフルプレート15は、本体14の内部のうち上部に配置している。
【0023】
既述のようにシリンダボア4は鉛直線に対して若干の角度だけ傾斜しているので、オイルパン3を構成する本体14の上面は水平面に対して若干傾斜しているが、図7では、本体14の上面を水平にした状態で表示している。また、オイルパン3の本体14の上面は水平に対して傾斜しているが、図2に明示するように、本体14は、その上面が水平に対して低くなる側が最も深くなっており、この深くなった部位にストレーナ16を配置している。
【0024】
本体14の全周には外向きのフランジ18が形成されており、フランジ18に、シリンダブロック1の下面にボルト8で固定するための多数の取り付け穴19a,19b,19cが空いている。正確に述べると、クランク軸7の軸線と平行に延びる中心線20と平行な2つの長手側縁のフランジ18には、それぞれ4個ずつの大径取り付け穴19aを穿設し、中心線20と交差した2つの短手側縁のうちストレーナ逃がし穴17に近い一方の側縁のフランジ18には4個の中径取り付け穴19bが穿設され、中心線20と交差した2つの短手側縁のうちストレーナ逃がし穴17と反対側の他方の側縁のフランジ18には、中心線20を挟んだ両側に、中径取り付け穴19b,19b′と小径取り付け穴19cとを1つずつ空けている。
【0025】
フランジ18のうち各取り付け穴19a,19b,19b′,19cの箇所は大むね円形に広がっている。フランジ18とシリンダブロック1との間にはパッキン(図示せず)を介在させているが、各取り付け穴19a,19b,19cの箇所で大むね円形に広がっているため、パッキンの強度を保持できる。フランジ18の外周には下向きの折り返し部18aが形成されている。
【0026】
図6に示すように、本体14のうちストレーナ逃がし穴17と反対側の短手他側部21は、船首のように傾斜している。正確に述べると、本体14の短手他側部21は、その上部は鉛直に近い姿勢の垂下部22になって、それより下方の部位は緩く湾曲して傾斜部23になっている。傾斜部23は、正面視で外側に向いて斜め下向きに凹の形態になっている。
【0027】
図8に示すように、本体14は、側断面視ではおおむね下向き凸に湾曲しており、周壁のうちその上部は、ほぼフランジ18と直交した垂下部22になっている。従って、垂下部22は全周にわたって延びている。本体14の底部は正面視で左右中間部が高くなるように形成されており、高くなった部位にドレンプラグ24を取り付けている。
【0028】
図3,4から容易に理解できるように、バッフルプレート15の外周のうちストレーナ逃がし穴17の箇所を除いた部位には、上向きの周壁26が全周にわたって形成されている。このため、バッフルプレート15は断面係数が高くなっており、曲げに対して高い強度を発揮する。本実施形態では、周壁26の高さは数ミリ程度になっている。また、周壁26には第1〜第5の上向き突出片26a〜26eを一体に設け、これら上向き突出片26a〜26eを本体14にスポット溶接している。溶接箇所は黒三角で指示している。
【0029】
この場合、第1上向き突出片26aと第5上向き突出片26eは周壁26の一端と他端とに位置しており、他の突出片26b〜26dは適当な間隔を空けて周方向に並んでいる。また、バッフルプレート15の中心部を挟んでストレーナ逃がし穴17と対角位置に設けた第3突出片26cは、図7(B)に示すように鉛直線と水平とに対して大きく傾斜しており、これが本体14における傾斜部23の上部に溶接されている。図6から容易に理解できるように、第3突出片26cはバッフルプレート15の対角方向外側に突出した状態になっている。バッフルプレート15のうち第3突出片26cを挟んだ両側の部位と本体14との間には、コーナー側空間27が空いている。従って、オイルはコーナー側空間27から下方に流れ込み得る。
【0030】
バッフルプレート15のうち、中心線20を挟んで ストレーナ逃がし穴17と反対側でかつ左右中間部よりもコーナー側空間27と反対側の部位には、平面視で本体14に向けて凹となるように凹んだ湾部28が形成されており、このため、湾部28と本体14との間には、オイルが流れ通過し得るサイド空間29が空いている。
【0031】
バッフルプレート15の上面には、前後左右に延びるメイン溝33が交差した状態に配置されている。また、ストレーナ逃がし穴17と反対の対角部には、交差した2本のメイン溝33から対角方向に延びるコーナー溝34が形成されており、コーナー溝34の先端から第3上向き突出片26cが延出されている。
【0032】
複数の溝33,34で囲われた部位は上向きに突出したランド部35になっており、また、溝33,34と周壁26とで囲われた部位も上向きに突出したランド部35になっている。また、溝33,34の端は周壁26で塞がれているため、溝33,34の端からオイルが垂れ落ちることはない。周壁26はランドよりも少し高くなっている。なお、溝33,34という文言を使用しているが、正確には、ランド部35を上向きに膨出形成したことで溝33,34になっており、バッフルプレート15の素材板を基準にすると、溝33,34は凹んでいるとは言えない。
【0033】
湾部28を挟んで短手一側に形成された第1ランド部35aと、1つのメイン溝33とコーナー溝34と周壁26とで囲われた第2ランド部35bとに、平面視円形の凹所37を形成し、この凹所37にオイル落とし穴38,39を空けている。この場合、第1ランド部35aに設けた第1オイル落とし穴38は中心線20に沿って長い長穴になっており、第2ランド部35bに設けた第2オイル落とし穴39は単なる円形になっている。更に、中心線20を挟んで第2ランド部35bと反対側に位置した第3ランド部35cには、円形の位置決め用凹所41を上向きに突設している。
【0034】
バッフルプレート15は、正面視では水平姿勢になっていると共に、側面視でも水平姿勢となるように、図2及び図7に示すように、本体14の上面に対して傾斜している。正確に述べると、本体14の上面に対して、ストレーナ逃がし穴17の側が高くてオイル落とし穴38,39の側が低くなるように傾斜している。
【0035】
本体14の上部のうち第2〜第5上向き突出片26b〜26eが重なる部位は、本体14の内側に突出した膨出部22′になっている。このため、膨出部22′を挟んだ両側では、バッフルプレート15と本体14との間に空間27,29が空いている。
【0036】
(2).まとめ
以上の構成において、シリンダブロック1の内部に発生したオイルミストはバッフルプレート15の上面に付着し、傾斜に沿って流れながら各ランド部35において水滴化し、溝33,34に一杯に溜まると第1及び第2ランド部35a,35bを覆うに至り、そして、オイル落とし穴38,39から本体14の内部に流下する。
【0037】
そして、オイル落とし穴38,39はバッフルプレート15のうち最も低い側部に設けているため、オイルミストは、長い距離をかけて油滴状態から溜まった状態に性状を変化させつつオイル落とし穴38,39にたどり着くことになり、その過程で微細気泡は放散されてしまう。このため、本体14に流下したオイルに微細気泡が混入することを著しく抑制できる。
【0038】
特に、ピストン5に向けてオイルジェットを噴射するオイル噴射ノズル12を設けると、シリンダブロック1の内部にオイルミストが充満するため、空気の除去(気液分離)が重要な問題になるが、本願発明では、シリンダブロック1の内部に大量のオイルミストが充満しても、的確に気液分離してオイルを本体14に戻すことができる。
【0039】
実施形態のようにランド部35a,35cにオイル落とし穴38,39を設けると、オイルは溝33,34に溜まってからでないとオイル落とし穴38,39に流入しないため、気液分離の効果が一層高くなる。また、ランド部35の群の存在により、バッフルプレート15はできるだけ板厚を薄くしつつ曲げ強度を向上できる。
【0040】
オイルジェットによって発生したオイルミストは、ピストン5の下降動によって下向きに押されるが、連接棒6やクランクアーム11等の運動により、下降しつつ、クランクピン10の回転方向に水平移動するように方向性が付与される。すなわち、オイルミストは、図2に矢印Bで示すように、ピストン5が下死点付近にあるときのクランクピン10の移動方向(図2のA方向)に向かうような方向性が付与されている。
【0041】
車両の揺れ等でバッフルプレート15の上面にオイルを被ることがあるが、この場合、オイルはコーナー側空間27やサイド空間29から本体14の内部に速やかに戻る。
【0042】
さて、本実施形態のオイルパン3の溶接工程は、図8に示す治具を使用して行われる。すなわち、オイルパン3を下向き開口した状態で治具43にセットし、この状態で溶接プローブ44を本体14に当てることでスポット溶接が行われる。この場合、治具43における中子部43aの上面には、バッフルプレート15における3つの凹所37,41を支持する受け座45が形成されており、従って、バッフルプレート15は三点支持の状態で安定良く支持される。
【0043】
そして、第1ランド部35aと第2ランド部35bとの凹所37を支持する受け座45には、オイル落とし穴38,39に嵌まる位置決めピン46を設けている。このため、バッフルプレート15は正確に位置決めされる。この場合、第1オイル落とし穴38は左右方向に長い長穴になっているため、バッフルプレート15に多少の加工誤差があってもこれを吸収して正確に位置決めすることができる。また、オイル落とし穴38,39はランド部35a,35bに設けているが、ランド部35a,35bはリブ効果で撓み変形しない構造になっているため、バッフルプレート15の高さも正確に位置決めすることができる。
【0044】
図示していないが、本体14の位置決めは、小径位置決め穴19cとこれと反対側に位置した1つの中径位置決め穴19b′との2つの取り付け穴を位置決めピン(図示せず)に嵌め込むことで行われる。この場合、位置決め用の中径位置決め穴19b′は第2オイル落とし穴38と同じ方向(中心線20と同じ方向)に長い長穴にあっており、このため、本体14に加工誤差があってもこれを吸収して正確に位置決めできる。
【0045】
また、位置決め用の中径位置決め穴19b′は中心線20を挟んで第2オイル落とし穴39と同じ側にずれて配置されているため、本体14とバッフルプレート15との相対位置も正確に位置決めできる。
【0046】
(3).その他
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、本体やバッフルプレートの形態は機関のタイプ等に応じて任意に設定できる。実施形態のストレーナ逃がし穴はバッフルプレートの外側に開口しているが、閉じた状態の穴とすることも可能である。オイル落とし穴の個数は2つには限らず、1つ又は3つ以上でもよい(ストレーナ逃がし穴と反対側の長手側縁に設けた各ランド部に、それぞれオイル落とし穴を設けることも可能である。)。オイル落とし穴はランド部に設ける必要性はなく、バッフルプレートの底部に設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本願発明は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのような内燃機関のオイルパンに実際に適用できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 シリンダブロック
4 シリンダボア
5 ピストン
7 クランク軸
10 クランクピン
12 オイル噴射ノズル
14 オイルパンの本体
15 バッフルプレート
16 ストレーナ
17 ストレーナ逃がし穴
20 中心線
26 周壁
35(35a〜35c) ランド部
37,41 凹所
38,39 オイル落とし穴
43 治具
46 位置決めピン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸が回転自在に保持されたシリンダブロックの下面に固定される上向き開口の金属製本体と、前記本体の内部のうち上部側に装着された金属板製バッフルプレートとを有しており、前記バッフルプレートのうち前記クランク軸の軸線と平行に延びる中心線を挟んで片側にずれた部位に、ストレーナを上向きに露出させるためのストレーナ逃がし穴が形成されている構成であって、
前記バッフルプレートの外周に上向きの周壁が曲げ形成されていてこの周壁の箇所を前記本体に溶接しており、かつ、前記バッフルプレートのうち前記中心線を挟んで前記ストレーナ逃がし穴と反対側の部位に、前記周壁で止められたオイルが前記本体の内部に流入するオイル落とし穴を形成している、
内燃機関用オイルパン。
【請求項1】
クランク軸が回転自在に保持されたシリンダブロックの下面に固定される上向き開口の金属製本体と、前記本体の内部のうち上部側に装着された金属板製バッフルプレートとを有しており、前記バッフルプレートのうち前記クランク軸の軸線と平行に延びる中心線を挟んで片側にずれた部位に、ストレーナを上向きに露出させるためのストレーナ逃がし穴が形成されている構成であって、
前記バッフルプレートの外周に上向きの周壁が曲げ形成されていてこの周壁の箇所を前記本体に溶接しており、かつ、前記バッフルプレートのうち前記中心線を挟んで前記ストレーナ逃がし穴と反対側の部位に、前記周壁で止められたオイルが前記本体の内部に流入するオイル落とし穴を形成している、
内燃機関用オイルパン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2013−72363(P2013−72363A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212145(P2011−212145)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】
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